(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007620
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】ランヤード
(51)【国際特許分類】
A62B 35/04 20060101AFI20230112BHJP
A62B 35/00 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
A62B35/04
A62B35/00 L
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110587
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000149930
【氏名又は名称】株式会社谷沢製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬島 淳
(72)【発明者】
【氏名】根本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】小澤 崚介
(72)【発明者】
【氏名】中沢 雅一
【テーマコード(参考)】
2E184
【Fターム(参考)】
2E184JA03
2E184KA09
2E184LA23
2E184LA32
2E184LB02
(57)【要約】
【課題】装着時に軽量で作業の邪魔になることがないだけでなく、万一作業者が落下しても当該落下が停止されるまでの落下距離が短く、しかも衝撃の吸収緩和を十分に得ることができ、よって高所作業の安全性を一層向上させることができるランヤードを提供する。
【解決手段】ストラップ3と、ストラップ3の一端を安全帯に連結する連結具2と、ストラップ3の他端を固定用構造物に連結するフック4とを備える。ストラップ3は、所定の引張荷重で伸長を開始する半延伸糸を用いて形成された緩衝紐体8と、緩衝紐体8よりも引張強度の高い低伸度糸を用いて形成され、緩衝紐体8よりも長さ寸法が大であって多数箇所を屈曲させた高強度紐体9とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストラップと、前記ストラップの一端に設けられて安全帯に連結する連結具と、前記ストラップの他端に設けられて固定用構造物に掛止するフックとを備えるランヤードにおいて、
前記ストラップは、所定の長さ寸法を有する緩衝紐体と、該緩衝紐体よりも長さ寸法が大であって多数箇所を屈曲させた高強度紐体とを備え、
前記緩衝紐体は、所定の引張荷重で伸長を開始する半延伸糸を用いて形成され、
前記高強度紐体は、前記緩衝紐体よりも引張強度の高い低伸度糸を用いて形成されていることを特徴とするランヤード。
【請求項2】
請求項1記載のランヤードにおいて、
前記ストラップは、弾発的に収縮性を有する材料により形成された弾性紐体を備えることを特徴とするランヤード。
【請求項3】
請求項1又は2記載のランヤードにおいて、
前記ストラップの前記緩衝紐体は、少なくとも最大引張荷重が7.0kNとなるように設定されているとき、伸長開始から標点距離の少なくとも1/2増加伸長するまでの間、平均引張荷重が2.8±0.3kNとなるように設定されていることを特徴とするランヤード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高所作業者の落下を防止すべく安全帯に連結するランヤードに関する。
【背景技術】
【0002】
高所作業に従事する作業者は、高所からの落下を防止するため、安全帯を装着する。安全帯には、固定用構造物(例えば、建物や足場のフレーム等)と繋ぐためのランヤードが設けられる。ランヤードは、長尺のストラップと、当該ストラップを固定用構造物に掛止するフックとを備えている。
【0003】
従来、ランヤードに用いられるストラップとして、所定の引張強度で切断する寸断糸と、高度の伸張特性を有する弾性糸と、第1及び弾性糸よりも高強力特性を有する高強度糸とを縦糸とし、高強度糸の糸足が他の糸より長くなるように織り込むことで、衝撃エネルギを吸収する機能を有するように構成されたものが知られている(下記特許文献1参照)。
【0004】
このものでは、分散して設けられた第1の糸が、順次切断することにより衝撃エネルギーを吸収し、これによって、弾性糸の伸張をコントロールし、高強度糸により安全性を確保するようになっている。
【0005】
これにより、当該ストラップをランヤードに用いた場合、作業者がランヤードから受ける衝撃を吸収緩和することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記構成による従来のストラップの構造によると、衝撃エネルギーを吸収する際に、前記第1の糸の切断が多数回にわたって断続的に行われる。このため、前記第1の糸が順次切断するときの先の切断と次の切断との間の時間は、衝撃が吸収緩和されない時間が断続的に生じることとなる。
【0008】
