(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076420
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】クルミアレルゲンの検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20230525BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20230525BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20230525BHJP
C07K 16/16 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
G01N33/53 Q ZNA
G01N33/543 541Z
G01N33/543 521
G01N33/531 B
C07K16/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186404
(22)【出願日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2021189447
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000113067
【氏名又は名称】プリマハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】大黒 そのみ
(72)【発明者】
【氏名】迫田 紘史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 重城
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA52
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA72
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】食品等の被検試料から、ペカンナッツ等の他の木の実類との交差反応性を示すことなく、クルミアレルゲンを迅速に検出できる手段を提供すること。
【解決手段】クルミ11Sグロブリンに結合し、ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体を使用することにより、ペカンナッツを検出することなく、クルミを検出することできることを見いだした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体と、被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプル、又は拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプルとを用い、測定サンプルを展開支持体に展開させた後、前記所定の位置における金コロイドの集積の有無により、アレルゲンを検出するイムノクロマト法において、前記アレルゲンがクルミ11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がクルミ11Sグロブリンに結合し、ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体であることを特徴とするイムノクロマト法によるクルミアレルゲンの検出方法。
【請求項2】
ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体が、クルミの11Sグロブリンのアミノ酸配列(配列番号2)におけるアミノ酸配列QRRGIVRV(配列番号1)をエピトープとして認識することを特徴とする請求項1記載のクルミアレルゲンの検出方法。
【請求項3】
抽出液が、陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び/又は非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1記載のクルミアレルゲンの検出方法。
【請求項4】
被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルにおけるクルミに対する反応性が、クルミのタンパク質濃度が被検試料中の濃度として2ppm及び10ppmで判定することができることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載のクルミアレルゲンの検出方法。
【請求項5】
拭き取り液又は洗浄液からなる測定サンプルにおけるクルミに対する反応性が、クルミのタンパク質濃度が拭き取り液又は洗浄液中の濃度として0.1ppm及び0.5ppmで判定することができることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載のクルミアレルゲンの検出方法。
【請求項6】
クルミ11Sグロブリンに結合し、ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体が、ペカンナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、及び落花生と反応性を示さないことを特徴とする請求項1~3のいずれか記載のクルミアレルゲンの検出方法。
【請求項7】
アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体とを備え、前記アレルゲンがクルミ11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がクルミ11Sグロブリンに結合し、ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体であることを特徴とするクルミアレルゲンの検出キット。
【請求項8】
陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び/又は非イオン性界面活性剤である、被検試料からアレルゲンを抽出するための抽出液と展開液とをさらに含むことを特徴とする請求項7記載のクルミアレルゲンの検出キット。
【請求項9】
SDSをさらに含むことを特徴とする請求項7記載のクルミアレルゲンの検出キット。
【請求項10】
クルミ11Sグロブリンに結合し、ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体。
【請求項11】
クルミの11Sグロブリンにおけるアミノ酸配列QRRGIVRV(配列番号1)をエピトープとして認識することを特徴とする請求項10記載のモノクローナル抗体。
【請求項12】
ハイブリドーマ(NITE P-03530)が産生するPDWN2モノクローナル抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クルミに特異的に結合し、ペカンナッツに結合しないモノクローナル抗体、及び、かかる抗体を用いて、クルミアレルゲンを検出する方法やキットに関する。
【背景技術】
【0002】
自然環境の減少、車や工場などからの排気ガス、住宅事情等、或いは食べ物の変化など様々な要因により、現在では、3人に1人が何らかのアレルギー疾患をもつといわれている。特に、食物アレルギーは、食品中に含まれるアレルギー誘発物質(以下、「食物アレルゲン」という)の摂取が原因となる有害な免疫反応であり、皮膚炎、喘息、消化管障害、アナフィラキシーショック等を引き起こすことが知られている。これらの症状は死に至ることもあることから、卵、乳、小麦、えび、かに、落花生、そばの7品目が特定原材料として、容器包装された加工食品で表示が義務づけられている。また、アーモンド、アワビ、イカ、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、クルミ、ごま、さけ、サバ、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、マツタケ、モモ、ヤマイモ、リンゴ、ゼラチンの21品目が、特定原材料に準ずるものとして、できるだけ表示することが推奨されている。
【0003】
上記の食物アレルゲンを迅速かつ簡易に検出するため、抗原抗体反応を利用して特定の抗原又は抗体よりなる被検出物質を検出する免疫測定法が広く用いられており、試料中の被検出物質に、蛍光物質等からなる標識物質により標識された抗体又は抗原を免疫反応により結合させ、結合した標識物質を測定する免疫測定法が採用されている。これらの免疫測定法では、競合型反応、サンドイッチ型反応が広く用いられており、サンドイッチ型反応を利用したイムノクロマトグラフィー法(例えば、特許文献1参照)等によるアレルゲン検出方法が提案されている。
【0004】
一方、クルミ(Juglandaceae Juglans)は、多価不飽和脂肪酸、ビタミン、ミネラルを多く含むことが知られており、近年、菓子類等への利用が増えているが、上記特定原材料に準ずるものとして挙げられており、2022年6月に消費者庁は、現在は「推奨」品目であるクルミの食品アレルギー表示を義務化する方針を示しているため、原料、食品、食品製造装置、食品包装等に混入したクルミの適切な検出手段が求められている。
【0005】
しかしながら、クルミのアレルゲンの検出においては、クルミ科ペカン属(Juglandaceae Carya)に属するペカンナッツとの交差反応性があることが問題となっていた。例えば、非特許文献1においては、クルミの可溶性タンパク質を検出・定量するためのELISA法によるクルミアレルゲンを検出する方法が提案されているが、クルミのアレルゲンとペカンナッツのアレルゲンとの間に交差反応性があることが示されている。
【0006】
また、市販されているクルミアレルゲン検出用キット「AgraStrip(登録商標)Walnut(COKAL0910AS)」(Romer Labs社製)の説明書には、ペカンナッツとライとの交差反応性があることが記載されており、ELISA法によるキットである「AgraQuant(登録商標)Walnut Assay(COKAL0948)」(Romer Labs社製)の説明書には、ペカンナッツ、カシューナッツ等と交差反応性があることが記載されている。また、「Walnut Assay Kit」(Neogen社製)においてもペカンナッツ等と交差反応性を有することが説明書に記載されている。そしてまた、「EnzymeImmunoassay for the Quantitative Determination of Walnut in Food」(Diagnostic Automation, Inc.社製)においてもペカンナッツ、ヘーゼルナッツ等と交差反応性を有することが説明書に記載されている。
