(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076680
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】植物の機能性成分増加剤
(51)【国際特許分類】
A01N 37/42 20060101AFI20230525BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
A01N37/42
A01P21/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023062144
(22)【出願日】2023-04-06
(62)【分割の表示】P 2020150696の分割
【原出願日】2019-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2018168758
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野原 偏弘
(72)【発明者】
【氏名】大野 勝也
(57)【要約】
【課題】ストレス栽培や高含有品種を使用しなくとも、植物に適宜散布または灌注することで植物中の機能性成分量の増加を図ることのできる植物の機能性成分増加剤を提供することを目的とする。
【解決手段】式:HOOC-(R1)-C=C-C(=O)-R2(I)(式中、R1:直鎖または分岐の、炭素数6~12のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の二重結合を含んでいてもよく、R2:炭素数2~8のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい)の構造式を有するオキソ脂肪酸誘導体またはその塩を有効成分として含むことを特徴とする植物の機能性成分増加剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
HOOC-(R1)-C=C-C(=O)-R2 (I)
(式中、
R1:直鎖または分岐の、炭素数6~12のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の二重結合を含んでいてもよく、
R2:炭素数2~8のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい)
の構造式を有するオキソ脂肪酸誘導体またはその塩を有効成分として含むことを特徴とする植物の機能性成分増加剤。
【請求項2】
請求項1記載の植物の機能性成分増加剤であって、前記オキソ脂肪酸誘導体の、
R1のアルキル基の炭素数が8~10であり、
R2のアルキル基の炭素数が4~6である。
【請求項3】
請求項1または2記載の植物の機能性成分増加剤であって、前記オキソ脂肪酸誘導体の、
R1が、式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含む。
【請求項4】
請求項3記載の植物の機能性成分増加剤であって、前記オキソ脂肪酸誘導体の、
R1が、炭素数9のアルキル基であり、
R2が、炭素数5のアルキル基である。
【請求項5】
請求項4記載の植物の機能性成分増加剤であって、前記オキソ脂肪酸誘導体が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸またはその塩である。
【請求項6】
植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として用いられる請求項1~5のいずれか1項に記載の植物の機能性成分増加剤。
【請求項7】
前記植物の機能性成分が、抗酸化性機能性成分、アミノ酸類またはペプチド類である請求項1~6のいずれか1項に記載の植物の機能性成分増加剤。
【請求項8】
前記植物の機能性成分が、ビタミン類、ポリフェノール類、カロテノイド類、アミノ酸類およびそれらの組み合わせからなる群より選択される請求項1~7のいずれか1項に記載の植物の機能性成分増加剤。
【請求項9】
前記植物の機能性成分が、ビタミンC、ポリフェノール、ルテイン、βカロテン、リコピン、GABAからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~7のいずれか1項に記載の植物の機能性成分増加剤。
【請求項10】
