(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007680
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】マイクロ波低域通過フィルタ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/205 20060101AFI20230112BHJP
H01P 5/02 20060101ALI20230112BHJP
H03H 7/075 20060101ALN20230112BHJP
【FI】
H01P1/205 K
H01P5/02 603E
H03H7/075 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110680
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】595115592
【氏名又は名称】学校法人鶴学園
(72)【発明者】
【氏名】梶上 恵理
(72)【発明者】
【氏名】細谷 健一
【テーマコード(参考)】
5J006
5J024
【Fターム(参考)】
5J006JA03
5J006JA11
5J006LA02
5J006LA03
5J006LA05
5J024AA01
5J024BA02
5J024BA11
5J024CA02
5J024EA01
5J024KA03
(57)【要約】
【課題】通過帯域特性の平坦性、遮断特性の急峻性、遮断帯域の広帯域性、の全ての条件を満たす低域通過フィルタを、マイクロ波等の高周波帯に適用可能な分布定数回路の形態で提供する。
【解決手段】偶数次数、有極型、分布定数形態の低域通過フィルタであって、端部の容量を先端開放スタブ7-6で実装し、前記先端開放スタブの幅および長さを、遮断周波数においては特性関数から要求される容量値の前後20%の値を有する容量素子として機能し、遮断周波数の4倍の周波数においては該周波数において1/4波長となる値の前後20%の値となるように設計する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偶数次数、有極型、分布定数形態の低域通過フィルタにおいて、端部の容量を先端開放スタブで実装したことを特徴とする低域通過フィルタ。
【請求項2】
前記先端開放スタブの幅および長さを、遮断周波数においては特性関数から要求される容量値の前後20%の値を有する容量素子として機能し、遮断周波数の4倍の周波数においては該周波数において1/4波長となる値の前後20%の値となるように設計したことを特徴とする請求項1記載の低域通過フィルタ。
【請求項3】
前記先端開放スタブをラジアルスタブとし、該ラジアルスタブの形状および寸法を、遮断周波数においては特性関数から要求される容量値の前後20%の値を有する容量素子として機能し、遮断周波数の4倍の周波数においては該周波数においてインピーダンスの絶対値が20オーム以下となるように設計したことを特徴とする請求項1記載の低域通過フィルタ。
【請求項4】
前記特性関数が逆チェビシェフ特性であることを特徴とする請求項1乃至3に記載の低域通過フィルタ。
【請求項5】
前記特性関数が楕円関数特性であることを特徴とする請求項1乃至3に記載の低域通過フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波帯・ミリ波帯等の高周波領域の低域通過フィルタに関し、特に分布定数回路で構成される低域通過フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
低域通過フィルタは、ある周波数(遮断周波数と呼ばれる)以下の周波数の信号は通過させ、それより大きい周波数の信号を遮断する回路である。
図13に理想的な低域通過フィルタの周波数特性を示す。横軸は周波数、縦軸は入出力比である。遮断周波数(fcとする)以下の周波数帯を通過帯域、それ以上の周波数帯を遮断帯域と呼ぶ。
【0003】
現実の低域通過フィルタは、様々な形態で実装される。例えば、MHz帯程度までの周波数帯では、コイルとコンデンサで構成される集中定数回路(LCフィルタと呼ばれる)の形態で実装される。これに対し、GHz帯以上のマイクロ波・ミリ波帯においては、伝送線路を中心に構成される分布定数回路の形態が用いられる。このような現実の低域通過フィルタは、
