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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007655
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】自動二輪車の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62M 6/45 20100101AFI20230112BHJP
   B62J 27/00 20200101ALI20230112BHJP
   B62J 45/00 20200101ALI20230112BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
B62M6/45
B62J27/00
B62J45/00
B60L15/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110645
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北澤 純也
(72)【発明者】
【氏名】梶川 聡仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 航星
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 翔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 拓喜
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AB03
5H125BA00
5H125CA01
5H125DD01
5H125EE41
5H125EE42
5H125EE51
5H125EE52
5H125EE58
(57)【要約】
【課題】車両の運搬を容易に行うことを可能にする自動二輪車の制御装置を提供する。
【解決手段】運転可否判定部28は、着座センサ19、傾きセンサ18、スタンドセンサ20の中の少なくとも一つの検出結果に基づいて運転可能な状態か運転不可能な状態かを判定する。トルク制御部25は、車速検出部29で検出された車速SPが閾値速度以下であり、かつ、運転可否判定部28が運転不可能な状態と判定していることを第1の条件として、第1の条件を満たした場合にトルク制限を有効にする。一方、トルク制御部25は、車速検出部29で検出された車速SPが閾値速度を超えていることを第2の条件として、第2の条件を満たした場合にトルク制限を無効にする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車速を検出する車速検出部と、
前記車両の状態が運転可能な状態か運転不可能な状態かを判定する運転可否判定部と、
前記車速検出部の検出結果と前記運転可否判定部の判定結果とに基づいて前記車両の駆動輪へのトルクを制御するトルク制御部と、
を有し、
前記運転可否判定部は、乗員の着座有無を検出する着座センサ、前記車両の傾きを検出する傾きセンサ、前記車両を支持するスタンドのオン/オフを検出するスタンドセンサの中の少なくとも一つの検出結果に基づいて前記運転可能な状態か前記運転不可能な状態かを判定し、
前記トルク制御部は、前記車速検出部で検出された前記車速が閾値速度以下であり、かつ、前記運転可否判定部が前記運転不可能な状態と判定していることを第1の条件として、前記第1の条件を満たした場合に前記駆動輪へのトルクをトルク制限値以下に制限するためのトルク制限を有効にし、前記車速検出部で検出された前記車速が前記閾値速度を超えていることを第2の条件として、前記第2の条件を満たした場合に前記トルク制限を無効にする、
自動二輪車の制御装置。
【請求項2】
前記運転可否判定部は、前記着座センサが着座無しを検出している場合か、または、前記傾きセンサが所定の値以上の傾きを検出している場合か、あるいは、前記スタンドセンサが前記スタンドのオンを検出している場合に、前記運転不可能な状態と判定する、
請求項1に記載の自動二輪車の制御装置。
【請求項3】
前記閾値速度は、歩行速度である、
請求項1に記載の自動二輪車の制御装置。
【請求項4】
前記トルク制御部は、前記トルク制限が有効な状態では、アクセルがオフであることを第3の条件として、前記第2の条件かつ前記第3の条件を満たした場合には前記トルク制限を無効にし、前記第3の条件を満たさない場合には前記トルク制限の有効を維持する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の自動二輪車の制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の自動二輪車の制御装置において、