ナス科、バラ科、セリ科、シソ科またはヒユ科の植物に対して使用されることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の植物の機能性成分増加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の機能性成分増加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの植物には、ビタミン類、カロテノイド、ポリフェノール類などの様々な機能性成分が含まれている。近年、健康志向から農作物に含まれるこれら機能性成分に対する関心が高まっており、特に、細胞や組織に損傷を与え、ガンや生活習慣病、老化を促進させる一因になっていると考えられる活性酸素等のラジカルを除去する抗酸化活性がある機能性成分や、生体のたんぱく質の構成ユニットでもあり様々な神経伝達物質として機能するアミノ酸、ペプチド類を多く含む農産物のニーズは高い。そこで、植物体中での有用な機能性成分の産生を有意に高めるための試みが行われてきている。
【0003】
植物に含まれる機能性成分の増収方法としては、特許文献1に紫外線を照射してイチゴの実に含まれるポリフェノールの量を増やす技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、紫外線を植物に照射すると植物の生態組織を破壊する場合があり、照射時間には限度があった。また、紫外線は人体に対する害も懸念され、作業者の安全を十分に確保できないという問題があった。
【0006】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたもので、植物の生体組織に悪影響がなく、植物に適宜散布または灌注することで安全に植物に含まれる機能性成分の量の増加を図ることのできる植物の機能性成分増加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の式:
HOOC-(R1)-C=C-C(=O)-R2 (I)
(式中、
R1:直鎖または分岐の、炭素数6~12のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の二重結合を含んでいてもよく、
R2:炭素数2~8のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい)
の構造式を有するオキソ脂肪酸誘導体またはその塩を有効成分として含むことを特徴とする植物の機能性成分増加剤に関する。
【0008】
前記オキソ脂肪酸誘導体が、前記オキソ脂肪酸誘導体のR1のアルキル基の炭素数が8~10であり、R2のアルキル基の炭素数が4~6であるオキソ脂肪酸誘導体である植物の機能性成分増加剤が好ましい。
【0009】
前記オキソ脂肪酸誘導体が、前記オキソ脂肪酸誘導体のR1が式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含むオキソ脂肪酸誘導体である植物の機能性成分増加剤が好ましい。
【0010】
前記オキソ脂肪酸誘導体が、前記オキソ脂肪酸誘導体のR1が、炭素数9のアルキル基であり、R2が、炭素数5のアルキル基であるオキソ脂肪酸誘導体である植物の機能性成分増加剤が好ましい。
【0011】
前記オキソ脂肪酸誘導体が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸またはその塩である植物の機能性成分増加剤が好ましい。
【0012】
前記植物の機能性成分増加剤が、植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として用いられる植物の機能性成分増加剤が好ましい。
【0013】
前記植物の機能性成分が、抗酸化性機能性成分、アミノ酸類またはペプチド類である植物の機能性成分増加剤が好ましい。
【0014】
前記植物の機能性成分が、ビタミン類、ポリフェノール類、カロテノイド類、アミノ酸類およびそれらの組み合わせからなる群より選択される植物の機能性成分増加剤が好ましい。
【0015】
前記植物の機能性成分が、ビタミンC、ポリフェノール、ルテイン、βカロテン、リコピン、GABAからなる群より選択される少なくとも1種である植物の機能性成分増加剤が好ましい。
【0016】
前記植物の機能性成分増加剤が、ナス科、バラ科、セリ科、シソ科またはヒユ科の植物に対して使用されることを特徴とする植物の機能性成分増加剤が好ましい。
【0017】
なお、本発明でいう植物の機能性成分増加剤は、植物内で機能性成分の生成促進および/または分解の抑制を起こさせ、植物中の機能性成分を増加させるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の植物の機能性成分増加剤は、ストレス栽培や高含有品種を使用しなくとも、植物に適宜散布または灌注することで植物の機能性成分を増加させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