図13に示した理想特性ではなく、例えば
図14に実線で示したような周波数特性を有する。同図中に点線で示した理想特性との主な差異として、1)通過帯域の特性が変動している(変動もしくは変動幅をリップルと呼ぶ)、2)遮断周波数(fc)における入出力特性の傾きが有限となっている、3)遮断帯域に寄生的な通過域(周波数をfsとする)が形成され、その結果、遮断帯域幅が有限となっている、の3点が挙げられる。
【0004】
上述した現実の低域通過フィルタの周波数特性と理想特性の差異を鑑みれば、低域通過フィルタに求められる特性として、1)通過帯域特性の平坦性、2)遮断特性の急峻性、3)遮断帯域の広帯域性、を挙げることができる。
【0005】
本発明が対象とするマイクロ波・ミリ波帯における低域通過フィルタは、通常、先ず集中定数回路(LCフィルタ)を設計し、これを伝送線路を中心に構成される分布定数回路に変換することにより設計される。該LCフィルタの素子値(コイルのインダクタンス値、およびコンデンサの容量値)は、何らかの特性関数に基づき決定される。
【0006】
該特性関数は、無極型と有極型に分類することができる。それぞれに対応するLCフィルタの回路図を、
図15および
図16に示す。ここでは、次数6(n=6)の場合を示している。有極型においては、コイル10-2(L2)とコンデンサ11-2(C2)、およびコイル10-4(L4)とコンデンサ11-4(C4)による直列共振周波数において、周波数特性に減衰極が形成される。
【0007】
無極型の特性関数としては最大平坦(バターワース)特性、チェビシェフ特性、有極型の特性関数としては逆チェビシェフ特性(第2種チェビシェフ特性)、楕円関数特性などがあり、それぞれ周波数特性に特徴を有する。
【0008】
図17に、最大平坦特性、チェビシェフ特性、および逆チェビシェフ特性に基づくLCフィルタの周波数特性を示す。ここで、縦軸の挿入損失は透過係数の絶対値をdB表示したものである。遮断周波数を1.8GHzとしている。
図18は、通過帯域付近の拡大図である。チェビシェフ特性は、リップル0.2dBの場合を示している。図に示すように、最大平坦特性(図中点線)は通過帯域の平坦性に優れる一方、遮断特性の急峻性に劣る。チェビシェフ特性(図中破線)では、遮断特性の急峻性は改善されるが、通過帯域にリップルが発生し、平坦性が劣化する。チェビシェフ特性の通過帯域の平坦性と遮断特性の急峻性の間にはトレードオフ関係が存在し、例えば、より大きなリップルを許容すれば急峻性を更に高めることも出来るが、両方を同時に改善することは出来ない。以上述べたように、最大平坦特性やチェビシェフ特性に代表される無極型の特性関数に基づくLCフィルタの場合、通過帯域の平坦性と遮断特性の急峻性の両立は困難である。
【0009】
一方、有極型である逆チェビシェフ特性に基づくLCフィルタの周波数特性を
図17および
図18中に実線で示す。2.4GHz付近、および3.3GHz付近に減衰極が形成されている。図に示すように、この逆チェビシェフ特性を利用すれば、通過帯域の平坦性と遮断特性の急峻性の両立が可能となる。遮断帯域における挿入損失(透過係数の絶対値)が-30dB程度と比較的大きく、さらに遮断帯域にリップルを生じているが、通常の応用においてはこれらは大きな問題とならない。
【0010】
ただし前述の通り、本発明が対象とするマイクロ波・ミリ波帯においては、LCフィルタを伝送線路を中心に構成される分布定数回路に変換する必要がある。従来、
図16に示すような有極型のLCフィルタは、
図19に示すような形態で分布定数回路に変換されてきた(例えば、非特許文献1)。
図19に示す低域通過フィルタは、入力端子1、出力端子2、入力引出用伝送線路3、出力引出用伝送線路4を具備する。該入力引出用伝送線路3、及び出力引出用伝送線路4の特性インピーダンスは通常システムインピーダンスに等しい値とされる(典型的には50Ω)。またコイルLi(i=1~5)10-1乃至10-5は、高い特性インピーダンスの伝送線路(高インピーダンス線路)5-1乃至5-5により実装している。一方、コンデンサCi(i=2,4)11-2および11-4は、低い特性インピーダンスの先端開放スタブ(低インピーダンス先端開放スタブ)6-2、6-4により実装し、C6は低い特性インピーダンスの伝送線路(低インピーダンス線路)9-6により実装している。なお、便宜的に1を入力端子、2を出力端子として説明したが、逆でも構わない。以下でも同様である。
