IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人群馬大学の特許一覧

特開2023-76344子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法、子宮がんモデル非ヒト動物、および被検物質の評価方法
<>
  • 特開-子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法、子宮がんモデル非ヒト動物、および被検物質の評価方法 図1
  • 特開-子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法、子宮がんモデル非ヒト動物、および被検物質の評価方法 図2
  • 特開-子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法、子宮がんモデル非ヒト動物、および被検物質の評価方法 図3
  • 特開-子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法、子宮がんモデル非ヒト動物、および被検物質の評価方法 図4
  • 特開-子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法、子宮がんモデル非ヒト動物、および被検物質の評価方法 図5
  • 特開-子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法、子宮がんモデル非ヒト動物、および被検物質の評価方法 図6
  • 特開-子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法、子宮がんモデル非ヒト動物、および被検物質の評価方法 図7
  • 特開-子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法、子宮がんモデル非ヒト動物、および被検物質の評価方法 図8
  • 特開-子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法、子宮がんモデル非ヒト動物、および被検物質の評価方法 図9
  • 特開-子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法、子宮がんモデル非ヒト動物、および被検物質の評価方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076344
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法、子宮がんモデル非ヒト動物、および被検物質の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230525BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230525BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20230525BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/12 ZNA
A01K67/027
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189718
(22)【出願日】2021-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【弁理士】
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】畑田 出穂
(72)【発明者】
【氏名】小林 良祐
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BA03
4B065CA46
4B065CA60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】野生型のマウスからも作製可能な子宮内膜がんのモデルマウスの製造方法を提供する。
【解決手段】本開示の子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法は、非ヒト動物の子宮上皮細胞において、前記子宮上皮細胞のゲノムDNAと核酸編集モジュールとを接触させて、標的遺伝子に機能喪失変異を導入する変異導入工程を含み、前記標的遺伝子は、PTEN遺伝子および肝臓キナーゼB1(LKB1)遺伝子を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト動物の子宮上皮細胞において、前記子宮上皮細胞のゲノムDNAと核酸編集モジュールとを接触させて、標的遺伝子に機能喪失変異を導入する変異導入工程を含み、
前記標的遺伝子は、PTEN遺伝子および肝臓キナーゼB1(LKB1)遺伝子を含む、子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法。
【請求項2】
前記子宮上皮細胞外から前記子宮上皮細胞内に、前記核酸編集モジュールを導入する導入工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記導入は、エレクトロポレーション法により実施される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記核酸編集モジュールは、第1の核酸編集モジュールと、第2の核酸編集モジュールとを含み、
前記第1の核酸編集モジュールは、前記PTEN遺伝子に機能喪失変異を導入可能であり、
前記第2の核酸編集モジュールは、前記LKB1遺伝子に機能喪失変異を導入可能である、請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記核酸配列編集モジュールは、CRISPR-Casシステムであり、
前記CRISPR-Casシステムは、
前記標的遺伝子の核酸配列に特異的に結合する核酸配列を含むガイド鎖と、
Casタンパク質と、
を含み、
前記ガイド鎖と、前記Casタンパク質とは、複合体を形成している、請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記核酸編集モジュールは、前記核酸編集モジュールをコードする核酸であり、
前記核酸にコードされた前記核酸編集モジュールを発現する発現工程を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記標的遺伝子は、Tp53遺伝子を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記核酸編集モジュールは、第3の核酸編集モジュールを含み、
前記第3の核酸編集モジュールは、前記Tp53遺伝子に機能喪失変異を導入可能である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記子宮上皮細胞は、子宮内膜上皮細胞であり、
前記子宮がんは、子宮内膜がんである、請求項1から8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
子宮上皮細胞のゲノムDNAは、PTEN遺伝子の機能喪失体、LKB1遺伝子の機能喪失体、およびTp53遺伝子の機能喪失体を含む、子宮がんモデル非ヒト動物。
【請求項11】
前記子宮上皮細胞のゲノムDNAは、loxP配列を含まない、請求項10に記載の非ヒト動物。
【請求項12】
前記子宮上皮細胞は、子宮内膜上皮細胞であり、
前記子宮がんは、子宮内膜がんである、請求項10または11に記載の非ヒト動物。
【請求項13】
被検物質を、子宮がんモデル非ヒト動物に投与する投与工程と、
前記子宮がんモデル非ヒト動物における子宮がんを評価する評価工程とを含み、
前記子宮がんモデル非ヒト動物は、請求項1から9のいずれか一項に記載の子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法により得られた子宮がんモデル非ヒト動物、および/または請求項10から12のいずれか一項に記載の子宮がんモデル非ヒト動物である、被検物質の評価方法。
【請求項14】
前記評価工程において、前記子宮がんの発生を抑制する、前記子宮がんを縮小する、および/または、前記子宮がんの増大を抑制する、被検物質を、子宮がんの治療薬候補物質として選抜する選抜工程を含む、請求項13に記載の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法、子宮がんモデル非ヒト動物、および被検物質の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮がんは、子宮頚がんと、子宮体がんから構成される。さらに、子宮体がんは、子宮内膜由来の子宮内膜がんと、その他の部位が悪性化した子宮筋腫などが含まれる。子宮内膜がんは、現在婦人科領域で最も多く、特に、近年は若年層の患者が増えている。このため、子宮内膜がんの治療薬の開発が進められている。
【0003】
子宮がんの治療薬の開発においては、子宮がんモデルマウスが用いられている。前記子宮がんモデルマウスとしては、Creレコンビナーゼ(Cre)-loxP配列を用いたマウスが存在する(非特許文献1)。前記モデルマウスとしては、子宮組織特異的なプロモーター依存的にCre遺伝子を発現するマウスと、子宮がんの原因遺伝子であるPTEN(Phosphatase and Tensin Homolog Deleted from Chromosome 10)遺伝子等をloxPで挟み込んだマウスとを交雑することで、子宮全体で前記子宮がんの原因遺伝子をノックアウトし、製造されたモデルマウスが存在する。しかしながら、前記子宮がんは、上皮組織から発生しており、かつ、子宮内膜がん等の子宮がんにおいて前記原因遺伝子に変異が生じるのは、性成熟後である。前記子宮がんモデルマウスは、実際の疾患を再現できていないという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Takiko Daikoku et.al., “Conditional Loss of Uterine Pten Unfailingly and Rapidly Induces Endometrial Cancer in Mice”, 2008, Cancer Res, vol. 68, No. 14, pages 5619-5627
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他の子宮がんモデルマウスとしては、PTEN遺伝子等をloxP配列で挟み込んだマウスの子宮内にCre遺伝子を発現可能なアデノウイルスベクター(AAV)を注入することにより、前記子宮がんの原因遺伝子をノックアウトすることにより製造されたモデルマウスが存在する。しかしながら、loxP配列により前記子宮がんの原因遺伝子を挟み込んだマウスを事前に準備する必要があり、かつ、通常の子宮がんでは生じない、AAVによる感染の影響があり、実際の疾患を再現できていないという問題がある。また、現存するいずれのモデルにおいても、モデル動物について、事前にゲノムDNAの改変が必要であり、モデル動物の作成が煩雑である。
【0006】
そこで、本開示は、野生型の非ヒト動物からも作製可能な子宮がんのモデル非ヒト動物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本開示の子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法(以下、「製造方法」という。)は、
非ヒト動物の子宮上皮細胞において、前記子宮上皮細胞のゲノムDNAと核酸編集モジュールとを接触させて、標的遺伝子に機能喪失変異を導入する変異導入工程を含み、
前記標的遺伝子は、PTEN遺伝子および肝臓キナーゼB1(LKB1)遺伝子を含む。
【0008】
本開示の子宮がんモデル非ヒト動物(以下、「モデル動物」という。)は、子宮上皮細胞のゲノムDNAは、PTEN遺伝子の機能喪失体、LKB1遺伝子の機能喪失体、およびTp53遺伝子の機能喪失体を含む。
【0009】
本開示の被検物質の評価方法(以下、「評価方法」という。)は、被検物質を、子宮がんモデル非ヒト動物に投与する投与工程と、
前記子宮がんモデル非ヒト動物における子宮がんを評価する評価工程とを含み、
前記子宮がんモデル非ヒト動物は、前記本開示の子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法により得られた子宮がんモデル非ヒト動物、および/または前記本開示の子宮がんモデル非ヒト動物である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、野生型の非ヒト動物からも、子宮がんのモデル非ヒト動物を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1におけるgRNA_Cloning Vector BbsIのベクターマップを示す模式図である。
図2図2は、実施例1におけるpPyCAG-hCas9-IPベクターのベクターマップを示す模式図である。
図3図3は、実施例1におけるエレクトロポレーション法を示す写真である。
図4図4は、実施例1におけるエレクトロポレーションによる、生体内のゲノム編集法の模式図である。
図5図5は、実施例1における子宮を観察した写真である。
図6図6は、実施例1における組織染色による子宮組織の組織写真を示す。
図7図7は、実施例1における標的遺伝子と、子宮角の重量とを示すグラフである。
図8図8は、実施例1におけるT7エンドヌクレアーゼIアッセイの結果を示す写真である。
図9図9は、実施例1における子宮の上皮細胞の蛍光免疫染色の写真を示す。
図10図10は、実施例1における子宮のステロイドホルモン受容体の免疫組織化学染色の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<定義>
本明細書において、「子宮がん」は、子宮において発生するがんを意味する。前記子宮がんは、子宮内の発生部位によって、さらに分類でき、具体的には、前記子宮の子宮内膜にがんが発生した場合、前記子宮がんは、「子宮内膜がん」ということもでき、前記子宮の子宮頚部にがんが発生した場合、前記子宮がんは、「子宮頚がん」ということもできる。
【0013】
本明細書において、「動物」は、ヒトまたは非ヒト動物を意味する。また、本明細書において、「非ヒト動物」は、ヒト以外の動物を意味する。前記非ヒト動物は、例えば、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル、イルカ、アシカ等の哺乳類動物があげられる。
【0014】
本明細書において、「ゲノムDNA」は、真核細胞の細胞核内のゲノムにおけるデオキシリボヌクレオチド(DNA)を意味する。
【0015】
本明細書において、「野生型」は、対象動物のゲノムDNAに、外来性の核酸が導入されていない状態であることを意味する。
【0016】
本明細書において、「核酸」は、デオキシリボヌクレオチド(DNA)、リボヌクレオチド(RNA)、および/または改変ヌクレオチドのポリマーを意味する。前記核酸は、一本鎖核酸でもよいし、二本鎖核酸でもよい。前記核酸は、例えば、「核酸分子」ということもできる。
【0017】
本明細書において、「核酸編集」は、ゲノムDNAにおける核酸配列(塩基配列)を変化させること、またはゲノムDNAにおける核酸配列(塩基配列)の変化が生じうる状態にすることを意味する。前記核酸編集は、前記核酸配列の変化を意味してもよいし、前記ゲノムDNAの一本鎖または切断により、前記核酸配列の変化が生じるうる状態を意味してもよいし、前記ゲノムDNAの塩基の修飾により、前記核酸配列の変化が生じるうる状態を意味してもよい。
【0018】
本明細書において、「核酸編集モジュール」は、前記核酸配列の変化を誘導可能な分子を意味する。
【0019】
本明細書において、「ハイブリダイズ」は、ヌクレオチドの相補性、具体的には、ヌクレオチドにおける塩基の相補性により生じる相補的ポリヌクレオチドとのアニーリングを意味する、すなわち、2つのポリヌクレオチドが水素結合を介して非共有結合的に対を形成可能であることを意味する。
【0020】
本明細書において、「相補性」または「相補的」は、あるポリヌクレオチドと、別のポリヌクレオチドとの間で、ヌクレオチド対、すなわち、塩基対を形成可能であることを意味する。
【0021】
本明細書において、「タンパク質」または「ペプチド」は、未修飾アミノ酸(天然のアミノ酸)、修飾アミノ酸、および/または人工アミノ酸から構成されるポリマーを意味する。
【0022】
本明細書において、「ポリペプチド」は、未修飾アミノ酸(天然のアミノ酸)、修飾アミノ酸、および/または人工アミノ酸から構成されるポリマーを意味する。前記ポリペプチドは、10アミノ酸以上の長さを有するペプチドである。
【0023】
本明細書において、「ドメイン」は、タンパク質、ポリペプチド、および/またはペプチドにおいて、立体構造または機能的にまとまった領域を意味する。
【0024】
本明細書において、「遺伝子」は、所望のタンパク質をコードするRNA(例えば、mRNA)または前記RNAをコードするDNA(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)を意味する。前記DNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。本明細書において、前記遺伝子は、非翻訳領域(UTR)の配列等の付加的な配列を含むものであってもよい。