植物の機能性成分増加剤
本発明の植物の機能性成分増加剤は、
オキソ脂肪酸誘導体であって、以下の式:
HOOC-(R1)-C=C-C(=O)-R2 (I)
(式中、
R1:直鎖または分岐の、炭素数6~12のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の二重結合を含んでいてもよく、
R2:炭素数2~8のアルキル基であって、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい)
の構造式を有するオキソ脂肪酸誘導体またはその塩を有効成分として含むことを特徴とする。本発明はまた、すべての幾何異性体および立体異性体を含む式(I)の化合物またはその塩を有効成分として含む植物の機能性成分増加剤に関する。
【0020】
オキソ脂肪酸誘導体またはその塩を植物の茎葉または根の一部に接触させることで、植物中に含まれる機能性成分の量を増加させることができる。一般的に行われるストレス栽培において増加する成分と同じ成分の植物体内での増加が確認できることから、本発明のオキソ脂肪酸誘導体またはその塩は、植物体に吸収されることによって、本来植物体内で環境ストレスによりシグナルとして産生され作用する分子と同様の作用を植物体内で行う物質および/またはその前駆体を含んでいると考えられる。すなわち、本発明のオキソ脂肪酸誘導体またはその塩により、植物が本来有しているストレス耐性機能を強化することができる。その結果、植物体内での機能性成分の生成促進および/または分解の抑制が起き、植物体内での機能性成分が増加される。
【0021】
オキソ脂肪酸は、不飽和脂肪酸代謝の中間体として生成されることが知られているいわゆる希少脂肪酸である。これら希少脂肪酸は、特にその生理活性などの様々な産業利用への応用という点から注目を集めている物質である。本発明においてオキソ脂肪酸誘導体またはその塩の一例として用いられる13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸は、炭素数18の、カルボニル基と2つの共役二重結合とを分子内にもつ化合物であって、酵素反応やその他の手段によって不飽和脂肪酸であるリノール酸から生成されるオキソ脂肪酸であり、希少脂肪酸の一つである。13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸は、天然ではトマトなどの植物中に存在していることが知られている。13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸は、脂質代謝改善等の生活習慣病を改善する活性が見いだされたことから、顕著な脂肪燃焼効果を示す機能性成分として、内外で活発な研究が行われている。
【0022】
しかしながら、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸などのオキソ脂肪酸誘導体またはその塩に、植物中に含まれる機能性成分の量を増加させる効果があることは知られていなかった。
【0023】
本発明の植物の機能性成分増加剤には、オキソ脂肪酸誘導体またはその塩が含まれていればよく、それらの由来などは特に限定されるものではない。すなわち、オキソ脂肪酸誘導体またはその塩としては、市販品を用いてもよいし、トマトなど植物中に含まれているものをそのまま、または、抽出および/または精製して用いてもよい。あるいは、オキソ脂肪酸誘導体またはその塩は、上述のように、酵素、例えば微生物由来の酵素を不飽和脂肪酸などの基質に作用させて得られるものであってもよいし、また、例えば化学合成によって得られるものでもよく、さらに微生物を用いて製造されるものなどであってもよい。例えば、オキソ脂肪酸誘導体またはその塩は、原料としてリノール酸を用いて、リポキシゲナーゼ(LOX)および/または脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)、例えばアルコール脱水素酵素(ADH)などの作用により酵素的に変換することによって、または、金属触媒を用いた触媒反応を介して、製造され得る。このようにして得られたオキソ脂肪酸誘導体またはその塩は、必要に応じて、所望の濃度で、または、適度に希釈されて、植物中の機能性成分増加のために使用することができる。
【0024】
なお、オキソ脂肪酸には、上述のように、(E,E体)、(Z,E体)、(E,Z体)、(Z,Z体)などの異性体が存在することが知られているが、これら異性体の植物の機能性成分増加剤における効果は同様である。したがって、本発明において、例えばオキソ脂肪酸誘導体またはその塩の一例として用いられ得る13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸は、その異性体をすべて含むものとされる。すなわち、本発明の植物の機能性成分増加剤に含まれるオキソ脂肪酸は、どのような異性体として植物の機能性成分増加剤中に存在していても、植物の機能性成分増加剤として同様の効果を奏する。
