IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 千住金属工業株式会社の特許一覧

特開2023-75905金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子
<>
  • 特開-金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子 図1
  • 特開-金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子 図2
  • 特開-金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子 図3
  • 特開-金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子 図4
  • 特開-金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子 図5
  • 特開-金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子 図6
  • 特開-金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子 図7
  • 特開-金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075905
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/18 20060101AFI20230524BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20230524BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20230524BHJP
   C25D 21/12 20060101ALI20230524BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
C25D5/18
C25D5/12
C25D7/00 H
C25D21/12 K
H01R13/03 D
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134767
(22)【出願日】2022-08-26
(62)【分割の表示】P 2021189749の分割
【原出願日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/042577
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年9月6日に、第144回表面技術協会講演大会講演要旨集にて公開 〔刊行物等〕 令和3年9月1日に、エレクトロニクス実装学会誌にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180426
【弁理士】
【氏名又は名称】剱物 英貴
(72)【発明者】
【氏名】岩本 博之
(72)【発明者】
【氏名】宗形 修
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 加一
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 茂喜
(72)【発明者】
【氏名】▲土▼屋 政人
(72)【発明者】
【氏名】立花 芳恵
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024AA07
4K024AB02
4K024AB19
4K024BA09
4K024BB10
4K024CA06
4K024CA08
4K024CB05
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】外部応力に起因するウィスカの発生が抑制される金属体を短時間で形成することができる金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子を提供する。
【解決手段】金属体の形成方法は、金属基材に、バリア層および金属めっき層がこの順で積層されてなる金属体を形成する方法である。金属基材に、主成分がNiであるバリア層を積層するバリア層積層工程と、バリア層に、電流密度が1~50A/dmであり、Duty比が0.8超1未満であり、正電流の電流密度と逆電流の電流密度との比は、電流密度正電流:電流密度逆電流=1:0.5~1:3であるPRめっき処理を施した後、電流密度が1~50A/dmである直流めっき処理を施して金属めっき層を積層する金属めっき層積層工程とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材に、Ni層およびSnめっき層がこの順で積層されてなる金属体の形成方法であって、
前記金属基材にNi層を積層するNi層積層工程と、
前記Ni層に、正電流および逆電流の電流密度が各々1~50A/dmであり、Duty比が0.8超1未満であり、前記正電流の電流密度と前記逆電流の電流密度との比は、電流密度正電流:電流密度逆電流=1:0.5~1:3であるPRめっき処理を施した後、電流密度が1~50A/dmである直流めっき処理を施して前記Snめっき層を積層するSnめっき層積層工程と
を備えることを特徴とする金属体の形成方法。
【請求項2】
前記金属基材はCuを主成分とする金属からなる、請求項1に記載の金属体の形成方法。
【請求項3】
金属基材に、Ni層およびSnめっき層がこの順で積層されてなる金属体であって、
前記Snめっき層は、下記式で表される平均分散応力比率が8.4%/種以下であることを特徴とする金属体。
平均分散応力比率(%/種)=主応力比率(%)÷伝播結晶方位数(種)
上記式中、前記主応力比率(%)とは、前記Snめっき層のX線回折スペクトルにおいて、最大ピーク強度を示す結晶方位のピーク強度比と、前記最大ピーク強度を示す結晶方位のc軸と前記Snめっき層の膜厚方向とのなす角度である最大ピーク傾斜角度、および前記最大ピーク強度以外のピーク強度を示す結晶方位のc軸と前記Snめっき層の膜厚方向とのなす角度である非最大ピーク傾斜角度、の角度差が±6°以内である結晶方位のピーク強度比と、の合計を表し、前記伝播結晶方位数(種)とは、前記Snめっき層のX線回折スペクトルにおいて、前記主応力比率の算出に用いられていないピーク数を表す。
【請求項4】
前記金属基材はCuを主成分とする金属からなる、請求項3に記載の金属体。
【請求項5】
請求項3または4に記載の金属体を備える嵌合型接続端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気めっきで形成した金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の小型化が進む中、コネクタのような嵌合型接続端子はピッチ間隔が狭くなるにつれて電極面積が小さくなる傾向にある。例えば、FPC(Flexible Printed Circuit)やFFC(Flexible Flat Cable)に用いられるコネクタは、電極面積が小さくなるにつれて、コンタクトとの接点部に加わる圧力は相対的に大きくなる。