【0007】
他方、クルミ科matK遺伝子における塩基配列の相違を利用したクルミとペカンナッツの分別検出方法(例えば、特許文献2等参照)が提案されているが、PCRを行う必要があり、判定までに時間が必要であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-010950号公報
【特許文献2】国際公開WO2008/093753パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Agric. Food Chem.2008,56,7625-7630
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、食品等の被検試料から、ペカンナッツ等の他の木の実類との交差反応性を示すことなく、クルミアレルゲンを迅速に検出できる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、クルミアレルゲンを正確に検出できる手段について検討を続けてきたが、クルミ11Sグロブリンに結合し、ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体を使用することにより、ペカンナッツを検出することなく、クルミを検出することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体と、被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプル、又は拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプルとを用い、測定サンプルを展開支持体に展開させた後、前記所定の位置における金コロイドの集積の有無により、アレルゲンを検出するイムノクロマト法において、前記アレルゲンがクルミ11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がクルミ11Sグロブリンに結合し、ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体であることを特徴とするイムノクロマト法によるクルミアレルゲンの検出方法。
[2]ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体が、クルミの11Sグロブリンのアミノ酸配列(配列番号2)におけるアミノ酸配列QRRGIVRV(配列番号1)をエピトープとして認識することを特徴とする上記[1]記載のクルミアレルゲンの検出方法。
[3]抽出液が、陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び/又は非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする上記[1]記載のクルミアレルゲンの検出方法。
[4]被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルにおけるクルミに対する反応性が、クルミのタンパク質濃度が被検試料中の濃度として2ppm及び10ppmで判定することができることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか記載のクルミアレルゲンの検出方法。
[5]拭き取り液又は洗浄液からなる測定サンプルにおけるクルミに対する反応性が、クルミのタンパク質濃度が拭き取り液又は洗浄液中の濃度として0.1ppm及び0.5ppmで判定することができることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか記載のクルミアレルゲンの検出方法。
[6]クルミ11Sグロブリンに結合し、ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体が、ペカンナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、及び落花生と反応性を示さないことを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか記載のクルミアレルゲンの検出方法。
【0013】
また、本発明は以下のとおりである。
[7]アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体とを備え、前記アレルゲンがクルミ11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がクルミ11Sグロブリンに結合し、ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体であることを特徴とするクルミアレルゲンの検出キット。
[8]陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び/又は非イオン性界面活性剤である、被検試料からアレルゲンを抽出するための抽出液と展開液とをさらに含むことを特徴とする上記[7]記載のクルミアレルゲンの検出キット。
[9]SDSをさらに含むことを特徴とする上記[7]記載のクルミアレルゲンの検出キット。
[10]クルミ11Sグロブリンに結合し、ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体。
[11]クルミの11Sグロブリンにおけるアミノ酸配列QRRGIVRV(配列番号1)をエピトープとして認識することを特徴とする上記[10]記載のモノクローナル抗体。
[12]ハイブリドーマ(NITE P-03530)が産生するPDWN2モノクローナル抗体。
【発明の効果】
【0014】
本発明のイムノクロマト法によるクルミアレルゲンの検出方法によると、ペカンナッツとの交差反応を抑え、迅速かつ精度よくクルミのアレルゲンを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)は、クルミ、アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、ペカンナッツ、及び落花生に対する、PDWN1抗体の反応性を示すグラフである。(b)は、クルミ、アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、ペカンナッツ、及び落花生に対する、PDWN2抗体の反応性を示すグラフである。
【
図2】ウェスタンブロッティングにおいて、PDWN2抗体は、35kD付近にあるクルミの11Sグロブリンを認識したが、ペカンナッツの11Sグロブリンに対しては認識しなかったことを示す図である。
【
図3】競合ELISA法による特異性評価において、各濃度のD-WNとD-PEにPDWN2抗体を結合させた後、固相化されたD-WNに結合した抗体に結合したHRP標識抗体を用いて、D-WNとD-PEの濃度毎の吸光度を示すグラフである。
【
図4】クルミ11Sグロブリンタンパク質の1~511アミノ酸残基を20アミノ酸残基ごとにセルロースメンブレン上に26種類スポットして、20アミノ酸スポットメンブレンを作製した場合の、PDWN2抗体が反応するスポットを示す図である。
【
図5】「RLQSNHDQRRGIVRVEGNLQ」の配列について、C末端側及びN末端から1残基ずつ削ることにより31種類スポットメンブレンを作製した場合の、PDWN2抗体が反応するスポットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のクルミアレルゲンの検出方法としては、アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体と、被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプル、又は拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプルとを用い、測定サンプルを展開支持体に展開させた後、前記所定の位置における金コロイドの集積の有無により、アレルゲンを検出するイムノクロマト法において、前記アレルゲンがクルミ11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がクルミ11Sグロブリンに結合し、ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体であることを特徴とするイムノクロマト法による検出方法であれば特に制限されず、上記11Sグロブリンとは、一般に可溶性の球状タンパク質であるグロブリンのうち、沈降係数が11Sに相当するものの総称であって、植物における貯蔵タンパク質として知られており、クルミ等における主要アレルゲンのひとつとしても知られている。また、クルミの11Sグロブリンとしては、例えば、配列番号2に示される511アミノ酸からなるタンパク質及び/又は配列番号2に示される511アミノ酸の一部若しくは全部を含むアレルゲンとなりうるタンパク質を挙げることができる。
【0017】
本発明におけるクルミ(Walnut)としては、クルミ科クルミ属(Juglandaceae Juglans)に属する植物における、11Sグロブリンを含む組織であれば特に制限されないが、貯蔵タンパク質を多く含む可食部を挙げることができ、具体的には、種子の内部の胚乳を含む「仁」と呼ばれる部分であることが好ましい。クルミ科クルミ属に属する植物としては、欧米で広く栽培されているペルシャグルミ(Juglans regia)、テウチグルミ(カシグルミ)(Juglans regia var.orientis)、ペルシャグルミとテウチグルミとの自然交雑によって生じた雑種といわれるシナノグルミ(Juglans regia, (Syn. Juglans regia var. orientis))、日本在来種とされるオニグルミ(Juglans mandshurica var. sachalinensis)、ヒメグルミ(Juglans mandshurica var. cordiformis)等を挙げることができる。
