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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076109
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/24 20060101AFI20230525BHJP
【FI】
B23K11/24 315
B23K11/24 335
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189310
(22)【出願日】2021-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000227836
【氏名又は名称】日本アビオニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】平松 茂
(72)【発明者】
【氏名】橋本 博人
(72)【発明者】
【氏名】関本 隆司
(57)【要約】
【課題】適切な溶接を従来よりも短い時間で実現する。
【解決手段】溶接装置は、被接合物を間に挟んで対向し、被接合物を加圧する電極80a,80bと、溶接電源20と、溶接中の被接合物に係る物理量を検出する検出部10~14,150,151と、溶接電源20から電極80a,80bへ電流を供給させる第1通電による溶接を行い、溶接中に検出される物理量が終了条件を満たした時点で第1通電を停止させて、溶接電源20から電極80a,80bへ電流を再度供給させる第2通電による溶接を行う制御部15とを備える。物理量は、電極80a,80bを流れる溶接電流、電極80a,80b間に印加される溶接電圧、電極80a,80bに供給される溶接電力、溶接電流の二乗と第1通電の開始時からの経過時間との積である電流二乗時間積、被接合物の温度、被接合物の厚さ方向の変位量である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合物を間に挟んで対向し、前記被接合物を加圧するように構成された第1、第2の電極と、
前記第1、第2の電極間に電流を供給する溶接電源と、
溶接中の前記被接合物に係る1乃至複数の物理量を検出するように構成された検出部と、
外部からの指示に応じて前記溶接電源から前記第1、第2の電極間へ電流を供給させる第1通電による溶接を行い、この溶接中に検出される1乃至複数の前記物理量が所定の終了条件を満たした時点で前記第1通電を停止させて、前記溶接電源から前記第1、第2の電極間へ電流を再度供給させる第2通電による溶接を行うように構成された制御部とを備え、
前記物理量は、前記第1、第2の電極間を流れる溶接電流、前記第1、第2の電極間に印加される溶接電圧、前記第1、第2の電極間に供給される溶接電力、前記溶接電流の二乗と前記第1通電の開始時からの経過時間との積である電流二乗時間積、前記被接合物の温度、前記被接合物の厚さ方向の変位量であることを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
請求項1記載の溶接装置において、
前記制御部は、前記第1通電による溶接として、前記第1、第2の電極間に所定の溶接電圧を供給する定電圧制御方式の溶接、または前記第1、第2の電極間に所定の溶接電力を供給する定電力制御方式の溶接、または前記第1、第2の電極間に間欠的に所定の溶接電圧を供給する間欠的定電圧制御方式の溶接、または前記第1、第2の電極間に間欠的に所定の溶接電力を供給する間欠的定電力制御方式の溶接を行うことを特徴とする溶接装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の溶接装置において、
前記制御部は、前記第2通電による溶接として、前記第1、第2の電極間に所定の溶接電流を供給する定電流制御方式の溶接、または前記第1、第2の電極間に間欠的に所定の溶接電流を供給する間欠的定電流制御方式の溶接を行うことを特徴とする溶接装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の溶接装置において、
前記制御部は、前記第2通電による溶接として、前記第1、第2の電極間に所定の溶接電流を供給する定電流制御方式の溶接を行い、この溶接中に検出される1乃至複数の前記物理量が所定の冷却開始条件を満たした時点で溶接電流を予め定められた傾きで下降させることを特徴とする溶接装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の溶接装置において、
