(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076833
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】原子力プラント及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
G21D 9/00 20060101AFI20230529BHJP
G21D 5/02 20060101ALI20230529BHJP
G21D 3/12 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
G21D9/00
G21D5/02
G21D3/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189781
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】片桐 幸徳
(72)【発明者】
【氏名】村上 洋平
(57)【要約】
【課題】負荷要求に応じて電力系統への出力を調整しつつ原子炉の熱出力の有効活用及び変化抑制が可能な原子力プラント及びその運転方法を提供する。
【解決手段】原子力プラントは、負荷要求に対して原子炉の熱出力に余剰が無い場合、原子炉の熱出力の全量を蒸気タービンに導入して発電させ水素製造システムを停止させる第1運転を行い、原子炉の熱出力に余剰が有り且つ熱出力の余剰分が水素製造システムの上限以下の場合、原子炉の熱出力を維持すると共に熱出力の一部を蒸気タービンに導入して発電させ残りを水素製造システムに供給して水素を製造させる第2運転を行い、原子炉の熱出力の余剰分が水素製造システムの上限を超える場合、熱出力の余剰分が水素製造システムの上限以下となるよう原子炉の熱出力を低下させると共に熱出力の一部を蒸気タービンに導入して発電させ残りを水素製造システムに供給して水素を製造させる第3運転を行う。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に接続され、原子炉で発生した蒸気によって蒸気タービンを駆動させることで発電する原子力発電システムと、
前記原子炉で発生した蒸気が供給可能に構成され、前記原子炉で発生した蒸気の熱エネルギを利用して原水から水蒸気を生成すると共に生成した水蒸気を電気分解して水素を製造する水素製造システムと、
前記原子力発電システムに要求される前記電力系統への発電出力を指示する負荷要求が外部から入力され、前記負荷要求を基に前記原子力発電システム及び前記水素製造システムを制御するプラント制御装置とを備え、
前記プラント制御装置は、
前記負荷要求に対して前記原子炉の熱出力に余剰が無い場合には、前記原子炉の熱出力の全量を前記蒸気タービンに導入して発電させる一方、前記水素製造システムの水素製造を停止状態にする第1運転を行い、
前記負荷要求に対して前記原子炉の熱出力に余剰が有り且つ前記原子炉の熱出力の余剰分が前記水素製造システムの受け入れ可能な上限以下である場合には、前記原子炉の熱出力を維持すると共に、前記原子炉の熱出力の一部を前記蒸気タービンに導入して前記負荷要求に応じた電力を前記電力系統に送出し、前記原子炉の熱出力の残りを前記水素製造システムに供給して水素を製造させる第2運転を行い、
前記負荷要求に対して前記原子炉の熱出力に余剰が有り且つ前記原子炉の熱出力の余剰分が前記水素製造システムの前記上限を超えている場合には、前記原子炉の熱出力の余剰分が前記水素製造システムの前記上限以下となるように前記原子炉の熱出力を低下させると共に、前記原子炉の熱出力の一部を前記蒸気タービンに導入して前記負荷要求に応じた電力を前記電力系統に送出し、前記原子炉の熱出力の残りを前記水素製造システムに供給して水素を製造させる第3運転を行う
ことを特徴とする原子力プラント。
【請求項2】
請求項1に記載の原子力プラントにおいて、
前記水素製造システムは、
前記原子炉で発生した蒸気の熱エネルギを利用して原水から水蒸気を生成し、生成した水蒸気を電気分解して水素を製造する水素製造装置と、
前記原子炉から供給される蒸気の熱エネルギの貯蔵及び貯蔵している熱エネルギの前記水素製造装置への供給が可能な蓄熱設備とを含んでいる
ことを特徴とする原子力プラント。
【請求項3】
請求項2に記載の原子力プラントにおいて、
前記プラント制御装置は、前記第1運転を行う場合には、前記蓄熱設備に貯蔵されている熱エネルギを前記水素製造装置に供給して前記水素製造装置を保温する保温運転を同時に行う
ことを特徴とする原子力プラント。
【請求項4】
請求項2に記載の原子力プラントにおいて、