【0018】
上記ペカンナッツ(Carya illinoinensis)としては、(クルミ科ペカン属(Juglandaceae Carya))に属する植物、とりわけ11Sグログリンを含むその可食部を挙げることができる。
【0019】
アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体(以下、「本発明の2つの抗体」ともいう。)としては、クルミ11Sグロブリンを認識することができ、クルミ11Sグロブリンと結合して抗原抗体複合体を形成することができるモノクローナル抗体であれば特に限定されないが、上記クルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体の抗体産生細胞の調製方法としては、加熱処理したクルミ11Sグロブリン若しくはその粉砕処理物を、そのまま又は適当なアジュバントと共に免疫原として哺乳動物に投与し、免疫感作させる方法を例示することができる。上記哺乳動物としては、ラット、マウス、ウサギを挙げることができるが、作製の簡便性からマウスを用いることが好ましく、マウスに由来するモノクローナル抗体が好適に用いられる。投与箇所としては、静脈注射、皮下、腹腔内を例示することができる。追加免疫は、数日から数週間後に行うことができ、10日~3週間後がより好ましい。抗クルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体産生細胞の分離は、最終の免疫日から1~60日後、好ましくは1~10日後に免疫動物から採取することにより行うことができ、抗体産生細胞としては、脾臓細胞やリンパ節細胞や末梢血由来細胞が好ましく、リンパ節細胞がより好ましい。
【0020】
上記クルミ11Sグロブリンに対するモノクローナル抗体の調製方法としては、上記抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合をおこない、上記クルミ11Sグロブリンを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、培地上で培養するか、又は動物腹腔内に投与して腹水内で増殖させた後、培養培地又は腹水からモノクローナル抗体を採取する、ケラーとミルシュタインによるハイブリドーマ法(Nature 256, 495-497, 1975)等の公知の方法を挙げることができる。
【0021】
上記ミエローマ細胞としては、一般に入手可能な株化細胞を用いることができるが、未融合の状態ではHAT選択培地で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ、陽性ハイブリドーマとして生存できる性質を有することが好ましく、具体的には、P3-X63-Ag8-U、P3X63Ag8.653、NSI/1-Ag4-1、NS0/1等のマウスミエローマ細胞株、YB2/0等のラットミエローマ細胞株などを挙げることができる。
【0022】
上記細胞融合の方法としては、抗体産生細胞とミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の融合促進剤の存在下で混合することにより行なうことができる。例えば、細胞融合終了後、RPMI1640培地等で適当に希釈し、遠心分離し、沈殿をHAT培地等の選択培地に懸濁して培養することによりハイブリドーマを選択し、次いで、培養上清を用いて酵素抗体法等により抗体産生ハイブリドーマを検索し、限界希釈法等によりクローニングを行ない、クルミ11Sグロブリンを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。
【0023】
本発明者らにより作製された、ハイブリドーマ(NITE P-03529)が産生する抗クルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体PDWN1(PDWN1抗体)や、ハイブリドーマ(NITEP-03530)が産生する抗クルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体PDWN2(PDWN2抗体)を好適に例示することができる。上記PDWN1抗体及びPDWN2抗体は、2021年9月8日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に受託されている。
【0024】
本発明の2つの抗体としては、さらに、アーモンド(Amygdalus dulcis:バラ科サクラ属(Rosaceae Cerasus))、カシューナッツ(Anacardium occidentale:ウルシ科カシューナットノキ属(Anacardiaceae Anacardium))、ヘーゼルナッツ(Corylus avellana:カバノキ科ハシバミ属(Betulaceae Corylus)一部はセイヨウハシバミとムラサキセイヨウハシバミの雑種)、ピスタチオ(Pistacia vera:ウルシ科カイノキ属(Anacardiaceae Pistacia))、マカデミアナッツ(Macadamia integrifolia:ヤマモガシ科マカダミア属(Proteaceae Macadamia))、及び、落花生(Arachis hypogaea:マメ科ラッカセイ属(Fabaceae Arachis))のタンパク質、とりわけ可食部を構成するタンパク質を認識しない、モノクローナル抗体が好ましく、かかるモノクローナル抗体としては、上記PDWN1抗体及びPDWN2抗体を例示することができる。
【0025】
さらに、本発明の2つの抗体の(少なくとも)一方は、クルミ11Sグロブリンに結合し、ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体であることが必要であり、かかる抗体としては、クルミの11Sグロブリンのアミノ酸配列に存在し、かつ、ペカンナッツ11Sグロブリンのアミノ酸配列に存在しないエピトープを認識するモノクローナル抗体を挙げることができる。
【0026】
上記クルミ11Sグロブリンのアミノ酸配列に存在し、ペカンナッツ11Sグロブリンのアミノ酸配列に存在しないエピトープとしては特に限定はされないが、クルミの11Sグロブリンにおけるアミノ酸配列であるQRRGIVRV(配列番号1)を例示することができ、より具体的には、クルミの11Sグロブリンのアミノ酸配列(配列番号2)における268~275のアミノ酸配列QRRGIVRV(配列番号1)の配列を好適に挙げることができる。かかるエピトープを認識することができるモノクローナル抗体としては、上記PDWN2抗体を例示することができる。
【0027】
本発明の2つの抗体として、上記PDWN1抗体及びPDWN2抗体を使用する場合、上記金コロイドを結合した金コロイド標識抗体としてPDWN2抗体、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体としてPDWN1抗体の組合せ;又は、上記金コロイドを結合した金コロイド標識抗体としてPDWN1抗体、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体としてPDWN2抗体の組合せ;を使用することができるが、金コロイド標識抗体としてPDWN2抗体、金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体としてPDWN1抗体の組合せ;を使用することがより好ましい。
【0028】
上記モノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体の作製方法としては従来公知の方法を含め特に限定されないが、例えば、0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液に、2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)にモノクローナル抗体を溶解した溶液を加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液を加え、さらに15分間反応させ、遠心分離する方法を挙げることができる。また、作製した金コロイド標識抗体を、例えばガラスウール製コンジュゲートパッドに塗布し、乾燥させることにより金コロイド標識抗体担持体を作製することもできる。
【0029】
上記展開支持体(抗体固定化メンブレン)は、金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識する変性及び未変性のアレルゲンを共に認識するモノクローナル抗体を含む緩衝液を、例えば、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた後、ブロッキング処理することにより作製することができる。
【0030】
上記測定サンプルを担持させることができるサンプル用担体部としては、ガラスウール製のサンプルパッドを例示することができる。上記ガラスウール製サンプルパッド、必要に応じて上記金コロイド標識抗体担持体、展開支持体、展開支持体の他端に吸収パッドを順次連結することによりイムノクロマトストリップを作製することができる。
【0031】
(被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプル)
上記被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルとしては、被検試料から抽出液を用いて抽出することにより調製される測定サンプルであれば特に制限されないが、上記被検試料としては、アレルゲンが存在する可能性のある食品等の被検試料を挙げることができ、かかる食品等の被検試料には、食品のほか、該食品を製造するために用いられる原料、該食品を製造するために使用された装置に残るカス、沈殿物等の残留物、該装置を洗浄した洗浄液、該洗浄液を取り除くために使用されたすすぎ液、該食品を包装した包装紙や包装容器など、食品中に存在するアレルゲンが二次的に存在する可能性がある試料を例示することができる。
【0032】
