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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076734
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】岸壁構造および岸壁構造の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20230525BHJP
【FI】
E02B3/06
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023062896
(22)【出願日】2023-04-07
(62)【分割の表示】P 2019046915の分割
【原出願日】2019-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2018207160
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】持田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】妙中 真治
(72)【発明者】
【氏名】久保田 一男
(72)【発明者】
【氏名】吉原 健郎
(72)【発明者】
【氏名】永尾 直也
(72)【発明者】
【氏名】武野 正和
(72)【発明者】
【氏名】阿形 淳
(72)【発明者】
【氏名】中村 直志
(72)【発明者】
【氏名】笠原 宏紹
(72)【発明者】
【氏名】松原 朋裕
(57)【要約】
【課題】適度な曲げ剛性をもった部材で土留め壁を構成することによって、施工性を高めつつ鋼材量の増加を抑制する。
【解決手段】水平断面において地盤側に凸な凸形状に配列された複数の鋼管矢板と、複数の鋼管矢板を互いに連結する継手と、凸形状の両端に位置する鋼管矢板に連結される支持杭構造体とを備える岸壁構造が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平断面において地盤側に凸な凸形状に配列された複数の鋼管矢板と、
前記複数の鋼管矢板を互いに連結する継手と、
前記凸形状の両端に位置する鋼管矢板に連結される支持杭構造体と、を備え、
前記凸形状の中央において、前記複数の鋼管矢板の打設深さが前記凸形状の両端よりも浅い、岸壁構造。
【請求項2】
前記支持杭構造体よりも海側に位置する控え杭構造体と、前記支持杭構造体を前記控え杭構造体に連結する圧縮部材とをさらに備える、請求項1に記載の岸壁構造。
【請求項3】
前記地盤に貫入するアンカー体と、前記支持杭構造体を前記アンカー体に連結する引張部材とをさらに含む、請求項1に記載の岸壁構造。
【請求項4】
前記凸形状は、円弧状、放物線状もしくは双曲線状のアーチ形状、または逆V字形状である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の岸壁構造。
【請求項5】
前記複数の鋼管矢板のそれぞれは、前記地盤の円弧すべり面よりも深くまで打設される、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の岸壁構造。
【請求項6】
前記複数の鋼管矢板は、第1の鋼管矢板および第2の鋼管矢板を含み、
前記継手は、前記第1の鋼管矢板の周面に間隔を開けて接合される1対の雌側継手部材と、前記第2の鋼管矢板の周面に間隔を開けて接合される1対の雄側継手部材と、前記雌側継手部材、前記雄側継手部材、ならびに前記第1および第2の鋼管矢板の周面で囲まれた領域に充填される充填材とを含み、
前記1対の雌側継手部材は、それぞれが内側を向いた逆L字状になるように配置され、
前記1対の雄側継手部材は、それぞれが外側を向いた逆L字状になるように配置されて前記1対の雌側継手部材の内側に係合する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の岸壁構造。
【請求項7】
複数の鋼管矢板を、継手で互いに連結しながら、水平断面において地盤側に凸な凸形状が形成されるように順次打設する工程と、
前記凸形状の両端に位置する鋼管矢板に支持杭構造体を連結する工程と、を含み、
前記複数の鋼管矢板は、前記凸形状の中央において、前記凸形状の両端よりも浅く打設される、岸壁構造の構築方法。