【0011】
図20は、6次の逆チェビシェフ特性の低域通過フィルタに関し、実際にレイアウト設計を行った例である。遮断周波数を1.8GHzとしている。また伝送線路としてマイクロストリップ線路を使用している。レイアウト設計においては、基板厚0.63mm、比誘電率3.7、誘電損失0.0038(6GHzにおける値)の低損失樹脂基板を想定している。また、基板表面および裏面の電極として、厚み0.018mmの銅を想定している。以下でも同様である。
【0012】
図21に、
図19(レイアウトは
図20)の回路に対し電磁界シミュレーション(モーメント法)を行った結果得られた挿入損失の周波数特性を示す。
図22は通過帯域付近の拡大図である。これらの図に示すように、逆チェビシェフ特性に基づくLCフィルタを分布定数回路に変換した場合でも、通過帯域の平坦性と遮断特性の急峻性の両立は保持される。しかし、遮断周波数の4倍程度の周波数(この例では7GHz付近)に、LCフィルタでは見られなかった寄生的な通過域が形成されてしまっていることが分かる。この現象は、非特許文献1においても、同じ有極型の楕円関数特性に関し指摘されている。
【0013】
非特許文献1において、高い特性インピーダンスの伝送線路5-1乃至5-5の特性インピーダンスを増大させる(線幅を細くする)ことにより、この寄生的な通過域の周波数を高周波側に移動させることができる(従って、遮断帯域を広帯域化できる)ことが指摘されている。
図19(レイアウトは
図20)に示した回路について、この方法の効果を以下で検証する。
【0014】
図23のレイアウト図中に示した高インピーダンス伝送線路(
図19における5-1乃至5-5)の線路幅wLを0.5mmから0.05mmまで徐々に細くしたときの周波数特性の変化を
図24に示す。非特許文献1の指摘通り、wLを細くするに従って寄生的な通過域の周波数は高周波側へ移動している。ただし、樹脂基板の加工によって回路を製造することを考えた場合、精度よく加工できるのは現状0.2mm程度(白丸および実線)が限界と考えられる。また、遮断周波数付近の特性を
図25に示す。wLが0.05mm程度まで細くなってくると、通過帯域の平坦性が若干劣化してくることが分かる。以上示したように、wLを細くする方法によって寄生的な通過域の周波数を高周波側に移動させる方法も、製造を考慮した場合限界がある。以上を考慮し、wL=0.2mmを従来回路における高インピーダンス伝送線路の線路幅として採用することとする。
【0015】
また、上述した寄生通過域発生の問題は、無極型のLCフィルタを分布定数回路に変換した場合にも同様に発生する。無極型のLC低域通過フィルタ(
図15)を分布定数回路に変換する形態として、ステップインピーダンス型とスタブ型の二形態が知られており、以下それぞれについて検討する。
【0016】
図26に、6次の無極型の低域通過フィルタをステップインピーダンス型の形態で分布定数回路に変換した場合の回路図を示す。
図26に示す低域通過フィルタは、入力端子1、出力端子2、入力引出用伝送線路3、出力引出用伝送線路4を具備する。該入力引出用伝送線路3、及び出力引出用伝送線路4の特性インピーダンスは通常システムインピーダンスに等しい値とされる(典型的には50Ω)。また
図15中のコイルLi(i=1~5)10-1、10-3、10-5は、高い特性インピーダンスの伝送線路(高インピーダンス線路)5-1、5-3、5-5により実装している。一方、コンデンサCi(i=2,4)11-2、11-4、11-6は、低い特性インピーダンスの伝送線路(低インピーダンス線路)9-2、9-4、9-6により実装している。
【0017】
図27、および
図28に、最大平坦特性、およびチェビシェフ特性(リップル0.2dB)に基づく低域通過フィルタを、ステップインピーダンス型の形態で実装した場合のレイアウト図を示す。
図29に、
図26(レイアウトは
図27および
図28)の回路に対し電磁界シミュレーション(モーメント法)を行った結果得られた挿入損失の周波数特性を示す。