上記測定サンプルを調製する際に用いられる抽出液としては、陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び/又は非イオン性界面活性剤を含むことが好ましく、陰イオン性界面活性剤としては、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩などを挙げることができ、具体的にはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を好適に例示することができる。チオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウムなどを挙げることができ、具体的にはチオ硫酸ナトリウムを好適に例示することができる。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ソルビタン脂肪酸エステルなどを挙げることができ、具体的にはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween20)を好適に例示することができる。上記陰イオン性界面活性剤の濃度は0.1~2.0%、好ましくは0.25~1.0%であり、チオ硫酸塩の濃度は0.01~5.0%、好ましくは0.05~0.5%であり、非イオン性界面活性剤の濃度は0.01~1.0%、好ましくは0.1~0.5%であり、これらの濃度範囲の陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び非イオン性界面活性剤を含む抽出液を用いると、抽出効率が高く且つ非特異反応を抑制しうる点で好ましい。
【0033】
上記抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルに、上記金コロイド標識抗体、及び好ましくは展開液を添加してイムノクロマトストリップにスポットすることにより、クルミ11Sグロブリンを認識する金コロイド標識抗体と、測定サンプル中のクルミアレルゲンとが結合して抗原抗体複合体が形成され;形成された抗原抗体複合体がイムノクロマトストリップ上の展開支持体を毛管現象等により移動し;金コロイド標識抗体と異なる11Sグロブリンのエピトープを認識するクルミアレルゲンを認識するモノクローナル抗体が固定された所定の位置において、上記抗原抗体複合体が捕捉され;金コロイドの集積により現れる着色ラインの有無により、アレルゲンを検出することができる。なお、前述したように、イムノクロマトストリップにあらかじめ金コロイド標識抗体を担持させておいてもよく、その場合は、上記測定サンプルに金コロイド標識抗体を添加する必要は必ずしもない。
【0034】
上記展開液としては、ウシ胎児血清(FBS)が含まれている溶液が好ましく、その場合のウシ胎児血清(FBS)濃度としては、10~50重量%を挙げることができ、20~40重量%が好ましく、25~35重量%がより好ましく、10重量%未満の場合、非特異反応を生じやすく好ましくない場合もあるが、ウシ胎児血清(FBS)を添加しなくてもよい場合がある。また、展開液には、必要に応じて他の界面活性剤、防腐剤、無機塩などの各種添加剤を懸濁もしくは乳濁又は溶解せしめて調製することもできる。上記展開液に緩衝液を添加する場合には、そのpHが4~10、特にpH6~8が好ましく、例えば、リン酸緩衝液(PBS)やトリス緩衝液(TBS)などを好適に例示することができる。また、上記緩衝液は、綿棒等のイムノクロマトのスティックの先端部分に含ませておくこともできる。
【0035】
(拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプル)
上記拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプルとしては、クルミアレルゲンを含む可能性のある液体であれば特に制限されず、食品製造現場等におけるクルミアレルゲンを含む可能性のある溶液を挙げることができる。例えば、食品等を製造するために用いられる装置を洗浄した洗浄水;該洗浄水を取り除くために使用されたすすぎ液;上記洗浄水の乾燥物、上記すすぎ液の乾燥物、食品を製造するために用いられる原料又はその飛散物、該食品を製造するために使用された装置に残るカス、食品製造工程における沈殿物等の残留物、食品を包装した包装紙や包装容器における残留物等を(拭き取り用)溶媒で拭き取った拭き取り液を例示することができる。
【0036】
上記拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプルにおける溶媒としては、水道水や純水等の水、(生理)食塩水、PBS等の水性溶媒を好適に挙げることができるが、これらの2種以上の混合液でもよく、例えば、水で拭き取り水に溶解してもよいし、(生理)食塩水で拭き取り水に溶解してもよいし、PBSで拭き取り水に溶解してもよいし、水で拭き取り(生理)食塩水に溶解してもよいし、(生理)食塩水で拭き取り(生理)食塩水に溶解してもよいし、PBSで拭き取り(生理)食塩水に溶解してもよいし、水で拭き取りPBSに溶解してもよいし、(生理)食塩水で拭き取りPBSに溶解してもよいし、PBSで拭き取りPBSに溶解してもよい。
【0037】
上記拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプルのイムノクロマト法によるクルミアレルゲンの検出においては、上記測定サンプルにイムノクロマトストリップのサンプル用担体部を浸漬させることにより、上記測定サンプル中のクルミ11Sグロブリンとクルミアレルゲンを認識する金コロイド標識抗体とが結合して抗原抗体複合体を形成し;形成された抗原抗体複合体がイムノクロマトストリップ上の展開支持体を毛管現象等により移動し;金コロイド標識抗体と異なる11Sグロブリンのエピトープを認識するクルミアレルゲンを認識するモノクローナル抗体が固定された所定の位置において、上記抗原抗体複合体が捕捉され;金コロイドの集積により現れる着色ラインの有無により、アレルゲンを検出することができる。
【0038】
上記拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプルのイムノクロマト法によるクルミアレルゲンの検出においては、上述のとおり、抽出液を用いて抽出処理を行い、及び/又は加熱処理を行った測定サンプルについて、上記イムノクロマト処理を施すことにより、アレルゲンを検出することができる。また、測定サンプルに抽出処理を行うことなく、及び/又は加熱処理を行うことなく、SDSの存在下又は非存在下にイムノクロマト処理を施すことにより、アレルゲンを検出することができる。
【0039】
上記SDSを添加する場合、上記測定サンプルに、SDSが展開支持体上に固定されたSDS一体化イムノクロマトストリップのサンプル用担体部を浸漬させることにより、SDSが展開支持体上に溶解し;測定サンプル中のクルミアレルゲンが、クルミアレルゲンを認識する金コロイド標識抗体と結合して抗原抗体複合体を形成し;上記同様、金コロイドの集積により現れる着色ラインの有無により、アレルゲンを検出する方法を他の態様として挙げることができる。
【0040】
本発明において、被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルにおけるクルミに対する反応性としては、クルミ(標準品)のタンパク質濃度が被検試料中の濃度として2ppm及び10ppmで検出できることを挙げることができる。また、拭き取り液又は洗浄液からなる測定サンプルにおけるクルミに対する反応性としては、クルミ(標準品)のタンパク質濃度が拭き取り液又は洗浄液中の濃度として0.1ppm及び0.5ppmで検出できることを挙げることができる。
【0041】
なお、上記PDWN2抗体のように、クルミ11Sグロブリンに結合し、ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体を使用することにより、ウェスタンブロット法、ダイレクトELISA法(直接ELISA)、インダイレクトELISA法(間接ELISA)、競合ELISA法等の、クルミ11Sグロブリンと、クルミ11Sグロブリンに結合するが、ペカンナッツ11Sグロブリンに結合しないモノクローナル抗体との抗原抗体複合体の形成の有無により判定が行われる免疫測定法を利用して、ペカンナッツに交差反応性を示さない、クルミアレルゲンの検出を行うことができる。
【0042】
本発明のアレルゲンの検出方法は、非診断目的のアレルゲンの検出方法とすることもできる。
【0043】
本発明のイムノクロマト用アレルゲンの検出キットとしては、クルミアレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体とが所定の位置に固定された展開支持体とを備え、前記アレルゲンがクルミ11Sグロブリンであることを特徴とする検出キットであれば特に制限されず、クルミアレルゲンを検出する方法を記載した取扱説明書や、イムノクロマトストリップに含まれている試薬液の各成分についての説明書等の添付文書が含まれるキットの構成としてもよい。また、製造年月日から1年以上常温保存した場合においても、実用性に耐えうる精度・安定性を有するキットが望ましい。
【0044】
上記キットが、被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルを使用するキットである場合には、上記キットに抽出液として、陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び/又は非イオン性界面活性剤を含んでもよい。さらに、展開液に添加するFBSを加えることができる。
【0045】
上記キットが、拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプルをイムノクロマト法に使用するキットである場合には、上記キットに抽出液として、陰イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び/又は非イオン性界面活性剤を含んでもよい。あるいは、上記キットにSDS、及び/又は、FBSを加えてもよく、さらにチオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム及び/又はアスコルビン酸を加えることもできる。
【0046】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例0047】
