(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007654
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】電鋳型及び電鋳型を用いた電鋳品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 1/10 20060101AFI20230112BHJP
C25D 1/00 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
C25D1/10
C25D1/00 381
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110644
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽介
(57)【要約】
【課題】電鋳型を、繰り返し利用することができるものとする。
【解決手段】電鋳型80は、導電性の基板10と、基板10の上に配置された電鋳型基部31,36と、基板10の表面と電鋳型基部31,36の表面とのうち、基板10と電鋳型基部31,36とで形成された、電鋳品70が形成される空洞部33に面した表面、を被覆した導電性の犠牲層50と、犠牲層50のうち、空洞部33の底面33aに対応する部分を除いて被覆したレジスト層55と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基板と、
前記基板の上に配置された電鋳型基部と、
前記基板の表面と前記電鋳型基部の表面とのうち、前記基板と前記電鋳型基部とで形成された、電鋳品が形成される空洞部、に面した表面のうち、少なくとも前記基板に接する面を被覆した導電性の犠牲層と、
前記犠牲層のうち、前記空洞部の底面に対応する部分の少なくとも一部を除いて被覆した絶縁性のレジスト層と、を備えた電鋳型。
【請求項2】
前記レジスト層が、前記犠牲層に代わって、前記電鋳型基部の表面を被覆して形成されている請求項1に記載の電鋳型。
【請求項3】
前記犠牲層は、前記空洞部の底面に対応する部分に隣接する、前記空洞部の側面に対応する部分の一部も被覆して形成され、
前記レジスト層は、前記犠牲層のうち、前記空洞部の底面に対応する部分に隣接する、前記空洞部の側面に対応する部分の一部をも除いて、被覆している、請求項1に記載の電鋳型。
【請求項4】
前記犠牲層は、前記電鋳型基部と異なる材料で形成されている、請求項1から3のうちいずれか1項に記載の電鋳型。
【請求項5】
前記電鋳型基部が、前記基板の厚さ方向において2層以上に形成されて各層の間に段部を有し、
前記段部に、導電性の中間導電層が形成されている、請求項1から4のうちいずれか1項に記載の電鋳型。
【請求項6】
前記電鋳型基部は、電鋳により金属で形成されている、請求項1から5のうちいずれか1項に記載の電鋳型。
【請求項7】
請求項1から6のうちいずれか1項に記載の電鋳型を用いて、電気めっきにより前記空洞部にめっきを成長させ、
前記空洞部を埋めるまで前記めっきが成長した後に、前記電鋳型基部を溶解させずに、前記犠牲層及び前記レジスト層のうち少なくとも前記犠牲層を溶解して、前記空洞部を埋めためっきによる電鋳品を前記電鋳型から分離する、電鋳型を用いた電鋳品の製造方法。
【請求項8】
前記電鋳型から分離した後、前記レジスト層を除去する、請求項7に記載の、電鋳型を用いた電鋳品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電鋳型及び電鋳型を用いた電鋳品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、時計の部品等微小な形状の構造物を、電気鋳造(電気めっき法による金属製品の製造・補修又は複製方法;以下、電鋳という。)により製造することが行われている。そのような背景において近年、基板にフォトレジスト層を形成し、そのフォトレジスト層に、可溶部と不溶部のパターンを形成することで、電鋳型を製造し、微細で高精度な電鋳品を製造するLIGA(Lithographie,Galvanoformung,Abformung)工法の応用が広がっている。
【0003】