【0025】
本明細書において、「制御領域」は、ゲノムDNAにおいて遺伝子発現を制御する領域を意味する。
【0026】
本明細書において、「プロモーター」または「プロモーター領域」は、遺伝子またはポリヌクレオチドをコードするDNA領域の上流に存在し、転写因子が結合する、核酸配列(塩基配列)を含む領域であり、前記遺伝子または前記ポリヌクレオチドの転写量を調節する領域を意味する。前記「プロモーター」または「プロモーター領域」は、例えば、「転写調節領域」ということもできる。
【0027】
本明細書において、「機能喪失」は、例えば、当該遺伝子の本来有する機能が(有意に)低下または失われた状態を意味する。すなわち、本明細書において、「機能喪失変異」(loss of function mutation)は、当該遺伝子の本来有する機能が(有意に)減弱する変異、および完全な機能喪失が生じる変異のいずれの意味で用いてもよい。前記「完全な機能喪失が生じる変異」は、例えば、ヌル変異(null mutation)またはアモルフ(amorph)ということもできる。
【0028】
本明細書において、「PTEN(Phosphatase and Tensin Homolog Deleted from Chromosome 10)遺伝子」は、ホスファチジルイノシトール3,4,5-トリリン酸(PI(3,4,5)P3)を主な基質とするフォスファターゼ(脱リン酸化酵素)として知られるタンパク質をコードする遺伝子である。前記PTENは、PIキナーゼ経路を負に制御することが知られている。
【0029】
本明細書において、「肝臓キナーゼB1(LKB1:Liver Kinase B1)遺伝子」は、AMPキナーゼを主な基質とするキナーゼ(リン酸化酵素)として知られているタンパク質をコードする遺伝子である。前記LKB1は、細胞極性およびエネルギー代謝に関与していることが知られている。前記LKB1は、STK11(serine/threonine kinase 11)ともいう。
【0030】
本明細書において、「Tp53(Tumor Protein p53)遺伝子」は、がんにおいて高い頻度で点突然変異や欠失等の異常が生じるがん抑制遺伝子である。
【0031】
本明細書において、「発現ベクター」または「ベクター」は、in vitroまたはin vivoにおいて、宿主細胞に送達される核酸を含む組換えプラスミドまたはウイルスを意味する。
【0032】
本明細書において、「外来性」は、動物を構成する細胞外から細胞内に導入されたことを意味する。
【0033】
本明細書において、「単離」は、同定され、かつ分離された状態、および/または自然状態での成分から回収された状態を意味する。前記「単離」は、例えば、少なくとも1つの精製工程を得ることにより実施できる。
【0034】
本明細書において、「標的部位」または「標的領域」は、ゲノムDNAにおいて、所望の効果を誘導することを目的とする部位または領域を意味する。前記所望の効果は、例えば、前記核酸配列の変異(例えば、欠失、置換、挿入および/または付加)である。
【0035】
本明細書において、「標的化」は、標的領域に結合または集積することを意味する。
【0036】
本明細書において、「陽性」は、抗原抗体反応を利用して検出される免疫組織化学等の解析方法により、前記抗原を発現しない陰性対照細胞または前記抗原と反応しない抗体を用いる陰性対照反応と比較して、高いシグナル等が検出されることを意味する。また、本明細書において、「陰性」は、前記抗原を発現しない陰性対照細胞または前記抗原と反応しない抗体を用いる陰性対照反応と比較して、同等またはそれ以下のシグナル等が検出されることを意味する。
【0037】
以下、本開示について例をあげて説明するが、本開示は以下の例等に限定されるものではなく、任意に変更して実施できる。また、本開示における各説明は、特に言及がない限り、互いに援用可能である。なお、本明細書において、「~」という表現を用いた場合、その前後の数値または物理値を含む意味で用いる。また、本明細書において、「Aおよび/またはB」という表現には、「Aのみ」、「Bのみ」、「AおよびBの双方」が含まれる。
【0038】
<子宮がんのモデル非ヒト動物の製造方法>
ある態様において、本開示は、野生型の非ヒト動物からも作製可能な子宮がんのモデル非ヒト動物の製造方法を提供する。本開示の子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法は、非ヒト動物の子宮上皮細胞において、前記子宮上皮細胞のゲノムDNAと核酸編集モジュールとを接触させて、標的遺伝子に機能喪失変異を導入する変異導入工程を含み、前記標的遺伝子は、PTEN遺伝子および肝臓キナーゼB1(LKB1)遺伝子を含む。本開示によれば、野生型の非ヒト動物からも子宮がんのモデル非ヒト動物を製造できる。本開示の製造方法によれば、子宮上皮細胞に由来する子宮がんの発生可能性を向上でできる。このため、本開示の製造方法は、例えば、非ヒト動物における子宮上皮細胞に由来する子宮がんの発生を向上するための方法ということもできる。
【0039】
本開示者らは、鋭意研究の結果、前記子宮上皮細胞のゲノムDNAを、前記核酸編集モジュールを用いて編集することにより、前記非ヒト動物の子宮上皮細胞由来の子宮がんを誘導できるのではないかとの着想を得た。そして、本発明者らは、前記ゲノムDNAにおける前記標的遺伝子に対して、前記核酸編集モジュールを用いて機能喪失変異を導入することにより、前記子宮上皮細胞由来の子宮がんを誘導できることを見出し、本開示の製造方法を確立するに至った。本開示の製造方法によれば、前記子宮上皮細胞のゲノムDNAにおける標的遺伝子に機能喪失変異を導入するため、子宮がんを誘導する非ヒト動物に対して、事前のゲノムDNAの改変が不要である。このため、本開示の製造方法によれば、野生型の非ヒト動物からも子宮がんのモデル非ヒト動物を製造できる。また、本開示の製造方法は、特に、野生型の非ヒト動物から子宮内膜がんのモデル非ヒト動物の製造に好適に使用できる。
【0040】
前記変異導入工程では、非ヒト動物の子宮上皮細胞において、前記子宮上皮細胞のゲノムDNAと核酸編集モジュールとを接触させて、前記標的遺伝子に機能喪失変異を導入する。すなわち、前記変異導入工程では、前記非ヒト動物の子宮上皮細胞の一部または全部について、前記子宮上皮細胞のゲノムDNAにおける標的遺伝子に機能喪失変異が導入される。具体的には、前記変異導入工程では、例えば、前記子宮上皮細胞内の核酸編集モジュールが、前記子宮上皮細胞の細胞核内に移動し、前記核内のゲノムDNAの標的遺伝子に対して核酸編集を行なうことにより、前記標的遺伝子に対して機能喪失変異が導入される。前記核内への輸送は、例えば、受動的な輸送でもよいし、能動的な輸送でもよい。後者の場合、前記核酸編集モジュールは、核局在化シグナル(核移行シグナル)を含むことが好ましい。前記変異導入工程では、前記核酸編集モジュールは、前記標的遺伝子の1または複数箇所に対して、機能喪失変異を導入する。前記変異導入工程において、導入する変異の数は、例えば、前記機能喪失変異を導入する位置および前記標的遺伝子の機能喪失の程度に応じて決定できる。この結果、前記変異導入工程では、前記標的遺伝子の機能喪失体を有する子宮上皮細胞を含む非ヒト動物が製造できる。
【0041】
前記非ヒト動物は、野生型の非ヒト動物、すなわち、外来性の核酸がゲノムDNAに導入されていない非ヒト動物であってもよい。前記野生型の非ヒト動物は、前記外来性の核酸をゲノムDNAに含まない非ヒト動物ということもできる。前記野生型の非ヒト動物は、全身または一部の細胞のゲノムDNAが、前記外来性の核酸を含まない。前記一部の細胞のゲノムDNAが前記外来性の核酸を含まない場合、前記一部の細胞は、子宮上皮細胞または子宮体部の上皮細胞、すなわち、子宮内膜上皮細胞であることが好ましい。本開示の製造方法によれば、前述のように、野生型の非ヒト動物においても子宮がんを誘導できる。
【0042】
前記外来性の核酸は、例えば、loxP配列、Creリコンビナーゼをコードする配列等があげられる。
【0043】
前記非ヒト動物は、ゲノムDNAに、外来性のloxP配列を含まなくてもよい。前記loxP配列は、バクテリオファージP1に由来する34bpの核酸配列(配列番号1)である。前記loxP配列は、両端に13bpの核酸配列が対称となるCre結合部位の核酸配列と、非対称の中心部の核酸配列とから構成される。前記loxP配列は、前記バクテリオファージP1のバリエーションの配列でもよく、具体例として、lox511配列(配列番号2)、lox2272配列(配列番号3)、loxFas配列(配列番号4)、lox RE配列(配列番号5)、lox LE配列(配列番号6)等があげられる。前記loxP配列は、バクテリオファージP1に由来するCreレコンビナーゼ(Cre)に認識され、組替えが生じる配列である。前記バリエーションの配列は、例えば、下記参考文献2および3を参照できる。
参考文献2:Robert W Siegel et.al., “Using an in vivo phagemid system to identify non-compatible loxP sequences”,2001, FEBS Letters, Volume 505, Issue 3, pages 466-466
参考文献3:Kimi Arak et.al., “Targeted integration of DNA using mutant lox sites in embryonic stem cells”, 1997, Nucleic Acids Research, Volume 25, Issue 4, Pages 868-872
【0044】
loxP配列(配列番号1)
5'-ATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTAT-3'
lox511配列(配列番号2)
5'-ATAACTTCGTATAGtATACATTATACGAAGTTAT-3'
lox2272配列(配列番号3)
5'-ATAACTTCGTATAGgATACtTTATACGAAGTTAT-3'
loxFAS配列(配列番号4)
5'-ATAACTTCGTATAtacctttcTATACGAAGTTAT-3'
lox RE配列(配列番号5)
5'-ATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAcggta-3'
lox LE配列(配列番号6)
5'-taccgTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTAT-3'
【0045】
前記標的遺伝子は、PTEN遺伝子(Pten)およびLKB1遺伝子(Lkb1)である。本開示の製造方法は、前記標的遺伝子として、さらに、Tp53遺伝子(Tp53)を含むことが好ましい。本開示の製造方法は、前記標的遺伝子として、Tp53遺伝子を含むことにより、格段に効率よく、子宮がんモデル非ヒト動物を製造できる。
【0046】
前記PTEN遺伝子、前記LKB1遺伝子、および前記Tp53遺伝子は、常染色体上の遺伝子であり、1対の常染色体の両者に各標的遺伝子が座乗している。このため、前記変異導入工程では、前記1対の常染色体の一方の標的遺伝子に機能喪失変異を導入してもよいし、前記1対の常染色体の両方の標的遺伝子に機能喪失変異を導入してもよく、より効率よく、子宮がんモデル非ヒト動物を製造できることから、後者が好ましい。また、前記変異導入工程では、前記複数の標的遺伝子のうち、いずれか1、2、または3つの標的遺伝子は、前記1対の常染色体の一方の標的遺伝子に機能喪失変異が導入され、残部の標的遺伝子は、前記1対の常染色体の両方の標的遺伝子に機能喪失変異が導入されてもよい。
【0047】
前記非ヒト動物は、前記標的遺伝子であるPTEN遺伝子およびLKB1遺伝子として、それぞれ、正常なPTEN遺伝子および正常なLKB1遺伝子を有することが好ましい。また、前記標的遺伝子として、前記Tp53遺伝子を含む場合、前記非ヒト動物は、前記標的遺伝子であるPTEN遺伝子、LKB1遺伝子、およびTp53遺伝子として、それぞれ、正常なPTEN遺伝子、正常なLKB1遺伝子、および正常なTp53遺伝子を有することが好ましい。各標的遺伝子の正常な標的遺伝子は、例えば、データベースに登録されている核酸配列を参照できる。また、各種動物(特に、哺乳動物)において、各標的遺伝子の正常な標的遺伝子は、ある動物の正常な標的遺伝子の核酸配列に基づき、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。具体例として、目的の動物における対応する標的遺伝子は、対応する標的遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、PTEN遺伝子、LKB1遺伝子、およびTp53遺伝子等)の核酸配列をクエリ配列として用い、目的の動物の核酸配列を含むデータベースを検索することによって見出すことができる。下記表1に、マウスの正常PTEN遺伝子(Pten)、マウスの正常LKB1遺伝子(Lkb1)、およびマウスの正常Tp53遺伝子(Tp53)のゲノムの核酸配列(遺伝子(Genome))、cDNAの核酸配列(遺伝子(cDNA))、およびタンパク質のアミノ酸配列のアクセッション番号について、例示する。
【0048】
【表1】
【0049】
前記マウスの正常PTEN遺伝子は、例えば、下記配列番号7の核酸配列からなるポリヌクレオチドがあげられる。また、前記正常PTEN遺伝子がコードするタンパク質は、例えば、下記配列番号8のアミノ酸配列からなるポリペプチドがあげられる。マウスの正常PTEN遺伝子は、前記配列番号8のPTENタンパク質の機能的等価物をコードする遺伝子でもよい。
【0050】
正常PTEN遺伝子の核酸配列(配列番号7、Accession No. 86355519(NM_008960))
5'-GCGGCAGGATACGCGCTTGGGCGTCGGGACGCGGCTGCGCTCAGCTCTCTCCTCTCGGAAGCTGCAGCCATGATGGAAGTTTGAGAGTTGAGCCGCTGTGAGGCCAGGCCCGGCGCAGGCGAGGGAGATGAGAGACGGCGGCGGCCACGGCCCAGAGCCCCTCTCAGCGCCTGTGAGCAGCCGCGGGGGCAGCGCCCTCGGGGAGCCGGCCGGGCGGCGGCGGCGGCAGCGGCGGCGGGCCTCGCCTCCTCGTCGTCTGTTCTAACCGGGCAGCTTCTGAGCAGCTTCGGAGAGAGACGGTGGAAGAAGCCGTGGGCTCGAGCGGGAGCCGGCGCAGGCTCGGCGGCTGCACCTCCCGCTCCTGGAGCGGGGGGGAGAAGCGGCGGCGGCGGCCGCGGCTCCGGGGAGGGGGTCGGAGTCGCCTGTCACCATTGCCAGGGCTGGGAACGCCGGAGAGTTGCTCTCTCCCCTTCTCCTGCCTCCAACACGGCGGCGGCGGCGGCGGCACGTCCAGGGACCCGGGCCGGTGTTAAGCCTCCCGTCCGCCGCCGCCGCACCCCCCCTGGCCCGGGCTCCGGAGGCCGCCGGAGGAGGCAGCCGCTGCGAGGATTATCCGTCTTCTCCCCATTCCGCTGCCTCGGCTGCCAGGCCTCTGGCTGCTGAGGAGAAGCAGGCCCAGTCTCTGCAACCATCCAGCAGCCGCCGCAGCAGCCATTACCCGGCTGCGGTCCAGGGCCAAGCGGCAGCAGAGCGAGGGGCATCAGCGACCGCCAAGTCCAGAGCCATTTCCATCCTGCAGAAGAAGCCTCGCCACCAGCAGCTTCTGCCATCTCTCTCCTCCTTTTTCTTCAGCCACAGGCTCCCAGACATGACAGCCATCATCAAAGAGATCGTTAGCAGAAACAAAAGGAGATATCAAGAGGATGGATTCGACTTAGACTTGACCTATATTTATCCAAATATTATTGCTATGGGATTTCCTGCAGAAAGACTTGAAGGTGTATACAGGAACAATATTGATGATGTAGTAAGGTTTTTGGATTCAAAGCATAAAAACCATTACAAGATATACAATCTATGTGCTGAGAGACATTATGACACCGCCAAATTTAACTGCAGAGTTGCACAGTATCCTTTTGAAGACCATAACCCACCACAGCTAGAACTTATCAAACCCTTCTGTGAAGATCTTGACCAATGGCTAAGTGAAGATGACAATCATGTTGCAGCAATTCACTGTAAAGCTGGAAAGGGACGGACTGGTGTAATGATTTGTGCATATTTATTGCATCGGGGCAAATTTTTAAAGGCACAAGAGGCCCTAGATTTTTATGGGGAAGTAAGGACCAGAGACAAAAAGGGAGTCACAATTCCCAGTCAGAGGCGCTATGTATATTATTATAGCTACCTGCTAAAAAATCACCTGGATTACAGACCCGTGGCACTGCTGTTTCACAAGATGATGTTTGAAACTATTCCAATGTTCAGTGGCGGAACTTGCAATCCTCAGTTTGTGGTCTGCCAGCTAAAGGTGAAGATATATTCCTCCAATTCAGGACCCACGCGGCGGGAGGACAAGTTCATGTACTTTGAGTTCCCTCAGCCATTGCCTGTGTGTGGTGATATCAAAGTAGAGTTCTTCCACAAACAGAACAAGATGCTCAAAAAGGACAAAATGTTTCACTTTTGGGTAAATACGTTCTTCATACCAGGACCAGAGGAAACCTCAGAAAAAGTGGAAAATGGAAGTCTTTGTGATCAGGAAATCGATAGCATTTGCAGTATAGAGCGTGCAGATAATGACAAGGAGTATCTTGTACTCACCCTAACAAAAAACGATCTTGACAAAGCAAACAAAGACAAGGCCAACCGATACTTCTCTCCAAATTTTAAGGTGAAACTATACTTTACAAAAACAGTAGAGGAGCCATCAAATCCAGAGGCTAGCAGTTCAACTTCTGTGACTCCAGATGTTAGTGACAATGAACCTGATCATTATAGATATTCTGACACCACTGACTCTGATCCAGAGAATGAACCTTTTGATGAAGATCAGCATTCACAAATTACAAAAGTCTGATTTTTTTTTTCTTATCAAGAGGGATAAAATACCATGAAAAAAAAAAAACTTGAATAAACTGAAATGGACCTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTAAATGGCAATAGGACATTGTGTCAGATTGCAGTTATAGGAACAATTCTCTTCTCCTGACCAATCTTGTTTTACCCTATACATCCACAGGGTTTTGACACTTGTTGTCCAGTTAAAAAAAGGTTGTGTAGCTGTGTCATGTATATACCTTTTTGTGTCAAAAGGACATTTAAAATTCAATTAGGATAAATAAAAGATGGCACTTTCCCATTTTATTCCAGTTTTATAAAAAGTGGAGACAGGCTGATGTGTATACGCAGGAGTTTTTCCTTTATTTTCTGTCACCAGCTGAAGTGGCTGAAGAGCTCTGATTCCCGGGTTCACGTCCTACCCCTTTGCACTTGTGGCAACAGATAAGTTTGCAGTTGGCTAAGGAAGTTTCTGCAGGGTTTTGTTAGATTCTAATGCATGCACTTGGGTTGGGAATGGAGGGAATGCTCAGAAAGGAATGTTTCTACCTGGGCTCTGGACCATACACCATCTCCAGCTCCTTAGATGCACCTTTCTTTAGCATGCTCCACTTACTAATCTGGACATCCGAGAGATTGGCTGCTGTCCTGCTGTTTGTTTGTGCATTTTAAAGAGCATATTGGTGCTAGACAAGGCAGCTAGAGTGAGTATATTTGTAGTGGGGTACAGGAATGAACCATCTACAGCATCTTAAGAATCCACAAAGGAAGGGATATAAAAAAAGTGGTCATAGATAGATAAAAGACACAGCAGCAATGACTTAACCATACAAATGTGGAGGCTTTCAACAAAGGATGGGCTGGAAACAGAAAATTTGACAATGATTTATTCAGTATGCTTTCTCAGTTGTAATGACTGCTCCATCTCCTATGTAATCAAGGCCAGTGCTAAGAGTCAGATGCTATTAGTCCCTACATCAGTCAACACCTTACCTTTATTTTTATTAATTTTCAATCATATACCTACTGTGGATGCTTCATGTGCTGGCTGCCAGTTTGTTTTTCTCCTTAAATATTTTATAATTCTTCACAGGAAATTTCAACTTGAGATTCAACAGTAAGCAGGTTTTGTTTTTTTTTTTTCCTAGAGATTGATGATGCGCGTCCTCAGTCCAGTGGCTGTCAGACGTTCAGCCCCTTTGACCTTACACATTCTATTACAATGAGTTTTGCAGTTTTGCACATTTTTTTTAAATGTCATTAACTGTTAGGGAATTTTACTTGAATACTGAATACATATAATGTGTATATTAAAAAAGTCATTGTTTGTGTTAAAAAAGAAATTAGAGTTGCAGTAAATTTACAGCACTGCACGAATAATAAGGCATTGAAGTTTTTCAGTAGAAATTGTCCTACAGATGCTTTATCGACTTGCTATTGGAAGAATAGATCTTCTTAAATGTGCAGTGTTGAGTCACTTCGTTATAGTGGTAGAGTTGGGATTAGGGCTTCAATTTTACTTCTTAAATATCATTCTATGTTTGATATGCCCAGACTGCATACAATTTAAAGCAAGAGTACAACTACTATCGTAATGGTAATGTGAAGATGCTATTACAAAGGATCTCCTCCCAACCCCTCGGGAATTTGGTGTCTTTCAAATTATATCTTGACCTTGACATTTGAATATCCAGCCATTATTAGATTTCTTAATGGTGTGAAGTCCCATTTTCAATAACTTATTGGTGCTGAAATTGTTCACTAGCTGTGGTCTGACCTAGTTAATTTACAAGTACAGATTGCATAGGACCCACTAGAGAAGCATTTATAGTTTGATGGTAAGTAGATTAGGCAGAACGCCATCTAAAATATTCTTAGAAAATAATGTTGATGTATTTTCCATACCTCATCAGTTTCACTCAACCAATAAAGTTTTTAAAATTGTAACAAAGCTCTTAGGATTTACACATTTATATTTAAACATTGATACATGAATATTGACTGACTGTTGATAAAGTCAGAGACAACTTTTCCTGAGATCTCACCATGGAAATCTGTACACCCCCTTGTCTTTCCTAAAAGCTGAAAGTGGCTGACTAAAATGCAAAGCAGCTGTTGATGTTTTGAAGATAGTGATAAACACTGTTCTTTGTTAGTTTTGGGCACAGCATGCTAAACTATAACTTGTATTGTTCCAATATGTAACACAGAGGGCCAGGTCATGAATAATGACATTACAATGGGCTGTTGCACTGTTAATATTTTTCCTTTGGAATGTGAAGGTCTGAATGAGGGTTTTGATTTTGAATGTTTCAGTGTTTTTGAGAAGCCTTGCTTACATTTTATGGTGTAGTCATTGGAAATGGAAAAATGGCATTATATATATATTATATATATATAAATATATATATTATACATACTCTCCTTACTTTATTTCAGTTACCATCCCCATAGAATTTGACAAGAATTGCTATGACTGAAAGGGTTTTGAGTCCTAATTCAAACTTTCTTTATGACAGTATTCACGATTAGCCTGAAGTGCATTCTGTAGGTGATCTCTCCCGTGTTTCTGGAATGCTTTCTTAGACTCTTGGATGTGCAGCAGCTTATGTGTCTGAAATGACTTGAAGGCATCACCTTTAAGAAGGCTTACAGTTGGGCCCCGTACATCCCAAGTCCTCTGTAATTCCTCTTGGACATTTTTGCCATAATTGTAAAAGGGTAGTTGAATTAAATAGCGTCACCATTCTTTGCTGTGGCACAGGTTATAAACTTAAGTGGAGTTTACCGGCAGCATCAAATGTTTCAGCTTTAAAAATAAAAGTAGGTTACAAGTTACATGTTTAGTTTTAGAAAATTTGTGCAATATGTTCATAACGATGGCTGTGGTTGCCACAAAGTGCCTCGTTTACCTTTAAATACTGTTAATGTGTCGTGCATGCAGACGGAAGGGGTGGATCTGTGCACTAAACGGGGGGCTTTTACTCTAGTATTCGGCAGAGTTGCCTTCTACCTGCCAGCTCAAAAGTTCGATCTGTTTTCATATAGAATATATATACTAAAACCATCCAGTCTGTAAAACAGCCTTACCCCGATTCAGCCTCTTCAGATACTCTTGTGCTGTGCAGCAGTGGCTCTGTGTGTAAATGCTATGCACTGAGGATACACAAATATGACGTGTACAGGATAATGCCTCATACCAATCAGATGTCCATTTGTTACTGTGTTTGTTAACAACCCTTTATCTCTTAGTGTTATAAACTCCACTTAAAACTGATTAAAGTCTCATTCTTGTCATTGTGTGGGTGTTTTATTAAATGAGAGTATTTATAATTCAAATTGCTTAAATCCATTAAAATGTTCAGTAATGGGCAGCCACATATGATTACAAAGTTCCTGTGCATTTTTCTATTTTTCCCCCTCCTTGCTATCCTTCCAAGCAAAGCATCTTTCTGTCATCTTGGTAGACACATACCTGTCTACTCATGGTTAAGAAGAGCACTTTAAGCCTTAGTCATCACTTAATAAGTTATTCCAGGCACAGTAAAAAGTTCAAGGTTCTTGGAAAACGGTGCTTATTTCTCTTCTTATAAGCCAGATGTCTGAAGATAGCCCTAACCCCAAGAACGGGCTTGATGTCTCAGGTCTGTTCTGTGGCTTTCTGTTTTTTTTAACACTGCAGTTGGCCATCAGCACATGGGAGGTTTCATCGGGACTTGTCCAGAGTAGTAGGCTCAAATATACTATCTCCTTTCTAATATTCTTAAAGGCTAAGGAGTCCTTTCAATATAACAGTAAGATAACTTGTGATGTTTTAGAAGTAAGCAGACCATTAATGTCAATGTGGAGTCTTAATGTTACATGAAGTTGATAGTTTCTCTGTGACCCATTTAAAAATACAAACCGAGTAGCATGCAATTATGTAAAGAAATATGAAGATTATATGTAGTCACACATTTTCTTTAGAATTCTTAGTTTGGTGAAAACTTGAATATAAAGGTATTTTGATTTATATGACATTTTGATGATATTTGAAAAAAAGGAATTTCCTGACATTTTGCTTTTAGATCATGTCCCCCATTGTGCTGTAATTTAAGCCAACTTGGTTCAGTGAATGCCATCACCATTTCCATTGAGAATTTAAAACTCACCAGTGTTTAACATGCAGGCTTCTGAGGGCTCCCGGAGAATCAGACCTTAAGCCCAGTTGATTTACTTCTAACGTGAAACTTCGAGTTCCTGTATACTTTGCTAGATAATTTGTGGTACATCTAAAGCTTAGTCTTAAGTGGCTTGTGTGTGGATTTTATTCAACATTCTTGTTGCTAGGGTAGAGAGAAATGTTGCTGAGTAGAAACAAGAGTACCCAGTTCAATGTGGTACAGAGAGCAGTCCCTAAAATCTGTACACAGTGTAATGGACCACTTTAGGAGTCAAGAGGCTGATTTTTCCTATGAAATTACATTGCAACAGGAAGCCTTCTAGTATAGTTCCTTTTACTGTTAGAATATGTTTTTATGCATACGCTATAGCTGCTTTCCCATCTTCCAACAACAGGTATCAGGATGTAAGCAAGCTTTAAACAGTGTGAAGATGGCAGGATAGTGTCATCGGTAACAGTCCTCTGACTCTAAATGTAGTTGCTCTGTAACACTTTGTGAATATAACATCACAATTCTCATGTCCTTGGGGGGGGGGGGCATACCCAGTATTAGTATGTTTTAGTGACTAAGCAATCATTTTTCTGTTTACTCATGTACATTTTCTCTTTAAAACTAAAACCTGTACTGTGTATGTCTCCAAAGCCTTTTAGCTTAGTTTTTAGGAAATGAACACTGAATGGATCACTTTTTAGTGTAGCAGGTATGGGATATGTGCATTATAGAGAGACCTTGTCAGCTCTCTGGGCCTATTTGAATGTTTATTGTTGGTGTGAGGATGGTAGGGGAATCAGTAAATACAAGTTACGTTGGTTTAGCAGAGCAAGCTCAGTGTGGGTATTTCTCTTTGAAGCGTGGTGCGTGACGCACTGTGAGTAGAGAATTTGGTCACCCTTTGAGTCCTCTTGCATTTTGCAAACTTGCTCAGCAAATGCGTACCTACCTTGCCCCCTAGGTAAAAGCAGGAACTACTACTGATTTATCTGTCACTCAGCTGTCTTTATATGTGTGCTTCTGTGACTTGTATCACACAAGAATCTTAAAGATTTCACAAATTGTTACCTTTTAGCTCTGAATGTTGAGTATTCTGGTGGGCTAACAACAAGACAAACTCTTGACAGTCATTTGAGAATTTTCATGAAACATTTAGCTGAAAACATTTTATAATTTATGAAAAAAATGTGTTACCTTAAACTTTTACATATGTGGGAGACATTAACTGCCATATTTGAGCATACTGAATTTTAAATTTAAAATAAAGCTGCATATTTTTAAATGAAATGTTTAACAAGGATTCATATTTTTTGTTTTTTAAGATTAAAAATAATTTATGTCTTCTCATGTGGAACCTCATCTGTCACAATGGTTAGATTATACAGAATGGAGCAAGGCTTGTAGTGGTTTAGCTTACAGTAAAATTCTTAATGTTTAGATGTGTTTACTTACTGGCTGTTATGTATACTTTTGAGATTTTCCACCTGTTCTGTGTAGTTTTCTAAATGATACTCCTACTTAAAAACAGCATTTTAGTATCTATTTTCTGTCTCCATTAAATGGTCCTCATTTTCTATTGAGTTTGGAAGTGTGCACATTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGCACACGTGTGCGCGCCCGTGCGTGTGTCTATTTGTGGAGTTTGTATGGGAGAATTAGTTTTGAAAGTGCTAGAATAGAGATGAAATTTGGTTCAAGTAAAATTTTCCCACTGGGATTTTACAGTTTATTGTAATAAAATGTTAATTTTGGATGACCTTGAATATTAATGAATTTGTTAGCCTCTTGATGTGTGCATTAATGAGATATATCAAAGTTGTATATTAAACCAAAGTTGGAGTTGTGGAAGTGTTTTTATGAAGTTCCGTTTGGCTACCAATGGACATAAGACTAGAAATACCTTCCTGTGGAGAATATTTTTCCTTTAAACAATTAAAAAGGTTCATTATTTTTGAAAAAAAAAAAAAAAAAA-3'
【0051】
正常PTEN遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号8、Accession No. 6679523(NP_032986))
MTAIIKEIVSRNKRRYQEDGFDLDLTYIYPNIIAMGFPAERLEGVYRNNIDDVVRFLDSKHKNHYKIYNLCAERHYDTAKFNCRVAQYPFEDHNPPQLELIKPFCEDLDQWLSEDDNHVAAIHCKAGKGRTGVMICAYLLHRGKFLKAQEALDFYGEVRTRDKKGVTIPSQRRYVYYYSYLLKNHLDYRPVALLFHKMMFETIPMFSGGTCNPQFVVCQLKVKIYSSNSGPTRREDKFMYFEFPQPLPVCGDIKVEFFHKQNKMLKKDKMFHFWVNTFFIPGPEETSEKVENGSLCDQEIDSICSIERADNDKEYLVLTLTKNDLDKANKDKANRYFSPNFKVKLYFTKTVEEPSNPEASSSTSVTPDVSDNEPDHYRYSDTTDSDPENEPFDEDQHSQITKV
【0052】
マウスの正常LKB1遺伝子は、例えば、下記配列番号9の核酸配列からなるポリヌクレオチドがあげられる。また、前記正常LKB1遺伝子がコードするタンパク質は、例えば、下記配列番号10のアミノ酸配列からなるポリペプチドがあげられる。マウスの正常LKB1遺伝子は、前記配列番号10のLKB1タンパク質の機能的等価物をコードする遺伝子でもよい。
【0053】
正常LKB1遺伝子の核酸配列(配列番号9、Accession No. 1690504791(NM_011492))
