(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075974
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】スチームロッキング解消システム
(51)【国際特許分類】
F16T 1/00 20060101AFI20230525BHJP
【FI】
F16T1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189087
(22)【出願日】2021-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】古賀 智行
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡易な構成でありながら、蒸気ロスを生じさせることなくスチームロッキングを確実に解消することができるスチームロッキング解消システムを提供する。
【解決手段】シリンダ本体4の内部には蒸気供給配管12を通じて蒸気が供給され、シリンダ本体4の外周面に接触する対象物を加熱する。対象物の加熱によって蒸気は凝縮し、シリンダ本体4の内部空間にドレン30が滞留する。ドレン30はドレン配管16を通じて排出される。スチームロッキングが生じた場合、スチームトラップ2からドレンが適正に排出されなくなり、スチームトラップ2の下流側のドレン配管16の温度が低下する。この温度低下を温度センサ41を通じてコントローラー25が把握し、冷却バルブ45を開弁して工業用水を流し、コイル部20aでスチームトラップ2の上流側のドレン配管16を冷却する。ドレン配管16の蒸気を凝縮させスチームロッキングを解消させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気から発生した凝縮水が上流から下流に向けて流れる流通路、
前記流通路に設けられており、前記凝縮水を下流に向けて排出する排出弁、
前記排出弁の上流における前記流通路、又は前記排出弁を冷却する冷却手段、
を備えたことを特徴とするスチームロッキング解消システム。
【請求項2】
請求項1に係るスチームロッキング解消システムにおいて、
前記冷却手段は、内部を冷却用流体が流れる冷却路であって、前記排出弁の上流における前記流通路、又は前記排出弁に接触又は近接して配置され、前記排出弁の上流における前記流通路、又は前記排出弁との間で熱交換を行う冷却路である、
ことを特徴とするスチームロッキング解消システム。
【請求項3】
請求項2に係るスチームロッキング解消システムにおいて、
前記冷却路に設けられており、前記冷却用流体の流れを遮断又は開放する開閉動作を行う冷却路開閉弁、
前記排出弁の下流における前記流通路の温度を検出する温度検出手段、
を備えており、
前記冷却路開閉弁は、前記温度検出手段が検出した温度に基づいて前記開閉動作を行う、
ことを特徴とするスチームロッキング解消システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に係るスチームロッキング解消システムは、スチームトラップ等の一部に蒸気のみが介在し、ドレンの流れが阻止されて、適正にドレンを排出することができないスチームロッキングを解消するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
産業プラント等にはボイラーで生成された蒸気を移送する配管系統が設置されていることがあり、蒸気はこの配管系統を通じて各機器に送られ熱源等として使用される。蒸気は移送途中の放熱や各機器における熱交換によって凝縮し、配管系統にはドレン(凝縮水)が発生する。
【0003】
このドレンを配管系統外に排出するため、配管系統にはスチームトラップが設けられている。スチームトラップには種々の構造のものがあるが、フロート式トラップは弁室に中空のフロートを内蔵している。そして、通常時においては、このフロートは弁室の底部付近に形成されたドレン排出口を塞いでいる。これに対して、弁室にドレンが流入してドレンの水位が上がった場合、これ従ってフロートが浮上し、自動的にドレン排出口を開放して開弁する。
【0004】
ドレン排出口が開放され開弁したことによってドレンの弁室の通過が許容され、弁室内に滞留しているドレンは、配管内の高圧の勢いを受けて自動的にドレン排出口から排出される。ドレンの排出後はフロートが下降して復位し、再びドレン排出口を閉塞する。なお、フロートはこのような浮上及び下降を繰り返してドレンを排出するが、ドレン排出口は常時、ドレンに埋没した状態にあるため、通常時においてはスチームトラップから蒸気漏れは生じない。
【0005】