電鋳品の形状に応じて、複数層のレジスト層を形成することもある。この場合、層間で段差があるものでは、段差の部分に中間導電層を形成することで、段差よりも上の層における電鋳の成長速度を速めることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電鋳、特にLIGA工法は、フォトレジスト層を電鋳品の型(電鋳型)とするが、最終的に電鋳品を電鋳型から取り外すために、電鋳型であるフォトレジスト層を溶解する必要がある。つまり、電鋳品を製造する毎に、電鋳型を作り直す必要がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、繰り返し利用することができる電鋳型及びその電鋳型を用いた電鋳品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、導電性の基板と、前記基板の上に配置された電鋳型基部と、前記基板の表面と前記電鋳型基部の表面とのうち、前記基板と前記電鋳型基部とで形成された、電鋳品が形成される空洞部、に面した表面のうち、少なくとも前記基板に接する面を被覆した犠牲層と、前記犠牲層のうち、前記空洞部の底面に対応する部分の少なくとも一部を除いて被覆した絶縁性のレジスト層と、を備えた電鋳型である。
【0008】
本発明の第2は、本発明に係る電鋳型を用いて、電気めっきにより前記空洞部にめっきを成長させ、前記空洞部を埋めるまで前記めっきが成長した後に、前記電鋳型基部を溶解させずに、前記犠牲層及び前記レジスト層のうち少なくとも前記犠牲層を溶解して、前記空洞部を埋めためっきによる電鋳品を前記電鋳型から分離する、電鋳型を用いた電鋳品の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電鋳型によれば、繰り返し利用することができる。また、本発明に係る電鋳型を用いた電鋳品の製造方法によれば、電鋳型を繰り返し利用して電鋳品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】電鋳品を製造するための型である電鋳型を製造する方法(製造方法)の一例の流れを模式的に示した断面図(その1)である。
【
図2】電鋳品を製造するための型である電鋳型を製造する方法(製造方法)の一例の流れを模式的に示した断面図(その2)である。
【
図3】電鋳品を製造するための型である電鋳型を製造する方法(製造方法)の一例の流れを模式的に示した断面図(その3)である。
【
図4】電鋳品を製造するための型である電鋳型を製造する方法(製造方法)の一例の流れを模式的に示した断面図(その4)である。
【
図5】電鋳品を製造するための型である電鋳型を製造する方法(製造方法)の一例の流れを模式的に示した断面図(その5)である。
【
図6】電鋳品を製造するための型である電鋳型を製造する方法(製造方法)の一例の流れを模式的に示した断面図(その6)である。
【
図7】
図6に示した電鋳型を用いた電鋳品の製造方法の一例の流れを模式的に示した断面図である。
【
図8】電鋳型基部と電鋳品との間に介在する部分が、導電性を有しない犠牲層として機能するレジスト層で形成された電鋳型の製造方法の一例の流れを模式的に示した断面図(その1)であり、
図1~4に示した製造方法の流れに続く工程を示す。
【
図9】電鋳型基部と電鋳品との間に介在する部分が、導電性を有しない犠牲層として機能するレジスト層で形成された電鋳型の製造方法の一例の流れを模式的に示した断面図(その2)である。
【
図10】
図9に示した電鋳型を用いた電鋳品の製造方法の一例の流れを模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る電鋳型及びその電鋳型を用いた電鋳品の製造方法の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0012】
<実施形態1>
図1~6は電鋳品70を製造するための型である電鋳型80を製造する方法(製造方法)の一例の流れ(矢印で示す)を模式的に示した断面図(その1~その6)であり、
図1の次に
図2、
図2の次に
図3、
図3の次に
図4、
図4の次に
図5、
図5の次に
図6、という順序の工程となる。
図7は
図1~6の工程で製造した電鋳型80を用いた電鋳品70の製造方法の一例の流れ(矢印で示す)を模式的に示した断面図である。
