(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076659
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20230525BHJP
【FI】
A61B3/10 100
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061883
(22)【出願日】2023-04-06
(62)【分割の表示】P 2022007269の分割
【原出願日】2017-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】藤井 宏太
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 誠
(72)【発明者】
【氏名】酒井 潤
(57)【要約】
【課題】外部装置からのデータを用いることなくOCTに関する倍率補正を行う。
【解決手段】実施形態に係る眼科装置の光学系は、測定光を眼底に投射し、その戻り光を参照光と重ね合わせて干渉光を生成して検出する。光スキャナは、眼底をスキャンするために測定光を偏向する。光路長変更部は、測定光及び/又は参照光の光路長を変更する。フォーカス調整部は、測定光の光路のフォーカス調整に用いられる。制御部は、光路長の調整を光路長変更部に実行させて被検眼の眼軸長推定値を求め、測定光の光路のフォーカス調整をフォーカス調整部に実行させて被検眼の視度推定値を求め、眼軸長推定値及び視度推定値に基づいて光スキャナの偏向範囲を設定し、この偏向範囲に基づいて眼底に対するOCTを光学系及び光スキャナに実行させる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の眼底に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を適用可能な眼科装置であって、
光源から出力された光を測定光と参照光とに分割し、前記測定光を前記眼底に投射し、前記被検眼からの前記測定光の戻り光と前記参照光とを重ね合わせて干渉光を生成し、前記干渉光を検出する光学系と、
前記眼底をスキャンするために前記測定光を偏向する光スキャナと、
前記測定光及び前記参照光の少なくとも一方の光路長を変更する光路長変更部と、
前記測定光の光路のフォーカス調整を行うためのフォーカス調整部と、
制御部と
を含み、
前記制御部は、
前記光路長の調整を前記光路長変更部に実行させて前記被検眼の眼軸長推定値を求め、
前記測定光の前記光路の前記フォーカス調整を前記フォーカス調整部に実行させて前記被検眼の視度推定値を求め、
前記眼軸長推定値及び前記視度推定値に基づいて前記光スキャナの偏向範囲を設定し、
前記偏向範囲に基づいて前記眼底に対するOCTを前記光学系及び前記光スキャナに実行させる
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
前記制御部は、予め作成されたノーマティブデータの寸法である基準値に対する倍率補正値を前記眼軸長推定値及び前記視度推定値に基づき算出し、前記倍率補正値に基づいて前記偏向範囲を設定する
ことを特徴とする請求項1の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科診療において、画像診断や画像解析の重要性が増してきている。特に、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)の眼科への応用が、その傾向に拍車をかけている。OCTは被検眼の3次元イメージングや3次元的な構造解析・機能解析を可能とし、例えば様々な計測値の分布を取得するために威力を発揮している。計測値の分布の例として、眼底の層組織の厚みの分布がある。被検眼について取得された層厚分布は、疾患の有無を判定するために、正常眼(健常眼)のデータと比較される。この正常眼のデータはノーマティブデータなどと呼ばれる。
【0003】
層厚分布解析のような眼底構造解析の確度は、被検眼に起因する倍率誤差の影響を受ける。例えば、ノーマティブデータ比較解析では、眼底の所定範囲における層厚分布が考慮される。具体例として、緑内障診断では、視神経乳頭の周囲の所定範囲における所定層(例えば、神経線維層、神経節細胞層など)の厚み分布や、中心窩を含む所定範囲における所定層(例えば、神経線維層、神経節細胞層など)の厚み分布が考慮される。ここで、所定範囲は予め設定されたサイズを有し、典型例として6mm×6mmの範囲や9mm×9mmの範囲が適用される。
【0004】
このような解析を好適に行うには、眼底の所定範囲に対してOCTスキャンを適用する必要がある。しかし、同じスキャン条件でOCTスキャンを行っても、実際にスキャンされる眼底の範囲は、被検眼の眼軸長や屈折力(視度)によって変化する。
【0005】
例えば、
図1に示すように、眼軸長L1の被検眼E1と眼軸長L2(>L1)の被検眼E2に対してOCT測定光が同じ角度θで入射した場合、被検眼E1の眼底における測定光の投射位置の高さY1よりも、被検眼E2の眼底における測定光の投射位置の高さY2の方が大きくなる(Y2>Y1)。すなわち、眼軸長が長いほど、眼底における測定光の投射位置の高さが大きくなる。一方、OCTスキャンのサイズは、測定光の最大偏向角で定義される。したがって、OCTスキャンのサイズの条件が同じであっても、実際にスキャンされる眼底の範囲は、眼軸長の値に応じて変化してしまう。視度についても同様である。
【0006】
ノーマティブデータ比較解析では、眼底の所定範囲(つまり、既定サイズの範囲)におけるノーマティブデータが準備されている。ノーマティブデータは、例えば、標準的な眼における眼底の所定範囲を分割してなる複数の領域のそれぞれに対して、正常眼の層厚の標準値(例えば、当該領域における平均値)が割り当てられたデータである。このようなノーマティブデータと、被検眼について取得された層厚分布とが、前述した複数の領域のそれぞれについて比較される。また、被検眼の層厚分布から算出される統計値(例えば、最大値、最小値、平均値、最頻値、中央値、レンジ(最大値と最小値との差)、標準偏差、分散など)をノーマティブデータと比較することもできる。
【0007】
例えば緑内障眼では、神経線維層の菲薄化(欠損)が現れることがあり、ノーマティブデータはこれを検出するための閾値を定義している。被検眼の眼軸長が標準的な範囲に属する場合には、ノーマティブデータの定義範囲と被検眼について取得された層厚分布の範囲とが実質的に一致するため、双方の比較を好適に行うことができる。
【0008】
これに対し、眼軸長が標準よりも長い被検眼(E2)においては、
図2Aに示すように、被検眼について取得された層厚分布の範囲A2が、ノーマティブデータの定義範囲A0よりも広くなる。一般的に神経線維層厚の値が眼底周辺部ほど小さくなることを考慮すると、本来の範囲A0よりも外側に位置する元々層厚が薄い部位を範囲A2が含んでいるため、被検眼の神経線維層が本当は菲薄化していない場合であっても「菲薄化している」との比較結果が得られてしまう(偽陽性)。
【0009】
逆に、眼軸長が標準よりも短い被検眼においては、
図2Bに示すように、被検眼について取得された層厚分布の範囲A3が、ノーマティブデータの定義範囲A0よりも狭くなるため、被検眼の神経線維層が本当は菲薄化している場合であっても「菲薄化していない」との比較結果が得られてしまう(偽陰性)。
【0010】
このような事態を防止するために、眼屈折力、角膜曲率半径、眼軸長などの眼球光学系パラメータに基づいてOCTに関する倍率補正を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1-7を参照)。しかし、このような従来の技術は、OCTデータを取得する装置以外の眼科装置(外部装置)により取得されたデータを用いて倍率補正を行うものであるため、健康診断や検診などスクリーニング検査に適用することや、外部装置を有しない施設で行われる検査に適用することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10-179517号公報
【特許文献2】特開2006-122160号公報
【特許文献3】特開2008-206684号公報
【特許文献4】特開2009-000354号公報
【特許文献5】特開2016-043155号公報
【特許文献6】特開平08-206081号公報
