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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076427
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】材料内部でのレーザ加工
(51)【国際特許分類】
   A44C 17/00 20060101AFI20230525BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20230525BHJP
   A44C 27/00 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
A44C17/00
B23K26/00 B
B23K26/00 P
A44C27/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020405
(22)【出願日】2023-02-14
(62)【分割の表示】P 2021545950の分割
【原出願日】2020-01-09
(31)【優先権主張番号】1901635.1
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】521345442
【氏名又は名称】オプシディア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マイルス、デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】フィッシュ、ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ソールター、パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ブース、マーティン
(57)【要約】
【課題】サンプルの表面下の内部の目標位置に、改修された領域を形成するためのレーザ・システムにおいて、正確な加工を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、システムは、レーザ光源と、サンプルを支持するためのサンプル・ホルダと、サンプルがサンプル・ホルダによって支持されているとき、レーザ光源からのレーザ光線をサンプル中に導いて合焦する1つ又は複数の光学素子であって、レーザ光線がサンプルの内部の目標位置に合焦されるように、レーザ光線が入るサンプルの表面における屈折率の不整合に起因する球面収差を補正するように構成された構成要素を含む1つ又は複数の光学素子と、表面から入るレーザ光線の光軸に対するサンプルの表面の傾斜角を測定する傾斜測定デバイスと、測定された傾斜角を基にサンプル・ホルダ及び/又は光学素子のうちの1つ又は複数を動かして、傾斜角に起因するコマ収差を補正するための駆動機構とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド原石であって、
前記ダイヤモンド原石の表面下の第1の深さに配置された第1のマークと、
前記ダイヤモンド原石の前記表面下の第2の深さに配置された第2のマークと
を有し、
前記第1のマークは10倍のルーペ下で可視であり、
前記第2のマークは10倍のルーペ下では不可視であるが、より高い倍率では可視である、ダイヤモンド原石。
【請求項2】
前記第1のマークと前記第2のマークは、前記表面下の異なる深さに配置されている、請求項1に記載のダイヤモンド原石。
【請求項3】
前記第1のマークの深さと前記第2のマークの深さとの差が少なくとも30マイクロメートルである、請求項2に記載のダイヤモンド原石。
【請求項4】
前記第1のマークと前記第2のマークは、前記表面を通して見たときに重なる、請求項2又は3に記載のダイヤモンド原石。
【請求項5】
前記第1のマークは、前記表面に対して平行な2マイクロメートルよりも太い幅を有する少なくとも1つのライン又はドット、及び/又は前記表面に対して平行な方向において10マイクロメートル未満の分離を伴う複数のラインを有する、請求項1から4までのいずれか一項に記載のダイヤモンド原石。
【請求項6】
前記第1のマークは、100マイクロメートルよりも大きい外形寸法、より好ましくは200マイクロメートルよりも大きい外形寸法を有する、請求項1から5までのいずれか一項に記載のダイヤモンド原石。
【請求項7】
前記第2のマークは、前記表面に対して平行な、2マイクロメートル以下、より好ましくは1マイクロメートル以下の幅を有する1つ又は複数のライン若しくはドットから成る、請求項1から6までのいずれか一項に記載のダイヤモンド原石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は材料の内部をレーザ加工するためのレーザ・システムに関し、詳細にはサンプルの内部に改修された領域を形成するためのシステムに関する。レーザ・システムは、宝石の原石、特にダイヤモンド原石にマークを付けるのにとりわけ有効である。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工(laser machining)は産業において広く使用されている処理である。最近の十年程度にわたるこの領域の研究開発により、レーザ処理のスケールがはるかに小さくなった。これは、数百フェムト秒から数ピコ秒の範囲のパルス持続時間を用いるパルス状レーザを使用し、高開口数レンズで合焦することによって可能になったものである。時間と空間的次元とにおけるエネルギ閉じ込めの組合せが、非線形光学的処理による材料改修を作成する高い瞬時焦点強度をもたらす。したがって、処理の効果は焦点領域に限定される可能性がある。
【0003】
したがって、レーザ加工技術に与えられる制御の程度を改善するために、材料の内部のレーザ焦点のサイズ及び形状に対する制御を改善するのが好ましい。しかしながら、レーザ・ビームの経路における材料の存在が、(例えば屈折及び/又は反射によって)必然的にレーザに影響を及ぼす。
【0004】
結果的に、材料の内部に合焦しようとすると、材料自体が、材料の内部のレーザ合焦を妨害する。
【0005】
Simmondsら(Optical Express、19巻、2011年11月12日)によって、2重適応光学システムを使用する、ダイヤモンドの中の3次元レーザ微細加工が以前に説明されている。説明されているのは、2重適応光学システムによって、ダイヤモンドのバルクの深いところで、制御された3次元構造のフェムト秒レーザ加工が促進されるということである。ダイヤモンドと目標の浸漬媒体との間の屈折率不整合に起因する極端な収差を補償するために、液晶空間光変調器と並行して変形可能ミラーが使用される。50μmよりも深いミクロン規模のフィーチャの決定論的生成のためには収差補償が重要であることが示されており、2重適応光学手法により、単一の適応要素を使用した実験と比較して加工効率が向上したことが明示された。
【発明の概要】
【0006】
対物レンズからサンプルの中に合焦された光は、サンプルの表面における屈折のために理想的焦点から逸れることになる。浸漬媒体(例えば空気、オイルなど)の屈折率とサンプルの屈折率との間の差が大きければ、焦点に対する収差の影響も大きくなる。したがって、判定された補正は、サンプルの有害な収差の影響を打ち消すためにサンプル表面における屈折の影響を明らかにするものである。種々の要因が、焦点上の種々のタイプの収差(又は収差モード)に寄与することができる。
【0007】
サンプルの屈折率と集束対物レンズの浸漬媒体との不整合が球面収差をもたらす。球面収差により、解像度と加工の電力効率とが損なわれ、焦点深度が増加する。この問題は、材料の高屈折率(2.4)と、最高の解像度を得るために高開口数(NA)の光学部品を使用する必要性とのために、ダイヤモンドの中の加工に関して特に顕著になる。背景技術の節で説明されたように、Simmondsらは、深さ依存の球面収差を補償する2重適応光学手法を提示し、ダイヤモンドなどの高屈折率のサンプルの内部の深いところで小型のフィーチャの加工を可能にしている。
【0008】
コマ収差として知られている別のタイプの収差がある。集束対物レンズに対して表面が傾斜していると、一般的には理想的な合焦は不可能になり、コマ収差によって焦点を歪めることになる。通常、入射面は可能な限り水平にされ、結果として生じる歪みは容認されるが、いくつかの用途(例えば宝石内部に合焦すること)については、完全に水平な面を得るのが困難であるか、又は傾斜した表面を通して合焦するのが有利なことがある。よって、サンプルの傾斜を測定して補正を適用することにより、焦点上の傾斜の影響を打ち消すことができる。
【0009】
したがって、特にダイヤモンド原石などの高屈折率を有する材料の表面下の正確な加工のために、球面収差とコマ収差との両方を補正して合焦効率を改善するのが望ましいことが理解されている。球面収差は1つ又は複数の光学素子によって補正され得る。コマ収差については、表面から入るレーザ光線の光軸に対するサンプルの表面の傾斜角を測定するように構成された傾斜測定デバイスを含むレーザ・システムが提供される。そこで、傾斜角によるコマ収差が補正され得る。選択肢の1つには、球面収差とコマ収差との両方を補正するためにアクティブ光学素子を使用するものがある。しかしながら、別の選択肢は、コマ収差補正から球面収差補正を分離することを包含している。レーザ光線がサンプルの内部の目標位置に合焦されるように、レーザ光線が入るサンプルの表面における屈折率の不整合に起因する球面収差を補正するように構成された構成要素を含む1つ又は複数の光学素子が提供され得る。さらに、表面に入るレーザ光線の光軸に対するサンプルの表面の傾斜角を測定するように構成された傾斜測定デバイスが提供可能であり、測定された傾斜角を基に、サンプル・ホルダ及び/又は光学素子のうちの1つ又は複数を動かして、傾斜角に起因するコマ収差を補正するための駆動機構が提供される。
【0010】
したがって、本明細書で説明された一構成によれば、サンプルの表面下の内部に配設された目標位置に、改修された領域を形成するための、サンプル改修用のレーザ・システムが提供され、このレーザ・システムは、
レーザ光線を供給するように構成されたレーザ光源と、
サンプルを支持するためのサンプル・ホルダと、
サンプルがサンプル・ホルダによって支持されているとき、レーザ光源からのレーザ光線をサンプルの中に導くように構成された1つ又は複数の光学素子であって、レーザ光線がサンプルの中に合掌するように構成され、レーザ光線がサンプルの内部の目標位置に合焦されるように、レーザ光線が入るサンプルの表面における屈折率の不整合に起因する球面収差を補正するように構成された構成要素を含む、1つ又は複数の光学素子と、