5'-GGCGCGGCGCAGGGCGGTAAACAAGATGGCGGCGGCGTGTCGGTCTAGGAAAGGGGAGGCGGCTCACGGCGTCCGCGAGTGAGGCGCGAGTCGCCGAGGGCGGCGCCGGCGTGGAGTTGTCTCTCGCGGGCAGCATCTTTCTGCCTGGAGTTCGATTCCCCCCTCGCCGCTCCGGCCTCCTGCCTGTCGCGCGGCGGCTAGGCGGCGAGGGGGACGCGCCGCCTGGGGTGGTTTTTTTCCCCCCTCGGTCCCCGGAAGATTTCCTGTCCGGATTTCGTGTCCGCGACTTGCGGGTGTCCCGGTGTCCCGCGTCCGGGTGGAGTCTGCGCCCCGAGAAGTCGTAGAACTAAGGGGCCGCGCGCGGCTTCGGCGCGGGCCGGACATGGACGGCGCGGACCGGCCTCGACGCGGCCGCCTGGGCCCCTGAGCGCGGGGCCCAAGTGGCGAACATGACCTAGCGGCCCGCGCGCCGCGACGGCGGACCGTCGCCTCCGTCGGAAGCAGCGTCCCCGGGGACCCGAATTGGGGGGACGCGAGGGTTGGGGGGGCTCATTGCTTTTTTTTTTTTCATTCTTATTTTCATTTTTTTTCTCCCTGAGCACCTAGAAGAAAAGGGGAAAATCAAAAGTGAAGAATTGGCGCCCAGGAAGCGGACGTGGACCCGGTTGTGGGGACCGGGAGAGTTGTGGAGGTCGTTCCTGTTTTTCCCCGTTCCTTTTTTCCCCTTCTTGGAACATTTGGAAGAAGCGGGTGGGGGGGGGGGAATTCGAACTTGAAAAGAATTGGCGCTCCCGAAGGGGACGAGGACAAAGAGTGGGCCAGGATGGACGTGGCGGACCCCGAGCCGTTGGGCCTTTTCTCCGAGGGCGAGCTGATGTCGGTGGGCATGGACACCTTCATCCACCGCATCGACTCCACCGAGGTAATCTACCAGCCGCGCCGCAAACGCGCCAAGCTCATCGGCAAGTACCTGATGGGGGACCTGCTCGGGGAGGGCTCGTACGGCAAGGTGAAGGAGGTGCTGGACTCCGAGACCTTATGCCGCAGGGCGGTCAAGATCCTCAAGAAGAAAAAGCTGCGCAGGATCCCCAATGGAGAGGCCAACGTCAAGAAGGAGATCCAGCTGCTGCGGCGGCTGCGGCATCGGAATGTGATCCAGCTTGTGGACGTGCTGTACAATGAGGAGAAGCAGAAGATGTATATGGTGATGGAGTACTGCGTATGTGGCATGCAGGAGATGCTGGACAGTGTGCCGGAGAAGCGCTTCCCTGTGTGCCAAGCTCATGGGTACTTCCGCCAGCTGATTGACGGCCTGGAATACCTACACAGCCAGGGCATTGTTCACAAGGACATCAAGCCGGGCAACCTGCTACTCACCACCAATGGCACACTCAAGATCTCCGACCTCGGTGTTGCCGAGGCCCTGCACCCTTTCGCTGTGGATGACACCTGCCGGACAAGCCAGGGCTCCCCGGCCTTCCAGCCTCCTGAGATTGCCAATGGACTGGACACCTTTTCAGGTTTCAAGGTGGACATCTGGTCAGCTGGGGTCACACTTTACAACATCACCACGGGCCTGTACCCATTTGAGGGGGACAATATCTACAAGCTCTTTGAGAACATTGGGAGAGGAGACTTCACCATCCCTTGTGACTGCGGCCCACCACTCTCTGACCTACTCCGAGGGATGTTGGAGTATGAGCCGGCCAAGAGGTTCTCCATCCGACAGATTAGGCAGCACAGCTGGTTCCGGAAGAAACACCCTCTGGCTGAGGCGCTCGTACCTATCCCACCAAGCCCAGACACTAAGGACCGCTGGCGCAGTATGACTGTAGTGCCCTACCTGGAGGACCTGCATGGCCGTGCGGAGGAGGAGGAGGAGGAAGACTTGTTTGACATTGAGGACGGCATTATCTACACCCAGGACTTCACAGTGCCTGGACAGGTCCTGGAAGAGGAAGTGGGTCAGAATGGACAGAGCCACAGTTTGCCCAAGGCTGTTTGTGTGAATGGCACAGAGCCCCAGCTCAGCAGCAAGGTGAAGCCAGAAGGCCGACCTGGCACCGCCAACCCTGCGCGCAAGGTGTGCTCCAGCAACAAGATCCGCCGGCTCTCGGCCTGCAAGCAGCAGTGACTGAGGCCTACAGTGTGTCATCAGGATCTCTGGGCAGGTGTCCCTGCAAGGCTGGGTTTTCCAGGCCTGCCTGTCCACTCACTTCGGGACGTTGGAGCCGAGGGCGGACCTGCTGCCCCAGAAGCACTTTATGTCGAGACCACTGGCCGGCCTTGCCTGCATGCCGCCCTGCGAGCCTCGCTGTCTTTGGGTTGGTTTCTTTTTTTTTAATAAAACAGGTGGATTTGAGCTATGGCTATGAGGGTGTTTGGAAATATGGAGCAGGCGGGGCACAGGGTGGCCTGCAGAGAAAACCCAGAGCAAACAAATATGCAGAGACATTTATGATTAACCAGACAACACGACCAACCACAGAGGGCGCAGGGCAGGGAGTGGGCAGGCACTCACAGCGAGTCTGCCCTATCTTTTGGCAATAAATAAAGCTTGGGAAACTTGAA-3'
【0054】
正常LKB1遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号10、Accession No. 7106425(NP_035622))
MDVADPEPLGLFSEGELMSVGMDTFIHRIDSTEVIYQPRRKRAKLIGKYLMGDLLGEGSYGKVKEVLDSETLCRRAVKILKKKKLRRIPNGEANVKKEIQLLRRLRHRNVIQLVDVLYNEEKQKMYMVMEYCVCGMQEMLDSVPEKRFPVCQAHGYFRQLIDGLEYLHSQGIVHKDIKPGNLLLTTNGTLKISDLGVAEALHPFAVDDTCRTSQGSPAFQPPEIANGLDTFSGFKVDIWSAGVTLYNITTGLYPFEGDNIYKLFENIGRGDFTIPCDCGPPLSDLLRGMLEYEPAKRFSIRQIRQHSWFRKKHPLAEALVPIPPSPDTKDRWRSMTVVPYLEDLHGRAEEEEEEDLFDIEDGIIYTQDFTVPGQVLEEEVGQNGQSHSLPKAVCVNGTEPQLSSKVKPEGRPGTANPARKVCSSNKIRRLSACKQQ
【0055】
マウスの正常Tp53遺伝子は、例えば、下記配列番号11の核酸配列からなるポリヌクレオチドがあげられる。また、前記正常Tp53遺伝子がコードするタンパク質は、例えば、下記配列番号12のアミノ酸配列からなるポリペプチドがあげられる。マウスの正常Tp53遺伝子は、前記配列番号12のTp53タンパク質の機能的等価物をコードする遺伝子でもよい。
【0056】
正常Tp53遺伝子の核酸配列(配列番号11、Accession No. 187960038(NM_011640))
5'-TTTCCCCTCCCACGTGCTCACCCTGGCTAAAGTTCTGTAGCTTCAGTTCATTGGGACCATCCTGGCTGTAGGTAGCGACTACAGTTAGGGGGCACCTAGCATTCAGGCCCTCATCCTCCTCCTTCCCAGCAGGGTGTCACGCTTCTCCGAAGACTGGATGACTGCCATGGAGGAGTCACAGTCGGATATCAGCCTCGAGCTCCCTCTGAGCCAGGAGACATTTTCAGGCTTATGGAAACTACTTCCTCCAGAAGATATCCTGCCATCACCTCACTGCATGGACGATCTGTTGCTGCCCCAGGATGTTGAGGAGTTTTTTGAAGGCCCAAGTGAAGCCCTCCGAGTGTCAGGAGCTCCTGCAGCACAGGACCCTGTCACCGAGACCCCTGGGCCAGTGGCCCCTGCCCCAGCCACTCCATGGCCCCTGTCATCTTTTGTCCCTTCTCAAAAAACTTACCAGGGCAACTATGGCTTCCACCTGGGCTTCCTGCAGTCTGGGACAGCCAAGTCTGTTATGTGCACGTACTCTCCTCCCCTCAATAAGCTATTCTGCCAGCTGGCGAAGACGTGCCCTGTGCAGTTGTGGGTCAGCGCCACACCTCCAGCTGGGAGCCGTGTCCGCGCCATGGCCATCTACAAGAAGTCACAGCACATGACGGAGGTCGTGAGACGCTGCCCCCACCATGAGCGCTGCTCCGATGGTGATGGCCTGGCTCCTCCCCAGCATCTTATCCGGGTGGAAGGAAATTTGTATCCCGAGTATCTGGAAGACAGGCAGACTTTTCGCCACAGCGTGGTGGTACCTTATGAGCCACCCGAGGCCGGCTCTGAGTATACCACCATCCACTACAAGTACATGTGTAATAGCTCCTGCATGGGGGGCATGAACCGCCGACCTATCCTTACCATCATCACACTGGAAGACTCCAGTGGGAACCTTCTGGGACGGGACAGCTTTGAGGTTCGTGTTTGTGCCTGCCCTGGGAGAGACCGCCGTACAGAAGAAGAAAATTTCCGCAAAAAGGAAGTCCTTTGCCCTGAACTGCCCCCAGGGAGCGCAAAGAGAGCGCTGCCCACCTGCACAAGCGCCTCTCCCCCGCAAAAGAAAAAACCACTTGATGGAGAGTATTTCACCCTCAAGATCCGCGGGCGTAAACGCTTCGAGATGTTCCGGGAGCTGAATGAGGCCTTAGAGTTAAAGGATGCCCATGCTACAGAGGAGTCTGGAGACAGCAGGGCTCACTCCAGCTACCTGAAGACCAAGAAGGGCCAGTCTACTTCCCGCCATAAAAAAACAATGGTCAAGAAAGTGGGGCCTGACTCAGACTGACTGCCTCTGCATCCCGTCCCCATCACCAGCCTCCCCCTCTCCTTGCTGTCTTATGACTTCAGGGCTGAGACACAATCCTCCCGGTCCCTTCTGCTGCCTTTTTTACCTTGTAGCTAGGGCTCAGCCCCCTCTCTGAGTAGTGGTTCCTGGCCCAAGTTGGGGAATAGGTTGATAGTTGTCAGGTCTCTGCTGGCCCAGCGAAATTCTATCCAGCCAGTTGTTGGACCCTGGCACCTACAATGAAATCTCACCCTACCCCACACCCTGTAAGATTCTATCTTGGGCCCTCATAGGGTCCATATCCTCCAGGGCCTACTTTCCTTCCATTCTGCAAAGCCTGTCTGCATTTATCCACCCCCCACCCTGTCTCCCTCTTTTTTTTTTTTTTACCCCTTTTTATATATCAATTTCCTATTTTACAATAAAATTTTGTTATCACTTAAAAAAAAAA-3'
【0057】
正常Tp53遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号12、Accession No. 148747262(NP_035770))
MTAMEESQSDISLELPLSQETFSGLWKLLPPEDILPSPHCMDDLLLPQDVEEFFEGPSEALRVSGAPAAQDPVTETPGPVAPAPATPWPLSSFVPSQKTYQGNYGFHLGFLQSGTAKSVMCTYSPPLNKLFCQLAKTCPVQLWVSATPPAGSRVRAMAIYKKSQHMTEVVRRCPHHERCSDGDGLAPPQHLIRVEGNLYPEYLEDRQTFRHSVVVPYEPPEAGSEYTTIHYKYMCNSSCMGGMNRRPILTIITLEDSSGNLLGRDSFEVRVCACPGRDRRTEEENFRKKEVLCPELPPGSAKRALPTCTSASPPQKKKPLDGEYFTLKIRGRKRFEMFRELNEALELKDAHATEESGDSRAHSSYLKTKKGQSTSRHKKTMVKKVGPDSD
【0058】
前記変異導入工程では、前記標的遺伝子に対して、前記標的遺伝子が本来有する機能が(有意に)低下または失われるように変異が導入される。このため、前記標的遺伝子の機能喪失変異は、例えば、当該標的遺伝子のmRNAもしくは当該遺伝子がコードするタンパク質の発現量が(有意に)低下している状態が生じる変異、または当該遺伝子のmRNAもしくは当該遺伝子がコードするタンパク質が完全に発現していない状態が生じる変異でもよいし、機能的な当該遺伝子のmRNAもしくは当該遺伝子がコードするタンパク質の発現量が低下している状態または機能的な当該遺伝子のmRNAもしくは当該遺伝子がコードするタンパク質が完全に発現していない状態が生じる変異でもよい。
【0059】
前記機能喪失変異としては、例えば、点突然変異、ミスセンス突然変異、ナンセンス突然変異、フレームシフト突然変異、広範囲における塩基の欠失(ラージデリーション)、またはこれらの組合せの変異があげられる。前記機能喪失変異としては、例えば、各標的遺伝子の一部または全部の欠失を生じさせてもよい。前記フレームシフト突然変異は、塩基の欠失または挿入が起こり、三つ組みの読み枠(コドン)がずれた時に生じる変異である。前記フレームシフト突然変異は、塩基対置換の変異と比較して、遺伝子機能に与える影響が非常に大きい。これは、前記フレームシフト突然変異が生じると、当該標的遺伝子において、前記フレームシフト突然変異が導入された箇所以降の遺伝暗号が大幅にずれ、アミノ酸が変わるだけでなく、終止コドン等もずれてしまうためである。
【0060】
各標的遺伝子の機能喪失体は、例えば、各標的遺伝子の正常な標的遺伝子の核酸配列に対し、1もしくは数個の塩基(以下、「1塩基以上」ともいう)の挿入、欠失、および/または置換等の変異が導入された遺伝子ということもできる。具体例として、前記PTEN遺伝子の機能喪失遺伝子(機能喪失体)は、例えば、PTEN遺伝子の正常な標的遺伝子の核酸配列に対し、1塩基以上の挿入、欠失、および/または置換等の変異が導入された遺伝子である。前記PTEN遺伝子の機能喪失体において、1塩基以上は、例えば、1~1644塩基、1~822塩基、1~411塩基、1~205塩基、1~164塩基、1~102塩基、1~82塩基、1~51塩基、1~41塩基、1~25塩基、1~20塩基、1~12塩基、または1~6塩基である。前記LKB1遺伝子の機能喪失体は、例えば、LKB1遺伝子の正常な標的遺伝子の核酸配列に対し、1塩基以上の挿入、欠失、および/または置換等の変異が導入された遺伝子である。前記LKB1遺伝子の機能喪失体において、1塩基以上は、例えば、1~514塩基、1~257塩基、1~128塩基、1~64塩基、1~51塩基、1~32塩基、1~25塩基、1~16塩基、1~12塩基、または1~8塩基である。前記Tp53遺伝子の機能喪失体は、例えば、Tp53遺伝子の正常な標的遺伝子の核酸配列に対し、1塩基以上の挿入、欠失、および/または置換等の変異が導入された遺伝子である。前記Tp53遺伝子の機能喪失体において、1塩基以上は、例えば、1~356塩基、1~178塩基、1~89塩基、1~44塩基、1~35塩基、1~22塩基、1~17塩基、1~11塩基、1~8塩基、または1~4塩基である。前記フレームシフト突然変異は、例えば、3m+1塩基または3m+2塩基(mは、0以上の整数)の挿入または欠失により、生じる。
【0061】
前記標的遺伝子がPTEN遺伝子の場合、前記PTEN遺伝子における機能喪失変異の導入部位は、例えば、タンパク質のコード領域(コーディングリージョン)、すなわち、エキソン領域またはイントロン領域;プロモーター領域、エンハンサー領域等の制御領域;等があげられ、好ましくは、コード領域である。具体例として、前記標的遺伝子がマウスPTEN遺伝子の場合、前記機能喪失変異の導入部位は、例えば、配列番号7の核酸配列における869~1360番目(配列番号7の核酸配列において下線で示す核酸配列、エキソン1~5に対応)の塩基である。
【0062】
前記標的遺伝子がLKB1遺伝子の場合、前記LKB1遺伝子における機能喪失変異の導入部位は、例えば、タンパク質のコード領域(コーディングリージョン)、すなわち、エキソン領域またはイントロン領域;プロモーター領域、エンハンサー領域等の制御領域;等があげられ、好ましくは、コード領域である。具体例として、前記標的遺伝子がマウスLKB1遺伝子の場合、前記機能喪失変異の導入部位は、例えば、配列番号9の核酸配列における824~1113番目(配列番号9の核酸配列において下線で示す核酸配列、エキソン1に対応)の塩基である。
【0063】
前記標的遺伝子がTp53遺伝子の場合、前記Tp53遺伝子における機能喪失変異の導入部位は、例えば、タンパク質のコード領域(コーディングリージョン)、すなわち、エキソン領域またはイントロン領域;プロモーター領域、エンハンサー領域等の制御領域;等があげられ、好ましくは、コード領域である。具体例として、前記標的遺伝子がマウスTP53遺伝子の場合、前記機能喪失変異の導入部位は、例えば、配列番号11の核酸配列における158~707番目(配列番号11の核酸配列において下線で示す核酸配列、エキソン1~5に対応)の塩基である。
【0064】
前記核酸編集モジュールは、例えば、前記標的遺伝子における標的部位を認識する核酸配列認識ユニットと、前記標的部位の核酸を編集する編集ユニットとを含む。前記核酸配列認識ユニットが、前記編集ユニットの機能を有する場合、前記核酸編集モジュールは、前記核酸配列認識ユニットのみから構成されてもよい。前記核酸編集モジュールでは、例えば、前記核酸配列認識モジュールが前記標的遺伝子の標的部位に結合することにより、前記標的部位に前記編集ユニットをリクルート(標的化または集積)できる。これにより、前記核酸編集モジュールは、例えば、前記標的遺伝子の核酸配列を編集できるため、前記標的遺伝子に対して機能喪失変異を導入できる。
【0065】
