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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076777
(43)【公開日】2023-06-02
(54)【発明の名称】廃液回収装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 15/55 20180101AFI20230526BHJP
   B05B 5/04 20060101ALN20230526BHJP
   B05B 3/10 20060101ALN20230526BHJP
【FI】
B05B15/55
B05B5/04 A
B05B3/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189756
(22)【出願日】2021-11-23
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 亨
【テーマコード(参考)】
4D073
4F033
4F034
【Fターム(参考)】
4D073AA01
4D073BB03
4D073CC03
4D073CC13
4F033PA11
4F033PB16
4F033PD06
4F034AA04
4F034BA22
4F034BA27
(57)【要約】
【課題】塗装ガンの洗浄で生じる廃液の回収率を上げるのに有効な廃液回収装置を提供する。
【解決手段】廃液回収装置101は、塗装ガン1の洗浄で生じる廃液を回収する装置であり、筒状の回収ホッパー10を備え、回収ホッパー10の一方の筒端側には塗装ガン1の噴射頭部2を筒内空間11に挿入するための挿入孔31が設けられ、回収ホッパー10の内周には噴射頭部2から筒内空間11に噴射された廃液が衝突する衝突壁面21,34が設けられており、衝突壁面21,34は、挿入孔31から軸方向Xに遠ざかるにつれて回収ホッパー10の中心軸線L1からの径方向距離aが漸増するように湾曲した湾曲面34を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ガンの洗浄で生じる廃液を回収する廃液回収装置であって、
筒状の回収ホッパーを備え、
上記回収ホッパーの一方の筒端側には上記塗装ガンの噴射頭部を筒内空間に挿入するための挿入孔が設けられ、上記回収ホッパーの内周には上記噴射頭部から上記筒内空間に噴射された上記廃液が衝突する衝突壁面が設けられており、
上記衝突壁面は、上記挿入孔から軸方向に遠ざかるにつれて上記回収ホッパーの中心軸線からの径方向距離が漸増するように湾曲した湾曲面を有する、廃液回収装置。
【請求項2】
上記回収ホッパーは、上記軸方向を長軸の方向とする楕円の楕円弧に倣って上記湾曲面が形成されるように構成されている、請求項1に記載の廃液回収装置。
【請求項3】
上記回収ホッパーは、内径が上記軸方向について一定である本体筒部と、上記本体筒部の上記軸方向の一端側に取り付けられる蓋部と、を有し、上記蓋部に上記挿入孔及び上記湾曲面が設けられている、請求項1または2に記載の廃液回収装置。
【請求項4】
上記回収ホッパーは、上記噴射頭部の外径に対する上記本体筒部の内径の寸法比率が1.0を超え且つ3.0以下の範囲内の値となるように構成されている、請求項3に記載の廃液回収装置。
【請求項5】
上記噴射頭部の2つが径方向に並置されたツイン塗装ガンに使用されるものであり、2つの上記回収ホッパーが径方向に隣接して互いに連結されてなる回収ホッパーモジュールを備え、上記回収ホッパーモジュールは、各回収ホッパーにおける上記本体筒部の内径が2つの上記噴射頭部の中心軸線の間の中心間距離を下回るように構成されている、請求項3に記載の廃液回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ガンの洗浄で生じる廃液を回収する廃液回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、この種の廃液回収装置が開示されている。この廃液回収装置は、先端部にベルカップを有する塗装ガンの洗浄に使用される。この廃液回収装置は、塗装ガンの先端部が挿入される挿入孔を有する円筒状の箱体を備えている。
【0003】