【0025】
また、本発明の植物の機能性成分増加剤には、所望の濃度のオキソ脂肪酸誘導体またはその塩が含まれていればよい。例えばオキソ脂肪酸誘導体またはその塩として、オキソ脂肪酸誘導体を含有する混合物が使用されてもよい。
【0026】
本発明の植物の機能性成分増加剤には、オキソ脂肪酸誘導体が塩の形で存在していてもよく、塩としては例えば、アンモニウム塩、金属塩などが挙げられる。金属塩としては1価の金属イオンを生成するものが望ましく、例えばこれらに限定される訳ではないが、ナトリウム塩およびカリウム塩が好適に用いられ得る。
【0027】
本発明の植物の機能性成分増加剤は、天然物であるオキソ脂肪酸誘導体またはその塩を含むことを特徴とするため、土壌汚染や毒性に関わる問題を引き起こすことなく、植物中に含まれる機能性成分の量を増加させることがでる。すなわち、本発明の植物の機能性成分増加剤を用いることによって、安全かつ簡便に、植物中の機能性成分を増大させることができる。
【0028】
本発明の植物の機能性成分増加剤は、施用される植物において、PR1、PR2、PDF1.2などのストレス応答遺伝子の発現を誘導することができる。例えば、ナス科の植物であれば、PR1a、LOXD等のストレス応答遺伝子の発現を誘導することができる。この結果、植物の種類・品種や生育ステージ、また栽培環境や季節に依存して、クチクラの発達、トライコームの発達、毛根発生促進、抗酸化物質の生成量増加、水分蒸散防止機能の促進(プロリンなどの生産増加や葉を厚くする)、茎が太くなる、などが起こる。すなわち、本発明の植物の機能性成分増加剤は、植物が本来有しているストレス耐性機能を強化する。したがって、ストレス栽培を用いずとも、植物の機能性成分を増加させることができる。ストレス栽培や高含有品種を使用した場合に発生する収量の低下や病害虫に対する抵抗性の低下といった問題が生じない。本発明の植物の機能性成分増加剤によれば、従来の栽培方法を変えることなく簡便な処理によって植物のストレス耐性機能を向上させ、植物に含まれる機能性成分量を増加させることができる。
【0029】
本発明によって含量が増加する機能性成分としては、例えば、ビタミン類、ポリフェノール類、カロテノイド類、ペプチド類、アミノ酸類などを挙げることができる。ビタミン類としてはビタミンC、ポリフェノール類としては、例えば、クロロゲン酸、スコポレチン、シナピン酸、シナピルアルデヒドなどが挙げられる。カロテノイド類としてはβカロテンやルテイン、リコピンなどが挙げられる。ペプチド類、アミノ酸類としてはGABA、グルタミン酸やこれらが脱水縮合して結合したペプチドなどが挙げられる。本発明の植物の機能性成分増加剤によって、これらの機能性成分の少なくとも1つが増加され得る。
【0030】
本発明を適用することのできる植物は、特に限定されないが、例えば、ナス科、アブラナ科、キク科、マメ科、ユリ科、バラ科、セリ科、シソ科またはヒユ科の植物が挙げられる。例えば、レタス、ホウレンソウ、コマツナ、ミズナ、キャベツ、葉大根、白菜、シソなどの葉菜類、ロメインレタス、ビーツ、コマツナ、ホウレンソウ、ミズナ、ルッコラ、カラシナ、ケール、チコリーなどのベビーリーフ類、カンゾウ、マオウなどの薬草、トマト、ナス、キュウリ、ピーマン、パプリカ、オクラ、トウガラシ、カボチャ、イチゴ、ブルーベリーなどの果菜類、ダイズなどの豆類、ネギ、タマネギ、ニンジン、レンコン、ゴボウ、ダイコン、ジャガイモなどの根菜類などに施用することができる。
【0031】
植物はどのように栽培されていてもよく、すなわち土壌に植え付けられていても、また水耕液に浸して栽培されていてもよい。本発明の植物の機能性成分増加剤は、任意の方法で施用することができ、例えば、植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として使用され得る。特殊な設備等を用意せずとも、本発明の植物の機能性成分増加剤を散布等するだけで植物の機能性成分を増加させることができるため、本発明は非常に有利である。
【0032】
本発明はまた、前述した栽培方法により栽培した機能性成分が増加した植物に関する。そのような植物は、食用として或いは化粧品や医薬品、サプリメントなどの原料として有用であると考えられる。
【実施例0033】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0034】
試験用植物の機能性成分増加剤の調製
