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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076386
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】距離計付鉗子
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/82 20060101AFI20230525BHJP
【FI】
A61B17/82
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163805
(22)【出願日】2022-10-12
(62)【分割の表示】P 2021189235の分割
【原出願日】2021-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】591131408
【氏名又は名称】日本ビー・エックス・アイ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】511212240
【氏名又は名称】束原 幸俊
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 和雄
(72)【発明者】
【氏名】束原 幸俊
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL25
4C160LL37
(57)【要約】
【課題】 幅測定用の距離計付鉗子において、鉗子の把持部同士間の距離をデジタル表示することにより、把持部同士間の距離を容易に間違いなく読み取り可能とする
【解決手段】 一対の揺動柄の一方46Lに固定されたメータ50を備え、一対の揺動柄の他方46Rは、メータ50の固定方向で見てメータ50と重なる範囲で、ヒンジピン44を中心とした仮想円45Kと交差する箇所にメータ50に向けて突出するスライドピン45A、Bを備え、メータ50は、一対の揺動柄46R、Lの揺動角度を検出する角度センサと、角度センサによって検出された揺動角度を一対の把持部42R、L同士の離間距離に変換する変換回路と、変換回路の出力信号を受けて一対の把持部42R、L同士の離間距離をデジタル表示する表示部と、を備え、角度センサは、スライドピン45A、Bの位置に応じて検出信号を出力するように構成されている。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶合金製の棒状体の両端を湾曲して形成され、開胸手術により左右方向に切り離された胸骨を結合状態に保持するように胸骨を係止して把持可能とした一対のフック部と、
該一対のフック部間に設けられ、前記一対のフック部を互いに離間した状態で、その離間距離を調整可能に結合する環形状のリング部と、を備え、
左右方向に切り離された胸骨を前記フック部により把持した状態で、前記リング部が形状回復温度以上の温度に達すると、前記リング部の環形状が記憶形状を回復することにより前記一対のフック部間の離間距離を縮め、左右方向に切り離された胸骨を接合状態とする胸骨クリップであって、
胸骨を結合した状態で胸骨と接触する前記一対のフック部は、胸骨との接触面積を増大させる面積増大部を備える胸骨クリップ。
【請求項2】
請求項1において、
前記一対のフック部は、前記棒状体の長さを長くして途中で折り返し、胸骨の長手方向に分散配置可能とされて前記面積増大部が形成されている胸骨クリップ。
【請求項3】
請求項1において、
前記一対のフック部は、前記棒状体が断面長円形状とされており、該長円形状は、前記各フック部において胸骨に当接する側を前記湾曲形状の内周として内外周が対向する方向の肉厚を、その方向に交差する方向の肉厚に比べて薄く形成して前記面積増大部が形成されている胸骨クリップ。
【請求項4】
請求項2又は3において、
前記一対のフック部は、胸骨に当接する当接面が凹凸面により形成されている胸骨クリップ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかにおいて、
前記棒状体は、超弾性効果を得られる形状記憶合金である胸骨クリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開胸手術により胸部正面中心部で左右方向に切り離された胸骨を再結合して固定するための胸骨クリップに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、上記胸骨クリップの一例が開示されている。係る胸骨クリップは、形状記憶合金製の棒状体の両端を湾曲して形成された一対のフック部と、一対のフック部の間に形成された環形状のリング部と、を備える。一対のフック部は、左右方向に切り離された胸骨を結合状態に保持するように係止して把持可能とする。また、リング部は、一対のフック部を互いに離間した状態で離間距離を変更可能に結合している。胸骨クリップは、左右方向に切り離された胸骨をフック部により把持する。その状態で、リング部が形状回復温度以上の温度に達すると、リング部の環形状が記憶形状に戻ることにより一対のフック部間の離間距離を縮め、左右方向に切り離された胸骨を接合状態とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6969391号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
胸骨は、同一個体内での部位毎、また、個体毎に左右幅や前後厚が異なる。そのため、胸骨クリップとしては、大きさの異なる複数種類のものが使い分けられている。
【0005】
しかし、胸骨の形状も、同一個体内での部位毎、また、個体毎に違いがある。そのため、胸骨クリップを大きさの異なるものの中から選択して使用しても、胸骨の形状と胸骨クリップの形状の相違から、胸骨を結合した状態で胸骨クリップの姿勢が安定せず、ぐらつくことがあり、胸骨の結合状態が意に反して不安定になることがある。
【0006】