前記水素製造システムの前記上限は、前記水素製造装置の受け入れ可能な上限と前記蓄熱設備の受け入れ可能な上限とを合算したものであり、
前記プラント制御装置は、前記第2運転を行う場合において、
前記原子炉の熱出力の余剰分が前記水素製造装置の前記上限以下である場合には、前記原子炉から前記水素製造システムに供給される蒸気の熱エネルギの全量を前記水素製造装置で利用する制御を行い、
前記原子炉の熱出力の余剰分が前記水素製造装置の前記上限を超えている場合には、前記原子炉から前記水素製造システムに供給される蒸気の熱エネルギの一部を前記水素製造装置で利用すると共に残りの蒸気の熱エネルギを前記蓄熱設備に貯蔵する制御を行う
ことを特徴とする原子力プラント。
【請求項5】
請求項2に記載の原子力プラントにおいて、
前記プラント制御装置は、前記第3運転を行う場合において、
前記蓄熱設備が熱エネルギを貯蔵可能な状態である場合には、前記原子炉から前記水素製造システムに供給される蒸気の熱エネルギの一部を前記水素製造装置で利用すると共に残りの蒸気の熱エネルギを前記蓄熱設備に貯蔵する制御を行い、
前記蓄熱設備が満蓄状態に達して熱エネルギを貯蔵不能な状態である場合には、前記原子炉から前記水素製造システムに供給される蒸気の熱エネルギの全量を前記水素製造装置で利用する制御を行う
ことを特徴とする原子力プラント。
【請求項6】
請求項2に記載の原子力プラントにおいて、
前記水素製造システムは、前記原子炉で発生した蒸気の熱エネルギが必ず前記蓄熱設備を介して前記水素製造装置に伝達されるように構成されている
ことを特徴とする原子力プラント。
【請求項7】
請求項1に記載の原子力プラントにおいて、
前記プラント制御装置は、前記水素製造システムの水素製造に対して前記電力系統から電力を供給するように制御する
ことを特徴とする原子力プラント。
【請求項8】
原子炉で発生した蒸気によって蒸気タービンを駆動させることで発電する原子力発電システムと前記原子炉で発生した蒸気の熱エネルギを利用して原水から生成した水蒸気を電気分解して水素を製造する水素製造システムとを備えた原子力プラントを、外部から与えたれる電力系統の負荷要求を基に運転する原子力プラントの運転方法であって、
前記負荷要求に対して前記原子炉の熱出力に余剰が無い場合には、前記原子炉の熱出力の全量を前記蒸気タービンに導入して発電させる一方、前記水素製造システムの水素製造を停止状態にする第1運転を行い、
前記負荷要求に対して前記原子炉の熱出力に余剰が有り且つ前記原子炉の熱出力の余剰分が前記水素製造システムの受け入れ可能な上限以下である場合には、前記原子炉の熱出力を維持すると共に、前記原子炉の熱出力の一部を前記蒸気タービンに導入して前記負荷要求に応じた電力を前記電力系統に送出し、前記原子炉の熱出力の残りを前記水素製造システムに供給して水素を製造させる第2運転を行い、
前記負荷要求に対して前記原子炉の熱出力に余剰が有り且つ前記原子炉の熱出力の余剰分が前記水素製造システムの前記上限を超えている場合には、前記原子炉の熱出力の余剰分が前記水素製造システムの前記上限以下となるように前記原子炉の熱出力を低下させると共に、前記原子炉の熱出力の一部を前記蒸気タービンに導入して前記負荷要求に応じた電力を前記電力系統に送出し、前記原子炉の熱出力の残りを前記水素製造システムに供給して水素を製造させる第3運転を行う
ことを特徴とする原子力プラントの運転方法。
【請求項9】
請求項8に記載の原子力プラントの運転方法において、
前記水素製造システムは、
前記原子炉で発生した蒸気の熱エネルギを利用して原水から水蒸気を生成し、生成した水蒸気を電気分解して水素を製造する水素製造装置と、
前記原子炉から供給される蒸気の熱エネルギの貯蔵及び貯蔵している熱エネルギの前記水素製造装置への供給が可能な蓄熱設備とを含んでいる
ことを特徴とする原子力プラントの運転方法。
【請求項10】
請求項9に記載の原子力プラントの運転方法において、
前記第1運転を行う場合には、前記蓄熱設備に貯蔵されている熱エネルギを前記水素製造装置に供給して前記水素製造装置を保温する保温運転も同時に行う
ことを特徴とする原子力プラントの運転方法。
【請求項11】
請求項9に記載の原子力プラントの運転方法において、
前記水素製造システムの前記上限は、前記水素製造装置の受け入れ可能な上限と前記蓄熱設備の受け入れ可能な上限とを合算したものであり、
前記第2運転を行う場合において、
前記原子炉の熱出力の余剰分が前記水素製造装置の前記上限以下である場合には、前記原子炉から前記水素製造システムに供給される蒸気の熱エネルギの全量を前記水素製造装置で利用し、