【0003】
ところで、従来からコネクタなどに用いられる電極には、酸化抑制の観点からSnを主成分とするSnめっき層が施されている。オスコネクタがメスコネクタに嵌合すると、Snめっき層にはコンタクト部分と接触することにより圧力が加わり、Snめっき層において応力が集中する箇所からウィスカが発生することがある。Snめっき層に発生するウィスカはSnの針状結晶であり、ピッチ間隔が狭いFPC/FFC用コネクタにおいては短絡が発生する原因となる。また、ウィスカは、前述のように外部からの圧力により発生するウィスカの他にも種々の原因が挙げられる。例えば、Snめっき層の形成時に金属間化合物が成長することにより体積が膨張し、Snめっき層の内部に発生する圧縮応力によりウィスカが発生することがある。
【0004】
このため、Snめっき層に外部応力が加わった場合、圧縮応力が集中する箇所からウィスカが発生すると考えられる。Snめっき層の内部に応力が集中しないようにするためには、例えばSnめっき層の内部において金属間化合物の成長が抑制されればよい。
【0005】
特許文献1には、Snめっき層での金属間化合物の成長を抑制する検討が行われている。同文献には、Cuの拡散を抑制して耐熱性を向上させるため、加工変質層のないCu又はCu合金からなる基材の表面に、Ni層およびCu-Sn層を有する中間層、およびSnめっき層がこの順で形成された導電材が開示されている。同文献に記載の導電材は、基材の加工変質層がないためにNi層が基材上にエピタキシャル成長することができ、Ni層の平均結晶粒径は1μm以上と大きい。また、同文献の段落0008には、CuがNi層の粒界を拡散経路として拡散するため、Niの結晶粒径を大きくすることにより拡散経路が減少し、Ni層をバリア層として機能させることが記載されている。さらに同文献に記載されているめっき処理の条件を鑑みると、基材に積層された各層は直流めっき法を用いて形成されていると考えられる。
【0006】
一方、従来から行われてきためっきの形成方法を変更して外部応力ウィスカを抑制する検討が行われている。特許文献2には、パルスめっき法を用いてウィスカを抑制する技術が開示されている。同文献には、パルスめっき法において通電時間と停止時間の比率を調整することによりSnめっき層に不連続面が形成され、その不連続面によりSn原子の移動が阻害されてウィスカの成長を抑制することが記載されている。さらに、同文献には、パルスめっきの後に直流めっきを施し不連続面を形成することが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、電流が流れる方向を周期的に反転させるPRめっき法を用いてウィスカの発生を抑制する技術が開示されている。同文献には、正電流と逆電流の各通電時間と電流密度を調整することによりウィスカの発生を抑制することが記載されている。
【0008】
特許文献4には、PRめっき法において、逆電流の通電時間が正電流の20%以上である条件で通電すると、めっき被膜表面に発生する針状または糸状の異常析出を防止することができる技術が開示されている。同文献には、めっき電流密度が5A/dm以下、推奨が4.5A/dmであることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2014-122403号公報
【特許文献2】特開2006-307328号公報
【特許文献3】特開昭63-118093号公報
【特許文献4】特開2004-204308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の発明では、Ni層の結晶粒径を大きくして基材からのCuの拡散を抑制する効果を向上させている。しかし、Ni層の結晶粒径が大きくなったとしても結晶粒界は残存するため、Cuの拡散経路が失われることはない。Cuの拡散を抑制するためには更なる検討が必要である。さらに、特許文献1に記載の導電材を製造するためには、前述のようにNiめっき層とSnめっき層との間にCuめっき層を積層し、更にはリフロー処理も行う必要があるため、製造工程が煩雑になる。製造工程の簡略化による低コスト化は常に追求されなければならない。
【0011】
特許文献2に記載の発明では、前述のように、パルスめっき法により不連続面をSnめっき層に形成してウィスカの発生を抑制するとされている。同文献段落0021および図2には、柱状構造が面方向に分断された柱状節理構造が記載されている。しかし、パルス電流は周期的に電流が流れるものの、電流の極性は同一である。このため、Snの移動は抑制できたとしても、パルス電流により形成されたSnめっき層にはCu基材からCuが拡散して金属間化合物が成長してしまい、ウィスカが発生してしまう。
【0012】
さらに、特許文献2に記載の発明では、パルスめっきの後に直流めっきを施すことによりSnめっき層が形成されている。しかし、同文献では、面方向に分断されることによりSnの移動が阻害されるという観点では、パルスめっきの後に直流めっきを施したとしても、直流めっき内では面方向に分断されていない。このため、パルスめっき法にてウィスカが十分に抑制できないことを鑑みると、直流めっき層を積層してもウィスカが抑制され難いと考えられる。
【0013】
特許文献3には、PRめっき法において電流密度を低く抑えることによりウィスカの成長を抑制していることが記載されている。特許文献4には、電解析出を継続したときに析出する電解二重層を消滅させて、局所的なめっき析出の集中を防止することが記載されている。また、特許文献4に記載の発明では電流密度を低くすることが推奨されている。しかし、めっき析出の集中が防止されたとしても、電流密度が低いとSnめっき層内に金属間化合物が成長してしまい、外部からの応力によりウィスカが成長する懸念がある。さらに、PRめっき法は逆電流を一定時間通電するためにSnめっき層の成膜時間がかかり、低コスト化という観点から改善が必要である。
【0014】
本発明の課題は、外部応力に起因するウィスカの発生が抑制される金属体を短時間で形成することができる金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、コネクタなどの外部圧力が加わる状況下においてSnめっき層に加わる外部圧力を回避することが困難であることを鑑み、特許文献1に記載の導電材においてウィスカが発生する原因を再検討した。この原因として、特許文献1に記載の発明では、Cuの拡散を抑制することを目的としているにも関わらずCuめっき層を形成しなければならないことが挙げられる。また、Snめっき層が直流めっき法で形成されていることが挙げられる。ただ、成膜時間を短縮するためには、直流めっき法を用いてSnめっき層を形成することが望ましい。
【0016】
本発明者らは、特許文献1に記載の導電材において、Cuめっき層を形成せず、かつ直流めっき法にてSnめっき層が形成された場合にウィスカが発生する原因を調査した。このSnめっき層のX線回折スペクトルを確認したところ、Snめっき層を構成するβSnの各結晶方位において、c軸と膜厚方向とのなす角度が比較的揃っている知見が得られた。そこで、本発明者らは、c軸と膜厚方向とのなす角度が揃っていないと、ウィスカの発生が抑制される可能性があることに着目した。
【0017】
