(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076678
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】断熱シートおよびこれを用いた断熱体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 59/04 20060101AFI20230525BHJP
【FI】
F16L59/04
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023062091
(22)【出願日】2023-04-06
(62)【分割の表示】P 2020505599の分割
【原出願日】2018-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2018046178
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雄一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 千尋
(72)【発明者】
【氏名】臼井 良輔
(57)【要約】
【課題】絶縁性、断熱性に優れ、両側から圧力が加わっても、所定の距離を確保することができ、機器の信頼性を向上させることができる断熱シートを提供する。
【解決手段】断熱シートは、所定の厚みを有する第1領域と、前記第1領域より厚みが薄い第2領域とを有する。0.7MPaの圧力を加えたときの第2領域の圧縮率が5%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の厚みを有する第1領域と、前記第1領域より厚みが薄い第2領域とを有する断熱シートであって、
0.7MPaの圧力を加えたときの前記第1領域の圧縮率が10%以上30%以下であり、
0.7MPaの圧力を加えたときの前記第2領域の圧縮率が5%以下である、断熱シート。
【請求項2】
所定の厚みを有する第1領域と、前記第1領域より厚みが薄い第2領域とを有する断熱シートであって、
0.7MPaの圧力を加えたときの前記第2領域の圧縮率が5%以下であり、
前記第2領域の前記断熱シートに占める面積の割合は5%以上30%以下である、断熱シート。
【請求項3】
所定の厚みを有する第1領域と、前記第1領域より厚みが薄い第2領域とを有する断熱シートであって、
前記第2領域に0.7MPaの圧力を加えたときの前記第2領域の圧縮率が5%以下であり、
前記第2領域は前記断熱シートの中央部分に設けられている、断熱シート。
【請求項4】
前記第2領域は前記断熱シートの周辺部分と前記中央部分とに設けられている、請求項3に記載の断熱シート。
【請求項5】
所定の厚みを有する第1領域と、前記第1領域より厚みが薄い第2領域とを有する断熱シートであって、
0.7MPaの圧力を加えたときの前記第2領域の圧縮率が5%以下であり、
前記第2領域は、前記断熱シートの中央部分に設けられている前記第1領域を囲む環形状を有している、断熱シート。
【請求項6】
所定の厚みを有する第1領域と、前記第1領域より厚みが薄い第2領域とを有する断熱シートであって、
0.7MPaの圧力を加えたときの前記第2領域の圧縮率が5%以下であり、
前記第2領域は、前記断熱シートの中央部分から放射状に延びる複数の長方形形状を有している、断熱シート。
【請求項7】
前記断熱シートは、繊維と、多孔質構造を有する断熱材料と、を有する、請求項1~6にいずれか1項に記載の断熱シート。
【請求項8】
前記繊維は、ガラス繊維を含む、請求項7に記載の断熱シート。
【請求項9】
前記断熱材料は、シリカ粒子を含む、請求項7または8に記載の断熱シート。
【請求項10】
前記断熱シートは、保護層で覆われている、請求項1~9のいずれか1項に記載の断熱シート。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の断熱シートと、
前記断熱シートに当接するセパレータと、
を備え、
前記断熱シートは前記第2領域で形成された凹部を有し、
前記セパレータは前記断熱シートの前記凹部内に位置する突出部を有する、断熱体。