【請求項8】
前記支持杭構造体よりも海側に位置し、圧縮部材で前記支持杭構造体に連結される控え杭構造体を構築する工程をさらに含む、請求項7に記載の岸壁構造の構築方法。
【請求項9】
前記地盤に貫入し、引張部材で前記支持杭構造体に連結されるアンカー体を構築する工程をさらに含む、請求項7に記載の岸壁構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岸壁構造および岸壁構造の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
岸壁構造では、海底面よりも深くまで打設された鋼製の土留め壁が背面土圧に対抗する。土留め壁を構成する鋼材としては、地中への打設が容易であることから鋼矢板や鋼管矢板が一般的に用いられている。土留め壁に作用する背面土圧は、例えば海側に構築されるジャケット構造に伝達されるが、控え工は土留め壁が延びる水平方向について間欠的に配置されるため、ジャケット構造の間にあたる部分では背面土圧を土留め壁の曲げ剛性で支持することになる。従って、背面土圧が大きい場合には、土留め壁を構成する鋼矢板や鋼管矢板の断面を増加させて剛性を高めたり、鋼矢板や鋼管矢板を横断して延びる腹起し工を追加したりして土留め壁の曲げ剛性を高める必要があった。
【0003】
これに対して、特許文献1では、シート状の部材、例えば直線鋼矢板を用いて海側に凸なアーチ形状の土留め壁を構成する技術が提案されている。この場合、背面土圧を土留め壁の水平方向の張力で支持することになるため、土留め壁の曲げ剛性は低くてもよい。従って、断面の増加や腹起し工の追加による鋼材量の増加を抑制しつつ、背面土圧に対抗することが可能な鋼矢板壁を構築することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-194867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、土留め壁を構成する部材の曲げ剛性が低いために、土留め壁を打設するときの施工性が高くない。つまり、打設後に背面土圧を張力で支持できるように部材の曲げ剛性をあえて低くしているため、土留め壁の施工時に地中に打設される部材に壁厚方向の曲がりが生じやすい。
【0006】
そこで、本発明は、適度な曲げ剛性をもった部材で土留め壁を構成することによって、施工性を高めつつ鋼材量の増加を抑制することが可能な岸壁構造および岸壁構造の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある観点によれば、水平断面において地盤側に凸な凸形状に配列された複数の鋼管矢板と、複数の鋼管矢板を互いに連結する継手と、凸形状の両端に位置する鋼管矢板に連結される支持杭構造体とを備える岸壁構造が提供される。
【0008】
上記の岸壁構造は、支持杭構造体よりも海側に位置する控え杭構造体と、支持杭構造体を控え杭構造体に連結する圧縮部材とをさらに備えてもよい。
【0009】
上記の岸壁構造は、地盤に貫入するアンカー体と、支持杭構造体をアンカー体に連結する引張部材とをさらに備えてもよい。
【0010】
上記の岸壁構造において、凸形状は、円弧状、放物線状もしくは双曲線状のアーチ形状、または逆V字形状であってもよい。
【0011】
上記の岸壁構造において、凸形状の中央において、複数の鋼管矢板の打設深さが凸形状の両端よりも浅くてもよい。
【0012】
上記の岸壁構造において、複数の鋼管矢板のそれぞれは、地盤の円弧すべり面よりも深くまで打設されてもよい。
【0013】
上記の岸壁構造において、複数の鋼管矢板は、第1の鋼管矢板および第2の鋼管矢板を含み、継手は、第1の鋼管矢板の周面に間隔を開けて接合される1対の雌側継手部材と、第2の鋼管矢板の周面に間隔を開けて接合される1対の雄側継手部材と、雌側継手部材、雄側継手部材、ならびに第1および第2の鋼管矢板の周面で囲まれた領域に充填される充填材とを含み、1対の雌側継手部材は、それぞれが内側を向いた逆L字状になるように配置され、1対の雄側継手部材は、それぞれが外側を向いた逆L字状になるように配置されて1対の雌側継手部材の内側に係合してもよい。
【0014】
本発明の別の観点によれば、複数の鋼管矢板を、継手で互いに連結しながら、水平断面において地盤側に凸な凸形状が形成されるように順次打設する工程と、凸形状の両端に位置する鋼管矢板に支持杭構造体を連結する工程とを含む、岸壁構造の構築方法が提供される。