【特許文献7】特開2008-237237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明の目的は、外部装置からのデータを用いることなくOCTに関する倍率補正を行うことが可能な眼科装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施形態は、被検眼の眼底に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を適用可能な眼科装置であって、光源から出力された光を測定光と参照光とに分割し、前記測定光を前記眼底に投射し、前記被検眼からの前記測定光の戻り光と前記参照光とを重ね合わせて干渉光を生成し、前記干渉光を検出する光学系と、前記眼底をスキャンするために前記測定光を偏向する光スキャナと、前記測定光及び前記参照光の少なくとも一方の光路長を変更する光路長変更部と、前記測定光の光路のフォーカス調整を行うためのフォーカス調整部と、制御部とを含んでいる。前記制御部は、前記光路長の調整を前記光路長変更部に実行させて前記被検眼の眼軸長推定値を求め、前記測定光の前記光路の前記フォーカス調整を前記フォーカス調整部に実行させて前記被検眼の視度推定値を求め、前記眼軸長推定値及び前記視度推定値に基づいて前記光スキャナの偏向範囲を設定し、前記偏向範囲に基づいて前記眼底に対するOCTを前記光学系及び前記光スキャナに実行させる。
【発明の効果】
【0014】
実施形態によれば、外部装置からのデータを用いることなくOCTに関する倍率補正を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図4】実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図5】実施形態に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図6】実施形態に係る眼科装置の動作の一例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
例示的な実施形態に係る眼科装置について図面を参照しながら詳細に説明する。実施形態に係る眼科装置は、生体眼の眼底にOCTを適用可能である。OCTにより取得されたデータは、画像形成や解析に利用可能である。本明細書にて引用された文献の開示内容を含む任意の公知技術を、実施形態に援用することが可能である。
【0017】
以下に説明する例示的な実施形態では、フーリエドメインOCT(特にスウェプトソースOCT)を用いて生体眼の眼底を計測することが可能な眼科装置について説明する。OCTのタイプはスウェプトソースには限定されず、例えばスペクトラルドメインOCT又はタイムドメインOCTであってもよい。実施形態の眼科装置はOCT装置と眼底カメラを組み合わせた装置であるが、眼底カメラ以外の眼底撮影装置とOCT装置とを組み合わせてもよい。そのような眼底撮影装置の例として、走査型レーザー検眼鏡(SLO)、スリットランプ顕微鏡、眼科手術用顕微鏡などがある。
【0018】
〈構成〉
図3に示すように、眼科装置1は、眼底カメラユニット2、OCTユニット100及び演算制御ユニット200を含む。眼底カメラユニット2には、被検眼の正面画像を取得するための光学系や機構が設けられている。OCTユニット100には、OCTを実行するための光学系や機構の一部が設けられている。OCTを実行するための光学系や機構の他の一部は、眼底カメラユニット2に設けられている。演算制御ユニット200は、各種の演算や制御を実行する1以上のプロセッサを含む。これらに加え、被検者の顔を支持するための部材(顎受け、額当て等)や、OCTの対象部位を切り替えるためのレンズユニット(例えば、前眼部OCT用アタッチメント)等の任意の要素やユニットが眼科装置1に設けられてもよい。
【0019】
本明細書において「プロセッサ」は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array))等の回路を意味する。プロセッサは、例えば、記憶回路や記憶装置に格納されているプログラムを読み出し実行することで、実施形態に係る機能を実現する。
【0020】
〈眼底カメラユニット2〉
眼底カメラユニット2には、被検眼Eの眼底Efを撮影するための光学系が設けられている。取得される眼底Efの画像(眼底像、眼底写真等と呼ばれる)は、観察画像、撮影画像等の正面画像である。観察画像は、近赤外光を用いた動画撮影により得られる。撮影画像は、可視領域のフラッシュ光を用いた静止画像である。
【0021】
眼底カメラユニット2は、照明光学系10と撮影光学系30とを含む。照明光学系10は被検眼Eに照明光を照射する。撮影光学系30は、被検眼Eからの照明光の戻り光を検出する。OCTユニット100からの測定光は、眼底カメラユニット2内の光路を通じて被検眼Eに導かれ、その戻り光は、同じ光路を通じてOCTユニット100に導かれる。
【0022】
照明光学系10の観察光源11から出力された光(観察照明光)は、凹面鏡12により反射され、集光レンズ13を経由し、可視カットフィルタ14を透過して近赤外光となる。更に、観察照明光は、撮影光源15の近傍にて一旦集束し、ミラー16により反射され、リレーレンズ系17、リレーレンズ18、絞り19、及びリレーレンズ系20を経由する。そして、観察照明光は、孔開きミラー21の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて被検眼E(眼底Ef)を照明する。観察照明光の被検眼Eからの戻り光は、対物レンズ22により屈折され、ダイクロイックミラー46を透過し、孔開きミラー21の中心領域に形成された孔部を通過し、ダイクロイックミラー55を透過し、撮影合焦レンズ31を経由し、ミラー32により反射される。更に、この戻り光は、ハーフミラー33Aを透過し、ダイクロイックミラー33により反射され、結像レンズ34によりイメージセンサ35の受光面に結像される。イメージセンサ35は、所定のフレームレートで戻り光を検出する。なお、撮影光学系30のフォーカスは、眼底Ef又は前眼部に合致するように調整される。
【0023】
撮影光源15から出力された光(撮影照明光)は、観察照明光と同様の経路を通って眼底Efに照射される。被検眼Eからの撮影照明光の戻り光は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってダイクロイックミラー33まで導かれ、ダイクロイックミラー33を透過し、ミラー36により反射され、結像レンズ37によりイメージセンサ38の受光面に結像される。
【0024】
液晶ディスプレイ(LCD)39は固視標(固視標画像)を表示する。LCD39から出力された光束は、その一部がハーフミラー33Aに反射され、ミラー32に反射され、撮影合焦レンズ31及びダイクロイックミラー55を経由し、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔開きミラー21の孔部を通過した光束は、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに投射される。
【0025】
LCD39の画面上における固視標画像の表示位置を変更することにより、固視標による被検眼Eの固視位置を変更できる。固視位置の例として、黄斑部を中心とする画像を取得するための固視位置や、視神経乳頭を中心とする画像を取得するための固視位置や、黄斑部と視神経乳頭との間の眼底中心を中心とする画像を取得するための固視位置や、黄斑から大きく離れた部位(眼底周辺部)の画像を取得するための固視位置などがある。このような典型的な固視位置の少なくとも1つを指定するためのグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)等を設けることができる。また、固視位置(固視標の表示位置)をマニュアルで移動するためのGUI等を設けることができる。
【0026】
固視位置を変更可能な固視標を被検眼Eに提示するための構成はLCD等の表示デバイスには限定されない。例えば、複数の発光部(発光ダイオード等)がマトリクス状(アレイ状)に配列された固視マトリクスを表示デバイスの代わりに採用することができる。この場合、複数の発光部を選択的に点灯させることにより、固視標による被検眼Eの固視位置を変更することができる。他の例として、移動可能な1以上の発光部によって、固視位置を変更可能な固視標を生成することができる。
【0027】