塗装ガンの洗浄を行うときには、先ず、この塗装ガンの先端部を箱体の挿入孔に挿入する。そして、ベルカップを回転させた状態で塗装ガンに洗浄液を供給しながら、ベルカップの外周に設けられているシェーピングエア吐出部からシェーピングエアを吐出する。これにより、洗浄液は塗装ガンの内部を流れた後に先端部から微粒化した廃液となって噴射され、シェーピングエアの吐出流れにしたがって箱体内に廃液が誘導される。そして、この廃液は、箱体の内壁に衝突して凝集することにより回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-223601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記構成の廃液回収装置の場合、洗浄時の処理条件である、ベルカップの回転速度、廃液の吐出量、シェーピングエアの吐出流量などに応じて、塗装ガンの先端部からの廃液の噴射角度が変化し、これにより廃液が箱体の内壁に衝突する衝突範囲が変化する。このとき、箱体の内壁が垂直に延びていると、この内壁に対する廃液の衝突角度が挿入孔に近づくほど垂直に近くなり、衝突時の廃液が挿入孔側に分流して滞留し滞留量が増え易くなる。そして、挿入孔に近い領域で滞留した廃液が塗装ガンの噴射頭部に雫として付着すると、シェーピングエアの吐出と停止によるオンオフ時の圧力変動などのタイミングでこの雫が箱体から挿入孔を通じて外へ飛散することが想定される。その結果、廃液の凝集液量が少なくなり回収率が下がるという問題が生じ得る。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、塗装ガンの洗浄で生じる廃液の回収率を上げるのに有効な廃液回収装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
塗装ガンの洗浄で生じる廃液を回収する廃液回収装置であって、
筒状の回収ホッパーを備え、
上記回収ホッパーの一方の筒端側には上記塗装ガンの噴射頭部を筒内空間に挿入するための挿入孔が設けられ、上記回収ホッパーの内周には上記噴射頭部から上記筒内空間に噴射された上記廃液が衝突する衝突壁面が設けられており、
上記衝突壁面は、上記挿入孔から軸方向に遠ざかるにつれて上記回収ホッパーの中心軸線からの径方向距離が漸増するように湾曲した湾曲面を有する、廃液回収装置、
にある。
【発明の効果】
【0008】
上述の態様の廃液回収装置において、塗装ガンの洗浄の際に、この塗装ガンの噴射頭部は、筒状の回収ホッパーの一方の筒端側に設けられている挿入孔を通じて筒内空間に挿入される。このため、塗装ガンの噴射頭部から筒内空間に噴射された廃液は、回収ホッパーの内周に設けられている衝突壁面に衝突する。このとき、噴射頭部から微粒化された状態で噴射されたミスト状の廃液は、衝突壁面に衝突することによって一部が挿入孔側に分流し残部が凝集し液滴となって回収される。
して液滴となる。
【0009】
回収ホッパーの衝突壁面は、挿入孔から軸方向に遠ざかるにつれて上記回収ホッパーの中心軸線からの径方向距離が漸増するように湾曲した湾曲面を有する。このような湾曲面によれば、この湾曲面に対する廃液の噴射角度が変化する場合でも、この湾曲面における衝突角度を概ね一定に維持できる衝突角度維持領域を軸方向に沿って連続的に形成させることができる。ここで、湾曲面における衝突角度は、廃液の噴射線と湾曲面の衝突点における接線とのなす角度として定義される。このように、湾曲面に衝突角度維持領域を連続的に形成させることができれば、湾曲面に対する廃液の噴射角度が変わっても、廃液が湾曲面に衝突した後で挿入孔側に流れる分流の割合が変動するのを抑制することができ、廃液の凝集液量を増やして回収率を上げるのに有効である。
【0010】
以上のごとく、上述の態様によれば、塗装ガンの洗浄で生じる廃液の回収率を上げるのに有効な廃液回収装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1の廃液回収装置の全体構成を示す図。
図2】実施形態1にかかる塗装ガンを使用した作業について、(a)は塗装ガンによるワークの塗装作業の様子を示す図であり、(b)は塗装ヘッドの洗浄作業の様子を示す図である。
図3】実施形態1の廃液回収装置の回収ホッパーの断面図。
図4図3中の回収ホッパーの湾曲面の形状を説明するための図。
図5】回収ホッパーの衝突壁面に廃液が衝突したときの様子について説明するための図。
図6】比較例の回収ホッパーの衝突壁面に廃液が衝突するときの様子を示す断面図。
図7】実施例の回収ホッパーの湾曲面に廃液が衝突するときの様子を示す断面図。