[実施例1]
[クルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体の確立]
(加熱変性処理粗クルミタンパク質溶液の調製)
クルミ科クルミ属(Juglandaceae Juglans)に属する生クルミ(チャンドラー種)の可食部(核果の種子の部分:仁)をミルサーにより粉砕し、アセトンを用いて脱脂したのち一晩室温にて風乾し、アセトンを除去したものを脱脂クルミ粉末として調製した。かかる脱脂クルミ粉末を0.1g量り取り、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.2%Tween20、0.1%チオ硫酸ナトリウムを含むダルベッコPBS(5913、日水製薬社製)を20mL加えて攪拌し、沸騰水中で10分間加熱して変性処理を行い、冷却遠心し、上清をクルミ加熱変性処理粗タンパク質(D-WN)溶液として調製した。
【0048】
(加熱変性処理粗木の実タンパク質溶液の調製)
ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ピスタチオ、落花生、及びペカンナッツの可食部をそれぞれミルサーにより粉砕した後各1gを量り取り、0.5%SDS、0.2%Tween20、0.1%チオ硫酸ナトリウムを含むダルベッコPBSを19mL加えて撹拌した後、沸騰水中で10分間加熱して変性処理を行い、冷却遠心し、各上清を、ヘーゼルナッツ加熱変性処理粗タンパク質(「D-HZ」)、マカダミアナッツ加熱変性処理粗タンパク質(「D-MC」)、アーモンド加熱変性処理粗タンパク質(「D-AM」)、カシューナッツ加熱変性処理粗タンパク質(「D-CS」)、ピスタチオ加熱変性処理粗タンパク質(「D-PS」)、落花生加熱変性処理粗タンパク質(「D-PN」)、及びペカンナッツ加熱変性処理粗タンパク質(「D-PE」)の各溶液として調製した。各溶液におけるタンパク質の濃度は、2-D QuantKit(GE Healthcare Life Science社製)を用いて必要に応じて測定した。
【0049】
(クルミアレルゲンの指標となるクルミ11Sグロブリンの精製)
上記脱脂クルミ粉末を、プレップセル960(Bio Rad社製)を用いて精製した。11Sグロブリン画分を透析後、凍結乾燥を行った。かかる凍結乾燥粉末を用い、生理食塩水で0.1%のクルミ11Sグロブリンの溶液を作製し、1mL容チューブに500μLずつ分注して、クルミ11Sグロブリンの抗原溶液とし、免疫に供するまで-40℃にて凍結保管した。
【0050】
(ラット由来抗クルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体の作製)
(1)ラットへの免疫
供試動物として、8週齢のF344/DuCrlCrljラット(日本チャールズリバー社から入手)1匹を用いた。ラットの初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Sigma-Aldrich社製)を0.1%のクルミ11Sグロブリン溶液が500μL入ったチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを用い、このエマルジョン200μLを尾根部より注射した。初回免疫から2週間後に、100μLの0.1%11Sグロブリン溶液を尾部静脈より注射して追加免疫とした。
【0051】
(2)ラット由来抗体産生ハイブリドーマの作製
ラット由来抗体産生ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、上記尾部静脈注射から4日後、供試ラットから腸骨リンパ節を無菌的に摘出した。腸骨リンパ節を細切後、RPMI1640(富士フィルム和光純薬社製)で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(CellStrainer、70mm、Becton Dickinson社製)に通し、腸骨リンパ節細胞懸濁液を得た。1000rpm×10分の遠心分離により腸骨リンパ節細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この腸骨リンパ節細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を混合し、再度1000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加えて希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106細胞/ウェルとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson社製)に分注し、5%CO2下37℃にて培養した。
【0052】
(3)ラット由来抗体産生ハイブリドーマの限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清を、ELISA法の一次抗体として供試し、抗11Sグロブリン抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISA法により11Sグロブリンに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9細胞/ウェルとなるように96ウェルの細胞培養用プレートに移し、限界希釈法によるクローニングを行った。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0053】
(4)ラット由来モノクローナル抗体のスクリーニング
上記培養上清の、クルミ11Sグロブリンを含むD-WNに対する反応性が認められるクローンについて、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、カシューナッツ及びピスタチオそれぞれにおける11Sグロブリン含む加熱変性処理粗タンパク質、すなわち、D-HZ、D-MC、D-AM、D-CS及びD-PSに対する反応性をインダイレクトELISA法にて判定し、D-WNに対して陽性を示し、D-HZ、D-MC、D-AM、D-CS、及びD-PSに対して陰性を示すラット由来モノクローナル抗体を3種類選抜した。
【0054】
(5)マウスの腹水の採取及びラット由来モノクローナル抗体の精製
Jonesら(1990)に従い、まず、CB-17/scidマウス(日本クレア社から入手)に不完全フロイントアジュバント(Sigma-Aldrich社製)を200μL腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106細胞にクローニングされた、上記選抜された抗体を産生する3種類のハイブリドーマをそれぞれ接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採取した腹水をProteinGカラム(GEヘルスケア社製)により精製し、クルミ11Sグロブリンに対して特異性を有する3種類のラット由来精製モノクローナル抗体(MAb)を取得し、それぞれA、B及びPDWN1抗体と呼ぶこととした。
【0055】
(マウス由来抗クルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体の作製)
(1)マウスへの免疫
供試動物として、4週齢のBALB/cマウス(日本クレア社から入手)2匹を用いた。マウスの初回免疫には、完全フロイントアジュバントを0.1%のクルミ11Sグロブリン溶液が500μL入ったチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試し、このエマルジョンを一尾当たり100μL腹腔内に注射した。追加免疫には、不完全フロイントアジュバントを0.1%の11Sグロブリン溶液が500μL入ったチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1匹当たり100μL腹腔内に注射した。
【0056】
(2)血中抗体価の測定
初回又は追加免疫で11Sグロブリンを注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温にて2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISA法によりマウス血中の抗11Sグロブリン抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson Immuno Research Laboratories社製)を用いた。さらに追加免疫を2週間の間隔で5回行い、十分に抗体価が上がったマウスに、100μLの0.1%11Sグロブリン溶液を尾部静脈より注射した。
【0057】
(3)マウス由来抗体産生ハイブリドーマの作製
マウス由来抗体産生ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、上記11Sグロブリン溶液の尾部静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュを通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を混合し、再度1000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106細胞/ウェルとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson社製)に分注し、5%CO2下37℃にて培養した。
【0058】
(4)マウス由来抗体産生ハイブリドーマの限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清を、ELISA法の一次抗体として供試し、抗11Sグロブリン抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISA法により11Sグロブリンに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9細胞/ウェルとなるように96ウェルの細胞培養用プレートに移し、限界希釈法によるクローニングを行った。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0059】