前記車両が一定時間以上停車しているか否かを検出する停車検出部を有し、
前記トルク制御部は、前記トルク制限が無効な状態では、前記停車検出部が一定時間以上の停車を検出していることを第4の条件として、前記第1の条件かつ前記第4の条件を満たした場合には前記トルク制限を有効化し、前記第4の条件を満たさない場合には前記トルク制限の無効を維持する、
自動二輪車の制御装置。
【請求項6】
前記トルク制御部は、前記トルク制限が有効な状態では、前記車速検出部で検出された前記車速と予め定めた目標速度との違いに応じて前記トルク制限値を変更する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の自動二輪車の制御装置。
【請求項7】
前記トルク制御部は、前記駆動輪に設置される電動モータのトルクを制御する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の自動二輪車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スタンド状態を検出するスイッチ等を設けることなく、スタンドが立っている場合に発生する駆動輪の空転状態を検出して電動モータを抑制する自動二輪車が示される。具体的には、当該自動二輪車は、始動時に、一定時間、一定のデューティ比のPWMで電動モータに通電し、これに伴うモータ回数数の上昇率に基づいて空転状態か否かを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-30436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、自動二輪車では、乗員が乗車していない状態でアクセルが誤入力されたような場合に、安全性を確保することが望まれる。このため、自動二輪車では、各種センサを用いて乗員が乗車しているか否かを判定し、乗員が乗車していない場合にはトルク出力を禁止するような機能が設けられる場合がある。しかし、例えば、車庫入れ時等では、乗員が乗車していない状態で車両を手押しで運搬したい場合がある。このような場合にトルク出力が禁止されていると、車両の運搬が困難となる恐れがあった。
【0005】
本発明は、このようなことに鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、車両の運搬を容易に行うことを可能にする自動二輪車の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動二輪車の制御装置は、車両の車速を検出する車速検出部と、前記車両の状態が運転可能な状態か運転不可能な状態かを判定する運転可否判定部と、前記車速検出部の検出結果と前記運転可否判定部の判定結果とに基づいて前記車両の駆動輪へのトルクを制御するトルク制御部と、を有し、前記運転可否判定部は、乗員の着座有無を検出する着座センサ、前記車両の傾きを検出する傾きセンサ、前記車両を支持するスタンドのオン/オフを検出するスタンドセンサの中の少なくとも一つの検出結果に基づいて前記運転可能な状態か前記運転不可能な状態かを判定し、前記トルク制御部は、前記車速検出部で検出された前記車速が閾値速度以下であり、かつ、前記運転可否判定部が前記運転不可能な状態と判定していることを第1の条件として、前記第1の条件を満たした場合に前記駆動輪へのトルクをトルク制限値以下に制限するためのトルク制限を有効にし、前記車速検出部で検出された前記車速が前記閾値速度を超えていることを第2の条件として、前記第2の条件を満たした場合に前記トルク制限を無効にする、ように構成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両の運搬を容易に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態1による自動二輪車の制御装置において、主要部の構成例を示す概略図である。
図2図1におけるトルク制限部の処理内容の一例を示すフロー図である。
図3】本発明の実施の形態2による自動二輪車の制御装置において、主要部の構成例を示す概略図である。
図4A図3におけるトルク制限部の処理内容の一例を示すフロー図である。
図4B図4Aに続く処理内容の一例を示すフロー図である。
図5】本発明の比較例となる自動二輪車の制御装置において、トルク制限部の処理内容の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0010】
(実施の形態1)
《自動二輪車の制御装置の概略》