そして、衝撃が吸収緩和されない時間が多数回生じることにより、衝撃エネルギーを吸収するために比較的長い時間が必要となる。このことにより、万一作業者が落下した場合に、作業者に対する衝撃が吸収緩和されて当該落下が停止されるまでの落下距離が長くなり、作業者にとって負担となる不都合がある。
【0009】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、装着時に軽量で作業の邪魔になることがないだけでなく、万一作業者が落下しても当該落下が停止されるまでの落下距離が短く、しかも衝撃の吸収緩和を十分に得ることができ、よって高所作業の安全性を一層向上させることができるランヤードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するために、本発明は、ストラップと、前記ストラップの一端に設けられて安全帯に連結する連結具と、前記ストラップの他端に設けられて固定用構造物に掛止するフックとを備えるランヤードにおいて、前記ストラップは、所定の長さ寸法を有する緩衝紐体と、該緩衝紐体よりも長さ寸法が大であって多数箇所を屈曲させた高強度紐体とを備え、前記緩衝紐体は、所定の引張荷重で伸長を開始する半延伸糸を用いて形成され、前記高強度紐体は、前記緩衝紐体よりも引張強度の高い低伸度糸を用いて形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明は、ストラップが、半延伸糸を用いて形成された緩衝紐体と、低伸度糸を用いて形成された高強度紐体とを備えて構成されている。これにより、ストラップに所定以上の引張荷重が付与されると、先ず、緩衝紐体が伸長(追延伸)し、緩衝紐体が伸びきると、高強度紐体が過剰な延伸を抑える。
【0012】
このように、作業者が落下してその荷重がランヤードに付与されると、半延伸糸を用いた緩衝紐体の伸長による衝撃エネルギーの吸収が連続的に行われ、衝撃吸収時に無駄な時間を発生させることなく低伸度糸を用いた高強度紐体による落下の停止が行われる。よって、本発明のランヤードによれば、落下する作業者に対する十分な衝撃緩和を行うことができるだけでなく、作業者の落下を早期に停止させて落下距離を短くすることができるので、落下時の作業者の負担を軽減することができる。
【0013】
また、本発明おいて、前記ストラップは、弾発的に収縮性を有する材料により形成された弾性紐体を備えることが好ましい。
【0014】
また、本発明のランヤードの具体的態様として、前記ストラップの前記緩衝紐体は、少なくとも最大引張荷重が7.0kNとなるように設定されているとき、伸長開始から標点距離の少なくとも1/2増加伸長するまでの間、平均引張荷重が2.8±0.3kNとなるように設定されていることが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態によるランヤードの外観を示す平面図。
【
図2】本実施形態におけるストラップの説明的断面図。
【
図3】本実施形態のランヤードの引張荷重と伸長寸法との関係を示すグラフ。
【
図4】
図4Aは本実施形態における緩衝紐体の作用を示すグラフ、
図4Bは比較のため従来の寸断糸を用いた紐体の作用を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態のランヤード1は、第1フック2、ストラップ3、及び、第2フック4を備えている。
【0017】
第1フック2は、図示しないハーネス型安全帯のD環に掛止するためのものであり、ストラップ3の一端に設けられている。ストラップ3の他端には、本発明におけるフックに相当する第2フック4が設けられている。第2フック4は、図示しない固定用構造物(例えば、建物や足場のフレーム等)に掛止する。なお、第1フック2は、本発明における連結具に相当し、第2フック4は、本発明におけるフックに相当する。
【0018】
ストラップ3は、長手方向の両端に環状部5,6を備えている。一方の環状部5には、第1フック2が取り付けられ、他方の環状部6には第2フック4が取り付けられる。ストラップ3の構成について、以下、詳細に説明する。
【0019】
ストラップ3は、
図2に示すように、2つの弾性紐体7と、弾性紐体7間に設けられた緩衝紐体8と、弾性紐体7及び緩衝紐体8を全長にわたって被覆する高強度紐体9とを備えている。更に、
図1に示すように、環状部5,6を夫々被覆する第1被覆部材10,11と、一方の環状部5の基端部分の第1被覆部材10を更に被覆する第2被覆部材12とを備えている。
図2に示すように、弾性紐体7は、例えば、天然ゴム、合成ゴム、シリコーンゴム等の弾性材料を用いて帯状に形成されている。
【0020】
緩衝紐体8は、ポリエステル等による合成繊維の半延伸糸を用いて帯状に形成されている。緩衝紐体8に用いている半延伸糸は、引張荷重を付与すると、限界に到達するまで抵抗をもって伸長する。これによって、緩衝紐体8は、衝撃吸収部材としての機能をランヤード1に付与しており、例えば、ショックアブソーバーのような構造体を設ける必要がない。
【0021】