【0015】
上記の岸壁構造の構築方法は、支持杭構造体よりも海側に位置し、圧縮部材で支持杭構造体に連結される控え杭を構築する工程をさらに含んでもよい。
【0016】
上記の岸壁構造の構築方法は、地盤に貫入し、引張部材で支持杭構造体に連結されるアンカー体を構築する工程をさらに含んでもよい。
【0017】
上記の岸壁構造の構築方法において、複数の鋼管矢板は、凸形状の中央において、凸形状の両端よりも浅く打設されてもよい。
【発明の効果】
【0018】
上記の構成によれば、複数の鋼管矢板によって構成される土留め壁の形状を地盤側に凸にすることで、背面土圧が土留め壁の内部で圧縮力として伝達されるため、少なくとも施工時に曲がりを生じない程度の曲げ剛性をもった鋼管矢板で土留め壁を構成することができ、これによって施工性が向上する。また、凸形状に配列された複数の鋼管矢板によって構成される土留め壁が背面土圧に対して全体として大きな曲げ剛性をもつため、それぞれの鋼管矢板の断面を大きくしたり、腹起し工などの追加の部材を配置したりしなくてよい。つまり、本発明では、適度な曲げ剛性をもった部材で土留め壁を構成することによって、施工性を高めつつ鋼材量の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る岸壁構造の平面図である。
図2図1に示す継手の拡大図である。
図3図1のIII-III線断面図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係る岸壁構造の平面図である。
図5】第1の実施形態および第2の実施形態における土留め壁のアーチ形状についての検討結果を示すグラフである。
図6】第1の実施形態および第2の実施形態における継手の幅についての検討結果を示すグラフである。
図7】本発明の第3の実施形態に係る岸壁構造の平面図である。
図8】本発明の第4の実施形態に係る岸壁構造の平面図である。
図9】土留め壁の配列がアーチ形状の場合の第1鋼管矢板にかかる力を示す図である。
図10】土留め壁の配列が逆V字形状の場合の第1鋼管矢板にかかる力を示す図である。
図11】第1鋼管矢板が鋼管杭に連結される角度と、第1鋼管矢板に作用する圧縮力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る岸壁構造の平面図である。図1に示されるように、岸壁構造1は、水平断面において地盤G側に凸なアーチ形状に配列された複数の鋼管矢板2と、複数の鋼管矢板2を互いに連結する継手3と、アーチ形状の両端に位置する鋼管矢板2Aに継手3を介して連結される鋼管杭4Aおよびジャケットレグ4Bを含む支持杭構造体4とを含む。継手3によって、複数の鋼管矢板2の間で圧縮荷重およびせん断荷重が伝達される。図示された例において、岸壁構造1は、支持杭構造体4よりも海側に位置する控え杭構造体5と、支持杭構造体4を控え杭構造体5に連結する圧縮部材である梁6とをさらに含み、控え杭構造体5は鋼管杭5Aおよびジャケットレグ5Bを含む。
【0022】
図2は、図1に示す継手の拡大図である。継手3は、例えば特公昭49-22404号公報や地盤工学会誌第62巻第4号(2014年)、p.42-43「鋼管矢板に用いる広幅継手『Wide Junction(登録商標)』」などに記載されたような、鋼管矢板2同士を水平方向に連結しつつ、圧縮荷重およびせん断荷重を伝達することが可能な継手である。具体的には、継手3は、一方の鋼管矢板2の周面に間隔Wを開けて接合される1対の雌側継手部材3Aと、他方の鋼管矢板2の周面に間隔Wを開けて接合される1対の雄側継手部材3Bと、雌側継手部材3A、雄側継手部材3B、およびそれぞれの鋼管矢板2の周面で囲まれた領域に充填される充填材3Cとを含む。1対の雌側継手部材3Aは、例えば山形鋼であり、それぞれが内側を向いた逆L字状になるように配置される。1対の雄側継手部材3Bも、例えば山形鋼であり、それぞれが外側を向いた逆L字状になるように配置されて1対の雌側継手部材3Aの内側に係合する。ここで、「逆L字状」は、雌側継手部材3Aおよび雄側継手部材3Bが接合されるそれぞれの鋼管矢板2の側から見た場合の断面形状である。充填材3Cには、モルタル、セメント、またはコンクリートなどを用いることができる。
【0023】