(5)マウス由来モノクローナル抗体のスクリーニング
上記培養上清の、クルミ11Sグロブリンを含むD-WNに対する反応性が認められるクローンについて、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、カシューナッツ及びピスタチオそれぞれにおける11Sグロブリン含む加熱変性処理粗タンパク質、すなわち、D-HZ、D-MC、D-AM、D-CS及びD-PSに対する反応性をインダイレクトELISA法にて判定し、D-WNに対して陽性を示し、D-HZ、D-MC、D-AM、D-CS、及びD-PSに対して陰性を示すマウス由来モノクローナル抗体を9種類選抜した。
【0060】
(6)マウスの腹水の採取及びマウス由来モノクローナル抗体の精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを200μL腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106細胞のクローニングされた、上記選抜された抗体を産生するハイブリドーマをそれぞれ接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採取した腹水をProteinGカラム(GEヘルスケア社製)により精製し、クルミ11Sグロブリンに対して特異性を有する9種類のマウス由来精製モノクローナル抗体を取得し、それぞれC、D、E、F、G、H、I、J及びPDWN2抗体と呼ぶこととした。
【0061】
[実施例2]
[抗体の組合せ評価]
前記3種類のラット由来精製モノクローナル抗体であるA、B及びPDWN1抗体と、上記9種類のマウス由来精製モノクローナル抗体であるC、D、E、F、G、H、I、J及びPDWN2抗体との、合計12種類の精製モノクローナル抗体から、二種類の抗体を選択することによる、クルミタンパク質の検出に適した抗体の組合せを検討することとした。
【0062】
[1.サンドイッチELISA法による抗体の組合せ評価]
サンドイッチELISA法により、抗体の組合せ評価を行った。
【0063】
(抗体の固相化)
96ウェルマイクロプレート(Nunc-Immuno Module plate F8 NAL、468667)を2プレート用い、固相化抗体を調製した。上記12種類の精製抗体をそれぞれリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)で5μg/mLの固相用抗体溶液に調製し、各抗体について100μL/ウェルを12ウェルずつ分注した。37℃にて1.5時間静置して固相化反応させた後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄し、1%牛血清アルブミン(Bovine Serum Albumin:BSA、Sigma-Aldrich社製)/PBSを150μL/ウェル分注し、37℃にて1時間静置して反応させてブロッキングを行い、その後PBST250μLで各ウェルを5回洗浄して、12種類の固相化抗体を12ウェルずつ調製した。
【0064】
(測定用クルミタンパク質溶液の調製と添加)
上記D-WNを、PBSTを用いて1ppmのD-WN溶液となるように調製し、測定用クルミタンパク質溶液とした。上記固相化した抗体が調製された144ウェルに1ppmのD-WN溶液を100μL/ウェル分注し、37℃にて1.5時間静置して、D-WNと各固相化抗体とを反応させた。その他PBSTをブランクとした。その後PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0065】
(HRP標識抗体による反応)
上記12種類の精製モノクローナル抗体それぞれについて、西洋わさびペルオキシダーゼ(Horseradish peroxidase;HRP)による酵素標識をPeroxidase Labeling Kit-SH(LK09、株式会社同仁化学研究所製)を用いて行った。PBSTを用いて12種類の0.1μg/mLのHRP標識抗体を調製し、12ウェルずつ100μL/ウェル分注し、37℃にて1.5h静置して反応させた。その後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0066】
(発色)
発色剤3、3’、5、5’テトラメチルベンジジン溶液(TMB溶液、1-Component Microwell Peroxidase Substrate, SureBlue、5120-0075、KPL社製)を100μL/ウェル分注し、遮光下常温にて10分静置して反応させた。1規定塩酸を100μL/ウェル分注することにより反応を停止させ、主波長450nm、副波長620nmにて吸光度を測定した。マイクロプレート上の抗体の組合せのレイアウト、及び、各ウェルにおける主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値を実質吸光度として、以下の表1に示す。なお、620nmの副波長は、検体によるウェル内の汚れや洗浄操作等によるウェルのくもり、キズ等によるウェル間吸光度差をキャンセルするために測定された吸光度である。
【0067】
【0068】
(結果)
表1から明らかなとおり、太字で表記されている、固相化抗体PDWN1-HRP標識抗体PDWN2、固相化抗体PDWN2-HRP標識抗体PDWN1、固相化抗体PDWN2-HRP標識抗体B、固相化抗体PDWN2-HRP標識抗体C、固相化抗体A-HRP標識抗体C、固相化抗体B-HRP標識抗体PDWN2、固相化抗体E-HRP標識抗体C、固相化抗体F-HRP標識抗体C、固相化抗体H-HRP標識抗体C、固相化抗体I-HRP標識抗体Cにおいて、主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値(実質吸光度:450nm-620nm)が1.000以上であって反応性が高かった。とりわけ、PDWN1抗体とPDWN2抗体の組合せにおいて、実質吸光度が高いことが確認され、クルミタンパク質に対する反応性が強いと考えられた。
【0069】
[実施例3]
[2.イムノクロマトグラフィーによる抗体の組合せ評価]
上記[1.サンドイッチELISA法における抗体の組合せ評価]において、クルミタンパク質に対する反応性が強いことが示された、PDWN1抗体とPDWN2抗体との組合せ、PDWN2抗体とB抗体との組合せ、PDWN2抗体とC抗体との組合せ、A抗体とC抗体との組合せ、C抗体とE抗体との組合せ、C抗体とF抗体との組合せ、C抗体とH抗体との組合せ、及び、C抗体とI抗体との組合せについて、以下の手順でイムノクロマトストリップを作製し、クルミタンパク質の検出について、イムノクロマトストリップにおける金コロイド標識抗体とメンブレン上に固定化された抗体の組合せについて、より好適な抗体の組合せを検討することにした。
【0070】
(クルミタンパク質を含む測定サンプルの作製)
上記D-WNをそれぞれ被検液中の濃度が500ppm(10000ppm)、100ppm(2000ppm)、10ppm(200ppm)、1ppm(20ppm)、0.1ppm(2ppm)、及び0.05ppm(1ppm)となるように調整し、各濃度のクルミ加熱変性処理粗タンパク質を含む測定サンプルを作製した。なお、カッコ内は、現行の検査キットと同じ検査方法(20倍抽出)を想定した製品換算濃度である。
【0071】
(イムノクロマトストリップの作製)
(1)金コロイド標識抗体の作製
PDWN1、PDWN2、A、B、C、E、F、H、Iの9種類の各抗体について、2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mLとなるように各抗体溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(BBI solutions社製)5mLに上記抗体溶液をそれぞれ500μL加え、室温で30分間反応させた後、10%BSA溶液を635μL加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=1.0になるよう調製して、9種類の金コロイド標識抗体溶液を調製した
【0072】
(2)抗体固定化メンブレンの作製
PDWN1、PDWN2、A、B、C、E、F、H、Iの9種類の各抗体について、PBSで4mg/mLとなるように各抗体溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に各抗体溶液を塗布し乾燥させた。その後、1%スキムミルクを含むリン酸緩衝液(Phosphate Buffer:PB)で37℃にて1時間ブロッキング後、PBで洗浄し乾燥させることにより、上記各抗体をメンブレンに固定化し、9種類の抗体固定化メンブレンを調製した。
【0073】
(3)イムノクロマトストリップの組立
抗体固定化メンブレンに加えて、被検液スポット用のガラスウール製サンプルパッド、被検液吸収用のガラスウール製吸収パッドを別途用意し、サンプルパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドの順にそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。
【0074】
(4)イムノクロマトグラフィーによる、クルミタンパク質の検出の確認
上記各金コロイド標識抗体を20μL、展開液として牛胎児血清(FBS)を30μLに、上記各濃度の測定サンプルを50μLそれぞれ加えたものを、被検液としてPDWN1抗体がメンブレンに固定化されているイムノクロマトストリップにスポットし、各抗体の組合せにおいてクルミタンパク質(アレルゲン)検出の有無の確認を行った。メンブレンに固定化された抗体と金コロイド標識抗体との各組合せにおける、クルミタンパク質溶液の各濃度における検出の有無を以下の表2に示す。判定はラインの着色が強い方から順に「+」、「+w」、「+-」と表記し、陰性を「-」とした。なお「N.T.」は、試験未実施である。
【0075】
【0076】
(結果)