図8】実施形態2の廃液回収装置の回収ホッパーモジュールの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述の態様の好ましい実施形態について説明する。
【0013】
上述の態様の廃液回収装置において、上記回収ホッパーの上記軸方向を長軸の方向とする楕円の楕円弧に倣って上記湾曲面が形成されるように構成されているのが好ましい。
【0014】
この廃液回収装置によれば、回収ホッパーの軸方向を長軸の方向とする楕円の楕円弧に倣って回収ホッパーの湾曲面を形成することによって、湾曲面における衝突角度維持領域を軸方向に拡張させることができる。また、回収ホッパーの設計に際して、塗装ガンの形状や洗浄時の処理条件などに適した楕円の楕円弧の曲率を使用して、湾曲面の形状を簡便に決めることができる。
【0015】
上述の態様の廃液回収装置において、上記回収ホッパーは、内径が上記軸方向について一定である本体筒部と、上記本体筒部の上記軸方向の一端側に取り付けられる蓋部と、を有し、上記蓋部に上記挿入孔及び上記湾曲面が設けられているのが好ましい。
【0016】
この廃液回収装置によれば、本体筒部と蓋部を別部材とすることによって、蓋部として所望の形状の挿入孔及び湾曲面を有する部品を準備する一方で、本体筒部として内径が一定である単純な構造の部品を準備すればよい。このため、本体筒部に安価な汎用部品を使用することができ装置コストを低く抑えることが可能である。また、蓋部を本体筒部から取り外して回収ホッパーの内部の点検作業や清掃作業を行うことができるため、これらの作業に要する工数を低く抑えることができる。
【0017】
上述の態様の廃液回収装置において、上記回収ホッパーは、上記噴射頭部の外径に対する上記本体筒部の内径の寸法比率が1.0を超え且つ3.0以下の範囲内の値となるように構成されているのが好ましい。
【0018】
この廃液回収装置によれば、塗装ガンの噴射頭部の外径に対する本体筒部の内径の寸法比率を3.0以下に抑えることによって、噴射頭部から本体筒部の内周面までの径方向の距離を短く抑えることができる。これにより、塗装ガンの噴射頭部から微粒化された状態で噴射された廃液を短い距離で湾曲面に衝突させることができ、廃液が湾曲面に衝突する前にこの廃液の分散が進行し過ぎるのを防ぐことができる。その結果、廃液の凝集液量を増やしてその回収率を上げるのに有効である。また、本体筒部の径方向の寸法を抑えることで本体筒部自体をコンパクトに設計できるため、回収ホッパーの小型化及び軽量化を実現することができる。
【0019】
上述の態様の廃液回収装置は、上記噴射頭部の2つが径方向に並置されたツイン塗装ガンに使用されるものであり、2つの上記回収ホッパーが径方向に隣接して互いに連結されてなる回収ホッパーモジュールを備え、上記回収ホッパーモジュールは、各回収ホッパーにおける上記本体筒部の内径が2つの上記噴射頭部の中心軸線の間の中心間距離を下回るように構成されているのが好ましい。
【0020】
この廃液回収装置によれば、ツイン塗装ガンの洗浄時に2つの噴射頭部のそれぞれから噴射される廃液を、回収ホッパーモジュールの2つの回収ホッパーのそれぞれを利用して回収することが可能になる。
【0021】
以下、上述の廃液回収装置を具現化するための構造について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
なお、本明細書の説明で参照する図面では、特に断わらない限り、廃液回収装置を構成する回収ホッパーの軸方向を矢印Xで示し、この回収ホッパーの径方向を矢印Yで示すものとする。
【0023】
(実施形態1)
図1に示されるように、実施形態1の廃液回収装置101は、塗装ガン1の洗浄で生じる廃液Cを回収する装置である。この廃液回収装置101は、塗装ブース102のブース内に設置された回収ホッパー10と、タンク室103の室内に設置された回収タンク106および移送ポンプ107と、を備えている。
【0024】
塗装ブース102は、屋内に設置されている。この塗装ブース102は、ワークの塗装作業と塗装ガン1の洗浄作業の両方に使用される第1空間102aと、第1空間102aの下方に設けられ回収用配管14が配策された第2空間102bと、第2空間102bの下方に設けられた第3空間102cと、を有する。
【0025】