前記核酸配列認識ユニットは、例えば、DNAの核酸配列を認識するタンパク質、またはタンパク質および核酸の複合体等があげられる。具体例として、前記核酸配列認識ユニットは、例えば、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)-Casシステム、Zincフィンガーモチーフ、転写アクチベーター様(TAL)エフェクター、PPR(Pentatricopeptide repeat)モチーフ、制限酵素、転写因子、RNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼ等のDNAと特異的に結合するタンパク質またはそのDNA結合ドメイン等があげられ、好ましくは、CRISPR-Casシステム、Zincフィンガーモチーフ、TALエフェクター、またはPPRモチーフ、またはそのDNA結合ドメインである。前記核酸配列認識ユニットは、例えば、前記核酸編集モジュールがゲノムDNAの切断により機能喪失変異を導入する場合、ゲノムDNAの核酸配列の変化の発生の可能性を向上するため、二本鎖DNAの一方または両方の鎖を切断することが好ましく、より好ましくは、二本鎖DNAの両方の鎖を切断することが好ましい。他方、前記核酸配列認識ユニットは、例えば、前記編集ユニットがゲノムDNAの核酸配列を変化させて機能喪失変異を導入する場合、前記ゲノムDNAの切断による前記編集ユニットの編集効率の低下を抑制するために、二本鎖DNAの一方または両方の鎖を切断しないことが好ましく、ゲノムDNAに対するヌクレアーゼ活性が不活性化されていることがより好ましい。
【0066】
前記編集ユニットの機能を有する核酸編集モジュールとしては、例えば、ヌクレアーゼ活性を有するCasタンパク質を含むCRISPR-Casシステム、制限酵素等を使用できる。
【0067】
前記CRISPR-Casシステムは、ヌクレアーゼ活性を有するCasタンパク質と、前記Casタンパク質と複合体を形成し、かつ標的の核酸配列とハイブリダイズするガイド鎖(ガイドRNA)とから構成される。前記CRISPR-Casシステムは、例えば、前記ゲノムDNAと接触する際には、前記Cas9タンパク質と前記ガイドRNAとが複合体を形成している。
【0068】
前記Casタンパク質は、特に制限されず、例えば、タイプI~VのCasタンパク質があげられる。具体例として、前記Casタンパク質は、例えば、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9、Cas10、Cas12、Cas14、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4等があげられる。
【0069】
前記Casタンパク質の由来は、特に制限されない。前記Casタンパク質としてCas9を用いる場合、前記Cas9タンパク質は、例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のCas9(SaCas9)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来のCas9(SpCas9)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)由来のCas9(StCas9)等があげられる。
【0070】
前記ガイドRNAは、標的遺伝子の核酸配列に対して相補的な核酸配列を有するポリヌクレオチドを含み、前記ポリヌクレオチドにより、標的の核酸配列とハイブリダイズ可能なRNAである。前記標的遺伝子の核酸配列は、前記標的遺伝子において、機能喪失変異が導入される部位に応じて適宜設定できる。前記標的遺伝子において、機能喪失変異が導入される部位(標的部位)は、例えば、前記標的遺伝子におけるタンパク質のコード領域(コーディングリージョン)、すなわち、エキソン領域またはイントロン領域;プロモーター領域、エンハンサー領域等の制御領域;等があげられる。前記標的遺伝子の核酸配列において、前記標的部位は、1箇所でもよいし、2箇所異常でもよい。前記核酸配列認識モジュールとして前記CRISPR-Casシステムを用いる場合、前記ガイドRNAは、例えば、前記標的遺伝子の核酸配列に特異的に結合する核酸配列を含むRNA分子、すなわち、前記標的遺伝子における標的部位の核酸配列と相補的なポリヌクレオチドを含むRNA分子である。
【0071】
前記ガイドRNAは、前記Casタンパク質の種類に応じて適宜設定できる。前記ガイドRNAは、crRNA(CRISPR RNA)のみを含んでもよいし、crRNA(CRISPR RNA)およびtracrRNA(trans-activating CRISPR RNA)を含んでもよい。前記Casタンパク質がCas9タンパク質の場合、前記ガイドRNAは、二本のRNAから構成されてもよいし、一本のRNA(sgRNA)から構成されてもよい。前者の場合、ガイドRNAは、crRNAおよびtracrRNAから構成され、crRNAとtracrRNAとが相補的なポリヌクレオチドでハイブリダイズすることにより複合体を形成し、ガイドRNAとして機能する。また、後者の場合、sgRNAは、crRNAおよびtracrRNA、またはこれらがリンカーを介して連結されている。
【0072】
前記crRNAは、例えば、5’末端に、前記標的遺伝子の核酸配列に対して相補的なポリヌクレオチドを含むことが好ましい。前記標的の核酸配列として、前記標的領域における核酸配列とすることにより、前記crRNAは、前記標的領域の核酸配列に、前記Casタンパク質をリクルート(標的化または集積)でき、これにより、前記標的領域の核酸配列に、前記核酸編集モジュールをリクルート(標的化または集積)できる。前記相補的なポリヌクレオチドの長さは、例えば、15~25塩基長、18~22塩基長である。
【0073】
前記ガイドRNAの長さは、例えば、前記標的遺伝子の核酸配列の長さ、特に、前記標的部位の核酸配列の長さに応じて適宜設定できる。
【0074】
前記ガイドRNAが標的とする核酸配列、すなわち、前記標的部位は、1箇所でもよいし、2箇所でもよい。すなわち、前記ガイドRNAの種類数は、例えば、前記標的遺伝子の数および前記標的部位の数に応じて設定できる。具体例として、前記標的部位が相対的に多い領域の場合、前記ガイドRNAは、前記標的遺伝子において異なる標的部位の核酸配列と特異的に結合する複数種類のガイドRNAをコードすることにより、複数の標的遺伝子および/または前記標的部位の複数箇所に機能喪失変異を導入できる。
【0075】
前記核酸編集モジュールが前記核酸配列認識ユニットおよび前記編集ユニットを含む場合、前記核酸配列認識ユニットとしては、例えば、ニッカーゼ活性を有する、またはヌクレアーゼ活性を有さないCasタンパク質を含むCRISPR-Casシステム、前記Zincフィンガーモチーフ、前記TALエフェクター、前記PPRモチーフ、ヌクレアーゼ活性を有さない制限酵素、前記転写因子、前記RNAポリメラーゼまたはDNAポリメラーゼ等のDNA結合ドメイン等を使用できる。
【0076】
前記Casタンパク質がニッカーゼ活性を有する、またはヌクレアーゼ活性を有さない場合、前記CRISPR-Casシステムは、Casタンパク質のヌクレアーゼ活性を有するドメインに変異が導入されたCasタンパク質を含む。具体的には前記変異が導入されたCasタンパク質は、Casタンパク質のDNA切断ドメイン(切断部位)のうち、少なくとも1つのドメインのヌクレアーゼ活性(DNA切断能)が不活性化されていることが好ましい。具体例として、Cas9タンパク質は、DNA切断ドメインとして、HNHドメインおよびRuvCドメインを有する。このため、前記Cas9タンパク質は、HNHドメインおよびRuvCドメインの少なくとも一方が不活性化されていることが好ましく、両者が不活性化されていることがより好ましい。前記ヌクレアーゼ活性の不活性化は、例えば、前記Casタンパク質をコードするDNAにおいて、前記DNA切断ドメインをコードする核酸配列に対して、アミノ酸置換、フレームシフト変異、および/またはナンセンス変異を導入することにより、実施できる。具体例として、前記Cas9タンパク質がSpCas9の場合、前記SpCas9のHNHドメインは、例えば、840番目のヒスチジン残基(His)をアラニン残基(Ala)に置換することにより不活性化できる、すなわち、ガイドRNAと相補鎖の切断能を不活性化できる。また、前記SpCas9のRuvCドメインは、例えば、10番目のアスパラギン酸残基(Asp)をアラニン残基(Ala)に置換することにより不活性化できる、すなわち、ガイドRNAと相補鎖を形成する鎖の反対側の鎖の切断能を不活性化できる。前記SpCas9タンパク質は、例えば、840番目のヒスチジン残基(His)がアラニン残基(Ala)に置換され、840番目のヒスチジン残基(His)をアラニン残基(Ala)に置換されることにより、ヌクレアーゼ活性が不活性化する(dCas9タンパク質)。前記ガイドRNAとしては、前記ヌクレアーゼ活性を有するCasタンパク質の説明におけるガイドRNAと同様のガイドRNAが使用できる。
【0077】
前記Zincフィンガーモチーフは、C(CysHis)型の異なるZincフィンガーユニットを複数連結させたものである。1つのZincフィンガーユニットは、約3塩基の核酸配列を認識する。前記複数個は、前記標的領域の核酸配列に応じて適宜設定できるが、一般的には、3~6個である。この場合、前記Zincフィンガーモチーフは、例えば、約9~18塩基の核酸配列を認識できる。前記Zincフィンガーモチーフは、例えば、Modular assembly法(Nat Biotechnol (2002) 20: 135-141)、OPEN法(Mol Cell (2008) 31: 294-301)、CoDA法(Nat Methods (2011) 8: 67-69)、大腸菌one-hybrid法(Nat Biotechnol (2008) 26:695-701)等の公知の手法により作製することができる。前記Zincフィンガーモチーフは、例えば、国際公開第03/087341号公報に記載の方法により作製できる。
【0078】
TALエフェクターは、約34アミノ酸を単位としたモジュールの繰り返し構造を有しており、1つのモジュールの12および13番目のアミノ酸残基(repeat variable diresidues :RVD)によって、結合安定性と核酸(塩基)特異性が決定される。各モジュールの独立性は高く、モジュールを連続して配置することにより、標的の核酸配列に特異的なTALエフェクターを作製することが可能である。前記標的の核酸配列に対するTALエフェクターは、例えば、REAL法(Curr Protoc Mol Biol (2012) Chapter 12: Unit 12.15)、FLASH法(Nat Biotechnol (2012) 30: 460-465)、Golden Gate法(Nucleic Acids Res (2011) 39: e82)等のオープンリソースを利用して設計できる。前記TALエフェクターは、例えば、国際公開第2011/072246号公報に記載の方法により作製できる。
【0079】
PPRモチーフは、35アミノ酸からなり1つの核酸(塩基)を認識するPPRモチーフの連続して配置することにより、特定の核酸配列を認識するように構成される。前記PPRモチーフでは、各モチーフの1、4、および各モチーフのC末端から2番目(ii(-2)番目)のアミノ酸で標的核酸(塩基)を認識する。また、各モチーフの構成に依存性はなく、C末端側またはN末端側のPPRモチーフからの干渉が生じないため、PPRモチーフを連続して配置することにより、標的の核酸配列に特異的なPPRタンパク質を作製できる。前記PPRモチーフは、例えば、国際公開第2014/175284号公報に記載の方法により作製できる。
【0080】
前記制限酵素、前記転写因子、前記RNAポリメラーゼ、または前記DNAポリメラーゼのDNA結合ドメインを用いる場合、これらのタンパク質のDNA結合ドメインは、公知であり、前記DNA結合ドメインを、前記核酸配列認識ユニットとして利用できる。
【0081】
前記核酸編集モジュールが前記核酸配列認識ユニットおよび前記編集ユニットを含む場合、前記編集ユニットとしては、例えば、ヌクレアーゼ;シチジン脱アミノ化酵素、アデニン脱アミノ化酵素の塩基編集酵素;等があげられる。
【0082】
前記ヌクレアーゼは、例えば、ゲノムDNAの二本鎖の一方または両方の鎖を切断可能なエンドヌクレアーゼがあげられ、具体例として、FokIエンドヌクレアーゼ(Shengdar Q Tsai et.al., (2014)Nature Biotech doi:10.1038/nbt.2908)等のタンパク質、またはそのヌクレアーゼドメインがあげられる。
【0083】
前記塩基編集酵素は、例えば、AID(Activation-Induced (Cytidine) Deaminase)、PmCDA1(Cytidine deaminase 1)、APOBEC(apolipoprotein B mRNA editing enzyme, catalytic polypeptide-like)、ABE(Gaudelli, N. M., et al., Nature, 551, 464-471 (2017))等があげられる。
【0084】
前記核酸編集モジュールにおいて、前記核酸配列認識ユニットと前記編集ユニットとは、直接または間接的に連結していることが好ましい。前記直接的な連結は、前記核酸配列認識ユニットと前記編集ユニットとが直接連結していることを意味する。前記核酸配列認識ユニットと前記編集ユニットとがタンパク質である場合、前記直接的な連結は、前記核酸配列認識ユニットを構成するタンパク質のN末端またはC末端に前記編集ユニットを構成するタンパク質が連結していることを意味する。前記間接的な連結は、前記核酸配列認識ユニットと前記編集ユニットとが、リンカーを介して連結していることを意味する。前記核酸配列認識ユニットと前記編集ユニットとがタンパク質である場合、前記核酸配列認識ユニットを構成するタンパク質のN末端またはC末端に、前記リンカーを介して前記編集ユニットを構成するタンパク質が連結していることを意味する。前記リンカーは、ペプチドリンカーであることが好ましい。
【0085】
前記リンカーは、前記核酸配列認識ユニットおよび前記編集ユニットの機能を妨げないものであれば、任意の配列を選択できる。前記リンカーは、例えば、グリシンとセリンとの繰り返し配列があげられる。前記リンカーの長さは、例えば、5~100アミノ酸、5~50アミノ酸、10~50アミノ酸、15~50アミノ酸、15~40アミノ酸、17~30アミノ酸、または22アミノ酸である。前記リンカーの長さを相対的に長くすると、得られた複合体は、例えば、前記標的領域の核酸配列からより遠い位置のゲノムDNAも改変できる。前記リンカーは、例えば、GSGSG(配列番号13)、GSGGS(配列番号14)、SGSGS(配列番号15)、もしくはGGGGS(配列番号16)、またはこれらの2~3回繰り返し配列;GSGSGGSGSGSGGSGSGGSGSG(配列番号17);GSGSGGSGSGGSGSGGSGSGGSGGSGSGGSGSGGSGSGGSGSG(配列番号18);等があげられる。
【0086】
前記核酸編集モジュールは、例えば、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。前記標的遺伝子が複数の場合、前記核酸編集モジュールは、例えば、各標的遺伝子の核酸配列を編集可能な核酸編集モジュールを含む。このため、前記変異導入工程における標的遺伝子がPTEN遺伝子およびLKB1遺伝子である場合、前記核酸編集モジュールは、前記PTEN遺伝子に機能喪失変異を導入可能な第1の核酸編集モジュールと、前記LKB1遺伝子に機能喪失変異を導入可能な第2の核酸編集モジュールとを含むことが好ましい。この場合、前記核酸編集モジュールとしてCRISPR-Casシステムを用いる場合、前記Casタンパク質は、1または複数種類とし、前記PTEN遺伝子の核酸配列に特異的なガイド鎖と、前記LKB1遺伝子の核酸配列に特異的なガイド鎖とを組合わせることで、前記第1の核酸編集モジュールと前記第2の核酸編集モジュールとを構成してもよい。前記変異導入工程における標的遺伝子がPTEN遺伝子、LKB1遺伝子、およびTp53遺伝子である場合、前記核酸編集モジュールは、前記PTEN遺伝子に機能喪失変異を導入可能な第1の核酸編集モジュールと、前記LKB1遺伝子に機能喪失変異を導入可能な第2の核酸編集モジュールと、前記Tp53遺伝子に機能喪失変異を導入可能な第3の核酸編集モジュールとを含むことが好ましい。この場合、前記核酸編集モジュールとしてCRISPR-Casシステムを用いる場合、前記Casタンパク質は、1または複数種類とし、前記PTEN遺伝子の核酸配列に特異的なガイド鎖と、前記LKB1遺伝子の核酸配列に特異的なガイド鎖と、前記Tp53遺伝子の核酸配列に特異的なガイド鎖とを組合わせることで、前記第1の核酸編集モジュールと前記第2の核酸編集モジュールと前記第3の核酸編集モジュールとを構成してもよい。
【0087】
前記核酸編集モジュールは、例えば、Creレコンビナーゼを含まない。本開示の製造方法は、前記核酸編集モジュールを用いるため、Cre-loxP配列を用いなくても、前記標的遺伝子を機能喪失体とでき、Cre-loxP配列を用いて得られる標的遺伝子がノックアウトされた状態と類似の状態とできる。
【0088】
前記核酸編集モジュールは、核局在化シグナル(核移行シグナル)を含むことが好ましい。この場合、前記核局在化シグナルは、例えば、前記核酸編集モジュールを構成するタンパク質に連結されていることが好ましい。具体例として、前記核酸編集モジュールがCasタンパク質を含む場合、前記核局在化シグナルは、前記Casタンパク質のN末端およびC末端の少なくとも一方に連結されていることが好ましい。