図1は、本発明の実施の形態1による自動二輪車の制御装置において、主要部の構成例を示す概略図である。図1には、例えば、ECU(Engine Control Unit)等と呼ばれる制御装置10と、制御装置10の各種周辺部品とが示される。各種周辺部品の中には、電動モータ15と、回転角センサ16と、アクセルセンサ17と、傾きセンサ18と、着座センサ19と、スタンドセンサ20とが含まれる。
【0011】
電動モータ15は、代表的には、3相ブラシレスDCモータ等であり、自動二輪車(明細書では、車両とも呼ぶ)の駆動輪に設置される。回転角センサ16は、例えば、ホールIC、ロータリエンコーダ、レゾルバ等で構成され、電動モータ15の回転角を検出する。アクセルセンサ17は、アクセル、言い換えればスロットルの開度を検出する。
【0012】
傾きセンサ18は、例えば、3軸加速度センサ、3軸ジャイロセンサ、3軸地磁気センサのいずれか又はその組み合わせで構成され、車両のいずれかの箇所に設置された状態で車両の傾きを検出する。着座センサ19は、例えば、荷重センサ等であり、車両のシートの周辺等に設置された状態で乗員の着座有無を検出する。スタンドセンサ20は、例えば、スイッチ等で構成され、車両を支持するスタンドの周辺等に設置された状態でスタンドのオン/オフ、言い換えれば下げ/上げを検出する。
【0013】
制御装置10は、車両のいずれかの箇所に搭載され、トルク制御部25と、インバータ26と、電流センサ27と、運転可否判定部28と、車速検出部29とを備える。車速検出部29は、回転角センサ16で検出された回転角の変化率等に基づいて、電動モータ15の回転速度、ひいては、車両の車速SPを検出する。運転可否判定部28は、傾きセンサ18、着座センサ19、スタンドセンサ20の少なくとも一つの検出結果に基づいて、車両の状態が運転可能な状態か運転不可能な状態かを判定する。言い換えれば、運転可否判定部28は、車両および乗員に運転準備が整っているか否かを判定する。
【0014】
詳細には、運転可否判定部28は、着座センサ19が着座無しを検出している場合か、または、傾きセンサ18が所定の値以上の傾きを検出している場合か、あるいは、スタンドセンサ20がスタンドのオンを検出している場合に、運転不可能な状態と判定する。それ以外の場合、例えば、着座センサ19が着座有りを検出し、かつ、傾きセンサ18が所定の値以上の傾きを検出しておらず、かつ、スタンドセンサ20がスタンドのオフを検出している場合、運転可否判定部28は、運転可能な状態と判定する。なお、これに限らず、運転可否の判定条件は、搭載するセンサの種類や車両の構造等に応じて適宜変更可能である。
【0015】
トルク制御部25は、アクセルセンサ17、電流センサ27、車速検出部29の各検出結果と、運転可否判定部28の判定結果とに基づいて、インバータ26を介して車両の駆動輪へのトルク、すなわち電動モータ15のトルクを制御する。インバータ26は、例えば、3相のスイッチング素子、具体的には6個のスイッチング素子等で構成される。インバータ26は、トルク制御部25からの3相のPWM(Pulse Width Modulation)信号PWMu,PWMv,PWMwに応じてスイッチング制御を行うことで、電動モータ15に3相の交流電力を供給する。この際に、電流センサ27は、電動モータ15に流れるモータ電流Imを検出する。
【0016】
トルク制御部25は、詳細には、トルク指令部35と、電流制御器36と、PWM変調器37と、トルク制限部38とを備える。トルク指令部35は、アクセルセンサ17によって検出されたアクセルの開度に基づいてトルク指令値、ひいては、電流指令値Iを算出する。電流制御器36は、当該電流指令値Iと、電流センサ27によって検出されたモータ電流Imの値との誤差に基づいて、当該誤差をゼロに近づけるためのデューティ比指令値DTを、比例積分制御(PI制御)等を用いて算出する。
【0017】
PWM変調器37は、電流制御器36からのデューティ比指令値DTを受け、当該デューティ比を有する3相のPWM信号PWMu,PWMv,PWMwを生成する。トルク制限部38は、詳細は後述するが、車速検出部29で検出された車速SPと、運転可否判定部28の判定結果とに基づいて、有効信号E/無効信号Dを用いてトルク制限の有効/無効を制御する。
【0018】
トルク制限が有効の場合、駆動輪へのトルク、すなわち電動モータ15のトルクは、トルク制限値Tlmt(Tlmt>0)以下に制限される。詳細には、トルク制限部38は、例えば、トルク指令部35にトルク制限の有効/無効とトルク制限値Tlmtとを指示するか、または、PWM変調器37にデューティ比指令値の制限値を指示してもよい。
【0019】