本発明者らは、直流めっき法を、特許文献2に記載のパルスめっき法、交流めっき法、特許文献3および4に記載のPRめっき法の各々に代えてSnめっき層を形成した。パルスめっき法および交流めっき法では、いずれもc軸と膜厚方向とのなす角度が比較的揃ってしまう知見が得られた。また、特許文献3および4に記載のPRめっき法では、直流めっき法と比較してウィスカの成長がある程度抑制されているものの、実用上更にウィスカの成長を低減する必要がある知見が得られた。また、通電時間が長いために生産性が劣る知見も得られた。
【0018】
そこで、本発明者らは、PRめっき法にて成膜をした後に直流めっき法にて成膜を行うことによりSnめっき層を形成してみたところ、偶然にも、ウィスカの成長を抑制する知見を得た。また、直流めっき法を採用して成膜しているため、PRめっき法を単独で採用した場合と比較して成膜時間が短縮し、ウィスカの発生が抑制されるSnめっき層を短時間で製造することができる知見も得られた。
これらの知見により完成された本発明は次の通りである。
【0019】
(1)金属基材に、Ni層およびSnめっき層がこの順で積層されてなる金属体の形成方法であって、金属基材にNi層を積層するNi層積層工程と、Ni層に、正電流および逆電流の電流密度が各々1~50A/dmであり、Duty比が0.8超1未満であり、正電流の電流密度と逆電流の電流密度との比は、電流密度正電流:電流密度逆電流=1:0.5~1:3であるPRめっき処理を施した後、電流密度が1~50A/dmであるSnめっき層積層工程とを備えることを特徴とする金属体の形成方法。
【0020】
(2)金属基材はCuを主成分とする金属からなる、上記(1)に記載の金属体の形成方法。
【0021】
(3)金属基材に、Ni層およびSnめっき層がこの順で積層されてなる金属体であって、Snめっき層は、下記式で表される平均分散応力比率が8.4%/種以下であることを特徴とする金属体。
平均分散応力比率(%/種)=主応力比率(%)÷伝播結晶方位数(種)
【0022】
上記式中、主応力比率(%)とは、Snめっき層のX線回折スペクトルにおいて、最大ピーク強度を示す結晶方位のピーク強度比、並びに、最大ピーク強度を示す結晶方位のc軸とSnめっき層の膜厚方向とのなす角度である最大ピーク傾斜角度(A)、および最大ピーク強度以外のピーク強度を示す結晶方位のc軸とSnめっき層の膜厚方向とのなす角度である非最大ピーク傾斜角度、の角度差が±6°以内である結晶方位のピーク強度比と、の合計を表し、伝播結晶方位数(種)とは、Snめっき層のX線回折スペクトルにおいて、主応力比率の算出に用いられていないピーク数を表す。
【0023】
(4)金属基材はCuを主成分とする金属からなる、上記(3)に記載の金属体。
【0024】
(5)上記(3)~上記(4)のいずれか1項に記載の金属体を備える嵌合型接続端子。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、βSnを構成する各結晶方位のc軸が比較的揃っている場合において、外部応力が加わった場合におけるウィスカの成長メカニズムを示す模式図である。
図2図2は、βSnを構成する各結晶方位のc軸が比較的揃っていない場合において、外部応力が加わった場合におけるウィスカの成長メカニズムを示す模式図である。
図3図3は、傾斜角度を算出するための参考図であり、図3(a)は正方晶のa軸、b軸、およびc軸を表す参考図であり、図3(b)はβSnの結晶面がXYZ軸と交わる場合におけるZ軸と結晶面のc軸との傾斜角度θを算出するための参考図である。
図4図4は、βSnの結晶面がXYZ軸と交わる場合におけるZ軸と結晶面のc軸との傾斜角度θを別の方法で算出するための参考図である。
図5図5はX線回折スペクトルを示す図であり、図5(a)は実施例1の形成方法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図5(b)は実施例2の形成方法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図5(c)は実施例3の形成方法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図5(d)は実施例4の形成方法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図5(e)は実施例5の形成方法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルである。
図6図6はX線回折スペクトルを示す図であり、図6(a)は比較例1の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図6(b)は比較例2の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図6(c)は比較例3の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図6(d)は比較例4の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図6(e)は比較例5の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図6(f)は比較例7の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図6(g)は比較例8の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図6(h)は比較例9の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルである。
図7図7は、主応力比率と最大ウィスカ長との関係を示す図である。
図8図8は、平均分散応力比率と最大ウィスカ長との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を以下に詳述するが、以下の形態に限定されることはない。
1.金属体の形成方法
(1)バリア層積層工程
本発明に係る金属体の形成方法では、まず、金属基材上に主成分がNiであるバリア層を形成する。
【0027】
金属基材の材質は特に限定されないが、Cuを主成分とする金属からなることが好ましい。Cuを主成分とする金属基材は、Cu含有量が金属基材の50質量%以上であることを表し、100質量%であることが好ましい。Cu合金および純Cuが含まれる。残部に不可避的不純物が含まれていてもよい。本発明で用いる金属基材としては、例えばFFCやFPCの端末接続部(接合領域)を構成する金属基材、電極を構成する金属基材が挙げられる。金属基材の厚みは特に限定されないが、金属体の強度確保及び薄型化の観点から、0.05~0.5mmであればよい。
【0028】
バリア層の材質は、金属基材を構成する元素の拡散を抑制する観点から、主成分がNiである金属からなることが好ましい。金属基材がCuを主成分とする場合には、特にCuの拡散を抑制することができる。主成分がNiであるバリア層とは、Ni含有量がバリア層の50質量%以上であることを表す。好ましいNi含有量は100質量%である。Ni合金および純Niが含まれる。残部に不可避的不純物が含まれていてもよい。バリア層の膜厚や結晶粒径は特に限定されないが、膜厚は0.1~5μm、結晶粒径は0.1~2.0μmであればよい。
