(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075948
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】ろ過ユニットおよび水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20230524BHJP
B01D 63/08 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
C02F1/44 A
B01D63/08
C02F1/44 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185863
(22)【出願日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2021188709
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 貴浩
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA41
4D006HA93
4D006JA04A
4D006JA04C
4D006JA16A
4D006KA16
4D006KA41
4D006KC07
4D006KE06P
4D006MA06
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC54
4D006MC62
4D006PA01
4D006PB03
4D006PB04
4D006PB06
4D006PB08
4D006PB22
4D006PB24
(57)【要約】
【課題】ファウリングの発生を抑制しつつ、高精度なろ過処理を行うことが可能なろ過ユニットおよび水処理方法を提供する。
【解決手段】ろ過ユニット100は、浄化対象の原水に浸漬して用いるろ過ユニット100であって、枠体110と、前記枠体110の第1の面110sに張り付けられた平膜型の第1のナノろ過膜120と、前記枠体110の前記第1の面110sとは反対側の第2の面110oに張り付けられた平膜型の第2のナノろ過膜130と、前記枠体110と前記第1のナノろ過膜120と前記第2のナノろ過膜130とで囲まれた空間Sに流入したろ過処理された処理水を前記空間Sから外部に取り出す取水部140とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄化対象の原水に浸漬して用いるろ過ユニットであって、
枠体と、
前記枠体の第1の面に張り付けられた平膜型の第1のナノろ過膜と、
前記枠体の前記第1の面とは反対側の第2の面に張り付けられた平膜型の第2のナノろ過膜と、
前記枠体と前記第1のナノろ過膜と前記第2のナノろ過膜とで囲まれた空間に流れ込んだろ過処理された処理水を前記空間から外部に取り出す取水部と、
を備えるろ過ユニット。
【請求項2】
前記取水部は、前記枠体内に形成される流路で構成され、
前記流路の上流側の端部が前記空間に連通し、前記流路の下流側の端部が前記枠体の外側に連通する
請求項1に記載のろ過ユニット。
【請求項3】
前記取水部は、細長の筒体により構成され、
前記筒体の一端側が前記空間内に延在し、前記筒体の他端側が前記枠体の外側に延在する
請求項1に記載のろ過ユニット。
【請求項4】
浄化対象の原水が溜められる容器と、
請求項1から3の何れか一項に記載のろ過ユニットと、
前記ろ過ユニット内に圧力差を発生させるポンプと、を備えるろ過膜装置を用いて前記原水をろ過処理する水処理方法であって、
前記容器内に溜められた前記原水に前記ろ過ユニットを連続して浸漬する工程と、
圧力値がゲージ圧-101.3~0kPaの範囲で前記ポンプを駆動してろ過処理を行う工程と、
を有する水処理方法。
【請求項5】
前記ろ過ユニットの圧力差が基準値以上となった場合に、前記第1のナノろ過膜および第2のナノろ過膜の少なくとも一方の膜表面に付着した付着物を洗浄器具を用いて除去する工程を有する
請求項4に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ろ過ユニットおよび水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、海水や下水等の原水を飲用水として再利用する場合、河川水や工業用水等から超純水を精製して半導体製造プロセスで利用する場合等において、原水中の塩類や微生物等の不純物を除去するために、逆浸透膜等を含む膜エレメントを用いた高度水処理システムが広く利用されている。
【0003】
一般的な膜エレメントとしては、例えば、ポリアミド層とポリスルホン支持層と不織布とで平膜状の分離膜を構成し、この分離膜をスペーサーを介して集水管の外周部に巻回して構成したスパイラル型のものが知られている。また、平膜以外に、中空糸膜やチューブラー膜をハウジング内に装填した膜モジュールも広く知られている。
【0004】
しかしながら、膜エレメントがスパイラル型やモジュール型である場合、膜の充填率を高めるために原水が流れる流路が狭く構成されており、ろ過処理時において流路が原水に含まれる不純物によって閉塞される場合があった。そのため、ろ過処理の前に、原水中の懸濁性の不純物を砂ろ過や膜分離(精密ろ過/限外ろ過)によって除去する前処理を行う必要があり、コストが増大するという問題があった。また、ろ過処理開始後、膜表面への不純物の付着により発生するファウリングの除去を目的として、水酸化ナトリウムや次亜塩素酸ナトリウムなどの化学薬品を用いた洗浄(薬洗)工程が必要とされており、環境負荷や処理コストが大きいという問題もあった。
【0005】
不純物による流路の閉塞を抑制可能な手段としては、流路を解放した平膜型の膜分離装置が知られている。例えば、特許文献1には、2枚の平膜間に濾過流路スペーサを介在させ、その周囲を額縁状に不透水性シール材で封止し、そのシール材から透過液取出管を導出させた膜分離装置が記載されている。また、特許文献2には、上部に集水管を備えた樹脂製の膜支持体の表裏両面に分離膜が配置されて構成された膜分離装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-327949号公報
【特許文献2】特開2012-205980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の膜分離装置では、平膜として例えば精密濾過膜、限外濾過膜を用いており、孔径が比較的大きいため、精度の高いろ過処理を行うことができないという問題がある。また、特許文献2に記載の膜分離装置では、依然として膜表面に発生したファウリングを除去するために次亜塩素酸ナトリウムなどを用いた薬洗の必要があり、環境負荷や処理コスト大きいままであった。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、浄化対象である原水に対し従来行われてきた前処理の工程を必要とすることなく、ファウリングの発生を抑制しつつ、高精度なろ過処理を行うことが可能なろ過ユニットおよび水処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係るろ過ユニットは、浄化対象の原水に浸漬して用いるろ過ユニットであって、枠体と、前記枠体の第1の面に張り付けられた平膜型の第1のナノろ過膜と、前記枠体の前記第1の面とは反対側の第2の面に張り付けられた平膜型の第2のナノろ過膜と、前記枠体と前記第1のナノろ過膜と前記第2のナノろ過膜とで囲まれた空間に流れ込んだろ過処理された処理水を前記空間から外部に取り出す取水部と、を備えるものである。
【0010】
本開示に係る水処理方法は、浄化対象の原水が溜められる容器と、請求項1から3の何れか一項に記載のろ過ユニットと、前記ろ過ユニット内に圧力差を発生させるポンプと、を備えるろ過膜装置を用いて前記原水をろ過処理する水処理方法であって、前記容器内に溜められた前記原水に前記ろ過ユニットを連続して浸漬する工程と、圧力値がゲージ圧-101.3~0kPaの範囲で前記ポンプを駆動してろ過処理を行う工程と、を有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係るろ過ユニットによれば、ろ過ユニットに平膜型の第1のナノろ過膜および第2のナノろ過膜を用いることで、浄化対象である原水に対し従来行われてきた前処理の工程を必要とすることなく、高精度かつ低圧で原水のろ過処理を行うことができる。これにより、高度処理水を得ることができると共に、ファウリングを抑制でき、膜洗浄回数を削減できる。
【0012】