なお、図1において、制御装置10は、例えば、マイクロコントローラやスイッチング素子等を含む各種部品が搭載された配線基板等によって構成される。トルク制御部25、運転可否判定部28および車速検出部29は、例えば、マイクロコントローラ内のプロセッサを用いたプログラム処理等によって実現される。ただし、トルク制御部25、運転可否判定部28および車速検出部29の一部または全ては、プログラム処理に限らず、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアで実現されてもよい。
【0020】
《トルク制限部(比較例)の動作》
図5は、本発明の比較例となる自動二輪車の制御装置において、トルク制限部の処理内容の一例を示すフロー図である。図5において、比較例となるトルク制限部は、まず、運転可否判定部28による判定結果が運転可能な状態か運転不可能な状態かを判定する(ステップS401)。そして、当該トルク制限部は、ステップS401での判定結果が運転可能な状態の場合にはトルク出力を許可し(ステップS402)、運転不可能な状態の場合にはトルク出力を禁止する(ステップS403)。
【0021】
図5のような処理を用いると、例えば、乗員が乗車していない状態でアクセルが誤入力されたような場合に、トルク出力が禁止されるため、安全性を高めることが可能になる。しかし、例えば、車庫入れ時等では、乗員が乗車していない状態で車両を手押しで運搬したい場合がある。このような場合にトルク出力が禁止されていると、車両の運搬が困難となり得る。さらに、図5のような処理では、例えば、走行中に乗員が腰を浮かせたような場合等でもトルク出力が禁止され得るため、走行に支障をきたす恐れがある。
【0022】
《トルク制限部(実施の形態1)の動作》
図2は、図1におけるトルク制限部の処理内容の一例を示すフロー図である。図1のトルク制限部38は、例えば、図2のフローを所定の制御周期で繰り返し実行する。図2において、トルク制限部38は、まず、車速検出部29で検出された車速SPが閾値速度以下であるか否かを判定する(ステップS101)。閾値速度は、例えば、時速2~4kmといった人間の歩行速度である。
【0023】
ステップS101で車速SPが閾値速度を超えている場合、トルク制限部38は、トルク制限を無効にする(ステップS103)。一方、ステップS101で車速SPが閾値速度以下の場合、トルク制限部38は、運転可否判定部28が運転可能な状態と判定しているか否かを判定する(ステップS102)。運転可否判定部28が運転可能な状態と判定している場合、トルク制限部38は、トルク制限を無効にする(ステップS103)。一方、運転可否判定部28が運転不可能な状態と判定している場合、トルク制限部38は、トルク制限を有効にする(ステップS104)。
【0024】
このように、図2のフローでは、トルク制限部38は、車速SPが閾値速度以下であり、かつ、運転不可能な状態と判定されていることを第1の条件として、第1の条件を満たした場合に、トルク制限を有効にする。また、トルク制限部38は、車速SPが閾値速度を超えていることを第2の条件として、第2の条件を満たした場合にトルク制限を無効にする。
【0025】
その結果、図5のフローと比較して、車両の運搬を容易に行うことが可能になる。具体的には、乗員が乗車していない状態で車両を手押しで運搬するような状況では、トルク出力は、禁止ではなく許可され、その代わりに、制限がかけられる。このため、制限の範囲内で駆動輪を回転させることができ、車両の運搬が容易になる。また、加えて、安全性を高めることも可能になる。例えば、車両の運搬過程で、誤ってアクセルが大きく開かれたような場合であっても、車両の急な飛び出しを防ぐことができる。
【0026】
さらに、トルク制限は、歩行速度以下といった極低速域のみで有効となるため、走行に対して影響を与えずに済む。例えば、コーナリング等で乗員がシートから腰を浮かせたような状況であっても、トルク制限の無効を維持することができる。なお、図2における閾値速度は、外部から任意に設定されてもよい。また、トルク制限が有効な場合のトルク制限値Tlmtも、外部から任意に設定されてもよい。
【0027】
《実施の形態1の主要な効果》
以上、実施の形態1の方式を用いることで、代表的には、車両の運搬を容易に行うことが可能になる。なお、図1では、電動モータ15を用いた自動二輪車を例としたが、実施の形態1の方式は、トルク制限という観点で、モータ式に限らずエンジン式の自動二輪車に対しても同様に適用可能である。ただし、トルク制限を実現する上での容易性の観点では、エンジン式ではなくモータ式の自動二輪車に適用することが有益である。
【0028】
(実施の形態2)
《自動二輪車の制御装置の概略》