ところで、スチームトラップにおいては、流入する蒸気やドレンの状況等によって、弁室や配管のドレンの中の一部に蒸気が介在し、ドレンの流れが阻止されて、適正にドレンを排出することができないスチームロッキングが発生することがある。
【0006】
このようなスチームロッキングを解消するためのシステムとして、後記特許文献1に開示された技術がある。この特許文献1に開示された加熱シリンダ100は、内部に蒸気が供給されるシリンダ本体10と、シリンダ本体10内の圧力によってドレンを排出するドレンパイプ20を備えている。そして、ドレンパイプ20の下流側にはドレン配管31が接続されており、このドレン配管31にはドレンを自動的に排出するためのスチームトラップ40が設けられている。
【0007】
スチームトラップ40の上流側と下流側のドレン配管31にはバイパス管32が接続されており、このバイパス管32にはバルブ50が取り付けられている。バルブ50は制御部60からの信号に基づいて開閉し、制御部60はシリンダ本体10内のドレンの貯留量に応じてバルブ50を開閉制御する。
【0008】
すなわち、スチームトラップ40にスチームロッキングが生じた場合、ドレンが適正に排出されないため、シリンダ本体10内のドレンの貯留量が増加する。制御部60はこのドレンの貯留量の増加を検知し、バルブ50を開弁する。これによって、ドレンはスチームトラップ40を迂回し、バイパス管32を通じて排出されスチームロッキングが解消する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の特許文献1に開示された技術においては、スチームロッキングを解消させるためにバイパス管32を設置している。このバイパス管32は、ドレン配管31から分岐させて設ける必要があり、この場合、設備コストが増大する。
【0011】
また、スチームロッキングを解消させるためにバイパス管32のバルブ50を開弁するため、ドレンを排出した直後にドレンパイプ20を通じてシリンダ本体10内の蒸気が漏洩した場合、蒸気ロスが生じる虞がある。
【0012】
そこで、本願に係るスチームロッキング解消システムは、簡易な構成でありながら蒸気ロスを生じさせることなくスチームロッキングを確実に解消することができるスチームロッキング解消システムを提供しようとするものである
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願に係るスチームロッキング解消システムは、
蒸気から発生した凝縮水が上流から下流に向けて流れる流通路、
前記流通路に設けられており、前記凝縮水を下流に向けて排出する排出弁、
前記排出弁の上流における前記流通路、又は前記排出弁を冷却する冷却手段、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本願に係るスチームロッキング解消システムにおいては、冷却手段は、排出弁の上流における流通路、又は排出弁を冷却する。このため、排出弁のスチームロッキングによって、蒸気が介在して排出弁から凝縮水が適正に排出されない状態が生じたとしても、冷却手段による冷却によって、排出弁の上流における流通路、又は排出弁に介在している蒸気を凝縮させて凝縮水に液化させることができる。したがって、簡易な構成でありながら、蒸気ロスを生じさせることなくスチームロッキングを確実に解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本願に係るスチームロッキング解消システムの第1の実施形態を示す加熱シリンダ1に関する蒸気使用装置の全体構成のブロック図である。
【
図2】
図1に示す温度センサ41が検出する検出温度の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施形態における用語説明]
実施形態において示す主な用語は、それぞれ本願に係るスチームロッキング解消システムの下記の要素に対応している。
【0017】
スチームトラップ2・・・排出弁
ドレン配管16・・・流通路
冷却配管20・・・冷却手段、冷却路
温度センサ41・・・温度検出手段
冷却バルブ45・・・冷却路開閉弁
ドレン・・・凝縮水
工業用水・・・冷却用流体
【0018】
[第1の実施形態]
本願に係るスチームロッキング解消システムの第1の実施形態を
図1及び
図2に基づいて説明する。本実施形態では、加熱シリンダ1に関する蒸気使用装置に、本願に係るスチームロッキング解消システムを適用した例を掲げる。
【0019】
(加熱シリンダ1に関する蒸気使用装置の全体構成の説明)
まず、
図1に基づいて加熱シリンダ1に関する蒸気使用装置の全体構成を説明する。加熱シリンダ1はシリンダ本体4を備えており、このシリンダ本体4は中心軸L1に沿って延びる中空の円柱形状で構成されている。シリンダ本体4の両端には、中心軸L1方向に延びる軸部4a、4bが設けられ、軸部4a、4bは軸受(図示せず)によって回転自在に支持されている。