塗装ブース102には、第3空間102cに連通する排気ダクト104と、排気ダクト104に接続された吸気ブロワ105と、が設けられている。この塗装ブース102において、吸気ブロワ105が運転された状態では、第1空間102aに給気によって下降流が形成され、第1空間102aの空気は、第2空間102b、第3空間102c及び排気ダクト104を順次経由して屋外へ排気される。
【0026】
図1では、3つの回収ホッパー10が第1空間102aに配置される場合について例示している。各回収ホッパー10は、塗装ガン1の洗浄時に生じる廃液Cを回収するための回収容器であり、その底部が接続配管13を通じて回収用配管14に連通している。接続配管13は、垂直方向に延びている。回収用配管14は、第2空間102bにおいて水平方向に対して傾斜して延びている。
【0027】
各回収ホッパー10で回収された廃液Cは、その自重によって個別の接続配管13と共用の回収用配管14を順次流れて回収タンク106に流入する。回収タンク106に貯留された廃液Cは、必要に応じて移送ポンプ107を使用して適宜の移送先へ移送される。
【0028】
なお、回収ホッパー10の数は特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜の数の回収ホッパー10を塗装ブース102のブース内に設置することができる。また、接続配管13にポンプを接続し、回収ホッパー10に回収された廃液Cをこのポンプを利用して回収タンク106に圧送するようにしてもよい。
【0029】
(塗装作業)
図2(a)に示されるように、ワークWの塗装作業を行うときには、塗装ガン1をその噴射頭部2がワークWの被塗装面に対向するように配置する。このときの塗装ガン1の姿勢及び移動軌跡は、塗装ロボット(図示省略)によって制御されるのが好ましい。噴射頭部2には、軸方向Xに延びる軸線まわりに回転駆動されるベルカップ3が収容されている。ベルカップ3は、その軸線まわりの回転を利用して塗料Pに遠心力を付与することによって、塗料Pを微粒子状にミスト化して噴射する噴射機能を果たす。
【0030】
ベルカップ3の噴射機能によれば、その軸線まわりの回転により塗装ガン1の噴射頭部2からワークWの被塗装面に向けて塗料Pをミスト化(「霧化」ともいう。)した状態で噴射させることができる。このとき、シェーピングエア吐出部4から軸方向XにシェーピングエアAが吐出されると、ミスト化された塗料Pに対してこのシェーピングエアAによって指向性が付与される。これにより、ワークWの被塗装面の所望の範囲に塗料Pを放射状に噴射させて塗装することができる。
【0031】
(洗浄作業)
図2(b)に示されるように、塗装ガン1の洗浄作業を行うときには、塗装作業の場合と同様に塗装ロボットを制御して、塗装ガン1をその噴射頭部2が回収ホッパー10の内部に挿入されるように配置する。
【0032】
そして、塗料Pに代えて洗浄液Bを塗装ガン1に供給した状態でベルカップ3を回転駆動する。洗浄液Bには、塗料Pの洗浄に適したシンナー等の溶剤が使用される。このとき、塗装ガン1の内部に残留していた塗料Pが洗浄液Bに経時的に入れ替わり、廃液Cが噴射頭部2からミスト化された状態で噴射される。なお、塗装ガン1の洗浄が完了するまでの間、廃液Cに塗料Pの一部が残留する。
【0033】
シェーピングエア吐出部4から軸方向XにシェーピングエアAが吐出されると、ミスト化された廃液Cに対してこのシェーピングエアAによって指向性が付与される。これにより、廃液Cを回収ホッパー10の内部に放射状に噴射させることができる。
【0034】
なお、塗装ガン1を含む塗装機の更なる具体的な構造については、例えば、特開2020-93195号公報に記載の静電霧化塗装機の構造を参照することができる。
【0035】
図3の断面図に示されるように、廃液回収装置101の回収ホッパー10は、軸方向Xを筒軸方向とする円筒状の回収容器である。この回収ホッパー10は、本体筒部20と蓋部30を有する。
【0036】
本体筒部20は、その径方向Yの内径d2が軸方向Xについて一定である円筒部材として構成されている。本体筒部20の内周面である垂直面21によって内部空間20aが区画されている。この垂直面21は、軸方向Xに垂直に延びる面であり、塗装ガン1の噴射頭部2から筒内空間11に放射状に噴射された廃液Cが衝突する衝突壁面である。したがって、以下の説明では、垂直面21を衝突壁面21ともいう。
【0037】
蓋部30は、本体筒部20とは別体の蓋部材として構成されている。この蓋部30は、ボルト部材のような固定手段(図示省略)を介して、本体筒部20の軸方向Xの一端側(図3では回収ホッパー10の上側)に取り付けられる。一方で、固定手段による固定が解除されると、蓋部30を本体筒部20から取り外して、回収ホッパー10の内部の点検作業や清掃作業を行うことができる。