【0013】
電鋳型80は、本発明に係る電鋳型の一実施形態であり、この電鋳型80を用いた電鋳品70の製造方法は、本発明に係る電鋳品の製造方法の一実施形態である。
【0014】
(電鋳型)
まず、電鋳型80の製造方法の一例について、
図1~6を参照して説明する。なお、電鋳型80は、
図1~6に示した製造方法で製造されたものに限定されず、他の製造方法で製造されたものであってもよい。
【0015】
最初に、
図1に示すように、基板10にフォトレジスト層20が積層される。基板10は、基板本体11が導電性を有するものであってもよいし、基板本体11が導電性を有しない、例えばシリコンの場合は、基板本体11の、フォトレジスト層20が積層される面11aに、導電性を有する導電膜(導電層)12を形成したものであってもよい。基板本体11が導電性を有するものであるときは、基板本体11に導電膜12を形成(積層)しなくてもよく、この場合は、基板本体11が導電性を有する基板10に相当する。
【0016】
本実施形態においては、導電層12は、例えば、チタン(Ti)とニッケル(Ni)との積層膜(チタンが基板本体11側)で形成されているが、導電層12は、この材料に限定されず、導電性を有する材料であればよい。なお、基板本体11が導電性を有するものであるときは、導電層12を備えなくてもよい。
【0017】
フォトレジスト層20は、紫外光(紫外線)が照射された部分が溶ける可溶部、照射されなかった部分が不溶部に構成されるポジ型レジストであってもよいし、紫外光が照射された部分が溶けない不溶部、照射されなかった部分が可溶部に構成されるネガ型レジストであってもよい。
図1に示した電鋳品70の製造方法におけるフォトレジスト層20は、ネガ型レジストであることを前提として説明する。
【0018】
次に、フォトレジスト層20の表面(図示の上面)側に、フォトマスク90を配置し、上方から、フォトマスク90を介してフォトレジスト層20に紫外光Lを照射する。
【0019】
フォトマスク90は、紫外光Lを通過させる透光部92と紫外光Lを通過させない遮光部91とで構成されたパターンを有する。パターンは、電鋳型80及び電鋳品70の輪郭形状に対応して形成されている。
【0020】
フォトマスク90を介して紫外光Lが照射されると、フォトレジスト層20のうち、透光部92の下方の部分は、紫外光Lを透光して紫外光Lが照射されたことによって不溶部22となり、現像処理によっても残存する。一方、フォトレジスト層20のうち、遮光部91の下方の部分は、紫外光Lを遮光して紫外光Lが照射されないことにより可溶部21となり、
図2に示すように、現像処理によって除去される。
【0021】
このように、フォトマスク90の遮光部91はフォトレジスト層20に可溶部21を形成し、透光部92はフォトレジスト層20に不溶部22を形成する。なお、フォトレジスト層20がポジ型レジストの場合は、これとは反対に、遮光部91はフォトレジスト層20に不溶部を形成し、透光部92はフォトレジスト層20に可溶部を形成する。
【0022】
図2に示すように、現像処理によって可溶部21が除去されると、可溶部21が存在していた部分は空洞部23となり、この空洞部23では、基板10が露出した状態となり、この空洞部23と不溶部22とのパターンが形成される。
【0023】
そして、電気めっきの工程により、空洞部23においては、基板10からニッケル等の金属が析出、成長し、空洞部23の輪郭形状に対応した、ニッケル等の金属の1層目の電鋳型基部31が形成される。なお、1層目の電鋳型基部31の表面(図示の上面)を平らに研削、研磨してもよい。
【0024】
その後、フォトレジスト層20の不溶部22を別の処理で除去すると、1層目の電鋳型基部31の間の、不溶部22が存在していた部分が空洞部33となる。
【0025】
次に、1層目の電鋳型基部31の間の空洞部33も含めて、1層目の電鋳型基部31を覆うように、フォトレジスト層25を形成する。フォトレジスト層25は、フォトレジスト層20と同じ材料であるが、別の材料で形成してもよいし、ポジ型のフォトレジスト層であってもよい。
【0026】
次に、フォトレジスト層25の表面(図示の上面)側に、フォトマスク95を配置し、上方から、フォトマスク95を介してフォトレジスト層20に紫外光Lを照射する。