本開示に係る水処理方法によれば、ろ過ユニットに平膜型の第1のナノろ過膜および第2のナノろ過膜を用いることで、浄化対象である原水に対し従来行われてきた前処理の工程を必要とすることなく、高精度かつ低圧で原水のろ過処理を行うことができる。これにより、きわめて低コストで高度処理水を得ることができると共に、ファウリングが発生した場合でも化学薬品を用いることなく、簡便に膜表面を物理的に洗浄できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施の形態に係るろ過膜装置の構成例を示す図である。
【
図2】第1の実施の形態に係るろ過ユニットを示す斜視図である。
【
図3】第1の実施の形態に係るろ過ユニットを示す分解斜視図である。
【
図4A】第1の実施の形態に係るろ過ユニットを示す正面図である。
【
図4B】第1の実施の形態に係るろ過ユニットを示す側面図である。
【
図5A】第2の実施の形態に係るろ過ユニットを示す斜視図である。
【
図5B】第2の実施の形態に係るろ過ユニットを示す斜視図である。
【
図6】第2の実施の形態に係るろ過ユニットを示す分解斜視図である。
【
図7A】第2の実施の形態に係るろ過ユニットを示す正面図である。
【
図7B】第2の実施の形態に係るろ過ユニットを示す側面図である。
【
図8】第3の実施の形態に係るろ過ユニットを示す斜視図である。
【
図9】第3の実施の形態に係るろ過ユニットを示す分解斜視図である。
【
図10】第4の実施の形態に係るろ過ユニットを示す斜視図である。
【
図11】第4の実施の形態に係るろ過ユニットを示す分解斜視図である。
【
図12A】第4の実施の形態に係るろ過ユニットの上枠体を示す斜視図である。
【
図12B】第4の実施の形態に係るろ過ユニットの上枠体を示す斜視図である。
【
図13A】第4の実施の形態に係るろ過ユニットの下枠体を示す斜視図である。
【
図13B】第4の実施の形態に係るろ過ユニットの下枠体を示す斜視図である。
【
図14A】第4の実施の形態に係るろ過ユニットを示す正面図である。
【
図14B】第4の実施の形態に係るろ過ユニットを示す側面図である。
【
図15A】第5の実施の形態に係るろ過膜装置の構成例を示す図である。
【
図15B】第1の実施の形態に係る複数個のろ過ユニットをヘッダー管に取り付けた場合におけるろ過膜装置の構成例を示す図である。
【
図15C】第2の実施の形態に係る複数個のろ過ユニットをヘッダー管に取り付けた場合におけるろ過膜装置の構成例を示す図である。
【
図16A】実施例1として、本発明のろ過ユニットを原水中に浸漬させ、ろ過処理を行う工程を経た処理水の水質分析の結果を示すグラフである。
【
図16B】比較例として、従来の高速砂ろ過法による処理水の水質分析の結果を示すグラフである。
【
図17】実施例2として、本発明のろ過ユニットを原水中に浸漬させ、連続的にろ過処理を行う工程を経た際の膜間圧差と、スポンジによるファウリング除去後の膜間圧差を示すグラフである。
【
図18】実施例3として、下水一次処理水のろ過時におけるろ過膜ユニットの膜間圧差の測定試験の結果を示す図である。
【
図19】実施例3として、下水一次処理水のろ過時におけるろ過膜ユニットの処理水の水質分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
<第1の実施の形態>
[ろ過膜装置1Aの構成例]
図1は、第1の実施の形態に係るろ過膜装置1Aの構成例を示す図である。
【0016】
ろ過膜装置1Aは、供給ポンプ20と、処理槽30と、吸引ポンプ40と、ろ過ユニット100とを備える。水源10と処理槽30との間には、供給配管60が設けられる。処理槽30とろ過処理された処理水PWの供給場所との間には、排出配管70が設けられる。水源10としては、例えば、海水、河川水、池、湖、水道水、ダム、下水、産業廃水、排水路等が挙げられる。
【0017】
供給ポンプ20は、供給配管60の途中に設置され、図示しない駆動源の駆動により水源10の原水RWを供給配管60を経由して処理槽30に供給する。
【0018】
処理槽30内に溜められた原水RWには、ろ過ユニット100が浸漬される。ろ過ユニット100は、ナノろ過膜を含み、処理槽30内に供給された原水RWに含まれる不純物を除去するろ過処理を行い、ろ過処理された処理水PWを生成する。不純物には、例えば、細菌、原虫、ウイルス等の微生物及び有機物、微量化学物質、塩類、金属等の無機物等が含まれる。なお、ろ過ユニット100の構成の詳細については後述する。
【0019】
吸引ポンプ40は、排出配管70の途中に設置され、例えば渦巻きポンプ、遠心ポンプ、容積ポンプ等から構成される。吸引ポンプ40は、図示しない駆動源の駆動によりろ過ユニット100内を減圧してろ過処理に必要な膜間差圧(以下、TMP(Trans-Membrane Pressure)という場合もある。)を発生させる。膜間差圧とは、後述する第1のナノろ過膜120および第2のナノろ過膜130における供給側(原水RWが流入する外側)と透過側(処理水PWが流入する空間S側)との圧力差である。本実施の形態では、供給側の圧力を大気圧+水深とし、透過側の圧力を吸引ポンプ40の駆動により負圧とすることで、ろ過推進力となる圧力差を発生させる。ろ過ユニット100でろ過処理された処理水は、排出配管70を経由して目的の供給場所まで送られる。本実施の形態では、ろ過ユニット100を平膜型のナノろ過膜で構成するので、低圧でろ過処理を行うことができる。
【0020】
[ろ過ユニット100の構成例]
次に、第1の実施の形態に係るろ過ユニット100について説明する。
図2は第1の実施の形態に係るろ過ユニット100を示す斜視図であり、
図3はろ過ユニット100を示す分解斜視図である。
図4Aは第1の実施の形態に係るろ過ユニット100を示す正面図であり、
図4Bはろ過ユニット100を示す側面図である。なお、
図4Aおよび
図4Bでは、第1のナノろ過膜120および第2のナノろ過膜130を便宜上省略して図示している。
【0021】
ろ過ユニット100は、浄化対象の原水RWに浸漬して用いるものであって、
図2~
図4Bに示すように、枠体110と、平膜型の第1のナノろ過膜120と、平膜型の第2のナノろ過膜130と、取水部140と、スペーサー150とを備える。
【0022】
枠体110は、所定の厚みを有し、平面視略ロの字形状で構成される。枠体110には、例えば樹脂材料又は金属材料を用いることができる。枠体110の長辺部110Lの略中央部には、外側に突出する突出部112が設けられる。突出部112は、枠体110の厚み方向に貫通する貫通孔112aを有する。貫通孔112aは、後述するヘッダー管80にろ過ユニット100を取り付けるための部位である。貫通孔112aの孔壁面には、後述する取水部140の出口を構成する開口部110dが形成される。貫通孔112aには継手の一例であるヘッダー管80が挿通され、ヘッダー管80には排出配管70の一端部が取り付けられる。これにより、取水部140の開口部110dと排出配管70とがヘッダー管80を介して連通するようになっている。
【0023】
枠体110の材質が樹脂材料である場合、枠体の製造方法として、押出成型、射出成型、3Dプリンタによる成型等の各種方法を適用することができる。特に、3Dプリンタによる成型の場合、金型を作成する必要が無く低コストで枠体を生産可能となる。また、3Dプリンタによる成型の場合、設計データを電子ファイルでやりとりできるので、途上国や遠隔地等において速やかに枠体を現地生産、量産することができる。
【0024】
第1のナノろ過膜120は、枠体110と略同一の大きさを有する平面視長方形状の高分子膜により構成され、枠体110の第1の面110sに例えば接着剤により張り付けられる。第1のナノろ過膜120は、多数の孔(空隙)を有する。孔の孔径は、例えば0.001μm~0.01μm、好ましくは0.002μm~0.005μmである。第1のナノろ過膜120は、供給側から多数の孔に原水RWを流すことで原水RWに含まれる不純物を除去し、不純物が除去された処理水PWを排出側(空間S側)に通過させる。第1のナノろ過膜120では、例えば、水分子と一価イオン(Na+、Cl-等)以外の略全ての物質を除去可能である。
【0025】
第1のナノろ過膜120としては、水処理分野において通常使用されている平膜状のものであれば、特に制限なく用いることができる。例えば、一般的な膜エレメントとして用いられるスパイラル型の膜エレメントにおいて、集水管の外部に何重にも巻回された分離膜を適宜剥離、切断して得られた平膜上の分離膜を用いることができる。第1のナノろ過膜120を構成する高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリアミド等が例示される。これらの高分子は、単一材料から構成された単層膜として用いてもよいし、単一または異なる高分子から構成された複数枚の膜を積層した複合膜として用いてもよい。さらに、高分子の表面に様々な修飾基を付加することで膜表面の親水性や電荷等を改質したものを用いることも可能である。第1のナノろ過膜120の構造としては、例えば、ポリアミド層とポリスルホン支持層と不織布とが積層一体化された分離膜などが例示される。