前記制御部は、前記第2通電による溶接として、前記第1、第2の電極間に所定の溶接電流を供給する定電流制御方式の溶接を行い、この溶接中に検出される1乃至複数の前記物理量が所定の冷却開始条件を満たした時点で前記第1通電の開始時点から前記第2通電の予想終了時点までの時間が予め定められた目標時間に近づくように溶接電流を下降させるときの傾きを算出して、算出した傾きで溶接電流を下降させることを特徴とする溶接装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の溶接装置において、
前記被接合物は、複数枚の金属箔が積層された積層体からなることを特徴とする溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置に係り、特に複数枚の鉄系金属箔の積層体の接合に適した溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の平板状の正極電極および負極電極をセパレータを介して積層した積層型リチウムイオン電池が使用されるようになってきている。図11(A)は積層型リチウムイオン電池の積層後の状態を示す斜視図、図11(B)は電極のタブとリード端子とを接続した状態を示す斜視図である。
【0003】
積層型リチウムイオン電池においては、図11(A)に示すように金属箔からなる正極電極100と金属箔からなる負極電極101とがセパレータ(不図示)を介して交互に積層されている。各正極電極100には、リード接合用のタブ102が設けられており、これらのタブ102は、図11(B)に示すように積層され、接合部106において外部接続用のリード端子104と接合される。同様に、各負極電極101には、リード接合用のタブ103が設けられ、これらのタブ103は、積層され、接合部107において外部接続用のリード端子105と接合される。
【0004】
従来のリチウムイオン電池で、一般的に集電体(正極電極100、負極電極101)として使用されるアルミニウム箔や銅箔の接合には、超音波接合が多く用いられてきた。
一方、次世代電池開発の中でその優れた耐食性や機械的特性からステンレス鋼を集電体として適用する動きがある。ステンレス鋼をはじめとする鉄系金属は、超音波ホーンやアンビル(受け治具)の摩耗、ワーク凝着の観点から超音波接合は不適であり、抵抗溶接による接合が適当である。
【0005】
抵抗溶接は、図12に示すように、複数枚のタブ102(またはタブ103)とリード端子104(またはリード端子105)とを上下から一対の電極108a,108bで挟み込み押圧しながら、電極108a,108b間に電流を流して、発生するジュール熱でタブ102(またはタブ103)とリード端子104(またはリード端子105)とを昇温させて接合を行う方法である。
【0006】
鉄系金属の抵抗溶接は容易であるものの、鉄系金属箔を多数積層させた場合には抵抗値が増大するため、一般的な通電方法(所定の時間を1ショットで接合する方法)では、スパッタやチリが発生したり、電極に金属箔が付着したりして、安定した接合が得られなかった。
【0007】
そこで、特許文献1に開示された技術では、金属箔の重ね合わせ箇所のうち少なくとも一部に押圧力を作用させながら密着させることで重ね合わせ箇所の少なくとも一部を均平化して電気抵抗値が均平化された部分を形成する予備工程を実施した後に、本工程の抵抗溶接を実施するようにしていた。しかしながら、特許文献1に開示された技術では、予備工程を必要とするために、溶接に時間がかかるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-66017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、複数枚の鉄系金属箔の積層体を溶接する場合でも、適切な溶接を従来よりも短い時間で実現することができる溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の溶接装置は、被接合物を間に挟んで対向し、前記被接合物を加圧するように構成された第1、第2の電極と、前記第1、第2の電極間に電流を供給する溶接電源と、溶接中の前記被接合物に係る1乃至複数の物理量を検出するように構成された検出部と、外部からの指示に応じて前記溶接電源から前記第1、第2の電極間へ電流を供給させる第1通電による溶接を行い、この溶接中に検出される1乃至複数の前記物理量が所定の終了条件を満たした時点で前記第1通電を停止させて、前記溶接電源から前記第1、第2の電極間へ電流を再度供給させる第2通電による溶接を行うように構成された制御部とを備え、前記物理量は、前記第1、第2の電極間を流れる溶接電流、前記第1、第2の電極間に印加される溶接電圧、前記第1、第2の電極間に供給される溶接電力、前記溶接電流の二乗と前記第1通電の開始時からの経過時間との積である電流二乗時間積、前記被接合物の温度、前記被接合物の厚さ方向の変位量であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の溶接装置の1構成例において、前記制御部は、前記第1通電による溶接として、前記第1、第2の電極間に所定の溶接電圧を供給する定電圧制御方式の溶接、または前記第1、第2の電極間に所定の溶接電力を供給する定電力制御方式の溶接、または前記第1、第2の電極間に間欠的に所定の溶接電圧を供給する間欠的定電圧制御方式の溶接、または前記第1、第2の電極間に間欠的に所定の溶接電力を供給する間欠的定電力制御方式の溶接を行うことを特徴とするものである。