本発明の課題は、胸骨を結合した状態の胸骨クリップと胸骨との接触面積を増大させることにより、胸骨を結合した状態の胸骨クリップの姿勢を安定させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の胸骨クリップは、形状記憶合金製の棒状体の両端を湾曲して形成され、開胸手術により左右方向に切り離された胸骨を結合状態に保持するように胸骨を係止して把持可能とした一対のフック部と、該一対のフック部間に設けられ、前記一対のフック部を互いに離間した状態で、その離間距離を調整可能に結合する環形状のリング部と、を備え、左右方向に切り離された胸骨を前記フック部により把持した状態で、前記リング部が形状回復温度以上の温度に達すると、前記リング部の環形状が記憶形状を回復することにより前記一対のフック部間の離間距離を縮め、左右方向に切り離された胸骨を接合状態とする胸骨クリップであって、胸骨を結合した状態で胸骨と接触する前記一対のフック部は、胸骨との接触面積を増大させる面積増大部を備える。
【0008】
第1発明によれば、一対のフック部に胸骨との接触面積を増大させる面積増大部を備える。そのため、一対のフック部が胸骨に対して広い面積で接触可能で、胸骨の形状と胸骨クリップの形状に相違があっても、胸骨を結合した状態の胸骨クリップの姿勢が不安定にぐらつくことが抑制される。その結果、胸骨クリップによる胸骨の結合状態を安定させることができる。
【0009】
第2発明は、上記第1発明において、前記一対のフック部は、前記棒状体の長さを長くして途中で折り返し、胸骨の長手方向に分散配置可能とされて前記面積増大部が形成されている。
【0010】
第2発明によれば、一対のフック部を成す棒状体の長さを長くすることにより面積増大部が形成されている。そのため、上記第1発明と同様に胸骨クリップによる胸骨の結合状態を安定させることができる。
【0011】
第3発明は、上記第1発明において、前記一対のフック部は、前記棒状体が断面長円形状とされており、該長円形状は、前記各フック部において胸骨に当接する側を前記湾曲形状の内周として内外周が対向する方向の肉厚を、その方向に交差する方向の肉厚に比べて薄く形成して前記面積増大部が形成されている。
【0012】
第3発明によれば、各フック部が断面長円形状とされることにより面積増大部が形成されている。そのため、上記第1発明と同様に胸骨クリップによる胸骨の結合状態を安定させることができる。
【0013】
第4発明は、上記第2又は第3発明において、前記一対のフック部は、胸骨に当接する当接面が凹凸面により形成されている。
【0014】
第4発明によれば、各フック部における胸骨との当接面が凹凸面により形成されている。そのため、一対のフック部における胸骨との摩擦抵抗を増大させることができる。その結果、胸骨クリップによる胸骨の結合状態を安定させることができる。
【0015】
第5発明は、上記第1~第4発明のいずれかにおいて、前記棒状体は、超弾性効果を得られる形状記憶合金である。
【0016】
第5発明によれば、棒状体は記憶した形状から変形が加えられても変形力を解除されると超弾性効果により記憶した形状に戻る弾性力を有する。そのため、胸骨の形状に応じて変形された胸骨クリップの一対のフック部は、弾性力を持って胸骨を把持することができる。従って、一対のフック部による胸骨の把持力を強めることができる。その結果、胸骨クリップによる胸骨の結合状態を安定させることができる。
【0017】
第6発明は、互いに交差状態で揺動自在に結合された一対の揺動柄と、該一対の揺動柄を揺動自在に結合するヒンジピンと、前記一対の揺動柄の各一端部に設けられ、操作者による前記一対の揺動柄の揺動操作を可能とする一対の操作部と、前記一対の揺動柄の各他端部に設けられ、対象物を把持可能とする一対の把持部と、を備える鉗子において、前記一対の揺動柄の一方に固定されたメータを備え、また、前記一対の揺動柄は、前記メータの固定方向で見て前記メータと重なる範囲で、前記ヒンジピンを中心とした仮想円と交差する箇所に前記メータに向けて突出するスライドピンを備え、前記メータは、前記一対の揺動柄の揺動角度を検出する角度センサと、該角度センサによって検出された揺動角度を前記一対の把持部同士の離間距離に変換する変換回路と、該変換回路の出力信号を受けて前記一対の把持部同士の離間距離をデジタル表示する表示部と、前記角度センサ、前記変換回路、及び前記表示部を収容するケースと、前記スライドピンに対応して前記ケースに形成され、前記一対の揺動柄の所定角度の揺動に伴う前記スライドピンの動きに沿うように円弧状に形成された案内溝と、を備え、前記角度センサは、前記案内溝内で移動する前記スライドピンの位置に応じて検出信号を出力するように構成されている距離計付鉗子である。
【0018】
第6発明によれば、鉗子の把持部同士間の距離をデジタル表示により容易に間違いなく読み取れるように表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態を示す斜視図である。
図2】第1実施形態の平面図である。
図3】第1実施形態の正面図である。
図4】本発明の第2実施形態を示す斜視図である。
図5】第2実施形態の平面図である。
図6】第2実施形態の正面図である。
図7図6のVII-VII線断面矢視図である。
図8図6のVIII-VIII線断面矢視図である。
図9図6のIX-IX線断面矢視図である。
図10図6のX矢視拡大図である。
図11】第1実施形態及び第2実施形態の胸骨クリップにより開胸手術で左右方向に切り離された胸骨を再結合する様子を説明する説明図であり、再結合前の胸骨を体外側から見た状態で示す。
図12図11と同様の説明図であり、再結合が完了した胸骨を体外側から見た状態で示す。
図13図11と同様の説明図であり、再結合された胸骨を体内側から見た状態で示す。
図14】胸骨クリップにより再結合される部位の胸骨の寸法を測る距離計付鉗子の正面図である。
図15図14と同様の距離計付鉗子の背面図である。
図16図14と同様の距離計付鉗子の電気回路部分のブロック図である。
図17】本発明の第3実施形態を示す斜視図である。
図18】第3実施形態の平面図である。
図19】第3実施形態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