【0026】
第2のナノろ過膜130は、第1のナノろ過膜120と同様の構成であり、枠体110と略同一の大きさを有する平面視長方形状の高分子膜により構成され、枠体110の第1の面110sとは反対側の第2の面110oに例えば接着剤により張り付けられる。第2のナノろ過膜130は、多数の孔(空隙)を有する。孔の孔径は、例えば0.001μm~0.01μm、好ましくは0.002μm~0.005μmである。第2のナノろ過膜130は、供給側から多数の孔に原水RWを流すことで原水RWに含まれる不純物を除去し、不純物が除去された処理水PWを排出側(空間S側)に通過させる。第2のナノろ過膜130では、例えば、水分子と一価イオン(Na+、Cl-等)以外の略全ての物質を除去可能である。
【0027】
第2のナノろ過膜130としては、水処理分野において通常使用されている平膜状のものであれば、特に制限なく用いることができる。例えば、一般的な膜エレメントとして用いられるスパイラル型の膜エレメントにおいて、集水管の外部に何重にも巻回された分離膜を適宜剥離、切断して得られた平膜上の分離膜を用いることができる。第2のナノろ過膜130を構成する高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリアミド等が例示される。これらの高分子は、単一材料から構成された単層膜として用いてもよいし、単一または異なる高分子から構成された複数枚の膜を積層した複合膜として用いてもよい。さらに、高分子の表面に様々な修飾基を付加することで膜表面の親水性や電荷等を改質したものを用いることも可能である。第2のナノろ過膜130の構造としては、例えば、ポリアミド層とポリスルホン支持層と不織布とが積層一体化された分離膜などが例示される。
【0028】
第1のナノろ過膜120と第2のナノろ過膜130とは、同一の構成の膜であってもよいし、それぞれ別異の構成の膜であってもよい。
【0029】
また、第1のナノろ過膜120と第2のナノろ過膜130の表面積については、特段限定されることはなく、表面積が大きければ大きいほど単位時間当たりの水処理量、すなわち処理水PWの生成量を増大させることができる。
【0030】
枠体110、第1のナノろ過膜120および第2のナノろ過膜130で囲まれた密閉された領域は、第1のナノろ過膜120および第2のナノろ過膜130でろ過処理された処理水PWが流れ込む空間Sとなっている。空間Sは、取水部140の開口部110a,110b,110cに連通しており、空間Sに流入した処理水PWは供給側との圧力差によって取水部140に搬送される。
【0031】
取水部140は、枠体110および突出部112内に形成された流路により構成される。取水部140の処理水PWの流れ方向の上流側端部には、空間Sに連通する開口部110a,110b,110cが形成される。開口部110a,110b,110cは、枠体110の長辺部110Lの内壁面に所定の間隔を空けて並んで形成される。取水部140の処理水PWの流れ方向の下流側端部には、ヘッダー管80に連通する開口部110dが形成される。開口部110dは、貫通孔112aの孔壁面に形成される。取水部140を構成する流路140aは、開口部110a,110b,110cと開口部110dとの間に亘って延在し、流路140aの上流側端部が空間Sに連通すると共に、その下流側端部が枠体110の外側に連通することで、空間S内に流入したろ過処理された処理水PWを排出配管70に搬送する。
【0032】
スペーサー150は、例えば枠体110の内径と略同一の大きさを有する網目(メッシュ)状のシートで構成され、枠体110の内側に配置される。スペーサー150は、処理水PWの流路を形成すると共に、空間S内が負圧になった場合に第1のナノろ過膜120と第2のナノろ過膜130とが大幅に接近または接触することを防止する。なお、スペーサー150は、例えば接着剤等の固着剤を用いて枠体110に取り付けてもよいし、枠体110に装着用の溝を設けて嵌め込むことで取り付けてもよいし、枠体110を一対で構成して挟み込むように取り付けてもよい。また、その他の公知の取付手段を採用してもよい。
【0033】
ろ過ユニット100は、
図4Bに示すように、ヘッダー管80を枠体110の貫通孔112aに挿通することで、ヘッダー管80に取り付けられる。ヘッダー管80の周面には図示しない厚み方向に貫通する側壁孔が形成され、ろ過ユニット100がヘッダー管80に取り付けられたときにヘッダー管80の側壁孔と取水部140の開口部110dとが連通するように構成される。ヘッダー管80に取り付けられたろ過ユニット100の枠体110の両側面には、枠体110を挟持するようにしてOリング82,82が取り付けられる。これにより、ろ過ユニット100は、ヘッダー管80の所定位置に固定されると共に、枠体110とヘッダー管80との隙間が密閉される。
【0034】
[ろ過膜装置1Aの動作例]
次に、ろ過膜装置1Aを用いて原水RWをろ過処理する水処理方法について
図1~
図4Bを参照して説明する。
【0035】
本実施の形態では、ろ過ユニット100によるろ過処理工程の前段に、高速砂ろ過、凝集剤の添加、低圧膜を用いたろ過等の前処理を行う工程を設けずに、ろ過ユニット100を用いてろ過処理を実施する。また、ろ過処理では、ろ過ユニット100の全体を処理槽30内に溜められた原水RWに所定期間、連続して浸漬させる浸漬工程を実施する。
【0036】
ろ過膜装置1Aにおいて、供給ポンプ20が駆動すると、水源10から供給配管60を経由して原水RWが処理槽30に供給される。吸引ポンプ40が駆動すると、ろ過ユニット100内が減圧され、ろ過ユニット100内にろ過処理に必要な膜間差圧が発生する。本実施の形態において吸引ポンプ40の操作圧力値は、例えば、低圧であるゲージ圧-101.3~0kPaの範囲である。ゲージ圧が0kPaを上回ると膜間圧差が過小となり、実用的なろ過処理に必要な駆動力が得られないおそれがある。吸引ポンプ40等の駆動により、ろ過処理工程が開始される。
【0037】
処理槽30に供給された原水RWは、第1のナノろ過膜120および第2のナノろ過膜130により不純物が除去される。ろ過処理された処理水PWは、膜の供給側から排出側に透過して空間S内に流入する。空間S内に流入した処理水PWは、吸引ポンプ40の駆動により開口部110a,110b,110cから取水部140内に流れ込み、取水部140の流路140aを通過して開口部110dから排出される。開口部110dから排出された処理水PWは、ヘッダー管80を経由して排出配管70に流れ、目的の場所まで搬送される。
【0038】
ろ過処理の期間としては、ろ過ユニット100が所定のろ過性能を発揮する限り特段限定されることはないが、少なくとも30日~180日程度連続的に行うことができる。
【0039】
ろ過処理を例えば数十日間実施し、ろ過ユニット100の膜間差圧が基準値以上となった場合、第1のナノろ過膜120および第2のナノろ過膜130の供給側表面に膜表面や孔内に不純物が付着、堆積するファウリング(膜汚染)が発生しているか否かを判別できる。膜間差圧の基準値については、使用するナノろ過膜により異なるが、例えば、ろ過処理開始時の膜ろ過流束から10%を超える膜ろ過流束低下が検出された場合(固定膜差圧運転時)、またはろ過処理開始時の膜間差圧から10%を超える膜間圧上昇が検出された場合(固定流束運転時)に、ファウリングが発生していると判別してもよい。この場合には、処理槽30からろ過ユニット100を取り出し、ワイパーまたはスポンジ等の洗浄器具を用いて第1のナノろ過膜120および第2のナノろ過膜130の供給側表面の不純物を擦り落とす洗浄工程(物理的な剥離洗浄)を実施する。洗浄工程が終了したら、ろ過ユニット100を処理槽30内の原水RW内に浸漬し、ろ過処理を再開する。
【0040】
また、ファウリングの発生の判別は、ろ過ユニット100を浸漬させた原水RWから取り出して目視による確認によって行うこともできる。
【0041】
なお、圧力計を設置し、ろ過ユニット100の膜間差圧を測定してもよい。また、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを有する制御部を設け、圧力計の出力結果に基づいてろ過ユニット100の膜間差圧が基準値以上となったか否かを判別するようにしてもよい。この場合の膜間圧差の基準値については前述の基準値と同様で構わない。また、洗浄器具を操作可能なロボットを設け、ファウリングが発生していると判別した場合に、ろ過ユニット100の各膜表面を自動的に洗浄するようにしてもよい。ロボットは、例えば制御部の制御により動作するようにしてもよい。
【0042】