図3は、本発明の実施の形態2による自動二輪車の制御装置において、主要部の構成例を示す概略図である。図3に示す制御装置10aは、図1の構成例と比較して、トルク制限部38aの構成および処理内容が異なっている。図3に示すトルク制限部38aは、停車タイマ(停車検出部)40と、制限値制御部41とを備える。また、トルク制限部38aには、アクセルセンサ17の検出結果が入力される。
【0029】
停車タイマ40は、車速検出部29からの車速SPに基づいて、車両が一定時間以上停車しているか否かを検出する。一定時間は、例えば、数秒~数十秒等である。制限値制御部41は、詳細は後述するが、トルク制限が有効の状態で、車速検出部29からの車速SPと、予め定めた目標速度との違いに応じて、トルク制限値Tlmtを変更する。目標速度は、閾値速度よりも低い速度である。
【0030】
《トルク制限部(実施の形態2)の動作》
図4Aは、図3におけるトルク制限部の処理内容の一例を示すフロー図である。図4Bは、図4Aに続く処理内容の一例を示すフロー図である。図3のトルク制限部38aは、図4Aおよび図4Bのフローを所定の制御周期で繰り返し実行する。図4Aにおいて、トルク制限部38aは、まず、トルク制限が有効か無効かを判定する(ステップS201)。
【0031】
ステップS201でトルク制限が有効の場合、トルク制限部38aは、図2の場合と同様に、車速SPが閾値速度以下であるか否かを判定し(ステップS101a)、車速SPが閾値速度以下である場合には、運転可能な状態か否かを判定する(ステップS102a)。ここで、ステップS101aで車速SPが閾値速度を超えている場合、トルク制限部38aは、図2の場合と異なり、さらに、アクセルセンサ17の検出結果に基づいて、アクセルがオフであるか否かを判定する(ステップS202)。
【0032】
また、ステップS101aで車速SPが閾値速度以下であり、かつ、ステップS102aで運転可能な状態と判定された場合も、トルク制限部38aは、図2の場合と異なり、さらに、アクセルがオフであるか否かを判定する(ステップS202)。そして、トルク制限部38aは、ステップS202でアクセルがオフである場合に、トルク制限を有効から無効に変更する(ステップS203)。一方、トルク制限部38aは、ステップS102aで運転不可能な状態と判定された場合、または、ステップS202でアクセルがオンの場合には、トルク制限の有効を維持する。
【0033】
このように、トルク制限が有効な状態では、トルク制限部38aは、アクセルがオフであることを第3の条件として、図2で述べた第2の条件(すなわち、車速SP>閾値速度)かつ当該第3の条件を満たした場合にトルク制限を無効にする。また、トルク制限部38aは、運転可能な状態で当該第3の条件を満たした場合にもトルク制限を無効にする。一方、トルク制限部38aは、当該第3の条件を満たさない場合にはトルク制限の有効を維持する。すなわち、トルク制限を有効から無効に変えるためには、少なくとも、アクセルをオフにする必要がある。
【0034】
例えば、トルク制限が有効な状態で運搬者がアクセルを開きながら車両を運搬している状況で、車両が下り坂に進入したような場合を想定する。この場合、車速SPが上昇し得るため、図2のフローでは、運搬者の意図に反してトルク制限が解除されてしまう可能性がある。図4Aのフローを用いると、ステップS202によってアクセルをオフにしない限りトルク制限は解除されないため、このような運搬者の意図に反するトルク制限の解除を防止することが可能になる。
【0035】
また、図2のフローでは、トルク制限が有効な状態で、運転可能な状態になると、トルク制限は解除される。この場合、例えば、乗員がアクセルを開いた状態で運転姿勢を整えたような場合に、車両が急に加速してしまうような事態が生じ得る。図4Aのフローを用いると、ステップS202によってアクセルをオフにしない限りトルク制限は解除されないため、このような事態を防止することも可能になる。
【0036】
続いて、ステップS201でトルク制限が無効の場合、トルク制限部38aは、図2の場合と同様に、車速SPが閾値速度以下であるか否かを判定し(ステップS101b)、車速SPが閾値速度以下である場合には、運転可能な状態か否かを判定する(ステップS102b)。ここで、ステップS101bで車速SPが閾値速度を超えている場合、トルク制限部38aは、トルク制限の無効を維持する。また、ステップS101bで車速SPが閾値速度以下であり、かつ、ステップS102bで運転可能な状態と判定されている場合も、トルク制限部38aは、トルク制限の無効を維持する。
【0037】
一方、ステップS101bで車速SPが閾値速度以下であり、かつ、ステップS102bで運転不可能な状態と判定された場合、トルク制限部38aは、図2の場合と異なり、さらに、停車タイマ40の検出結果に基づいて、一定時間停車中の状態であるか否かを判定する(ステップS204)。そして、トルク制限部38aは、ステップS204で一定時間停車中の状態である場合には、トルク制限を無効から有効へ変更し(ステップS205)、一定時間停車中の状態で無い場合には、トルク制限の無効を維持する。