図1~3は、本発明の胸骨クリップの第1実施形態を示す。第1実施形態の胸骨クリップ10は、形状記憶合金製の棒状体11により全体が形成されている。形状記憶合金としては、ニッケル・チタン(Ni・Ti)合金が使用される。棒状体11の両端は、それぞれ線対称に湾曲されて一対のフック部12が形成されている。各フック部12は、図11のように開胸手術により中心部で左右方向に切り離された胸骨Sを結合状態に保持するように係止して把持可能な形状とされている。しかも、各フック部12は、棒状体11の途中で先端側が2本に分岐されて、それぞれフック部12A、12Bとされている。一対のフック部12A、12Bのうちの一方が本発明の面積増大部に相当する。各フック部12A、12Bは、分岐部分で1本の長いフック部12A、12Bが折り返されていると見做すこともできる。各フック部12A、12Bは、図11のように胸骨Sの長手方向(上下方向)に分散配置される。そのため、フック部12が分岐されない場合(面積増大部を備えない場合)に比べて、フック部12A、12Bでは、胸骨Sとの接触面積が増大されている。なお、ここでは一対のフック部12がそれぞれ2本に分岐されたが、3本以上に分岐されてもよい。図11、12では、胸骨を体外側から見たときの各方向を矢印により示している。また、図13では、胸骨を体内側から見たときの各方向を矢印により示している。
【0021】
胸骨クリップ10において、一対のフック部12の間で両者をつなぐ部分には環形状のリング部13が形成されている。リング部13は、環形状の一部が開かれて形成されている。環形状の開かれた部分である開放部13Aの開き度合α(図2参照)を調整することにより一対のフック部12同士の離間距離β(図3参照)が調整可能に構成されている。リング部13を含む棒状体11は、図1、2に図示した状態で形状記憶合金としての形状を記憶されている。そのため、形状回復温度(例えば、27°C)より低い温度で棒状体11が変形されて、例えば開放部13Aの開き度合αが図1、2に図示した状態より大きくされても、棒状体11が形状回復温度以上の温度とされると、図1、2に図示した状態に戻される。
【0022】
<第1実施形態の作用>
図11のように、開胸手術により左右方向に開かれた左右の胸骨SL、SRを再結合するとき、胸骨クリップ10の一対のフック部12を左右の胸骨SL、SRの両外側に係合して把持する。このとき、胸骨クリップ10は、胸骨SL、SRの左右幅、前後厚に応じて適宜の大きさのものを選択使用する。また、リング部13の開放部13Aの開き度合α(図2参照)を大きくするようにリング部13を変形することにより、一対のフック部12の離間距離β(図3参照)を大きくして、一対のフック部12を左右の胸骨SL、SRの両外側に容易に係合させることができる。このとき、胸骨クリップ10の温度は、形状回復温度より低くなるように冷水などで冷却されている。
【0023】
このように胸骨クリップ10により左右の胸骨SL、SRを把持した状態で、胸骨クリップ10を記憶形状に戻すべく胸骨クリップ10を形状回復温度以上の温度に加熱する。そのため、胸骨クリップ10を温水で温めたガーゼにくるむなどする。胸骨クリップ10が記憶形状に戻されると、図12、13のように、胸骨クリップ10のリング部13の開放部13Aの開き度合α(図2参照)が変形前の状態に戻る。そのため、一対のフック部12の離間距離β(図3参照)も変形前の状態に戻り、左右の胸骨SL、SRを接合状態とする。
【0024】
このように胸骨クリップ10が形状回復温度以上に加熱された状態では、形状記憶合金である棒状体11は、超弾性効果により、記憶した形状から変形が加えられると、記憶した形状に戻ろうとする弾性力を有する。そのため、胸骨Sの形状に応じて変形された胸骨クリップ10の一対のフック部12は、弾性力を持って胸骨Sを把持することができる。従って、一対のフック部12による胸骨Sの把持力を強めることができる。しかも、各フック部12は、それぞれ2本に分岐されているため、分岐されたフック部12A、12Bのそれぞれが互いに独立して変形して胸骨Sを把持する。そのため、フック部12における胸骨Sとの接触面積を大きくすることができる。従って、胸骨Sの形状と胸骨クリップ10の形状に相違があっても、胸骨Sを結合した状態の胸骨クリップ10の姿勢が不安定にぐらつくことが抑制される。その結果、胸骨クリップ10による胸骨Sの結合状態を安定させることができる。
【0025】
<胸骨SL、SRの接合状態での左右幅測定>
図14、15は、上述のように適宜の大きさの胸骨クリップ10を選択する際に、胸骨SL、SRの接合状態での左右幅を測定するための距離計付鉗子40の一例を示す。この場合の距離計付鉗子40は、ラチェット部43R、43L(Rは右側、Lは左側を示す。他の部位でも同様。)を備えた一般的な把持鉗子にメータ50を付設したものである。
【0026】
距離計付鉗子40は、互いに交差配置された一対の揺動柄46R、46Lが交差部においてヒンジピン44により揺動自在に結合されている。一対の揺動柄46R、46Lの一端側は操作者が手指を挿入して操作するためのリング状部を備える操作部41R、41Lとされ、他端側は胸骨SL、SRに当接してこれを把持可能とする把持部42R、42Lとされている。一対の揺動柄46R、46Lの操作部41R、41Lに隣接する部位には、ラチェット部43R、43Lが設けられている。ラチェット部43R、43Lは、それぞれラチェット歯43Tが対向配置され、一方のラチェット部43Rは端部が揺動柄46Rに固定され、他方のラチェット部43Lは端部が揺動柄46Lに固定されている。各ラチェット歯43Tは、揺動柄46R、46Lが操作されない自由状態では、互いに噛み合い状態とされている。この噛み合い状態では、各操作部41R、41L及び各把持部42R、42Lが互いに離間する方向に揺動柄46R、46Lが揺動することが阻止されている。反対に、各操作部41R、41L及び各把持部42R、42Lが互いに近接する方向に揺動柄46R、46Lが揺動することは許容されている。そのため、一対の把持部42R、42Lを胸骨SL、SRに当接させて、胸骨SL、SRの接合状態での左右幅を測定するとき、各操作部41R、41Lを互いに近接させて、各把持部42R、42Lにより胸骨SL、SRを互いに当接させて、そのときの胸骨SL、SRの左右幅を測定する。この測定中、各操作部41R、41Lの操作力を解除しても、揺動柄46R、46Lの相対角度は各ラチェット歯43Tの噛合いにより保持される。従って、上記測定を安定的に精度よく行うことができる。各ラチェット歯43Tの噛み合い状態の解除は、各ラチェット歯43Tを互いに離間するように、図14、15の紙面で上下方向に操作することにより可能となる。
【0027】