以上説明したように、第1の実施の形態によれば、ろ過ユニット100に平膜型であってかつ逆浸透膜よりも孔径が大きい第1のナノろ過膜120および第2のナノろ過膜130を用いることで、高精度かつ低圧で原水RWのろ過処理を行うことができる。すなわち、本実施の形態の水処理方法では、従来におけるろ過膜装置では必須とされている、原水中の懸濁性の不純物を砂ろ過や膜分離(精密ろ過/限外ろ過)によって除去する前処理の工程を経る必要がなくなる。また、高性能な吸引ポンプを用いる必要がなくなる。これにより、高度処理水を得ることができると共に、第1のナノろ過膜120および第2のナノろ過膜130の供給側の膜表面や孔内でのファウリングを抑制でき、膜洗浄回数を削減することができる。また、第1のナノろ過膜120および第2のナノろ過膜130の不純物の目詰まりを抑制できるので、膜間差圧(ろ過抵抗)の上昇を抑制でき、吸引ポンプ40等の運転エネルギーのコストならびに水処理システム全体の設備コストを削減できる。そのため、高度な水処理設備が不足する途上国や、自然災害等により既存の水処理施設が機能停止に陥った被災地等において、短時間で低コストに原水RWの浄化および飲料水の供給が可能となる。
【0043】
また、本実施の形態のろ過膜装置1Aによれば、ろ過ユニット100を平膜型で構成するため、膜表面に付着、沈殿した不純物(付着物)を除去する場合には、ろ過ユニット100を浸漬させた原水から取り出して、スポンジ等の洗浄器具により膜表面を物理的に擦ることで簡便に不純物を除去できる。洗浄器具の材質については、ナノろ過膜の表面を損傷しない限り、特段制限されることはないが、例えば、ポリウレタン製のスポンジ等が例示される。これにより、従来におけるろ過膜装置において膜表面のファウリングを除去する際に行われてきた逆洗や化学洗浄(薬洗)処理が不要となり、特殊な設備・装置や化学薬品を要することなく、きわめて低コストにろ過膜表面のファウリングを除去することができる。ひいては、水処理システム全体のランニングコスト削減を図ることができる。
【0044】
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態では、ろ過ユニット200を構成する取水部240の構成が第1の実施の形態の取水部140とは相違している。なお、上述した第1の実施の形態に係るろ過膜装置1Aおよびろ過ユニット100と実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号または名称を付することにより重複説明を省略する場合がある。
【0045】
[ろ過ユニット200の構成例]
図5Aおよび
図5Bは第2の実施の形態に係るろ過ユニット200を示す斜視図であり、
図6はろ過ユニット200を示す分解斜視図である。
図7Aは第2の実施の形態に係るろ過ユニット200を示す正面図であり、
図7Bはろ過ユニット200を示す側面図である。
【0046】
ろ過ユニット200は、
図5A~
図7Bに示すように、枠体210と、平膜型の第1のナノろ過膜220と、平膜型の第2のナノろ過膜230と、取水部240と、スペーサー250とを備える。第1のナノろ過膜220は、枠体210の第1の面210sに張り付けられる。第2のナノろ過膜230は、枠体210の第2の面210oに張り付けられる。第2の実施の形態に係るろ過ユニット200は、
図1に示したろ過膜装置1Aにおいて、ろ過ユニット100に代えて使用することができる。
【0047】
枠体210は、平面視略ロの字形状で構成される。枠体210の短辺部210Sには、外側に略L字状に突出する突出部212が設けられる。突出部212は、配管84(
図7B参照)等が取り付け可能なように枠体210部分よりも厚く形成される。突出部212には、後述する取水部240の出口を構成する開口部210dが形成される。開口部210dには配管84が接続可能であり、配管84には継手の一例であるヘッダー管80が接続可能であり、ヘッダー管80には排出配管70(
図7B参照)の一端部が接続可能である。
【0048】
取水部240は、枠体210および突出部212内に形成された流路240aにより構成される。取水部240の処理水PWの流れ方向の上流側端部には、空間Sに連通する開口部210a,210b,210cが形成される。開口部210a,210b,210cは、枠体210の短辺部210Sの内壁面に所定の間隔を空けて並んで形成される。取水部240の処理水PWの流れ方向の下流側端部には、配管84に連通可能な開口部210dが形成される。開口部210dは、突出部212の枠体210とは反対側の端面212aに形成される。取水部240を構成する流路240aは、開口部210a,210b,210cと開口部210dとの間に亘って延在し、流路240aの上流側端部が空間Sに連通すると共に、その下流側端部が枠体210の外側に連通することで、空間S内に流入したろ過処理された処理水PWを排出配管70に搬送する。
【0049】
スペーサー250は、例えば枠体210の内径と略同一の大きさを有する網目(メッシュ)状のシートで構成され、枠体210の内側に配置される。スペーサー250は、処理水PWの流路を形成すると共に、空間S内が負圧になった場合に第1のナノろ過膜220と第2のナノろ過膜230とが大幅に接近または接触することを防止する。なお、スペーサー250の枠体210への取付方法は、第1の実施の形態で説明したスペーサー150と同様の取付方法を採用できる。
【0050】
ろ過ユニット200は、
図7Bに示すように、配管84およびヘッダー管80を介して排出配管70に接続される。具体的には、開口部210dには配管84の上流側端部が接続され、配管84の下流側端部がヘッダー管80の周面から突出する枝管に接続される。ヘッダー管80を構成する主管の上流側端部は処理水PWが漏れ出さないように閉塞され、ヘッダー管80を構成する主管の下流側端部は排出配管70に接続される。これにより、空間Sと排出配管70とは、取水部240の流路240a、配管84およびヘッダー管80内に形成される流路によって連通する。なお、各部位の接続は、配管84等の各種管にねじ溝を設けて締結するようにしてもよいし、ねじ等の別部品を用いて締結するようにしてもよいし、その他の公知の締結手段を採用してもよい。
【0051】
[ろ過ユニット200の動作例]
処理槽30に供給された原水RWは、第1のナノろ過膜220および第2のナノろ過膜230により不純物が除去される。ろ過処理された処理水PWは、膜の供給側から排出側に透過して空間S内に流入する。空間S内に流入した処理水PWは、吸引ポンプ40の駆動により開口部210a,210b,210cから取水部240内に流れ込み、取水部240の流路240aを通過して開口部210dから排出される。開口部210dから排出された処理水PWは、配管84、ヘッダー管80を経由して排出配管70に流れ込んで目的の場所まで搬送される。
【0052】
以上説明したように、第2の実施の形態でも、上述した第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。すなわち、ろ過ユニット200に平膜型の第1のナノろ過膜220等を用いることで、高精度かつ低圧で原水RWのろ過処理を行うことができる。また、従来におけるナノろ過および逆浸透膜装置では必須とされている、原水中の懸濁性の不純物を砂ろ過や膜分離(精密ろ過/限外ろ過)によって除去する前処理の工程を経る必要がなくなる。さらに、高性能な吸引ポンプを用いる必要がなくなる。これにより、高度処理水を得ることができると共に、第1のナノろ過膜220等の供給側でのファウリングを抑制でき、膜洗浄回数を削減することができる。また、吸引ポンプ40等の運転エネルギーのコストならびに水処理システム全体の設備コストを削減できる。そのため、高度な水処理設備が不足する途上国や、自然災害等により既存の水処理施設が機能停止に陥った被災地等において、短時間で低コストに原水RWの浄化および飲料水の供給が可能となる。
【0053】
また、第2の実施の形態によれば、ろ過ユニット200を平膜型で構成するため、膜表面に付着、沈殿した不純物を除去する場合には、ろ過ユニット200を浸漬させた原水から取り出して、洗浄用具により膜表面を物理的に擦ることで簡便に不純物を除去できる。これにより、上述した第1の実施の形態と同様、従来の膜の洗浄工程において行われてきた、逆洗や薬洗等の操作が不要であり、特殊な設備・装置や化学薬品を要することなく、きわめて低コストにろ過膜表面のファウリングの除去が可能である。ひいては、水処理システム全体のランニングコスト削減を図ることができる。
【0054】
<第3の実施の形態>
第3の実施の形態では、ろ過ユニット300を構成する取水部340を枠体310とは別部材で構成する点において上記第1の実施の形態とは相違している。なお、上述した第1の実施の形態に係るろ過膜装置1Aおよびろ過ユニット100と実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号または名称を付することにより重複説明を省略する場合がある。