図30は通過帯域付近の拡大図である。集中定数LCフィルタの特性を反映して、最大平坦特性は遮断特性が緩慢であり、チェビシェフ特性は通過帯域内にリップルを生じている。それらの課題に加え、集中定数LCフィルタでは現れなかった寄生的な通過域が生じており、遮断帯域の広帯域性も損なわれていることが分かる。
【0018】
図31に、6次の無極型の低域通過フィルタをスタブ型の形態で分布定数回路に変換した場合の回路図を示す。
図15中のコイルLi(i=1~5)10-1、10-3、10-5は、高い特性インピーダンスの伝送線路(高インピーダンス線路)5-1、5-3、5-5により実装している。一方、コンデンサCi(i=2,4)11-2、11-4、11-6は、低い特性インピーダンスの先端開放スタブ(低インピーダンス先端開放スタブ)6-2、6-4、6-6により実装している。
【0019】
図32、および
図33に、最大平坦特性、およびチェビシェフ特性(リップル0.2dB)に基づく低域通過フィルタを、スタブ型の形態で実装した場合のレイアウト図を示す。
図34に、
図31(レイアウトは
図32および
図33)の回路に対し電磁界シミュレーション(モーメント法)を行った結果得られた挿入損失の周波数特性を示す。
図35は通過帯域付近の拡大図である。集中定数LCフィルタの特性を反映して、最大平坦特性はステップインピーダンス型に比較すると改善されているものの遮断特性がなお緩慢であり、チェビシェフ特性は通過帯域内にリップルを生じている。それらの課題に加え、集中定数LCフィルタでは現れなかった寄生的な通過域が生じており、遮断帯域の広帯域性も損なわれていることが分かる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Jia-Sheng Hong、Microstrip Filters for RF/Microwave Applications、Second Edition、Wiley、2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上述した通り、有極型の逆チェビシェフ特性を用いれば、1)通過帯域特性の平坦性、2)遮断特性の急峻性、3)遮断帯域の広帯域性、の全ての要件を満たすLCフィルタを構成することが可能である。しかし、マイクロ波等の高周波帯に適用するため、これを分布定数回路に変換すると、遮断周波数の4倍程度の周波数に、LCフィルタでは見られなかった寄生的な通過域が形成され、3)の遮断帯域の広帯域性が損なわれるという課題があった。また、無極型の最大平坦特性やチェビシェフ特性を用いた場合も、1)通過帯域特性の平坦性、もしくは2)遮断特性の急峻性の両立が困難であることに加え、分布定数回路に実装する際に寄生的な通過域が形成されて、3)の遮断帯域の広帯域性も損なわれるという課題があった。
【0022】
本発明は以上の点に鑑み為されたもので、1)通過帯域特性の平坦性、2)遮断特性の急峻性、3)遮断帯域の広帯域性、の全ての条件を満たす低域通過フィルタを、マイクロ波等の高周波帯に適用可能な分布定数回路の形態で提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係るマイクロ波低域通過フィルタは、偶数次数、有極型、分布定数形態の低域通過フィルタであって、端部の容量を先端開放スタブで実装したことを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係るマイクロ波低域通過フィルタは、前記先端開放スタブの幅および長さを、遮断周波数においては特性関数から要求される容量値の前後20%の値を有する容量素子として機能し、遮断周波数の4倍の周波数においては該周波数において1/4波長となる値の前後20%の値となるように設計したことを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係るマイクロ波低域通過フィルタは、前記先端開放スタブをラジアルスタブとし、該ラジアルスタブの形状および寸法を、遮断周波数においては特性関数から要求される容量値の前後20%の値を有する容量素子として機能し、遮断周波数の4倍の周波数においては該周波数においてインピーダンスの絶対値が20オーム以下となる値の前後20%の値となるように設計したことを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係るマイクロ波低域通過フィルタは、前記特性関数が逆チェビシェフ特性であることを特徴とする。