また、本発明の溶接装置の1構成例において、前記制御部は、前記第2通電による溶接として、前記第1、第2の電極間に所定の溶接電流を供給する定電流制御方式の溶接、または前記第1、第2の電極間に間欠的に所定の溶接電流を供給する間欠的定電流制御方式の溶接を行うことを特徴とするものである。
また、本発明の溶接装置の1構成例において、前記制御部は、前記第2通電による溶接として、前記第1、第2の電極間に所定の溶接電流を供給する定電流制御方式の溶接を行い、この溶接中に検出される1乃至複数の前記物理量が所定の冷却開始条件を満たした時点で溶接電流を予め定められた傾きで下降させることを特徴とするものである。
また、本発明の溶接装置の1構成例において、前記制御部は、前記第2通電による溶接として、前記第1、第2の電極間に所定の溶接電流を供給する定電流制御方式の溶接を行い、この溶接中に検出される1乃至複数の前記物理量が所定の冷却開始条件を満たした時点で前記第1通電の開始時点から前記第2通電の予想終了時点までの時間が予め定められた目標時間に近づくように溶接電流を下降させるときの傾きを算出して、算出した傾きで溶接電流を下降させることを特徴とするものである。
また、本発明の溶接装置の1構成例において、前記被接合物は、複数枚の金属箔が積層された積層体からなるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スパッタやチリの発生を防止し、また電極への被接合物の付着を防止することができ、複数枚の鉄系金属箔の積層体を溶接する場合でも、安定した接合を実現することができる。また、本発明では、従来の予備工程を必要としないので、溶接に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の第1の実施例に係る溶接装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の第1の実施例に係る溶接ヘッドの拡大断面図である。
図3図3は、溶接中の溶接電流、溶接電圧、溶接電力、電極間抵抗の変化の1例を示す図である。
図4図4は、本発明の第1の実施例に係る溶接装置の動作を示すフローチャートである。
図5図5は、本発明の第1の実施例における第1通電時の溶接電圧の基準波形の1例を示す図である。
図6図6は、本発明の第1の実施例における第2通電時の溶接電流の基準波形の1例を示す図である。
図7図7は、本発明の第1の実施例における第1通電時の溶接電力の基準波形の1例を示す図である。
図8図8は、本発明の第2の実施例における第2通電時の溶接電流の基準波形の1例を示す図である。
図9図9は、本発明の第2の実施例に係る溶接装置の動作を示すフローチャートである。
図10図10は、本発明の第1、第2の実施例に係る溶接装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
図11図11は、積層型リチウムイオン電池の積層後の状態および電極のタブとリード端子とを接続した状態を示す斜視図である。
図12図12は、抵抗溶接における接合部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施例に係る溶接装置の構成を示すブロック図である。本実施例の溶接装置は、スタートスイッチ2と、整流回路3と、コンデンサ4と、インバータ5と、溶接トランス6と、ダイオード7と、溶接ヘッド8と、ホール素子9と、電流検出部10と、電圧検出部11と、温度検出部12と、荷重検出部13と、変位検出部14と、制御部15と、操作部16と、記憶部17と、例えば溶接中に検出された物理量の波形を表示するための表示部18とを有する。
【0015】
スタートスイッチ2と整流回路3とコンデンサ4とインバータ5と溶接トランス6とダイオード7とは、溶接ヘッド8に電流を供給する溶接電源20を構成している。また、ホール素子9と電流検出部10と電圧検出部11と温度検出部12と荷重検出部13と変位検出部14と後述する電力検出部150と電流二乗時間積検出部151とは、溶接中の被接合物に係る物理量を検出する検出部を構成している。
【0016】