【0027】
フォトマスク95は、紫外光Lを通過させる透光部97と紫外光Lを通過させない遮光部96とで構成されたパターンを有する。パターンは、電鋳型80及び電鋳品70の輪郭形状に対応して形成されている。
【0028】
フォトマスク95を介して紫外光Lが照射されると、フォトレジスト層25のうち、透光部97の下方の部分は、紫外光Lを透光して紫外光Lが照射されたことによって不溶部27となり、現像処理によっても残存する。一方、フォトレジスト層25のうち、遮光部96の下方の部分は、紫外光Lを遮光して紫外光Lが照射されないことにより可溶部26となり、
図3に示すように、現像処理によって除去される。
【0029】
現像処理によって可溶部26が除去されると、可溶部26が存在していた部分は、不溶部27と基板10とで囲まれた空洞部28となり、この空洞部28では、1層目の電鋳型基部31が露出した状態となり、この空洞部28と不溶部27とのパターンが形成される。
【0030】
そして、電気めっきの工程により、空洞部28においては、基板10の導電層12に接続した1層目の電鋳型基部31からニッケル等の金属が成長し、
図4に示すように、空洞部28の輪郭形状に対応した、ニッケル等の金属の2層目の電鋳型基部36が形成され、厚さ方向において2層に積層された電鋳型が形成される。なお、2層目の電鋳型基部36の表面(図示の上面)を平らに研削、研磨してもよい。
【0031】
その後、フォトレジスト層25の不溶部27を別の処理で除去すると、1層目の電鋳型基部31の間及び2層目の電鋳型基部36の間の、不溶部27が存在していた部分が、電鋳型基部31,36と基板10とで囲まれた空洞部33となる。
【0032】
なお、2層目の電鋳型基部36は、基板10の厚さ方向において、1層目の電鋳型基部31に積層されていて、1層目の電鋳型基部31よりも小さい。したがって、1層目の電鋳型基部31と2層目の電鋳型基部36との境界においては、1層目の電鋳型基部31が2層目の電鋳型基部36から突出した段部34が形成されている。
【0033】
次に、
図5に示すように、1層目の電鋳型基部31、2層目の電鋳型基部36及び基板の表面(側面を含む)のうち、電鋳品70が形成される空洞部33に面した表面を、犠牲層50で被覆する。犠牲層50は、後に、電鋳型基部31,36に代わって溶解されることで、電鋳品70を電鋳型80から分離させる機能を発揮する層であり、スパッタリングにより、例えば銅(Cu)で形成されている(厚さが例えば2[μm])。なお、銅の犠牲層50と、電鋳品70が形成される空洞部33に面した表面と、の間にチタンの層を形成してもよい。
【0034】
犠牲層50は、電鋳品70を形成するめっきの起点となるため、導電性を有する材料で形成される。犠牲層50は、銅に限定されない。犠牲層50は、電鋳型基部31,36に代わって後に溶解されるため、電鋳型基部31,36とは異なる薬品で溶解される材料で形成されている必要がある。したがって、犠牲層50は、電鋳型基部31,36とは異なる材料で形成されている。
【0035】
なお、本実施形態においては図示を省略しているが、犠牲層50の上に、無電解めっきにより銅の層を均一に厚く(例えば2[μm])形成してもよい。銅の層を形成することにより、犠牲層50をスパッタリングではなく無電解めっきで形成したときに、犠牲層50の厚さを、より均一に形成することができ、電鋳品70の寸法精度を高めることができる。
【0036】
次いで、犠牲層50のうちめっきの起点となる部分(基板10の導電層12に接した底面33a)に対応する部分に開口99が形成されたメタルマスク(ステンシルマスク)98を使って、粒子61(例えば、大きさ10[μm]程度のフェライト粒子)を、犠牲層50におけるめっきの起点となる底面33aに配置する。具体的には、粒子61が分散した溶液60中に浸すことで、開口99の部分から底面33aに粒子61が沈降し、粒子61を底面33aに配置することができる。
【0037】
次いで、犠牲層50をレジスト層55で被覆する。具体的には、犠牲層50の表面に、シリコン(Si)のレジスト層55を、スパッタリングで成膜する。犠牲層50とレジスト層55との間にチタンの層を成膜して、犠牲層50とレジスト層55との密着力を高めてもよい。
【0038】