【請求項12】
所定の厚みを有する第1領域と、前記第1領域より厚みが薄い第2領域とを有する断熱シートと、
前記断熱シートに当接するセパレータと、
を備え、
0.7MPaの圧力を加えたときの前記第2領域の圧縮率が5%以下であり、
前記断熱シートは前記第2領域で形成された凹部を有し、
前記セパレータは前記断熱シートの前記凹部内に位置する突出部を有する、断熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱対策として用いられる断熱シートおよびこれを用いた断熱体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年各種機器のエネルギー効率のために断熱対策が求められることが多くなってきている。このため各種断熱材が用いられている。その代表として、ガラスウール、ウレタンフォーム、あるいは不織布にシリカキセロゲルを担持した断熱シート等があげられる。
【0003】
例えば、特許文献1は従来の断熱シートを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
断熱シートは、厚領域(第1領域)と、厚領域より厚みが薄い低圧縮領域(第2領域)とを有する。低圧縮領域に0.7MPaの圧力を加えたときの低圧縮領域の圧縮率が5%以下である。
【0006】
この断熱シートは絶縁性、断熱性に優れ、両側から圧力が加わっても、所定の距離を確保することができ、機器の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は実施の形態における断熱シートの断面図である。
【
図2】
図2は実施の形態における断熱シートの平面図である。
【
図3】
図3は実施の形態における断熱シートのシリカキセロゲルの模式図である。
【
図4】
図4は実施の形態における断熱体の断面図である。
【
図5】
図5は実施の形態における断熱体を用いた機器の断面図である。
【
図6】
図6は実施の形態における別の断熱シートの断面図である。
【
図7A】
図7Aは実施の形態におけるさらに別の断熱シートの平面図である。
【
図7B】
図7Bは実施の形態におけるさらに別の断熱シートの平面図である。
【
図7C】
図7Cは実施の形態におけるさらに別の断熱シートの平面図である。
【
図7D】
図7Dは実施の形態におけるさらに別の断熱シートの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1と
図2はそれぞれ実施の形態における断熱シート11の断面図と平面図である。
図1は
図2に示す断熱シート11の線1-1における断面を示す。
【0009】
断熱シート11は、内部に空間12Aを有する繊維シート12と、繊維シート12の空間12Aに担持されたシリカキセロゲル21とから構成されている。繊維シート12は、平均繊維太さ約10μmのガラス繊維からなり、繊維シート12の体積で空間12Aの体積の占める割合は約90%である。繊維シート12の内部の空間12Aにシリカキセロゲル21が充填されている。シリカキセロゲル21は内部に数ナノメートルの径を有するナノサイズの空間21Aを有しているので、断熱シート11の熱伝導率は、0.018~0.024W/m・Kと、空気の熱伝導率よりも小さい。シリカキセロゲルは、ゲルが乾燥した状態の広義のキセロゲルであり、通常の乾燥だけでなく、超臨界乾燥、凍結乾燥等の方法によって得られたものでもかまわない。すなわち、断熱シート11に含有されているシリカキセロゲル21は、乾燥した乾燥シリカキセロゲルである。
【0010】
断熱シート11は、厚領域22(第1領域)と、厚領域22に繋がる低圧縮領域13(第2領域)とを有する。低圧縮領域13は断熱シート11の中央部に位置し、厚さ約2mmとなっている。低圧縮領域13は0.7MPaの圧力を加えたときの低圧縮領域13の圧縮率が5%以下である。
【0011】
厚領域22の厚さは約3mmである。低圧縮領域13は厚領域22より薄い。
【0012】
厚さt0のシートに圧力Pを加えた後でその圧力を取り除いた状態で厚さt1を有する。この場合、このシートの圧力Pにおける圧縮率Prは以下の式で得られる。実施の形態では圧力Pは0.7MPaである。