図2は溶接ヘッド8の拡大断面図である。溶接ヘッド8は、被接合物85を間に挟んで対向し、被接合物85を加圧するように構成された電極80a,80bを備えている。電極80a,80bは、例えばクロム銅(Cu-Cr)、アルミナ分散銅(Cu-Al23)等の銅合金からなる電極本体81a,81bと、上記の銅合金、またはモリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)のうち少なくとも1つの元素を含む合金からなる先端部82a,82bとから構成される。さらに、溶接ヘッド8は、先端部82a,82bに取り付けられた熱電対83a,83bと、電極80a,80bを上下させて被接合物85を挟み込み加圧する加圧機構84a,84bとを備えている。
【0017】
加圧機構84a,84bには、図示しないロードセルが設けられており、被接合物85に加わる荷重の大きさを電気信号に変換できるようになっている。また、加圧機構84a,84bには、図示しない変位センサが設けられており、被接合物85の厚さ方向の変位量を電気信号に変換できるようになっている。なお、熱電対83a,83bからの電圧に基づいて先端部82a,82bの温度を検出することができるが、熱電対83a,83bの代わりに放射温度計を設けるようにしてもよい。
【0018】
以下、溶接装置の動作を説明する。本実施例では、複数枚のタブ102とリード端子104とを積層した積層体を被接合物85として説明する。タブ102は例えば鉄系金属箔からなる。
最初に、溶接ヘッド8の加圧機構84a,84bは、図2に示すように電極80a,80bによって被接合物85を上下方向(積層体の積層方向に沿った方向)から挟み込み加圧する。なお、図2の例では、加圧機構84a,84bがそれぞれ電極80a,80bに圧力を加えるようになっているが、電極80a,80bのうちどちらか一方のみに圧力を加えるようにしてもよいことは言うまでもない。
【0019】
例えばユーザが操作部16を操作して溶接開始を指示すると、操作部16からスタート信号が出力され、スタートスイッチ2がオンになる。スタートスイッチ2がオンになると、整流回路3は、交流200Vの商用3相交流電源1の交流出力を全波整流し、整流回路3の出力端間に並列接続されたコンデンサ4を充電する。この整流回路3は、6個のダイオード30を用いた3相全波混合ブリッジで構成される。
【0020】
インバータ5は、コンデンサ4の充電電圧を交流電圧に変換して、溶接トランス6の1次側に供給する。インバータ5は、4個のNPNトランジスタ50からなるブリッジで構成される。溶接トランス6の2次側出力は、整流器(ダイオード)7で全波整流されて電極80a,80bに導かれる。これにより、電極80a,80b間に大電流を流し、発生するジュール熱で被接合物85の接合面(金属箔同士の接合面)を昇温させて接合する。
【0021】
電流検出部10は、溶接トランス6の2次側に設けられたホール素子9の出力から、溶接トランス6の2次側を流れる電流I(つまり、電極80a,80bを流れる溶接電流)を検出する。電圧検出部11は、電極80a,80b間に印加される溶接電圧Vを検出する。
【0022】
温度検出部12は、熱電対83a,83bからの電圧に基づいて被接合物85の温度T(先端部82a,82bの温度)を検出する。上記のとおり、熱電対83a,83bの代わりに放射温度計を用いて被接合物85の温度Tを検出するようにしてもよい。荷重検出部13は、加圧機構84a,84bに設けられたロードセルの出力に基づいて、被接合物85に印加される荷重Gを検出する。変位検出部14は、加圧機構84a,84bに設けられた変位センサの出力に基づいて、被接合物85の厚さ方向の変位量Dを検出する。
【0023】
制御部15内に設けられる電力検出部150は、電流検出部10が検出した溶接電流Iの値と電圧検出部11が検出した溶接電圧Vの値とを積算することにより、電極80a,80bに供給される溶接電力Wを検出する。制御部15内に設けられる電流二乗時間積検出部151は、溶接電流Iの二乗と通電開始時からの経過時間tとの積である電流二乗時間積I2tを算出する。
【0024】
図3は溶接中の溶接電流I、溶接電圧V、溶接電力W、電極間抵抗Rの変化の1例を示す図、図4は本実施例の溶接装置の動作を示すフローチャートである。
本実施例では、電極80a,80bへの通電を、第1通電、第2通電の2回行うが、第1通電として定電圧制御方式による通電を行い、第2通電として定電流制御方式による通電を行う。
【0025】
記憶部17には、望ましい溶接条件として電極80a,80bへの望ましい通電の基準波形が第1通電、第2通電毎に記憶されている。本実施例では、第1通電の溶接条件として溶接電圧Vの基準波形が設定され、第2通電の溶接条件として溶接電流Iの基準波形が設定されている。また、記憶部17には、第1通電の終了条件、第2通電の冷却開始条件が記憶されている。
【0026】
