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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076677
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/00 20060101AFI20230525BHJP
   G02B 1/11 20150101ALI20230525BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20230525BHJP
【FI】
G02C7/00
G02B1/11
G02B1/14
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023062090
(22)【出願日】2023-04-06
(62)【分割の表示】P 2018184420の分割
【原出願日】2018-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】石崎 貴子
(57)【要約】
【課題】耐擦傷性および耐熱性に優れた眼鏡レンズを提供する。
【解決手段】レンズ基材の物体側表面および眼球側表面の少なくとも何れか一方の表面上に、ハードコート膜および反射防止膜の少なくとも何れかの膜を有する。当該ハードコート膜および反射防止膜の少なくとも何れかの膜は、物性の異なる少なくとも2種類の層からなり、又は、物性の異なる少なくとも2種類の層を含み、そのうちの少なくとも1層はパターン状に形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材の物体側表面および眼球側表面の少なくとも何れか一方の表面上に、ハードコート膜および反射防止膜の少なくとも何れかの膜を有する眼鏡レンズであって、
前記ハードコート膜および前記反射防止膜の少なくとも何れかの膜は、物性の異なる少なくとも2種類の層からなり、または、物性の異なる少なくとも2種類の層を含み、そのうちの少なくとも1層はパターン状に形成されていることを特徴とする眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記物性は、硬度であることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記物性は、接触角であることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記ハードコート膜および前記反射防止膜の少なくとも何れかの膜は、物性の異なる第1の層と第2の層からなり、または、物性の異なる第1の層と第2の層を含み、前記レンズ基材上の全面に形成された第1の層の上に、第2の層がパターン状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
【請求項5】
前記第1の層は低硬度層であり、前記第2の層は高硬度層であることを特徴とする請求項4に記載の眼鏡レンズ。
【請求項6】
前記ハードコート膜および前記反射防止膜の少なくとも何れかの膜は、物性の異なる第1の層と第2の層からなり、または、物性の異なる第1の層と第2の層を含み、第1の層と第2の層がいずれもパターン状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
【請求項7】
前記第1の層のパターン面積は、前記第2の層のパターン面積よりも大きく、前記第1の層は低硬度層であり、前記第2の層は高硬度層であることを特徴とする請求項6に記載の眼鏡レンズ。
【請求項8】
前記パターン状は網目状又はドット状であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ基材の表面を覆うハードコート層や反射防止層を有する眼鏡レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズは、レンズ基材の表面を覆う様々な層を備えている。例えば、レンズ基材に対して傷が入ることを防止するためのハードコート層、レンズ表面での光反射を防止するための反射防止層、さらにはレンズの水ヤケを防止するための撥水層や、レンズの曇りを防止するための防曇層等である。
【0003】
特許文献1には、コート膜の密着性及び耐擦傷性を実現する機能性シラン化合物を用いたコーティング液が開示されている。また、特許文献2には、耐擦傷性、密着性、耐水性などの物性を向上させるためのコーティング組成物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-30993号公報