ここで、粒子61が介在する底面33aにおいては、犠牲層50と、犠牲層50に積層されたレジスト層55と、の密着性が、底面33a以外の部分に比べて低い。レジスト層55は、非導電性である。
【0039】
このため、
図6に示すように、レジスト層55に超音波洗浄を行うと、レジスト層55のうち、粒子61の介在により犠牲層50との密着性が相対的に低い、空洞部33の底面33aに積層した部分は除去され、犠牲層50が露出した状態となる。
【0040】
つまり、電鋳品70が形成される空洞部33は、空洞部33の底面33aに対応した部分においてのみ導電性を有する犠牲層50が露出し、底面33a以外の犠牲層50の部分は、非導電性のレジスト層55に覆われているため、空洞部33に電気めっきで電鋳品70を形成する製造方法においては、底面33aに対応した犠牲層50からのみ、めっきを成長させることができる。なお、レジスト層55を除去して、底面33aに対応した部分のうち犠牲層50を露出させた部分は、底面33aに対応した部分の一部であってもよいし全部であってもよい。
【0041】
また、レジスト層55は、空洞部33の底面33aに対応する部分に隣接する、空洞部33の側面33bに対応する部分の一部をも除去されてもよい。つまり、レジスト層55は、犠牲層50のうち、空洞部33の底面33aに対応する部分と側面55bに対応する部分の一部をも除いた範囲を被覆した状態であってもよい。
【0042】
なお、底面33aのレジスト層55を除去する方法としては、上述した粒子61を用いるのに代えて、底面33aにのみ真空蒸着法によりアルミニウムの膜を形成してもよい。
【0043】
レジスト層55にはピンホール等の欠陥が存在するため、アルミニウムの膜を除去する液が欠陥を通してアルミニウムを溶かすことで、レジスト層55が剥がされて(リフトオフ)、底面33aのレジスト層55を除去することができる。
【0044】
その他の方法として、斜め方向からの真空蒸着法や、レーザ光の照射などによって、底面33aのレジスト層55を除去してもよい。
【0045】
次に、1層目の電鋳型基部31と2層目の電鋳型基部36との境界に形成された段部34の領域に対応した開口67が形成されたマスク65を用いて、その段部34に中間導電層45を、真空蒸着法により形成する。中間導電層45は、例えば、導電層12と同じニッケル(又は間にチタンを介したニッケル)で形成されている。
【0046】
以上のような製造方法により、
図6に示す実施形態1の電鋳型80が製造される。ここで、電鋳型80は、導電性の基板10と、1層目の電鋳型基部31と、2層目の電鋳型基部36と、基板10の表面及び電鋳型基部31,36の各表面のうち、電鋳品70を形成する空洞部33に面した表面を被覆した犠牲層50、犠牲層50の、空洞部33の底面33a以外を被覆したレジスト層55並びに段部34に配置された中間導電層45と、を有している。
【0047】
(電鋳品の製造方法)
図7は電鋳型80を用いた電鋳品70の製造方法の一例の流れを模式的に示した断面図である。次に、この電鋳型80を用いた電鋳品70の製造方法の一例について、
図7を用いて説明する。電鋳型80で例えばニッケルの電気めっきを行うと、底面33aに露出した犠牲層50からニッケルの電鋳品70が成長する。そして、電鋳品70が1層目の電鋳型基部31の空洞部33を埋めると、その成長した電鋳品70が段部34の中間導電層45に接して、中間導電層45に電気が流れる。
【0048】
これにより、2層目の電鋳型基部36の空洞部33においては、1層目の空洞部33を埋めた電鋳品70と中間導電層45とから、めっきが成長し、2層目の空洞部33を埋めるように電鋳品70が形成される。
【0049】
このように、2層目の空洞部33を埋めるめっきは、1層目の空洞部33を埋めた電鋳品70だけでなく、中間導電層45からの成長するため、中間導電層45が配置されていない電鋳型に比べて、2層目の空洞部33をめっきで満たす時間を早めることができる。
【0050】
次いで、2層目の空洞部33まで電鋳品70が形成された後、2層目の電鋳型基部36の上面が露出するように、レジスト層55、犠牲層50及び2層目の空洞部33を埋めた電鋳品70を、平らに研削、研磨する。これにより、電鋳型基部36及び電鋳型基部31と、電鋳品70との境界となる犠牲層50を、上面に露出させる。理想的には、犠牲層50が露出する程度までで、研削、研磨を完了することにより、電鋳型基部36の消耗を抑えることができる。