【0089】
前記変異導入工程では、前記核酸編集モジュールが、前記子宮上皮細胞のゲノムDNAと接触可能なように構成されていればよい。このため、本開示の製造方法は、前記核酸編集モジュールを前記子宮上皮細胞に導入し、導入された核酸編集モジュールと、前記子宮上皮細胞内のゲノムDNAとを接触させてもよい。また、本開示の製造方法は、前記核酸編集モジュールをコードする核酸を前記子宮上皮細胞に導入し、前記核酸編集モジュールをコードする核酸から前記核酸編集モジュールが発現し、発現した核酸編集モジュールと、前記子宮上皮細胞内のゲノムDNAとを接触させてもよい。
【0090】
本開示の製造方法は、前記変異導入工程に先立ち、前記子宮上皮細胞外から前記子宮上皮細胞内に、前記核酸編集モジュールを導入する工程(導入工程)を含んでもよい。前記核酸編集モジュールが複数の構成要素から構成される場合、前記導入工程では、各構成要素の一部または全部を別個に、前記子宮上皮細胞外から前記子宮上皮細胞内に導入してもよいし、全部の構成要素を前記子宮上皮細胞外から前記子宮上皮細胞内に1度に導入してもよい。また、前記導入工程において複数の構成要素を同時に導入し、かついずれか2つ以上の構成要素が複合体を形成可能な場合、前記導入工程では、各構成要素の一部または全部について、複合体の状態で前記子宮上皮細胞外から前記子宮上皮細胞内に導入してもよい。具体例として、前記核酸編集モジュールとしてCRISPR-Casシステムを用いる場合、前記導入工程では、Casタンパク質と、ガイド鎖とを別個に導入してもよいし、同時に導入してもよい。また、後者の場合、前記導入工程では、Casタンパク質とガイド鎖との複合体を予め形成し、前記複合体を、前記子宮上皮細胞外から前記子宮上皮細胞内に導入してもよい。
【0091】
前記導入工程では、例えば、前記核酸編集モジュールとして、前記核酸編集モジュールをコードする核酸を用いてもよい。この場合、本開示の製造方法は、例えば、さらに前記核酸にコードされた核酸編集モジュールを発現する工程(発現工程)を含んでもよい。
【0092】
前記核酸編集モジュールとして、前記核酸編集モジュールをコードする核酸から発現された核酸編集モジュールを用いる場合、前記核酸編集モジュールをコードする核酸は、前記核酸が発現可能に発現ベクターに機能的に連結(挿入)されていることが好ましい。前記核酸編集モジュールが複数の分子から構成されている場合、前記核酸編集モジュールを構成する各分子は、同じ発現ベクターに挿入されてもよいし、異なる発現ベクターに挿入されてもよい。具体例として、前記核酸編集モジュールがCasタンパク質とガイド鎖とから構成される場合、前記Casタンパク質をコードする核酸と、前記ガイド鎖をコードする核酸は、同じ発現ベクターに挿入されてもよいし、異なる発現ベクターに挿入されてもよい。前記発現ベクターは、例えば、骨格となるベクター(以下、「基本ベクター」ともいう)に、前記核酸編集モジュールをコードする核酸をコードする核酸を挿入することで作製できる。
【0093】
前記基本ベクターは、非ヒト動物、すなわち、宿主に応じて適宜選択できる。前記発現ベクターは、例えば、プラスミドベクター等の非ウイルスベクターまたはウイルスベクターがあげられる。前記動物に対するプラスミドベクターとしては、例えば、pCDM8、pMT2PC、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo等があげられる。前記植物に対するプラスミドベクターとしては、T-DNAを含むベクターがあげられる。前記ウイルスベクターは、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス等のウイルスベクターがあげられる。
【0094】
前記発現ベクターは、前記核酸編集モジュールの発現を調節する、調節配列を有することが好ましい。前記調節配列は、例えば、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル配列、複製起点配列(ori)等があげられる。前記発現ベクターにおける前記調節配列の配置は、特に制限されず、前記核酸編集モジュールの発現を機能的に調節できるように配置されていればよく、公知の方法に基づいて配置できる。前記調節配列は、例えば、前記基本ベクターが予め備える配列を利用してもよいし、前記基本ベクターに、さらに、前記調節配列を挿入してもよいし、前記基本ベクターが備える調節配列を、他の調節配列に置き換えてもよい。
【0095】
前記発現ベクターは、例えば、さらに、選択マーカーのコード配列を有してもよい。前記選択マーカーは、例えば、薬剤耐性マーカー、蛍光タンパク質マーカー、酵素マーカー、細胞表面レセプターマーカー等があげられる。
【0096】
前記発現ベクターへの、核酸(DNA)の挿入、前記調節配列の挿入、および/または前記選択マーカーのコード配列の挿入は、例えば、制限酵素およびリガーゼを用いた方法で実施してもよいし、市販のキット等を用いてもよい。
【0097】
前記導入工程において、前記子宮上皮細胞内への導入は、例えば、タンパク質および/または核酸を細胞内に導入する方法により実施でき、具体例として、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、パーティクルガン等の遺伝子銃による導入法、ポリエチレングリコール法、リン酸カルシウム法、リポソームを用いるリポフェクション法、超音波核酸導入法、DEAE-デキストラン法、微小ガラス管等を用いた直接注入法、マイクロインジェクション法、ハイドロダイナミック法、カチオニックリポソーム法等があげられる。
【0098】
前記エレクトロポレーション法により、前記核酸編集モジュールを前記子宮上皮細胞に導入する場合、前記エレクトロポレーション法は、例えば、下記参考文献1を参照できる。具体例として、前記エレクトロポレーション法は、例えば、前記核酸編集モジュールを含有する液を前記子宮内に導入および/または充填した状態において、一対の電極を用いて、前記電極間に配置した子宮に電圧印加を行なうことにより実施できる。前記電圧印加では、例えば、第1の電気パルスを印加して前記子宮上皮細胞の細胞膜に穿孔を形成し、つぎに、第2の電気パルスを印加して、前記穿孔から前記核酸編集モジュールを導入する。前記核酸編集モジュールを含有する液における核酸編集モジュールの濃度は、前記核酸編集モジュールの種類に応じて設定でき、例えば、0.01~100μmol/l、0.1~10μmol/lである。
【0099】
一例として、前記非ヒト動物に対するエレクトロポレーション法は、以下のように、実施できる。まず、前記導入工程では、例えば、前記非ヒト動物から子宮を露出させる。つぎに、前記導入工程では、例えば、前記子宮の頚部を結紮した後、前記核酸編集モジュールを含有する液を露出した子宮内に充填する。前記充填は、例えば、注射器等を用いて実施できる。そして、前記導入工程では、例えば、前記子宮の一端と、他端とに電極を前記子宮と接触するように配置し、この状態で、前記電極に電圧を印加することにより、前記子宮上皮細胞外から前記子宮上皮細胞内に、前記核酸編集モジュールを導入できる。
参考文献1:Ryosuke KOBAYASHI et.al., “A novel method of gene transduction to the murine endometrium using in vivo electroporation”, 2017, J. Vet. Med. Sci., vol. 79, No. 9, pages 1573-1577
【0100】
前記電圧印加の条件は、例えば、前記電極間の距離および前記核酸編集モジュールの導入量に応じて設定できる。前記電圧印加における電圧値は、例えば、-100~100Vである。前記電圧印加は、連続的な電圧の印加でもよいし、パルス電圧の印加でもよいが、後者が好ましい。前記パルス電圧を印加する場合、前記導入工程では、電圧値の異なるパルス電圧を印加してもよい。この場合、前記導入工程では、第1の電気パルス(poring pulse)を印加して、前記子宮上皮細胞の細胞膜に穿孔を形成する工程と、第2の電気パルス(positive transfer pulse)を印加して、前記穿孔から前記核酸編集モジュールを導入する工程と、および第3の電気パルス(negative transfer pulse)を印加して前記穿孔から前記核酸編集モジュールを導入する工程とを含むことが好ましい。各電気パルスは、1回でもよいし複数回でもよい。前記第1の電気パルスの電圧値は、例えば、10~50V、好ましくは、10~30Vである。前記第2の電気パルスの電圧値は、例えば、0Vを超え、10V以下、好ましくは、5~15Vである。前記第3の電気パルスの電圧値は、例えば、0V未満であり、-30V以上、好ましくは、-15~-5Vである。各パルス電圧(電気パルス)の印加時間は、例えば、1~200m秒である。
【0101】
前記ポリエチレングリコール法、前記リン酸カルシウム法、または前記リポフェクション法により、前記核酸編集モジュールを前記子宮上皮細胞に導入する場合、前記導入工程は、例えば、前記核酸編集モジュールを含有する液を前記子宮内に導入または充填した状態とし、前記状態を所定時間維持することにより実施できる。前記所定時間は、例えば、1~72時間、6~48時間である。そして、前記導入工程では、例えば、前記維持後に、前記核酸編集モジュールを含有する液を前記子宮から除去してもよい。
【0102】
本開示の製造方法は、前記導入工程後、前記標的遺伝子に機能喪失変異が導入された非ヒト動物を選抜する工程(選抜工程)を含んでもよい。この場合、前記選抜工程は、例えば、前記非ヒト動物に対して、下記(a)および(b)の工程を実施することにより選抜できる。
(a)前記被非ヒト動物の前記標的遺伝子が機能喪失しているかを検出する検出工程
(b)前記標的遺伝子が機能喪失している場合、前記非ヒト動物を、子宮がんの候補非ヒトモデル動物として選抜する変異体選抜工程
【0103】
前記選抜工程が前記(a)工程および(b)工程を含む場合、前記選抜工程は、例えば、各標的遺伝子の核酸配列を指標に実施してもよいし、各標的遺伝子の発現量を指標に実施してもよい。
【0104】
各標的遺伝子の核酸配列を指標とする場合、前記(a)工程において、前記各標的遺伝子の機能喪失の検出は、例えば、前記非ヒト動物の各標的遺伝子の核酸配列を解読し、対応する正常な標的遺伝子の核酸配列と比較することにより、実施してもよい。前記核酸配列の解読は、例えば、シークエンサーを用いて実施できる。そして、前記(b)工程では、例えば、前記非ヒト動物の各標的遺伝子の核酸配列が、それぞれ、対応する正常な標的遺伝子の核酸配列に対して、機能喪失変異が導入された核酸配列である場合、前記子宮がんの候補非ヒトモデル動物として選抜する。前記選抜の条件については、後述する。前記正常な標的遺伝子の核酸配列は、前述の各標的遺伝子の核酸配列を参照できる。前記核酸配列の比較は、例えば、核酸配列の解析ソフト(例えば、前述のBLAST等)により実施できる。前記(b)工程において、核酸配列を比較する領域は、各標的遺伝子のイントロン領域でもよいし、各標的遺伝子のエキソン領域でもよいが、好ましくは、後者である。また、前記各標的遺伝子の機能喪失が、それぞれ、対応する正常な標的遺伝子の核酸配列に対し、1塩基以上の挿入、欠失、および/または置換等の変異を導入することにより引き起こされる場合、前記(a)工程では、例えば、少なくとも1つの変異を検出可能なプライマーセット、プローブ、またはこれらの組合せを用いて、実施してもよい。前記プライマーセットおよびプローブは、例えば、前記変異の種類に基づき、公知の設計方法を用いて設計できる。
【0105】
前記(b)工程では、例えば、各標的遺伝子の正常な標的遺伝子に対して、1塩基以上の挿入、欠失、および/または置換されている場合、前記標的遺伝子を機能喪失遺伝子と判断してもよい。また、前記(b)工程では、例えば、各遺標的伝子の正常な標的遺伝子に対して、フレームシフト突然変異が導入されている場合、前記標的遺伝子を機能喪失遺伝子と判断してもよい。さらに、前記(b)工程では、例えば、各標的遺伝子の正常な標的遺伝子が部分欠失または完全欠失している場合、前記標的遺伝子を機能喪失遺伝子と判断してもよい。
【0106】
前記(b)工程では、さらに、各標的遺伝子の遺伝子型に基づき、選抜してもよい。具体例として、前記(b)工程では、前記各標的遺伝子の遺伝子型が、各標的遺伝子の機能喪失体のヘテロ接合体(接合型)またはホモ接合体(ホモ接合型)に該当する場合、前記子宮がんの候補非ヒトモデル動物として選抜してもよい。具体例として、前記(b)工程では、例えば、PTEN遺伝子およびLKB1遺伝子について、それぞれ、機能喪失体をヘテロ接合体またはホモ接合体で有する場合、前記非ヒト動物を、子宮がんの候補非ヒトモデル動物として選抜してもよい。また、前記(b)工程では、例えば、PTEN遺伝子、LKB1遺伝子、およびTp53遺伝子について、それぞれ、機能喪失遺伝子をヘテロ接合体またはホモ接合体で有する場合、前記非ヒト動物を、子宮がんの候補非ヒトモデル動物として選抜してもよい。
【0107】
各標的遺伝子の発現量を指標とする場合、前記(a)工程において、前記各標的遺伝子の機能喪失の検出は、例えば、前記非ヒト動物の各標的遺伝子のmRNAまたは各標的遺伝子がコードするタンパク質の機能を検出することにより実施してもよい。さらに、前記(a)工程において、前記各標的遺伝子の機能喪失の検出は、例えば、前記非ヒト動物における各標的遺伝子もしくは各標的遺伝子がコードするタンパク質の発現の有無、または各標的遺伝子もしくは各標的遺伝子がコードするタンパク質の発現量を検出することにより実施してもよい。
【0108】
前記選抜工程において、前記各標的遺伝子もしくは各標的遺伝子がコードするタンパク質の発現に基づき、判断する場合、前記(a)工程では、例えば、前記非ヒト動物の生体試料における各標的遺伝子および各標的遺伝子がコードするタンパク質の少なくも一方の発現量を測定する。そして、前記(b)工程において、前記非ヒト動物の生体試料における各標的遺伝子および各標的遺伝子がコードするタンパク質の少なくも一方の発現量と、基準値とに基づき、前記各標的遺伝子の機能喪失体を有する非ヒト動物を選抜する。具体的には、前記(b)工程では、前記非ヒト動物において、前記各標的遺伝子の機能喪失体を有する非ヒト動物の選抜は、例えば、前記非ヒト動物の生体試料における各標的遺伝子および各標的遺伝子がコードするタンパク質の少なくも一方の発現量と、前記基準値とを比較することにより実施できる。
【0109】
前記非ヒト動物の生体試料は、特に制限されず、例えば、前記非ヒト動物の子宮および前記子宮由来の試料のいずれでもよい。前記(a)工程で使用する生体試料の種類は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0110】
前記(a)工程において、各標的遺伝子の発現量は、例えば、半定量的PCR、定量的PCR、ノーザンブロッティング、デジタルPCR、RNAシークエンス解析(RNAseq)等により測定できる。また、前記(a)工程において、各標的遺伝子がコードするタンパク質の発現量は、例えば、紫外吸収法、ビシンコニン酸法等の分光光度計を用いた方法、ELISA、ウエスタンブロッティング等のタンパク質の定量方法により、測定できる。
【0111】
前記基準値は、例えば、正常な標的遺伝子を有する非ヒト動物における各標的遺伝子または各標的遺伝子がコードするタンパク質の発現量、対象とする各標的遺伝子と対応する正常な標的遺伝子の機能喪失体を有する非ヒト動物(例えば、PTEN遺伝子、LKB1遺伝子、および/またはTp53遺伝子を完全欠失した非ヒト動物)における各標的遺伝子または各標的遺伝子がコードするタンパク質の発現量等があげられる。前記基準値として、前記各標的遺伝子の機能喪失体を有する非ヒト動物における各標的遺伝子の発現量を用いる場合、前記各標的遺伝子の機能喪失体を有する非ヒト動物は、例えば、一対の染色体上のそれぞれに座乗する2つのPTEN遺伝子、LKB1遺伝子、および/またはTp53遺伝子のうち、いずれか一方の標的遺伝子の機能喪失体を有する非ヒト動物でもよいし、両方の標的遺伝子の機能喪失体を有する非ヒト動物でもよい。前記基準値とする各標的遺伝子または各標的遺伝子がコードするタンパク質の発現量は、例えば、前記非ヒト動物の生体試料と同じ条件で採取した生体試料における各標的遺伝子または各標的遺伝子がコードするタンパク質の発現量を、前記非ヒト動物の生体試料と同様の方法で測定することにより、得ることができる。前記基準値は、例えば、予め測定してもよいし、前記非ヒト動物の生体試料と同時に測定してもよい。
【0112】
この場合、前記(b)工程において、前記非ヒト動物における各標的遺伝子について、機能喪失体かの評価方法は、特に制限されず、前記基準値の種類によって、適宜決定できる。具体例として、前記非ヒト動物の生体試料における各標的遺伝子の発現量が、対応する正常な標的遺伝子を有する非ヒト動物における対応する遺伝子の発現量より低い場合、前記標的遺伝子の機能喪失体を有する非ヒト動物における前記標的遺伝子の発現量と同じ場合(有意差がない場合)、および/または前記標的遺伝子の機能喪失体を有する非ヒト動物における遺伝子の発現量より低い場合、前記非ヒト動物は、例えば、前記標的遺伝子は、機能喪失体であると評価できる。また、前記非ヒト動物の生体試料における各標的遺伝子がコードするタンパク質の発現量が、対応する正常な標的遺伝子を有する非ヒト動物における対応する遺伝子がコードするタンパク質の発現量より低い場合、前記非ヒト動物は、例えば、前記標的遺伝子の機能喪失体を有する非ヒト動物における前記標的遺伝子がコードするタンパク質の発現量と同じ場合(有意差がない場合)、および/または前記標的遺伝子の機能喪失体を有する非ヒト動物における遺伝子がコードするタンパク質の発現量より低い場合、前記非ヒト動物は、例えば、前記標的遺伝子の機能喪失体を有すると評価できる。そして、前記(b)工程では、例えば、前記PTEN遺伝子およびLKB1遺伝子、または前記PTEN遺伝子、LKB1遺伝子、およびTp53遺伝子について、機能喪失体を有すると評価された非ヒト動物を、前記子宮がんの候補非ヒトモデル動物として選抜する。