表面から入るレーザ光線の光軸に対するサンプルの表面の傾斜角を測定するように構成された傾斜測定デバイスと、
測定された傾斜角を基にサンプル・ホルダ及び/又は光学素子のうちの1つ又は複数を動かして、傾斜角に起因するコマ収差を補正するための駆動機構と
を有する。
【0011】
駆動機構は、測定された傾斜角を基にサンプル・ホルダを動かしてサンプルの表面の傾斜角を低減することによってコマ収差を補正するように構成され得る。すなわち、サンプル・ホルダは、コマ収差を低減するか又は解消するように回転可能であり、したがってサンプルの傾斜を低減するか又は解消する。代替として、又はさらに、駆動機構は、サンプルの表面から入るレーザ光線の光軸を傾斜させるために、光学素子のうちの1つ又は複数を動かすように構成することができ、したがって傾斜角を低減してコマ収差を補正する。例えば、光学素子のうちの1つ又は複数が、サンプルの表面に対するレーザ光線の傾斜を低減するか又は解消するように回転することができ、したがってコマ収差を低減するか又は解消する。
【0012】
さらなる代替として、駆動機構は、傾斜角に起因してサンプルが誘起したコマ収差を相殺(キャンセル)するコマの量を生成するために光学素子のうちの1つ又は複数を動かすように構成され得る。この場合、傾斜角が解消されるのではなく、傾斜が原因となってサンプルに誘起されたコマ収差は、大きさが等しく符号が逆のコマをレーザ光線に導入することによって補償される。
【0013】
そのため、傾斜測定を基に、サンプル及び/又はレーザ・システムにおける1つ又は複数の光学素子を機械的に動かす(回転させ、且つ/又は移動する)ことによって、コマ収差が低減又は解消され得ることが十分に理解されよう。
【0014】
球面収差も、いくつかの異なるやり方で補正され得る。一構成では、1つ又は複数の光学素子は、サンプルの内部の目標位置における球面収差を補正するための調節可能な補正カラー(correction collar)を有するレンズを含む。代替として、1つ又は複数の光学素子は、サンプルの内部の目標位置における球面収差に対する一定の補正を伴うレンズを含み得る。さらなる代替として、1つ又は複数の光学素子は、サンプルの内部の目標位置における球面収差を補正するように構成されたレンズ及び位相板を含み得る。さらに別の代替形態には、1つ又は複数の光学素子が、サンプルの表面における屈折率の不整合に起因する球面収差を部分的又は全体的に相殺する球面収差をレーザ光線に導入するように構成されたレンズの組合せを含むものがある。さらに別の代替形態には、1つ又は複数の光学素子が、サンプルの内部の目標位置における球面収差を補正するように構成された適応光学素子を含むものがある。適応光学素子(又はアクティブ光学素子)は空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)を含み得る。空間光変調器の実例は、シリコンSLM(LCOS SLM)上の/の上の液晶などの液晶SLMを含む。他の実例は、デジタル・マイクロミラー・デバイス/変形可能ミラー・デバイスなどのミラー・ベースの適応光学素子を含む。これらのミラー・ベースのデバイスはミラー・ベースのSLMと称されることもある。そのため、空間光変調器は、そのようなデバイスに関する包括的用語として使用することができ、必ずしも液晶やミラー・ベースのSLMデバイスに限定されるわけではない。
【0015】
1つ又は複数の光学素子は、特定のタイプの材料の内部の一定の目標深さにおける球面収差を補正するように、前もって構成され得る。代替として、1つ又は複数の光学素子は、種々のサンプル材料の内部で、且つ/又は種々の目標深さにおいて、球面収差を補正するように調節可能である。例えば、レーザ・システムは、使用可能な補正のデータベースとサンプルの光学的測定との一方又は両方に基づいて球面収差を補正するために1つ又は複数の光学素子を自動的に調節するように構成されている球面収差コントローラを含むことができる。
【0016】
レーザ光源が、10ピコ秒未満、より好ましくは1ピコ秒未満のパルス状レーザ光を供給するように構成されていれば有利である。超短波のパルス状レーザ光を正確に合焦すれば、サンプルの表面を変化させることなく、材料の表面下の正確な処理が可能になる。レーザ光源は、10nJ~300nJのパルス・エネルギを有するパルス状レーザ光を供給するようにも構成され得る。特定のエネルギは、処理される材料サンプルに依拠することになる。
【0017】
さらに、1つ又は複数の光学素子は、少なくとも0.8、1、又は1.2の開口数を有するサンプルの内部にレーザ光線を合焦するように構成されている。高い繰り返しが可能な決定論的マーキングのために、レーザは、サンプル表面の下に高開口数で合焦されるべきである。これは、空気、水又はオイルの浸漬対物レンズを用いれば可能であろう。しかしながら、サンプル表面の下に高開口数で合焦するとき、収差は大きな懸案事項である。よって、本明細書で説明されたような補正が必要になる。
【0018】
レーザ・システムは、ダイヤモンドなどの宝石の原石にマークを付けるように構成され得る。この点に関して、光学素子及び制御ハードウェア/ソフトウェアは、そのような宝石の原石にマークを付けるように前もって構成され得る。例えば、サンプル・ホルダは宝石の原石を保持するように構成可能であり、光学素子はダイヤモンドなどの特定の宝石の原石材料用に構成され得る。
【0019】
本明細書で説明されたようなシステム及び方法の有利な特徴の1つには、ダイヤモンドなどの材料の内部に様々な異なる深さの範囲で、非常に小さいマーク及びより大きいマークを効率的に加工することができる。これはダイヤモンド原石のセキュリティ・マーキングのために有利であり得る。ダイヤモンド原石を識別するために10倍のルーペ下で可視のマークを設けることができるのは有利であると考えられる。しかしながら、そのような可視マークはコピーされてしまう可能性がある。それゆえ、本明細書で説明されたシステムは、セキュリティを強化するために、10倍のルーペ下では見えないがより高い倍率なら見える第2のマークをも与えることができる。
【0020】
上記のことを踏まえて、
ダイヤモンド原石の表面下の第1の深さに配設された第1のマークと、
ダイヤモンド原石の表面下の第2の深さに配設された第2のマークと
を有するダイヤモンド原石も提供され、
第1のマークは10倍のルーペ下で可視であり、
第2のマークは、10倍のルーペ下では不可視であるが、より高い倍率では可視である。
【0021】
第1のマークと第2のマークとは、表面下の異なる深さに配設され得る。例えば、第1のマークの深さと第2のマークの深さとの差は、少なくとも30マイクロメートルでよい。さらに、第1のマークと第2のマークとは、表面を通して見たとき重なり得る。この点に関して、本明細書で説明されたシステムは、かなり異なるサイズのそのようなマークを、かなり異なる深さで加工することができる。これらのマークを同一の横位置において異なる深さに設けることにより、第1の可視マークは、ガイドとしての第1のマークがなければ見つけるのがより困難な、より高い倍率下でなければ見えない第2のマークを配置するために使用され得る。
【0022】
第1のマークは、表面に対して平行な2マイクロメートルよりも太い幅を有する少なくとも1つのライン若しくはドット、及び/又は表面に対して平行な方向における10マイクロメートル未満の分離を伴う複数のラインを有し得る。第1のマークの外形寸法は100マイクロメートルよりも大きくてよく、より好ましくは200マイクロメートルより大きくてよい。対照的に、第2のマークは、表面に対して平行な、2マイクロメートル以下、より好ましくは1マイクロメートル以下の幅を有する、1つ又は複数のライン若しくはドットから成る。
【0023】
上記で説明された構成は、傾斜測定を基に、サンプル及び/又はレーザ・システムにおける1つ又は複数の光学素子を機械的に動かす(回転するか又は移動する)ことによってコマ収差を低減するか又は解消することに留意されたい。これは、コマ収差を補正するために空間光変調器(SLM)などのアクティブ光学素子が使用される代替構成と対照をなすものである。そのような代替構成では、レーザによって改修するサンプルがレーザ・システムに配置され、合焦するレーザが通るサンプルの表面の傾斜が測定され、レーザ・システムのアクティブ光学素子に適用される補正が、少なくとも測定された傾斜を使用して判定され、改修された領域を生成するために、目標位置においてサンプルを改修するレーザが、補正された波面特性有するレーザを使用するように、アクティブ光学素子に対して、レーザの波面特性を修正してレーザ焦点に対するコマの影響を打ち消すための補正が適用される。一構成では、球面収差とコマ収差との両方を補正するために、SLMなどのアクティブ光学素子が使用され得る。しかしながら、本明細書で説明された構成は、傾斜角に起因するコマ収差を補正するために、測定された傾斜角に基づいてサンプル・ホルダ及び/又は光学素子のうちの1つ又は複数を動かすための機械的駆動機構を設ける一方で、球面収差は本明細書で説明された他の方法のうちの1つ又は複数で補正され得るように、これらの収差補正を分離するものである。これは、ある特定の用途では有利であり得る。例えば、使用可能なアクティブ光学素子(例えば空間光変調器)に、収差を補正するための十分な範囲又は自由度がない用途では有利であり得る。ある特定の用途では、収差を補正するレーザ・システムの範囲及び自由度を増すために、アクティブ光学素子と組み合わせて機械式駆動技法が提供され得る。
【0024】
本開示の理解を支援するとともに実施例が実行され得る様子を示すために、添付図面が実例として参照される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】コマ収差を導入するサンプルの傾斜を示す、レーザ・システムの一部分の概略図である。
図2】レーザ、2つの光学素子、及びサンプルを支持するサンプル・ホルダを含むレーザ・システムの概略図である。
図3】サンプルの傾斜を低減するか又は解消してコマ収差を補正するために回転するように構成され得る、サンプル・ホルダ(及びサンプル・ホルダによって支持されたサンプル)を示す図2のレーザ・システムを示す図である。
図4】システムの光学構成要素が、(レーザ光線に対する)サンプルの傾斜を低減するか又は解消してコマ収差を補正するために回転するように構成され得ることを示す図2のレーザ・システムを示す図である。