【0051】
そして、上面に露出した犠牲層50を溶解させることにより、電鋳型基部36及び電鋳型基部31から電鋳品70を分離する。このとき、犠牲層50の溶解に用いる薬品は、電鋳型基部31,36には影響のない薬品として選択されたものであるため、電鋳型基部31,36は溶解されず、
図4に示した状態の電鋳型基部31,36として残る。
【0052】
したがって、
図4に示した状態の電鋳型基部31,36を再び使用して、
図5、6に示した工程で電鋳型80を形成することで、電鋳型基部31,36を繰り返し使用することができる。
【0053】
なお、電鋳型80から分離した電鋳品70は、表面にレジスト層55や中間導電層45が残っているが、電鋳品70として支障が無ければ、それらのレジスト層55や中間導電層45は、電鋳品70にそのまま残しておいてもよい。一方、レジスト層55や中間導電層45が不要の場合は、別途、電鋳品70に対して、これらレジスト層55や中間導電層45を除去する処理を追加して行えばよい。
【0054】
以上、詳細に説明したように、実施形態1の電鋳型80は、電鋳品70を製造する毎に使い切るのではなく、繰り返し利用することができる。また、本実施形態の電鋳型80を用いた電鋳品70の製造方法によれば、電鋳型80を繰り返し利用して電鋳品70を製造することができる。
【0055】
したがって、本実施形態の電鋳型80を用いた電鋳品70の製造方法は、電鋳品70を製造する毎に電鋳型を使い切りとした製造方法に比べて、電鋳品70の製造コストを低減することができる。
【0056】
<実施形態2>
上述した実施形態1の電鋳型80は、基板10の表面と電鋳型基部31,36の表面とのうち、基板1と電鋳型基部31,36とで形成された、電鋳品70が形成される空洞部33に面した表面の全面に、導電性の犠牲層50が形成されたものであるが、本発明に係る電鋳型は、空洞部33に面した表面の全面に、導電性の犠牲層50が形成されたものに限定されない。
【0057】
すなわち、導電性の犠牲層50は、電鋳品70が形成される空洞部33に面した表面のうち、少なくとも基板10に接する面(空洞33の底面33a)の少なくとも一部(底面33aの一部又は底面33aの全面)を被覆したものであればよい。
【0058】
つまり、導電性の犠牲層50は、電鋳品70の成長の起点となるため、基板10に接していることが必要であるため、空洞33の底面33aの一部に形成されて、基板10に接していることが必須である。
【0059】
一方、犠牲層50は、犠牲層50自体が溶解することで、電鋳型基部31,36と電鋳品70とを分離する必要があるが、電鋳型基部31,36と電鋳品70との間に介在している部分としては、導電性を有している必要は無い。つまり、電鋳型基部31,36と電鋳品70との間に介在する部分は、導電性を有している犠牲層50ではなく、導電性を有しているか否かに拘わらず溶解して、電鋳型基部31,36と電鋳品70とを分離する機能を発揮すればよい。
【0060】
したがって、導電性を有する犠牲層50は、空洞33の底面33aの少なくとも一部(底面33aの一部又は底面33aの全面)を被覆したものであればよく、電鋳品70が形成される空洞部33に面した表面のうち、導電性の犠牲層50が配置された底面33aの一部を除いた、電鋳型基部31,36と電鋳品70との間に介在する部分については、導電性を有しない犠牲層で形成されてもよい。
【0061】
図8,9は、電鋳型基部31,36と電鋳品70との間に介在する部分が、導電性を有しない犠牲層として機能するレジスト層55で形成された電鋳型180の製造方法の一例の流れを模式的に示した断面図であり、
図1~4に示した製造方法の流れに続く工程を示す。また、
図10は、
図9に示した電鋳型180を用いた電鋳品70の製造方法の一例の流れを模式的に示した断面図である。
【0062】
本実施形態の電鋳型180は、
図1~4に示した製造方法によって製造された、基板10上に電鋳型基部31,36が形成されたものに対して、
図8に示すように、1層目の電鋳型基部31、2層目の電鋳型基部36及び基板の表面(側面を含む)のうち、電鋳品70が形成される空洞部33に面した表面を、スプレー塗布法により、絶縁性を有するレジスト層55で被覆する。スプレー塗布法は、塗布する対象物の表面の凹凸に倣って、薄く均一にレジストを塗布することができる。