【特許文献2】特開2008-19364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
眼鏡レンズは、着脱の頻度や、使用環境を考えると比較的過酷な取り扱いを受ける。したがって、眼鏡レンズは、とりわけ耐擦傷性が高いことが求められており、そのためにはレンズ基材の表面を覆う膜は出来るだけ硬い材質を用いることが望ましいとされる。上記特許文献1、特許文献2等に開示されているように、従来より、耐擦傷性を向上させるための組成物については種々の提案がなされている。しかしながら、このような組成物をコーティングして、硬化させたコート膜は硬い膜となるので、耐擦傷性には優れるものの、たとえば眼鏡レンズを使用する温度環境によっては、コート膜にクラックが発生してしまうという課題がある。このようなクラックが発生すると、眼鏡レンズを装着したときの視認性にも大きく影響が出てしまう。従来は、耐擦傷性を優先して、耐熱性についてはある程度犠牲にしていたが、近年、人が眼鏡レンズを使用する環境、特に温度環境は様々であり、かなり過酷な温度環境においても問題の無い耐熱性が重要な特性として要求されるようになってきている。
【0006】
しかし、上述したように従来の技術では、耐擦傷性を優先しようとすると、耐熱性についてはある程度犠牲にせざるを得ず、耐擦傷性と耐熱性を両立させることが困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、耐擦傷性と耐熱性のいずれにも優れ、耐擦傷性と耐熱性を両立させた眼鏡レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
レンズ基材の物体側表面および眼球側表面の少なくとも何れか一方の表面上に、ハードコート膜および反射防止膜の少なくとも何れかの膜を有する眼鏡レンズであって、前記ハードコート膜および前記反射防止膜の少なくとも何れかの膜は、物性の異なる少なくとも2種類の層からなり、または、物性の異なる少なくとも2種類の層を含み、そのうちの少なくとも1層はパターン状に形成されていることを特徴とする眼鏡レンズ。
【0009】
(構成2)
前記物性は、硬度であることを特徴とする構成1に記載の眼鏡レンズ。
(構成3)
前記物性は、接触角であることを特徴とする構成1に記載の眼鏡レンズ。
【0010】
(構成4)
前記ハードコート膜および前記反射防止膜の少なくとも何れかの膜は、物性の異なる第1の層と第2の層からなり、または、物性の異なる第1の層と第2の層を含み、前記レンズ基材上の全面に形成された第1の層の上に、第2の層がパターン状に形成されていることを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
(構成5)
前記第1の層は低硬度層であり、前記第2の層は高硬度層であることを特徴とする構成4に記載の眼鏡レンズ。
【0011】
(構成6)
前記ハードコート膜および前記反射防止膜の少なくとも何れかの膜は、物性の異なる第1の層と第2の層からなり、または、物性の異なる第1の層と第2の層を含み、第1の層と第2の層がいずれもパターン状に形成されていることを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
(構成7)
前記第1の層のパターン面積は、前記第2の層のパターン面積よりも大きく、前記第1の層は低硬度層であり、前記第2の層は高硬度層であることを特徴とする構成6に記載の眼鏡レンズ。
【0012】
(構成8)
前記パターン状は網目状又はドット状であることを特徴とする構成1乃至7のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
【発明の効果】
【0013】
本発明の眼鏡レンズによれば、耐擦傷性と耐熱性のいずれにも優れ、耐擦傷性と耐熱性を両立させた眼鏡レンズを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る眼鏡レンズの断面図である。
図2】第1の実施の形態の変形例に係る眼鏡レンズの断面図である。
図3図2の眼鏡レンズの物体側表面方向から見た一部拡大平面図である。
図4図2の眼鏡レンズの作製工程の一例を示す図である。
図5図2の眼鏡レンズの作製工程の他の例を示す図である。
図6】格子状の網目パターン例を示す図である。
図7】ドット形状のパターン例を示す図である。
図8】本発明の第2の実施の形態に係る眼鏡レンズの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳述する。