バリア層の形成手段は特に限定されることがなく、電気めっき装置を用いて公知のめっき法により行うことができる。
【0029】
(2)金属めっき層積層工程
次に、バリア層に金属めっき層を形成する。本発明では、まずはPRめっき処理により金属めっき層の一部を形成する。PRめっき処理の条件は、正電流および逆電流の電流密度が各々1~50A/dmであり、Duty比が0.8超1未満である。正電流の電流密度が1A/dm未満であると成膜時間がかかり生産性に影響を及ぼし、電流密度が50A/dmを超えると表面に焦げが発生してしまう。好ましくは5A/dm超え50A/dm以下であり、より好ましくは8~30A/dmであり、特に好ましくは8~15A/dmである。逆電流の電流密度が1A/dm未満であると、結晶面が多数存在することによりウィスカの成長が抑制されるという逆電流を通電する効果が発揮されず、電流密度が50A/dmを超えると成膜時間がかかり生産性に影響を及ぼす。好ましくは5A/dm超え50A/dm以下であり、より好ましくは5~30A/dmであり、さらに好ましくは12~20A/dmであり、特に好ましくは16.7~18.5A/dmであり、最も好ましくは17.7~18.5A/dmである。
【0030】
また、Duty比が上述の範囲内の場合、正電流の電流密度と逆電流の電流密度との比は、電流密度正電流:電流密度逆電流=1:0.5~1:3である。正電流の電流密度と逆電流の電流密度との比が1:3を超えた場合、正電流によるめっきの成膜量より逆電流による溶解量の方が大きくなってしまうため、めっき被膜を作製することができない。また、1:0.5を下回った場合、逆電流の効果が不十分なため、ウィスカを抑制することができない。この範囲内であれば、逆電流時におけるめっき層の溶出時間が短く、PRめっき法を採用したとしても、成膜時間を抑制することができる。好ましくは、1:1~1:2であり、より好ましくは1:1.77~1:1.86であり、さらに好ましくは1:1.77~1:1.85である。
【0031】
Duty比が0.8以下であるとそもそも金属めっき層を成膜することができず、Duty比が1であると直流電流になってしまい、ウィスカが成長してしまう。好ましくは0.85~0.99である。通電時間は特に限定されず、必要な膜厚になるように適宜調整される。なお、Duty比は、PRめっき法の総通電時間に対する正電流の通電時間の比を表す。
【0032】
通電時間は必要な膜厚になるように適宜調整される。0.5~3.0μm程度の膜厚のPRめっき層を形成する場合には、正電流の通電時間は、30~120秒であればよく、40.5~117.0秒であってもよく、63.0~100.8秒であってもよい。逆電流の通電時間は、1~80秒程度であればよく、4.5~13.0であってもよく、7.0~11.2秒であってもよく、正電流の通電時間とDuty比から求めてもよい。PRめっき処理の合計の通電時間は10~200秒であればよく、45~130秒であってもよく、70~112秒であってもよい。周波数も特に限定されないが、0.004Hz~3kHzであることが好ましく、0.01~100Hzがより好ましく、0.05~9Hzが特に好ましい。
【0033】
その後、電流密度が1~50A/dmである直流めっき処理を行い、金属めっき層の成膜が完了する。電流密度がこの範囲内であれば、表面の焦げを抑制することができる。時間を短縮する観点から、好ましくは5~50A/dmであり、より好ましくは8~30A/dmである。また、直流めっき処理の通電時間は、PRめっき処理によるめっき層の膜厚に応じて、所望の最終膜厚になるように適宜調整すればよい。例えば、2.0~5.0μm程度の膜厚の直流めっき層を形成する場合には、30~70秒であればよく、40~65秒であってもよい。直流めっき処理に用いるめっき液は、作業工程の簡略化の観点から、PRめっき処理で使用するめっき液と同じめっき液であることが好ましい。
【0034】
PRめっき処理の成膜時間と直流めっき処理の成膜時間は特に制限されることはないが、各々の膜厚の比が所定の範囲内に入るように調整すればよい。各処理で成膜された層の厚さの比は、1:1~1:5であることが好ましく、1:1~1:4であることがより好ましい。この範囲内であれば、成膜時間が長くなりすぎず、ウィスカの成長を抑制することができる。
【0035】
また、直流めっき処理の通電時間は、PRめっき処理によるめっき層の膜厚に応じて、所望の最終膜厚になるように適宜調整すればよい。2.0~5.0μm程度の直流めっき層を形成する場合には、17~70秒の時間であればよく、40~65秒であってもよい。また、PRめっき処理によるウィスカの低減効果が直流めっき処理により減滅しないため、直流めっき処理が行われてもウィスカの成長には繋がり難い。
【0036】
金属めっき層が2種類の方法で成膜されたとしても2層を判別することができない。このため、各方法での膜厚は、以下のように求める。まずは、予めPRめっき法および直流めっき法にて一定時間のめっき処理を行う。作製した金属めっき層をFIBにて断面加工を行い各々の膜厚を断面SEM写真から測定することにより、各々の方法での成膜速度を算出する。そして、算出された各々の成膜速度から所望の膜厚になるめっき処理時間を算出し、算出しためっき処理時間だけめっき処理を行い、各々の方法で形成された層の膜厚とする。
【0037】
本発明に係る金属体の形成方法により形成される金属めっき層は、金属基材の酸化を抑制する効果を有する。Snを主成分とする金属からなる金属めっき層とは、Sn含有量が金属めっき層の50質量%以上である金属であることを表す。好ましいSn含有量は100質量%である。Sn合金および純Snが含まれる。残部に不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0038】
金属めっき層がSn合金の場合には、本発明の効果を阻害しない範囲で任意元素としてAg、Bi、Cu、In、Ni、Co、Ge、Ga、SbおよびPの少なくとも1種を含有してもよい。これらの含有量は、金属めっき層の全質量の5質量%以下であることが好ましい。金属めっき層の膜厚は、製造コストや製造時間を考慮して1~7μmとすることが好ましい。
【0039】
本発明に係る金属体の形成方法で用いるめっき液は特に限定されず、市販の金属めっき液を用いればよい。例えば、金属めっき液として、Snが95質量%以上含有するSn系合金又は純Snからなる酸性浴の金属めっき液が使用される。金属めっき液にSn系合金が含有される場合、Sn以外に、Ag、Bi、Cu、In、Ni、Co、Ge、Ga、SbおよびP等から選ばれた元素うち、1種類以上の元素が混合される。
【0040】
このように、本発明に係る金属体の形成方法では、種々のめっき方法の中から、敢えてウィスカの成長を促進することが知られている直流めっき法を選択し、PRめっき法の後に直流めっき法にて金属めっき層を成膜した。この結果、ウィスカの成長が抑制された金属めっき層を短時間で積層することができるのである。
【0041】
2.金属体
本発明に係る金属体は、金属基材に、バリア層および金属めっき層がこの順で積層されている。各層について詳述する。
(1)金属基材