【0063】
レジスト層55は、後に形成される犠牲層50とともに溶解される。したがって、レジスト層55は、実施形態1における犠牲層50と同様に機能する。なお、レジスト層55を形成するレジストは、例えば、ポジ型のレジストである。ポジ型のレジストは、ネガ型のレジストに比べて溶解性が高いため、後に溶解する犠牲層として機能させる際には、ネガ型のレジストよりも使い勝手がよい。
【0064】
次に、フォトマスク195を配置し、上方から、フォトマスク195を介してレジスト層55を露光する。フォトマスク195は、紫外光Lを通過させる透光部196が形成されている。透光部196は、空洞部33の底面33aに対応して形成されていて、紫外線Lに露光により、透光部196を通じて露光された底面33aのレジスト層55を除去し、底面33aにおいて基板10を露出させる。
【0065】
次に、
図9に示すように、1層目の電鋳型基部31と2層目の電鋳型基部36との境界に形成された段部34の領域に対応した開口67が形成されたマスク65を用いて、その段部34に中間導電層45を、真空蒸着法により形成する。中間導電層45は、例えば、導電層12と同じニッケル(又は間にチタンを介したニッケル)で形成されている。
【0066】
次に、電気めっきの工程により、空洞部33の底面33aに露出した基板10か、例えば、銅の犠牲層50を形成する。
【0067】
以上のような製造方法により、
図9に示す実施形態2の電鋳型180が製造される。ここで、電鋳型180は、導電性の基板10と、1層目の電鋳型基部31と、2層目の電鋳型基部36と、基板10の表面及び電鋳型基部31,36の各表面のうち、電鋳品70を形成する空洞部33に面した表面のうち、基板10に接する面(空洞33の底面33a)が導電性の犠牲層55で被覆されている。
【0068】
一方、電鋳型180は、電鋳型基部31,36と電鋳品70との間に介在している部分が、導電性を有しない絶縁性のレジスト層55で形成されている。このレジスト層55は、電鋳品70の製造過程において、犠牲層50とともに溶解し、犠牲層として機能する。
【0069】
(電鋳品の製造方法)
次に、この電鋳型180を用いた電鋳品70の製造方法の一例について、
図10を用いて説明する。電鋳型180で例えばニッケルの電気めっきを行うと、底面33aに形成された犠牲層50からニッケルの電鋳品70が成長する。そして、電鋳品70が1層目の電鋳型基部31の空洞部33を埋めると、その成長した電鋳品70が段部34の中間導電層45に接して、中間導電層45に電気が流れる。
【0070】
これにより、2層目の電鋳型基部36の空洞部33においては、1層目の空洞部33を埋めた電鋳品70と中間導電層45とから、めっきが成長し、2層目の空洞部33を埋めるように電鋳品70が形成される。
【0071】
このように、2層目の空洞部33を埋めるめっきは、1層目の空洞部33を埋めた電鋳品70だけでなく、中間導電層45からの成長するため、中間導電層45が配置されていない電鋳型に比べて、2層目の空洞部33をめっきで満たす時間を早めることができる。
【0072】
次いで、2層目の空洞部33まで電鋳品70が形成された後、2層目の電鋳型基部36の上面が露出するように、レジスト層55及び2層目の空洞部33を埋めた電鋳品70を、平らに研削、研磨する。これにより、電鋳型基部36及び電鋳型基部31と、電鋳品70との境界となる、犠牲層として機能するレジスト犠牲層50を、上面に露出させる。
【0073】
そして、上面に露出したレジスト層55を溶解させる、さらに、基板10に接した犠牲層50を溶解させることにより、電鋳型基部36及び電鋳型基部31から電鋳品70を分離する。このとき、レジスト層の溶解に用いる薬品及び犠牲層50の溶解に用いる薬品は、電鋳型基部31,36には影響のない薬品として選択されたものであるため、電鋳型基部31,36は溶解されず、
図4に示した状態の電鋳型基部31,36として残る。
【0074】
したがって、
図4に示した状態の電鋳型基部31,36を再び使用して、
図8、9に示した工程で電鋳型180を形成することで、電鋳型基部31,36を繰り返し使用することができる。
