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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007658
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】抗ストレス作用を有するユズ調合香料
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/00 20060101AFI20230112BHJP
   A61K 31/21 20060101ALI20230112BHJP
   A61K 31/015 20060101ALI20230112BHJP
   A61K 31/11 20060101ALI20230112BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20230112BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20230112BHJP
   A61K 36/752 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
C11B9/00 J
C11B9/00 T
C11B9/00 B
C11B9/00 E
A61K31/21
A61K31/015
A61K31/11
A61K31/045
A61P25/18
A61K36/752
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110650
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 光司
(72)【発明者】
【氏名】謝 肖男
(72)【発明者】
【氏名】水重 貴文
(72)【発明者】
【氏名】北本 拓磨
【テーマコード(参考)】
4C088
4C206
4H059
【Fターム(参考)】
4C088AB62
4C088AC04
4C088BA08
4C088BA18
4C088BA23
4C088BA32
4C088CA15
4C088MA55
4C088NA14
4C088ZA18
4C206AA01
4C206AA02
4C206BA04
4C206CA13
4C206CB02
4C206DB02
4C206DB43
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA75
4C206NA14
4C206ZA18
4H059BA02
4H059BA14
4H059BA19
4H059BA30
4H059BB03
4H059BB13
4H059BB44
4H059BB45
4H059BC10
4H059BC23
4H059CA18
4H059DA09
4H059EA36
4H059EA40
(57)【要約】
【課題】抗ストレス作用を有するユズ調合香料を提供する。
【解決手段】(1)cis-3-Hexenyl formate、(2)(+)-Camphene、(3)trans-2-Hexenal、(4)Hexanal、および(5)Terpinen-4-ol、の各成分を含有するユズ調合香料により上記課題を解決した。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)cis-3-Hexenyl formate、(2)(+)-Camphene、(3)trans-2-Hexenal、(4)Hexanal、および(5)Terpinen-4-ol、の各成分を含有する、ことを特徴とするユズ調合香料。
【請求項2】
前記各成分は、水蒸気蒸留法により抽出された天然ユズ精油の成分分析結果を基に調合した香料に含まれている、請求項1に記載のユズ調合香料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ストレス作用を有し、安価で安定したユズ調合香料に関する。
【背景技術】
【0002】
香気成分が人間の生理や心理状態に種々の影響を与えることが知られている。例えば、リラックス感や高揚感の向上、鎮静作用、安眠や誘眠の促進、ストレス緩和等がある。近年の社会環境では、精神的ストレスを起こす要因が多く、ストレスを原因とする疾病が増えている。香気成分を利用したストレス解消のための検討として、特許文献1には、身体の緊張を緩和させ、リラックス効果の高い香料組成物が提案されている。この香料組成物は、酢酸ボルニルと、ヒノキ精油、ユズ精油、ヒバ精油およびこれらの2以上の混合物からなる群より選択される精油とを含有するものである。
【0003】