前記原子炉の熱出力の余剰分が前記水素製造装置の前記上限を超えている場合には、前記原子炉から前記水素製造システムに供給される蒸気の熱エネルギの一部を前記水素製造装置で利用すると共に残りの蒸気の熱エネルギを前記蓄熱設備に貯蔵する
ことを特徴とする原子力プラントの運転方法。
【請求項12】
請求項9に記載の原子力プラントの運転方法において、
前記第3運転を行う場合において、
前記蓄熱設備が熱エネルギを貯蔵可能な状態である場合には、前記原子炉から前記水素製造システムに供給される蒸気の熱エネルギのうちの一部を前記水素製造装置で利用すると共に残りの蒸気の熱エネルギを前記蓄熱設備に貯蔵し、
前記蓄熱設備が満蓄状態に達して熱エネルギを貯蔵不能な状態である場合には、前記原子炉から前記水素製造システムに供給される蒸気の熱エネルギの全量を前記水素製造装置で利用する
ことを特徴とする原子力プラントの運転方法。
【請求項13】
請求項8に記載の原子力プラントの運転方法において、
前記水素製造システムの水素製造に前記電力系統からの電力を用いる
ことを特徴とする原子力プラントの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラント及びその運転方法に係り、詳しくは、原子炉で発生した蒸気を用いて電力及び水素の併産が可能な原子力プラント及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントにおいて水素を製造する手法として、固体酸化物形電解セル(Solid Oxide Electrolysis Cell:SOEC)の適用が検討されている。SOECは、イオンを通す電解質の両面を水素極と酸素極とで挟みこんだ構造体のセルを積層したものであり、各セルの水素極に水蒸気を供給して両極に電圧を印加することで水素極から水素を取り出すと共に酸素極から酸素を取り出す装置である。SOECを用いた水蒸気の電気分解は、エネルギ消費量を低く抑えることができるという特徴がある。そのため、原子力プラントにおける非化石燃料由来の原子力の熱エネルギを用いてSOECを作動させて水素を製造することで、地球温暖化の主要因とされる温室効果ガスの排出量の削減および水素社会に向けた燃料供給の両立が期待されている。
【0003】
原子力プラントにおいて水素を製造する手法としては、例えば、特許文献1に記載のものがある。特許文献1に記載の水素製造方法を行う原子力プラントでは、タービンを回転させる原子炉(熱源)の蒸気(冷却材)の一部を水蒸気発生装置に導いてこの蒸気(冷却材)の熱エネルギにより水蒸気を発生させ、当該水蒸気を熱交換器(第1加熱手段)で昇温させた後に電熱器(第2加熱手段)で電気エネルギにより更に昇温させ、昇温した水蒸気を水蒸気電解装置に導入して水素を生成する。すなわち、当該原子力プラントは、原子炉の蒸気の熱エネルギを利用して水蒸気を発生させる水蒸気発生装置、水蒸気発生装置で生じた水蒸気を昇温させる熱交換器および電熱器、熱交換器および電熱器で昇温した水蒸気を電気分解して水素を生成する水蒸気電解装置を含む水素製造システムを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、国内の送電網(電力系統)には、先に述べた原子力プラントにほかに、火力発電や水力発電、太陽光発電、風力発電などの各種の発電プラントが接続されている。電力系統は、前述の発電プラント群の電力供給量が日々の電力需要と常に一致するよう運用されている。太陽光発電や風力発電等に代表される再生可能エネルギ発電は昼夜や天候・気候によって発電量が時々刻々変化するので、主として火力発電が電力系統における需要と供給をバランスさせている。しかしながら、火力発電が温室効果ガスの主たる排出源であることから、火力発電プラントの稼働を停止させることを想定する必要がある。この場合、原子力プラントが電力系統における需要と供給をバランスさせる手段の候補となる。すなわち、原子力プラントは、外部(例えば、中央給電指令所)から与えられる負荷要求に応じて電力系統への発電出力を調整する運転が求められる。
【0006】
原子力プラントの運転では、目標出力の変化に対して実出力の遅れが顕著である。これは、原子炉内の核反応度を調整する手段(例えば、制御棒)の動作開始から実際に核反応が増減するまでの遅れや増減した核反応により核燃料内で発生した熱が冷却水に伝わるまでの遅れに起因している。このため、原子力プラントは、負荷要求に応じて原子炉の熱出力を急速に変化させることは難しい。
【0007】