【0020】
シリンダ本体4の軸部4a部分には蒸気供給配管12が接続されており、この蒸気供給配管12を通じてシリンダ本体4の内部に蒸気が供給される。すなわち、加熱シリンダ1は蒸気を熱源とするヒーターであり、シリンダ本体4の外周面に接触する紙や洗濯物等の対象物を加熱することができる。対象物の加熱によって蒸気は放熱し、この放熱によってシリンダ本体4内の蒸気は凝縮してドレン30に液化し、シリンダ本体4の内部空間に滞留して貯留される。
【0021】
シリンダ本体4の内部空間にはドレンパイプ14が配置されている。このドレンパイプ14の一端はシリンダ本体4の内部空間の底部近傍に位置しており、他端は軸部4aを貫通してシリンダ本体4の外部に位置している。ドレンパイプ14はサイフォン管であり、シリンダ本体4の蒸気圧力を受けてドレン30をシリンダ本体4の外部に排出する。なおドレンの流れに従い、ドレンパイプ14のシリンダ本体4の内部側が上流であり、シリンダ本体4の外部側が下流である。
【0022】
ドレンパイプ14の下流側にはドレン配管16が接続されている。そして、このドレン配管16にはスチームトラップ2が設けられている。スチームトラップ2は、ドレンを適宜、配管外に排出し、かつ蒸気を極力漏らさないように動作する自働弁である。
【0023】
スチームトラップには種々の構造のものがあるが、本実施形態におけるスチームトラップ2はフロート式トラップである。フロート式トラップは弁室に中空のフロートを内蔵している(図示せず)。そして、通常時においては、このフロートは弁室の底部付近に形成されたドレン排出口を塞いでおり(閉弁状態)、ドレンの弁室の通過を遮断している。これに対して、弁室にドレンが流入してドレンの水位が上がった場合、これ従ってフロートが浮上し、自動的にドレン排出口を開放して開弁する。
【0024】
ドレン排出口が開放されたことによってドレンの弁室の通過が許容され、弁室内に滞留したドレンは、配管内の高圧の勢いを受けて自動的にドレン排出口から排出される。ドレンの排出後はフロートが下降して復位し、再びドレン排出口を閉塞する。なお、このようにフロートは浮上及び下降を繰り返してドレンを排出するが、ドレン排出口は常時、ドレンに埋没した状態にあるため、スチームトラップから蒸気漏れは生じない。本実施形態においてスチームトラップ2が排出したドレンは、ドレン回収管18に流出する。
【0025】
加熱シリンダ1の設置領域には、工業用水を移送する給水配管10が配置されている。給水配管10には、バイパス管としての冷却配管20が設けられている。すなわち、冷却配管20の両端は、給水配管10の上流部と給水配管10の下流部とにそれぞれ接続されており、工業用水は冷却配管20を通じて回流可能である。
【0026】
冷却配管20はコイル部20aを有しており、このコイル部20aはスチームトラップ2の上流のドレン配管16を周回して巻き付けられるように配置されている。コイル部20aの巻径はドレン配管16の外径よりもやや大きく形成されており、コイル部20aはドレン配管16に近接した状態で周回している。ドレン配管16をコイル部20aが周回することによって、効率的な冷却を行うことが可能になる。
【0027】
冷却配管20には冷却バルブ45が設けられている。この冷却バルブ45は例えば電磁バルブであり、コントローラー25からの開弁信号又は閉弁信号に従って弁の開閉動作を行うことができる。なお、通常時においては、冷却バルブ45は閉弁している。また、スチームトラップ2の下流におけるドレン配管16には温度センサ41が設けられており、温度センサ41が検出したドレン配管16の検出温度は、検出信号としてコントローラー25に向けて出力される。
【0028】
(スチームロッキングの解消動作の説明)
スチームトラップにおいては、流入する蒸気やドレンの状況等によっては、スチームトラップの弁室や排出管の一部に再蒸発蒸気が介在することがある。この場合、上流側でドレンが発生しているにもかかわらず、弁室のドレンの水位が上がらないためにフロートが浮上できない閉弁状態が持続され、適正にドレンを排出することができないスチームロッキング現象が発生する。このようなスチームロッキング現象の解消動作を以下に説明する。
【0029】
ドレンは高温高圧の蒸気が凝縮して液化したものであるため、通常、スチームトラップ2から排出されるドレンも高温である。このため、スチームロッキングが発生していない状態では、ドレン配管16の温度は高温に保たれている。しかし、スチームロッキングが発生し、スチームトラップ2から適正にドレンが排出されなくなった場合、時間の経過によってスチームトラップ2の下流のドレン配管16の温度は低下する。
【0030】
