(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075827
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】多極型電磁ホルダ
(51)【国際特許分類】
B25J 15/06 20060101AFI20230524BHJP
【FI】
B25J15/06 S
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188975
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000189154
【氏名又は名称】カネテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 浩
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS06
3C707AS08
3C707DS01
3C707FS07
3C707FT01
3C707MT04
(57)【要約】
【課題】複数の磁極に対する吸着対象物の吸着位置を一定位置にすることが可能な多極型電磁ホルダを提供すること。
【解決手段】少なくとも一対の電磁石EMを有し、電磁石EMにおける複数の磁極コア10が下端部11を露出させた状態でケース30に収容されており、電磁石EMへの通電により吸着対象物Wが複数の磁極コア10に吸着される多極型電磁ホルダ100であって、磁極コア10において磁極が対となる磁極コア10どうしの並び方向の中心側に磁気集中部14が偏って形成されていることを特徴とする多極型電磁ホルダ100である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の電磁石を有し、前記電磁石における複数の磁極コアが先端部を露出させた状態でケース内に収容されており、前記電磁石への通電により吸着対象物が前記複数の磁極コアに吸着される多極型電磁ホルダであって、
前記磁極コアにおいて磁極が対となる前記磁極コアどうしの並び方向の中心側に磁気集中部が偏って形成されていることを特徴とする多極型電磁ホルダ。
【請求項2】
前記磁気集中部は、前記磁極コアの前記先端部の一部を面取りすることによって形成されていることを特徴とする請求項1記載の多極型電磁ホルダ。
【請求項3】
前記磁極コアの先端には平坦面が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の多極型電磁ホルダ。
【請求項4】
前記磁極コアには位置決め用の凹部が形成されていることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の多極型電磁ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多極型電磁ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体により形成された部品に代表される吸着対象物を搬送する際には、吸着対象物を吸着するための吸着ホルダが必要になる。このような吸着ホルダとして特許文献1(特開2021-120174号公報)に開示されているような電磁ホルダの構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている電磁ホルダは、2本の磁極コアを有する構成であって、磁極コアからの磁気漏れを防ぐことで、2本の磁極コアに吸着対象物を1つだけ吸着することが可能であるが、対となる2本の磁極コアに対する吸着対象物の吸着位置にばらつきが生じることがあるといった課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明は上記課題を解決するためのものであり、その目的とするところは次のとおりである。すなわち、複数の磁極コアに対して吸着対象物を対となる磁極コアの中心位置で吸着させることが可能な多極型電磁ホルダを提供することにある。
【0006】
上記課題を解決するため発明者が鋭意研究した結果、以下の構成に想到した。すなわち、本発明は、少なくとも一対の電磁石を有し、前記電磁石における複数の磁極コアが先端部を露出させた状態でケース内に収容されており、前記電磁石への通電により吸着対象物が前記複数の磁極コアに吸着される多極型電磁ホルダであって、前記磁極コアにおいて磁極が対となる前記磁極コアどうしの並び方向の中心側に磁気集中部が偏って形成されていることを特徴とする多極型電磁ホルダである。
【0007】
これにより、複数の磁極コアに対して吸着対象物を対となる磁極コアの中心位置で吸着させることが可能になる。
【0008】