アライメント光学系50は、被検眼Eに対する光学系のアライメントに用いられるアライメント指標を生成する。発光ダイオード(LED)51から出力されたアライメント光は、絞り52、絞り53、及びリレーレンズ54を経由し、ダイクロイックミラー55により反射され、孔開きミラー21の孔部を通過し、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22を介して被検眼Eに投射される。アライメント光の被検眼Eからの戻り光(角膜反射光等)は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってイメージセンサ35に導かれる。その受光像(アライメント指標像)に基づいてマニュアルアライメントやオートアライメントを実行できる。
【0028】
従来と同様に、本例のアライメント指標像は、アライメント状態により位置が変化する2つの輝点像からなる。被検眼Eと光学系との相対位置がxy方向に変化すると、2つの輝点像が一体的にxy方向に変位する。被検眼Eと光学系との相対位置がz方向に変化すると、2つの輝点像の間の相対位置(距離)が変化する。z方向における被検眼Eと光学系との間の距離が既定のワーキングディスタンスに一致すると、2つの輝点像が重なり合う。xy方向において被検眼Eの位置と光学系の位置とが一致すると、所定のアライメントターゲット内又はその近傍に2つの輝点像が提示される。z方向における被検眼Eと光学系との間の距離がワーキングディスタンスに一致し、且つ、xy方向において被検眼Eの位置と光学系の位置とが一致すると、2つの輝点像が重なり合ってアライメントターゲット内に提示される。
【0029】
オートアライメントでは、データ処理部230が、2つの輝点像の位置を検出し、主制御部211が、2つの輝点像とアライメントターゲットとの位置関係に基づいて後述の移動機構150を制御する。マニュアルアライメントでは、主制御部211が、被検眼Eの観察画像とともに2つの輝点像を表示部241に表示させ、ユーザーが、表示された2つの輝点像を参照しながら操作部242を用いて移動機構150を動作させる。
【0030】
フォーカス光学系60は、被検眼Eに対するフォーカス調整に用いられるスプリット指標を生成する。撮影光学系30の光路(撮影光路)に沿った撮影合焦レンズ31の移動に連動して、フォーカス光学系60は照明光学系10の光路(照明光路)に沿って移動される。反射棒67は、照明光路に対して挿脱される。フォーカス調整を行う際には、反射棒67の反射面が照明光路に傾斜配置される。LED61から出力されたフォーカス光は、リレーレンズ62を通過し、スプリット指標板63により2つの光束に分離され、二孔絞り64を通過し、ミラー65により反射され、集光レンズ66により反射棒67の反射面に一旦結像されて反射される。更に、フォーカス光は、リレーレンズ20を経由し、孔開きミラー21に反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22を介して被検眼Eに投射される。フォーカス光の被検眼Eからの戻り光(眼底反射光等)は、アライメント光の戻り光と同じ経路を通ってイメージセンサ35に導かれる。その受光像(スプリット指標像)に基づいてマニュアルフォーカシングやオートフォーカシングを実行できる。
【0031】
孔開きミラー21とダイクロイックミラー55との間の撮影光路に、視度補正レンズ70及び71を選択的に挿入することができる。視度補正レンズ70は、強度遠視を補正するためのプラスレンズ(凸レンズ)である。視度補正レンズ71は、強度近視を補正するためのマイナスレンズ(凹レンズ)である。
【0032】
ダイクロイックミラー46は、眼底撮影用光路とOCT用光路(測定アーム)とを合成する。ダイクロイックミラー46は、OCTに用いられる波長帯の光を反射し、眼底撮影用の光を透過させる。測定アームには、OCTユニット100側から順に、コリメータレンズユニット40、リトロリフレクタ41、分散補償部材42、OCT合焦レンズ43、光スキャナ44、及びリレーレンズ45が設けられている。
【0033】
リトロリフレクタ41は、
図3に示す矢印の方向に移動可能とされ、それにより測定アームの長さが変更される。測定アームの光路長の変更は、例えば、眼軸長に応じた光路長補正や、干渉状態の調整などに利用される。
【0034】
分散補償部材42は、参照アームに配置された分散補償部材113(後述)とともに、測定光LSの分散特性と参照光LRの分散特性とを合わせるよう作用する。
【0035】
OCT合焦レンズ43は、測定アームのフォーカス調整を行うために測定アームに沿って移動される。撮影合焦レンズ31の移動、フォーカス光学系60の移動、及びOCT合焦レンズ43の移動を連係的に制御することができる。
【0036】
光スキャナ44は、実質的に、被検眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置に配置される。光スキャナ44は、測定アームにより導かれる測定光LSを偏向する。光スキャナ44は、例えば、2次元走査が可能なガルバノスキャナである。
【0037】
〈OCTユニット100〉
図4に例示するように、OCTユニット100には、スウェプトソースOCTを実行するための光学系が設けられている。この光学系は干渉光学系を含む。この干渉光学系は、波長可変光源(波長掃引型光源)からの光を測定光と参照光とに分割し、被検眼Eからの測定光の戻り光と参照光路を経由した参照光とを干渉させて干渉光を生成し、この干渉光を検出する。干渉光学系により得られた検出結果(検出信号)は、干渉光のスペクトルを表す信号であり、演算制御ユニット200に送られる。
【0038】
光源ユニット101は、例えば、出射光の波長を高速で変化させる近赤外波長可変レーザーを含む。光源ユニット101から出力された光L0は、光ファイバ102により偏波コントローラ103に導かれてその偏光状態が調整される。更に、光L0は、光ファイバ104によりファイバカプラ105に導かれて測定光LSと参照光LRとに分割される。測定光LSの光路は測定アームなどと呼ばれ、参照光LRの光路は参照アームなどと呼ばれる。
【0039】
参照光LRは、光ファイバ110によりコリメータ111に導かれて平行光束に変換され、光路長補正部材112及び分散補償部材113を経由し、リトロリフレクタ114に導かれる。光路長補正部材112は、参照光LRの光路長と測定光LSの光路長とを合わせるよう作用する。分散補償部材113は、測定アームに配置された分散補償部材42とともに、参照光LRと測定光LSとの間の分散特性を合わせるよう作用する。リトロリフレクタ114は、これに入射する参照光LRの光路に沿って移動可能であり、それにより参照アームの長さが変更される。参照アームの光路長の変更は、例えば、眼軸長に応じた光路長補正や、干渉状態の調整などに利用される。
【0040】
リトロリフレクタ114を経由した参照光LRは、分散補償部材113及び光路長補正部材112を経由し、コリメータ116によって平行光束から集束光束に変換され、光ファイバ117に入射する。光ファイバ117に入射した参照光LRは、偏波コントローラ118に導かれてその偏光状態が調整され、光ファイバ119を通じてアッテネータ120に導かれてその光量が調整され、光ファイバ121を通じてファイバカプラ122に導かれる。
【0041】
一方、ファイバカプラ105により生成された測定光LSは、光ファイバ127により導かれてコリメータレンズユニット40により平行光束に変換され、リトロリフレクタ41、分散補償部材42、OCT合焦レンズ43、光スキャナ44及びリレーレンズ45を経由し、ダイクロイックミラー46により反射され、対物レンズ22により屈折されて被検眼Eに投射される。測定光LSは、被検眼Eの様々な深さ位置において散乱・反射される。測定光LSの被検眼Eからの戻り光は、往路と同じ経路を逆向きに進行してファイバカプラ105に導かれ、光ファイバ128を経由してファイバカプラ122に到達する。
【0042】
ファイバカプラ122は、光ファイバ128を介して入射された測定光LSと、光ファイバ121を介して入射された参照光LRとを重ね合わせて干渉光を生成する。ファイバカプラ122は、生成された干渉光を所定の分岐比(例えば1:1)で分岐することで一対の干渉光LCを生成する。一対の干渉光LCは、それぞれ光ファイバ123及び124を通じて検出器125に導かれる。
【0043】
検出器125は、例えばバランスドフォトダイオードを含む。バランスドフォトダイオードは、一対の干渉光LCをそれぞれ検出する一対のフォトディテクタを有し、これらにより得られた一対の検出結果の差分を出力する。検出器125は、この出力(検出信号)をデータ収集システム(DAQ)130に送る。
【0044】