図5】レーザ、3つの光学素子、及びサンプルを支持するサンプル・ホルダを含むレーザ・システムを示す概略図である。光学素子のうちの少なくとも1つは、傾斜角に起因する誘起されたサンプルのコマ収差を相殺するコマの量を生成するように動かされ得る。
図6】ダイヤモンドのサンプルの内部で、以下の(A)~(D)のように、2つの異なる深さに、収差補正の程度を変化させて形成されたマーキングを示す概略図である。(A)深さ1(例えば100マイクロメートル)、収差補正なし、多いパルス数(例えば10,000)、高いパルス・エネルギ、大きい非決定論的マーキング、(B)深さ1、収差補正を適用、少ないパルス数(例えば5)、低いパルス・エネルギ、小さい決定論的マーキング、(C)深さ2(例えば200マイクロメートル)、Bと同じ収差補正を適用、多いパルス数(例えば10,000)、高いパルス・エネルギ、大きい非決定論的マーキング、(D)深さ2、Bと比較して新規の収差補正を深さ2に適用、少ないパルス数(例えば5)、低いパルス・エネルギ、小さい決定論的マーキング。
図7A】ダイヤモンド基板の内部に書き込まれた黒鉛トラックを1つの視点から示す図である。
図7B】ダイヤモンド基板の内部に書き込まれた黒鉛トラックを別の視点から示す図である。
図7C】ダイヤモンド基板の内部に書き込まれた黒鉛トラックを別の視点から示す図である。
図7D】ダイヤモンド基板の内部に書き込まれた黒鉛トラックを別の視点から示す図である。
図8A】収差補正を使用していない、基板内部の歪んだ焦点の実例を示す概略図である。
図8B】収差補正を使用して達成された、基板内部の焦点の実例を示す概略図である。
図9A】ダイヤモンドの基板に書き込まれたフィーチャを示す図である。フィーチャの左側のセットは収差補正技術を使用して書き込まれたものであり、フィーチャの右側のセットは収差補正技術を使用せずに書き込まれたものである。
図9B】ダイヤモンドの基板に書き込まれたフィーチャを示す図である。フィーチャの左側のセットは収差補正技術を使用して書き込まれたものであり、フィーチャの右側のセットは収差補正技術を使用せずに書き込まれたものである。
図10】サンプルのレーザ改修のための別のレーザ・システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書は、ダイヤモンド及び他の宝石の原石などのサンプルのバルクにおける高開口数レーザ・マーキングのために収差補正を適用するように構成されたレーザ・システムを説明するものである。
【0027】
ダイヤモンドの表面の下に超短波(サブ10ピコ秒(10ピコ秒未満)、好ましくはサブピコ秒(1ピコ秒未満))のパルス状レーザを合焦すると、ダイヤモンド表面を変化させることなく、分離された可視マークを作製することができる。厳しい合焦と短いパルス長とを組み合わせると、多光子吸収又はトンネル・イオン化のいずれかになだれイオン化が続くことにより、焦点において光の非線形吸収のための十分に高い電界をもたらす。この処理の非線形の性質は、材料サンプルの周囲の領域又は表面には損傷がなく、構造改修がレーザの焦点ボリュームに閉じ込められることを意味する。パルスの超短波の性質は、熱を介したいかなる拡散も生じる前に、すべてのエネルギが改修に伝えられて、非常に小さいサブミクロン・マークが可能になることを意味する。
【0028】
レーザがダイヤモンド格子を分解するとき、sp2結合炭素の小さいポケットが誘起されて高い局部応力をもたらし、主として111の面に沿ったダイヤモンドの局所的亀裂が伴う。マークは、透明な背景に対する暗黒(不透明)として出現する。これは、一部は黒鉛化された領域の吸収によるものであるが、構造における局所的非均一性からの散乱にもよる。
【0029】
レーザで書き込まれたマークは、QRコード(登録商標)、他のタイプのコード、パターン、製造番号、又は他の一意の図案を使用する、ダイヤモンド原石の識別又はホール・マーキングのための恒久的なフィーチャとして使用され得る。マークは導電性であるため、レーザで書き込まれたワイヤとしても使用され得る。マークは、ダイヤモンドにおける複屈折を生成する局所的ひずみを作成するので、導波路などの光学構造を作るためにも使用され得る。
【0030】
高い繰り返しが可能な決定論的マーキングのために、レーザは、ダイヤモンド表面の下に高開口数で合焦されるべきである。これは、空気、水又はオイルの浸漬対物レンズを用いれば可能であろう。一般的には、開口数NAは0.8を上回るべきであり、好ましくは1以上、最も好ましくは1.2以上である。開口数は、一般的には2.0未満であり、より一般的には1.5以下である。
【0031】
ダイヤモンド表面の下に高開口数で合焦するとき、収差は大きな懸案事項である。ダイヤモンド表面における大きい屈折率差のために光線の著しい屈折があり、これは、対物レンズ用に選択された浸漬媒体には関係なく大きいものである。異なる角度で入射する光線は、スネルの法則によって屈折量が異なり、合焦の段階ではもはや完全にオーバラップすることはない。したがって、もはやシステムが純粋に回折によって制限されることはなく、レーザ焦点が歪められる。レーザ焦点の歪みによって解像度が損なわれ、高NAレンズを使用する効果が打ち消される。
【0032】
収差があるとき、ダイヤモンド表面の下のレーザ加工が不安定且つ非制御になって、所与のパルス・エネルギ及び用量においてサブミクロン・マーク(システムの光軸に対して垂直な横断方向におけるサブミクロン)を決定論的に生成するのが不可能になる。収差は、実際は、主にダイヤモンド表面における屈折からの球面収差である。球面収差の量は解析的に計算することができる(Booth、1998年、Journal of Microscopyを参照されたい)。収差は、サンプルの内部の深さ、合焦レンズのNA、及び屈折率(RI)の不整合とともに増加することが確かめられている。
【0033】
別の重要な収差に1次コマがあり、これは、レーザが合焦される、システムの光軸に対して完全に垂直ではない界面の傾斜に関連したものである。図1は、コマ収差を導入するサンプルの傾斜を示す、レーザ・システムの一部分の概略図である。
【0034】
これらの収差は、レーザ・ビームに対して、対物レンズの前に、大きさが等しい逆の位相分散を課すように、液晶空間光変調器(SLM)などの適応光学素子を使用してうまく補正され、回折で制限された合焦の性能が修復され、所与のパルス・エネルギ及び用量においてサブミクロン・フィーチャの高い繰り返しが可能な決定論的マーキングが可能になることが、以前に示されている(Simmonds、Optic Express、2011年及びSalter Boothの特許出願、2017年を参照されたい)。
【0035】
適応光学素子の収差補正はダイヤモンドの内部の決定論的レーザ・マーキングに対して融通性のある解決策を提供するものであるが、解決策はこれだけではない。本明細書で説明されたように、ほとんど収差のない性能及び確実なレーザ・マーキングを提供することができる他の実用的な実装形態がある。
【0036】
図2は、レーザ、2つの光学素子、及びサンプルを支持するサンプル・ホルダを含むレーザ・システムを概略的に示すものである。深さ依存の球面収差を補正するために適応光学素子を使用する代わりに、下記のような他の選択肢が利用可能である。
a. ガラスの内部に合焦するときの球面収差を解消するための補正カラーを含有している多くの顕微鏡対物レンズが購入可能である。一般的には、補正カラーが回転するときレンズの内部のガラス素子が光軸に沿って動くことができ、ガラスの内部の特定の深さ用に球面収差を調節する。この球面収差の位相は、宝石の内部に合焦される異なる深さにおける球面収差の位相に近いものであってよく、そこで、その深さにおける球面収差を低減するために使用される。
b. 浸漬媒体として空気を有し、ガラスの内部の特定の深さに対して一定の補正を有する、多くの顕微鏡対物レンズが購入可能である。この球面収差の位相は、宝石の内部に合焦される異なる深さにおける球面収差の位相に近いものであってよく、そこで、その深さにおける球面収差を低減するために使用される。
c. 何らかの所望の任意位相を示す一定の位相板が購入され得る。したがって、特定の深さ及び対物レンズに関して必要な位相を計算し、次いで、球面収差のない宝石の内部でこの深さに合焦するために、この位相板をこのレンズとともに使用することができる。
d. ダイヤモンドの界面における屈折によって生成される球面収差を部分的又は完全に相殺する球面収差を対物レンズの前でレーザ・ビームに与えるために、対物レンズの前で、レンズの組合せが、(a)に類似のやり方で整列され、且つ調節されてよい。
【0037】
さらに、サンプルの傾斜に関連した深さ依存のコマ収差を補正するために適応光学素子を使用する代わりに、下記のような他の選択肢が利用可能である。
a. サンプルの傾斜を測定するための機構(例えば光学顕微鏡)と、次いで、サンプルの傾斜を、ゴニオメータ又はチップ/チルトステージなどの機械的取付け台を用いて、理想的には0.5度未満であるが、傾斜が1度未満や、確実に2度未満といった特定の値未満になるまで調節するための機構。図3は、サンプル・ホルダ(及びサンプル・ホルダによって支持されたサンプル)が、サンプルの傾斜を低減するか又は解消してコマ収差を補正するために回転するように構成され得る、図2のレーザ・システムを示すものである。
b. サンプルの傾斜を測定するための機構(例えば光学顕微鏡)と、次いで、サンプルに対する対物レンズの傾斜を上記で説明された値未満に調節するための機械式機構。レンズが傾斜されるとき、レーザ・ビームを対物レンズの後軸に対して垂直に保つように、レーザ及び/又は他の光学部品の角度も変化され得る。図4は、光学構成要素が、サンプルの傾斜を低減するか又は解消してコマ収差を補正するために、回転するように構成され得る図2のレーザ・システムを示すものである。
c. レンズなどの一定の光学素子もコマ収差を生成することができる。サンプルの傾斜が一旦測定されると、サンプルが誘起した収差を相殺するために必要な量のコマを作成するように、レンズを光軸に対して垂直に移動することによってコマ収差が補償され得る。図5は、レーザ、3つの光学素子、及びサンプルを支持するサンプル・ホルダを含むレーザ・システムを概略的に示すものであり、光学素子のうちの少なくとも1つは、傾斜角に起因して誘起されたサンプルのコマ収差を相殺するコマの量を作成するように動かされ得る。
d. 深さ依存の球面収差(のみ)を補正するための空間光変調器(SLM)又は他の適応光学素子/アクティブ光学素子、並びにサンプルの傾斜及びコマ収差を解消するための機械的取付け台。例えば、図5のレーザ・システムにおける光学素子のうち1つは、球面収差を補正するように構成されたSLMであり得る。
【0038】