メータ50は、ケース51により外装され、ケース51は一方の揺動柄46Lに溶着固定されている。その固定位置は、他方の揺動柄46Rが当接する側とは反対側とされている。そして、揺動柄46Rには、ケース51の背面側に向けて2本のスライドピン45A、45Bが突出して形成されている。2本のスライドピン45A、45Bは、ケース51の固定方向で見てケース51と重なる範囲で、ヒンジピン44を中心とした仮想円45Kと交差する揺動柄46R上の2箇所にケース51に向けて突出している。ケース51の背面側には、スライドピン45A、45Bに対応して2つの案内溝55A、55Bがそれぞれ形成されている。揺動柄46R、46Lの揺動に応じてスライドピン45A、45Bが案内溝55A、55B内で移動自在とするため、案内溝55A、55Bは、スライドピン45A、45Bの揺動軌跡(仮想円45Kと一致する)に沿うように背面視で円弧形状に形成されている。従って、この円弧形状の円弧中心は、ヒンジピン44である。
【0028】
図16は、メータ50の電気回路を示す。メータ50は、揺動柄46R、46Lの揺動に伴い変化する一対の把持部42R、42Lの離間距離をデジタル表示するものである。角度センサ56は、揺動柄46R、46Lの揺動角度を検出する。そのため、角度センサ56は、各案内溝55A、55Bに対応して設けられ、対応するスライドピン45A、45Bの移動位置を検出する。角度センサ56の検出信号を受ける変換回路57は、角度センサ56の検出信号を一対の把持部42R、42Lの離間距離に換算して変換する。変換回路57の出力信号を受ける表示部52は、一対の把持部42R、42Lの離間距離をデジタル表示する。角度センサ56は、各案内溝55A、55Bに対応して設けられた各角度センサ56の検出信号の平均値を変換回路57に出力するようにされている。角度センサ56は、案内溝55A、55Bの一方にのみ設けられてもよい。その場合、案内溝55A、55B及びスライドピン45A、45Bの組み合わせも上述のように2組設ける必要はなく、いずれか1組のみ設けられればよい。
【0029】
メータ50は、ケース51に電源スイッチ53を備える。また、ゼロ点調整をするためのリセットスイッチ54をケース51に備える。電源スイッチ53がオン操作されると、電源回路58が作動され、角度センサ56、変換回路57、及び表示部52に電源が供給される。従って、電源スイッチ53がオン操作されると、距離計付鉗子40が作動可能となり、一対の把持部42R、42Lの離間距離測定が可能となる。それ以外では電源スイッチ53はオフ操作される。また、リセットスイッチ54は、表示部52のデジタル表示を「ゼロ」とするように変換回路57の出力をリセットする。従って、揺動柄46R、46Lの揺動角度(開き角度)をゼロとした状態でリセットスイッチ54をオン操作することにより、そのときの表示部52の表示をゼロとすることができる。その結果、距離計付鉗子40による一対の把持部42R、42Lの離間距離測定の精度を常時高い状態に維持することができる。ケース51は、図16の電気回路を構成する部品の全てを収容している。
【0030】
距離計付鉗子40を用いて胸骨SL、SRの接合状態での左右幅を測定することにより、胸骨SL、SRの部位毎に適切な大きさの胸骨クリップを選択することができる。
【0031】
<第2実施形態>
図4~6は、本発明の胸骨クリップの第2実施形態を示す。第2実施形態の胸骨クリップ20が第1実施形態の胸骨クリップ10に対して特徴とする点は、一対のフック部22の形状を変更した点である。その他の構成は、両者同一であり、同一部分についての再度の説明は省略する。第2実施形態の胸骨クリップ20では、第1実施形態の胸骨クリップ10と対応する部位に、胸骨クリップ10における符号に「10」を加算した符号を付している。
【0032】
第2実施形態の胸骨クリップ20は、リング部23に隣接する棒状体21が図7のように断面円形であるのに対し、一対のフック部22は、図8、9のように断面長円形とされている。この場合の長円形は、胸骨Sに当接する側を湾曲形状の内周22Aとして、内周22Aと外周22Bが対向する方向の肉厚D1、D3を、その方向に交差する方向の肉厚D2、D4に比べて薄く形成している。しかも、棒状体21の直径D0に対して肉厚D2,D4は、D4>D2>D0とされている。フック部22の断面長円形の部位において直径D0を超える部位が本発明の面積増大部に相当する。
【0033】
また、図10のように各フック部22の内周22A表面には、格子状溝(本発明の凹凸面に相当)22Cが施されている。格子状溝22Cは、内周22A表面に格子状模様をプレス機等で転写することにより形成されている。そのため、内周22A表面は、凹凸面とされている。
【0034】
第1実施形態の胸骨クリップ10と同様に、図11のように胸骨クリップ20は、一対のフック部22を左右の胸骨SL、SRの両外側に係合して把持する。胸骨クリップ20でも、胸骨SL、SRの左右幅、前後厚に応じて適宜の大きさのものが選択使用される。胸骨クリップ20では、フック部22が断面長円形とされている。そのため、一対のフック部22を左右の胸骨SL、SRの両外側に係合して把持した状態で胸骨クリップ20を形状回復させたとき、フック部22が断面円形の場合に比べて胸骨Sに対するフック部22の接触面積が大きいため、胸骨クリップ20による胸骨Sの結合状態を安定させることができる。しかも、フック部22の内周22A表面には、格子状溝22Cが施されているため、胸骨クリップ20の胸骨Sに対する摩擦抵抗を高めることができる。従って、胸骨クリップ20による胸骨Sの結合状態を更に安定させることができる。
【0035】
<第1及び第2実施形態の使用方法>
図11~13では、胸骨Sの上側部分に胸骨クリップ10を2個使用し、下側部分に胸骨クリップ20を2個使用して、左右に切り離された胸骨SL、SRを上下両側で結合している。このように胸骨クリップ10と胸骨クリップ20を併用する場合、フック部12又は22が係合される部分の胸骨Sの形状に適した胸骨クリップ10又は20を選択して使い分けることができる。
【0036】
<第3実施形態>
図16~18は、本発明の胸骨クリップの第3実施形態を示す。第3実施形態の胸骨クリップ30が第1実施形態の胸骨クリップ10に対して特徴とする点は、一対のフック部32の形状を変更した点である。その他の構成は、両者同一であり、同一部分についての再度の説明は省略する。第3実施形態の胸骨クリップ30では、第1実施形態の胸骨クリップ10と対応する部位に、胸骨クリップ10における符号に「20」を加算した符号を付している。
【0037】
第3実施形態の胸骨クリップ30は、フック部32を成す棒状体31を第1実施形態の胸骨クリップ10のフック部12と同様に湾曲させ、且つ湾曲させた先端部32Cとなる部位を同じ湾曲形状で折り返している。それにより、フック部32A、32Bが、図11の胸骨クリップ10のフック部12A、12Bと同様、胸骨Sの長手方向(上下方向)に分散配置される。フック部32A、32Bのうちの一方が本発明の面積増大部に相当する。