【0075】
なお、電鋳型180から分離した電鋳品70は、表面に中間導電層45が残っているが、電鋳品70として支障が無ければ、その中間導電層45は、電鋳品70にそのまま残しておいてもよい。一方、中間導電層45が不要の場合は、別途、電鋳品70に対して、中間導電層45を除去する処理を追加して行えばよい。
【0076】
以上、詳細に説明したように、実施形態2の電鋳型180は、電鋳品70を製造する毎に使い切るのではなく、繰り返し利用することができる。また、本実施形態の電鋳型180を用いた電鋳品70の製造方法によれば、電鋳型180を繰り返し利用して電鋳品70を製造することができる。
【0077】
したがって、本実施形態の電鋳型80を用いた電鋳品70の製造方法は、電鋳品70を製造する毎に電鋳型を使い切りとした製造方法に比べて、電鋳品70の製造コストを低減することができる。
【0078】
上述した各実施形態の電鋳型80は、
図1から
図6に示した工程で製造されたもの、又は
図1から
図4の工程及び
図8から
図9の工程で製造されたものであるが、本発明に係る電鋳型は、各実施形態の製造方法で製造されたものに限定されるものではない。
【0079】
すなわち、本発明に係る電鋳型は、導電性の基板と、基板の上に配置された電鋳型基部と、基板の表面と電鋳型基部の表面とのうち空洞部に面した表面の少なくとも基板の表面(空洞部の底面)を被覆した導電性の犠牲層と、犠牲層のうち、空洞部の底面に対応する部分を除いて被覆したレジスト層と、を備えた構成であればよく、いかなる製造方法で製造されたものであってもよい。
【0080】
各実施形態の電鋳型80は、2層の電鋳型であるが、本発明に係る電鋳型は2層のものに限定されず、1層のものであってもよいし、3層以上のものであってもよい。
【0081】
各実施形態の電鋳型80は、2層の電鋳型であるため、1層目の電鋳型基部31と2層目の電鋳型基部36との境界となる段部34に、中間導電層45を有しているが、1層のみの電鋳型基部31のみを有する電鋳型においては、中間導電層を備えなくてもよい。
【0082】
各実施形態の電鋳型80は、1層目の電鋳型基部31及び2層目の電鋳型基部36を金属で形成したものであるが、電鋳型80は、電鋳品70を形成する空洞部33の底面(基板の表面の一部)が犠牲層で覆われていればよく、電鋳型基部31,36は必ずしも金属で成形されたものでなくてもよい。
【0083】
したがって、電鋳型基部31,36は樹脂であってもよい。なお、電鋳型基部31,36を樹脂とした電鋳型80は、樹脂の電鋳型基部31,36を電気めっきの工程で成形することはできないため、電気めっき以外の、微細加工技術で成形する必要がある。また、電鋳型基部31,36を樹脂とした電鋳型80は、前述のフォトレジストを用いたパターンで形成してもよい。
【0084】
各実施形態の電鋳型80は、露出した底面33aの犠牲層50からのみめっきを成長させることができるため、2層目の空洞部33に比べて狭い1層目の空洞部33におけるめっきの成長が完了した後に、2層目の空洞部33におけるめっきの成長が開始される。
【0085】
したがって、レジスト層55によって犠牲層の50の露出部分を、仮に底面33aだけに制限しない電鋳型とした場合には、1層目の空洞部33よりも広い2層目の空洞部33において、1層目の空洞部33よりも早くめっきの成長が進む。この場合、1層目の空洞部33がめっきで完全に埋められる前に、2層目の空洞部33がめっきで埋められてしまい、電鋳品70の1層目の部分に空洞が残ってしまう可能性がある。
【0086】
各実施形態の電鋳型80は、空洞部33に露出して犠牲層50の部分を底面33aのみに制限しているため、1層目の空洞部33からめっきを成長させて、電鋳品70の1層目に空洞が残るのを防ぐことができる。
【0087】
各実施形態の電鋳型80は、犠牲層50が、電鋳型基部31,36と異なる材料で形成されているが、電鋳型基部31,36を溶解しないように犠牲層50だけを溶解できる場合は、犠牲層50は、電鋳型基部31,36と同じ材料で形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0088】
10 基板
31,36 電鋳型基部
33 空洞部
33a 底面
50 犠牲層
55 レジスト層
70 電鋳品
80 電鋳型