【0027】
また、本発明に係るマイクロ波低域通過フィルタは、前記特性関数が楕円関数特性であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
上記発明によれば、1)通過帯域特性の平坦性、2)遮断特性の急峻性、3)遮断帯域の広帯域性、の全ての要件を満たす低域通過フィルタを、マイクロ波等の高周波帯に適用可能な分布定数回路の形態で実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の第1の実施例に係る低域通過フィルタの回路図である。
【
図3】本発明の第1の実施例に係る低域通過フィルタと従来の低域通過フィルタの周波数特性を比較したグラフである。
【
図4】
図3のグラフの通過帯域付近の拡大図である。
【
図5】本発明の第2の実施例に係る低域通過フィルタの回路図である。
【
図7】本発明の第2の実施例に係る低域通過フィルタ、第1の実施例に係る低域通過フィルタ、および従来の低域通過フィルタの周波数特性を比較したグラフである。
【
図8】
図7のグラフの通過帯域付近の拡大図である。
【
図9】本発明の第1および第2の実施例に係る低域通過フィルタと、従来の最大平坦特性およびチェビシェフ特性に基づくステップインピーダンス型低域通過フィルタの周波数特性を比較したグラフである。
【
図10】
図9のグラフの通過帯域付近の拡大図である。
【
図11】本発明の第1および第2の実施例に係る低域通過フィルタと、従来の最大平坦特性およびチェビシェフ特性に基づくスタブ型低域通過フィルタの周波数特性を比較したグラフである。
【
図13】理想的な低域通過フィルタの周波数特性を示した模式図である。
【
図14】現実の低域通過フィルタの周波数特性を示した模式図である。
【
図15】6次の無極型LC低域通過フィルタの回路図である。
【
図16】6次の有極型LC低域通過フィルタの回路図である。
【
図17】最大平坦特性、チェビシェフ特性、および逆チェビシェフ特性に基づくLC低域通過フィルタの周波数特性を示すグラフである。
【
図19】有極型の6次LC低域通過フィルタを分布定数回路に変換した従来の回路図である。
【
図21】
図19および
図20に示した従来の低域通過フィルタの周波数特性を示したグラフである。
【
図23】
図20に示した従来の低域通過フィルタのレイアウト図中における高インピーダンス伝送線路の線幅wLを説明するための図である。
【
図24】
図23中に示した高インピーダンス伝送線路の線幅wLを変化させた場合の周波数特性の変化を示すグラフである。
【
図26】6次無極型低域通過フィルタをステップインピーダンス型の形態で分布定数回路に変換した場合の回路図である。
【
図27】6次バターワース型低域通過フィルタをステップインピーダンス型の形態で分布定数回路に変換した場合のレイアウト図である。
【
図28】6次チェビシェフ型低域通過フィルタをステップインピーダンス型の形態で分布定数回路に変換した場合のレイアウト図である。
【
図29】
図27および
図28に示したステップインピーダンス型低域通過フィルタの周波数特性を示したグラフである。
【
図31】6次無極型低域通過フィルタをスタブ型の形態で分布定数回路に変換した場合の回路図である。
【
図32】6次バターワース型低域通過フィルタをスタブ型の形態で分布定数回路に変換した場合のレイアウト図である。
【
図33】6次チェビシェフ型低域通過フィルタをスタブ型の形態で分布定数回路に変換した場合のレイアウト図である。
【
図34】
図32および
図33に示したスタブ型低域通過フィルタの周波数特性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例0031】
先ず、本発明の第1の実施例に係るマイクロ波低域通過フィルタの構成について説明する。
【0032】
図1は、第1の実施例に係るマイクロ波低域通過フィルタの構成例を示す図である。
図19に示した従来回路においては、コンデンサC6を低い特性インピーダンスの伝送線路9-6により実装していたのに対し、本実施例では先端開放スタブ7-6で実装している。他の部分は
図19と同じ構成である。
【0033】