原料として、純度80%のリノール酸(和光純薬工業株式会社製)2.8gを用い、これに炭酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)7g、および、蒸留水300mlを加えて反応溶液を調製した。この時の反応溶液のpHは11であった。
【0035】
反応溶液にリポキシゲナーゼ(シグマアルドリッチ社製、Glycine max由来)を0.2mg添加し、30℃で24時間反応させたのち、反応混合物を90℃の湯浴中に5分間置いて、酵素を失活させた。
【0036】
酵素を失活させた反応溶液を室温に戻した後に、アルコール脱水素酵素(和光純薬工業株式会社製、Yeast由来)を0.2mg添加し、30℃にてさらに24時間反応させた。
【0037】
反応終了後の反応溶液中の生成物を、ケイマンケミカル社製の13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸を標準物質としてMS2スペクトル解析を用いてLC-MSにて同定し、検出波長 UV 272nmで、絶対検量線法により定量を行った。
【0038】
(E,E体)、(E,Z体)などの異性体の合算収率として、3.5%の収率で13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸を得た。なお、収率(%)は以下の式に基づいて求めた。
収率(%)=
(生成した13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸のwt%)/ (使用した原料リノール酸の初期wt%)
【0039】
製造された13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸およびその異性体を用いて約300ppmのカリウム塩水溶液を調製し、試験用植物の機能性成分増加剤とし、下記の評価を行った。
【0040】
イチゴにおける機能性成分増加効果
・実施例1
イチゴ(品種:紅ほっぺ)を土耕栽培、一般肥料溶液灌注により7~9株栽培した。開花結実が始まる直前に、上記試験用植物の機能性成分増加剤を水で4000倍希釈した希釈液を用いて、6日に一度の頻度で2回、1株あたり約100mlの割合で株元に灌注処理した。収穫は灌注処理直後に行い、収穫した果実から15個を無作為に選んで後の分析に供した。
・比較例1
試験用植物の機能性成分増加剤の代わりに、灌注する溶液を水とした以外は、実施例1と同様に試験を行った。
【0041】
ホウレンソウにおける機能性成分増加効果
・実施例2
ホウレンソウ(品種:弁天)をハウス土耕栽培により50株程度栽培した。本葉展開後に、上記試験用植物の機能性成分増加剤を水で4000倍希釈した希釈液を用い、1株あたり約20mlの割合で葉面に散布処理した。処理後15日間栽培し、収穫した。収穫した株から無作為に5株を選んで後の分析に供した。
・比較例2
試験用植物の機能性成分増加剤の代わりに、灌注する溶液を水とした以外は、実施例2と同様に試験を行った。
【0042】
ニンジンにおける機能性成分増加効果
・実施例3
ニンジン(品種:向陽2号)を土耕栽培により60株程度栽培した。本葉展開後に、上記試験用植物の機能性成分増加剤を水で4000倍希釈した希釈液を用いて、7日に一度の頻度で8回、1株あたり約50mlの割合で葉面に散布処理した。処理の開始から60日後に成長したニンジン根部を採取した。採取した株から無作為に6株を選んで後の分析に供した。
・比較例3
試験用植物の機能性成分増加剤の代わりに、灌注する溶液を水とした以外は、実施例3と同様に試験を行った。
【0043】
シソにおける機能性成分増加効果
・実施例4
シソ(大葉;品種:香り青大葉)を土耕栽培により20株程度栽培した。本葉展開後に、上記試験用植物の機能性成分増加剤を水で4000倍希釈した希釈液を用いて、7日に一度の頻度で4回、1株あたり約100mlの割合で葉面散布した。処理の開始から30日後に成長した葉部を採取し、採取した葉部から無作為に選んだ800g分を後の分析に供した。
・比較例4
試験用植物の機能性成分増加剤の代わりに散布する溶液を水とした以外は、実施例4と同様とした。
【0044】
ナスにおける機能性成分増加効果
・実施例5
ナス(品種:千両2号)を土耕栽培により5株栽培した。本葉展開後に、上記試験用植物の機能性成分増加剤を水で4000倍希釈した希釈液を用いて、7日に一度の頻度で4回、1株あたり約100mlの割合で株元灌注した。処理の開始から30日後に成長した果実部を採取し、採取した果実部から無作為に選んだ2kg分を後の分析に供した。
・比較例5
試験用植物の機能性成分増加剤の代わりに灌注する溶液を水とした以外は、実施例5と同様とした。
