(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075870
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】n+1基のうちの、n基の直列向流多管円筒式熱交換器群の連続運転方法
(51)【国際特許分類】
F28G 1/16 20060101AFI20230524BHJP
F28D 7/16 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
F28G1/16 A
F28D7/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189048
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】714007193
【氏名又は名称】酒井 昭二
(72)【発明者】
【氏名】酒井 昭二
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA31
(57)【要約】 (修正有)
【課題】n+1熱交換器群の、n基の直列運転状態を保ったまま、休止している1基の管側の汚れ堆積を、クリーニングしたのち、n基の連続運転に参加させると同時に、他の1基を休止し、n基の熱交換器群を、汚れの少ない状況で連続運転する方法を提供する。
【解決手段】側の管板が、両端のフランジを取り外すことにより、全ての管が、その両端部から見通せ、かつその管長が10m以下である、n+1基の多管円筒式熱交換器群の、n基の直列運転において、n+1基の熱交換器を、横置きに設置配管し、常時n基を運転しつつ、休止状態にある洗浄の完了した1基を、バルブ操作にのみによって、運転状態に参加させると同時に、運転状態にある任意の1基を休止し、n基の運転を休止することなく、休止した熱交換器の洗浄保守を実施することにより、常時汚れの少ない状態での連続運転を実施する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端の管頭部のフランジを取り外すと、管板が全面見通しとなる様な構造であり、管長が10m以下の、多管円筒式熱交換器で、汚れやすい流体を管側に、汚れにくい流体を胴側に流し、横置きで、直列に配置された、n+1基多管円筒式熱交換器群のうち、任意の1基が運転されない休止状態で、同時に、他のn基の多管円筒式熱交換器が、向流条件で直列向流運転可能である配管とバルブを備えた熱交換器群の配置によって運転されている状態で、休止状態の1基のクリーニングを実施し、汚れの状態を改善したのち、再び直列向流条件で、n基の多管式熱交換器群に復帰運転し、それと同時に、他の任意の1基を、休止状態とする連続運転方法。
【請求項2】
汚れやすい流体の入口温度が、70℃から140℃の温泉水であって、汚れにくい流体が、入口温度が10℃から80℃での清浄な水である特許請求項1の運転方法。
【請求項3】
すべての管内部に、コアーワイヤーに捩り固定された、管壁に密接するループワイヤーを持つ伝熱促進材(hiTRAN🄬)が挿入され、休止状態のときに、引き抜き清掃の後、再挿入される、特許請求項1の運転方法。
【請求項4】
n+1基の多管円筒式熱交換器群におけるnが2から5で、管長が6m以下である特許請求項1の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改良された、n基の直列向流多管円筒式熱交換器群の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる熱交換器とは、高温の流体と低温の流体を、管壁を隔てて接触させ、熱のみを交換し、そのエネルギーのみを回収する設備の総称で、特に多管円筒式熱交換器は、広く産業界で活用され、大きなものは。直径2m近くで、長さ20m以上に達するものが現存している。
【0003】
そして、その多くは1基当たりの大きさを小さくするために、加工しやすい大きさで熱交換器が製作され、これらが、目的に応じて、その多数が、並列に、あるいは直列に配管等によって、連結されて省エネルギー化に寄与している。
【0004】
熱交換器の熱移動に関する理論は、ほぼ完成されており、熱交換器の設計の計算ソフトウエアによって、詳細な検証が出来るほどに、進歩しているが、基本の理論は、両流体の温度差と、伝熱面積と伝熱係数が大きいほど。伝熱量は大きくなる。
【0005】
すなわち、無限大に長い向流熱交換器は、両流体の出入り口温度差はなくなり、流量は、その断面積と流速に比例するため、幾つもの熱交換器が、直列に、あるいは並列に組み合わされ、産業界では、経済最適が追及されている。