本発明に係る金属体を構成する金属基材の材質は、前述のように特に限定されないが、Cuを主成分とする金属からなることが好ましい。Cuを主成分とする金属基材は、Cu含有量が金属基材の50質量%以上であることを表し、100質量%であることが好ましい。Cu合金および純Cuが含まれる。残部に不可避的不純物が含まれていてもよい。本発明で用いる金属基材としては、例えばFFCやFPCの端末接続部(接合領域)を構成する金属基材、電極を構成する金属基材が挙げられる。金属基材の厚みは特に限定されないが、金属体の強度確保及び薄型化の観点から、0.05~0.5mmであればよい。
【0042】
(2)バリア層
本発明に係る金属体を構成するバリア層の材質は、前述のように、金属基材を構成する元素の拡散を抑制する観点から、主成分がNiである金属からなることが好ましい。金属基材がCuを主成分とする場合には、特にCuの拡散を抑制することができる。主成分がNiであるバリア層とは、Ni含有量がバリア層の50質量%以上であることを表す。好ましいNi含有量は100質量%である。Ni合金および純Niが含まれる。残部に不可避的不純物が含まれていてもよい。バリア層の膜厚や結晶粒径は特に限定されないが、膜厚は0.1~5μm、結晶粒径は0.1~2.0μmであればよい。
【0043】
(3)金属めっき層
本発明に係る金属体を構成する金属めっき層は、前述のように、金属基材の酸化を抑制する効果を有する。Snを主成分とする金属からなる金属めっき層とは、Sn含有量が金属めっき層の50質量%以上である金属であることを表す。好ましいSn含有量は100質量%である。Sn合金および純Snが含まれる。残部に不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0044】
金属めっき層がSn合金の場合には、本発明の効果を阻害しない範囲で任意元素としてAg、Bi、Cu、In、Ni、Co、Ge、Ga、SbおよびPの少なくとも1種を含有してもよい。これらの含有量は、金属めっき層の全質量の5質量%以下であることが好ましい。金属めっき層の膜厚は、製造コストや製造時間を考慮して1~7μmとすることが好ましい。
【0045】
また、本発明に係る金属体を構成する金属めっき層は、平均分散応力比率が8.4%以下である。平均分散応力比率については以下で詳述する。
【0046】
本発明では、上述のように、PRめっき法にて金属めっき層を積層した後、従来の直流めっき法にて更に金属めっき層を積層する。PRめっき法の後に直流めっき法を採用して金属めっき層が形成されると、結晶方位が不揃いである種々の結晶がSnめっき層内に析出される。これにより、外部応力が分散され、ウィスカの成長が抑制されると推察される。より詳細は以下のように推察される。
【0047】
外部応力は基本的には圧縮応力が各結晶に印加される。この時、結晶方位が揃っている、即ち、Snめっき層の膜厚方向をZ軸とした場合、例えば結晶方位のc軸とZ軸とのなす角度が揃っている結晶の存在確率が高いほど圧縮応力がそのままSnめっき層の面方向に伝播する。そして、例えばc軸とZ軸とのなす角度が大きくずれた結晶方位の結晶面が現れた時、伝播された応力がその結晶面に集中し、ウィスカが成長すると推察される。
【0048】
この推察によると、本発明では、ウィスカ長を低減するため、X線回折スペクトルのうち、最大ピーク強度を示す結晶方位(A)のピーク強度比(%)と、最大ピーク強度を示す結晶方位(A)のc軸と膜厚方向とのなす角度である最大ピーク傾斜角度(a°)、および最大ピーク強度以外のピーク強度を示す結晶方位のc軸と膜厚方向とのなす角度である非最大ピーク傾斜角度(b°)、の角度差(a°-b°)が±6°以内である結晶方位(B)のピーク強度比(%)の合計を考慮する必要がある。言い換えると、c軸の傾斜角度が比較的揃っている結晶方位の強度比の合計はウィスカが発生するための主な応力に相当するため、この合計を考慮してウィスカとの関係を明らかにする必要がある。本発明では、この強度比の合計を主応力比率(%)と称する。
本発明において、ピーク強度比とは、ピーク強度を全ピーク強度の合計で割り、100を乗じた値(%)を表す。
【0049】
本発明に係る形成方法は、直流めっき法の前にPRめっき法を採用して金属体が形成されており、PRめっき法にて主応力の原因となる結晶面の存在確率が低減している。そして、PRめっき法の後に更に直流めっき法を採用しても主応力比率が増加せず、Snめっき層のウィスカの成長が抑制されると推察される。これにともない、Snめっき層が短時間で形成される。
【0050】
ここで、例えば本発明では、ウィスカ長の評価を球圧子法にて測定することができる。この測定では球圧子を面の板厚方向に押圧するが、球圧子による外部応力は、板厚方向に限定されず、Snめっき層の面方向にも圧縮応力として伝播すると考えられる。すなわち、外部からの圧縮応力は種々の方向からSnめっき層内に伝播すると考えられる。これらを鑑みると、上述のウィスカに関しては、更に以下のように推察される。
【0051】
上述の圧縮応力は、主応力の原因となる結晶面のc軸の傾斜角度から大きくずれている傾斜角度を有する結晶面に伝播すると、そこで応力が集中してウィスカが成長すると仮定する。この仮定が正しいとすると、この角度の大きく異なる結晶面が少なければ少ないほど、その結晶面に圧縮応力が集中してウィスカが成長しやすいと推察される。逆に、この角度の異なる結晶方位の結晶が多ければ多いほど圧縮応力が分散し、ウィスカの成長が起こりにくくなると推察される。つまり、主応力が低減するとともに、圧縮応力が伝播する結晶方位数である伝播結晶方位数が多いほど、応力が分散してウィスカが成長し難いと推察される。本発明では、伝搬結晶方位数が多いことを多面化と称する。
【0052】
この多面化により応力が分散する程度は、以下に示す平均分散応力比率により表すことができる。
平均分散応力比率(%/種)=主応力比率(%)÷伝播結晶方位数(種)
【0053】
本発明では、平均分散応力比率が8.4%/種以下になるとウィスカの成長が抑制され、8.4%/種を超えるとウィスカが成長する。好ましくは7.8%/種以下であり、より好ましくは6.1%/種以下であり、更に好ましくは5.1%/種以下である。下限は特に限定されないが、2%/種以上であればよく、5.0%/種であってもよい。
【0054】
なお、主応力比率が非常に高い場合や伝播結晶方位数が少ない場合は、応力が十分に分散されないため、平均分散応力比率が低減せず、結晶方位の多面化による効果は十分に発揮されないと考えられる。本発明では、伝播結晶方位数が2種以上であれば、このような弊害は抑制されると考えられる。好ましくは4種以上であり、より好ましくは5種以上であり、さらに好ましくは6種以上であり、特に好ましくは7種以上である。Snめっき層における応力の伝播を図1および図2を用いて更に詳述する。
【0055】
図1は、Snめっき層を構成する結晶の結晶方位が比較的揃っている場合において、外部応力が加わった場合におけるウィスカの成長メカニズムを示す模式図である。図1に示すように、外部からの圧縮応力はSnめっき層にあらゆる角度で加わる。この時、圧縮応力は隣接する結晶に直接到達するため、結晶方位が揃っている領域では高い応力伝播能力を有すると考えられる。そして、圧縮応力が伝播された先に、たまたま異なる結晶方位の結晶が存在することにより異なる結晶方位の領域が狭い範囲で存在した場合、この領域に応力が集中してウィスカが成長すると推察される。
【0056】