【0013】
Pr=(t0-t1)/t0
実施の形態では圧縮率Prの値をパーセントで表示する。
【0014】
断熱シート11は繊維シート12の内部の空間12Aにナノサイズの多孔質構造を有するシリカキセロゲル21を担持させたものである。
図3はシリカキセロゲル21の模式図である。シリカキセロゲル21は、
図3に示すように、1nm程度の径をもつシリカ1次粒子121が集合して形成された10nm程度の径をもつシリカ2次粒子122が10~60nm程度の粒子間距離の空隙122Aをもつ網目構造を有する集合体である。この粒子間距離を空気の平均自由工程以下にすることにより、断熱性に優れた断熱シート11を得ることができる。シリカ2次粒子122間にできる空隙122Aは、微細な空隙522Aとともに空隙522Aよりも大きい比較的大きな空隙522Bを含む。シリカ1次粒子121間には微細な空隙121Aが設けられる。シリカ1次粒子121間に設けられた微細な空隙121Aおよびシリカ2次粒子122間にできる微細な空隙522Aは、断熱シート11に圧力が加わってもほとんど壊れることはないが、断熱シート11に大きな圧力を加えるとシリカ2次粒子122間にできる比較的大きな空隙522Bがつぶされて圧縮され、断熱シート11は塑性変形して薄くなる。断熱シート11の断熱性は、主に微細な空隙122A、522Aによって発現するものであるため、比較的大きな空隙522Bがつぶされても熱伝導率はほとんど変化しない。このように、シリカキセロゲル21に分散する
図1に示す空隙21Aは空隙122A、522A、522Bにより構成されるが、主に微細な空隙122A、522Aにより構成される。
【0015】
実施の形態における断熱シート11では局部的に圧力を加えて塑性変形させることで局部的に薄い低圧縮領域13が形成される。断熱シート11は低圧縮領域13で形成された凹部13Cを有する。
【0016】
圧力を加えて塑性変形させた断熱シート11の低圧縮領域13は、加えた圧力以下の圧力ではそれ以上には塑性変形しない。そのため断熱シート11の一部を所定の圧力下での圧縮率を或る値以下にすることができる。
【0017】
断熱シート11の低圧縮領域13以外の領域である厚領域22の、0.7MPaの圧力を加えたときの厚領域22の圧縮率は10~30%である。このように断熱シート11を構成することにより、軽く、断熱性に優れた断熱シート11を得ることができる。低圧縮領域13を形成する前に、厚領域22を含めて断熱シート11全体に圧力を加えて、厚領域22の圧縮率を上記の範囲内に制限してもよい。
【0018】
図4は実施の形態における断熱体14の断面図である。断熱体14は、断熱シート11と、断熱シート11に当接するセパレータ17とを有する。セパレータ17は、基板部17Aと、基板部17Aから突出する突出部18とを有する。突出部18は断熱シート11の低圧縮領域13に対応する位置に設けられており、これにより突出部18は凹部13C内に位置する。断熱シート11とセパレータ17とを組み合わせたときに、断熱体14の両面はほぼ平面になる。断熱体14を熱によって膨張するような部品の間に配置することにより、それらの部品が膨張しても低圧縮領域13とセパレータ17の突出部18で支えとなって、断熱体14全体が圧縮されることを防ぐことができ、それらの部品間の断熱性と絶縁性を保つことができる。
【0019】
図5は実施の形態における断熱体14を用いた機器23の断面図である。
【0020】
機器23は、断熱体14と、筐体15と、発熱機器16とを有する。発熱機器16は例えばモータである。筐体15の中に発熱機器16が配置されている。発熱機器16が動作することにより発熱するとともに膨張する。筐体15と発熱機器16との間に断熱体14が配置されている。
【0021】
実施の形態ではセパレータ17はポリブチレンテレフタレートからなる。突出部18での厚さは約2mmであり、突出部18以外の領域である基板部17Aの厚さは約1mmである。そのため断熱シート11とセパレータ17とを合わせた断熱体14は、ともに平坦な両面を有する厚さ約4mmの板形状を有する。
【0022】