まず、制御部15は、インバータ5を動作させて交流電圧を発生させることにより、電極80a,80bに電流を印加する。そして、制御部15は、電圧検出部11によって検出される溶接電圧Vをリアルタイムで監視して、第1通電開始時からの経過時間がtの現時点における溶接電圧Vが、記憶部17に記憶された溶接電圧Vの基準波形上の経過時間tにおける値と一致するように、インバータ5のトランジスタ50のオン/オフを制御して、電極80a,80bへの通電量を制御する。
【0027】
図5は第1通電時の溶接電圧Vの基準波形の1例を示す図である。本実施例の溶接電圧Vの基準波形では、例えば設定電圧Vspと、設定電圧Vspまでの上昇時間t1と、設定電圧Vspまでの波形とが定義されている。こうして、溶接電圧Vの波形が基準波形と一致するように電極80a,80bへの通電量を制御することにより、図3に示すように第1通電によって電極80a,80b間に一定の溶接電圧Vが供給される定電圧制御方式の溶接が行われる(図4ステップS1)。
【0028】
次に、制御部15は、第1通電の終了条件が成立したかどうかを判定する(図4ステップS2)。第1通電の終了条件としては、溶接電流Iの終了条件値、溶接電力Wの終了条件値、電流二乗時間積I2tの終了条件値、被接合物85の温度Tの終了条件値(温度範囲)と継続時間、被接合物85の厚さ方向の変位量Dの終了条件値などがある。
【0029】
制御部15は、電流検出部10によって検出される溶接電流Iが記憶部17に記憶されている第1通電の終了条件値(電流)以上に達したときに、第1通電の終了条件が成立したと判定する。制御部15は、電力検出部150によって算出される溶接電力Wが記憶部17に記憶されている第1通電の終了条件値(電力)以上に達したときに、第1通電の終了条件が成立したと判定してもよい。
【0030】
また、制御部15は、電流二乗時間積検出部151によって算出される電流二乗時間積I2tが記憶部17に記憶されている第1通電の終了条件値(電流二乗時間積)以上に達したときに、第1通電の終了条件が成立したと判定してもよい。また、制御部15は、温度検出部12によって検出される被接合物85の温度Tが記憶部17に記憶されている第1通電の終了条件値(温度)以上に達したときに、第1通電の終了条件が成立したと判定してもよい。また、制御部15は、変位検出部14によって検出される被接合物85の厚さ方向の変位量Dが記憶部17に記憶されている第1通電の終了条件値(変位量)以上に達したときに、第1通電の終了条件が成立したと判定してもよい。
【0031】
制御部15は、第1通電の終了条件が成立したと判定した時点でインバータ5の動作を停止させて、電極80a,80bへの第1通電を終了させる(図4ステップS3)。図3の例では、溶接電流Iが第1通電の終了条件値(電流)まで上昇した時点で、第1通電の終了条件が成立したと判定して第1通電を終了している。
【0032】
なお、上記の例では、1つの終了条件が成立したときに第1通電を終了しているが、1つの終了条件でなく、複数の終了条件が成立したときに第1通電を終了してもよい。
【0033】
次に、制御部15は、インバータ5を再び動作させて交流電圧を発生させることにより、電極80a,80bに電流を印加する。そして、制御部15は、電流検出部10によって検出される溶接電流Iをリアルタイムで監視して、第2通電開始時からの経過時間がtの現時点における溶接電流Iが、記憶部17に記憶された溶接電流Iの基準波形上の経過時間tにおける値と一致するように、インバータ5のトランジスタ50のオン/オフを制御して、電極80a,80bへの通電量を制御する。
【0034】
図6は第2通電時の溶接電流Iの基準波形の1例を示す図である。本実施例の溶接電流Iの基準波形では、例えば設定電流Ispと、設定電流Ispまでの上昇時間t2と、設定電流Ispまでの波形と、冷却開始時点から通電終了までの時間t3と、冷却開始時点から通電終了までの波形とが定義されている。こうして、溶接電流Iの波形が基準波形と一致するように電極80a,80bへの通電量を制御することにより、図3に示すように第2通電によって電極80a,80bに一定の溶接電流Iが供給される定電流制御方式の溶接が行われる(図4ステップS4)。
【0035】
次に、制御部15は、冷却開始条件が成立したかどうかを判定する(図4ステップS5)。冷却開始条件としては、溶接電圧Vの値がある。制御部15は、電圧検出部11によって検出される溶接電圧Vが記憶部17に記憶されている冷却開始条件値(電圧)以下になったときに、冷却開始条件が成立したと判定する。
【0036】