【0038】
蓋部30には、挿入孔31と、鍔部32と、挿入部33と、が設けられている。
【0039】
蓋部30の挿入孔31は、塗装ガン1の円形の噴射頭部2を筒内空間11に挿入するための円形の挿入孔である。この挿入孔31は、その内径d3が噴射頭部2の先端側の外径、即ちベルカップ3の先端側の外径d1を上回るように寸法設定されている。この挿入孔31は、回収ホッパー10のうち蓋部30の径方向Yの中央位置に設けられているのが好ましい。
【0040】
蓋部30の鍔部32は、挿入部33が本体筒部20の内部空間20aに挿入されるときに、本体筒部20の開口縁部によって支持される。これにより、蓋部30は、本体筒部20に軸方向Xの位置決めがなされた状態で取り付けられる。このとき、蓋部30の挿入部33によって内部空間30aが区画されている。この内部空間30aは、本体筒部20の内部空間20aとの協働によって、廃液Cの回収のための筒内空間11を構成している。
【0041】
蓋部30の挿入部33の内周面は、塗装ガン1の噴射頭部2から筒内空間11に放射状に噴射された廃液Cが衝突する衝突壁面34である。すなわち、回収ホッパー10の内周に衝突壁面34が設けられている。この衝突壁面34は、挿入孔31から軸方向Xに沿って連続的に延びている。また、この衝突壁面34は、挿入孔31から軸方向X遠ざかるにつれて回収ホッパー10の中心軸線L1からの径方向距離aが漸増するように湾曲した湾曲面とされている。したがって、以下の説明では、衝突壁面34を湾曲面34ともいう。
【0042】
上述のように、回収ホッパー10において、廃液Cに対する衝突壁面は、本体筒部20に設けられた衝突壁面21と、蓋部30に設けられた衝突壁面34と、によって構成されている。そして、これらの衝突壁面21,34のうちの一方である衝突壁面34が湾曲面になっている。すなわち、回収ホッパー10の衝突壁面21,34は、湾曲面34を有する。
【0043】
回収ホッパー10は、噴射頭部2の外径(ベルカップ3の先端側の外径d1)に対する本体筒部20の内径d2の寸法比率が1.0を超え且つ3.0以下の範囲内の値となるように構成されているのが好ましい。
【0044】
本構成によれば、この寸法比率を3.0以下に抑えることによって、塗装ガン1の噴射頭部2から本体筒部20の垂直面21までの径方向Yの距離を短く抑えることができる。これにより、塗装ガン1の噴射頭部2から微粒化された状態で噴射された廃液Cを短い距離で湾曲面34に衝突させることができ、廃液Cが湾曲面34に衝突する前にこの廃液Cの分散が進行し過ぎるのを防ぐことができる。その結果、廃液Cの凝集液量を増やしてその回収率を上げるのに有効である。なお、筒内空間11における廃液Cの分散が進行し過ぎると、廃液Cが凝集しにくくなるため廃液Cの回収が難しくなる。
【0045】
また、本体筒部20の径方向Yの寸法を抑えることで本体筒部20自体をコンパクトに設計できるため、回収ホッパー10の小型化及び軽量化を実現することができる。
【0046】
図4に示されるように、回収ホッパー10は、仮想の楕円40の楕円弧43に倣って蓋部30の湾曲面34が形成されるように構成されるのが好ましい。すなわち、湾曲面34の形状を楕円40の楕円弧43の形状を使用して近似している。
【0047】
ここで、楕円40は、軸方向Xを長軸41の方向とする楕円である。図4中の蓋部30の断面構造において、図中右側の湾曲面34は楕円40の一部である第1の楕円弧43aに倣って形成されており、図中左側の湾曲面34は楕円40の一部である第2の楕円弧43bに倣って形成されている。このとき、楕円弧43a,43bは、挿入孔31から遠ざかるにつれて曲率が漸増する楕円弧である。このため、左右の湾曲面34,34はいずれも、楕円弧43a,43bの形状にしたがって、挿入孔31から遠ざかるにつれて曲率が漸増する楕円弧になっている。
【0048】
次に、図3図5図7を参照しながら、ミスト状の廃液Cが衝突壁面34に衝突するときの様子について説明する。なお、これらの図面では、説明の便宜上、衝突壁面34の一部のみを示している。
【0049】
図5に示されるように、軸方向Xの垂直線Vに対して噴射角度Mで噴射されたミスト状の廃液Cは、その元流Caが斜め下方に流れて衝突壁面34に衝突角度Nで衝突点Sに衝突する。衝突角度Nは、元流Caの噴射線Fと衝突壁面34とのなす角度(>90°)として定義される。このとき、廃液Cは、衝突壁面34に衝突することにより主流Cbと分流Ccに分離されて流れる。