【0006】
一方、熱交換器の性能は、経時的に、徐々に低下するのが一般的で、これは流体中に含まれる成分が、汚れとして沈着し、伝熱係数を下げるためであり、特にこの汚れ問題は、巨大産業である石油精製業界の長年の技術課題でもあり、熱交換器の伝熱技術発展の推進力でもあった。
【0007】
ここで、汚れとは、伝熱境膜に堆積し、伝熱係数を経時的に低下させる現象であって、石油精製業界では、原油成分のポリマー化が、主たる原因であり、空冷式熱交換器の場合は、ほこりや油分の付着に起因することもある。
【0008】
そして、きれいな純物質、たとえば清浄な冷却水や、エアコンの冷媒などでは、汚れの進行は全く無いか、あるいは非常に少ないが、一般産業界では、熱交換器は、定期的にクリーニング(洗浄)するのが一般的である。
【0009】
このクリーニングの方法は、堆積する汚れ物質によって異なるが、溶解性のある溶剤によるケミカルクリーニング、物理的なジェット水流、あるいはその組み合わせが、一般的である。
【0010】
このクリーニング時、熱交換器の運転は休止であり、熱交換器のプロセス全体も休止となり、クリーニング作業費用とあわせて、大きく経済性を損なうことになり、この休止を避けるためには、交互運転用の熱交換器を設備する必要があり、大きな設備負担増となる。
【0011】
他方、地熱発電は、再生可能エネルギーとして既に実用化されており、2013年で515MWに達しているが、これまでは、地中の水蒸気を用いて発電するフラッシュ方式が中心である。
【0012】
蒸気とともに噴出する熱水は、130℃程度もあり、大きな熱エネルギーを持っており、そのまま地中に返すのは、エネルギー効率が悪い。
【0013】
この熱源用いて、低沸点の発電用媒体を蒸発させて、タービンを回し、発電をするのがバイナリ発電方式で、幾つかのタービン駆動媒体を用いた方式が、高度な再生エネルギー活用法として、地熱発電所に併設されている。
【0014】
バイナリ発電の媒体には、ペンタンなどの炭化水素や、R245faなどのフロン化合物が用いられ、この中で特に100℃以下の低温水からの発電に使用できるNH3/H2O媒体を用いた発電プロセスは、発明者の名前を被せて、カリーナ発電と呼ばれている。
【0015】
この地中から噴出する熱水は、その中には無機物が溶解している、いわゆる湯の華の析出する温泉水であって、熱交換器の内部で、汚れとして徐々に析出し、熱交換器の性能を低下させる原因となっており、実際にバイナリ発電所の、熱交換器は、洗浄可能な管側に温泉水を流し、汚れ付着を予測した大きな能力を持たせたものが設置されているが、それでもなおかつ6か月に1回程度の、クリーニング停止が必須である。
【0016】
この両流体間の伝熱汚れ係数(抵抗)Rfとして表すと、総括伝熱係数Uと、管内外の境膜伝熱係数hi、hoと、管壁伝熱抵抗t/xとは、式(1)のように表され、この時の熱交換量Qは、伝熱面積Aと、平均対数温度差Dtmと式(2)のように表されることは、よく知られている伝熱理論である。
1/U=1/hi+1/ho+t/x+Rf -------(1) Q=U・A・Dtm -------(2)
【0017】
そして、必要な熱交換量Qを得るためのUrと、実際のUaから、式(3)で計算した設計余裕(Over Design)%として、熱交換器の余裕度を表すのが、HTRIのような一般的な、熱交換器設計評価用ソフトで採用されている。
設計余裕%=(Ua/Ur-1)×100 ------- (3)
【0018】
一方、汚れ抵抗は、計算機設計ソフト、HTRIなどでは、汚れの予測値として、管側と胴側に入力し、設計の熱交換器の構造が、当該プロセスに対して、どの程度のU値の余裕を持つかを、評定計算してくれるようになっている。
【0019】
実際のバイナリ発電設備の熱交換器は、汚れの進行による熱交換量の低下を予測して、設計されており、汚れの無い初期では十二分の能力はあるものの、先の例のように、6か月後に発電能力の低下の回復のため、運転停止し、熱交換器の洗浄を実施しなければならないが、この間の発電能力の変動も、安定運転を損なう重要な問題である。
【0020】
そして、どの程度の設計余裕で熱交換器を設計・製作するかは、温泉水ごとの汚れ生成速度と、連続運転継続期間によって、決める必要があるが、たとえば、蒸発器では、理論値(汚れ係数=0)の300%を超す事例もある。
【0021】