データ収集システム130には、光源ユニット101からクロックKCが供給される。クロックKCは、光源ユニット101において、波長可変光源により所定の波長範囲内で掃引される各波長の出力タイミングに同期して生成される。光源ユニット101は、例えば、各出力波長の光L0を分岐して2つの分岐光を生成し、これら分岐光の一方を光学的に遅延させ、これら分岐光を合成し、得られた合成光を検出し、その検出結果に基づいてクロックKCを生成する。データ収集システム130は、検出器125から入力される検出信号のサンプリングをクロックKCに基づいて実行する。データ収集システム130は、このサンプリングの結果を演算制御ユニット200に送る。
【0045】
本例では、測定アームの光路長を変更するための要素(例えば、リトロリフレクタ41)と、参照アームの光路長を変更するための要素(例えば、リトロリフレクタ114、又は参照ミラー)との双方が設けられているが、一方の要素のみが設けられていてもよい。また、測定アームの光路長と参照アームの光路長との間の差(光路長差)を変更するための要素はこれらに限定されず、任意の要素(光学部材、機構など)であってよい。
【0046】
〈制御系〉
眼科装置1の制御系の構成例を
図5に示す。制御部210、画像形成部220及びデータ処理部230は、例えば演算制御ユニット200に設けられる。
【0047】
〈制御部210〉
制御部210は、各種の制御を実行する。制御部210は、主制御部211と記憶部212とを含む。
【0048】
〈主制御部211〉
主制御部211は、プロセッサを含み、眼科装置1の各要素(
図3~
図5に示された要素を含む)を制御する。
【0049】
撮影光路に配置された撮影合焦レンズ31と照明光路に配置されたフォーカス光学系60とは、主制御部211の制御の下に、図示しない撮影合焦駆動部によって移動される。測定アームに設けられたリトロリフレクタ41は、主制御部211の制御の下に、リトロリフレクタ(RR)駆動部41Aによって移動される。測定アームに配置されたOCT合焦レンズ43は、主制御部211の制御の下に、OCT合焦駆動部43Aによって移動される。測定アームに設けられた光スキャナ44は、主制御部211の制御の下に動作する。参照アームに配置されたリトロリフレクタ114は、主制御部211の制御の下に、リトロリフレクタ(RR)駆動部114Aによって移動される。これら駆動部のそれぞれは、主制御部211の制御の下に動作するパルスモータ等のアクチュエータを含む。
【0050】
移動機構150は、例えば、少なくとも眼底カメラユニット2を3次元的に移動する。典型的な例において、移動機構150は、±x方向(左右方向)に移動可能なxステージと、xステージを移動するx移動機構と、±y方向(上下方向)に移動可能なyステージと、yステージを移動するy移動機構と、±z方向(奥行き方向)に移動可能なzステージと、zステージを移動するz移動機構とを含む。これら移動機構のそれぞれは、主制御部211の制御の下に動作するパルスモータ等のアクチュエータを含む。
【0051】
〈記憶部212〉
記憶部212は各種のデータを記憶する。記憶部212に記憶されるデータとしては、OCT画像や眼底像や被検眼情報などがある。被検眼情報は、患者IDや氏名などの被検者情報や、左眼/右眼の識別情報や、電子カルテ情報などを含む。
【0052】
本実施形態では、予め作成された標準分布データが記憶部212に記憶される。標準分布データは、OCTを利用した画像診断や画像解析において参照される所定の計測値の分布を表すデータである。所定の計測値は、典型的には、網膜の所定の層組織(例えば、神経線維層、神経節細胞層)の厚みである。ただし、所定の計測値は層厚に限定されない。
【0053】
標準分布データは、例えば、多数の正常眼から取得された所定の計測値のサンプルを統計的に処理して得られた値である。典型的には、標準分布データは、多数の正常眼の眼底にOCTを適用して取得された層厚値のサンプルから算出された正常範囲の分布を表す。正常範囲は、例えば、サンプルの平均値を含むように設定される。このように正常眼に基づき作成された標準分布データはノーマティブデータと呼ばれる。なお、特定疾患を患っている複数の眼に基づいて標準分布データを作成してもよい。
【0054】
標準分布データは、例えば、眼底の所定部位を含む所定範囲における分布である。典型的には、標準分布データは、中心窩が中心に配置された6mm×6mmの矩形領域を格子状に区分して形成された複数の区画のそれぞれに対して、正常眼の層厚値の正常範囲を割り当てることによって作成される。
【0055】
また、疾患毎に標準分布データを設けて選択的に使用することや、被検者の属性(例えば、年齢層)毎に標準分布データを設けて選択的に使用することや、被検眼の属性(例えば、強度近視眼とそれ以外)毎に標準分布データを設けて選択的に使用することが可能である。
【0056】
〈画像形成部220〉
画像形成部220は、データ収集システム130から入力された信号(サンプリングデータ)に基づいて、眼底EfのOCT画像データを形成する。OCT画像データは、例えば、Bスキャン画像データ(2次元断層像データ)である。OCT画像データを形成する処理は、従来のフーリエドメインOCTと同様に、ノイズ除去(ノイズ低減)、フィルタ処理、高速フーリエ変換(FFT)などを含む。他のタイプのOCT装置の場合、画像形成部220は、そのタイプに応じた公知の処理を実行する。画像形成部220はプロセッサを含む。なお、この明細書では、「画像データ」と、それに基づく「画像」とを同一視することがある。
【0057】
〈データ処理部230〉
データ処理部230は、各種のデータ処理を実行する。典型的には、データ処理部230は、画像形成部220により形成された画像に対して各種の画像処理や解析処理を施す。例えば、データ処理部230は、画像の輝度補正や分散補正等の各種の補正処理を実行可能に構成される。また、データ処理部230は、眼底カメラユニット2により得られた画像(眼底像、前眼部像等)に対して各種の画像処理や解析処理を施すことができる。
【0058】
データ処理部230は、眼底Efの3次元画像データを形成することができる。3次元画像データとは、3次元座標系により画素の位置が定義された画像データを意味する。3次元画像データの例として、スタックデータやボリュームデータがある。
【0059】
スタックデータは、複数の走査線に沿って得られた複数の断層像を、走査線の位置関係に基づいて3次元的に配列させて得られた画像データである。すなわち、スタックデータは、元々個別の2次元座標系により定義されていた複数の断層像を、1つの3次元座標系により表現する(つまり、1つの3次元空間に埋め込む)ことにより得られた画像データである。
【0060】
ボリュームデータは、3次元的に配列されたボクセルを画素とする画像データであり、ボクセルデータとも呼ばれる。ボリュームデータは、スタックデータに補間処理やボクセル化処理などを適用することで形成される。
【0061】
データ処理部230は、3次元画像データに対してレンダリング処理を施すことで、表示用の画像を形成することができる。適用可能なレンダリング法の例として、ボリュームレンダリング、サーフェスレンダリング、最大値投影(MIP)、最小値投影(MinIP)、多断面再構成(MPR)などがある。
【0062】
本実施形態では、ノーマティブデータ比較解析のための分布データを取得するために、眼底Efに対して3次元スキャンが適用される。3次元スキャンとは、眼底Efの3次元領域に対するOCTスキャンである。3次元スキャンの態様は任意であってよく、例えばラスタースキャンが採用される。眼科装置1(画像形成部220及びデータ処理部230)は、3次元スキャンにより収集されたデータ(3次元データ)を処理して3次元画像データを構築する。なお、分布データの作成やノーマティブ比較解析を他の装置によって実行してもよい。
【0063】
データ処理部230は、構築された3次元画像データに基づいて、眼底Efにおける所定の計測値の分布データを作成するように構成されていてよい。前述したように、所定の計測値は、OCTを利用した画像診断や画像解析において参照され、標準分布データが表す計測値と同じである。本例では、所定の計測値は、網膜の所定の層組織(例えば、神経線維層、神経節細胞層)の厚みである。ただし、所定の計測値は層厚に限定されない。
【0064】
本例において、データ処理部230は、眼底Efの網膜における所定の層組織の厚みの分布を表す層厚分布データを作成するように構成されていてよい。そのためにデータ処理部230が実行する処理の内容は任意である。
【0065】
例えば、従来と同様に、データ処理部230は、3次元画像データにセグメンテーションを適用して3次元画像データを複数の部分画像データに分割する処理と、これら部分画像データのうちから所定の層組織に相当する部分画像データを特定する処理と、特定された部分画像データに基づいて複数の位置における所定の層組織の厚みを求める処理とを含む。