天然香料は、香調が不安定で高価であることから、香調が長期間安定した安価な調合香料の利用が期待されている。調合香料は、洗剤、芳香剤、柔軟剤等の日用品向け香料や、飲料、菓子等の飲食物向け香料として利用されており、ストレスや高齢化が社会課題となっている現在、香りによる健康社会の実現が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-5405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、うつ病患者数が増加傾向にあり、社会的な問題となっている。こうした問題に対し、柑橘類の香りには精神的ストレス緩和作用があることが知られている。天然ユズ精油は、自然で特徴のある香りを含有することから、より安定で安価な調合香料を開発できれば、ユズの香りがもたらす抗ストレス作用が期待できる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、抗ストレス作用を有するユズ調合香料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ユズ調合香料の精神的ストレスへの影響を調べ、香調が長期間安定し、かつ安価に供給可能なストレス緩和素材の探索を目的とした研究の過程で、ユズ精油を冷圧および水蒸気蒸留法で抽出して成分分析を行い、その結果を基に調合した香料のストレス緩和作用を動物行動学的手法で調べた。その結果、抽出手法によりストレス緩和作用に差が生じていることを突き止め、その差が特定の成分の存在に依存していることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明に係るユズ調合香料は、(1)cis-3-Hexenyl formate、(2)(+)-Camphene、(3)trans-2-Hexenal、(4)Hexanal、および(5)Terpinen-4-ol、の各成分を含有することを特徴とする。この発明によれば、(1)~(5)の各成分を含むユズ調合香料に抗ストレス作用がみられた。
【0009】
本発明に係るユズ調合香料において、前記各成分は、水蒸気蒸留法により抽出された天然ユズ精油の成分分析結果を基に調合した香料に含まれている。この発明によれば、上記各成分は、抗ストレス作用を示さない冷圧調合香料には含まれず、抗ストレス作用を示す水蒸気蒸留調合香料に含まれていることがわかった。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、抗ストレス作用を有するユズ調合香料を提供することができる。上記(1)~(5)の各成分は、抗ストレス作用を示さない冷圧調合香料には含まれず、抗ストレス作用を示す水蒸気蒸留調合香料に含まれていることがわかった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るユズ調合香料について説明する。
【0012】
(ユズ)
ユズ(柚子、Citrus junos)は、ミカン属、柑橘類の1つでホンユズとも呼ばれ、酸味が強く、生食に向かない香酸柑橘に分類されている。ユズが栽培されている地域は、北緯34度(高知、徳島、愛媛など)~36度(越生、宇都宮、茂木など)に集中している。
【0013】
(ユズ調合香料の作製)
実験に用いた香料は、冷圧法で抽出した栃木県産ユズ精油の成分分析結果を基に調合した冷圧調合香料と、水蒸気蒸留抽出法で抽出した栃木県産ユズ精油の成分分析結果を基に調合した水蒸気蒸留調合香料の2香料である。
【0014】
冷圧法は、ユズ外果皮を折り曲げることで精油を放出させ、それを氷水で冷却した飽和食塩水入り試験管内で収集するという抽出手段であり、低温、非加熱、かつ溶媒を使用しないため天然組成に近い精油が得られるという特徴をもつ。水蒸気蒸留抽出法は、植物精油の抽出法として一般に用いられる方法であり、原料を入れた蒸留窯の下部から加熱水蒸気を発生させ芳香成分を水蒸気と共に気化させた後、それを冷却して液体化した精油を収集するという抽出手段である。冷圧法および水蒸気蒸留法により抽出された天然ユズ精油をガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)で分析し、冷圧法で抽出した天然精油は59種類、水蒸気蒸留抽出法で抽出した天然精油は58種類の成分を検出した。これら成分を、安定で安価な調合香料を実現するという観点から一般的に入手可能な20種類の成分(表1を参照。)に絞り込み、ユズ様の香りがするユズ調合香料を作製した。調合に使用した合成香料の種類は、冷圧調合香料についてはその20種類の中から冷圧法で抽出された15種類(溶媒含む。)とし、水蒸気蒸留調合香料についてはその20種類の中から水蒸気蒸留抽出法で抽出された16種類(溶媒含む。)とし、それぞれの調合香料(冷圧調合香料、水蒸気蒸留調合香料)をそれら成分で調香した。表1は、冷圧調合香料に含まれている15種類の成分と、水蒸気蒸留調合香料に含まれている16種類の成分とを表記している。また、表1中の含有率は、後述の香料投与で用いた冷圧調合香料と水蒸気蒸留調合香料の含有率の一例である。なお、絞り込まれた20種類に含まれない残りの成分の含有率は僅かであったので、その分は溶媒で補填して合計を100体積%としたが、表1に示す調合香料の各成分(溶剤除く。)の含有率は抽出した精油成分の含有率と同じである。
【0015】
【表1】
【0016】
(実験動物、香料投与)