【0113】
前記(b)工程では、例えば、各標的遺伝子の発現量に基づき、各標的遺伝子の遺伝子型を評価してもよく、具体例として正常な標的遺伝子のホモ接合体か、正常な標的遺伝子と機能喪失体のヘテロ接合体か、機能喪失体のホモ接合体かを評価してもよい。この場合、前記基準値として、それぞれ、正常な標的遺伝子を有する非ヒト動物(正常な非ヒト動物)、一対の染色体上のそれぞれに座乗する2つの遺伝子のうち、一方が、正常な標的遺伝子であり、他方が、機能喪失体である非ヒト動物(ヘテロ接合体の非ヒト動物)、および/または、一対の染色体上のそれぞれに座乗する2つの遺伝子の両者が機能喪失体である非ヒト動物(機能喪失体のホモ接合体非ヒト動物)を用いることにより実施できる。具体的には、前記(b)工程において、非ヒト動物における標的遺伝子の発現量が、正常な非ヒト動物、ヘテロ接合体の非ヒト動物、または機能喪失体のホモ接合体非ヒト動物における標的遺伝子の発現量と同等である場合、前記非ヒト動物は、例えば、同等の発現量を有する非ヒト動物と同様の遺伝子型であると評価できる。
【0114】
さらに、前記(b)工程では、得られた各標的遺伝子の遺伝子型の評価に基づき、選抜してもよい。具体例として、前記(b)工程では、前記各標的遺伝子の遺伝子型が、前述の遺伝子型の組合せに該当する場合、前記子宮がんの候補非ヒトモデル動物として選抜してもよい。具体例として、前記(b)工程では、例えば、PTEN遺伝子およびLKB1遺伝子について、機能喪失体をヘテロ接合体またはホモ接合体で有する場合、前記非ヒト動物を、子宮がんの候補非ヒトモデル動物として選抜してもよい。また、前記(b)工程では、例えば、PTEN遺伝子、LKB1遺伝子、およびTp53遺伝子について、機能喪失体をヘテロ接合体またはホモ接合体で有する場合、前記非ヒト動物を、子宮がんの候補非ヒトモデル動物として選抜してもよい。
【0115】
本開示の製造方法は、前記変異導入工程後、得られた非ヒト動物を生育し、子宮がんを形成させる工程(形成工程)を含んでもよい。前記形成工程の期間は、子宮がんが形成されうる期間であればよく、例えば、14日~4ヶ月、2~3ヶ月等があげられる。前記形成工程における非ヒト動物の飼育条件は、前記非ヒト動物の条件に応じて設定できる。本開示の製造方法により得られる非ヒト動物の子宮がんは、女性ホルモン受容体が陽性でもよいし、陰性でもよい。前記女性ホルモン受容体は、例えば、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体等があげられる。前記子宮がんは、例えば、プロゲステロン受容体陰性および/またはエストロゲン受容体陽性である。
【0116】
本明細書に記載のタンパク質、融合タンパク質、またはそれをコードする核酸(例えば、DNAまたはRNA)の配列情報は、Protein Data Bank、UniProt、またはGenBank等から入手可能である。また、RNAの核酸配列は、適宜配列変換ソフト等を用い、対応するDNAの核酸配列からも入手可能である。本明細書に記載の核酸編集モジュールをコードするDNAをコードするDNAは、分子生物学的方法により、mRNAからクローニングすることにより取得してもよいし、前記配列情報に基づき、化学的にDNAを合成することにより、取得してもよい。また、前記DNAの取得に当たっては、前記核酸を導入する非ヒト動物(宿主)にあわせて、コドン最適化を実施してもよい。これにより、前記核酸は、例えば、宿主におけるタンパク質発現量の増大が期待できる。使用する宿主におけるコドン使用頻度のデータは、例えば、(公財)かずさDNA研究所のホームページに公開されている遺伝暗号使用頻度データベース(http://www.kazusa.or.jp/codon/index.html)を用いてもよいし、各宿主におけるコドン使用頻度を記した文献を参照してもよい。
【0117】
<子宮がんのモデル非ヒト動物>
別の態様において、本開示は、子宮がんが発生する可能性を有する子宮がんモデル非ヒト動物を提供する。本開示の子宮がんモデル非ヒト動物は、子宮上皮細胞のゲノムDNAは、PTEN遺伝子の機能喪失体、LKB1遺伝子の機能喪失体、およびTp53遺伝子の機能喪失体を含む。本開示のモデル動物によれば、子宮上皮細胞に由来する子宮がんを発生する可能性を有する。本開示のモデル動物は、例えば、子宮がんの治療薬候補物質のスクリーニングに好適に使用できる。
【0118】
前記モデル動物は、PTEN遺伝子の機能喪失体、LKB1遺伝子の機能喪失体、およびTp53遺伝子の機能喪失体を有すればよく、各遺伝子の遺伝子型は、一対の染色体上の一方が、正常な遺伝子であり、他方が、機能喪失体であるヘテロ接合体でもよいし、一対の染色体上のそれぞれに座乗する2つの遺伝子の両者が機能喪失体であるホモ接合体でもよく、好ましくは、各遺伝子が後者である。
【0119】
前記モデル動物は、例えば、前記子宮上皮細胞のゲノムDNAが、loxP配列を含まないことが好ましい。
【0120】
前記モデル動物において、前記子宮上皮細胞は、子宮体部の上皮細胞、すなわち、子宮内膜上皮細胞であることが好ましい。この場合、本開示の子宮がんモデル非ヒト動物は、子宮内膜がんモデル非ヒト動物ということもできる。
【0121】
前記モデル動物における子宮がんの由来する組織は、例えば、組織学的染色、上皮細胞マーカーを用いた免疫組織学的染色等を用いて評価できる。
【0122】
本開示の非ヒト動物は、前記Tp53遺伝子の機能喪失体を含まないでもよい。
【0123】
<被検物質の評価方法>
別の態様において、本開示は、被検物質が子宮がんの予防または治療用の候補物質となりうるかを評価する方法を提供する。本開示の被検物質の評価方法は、被検物質を、子宮がんモデル非ヒト動物に投与する投与工程と、前記非ヒト動物における子宮がんを評価する評価工程とを含み、前記子宮がんモデル非ヒト動物は、前記本開示の子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法により得られた子宮がんモデル非ヒト動物、および/または前記本開示の子宮がんモデル非ヒト動物である。本開示の評価方法によれば、被検物質について、子宮がんの予防または治療用の候補物質となりうるかを評価できる。
【0124】
前記投与工程において、前記被検物質は、例えば、前記子宮がんの誘導前に投与してもよいし、誘導後に投与してもよい。
【0125】
前記評価工程では、例えば、前記モデル動物の病態を評価することにより子宮がんを評価できる。具体例として、前記評価工程において、前記子宮がんの発生の有無または程度、前記子宮がんの拡大もしくは縮小の有無または程度、前記子宮がんの増大を評価する。そして、前記評価工程では、例えば、前記子宮がんの発生を抑制する、前記子宮がんを縮小する、および/または、前記子宮がんの増大を抑制する、前記被検物質を、子宮がんの予防または治療薬候補物質として選抜する選抜工程を含む。
【0126】
前記被検物質の種類は、予防または治療薬の候補になり得るものであればよい。前記被検物質は、例えば、タンパク質、抗体、ペプチド、核酸分子、糖鎖、脂質、有機低分子化合物、無機低分子化合物、細菌放出物質、醗酵生産物、細胞抽出液、胞培養上清、植物抽出液、動物組織抽出液等があげられる。前記被検物質は、1種類でもよいし、複数種類でもよい。
【0127】
本開示の評価方法は、前記投与工程に先立ち、前記本開示の製造方法により、前記子宮がんモデル非ヒト動物を作製する作製工程を含んでもよい。
【実施例0128】
以下、実施例を用いて本開示を詳細に説明するが、本開示は実施例に記載された態様に限定されるものではない。なお、特に示さない限り、市販の試薬およびキット等は、そのプロトコルに従い使用した。
【0129】
[実施例1]
本開示の製造方法により、子宮がんを誘導できることを確認した。
【0130】
ゲノム編集技術(CRISPR-Cas9システム)と、in vivoエレクトロポレーション技術とを用いて、野生型マウスの標的遺伝子に対して機能喪失変異を導入することにより、から子宮内膜がんを誘導できることを確認した。
【0131】
(1)ゲノム編集技術
crRNAまたはgRNAの配列の設計は、CRISPRDirect(https://crispr.dbcls.jp/)と、CRISPOR(http://crispor.tefor.net/)とを用いた。具体的には、Pten、Tp53、およびLkb1を標的遺伝子とした。前記各標的遺伝子から選択したgRNA標的配列を、図1に示すgRNA_Cloning Vector BbsI(Addgene、Cat.No:128433)に、それぞれクローニングした。crRNAまたはgRNAの前記標的配列を表2に示す。crRNA、tracrRNA、およびHigh fidelity SpCas9(S.p. HiFi Cas9 Nuclease V3)は、Integrated DNA Technologies社から購入したものを使用した。
【0132】
【表2】
【0133】
各前記標的配列について、それぞれ等量のcrRNAとtracrRNAを、デュプレックスバッファ(Integrated DNA Technologies社製)内で混合し、95℃、5分間の条件下で加熱した。前記加熱後、室温(約25℃、以下同様。)、10分間の条件下で静置し、複合体(以下、「crRNA/tracrRNA」という)を得た。
【0134】
図2に示すCas9を発現するプラスミド、pPyCAG-hCas9-IPは、pPyCAG-BstXI-IPベクター(RIKENから分譲)のBstXIサイトに、ヒトコドン最適化Cas9(hCas9)を挿入して構築した。
【0135】
(2)RNP法を用いた、子宮がんモデルマウスの作製
RNP法を用いた、子宮がんモデルマウスには、6週齢以降の処女雌マウス(系統:ICR、販売元:日本エスエルシー社)を使用した。前記マウスに3種類の麻酔薬を腹膜内投与した。前記麻酔薬としては、メデトミジン塩酸塩、ミダゾラム、およびブトルファノール酒石酸塩を使用した。前記麻酔後、子宮角を外面化させた後、注射する試薬の漏出を防ぐために、頸部を縫合糸で縛った。つぎに、Cas9タンパク質を含む液(500ng/μl)と、crRNA/tracrRNAを含む液(各々3μmol/l)とを等量混合し、得られた混合液(ゲノム編集液)5μl(Cas9:250ng/μl、crRNA/tracrRNA:各々1.5μmol/l)を、輸卵管側から子宮内膜腔に注射した。なお、前記ゲノム編集液では、前記混合により、Cas9タンパク質とcrRNA/tracrRNAとの複合体(RNP)が形成される。前記注射直後、図3に示すように、前記子宮角をプラチナ平板電極(CUY650P5、NEPA GENE社製)に挟んだ。コントロール群(Control)では、前記ゲノム編集溶液に代えて、等量のOptiMEM培地を用いた以外は同様にして実施した。
【0136】
図4に、エレクトロポレーションによる、生体内のゲノム編集法の模式図を示す。図4(A)に示すように、前記子宮角をプラチナ平板電極に挟んだ後、NEPA21エレクトロポレータ(NEPA GENE社製)を用いて、電気パルスを3セット印加した。前記電気パルス後、電極の方向を変更し、電気パルスをさらに3セット印加することより、図4(B)に示すように、子宮の上皮層にRNPを導入し、Pten、Lkb1およびTp53に機能喪失変異を導入した。前記電気パルスにおける各々のパルスセットは、ポアリングパルス(PP)とトランスファパルス(TP)とから構成した。前記PPの条件は、電圧20V、パルス長30ms、パルスインターバル50ms、パルス数3、減衰率10%、極性+で行った。前記TPの条件は、電圧10V、パルス長50ms、パルスインターバル50ms、パルス数3、減衰率40%、極性+/-で行った。すなわち、前記エレクトロポレーションでは、ポアリングパルス(PP)を1セットと、正の電圧のトランスファパルス(TP)1セットと、負の電圧のトランスファパルス(TP)1セットとを実施した。また、コントロールは、前記ゲノム編集液に代えて、生理的食塩水を用いた以外は、同一のマウスの子宮の別の部位にエレクトロポレーション法を実施した。なお、本願発明者らは、GFPを発現可能なベクターを用いて、エレクトロポレーション法により、子宮内に前記ベクターを導入したところ上皮層でのみGFPの発現が見られ、間質および筋組織では、GFPの発現が見られないことを確認している。これは、エレクトロポレーション法では、前記発現ベクターが、上皮層の基底膜を超えて、間質および筋組織に移動できないためと推定された。
【0137】
(3)プラスミド法を用いた子宮がんモデルマウスの作製
プラスミド法を用いた子宮がんモデルマウスの作製は、前記Cas9とcrRNA/tracrRNAとを含むゲノム編集液に代えて、下記条件(1)または(2)のゲノム編集液として用いた以外は、前記実施例1(2)と同様にして、子宮がんモデルマウスを作製した。
条件(1):
pPyCAG-hCas9-IP:352μmol/l
各標的遺伝子に対するgRNAベクター:117μmol/l
条件(2):
pPyCAG-hCas9-IP:76μmol/l
各標的遺伝子に対するgRNAベクター:208μmol/l
【0138】
(4)子宮における腫瘍の有無の観察
前記実施例1(2)および(3)で得られたマウスについて、電気パルスの処置時を基準として、4か月後に、子宮に腫瘍が生じているか検討した。具体的には、処置を行ったマウスを解剖し、腫瘍の有無を観察した。前記実施例1(2)で得られたマウスの結果を、図5に示す。
【0139】
図5は、子宮を観察した写真である。図5に示すように、ゲノム編集液を注射し、前記注射後、エレクトロポレーションを行った箇所に腫瘍が形成されることがわかった。また、生理的食塩水を注射し、前記注射後、エレクトロポレーションを行った箇所には腫瘍が形成されていなかった。また、前記実施例1(3)で得られたマウスについても同様であった。これらの結果から、Pten、Lkb1およびTp53の3遺伝子にゲノム編集法およびin vivoエレクトロポレーション法を組合わせて機能喪失変異を導入することにより、エレクトロポレーション法を行なった箇所に限局して外部核酸を導入でき、かつ腫瘍形成を誘導できることがわかった。
【0140】
(5)子宮における腫瘍の由来する組織の検討
前記実施例1(4)の子宮に形成された腫瘍が、上皮組織由来の腫瘍であるかを確認した。具体的には、前記子宮体部の腫瘍を採取し、4%パラホルムアルデヒドを用いて固定した。前記固定後、前記子宮体部をパラフィンに包埋し、厚さ3μmのパラフィン包埋切片を調製した。得られたパラフィン包埋切片について、常法によりHE染色を実施した。前記染色後、各切片について、光学顕微鏡(BZ-9000、キーエンス社製)を用いて、子宮体の病理学的診断を行った。これらの結果を、図6に示す。
【0141】
図6は、組織染色による子宮組織の組織写真を示す。図6に示すように、コントロール群(Control)では、腫瘍は形成されていなかった。他方、ゲノム編集液を注射し、前記注射後、エレクトロポレーションを行ったマウス(Tumor (Pten + Tp53 + Lkb1))では、腫瘍が認められた。さらに、病理学的診断によって、前記腫瘍が、上皮組織由来であることがわかった。
【0142】
以上の結果から、本開示の生体子宮内エレクトロポレーション法は、マウスの子宮内膜上皮細胞に限局して、外部核酸を導入でき、かつ子宮上皮細胞のPten、Lkb1およびTp53の3遺伝子に機能喪失変異を導入することにより、腫瘍を誘導できることがわかった。
【0143】
(6)腫瘍形成効率の検討
ゲノム編集を行なう核酸編集モジュールの導入方法として、RNP法と、プラスミド法とが知られている。前記RNP法は、Casタンパク質とガイドRNAとの複合体を形成し、これを細胞内に導入してゲノム編集を行なう方法である。他方、前記プラスミド法は、Casタンパク質をコードするプラスミドと、ガイドRNAをコードするプラスミドとを細胞内に導入してゲノム編集を行なう方法である。そこで、いずれの方法が、機能喪失変異の導入効率が高いかを検討した。具体的には、実施例1(2)のRNP法と、実施例1(3)のプラスミド法とを行ったマウスについて、処置3か月後に、子宮内膜に腫瘍が生じている割合を検討した。これらの条件と結果を、下記表3に示す。
【0144】
【表3】
【0145】
前記表3は、導入方法、条件、サンプル数、腫瘍形成数、および腫瘍形成の割合を示す。前記表3に示すように、プラスミド法を用いた条件(1)では子宮内膜がんの形成率は、10%であり、プラスミド法を用いた条件(2)では子宮内膜がんの形成率は、50%であった。これに対して、RNP法を用いた条件(3)では、子宮内膜がんの形成率は、70%であり、プラスミド法を用いた条件(1)および(2)と比較し、子宮内膜がんの形成率は、高かった。これらの結果から、本開示の製造方法においては、核酸編集モジュールの導入方法として、RNP法は、プラスミド法と比較して、機能喪失変異をゲノムDNAにより効率よく導入できることがわかった。
【0146】
(7)標的遺伝子の検討