【0066】
〈スキャンサイズ補正部231〉
データ処理部230はスキャンサイズ補正部231を含む。前述したように、本実施形態では、測定アームの光路長及び参照アームの光路長の少なくとも一方を変更可能である。スキャンサイズ補正部231は、測定アームの光路長及び参照アームの光路長の少なくとも一方に基づいて、光スキャナ44の最大偏向角を決定することができる。光スキャナ44の最大偏向角は、光スキャナ44が測定光LSを偏向する範囲(偏向範囲)に相当する。
【0067】
制御部210は、測定アームの光路長及び参照アームの光路長のうち可変な光路長に関する情報をスキャンサイズ補正部231に送る。スキャンサイズ補正部231に送られる情報を光路長情報と呼ぶ。測定アームの光路長の変更は、リトロリフレクタ41及びリトロリフレクタ駆動部41Aを介して実行可能である。参照アームの光路長の変更は、リトロリフレクタ114及びリトロリフレクタ駆動部114Aを介して実行可能である。典型的な実施形態では、測定アームの光路長及び参照アームの光路長の一方のみが変更可能に構成される。
【0068】
光路長情報は、例えば、光路(測定アーム又は参照アーム)の光学的距離や、実空間における光路の長さのように、光路の実際の長さを表すパラメータの値を含んでいてよい。また、光路長情報は、光路長を変更するために移動される部材の位置、当該部材を移動する機構の動作状態、又は、当該機構に対する制御内容のように、光路の実際の長さと実質的に等価な情報を含んでいてもよい。
【0069】
例えば、測定アームに関する光路長情報は、リトロリフレクタ41の位置、リトロリフレクタ駆動部41Aに含まれるアクチュエータの動作状態、及び、リトロリフレクタ駆動部41Aに対して主制御部211が実行した制御の内容(制御の履歴)のうちのいずれかを含んでいてよい。
【0070】
リトロリフレクタ41の位置や、リトロリフレクタ駆動部41Aのアクチュエータの動作状態は、例えば、図示しない位置検出器(ポテンショメータ、エンコーダなど)を用いて検出される。或いは、リトロリフレクタ駆動部41Aに対する主制御部211の制御内容(制御履歴)に基づいて、リトロリフレクタ41の位置又はリトロリフレクタ駆動部41Aのアクチュエータの動作状態を検出するように構成してもよい。リトロリフレクタ駆動部41Aに対する主制御部211の制御内容(制御履歴)は、例えば、制御部210により制御ログとして記録されている。
【0071】
また、リトロリフレクタ41の位置又はリトロリフレクタ駆動部41Aのアクチュエータの動作状態と、測定アームの光路長の値とを予め対応付けることができる。この対応付けは、例えば、測定アームの設計データに基づき行われる。この対応付けを表す対応情報(テーブル情報、グラフ情報など)が予め作成され、例えば記憶部212に格納される。データ処理部230(例えば、スキャンサイズ補正部231)は、リトロリフレクタ41の位置の検出結果(又は、リトロリフレクタ駆動部41Aのアクチュエータの動作状態の検出結果)を受け、この位置に対応する光路長の値を対応情報から求める。求められた光路長の値が測定アームの光路長として用いられる。
【0072】
同様に、参照アームに関する光路長情報は、リトロリフレクタ114の位置、リトロリフレクタ駆動部114Aに含まれるアクチュエータの動作状態、及び、リトロリフレクタ駆動部114Aに対して主制御部211が実行した制御の内容(制御の履歴)のうちのいずれかを含んでいてよい。
【0073】
リトロリフレクタ114の位置や、リトロリフレクタ駆動部114Aのアクチュエータの動作状態は、例えば、図示しない位置検出器(ポテンショメータ、エンコーダなど)を用いて検出される。或いは、リトロリフレクタ駆動部114Aに対する主制御部211の制御内容(制御履歴)に基づいて、リトロリフレクタ114の位置又はリトロリフレクタ駆動部114Aのアクチュエータの動作状態を検出するように構成してもよい。リトロリフレクタ駆動部114Aに対する主制御部211の制御内容(制御履歴)は、例えば、制御部210により制御ログとして記録されている。
【0074】
また、リトロリフレクタ114の位置又はリトロリフレクタ駆動部114Aのアクチュエータの動作状態と、参照アームの光路長の値とを予め対応付けることができる。この対応付けは、例えば、参照アームの設計データに基づき行われる。この対応付けを表す対応情報(テーブル情報、グラフ情報など)が予め作成され、例えば記憶部212に格納される。データ処理部230(例えば、スキャンサイズ補正部231)は、リトロリフレクタ114の位置の検出結果(又は、リトロリフレクタ駆動部114Aのアクチュエータの動作状態の検出結果)を受け、この位置に対応する光路長の値を対応情報から求める。求められた光路長の値が参照アームの光路長として用いられる。
【0075】
前述したように、スキャンサイズ補正部231は、光スキャナ44による測定光LSの最大偏向角を決定する。最大偏向角は、OCTスキャンのサイズに相当する。例えば、ラインスキャンの場合、最大偏向角はスキャンラインの長さに相当する。また、3次元スキャンの場合、x方向の最大偏向角はスキャンエリアのx方向の寸法に相当し、y方向の最大偏向角はスキャンエリアのy方向の寸法に相当する。例えば、それぞれがx方向に延びる複数のスキャンラインがy方向に配列されたラスタースキャンの場合、x方向の最大偏向角は複数のスキャンラインの長さに相当し、y方向の最大偏向角は複数のスキャンラインのうちの両端のスキャンラインの間の距離に相当する。
【0076】
一般に、同一の被検眼について(つまり、眼軸長や視度が不変である場合)、最大偏向角の増大はOCTスキャンのサイズの増大に相当し、最大偏向角の減少はOCTスキャンサイズの減少に相当する。一方、同じ最大偏向角が適用された場合でも、実際にスキャンされる眼底の範囲は被検眼の眼軸長や視度によって変化する。
【0077】
本実施形態は、被検眼の特性(眼軸長、視度など)に応じて光スキャナ44の最大偏向角を変更することにより、被検眼の特性に左右されることなく実質的に同じサイズの眼底の領域をスキャンすることを可能とする。例えば、被検眼の特性にかかわらず眼底の長さ9mmの直線領域にラインスキャンを適用することや、被検眼の特性にかかわらず眼底の寸法6mm×6mmの矩形領域にラスタースキャンを適用することができる。
【0078】
前述したパラメータのいずれかの値を光路長情報が含む場合、光路長情報に含まれるパラメータ値から最大偏向角を求めるための情報を準備することができる。例えば、そのパラメータの取りうる値全体を2以上の区間に区分し、これら区間のそれぞれに最大偏向角を対応付けることができる。例えば、そのパラメータについての閾値を設定し、閾値以上の区間と閾値未満の区間とのそれぞれに最大偏向角を対応付けることが可能である。
【0079】
被検眼に合わせて参照アームの光路長が調整される場合、眼軸長が長いほど参照アームの光路長が長く設定される。また、最大偏向角(偏向範囲)が一定である場合、眼軸長が長いほど、実際にスキャンされる眼底の範囲が広くなる(
図1を参照)。このような事実を考慮し、次のような情報を準備することができる。
【0080】
すなわち、参照アームの光路長が変更される場合、参照アームの光路長(又は、それと実質的に等価なパラメータの値)が閾値以上の区間に第1最大偏向角(第1偏向範囲)を対応付け、且つ、参照アームの光路長(又は、それと実質的に等価なパラメータの値)が閾値未満の区間に第2最大偏向角(第2偏向範囲)を対応付けることができる。ここで、第2最大偏向角は第1最大偏向角よりも大きい値に設定される。なお、3以上の区間に対応する3以上の最大偏向角(偏向範囲)を設定することも可能である。
【0081】
逆に、被検眼に合わせて測定アームの光路長が調整される場合には、眼軸長が長いほど測定アームの光路長が短く設定される。そこで、測定アームの光路長が変更される場合において、測定アームの光路長(又は、それと実質的に等価なパラメータの値)が閾値以上の区間に第3最大偏向角(第3偏向範囲)を対応付け、且つ、測定アームの光路長(又は、それと実質的に等価なパラメータの値)が閾値未満の区間に第4最大偏向角(第4偏向範囲)を対応付けることができる。ここで、第4最大偏向角は第3最大偏向角よりも小さい値に設定される。なお、3以上の区間に対応する3以上の最大偏向角(偏向範囲)を設定することも可能である。
【0082】