【0038】
第3実施形態の胸骨クリップ30は、一対のフック部32がそれぞれ2本のフック部32A、32Bにより胸骨Sを把持するため、フック部32における胸骨Sとの接触面積を大きくすることができる。従って、胸骨Sの形状と胸骨クリップ30の形状に相違があっても、胸骨Sを結合した状態の胸骨クリップ30の姿勢が不安定にぐらつくことが抑制される。その結果、胸骨クリップ30による胸骨Sの結合状態を安定させることができる。
【0039】
<その他の実施形態>
以上、特定の実施形態について説明したが、本発明は、それらの外観、構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、格子状溝による凹凸面を第2実施形態の胸骨クリップ20の一対のフック部22に形成したが、第1実施形態の胸骨クリップ10の一対のフック部12、若しくは第3実施形態の胸骨クリップ30の一対のフック部32に形成してもよい。また、凹凸面は格子状溝に限定されず、胸骨との摩擦抵抗を高めるものであれば各種のものが採用可能である。
【符号の説明】
【0040】
10、20、30 胸骨クリップ
11、21、31 棒状体
12、12A、12B、22、32、32A、32B フック部(一部が面積増大部)
22A 内周
22B 外周
22C 格子状溝(凹凸面)
32C 先端部
13、23、33 リング部
13A、23A、33A 開放部
40 距離計付鉗子
41R、41L 操作部
42R、42L 把持部
43R、43L ラチェット部
43T ラチェット歯
44 ヒンジピン
45A、45B スライドピン
45K 仮想円
46R、46L 揺動柄
50 メータ
51 ケース
52 表示部
53 電源スイッチ
54 リセットスイッチ
55A、55B 案内溝
56 角度センサ
57 変換回路
58 電源回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【手続補正書】
【提出日】2023-02-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに交差状態で揺動自在に結合された一対の揺動柄と、
該一対の揺動柄を揺動自在に結合するヒンジピンと、
前記一対の揺動柄の各一端部に設けられ、操作者による前記一対の揺動柄の揺動操作を可能とする一対の操作部と、
前記一対の揺動柄の各他端部に設けられ、対象物を把持可能とする一対の把持部と、
を備える鉗子において、
前記一対の揺動柄の一方で、前記一対の揺動柄の他方が当接する側とは反対側に固定されたメータを備え、
また、前記一対の揺動柄の他方は、前記メータの固定方向で見て前記メータと重なる範囲で、前記ヒンジピンを中心とした仮想円と交差する箇所に前記メータに向けて突出するスライドピンを備え、
前記メータは、
前記一対の揺動柄の揺動角度を検出する角度センサと、
該角度センサによって検出された揺動角度を前記一対の把持部同士の離間距離に変換する変換回路と、
該変換回路の出力信号を受けて前記一対の把持部同士の離間距離をデジタル表示する表示部と、
前記角度センサ、前記変換回路、及び前記表示部を収容するケースと、
前記スライドピンに対応して前記ケースに形成され、前記一対の揺動柄の所定角度の揺動に伴う前記スライドピンの動きに沿うように円弧状に形成され、前記スライドピンの動きを許容する案内溝と、
を備え、
前記角度センサは、前記案内溝内で移動する前記スライドピンの位置に応じて検出信号を出力するように構成されている距離計付鉗子。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離計付鉗子に関する。
【背景技術】
【0002】
開胸手術により胸部正面中心部で左右方向に切り離された胸骨を再結合する際には、左右の胸骨を結合状態に保持するために胸骨クリップが用いられる。再結合される胸骨の左右幅は、その部位や個人差により違いがある。そのため、胸骨クリップは、胸骨の左右幅の違いに合わせるように大きさを変えて複数種用意される。複数種の中での胸骨クリップの選定は、再結合される胸骨の左右幅を胸骨幅測定用鉗子により測定し、その測定結果に基づいて行われる。
【0003】
図20、21は、従来用いられている胸骨幅測定用鉗子の一例を示す。この鉗子は、一般的な鉗子と同様、互いに交差状態で揺動自在に結合された一対の揺動柄AR、ALと、該一対の揺動柄AR、ALを揺動自在に結合するヒンジピンDと、一対の揺動柄AR、ALの各一端部に設けられ、操作者による一対の揺動柄AR、ALの揺動操作を可能とする一対の操作部BR、BLと、一対の揺動柄AR、ALの各他端部に設けられ、対象物を把持可能とする一対の把持部CR、CLと、を備える。また、一対の揺動柄AR、ALのヒンジピンDより各操作部BR、BL側には、操作部BR、BLの操作解除後に一対の揺動柄AR、ALの揺動角度が大きくなるように開くのを規制するロック機構Eと、一対の把持部CR、CLの相対距離を測定する目盛板Fと、を備える。
【0004】
ロック機構Eは、雄ネジ体Eaと、その雄ネジ体Eaに螺合する雌ネジ体Ebと、を備える。雄ネジ体Eaは、一方の揺動柄ALを貫通して配置され、一端が他方の揺動柄ARに固定されている。雌ネジ体Ebは、一方の揺動柄ALに対して他方の揺動柄AR側とは反対側で雄ネジ体Eaに螺合されている。雌ネジ体Ebの雄ネジ体Eaに対する螺合位置により一対の揺動柄AR、ALの揺動角度が大きくなるように開くのを規制している。
【0005】
目盛板Fは、ヒンジピンDを中心とした円弧形状に形成された板体であり、一対の揺動柄AR、ALに跨った状態で一端部が一方の揺動柄ALに固定されている。目盛板Fの板面上には、一対の把持部CR、CLの相対距離を示す目盛Faが刻まれている。
【0006】
一対の把持部CR、CLの間に再結合される胸骨を挟んだ状態で一対の操作部BR、BLの相対距離を縮める方向に操作することにより左右に切り離された胸骨を結合することができる。このときロック機構Eの雌ネジ体Ebの雄ネジ体Eaに対する螺合位置を調整して、操作部BR、BLの操作解除後に一対の揺動柄AR、ALの相対角度が変化しないようにすることにより左右の胸骨を結合した状態に保持することができる。同時に目盛板Fが他方の揺動柄AR上の指示線Fbと交差している位置の目盛Faを読み取ることにより、一対の把持部CR、CLの相対距離を測定することができる。この相対距離は、左右の胸骨の幅に等しいので、その距離に相当する胸骨クリップを使用して胸骨を固定することができる。