また、前記磁気集中部は、前記磁極コアの前記先端部の一部を面取りすることによって形成されていることが好ましい。
【0009】
これにより、磁気集中部の形成を安価に行うことができる。
【0010】
また、前記磁極コアの先端には平坦面が形成されていることが好ましい。
【0011】
これにより吸着対象物と磁極との吸着面積が増加し、吸着対象物を安定した状態で搬送することができる。
【0012】
また、前記磁極コアには位置決め用の凹部が形成されていることが好ましい。
【0013】
これにより、ケースに対する複数の磁極の配設位置を位置決めすることができ、自動機によるケースへの磁極コアの組み立て作業を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示における多極型電磁ホルダの構成を採用することにより、複数の磁極コアに対して吸着対象物を対となる磁極の中心位置で吸着させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態における多極型電磁ホルダの正面図および右側面図である。
【
図2】第1実施形態における多極型電磁ホルダの平面図および底面図である。
【
図3】
図2中のIII―III線における概略断面図である。
【
図4】
図2中のIV-IV線における概略断面図である。
【
図5】第1実施形態における多極型電磁ホルダで吸着対象物の吸着状態例を示す正面図および底面図である。
【
図6】第2実施形態における多極型電磁ホルダの正面図および斜視図である。
【
図7】第2実施形態における多極型電磁ホルダの平面図および底面図である。
【
図8】
図7中のVIII-VIII線における概略断面図である。
【
図9】第2実施形態における多極型電磁ホルダで吸着対象物の吸着状態例を示す正面図および底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明に係る多極型電磁ホルダ100について説明する。
【0017】
(第1実施形態)
本実施形態における多極型電磁ホルダ100は、
図1~
図4に示すように2本の(複数の)磁極コア10を有するいわゆる2極形式のものである。本実施形態における多極型電磁ホルダ100は、磁性体からなる2本の磁極コア10と、2本の磁極コア10のそれぞれの外周面において巻線22が周方向に巻回されてなるコイル20と、磁極コア10およびコイル20を収容する有底の角筒状のケース30と、を具備している。このようにしてケース30には磁極コア10およびコイル20からなる一対の電磁石EMが収容されることになり、コイル20(電磁石EM)への通電により磁極コア10に磁性体からなる吸着対象物Wを吸着させている。
【0018】
本実施形態における2本の磁極コア10は、いずれも軟鉄製であるが、磁性体材料であればよく、磁極コア10の材料は特に限定されるものではない。
図1および
図2に示すように2本の磁極コア10は、先端部としての下端部11の所要長さ範囲がケース30の下面から突出した状態でケース30に収容されている。ケース30の下面から突出している磁極コア10の下端部11における正面側部分と背面側部分には、図示しない自動組立機で磁極コア10をケース30に組み立てする際の位置決め用の凹部12が形成されている。自動組立機は、同じく図示しないマニピュレータによって凹部12の部分で磁極コア10を掴むことで、磁極コア10を所定の向きにした状態でケース30に収容することができる。本実施形態における磁極コア10は、ケース30の上側開口面からケース30の内部に磁極コア10を進入させるようにして収容されている。ケース30の内底面には、磁極コア10を挿通させるための挿通孔32が穿設されており、挿通孔32に磁極コア10を挿通させている。
【0019】
なお、
図3および
図4に示すように、磁極コア10の外周面には挿通孔32の内径寸法よりも大径寸法に形成されたフランジ部13が突設されているので、フランジ部13が内底面に当接することで挿通孔32からの磁極コア10の突出量が規制される。これにより、ケース30(挿通孔32)からの磁極コア10の突出高さを均等にすることができる。
【0020】
また、磁極コア10の下端部11には磁気集中部14が形成されている。ここでは、磁極が対になる2本の磁極コア10の下端部11の長さ方向における所要範囲を2本の磁極コア10どうしの並び方向における外側から内側に向けて斜め方向に面取りすることに形成された小断面積部分を磁気集中部14としている。このようにして形成された磁気集中部14は、2本の磁極コア10どうしの並び方向の中心側に偏るように形成されることになる。そして磁気集中部14の先端(吸着対象物Wとの当接部)を平坦面14Aに形成することもできる。このように本実施形態においては、対となる磁極を形成する一対の磁極コア10の平坦面14Aが最短離間距離となるように配置されている。なお、本実施形態における平坦面14Aの面積は、磁極コア10の中心軸に直交する断面における断面積の1/3~1/5の範囲であることが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0021】