図2は、Snめっき層を構成する結晶の結晶方位が比較的揃っていない場合において、外部応力が加わった場合におけるウィスカの成長メカニズムを示す模式図である。図2に示すように、結晶方位が揃っている領域が存在したとしても、異なる結晶方位の結晶が多数存在することにより異なる結晶方位の領域が広く存在すれば、その領域で圧縮応力の伝播が分散・緩和され、ウィスカの成長が抑制されると推察される。
【0057】
ここで、前述の平均分散応力比率を鑑みると、伝播結晶方位数が1種であっても主応力比率が小さければ平均分散応力比率は低い値を示す。しかし、異なる結晶方位の領域が広く存在しても、主応力比率が大きく伝播結晶方位数が1種であれば、異なる結晶方位の領域で圧縮応力が伝播し、ウィスカが成長してしまう。一方、異なる結晶方位の領域において伝播結晶方位数が2種以上であれば、主応力比率が大きい場合であっても少なくとも主応力比率が半減するため、平均分散応力比率が低くなり、ウィスカの成長が抑制されると考えられる。
【0058】
本発明に係る形成方法は、PRめっき法の後に直流めっき法を採用して形成されるため、PRめっき法のみの場合と比較してSnめっき層が短時間で形成される。また、結晶面が多数存在することにより平均分散応力比率が低減し、仮に主応力比率が大きい場合であってもSnめっき層のウィスカの成長が抑制されると推察される。
【0059】
ウィスカの成長が抑制されるために結晶方位が分散されることが好ましい理由は、βSnのヤング率を用いて以下のように推察される。常温、常圧下でのSnは正方晶の結晶構造(βSn)を取っているため、結晶方位によってその性質は大きく異なる。βSnの結晶はa軸方向と比較して、c軸方向のヤング率が高いことから、c軸方向には変形しにくい。このため、金属めっき層の表面に外部応力が掛かった場合、図1に示すようにβSnの結晶方位の傾斜角度が揃っている場合は外部応力が分散せずにそのまま伝播しやすい。そして、その先に傾斜角度の大きく異なる結晶が存在した場合、そこで圧縮応力の伝播が断たれ、その部分で圧縮応力が集中してウィスカが成長しやすくなる。このため、c軸と膜厚方向とのなす角度である傾斜角度が大きく異なる結晶方位を多数有する金属めっき層では、隣接する結晶へ作用する圧縮応力が緩和され、ウィスカの成長を更に抑制することができる。
【0060】
本発明における傾斜角度の求め方の一例を、図3を用いて説明する。図3は、傾斜角度を算出するための参考図であり、図3(a)は正方晶のa軸、b軸、およびc軸を表す参考図であり、図3(b)はβSnの結晶面がXYZ軸と交わる場合におけるZ軸と結晶面のc軸との傾斜角度θを算出するための参考図である。図3(a)のc軸が図3(b)のc軸に相当する。
本発明では、金属めっき層の膜厚方向をZ軸とする。
【0061】
正方晶であるβSnの単位格子の長さを(a,b,c)とすると、結晶面は、図3(b)に示すように、X、Y、Z軸と各々、
=α・a
=β・b
=γ・c
で交わる。この時のミラー指数は(1/α:1/β:1/γ)=(hkl)の整数比で表される。
【0062】
このとき、図3(b)に示すL2、θ2、L1、tanθ、およびθは各々以下のように表される。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【0063】
ただし、結晶面がZ軸と平行な場合は、θ=0°であり、Z軸と垂直な場合はθ=90°とする。
【0064】
(101)のようにY軸と交わらない場合は、
【数6】
とする。
【0065】
また、(011)のようにX軸と交わらない場合は、
【数7】
とする。
【0066】
ここで、正方晶の単位格子を構成する各辺の長さは、各々a=b=0.5831nm、c=0.3181nmである。これらの値と上述の式を用いると、各ミラー指数でのc軸の傾斜角度θは表1に示す値になる。
【0067】
【表1】
【0068】
本発明における傾斜角度の求め方の別の例を、図4を用いて説明する。図4は、βSnの結晶面がXYZ軸と交わる場合におけるZ軸と結晶面のc軸との傾斜角度θを別の方法で算出するための参考図である。
【0069】
図4に示すように、3点A(a,0,0)、B(0,b,0)、およびC(0,0,c)で定める平面に原点から垂線を引いた時の交点H(x,y,z)の座標は以下のように算出される。
【0070】
交点Hの座標(x,y,z)を用いると、
【数8】
であり、
【数9】
となる。
【0071】
式2から
y=ax/b・・・式4
が得られる。また、式3から
z=ax/c・・・式5
が得られる。
【0072】
式4および式5を式1に代入すると、
-ax+a/b+a/c=0
(1+a/b+a/c)-ax=0
x((1+a/b+a/c)x-a)=0
となり、
x=a/(1+a/b+a/c)・・・式6
y=ax/b・・・式7
z=ax/c・・・式8
が得られる。
【0073】
これらを用い、図4に示す各ミラー指数のc軸とZ軸とのなす角度である傾斜角度θを導出する。ミラー指数が(3,2,1)面の場合の導出方法を例示する。
(3,2,1)面は、XYZ軸の切片が(2,3,6)であり、正方晶の単位格子を構成する各辺さは、各々a=b=0.5831nm、c=0.3181nmである。これらを考慮すると、各切片の長さは
a=2x0.5831=1.1662
b=3x0.5831=1.7493
c=6x0.3181=1.9086
となり、上記計算式6~8から求めた点H(x,y,z)は、
(x,y,z)=(0.6415,0.4277,0.3920)となる。
【0074】
原点から点Hまでの距離OHは、
【数10】

OH=0.8650
となる。よって、傾斜角度θは以下のように算出される。
sinθ=OH/OC=0.86/1.9086=0.4531
θ=ARCSINθ=26.95°
他のミラー指数におけるc軸の傾斜角度θは表2に示す値になる。
【0075】
【表2】
【0076】
いずれの方法でもθは同じ値になり、βSn(正方晶)の結晶方位のc軸がZ軸となす角度である傾斜角度θを求めることができる。表1のように求める方法は、表2のように求める方法と比較して計算が容易である点で好ましい。なお、表2中の(220)、(440)、(420)、(200)の結晶面は、z軸に平行でありx、y、zの数値を算出できないため、計算不能である。
【0077】
このようにして得られた傾斜角度θを用いて、本発明の平均分散応力比率(%/種)は以下の式により求められる。
平均分散応力比率(%/種)=主応力比率(%)÷伝播結晶方位数(種)
本発明の主応力比率(%)は、前述したように、金属めっき層のX線回折スペクトルにおいて、最大ピーク強度を示す結晶方位(A)のピーク強度比(%)と、最大ピーク強度を示す結晶方位(A)のc軸と金属めっき層の膜厚方向とのなす角度である最大ピーク傾斜角度(a°)、および最大ピーク強度以外のピーク強度を示す結晶方位(B)のc軸と金属めっき層の膜厚方向とのなす角度である非最大ピーク傾斜角度(b°)、の角度差(a°-b°)が±6°以内である結晶方位のピーク強度比(%)と、の合計(%)である。また、伝播結晶方位数(種)は、金属めっき層のX線回折スペクトルにおいて、主応力比率(%)の算出に用いられていないピーク数である。
【0078】