本明細書で説明された構成及び方法は、宝石の原石などのサンプルの内部の正確な決定論的マーキングのために球状収差とコマ収差との両方の補正/除去を提供するものである。以前に説明された選択肢のあらゆるものが、宝石の原石のマーキングのためのシステムへと組み合わされ得る。レーザ・システムは、極短パルスレーザ、高NA対物レンズ、及び宝石サンプルを取り付けるための3D移動ステージをも有する。球面収差補正は、指定された材料の指定された深さにおけるマーキングを可能にするための固定素子を使用して達成され得る。しかしながら、コマ収差補正には、サンプル取付けにおける誤差を明らかにするための何らかの適応性が必要になる。
【0039】
図6は、ダイヤモンドのサンプルの内部で、2つの異なる深さに、収差補正の程度を変化させて形成されたマーキングを示す概略図である。
【0040】
図6(A)は、収差補正なしの、例えば100マイクロメートルといった深さ1におけるマーキングを示す。ダイヤモンドのサンプルの内部のレーザ焦点は、低減されたエネルギ密度で、深さ方向に細長いものである。そのため、ダイヤモンドのサンプルにマーキングを形成するのに、多いパルス数(例えば10,000)及び高いパルス・エネルギが必要とされる。結果は、図示のような大きい非決定論的マーキングである。
【0041】
対照的に、図6(B)は、本明細書で説明した収差補正を適用された深さ1におけるマーキングを示す。レーザは、少ないパルス数(例えば5)及び低いパルス・エネルギしか必要とすることなく、ダイヤモンドのサンプルの内部に正確に合焦されてマーキングを形成する。結果は、図示のような小さい決定論的マーキングである。
【0042】
図6(C)は、Bと同じ収差補正を適用された、例えば200マイクロメートルといった深さ2におけるマーキングを示す。深さが増加したために収差補正が不十分である。そのため、ダイヤモンドのサンプルの内部のレーザ焦点は、低減されたエネルギ密度で、深さ方向において細長いものである。そのため、ダイヤモンドのサンプルにマーキングを形成するのに、多いパルス数(例えば10,000)及び高いパルス・エネルギが必要とされる。結果は、図示のような大きい非決定論的マーキングである。
【0043】
最後に、図6(D)は、Bと比較して深さ2用に新規の収差補正を適用された深さ2におけるマーキングを示す。レーザは、少ないパルス数(例えば5)及び低いパルス・エネルギしか必要とすることなく、ダイヤモンドのサンプルの内部に正確に合焦されてマーキングを形成する。結果は、図示のような小さい決定論的マーキングである。
【0044】
このように、本明細書で説明されたシステム及び方法の有利な特徴の1つは、ダイヤモンドなどの材料の内部に様々な異なる深さの範囲で、非常に小さいマーク及びより大きいマークを効率的に加工し得るものであることが明らかであろう。これはダイヤモンド原石のセキュリティ・マーキングのために有利であり得る。ダイヤモンド原石を識別するために10倍のルーペ下で可視のマークを設けることができるのは有利であると考えられる。しかしながら、そのような可視マークはコピーされてしまう可能性がある。それゆえ、本明細書で説明されたシステムは、セキュリティを強化するために、10倍のルーペでは見えないがより高い倍率なら見える第2のマークをも与えることができる。
【0045】
上記のことを踏まえて、
ダイヤモンド原石の表面下の第1の深さに配設された第1のマークと、
ダイヤモンド原石の表面下の第2の深さに配設された第2のマークとを有するダイヤモンド原石も提供され、
第1のマークは10倍のルーペ下で可視であり、
第2のマークは、10倍のルーペ下では不可視であるが、より高い倍率では可視である。
【0046】
第1のマーク及び第2のマークは、sp3炭素ダイヤモンド格子の内部に黒鉛のsp2炭素から形成され得る。本明細書で説明されたレーザ・システムを使用すれば、異なるサイズのマークが容易に加工され得る。第1のマークと第2のマークとは、表面下の異なる深さに配設され得る。例えば、第1のマークの深さと第2のマークの深さとの差は、少なくとも30マイクロメートルであり得る。さらに、第1のマークと第2のマークは、表面を通して見たとき重なり得る。この点に関して、本明細書で説明されたようなシステムは、かなり異なるサイズのそのようなマークをかなり異なる深さで加工することができる。これらのマークを同一の横位置において(少なくとも同一の視野枠の中で)異なる深さに設けることにより、第1の可視マークは、ガイドとしての第1のマークがなければ見つけるのがより困難な、より高い倍率下でなければ見えない第2のマークを配置するために使用され得る。
【0047】
第1のマークは、表面に対して平行な2マイクロメートルよりも太い幅を有する少なくとも1つのライン若しくはドット、及び/又は表面に対して平行な方向における10マイクロメートル未満の分離を伴う複数のラインを有し得る。第1のマークの外形寸法は、200マイクロメートルよりも大きいものであり得る。対照的に、第2のマークは、表面に対して平行な、2マイクロメートル以下、より好ましくは1マイクロメートル以下の幅を有する、1つ又は複数のライン若しくはドットから成る。
【0048】
開示された収差補正のシステム及び方法は、サンプルの内部の、0.5を超えるストレール比を有するレーザ焦点を達成することができる。この方法は、0.5を超えるストレール比を有するレーザ焦点を使用してサンプルを改修するステップを含み得る。焦点は、0.6を超えるストレール比、0.7を超えるストレール比、0.8を超えるストレール比、又は0.9を超えるストレール比を有し得る。ストレール比は、焦点が、理想の(すなわち回折制限された)焦点にどのくらい近いかの測度として理解され得る。合焦システムの本来の回折のみによって制限されたレーザ焦点(すなわち回折限界のサイズのレーザ焦点)は、1のストレール比を有することになる。実際には、光学系における本来の欠陥は、回折限界のサイズではない、1未満のストレール比を有する焦点をもたらすはずである。高NAレンズに関して、ダイヤモンド・サンプルの例えば100μmの深さに合焦されたレーザについては、約0.1のストレール比が一般的である。したがって、ストレール比は、レーザ焦点に対する収差の影響の測度として理解されてよく、ストレール比が1に近ければシステムにおける収差及び欠陥の影響がより小さいことになる。ストレール比は、所与の焦点の効率の測度としても理解され得る。
【0049】
ストレール比は、システムに収差がないときのピーク焦点強度に対する当該ピーク焦点強度として定義され得る。単に回折によって制限された焦点がピーク強度Iを有し、実システムがピーク強度Iを有するとき、ストレール比は比I/Iとして定義される。システムに収差があると、波面誤差によって光が焦点から離れて回折し、実際のピーク強度Iが理論的な最大のIよりも低下し、したがってストレール比が低下する。波面誤差が収差位相関数φであると特徴付けられる場合には、ストレール比Sは次式で与えられる。
【数1】

この式で、角のある括弧<...>は光学系における特定の開口にわたる平均を表し、ここでは合焦対物レンズの瞳開口と解釈される。完全なシステムについては、波面誤差はゼロ(平坦な位相)であり、ストレール比は1である。収差のために波面誤差が増加するとストレール比が低下する。収差関数は、焦点に向かう光の伝搬に関連したすべての位相誤差を表し、1次コマ、1次球面非点収差及び1次非点収差などのゼルニケ多項式の合計として記述され得る。収差関数は、或いは、基底関数の別のセットの合計として、又は既知のサンプルの内部の特定の合焦位置に関する直接的な数値計算/解析解として構成され得る。
【0050】
この方法は、例えばサンプルの内部の光ルミネセンスによってサンプルの内部のレーザ焦点を測定するステップと、測定された焦点を基に、アクティブ光学素子に適用される補正を改修するステップとよって、合焦の効率を改善すること及び/又は合焦のストレール比を増加することを含み得る。
【0051】
サンプルは、レーザ光線が入射する、収差をもたらす平面を有し得る。
【0052】
改修された領域は、サンプルの内部の、レーザに露光することによって変化した何らかの領域であり得る。一般的には、改修された領域は、これを囲むバルク材料とは異なる特性を有するはずであり、異なる光学的特性、構造的特性、機械的特性、電気的特性などを有し得る。
【0053】
アクティブ光学素子は、入射光の特性を動的に改修させ得る任意の素子である。例えば、液晶空間光変調器(SLM)、変形可能ミラー(又はマイクロ変形可能ミラー)、及び適応レンズはアクティブ光学素子であり、レーザ・ビームのプロファイルに対して、空間的に変化する変調を動的にかけることによって、例えばその位相及び/又は伝搬特性を制御するために使用され得る。
【0054】
サンプルの傾斜を測定するステップは、レーザ・ビームの伝搬に対するサンプル表面の傾きを測定するステップ、及び/又は両方の水平方向(すなわちレーザ・ビーム伝搬に対して垂直な2つの横の次元)に対する傾き(すなわち傾斜)を測定するステップを含み得る。サンプルの傾斜を測定するステップは、対物レンズの横断面に対するサンプル表面の傾きの測定を含み得る。したがって、サンプルを測定すると、システムの合焦に影響を及ぼすはずの収差に関する情報が得られる。
【0055】
測定は任意の適切な手段によっても実行することができ、サンプル表面からの反射を含み得る。測定は、サンプルの入射表面上の複数のポイントからの反射を含み得る。
【0056】
測定は撮像によって行われ得る。サンプルの表面の最適な焦点(すなわち最も鮮明な画像)の正確な軸方向位置は、3つの異なる位置において見いだされ得る。これは、軸方向に正確に約0.5μmであり得る。3つのポイントは、横断方向において約0.2mmだけ分離され得る。この分離距離は、重要であると予期される傾斜の範囲を所与として、傾斜を正確に測定し得るほど十分に大きいものであり得る。例えば、0.5度よりも大きい範囲のダイヤモンドの傾斜については、サンプルの内部の合焦の品質に大きな影響があり得る。
【0057】
測定するために他の方法が使用されてもよい。システムが油浸対物レンズを使用する場合には、上記のものと同じ測定を行うために類似の方法が使用され得るが、サンプル表面の軸方向位置を確認するための最も鮮明な焦点(表面を研磨されて、撮像するための明瞭なものが何もない、いくつかのサンプルでは問題になり得る)を使用する代わりに、レーザが液浸油を沸騰させるために使用され得る。すなわち、レーザが液浸油内に合焦されたときオイルを沸騰させ、レーザ焦点がサンプルの内部で動くときには何も見えない。この場合、パルス・エネルギは、サンプルの内部の加工のための閾値を下回ることになる。この手法は、撮像手法とほぼ同一の軸方向精度を有するが、場合によっては実施するのがより簡単になり得る。しかしながら、機能するのはオイル・ベースのレンズに対してのみである。
