(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076247
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】印章及びそれを用いた施錠機構
(51)【国際特許分類】
B41K 1/02 20060101AFI20230525BHJP
B41K 1/36 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
B41K1/02 C
B41K1/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189559
(22)【出願日】2021-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】519443745
【氏名又は名称】山原 久範
(74)【代理人】
【識別番号】100166589
【弁理士】
【氏名又は名称】植村 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】山原 久範
(57)【要約】
【課題】印章面のデザインの自由度を高めた印章及びそれを用いた施錠機構を提供する。
【解決手段】印影(15)を左右反転させた印章面(10)を有する印章(1)であって、印章面(10)は、印影を形成する印影形成部(11)と、印影形成部(11)よりも凹んだ背景部(12)と、を含み、背景部(12)は、背景部(12)の表層面からなる背景表層面(12a)及び背景表層面(12a)よりも更に凹んだ背景凹部(12b)を有する。施錠機構(40)は、印章面(10)の凹凸を反転させた錠前(44)を備え、錠前(44)に印章面(10)を嵌合させて施錠及び解錠する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印影を左右反転させた印章面を有する印章であって、
前記印章面は、
前記印影を形成する印影形成部と、
前記印影形成部よりも凹んだ背景部と、を含み、
前記背景部は、前記背景部の表層面からなる背景表層面及び前記背景表層面よりも更に凹んだ背景凹部を有する、
ことを特徴とする印章。
【請求項2】
請求項1に記載の印章において、
前記背景表層面及び前記背景凹部は、7セグ数字の格子模様を形成する、
ことを特徴とする印章。
【請求項3】
請求項1に記載の印章において、
前記背景表層面及び前記背景凹部は、文字、数字、図形のうちの少なくとも1つ以上を含む背景模様を形成する、
ことを特徴とする印章。
【請求項4】
施錠機構であって、
印章体と、
前記印章体により施錠及び解錠する錠前と、を備え、
前記印章体は、
印影を左右反転させた印章面を有し、
前記印章面は、
前記印影を形成する印影形成部と、
前記印影形成部よりも凹んだ背景部と、を含み、
前記背景部は、前記背景部の表層面からなる背景表層面及び前記背景表層面よりも更に凹んだ背景凹部を有し、
前記錠前は前記印章面の凹凸を反転させた錠前であり、
前記錠前に前記印章面を嵌合させて施錠及び解錠する、
ことを特徴とする施錠機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印章及びそれを用いた施錠機構に関する。
【背景技術】
【0002】
「印章」とは、木・竹、石、角や象牙、金属、合成樹脂などを素材として、その一面に文字やシンボルを彫刻したものを言い、個人・官職・団体の印として公私の文書に押して特有の痕跡を残すことにより、その責任や権威を証明する事に用いる。印、判、印判、印形、印顆、印信、印章(ハンコ)ともいう。印章を紙などに押した痕跡を「印影」と言う。
【0003】
特許文献1では、印影の偽造防止を目的として「印鑑の外枠または外枠周辺にごく僅かなウェーブを設けることにより、押印時に印影だけでなく、用紙の裏面に印鑑毎に異なる凹凸が生じるため、表層面の印影と裏面の凹凸の両面を照合することで本物の印鑑で捺印されたことが判明できる(要約抜粋)。」とする印鑑が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
印鑑には印影が左右反転した印章面が形成されていることから、従来の印章は、印影を反転させただけの印章面が形成されており、印章面のデザインの自由度に制約があるという課題がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、印章面のデザインの自由度を高めた印章及びそれを用いた施錠機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点における印章は、印影を左右反転させた印章面を有する印章であって、前記印章面は、前記印影を形成する印影形成部と、前記印影形成部よりも凹んだ背景部と、を含み、前記背景部は、前記背景部の表層面からなる背景表層面及び前記背景表層面よりも更に凹んだ背景凹部を有することを特徴とする。
【0008】
更に好適には、前記背景表層面及び前記背景凹部は、7セグ数字の格子模様を形成することを特徴とする。
【0009】
更に好適には、前記背景表層面及び前記背景凹部は、文字、数字、図形のうちの少なくとも1つ以上を含む背景模様を形成することを特徴とする。
【0010】