高強度紐体9は、伸長しない高強度の合成繊維(例えばアラミド等)によりチューブ状に織られ、弾性紐体7及び緩衝紐体8の伸長が所定寸法となるまで許容すべく複数個所で屈曲させた状態で弾性紐体7及び緩衝紐体8を被覆する。高強度紐体9は、弾性紐体7や緩衝紐体8よりも、長さ寸法が大であり、複数個所で屈曲させることによってストラップ3の全長の範囲内に収められている。
【0022】
第1被覆部材10,11は、高強度紐体9と同様に伸長しない高強度の合成繊維(例えばアラミド等)により形成されており、弾性紐体7及び緩衝紐体8による環状部5,6を強固に保護している。
【0023】
第2被覆部材12は、高強度の合成繊維(例えばアラミド等)により高強度紐体9よりも薄手のチューブ状に形成されており、一方の環状部5の基端部分を保護している。
【0024】
以上説明したように、本実施形態のランヤード1は、半延伸糸による緩衝紐体8を備えることにより、作業者の落下によってストラップ3に引張荷重が付与された時、緩衝紐体8によって提供される抵抗をもった伸長により、衝撃の吸収緩和が行われる。
【0025】
これによれば、従来のストラップのように寸断糸を用いた紐体の複数回にわたる切断による断続的な衝撃吸収に比べて、短時間で衝撃の吸収緩和が行われ、作業者の落下が停止する距離を短くすることができるので、安全性が一層向上する。
【0026】
また、半延伸糸による緩衝紐体8によって、ストラップ3の引張荷重を調整することが容易に行えるので、従来の寸断糸を用いた紐体と同等以上の衝撃吸収性能を得ながら、作業者の落下停止距離を短縮させるような設定が容易に行える。
【0027】
緩衝紐体8の性能としては、
図3に示すように、最大引張荷重が8.2175kN(少なくとも7kN)に設定されており、引張荷重(衝撃荷重に相当)が2.7kN(2.8±0.3kN)となったとき伸長を開始し(伸長開始点a)、43.2mmから129.5mmになるまで(間隔b)、平均引張荷重が2.8kN(2.8±0.3kN)で推移する。
【0028】
このものでは、標点距離を150mmとしており、伸長開始から86.3mm増加伸長(標点距離の少なくとも1/2増加伸長)する間の平均引張荷重が2.8kN(2.8±0.3kN)となっている。なお、本実施形態のランヤード1において、ストラップ3全体としては、その強度が25kN程度得られるように設定されている。
【0029】
以上により、作業者の落下停止距離を短かくして十分に衝撃を吸収緩和することができるようになっている。この性能は、緩衝紐体8が半延伸糸を用いて形成されていることによって得ることができたものである。
【0030】
ここで、半延伸糸を用いた本実施形態による緩衝紐体8の作用と、従来の寸断糸を用いた紐体の作用とを比較した試験結果を示す。この試験結果によると、本実施形態による緩衝紐体8は、
図4Aに示すように、衝撃荷重の吸収時間の有効範囲cが約0.27秒であるのに対し、従来の寸断糸を用いた紐体は、
図4Bに示すように、衝撃荷重の吸収時間の有効範囲dが約0.34秒であり、本実施形態による緩衝紐体8による衝撃の吸収緩和が短時間に行われることが明らかである。
【0031】
以上のように、本実施形態のランヤード1によれば、緩衝紐体8が半延伸糸を用いて形成されていることにより、万一作業者が落下しても、衝撃の吸収緩和が短時間に行われて当該落下が停止されるまでの落下距離が短いので、高所作業の安全性を一層向上させることができる。
【符号の説明】
【0032】
1…ランヤード、2…第1フック(連結具)、3…ストラップ、4…第2フック(フック)、7…弾性紐体、8…緩衝紐体、9…高強度紐体。
【手続補正書】
【提出日】2022-12-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
ストラップと、前記ストラップの一端に設けられて安全帯に連結する連結具と、前記ストラップの他端に設けられて固定用構造物に掛止するフックとを備えるランヤードにおいて、
前記ストラップは、所定の長さ寸法を有する緩衝紐体と、該緩衝紐体よりも長さ寸法が大であって多数箇所を屈曲させた蛇腹状の高強度紐体とを備え、
前記緩衝紐体は、所定の引張荷重で伸長を開始する半延伸糸を用いて形成され、
前記高強度紐体は、前記緩衝紐体よりも引張強度の高い低伸度糸を用いて形成され、
前記高強度紐体が蛇腹状であるとき、前記緩衝紐体と前記高強度紐体との間には空隙が設けられることを特徴とするランヤード。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
かかる目的を達成するために、本発明は、ストラップと、前記ストラップの一端に設けられて安全帯に連結する連結具と、前記ストラップの他端に設けられて固定用構造物に掛止するフックとを備えるランヤードにおいて、前記ストラップは、所定の長さ寸法を有する緩衝紐体と、該緩衝紐体よりも長さ寸法が大であって多数箇所を屈曲させた蛇腹状の高強度紐体とを備え、前記緩衝紐体は、所定の引張荷重で伸長を開始する半延伸糸を用いて形成され、前記高強度紐体は、前記緩衝紐体よりも引張強度の高い低伸度糸を用いて形成され、前記高強度紐体が蛇腹状であるとき、前記緩衝紐体と前記高強度紐体との間には空隙が設けられることを特徴とする。