制御部15は、冷却開始条件が成立したと判定した時点で、電流検出部10によって検出される溶接電流Iが、図6に示す冷却開始時点からの基準波形と一致するように電極80a,80bへの通電量を制御することにより、溶接電流Iを下降させる(図4ステップS6)。本実施例では、溶接電流Iを徐々に下降させて被接合物85を徐々に冷却することで良好な溶接品質を実現することができる。電極80a,80bへの通電量が0になった時点で第2通電終了となる(図4ステップS7)。
【0037】
以上のように、本実施例では、被接合物85の抵抗溶接を行う際に、溶接中に検出される物理量をリアルタイムで監視して、物理量が所定の終了条件値に達した時点で電極80a,80bへの第1通電を終了させて第2通電を開始し、接合に必要となる電流を流すことで被接合物85の接合を完成させる。
【0038】
本実施例では、第1通電による定電圧制御方式の溶接によって、金属箔表面に存在する酸化膜を破り、通電経路を確保する。第1通電による通電経路の確保なしに第2通電を行うと、設定した電流値を流すために瞬間的に高電圧がかかり、スパッタ、電極80a,80bへの金属箔の付着、電極80a,80bの先端の摩耗等が発生して安定した接合が困難となる。
【0039】
また、第1通電において被接合物85の表面酸化膜を破るためには設定電圧Vspを比較的高くする必要がある。このとき、制御の切り替えにおける反応の速度が遅いと瞬間的に大電流が流れてしまう可能性がある。そこで、第1通電時の物理量を測定して制御することで、第2通電への速い制御切り替えを実現している。第1通電開始時から終了条件が成立するまでの時間は、金属箔の積層枚数と溶接条件が同じであっても金属箔の表面状態や歪み状態等により毎回同様になるとは限らない。したがって、第1通電時の物理量の測定をせずに、決められた時間で制御切り替えを行うと、ある時は第1通電で通電経路が確保できず、またある時は必要な値を超過する大電流が流れてしまうということが起きる。
【0040】
本実施例によれば、スパッタやチリの発生を防止し、また電極80a,80bへの金属箔の付着を防止することができ、鉄系金属箔積層体の安定した接合を実現することができる。
【0041】
本実施例では、特許文献1に開示された予備工程を必要としない。予備工程には時間がかかるが、本実施例における第1通電、第2通電の時間は合計で例えば100ms程度である。したがって、本実施例によれば、溶接に要する時間を短縮することができる。
【0042】
なお、本実施例では、第1通電時の溶接として定電圧制御方式の溶接を行ったが、定電力制御方式の溶接を行ってもよい。この場合、記憶部17には、第1通電の溶接電力Wの基準波形が予め記憶されている。図7は第1通電時の溶接電力Wの基準波形の1例を示す図である。本実施例の溶接電力Wの基準波形では、例えば設定電力Wspと、設定電力Wspまでの上昇時間t1と、設定電力Wspまでの波形とが定義されている。
【0043】
制御部15は、第1通電開始時からの経過時間がtの現時点における溶接電力Wが、記憶部17に記憶された溶接電力Wの基準波形上の経過時間tにおける値と一致するように、電極80a,80bへの通電量を制御すればよい。定電力制御方式の溶接を行う場合、溶接電力Wの終了条件値を第1通電の終了条件値として採用しないことは言うまでもない。
【0044】
なお、制御部15は、電力検出部150によって算出される溶接電力Wが記憶部17に記憶されている冷却開始条件値(電力)以下になったときに、冷却開始条件が成立したと判定するようにしてもよい。また、制御部15は、温度検出部12によって検出される被接合物85の温度Tが記憶部17に記憶されている冷却開始条件値(温度)以上に達したとき、または温度Tが記憶部17に記憶されている冷却開始条件値(温度)の範囲内である状態が記憶部17に記憶されている継続時間以上続いたときに、冷却開始条件が成立したと判定するようにしてもよい。また、制御部15は、変位検出部14によって検出される被接合物85の厚さ方向の変位量Dが記憶部17に記憶されている冷却開始条件値(変位量)以上に達したときに、冷却開始条件が成立したと判定するようにしてもよい。
以上の例では、1つの冷却開始条件が成立したときに冷却を開始しているが、1つの冷却開始条件でなく、複数の冷却開始条件が成立したときに冷却を開始してもよい。
【0045】
[第2の実施例]
第1の実施例では、第2通電時に冷却開始条件が成立した時点で溶接電流Iを徐々に下降させているが、例えば金属箔の表面状態や歪み状態等によって第1通電の終了条件が成立する時点がばらつくために、溶接に要する時間(第1通電の開始時点から第2通電の終了時点までの時間)のばらつきが大きくなる可能性がある。そこで、図6に示したように予め定められた傾きで溶接電流Iを下降させるのではなく、溶接に要する時間が予め定められた目標時間に近づくように、冷却開始時点からの溶接電流Iの傾きを調整してもよい。
【0046】
本実施例においても、溶接装置および被接合物の構成は第1の実施例と同様であるので、図1図2の符号を用いて説明する。