前記先端開放スタブ7-6の特性インピーダンスZ0s(すなわち幅ws)、および物理長lsは、以下の2つの条件を同時に満足するように決定する。先ず第1の条件として、遮断周波数fcにおいては、
【数1】
の関係を満足するように決定する。ここで、λs(fc)は、前記先端開放スタブ7-6上を伝搬する電磁波の遮断周波数fcにおける波長である。あるいは、前記高インピーダンス線路5-5の有する寄生的な容量成分を考慮し、
【数2】
の関係を満足するように決定してもよい。ここで、Z0L、lL5、λL(fc)はそれぞれ、前記高インピーダンス線路5-5の特性インピーダンス、物理長、および高インピーダンス線路5-5上を伝搬する電磁波の遮断周波数fcにおける波長である。
【0034】
第2の条件として、寄生通過域が発生している周波数fs(遮断周波数fcの4倍程度の周波数)においては、lsが周波数fsにおける1/4波長となるように決定する。すなわち、
【数3】
を満たすように設計する。ここで、λs(fs)は、前記先端開放スタブ7-6上を伝搬する電磁波の寄生通過域の周波数fsにおける波長である。
【0035】
ただし、以上は設計値の決定法の一例について述べたものであり、上記条件による設計値の±20%程度の範囲であっても本特許は効果を有する。
【0036】
次に、本発明の第1の実施例に係るマイクロ波低域通過フィルタの動作の原理を説明する。前述の通り、前記先端開放スタブ7-6の特性インピーダンスZ0s、および物理長lsを遮断周波数fcにおいて(数1)もしくは(数2)を満足するように設計すれば、前記先端開放スタブ7-6は遮断周波数fcにおいて逆チェビシェフ特性に要求される容量値C6を近似的に有するコンデンサとして機能する。一方、Z0sおよびlsを、寄生通過域が発生している周波数fsにおいて(数3)を同時に満足するように設計すれば、前記先端開放スタブ7-6はfsにおいて短絡回路として機能する。従って、fsにおける不要電力を接地面に落としてくれることが期待される。
【0037】
次に、本発明の第1の実施例に係るマイクロ波低域通過フィルタの動作についてシミュレーション結果を用いて説明する。
図2は、本発明の第1の実施例に係るマイクロ波低域通過フィルタのレイアウト図である。なお、回路およびレイアウト設計においては、(背景技術)で述べたのと同じ低損失樹脂基板を想定している。
【0038】
図3に、
図1の回路(レイアウトは
図2)に対し電磁界シミュレーション(モーメント法)を行った結果得られた挿入損失の周波数特性を白丸および実線で示す。
図4は通過帯域付近の拡大図である。比較のため、
図19(レイアウトは
図20)に示した従来回路の特性を黒三角および点線で併せて示している(
図21および
図22に示したものと同じデータ)。
図3に示す通り、従来回路で発生していた寄生的な通過域が、本実施例の回路では大きく抑圧されている。またこの際、
図4に示す通り、通過帯域付近の特性は従来回路と比較し殆ど劣化していない。
【0039】
以上説明したように、本発明の第1の実施例のマイクロ波低域通過フィルタによれば、1)通過帯域特性の平坦性、2)遮断特性の急峻性、3)遮断帯域の広帯域性、の全ての要件を満たす低域通過フィルタを、マイクロ波等の高周波帯に適用可能な分布定数回路の形態で実現することができる。
【0040】
続いて、本発明の第2の実施例に係るマイクロ波低域通過フィルタの構成について説明する。
【0041】
図5は、第2の実施例に係るマイクロ波低域通過フィルタの構成例を示す図である。
図1に示した第1の実施例においては、コンデンサC6を直線状の先端開放スタブ7-6により実装していたのに対し、本実施例ではラジアルスタブ8-6で実装している。他の部分は
図1と同じ構成である。
【0042】
前記ラジアルスタブ8-6のスタブ長、中心角等の形状は、遮断周波数fcにおいて逆チェビシェフ特性に要求される容量値C6を有するコンデンサとして機能し、寄生通過域が発生している周波数fsにおいては短絡回路として機能するように設計する。ここで短絡回路とは、インピーダンスの絶対値が十分に小さい回路を指し、具体的には20オーム以下となることが望ましい。ただし、これらは最も望ましい設計値の決定法について述べたものであり、上記条件による設計値の±20%程度の範囲であっても本特許は効果を有する。
【0043】