【0038】
このように、トルク制限が無効な状態では、トルク制限部38aは、停車タイマ40が一定時間以上の停車を検出していることを第4の条件として、図2で述べた第1の条件(すなわち、車速≦閾値速度、かつ運転不可能な状態)、かつ当該第4の条件を満たした場合にトルク制限を有効化する。一方、トルク制限部38aは、当該第4の条件を満たさない場合にはトルク制限の無効を維持する。すなわち、トルク制限を無効から有効に変えるためには、第1の条件に加えて、車両が一定時間以上停車している必要がある。
【0039】
例えば、乗員が、体勢を崩しながら、かつ車両を徐行させながら交差点に進入し、直進者が交差点に到達する前に車両の右折を完了させたいような場合を想定する。この場合、図2のフローでは、右折時にトルク制限が有効になっている可能性があり、右折を十分な速度で行えない可能性がある。図4Aのフローを用いると、ステップS204によって一定時間の停車が検出されない限りトルク制限は有効化されないため、このような事態を防止することができる。すなわち、走行中に一瞬止まった、または止まりかけた程度では、トルク制限は有効化されない。
【0040】
トルク制限部38aは、このような図4Aのフローを実行したのち、図4Bのフローを実行する。図4Bにおいて、トルク制限部38aは、まず、トルク制限が有効か無効かを判定する(ステップS301)。トルク制限が無効の場合、トルク制限部38aは、処理を終了する。一方、トルク制限が有効の場合、トルク制限部38aは、車速検出部29で検出された車速SPが閾値速度以下、例えば歩行速度以下であるか否かを判定する(ステップS301)。
【0041】
ステップS301で車速SPが閾値速度以下である場合、トルク制限部38aは、制限値制御部41を用いて、車速SPが目標速度以下であるか否かを判定する(ステップS302)。制限値制御部41は、車速SPが目標速度以下である場合には、トルク制限値Tlmtを段階的に引き上げ(ステップS303)、車速SPが目標速度を超える場合には、トルク制限値Tlmtを段階的に引き下げる(ステップS304)。また、ステップS301で車速SPが閾値速度を超える場合にも、トルク制限部38aは、制限値制御部41を用いて、トルク制限値Tlmtを段階的に引き下げる(ステップS304)。
【0042】
このように、トルク制御部25は、トルク制限が有効な状態では、車速検出部29で検出された車速SPと予め定めた目標速度(目標速度<閾値速度)との違いに応じてトルク制限値Tlmtを変更する。詳細には、トルク制御部25は、車速SPが目標速度に徐々に近づくように、トルク制限値Tlmtの引き上げ/引き下げを制御する。制限値制御部41は、例えば、PI制御を用いた速度制御器等であってもよい。
【0043】
例えば、トルク制限値Tlmtを一定値として車両を運搬する場合、路面の傾斜状態等に応じて車両の急加速や急減速、すなわち車速SPの急激な変化が生じる恐れがある。そこで、図4Bのフローを用いると、ステップS303,S304の処理に伴い車速SPの急激な変化を抑制することが可能になる。
【0044】
《実施の形態2の主要な効果》
以上、実施の形態2の方式を用いることで、実施の形態1で述べた各種効果に加えて、安全性をより高めることが可能になる。具体的には、トルク制限が意図に反して解除される事態や、意図しない車両の急加速や急減速等を防止することが可能になる。
【0045】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。その他、上記各実施の形態における各構成要素の材質,形状,寸法,数,設置箇所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、上記各実施の形態に限定されない。
【符号の説明】
【0046】
10,10a:制御装置、15:電動モータ、16:回転角センサ、17:アクセルセンサ、18:傾きセンサ、19:着座センサ、20:スタンドセンサ、25:トルク制御部、26:インバータ、27:電流センサ、28:運転可否判定部、29:車速検出部、35:トルク指令部、36:電流制御器、37:PWM変調器、38,38a:トルク制限部、40:停車タイマ(停車検出部)、41:制限値制御部、D:無効信号、DT:デューティ比指令値、E:有効信号、I:電流指令値、Im:モータ電流、PWMu,PWMv,PWMw:PWM信号、SP:車速、Tlmt:トルク制限値
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5