【0045】
トマトにおける機能性成分増加効果
・実施例6
ハウス内栽培のミニトマト2株を水耕栽培した。定植約2カ月後以降より上記試験用植物の機能性成分増加剤を1~2ml、7日に一度の頻度で株元に添加した。処理以降収穫されるミニトマトから無作為に選んだ3~5個を分析に供し、9週間分の値を平均し分析値とした。
・比較例6
試験用植物の機能性成分増加剤の代わりに添加する溶液を水とした以外は、実施例6と同様とした。
【0046】
実施例1~6および比較例1~6で得られた各野菜の可食部(すなわちイチゴは果実、ホウレンソウは地上部、ニンジンは根部、大葉は葉部、ナスとトマトは果実部)に含まれる機能性成分の量および機能性を評価した。具体的にはイチゴはミキサーですりつぶした試料1gをエタノール10mlにて抽出した。トマトはミキサーですりつぶした試料1gを水7mlにて抽出(GABAの分析用)、残った残渣をアセトン8mlで抽出(リコピンの分析用)した。残りの各野菜についてはデザイナーフーズ株式会社に野菜を送付し、分析委託を行った。
【0047】
可食部中の機能性成分としては、各野菜に一般的に含まれることが知られている機能性成分を評価した。具体的には、イチゴではフォーリン・チオカルト法により総ポリフェノール量を測定し、また、ホウレンソウではルテインを、ニンジンではβカロテン、トマトではリコピン、GABAをHPLC法で、総アントシアニン量は紫外可視分光法で、ビタミンCはRQflex(登録商標)(メルク社製)リフレクトメーターを用いて測定した。得られた結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
可食部の機能性指標としては、各試料の抗酸化性を評価した。具体的には、各試料の抗酸化力として、代表的な活性酸素であるスーパーオキシドアニオン、ヒドロキシラジカルおよび一重項酸素に対する試料のスーパーオキシド消去能、ヒドロキシラジカル消去能および一重項酸素消去能を電子スピン共鳴装置(ESR)により、ならびに、試料のDPPH(1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル)ラジカル消去能を吸光光度法により、測定して、各試料の抗酸化性を調べた(デザイナーフーズ株式会社に分析委託)。結果を表2に示す。なお、表中、ヒドロキシラジカル消去能は、DMSO相当量(μmolDMSO)であり、一重項酸素消去能は、His相当量(μmolHis)であり、DPPHラジカル消去能は、標準物質にTroloxを用いたTrolox相当量(mgTE)であり、スーパーオキシド消去能の値は、1gの試料が相当するスーパーオキシドジムスターゼ(SOD)のユニット数である。
【0050】
【0051】
表1に示されるように、試験用植物の機能性成分増加剤で処理された実施例の野菜に含有される機能性成分量は、比較例に比べて1.1倍~1.5倍に増加していた。またそれに伴い、表2に示されるように、実施例の野菜の抗酸化性も1.1倍~1.4倍程度上昇していた。なお、実施例4のシソについては、上記抗酸化指標の測定による抗酸化性の評価は行わなかった。これは、表1に示されるように実施例4のシソでは、抗酸化機能の評価においてポジティブコントロールとしても使用されるビタミンCの量が30%も上昇したという実験結果から、試験用植物の機能性成分増加剤で処理されたシソではビタミンCの増加によって抗酸化性が上昇していることは明らかであると推察されたためである。また、実施例6のトマトについても抗酸化性の評価は行っていない。これは表1に示されるようにリコピンの増加により抗酸化性の増加が自明であると考えられたからである。リコピンは一般的に知られている脂溶性の抗酸化成分であるビタミンEの抗酸化力をはるかにしのぎ、βカロテンやルテインなどの他のカロテノイド類のなかでも群を抜いた強力な抗酸化作用を持っていることが広く認知されている。また、表1にあるようにトマトにおいて増加したもう一つの機能性成分であるGABAはγ-アミノ酪酸とも呼ばれるアミノ酸類の一種で、抗酸化作用は弱いもののヒトの体内では抑制系の神経伝達物資として作用する機能性成分であることが分かっており、そのリラックス作用、抗ストレス作用で多くのサプリなど栄養強化食品に使用されている。これらの結果から、本発明の植物の機能性成分増加剤が植物に含まれる機能性成分量を増大させていること、さらに、抗酸化活性がある機能性成分量を増大させることによって抗酸化性などの機能性指標を明らかに向上させていることがわかる。
【0052】
上記の結果より、本発明の植物の機能性成分増加剤が、顕著な植物機能性成分生成促進および/または植物機能性成分分解抑制効果を有するものであり、植物体内の機能性成分の増加効果に優れた植物の機能性成分増加剤であることがわかる。