本実施形態における磁極コア10のように、磁気集中部14に平坦面14Aを設け、平坦面14Aどうしが最短離間距離で配置されていることにより、磁気を集中させながらも吸着対象物Wとの接触を面接触にすることができる。よって、吸着対象物Wを平坦面14Aで確実に吸着させることができる。また、対となる2本の磁極コア10からの磁気漏れを防止することができ、複数個の吸着対象物Wを吸着しないようにすることもできる。
【0022】
磁極コア10の中間部外周面の所要高さ範囲には、コイル20の巻線22を巻回させるための細径部からなる巻線巻回部15が形成されている。本実施形態における磁極コア10のように、巻線巻回部15を磁極コア10の外周面に形成した細径部としたことで、磁極コア10にコイル20の巻線22を巻回させても径方向における寸法の増大を抑えることができ、ケース30の小型化が可能になる。
【0023】
また、
図3および
図4に示すように、コイル20の巻線22は、一方の磁極コア10の巻線巻回部15において磁極コア10の外周面に沿って所要回数巻回されることにより励磁用のコイル20を形成している。それぞれの磁極コア10に対するコイル20の巻線22の巻回方向は同一方向である。本実施形態における磁極コア10の磁極は互いに異なる磁極であるため、2本の磁極コア10にコイル20をそれぞれ形成した後、N極を構成する磁極コア10のコイル20の巻線22の巻き終わり側端部と、S極を構成する磁極コア10のコイル20の巻線22の巻き終わり端部が結線されることになる。このように巻線22を結線することで、N極を構成する磁極コア10のコイル20とS極を構成する磁極コア10のコイル20とをケース30内で直列に接続することができる。N極を構成する磁極コア10のコイル20の巻線22の巻き始め側端部と、S極を構成する磁極コア10のコイル20の巻線22の巻き始め側端部は、いずれもケース30の背面に設けられた巻線引き出し部34からケース30の外部に引き出され、図示しない電源装置に接続され、それぞれのコイル20に電源が供給される。
【0024】
ここでは、それぞれの磁極コア10の巻線巻回部15にそれぞれ同じ方向に巻線22を巻回させることで同一形状のコイル20を形成しているが、本発明はこの形態に限定されるものではない。例えば、それぞれの磁極コア10に対して巻線22の巻回方向が逆向きのコイル20をそれぞれ形成し、一方のコイル20の巻線22の巻き終わり側端部と他方のコイル20の巻線22の巻き始め側端部とをケース30の内部空間で直列接続となるように結線した形態を採用することもできる。
【0025】
また、磁極コア10の上端面には磁性体からなる磁極コア連結体40を取り付けるためのねじ孔16が形成されている。ここでは、磁極コア連結体40をヨークとしても機能させるため、磁極コア10と同じ材料によって形成しているが、磁極コア連結体40の材料は特に限定されるものではない。磁極コア連結体40をそれぞれの磁極コア10に掛け渡して磁極コア連結体40に形成された貫通孔42をそれぞれの磁極コア10のねじ孔16に一致させ、ねじ50により磁極コア連結体40と磁極コア10とを締結することができる。これによりそれぞれの磁極コア10の磁力をN極~S極に誘導させると共にケース30の内部空間で位置決めした状態で固定することができる。磁極コア連結体40の上面には図示しない搬送装置への固定用のねじ穴44が穿設されている。
【0026】
本実施形態における多極型電磁ホルダ100の構成によれば、磁極が対になる2本の磁極コア10の下端部11に平坦面14Aを有する磁気集中部14により、磁気を集中させると共に磁気漏れが防止できる。よって、
図5に示すように吸着対象物Wを2本の磁極コア10の平坦面14A部分で確実に吸着することができる。また、吸着対象物Wを2本の磁極コア10の並び方向における中心位置に位置決めした状態で吸着することができるため、搬送先において吸着対象物Wを位置決めしてリリースさせることができる点で好都合である。なお、多極型電磁ホルダ100から吸着対象物Wをリリースする際は、コイル20(電磁石EM)への通電を停止させればよい。コイル20(電磁石EM)への通電を停止しても吸着対象物Wをリリースすることができない場合には、吸着時の給電方向とは逆に通電させればよい。
【0027】
(第2実施形態)
本実施形態における多極型電磁ホルダ100は、
図6~