表2から明らかなとおり、メンブレンに固定化された抗体がPDWN1抗体であり、金コロイド標識抗体がPDWN2から調製されている場合に、被検液中のクルミタンパク質の濃度が500ppmのときは「+w」、100~1ppmのときは「+」、0.1ppmのときにも「+w」を示し、最も高い反応性があることが確認された。なお、メンブレンに固定化された抗体がPDWN2抗体であり、金コロイド標識抗体がPDWN1抗体から調製されている場合にも、測定サンプル中のクルミタンパク質の濃度が10~1ppmのときは「+」を示し、0.1ppmのときは「+-」を示し、反応性が高いことが確認されたが、メンブレンに固定化された抗体がPDWN1抗体であり、金コロイド標識抗体がPDWN2抗体である場合のほうが、クルミタンパク質を検出する能力が高いことが確認された。
【0077】
[実施例4]
[PDWN1抗体とPDWN2抗体の特異性評価]
[クルミ以外の木の実タンパク質とのイムノクロマトグラフィーによる交差反応性の確認]
上記イムノクロマトストリップのうち、メンブレンに固定化された抗体がPDWN1抗体であり、金コロイド標識抗体がPDWN2抗体であるイムノクロマトストリップを使用して、前記D-HZ、D-MC、D-AM、D-CS、D-PS、D-PN、及びD-PEをイムノクロマトグラフィーによる検出対象として交差反応性の有無を評価することとした。
【0078】
(各木の実タンパク質を含む測定試料の作製)
ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ピスタチオ、落花生、及びペカンナッツについて、各木の実1gを0.5%SDS、0.2%Tween20、0.1%チオ硫酸ナトリウムを含むダルベッコPBSを用いて20倍でタンパク質を抽出し、各測定試料を作製した。
【0079】
(イムノクロマトグラフィーによる各木の実類の検出の確認)
上記金コロイド標識PDWN2抗体溶液を20μL、展開液として牛胎児血清(FBS)を30μL、木の実のタンパク質を含む各測定試料をそれぞれ50μL加えて、被検液とした。かかる被検液をPDWN1抗体がメンブレンに固定化されているイムノクロマトストリップにスポットし、各木の実のタンパク質の検出の有無の確認を行った。結果を表3に示す。判定はラインの着色が強い方から順に「+」、「+w」、「+-」と表記し、陰性を「-」(検出無し)とした。
【0080】
【0081】
(結果)
表3から明らかなとおり、PDWN1抗体とPDWN2抗体とを用いる上記イムノクロマトストリップは、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ピスタチオ、落花生、及びペカンナッツの各タンパク質に対して反応性を示さず、これらの木の実タンパク質との交差反応性がないことが確認された。特に、ペカンナッツについては、従来クルミとの交差反応性を示すキットや論文が多数あることから、ペカンナッツに対する反応性を示さない上記クルミアレルゲン検出用イムノクロマトストリップは、従来技術と比較して優れていると考えられるため、PDWN1抗体とPDWN2抗体とについてさらに検討を行った。
【0082】
[実施例5]
[クルミ以外の木の実タンパク質との交差反応性のインダイレクトELISA法による確認]
クルミタンパク質(D-WN)とクルミ以外の7種類のタンパク質(D-HZ、D-MC、D-AM、D-CS、D-PS、D-PN、及びD-PE)の合計8種類のタンパク質を抗原とした場合の、PDWN1抗体とPDWN2抗体の各タンパク質への反応性をインダイレクトELISA法で確認することとした。
【0083】
(抗原の固相化)
96ウェルマイクロプレートを用い、D-WN、D-HZ、D-MC、D-AM、D-CS、D-PS、D-PN、及びD-PEを抗原として固相化した。PBSで100ppmの各抗原溶液を調製し、それぞれ2ウェルずつ100μL/ウェル分注した。37℃にて1.5時間静置して、固相化反応させた後、0.05%Tween20/PBS(PBST)250μLで各ウェルを5回洗浄した。1%BSA/PBSを150μL/ウェル分注し、37℃にて1時間静置して反応させてブロッキング反応を行った後PBST250μLで各ウェルを5回洗浄して、8種類の固相化抗原を2ウェルずつ調製した。
【0084】
(一次抗体反応)
PDWN1抗体を、PBSTで1μg/mLのPDWN1抗体溶液を調製し、8種類の固相化抗原が調製されたウェルに100μL/ウェル分注した(8ウェル)。PDWN2抗体を、PBSTで1μg/mLのPDWN2抗体溶液を調製し、8種類の固相化抗原が調製されたウェルに100μL/ウェル分注した(8ウェル)。37℃にて1.5時間静置して反応させた後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0085】
(二次抗体反応)
上記PDWN1抗体溶液を分注した8ウェルには、抗ラットIgG抗体(Alkaline Phosphatase-conjugated AffiniPure F(ab’)2Fragment Donkey Anti-Rat IgG(H+L)(Jackson Immuno Research、712-056-153))を100μL/ウェル分注し、上記PDWN2抗体溶液を分注した8ウェルには、抗マウスIgG抗体(Alkaline Phosphatase-conjugated AffiniPure Rabbit Anti-Mouse IgG(H+L)(Jackson Immuno Research、315-055-003))を100μL/ウェル分注した。37℃にて1.5時間静置して反応させた後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0086】
(発色)
p-ニトロフェニルリン酸二ナトリウム六水和物0.01g、及び、1%2,2’-イミノジエタノール+1%塩化マグネシウム六水和物+0.02%アジ化ナトリウム溶液(pH9.8)(ジエタノールアミンバッファー)10mLを混合して調製された発色剤を、上記16ウェルに100μL/ウェル分注し、遮光下常温にて30分静置して反応させた。5規定水酸化ナトリウムを50μL/ウェル分注することにより反応を停止させ、主波長405nm、副波長620nmにて吸光度を測定した。各抗原における主波長405nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値について、
図1に示す。
【0087】
(結果)
図1(a)から明らかなとおり、PDWN1抗体は、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ピスタチオ、及び落花生に対して反応性を示さず、クルミとペカンナッツとに対して反応性を示した。
図1(b)から明らかなとおり、PDWN2抗体は、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ピスタチオ、落花生、及びペカンナッツに対して反応性を示さず、クルミに対してのみ反応性を示した。したがって、PDWN2抗体がペカンナッツに反応しないが、クルミに対してのみ反応性を有するより優れた抗クルミモノクローナル抗体であると判断し、PDWN2抗体について、これ以降さらに検討を進めることにした。
【0088】
[実施例6]
[PDWN2抗体の評価]
[1.ウェスタンブロッティングによる評価]
(サンプル液の調製)
加熱変性処理粗クルミタンパク質(D-WN)を0.5%SDS、0.2%Tween20、0.1%チオ硫酸ナトリウムを含むダルベッコPBSで希釈し、0.5ppmのウェスタン用PDWN2抗体溶液を調製した。ペカンナッツ加熱変性処理粗タンパク質(D-PE)は原液(5500ppm)を用いた。D-WN及びD-PEを、SDS-PAGE用サンプルバッファー(Laemmli組成)と1:2となるようにそれぞれ混合してD-WNサンプル液(D-WN濃度0.17μg/mL)及びD-PEサンプル液(D-PE濃度1833μg/mL)を調製し、沸騰水中にて10分間加熱したのち冷却して試験に供した。
【0089】
(SDS-PAGE)
Mini PROTEAN TGX Precast Gels 12%(Bio Rad社製、456-1044)を泳動槽にセットし、上記D-WNサンプル液及びD-PEサンプル液をそれぞれ20μLアプライし、電気泳動を行った。アプライした溶液中のタンパク質量はD-WNが0.17μg/mL(0.033μg/20μL)、D-PEが1833μg/mL(36.67μg/20μL)であった。サイズマーカーとしてPrecision Plus Protein Kaleidoscope Standards(Bio Rad社製、161-0375)を10μLアプライした。200Vの定電圧で30分電気泳動を行った。
【0090】
AE-1460 EzBlot(ATTO社製)の取扱説明書に従って、ウェスタンブロッティングを行った。転写用バッファーを調製し、ゲル上の分離したタンパク質をImmun-Blot PVDF Membrane for Protein Blotting(0.2μm)(Bio Rad社製、162-0176、以下「PVDF膜」ともいう)に電気的に転写した。ブロッキング溶液中で転写後のPVDF膜を4℃にて一晩振盪させてブロッキング反応を行った。反応後、0.05%Tween20/TBS(トリス緩衝生理食塩水(20mMTris、150mMNaCl pH7.5)(以下、「TBST」ともいう)を用いてシーソーシェイカー上で室温にて5分間の洗浄を2回行った。
【0091】
(一次抗体反応)
PDWN2抗体を100ng/mLとなるように調整した上記ブロッキング溶液に添加し、上記PVDF膜をいれて、シーソーシェイカー上で室温にて1時間反応させた。反応後、TBSTにより、シーソーシェイカー上で室温にて5分間PVDF膜を洗浄後、再度5分間の洗浄を行った。
【0092】
(二次抗体反応)
上記ブロッキング溶液にビオチン標識抗マウス抗体を添加した溶液に、上記洗浄されたPVDF膜をいれて、シーソーシェイカー上で室温にて20分反応させた。TBSTを用いてシーソーシェイカー上で室温にて5分間PVDF膜を洗浄後、再度5分間の洗浄を行った。
【0093】
(ストレプトアビジン添加)
上記ブロッキング溶液にHRP標識ストレプトアビジンを添加した溶液に、上記二次抗体反応させたPVDF膜をいれ、シーソーシェイカー上で室温にて10分間反応させた。反応後、TBSTを入れて、シーソーシェイカー上で室温にて5分間PVDF膜を洗浄後、再度5分間の洗浄を行った。
【0094】
(発色)
上記洗浄したメンブレンをEzWestBlue(2332630、ATTO社製)にて5分程度発色させた後、蒸留水を入れたタッパーにメンブレンを移して反応を停止させた。結果を
図2に示す。
【0095】
(結果)