【0016】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る眼鏡レンズの断面図である。
<眼鏡レンズの構成>
本実施の形態の眼鏡レンズ1は、眼鏡用レンズ基材上に、レンズ表面を傷等から保護するためのハードコート膜を形成したものである。
【0017】
図1を参照して具体的に説明すると、本実施形態の眼鏡レンズ1は、物体側表面が凸面のレンズ基材11の当該凸面上に、物性の異なる2種類の層からなるハードコート膜を有している。本実施の形態では、この物性の異なる2種類の層は、硬度の異なる2種類の層であり、レンズ基材11上の全面に形成された第1の層の上に、第2の層がパターン状に形成されている。上記第1の層は低硬度層12Lであり、上記第2の層は高硬度層12Hである。つまり、本実施の形態では、レンズ基材11上に、硬度の異なる2種類の層からなるハードコート膜を有しており、レンズ基材11上の全面に形成された低硬度層12Lの上に、高硬度層12Hがパターン状に形成されている。この高硬度層12Hのパターンとしては、例えば、図6に示すような格子状の網目パターンや、図7に示すようなドット形状のパターン等が例示されるが、本発明ではこれらのパターンに限定するものではない。
【0018】
<レンズ基材>
本実施の形態におけるレンズ基材11は、第一主面(物体側表面で凸面)、第二主面(眼球側表面)、及びコバ面(縁部)を有する。
レンズ基材11の材質としては、プラスチックであっても、無機ガラスであってもよいが、通常プラスチックレンズとして使用される種々の基材を用いることができる。レンズ基材は、レンズ形成鋳型内にレンズモノマーを注入して、硬化処理を施すことによって製造することができる。
【0019】
レンズモノマーとしては、特に限定されず、プラスチックレンズの製造に通常使用される各種のモノマーを用いることができる。例えば、分子中にベンゼン環、ナフタレン環、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合を有するものなどが使用できる。また、硫黄、ハロゲン元素を含む化合物も使用でき、特に核ハロゲン置換芳香環を有する化合物も使用できる。上記官能基を有する単量体を1種または2種以上用いることによりレンズモノマーを製造できる。例えば、スチレン、ジビニルベンゼン、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、ジアリル(イソ)フタレート、ジベンジルイタコネート、ジベンジルフマレート、クロロスチレン、核ハロゲン置換スチレン、核ハロゲン置換フェニル(メタ)アクリレート、核ハロゲン置換ベンジル(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールA誘導体の(ジ)(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールA誘導体のジアリルカーボネート、ジオルトクロロベンジルイタコネート、ジオルトクロロベンジルフマレート、ジエチレングリコールビス(オルトクロロベンジル)フマレート、(ジ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの多官能イソシアネートの反応物、核ハロゲン置換フェノール誘導体のモノヒドロキシアクリレートと多官能イソシアネートの反応物、核ハロゲン置換ビフェニル誘導体のモノヒドロキシアクリレートと多官能イソシアネートの反応物、キシレンジイソシアネートと多官能メルカプタンの反応物、グリシジルメタクリレートと多官能メタクリレートの反応物等、およびこれらの混合物が挙げられる。レンズ基材の材質は、例えば、ポリチオウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂等のポリウレタン系材料、ポリスルフィド樹脂等のエピチオ系材料、ポリカーボネート系材料、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート系材料等が好ましく挙げられる。
【0020】
レンズ基材11としては、通常無色のものが使用されるが、透明性を損なわない範囲で着色したものを使用することができる。
レンズ基材11の屈折率は、例えば、1.50以上1.74以下である。
レンズ基材11として、フィニッシュレンズ、セミフィニッシュレンズのいずれであってもよい。
【0021】
本実施の形態では、レンズ基材11の例えば物体側の表面形状は凸面であるが、レンズ基材11の表面形状は特に限定されず、平面、凸面、凹面等のいずれであってもよい。
【0022】