複数の鋼管矢板2は、例えば上記のような継手3によって互いに連結されて、地盤G側に凸なアーチ形状の土留め壁を形成する。アーチ形状の土留め壁は背面土圧に対して全体として大きな曲げ剛性をもつため、それぞれの鋼管矢板2の曲げ剛性を単独で背面土圧に対抗できるほど高くしなくてもよい。背面土圧は、土留め壁の内部で圧縮力として伝達され、最終的にはアーチ形状の両端に位置する鋼管矢板2Aから支持杭構造体4に伝達される。従って、岸壁構造1では、鋼管矢板2から支持杭構造体4に背面土圧を伝達するための腹起し工などの部材を設けなくてもよい。また、背面土圧を土留め壁の内部で張力として伝達する場合とは異なり、土留め壁を構成する部材が曲げ剛性をもつことが許容されるため、少なくとも施工時に曲がりを生じない程度の曲げ剛性をもった鋼管矢板2で土留め壁を構成することができ、これによって施工性が向上する。
【0024】
図3は、図1のIII-III線断面図である。なお、図3では一部の鋼管矢板2および継手3の図示を省略している。図3に示されるように、支持杭構造体4において、ジャケットレグ4Bは鋼管杭4Aの上部に被さるように配置される。アーチ形状の両端に位置する鋼管矢板2Aは、図示された例のようにジャケットレグ4Bよりも深くまで打設され、寸法の異なる継手3(図示せず)を用いてジャケットレグ4Bおよび鋼管杭4Aのそれぞれに連結されてもよい。あるいは、鋼管矢板2Aの打設深さが浅い場合には、鋼管矢板2Aがジャケットレグ4Bだけに連結されてもよい。
【0025】
また、図3に示されるように、岸壁構造1では、複数の鋼管矢板2の打設深さが、土留め壁のアーチ形状の中央において、アーチ形状の両端よりも浅くなっている。具体的には、図1および図3に示されたアーチ形状の中央の鋼管矢板2Bの打設深さは、アーチ形状の両端の鋼管矢板2Aの打設深さよりも浅くなっている。ここで、土留め壁の構築にあたり、複数の鋼管矢板2のそれぞれは、地盤Gの円弧すべり面Cよりも深くまで打設されることが望ましい。円弧すべり面Cは海岸から離れるにつれて浅くなるため、複数の鋼管矢板2が地盤G側に凸なアーチ形状に配列されていることによって、アーチ形状の中央の鋼管矢板2Bの打設深さは、アーチ形状の両端の鋼管矢板2Aの打設深さよりも浅くてよくなる。
【0026】
次に、本実施形態に係る岸壁構造の構築方法の例について概略的に説明する。まず、支持杭構造体4の鋼管杭4Aを打設し、次に鋼管杭4Aにジャケットレグ4B、梁6およびジャケットレグ5Bを含むジャケット構造体を据え付け、さらにジャケットレグ5Bをガイドとして控え杭構造体5の鋼管杭5Aを打設する。これによって、支持杭構造体4および控え杭構造体5が構築される。その後、複数の鋼管矢板2を、継手3で互いに連結しながら、上述したようなアーチ形状が形成されるように順次打設する工程と、支持杭構造体4を構成するジャケットレグ4B(または鋼管杭4A)をアーチ形状の両端に位置する鋼管矢板2Aに連結する工程とが実施される。
【0027】
なお、本実施形態に係る岸壁構造の施工方法は上記の例には限られず、例えば仮杭などを用いてジャケット構造体(ジャケットレグ4B、梁6およびジャケットレグ5B)を先行して据え付け、ジャケットレグ4B,5Bをガイドとして鋼管杭4A,5Aをそれぞれ打設してもよい。また、ジャケット構造体の上方には、岸壁のエプロン部分を構成する上部工(図示せず)が設置されてもよい。
【0028】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る岸壁構造の平面図である。図4に示されるように、岸壁構造1Aは、第1の実施形態と同様の複数の鋼管矢板2および継手3を含む。第1の実施形態との違いとして、本実施形態では、支持杭構造体4がジャケットレグを含まず、アーチ形状の両端に位置する鋼管矢板2Aは継手3を介して鋼管杭4Aに連結される。図示された例において、岸壁構造1Aは、地盤Gに貫入するアンカー体7と、鋼管杭4Aをアンカー体7に連結する引張部材であるタイロッド8とを含む。このようにして、本実施形態では、地盤G側に凸なアーチ形状の土留め壁から鋼管杭4Aに伝達された背面土圧が、タイロッド8およびアンカー体7を介して地盤Gによって支持される。
【0029】