図2から明らかなとおり、PDWN2抗体は、35kD付近にあるクルミの11Sグロブリンに結合したが(←(矢印)部分)、ペカンナッツの11Sグロブリンに対しては反応しないことが確認された。
【0096】
[実施例7]
[2.競合ELISA法による特異性評価]
(抗原の固相化)
96ウェルマイクロプレートのうち16ウェルを用い、D-WNを抗原として固相化した。PBSで100ppmのD-WN溶液を調製し、100μL/ウェル分注した。37℃にて1.5時間静置して、固相化反応させた後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。1%BSA/PBSを150μL/ウェル分注し、37℃にて1時間静置して反応させてブロッキングを行った後PBST250μLで各ウェルを5回洗浄して、固相化抗原を16ウェル調製した。
【0097】
(測定用タンパク質溶液の調製)
D-WNをPBSTで希釈し、100、33.33、11.11、3.70、1.23、0.41、0.14ppmの7種類の濃度のD-WN溶液を調製した。D-PEをPBSTで希釈し、100、33.33、11.11、3.70、1.23、0.41、0.14ppmの7種類の濃度のD-PE溶液を調製した。上記各濃度のD-WN溶液と各濃度のD-PE溶液とをそれぞれ、PBSTで0.1μg/mLに調整したHRP標識抗体と等量混合して、終濃度を50、16.67、5.56、1.85、0.62、0.21、0.07ppmとしたのち室温にて1時間反応させて、7種類の濃度のD-WN測定用タンパク質溶液と、7種類の濃度のD-PE測定用タンパク質溶液とした。
【0098】
上記7種類の濃度のD-WN測定用タンパク質溶液と7種類の濃度のD-PE測定用タンパク質溶液とを上記抗原が固相化されたウェルに100μL/ウェル分注した。2ウェルはブランクとした。37℃にて1時間静置して反応させた後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0099】
(発色)
TMB溶液を100μL/ウェル分注し、遮光下常温にて10分静置して反応させた。1規定塩酸を100μL/ウェル分注することにより反応を停止させ、主波長450nm、副波長620nmにて吸光度を測定した。各濃度における主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値について、
図3に示す。
【0100】
(結果)
図3のグラフから明らかなとおり、実線で示されるクルミタンパク質は、濃度が低いときは吸光度が大きくなり、クルミの濃度が高くなるにつれ吸光度が小さくなった。一方、点線で示されるペカンナッツタンパク質は、濃度が低い場合も高い場合もほぼ一定の吸光度を示した。
【0101】
D-WN測定用タンパク質溶液中に抗原であるクルミタンパク質の量が少ないときは、クルミに結合するPDWN2抗体の量が少なくなるが、測定用タンパク質溶液中でクルミに結合しないPDWN2抗体が、固相化されたクルミにより多く結合する(捕捉される)ため標識による発色が強くなる。一方、D-WN測定用タンパク質溶液中に抗原であるクルミタンパク質の量が多いときは、クルミに結合するPDWN2抗体の量がより多くなり、固相化されたクルミに結合するPDWN2抗体はより少なくなるため発色が弱くなる。クルミタンパク質の吸光度のカーブは、逆シグモイド型に近いカーブとなっており、競合的阻害が成立して、抗体の抗原への反応性がよいことが示されている。一方、D-PE測定用タンパク質溶液を用いた場合の吸光度は高い値でほぼ一定であり、PDWN2抗体は、ペカンナッツタンパク質に結合しないことが示された。
【0102】
[実施例8]
[PDWN2モノクローナル抗体のクルミ11Sグロブリンタンパク質における認識部位の解析]
(クルミ11Sグロブリンタンパク質のアミノ酸配列)
PDWN2モノクローナル抗体について、クルミ11Sグロブリンペプチドタンパク質(511アミノ酸(配列番号2))における認識部位の解析(エピトープの同定)を行った。上記クルミの11Sグロブリンタンパク質の511アミノ酸の1~360残基のアミノ酸配列と、ペカンナッツの11Sグロブリンタンパク質における1~360残基のアミノ酸配列(配列番号3)との比較を以下の表4に示す。クルミの11Sグロブリンタンパク質の1~360アミノ酸と、ペカンナッツの1~360アミノ酸とにおいて、相違あるアミノ酸については、太字で示されている。
【0103】
【0104】
[ペプチドアレイ1]
(アミノ酸スポットメンブレンの作製)
PepSpot(メンブレンペプチドアレイ、フナコシ社に依頼)により、クルミ11Sグロブリンタンパク質の1~511アミノ酸残基(配列番号2)を20アミノ酸残基ごとにセルロースメンブレン上に26種類 (20アミノ酸残基×25種類+11アミノ酸残基×1種類)スポットして、20アミノ酸スポットメンブレンを作製した。かかる20アミノ酸スポットメンブレンにおける各配列を示す模式図を以下の表5に示す。
【0105】
【0106】
(ブロッキング)
上記20アミノ酸スポットメンブレンをトレイに入れ、メタノールを添加し、シーソーシェイカー上で室温にて5分間すすいだ後、メタノールを廃液入れに移した。TBSTを添加し、シーソーシェイカー上で室温にて3分間20アミノ酸スポットメンブレンを洗浄した。かかる洗浄を3回行った。ブロッキング溶液中で、上記洗浄された20アミノ酸スポットメンブレンを4℃にて一晩振盪させてブロッキング反応を行った。
【0107】
(一次抗体反応)
上記ブロッキング反応を行った液を廃液入れに移し、PDWN2抗体を1μg/mLとなるようにブロッキング溶液に添加し、一次抗体反応液とした。シーソーシェイカー上で室温にて、上記ブロッキングした20アミノ酸スポットメンブレンを上記一次抗体反応液中で3時間反応させた。上記一次抗体反応液を廃液入れに移し、50mLのTBSTを用いてシーソーシェイカー上で室温にて5分間の一次抗体反応後のメンブレンの洗浄を3回行った。
【0108】
(二次抗体反応)
二次抗体(Peroxidase Goat Anti-Mouse IgG(H+L))をブロッキング溶液に添加し、二次抗体反応液とした。シーソーシェイカー上で室温にて2時間反応させた。二次抗体反応液を廃液入れに移し、TBSTを添加して、シーソーシェイカー上で室温にて5分間の二次抗体反応後のメンブレンの洗浄を3回行った。
【0109】
(発色)
上記洗浄したメンブレンをEzWestBlueにて10分間発色させた後、蒸留水を入れたタッパーにメンブレンを移して反応を停止させた。各スポット番号における発色の検出結果を
図4に示す。
【0110】
(結果)
図4から明らかなとおり、14番目のスポットが発色していることが確認された。したがって、配列番号2に示される配列における、261-280番目のアミノ酸残基に該当する「RLQSNHDQRRGIVRVEGNLQ」(配列番号4)に含まれる配列をPDWN2モノクローナル抗体は認識していることが確認された。
【0111】
[ペプチドアレイ2]
PDWN2抗体が反応していることが確認された上記「RLQSNHDQRRGIVRVEGNLQ」の配列について、C末端側から1残基ずつ削ることにより作製した配列16種類と又はN末端側から1残基ずつ削ることにより作製した配列15種類とを、上記ペプチドアレイ1と同様、PepSpotにより、セルロースメンブレン上にスポットして、31種類スポットメンブレンを作製した。
【0112】
上記ペプチドアレイ1と同様の手順で、ブロッキング、一次抗体処理、二次抗体処理、発色処理を行い、前記イメージアナライザーにて発色の検出を行った。各スポット番号における発色の検出結果を
図5に示す。また、31種類スポットメンブレンにおけるスポット番号と各配列の対応関係につき一部を以下の表6に示す。
【0113】
【0114】
(結果)
図5から明らかなとおり、上記表6における1~6番目と17~23番目のスポットが発色していることが確認された。6番目のスポットが発色し7番目のスポットは発色しないことから、6番目にスポットされているアミノ酸配列「RLQSNHDQRRGIVRV」(配列番号10)におけるC末端の「V」が、PDWN2モノクローナル抗体のエピトープ認識に必要であると考えられた。23番目のスポットが発色し24番目のスポットは発色しないことから、23番目にスポットされているアミノ酸配列「QRRGIVRVEGNLQ」(配列番号18)におけるN末端の「Q」が、PDWN2モノクローナル抗体のエピトープ認識に必要であると考えられた。したがって、PDWN2モノクローナル抗体は、「QRRGIVRV」(配列番号1)をエピトープとして認識していることが確認できた。
【0115】
実施例1で調製した、クルミ加熱変性処理粗タンパク質(D-WN)溶液を用いて、PBS又は0.5%SDS/PBSにD-WNを添加して、クルミタンパク質濃度が0.1ppm、0.2ppm、0.5ppm、又は1.0ppmである8種類のクルミタンパク質溶液を調製し、コントロール(0.0ppm)とともに加熱せずにイムノクロマト法により検査した。結果を以下の表7に示す。
【0116】
【0117】
上記表7より明らかなとおり、本発明のイムノクロマト法により加熱をすることなく、クルミタンパク質0.1ppmを検出できることが確認された。
【0118】
(拭き取り検査)
実際の製造現場を想定し、市販のクルミ食品を用いて拭き取り検査を行った。製造ラインに製品が残存している状況を再現するため、クルミが含有されていることが明らかな市販食品6種類、すなわち、くるみ食パン、菓子パン、ビスケット、くるみ餅、くるみ入り佃煮、くるみ入りごま豆腐について、それぞれフードカッターで均一化した食品0.1gをステンレス板100cm2(10cm×10cm)に塗り広げて乾燥させた。
【0119】
綿棒を用いて、上記各溶液サンプルが塗布されているステンレス板100cm2全体をこすりとり、10mLのPBSに浸した。上記緩衝液(PBS)に溶解したサンプル0.1mLをイムノクロマトに供した。結果を以下の表8に示す。
【0120】
【0121】
上記表8より明らかなとおり、市販のクルミ入り食品が製造現場や調理現場に残存している場合、拭き取り液から速やかにクルミアレルゲンを、SDS非存在下において検出できることが確認された。
試料中のクルミアレルゲンを迅速かつ精度よく検出することのできる、本発明のクルミアレルゲンの検出方法や、それに用いることができる本発明のアレルゲンの検出キットは、食品産業において特に有用である。