この設計余裕からは、直接汚れにどの程度の抵抗力があるかは、定量的な感覚でつかむことはできないが、この設計余裕がゼロ(±2%)になるような汚れ係数は、たとえばHTRIを用いて求めることは容易であり、得られた値は汚れ抵抗の次元(m2-K/W)を持ち、汚れ速度(1日、1週間、または1か月あたりの汚れ係数増加量)が予測されている場合には、汚れにより、熱交換器が所定の熱交換量を確保することの期間が容易に理解できる。
【0022】
この汚れ余裕期間ともいうべき期間は、汚れ速度が0.00001{(m2-K/W)/day}の場合、0.00200の汚れ余裕で設計された熱交換器は、200日≒6.5か月間の定格熱交換量以上による連続運転が保証されることになる。
【0023】
この地熱利用のバイナリ発電における、温泉水のスケール付着による交換熱量の低下は、大きな課題であり、その防止のための技術研究開発は、NEDOでも取り上げられ、数多くの研究開発がなされているが、低減の方向性は認められるものの、汚れ係数の増加を完全に防止する技術開発成果は得られていない。
【0024】
したがって、過大な設計余裕を持つ熱交換器を設置し、なおかつ、定期的にクリーニングすることが、温泉水を用いたバイナリ発電にとって、宿命ともいえ、クリーニング作業は必須となっている。
【0025】
この地熱温泉水の汚れ成分は、無機物であるが、たとえば酸によるケミカルクリーニングでは、完全に除去しきれず、ジェット水流のような物理的除去が必須であり、多管円筒式熱交換器の場合、解放された管板の両側から、ジェット水流出の洗浄は、管長さ10mが限度であり、短いほど作業性は良いと推測できる。
【0026】
そして、洗浄のための準備作業の点から見れば、両端がフランジで固定されている頭部をもち、このフランジを取り外すだけで、管板が見通せる型式、TEMAタイプで言う、AELやAFLが、洗浄のために配管を取り外す必要がないため、好ましい。
【0027】
管内に挿入され、管側の伝熱促進に寄与するツイストテープやhiTRAN 🄬も、伝熱促進によって、必要長さを小さくする意味と、汚れ余裕を大きくするという意味で、好ましいものである。
【0028】
特に、コアーワイヤーにツループワイヤーが固定され、このループワイヤーが管壁に密着して使用されているhiTRAN🄬は、ワイヤー素子を洗浄するために引き抜く際に、管壁にスプリング密着しているループワイヤーによるブラッシング効果が期待できることが、クリーニングに有利となる。
【0029】
注意すべきは、hiTRAN🄬は、方向性があり、一方向にしか、差し込み、引き抜きが出来ないことで、管板の前後に管長さと同等のスペースを必須とするが、ジェット水流による洗浄作業にも、前後に作業スペースが必要なことから、保守用スペースとして、熱交換器の長さと同程度の距離が確保されていることが好ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】NEDO「地熱発電技術研究開発」事業原簿(平成30年)P13009
【非特許文献2】渡部、酒井「熱交換器の伝熱を促進する管側3次元ワイヤー素子“hiTRAN”の活用(その2)、化学装置、(株)工業通信。第57巻9号。2015年9月、p51―59
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明の課題は、汚れの発生する温泉水を管側に流し、バイナリ発電を停止することなく、熱交換器群のクリーニングを行いつつ、連続運転する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0032】
具体的には、n+1の直列向流多管円筒式熱交換器群の、1基を休止した、n基の熱交換器群の連続運転によって得られる熱交換された汚れのない胴側流体とバイナリ発電を休止することなく運転するとともに、汚れ余裕を超過しない期間内に、バルブの切り替え操作のみによって。休止した熱交換器1基をn基の連続運転熱交換器群に参加させると同時に、別の1基を休止とするn基の熱交換器群の運転方法に関する。
【0033】
ここで、休止中の1基は、ジェット水流のなど、管内の汚れを洗浄するに適した方法でクリーニングされ、次のクリーニングされる1基と、直列向流連結された配管とバルブの操作のみで、運転を継続しつつ切り替える方法である。
【0034】
さらに、n+1の多管円筒式熱交換器は、両端頭部の、フランジを取り外すことにより、管板全体が見通せる構造であることが好ましく、TEMAタイプで言うと、AELやAFLがこれに相当する。
【0035】
1基当たりの熱交換器の長さは、ジェット水流などによるクリーニングの作業性から見て、最大でも10m、好ましくは6m程度である。
【0036】