図2は、スチームトラップ2の下流のドレン配管16に設けられた温度センサ41が検出する検出温度の経時的変化を曲線xで示すグラフである。曲線xが示すように、スチームロッキングが発生した場合、検出温度は低下し、やがて曲線xは時点P1で低温しきい値T1を下回る。この低温しきい値T1は、予めコントローラー25に記憶されている値であり、スチームロッキングが発生したと判断することができる温度低下のしきい値である。
【0031】
検出温度が低温しきい値T1に至った時点P1で、コントローラー25は冷却バルブ45に開弁信号を与える。これによって冷却バルブ45は開弁動作を行い、冷却配管20に工業用水が流れて、コイル部20aがスチームトラップ2の上流のドレン配管16との間で熱交換を行う。工業用水は比較的低温であるため、熱交換によってドレン配管16は冷却される。
【0032】
このドレン配管16の冷却によって、スチームロッキングを引き起こしていたドレン配管16内又はスチームトラップ2内の蒸気も放熱して凝縮し、液化してドレンに変化する。介在していた蒸気がドレンに変化することによって、スチームロッキングは解消し、ドレン配管16内には正常に高温のドレンが流れ、スチームトラップ2からは高温のドレンの排出が再開される。
【0033】
これによって、スチームトラップ2の下流のドレン配管16の温度は上昇し、
図2の曲線xが示すように時点P2で高温しきい値T2を上回る。この高温しきい値T2は、予めコントローラー25に記憶されている値であり、スチームロッキングが解消したと判断することができる温度上昇のしきい値である。
【0034】
検出温度が高温しきい値T2に達した時点P2で、コントローラー25は冷却バルブ45に閉弁信号を与える。これによって冷却バルブ45は閉弁動作を行い、冷却配管20における工業用水の流れを遮断する。これに従って、コイル部20aによるドレン配管16の冷却も停止される。
【0035】
以上のように、スチームロッキングによって、蒸気が介在してスチームトラップ2からドレンが適正に排出されない状態が生じたとしても、冷却配管20のコイル部20aによる冷却によって、スチームトラップ2の上流におけるドレン配管16やスチームトラップ2に介在している蒸気を凝縮させてドレンに液化させることができる。したがって、簡易な構成でありながら、蒸気ロスを生じさせることなくスチームロッキングを確実に解消することができる。
【0036】
[その他の実施形態]
前述の実施形態においては、排出弁としてフロート式のスチームトラップ2を例示したが、これに限定されるものではなく、凝縮水(ドレン)を排出するものであれば他の構成を備えた弁を用いてもよい。
【0037】
また、前述の実施形態においては、冷却手段及び冷却路として、ドレン配管16を周回するコイル部20aを有する冷却配管20を例示したが、これに限定されるものではなく、流通路(ドレン配管16等)を冷却するものであれば、他の形状、構造のものを採用することができる。たとえば、冷却配管20のコイル部20aがドレン配管16に近接した状態で周回している例を示したが、コイル部20a(冷却路)がドレン配管16(流通路)に接触した状態で周回するように構成してもよい。さらに、コイル状ではなく直線的な配管部分を流通路(ドレン配管16等)に近接又は接触させて配置し、流通路(ドレン配管16等)を冷却することもできる。
【0038】
また、冷却手段及び冷却路として、工業用水の流れによる水冷方式の冷却配管20を例示したが、ファン等で外部空気の流れを接触させてる強制風冷方式によって流通路(ドレン配管16等)を冷却することもできる。
【0039】
さらに、前述の実施形態においては、スチームトラップ2(排出弁)の上流におけるドレン配管16(流通路)を冷却する例を示したが、排出弁(スチームトラップ2等)に冷却手段(冷却配管20等)を近接又は接触させて配置し、排出弁(スチームトラップ2等)を冷却してもよい。
【0040】
また、前述の実施形態においては、冷却路開閉弁として電磁バルブである冷却バルブ45を例示し、温度検出手段として温度センサ41を例示したが、これらに限定されるものではなく、それぞれ他の構成を採用してもよい。
【0041】
また、前述の実施形態においては、スチームロッキングが生じた場合、ドレン配管16の温度低下を検出して、冷却バルブ45を開弁しドレン配管16を冷却する例を示したが、冷却手段及び冷却路(冷却配管20等)に常時、冷却用流体(工業用水等)を流して冷却し、スチームロッキングの発生を防止してもよい。
【0042】
さらに、以上のような各実施形態を組み合わせて本願に係るスチームロッキング解消システムを構成してもよい。
【符号の説明】
【0043】
2:スチームトラップ 16:ドレン配管 20:冷却配管 41:温度センサ
45:冷却バルブ