【0058】
サンプル表面の軸方向位置を測定するための別の方法には、表面からの反射に頼るものがある。反射は、加工レーザ自体(パルス・エネルギがサブ加工の閾値であるとき)、又は代替光源(例えばレーザ若しくはLED)からのものでよい。反射信号が最大のとき、サンプルの表面を位置付けることができる。
【0059】
別の方法は、サンプル表面からの第3高調波発生(THG)を検査するステップを含むことができ、表面がレンズの焦点にあるときTHGも最大になる。表面位置を非常に正確に測定するために反射光を用いる干渉計測定が使用され得る(干渉計のために代替のコヒーレントな光源が必要となる)。
【0060】
別の代替方法には、ダイヤモンド表面からカメラへのレーザ・ビームの反射を撮像するものがあり、反射の、カメラ上の横の変位によって、単一の測定からサンプルの傾斜を判定することができる。
【0061】
適用するべき補正を判定するステップは、少なくとも、測定された傾斜を使用する。このステップは、サンプル表面の下の改修される領域の深さに基づいて補正を判定するステップをも含み得る。補正を判定するステップは、屈折を明らかにするためにサンプル材料の光学的性質に関する情報を使用するステップを含み得る。
【0062】
この方法は、レーザ・システムの内部のサンプルの位置を測定するステップと、測定された位置をも使用して、適用される補正を判定するステップと、補正を適用してレーザの波面特性を改修し、レーザ焦点に対する球面収差の影響を打ち消すステップとを有し得る。この方法は、焦点深度を判定するように、サンプルのレーザ入射表面の位置を測定するステップを有し得る。この方法は、焦点深度に少なくとも部分的に基づいて補正を判定するステップをさらに有し得る。
【0063】
したがって、この補正は、サンプルの傾斜に起因するコマを補正するばかりでなく、球面収差をも明らかにし得る。球面収差の量は焦点深度に比例し得る。球面収差によって焦点が尖頭形状へと歪められ、そのため、焦点のピーク強度が理想位置から離れて収差表面の方へ軸方向に移動する。したがって、球面収差による影響を受けた焦点は、サンプル表面の近くにピーク強度を有することになる。焦点のこの動きは焦点はずれとしても知られている。サンプルの位置を測定することにより、球面収差の影響を打ち消すように補正が判定され得る。この方法は、焦点のピーク強度の動きを明らかにするためにサンプルの軸方向位置を変化させるステップを有し得る。この方法は、球面収差の焦点はずれ成分を明らかにするためにサンプルの軸方向位置を変化させるステップを有し得る。
【0064】
したがって、この方法は、サンプルの表面における屈折に起因するコマ収差と球面収差との両方の影響を明らかにするために補正を適用するステップを含み得る。
【0065】
この方法は、改修された領域を形成した後にサンプルを測定するステップと、さらなる測定に基づいて補正を改修するステップとを有し得る。この方法は、サンプルの改修された領域を測定するステップと、改修された領域の測定に基づいて補正を改修するステップとを有し得る。したがって、この方法は、例えば、焦点のサイズ及び形状をより精密に制御して焦点に対する収差(例えばコマ収差及び/又は球面収差)の影響をさらに低減するために、補正が改善される間、フィードバック・ステージを含み得る。補正を改善することより、より大きいストレール比が達成され得る。さらなる測定は、サンプルの内部の固有の欠陥からのものであり得る非線形光ルミネセンス励振を使用してもよい。この方法は、光ルミネセンス、プラズマの発光若しくは吸収、又は反射若しくは伝送の特性を使用して、サンプルに対するレーザ改修の効果を検知するステップを有し得る。
【0066】
補正を判定するステップは、コマを補正するための計算において、測定された傾斜を使用するステップと、適用可能であれば、球面収差を補正するために、測定された位置を使用するステップとを有し得る。このようにして、各サンプルについて、適合する補正が計算され得る。
【0067】
補正を判定するステップは、利用可能な補正のデータベースから補正を選択するステップを有し得る。したがって、この方法は、例えばサンプルの傾斜が所定の範囲内にあるとき、及び/又はサンプルの位置が所定の範囲内にあるとき、適用すべき特定の補正を選択するステップを含み得る。データベースは、それぞれが所定の範囲の係数に関するものである複数の補正を有し得る。
【0068】
補正は、直交モードを拡張することによって定義され得る。各モードが収差モードを定義し得る。補正は、純粋なモード又はモードの重ね合わせでよい。補正は、ゼルニケ多項式又はゼルニケ多項式の展開によって定義され得る。
【0069】
補正は、レーザ・ビーム・プロファイルを所望のプロファイルへと変調するための位相フィールドを有し得る。例えば、この方法は液晶空間光変調器(SLM)を使用してよく、補正はSLMのための表示フィールドを表し得る。この方法は変形可能ミラー(DM)を使用してよく、補正は変形可能ミラー用の構成でよい。補正は適応レンズ用の構成でもよい。
【0070】
補正を判定するステップは、レーザのパルス・エネルギに少なくとも部分的に基づき得る。したがって、補正は、水平のコマ及び垂直のコマ、球面収差、並びにパルス・エネルギを考慮に入れてよい。パルス・エネルギは補正に基づいて選択され得る。この方法は、補正及びサンプルに基づいて、使用されるべきパルス・エネルギを判定するステップを有することができ、判定されたパルス・エネルギのレーザ・パルスを使用してサンプルを改修するステップを含み得る。
【0071】
補正が十分であれば、同一のパルス・エネルギが、サンプルの内部のどこでも加工するために使用されてよく、同じ結果をもたらす。これは、一般的には、この開示において考慮に入れられる収差範囲の場合のことである。しかしながら、補正が不十分であればパルス・エネルギが増加されてよい。
【0072】
補正が不十分であれば、パルス・エネルギは加工のために増加されてよい。相当な収差があって、補正が収差を完全に打ち消すのには程遠いものである場合は、パルス・エネルギが相当に増加されてよい。いくつかの材料では(例えば特にダイヤモンドでは)、補正が不十分であると、パルス・エネルギをいくら増加しても、正確且つ確実な加工は不可能である。例えば、ダイヤモンドの中の約250μmの深さでは、(例えば約1ラジアンの)小さいコマ収差を除いて球面収差が完全に補正されたとしても、単一のパルスレーザ加工が実験的に観測されることはない。パルス・エネルギは非常に大きく増加されてよく、それでもなお、単一のパルスでは加工が達成されないことがある。そのような場合には、決定論的に加工を達成することはできない。その代わりに、用量(すなわち改修される領域当たりのパルス数)を増加する必要があり、結果として生じる加工は大きく(例えば5μmよりも大きく)、不完全に画定される。その上に、ダイヤモンドの内部の異なる位置において、必要な用量に、予測不能な変動があり得る。
【0073】
補正を判定するステップは、所定の関数を最適化するステップを有し得る。この方法は、当該サンプルに関する様々な要因に基づいて補正を判定するためのアルゴリズムを使用するステップを含み得る。要因はコマ、球面収差及びパルス・エネルギを含み得る。補正を判定するステップは、垂直コマ、水平コマ、球面収差及びパルス・エネルギの任意の組合せを含む要因に基づいて、3次元探索空間、4次元探索空間又はより高次元の探索空間から所望の補正を選択するステップを有し得る。この方法は、コスト関数を最小化するステップ(及び/又はメリット関数を最大化するステップ)を含み得る。
【0074】
この方法は、サンプルの内部の空間的に分離された領域を同時に改修するステップを含み得る。この方法は、各領域を改修するために、同一のパルス・エネルギを使用して、サンプルの内部の個別の領域を連続的に改修するステップを含み得る。
【0075】
この方法は、複数のレーザ・ビーム及び焦点の配列を使用してサンプルを改修するレーザを有し得る。この方法は、それぞれのレーザ・ビームを使用して、サンプルの空間的に分離された領域を同時に改修するステップを有し得る。この方法は、サンプルの所望の領域を改修するために、各パルスがそれぞれのレーザ・ビームからのものである複数のパルスを使用するステップを有し得る。この方法は、補正に先立って複数のビームを形成するステップを含むことができ、したがって、空間的に分離された複数のレーザ・ビームに対する収差補正を単一の光学系を使用して実行するステップを含み得る。この方法は、収差補正と複数のビームの生成とを同時に行うように、複数のレーザ・ビームを作成するステップを含み得る。
【0076】
改修された領域を形成するステップは、非線形の光学的相互作用を使用して材料を改修するステップを含み得る。この方法は、サンプルのバルクの内部の材料のみを改修するステップを有し得る。したがって、この方法は、サンプルの表面を改修するステップは含まなくてよい。この方法は、50マイクロメートル、150マイクロメートル、又は300マイクロメートルを超える深さにおいてサンプルを改修するステップを含み得る。
【0077】
この方法は、サンプルの内部に複雑な構造を形成するステップを有し得る。例えば、この方法は、サンプルの内部にフィーチャの配列を形成するステップを有し得る。この方法は、レーザ改修中にサンプルを動かして、サンプルの内部に、直線状、曲線状、又は任意の適切な形状のライン・フィーチャを作成するステップを有し得る。この方法は、レーザ改修中にレーザを走査して、サンプルの内部に、直線状、曲線状、又は任意の適切な形状のライン・フィーチャを作成するステップを有し得る。この方法は、間隔を置いて配置されたポイントの形を成す光学ボリュームを形成するステップ及び/又は回折素子を形成するステップを有し得る。この方法は、材料のバルクの内部の空間的に分離した領域を改修するステップを有し得る。この方法は、サンプルの内部に可視フィーチャを作製するステップを有し得る。この方法は、サンプルの内部に構造体を形成するステップを有し得る。この方法は、少なくとも1つの次元において、例えば5マイクロメートルよりも大きい、又は20マイクロメートルよりも大きい、大型のフィーチャを形成するステップを有し得る。この方法は、サンプルの所定の領域を改修してサンプルの内部に所望の応力場を生成するステップを含み得る。この方法は、サンプルの内部に、入射光線の位相をシフトするフィーチャを作成するステップを含むことができ、このフィーチャは、位相差顕微鏡法で見えるものでよく、又は暗視野顕微鏡法で見えるように光を散乱してもよい。この方法は、所定の領域におけるサンプルの屈折率を改修するステップを含むことができ、このステップは、その領域をレーザに露光することにより、又は接近した領域をレーザに露光して所定の領域のひずみ場を変化させることによってその屈折率を改修することが達成され得る。