【0007】
かかる従来の胸骨幅測定用鉗子に類似の鉗子として荷重測定器を備えた鉗子が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10-127649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図20、21で説明した胸骨幅測定用鉗子では、目盛板Fがアナログ表示のため、目盛板Fを見る角度によっては把持部CR、CL同士間の距離を精度良く測定することができない。
【0010】
本発明の課題は、幅測定用の距離計付鉗子において、鉗子の把持部同士間の距離をデジタル表示することにより、把持部同士間の距離を容易に間違いなく読み取り可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の距離計付鉗子は、互いに交差状態で揺動自在に結合された一対の揺動柄と、該一対の揺動柄を揺動自在に結合するヒンジピンと、前記一対の揺動柄の各一端部に設けられ、操作者による前記一対の揺動柄の揺動操作を可能とする一対の操作部と、前記一対の揺動柄の各他端部に設けられ、対象物を把持可能とする一対の把持部と、を備える鉗子において、前記一対の揺動柄の一方で、前記一対の揺動柄の他方が当接する側とは反対側に固定されたメータを備え、また、前記一対の揺動柄の他方は、前記メータの固定方向で見て前記メータと重なる範囲で、前記ヒンジピンを中心とした仮想円と交差する箇所に前記メータに向けて突出するスライドピンを備え、前記メータは、前記一対の揺動柄の揺動角度を検出する角度センサと、該角度センサによって検出された揺動角度を前記一対の把持部同士の離間距離に変換する変換回路と、該変換回路の出力信号を受けて前記一対の把持部同士の離間距離をデジタル表示する表示部と、前記角度センサ、前記変換回路、及び前記表示部を収容するケースと、前記スライドピンに対応して前記ケースに形成され、前記一対の揺動柄の所定角度の揺動に伴う前記スライドピンの動きに沿うように円弧状に形成され、前記スライドピンの動きを許容する案内溝と、を備え、前記角度センサは、前記案内溝内で移動する前記スライドピンの位置に応じて検出信号を出力するように構成されている距離計付鉗子である。
【0012】
発明によれば、鉗子の把持部同士間の距離をデジタル表示により容易に間違いなく読み取れるように表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1胸骨クリップの第1を示す斜視図である。
図2】第1の平面図である。
図3】第1の正面図である。
図4胸骨クリップの第2を示す斜視図である。
図5】第2の平面図である。
図6】第2の正面図である。
図7図6のVII-VII線断面矢視図である。
図8図6のVIII-VIII線断面矢視図である。
図9図6のIX-IX線断面矢視図である。
図10図6のX矢視拡大図である。
図11】第1及び第2の胸骨クリップにより開胸手術で左右方向に切り離された胸骨を再結合する様子を説明する説明図であり、再結合前の胸骨を体外側から見た状態で示す。
図12図11と同様の説明図であり、再結合が完了した胸骨を体外側から見た状態で示す。
図13図11と同様の説明図であり、再結合された胸骨を体内側から見た状態で示す。
図14本発明に係る距離計付鉗子の一実施形態の正面図である。
図15一実施形態の背面図である。
図16一実施形態の電気回路部分のブロック図である。
図17胸骨クリップの第3を示す斜視図である。
図18】第3の平面図である。
図19】第3の正面図である。
図20本発明の従来例を示す正面図である。
図21図20と同様の従来例の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
胸骨クリップの第1
図1~3は、胸骨クリップの第1を示す。第1の胸骨クリップ10は、形状記憶合金製の棒状体11により全体が形成されている。形状記憶合金としては、ニッケル・チタン(Ni・Ti)合金が使用される。棒状体11の両端は、それぞれ線対称に湾曲されて一対のフック部12が形成されている。各フック部12は、図11のように開胸手術により中心部で左右方向に切り離された胸骨Sを結合状態に保持するように係止して把持可能な形状とされている。しかも、各フック部12は、棒状体11の途中で先端側が2本に分岐されて、それぞれフック部12A、12Bとされている。一対のフック部12A、12Bのうちの一方が面積増大部を構成する。各フック部12A、12Bは、分岐部分で1本の長いフック部12A、12Bが折り返されていると見做すこともできる。各フック部12A、12Bは、図11のように胸骨Sの長手方向(上下方向)に分散配置される。そのため、フック部12が分岐されない場合(面積増大部を備えない場合)に比べて、フック部12A、12Bでは、胸骨Sとの接触面積が増大されている。なお、ここでは一対のフック部12がそれぞれ2本に分岐されたが、3本以上に分岐されてもよい。図11、12では、胸骨を体外側から見たときの各方向を矢印により示している。また、図13では、胸骨を体内側から見たときの各方向を矢印により示している。
【0015】
胸骨クリップ10において、一対のフック部12の間で両者をつなぐ部分には環形状のリング部13が形成されている。リング部13は、環形状の一部が開かれて形成されている。環形状の開かれた部分である開放部13Aの開き度合α(図2参照)を調整することにより一対のフック部12同士の離間距離β(図3参照)が調整可能に構成されている。リング部13を含む棒状体11は、図1、2に図示した状態で形状記憶合金としての形状を記憶されている。そのため、形状回復温度(例えば、27°C)より低い温度で棒状体11が変形されて、例えば開放部13Aの開き度合αが図1、2に図示した状態より大きくされても、棒状体11が形状回復温度以上の温度とされると、図1、2に図示した状態に戻される。
【0016】
<第1の作用>
図11のように、開胸手術により左右方向に開かれた左右の胸骨SL、SRを再結合するとき、胸骨クリップ10の一対のフック部12を左右の胸骨SL、SRの両外側に係合して把持する。このとき、胸骨クリップ10は、胸骨SL、SRの左右幅、前後厚に応じて適宜の大きさのものを選択使用する。また、リング部13の開放部13Aの開き度合α(図2参照)を大きくするようにリング部13を変形することにより、一対のフック部12の離間距離β(図3参照)を大きくして、一対のフック部12を左右の胸骨SL、SRの両外側に容易に係合させることができる。このとき、胸骨クリップ10の温度は、形状回復温度より低くなるように冷水などで冷却されている。