【0050】
主流Cbは、蓋部30から遠ざかるように形成されるものであり、衝突壁面34に沿った下向きの流れである。衝突壁面34で凝集して雫となった廃液Cは自重により衝突壁面34を底部に向けて流下する。これに対して、分流Ccは、蓋部30に近づくように形成されるものであり、主流Cbに対する上向きの反流である。
【0051】
元流Caに対する分流Ccの割合が多いと、廃液Cが筒内空間11のうち蓋部30の挿入孔31に近い領域で滞留して凝集し塗装ガン1の噴射頭部2に雫として付着し易くなる。そして、シェーピングエアAの吐出と停止によるオンオフ時の圧力変動などのタイミングでこの雫が回収ホッパー10から挿入孔31を通じて外へ飛散することで廃液の凝集液量が少なくなり、廃液Cの回収率が下がるという問題が想定される。
【0052】
とりわけ、塗装ガン1の噴射頭部2から噴射された廃液Cを比較的短い距離で衝突壁面34に衝突させる構造を採用する場合には、筒内空間11における廃液Cの分散の進行を抑えることができる反面、廃液Cが衝突壁面34に衝突することによって挿入孔31側に形成される液溜の量が増えることになり、このような問題がより顕著になる。
【0053】
ここで、衝突角度Nが大きくなるほど元流Caに対する分流Ccの割合が下がるのに対して、衝突角度Nが小さくなるほど元流Caに対する分流Ccの割合が上がる。また、衝突角度Nは、噴射角度Mの変化に応じて変化し易くなるのが一般的である。そこで、廃液Cの回収率を上げるためには、衝突角度Nが大きくなるように設定したうえで、この衝突角度Nが噴射角度Mの変化に影響されにくい構造を採用するのが好ましい。
【0054】
以下、本構造を採用した実施例を比較例と対比しながら説明する。
【0055】
(比較例)
図6に示されるように、比較例の回収ホッパー10’は、蓋部30の衝突壁面34’が軸方向Xに垂直に延びる構造を有している。衝突壁面34’は、垂直に延びる面である点で、図3に示される湾曲面34と相違している。この構造において、垂直線Vに対する廃液Cの噴射角度が異なる場合について検討する。
【0056】
ベルカップ3から噴射角度Maで噴射された廃液Cは、噴射線Faにしたがって衝突点Saで衝突壁面34’に衝突する。このとき、噴射線Faと衝突壁面34’とのなす衝突角度はNaとなる。また、ベルカップ3から噴射角度Mb(<Ma)で噴射された廃液Cは、噴射線Fbにしたがって衝突点Sbで衝突壁面34’に衝突する。このとき、噴射線Fbと衝突壁面34’とのなす衝突角度はNb(>Na)となる。さらに、ベルカップ3から噴射角度Mc(<Mb)で噴射された廃液Cは、噴射線Fcにしたがって衝突点Scで衝突壁面34’に衝突する。このとき、噴射線Fcと衝突壁面34’とのなす衝突角度はNc(>Nb)となる。
【0057】
ここで、比較例の回収ホッパー10’は、衝突壁面34’が垂直に延びていることが要因で、廃液Cの噴射角度が変化したときに衝突壁面34’に対する衝突位置が変わり、衝突壁面34’に対する廃液Cの衝突角度が変化するようになっている。このとき、廃液Cの衝突角度が変化する影響で、元流Caに対する分流Ccの割合(図5を参照)が大きく変動して安定しないため、廃液Cの回収率を上げるのが難しい。
【0058】
また、比較例の回収ホッパー10’によれば、噴射線Faのように廃液Cが挿入孔31に近い位置で噴射された場合、例えば噴射線Fcにしたがって廃液Cが噴射された場合に比べると、上記分流Ccの割合が上昇するため、分流したミスト状の廃液Cが凝集して回収ホッパー10’から挿入孔31を通じて外へ飛散し易くなる。このため、廃液Cの凝集液量が少なくなり廃液Cの回収率が下がる要因に成り得る。
【0059】
(実施例)
図7に示されるように、実施例の回収ホッパー10は、比較例の回収ホッパー10’の上記問題点を解決するために提案されたものであり、蓋部30に衝突壁面となる湾曲面34を設けた構造を有する。この構造において、垂直線Vに対する廃液Cの噴射角度が異なる場合について検討する。
【0060】