【0078】
この方法は、高開口数(NA)レンズを使用してサンプルの内部にレーザを合焦するステップを有し得る。これは、球面収差の影響を悪化させる恐れがある。この方法は、浸漬媒体のない対物レンズ(すなわち乾燥レンズ)又は浸漬媒体(例えばオイル)を伴う対物レンズを使用するステップを有し得る。この方法は、開口数が約0.5よりも大きい対物レンズを使用するステップを有し得る。この方法は、開口数が約0.8よりも大きい対物レンズを使用するステップを有し得る。この方法は、NAが0.8よりも大きい乾燥対物レンズ又はNAが1.2よりも大きい油浸対物レンズを使用するステップを有し得る。
【0079】
この方法は、宝石の原石又は結晶格子を改修するステップを有し得る。詳細には、この方法は、ダイヤモンドを有するサンプルを使用するステップを有し得る。ダイヤモンドは宝石の原石の形態でよい。この方法は、例えばセキュリティ・デバイスとして宝石の原石にマークを付けるために使用されるであろう。
【0080】
この方法は、特にダイヤモンドであるサンプルの内部に導電体を生成するステップを有し得る。ダイヤモンドは成長したダイヤモンドの基板でよい。この方法は、例えばサンプルの内部の導電体に対する電気接続をもたらすために、サンプル(例えばダイヤモンド)を金属でコーティングするステップを有し得る。この方法は、炭素をsp3相からsp2相に変換することによってダイヤモンド構造を改修するステップを有し得る。この方法は、ダイヤモンドの表面に接するダイヤモンドの内部領域を改修するステップを含み得る。
【0081】
補正は、直交モードを拡張することによって定義され得る。各モードが収差モードを定義し得る。補正は、純粋なモード又はモードの重ね合わせでよい。補正は、ゼルニケ多項式又はゼルニケ多項式の展開によって定義さ得る。補正は、ゼルニケ多項式以外に、直交基底を使用するモードの重ね合わせとして定義されてもよい。補正は、例えば特定のジオメトリに関する解析解、又は特定の合焦ジオメトリに関する数値解法であり得る。補正は、焦点フィードバックの方法を使用して、最適化を繰り返すことによって判定されてもよい。補正は、ゼルニケ多項式以外に、直交基底を使用するモードの重ね合わせとして定義されてもよい。補正は、例えば特定のジオメトリに関する解析解、又は特定の合焦ジオメトリに関する数値解法であり得る。補正は、焦点フィードバックの方法を使用して、最適化を繰り返すことによって判定されてもよい。
【0082】
この方法は、収差モードを特徴付けて補正を判定するために、ゼルニケ展開の係数を計算するステップを有し得る。補正を適用するステップは、ゼルニケ・モードの重ね合わせを適用するステップを有し得る。ゼルニケ・モードの大きさは補正によって定義され得る。補正は、単一のモード又はモードの重ね合わせでよい。
【0083】
補正は、サンプルに起因する傾斜収差モードの合焦に対する影響を打ち消すことができ、傾斜収差モードは、サンプルの傾斜に起因するコマ収差モードとは異なるものである。異なる収差モードは、異なる収差モードがもたらす位相変化の次数が異なることによって特徴付けられる。傾斜収差モードは、コマ収差モードとは位相変化の次数が異なることによって特徴付けられる。球面収差モードは、コマ収差モードや傾斜収差モードとは位相変化の次数が異なることによって特徴付けられる。補正を判定するステップは、サンプルによってレーザ焦点に導入されるはずの収差モードを判定するステップを有し得る。
【0084】
例えば、傾斜収差は、光学系の瞳におけるr cos(θ-ε)に比例した位相変化として表すことができ、(r,θ)は瞳面における極座標であり、εは傾斜の配向を表す。コマ収差は、rcos(θ-ε)の形の成分を有し、位相は半径方向座標の3乗によって変化する。奇数の累乗を有する高次の半径方向の項も存在し得る。
【0085】
この方法は、10nJ~300nJのパルス・エネルギを有するパルス状レーザを使用するステップを有し得る。パルス・エネルギは80nJ~150nJでよい。パルス・エネルギは、サンプル材料の改修用の閾値よりも大きくてよい。この方法は、UVスペクトル、可視スペクトル、又は赤外スペクトルの波長を有するレーザを使用するステップを含み得る。この方法は、近赤外スペクトルの波長を有するレーザを使用するステップを含み得る。
【0086】
この方法は、単一のレーザ・パルスを使用してサンプルをレーザ改修するステップを有し得る。この方法は、複数のパルスを使用してサンプルを改修するステップを有し得る。パルスはフェムト秒パルス又はピコ秒パルスでよい。この方法は、用量の間でパルス・エネルギを変化させるステップを含み得る。
【0087】
この方法は、伝搬方向において1マイクロメートル未満の領域を改修するステップを有し得る。この方法は、x方向、y方向及びz方向の各々において1マイクロメートル未満の領域を改修するステップを有し得る。
【0088】
サンプルのバルクはダイヤモンドでよい。改修された領域は導電体を有し得る。改修された領域はセキュリティ・コードを有し得る。改修された領域は回折格子を有し得る。改修された領域は、すべての次元において1マイクロメートル未満(すなわち幅、高さ及び深さにおいて1マイクロメートル未満)であり得る。改修された領域は、サンプルの最も近い表面から、100マイクロメートルよりも下、好ましくは200マイクロメートルよりも下、より好ましくは500マイクロメートルよりも下にあってよい。
【0089】
このようにして提供される、透明材料の内部を高解像度でレーザ処理するためのシステム及び方法は、材料表面における屈折の影響を補償するための収差補正を組み込むものである。システムは、収差補正及び焦点強度を最適化するために、材料改修の必要なレベルを得るように、材料の測定からのフィードバックを使用する。特定の用途は、ダイヤモンドの内部のフィーチャの加工用である。
【0090】
開示されたシステム及び方法の用途は、屈折率の局所的増加による、ガラス内部の光ガイドの生成を含む。類似構造が、媒体の中の損傷を受けたトラックの周囲の応力場に起因する屈折率の局所化された増加を使用して、KDP又はニオブ酸リチウムなどの結晶に作成され得る。マイクロ流体デバイスは、ガラスの露光に続く化学エッチングによって生成され得る。適切な溶液から複雑な3D高分子構造を生成するために、非線形光重合が使用され得る。
【0091】
開示されたシステム及び方法は、すべての次元において1マイクロメートル未満であり得る回折限界レーザ焦点とほぼ同一のサイズである、材料の内部の改修された領域を生成するために使用され得る。
【0092】
(ダイヤモンドの中の加工)
フェムト秒のパルス状レーザがダイヤモンドの内部に密に合焦されたとき、非線形の光学的相互作用が、焦点におけるエネルギ密度に依拠して結晶格子を様々に改修する。低エネルギでは結晶格子の小さな破壊があり、アニーリングの後に色中心を生成するために使用され得る。より高いエネルギでは、炭素の、sp3相(ダイヤモンド・クリスタル構造)からsp2位相(グラファイト)への大幅な変換があるほどの、大幅な格子破壊がある。一般的には、レーザ改修された領域は、sp2相とsp3相の組合せである無定形炭素の形態をとる。
【0093】
ダイヤモンドの中の精細な光学的フィーチャの加工は、短いパルス状レーザ及び高開口数(NA)対物レンズを使用する。これは、材料の表面には損傷なしで、フィーチャが材料の内部に3次元でうまく閉じ込められることを保証するものである。単一のレーザ露光は、改修された材料のポイント状のフィーチャを作成することができる。2次元又は3次元であり得る複雑な構造は、ポイント状のフィーチャの集合を使用して構築され得る。代替として、直線構造は間隔を詰めたフィーチャから成り得る。
【0094】
ダイヤモンド内部の表面下レーザ処理には、(i)非常に低いパルス・エネルギで、高度に非線形な相互作用によって、レーザ焦点に格子空孔の集団を生成するものと、(ii)より高いパルス・エネルギでダイヤモンド格子を破壊して導電性黒鉛の相を残すものとの2つの様式がある。様式(i)の改修は、透過顕微鏡法では見えず、蛍光顕微鏡でのみ見ることができる。これは、量子用途のコヒーレントなNV(窒素空孔)中心を形成するための重要な前駆体である。様式(ii)の改修は、ダイヤモンド格子に微小割れを伴う、sp2結合炭素の小さい(<数100nm)クラスタを有する。様式(ii)のレーザ焦点によってダイヤモンドをトレースすると、sp2結合炭素の連続したトラックを書き込むことができ、これは導電性ワイヤとして使用され得る。
【0095】
露光中にダイヤモンドの移動なしで形成されたフィーチャは楕円体の形をとる。改修の程度は加工レーザの伝搬方向に沿ってより長く、使用される対物レンズのNA(開口数)に依拠する。フィーチャのサイズも、使用されたパルス・エネルギ及び用量(露光におけるパルスの数)に依拠する。波面がここで説明されたようにうまく補正されると、露光ごとに、高度に一定した改修が可能になる。波面をここで説明されたようにはうまく補正できないと、同一の条件で、別々の露光から、(サイズ及び形状において)非常に不揃いな改修がもたらされる。
【0096】
どちらの様式のフィーチャも、軸方向に拡張することなく(光軸に沿って<2μm)、逐一確実に加工するために、高NA(NA>約0.8)の光学素子が使用された。低NA(約0.5)での加工も可能であるが、位置依存性が強く一貫しない。高NAでは、正確に同一のパルス・エネルギ及びレーザ用量で、大きなボリュームにわたる再現性の高い加工が可能になる。この加工には位置依存性がない。これは工業用途にとって重要なことである。
【0097】
他の実証は、黒鉛のポイント状フィーチャの配列から成るものであった。他の用途では、導電体として使用され得る連続した黒鉛構造体が生成された。
【0098】
ダイヤモンドのレーザ焦点をトレースすると(又は、固定されたダイヤモンド・サンプルに対してレーザを走査すれば)、レーザ改修された材料の連続したトラックを作成することができる。加工様式(ii)におけるトラックはsp2結合炭素を含有しており、導電性である。これらのトラックは、ダイヤモンドを3次元に通る導電性ワイヤを形成するために使用され得る。例えば、図7は、ダイヤモンドのサンプルの表面120の下の2D及び3Dの経路を辿る様々な連続した黒鉛トラック110を示すものである。図7Aは、黒鉛トラック110の上面図を示す。図7B及び図7Cは黒鉛トラック110の側面図を示し、図7Dは書き込まれた黒鉛トラック110の撮像された斜視図を示す。スケール125は5μmを示す。図7Cにおける破線の楕円は、深さを増加させながら加工された黒鉛トラックの一部分を示すものである。