【0055】
[ろ過ユニット300の構成例]
図8は第3の実施の形態に係るろ過ユニット300を示す斜視図である。
図9は、第3の実施の形態に係るろ過ユニット300を示す分解斜視図である。
【0056】
ろ過ユニット300は、
図8および
図9に示すように、枠体310と、平膜型の第1のナノろ過膜320と、平膜型の第2のナノろ過膜330と、取水部340と、スペーサー350とを備える。第1のナノろ過膜320は、枠体310の第1の面310sに張り付けられる。第2のナノろ過膜330は、枠体310の第2の面310oに張り付けられる。第3の実施の形態に係るろ過ユニット300は、
図1に示したろ過膜装置1Aにおいて、ろ過ユニット100に代えて使用することができる。
【0057】
取水部340は、細長の円筒体で構成され、枠体310の短辺部310Sを幅方向(短辺部310Sに直交する方向)に貫通して取り付けられる。取水部340の一端側(上流側)が空間S内に延在し、取水部340の他端側(下流側)が枠体310の外側に延在する。取水部340の空間S内に延在する部位の周面には、空間S内に流入した処理水PWを取水部340に流すための複数の側面開口部340aが形成される。複数の側面開口部340aは、規則的またはランダムに配置することができる。取水部340の枠体310の外側に延在する部位の端面340eには、取水部340内に流入した処理水PWを外部である排出配管70に送るための出口開口部340bが形成される。出口開口部340bには、上述したヘッダー管80や配管84等を介して排出配管70が接続される。
【0058】
スペーサー350は、例えば枠体310の内径と略同一の大きさを有する網目(メッシュ)状のシートで構成され、枠体310の内側に配置される。スペーサー350の略中央部には、スペーサー350を枠体310の内側に配置したときに、取水部340との接触を避けるための開口部350aが形成される。スペーサー350は、処理水PWの流路を形成すると共に、空間S内が負圧になった場合に第1のナノろ過膜320と第2のナノろ過膜330とが大幅に接近または接触することを防止する。なお、スペーサー350の枠体310への取付方法は、第1の実施の形態で説明したスペーサー150と同様の取付方法を採用できる。また、本実施の形態では、開口部350aを取水部340の外形よりも若干大きい形状で形成したが、スペーサー350が取水部340に接触しない、又は処理水PWの側面開口部340aへの流入を妨げない形状であれば
図8、
図9に示す形状以外を採用してもよい。
【0059】
[ろ過ユニット300の動作例]
処理槽30に供給された原水RWは、第1のナノろ過膜320および第2のナノろ過膜330により不純物が除去される。ろ過処理された処理水PWは、膜の供給側から排出側に透過して空間S内に流入する。空間S内に流入した処理水PWは、吸引ポンプ40(
図1参照)の駆動により、取水部340の側面開口部340aから取水部340内に流入して出口開口部340bから排出される。出口開口部340bから排出された処理水PWは、ヘッダー管80等を経由して排出配管70に流入して目的の場所まで搬送される。
【0060】
以上説明したように、第3の実施の形態でも、上述した第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。すなわち、高精度かつ低圧で原水RWのろ過処理を行うことができる。また、本実施の形態の水処理方法では、従来におけるろ過膜装置では必須とされている、原水中の懸濁性の不純物を砂ろ過や膜分離(精密ろ過/限外ろ過)によって除去する前処理の工程を経る必要がなくなる。さらに、高性能な吸引ポンプを用いる必要がなくなる。これにより、高度処理水を得ることができると共に、第1のナノろ過膜320等の供給側でのファウリングを抑制でき、膜洗浄回数を削減することができる。また、吸引ポンプ40等の運転エネルギーのコストならびに水処理システム全体の設備コストを削減できる。そのため、高度な水処理設備が不足する途上国や、自然災害等により既存の水処理施設が機能停止に陥った被災地等において、短時間で低コストに原水RWの浄化および飲料水の供給が可能となる。
【0061】
また、第3の実施の形態によれば、ろ過ユニット300を平膜型で構成するため、洗浄器具により膜表面を簡便に洗浄できる。そのため、上述した第1の実施の形態と同様、従来の膜の洗浄工程において行われてきた、逆洗や薬洗等の操作が不要であり、特殊な設備・装置や化学薬品を要することなく、きわめて低コストにろ過膜表面のファウリングの除去が可能である。ひいては、水処理システム全体のランニングコスト削減を図ることができる。第3の実施の形態によれば、取水部340を空間Sの内部まで延在させるので、ろ過処理されて空間Sに流入した処理水PWを効率的かつ円滑に取水部340内に取り込むことができる。
【0062】
<第4の実施の形態>
第4の実施の形態では、ろ過膜の一端側を一対の枠体で挟み込んでろ過ユニット400を構成する点において第1の実施の形態に係るろ過ユニット100等とは相違している。なお、上述した第1の実施の形態に係るろ過膜装置1Aおよびろ過ユニット100と実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号または名称を付することにより重複説明を省略する場合がある。
【0063】
[ろ過ユニット400の構成例]
図10は第4の実施の形態に係るろ過ユニット400を示す斜視図であり、
図11はろ過ユニット400を示す分解斜視図である。
図12A及び
図12Bは、第4の実施の形態に係るろ過ユニット400の上枠体460を示す斜視図である。
図13A及び
図13Bは、第4の実施の形態に係るろ過ユニット400の下枠体470を示す斜視図である。
図14Aは、第4の実施の形態に係るろ過ユニット400を示す正面図であり、
図14Bはその側面図である。なお、
図14Bでは、上枠体460を便宜上省略している。
【0064】
ろ過ユニット400は、
図10、
図11等に示すように、複数のろ過膜等で構成される複合体410と、取水部440と、上枠体460と、下枠体470と、を備える。
【0065】
複合体410は、
図11に示すように、平膜型の第1のナノろ過膜420と、第2のナノろ過膜430と、スペーサー450と、を有する。複合体410は、2枚の第1のナノろ過膜420および第2のナノろ過膜430によりスペーサー450を挟み込み、これらろ過膜の周縁部の3辺(
図11の一点鎖線)を熱圧着することで一体的に形成される。複合体410の熱圧着されていない短辺410a側は封筒状に開口しており、その開口部412は2枚の第1のナノろ過膜420及び第2のナノろ過膜430でろ過処理された処理水PWが排出される排出口となっている。本実施の形態では、複合体410の短辺410a側が後述する下枠体470の中段の開口部470aに差し込まれ、複合体410の開口部412と下枠体470の開口部470aとが連通するようになっている。スペーサー450は、処理水PWの流路を形成すると共に、第1のナノろ過膜420と第2のナノろ過膜430との間の空間が負圧になった場合に対向する第1のナノろ過膜420および第2のナノろ過膜430が大幅に接近または接触することを防止する。
【0066】
上枠体460は、
図12Aおよび
図12Bに示すように、細長の略直方体により構成され、下枠体470に嵌合することで複合体410を挟持する。上枠体460の下枠体470と対向する面は、段差部462により2段構成となっている。段差部462は、下段側の第1面462bと、上段側の第2面462aと、を有する。下枠体470と対向する第1面462bには、複合体410の短辺410a側を収容しつつ挟持するための切り欠き部464が形成される。切り欠き部464の深さは複合体410の厚みと略同一であり、切り欠き部464の幅方向は複合体410の短辺410aの長さと略同一である。
【0067】
下枠体470は、
図13Aおよび
図13Bに示すように、細長の略直方体により構成され、上枠体460が嵌合されることで複合体410を挟持する。下枠体470の上枠体460と対向する面は、下段、中段、上段の3段構成となっている。下段及び中段を構成する段差部472は、下段側の第1面472aと、中段側の第2面472bと、第1面472aと第2面472bとを接続して段差を形成する第3面472cと、を有する。第3面472cには、取水部440の入口として機能する開口部470aが形成される。開口部470aは、下枠体470の長手方向に沿って形成され、複合体410の短辺410aと略同一の長さを有する。開口部470aには、複数の仕切り部材470bが所定の間隔をあけて配置される。なお、下枠体470は、中段部と下段部とを別部品で構成し、これらの部品を組み合わせることで開口部470aを形成してもよい。