ベルカップ3から噴射角度Maで噴射された廃液Cが噴射線Faにしたがって衝突点Saで湾曲面34に衝突するとき、噴射線Faと湾曲面34の衝突点Saにおける接線Taとのなす衝突角度はNa’となる。また、ベルカップ3から噴射角度Mbで噴射された廃液Cが噴射線Fbにしたがって衝突点Sbで湾曲面34に衝突するとき、噴射線Fbと湾曲面34の衝突点Sbにおける接線Tbとのなす衝突角度はNb’となる。さらに、ベルカップ3から噴射角度Mcで噴射された廃液Cが噴射線Fcにしたがって衝突点Scで湾曲面34に衝突するとき、噴射線Fcと湾曲面34の衝突点Scにおける接線Tcとのなす衝突角度はNc’となる。
【0061】
ここで、実施例の回収ホッパー10は、挿入孔31から軸方向Xに遠ざかるにつれて径方向距離a(図3を参照)が漸増するように湾曲面34を湾曲させている。この場合、廃液Cの噴射角度が変化して湾曲面34に対する衝突位置が変わっても、湾曲面34に対する廃液Cの衝突角度を概ね同一に維持できるような衝突角度維持領域35を形成させることができる。衝突角度維持領域35は、湾曲面34の一部或いは全部によって軸方向Xに沿って連続的に形成される。衝突角度維持領域35を形成させることにより、廃液Cの噴射角度が変わっても、元流Caに対する分流Ccの割合が変動するのを抑制することができ、廃液Cの回収率を上げるのに有効である。
【0062】
実施例の回収ホッパー10によれば、比較例の場合と同一の噴射角度であっても、衝突角度を大きくすることができる。例えば、比較例において噴射角度Maに対応した衝突角度Naと、実施例において噴射角度Maに対応した衝突角度Na’と、を比較すると、衝突角度Naよりも衝突角度Na’の方が大きくなる。また、噴射線Faのように廃液Cが挿入孔31に近い位置で噴射された場合でも、元流Caに対する分流Ccの割合を抑えることができ、分流したミスト状の廃液Cが挿入孔31側で凝集しても回収ホッパー10から挿入孔31を通じて外へ飛散しにくくなる。このため、廃液Cの凝集液量が少なくなるのを抑制することができ廃液Cの回収率が下がるのを防ぐことができる。
【0063】
また、塗装ガン1の噴射頭部2から噴射された廃液Cを比較的短い距離で衝突壁面34に衝突させる構造(噴射頭部2の外径d1に対する本体筒部20の内径d2の寸法比率が1.0を超え且つ3.0以下の範囲内の値とする構造)を採用した場合、挿入孔31側に形成される液溜の量が増えることになるが、湾曲面34を利用して元流Caに対する分流Ccの割合を抑えるようにしたことで、仮に液溜の量が増えたとしても、挿入孔31側で凝集した廃液Cが挿入孔31を通じて回収ホッパー10の外へ飛散するのを防ぐことができる。その結果、筒内空間11における廃液Cの衝突前の分散の進行を抑えたうえで、元流Caに対する分流Ccの割合を抑えることができ、廃液Cの回収率をより高める効果がられる。
【0064】
次に、実施形態1の作用効果を説明する。
【0065】
実施形態1の廃液回収装置101において、塗装ガン1の洗浄の際に、この塗装ガン1の噴射頭部2は、筒状の回収ホッパー10の一方の筒端側に設けられている挿入孔31を通じて筒内空間11に挿入される。このため、塗装ガン1の噴射頭部2から筒内空間11に噴射された廃液Cは、回収ホッパー10の内周に設けられている衝突壁面21,34に衝突する。このとき、噴射頭部2から微粒化された状態で噴射されたミスト状の廃液Cは、衝突壁面21,34に衝突することによって一部が挿入孔31側に分流し残部が凝集し液滴となって回収される。
【0066】
回収ホッパー10の衝突壁面21,34は、挿入孔31から軸方向Xに遠ざかるにつれて回収ホッパー10の中心軸線L1からの径方向距離aが漸増するように湾曲した湾曲面34を有する。このような湾曲面34によれば、この湾曲面34に対する廃液Cの噴射角度が変化する場合でも、この湾曲面34における衝突角度を概ね一定に維持できる衝突角度維持領域35を軸方向Xに沿って連続的に形成させることができる。
【0067】
このように、湾曲面34に衝突角度維持領域35を連続的に形成させることができれば、湾曲面34に対する廃液Cの噴射角度が変わっても、廃液Cが湾曲面34に衝突した後で挿入孔31側に流れる分流の割合が変動するのを抑制することができ、廃液Cの凝集液量を増やして回収率を上げるのに有効である。
【0068】
従って、上述の実施形態1によれば、塗装ガン1の洗浄で生じる廃液Cの回収率を上げるのに有効な廃液回収装置101を提供することができる。
【0069】
実施形態1の廃液回収装置101によれば、回収ホッパー10の軸方向Xを長軸41の方向とする楕円40の楕円弧43に倣って回収ホッパー10の湾曲面34を形成することによって、湾曲面34における衝突角度維持領域35を軸方向Xに拡張させることができる。また、回収ホッパー10の設計に際して、塗装ガン1の形状や洗浄時の処理条件などに適した楕円40の楕円弧43の曲率を使用して、湾曲面34の形状を簡便に決めることができる。