また、特許文献1に記載の水素製造方法を行う原子力プラントを電力系統の需給バランスの手段として運用する場合を想定する。この場合、当該原子力プラントに対する負荷要求が低下したときに、原子炉の熱出力の一部が余剰となることがある。原子炉の熱出力の定格は、一般的に、水素製造システムが受け入れ可能な上限に比べて大幅に大きい。そのため、特許文献1に記載の原子力プラントにおいては、原子炉の熱出力の余剰分を水素製造システムが利用することができないことがある。この場合、原子炉の熱出力を有効に活用することができずに原子力プラントの効率低下を招いてしまう。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、負荷要求に応じて電力系統に対する発電出力を調整しつつ、原子炉の熱出力の有効活用及び原子炉の熱出力の変化抑制が可能な原子力プラント及びその運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいる。その一例を挙げるならば、電力系統に接続され、原子炉で発生した蒸気によって蒸気タービンを駆動させることで発電する原子力発電システムと、前記原子炉で発生した蒸気が供給可能に構成され、前記原子炉で発生した蒸気の熱エネルギを利用して原水から水蒸気を生成すると共に生成した水蒸気を電気分解して水素を製造する水素製造システムと、前記原子力発電システムに要求される前記電力系統への発電出力を指示する負荷要求が外部から入力され、前記負荷要求を基に前記原子力発電システム及び前記水素製造システムを制御するプラント制御装置とを備え、前記プラント制御装置は、前記負荷要求に対して前記原子炉の熱出力に余剰が無い場合には、前記原子炉の熱出力の全量を前記蒸気タービンに導入して発電させる一方、前記水素製造システムの水素製造を停止状態にする第1運転を行い、前記負荷要求に対して前記原子炉の熱出力に余剰が有り且つ前記原子炉の熱出力の余剰分が前記水素製造システムの受け入れ可能な上限以下である場合には、前記原子炉の熱出力を維持すると共に、前記原子炉の熱出力の一部を前記蒸気タービンに導入して前記負荷要求に応じた電力を前記電力系統に送出し、前記原子炉の熱出力の残りを前記水素製造システムに供給して水素を製造させる第2運転を行い、前記負荷要求に対して前記原子炉の熱出力に余剰が有り且つ前記原子炉の熱出力の余剰分が前記水素製造システムの前記上限を超えている場合には、前記原子炉の熱出力の余剰分が前記水素製造システムの前記上限以下となるように前記原子炉の熱出力を低下させると共に、前記原子炉の熱出力の一部を前記蒸気タービンに導入して前記負荷要求に応じた電力を前記電力系統に送出し、前記原子炉の熱出力の残りを前記水素製造システムに供給して水素を製造させる第3運転を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、負荷要求に対して、原子炉の熱出力に余剰が無い場合、原子炉の熱出力に余剰が有り且つ原子炉の熱出力の余剰分が水素製造システムの上限以下である場合、原子炉の熱出力に余剰が有り且つ原子炉の熱出力の余剰分が水素製造システムの上限を超えている場合の3つの条件に応じて、原子炉の熱出力を維持または変化させると共に蒸気タービン及び水素製造システム対する原子炉の熱出力の配分を変更するので、負荷要求に応じて電力系統に対する原子力発電システムの発電出力を調整しつつ、原子炉の熱出力の有効活用及び原子炉の熱出力の変化抑制が可能となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る原子力プラントの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す第1の実施の形態に係る原子力プラントの詳細構成を示す系統図である。
【
図3】
図1に示す第1の実施の形態に係る原子力プラントにおける水素製造装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図2に示す第1の実施の形態に係る原子力プラントにおけるプラント制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図5】
図4に示す第1の実施の形態に係る原子力プラントのプラント制御装置におけるプラント総括負荷演算部の演算手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】第1の実施の形態に係る原子力プラントの運転方法における原子炉の熱出力(熱負荷)の配分を示す説明図である。
【
図7】本発明の第1の実施の形態の変形例に係る原子力プラントの概略構成を示すブロック図である。
【
図8】本発明の第2の実施の形態に係る原子力プラントの概略構成を示すブロック図である。
【
図9】
図8に示す第2の実施の形態に係る原子力プラントの詳細構成を示す系統図である。
【