【0017】
このように胸骨クリップ10により左右の胸骨SL、SRを把持した状態で、胸骨クリップ10を記憶形状に戻すべく胸骨クリップ10を形状回復温度以上の温度に加熱する。そのため、胸骨クリップ10を温水で温めたガーゼにくるむなどする。胸骨クリップ10が記憶形状に戻されると、図12、13のように、胸骨クリップ10のリング部13の開放部13Aの開き度合α(図2参照)が変形前の状態に戻る。そのため、一対のフック部12の離間距離β(図3参照)も変形前の状態に戻り、左右の胸骨SL、SRを接合状態とする。
【0018】
このように胸骨クリップ10が形状回復温度以上に加熱された状態では、形状記憶合金である棒状体11は、超弾性効果により、記憶した形状から変形が加えられると、記憶した形状に戻ろうとする弾性力を有する。そのため、胸骨Sの形状に応じて変形された胸骨クリップ10の一対のフック部12は、弾性力を持って胸骨Sを把持することができる。従って、一対のフック部12による胸骨Sの把持力を強めることができる。しかも、各フック部12は、それぞれ2本に分岐されているため、分岐されたフック部12A、12Bのそれぞれが互いに独立して変形して胸骨Sを把持する。そのため、フック部12における胸骨Sとの接触面積を大きくすることができる。従って、胸骨Sの形状と胸骨クリップ10の形状に相違があっても、胸骨Sを結合した状態の胸骨クリップ10の姿勢が不安定にぐらつくことが抑制される。その結果、胸骨クリップ10による胸骨Sの結合状態を安定させることができる。
【0019】
一実施形態
図14、15は、本発明の一実施形態の距離計付鉗子40を示す。距離計付鉗子40は、上述のように適宜の大きさの胸骨クリップ10を選択する際に、胸骨SL、SRの接合状態での左右幅を測定する。この場合の距離計付鉗子40は、ラチェット部43R、43L(Rは右側、Lは左側を示す。他の部位でも同様。)を備えた一般的な把持鉗子にメータ50を付設したものである。
【0020】
距離計付鉗子40は、互いに交差配置された一対の揺動柄46R、46Lが交差部においてヒンジピン44により揺動自在に結合されている。一対の揺動柄46R、46Lの一端側は操作者が手指を挿入して操作するためのリング状部を備える操作部41R、41Lとされ、他端側は胸骨SL、SRに当接してこれを把持可能とする把持部42R、42Lとされている。一対の揺動柄46R、46Lの操作部41R、41Lに隣接する部位には、ラチェット部43R、43Lが設けられている。ラチェット部43R、43Lは、それぞれラチェット歯43Tが対向配置され、一方のラチェット部43Rは端部が揺動柄46Rに固定され、他方のラチェット部43Lは端部が揺動柄46Lに固定されている。各ラチェット歯43Tは、揺動柄46R、46Lが操作されない自由状態では、互いに噛み合い状態とされている。この噛み合い状態では、各操作部41R、41L及び各把持部42R、42Lが互いに離間する方向に揺動柄46R、46Lが揺動することが阻止されている。反対に、各操作部41R、41L及び各把持部42R、42Lが互いに近接する方向に揺動柄46R、46Lが揺動することは許容されている。そのため、一対の把持部42R、42Lを胸骨SL、SRに当接させて、胸骨SL、SRの接合状態での左右幅を測定するとき、各操作部41R、41Lを互いに近接させて、各把持部42R、42Lにより胸骨SL、SRを互いに当接させて、そのときの胸骨SL、SRの左右幅を測定する。この測定中、各操作部41R、41Lの操作力を解除しても、揺動柄46R、46Lの相対角度は各ラチェット歯43Tの噛合いにより保持される。従って、上記測定を安定的に精度よく行うことができる。各ラチェット歯43Tの噛み合い状態の解除は、各ラチェット歯43Tを互いに離間するように、図14、15の紙面で上下方向に操作することにより可能となる。
【0021】
メータ50は、ケース51により外装され、ケース51は一方の揺動柄46Lに溶着固定されている。その固定位置は、他方の揺動柄46Rが当接する側とは反対側とされている。そして、揺動柄46Rには、ケース51の背面側に向けて2本のスライドピン45A、45Bが突出して形成されている。2本のスライドピン45A、45Bは、ケース51の固定方向で見てケース51と重なる範囲で、ヒンジピン44を中心とした仮想円45Kと交差する揺動柄46R上の2箇所にケース51に向けて突出している。ケース51の背面側には、スライドピン45A、45Bに対応して2つの案内溝55A、55Bがそれぞれ形成されている。揺動柄46R、46Lの揺動に応じてスライドピン45A、45Bが案内溝55A、55B内で移動自在とするため、案内溝55A、55Bは、スライドピン45A、45Bの揺動軌跡(仮想円45Kと一致する)に沿うように背面視で円弧形状に形成されている。従って、この円弧形状の円弧中心は、ヒンジピン44である。
【0022】
図16は、メータ50の電気回路を示す。メータ50は、揺動柄46R、46Lの揺動に伴い変化する一対の把持部42R、42Lの離間距離をデジタル表示するものである。角度センサ56は、揺動柄46R、46Lの揺動角度を検出する。そのため、角度センサ56は、各案内溝55A、55Bに対応して設けられ、対応するスライドピン45A、45Bの移動位置を検出する。角度センサ56の検出信号を受ける変換回路57は、角度センサ56の検出信号を一対の把持部42R、42Lの離間距離に換算して変換する。変換回路57の出力信号を受ける表示部52は、一対の把持部42R、42Lの離間距離をデジタル表示する。角度センサ56は、各案内溝55A、55Bに対応して設けられた各角度センサ56の検出信号の平均値を変換回路57に出力するようにされている。角度センサ56は、案内溝55A、55Bの一方にのみ設けられてもよい。その場合、案内溝55A、55B及びスライドピン45A、45Bの組み合わせも上述のように2組設ける必要はなく、いずれか1組のみ設けられればよい。
【0023】