図8は本実施例の第2通電時の溶接電流Iの基準波形の1例を示す図である。図6との違いは、冷却開始時点から通電終了までの波形が定義されていないことである。
【0047】
図9は本実施例の溶接装置の動作を示すフローチャートである。ステップS1~S5の処理は第1の実施例と同じである。
【0048】
制御部15は、冷却開始条件が成立したと判定した時点で(図9ステップS5においてYES)、設定電流Ispと、第1通電の開始時点から第2通電の冷却開始時点までに要した時間と、予め定められた目標時間とに基づいて、第1通電の開始時点から第2通電の予想終了時点までの時間が目標時間に近づくように、設定電流Ispから0まで溶接電流Iを下降させるときの傾きを算出する(図9ステップS8)。
【0049】
そして、制御部15は、電流検出部10によって検出される溶接電流IがステップS8で算出した傾きで下降するように電極80a,80bへの通電量を制御する(図9ステップS9)。電極80a,80bへの通電量が0になった時点で第2通電終了となる(図9ステップS10)。
こうして、本実施例では、第1通電の開始時点から第2通電の終了時点までの時間を目標時間に近づけることができる。
【0050】
なお、第1通電の開始時点から第2通電の冷却開始時点までに要した時間が目標時間を既に上回っており、溶接電流Iを垂直降下させたとしても第1通電の開始時点から第2通電の予想終了時点までの時間が目標時間を上回る場合には、予め定められた傾き(例えば垂直降下に近い傾き)に設定すればよい。
【0051】
第1、第2の実施例では、複数枚の鉄系金属箔の積層体を被接合物85としているが、これに限るものではなく、ニッケルからなる複数枚の板の積層体を被接合物85としてもよいし、ニッケル合金からなる複数枚の板の積層体を被接合物85としてもよいし、アルミニウムからなる複数枚の板の積層体を被接合物85としてもよいし、アルミニウム合金からなる複数枚の板の積層体を被接合物85としてもよいし、銅若しくは銅合金からなる複数枚の板の積層体を被接合物85としてもよいし、ニッケル若しくはニッケル合金からなる板、アルミニウム若しくはアルミニウム合金からなる板、銅若しくは銅合金からなる板とを複数枚積層した積層体を被接合物85としてもよい。
【0052】
また、第1、第2の実施例では、第1通電時の溶接として、定電圧制御方式の溶接または定電力制御方式の溶接を行う例について説明したが、パルス制御方式の溶接を行うようにしてもよい。すなわち、電極80a,80b間に間欠的に所定の溶接電圧を供給する間欠的定電圧制御方式の溶接を行うようにしてもよいし、電極80a,80b間に間欠的に所定の溶接電力を供給する間欠的定電力制御方式の溶接を行うようにしてもよい。同様に、第1、第2の実施例では、第2通電時の溶接として、定電流制御方式の溶接を行う例について説明したが、間欠的定電流制御方式の溶接を行うようにしてもよい。
【0053】
第1、第2の実施例の制御部15、操作部16、記憶部17および表示部18の機能は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置および外部とのインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図10に示す。
【0054】
コンピュータは、CPU200と、記憶装置201と、インタフェース装置(以下、I/Fと略する)202とを備えている。I/F202には、溶接電源と電流検出部10と電圧検出部11と温度検出部12と荷重検出部13と変位検出部14等が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の方法を実現させるためのプログラムは記憶装置201に格納される。CPU200は、記憶装置201に格納されたプログラムに従って第1、第2の実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、抵抗溶接装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1…3相交流電源、2…スタートスイッチ、3…整流回路、4…コンデンサ、5…インバータ、6…溶接トランス、7…ダイオード、8…溶接ヘッド、9…ホール素子、10…電流検出部、11…電圧検出部、12…温度検出部、13…荷重検出部、14…変位検出部、15…制御部、16…操作部、17…記憶部、18…表示部、20…溶接電源、80a,80b…電極、81a,81b…電極本体、82a,82b…先端部、83a,83b…熱電対、84a,84b…加圧機構、85…被接合物、150…電力検出部、151…電流二乗時間積検出部。
図1
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図12