発熱機器16は動作状態では発熱機器16の中央部が最も大きく膨れようとする。この膨れようとする部分に当接している低圧縮領域13および突出部18は膨れようとする圧力に対してほとんど圧縮されないので、発熱機器16と筐体15との間に所定の間隔を確保するとともに絶縁性を確保することができる。
【0023】
低圧縮領域13と厚領域22は熱伝導率はほとんど同じであるが、低圧縮領域13がより薄い分だけ断熱性が小さくなる。したがって、断熱シート11の中で低圧縮領域13が占める割合は小さい方が好ましい。但しその割合が小さくなりすぎると発熱機器16の膨張に耐えにくくなる。そのため低圧縮領域13の断熱シート11に占める割合を、5%以上、30%以下とすることが望ましい。
【0024】
次に、実施の形態における断熱シート11とそれを用いた断熱体14と機器23の製造方法について説明する。
【0025】
まず厚さ約3mmのガラス繊維からなる繊維シート12を準備する。次にこの繊維シート12を例えばケイ酸ナトリウム水溶液に塩酸を添加してなるゾル溶液に浸漬し、繊維シート12の内部空間12Aの中にゾル溶液を含浸させる。繊維シート12の内部空間12Aに入ったゾル溶液をゲル化させ、疎水化、乾燥することにより、繊維シート12の内部空間12Aにシリカキセロゲル21を充填させることにより断熱シート11を得る。
【0026】
次に断熱シート11の一部に金型を用いて一部に圧力を加えて低圧縮領域13を形成する。このとき、断熱シート11の圧力が加わらない領域に厚領域22が形成される。このように、厚領域22と、厚領域22より薄く、0.7MPaの圧力を加えたときの圧縮率が5%以下である低圧縮領域13とを有する断熱シート11を得ることができる。金型を用いて断熱シート11に加えられる圧力は、0.7MPaより大きい例えば1MPaである。このように0.7MPaより大きな圧力を断熱シート11に加えることにより、0.7MPaの圧力を加えたときの断熱シート11すなわち低圧縮領域13の圧縮率を5%よりも小さくすることができる。
【0027】
次に低圧縮領域13に対応する部分に突出部18を設けたセパレータ17を樹脂成形により形成することで断熱体14を形成する。断熱体14を発熱機器16と筐体15との間に配置することで、機器23を形成する。
【0028】
断熱材を備えた機器の種類によっては断熱材に圧力が加わるものがある。断熱材に圧力が加わって圧縮されると断熱性能が劣化する場合がある。そのため圧力が加わっても所定の間隔を確保するとともに断熱性能が劣化しにくい断熱シートが求められている。
【0029】
実施の形態における断熱シート11は、前述のように、圧力が加わっても所定の間隔を確保するとともに断熱性能が劣化しにくい。
【0030】
図6は実施の形態における別の断熱シート111の断面図である。
図6において、
図2に示す断熱シート11と同じ部分には同じ参照番号を付す。
図2に示す断熱シート11はそのままの状態で用いてもかまわない。
図6に示す断熱シート111は、繊維シート12の両面に形成された保護層25をさらに備える。保護層25は、シリカキセロゲル21が断熱シート11から離脱することを防ぐ。保護層25は、低圧縮領域13を形成した後に形成されることが望ましい。
【0031】
なお
図2に示す断熱シート11はその中央部分のみに低圧縮領域13が設けられているが、他の位置に設けられていてもよい。
図7Aから
図7Dはそれぞれ実施の形態における別の断熱シート11A~11Dの平面図である。
図7Aから
図7Dにおいて、
図1と
図2に示す断熱シート11と同じ部分には同じ参照番号を付す。
図7Aに示す断熱シート11Aでは、中央部分および周辺部分に低圧縮領域13が設けられている。
図7Bに示す断熱シート11Bでは、低圧縮領域13は環形状を有して厚領域22を囲む。
図7Cに示す断熱シート11Cでは、低圧縮領域13はクロス形状を有する。
図7Dに示す断熱シート11Dでは、互いに分離している複数の低圧縮領域13が設けられている。
【符号の説明】
【0032】
11 断熱シート
12 繊維シート
13 低圧縮領域
14 断熱体
15 筐体
16 発熱機器
17 セパレータ
18 突出部
21 シリカキセロゲル
22 厚領域