実験動物として、5週齢、初体重24~26gの雄ddyマウス(日本エスエルシー株式会社)を22±1℃、12時間サイクル(明期7:00~19:00)に設定された部屋で4日間以上予備飼育して実験に用いた。
【0017】
クエン酸トリエチル(CASNo.77-93-0)を希釈液として0.4体積%の濃度に調整した冷圧調合香料と水蒸気蒸留調合香料、および対照としてのクエン酸トリエチル溶液を用い、それぞれを設置した箱(縦18cm×横25cm×高さ18cm)にマウス7匹を1日1回30分入れて経鼻および経口による吸入投与を行った。それぞれの箱でこの操作を3日間行い、3日目に吸入投与の直後から各試料を設置した箱(縦15cm×横15cm×高さ22cm)の中で強制水泳試験を行った。
【0018】
(強制水泳試験)
強制水泳試験(Forced Swimming Test:FST)は、Porsoltら(1977)によって開発された抑うつ様行動を導出し、抗うつ薬様の薬効効果を評価する動物行動学的手法の1つである。この方法は、まず、円筒型の容器に水を入れ、そこにマウスを投入する。マウスはこのとき、逃避不可能な状態におかれる。水に投入されたマウスは、最初のうちは逃避しようとして泳ぎ回るが、次第にそのような行動が減少し水面に浮いたまま動かなくなり(「無動状態」という。)、この無動状態が続く時間を「無動時間」という。抗うつ薬を投与すると無動時間が短くなることが報告されており、無動時間が長ければ抑うつ様状態(過剰なストレス負荷状態)、短ければ抗うつ活性がある(抗ストレス活性がある)と判定する。
【0019】
本実験では、直径10cm、高さ19cmの円筒状の容器に深さ10cmの水道水(25±1℃)を入れたものを用いた。マウスを水の入った円筒状の容器に入れ、行動試験の開始時刻よりマウスの行動をビデオカメラで撮影した。行動試験開始後0~6分間のマウスの無動時間を計測し、抑うつ様行動(ストレス行動)の評価を行った。
【0020】
【表2】
【0021】
(結果)
表2は、実験結果を示している。水蒸気蒸留調合香料投与群は、クエン酸トリエチル投与群(対照)および冷圧調合香料投与群と比較して、無動時間が有意に減少した。こうした実験結果により、水蒸気蒸留調合香料は、抗うつ様効果を示すうつ症状緩和素材として有効であることがわかった。
【0022】
本発明者は、水蒸気蒸留調合香料投与群と、クエン酸トリエチル投与群(対照)および冷圧調合香料投与群との相違を検討するため、それらについてGC-MSによる成分分析を行った。その結果の一例は上記表1にも示したが、水蒸気蒸留調合香料にのみ含まれる成分は、(1)cis-3-Hexenyl formate、(2)(+)-Camphene、(3)trans-2-Hexenal、(4)Hexanal、および(5)Terpinen-4-ol、の(1)~(5)の各成分であり、これら成分を含むことで抗ストレス作用を示したといえる。
【0023】
なお、それら成分の含有率は、表1に例示したように、(1)「cis-3-Hexenyl formate」(CASNo.33467-73-1)は0.001体積%であり、(2)「(+)-Camphene」(CASNo.79-92-5)は0.010体積%であり、(3)「trans-2-Hexenal」(CASNo.6728-26-3)は0.020体積%であり、(4)「Hexanal」(CASNo.66-25-1)は0.040体積%であり、(5)「Terpinen-4-ol」(CASNo.562-74-3)は0.200体積%であったが、抗ストレス作用を発揮できる各成分の範囲は、(1)cis-3-Hexenyl formateでは0.0001~0.010体積%、好ましくは0.0005~0.002体積%であり、(2)(+)-Campheneでは0.001~0.100体積%、好ましくは0.005~0.020体積%であり、(3)trans-2-Hexenalでは0.002~0.200体積%、好ましくは0.010~0.040体積%であり、(4)Hexanalでは0.004~0.400体積%、好ましくは0.020~0.080体積%であり、(5)Terpinen-4-olでは0.020~2.000体積%、好ましくは0.100~0.400体積%であり、これらの各成分が上記範囲内であることで抗ストレス作用を示すことができる。なお、好ましい範囲は、それぞれの成分が比較的安定的に得られる含有率の範囲のことである。
【0024】
なお、GC-MSによる成分分析は、Agilent 7890B+5977Bを用いて実施した。カラムはAgilent DB-HeavyWAX(30+10mガードカラム、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いた。ヘッドスペース分析を採用し、各サンプルを0.5mLずつ、スプリットモード(1:10)でAgilent PAL3オートサンプラにより注入した。インジェクタの温度は250℃で、キャリアであるヘリウムガスの流量は1.2mL/minとした。オーブン温度は50℃で1分間保持した後、8℃/minで260℃まで昇温させ、最終温度260℃の状態で1分間保持した。