例えば、X線回折スペクトルにおいて、(321)面のピーク強度比が40%であり、(411)面のピーク強度比が5%であり、(521)面のピーク強度比が35%であり、および(332)面のピーク強度比が20%である場合を説明する。最大ピーク強度を示す(321)面のピーク強度比(A)は40%であり、(321)面(A)の最大ピーク傾斜角度(a°)は26.95°である。最大ピーク強度以外のピーク強度を示す結晶方位は、(411)面、(521)面、および(332)面の3種である。これらの中で、最大ピーク傾斜角度(a°)と非最大ピーク傾斜角度(b°)との角度差(a°-b°)が±6°以内(20.95°~32.95°)である結晶方位(B)は、傾斜角度θが23.97°である(411)面ということになる。そして、(411)面(B)のピーク強度比(%)は5%である。よって、主応力比率は40%+5%=45%となる。
また、伝搬結晶方位数(種)は、主応力比率の算出に用いられていない(521)面と(332)面の2種である。
よって、平均分散応力比率(%/種)は、45%/2種=22.5%/種となる。
【0079】
本発明では正電流と逆電流が交互に通電するPRめっき法と直流めっき法を採用しているが、PRめっき法の代わりにパルスめっき法や交流めっき法を採用したとしても、ウィスカの成長を抑制することはできない。いずれも正電流のみが通電するため、結晶面の多面化に寄与しないためであると推察される。
【0080】
また、本発明に係る形成方法にて形成したSnめっき層は、PRめっき法にて形成したSnめっき層と同程度に多面化の傾向を示すと考えられる。このため、PRめっきの後に直流めっきを行ってもSnめっき層を構成する結晶の多面化が実現され、ウィスカの成長が抑制されると考えられる。一方、パルスめっき法、交流めっき法、および直流めっき法のみの場合には、いずれも正電流のみが通電するために多面化が実現されない。
【0081】
なお、本発明に係る形成方法で形成された金属めっき層は、断面をSEMで観察しても各処理方法での境界を認識することができない。また、各処理方法で形成した層は薄いため、X線による識別も困難である。したがって、本発明に係る形成方法のように2通りの方法でめっき層を形成したとしても、本発明に係る金属めっき層は1層を構成することになる。
【0082】
3.嵌合型接続端子
本発明に係る金属体の形成方法により形成された金属体は、ウィスカの発生を十分に抑制することができるため、機械的接合により導通する電気的接点として、嵌合型接続端子に好適に用いることができる。具体的には、コネクタのコネクタピン(金属端子)や、コネクタと嵌合するFFCやFCPの端末接続部(接合領域)やプレスフィットピンに本発明に係る金属体を用いるのが好ましい。
【実施例0083】
以下、本発明に係る具体例を説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
(1)評価試料の作製
本発明の効果を立証するため、NiめっきCu板(サイズ:30mm×30mm×0.3mm,Niめっき厚:3μm)と、陽極として使用するSn板とを、金属めっき液が入れられたビーカー内に浸漬し、室温にて表5に示した条件で電流を流すことによって、Niめっき層上に金属めっき層を形成し、表5に示す膜厚を有する金属めっき層を形成した。
【0084】
表5中、「(正電流の)電流密度」とは、PRめっき法における正電流の電流密度、もしくは、直流めっき法、パルスめっき法、交流めっき法での電流密度を表す。「逆電流の電流密度」とは、PRめっき法における逆電流の電流密度を表す。「正電流の通電時間」および「逆電流の通電時間」とは、PRめっき法の通電時間とDuty比から得られた通電時間である。Duty比は総通電時間に対する正電流の通電時間の比である。
各めっき法にて採用しためっき液は以下のものを用いた。
上村工業株式会社製:型番 GTC
石原ケミカル株式会社製:型番 PF-095S
比較例4では、表5に記載の条件で金属めっき層を形成した後、基材の表面温度が270℃になるまで昇温後、6秒保持した後に空冷した。
【0085】
(2)バリア層および金属めっき層の膜厚
上述のように作製された評価試料の金属めっき層をFIBで断面加工を行い、その断面について、SEMのモニター上で30000倍に拡大し、任意の10か所について、各層の膜厚の平均値を算出した。
【0086】
また、実施例1~5のPRめっき層および直流めっき層の各々の膜厚は、以下のように算出された。まずは、予め各方法にて一定時間のめっき処理を行った。作製した金属めっき層をFIBにて断面加工を行い、金属めっき層の膜厚を断面SEM写真から測定し、各方法での成膜速度を算出した。そして、算出された各々の成膜速度から所望の膜厚になるめっき処理時間を算出し、算出しためっき処理時間だけめっき処理を行い、各々の方法で形成された層の膜厚とした。
【0087】
(3)平均分散応力比率
前述のように作製された金属めっき層のX線回折スペクトルは、下記条件でX線回折装置を用いて測定した。
・分析装置:MiniFlex600(Rigaku製)
・X線管球:Co(40kV/15mA)
・スキャン範囲:3°~140°
・スキャンスピード:10°/min
【0088】
実施例1~5、比較例1~5、7~9のX線回折スペクトルは図5および図6に示す結果になった。図5はX線回折スペクトルを示す図であり、図5(a)は実施例1の形成方法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図5(b)は実施例2の形成方法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図5(c)は実施例3の形成方法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図5(d)は実施例4の形成方法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図5(e)は実施例5の形成方法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルである。図6はX線回折スペクトルを示す図であり、図6(a)は比較例1の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図6(b)は比較例2の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図6(c)は比較例3の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図6(d)は比較例4の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図6(e)は比較例5の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図6(f)は比較例7の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図6(g)は比較例8の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図6(h)は比較例9の形成法にて形成したSnめっき層のX線回折スペクトルである。
【0089】