図10】
図8に示す第2の実施の形態に係る原子力プラントにおける水素製造装置の構成を示すブロック図である。
【
図11】
図9に示す第2の実施の形態に係る原子力プラントにおけるプラント制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図12】
図11に示す第2の実施の形態に係る原子力プラントのプラント制御装置におけるプラント総括負荷演算部の演算手順の一例を示すフローチャートである。
【
図13】第2の実施の形態に係る原子力プラントの運転方法における原子炉の熱出力(熱負荷)の配分を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の原子力プラント及びその運転方法の実施の形態について図面を用いて説明する。以下で説明する実施の形態は、沸騰水型原子炉(BWR)を備える原子力プラントに適用した例である。また、各図は、本発明を十分に理解できる程度に概略的に示したものであり、図示例のみに限定されるものではない。
【0013】
[第1の実施の形態]
先ず、本発明の第1の実施の形態に係る原子力プラントの概略構成について
図1を用いて説明する。
図1は第1の実施の形態に係る原子力プラントの概略構成を示すブロック図である。
【0014】
図1において、本実施の形態に係る原子力プラント1は、原子力を用いることで発電及び水素製造を行う電力水素併産型のプラントである。原子力プラント1は、原子力の熱エネルギにより発生した蒸気を用いて発電する原子力発電システム2と、原子力発電システム2から供給される電力及び蒸気の熱エネルギを用いて原水から水素を製造する水素製造システム3とを備えている。
【0015】
原子力発電システム2は、主要な構成として、核燃料の核分裂のエネルギにより生じた熱エネルギを用いて蒸気を発生させる原子炉11と、原子炉11で発生した蒸気が導入されることで回転駆動する蒸気タービン12と、蒸気タービン12に機械的に連結されて発電する発電機13とを備えている。発電機13は、電力系統100に電気的に接続されており、発電した電力を電力系統100に送出する。原子力発電システム2は、原子炉11で発生した蒸気の一部(蒸気タービン12への流入を除いた余剰分)を水素製造システム3に供給可能かつ発電機13が発電した電力を水素製造システム3に供給可能に構成されている。
【0016】
水素製造システム3は、主要な構成として、外部から供給された原水を加熱することで水蒸気を生成し生成した水蒸気を電気分解することで水素を製造する水素製造装置31と、水素製造装置31によって製造された水素を貯蔵する水素貯蔵装置32とを備えている。さらに、水素製造システム3は、原子力発電システム2(原子炉11)から供給される蒸気の熱エネルギを貯蔵すると共に、貯蔵した熱エネルギを水素製造装置31に供給する蓄熱設備33を備えている。すなわち、本実施の形態の水素製造システム3は、原子炉11から供給される蒸気の熱エネルギを蓄熱設備33を介して水素製造装置31に供給するように構成されている。
【0017】
水素製造装置31は、原子炉11で発生する蒸気の温度よりも高温(例えば、800~1000℃)の水蒸気(過熱蒸気)を電気分解するものである。本実施の形態に係る水素製造装置31は、蓄熱設備33から供給される熱エネルギを用いて原水を加熱することで低温の水蒸気(飽和蒸気)を生成し、生成された低温の水蒸気に対して原子力発電システム2から供給される電力を用いて加熱することで高温の水蒸気(過熱蒸気)を生成するように構成されている。水素製造装置31の具体的な構成は後述する。
【0018】
蓄熱設備33は、原子炉11から供給される蒸気の熱エネルギを受け取ると共に、受け取った熱エネルギを水素製造装置31に移送する熱媒体を有している。蓄熱設備33は、例えば、原子炉11からの蒸気の熱エネルギを貯蔵可能な蓄熱材を内部に有しており、蓄熱材を介して熱エネルギを熱媒体に伝達するように構成されている。すなわち、蓄熱設備33は、原子炉11から供給される蒸気の熱エネルギを熱媒体を介して水素製造装置31に伝達するものである。
【0019】
次に、第1の実施の形態に係る原子力プラントの詳細構成について
図1~
図3を用いて説明する。
図2は
図1に示す第1の実施の形態に係る原子力プラントの詳細構成を示す系統図である。
図3は
図1に示す第1の実施の形態に係る原子力プラントにおける水素製造装置の構成を示すブロック図である。
【0020】