本実施の形態の眼鏡レンズ1は、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等のいずれであってもよい。累進屈折力レンズについては、通常、近用部領域(近用部)及び累進部領域(中間領域)が下方領域に含まれ、遠用部領域(遠用部)が上方領域に含まれる。
【0023】
<ハードコート膜>
上記ハードコート膜は、プラスチックレンズに耐擦傷性を付与することができる。
ハードコート膜の形成方法としては、硬化性組成物を、スピンコート法等により、レンズ基材の表面に塗布し、塗膜を硬化せる方法が一般的である。硬化処理は、硬化性組成物の種類に応じて、加熱、光照射等により行われる。このような硬化性組成物としては、例えば、紫外線の照射によりシラノール基を生成するシリコーン化合物とシラノール基と縮合反応するハロゲン原子やアミノ基等の反応基を有するオルガノポリシロキサンとを主成分とする光硬化性シリコーン組成物、アクリル系紫外線硬化型モノマー組成物、SiO、TiOなどの無機微粒子を、ビニル基、アリル基、アクリル基またはメタクリル基などの重合性基とメトキシ基などの加水分解性基とを有するシラン化合物やシランカップリング剤中に分散させた無機微粒子含有熱硬化性組成物などが好ましく挙げられる。ハードコート膜は、レンズ基材11の材質に応じて組成が選択される。なお、ハードコート膜の屈折率は、例えば、1.45以上1.74以下である。
【0024】
また、上記の高硬度層12Hを所望のパターン状に形成する方法は特に限定されないが、例えば、インクジェット記録法を適用してパターン印刷を行う方法が好ましく挙げられる。
【0025】
上記のとおり、本実施の形態では、ハードコート膜は硬度の異なる2種類の層からなり、レンズ基材11上の全面に形成された低硬度層12Lと、その上にパターン状に形成された高硬度層12Hとからなる。なお、上記の「全面」とは、レンズ基材11のコバ面(縁部)は含まないものとする。
【0026】
上記の「硬度」は、たとえばインデンテーション硬度(硬さ)で評価することができる。ここでいうインデンテーション硬度とは、測定圧子の負荷から除荷までの変位-荷重曲線から求められる値であって、ISO 14577:2000に規定されている。
【0027】
たとえば、微小押し込み硬さ試験機(例えばエリオニクス社製超微小押し込み硬さ試験機ENT-2100)を用いて、測定箇所における負荷開始から除荷までの全過程にわたって押し込み荷重P(mgf)に対応する押し込み深さh(nm)を連続的に測定し、P-h曲線を作成する。作成されたP-h曲線からインデンテーション硬度Hを、下記式により求めることができる。
H(mgf/μm)= Pmax/A
(ここで、Pmax:最大荷重(mgf)、A:圧子投影面積(μm))
【0028】
以上のようにして測定されるインデンテーション硬度は、膜厚方向(深さ方向)の測定箇所(測定点)での単位面積(μm)当たりの硬さ(硬度)である。
【0029】
上記低硬度層12Lは、ハードコート膜のクラックの発生防止の観点から、例えば上記のインデンテーション硬度が、50~110mgf/μmの範囲であることが好ましい。また、上記高硬度層12Hは、耐擦傷性の観点から、例えば上記のインデンテーション硬度が、100~200mgf/μmの範囲であることが好ましい。なお、インデンテーション硬度は、たとえば上記のハードコート膜用の硬化組成物の種類の変更や、硬化条件、膜厚によって調節することが可能である。
なお、後述の変形例においても同様である。
【0030】
本実施の形態では、このようにハードコート膜を、レンズ基材11上の全面に形成された低硬度層12Lと、その上にパターン状に形成された高硬度層12Hとで構成することにより、温度が高い環境にあっても、ハードコート膜のクラックの発生を防止でき、耐熱性が向上する。しかも、高硬度層12Hによる優れた耐擦傷性が得られる。すなわち、本実施の形態の眼鏡レンズ1は、耐擦傷性と耐熱性のいずれにも優れ、従来技術では達成できなかった耐擦傷性と耐熱性を両立させることができる。
【0031】
なお、パターン状に形成された上記高硬度層12Hのパターン面積が小さいと、高硬度層12Hによる耐擦傷性が十分に得られない恐れがあるため、上記高硬度層12Hのパターン面積が、レンズ基材11の全面の面積に対する面積比で50%以上であることが望ましい。
【0032】
次に、上述の第1の実施の形態の変形例について説明する。
図2の(a)、(b)は、いずれも上述の第1の実施の形態の変形例に係る眼鏡レンズの断面図である。
図2(a)に示される変形例では、レンズ基材11上に、硬度の異なる2種類の層(低硬度層12Lと高硬度層12H)からなるハードコート膜を有し、低硬度層12Lと高硬度層12Hがいずれもパターン状に形成されている。低硬度層12Lおよび高硬度層12Hのパターンとしては、図6に示すような格子状の網目パターンや、図7に示すようなドット形状のパターン等が例示される。