【0099】
そのような黒鉛トラック110は導電性ワイヤとして機能することができ、放射又は化学センシング用のダイヤモンド・ベースのセンサの生産に有効である。一実装形態では、ダイヤモンドの内部に局所的電界を設定するために、ダイヤモンドを通るワイヤの両端に電圧を印加してよい。ダイヤモンドにイオン化放射が入射すると、自由電荷が作成され、ダイヤモンドを通過して電極によって収集される。別の実装形態では、組み込まれたワイヤは、ダイヤモンドの広い電位窓を利用して、電気化学のために使用され得る。組み込まれたワイヤは、ダイヤモンドの表面の近くに電界を生成するために使用することができ、次いで、ダイヤモンドは溶液に浸される。そのようなレーザで書いて組み込まれたワイヤは、ダイヤモンド表面まで持ってくることによって外部電子機器に接続されてよく、後に、効率的な電気接続のために金属でコーティングされてよい。
【0100】
(収差補正)
理想的な場合には、レーザ焦点のサイズは、回折限界、すなわち所与の波長、対物レンズの屈折率及び開口数にとって可能な最小のスポット・サイズであるべきである。しかしながら、この限界は、収差の影響のために達成されないことが多い。収差は、光学系の、理想的な合焦性能からの逸脱である。光線光学の点では、収差によって、集束円錐の中の光線が同一のポイントに合致しなくなる。電波光学の点では、焦点に収束する波面が、回折限界スポットに合焦するために必要な球状キャップの形をとらなくなる。この電波光学の場合には、収差は、多くの場合、理想波面と歪み波面との間の光位相誤差に関して定量化され、異なるタイプの歪みは異なる位相誤差によって特徴付けられる。焦点は、収差の影響によって広がるか又はぼやけてしまい、ピーク強度が低下する。合焦の性質により、広がりは、主に光軸に沿ったものになる。
【0101】
図8Aは、特定のタイプの収差モードである球面収差の一例を示すものである。レーザ加工では、内側を加工しようとする透明材料の表面における光線の屈折によって、しばしば収差が生じる。これが生じるのは、例えば対物レンズの浸漬媒体(一般的には空気、オイル又は他の媒体)と加工材料との間の界面であろう。サンプル220に入る光線210がサンプル表面222によって屈折され、結果として生じる焦点230は歪められ、且つ細長くなる。平坦な波面240は、平行光線210が高NAレンズ250に入ることを意味し、サンプル220がなければ理想的な合焦になるはずである。
【0102】
図8Bは、SLMなどのアクティブ光学素子によって、波面240の位相が、サンプル表面222の屈折を打ち消すように既に補正されている場合を示すものである。結果として、サンプル220がないと、レンズを出る光線210は理想的な焦点をもたらさない。しかしながら、サンプルがあれば、光線210が表面222において屈折されて、改善された焦点232をもたらす。したがって、入射する波面を成形することによって収差が相殺され、サブ・マイクロメートル・フィーチャの正確な合焦及び確実な加工が可能になる。
【0103】
図9Aは、ダイヤモンドの内部の50μmの深さに収差補正を使用して合焦することによって作成されたフィーチャ310(左側)を示す。フィーチャ320(右側)は収差補正なしで作られた同一の構造である。あらゆる加工を全て調査するために、レーザ・パルス・エネルギを相当に増加する必要があった。加工レーザはz軸に沿って入射した。フィーチャ310の加工が、フィーチャ320のものよりもはるかに良く制御されていることが理解されよう。図9Bは同一のフィーチャを側面から示すものである。収差補正を使用して作成されたフィーチャは、伝搬方向(すなわちz方向)において著しくより優れて制御されていることが理解されよう。
【0104】
サンプルの界面が光軸に対して垂直であると、収差は、球面収差に加えて再合焦の影響(光軸に沿った焦点移動)から成る。これらの影響の大きさは焦点深度に比例する。このタイプの球面収差は次式で表わされる。
【数2】

この式は、波長λの光に対して、開口数NA及び浸漬媒体nを伴う対物レンズを使用して、屈折率nの材料の内部の深さdnomに合焦するときの、球面収差位相φSAの解析的な記述である。座標ρは対物レンズの瞳における正規化された半径である。
【0105】
表面法線が光軸に対して傾斜していると、コマ(波面傾斜を含み、横方向の焦点移動をもたらす)などの他の収差が次いで導入される。これらの影響は、焦点深度と表面の傾斜角との両方に比例する。表面のわずかな傾斜による付加的な収差は次式で与えられる。
【数3】

この式は、表面の傾斜による収差成分の解析的な記述であり、傾斜は小角度tである。θは瞳における方位角の座標であり、εは傾斜の配向を表す。係数a及びbはスカラ係数であり、その値は屈折率及びNAに依拠する。
【0106】
球面収差とコマとの組合せにより、焦点強度が低下し、強度分布が歪められて、加工の効率及び精度に悪影響がある。
【0107】
ダイヤモンドの屈折率が高いために(屈折率2.4、空気の1.0や液浸油の約1.5といった屈折率と比較して)、ダイヤモンド表面における屈折の影響が大きい。これは、収差補正によって、本来なら不可能な深さにおける精細なフィーチャの生産が可能になるはずであることを意味する。収差補正は、液晶空間光変調器(SLM)を使用すれば容易に実施されるが、変形可能ミラーを使用しても実施され得る。本明細書の構成によれば、そのようなアクティブ光学素子が球面収差補正のために使用され得る。コマ収差はサンプル及び/又は光学素子の機械的動作によって補正される。
【0108】
静補正方法は可能であるが、様々な試験から、静補正は、材料の組成及び位置決めにおけるわずかな変動のために、名目上類似したサンプルの間の収差を補正するのに有効ではなく、その代わりに、微調整された収差補正が必要であることが示されている。
【0109】
ダイヤモンドの中へ深く合焦するために乾燥対物レンズを使用する場合、収差補正需要が増加する。レーザを合焦するために油浸レンズを使用すると、乾燥レンズの場合よりも屈折率の差が小さくなるので、収差補正要求が少なくなる。しかしながら、この場合でも、実現可能な結果を得るためには補正が必要である。
【0110】
上記の式から計算された位相パターンは、サンプルによって誘起された収差を補正するために、空間光変調器(SLM)などの収差補正デバイス(すなわちアクティブ光学素子)に与えられ得る。SLMの位相変調範囲は、一般的には1波長(又は少数の波長)に制限されているので、位相は、通常、使用できる範囲内に入るようにラップされる。例えば、使用できるのが単一の波長のみであれば、2πラジアンの位相が1波長に対応するので、適用される位相関数は2πを法とするφSAになる。前述のように、本明細書の構成によれば、そのようなアクティブ光学素子は球面収差を補正するために使用することができ、コマ収差はサンプル及び/又は光学素子の機械的動作によって補正される。
【0111】
球面収差項が焦点はずれを含有し、これは光軸に沿って焦点(すなわちピーク光強度)を移動するがその形状は変化させない別の収差モード又は成分であることに注意することにより、SLMに適用される位相パターンが簡素化され得る。補正から焦点はずれ成分を除去することによって位相補正のサイズが縮小され、したがって、収差補正のためにSLMをより効率よく使用することができる。球面収差の焦点はずれ成分は、サンプルを適切な量だけ移動することによって補償され得る。
【0112】
解析表現を直接使用する代わりに、収差を一連の基底関数を見なすことができる。一般に、この目的のためにゼルニケ多項式が使用される。したがって、収差は、収差モードの合計として記述され得る。例えば、球面収差はゼルニケ多項式の項の展開として表現され得る。これらの関数を使用することは、未知の収差の測定及び補正のためのフィードバック・システムの設計を支援する。
【0113】
本明細書で説明された方法は、非平面の表面を通って合焦することにさらに関する。これは、曲面を通ること又はエッジの近くを通ること/エッジを越えることを含み得る。繰り返しになるが、表面トポグラフィの正確な予測定が、最適に近い開始位相パターンを予測し、且つ焦点フィードバックを使用して、後続の最適化の優れた開始ポイントとして使用され得るために使用され得る。エッジを横切る加工又はエッジ近くの加工は、瞳のセグメント化を包含している。ここで説明された方法は、セグメント化された瞳における球面収差及びコマ収差を補正するために位相を設定するように採用され得るものである。曲面を通して合焦するには、球面収差と、非点収差と、コマとの組合せを補正することが必要になる。
【0114】
(焦点の適応制御)
サンプルの内部の異なる位置(特に深さ)の間及び異なるサンプルの間で加工の安定した品質を維持するために、収差補正とパルス・エネルギとの適切な組合せを維持することができる適応制御システムを実施する必要がある。これは、焦点領域から、波面及びエネルギを制御するデバイスにフィードバックする方法を使用することができる。
【0115】
上記で説明された、材料表面からの反射に基づく表面の位置及び傾斜の第1の測定により、球面収差及びコマを打ち消すために必要な補正が予測される。一実装形態では、すべてが同一の軸上にあるわけではない3つのポイントにおける最善の光学的焦点に関する位置を測定することにより、サンプルの相対的傾斜に関する情報を提供することができる。これによって、例えばダイヤモンドといったサンプルの特定の深さにおけるコマ及び球面収差に対する収差補正を予測することが可能になり得る。
【0116】
焦点における加工処理を顕微鏡によって観測することにより、より精細な補償が実行され得る。測定の組合せが可能である。透過顕微鏡を使用すると、屈折率修正による、焦点における吸収の変化又は光位相の変化を観測することが可能になる。これはレーザ・パルスによって材料が改修された程度を指示するものであり、収差補正及びパルス・エネルギの最適化のためのフィードバック信号を供給することができる。焦点からの光ルミネセンス又はプラズマ発光によって代替フィードバック信号が供給され得る。
【0117】
最適化処理のために必要な測定の回数(所要時間)を減らすために、収差モード(特に球面収差及びコマ)の係数が及びパルス・エネルギが探索空間における未知の座標と見なされるアルゴリズムが使用され得る。
【0118】
最適化処理は、総体としてシンボルPによって表される収差成分及びパルス・エネルギに関連したコスト関数fの最小化(又は代替としてメリット関数gの最大化)として数学的に表現され得る。Pの最適値は、最小化されるべきコスト関数