また本発明の第2の観点における施錠機構は、印章体と、前記印章体により施錠及び解錠する錠前と、を備え、前記印章体は、印影を左右反転させた印章面を有し、前記印章面は、前記印影を形成する印影形成部と、前記印影形成部よりも凹んだ背景部と、を含み、前記背景部は、前記背景部の表層面からなる背景表層面及び前記背景表層面よりも更に凹んだ背景凹部を有し、前記錠前は前記印章面の凹凸を反転させた錠前であり、前記錠前に前記印章面を嵌合させて施錠及び解錠することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、印章面のデザインの自由度を高めた印章及びそれを用いた施錠機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る印章の外観図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る印章の外観図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る印章面を示す模式図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る印章の断面模式図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る印影を示す模式図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る印影面及び印影の模式図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係る施錠機構を用いた金庫の外観図である。
【
図9】本発明の第3の実施形態に係る施錠機構の断面模式図ある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施形態]
図1、
図2は、第1の実施形態に係る印章の外観図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る印章1は、印章面10と印章体20とを有する。
【0015】
印章面10は、円柱状部材からなる印章体20の軸方向の一方の先端面に形成される。
【0016】
印章体20は角柱状部材でもよいし、
図2に示す印章体20aのように、印章面10の保持部21と、保持部21から印章面10とは反対方向に突出する把持部22とを有する形状であってもよい。
【0017】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る印章面10を示す模式図である。
図4は、本発明の第1の実施形態に係る印章1の断面模式図である。
図5は、本発明の第1の実施形態に係る印影15を示す模式図である。
【0018】
印章面10には、印影形成部11と背景部12とを含む。
図3(a)では印影形成部11を黒、背景部12を白で示す。
図3(a)において白く示した部位を浅く掘る。
【0019】
印影形成部11は、印章面10の表層面のうち掘られていない部位である。印章1を押印すると印影形成部11にインクがのり、印影形成部11のみが転写されて印影15(
図5参照)を形成する。
【0020】
背景部12は、印章面10の表層面のうち掘って凹んだ部分である。印章1を押印しても背景部12は転写されず、印影を形成しない。
【0021】
背景部12は、背景部12の表層面からなる背景表層面12aと、背景表層面12aよりも更に凹んだ背景凹部12bを含んだ2層構造により形成される。
【0022】
図3(b)は印影形成部11及び背景表層面12aを黒、背景凹部12bを白で示す。
図3(b)において白く示した部位を深く掘る。
【0023】
図3(c)は彫りあがりイメージを示す。印章面10は、表層面を彫らない部分で形成される印影形成部11と、印影形成部11の周りを彫って印影には反映されない背景部12とを含む。その背景部12は、背景表層面12aと背景凹部12bとが背景模様を形成する。
【0024】
図3(c)の例では、印影形成部11の円環状の外枠内のうち、「佐藤」の左右反転文字の周囲の背景部12に7セグ数字の格子模様を背景部12により形成する。これにより、印章面10を視認した際に、「佐藤」の左右反転文字の視認性が低下し、一見しただけでは印影が把握しにくくなる。特に、「佐藤」のフォントと7セグ数字の格子模様とが似ていることでより印影形成部11の視認性を低下させることができる。
【0025】
図4は、印章面10の彫りの深さを示す。印影形成部11は彫らず、それよりも浅く彫って背景表層面12aを形成し、さらに更に彫って背景凹部12bを形成する。
【0026】
こうしてできた印章面10にインクを載せて紙に転写すると
図5に示す印影15が得られる。印影15には、印影形成部11のみが転写され、背景部12が形成する背景模様は転写されない。
【0027】
本実施形態に係る印章1を従来の印章と比較して説明する。
図6は従来の印章の断面模式図である。
【0028】
従来の印章は、印章面50の表層面に形成される印影形成部11と、印影形成部11の周りを彫った背景表層面12aとの2層構造で形成される。そのため、印章面50を視認すると背景表層面12aから印影形成部11が浮き上がって容易に印影形成部11を識別でき、印影が推定できる。
【0029】
これに対し、本実施形態に係る印章1によれば、印影形成部11の周りに、背景表層面12a及び背景凹部12bから形成される背景模様が配置された階層構造となるので、背景部12には印影に反映されない自由な文字、数字、記号、模様を配置させることができ、印章面10のデザインの自由度が増す。