子宮内膜がんの誘導に必要な標的遺伝子の組合せを検討した。具体的には、異なる標的遺伝子の組合せに対するcrRNA/tracrRNAの混合液を調製した。そして、前記混合液を用いてゲノム編集液を調製することにより、子宮内膜がんの誘導に必要な標的遺伝子の組合せを探索した以外は、実施例1(2)のRNP法と同様にマウスを処置した。そして、各マウスについて、前記処置の3か月後に子宮内膜に肉眼病変、子宮内膜がん、または扁平(重層)上皮化が生じているかを評価することにより、腫瘍が生じている割合を検討した。
【0147】
3ヶ月後のマウスから子宮角を採取後、子宮角の重量を測定した。つぎに、前記子宮角は、4%パラホルムアルデヒド含有リン酸緩衝液(PBS)で固定した。前記固定後の子宮角は、2~4枚に切り分けた後、パラフィンブロックに包埋し、厚さ3μmのパラフィン包埋切片を調製した。得られた切片を、HE染色し、組織学的解析を行った。組織学的解析では、各サンプルにつき12個の切片を解析して評価した。各切片は、少なくとも100μmの距離で分けて配置した。前記肉眼病変の評価は、解剖時に腫瘍形成を確認できた数を評価した。
【0148】
前記子宮内膜がんは、正常な子宮内膜構造が著しく破壊され、子宮筋層に浸潤しているかを確認することにより評価した。前記子宮内膜がんの評価は、組織切片上で、前記子宮筋層浸潤を伴う腫瘍形成を確認できた数を評価した。各切片を免疫染色分析に供するために、前記切片を脱パラフィン処理後、得られた切片を10mmol/lクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)の存在下で、オートクレーブ処理(121℃、5分)して抗原を活性化した。Tween(登録商標)20を添加した3%ウシ血清アルブミンPBSを用いてブロッキングした後、一次抗体希釈液を塗布し、4℃で一晩(約8~10時間)インキュベートした。前記一次抗体は、PGR(1:400希釈、ab101688、abcam社製)、およびESR(1:100希釈、ab75635、abcam社製)を用いた。つぎに、前記インキュベート後の切片をHistofine Simple Stain MAX-PO(登録商標)(Nichirei社製)と室温、30分の条件下で反応させた。シグナルは、3-3'-ジアミノベンジジン(3-3’-diaminobenzidine)で発色させた。カウンター染色は、HE染色とした。前記扁平上皮化は、上皮が重層化しているかによって評価した。前記扁平上皮化の評価は、組織切片上で、扁平上皮化を確認できた数を評価した。これらの条件と結果とを、下記表4および図7に示す。
【0149】
【表4】
【0150】
前記表4は、標的遺伝子の組合せ、サンプル数、種類毎の腫瘍形成数、および腫瘍形成の割合を示す。前記表4に示すように、前記標的遺伝子の組合せが1遺伝子の場合、Lkb1の場合のみ、腫瘍形成率は、20%であり、その他の遺伝子の場合、腫瘍形成率は、0%であった。また、前記標的遺伝子の組合せが2遺伝子の場合、前記組合せが、PtenとLkb1の場合のみ、腫瘍形成率は、肉眼病変の形態が44%、子宮内膜がんの形態が56%、扁平上皮化が22%であり、前記組合せ以外の場合は、腫瘍形成率は、0%であった。他方、前記標的遺伝子の組合せが3遺伝子の場合、腫瘍形成率は、肉眼病変の形態が70%、子宮内膜がんの形態が90%、扁平上皮化が50%であった。
【0151】
図7は、標的遺伝子と、子宮角の重量とを示すグラフである。図7において、横軸は、標的遺伝子の種類を示し、縦軸は、子宮角の重量を示す。図7に示すように、PtenとLkb1とが標的遺伝子の場合、子宮角の重量が増加する個体が見られ、PtenとLkb1と、Tp53とが標的遺伝子の場合、子宮角の重量が増加する個体がさらに増加した。また、図7に示すように、子宮角の重量が増加すると、子宮内膜の重層化する個体が増加した。
【0152】
これらの結果から、前記標的遺伝子の組合せが、PtenとLkb1とした場合、子宮内膜がんを効率よく誘導でき、さらに、Tp53を標的遺伝子とすることにより、より効率よく子宮内膜がんを誘導できることがわかった。また、3つの遺伝子を標的遺伝子とすることにより、子宮がんとしてより悪性度合いが進んだ、子宮がんを誘導できることが分かった。
【0153】
(8)標的遺伝子への機能喪失変異の導入の確認
子宮がんが発生した個体について、腫瘍の標的遺伝子に、機能喪失変異が導入されているか検討した。具体的には、T7エンドヌクレアーゼIアッセイを用いて、腫瘍の標的遺伝子に、変異が導入されているか検討した。前記実施例1(2)または(3)で作製した子宮内膜がんモデルマウスから、処置3か月後に解剖し、子宮内膜がんを取得した。前記子宮内膜がんのゲノムDNAから、PCRによりゲノム編集の標的部位を増幅させた。得られたPCR産物(100ng)を、95℃、5分間の条件下で変性させた。前記変性後、NEBuffer 2(NEB社製)内で変性させたPCR産物を徐々に冷却し、前記PCR産物を再アニールさせた。前記再アニールされたPCR産物について、37℃、15分間の条件下で、T7 endonuclease I (NEB社製)の5ユニットを用いて消化した。前記消化後、250mmol/lのEDTA 0.75μlを反応液に添加することで、前記消化反応を停止させた。前記PCR産物の消化パターンは、キャピラリーとマイクロチップ電気泳動(MCE-202 MultiNA、島津製作所社製)を用いて評価した(Tu)。コントロールは、生理的食塩水を用いた以外は同様にして評価した(Wt)。これらの結果を、図8に示す。
【0154】
図8は、T7エンドヌクレアーゼIアッセイの結果を示す写真である。図8に示すように、コントロール(Wild-type tissue)では、Tp53、Pten、およびLkb1の全ての標的遺伝子において、消化バンドは認められなかった。他方、子宮内膜がん(Tumor)では、Tp53、Pten、およびLkb1の全ての標的遺伝子において、消化バンドが検出された。
【0155】
以上の結果から、核酸編集モジュールを生体子宮内エレクトロポレーション法によって、子宮上皮細胞に導入することにより、前記子宮上皮細胞のゲノムDNAに機能喪失変異が導入され、その結果、子宮がんが発生することが分かった。
【0156】
(9)三重変異体の子宮内膜がんにおける組織像の検討
前記実施例1(7)における子宮に形成された腫瘍が、上皮組織由来の腫瘍であるかを検討するために、蛍光免疫染色を実施した。前記腫瘍は、Tp53、Pten、およびLkb1の全ての標的遺伝子に機能喪失変異が導入された個体由来の腫瘍を用いた。具体的には、前記子宮体部の腫瘍を採取し、4%パラホルムアルデヒドを用いて固定した。前記固定後、前記子宮体部をパラフィンに包埋し、厚さ3μmのパラフィン包埋切片を調製した。前記切片を脱パラフィン処理後、得られた切片を10mmol/lのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)内で、121℃で5分の条件下で、オートクレーブ処理をして抗原を活性化した。その後、Tween(登録商標)20を添加した3%BSA含有PBSを用いてブロッキングを行った。前記ブロッキング後、4℃で一晩の条件下で、1次抗体を反応させ、23℃で1時間の条件下で、2次抗体で染色を行った。前記1次抗体として、上皮細胞の染色には、ラット抗CK8抗体(50倍希釈、Troma-I、アイオワ大学から分譲)を、平滑筋細胞の染色には、マウス抗αSMA抗体(1000倍希釈、Cat.No:ab7817, アブカム社製)を使用した。前記2次抗体には、Alexa Fluor 488標識ヤギ抗ラット IgG(H + L)(500倍希釈、Cat.No:ab150157、アブカム社製)と、Alexa Fluor 594標識ヤギ抗マウス IgG(H + L)(500倍希釈、Cat.No:ab150116、アブカム社製)とを用いた。核の染色は、VECTASHIELD Hard Set Mounting Medium with DAPI (Vector Laboratories)を使用した。前記染色後、各切片について、光学顕微鏡(BZ-9000、キーエンス社製)、ImageJソフトウェアを用いて、子宮体の病理学的診断を行った。これらの結果を、図9に示す。
【0157】
図9は、子宮の上皮細胞の蛍光免疫染色の写真である。図9において、スケールバーは、100μmを示す。図9において、白色の破線は、子宮内膜間質と平滑筋層との境界線を示す。図9に示すように、コントロール(Control)では、上皮マーカーは、子宮内膜間質側に認められたが、平滑筋層には認められなかった。他方、子宮内膜がん(Tumor)では、上皮マーカーは、子宮内膜間質側だけでなく平滑筋層側にも認められた。以上のことから、本開示の方法によって得られた子宮がんモデルマウスにおける子宮内膜がんでは、上皮細胞が、平滑筋層に浸潤していることがわかった。
【0158】
以上の結果から、本開示のTp53、Pten、およびLkb1の全ての標的遺伝子に機能喪失変異が導入された三重変異体の子宮内膜がんにおいて、上皮組織由来の腫瘍であることがわかった。
【0159】
(10)三重変異体の子宮内膜がんにおけるホルモン受容体の検討
前記実施例1(7)における子宮に形成された腫瘍における性ステロイドホルモン受容体の発現を確認するため、ホルモン受容体であるプロゲステロン受容体(PR)およびエストロゲン受容体(ER)に関する免疫組織化学染色を行なった。前記腫瘍は、Tp53、Pten、およびLkb1の全ての標的遺伝子に機能喪失変異が導入された個体由来の腫瘍を用いた。具体的には、前記子宮体部の腫瘍を採取し、4%パラホルムアルデヒドを用いて固定した。前記固定後、前記子宮体部をパラフィンに包埋し、厚さ3μmのパラフィン包埋切片を調製した。前記切片を脱パラフィン処理後、得られた切片を10mmol/lのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)内で、121℃、5分の条件下で、オートクレーブ処理をして抗原を活性化した。その後、Tween(登録商標)20を添加した3%BSA含有PBSを用いてブロッキングを行った。前記ブロッキング後、4℃で一晩の条件下で、1次抗体を反応させた。前記1次抗体として、プロゲステロン受容体(PR)の染色には、ウサギ抗PR抗体(400倍希釈、Cat.No: ab101688、アブカム社製)を、エストロゲン受容体(ER)の染色には、ウサギ抗ER抗体(100倍希釈、Cat.No: ab75635、アブカム社製)を用いた。その後、前記染色後、室温、30分の条件下で、ヒストファイン シンプルステインMAX-PO(ニチレイ社製)を反応させた。前記反応後、3,3'-ジアミノベンジジンを用いて発色を行い、ヘマトキシリンを用いて対比染色を行った。前記染色後、光学顕微鏡(BZ-9000、キーエンス社製)を用いて、子宮体の病理学的診断を行った。これらの結果を、図10に示す。
【0160】
図10は、子宮のホルモン受容体の免疫組織化学染色の写真である。図10において、各列の写真において、上段の写真は、プロゲステロン受容体(PR)の染色画像を示し、下段写真は、エストロゲン受容体(ER)の染色画像を示す。図10において、スケールバーは、100μmを示す。図10に示すように、コントロール(Control)では、PRとERとが両方発現しているのが確認できた。他方、子宮内膜がん(Tumor)では、ERの発現は認められたものの、PRの発現は認められなかった。以上のことから、本開示の方法で得た子宮内膜がんは、PRの発現が消失していることがわかった。
【0161】
一般的に、ヒト子宮内膜がんでは、PRおよび/またはERの発現が認められなくなる症例がある。また、PR発現陰性がんは、プロゲステロンホルモン療法への感受性が悪いことが知られている。以上のことから、本開示のTp53、Pten、およびLkb1の全ての標的遺伝子に機能喪失変異が導入された三重変異体の子宮内膜がんは、ヒトのがんと同様に、ホルモン療法に効果が期待できないモデルであることが示唆された。
【0162】
以上、実施形態および実施例を参照して本開示を説明したが、本開示は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本開示の構成や詳細には、本開示のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0163】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願等の参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0164】
<付記>
上記の実施形態および実施例の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
<子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法>
(付記1)
非ヒト動物の子宮上皮細胞において、前記子宮上皮細胞のゲノムDNAと核酸編集モジュールとを接触させて、標的遺伝子に機能喪失変異を導入する変異導入工程を含み、
前記標的遺伝子は、PTEN遺伝子および肝臓キナーゼB1(LKB1)遺伝子を含む、子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法。
(付記2)
前記子宮上皮細胞外から前記子宮上皮細胞内に、前記核酸編集モジュールを導入する導入工程を含む、付記1に記載の製造方法。
(付記3)
前記導入は、エレクトロポレーション法により実施される、付記2に記載の製造方法。
(付記4)
前記核酸編集モジュールは、第1の核酸編集モジュールと、第2の核酸編集モジュールとを含み、
前記第1の核酸編集モジュールは、前記PTEN遺伝子に機能喪失変異を導入可能であり、
前記第2の核酸編集モジュールは、前記LKB1遺伝子に機能喪失変異を導入可能である、付記1から3のいずれかに記載の製造方法。
(付記5)
前記核酸配列編集モジュールは、CRISPR-Casシステムであり、
前記CRISPR-Casシステムは、
前記標的遺伝子の核酸配列に特異的に結合する核酸配列を含むガイド鎖と、
Casタンパク質と、
を含み、
前記ガイド鎖と、前記Casタンパク質とは、複合体を形成している、付記1から4のいずれかに記載の製造方法。
(付記6)
前記核酸編集モジュールは、前記核酸編集モジュールをコードする核酸であり、
前記核酸にコードされた前記核酸編集モジュールを発現する発現工程を含む、付記1から4のいずれかに記載の製造方法。
(付記7)
前記核酸配列編集モジュールは、CRISPR-Casシステムであり、
前記CRISPR-Casシステムは、
前記標的遺伝子の核酸配列に特異的に結合する核酸配列を含むガイド鎖と、
Casタンパク質と、
を含む、付記6に記載の製造方法。
(付記8)
前記標的遺伝子は、Tp53遺伝子を含む、付記1から7のいずれかに記載の製造方法。
(付記9)
前記核酸編集モジュールは、第3の核酸編集モジュールを含み、
前記第3の核酸編集モジュールは、前記Tp53遺伝子に機能喪失変異を導入可能である、付記8に記載の製造方法。
(付記10)
前記子宮上皮細胞は、子宮内膜上皮細胞であり、
前記子宮がんは、子宮内膜がんである、付記1から9のいずれかに記載の製造方法。
(付記11)
前記核酸編集モジュールは、Creレコンビナーゼを含まない、付記1から10のいずれかに記載の製造方法。
(付記12)
前記子宮上皮細胞のゲノムDNAは、loxP配列を含まない、付記1から11のいずれかに記載の製造方法。
(付記13)
前記核酸編集モジュールは、ウイルスベクターを含まない、付記1から12のいずれかに記載の製造方法。
(付記14)
前記子宮がんは、プロゲステロン受容体陰性である、付記1から13のいずれかに記載の製造方法。
(付記15)
前記子宮がんは、エストロゲン受容体陽性である、付記1から14のいずれかに記載の製造方法。
<子宮がんモデル非ヒト動物>
(付記16)
子宮上皮細胞のゲノムDNAは、PTEN遺伝子の機能喪失体、LKB1遺伝子の機能喪失体、およびTp53遺伝子の機能喪失体を含む、子宮がんモデル非ヒト動物。
(付記17)
前記子宮上皮細胞のゲノムDNAは、loxP配列を含まない、付記16に記載の非ヒト動物。
(付記18)
前記子宮上皮細胞は、子宮内膜上皮細胞であり、
前記子宮がんは、子宮内膜がんである、付記16または17に記載の非ヒト動物。
(付記19)
前記子宮上皮細胞由来の腫瘍が形成されている、付記16から18のいずれかに記載の非ヒト動物。
(付記20)
前記子宮がんは、プロゲステロン受容体陰性である、付記16から19のいずれかに記載の非ヒト動物。
(付記21)
前記子宮がんは、エストロゲン受容体陽性である、付記16から20のいずれかに記載の非ヒト動物。
<被検物質の評価方法>
(付記22)
被検物質を、子宮がんモデル非ヒト動物に投与する投与工程と、
前記子宮がんモデル非ヒト動物における子宮がんを評価する評価工程とを含み、
前記子宮がんモデル非ヒト動物は、付記1から15のいずれかに記載の子宮がんモデル非ヒト動物の製造方法により得られた子宮がんモデル非ヒト動物、および/または付記16から21のいずれかに記載の子宮がんモデル非ヒト動物である、被検物質の評価方法。
(付記23)
前記評価工程において、前記子宮がんの発生を抑制する、前記子宮がんを縮小する、および/または、前記子宮がんの増大を抑制する、被検物質を、子宮がんの治療薬候補物質として選抜する選抜工程を含む、付記22に記載の評価方法。
【産業上の利用可能性】
【0165】
以上のように、本開示によれば、野生型の非ヒト動物からも、子宮がんのモデル非ヒト動物を製造できる。また、本開示によれば、子宮上皮細胞由来の子宮がんを有する子宮がんモデル非ヒト動物を製造できる。このため、本開示は、例えば、生命科学分野および医薬分野等において極めて有用である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2023076344000001.app