原子力発電システム2における原子炉11は、内部に燃料体(燃料棒)を装荷しており、冷却水を一定水位まで満たす圧力容器である。原子炉11は、原子炉11の出力を制御する手段として、燃料体の核分裂反応を制御するための制御棒11aと、燃料体と冷却水との熱交換量を制御する再循環システム11bとを備えている。制御棒11aは、駆動機構によって炉心に対して出し入れされるものである。制御棒11aの駆動(制御棒11aの駆動機構)は、プラント制御装置5の後述の制御棒位置指令Crにより制御される。再循環システム11bは、原子炉11の下部から冷却水の一部を抜き出して原子炉11の中央部へと還流させるものである。再循環システム11bでは、循環する冷却水の流量を再循環ポンプ11cにより調整する。再循環ポンプ11cの駆動(流量)は、プラント制御装置5の後述の再循環流量指令Cpにより制御される。
【0021】
原子力発電システム2における蒸気タービン12は、例えば、原子炉11で発生した蒸気が導入される高圧タービン12aと、高圧タービン12aの下流に位置する低圧タービン12bとで構成されている。高圧タービン12aと低圧タービン12bは、タービンシャフト12cで機械的に接続されており、タービンシャフト12cを介して発電機13を回転駆動する。高圧タービン12aと低圧タービン12bとを接続する流路には、加熱器14が配置されている。加熱器14は、高圧タービン12aから排出された蒸気を原子炉11から供給される蒸気を用いて再加熱するものであり、再加熱された蒸気を低圧タービン12bに供給する。
【0022】
原子力発電システム2は、前述の原子炉11、蒸気タービン12、発電機13の他に、蒸気タービン12(低圧タービン12b)から排出された蒸気を凝縮させて生じた水を再び原子炉11に供給する復水給水系統を備えている。復水給水系統は、蒸気タービン12から排出される蒸気を凝縮させて復水として貯留する復水器15と、復水器15から供給された復水を加温する低圧給水加熱器16と、低圧給水加熱器16から供給された復水を加温する高圧給水加熱器17とを含んでいる。復水給水系統は、また、復水器15に貯留されている復水を低圧給水加熱器16に送出する復水ポンプ18と、低圧給水加熱器16の復水を加圧して高圧給水加熱器17に供給し、原子炉11に給水として送出する給水ポンプ19とを含んでいる。低圧給水加熱器16及び高圧給水加熱器17には、それぞれ低圧タービン12b及び高圧タービン12aから抽出された蒸気が加熱源として供給される。
【0023】
原子力発電システム2は、
図1及び
図2に示すように、原子炉11で発生した蒸気が主蒸気管21を介して高圧タービン12a(蒸気タービン12)へ供給されるように構成されている。また、主蒸気管21からバイパスライン22が分岐して水素製造システム3の蓄熱設備33に接続されている。すなわち、原子力発電システム2は、原子炉11で発生した蒸気の一部(余剰蒸気)をバイパスライン22を介して蓄熱設備33に供給するように構成されている。また、原子力発電システム2は、蓄熱設備33に供給された蒸気を戻りライン23を介して復水器15に導くことで当該システム2に回収するように構成されている。すなわち、原子力発電システム2は、原子炉11で発生した放射線源が含まれる蒸気を水素製造システム3に供給するが当該システム2の閉じた系の中で循環するように構成されている。
【0024】
主蒸気管21には蒸気加減弁25が設けられていると共に、バイパスライン22にはバイパス弁26が設けられている。蒸気加減弁25は、原子炉11から高圧タービン12a(蒸気タービン12)に供給される蒸気流量を調節するものであり、その開度がプラント制御装置5の後述の開度指令Cv1により制御される。バイパス弁26は、原子炉11から水素製造システム3(蓄熱設備33)に供給される蒸気流量を調節するものであり、その開度がプラント制御装置5の後述の開度指令Cv2により制御される。
【0025】
原子力発電システム2には、原子炉11内の圧力を検出する圧力センサ28が設置されていると共に、発電機13の発電出力を検出する電力計29が設置されている。圧力センサ28及び電力計29はそれぞれ、検出した圧力値に応じた検出信号Ps及び検出した電力値に応じた検出信号Esをプラント制御装置5に出力する。
【0026】
水素製造システム3の水素製造装置31は、プラント制御装置5の後述の電力要求指令Ceに応じて原子力発電システム2の発電機13から供給される電力が制御されることで、水素の製造量が調節される。水素製造装置31は、蓄熱設備33から供給される熱エネルギ(熱媒体)及び原子力発電システム2から供給される電力を用いて原水から高温(例えば、800~1000℃)の水蒸気(過熱水蒸気)を生成し、生成した高温の水蒸気を原子力発電システム2から供給される電力を用いて電気分解することで水素を製造するものである。水素製造装置31は、例えば