【0033】
また、図2(b)に示される変形例では、上述の図2(a)に示される変形例と同様、レンズ基材11上に、硬度の異なる2種類の層(低硬度層12Lと高硬度層12H)からなるハードコート膜を有し、低硬度層12Lと高硬度層12Hがいずれもパターン状に形成されているが、本変形例では、低硬度層12Lのパターンと高硬度層12Hのパターンがほぼ同じ膜厚(高さ)で形成されている。
【0034】
図3は、上述の変形例、つまり図2(a)、(b)の眼鏡レンズ1の物体側表面方向から見た一部拡大平面図である。
【0035】
図4は、上述の変形例、例えば図2(a)の眼鏡レンズ1の作製工程の一例を示す図である。
上述の図2(a)の眼鏡レンズ1は、例えば図4に示す工程にしたがって作製することができる。
まず、レンズ基材11の凸面の全面に、上記低硬度層12Lを形成する(図4(a)参照)。
【0036】
次に、形成した上記低硬度層12Lの上に、保護シート20を貼り合せる(図4(b)参照)。
次に、レンズ基材11上に形成した上記低硬度層12L及びその上の保護シート20に対して、例えばレーザー等により所定のパターン形状を開ける(図4(c)参照)。このパターン形状は、上記高硬度層12Hのパターン形状である。
【0037】
次いで、上記高硬度層12Hを形成する(図4(d)参照)。上記図4(c)の工程で上記低硬度層12L及びその上の保護シート20に所定のパターン形状に開けられた凹部に上記高硬度層12Hが形成される。
【0038】
最後に、上記保護シート20を剥離することにより、レンズ基材11上に、低硬度層12Lと高硬度層12Hがいずれもパターン状に形成された眼鏡レンズ1が出来上がる(図4(e)参照)。
【0039】
また、図5は、上述の図2(a)の眼鏡レンズ1の作製工程の他の例を示す図である。
まず、レンズ基材11の凸面の全面に、所定のパターン状のマスク材21を形成する(図5(a)参照)。このパターン形状は、上記高硬度層12Hのパターン形状である。
【0040】
次に、マスク材21を形成したレンズ基材11上の全面に、上記低硬度層12Lを形成する(図5(b)参照)。
【0041】
次に、上記マスク材21を剥離(除去)する。これによって、レンズ基材11上に形成した上記低硬度層12Lに対して、所定のパターン形状を開ける(図5(c)参照)。上記のとおり、このパターン形状は、上記高硬度層12Hのパターン形状である。
【0042】
次いで、上記高硬度層12Hを形成する(図5(d)参照)。上記図5(c)の工程で上記低硬度層12Lに所定のパターン形状に開けられた凹部に上記高硬度層12Hが形成される。
【0043】
以上のようにして、レンズ基材11上に、低硬度層12Lと高硬度層12Hがいずれもパターン状に形成された眼鏡レンズ1が出来上がる(図5(d)参照)。
【0044】
図2(a)、(b)に示す変形例においては、このようにハードコート膜を、レンズ基材11上に、いずれもパターン状に形成された低硬度層12Lと高硬度層12Hとで構成することにより、温度が高い環境にあっても、ハードコート膜のクラックの発生を防止でき、耐熱性が向上するとともに、高硬度層12Hによる優れた耐擦傷性が得られる。すなわち、本変形例による眼鏡レンズ1によっても、耐擦傷性と耐熱性のいずれにも優れ、耐擦傷性と耐熱性を両立させた眼鏡レンズを得ることができる。
【0045】
なお、本変形例においては、パターン状に形成された上記低硬度層12Lのパターン面積が小さいと、ハードコート膜のクラックの発生防止効果が十分に得られない恐れがあるため、上記低硬度層12Lのパターン面積は、上記高硬度層12Hのパターン面積よりも大きいことが好ましい。他方、パターン状に形成された上記高硬度層12Hのパターン面積が小さすぎると、高硬度層12Hによる耐擦傷性が十分に得られない恐れがある。したがって、上記低硬度層12Lのパターン面積が、レンズ基材11の全面の面積に対する面積比で50%以上70%以下であることが望ましい。
【0046】
また、低硬度層12Lのパターン形状と高硬度層12Hのパターン形状とは同様のパターン形状であっても、異なるパターン形状であってもよい。
【0047】
[第2の実施の形態]
図8の(a)と(b)は、いずれも本発明の第2の実施の形態に係る眼鏡レンズの断面図である。
本実施の形態の眼鏡レンズ10は、眼鏡用レンズ基材上に、レンズ表面を傷等から保護するためのハードコート膜およびレンズ表面での光反射を防止するための反射防止膜を形成したものである。
【0048】