汚れの発生する温泉水は、当然クリーニング可能な管側に流すことが必須であり、温度差と両流体の熱交換条件からHTRIなどで計算した、理論的に必要な熱交換器長さLを、直列熱交換器連結数nで除した値が10m以下、好ましくは6m程度となる。
【0037】
一方、汚れの生成速度は、ほぼ経時的に1次で増加するが、仮に180日間の連続運転の停止直前の交換熱量を保っているときの汚れ係数(余裕)をRfallowとし、本発明の運転方法によるクリーニングサイクルが、45日間(n基の場合、1基当り45/n日)であるとすると、本発明脳運転方法では、4分の1(45/180=0.25)の汚れ余裕でも、所望の交換熱量を保つことができ、本発明の熱交換器の数は大きくなるが、全体の長さは小さくて済む。
【0038】
すなわち、本発明の運転方法によれば、クリーニング作業は定常的な作業となるが、熱交換器の持つべき、汚れ余裕は、汚れ速度が1次であるならば、小さくて済み、さらに、クリーニング作業日数が短いほど、Rfallowが小さくて済むため、熱交換器は、小型化できる。
【0039】
さらに、クリーニングサイクルが定常状態の場合、n基の内、1基が清浄状態にあるため、理論上、運転状態における汚れ係数は、Rfallowの(n-1)/n平均で推移することになる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】n+1の熱交換器(n=3)のn基が運転状態で、1基が休止状態である4つの運転組み合わせ状態を図示している。
【
図2】バイナリ発電設備の熱交換器の前に、汚れをガードする熱交換器を設置し、汚れクリーニングの熱交換器をガードの熱交換器のみにすることにより、クリーニング負荷を軽減するプロセスフロー図
【
図3】AEL:胴内径1220mm、伝熱管外径19mm、長さ6m、本数1930本、実施例1.2の熱交換器
【
図4】AFL:胴内径1700mm、伝熱管外径19mm、長さ6m、本数3612本、実施例.3、4の熱交換器
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下本発明の形態を示し、実施例によってその効果を説明する。
【実施例0042】
図2に示すとおり、130℃の温泉水で、R245faを蒸発し、バイナリ発電するプロセスにおいて、過熱器、蒸発器、予熱器の管側に温泉水を通すと、それぞれの熱交換器の定期的なクリーニングが必要となるため、汚れやすい温泉水と、清浄水を熱交換してのち、バイナリプロセスの熱交換器に、清浄水を供給するための、ガード熱交換器の、本発明による設計事例である。
【0043】
4000kW級のバイナリ発電に供給する汚れの無い清浄水は、ガード熱交換器に要求される130℃の1000t/hの温泉水から、125℃の清浄水1000t/hを供給することが必要であり、バイナリ発電の熱交換器で、R245fa媒体と熱交換したのち、ガード熱交換器に戻ってくる清浄水温度は、100℃であり、その交換熱量は29.4 MegaWと計算された。
【0044】
そのための本発明の熱交換器群は、HTRI熱交換器設計ソフトによって設計した結果、
図3に示した通り、管内に伝熱促進材hiTRAN🄬を用いた場合、管径OD=19mmΦ、胴内径=1220mm(管本数1930本)、管長さ6mのAELタイプ熱交換器を直列に連結した、n=3の直列向流熱交換器群となり、その設計余裕は76.6%であり、この設計余裕をゼロとするときの汚れ係数=汚れ余裕は0.00012(m2-K/W)であった。
【0045】
管側温泉水の汚れの速度が0.00001 (m2-K/W) /dayとすると、12日間までは、所定の交換熱量を保証でき、
図1に示したように、n+1基の熱交換器を横型に配置し、n基の直列向流運転を実施しつつ、12日毎にクリーニングされた1基を切り替え運転することで、クリーニング停止をすることなく、バイナリ発電プロセス側に、汚れの発生しない125℃の清浄水1000t/hを、供給することが出来、バイナリ発電を停止する必要はなかった。
実施例2では、実施例1の管側に挿入した伝熱促進材hiTRAN🄬を挿入しない(Empty)場合に、同じ交換熱量を達成するための設計計算を実施した結果、同じ管径、胴径と管長さで、n=4の直列向流熱交換器群となり、その設計余裕は37.3%であり、汚れ余裕は0.00010(m2-K/W)であった。
伝熱促進材hiTRAN🄬を挿入していない実施例2は、必要なn数が増えるのと同時に、クリーニング時の作業性は、挿入体によるブラッシング効果が無いため、hiTRANの挿入作業の追加と相殺され、実施例1に比べ、経済性において不利である。