光路長情報に含まれるパラメータ値から最大偏向角を求めるために準備される情報の他の例として、光路長に基づいて最大偏向角(偏向範囲)を算出するための情報がある。この情報は、例えば、光路長(例えば、参照アームの光路長若しくは測定アームの光路長、又は、それと実質的に等価なパラメータ)を独立変数とし、且つ、最大偏向角(偏向範囲)を従属変数とする数式であってよい。或いは、同様のグラフやルックアップテーブルを準備することも可能である。
【0083】
以上、光路長情報に含まれるパラメータ値をそのまま最大偏向角(偏向範囲)の取得に用いる場合について説明したが、実施形態はこれらに限定されない。例えば、光路長情報に含まれるパラメータ値から他の情報を求め、求められた情報に基づいて最大偏向角(偏向範囲)を求めるように構成することができる。
【0084】
典型的な例において、スキャンサイズ補正部231は、被検眼Eの眼軸長の推測値を算出し、この推定値に基づいて最大偏向角(偏向範囲)を求めることができる。この場合、眼軸長(又は、それと実質的に等価なパラメータの値)と最大偏向角(偏向範囲)とを関連付ける任意の形態の情報(例えば、演算式、グラフ、ルックアップテーブルなど)が準備され、この情報と算出された推定値とに基づき最大偏向角(偏向範囲)が求められる。
【0085】
眼軸長の推測値の算出について説明する。一例として、特許文献7に記載された方法を適用することが可能である。すなわち、参照アームの光路長をOPLRとし、測定アームの光路長をOPLSとし、ワーキングディスタンスをWDとし、測定光LSが被検眼Eに入射した位置から眼底Efにおける測定光LSの反射位置までの眼内距離をDとすると、これらパラメータの間には次のような関係がある:OPLR=OPLS+WD+D。これより、眼内距離D(つまり眼軸長の推測値D)は次のように表される:D=OPLR-OPLS-WD。
【0086】
被検眼Eに対する眼科装置1の光学系のアライメントが好適に行なわれた場合、光学系(対物レンズ22)は、被検眼Eから-z方向に既定のワーキングディスタンスWDだけ離れた位置に配置される。このように、本例において、ワーキングディスタンスWDは予め設定された定数であり、アライメントが完了したこと(更には、その後のトラッキングが好適に行われていること)を条件として、光学系と被検眼Eとの距離がワーキングディスタンスWDに等しいと仮定され、この定数WDが適用される。本例では、ワーキングディスタンスWDが、アライメントに関する条件に相当する。
【0087】
なお、アライメントに関する条件は、ワーキングディスタンスの既定値に限定されない。例えば、被検眼Eを互いに異なる方向から撮影可能な2以上のカメラを利用してアライメントを行う場合のように、被検眼Eと光学系との間の距離(z方向における距離)を求めることが可能な構成が採用される場合、この距離の値をワーキングディスタンスWDの代わりにアライメントに関する条件として用いることができる。
【0088】
一般に、眼底EfのOCTスキャンを行う前には、OCT画像のフレーム内の所定の位置に眼底Efの画像が表示されるように、干渉光学系の光路長調整が行われる。具体的には、測定アームの光路長及び参照アームの光路長の少なくとも一方が調整される。測定アームの光路長の変更は、例えば、主制御部211による制御の下、リトロリフレクタ41及びリトロリフレクタ駆動部41Aによって行うことができる。また、参照アームの光路長の変更は、主制御部211による制御の下、リトロリフレクタ114及びリトロリフレクタ駆動部114Aによって行うことができる。
【0089】
リトロリフレクタ41の位置又はリトロリフレクタ駆動部41Aのアクチュエータの動作状態は、例えば、図示しない位置検出器(ポテンショメータ、エンコーダなど)を用いて検出される。或いは、リトロリフレクタ駆動部41Aに対する主制御部211の制御内容(制御履歴)に基づいて、リトロリフレクタ41の位置又はリトロリフレクタ駆動部41Aのアクチュエータの動作状態を検出するように構成することもできる。
【0090】
また、リトロリフレクタ41の位置又はリトロリフレクタ駆動部41Aのアクチュエータの動作状態と、測定アームの光路長の値とを予め対応付けることができる。この対応付けは、例えば、測定アームの設計データに基づき行われる。この対応付けを表す対応情報(テーブル情報、グラフ情報など)が予め作成され、例えば記憶部212に格納される。スキャンサイズ補正部231は、リトロリフレクタ41の位置の検出結果(又は、リトロリフレクタ駆動部41Aのアクチュエータの動作状態の検出結果)を受け、この位置に対応する光路長の値を対応情報から求める。求められた光路長の値が測定アームの光路長OPLSとして用いられる。
【0091】
同様の手法によって参照アームの光路長OPLRを求めることができる。参照アームの光路長OPLRと測定アームの光路長OPLSとが、OCT光路長に関する条件に相当する。
【0092】
なお、測定アームの光路長及び参照アームの光路長の一方のみを変更可能である場合には、光路長が変更可能な一方のアームの光路長は例えば上記の要領で算出され、且つ、光路長が固定された他方のアームの光路長としては既定の値(設計データ)が適用される。
【0093】
スキャンサイズ補正部231は、このようにして求められた参照アームの光路長OPLR、測定アームの光路長OPLS、及びワーキングディスタンスWDを、上記の演算式「D=OPLR-OPLS-WD」に代入することによって、眼軸長の推測値Dを算出することができる。そして、スキャンサイズ補正部231は、算出された推測値Dと、準備された情報(例えば、演算式、グラフ、ルックアップテーブル)とに基づいて、最大偏向角(偏向範囲)を求めることができる。
【0094】
光路長情報若しくはそれから求められた情報(眼軸長推定値など)に加え、又はその代わりに、フォーカス情報を用いることや、或いは、フォーカス情報から求められた情報(視度推定値など)を用いることが可能である。
【0095】
フォーカス情報は、測定アームのフォーカス状態を表すパラメータの値を含んでいてよい。例えば、フォーカス情報は、測定アームのフォーカス状態を変更するために移動される部材の位置、当該部材を移動する機構の動作状態、又は、当該機構に対する制御内容を含む。典型的な例として、フォーカス情報は、OCT合焦レンズ43の位置、OCT合焦駆動部43Aに含まれるアクチュエータの動作状態、及び、OCT合焦駆動部43Aに対して主制御部211が実行した制御の内容(制御の履歴)のうちのいずれかを含んでいてよい。
【0096】
OCT合焦レンズ43の位置や、OCT合焦駆動部43Aのアクチュエータの動作状態は、例えば、図示しない位置検出器(ポテンショメータ、エンコーダなど)を用いて検出される。或いは、OCT合焦駆動部43Aに対する主制御部211の制御内容(制御履歴)に基づいて、OCT合焦レンズ43の位置又はOCT合焦駆動部43Aのアクチュエータの動作状態を検出するように構成してもよい。OCT合焦駆動部43Aに対する主制御部211の制御内容(制御履歴)は、例えば、制御部210により制御ログとして記録されている。
【0097】
主制御部211が撮影合焦レンズ31の移動とOCT合焦レンズ43の移動とを連係的に制御するように構成されている場合、フォーカス情報は、撮影合焦レンズ31の位置や、図示しない撮影合焦駆動部の動作状態や、撮影合焦駆動部に対する主制御部211の制御内容(制御履歴)を含んでいてよい。
【0098】
以上に例示したようなフォーカス情報から求めることが可能な情報の例として視度の推定値がある。一般に、眼底EfのOCTスキャンを行う前には、被検眼Eの視度(屈折力)に応じて、測定アームに配置されたOCT合焦レンズ43が、主制御部211の制御の下に、OCT合焦駆動部43Aによって移動される。この処理は、例えば、スプリット指標を用いた眼底カメラユニット2のオートフォーカス(つまり、撮影合焦レンズ31及びフォーカス光学系60の移動)の結果に基づき行われる。例えば、本実施形態のオートフォーカスは、従来と同様に、撮影合焦レンズ31の移動と、フォーカス光学系60の移動と、OCT合焦レンズ43の移動との連係的な制御によって行われる。
【0099】
前述したように、OCT合焦レンズ43の位置又はOCT合焦駆動部43Aの動作状態(又は、撮影合焦レンズ31の位置、若しくは、図示しない撮影合焦駆動部の動作状態)は、例えば、図示しない位置検出器(ポテンショメータ、エンコーダなど)を用いて検出される。或いは、OCT合焦駆動部43A(又は、撮影合焦駆動部)に対する主制御部211の制御内容(制御履歴)に基づいて、OCT合焦レンズ43の位置又はOCT合焦駆動部43Aの動作状態(又は、撮影合焦レンズ31の位置、若しくは、図示しない撮影合焦駆動部の動作状態)を検出するように構成することもできる。また、撮影合焦レンズ31とOCT合焦レンズ43とが互いに独立に動作するように構成されている場合には、予備的なスキャンによって得られた画像の評価値(例えば、コントラスト)に基づきOCT合焦レンズ43の移動先を決定するように構成することができる。