まず、図8(a)を参照して具体的に説明すると、本実施形態の眼鏡レンズ10は、物体側表面が凸面のレンズ基材11の当該凸面上に、ハードコート膜12を有し、その上に物性の異なる2種類の層を含む反射防止膜13を有している。本実施の形態では、この反射防止膜13は、ハードコート膜12上の全面に形成された第1の層の上に、第2の層がパターン状に形成されている。上記第1の層は低硬度層13Lであり、上記第2の層は高硬度層13Hである。つまり、本実施の形態では、レンズ基材11上に、硬度の異なる2種類の層を含む反射防止膜13を有しており、ハードコート膜12上の全面に形成された低硬度層13Lの上に、高硬度層13Hがパターン状に形成されている。この高硬度層13Hのパターンとしては、例えば、図6に示すような格子状の網目パターンや、図7に示すようなドット形状のパターン等が例示されるが、本発明ではこれらのパターンに限定するものではない。また、上記低硬度層13Lおよび高硬度層13Hはいずれも低屈折率層13aと高屈折率層13bの交互積層膜である。
上記レンズ基材11及びハードコート膜12の材質等に関しては、前述の第1の実施の形態と同様であるので、ここでは説明は省略する。
【0049】
<反射防止膜>
反射防止膜13は、通常、屈折率の異なる層を積層させた多層構造を有し、干渉作用によって光の反射を防止する膜である。反射防止膜13の材質としては、例えば、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Nb、Al、Ta、CeO、MgO、Y、SnO、MgF、WOなどの無機物が挙げられ、これらを単独または2種以上を併用して用いることができる。このような反射防止膜13は、一例として低屈折率層13aと高屈折率層13bとを多層積層してなる多層構造が挙げられる。低屈折率層13aの屈折率は、波長500~550nmで例えば、1.35~1.80である。高屈折率層13bの屈折率は、波長500~550nmで例えば、1.90~2.60である。
【0050】
低屈折率層13aは、例えば、屈折率1.43~1.47程度の二酸化珪素(SiO)からなり、また、高屈折率層13bは、低屈折率層13aよりも高い屈折率を有する材料からなり、例えば、酸化ニオブ(Nb)、酸化タンタル(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化イットリウム(Y)、酸化アルミニウム(Al)等の金属酸化物を、適宜の割合で用いて構成される。
【0051】
なお、本実施の形態では、上記のとおり、反射防止膜13は、ハードコート膜12上の全面に形成された複数層からなる低硬度層13Lと、その上にパターン状に形成された複数層からなる高硬度層13Hであるが、これら低硬度層13Lおよび高硬度層13Hの材質に関しては、反射防止膜として成立する範囲内で屈折率を考慮する必要がある。
【0052】
反射防止膜13の材質が上記のような金属酸化物等の無機物である場合、その成膜方法としては、例えば、真空蒸着、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法、飽和溶液中での化学反応により析出させる方法などを採用することができる。
【0053】
上記のとおり、本実施の形態では、反射防止膜13は硬度の異なる2種類の層を含み、ハードコート膜12上の全面に形成された低硬度層13Lと、その上にパターン状に形成された高硬度層13Hとを含む。なお、上記の「全面」とは、レンズ基材11のコバ面(縁部)は含まないものとする。
【0054】
また、上記の高硬度層13Hを低硬度層13L上に所望のパターン状に形成する方法は特に限定されないが、例えば、図6図7のような網目状パターン又はドット状パターンを有するマスク部材を介在させて、上記高硬度層13Hを蒸着法により形成する方法が好ましく挙げられる。
【0055】
本実施の形態においても、上記の「硬度」は、たとえばインデンテーション硬度(硬さ)で評価することができる。インデンテーション硬度に関しては前述したとおりである。
【0056】
上記低硬度層13Lは、耐熱性の向上の観点から、例えば上記のインデンテーション硬度が、80~170mgf/μmの範囲であることが好ましい。また、上記高硬度層13Hは、耐擦傷性の観点から、例えば上記のインデンテーション硬度が、170~250mgf/μmの範囲であることが好ましい。なお、インデンテーション硬度は、たとえば上記の反射防止膜の各層の材質の変更や、各層の膜厚、層数によって調節することが可能である。
【0057】