図3に示すように、上流側から順に、蒸気発生器41、熱交換器42、蒸気加熱器43、水蒸気電解装置44、水素分離装置45を備えている。
【0027】
蒸気発生器41は、蓄熱設備33から供給される熱エネルギを用いて原水から水蒸気(飽和蒸気)を生成するものであり、生成した水蒸気(飽和蒸気)を熱交換器42に導入する。蓄熱設備33に貯蔵されている熱エネルギは、元々、原子力発電システム2の原子炉11から供給された蒸気の熱エネルギなので、蒸気発生器41は原子炉11から供給された蒸気の熱エネルギを用いて原水から水蒸気(飽和蒸気)を生成するものであるとも言い換えられる。蒸気発生器41への熱エネルギの供給(熱媒体の流量)は、調整弁35(
図1及び
図2を参照)によって調節される。
【0028】
熱交換器42は、蒸気発生器41で生成された飽和水蒸気を加熱することで昇温して過熱蒸気を生成するものであり、昇温した水蒸気を蒸気加熱器43に導入する。熱交換器42には、水蒸気電解装置44から排出される後述の混合気体が加熱源として導入される。すなわち、熱交換器42は、水蒸気電解装置44から排出される混合気体の熱エネルギを再利用して蒸気発生器41からの飽和水蒸気を加熱するものである。
【0029】
蒸気加熱器43は、熱交換器42で昇温された水蒸気を原子力発電システム2から供給される電力を用いて更に加熱することで水蒸気電解装置44の作動温度まで昇温させるものであり、昇温した高温水蒸気を水蒸気電解装置44に導入する。蒸気加熱器43は、例えば、電力を熱エネルギに変換する電熱器によって構成されている。
【0030】
水蒸気電解装置44は、蒸気加熱器43で昇温された高温水蒸気を電力系統100から供給される電力を用いて電気分解することで水素を生成するものである。水蒸気電解装置44は、例えば、固体酸化物形電解セル(SOEC)を含むものであり、800~1000℃で作動する。SOECは、イオンを通す電解質を水蒸気から水素を取り出す水素極(カソード)と酸素を取り出す酸素極(アノード)とで挟んだ構造体のセルを積層したものである。SOECでは、両極に電圧を印加すると、酸素極に酸素が発生する一方、水素極に水素が発生する。水蒸気電解装置44で発生した水素及び酸素、並びに、電気分解されずに残った未利用の水蒸気を含む混合気体は、高温の状態のままである。そこで、水蒸気電解装置44から排出される混合気体(水素を含む水蒸気及び酸素を含む水蒸気)は、熱交換器42に導入されて熱交換器42の加熱源として利用される。
【0031】
水素分離装置45は、水蒸気電解装置44から排出された混合気体から水素を分離するものである。水素分離装置45は、分離した水素を水素貯蔵装置32(
図1参照)へ送出する一方、水素が分離された水蒸気を蒸気発生器41で発生した飽和蒸気に合流させるように構成されている。
【0032】
上述した構成の水素製造装置31においては、水素分離装置45によって水素が除去された水蒸気を熱交換器42及び蒸気加熱器43を介して水蒸気電解装置44に再び導入して電気分解する循環サイクルが構築されている。また、水素製造装置31は、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が無い場合、水蒸気電解装置44が停止されると共に、水素製造装置31の各構成機器が停止中に保温されるように構成されている。例えば、水蒸気電解装置44には、停止中におけるセルの急激な冷却や当該装置内の蒸気のドレン化を抑制するために、図示しない断熱材などが用いられている。また、水蒸気電解装置44以外の周辺機器である蒸気発生器41や熱交換器42は、蓄熱設備33から供給される熱エネルギ(貯蔵した原子炉11の蒸気の熱エネルギ)を用いることで温度の低下を抑制するように構成されている。このように、停止中の水素製造装置31の各構成機器41、42、43、44を保温すること及び水素製造装置31を循環する水蒸気を保温することで、停止中の水蒸気電解装置44を短時間で作動温度まで復帰させ、水素製造装置31による速やかな水素製造の再開が可能となる。
【0033】
図2に戻り、蓄熱設備33は、原子炉11で発生した蒸気の一部(余剰蒸気)がバイパスライン22及びバイパス弁26を介して供給されるように構成されている。蓄熱設備33の貯蔵する熱エネルギはバイパス弁26によって調節される。蓄熱設備33は、原子炉11(原子力発電システム2)から供給された蒸気を戻りライン23を介して復水器15(原子力発電システム2)に戻すように構成されている。また、蓄熱設備33は、貯蔵している熱エネルギ(原子炉11からの蒸気の熱エネルギ)を調節弁35を介して水素製造装置31に供給するように構成されている。調節弁35は、蓄熱設備33から水素製造装置31に供給される熱エネルギ量、すなわち熱媒体の流量を調節するものであり、その開度がプラント制御装置5の後述の加熱量指令Chにより制御される。蓄熱設備33には、蓄熱設備33の蓄熱量を検出する熱量センサ36が設置されている。熱量センサ36は、検出した蓄熱量に応じた検出信号Tsをプラント制御装置5に出力する。熱量センサ36の検出値は、蓄熱設備33の満蓄状態の有無を判断する指標となる。