【0068】
本実施の形態では、
図10および
図11に示すように、下枠体470の開口部470aに複合体410が差し込まれた状態で、上枠体460が下枠体470に接着剤を使用して固定される。具体的には、上枠体460の第2面462aが下枠体470の対向する第2面472bに貼り付けられ、上枠体460の第1面462bが下枠体470の対向する第1面472aに貼り付けられる。複合体410の短辺410a側は、上枠体460と下枠体470とによって挟持されるが、上枠体460に形成された切り欠き部464によって押しつぶされることはない。
【0069】
下枠体470の上段部には、
図13Aおよび
図13B等に示すように、外側に略L字状に突出する突出部474が設けられる。突出部474は、配管84(図参照)等が取り付け可能なように下枠体470部分よりも厚く形成される。突出部474の複合体410とは反対側の端面474aには、取水部440の出口を構成する開口部470cが形成される。また、
図13B等に示すように、下枠体470の中段部であってその長手方向の略中央部には、外側に突出する突設部476が形成される。突設部476は、複数のろ過ユニットを連結させるための部位である。
【0070】
取水部440は、
図14Aおよび
図14Bに示すように、下枠体470および突出部474内に形成された流路440aにより構成される。下枠体470に形成される開口部470aは、取水部440の処理水PWの流れ方向の上流側端部に設けられ、流路440aの入口として機能する。突出部474に形成される開口部470cは、取水部440の処理水PWの流れ方向の下流側端部に設けられ、流路440aの出口として機能する。流路440aは、開口部470aと開口部470cとの間に亘って延在し、複合体410の第1のナノろ過膜420と第2のナノろ過膜430とで囲まれた空間に流入したろ過処理された処理水PWを排出配管70に搬送する。
【0071】
ろ過ユニット400は、
図14Bに示すように、配管84およびヘッダー管80を介して排出配管70に接続される。具体的には、開口部410cには配管84の上流側端部が接続され、配管84の下流側端部がヘッダー管80の周面から突出する枝管に接続される。ヘッダー管80を構成する主管の上流側端部は処理水PWが漏れ出さないように閉塞され、ヘッダー管80を構成する主管の下流側端部は排出配管70に接続される。これにより、複合体410と排出配管70とは、取水部440の流路440a、配管84およびヘッダー管80内に形成される流路によって連通する。
【0072】
[ろ過ユニット400の動作例]
処理槽30に供給された原水RWは、第1のナノろ過膜420および第2のナノろ過膜430の供給側から排出側に透過することで不純物が除去される。ろ過処理された処理水PWは、これらの膜の内側に配置されたスペーサー450を介して複合体410の開口部412から排出され、吸引ポンプ40の駆動により下枠体470の開口部470aから取水部440内に流れ込む。取水部440に流れ込んだ処理水PWは、流路440aを通過して突出部474の開口部470cから排出される。開口部470cから排出された処理水PWは、配管84、ヘッダー管80を経由して排出配管70に流れ込んで目的の場所まで搬送される。
【0073】
以上説明したように、第4の実施の形態でも、上述した第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。すなわち、ろ過ユニット400に平膜型の第1のナノろ過膜420等を用いることで、高精度かつ低圧で原水RWのろ過処理を行うことができる。また、従来におけるナノろ過および逆浸透膜装置では必須とされている、原水中の懸濁性の不純物を砂ろ過や膜分離(精密ろ過/限外ろ過)によって除去する前処理の工程を経る必要がなくなる。さらに、高性能な吸引ポンプを用いる必要がなくなる。これにより、高度処理水を得ることができると共に、第1のナノろ過膜420等の供給側でのファウリングを抑制でき、膜洗浄回数を削減することができる。また、吸引ポンプ40等の運転エネルギーのコストならびに水処理システム全体の設備コストを削減できる。そのため、高度な水処理設備が不足する途上国や、自然災害等により既存の水処理施設が機能停止に陥った被災地等において、短時間で低コストに原水RWの浄化および飲料水の供給が可能となる。
【0074】
また、第4の実施の形態によれば、ろ過ユニット400を平膜型で構成するため、膜表面に付着、沈殿した不純物を除去する場合には、ろ過ユニット400を浸漬させた原水から取り出して、洗浄用具により膜表面を物理的に擦ることで簡便に不純物を除去できる。これにより、上述した第1の実施の形態と同様、従来の膜の洗浄工程において行われてきた、逆洗や薬洗等の操作が不要であり、特殊な設備・装置や化学薬品を要することなく、きわめて低コストにろ過膜表面のファウリングの除去が可能である。ひいては、水処理システム全体のランニングコスト削減を図ることができる。
【0075】
<第5の実施の形態>
第5の実施の形態では、ろ過膜装置1Bにおいて複数個のろ過ユニット100を並列に配置する点においてろ過ユニット100を単体で用いる上記第1の実施の形態とは相違している。なお、上述した第1の実施の形態に係るろ過膜装置1Aおよびろ過ユニット100と実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号または名称を付することにより重複説明を省略する場合がある。
【0076】
[ろ過膜装置1Bの構成例]
図15Aは、第5の実施の形態に係るろ過膜装置1Bの構成例を示す図である。
【0077】
ろ過膜装置1Bは、
図15Aに示すように、供給ポンプ20と、処理槽30と、吸引ポンプ40と、複数個のろ過ユニット100とを備える。水源10と処理槽30との間には、供給配管60が設けられる。処理槽30と処理水の供給場所との間には、排出配管70が設けられる。排出配管70は、各ろ過ユニット100の取水部140のそれぞれに連通している。
【0078】
複数個のろ過ユニット100は、例えば容器90内に収容され、膜平面が互いに平行になるように平面方向に対して直交する方向に並んで配置される。本実施の形態では、8個のろ過ユニット100を配置しているが、これに限定されることはなく、2個以上のろ過ユニット100であればよい。また、ろ過ユニット100に代えて、上述した第2の実施の形態のろ過ユニット200を用いてもよいし、第3の実施の形態のろ過ユニット300を用いてもよいし、これら3つのユニットのうち少なくとも2個以上のろ過ユニットを組み合わせて構成してもよい。
【0079】
図15Bは、第5の実施の形態において、第1の実施の形態に係る複数個のろ過ユニット100をヘッダー管80に取り付けた場合におけるろ過膜装置1Bの構成例を示す図である。なお、
図15Bのろ過膜装置1Bは、
図2等に示したろ過ユニット100を用いたものであるため、
図2等と共通する構成要素については詳細な説明を省略する。
【0080】
図15Bに示すように、複数個のろ過ユニット100は、ヘッダー管80に所定の間隔を空けて串刺し状に取り付けられる。ろ過ユニット100の枠体110の両側面のそれぞれにはOリング82,82が装着され、各ろ過ユニット100がOリング82,82によって挟持された状態でヘッダー管80の所定位置に固定される。ヘッダー管80の周面であって、各ろ過ユニット100が取り付けられる位置には、厚み方向に貫通する側壁孔が形成され、ろ過ユニット100がヘッダー管80に取り付けられると側壁孔とろ過ユニット100の開口部110dとが連通するように構成される。これにより、各ろ過ユニット100内の空間Sと排出配管70とが取水部140の流路140aおよびヘッダー管80内に形成される流路により連通し、ろ過処理された処理水PWを目的の場所まで搬送することができる。
【0081】
図15Cは、第5の実施の形態において、第2の実施の形態に係る複数個のろ過ユニット200をヘッダー管80に取り付けた場合におけるろ過膜装置1Bの構成例を示す図である。なお、
図15Bのろ過膜装置1Bは、
図5A等に示したろ過ユニット200を用いたものであるため、
図5A等と共通する構成要素については詳細な説明を省略する。
【0082】
図15Cに示すように、複数個のろ過ユニット200のそれぞれは、配管84を介してヘッダー管80の周面から突出して設けられる枝管に接続される。ヘッダー管80の上流側端部は閉塞され、ヘッダー管80の下流側端部は排出配管70が接続される。これにより、各ろ過ユニット200内の空間Sと排出配管70とが取水部240の流路240a、配管84およびヘッダー管80内に形成される流路により連通し、ろ過処理された処理水PWを目的の場所まで搬送することができる。