本実施の形態では、このように反射防止膜13を、ハードコート膜12上の全面に形成された低硬度層13Lと、その上にパターン状に形成された高硬度層13Hとを含む構成とすることにより、耐熱性が向上する。しかも、高硬度層13Hによる耐擦傷性が得られる。すなわち、本実施の形態の眼鏡レンズ10は、耐熱性と耐熱性のいずれにも優れ、従来技術では達成できなかった耐熱性と耐擦傷性を両立させることができる。
【0058】
本実施の形態においても、前述の第1の実施の形態の場合と同様の変形例とすることができる。すなわち、反射防止膜13を、いずれもパターン状に形成された低硬度層13Lと高硬度層13Hとを含む構成としてもよい。図8の(b)は、前述の図2の(a)に示した第1の実施の形態の変形例に対応する実施態様である。なお、図8(b)中の低硬度層13Lは複数層からなっている。
【0059】
また、図8では、ハードコート膜12を有する構成を示しているが、レンズ基材11上にハードコート膜は設けず、本発明の構成を有する上記反射防止膜13を形成する実施態様であってもよい。なお、上記のハードコート膜12を有する場合、このハードコート膜12に関しても前述の第1の実施の形態による構成を適用した実施態様とすることができる。
【0060】
本実施の形態では、物性の異なる2種類の層として、硬度の異なる2種類の層を有する場合について説明したが、物性は硬度に限定するものではない。たとえば、本実施の形態において、反射防止膜13は、例えば接触角の異なる2種類の層を含む構成とすることができる。この場合の「接触角」とは、個々の層を1層だけ形成した時の形成表面に対する接触角である。
このような実施態様によれば、眼鏡レンズ表面の撥水性や、耐汚れ性などの特性を耐熱性とともに向上させることが可能である。
【0061】
本発明は、以上説明した種々の実施の形態は例示であって、これらの実施の形態に限定されるものではない。例えば、物性の異なる3種類の層をいずれもパターン状に形成した実施態様とすることもできる。要するに、以上説明した種々の実施の形態に限定されることなく、レンズ基材の物体側表面および眼球側表面の少なくとも何れか一方の表面上に、ハードコート膜および反射防止膜の少なくとも何れかの膜を有し、前記ハードコート膜および前記反射防止膜の少なくとも何れかの膜は、物性の異なる少なくとも2種類の層からなり、または、物性の異なる少なくとも2種類の層を含み、そのうちの少なくとも1層はパターン状に形成されている実施態様はいずれも本発明に含まれる。
【0062】
なお、以上説明した実施形態の眼鏡レンズ1は、上記のハードコート膜や反射防止膜の他にも、さらに機能層として、例えば、撥水層や防曇層などを有していてもよい。このような他の機能層を有する実施態様も本発明に含まれるものとする。
【0063】
また、以上説明した実施の形態では、「硬度」をインデンテーション硬度で評価する場合について説明したが、これに限らない。塗膜の硬さの指標としては、上記のインデンテーション硬度の他にも、微小押し込み硬さ、マルテンス硬さ(ISO 14577:2000に規定)、複合ヤング(Young)率なども知られている。したがって、「硬度」をこれらの指標で評価してもよい。
【0064】
以上説明したように、本発明の眼鏡レンズによれば、レンズ基材の物体側表面および眼球側表面の少なくとも何れか一方の表面上に、ハードコート膜および反射防止膜の少なくとも何れかの膜を有しており、ハードコート膜および反射防止膜の少なくとも何れかの膜は、物性、例えば硬度や接触角の異なる少なくとも2種類の層からなり、または、物性の異なる少なくとも2種類の層を含み、そのうちの少なくとも1層はパターン状に形成されていることにより、耐擦傷性と耐熱性のいずれにも優れ、耐擦傷性と耐熱性を両立させた眼鏡レンズを得ることができる。
【実施例0065】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
(実施例1)
眼鏡レンズ用モノマー(三井化学株式会社製、商品名「MR8」)により製造した眼鏡用レンズ基材の凸面の全面に、無機酸化物粒子とケイ素化合物を含むハードコート液Aをスピンコーティングによって塗布し、100℃、60分加熱硬化することで、厚さ3μmのハードコート層Aを形成した。
【0066】
続いて、上記ハードコート層A上に、無機酸化物粒子とケイ素化合物を含むハードコート液Bをインクジェット記録法によって塗布し、100℃、60分加熱硬化することで、厚さ3μmのハードコート層Bをパターン状に形成した。なお、このハードコート層Bは、縦横400μmの格子状の網目パターンに形成した。
【0067】
なお、本実施例では、レンズ基材上の全面に形成した上記ハードコート層Aは、インデンテーション硬度が、80mgf/μmの低硬度層であり、上記ハードコート層A上にパターン状に形成した上記ハードコート層Bは、インデンテーション硬度が、150mgf/μmの高硬度層である。