本実施形態でも、上記の第1の実施形態と同様に、アーチ形状の土留め壁が背面土圧に対して全体として大きな曲げ剛性をもつため、鋼管矢板2については径方向の圧縮に対する剛性が確保される以上に断面を増加させなくてもよい。鋼管矢板2から鋼管杭4Aに背面土圧を伝達するための腹起し工などの部材も不要である。また、本実施形態でも、少なくとも施工時に曲がりを生じない程度の曲げ剛性をもった鋼管矢板2で土留め壁を構成することができることによって施工性が向上する。
【0030】
本実施形態に係る岸壁構造は、例えば、地盤に貫入させられたタイロッド8の先端にアンカー体7を構築するとともに、タイロッド8に支持杭構造体4の鋼管杭4Aを連結する。その後、複数の鋼管矢板2を、継手3で互いに連結しながら、上述したようなアーチ形状が形成されるように順次打設する工程と、支持杭構造体4の鋼管杭4Aをアーチ形状の両端に位置する鋼管矢板2Aに連結する工程とが実施される。
【0031】
図5は、上記の第1の実施形態および第2の実施形態における土留め壁のアーチ形状についての検討結果を示すグラフである。上記の実施形態において、複数の鋼管矢板2によって構成される土留め壁のアーチ形状は、例えば円弧状、放物線状または双曲線状でありうるが、その形状は、図1に示したアーチ形状の支間長Lに対するライズfの比(ライズ比)f/Lで規定することができる。図5のグラフは、鋼管矢板2の直径(鋼管径)が800mm、1200mm、および1600mm(板厚はいずれも11mm)である場合の土留め壁の単位幅あたりの断面二次モーメント(mm/mm)とライズ比との関係を示す。
【0032】
グラフに示されるように、ライズ比が0、すなわち鋼管矢板2がアーチ形状ではなく直線状に配置される場合、断面二次モーメントは鋼管径が大きいほど大きくなる。土留め壁をアーチ形状にし、ライズ比が0よりも大きくなると、どの鋼管径でも断面二次モーメントは増加するが、1つの指標として、ライズ比が0.27になると、鋼管径800mmの場合の断面二次モーメントが、鋼管径1600mmの場合の直線状の配置(ライズ比が0)の断面二次モーメントと同等になる。また、ライズ比が0.3になると、鋼管径800mmの場合の断面二次モーメントは、同じ鋼管径800mmの直線状の配置の断面二次モーメントの約5倍になる。
【0033】
上記のような検討結果から、1つの基準として、鋼管矢板2が配置されるアーチ形状のライズ比を、0.27以上、または0.3以上としてもよい。なお、例えば鋼管径が1200mmまたは1600mmである場合には、図5のグラフに示されるようにライズ比に対する断面二次モーメントの増加率が高いため、0.27よりも小さいライズ比でも十分な効果が得られる。また、鋼管径が800mmの場合も、必要とされる断面二次モーメントがより小さい場合には、ライズ比が上記の範囲よりも小さくてもよい。
【0034】
図6は、上記の第1の実施形態および第2の実施形態における継手の幅についての検討結果を示すグラフである。図2に示すように、上記の実施形態において、継手3は、所定の幅W(雄側で幅W、雌側で幅W)でそれぞれの鋼管矢板2に接合される。図6のグラフは、鋼管矢板2の直径(鋼管径)が800mm、板厚tが1.3mmである場合に、継手3の接合幅Wごとに、それぞれの鋼管矢板2で継手3の反対側にかかる圧縮荷重(kN)と鋼管矢板2のひずみによる変位(mm)との関係を示す。
【0035】
グラフに示されるように、接合幅Wが0の場合、すなわち、上記で図2に示したような継手ではなく、実質的に幅をもたないピン状の継手の場合に対して、接合幅W(mm)が大きくなるほど荷重に対する変位が小さくなり、また最大荷重も増大する。この結果から、上記の実施形態では、幅Wをもった継手3が鋼管矢板2を連結することによって、鋼管矢板2と継手3とを合わせた構造体の圧縮荷重に対する剛性が向上している。
【0036】
(第3の実施形態)
図7は、本発明の第3の実施形態に係る岸壁構造の平面図である。図7に示されるように、岸壁構造1Bは、第1の実施形態と同様の複数の鋼管矢板2、継手3、支持杭構造体4、控え杭構造体5、および梁6を含む。第1の実施形態との違いとして、本実施形態では、複数の鋼管矢板2が、水平断面において地盤G側に凸な逆V字形状に配列される。それ以外の構成については、第1の実施形態と同様であるため重複した説明は省略する。
【0037】
(第4の実施形態)