メータ50は、ケース51に電源スイッチ53を備える。また、ゼロ点調整をするためのリセットスイッチ54をケース51に備える。電源スイッチ53がオン操作されると、電源回路58が作動され、角度センサ56、変換回路57、及び表示部52に電源が供給される。従って、電源スイッチ53がオン操作されると、距離計付鉗子40が作動可能となり、一対の把持部42R、42Lの離間距離測定が可能となる。それ以外では電源スイッチ53はオフ操作される。また、リセットスイッチ54は、表示部52のデジタル表示を「ゼロ」とするように変換回路57の出力をリセットする。従って、揺動柄46R、46Lの揺動角度(開き角度)をゼロとした状態でリセットスイッチ54をオン操作することにより、そのときの表示部52の表示をゼロとすることができる。その結果、距離計付鉗子40による一対の把持部42R、42Lの離間距離測定の精度を常時高い状態に維持することができる。ケース51は、図16の電気回路を構成する部品の全てを収容している。
【0024】
距離計付鉗子40を用いて胸骨SL、SRの接合状態での左右幅を測定することにより、胸骨SL、SRの部位毎に適切な大きさの胸骨クリップを選択することができる。
【0025】
胸骨クリップの第2
図4~6は、胸骨クリップの第2を示す。第2の胸骨クリップ20が第1の胸骨クリップ10に対して特徴とする点は、一対のフック部22の形状を変更した点である。その他の構成は、両者同一であり、同一部分についての再度の説明は省略する。第2の胸骨クリップ20では、第1の胸骨クリップ10と対応する部位に、胸骨クリップ10における符号に「10」を加算した符号を付している。
【0026】
第2の胸骨クリップ20は、リング部23に隣接する棒状体21が図7のように断面円形であるのに対し、一対のフック部22は、図8、9のように断面長円形とされている。この場合の長円形は、胸骨Sに当接する側を湾曲形状の内周22Aとして、内周22Aと外周22Bが対向する方向の肉厚D1、D3を、その方向に交差する方向の肉厚D2、D4に比べて薄く形成している。しかも、棒状体21の直径D0に対して肉厚D2,D4は、D4>D2>D0とされている。フック部22の断面長円形の部位において直径D0を超える部位が面積増大部を構成する。面積増大部は、胸骨Sとの接触面積を増大させる。
【0027】
また、図10のように各フック部22の内周22A表面には、格子状溝(凹面)22Cが施されている。格子状溝22Cは、内周22A表面に格子状模様をプレス機等で転写することにより形成されている。そのため、内周22A表面は、凹凸面とされている。
【0028】
第1の胸骨クリップ10と同様に、図11のように胸骨クリップ20は、一対のフック部22を左右の胸骨SL、SRの両外側に係合して把持する。胸骨クリップ20でも、胸骨SL、SRの左右幅、前後厚に応じて適宜の大きさのものが選択使用される。胸骨クリップ20では、フック部22が断面長円形とされている。そのため、一対のフック部22を左右の胸骨SL、SRの両外側に係合して把持した状態で胸骨クリップ20を形状回復させたとき、フック部22が断面円形の場合に比べて胸骨Sに対するフック部22の接触面積が大きいため、胸骨クリップ20による胸骨Sの結合状態を安定させることができる。しかも、フック部22の内周22A表面には、格子状溝22Cが施されているため、胸骨クリップ20の胸骨Sに対する摩擦抵抗を高めることができる。従って、胸骨クリップ20による胸骨Sの結合状態を更に安定させることができる。
【0029】
<第1及び第2の使用方法>
図11~13では、胸骨Sの上側部分に胸骨クリップ10を2個使用し、下側部分に胸骨クリップ20を2個使用して、左右に切り離された胸骨SL、SRを上下両側で結合している。このように胸骨クリップ10と胸骨クリップ20を併用する場合、フック部12又は22が係合される部分の胸骨Sの形状に適した胸骨クリップ10又は20を選択して使い分けることができる。
【0030】
胸骨クリップの第3
1719、胸骨クリップの第3を示す。第3の胸骨クリップ30が第1の胸骨クリップ10に対して特徴とする点は、一対のフック部32の形状を変更した点である。その他の構成は、両者同一であり、同一部分についての再度の説明は省略する。第3の胸骨クリップ30では、第1の胸骨クリップ10と対応する部位に、胸骨クリップ10における符号に「20」を加算した符号を付している。
【0031】
第3の胸骨クリップ30は、フック部32を成す棒状体31を第1の胸骨クリップ10のフック部12と同様に湾曲させ、且つ湾曲させた先端部32Cとなる部位を同じ湾曲形状で折り返している。それにより、フック部32A、32Bが、図11の胸骨クリップ10のフック部12A、12Bと同様、胸骨Sの長手方向(上下方向)に分散配置される。フック部32A、32Bのうちの一方が面積増大部を構成する。面積増大部は、胸骨Sとの接触面積を増大させる。
【0032】
第3の胸骨クリップ30は、一対のフック部32がそれぞれ2本のフック部32A、32Bにより胸骨Sを把持するため、フック部32における胸骨Sとの接触面積を大きくすることができる。従って、胸骨Sの形状と胸骨クリップ30の形状に相違があっても、胸骨Sを結合した状態の胸骨クリップ30の姿勢が不安定にぐらつくことが抑制される。その結果、胸骨クリップ30による胸骨Sの結合状態を安定させることができる。
【0033】
<その他の実施形態>
以上、特定の実施形態について説明したが、本発明は、それらの外観、構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である
【符号の説明】
【0034】
10、20、30 胸骨クリップ
11、21、31 棒状体
12、12A、12B、22、32、32A、32B フック部(一部が面積増大部)
22A 内周
22B 外周
22C 格子状溝(凹凸面)
32C 先端部
13、23、33 リング部
13A、23A、33A 開放部
40 距離計付鉗子
41R、41L 操作部
42R、42L 把持部
43R、43L ラチェット部
43T ラチェット歯
44 ヒンジピン
45A、45B スライドピン
45K 仮想円
46R、46L 揺動柄
50 メータ
51 ケース
52 表示部
53 電源スイッチ
54 リセットスイッチ
55A、55B 案内溝
56 角度センサ
57 変換回路
58 電源回路
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図20
【補正方法】追加
【補正の内容】
図20
【手続補正5】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図21
【補正方法】追加
【補正の内容】
図21