以上のようにして実施例1の眼鏡レンズを作製した。
【0068】
(比較例1)
眼鏡レンズ用モノマー(三井化学株式会社製、商品名「MR8」)により製造した眼鏡用レンズ基材の凸面の全面に、無機酸化物粒子とケイ素化合物を含むハードコート液をスピンコーティングによって塗布し、100℃、60分加熱硬化することで、厚さ3μmの単層のハードコート層を形成した。
【0069】
なお、本比較例では、レンズ基材上の全面に形成した上記ハードコート層は、インデンテーション硬度が、120mgf/μmの高硬度層である。
以上のようにして比較例1の眼鏡レンズを作製した。
【0070】
以上のようにして得られた実施例1および比較例1の各眼鏡レンズに対して、以下の耐擦傷性試験および耐熱性試験を行った。
[耐擦傷性試験]
眼鏡レンズの表面に、スチールウール(規格#0000、日本スチールウール社製)にて1kgf/cmで押し当てながらレンズ表面を擦って、傷のつき難さを目視にて判定した。判定基準は以下の通りとした。
UA:傷がほとんどない。
A:薄い傷数本、または深いが細い傷が2本程度。
B:薄い傷20本程度、または細いが深い傷が10本程度。
C:深い(太さは問わない)傷が多数発生し曇りに近い状態、または傷は浅いがコートが無い状態(膜弱)。
【0071】
[耐熱性試験]
眼鏡レンズを加熱炉内に設置し、炉内の温度を50℃から100℃まで段階的に上昇させた。ハードコート層のクラックの発生の有無を目視で確認し、クラックが発生した温度を耐熱温度とした。
【0072】
[評価結果]
実施例1および比較例1の眼鏡レンズはいずれも耐擦傷性試験では「UA」評価であった。しかし、耐熱性試験においては、実施例1の眼鏡レンズの耐熱温度は60℃であり、比較例1(従来例)の眼鏡レンズと比べると10℃以上改善できた。つまり、本発明実施例によれば、耐擦傷性と耐熱性を両立させた眼鏡レンズを得ることができる。これに対し、比較例(従来例)では、十分な耐擦傷性を得ようとすると耐熱性が得られず、耐擦傷性と耐熱性を両立させることが困難である。
【0073】
(実施例2)
眼鏡レンズ用モノマー(三井化学株式会社製、商品名「MR8」)により製造した眼鏡用レンズ基材の凸面の全面に、無機酸化物粒子とケイ素化合物を含むハードコート液をスピンコーティングによって塗布し、100℃、60分加熱硬化することで、厚さ3μmの単層のハードコート層を形成した。
【0074】
次に、上記ハードコート層を形成した眼鏡レンズを蒸着装置に入れ、上記ハードコート層上の全面に、真空蒸着法により、SiO-Cr-SiO層を交互に積層した反射防止層Aを形成した。
【0075】
続いて、上記反射防止層A上に、真空蒸着法により、SiO層とZrO層を交互に積層した反射防止層Bをパターン状に形成した。なお、この反射防止層Bは、格子状の網目を有するマスク部材を介在させて蒸着を行い、縦横400μmの格子状の網目パターンに形成した。
【0076】
なお、本実施例では、ハードコート層上の全面に形成した上記反射防止層Aは、インデンテーション硬度が、100mgf/μmの低硬度層であり、上記反射防止層A上にパターン状に形成した上記反射防止層Bは、インデンテーション硬度が、190mgf/μmの高硬度層である。
以上のようにして、レンズ基材上に、ハードコート層、全面に形成した反射防止層Aとその上にパターン状に形成した反射防止層Bの2種類の層からなる反射防止層を形成した実施例2の眼鏡レンズを作製した。
【0077】
(比較例2)
上記実施例2と同様にして、レンズ基材上にハードコート層を形成した眼鏡レンズを蒸着装置に入れ、上記ハードコート層上の全面に、真空蒸着法により、SiO層とZrO層を交互に8層積層した反射防止層を形成した。
以上のようにして比較例2の眼鏡レンズを作製した。
【0078】
以上のようにして得られた実施例2および比較例2の各眼鏡レンズに対して、実施例1と同様の耐擦傷性試験および耐熱性試験を行った。
【0079】
[評価結果]
実施例2および比較例2の眼鏡レンズはいずれも耐擦傷性試験では「UA」評価であった。しかし、耐熱性試験においては、実施例2の眼鏡レンズの耐熱温度は60℃であり、比較例2(従来例)の眼鏡レンズと比べると10℃以上改善できた。
【符号の説明】
【0080】
1、10 眼鏡レンズ
11 レンズ基材
12 ハードコート膜
12H 高硬度層
12L 低硬度層
13 反射防止膜
13H 高硬度層
13L 低硬度層
13a 低屈折率層
13b 高屈折率層
20 保護シート
21 マスク材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8