図8は、本発明の第4の実施形態に係る岸壁構造の平面図である。図8に示されるように、岸壁構造1Cは、第2の実施形態と同様の複数の鋼管矢板2、継手3、支持杭構造体4、アンカー体7、およびタイロッド8を含む。第2の実施形態との違いとして、本実施形態では、複数の鋼管矢板2が、上記の第3の実施形態と同様に水平断面において地盤G側に凸な逆V字形状に配列される。それ以外の構成については、第2の実施形態と同様であるため重複した説明は省略する。
【0038】
上記の第3の実施形態および第4の実施形態のように複数の鋼管矢板2を逆V字形状に配列する場合、土留め壁が背面土圧に対して全体としてもつ曲げ剛性が、第1の実施形態および第2の実施形態で複数の鋼管矢板2をアーチ形状に配列する場合よりも大きくなる。この曲げ剛性が発揮されることによって、既に述べたようにそれぞれの鋼管矢板2の曲げ剛性を抑えることができるのに加え、土留め壁を構成する複数の鋼管矢板2の根入れ深さをより深くし、土留め壁自体により大きな地盤G側からの背面土圧を負担させることもできる。この場合、例えば第3の実施形態における控え杭構造体5および梁6、または第4の実施形態におけるアンカー体7およびタイロッド8をより簡易な構造にすることができる。
【0039】
また、上記の第3の実施形態および第4の実施形態でも、背面土圧は土留め壁の内部で主に圧縮力として伝達されるため、腹起し工などの部材は不要である。また、土留め壁を構成する部材が曲げ剛性をもつことが許容されるため、施工時に曲がりを生じない程度の曲げ剛性をもった鋼管矢板2で土留め壁を構成することができ、これによって施工性が向上する。なお、これらの効果は、複数の鋼管矢板2が水平断面において地盤G側に凸な凸形状に配置されることによって得られ、凸形状がアーチ形状または逆V字形状である場合には限られない。例えば、以下で図9図11を参照して説明するように、凸形状としてアーチ形状または逆V字形状のいずれかを選択することによって、土留め壁のライズ比と、鋼管矢板2に作用する圧縮力とのバランスを調節することもできる。
【0040】
図9および図10は、それぞれ、土留め壁の配列がアーチ形状および逆V字形状の場合の第1鋼管矢板にかかる力を示す図である。凸形状の両端にそれぞれ位置する鋼管矢板2C(以下、第1鋼管矢板2Cともいう)と支持杭構造体4の鋼管杭4Aの間に作用する力Qは、支持杭構造体4が負担する背面土圧の反力Rの1/2に相当する。図9に示された例において、第1鋼管矢板2Cは、継手3(図示せず)を介して、壁幅方向に対する角度θで鋼管杭4Aに連結されている。この場合、力Qの分力として、第1鋼管矢板2Cと鋼管杭4Aとの間に圧縮力Qsinθおよびせん断力Qcosθが作用する。図10に示された例では、第1鋼管矢板2Cが壁幅方向に対する角度θで鋼管杭4Aに連結され、第1鋼管矢板2Cと鋼管杭4Aとの間に圧縮力Qsinθおよびせん断力Qcosθが作用する。
【0041】
ここで、図9および図10に示されているように、鋼管矢板2によって構成される土留め壁のライズ比(図1および図7に示した凸形状の支間長Lに対するライズfの比f/L)が等しい場合、アーチ形状の場合の第1鋼管矢板2Cの角度θよりも、逆V字形状の場合の第1鋼管矢板2Cの角度θの方が小さくなる(θ>θ)。この結果、第1鋼管矢板2Cと鋼管杭4Aとの間に作用する圧縮力も、アーチ形状の場合よりも逆V字形状の場合に小さくなる(Qsinθ>Qsinθ)。図11のグラフに、角度θ(上記の角度θ,θに相当する)と第1鋼管矢板2Cに作用する圧縮力との関係を示す。従って、例えば、ライズfを確保しながら第1鋼管矢板2Cに作用する圧縮力を小さくしたい場合は、上記の第3の実施形態および第4の実施形態で説明したような逆V字形状が有利でありうる。逆に、例えば同じライズfで継手3にかかるせん断力を小さくしたい場合は、上記の第1の実施形態および第2の実施形態で説明したようなアーチ形状が有利でありうる。
【0042】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、岸壁構造および岸壁構造の構築方法に利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1、1A、1B、1C…岸壁構造、2、2A、2B、2C…鋼管矢板、3…継手、4…支持杭構造体、4A…鋼管杭、4B…ジャケットレグ、5…控え杭構造体、5A…鋼管杭、5B…ジャケットレグ、6…梁、7…アンカー体、8…タイロッド。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11