図8に示すように、4本の磁極コア10を有する4極形式のものである。本実施形態においては、第1実施形態と同様の構成部分については、図面内に第1実施形態で付した符号と同符号を付すことにより、ここでの詳細な説明は省略している。
【0028】
本実施形態における多極型電磁ホルダ100は、有底の円筒状のケース30の内底面においてケース30の周方向に均等間隔をあけて形成された4つの挿通孔32に4本の磁極コア10が差し込まれた状態で収容されている。4本の磁極コア10は、いずれも磁気集中部14の平坦面14A部分がケース30の径方向における内側に位置する配列になっている。本実施形態においては、第1実施形態で説明した磁極が対になる2本の磁極コア10およびコイル20からなる電磁石EMを2組用い、ケース30の底面において互いに直交する直径方向に十文字配列となるように電磁石EMを配置している。したがって、ケース30の底面においては直径方向に対となる磁極が十文字に配設されており、ケース30の底面の中心点位置に磁気をさらに集中させることができる。
【0029】
このようにしてケース30の内部に磁極コア10を収容した後、ケース30の上面開口部を覆うと共に、磁極コア10どうしを連結固定し、さらには磁力を誘導するための磁極コア連結体40が取り付けられる。本実施形態における磁極コア連結体40の上面にはビス孔46が穿設されており、図示しないビスにより磁極コア連結体40が回り止めされた状態で固定されている。
【0030】
本実施形態における多極型電磁ホルダ100のそれぞれのコイル20(電磁石EM)に通電することで、
図9に示すように、4本の磁極コア10の中心位置(平坦面14A)に吸着対象物Wを位置決めした状態で吸着することができる。これにより、質量の大きい吸着対象物Wであっても安定的に搬送することができることに加え、第1実施形態と同様に搬送先で吸着対象物Wを位置決めした状態でリリースすることができる。
【0031】
以上に本発明に係る多極型電磁ホルダ100の構造について実施形態に基づいて説明したが、本発明の技術的範囲は以上の実施形態に限定されるものではない。例えば、以上の実施形態における多極型電磁ホルダ100は、磁極コア10には位置決め用の凹部12が形成された形態を例示しているが、位置決め用の凹部12は配設を省略することもできる。また、磁極コア10の磁気集中部14に平坦面14Aが形成された形態を例示しているが、磁気集中部14の先端を先鋭に形成してもよいし、半球面等の湾曲面に形成した形態を採用することもできる。さらに、以上の実施形態における磁極コア10の磁気集中部14は、磁極コア10の先端部である下端部11の一部を面取りして形成した形態を例示しているが、鋳造等の非機械加工により磁気集中部14が形成された形態を採用することもできる。
【0032】
また、以上の実施形態においては、2極形式と4極形式の多極型電磁ホルダ100の形態を例示しているが、磁極コア10の数は2本と4本に限定されるものではない。磁極コア10の本数は任意の偶数を選択することができる。
【0033】
また、以上の実施形態においては、それぞれの磁極コア10は、磁性体からなる磁極コア連結体40により位置決め固定されていると共に磁力の誘導が行われているが、この形態に限定されるものではない。磁極コア連結体40は非磁性体で形成することもできる。この場合、それぞれの磁極コア10の磁力を誘導させるための磁性体からなる図示しない磁力誘導体(ヨーク)をそれぞれの磁極コア10に掛け渡した形態を採用することもできる。
【0034】
また、以上の実施形態においては、N極およびS極におけるそれぞれのコイル20の巻線22がケース30の内部空間で直列結線された形態について例示しているが、この形態に限定されるものではない。例えば、ケース30の内部空間でN極およびS極のそれぞれのコイル20の巻線22どうしを並列結線することもできる。さらには、N極およびS極におけるそれぞれのコイル20の巻線22の巻き始め端部および巻き終わり端部のすべてを巻線引き出し部34からケース30の外部に引き出してからケース30の外部においてコイル20を並列に結線することもできる。
【0035】
そして以上に説明した変形例の他、実施形態において説明した変形例等を適宜組み合わせた形態を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0036】
10 磁極コア,
11 下端部,12 凹部,13 フランジ部,14 磁気集中部,14A 平坦面,
15 巻線巻回部,16 ねじ孔,
20 コイル,
22 巻線,
30 ケース,
32 挿通孔,34 巻線引き出し部,
40 磁極コア連結体,
42 貫通孔,44 ねじ穴,46 ビス孔,
50 ねじ,
100 多極型電磁ホルダ,
EM 電磁石
W 吸着対象物