【0083】
以上説明したように、第5の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態の効果に加えて、ろ過ユニット100を複数個並列に配置するので、不純物を確実に除去することができ、高精度のろ過処理を実現できる。
【0084】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。
【0085】
例えば、第1の実施の形態では、取水部140を構成する流路を枠体110および突出部112に亘って設けたが、この流路構成に限定されることはない。例えば、流路を枠体110のみに形成し、枠体110内の流路の出口側に開口部を設けて排出配管70の一端部を接続させるようにしてもよい。また、第2の実施の形態の取水部240についても同様の構成を採用できる。
【0086】
また、第1から第5の実施の形態では、ろ過ユニット100等を構成する第1のナノろ過膜120等の各膜を平面視矩形状の平膜型で構成したが、この形状に限定されることはなく、例えば平面視円形状の膜であってもよい。この場合、枠体110等についても膜の形状に合わせて円形状等に構成することが好ましい。
【0087】
以下に、実施例を示す。
【実施例0088】
(実施例1:ろ過ユニットを用いた水処理方法による処理水の水質分析)
平膜状のナノろ過膜として市販のポリアミド薄膜複合膜であるNF270膜(膜厚0.13mm、孔径1nm程度;DuPont/Filmtec, Midland, MI, USA)を使用した。第1の実施の形態において示した樹脂製の枠体の表面および裏面にNF270膜の小片をそれぞれ1枚ずつ貼り付け、ろ過ユニットを組み立てた。このろ過ユニットにおける有効膜面積は、0.012m2であった。原水RWとして、浄水場に流入するダム水と河川水の混合原水を3L容器に連続的に40mL/minで分注した後、上記のとおり組み立てたろ過ユニットを原水RW中に浸漬した。その後、膜透過流束4Lm-2h-1(処理流量0.8mL/min)にて35日間連続して水処理を行った。貯水槽である3L容器内では、原水RWの曝気も攪拌も行わなかった。
なお、比較例として、同一地点より採取したダム水を原水RWとして、従来の急速砂ろ過システムによるろ過処理を行った。
【0089】
水質分析の指標として、典型的な水質指標である(1)色、(2)波長254nmにおける吸光度(E254)、(3)全有機体炭素(TOC:Total Organic Carbon)、(4)導電率を用いて処理水の水質を評価した。水中のフミン酸濃度の指標であるE254とTOCは、発がん性物質として知られるトリハロメタン類(THMs)の生成との相関が示唆されている。また、これらの溶存有機物は、処理水PWを飲料水として使用するために後処理で添加される塩素(カルキ)と反応し、処理水PW中の塩素を消費してしまう可能性が示唆されている。そのため、塩素による消毒作用が十分に発揮されないおそれがあり、E254とTOCの値が低い方が飲料水に適しているとされている。
【0090】
図16Aは実施例1のろ過ユニットによる処理水PWの水質分析の結果を示している。
図16Bは比較例の高速砂ろ過法による処理水PWの水質分析の結果を示している。水質指標の(1)色については、実施例1と比較例のいずれも90%以上の除去率を示すことが確認された。通常、原水RWの色の原因となる物質は、高速砂ろ過法により水処理でろ過工程の前処理として行われている、薬剤の添加による凝集と塩素添加によって除去することができる。一方、実施例1のろ過ユニットを用いた水処理方法では、前述の前処理が行われていないにも関わらず高速砂ろ過法と遜色ない色の除去率を示すことが確認された。
【0091】
また、
図16Aに示したように、実施例1のろ過ユニットを用いた水処理方法では、水質指標の(2)E
254の除去率が80%~93%であり、(3)TOCの除去率は69%~85%であった。一方、
図16Bに示したように、比較例の高速砂ろ過法による処理水については、(2)E
254の除去率が68~85%であり、(3)TOCの除去率は25~57%であった。以上の結果から、平膜状のナノろ過膜を用いたろ過ユニットによる水処理方法では、従来の急速砂ろ過法よりも処理水中の有機物および溶存イオンの除去率が高いことが確認された。
【0092】
なお、
図16Aに示したように、実施例1のろ過ユニットを用いた水処理方法では、水質指標の(4)導電率の減少率が25%~31%であった。一方、
図16Bに示したように、比較例の高速砂ろ過法による処理水については、(4)導電率の現象率が-7~-1%となり、逆に導電率の上昇が認められた。実施例1のろ過ユニットによる処理水において導電率の低下が比較的低いのは、ナノろ過膜が1価のイオンを通過させるという特性によるものと考えられる。一方、比較例の高速砂ろ過法による処理水の導電率が上昇した原因としては、前処理工程で使用されたポリ塩化アルミニウム凝集剤と次亜塩素酸ナトリウムにより、溶存イオンが増加したことが考えられる。
【0093】
したがって、実施例1のろ過ユニットを用いた水処理方法は、従来の急速砂ろ過法と比較して、原水RW中の不純物を凝集・除去する工程を含まないにも関わらず、1価のイオンを除く水質の浄化性能が従来法よりも高い。そのため、より高精度な原水のろ過処理を行うことができ、しかも低コストで高度処理水を得ることができる。
【0094】
(実施例2:ろ過膜ユニットの膜間圧差の測定試験)
ナノろ過膜として市販の複合ポリアミド膜であるHYDRApro 402(Nitto/Hydranautics; Osaka, Japan)を使用した。HYDRApro 402膜は、集水管の外部に平膜状の分離膜(ナノろ過膜)が巻回されたいわゆるスパイラル型の膜エレメントである。このスパイラル型の膜エレメントから平膜状のナノろ過膜(膜厚0.15mm、孔径1nm程度)を適宜剥離して、膜小片を切り出した。得られた2枚の膜小片を、第1の実施の形態において示した樹脂製の枠体の表面および裏面にそれぞれ張り付けて、有効表面積60cm2のろ過膜ユニットを作成した。
【0095】
上記のとおり組み立てたろ過膜ユニットを、ろ過処理用の貯留槽(以下、ろ過槽と呼称する)である2Lガラスビーカーに注水したRO水中に72時間浸漬し、ナノろ過膜を安定化させた。安定化工程の後、レベルセンサー付き自動注入ポンプ(WLC-SA, AS ONE社,大阪)を使用して、2Lガラスビーカーを用いた原水RWの貯留槽(以下、原水槽と呼称する)から原水RWをろ過槽に送液・供給し、ろ過槽中のRO水を原水RWに置き換えた。原水RWとしては下水二次処理水(下水を活性汚泥処理した水)を使用した。RO水から原水RWへの置換が完了後、吸引ポンプ(MP-2000, 東京理科器械)を用いて膜透過流束3Lm-2h-1(処理流量0.3mL/min)にてろ過膜ユニットに原水RWを通過させ、48日間連続して水処理を行った。また、水処理開始から48日目に、原水RWが満たされたろ過槽よりろ過膜ユニットを引き揚げ、膜表面に発生したファウリングをポ
リウレタン製のスポンジでやさしく擦り落とした後、ろ過膜ユニットをろ過槽内の原水RW中に浸漬し直した。なお、ろ過処理前の原水RWについては、原水槽内にてマグネチックスターラー(RS-1DN, AS ONE, Osaka, Japan)を使用して攪拌しつつ、細菌等の増殖を抑えるためチラー(NCB-500,東京理化学会,東京)を用いて水温4℃を維持した。ろ過処理中の原水RWについては、ろ過槽内にて温度サーキュレーター(Thermax TM-1A,AS ONE,大阪)を用いて水温25℃を維持した。また、ろ過処理により濃縮されたろ過槽の原水RW中における不純物の影響を排除するため、水処理開始から6日目ごとに原水槽中の原水RWの全量を交換した。さらにまた、ろ過処理中は、通常、膜のファウリングを抑制するために行われる曝気や撹拌を行わなかった。膜間圧差については、デジタル圧力計(KDM30,Krone社,東京)を用いて測定した。
【0096】
図17に結果を示す。水処理開始直後には、およそ37kPa~39kPaであった膜間圧差TMPの値が、経時的に上昇することが確認され、水処理開始から48日が経過した時点で、TMPの値は39kPaから42kPaに上昇した。TMPの上昇割合を算出すると1日あたり0.072kPaとなり、このTMPの上昇は主に膜表面のファウリングによるものだと考えられる。また、水処理開始から48日に、膜表面に発生したファウリングをポリウレタン製のスポンジでやさしく擦り落とした結果、TMPの値は36kPaまで低下した。以上の結果より、実施例のろ過膜装置では、従来のろ過膜装置と比較してファウリングを抑制することができ、しかも膜表面に発生したファウリングを化学薬品により洗浄することなく、物理的に擦るだけで簡便に除去できることが確認された。
【0097】
なお、