図5(a)~図5(e)に示される実施例1~5は、図6(a)~図6(d)に示される比較例1~4よりピークの数が多く、多面的であることがわかった。このため、PRめっきの後に直流めっきを行ったとしてもSnめっき層を構成する結晶方位の多面化が実現され、直流めっきを採用したとしてもウィスカの成長が抑制されることがわかった。一方、図6(a)~図6(d)に示される比較例1~4は、パルスめっき法、交流めっき法、および直流めっき法のみで成膜されているため、いずれも多面化が実現されなかった。また、パルスめっき法や交流めっき法の後に直流めっき法が採用されたとしても、多面化が実現されなかった。図6(e)~図6(h)に示される比較例5、および7~9は、PRめっき法にて成膜されており、ピークの数が多く多面的であることがわかった。
【0090】
得られたX線回折スペクトルから、各面方位の傾斜角度(°)を算出した。また、各ピーク強度の合計値を算出し、各ピーク強度を合計値で割り100を乗じることにより、各ピークのスペクトル強度比(%)を算出した。
【0091】
平均分散応力比率(%/種)は、平均分散応力比率=主応力比率(%)÷伝播結晶方位数(種)により算出された。本実施例では、X線回折スペクトルの中で最大ピーク強度比を示す結晶方位を(A)とし、最大ピーク傾斜角度を(a)とした。また、最大ピーク強度比を示さない結晶方位のc軸の傾斜角度である非最大ピーク傾斜角度(b)の中で、最大ピーク強度を示す結晶方位のc軸の傾斜角度(a)との角度差(a-b)が±6°である結晶方位を(B)とした。傾斜角度は、前述の表1および表2に示されている数値を用いた。そして、支配的結晶方位のX線回折スペクトル強度比である主応力比率(%)を求めた。
【0092】
最後に、結晶方位の中で、主応力比率の算出に用いられていない結晶方位数である伝播結晶方位数を求め、主応力比率(%)を伝搬結晶方位数(種)で除することにより、平均分散応力比率(%/種)を算出した。なお、比較例6では成膜を行えなかったため、平均分散応力比率(%/種)を算出することができなかった。
【0093】
例えば、実施例1では以下のようになる。X線回折スペクトルのなかで、ピーク強度が最大である結晶方位(220)のピーク強度比は32.3%である。その結晶方位のc軸と膜厚方向との角度である最大ピーク傾斜角度(a)は0°であり、この結晶方位を「A」と称した。また、(220)以外の結晶方位において、これらのc軸と膜厚方向とのなす角度である非最大ピーク傾斜角度(b)と、最大ピーク傾斜角度(a)との差(a-b)が±6°以内である結晶方位は、(420)と(440)であり、これらの結晶方位を「B」と称した。これらのピーク強度比は、各々1.3%、および5.6%であった。この強度比と最大ピーク強度比の合計である「支配的結晶方位のX線回折スペクトル強度比」は39.2%であり、これが主応力比率の値である。
実施例1の結晶方位の中で、主応力比率の算出に用いられていない結晶方位数は5種類であった。よって、平均分散応力比率(%/種)は、39.2(%)/5(種)≒7.8(%/個)であった。
実施例1~5、比較例1~5、および比較例7~9の平均分散応力比率(%/種)の値を表3および表4に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
表4に示すように、PRめっき法にて成膜された比較例5、および7~9は、多面的であり伝播結晶方位数が多いものの、それにもまして主応力比率が大きいために平均分散応力比率が大きい値を示した。
【0097】
(4)ウィスカ長
ウィスカ長は、金属めっき層を形成したNiめっきCu板について、JEITA RC-5241で規定される「電子機器用コネクタのウィスカ試験方法」に準拠した球圧子法により測定された。なお、この測定では、同じ条件で作製したサンプルを3枚用意し、それぞれのサンプルの最大ウィスカ長さを測定し、その平均をウィスカ長として算出した。
試験に使用した試験装置・条件については以下に示す通りである。
【0098】
(試験装置)
JEITA RC-5241の「4.4 荷重試験機」に定められた仕様を満足する荷重試験機(ジルコニア球圧子の直径:1mm)
(試験条件)
・荷重:300g
・試験期間:10日間(240時間)
(測定装置・条件)
・FE-SEM:Quanta FEG250(FEI製)
・加速電圧:10kV
【0099】
測定の結果、ウィスカ長さが15μm未満であるものをウィスカの発生が抑制されているものとして「○」と評価し、ウィスカ長さが15μm以上20μm以下の場合には「△」と評価し、20μm超であるものをウィスカの発生が抑制できていないものとして「×」と評価した。
以下に評価結果を示す。
【0100】
【表5】
【0101】
実施例1~5は、PRめっき法および直流めっき法の形成条件が所定の範囲内であるため、Snめっき層の平均分散応力比率が8.4%/種以下であり、ウィスカの成長が抑制された。また、形成時間は200秒以内であり形成時間を短縮することができた。さらに、本発明に係る形成方法で形成された金属めっき層は、断面をSEMで観察しても各処理方法での境界を認識することができなかった。また、各処理方法で形成した層は薄いため、X線による識別もできなかった。このため、実施例1~5のSnめっき層は、2通りの方法で成膜しているが、単層であることがわかった。
【0102】
一方、比較例1および比較例4は直流めっき法にて金属めっき層を積層したため、平均分散応力比率が大きくウィスカ長を低減することができなかった。比較例2はパルスめっき法にて金属めっき層を積層したため、平均分散応力比率が大きくウィスカ長を十分に低減するには至らなかった。比較例3は交流めっき法にて金属めっき層を積層したため、平均分散応力比率が大きくウィスカ長は実施例より劣った。
【0103】
比較例5、7および8はPRめっき法にて金属めっき層を積層したため、多面的でありウィスカの成長がある程度抑制されたものの、平均分散応力比率が大きくウィスカ長は実施例より劣った。また、形成時間が200秒を大きく上回り、製造時間の短縮に寄与できなかった。比較例6ではPRめっき法が採用されたが、Duty比が小さく金属めっき層を形成することができなかった。比較例9ではPRめっき法が採用されたが、電流密度の比が小さいために平均分散応力が大きくウィスカ長は実施例より劣った。比較例10ではPRめっき法が採用されたが、電流密度の比が大きいために金属めっき層を形成することができなかった。
【0104】
次に、表5の結果に基づいて、主応力比率(%)とウィスカ長との関係、および平均分散応力比率(%/種)とウィスカ長との関係を示す。図7は、主応力比率と最大ウィスカ長との関係を示す図である。図7に示すように、主応力比率とウィスカとの明確な関係は見出せず、主応力比率に加えて伝播結晶方位数も考慮しなければならないことがわかった。
【0105】
図8は、平均分散応力比率と最大ウィスカ長との関係を示す図である。平均分散応力比率は主応力比率を伝搬結晶方位数で除した値である。図8に示すように、平均分散応力比率が8.4%/種以下になるとウィスカの成長が抑制され、8.4%/種を超えるとウィスカが成長することがわかった。すなわち、ウィスカの成長は、主応力比率を低減するだけでは抑制されず、平均分散応力比率を低減することにより抑制されることがわかった。また、図8の近似曲線から明らかなように、ウィスカは平均分散応力比率が大きくなるにつれて指数関数的に増加することもわかった。図8に示す近似曲線は、
最大ウィスカ長=8.4e(0.0621×平均分散応力比率)
であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8