【0100】
また、OCT合焦レンズ43の位置又はOCT合焦駆動部43Aのアクチュエータの動作状態(又は、撮影合焦レンズ31の位置、若しくは、撮影合焦駆動部のアクチュエータの動作状態)と、眼の視度の値とを予め対応付けることができる。この対応付けは、例えば、光学系(測定アーム又は撮影光学系30)の設計データに基づき行われる。この対応付けを表す対応情報(テーブル情報、グラフ情報など)が予め作成され、例えば記憶部212に格納される。スキャンサイズ補正部231は、例えば、OCT合焦レンズ43の位置の検出結果(又は、OCT合焦駆動部43Aのアクチュエータの動作状態の検出結果、撮影合焦レンズ31の位置の検出結果、若しくは、撮影合焦駆動部のアクチュエータの動作状態の検出結果)を受け、この位置に対応する視度の値を対応情報から求める。求められた視度の値が被検眼Eの視度の推測値として用いられる。
【0101】
このようにして、スキャンサイズ補正部231は、3次元OCTスキャンによって眼底Efの3次元データを収集するための所定の条件から、眼軸長の推測値及び視度の推測値の少なくとも一方を求めることができる。なお、スキャンサイズ補正部231により算出可能な推測値は眼軸長の推測値及び視度の推測値には限定されず、スキャンのサイズ(例えば、スキャンラインの長さ、スキャンエリアの寸法など)を補正するために利用可能な被検眼Eの任意の特性の推測値であってよい。
【0102】
光路長情報及び/又はそれから求められた情報(眼軸長推定値など)からスキャンサイズを補正する場合と同じ要領で、スキャンサイズ補正部231は、フォーカス情報及び/又はそれから求められた情報(視度推定値など)に基づきスキャンサイズを補正することができる。或いは、スキャンサイズ補正部231は、光路長情報及び/又はそれから求められた情報と、フォーカス情報及び/又はそれから求められた情報とに基づいてスキャンサイズを補正するように構成されてもよい。
【0103】
更に、スキャンサイズ補正部231は、3次元データを収集するための所定の条件から算出された1以上の推測値に基づいてスキャンサイズを補正するためのパラメータ値(倍率補正値)を算出することができる。この処理は、例えば、特許文献3又は5に記載された倍率算出方法を利用して実行される。
【0104】
倍率補正値は、所定の基準値に対する値として算出される。この基準値は、例えば、予め作成されたノーマティブデータの寸法(例えば、6mm×6mm)に応じた値であってよい。この場合、眼底Efに対する3次元スキャンが、(x方向の寸法6mm)×(y方向の寸法6mm)のエリアを目標として実施されるように、光スキャナ44のx方向の最大偏向角(偏向範囲)とy方向の最大偏向角(偏向範囲)とが設定される。
【0105】
このように最大偏向角を設定することで、被検眼Eの眼軸長や視度にかかわらず、眼底Efにおける所定寸法の領域を実際にスキャンすることが可能となる。
【0106】
なお、倍率補正値の算出において、前述した1以上の推測値と異なる眼特性値を用いることができる。この眼特性値の例として、角膜曲率半径や眼内レンズ度数などがある。この眼特性値は、例えば、眼科装置1により取得された値、模型眼などの標準値、又は、その他の既定値であってよい。
【0107】
〈動作〉
眼科装置1の動作について説明する。眼科装置1の動作の例を
図6に示す。なお、患者IDの入力、固視標の提示、固視位置の調整など、従来と同様の準備的な処理は、任意の段階で実施されるものとする。
【0108】
(S1:アライメント)
まず、眼科装置1は、被検眼Eに対する光学系のアライメントを行う。典型的には、アライメント指標を用いたオートアライメントが実行される。ここで、干渉光学系(測定アーム)のフォーカス調整を更に行ってもよい。
【0109】
(S2:断層像を取得する)
ステップS1のアライメントが完了したら、眼科装置1は、眼底EfにOCTを適用して断層像を取得する。この処理は、所定のスキャンモードのOCTスキャンを眼底Efに適用するスキャンステップと、このOCTスキャンにより収集されたデータから断層像を形成する画像形成ステップとを含む。スキャンステップは、主制御部211が、OCTユニット100、光スキャナ44などを制御することによって実行される。
【0110】
ステップS2のOCTに適用されるスキャンモードは、例えば、後段のステップS9で行われる3次元OCTが適用される眼底Efの領域を通過するBスキャンである。一例として、3次元OCTスキャンの適用範囲が、中心窩を中心とする6mm×6mmの領域である場合、この領域の中心位置を通過するようにBスキャンの位置を設定することができる。また、Bスキャンの本数は、1以上の任意の数であってよい。例えば、それぞれがスキャン領域の中心位置を通過する横スキャン(x方向に沿うBスキャン)と縦スキャン(y方向に沿うBスキャン)とを実行することができる(つまり、クロススキャンであってよい)。
【0111】
なお、ステップS2のOCTに適用されるスキャンモードは、Bスキャン又は2以上のBスキャンの組み合わせに限定されない。例えば、サークルスキャンや3次元スキャンなど、任意のスキャンモードをステップS2のOCTに適用することができる。
【0112】
(S3:断層像は良好か?)
眼科装置1(例えば、データ処理部230)は、ステップS2において良好な断層像が取得されたか否か判定する。この判定処理は、例えば、フレーム内における眼底Efの所定組織の画像の位置(特に、z方向における位置)の判定を少なくとも含み、干渉強度判定や画質判定などを更に含んでいてもよい。位置判定の対象となる所定組織は、例えば、眼底Efの表面(内境界膜)である。これらの判定処理は従来と同じ要領で実行される。
【0113】
良好な断層像が取得されなかったと判定された場合(S3:No)、処理はステップS4に移行する。一方、良好な断層像が取得されたと判定された場合(S3:Yes)、処理はステップS6に移行する。
【0114】
(S4:干渉光学系の光路長補正)
ステップS3において、良好な断層像が取得されなかったと判定された場合(S3:No)、主制御部211は、測定アームの光路長補正及び参照アームの光路長補正の少なくとも一方を実行する。この光路長補正は、眼底Efの所定組織の画像がフレームの所定範囲内に描出されるように実行される。
【0115】
光路長の補正量は、例えば、眼底Efの所定組織の描出位置とフレームの所定範囲との間の位置関係に基づき、データ処理部230によって算出される。つまり、フレームの所定範囲に対する眼底Efの所定組織の描出位置のズレに対応した補正量が算出される。
【0116】
測定アームの光路長補正は、リトロリフレクタ41を移動するためのリトロリフレクタ駆動部41Aを主制御部211が制御することにより行われる。また、参照アームの光路長補正は、リトロリフレクタ114を移動するためのリトロリフレクタ駆動部114Aを主制御部211が制御することにより行われる。
【0117】
(S5:干渉光学系のフォーカス調整)
次に、主制御部211は、測定アームのフォーカス調整を行う。このフォーカス調整は、例えば、前述した干渉強度判定の結果や画質判定の結果を利用して行われる。また、スプリット指標を利用してフォーカス調整を行ってもよい。
【0118】
干渉光学系の光路長補正及びフォーカス調整が行われると、処理はステップS2に戻って新たな断層像が取得され、この新たな断層像が良好であるか判定が行われる。ステップS2~S5は、ステップS3において「Yes」と判定されるまで繰り返される。なお、例えば、繰り返し回数が所定回数に達したとき、又は、繰り返し処理の実行時間が所定時間に達したとき、撮影エラーを出力させることができる。撮影エラーが出力された場合、例えば、ステップS1からやり直したり、マニュアル調整に移行したりすることが可能である。
【0119】
(S6:光路長情報を取得する)
ステップS3において良好な断層像が取得されたと判定された場合(S3:Yes)、主制御部211は、この断層像が取得されたときに適用された干渉光学系の光路長(測定アームの光路長、及び参照アームの光路長の少なくとも一方)を検出する。
【0120】
測定アームの光路長が可変である場合、例えば、良好と判定された断層像が取得されたときのリトロリフレクタ41の位置に基づいて測定アームの光路長が求められる。同様に、参照アームの光路長が可変である場合、例えば、良好と判定された断層像が取得されたときのリトロリフレクタ141の位置に基づいて参照アームの光路長が求められる。また、測定アーム(又は、参照アーム)の光路長が固定されている場合、例えば、記憶部212に予め記憶された光路長の値が参照される。