【0070】
実施形態1の廃液回収装置101によれば、本体筒部20と蓋部30を別部材とすることによって、蓋部30として所望の形状の挿入孔31及び衝突壁面34を有する部品を準備する一方で、本体筒部20として内径d2が一定である単純な構造の部品を準備すればよい。このため、本体筒部20に安価な汎用部品を使用することができ装置コストを低く抑えることが可能である。また、蓋部30を本体筒部20から取り外して回収ホッパー10の内部の点検作業や清掃作業を行うことができるため、これらの作業に要する工数を低く抑えることができる。
【0071】
以下、上述の実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0072】
(実施形態2)
図8に示されるように、実施形態2の廃液回収装置101Aは、回収ホッパー10に相当する構成要素を2つ備えている点で、実施形態1の廃液回収装置101の構造と相違している。
【0073】
廃液回収装置101Aは、2つの塗装ガン1の各噴射頭部2が径方向Yに並置されたツイン塗装ガン1Aに使用されるものである。この廃液回収装置101Aは、回収ホッパーモジュール10Aを備えている。回収ホッパーモジュール10Aは、2つの回収ホッパー10が径方向Yに隣接して連結部材15で互いに連結された構造を有する。この回収ホッパーモジュール10Aは、各回収ホッパー10における本体筒部20の内径d2が2つの噴射頭部2の中心軸線L2の間の中心間距離Dを下回るように構成されている。本構成によれば、2つの塗装ガン1が近接して配置された構造のツイン塗装ガン1Aの洗浄に回収ホッパーモジュール10Aを好適に使用できる。
【0074】
その他の構成及び洗浄作業時の使用方法は、実施形態1の場合と同様である。
【0075】
実施形態2の廃液回収装置101Aによれば、ツイン塗装ガン1Aの洗浄時に2つの噴射頭部2のそれぞれから噴射される廃液Cを、回収ホッパーモジュール10Aの2つの回収ホッパー10のそれぞれを利用して回収することが可能になる。
【0076】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0077】
本発明は、上述の典型的な実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、上述の実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0078】
上述の実施形態では、回収ホッパー10の湾曲面34が楕円40の楕円弧43に倣って形成される場合について例示したが、湾曲面34の形状はこれに限定されるものではなく、必要に応じて適宜に変更が可能である。例えば、円弧に倣って湾曲面34を形成するようにしてもよい。
【0079】
上述の実施形態では、回収ホッパー10の衝突壁面21,34の一方の衝突壁面34のみを湾曲面とする場合について例示したが、これに代えて、衝突壁面21,34の両方を湾曲面にすることもできる。
【0080】
上述の実施形態では、本体筒部20と、本体筒部20とは別体である蓋部30と、を有する回収ホッパー10について例示したが、これに代えて、本体筒部20に相当する部位と蓋部30に相当する部位とが一体化された一体部品によって回収ホッパー10を構成するようにしてもよい。
【0081】
上述の実施形態では、ベルカップ3を収容するベル型構造の噴射頭部2について例示したが、この噴射頭部2は、廃液Cを噴射可能に構成されていればよく、その構造はベル型構造に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0082】
1 塗装ガン
1A ツイン塗装ガン
2 噴射頭部
10 回収ホッパー
10A 回収ホッパーモジュール
11 筒内空間
21 衝突壁面(垂直面)
31 挿入孔
34 衝突壁面(湾曲面)
40 楕円
41 長軸
43,43a,43b 楕円弧
101,101A 廃液回収装置
a 径方向距離
C 廃液
D 中心間距離
d1 噴射頭部の外径
d2 本体筒部の内径
L1 回収ホッパーの中心軸線
L2 噴射頭部の中心軸線
X 軸方向
Y 径方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8