【0030】
一方、印影形成部11には朱肉のインクがのるが、背景部12にはインクがのらないので紙に押印しても背景模様は転写されることがない。よって、印影15に影響を与えることなく、印影形成部11の視認性を低下させて秘匿性を向上させることができる。また、印影形成部11と背景模様とを同時に視認することとなり、背景模様がない場合に比べて印影15の推定が難しくなる。その結果、印影15の秘匿性を向上させることができる。
【0031】
[第2の実施形態]
図7は、本発明の第2の実施形態に係る印影面及び印影の模式図である。
【0032】
図7(a)に示す印章面10aは、円環状の外枠11a、「高橋」の左右反転文字11b、及び印章面10aの分割線11cからなる印影形成部11と、印影形成部11よりも深く彫られた背景部12とを含む。
【0033】
背景部12は、2本の分割線11cに挟まれた背景表層面12a1と、外枠11aと分割線11cとに囲まれた背景表層面12a2とに分けられる。
【0034】
背景表層面121は、「高橋」の左右反転文字11bの周囲に格子模様が彫られる。この格子模様は背景凹部12b1の一態様である。
【0035】
背景表層面12a2にはメッセージが彫られる。一例として、印章1を贈答品として贈る場合に、送り主が伝えたいメッセージを入れることが可能である。
図7は、結婚する娘や息子に、親がプレゼントする印章1であり、メッセージとして長恨歌の一節で仲が良い夫婦を表す比翼連理の語が背景凹部12b2に彫られた例である。
【0036】
図7(b)の印章面10bを転写すると印影15aが得られる。比翼連理の語は
図7(c)に示す印影15aに反映されないので、左右反転文字で彫る必要はない。
【0037】
第2の実施形態によれば、印章面10を階層構造とすることでデザインの自由度が増し、印影に影響を与えることなく、印章1を使うシーンに合わせたメッセージなどをデザインに取り入れて印章1の記念品としての価値を高めることもできる。
【0038】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、第1、第2の実施形態に係る印章1を用いた施錠機構である。
図8は、本発明の第3の実施形態に係る施錠機構40を用いた金庫2の外観図である。
図9は、本発明の第3の実施形態に係る施錠機構の断面模式図ある。
【0039】
図8に示すように、印章1の側面には位置決め凸部41が形成される。
【0040】
一方、施錠機構40を用いた金庫2は、位置決め凸部41とかみ合う位置決め凹部42を備えた鍵穴43を備える。
【0041】
また鍵穴43の底部には、印章面10の凹凸を反転させた、換言すると印章面10のデザインとネガポジ反転をした錠前44(
図9参照)が備えられている。
【0042】
図9に示すように、鍵穴43に印章1を差し込むと印章面10の凹凸と錠前44とがかみ合う。そして印章1を回すと施錠機構40を解錠、解錠が可能となり、金庫2の蓋3が開閉できる。
【0043】
従来の印章では印章面を印影形成部及び背景部の2層構造で形成していたので、印章を施錠機構の鍵として利用しようとしも印影から錠前が容易に複製でき、印章を鍵として利用することはできなかった。
【0044】
これに対し、本実施形態に係る印章1は背景模様が印影15には写らないので、印章1を押印した印影が他人に亘っても、錠前44の複製を印影15からは行えず、錠前の秘匿性を保つことができる。よって、本実施形態に係る印章1によれば、施錠機構40の鍵として用いることができる。
【0045】
上記各実施形態は、本発明を限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない書く変形例は本発明に含まれる。例えば、上記実施形態では、背景模様を背景表層面12aと背景凹部12bと2層構造、よって、印影形成部11を含めると印章面10を3層構造としたが、背景凹部12bを更に2層以上に形成することで、印影形成部11を含めると印章面10を4層構造以上の多層構造としてもよい。
【0046】
また別例として、メッセージとして押印時の注意喚起のためのメッセージ「その印鑑、本当に押してもいいのか!?」のような文言を入れてもよい。また、パスワードでもよい。
【0047】
また印章面10は円形に限らず、四角形状などどのような形状でもよい。
【0048】
なお、本発明の趣旨は、印章面10を階層構造とすることであり、その結果、印章面10を視認した際に背景部12が印影形成部11の視認性を低減させて秘匿性を増す効果が期待できるが、印章形成部11のマスキング効果は、従来のように印章形成部11と背景部12との2層構造において、背景部12に背景模様を描いたフィルムを貼付しても得られる。
【符号の説明】
【0049】
1 :印章
2 :金庫
3 :蓋
10 :印章面
10a :印章面
10b :印章面
11 :印影形成部
11a :外枠
11b :左右反転文字
11c :分割線
12 :背景部
12a1 :背景表層面
12a2 :背景表層面
12b1 :背景凹部
12b2 :背景凹部
15 :印影
15a :印影
20 :印章体
20a :印章体
21 :保持部
22 :把持部
40 :施錠機構
41 :位置決め凸部
42 :位置決め凹部
43 :鍵穴
44 :錠前
50 :印章面