図17のグラフ中、水処理開始から6日目、12日目、18日目、24日目、30日目、36日目、42日目および48日目に膜間圧差TMPの値が2つプロットされ、かつTMPの値が垂直に降下しているのは、原水槽中の原水RWの全交換が行われたことに起因する。
【0098】
(実施例3:下水一次処理水のろ過時におけるろ過膜ユニットの膜間圧差の測定試験ならびに処理水の水質分析)
ナノろ過膜として、以下の4種類の膜を使用した。
(a)実施例1で使用した市販のポリアミド薄膜複合膜であるNF270
(b)実施例2で使用した市販の複合ポリアミド膜であるHYDRApro 402(以下、HP402と呼称する)
(c)市販の複合ポリアミド膜であるHydranautics(R) Pro-XS2(Nitto/Hydranautics; Osaka, Japan)を使用した。Pro-XS2膜は、実施例2で使用したHP402と同様、集水管の外部に平膜状の分離膜(ナノろ過膜)が巻回されたいわゆるスパイラル型の膜エレメントである。このスパイラル型の膜エレメントから平膜状のナノろ過膜を適宜剥離して、膜小片を切り出して使用した。
(d)市販のポリアミド薄膜複合膜であるFortilifeTM XC-N膜;DuPont/Filmtec, Midland, MI, USA)
上記4種類の平膜状のナノろ過膜を、第2の実施形態において示した樹脂製の枠体の表面および裏面にそれぞれ張り付けて、有効表面積56cm2のろ過膜ユニットを4基作成した。
【0099】
上記のとおり組み立てたろ過膜ユニットを、ろ過処理用の貯留槽(以下、ろ過槽と呼称する)である2Lガラスビーカーに注水したRO水中に72時間浸漬し、ナノろ過膜を安定化させた。安定化工程の後、レベルセンサー付き自動注入ポンプ(WLC-SA, AS ONE社,大阪)を使用して、2Lガラスビーカーを用いた原水RWの貯留槽(以下、原水槽と呼称する)から原水RWをろ過槽に送液・供給し、ろ過槽中のRO水を原水RWに置き換えた。原水RWとしては下水一次処理水(下水中の固形物や油脂などを沈殿または浮上させ、分離除去を行った水)を使用した。すなわち、実施例1ならびに2と比較して、微小な不純物の含有量が多い水を原水RWとして用いた。RO水から原水RWへの置換が完了後、吸引ポンプ(MP-2000, 東京理科器械)を用いて膜透過流束3Lm-2h-1(処理流量0.3mL/min)にてろ過膜ユニットに原水RWを通過させ、8日間連続して水処理を行った。また、水処理開始から4日目および8日目に、原水RWが満たされたろ過槽よりろ過膜ユニットを引き揚げ、膜表面に発生したファウリングをポリウレタン製のスポンジでやさしく擦り落とした後、ろ過膜ユニットをろ過槽内の原水RW中に浸漬し直した。なお、ろ過処理前の原水RWについては、原水槽内にてマグネチックスターラー(RS-1DN, AS ONE, Osaka, Japan)を使用して攪拌しつつ、細菌等の増殖を抑えるためチラー(NCB-500,東京理化学会,東京)を用いて水温4℃を維持した。ろ過処理中の原水RWについては、ろ過槽内にて温度サーキュレーター(Thermax TM-1A,AS ONE,大阪)を用いて水温20℃を維持した。さらにまた、ろ過処理中は、通常、膜のファウリングを抑制するために行われる曝気や撹拌を行わなかった。膜間圧差については、デジタル圧力計(KDM30,Krone社,東京)を用いて測定した。
【0100】
また、水質分析の指標として、典型的な水質指標である(1)色、(2)全有機体炭素(TOC:Total Organic Carbon)、(3)導電率を用いて処理水の水質を評価した。
【0101】
図18に膜間圧差の結果を示す。水処理開始直後には、およそ37kPa~39kPaであった(a)NF270膜の膜間圧差TMPの値が、経時的に上昇することが確認され、水処理開始から4日が経過した時点で、TMPの値は75kPa~89kPaに上昇した。TMPの上昇割合を算出すると1日あたり約10kPaとなり、このTMPの上昇は主に膜表面のファウリングによるものだと考えられる。また、水処理開始から4日目および8日目に、膜表面に発生したファウリングをポリウレタン製のスポンジでやさしく擦り落とした結果、TMPの値は40kPaまで低下した。
【0102】
同様に、水処理開始直後には、およそ40kPa~43kPaであった(b)HP402膜の膜間圧差TMPの値が、経時的に上昇することが確認され、水処理開始から4日が経過した時点で、TMPの値は70kPaから75kPaに上昇した。TMPの上昇割合を算出すると1日あたり約8.9kPaとなった。水処理開始から4日目および8日目に、膜表面に発生したファウリングをポリウレタン製のスポンジでやさしく擦り落とした結果、TMPの値は57kPaまで低下した。
【0103】
(c)Pro-XS2膜では、水処理開始直後には、およそ62kPa~64kPaであった膜間圧差TMPの値が、経時的に上昇することが確認され、水処理開始から4日が経過した時点で、TMPの値は105kPaに上昇した。TMPの上昇割合を算出すると1日あたり約10kPaとなった。また、水処理開始から4日目および8日目に、膜表面に発生したファウリングをポリウレタン製のスポンジでやさしく擦り落とした結果、TMPの値は66kPaまで低下した。
【0104】
(d)XC-N膜では、水処理開始直後には、およそ48kPa~51kPaであった膜間圧差TMPの値が、経時的に上昇することが確認され、水処理開始から4日が経過した時点で、TMPの値は95kPa~100kPaに上昇した。TMPの上昇割合を算出すると1日あたり約8kPaとなった。また、水処理開始から4日目および8日目に、膜表面に発生したファウリングをポリウレタン製のスポンジでやさしく擦り落とした結果、TMPの値は62kPaまで低下した。
【0105】
以上の結果より、実施例のろ過膜装置では、実施例1ならびに2と比較して、微小な不純物の含有量が多い水を原水RWとして用いた場合であっても、従来のろ過膜装置と比較してファウリングを抑制することができることが確認された。しかも膜表面に発生したファウリングを化学薬品により洗浄することなく、物理的に擦るだけで簡便に除去できることが確認された。
【0106】
図19に水質分析の結果を示す。水質指標の(1)色については、NF270膜、HP402膜、Pro-XS2膜ならびにXC-N膜のいずれも90%以上の除去率を示すことが確認された。実施例1と同様に、実施例3のろ過ユニットを用いた水処理方法では、前述の化学薬品のよる前処理が行われていないにも関わらず高速砂ろ過法と遜色ない色の除去率を示すことが確認された。
【0107】
また、
図19に示したように、実施例3のろ過ユニットを用いた水処理方法では、水質指標の(2)TOCの除去率についてもNF270膜、HP402膜、Pro-XS2膜ならびにXC-N膜のいずれも90%以上であった。すなわち、実施例3の平膜状のナノろ過膜を用いたろ過ユニットによる水処理方法では、実施例1と同様に処理水中の有機物および溶存イオンの除去率が高いことが確認された。一方、水質指標の(3)導電率の減少率については、NF270膜、HP402膜ともに22%~25%程度であった。一方、Pro-XS2膜、XC-N膜では、導電率の減少率がともに28%程度であった。実施例3のろ過ユニットによる処理水において導電率の低下が比較的低いのは、ナノろ過膜が1価のイオンを通過させるという特性によるものと考えられる。
【0108】
したがって、実施例3のろ過膜ユニットを用いた水処理方法は、実施例1ならびに2と比較して、微小な不純物の含有量が多い水を原水RWとして用いた場合であっても、原水RW中の不純物を薬剤により凝集・除去する工程を含まないにも関わらず、1価のイオンを除く水質の浄化性能が従来法よりも高い。そのため、より高精度な原水のろ過処理を行うことができ、しかも低コストで高度処理水を得ることができる。
本発明のろ過ユニットによれば、ろ過ユニットに平膜型の第1のナノろ過膜および第2のナノろ過膜を用いることで、浄化対象である原水に対し従来行われてきた前処理の工程を必要とすることなく、高精度かつ低圧で原水のろ過処理を行うことができる。これにより、高度処理水を得ることができると共に、ファウリングを抑制でき、膜洗浄回数を削減できる。
また、本発明の水処理方法によれば、ろ過ユニットに平膜型の第1のナノろ過膜および第2のナノろ過膜を用いることで、浄化対象である原水に対し従来行われてきた前処理の工程を必要とすることなく、高精度かつ低圧で原水のろ過処理を行うことができる。これにより、きわめて低コストで高度処理水を得ることができると共に、ファウリングが発生した場合でも化学薬品を用いることなく、簡便に膜表面を物理的に洗浄できる。そのため、高度な水処理設備が不足する途上国や、自然災害等により既存の水処理施設が機能停止に陥った被災地等において、短時間で低コストに原水RWの浄化および飲料水の供給が可能となる。