次に、本発明の第2の実施例に係るマイクロ波低域通過フィルタの動作の原理を説明する。一般に、扇形状のラジアルスタブ8-6は、先端開放スタブ7-6に比較し、広帯域特性を示すことが知られている。従って、本実施例によれば、第1の実施例より広帯域に、あるいはより大きく寄生的な通過域が抑圧されることが期待される。
【0044】
次に、本発明の第2の実施例に係るマイクロ波低域通過フィルタの動作についてシミュレーション結果を用いて説明する。
図6は、本発明の第2の実施例に係るマイクロ波低域通過フィルタのレイアウト図である。基板の条件は、(背景技術)で記したものと同一である。
【0045】
図7に、
図5の回路(レイアウトは
図6)に対し電磁界シミュレーション(モーメント法)を行った結果得られた挿入損失の周波数特性を黒丸および破線で示す。
図8は通過帯域付近の拡大図である。比較のため、
図19(レイアウトは
図20)に示した従来回路の特性を黒三角および点線で示した(
図21および
図22に示したものと同じデータ)。加えて、
図1(レイアウトは
図2)に示した第1の実施例の回路の特性を白丸および実線で示した(
図3および
図4に示したものと同じデータ)。
図7に示す通り、従来回路で発生していた寄生的な通過域が、第1の実施例よりも更に大きく抑圧されている。ただしこの際、
図8に示す通り、通過帯域の平坦性が従来回路および第1の実施例に比較し若干劣化している。従って、所要性能に応じて、第1の実施例あるいは第2の実施例の何れかを選択するとよい。
【0046】
以上説明したように、本発明の第2の実施例のマイクロ波低域通過フィルタによれば、1)通過帯域特性の平坦性、2)遮断特性の急峻性、3)遮断帯域の広帯域性、の全ての要件を満たす低域通過フィルタを、マイクロ波等の高周波帯に適用可能な分布定数回路の形態で実現することができる。
【0047】
最後に、本発明に係る第1および第2の実施例の回路の特性を、無極型の分布定数形態の低域通過フィルタと比較する。
【0048】
図9は、ステップインピーダンス型(回路図は
図26)の最大平坦特性(レイアウト図は
図27)およびチェビシェフ特性(レイアウト図は
図28)の低域通過フィルタと、本発明に係る第1および第2の実施例の周波数特性を比較したグラフである。
図10は遮断周波数付近の拡大図である。本発明に係る第1および第2の実施例の低域通過フィルタは、1)通過帯域特性の平坦性、2)遮断特性の急峻性、3)遮断帯域の広帯域性、の全ての点で、従来技術である無極型のステップインピーダンス型低域通過フィルタに対し優位である。
【0049】
図11は、スタブ型(回路図は
図31)の最大平坦特性(レイアウト図は
図32)およびチェビシェフ特性(レイアウト図は
図33)の低域通過フィルタと、本発明に係る第1および第2の実施例の周波数特性を比較したグラフである。
図12は遮断周波数付近の拡大図である。本発明に係る第1および第2の実施例の低域通過フィルタは、第2の実施例の通過帯域の平坦性が最大平坦特性より劣化している点を除いて、1)通過帯域特性の平坦性、2)遮断特性の急峻性、3)遮断帯域の広帯域性、の全ての点で、従来技術である無極型のスタブ型低域通過フィルタに対し優位である。
【0050】
以上、本発明に係る2つの実施例を説明したが、本発明の具体的な構成は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の変更があっても、本発明の範囲に含まれる。
【0051】
例えば上記説明においては、有極型の特性関数として逆チェビシェフ特性を用いて説明したが、本発明の構成は楕円関数特性など他の有極型の特性関数に基づく低域通過フィルタにも同様に適用可能である。また上記説明においては、次数として専ら6次のみを用いたが、偶数次であれば他の次数の低域通過フィルタにも同様に適用可能である。また実施例1においては直線状の先端開放スタブを、実施例2においてはラジアルスタブを用いたが、他の形状の先端開放スタブを用いることも可能である。さらには、遮断周波数においては所定の特性関数に要求される容量値を有するコンデンサとして機能し、寄生通過域が発生している周波数においては短絡回路として機能するような先端短絡スタブを用いることも可能である。また実施例1および実施例2においては、一つのスタブで端部の容量を実装したが、複数のスタブで端部の容量を実装することも可能である。