【0121】
(S7:フォーカス情報を取得する)
また、主制御部211は、良好と判定された断層像が取得されたときのOCT合焦レンズ43の位置を検出する。なお、OCT合焦レンズ43の移動と、撮影合焦レンズ31及びフォーカス光学系60の移動とが連係的に実行される場合、撮影合焦レンズ31の位置(又は、フォーカス光学系60の位置)からOCT合焦レンズ43の位置を求めてもよい。
【0122】
なお、OCT合焦レンズ43の位置の検出は、OCT合焦レンズ43自体の位置の検出でもよいし、OCT合焦駆動部43Aのアクチュエータの動作状態の検出でもよい。撮影合焦レンズ31の位置の検出や、フォーカス光学系60の位置の検出においても同様である。
【0123】
(S8:光スキャナの最大偏向角(偏向範囲)を設定する)
スキャンサイズ補正部231は、ステップS6で取得された光路長情報及びステップS7で取得されたフォーカス情報の少なくとも一方に基づいて、光スキャナ44の最大偏向角(偏向範囲)を決定する。最大偏向角の決定には、前述した処理例のいずれかが適用される。主制御部211は、スキャンサイズ補正部231により決定された最大偏向角を、次のステップS9に適用されるスキャン条件として設定する。
【0124】
(S9:3次元OCTを実行する)
眼科装置1は、ステップS8で設定された最大偏向角(偏向範囲)を含むスキャン条件で、眼底Efに3次元OCTを適用する。それにより、眼底Efの3次元画像データが取得される。この処理は、例えば、ステップS8で設定された最大偏向角(偏向範囲)と所定の3次元スキャンモード(例えば、ラスタースキャン)とを条件とするOCTスキャンを眼底Efに適用するスキャンステップと、このOCTスキャンにより収集された3次元データから3次元画像データを形成する画像形成ステップとを含む。
【0125】
(S10:層厚分布データを作成する)
データ処理部230は、ステップS9で取得された3次元画像データに基づいて層厚分布データを作成する。
【0126】
(S11:層厚分布データとノーマティブデータを比較する)
データ比較部234は、ステップS10で作成された層厚分布データと、予め作成されたノーマティブデータとを比較する。
【0127】
本例では、ノーマティブデータと実質的に同じサイズ(例えば、寸法6mm×6mm)の眼底Efの領域についてのデータがステップS9で得られるので(或いは、ノーマティブデータよりも広い眼底Efの領域についてのデータがステップS9で得られるので)、ステップS10で作成された層厚分布データは、ノーマティブデータと比較されるべき眼底Efの領域を実質的に含んでいる。よって、ノーマティブデータに含まれる各位置のデータとの比較が可能となる。
【0128】
(S12:比較マップを表示する)
主制御部211は、ステップS11で実行された比較の結果を表す比較マップを作成して表示部241に表示させる(エンド)。
【0129】
〈作用・効果〉
例示的な実施形態に係る眼科装置の作用及び効果について説明する。
【0130】
例示的な実施形態の眼科装置(1)は、被検眼の眼底に光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を適用可能であり、光学系と、光スキャナと、光路長変更部と、制御部とを含む。
【0131】
光学系は、光源(光源ユニット101)から出力された光(L0)を測定光(LS)と参照光(LR)とに分割し、測定光を眼底に投射し、被検眼からの測定光の戻り光と参照光とを重ね合わせて干渉光(LC)を生成し、この干渉光を検出する。
【0132】
光スキャナ(44)は、眼底をスキャンするために測定光を偏向する。
【0133】
光路長変更部は、測定光及び参照光の少なくとも一方の光路長を変更する。例示的な実施形態において、リトロリフレクタ41及びリトロリフレクタ駆動部41Aの組み合わせが測定光の光路長を変更する光路長変更部に相当し、リトロリフレクタ114及びリトロリフレクタ駆動部114Aの組み合わせが参照光の光路長を変更する光路長変更部に相当する。
【0134】
制御部(主制御部211、スキャンサイズ補正部231)は、少なくとも測定光の光路長及び/又は参照光の光路長に基づいて、光スキャナ(44)の制御を行う。
【0135】
例示的な実施形態において、制御部(主制御部211、スキャンサイズ補正部231)は、少なくとも測定光の光路長及び/又は参照光の光路長に基づいて、光スキャナ(44)による測定光の偏向範囲(最大偏向角)を制御するように構成されていてよい。
【0136】
例示的な実施形態において、光スキャナ(44)は、測定光を2次元的に偏向可能であってよい。更に、制御部(主制御部211、スキャンサイズ補正部231)は、少なくとも測定光の光路長及び/又は参照光の光路長に基づいて、光スキャナ(44)による測定光の2次元的な偏向範囲を制御するように構成されていてよい。
【0137】
例示的な実施形態において、光路長変更部(リトロリフレクタ114及びリトロリフレクタ駆動部114Aの組み合わせ)は、参照光の光路長を変更するように構成されていてよい。更に、制御部(主制御部211、スキャンサイズ補正部231)は、参照光の光路長が所定閾値以上である場合には第1偏向範囲を適用し、参照光の光路長が所定閾値未満である場合には第1偏向範囲よりも大きい第2偏向範囲を適用するように構成されていてよい。なお、光路長と偏向範囲との関係を3以上の段階に分けて準備することも可能である。また、光路長と偏向範囲との関係を連続的に表現した情報(グラフなど)を準備することも可能である。
【0138】
例示的な実施形態において、光路長変更部(リトロリフレクタ41及びリトロリフレクタ駆動部41Aの組み合わせ)は、測定光の光路長を変更するように構成されていてよい。更に、制御部(主制御部211、スキャンサイズ補正部231)は、測定光の光路長が所定閾値以上である場合には第3偏向範囲を適用し、測定光の光路長が所定閾値未満である場合には第3偏向範囲よりも小さい第4偏向範囲を適用するように構成されていてよい。なお、光路長と偏向範囲との関係を3以上の段階に分けて準備することも可能である。また、光路長と偏向範囲との関係を連続的に表現した情報(グラフなど)を準備することも可能である。
【0139】
例示的な実施形態において、制御部(主制御部211、スキャンサイズ補正部231)は、少なくとも測定光の光路長及び/又は参照光の光路長に基づいて、光スキャナ(44)による測定光の偏向範囲(最大偏向角)を算出するように構成されていてよい。
【0140】
例示的な実施形態において、眼科装置(1)は、光学系のフォーカス調整を行うためのフォーカス調整部(OCT合焦レンズ43及びOCT合焦駆動部43Aの組み合わせ)を更に含んでいてよい。更に、制御部(主制御部211、スキャンサイズ補正部231)は、測定光の光路長及び参照光の光路長の少なくとも一方と、光学系のフォーカス状態とに基づいて、光スキャナ(44)の制御を行うように構成されていてよい。
【0141】
このような構成を含む例示的な実施形態によれば、他の装置で取得されたデータを参照することなく、被検眼の特性(眼軸長、視度など)に応じて調整された光学系の条件(光路長情報、フォーカス情報など)に基づいて光スキャナを制御することで、実際にスキャンされる眼底のエリアサイズを補正することが可能である。
【0142】
例えば、予め作成されたノーマティブデータと実質的に同じサイズ(例えば、寸法6mm×6mm)の眼底の領域についてのデータを取得するように光スキャナを制御することや、ノーマティブデータよりも広い眼底の領域についてのデータを取得するように光スキャナを制御することが可能である。
【0143】
したがって、他の装置で取得されたデータを用いて倍率補正を行う従来の技術と異なり、健康診断や検診などのスクリーニング検査に本実施形態を適用することが可能である。また、外部装置を有しない施設で行われる検査に本実施形態を適用することも可能である。
【0144】
以上に説明した構成は、この発明の実施態様の例に過ぎない。よって、この発明の要旨の範囲内における任意の変形(省略、置換、付加等)を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0145】
1 眼科装置
41 リトロリフレクタ
41A リトロリフレクタ駆動部
43 OCT合焦レンズ
43A OCT合焦駆動部
100 OCTユニット
114 リトロリフレクタ
114A リトロリフレクタ駆動部
210 制御部
211 主制御部
220 画像形成部
230 データ処理部
231 スキャンサイズ補正部