【数4】

又は最大化されるべきメリット関数
【数5】

のいずれかによって与えられる。関数f又はgは測定値の組合せとして定義され得る。例えば、レーザ加工中に生成される焦点プラズマの強度は合計の収差内容に依拠するものであり、その結果、補正されたシステムは焦点のプラズマ発光における最大値を示す。
【0119】
代替として、加工レーザは、構造改修のために、サンプルに含有される固有の欠陥からの光ルミネセンス(PL)を非線形に励起するように、閾値未満で使用されてもよい。収差が最小化されたとき、検知されるPLが最大になる。同様に、収差が補正されたとき、共焦点顕微鏡におけるルミネセンス又は蛍光放射が最大になる。したがって、これらの信号はコスト関数/メリット関数の最適化を可能にするためのフィードバック機構として使用され得る。
【0120】
最適化処理を実施するための様々な方法が可能である。屈折率及びNAが既知であれば、レーザ加工のために、傾斜される平面によって最適化する必要のある未知パラメータの最小数は3つであって、1つは球面収差の係数であり、2つはコマに関するもの(すなわち2つの直交するコマ成分)である。したがって、この処理は3次元最適化問題と見なされ得る。パルス・エネルギの形態の別の変数が考えられ、これは、処理を4次元の最適化まで拡張する。さらなる未知数があれば、最適化処理においてより多くの変数(次元)を考慮に入れる必要があろう。
【0121】
すべての加工された位置について適応最適化を逐一実施することもできるが、加工のフィールドにわたってより少ない最適化測定を実施し、このフィールドにわたってパラメータの補間を実施するのが、より実践的であろう。このフィールドは、ライン若しくは曲線、横方向の面に存在することができ、又は3次元に広がり得る。表面測定が十分であれば、適切に補正された焦点(すなわち十分に大きいストレール比を有する焦点)が達成され得る。しかしながら、それぞれの新規のサンプルについて最適化手順が実施されてよい。
【0122】
(より大規模なマーキング)
より大規模な構造及びマーキングも可能である。これは、英数字文字、バーコード、QRコード(登録商標)又は画像を作成するためのポイント状のフィーチャ若しくは実線を含み得る。そのようなフィーチャは、回折素子、ホログラム、又は回折格子を形成するためにグループ化され得る。深さ範囲及び領域は、使用されている宝石のサイズまでであり得る(一般的には横のx方向及びy方向において3mmの範囲であり、伝搬のz方向では1mmの範囲である)。フィーチャのサイズは、横方向(x方向及びy方向)では5μmまで、伝搬のz方向では20μmまでであり得る。実際には、より大きいフィーチャを確実に作成する場合は、より小さいスケール修正の組合せをつなぎ合わせることによって達成され得る。大きいフィーチャを生成するときには、大規模で不規則なクラックの形成を回避するために、周囲のサンプル(例えばダイヤモンド)の応力負荷を管理するように注意しなければならない。これは、光学的には大きく見えるがダイヤモンドからグラファイトへの最小のボリューム変換のみを有するフィーチャを形成するように結合された、小さい(約1μmの規模の)フィーチャのスパース行列によって達成され得る。
【0123】
(レーザ・システム)
図10はレーザ・システムの構成を示す。例えば、収差又は位置の感知を支援するため、さらなる収差補正を実施するため、又はシステムを並行処理にして複数のフォーカル・スポットを使用するために、さらなる構成要素が追加されてよい。
【0124】
レーザ・システム400はレーザ410、偏光子420、空間光変調器(SLM)430、高NA対物レンズ440、及び3次元移動ステージ450を含む。サンプル460はシステム400の焦点においてステージ450に配置される。
【0125】
サンプル460はダイヤモンドであり、レーザ410で改修するためにレーザ・システム400に配置される。次いで、サンプル460は補正の判定を通知するために測定される。特に、サンプル460の、レーザが入射する表面が測定され、この表面の横軸からの傾きが判定される。横断方向は、レーザの主伝搬方向に対して垂直な2D面である。これは対物レンズの主面に対して平行な面でもある。
【0126】
サンプル460の表面の傾きは、それによってレーザ焦点上にもたらされる予期されたコマ収差を判定するために使用される。次いで、予期された収差は、ゼルニケ・モードの表現で特徴付けられてSLMに通信される。SLMは、レーザを、収差を打ち消すように改修するために、必要な位相補正を表示するように改修される。本明細書で説明された構成によれば、SLMは球面収差を補正することができ、コマ収差はサンプル及び/又は光学素子の機械的動作によって補正される。
【0127】
レーザ・システムのパルス・エネルギも補正に基づいて判定される。レーザは必要なパルス・エネルギに設定され、次いでダイヤモンドのサンプルを改修するために使用される。
【0128】
改修に続いて、サンプルの改修された領域が透過顕微鏡法を使用して測定される。次いで、判定された補正が、このさらなる測定によって得られたフィードバックに基づいて改良される。改良された補正が適用され、サンプルがレーザ改修される。
【0129】
(実例)
ダイヤモンドがレーザ加工システムに取り付けられる。対物レンズは、最初に、LEDからの反射光を最大化することによってダイヤモンド表面を見つけるように、軸方向(すなわちz方向)に移動される。ダイヤモンドは、加工のための所望の位置まで横断(X-Y)方向に移動される。
【0130】
表面の軸方向(z)の位置に関する精細な位置決めは、低いパルス・エネルギ(バルク黒鉛化閾値よりもかなり低い、例えば30nJ未満)のレーザを使用して達成される。サンプル表面は、ダイヤモンドを軸方向に100nmステップで移動することによって見つけられる。油浸レンズを使用している場合には、ダイヤモンドは、レーザがもはや液浸油を沸騰させないポイントまで移動される。空気レンズを使用している場合には、ダイヤモンドは、レーザがもはやダイヤモンド表面に跡をつけなくなるまで移動される。そのような測定がさらに2回行われ、一方はx方向に0.2mm移動することにより、他方はy方向に0.2mm移動することによって、行われる。これらの測定はサンプルの領域を対象として含むものであり、局所的表面の傾斜を判定するために使用される。
【0131】
次いで、ダイヤモンドは、加工のために軸方向に所望の深さに移動され、その際、実際の加工深さは、移動深さよりも、高NA油浸レンズについては約2倍、高NA空気レンズについては約2.7倍大きいことが注意される。これは、SLMが、焦点はずれを除いて、サンプル界面における屈折に起因する収差を補正するために使用されるためであり、焦点はずれは、上記で説明されたようにダイヤモンドを軸方向に移動することによってより簡単に打ち消される。表面測定に基づいて、SLMに収差補正が適用される。この補正は、移動された軸方向の深さに基づく球面収差補正を表す。x方向及びy方向のコマ収差は、傾斜角を機械的に解消するか、又は測定されたx及びyの表面傾斜に基づいてコマ収差を打ち消すように光学素子を動かすことによって補正される。所定のパルス・エネルギ(例えばパルス持続時間250fsで波長780nmの光を使用する1.4NAの油浸レンズに対して100nJ)を使用して、5パルスのバーストがダイヤモンドに供給される。ダイヤモンドの所望のポイントにおける改修が好結果であったことを確認するために透過顕微鏡が使用される。好ましい加工は、(横断方向における)約0.5μmの寸法と(軸方向における)約1μmの寸法とを有するべきであり、透過顕微鏡で見たとき暗く見えるはずである。
【0132】
加工を調べるために、撮像でも収差を補償する必要がある。次いで、ダイヤモンドは、改修が見えなくなるポイントまで、より低いパルス・エネルギ及び/又は用量を用いて引き続き改修され得ることが検証される。次いで、ダイヤモンドの内部に、所望のパターンが希望通りに加工される。
【0133】
ダイヤモンドがパルスの第1のバーストで照射されたとき改修が見えなければ、サンプルは横断方向に短い距離(例えば5μm)だけ移動され、収差モードは、それぞれの設定についてレーザのバーストを印加して体系的方法で調節される。ダイヤモンドは、各バーストの間に軸方向に移動され、ダイヤモンドが希望通りに改修されたどうかを調べるために検査される。正確な設定が一旦達成されると、加工は、さらなる補正を必要とすることなく、上記で説明されたように直接実行される。
【0134】
可視のダイヤモンド改修以外に、収差補正を最適化するために他のメトリックを使用さすることができ、例えば、収差を補正するために、レーザ合焦によって生じるダイヤモンドからの非線形光ルミネセンスが最適化されてよい。この測定のために、レーザ・パルス・エネルギを低下させて(上記で説明された条件を使用して、例えば20nJ未満のパルス・エネルギで)、又は理想的にはより高い繰り返し率及びより低いパルス・エネルギ(80MHzの繰り返し率及び20nJ未満のパルス・エネルギ)のレーザに切り換えることによって、加工しないことを保証する。焦点の特性が測定されて、焦点に影響している収差が判定される。次いで、補正が判定され、焦点のストレール比を改善するためにアクティブ光学素子に適用され得る。表面が正確に測定されるならば、そのような適応補正の手順が必要になるのはまれであろう。
【0135】
上記の方法はフェムト秒の赤外線加工レーザを使用し得るが、この技術は、任意の波長又は任意のパルス幅の加工システムにも適用され得るものである。例えば紫外線(UV)システムや連続波形(CW)システムが使用され得る。一般的には、加工レーザはサンプルの屈折率の上昇を誘起する。しかしながら、いくつかの材料では、レーザは屈折率の低下を誘起することができる。製造された光学デバイスは、書込みレーザに対する異なる波長で動作し得る。デバイスは光学デバイスの任意の動作波長用に製造され得る。
【0136】
本明細書で説明された実例は、本発明の実施例の説明に役立つ実例として理解されるべきである。さらなる実施例及び実例が構想される。任意の一例又は一実施例に関連して説明されたあらゆる特徴が、単独で、又は他の特徴と組み合わせて使用され得る。加えて、任意の一例又は一実施例に関連して説明されたあらゆる特徴が、任意の他の実例又は実施例或いは任意の他の実例又は実施例の任意の組合せの、1つ又は複数の特徴と組み合わせて使用され得る。さらに、本明細書で説明されない等価物及び修正形態も、特許請求の範囲において定義される本発明の範囲内で採用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図9A
図9B
図10