【0034】
蓄熱設備33は、次の2つの機能を有している。第1の機能は、原子炉11で発生した蒸気の熱エネルギを回収し、回収した熱エネルギを水素製造装置31における水素源の水蒸気の生成のための熱エネルギとして供給するものである。原子炉11で発生した蒸気には核燃料に由来する放射線源が含まれており、原子炉11からの蒸気を直接熱電解して水素を生成することは安全上問題がある。そのため、原子炉11の蒸気とは異なる水蒸気を電気分解して水素を製造する必要があり、原水から水蒸気を発生させるための熱エネルギが必要となる。第2の機能は、原子炉11で発生した蒸気の熱エネルギを一時的に貯蔵しておき、貯蔵している熱エネルギを用いて停止中の水素製造装置31を保温する機能である。水素製造装置31では、停止中に各構成機器41、42、43、44の温度が低下してしまうと、水素製造装置31の再起動時に水蒸気電解装置44の温度を作動温度に復帰させるまで時間を要することになり、水蒸気電解装置44による水素製造の再開が遅れてしまう。水素製造装置31の停止中に各構成機器41、42、43、44を保温するために、蓄熱設備33が貯蔵する熱エネルギを利用することで、水蒸気電解装置44の水素製造の速やかな再開が可能となる。
【0035】
プラント制御装置5には、原子力発電システム2に要求される電力系統100への発電出力を指示する負荷要求が外部(例えば、図示しない中央給電指令所)から入力される。また、圧力センサ28により検出された原子炉11の圧力に対応する検出信号Ps及び電力計29より検出された発電機13の発電出力に対応する検出信号Esが入力される。また、蓄熱設備33の熱量センサ36により検出された蓄熱設備33の蓄熱量に対応する検出信号Tsが入力される。
【0036】
プラント制御装置5は、入力された負荷要求、圧力センサ28の検出値(原子炉11の圧力)、電力計29の検出値(発電機13の発電出力)、熱量センサ36の検出値(蓄熱設備33の蓄熱量)に基づき、原子力発電システム2及び水素製造システム3を制御するものである。プラント制御装置5の原子力発電システム2の制御は、制御棒11aの駆動機構に対する制御棒位置指令Cr及び再循環ポンプ11cに対する再循環流量指令Cpを基に原子炉11の熱出力(発生蒸気量)を制御すると共に、蒸気加減弁25に対する開度指令Cv1を基に蒸気タービン12(発電機13)の出力を制御するものである。プラント制御装置5の水素製造システム3の制御は、バイパス弁26に対する開度指令Cv2及び調節弁35に対する加熱量指令Chを基に、原子炉11から水素製造装置31及び蓄熱設備33に供給する蒸気の熱エネルギ量(原子炉11の熱出力)を制御すると共に、水素製造装置31に対する電力要求指令Ceを基に水素製造装置31に供給する電力を制御することで、水素製造装置31の出力(水素製造)及び蓄熱設備33の蓄放熱を制御するものである。プラント制御装置5による原子力プラント1の具体的な運転方法の詳細は後述する。
【0037】
次に、第1の実施の形態に係る原子力プラントにおけるプラント制御装置のハード構成及び機能構成について
図4を用いて説明する。
図4は
図2に示す第1の実施の形態に係る原子力プラントにおけるプラント制御装置の構成を示すブロック図である。
【0038】
図4において、プラント制御装置5は、ハード構成として例えば、ROMやRAM等からなる記憶装置51とCPUやMPU等からなる処理装置52とを備えている。記憶装置51には、原子力発電システム2及び水素製造システム3の制御を行うために必要なプラグラムや各種情報が予め記憶されている。処理装置52は、記憶装置51から各種プログラムや各種情報を適宜読み込み、当該プログラムに従って処理を実行することで各種機能を実現する。
【0039】
本実施の形態のプラント制御装置5は、原子炉11の熱出力(原子炉11で発生する蒸気の熱エネルギ)を基本的に一定に保持して運転する熱出力一定運転を行う。さらに、プラント制御装置5は、負荷要求を満たすことを最優先として、原子炉11の熱出力を蒸気タービン12と水素製造システム3(水素製造装置31及び蓄熱設備33)とに適切に配分する運転を行う。水素製造システム3における原子炉11の熱出力の配分は、蓄熱設備33の蓄熱よりも水素製造装置31の水素製造が優先される。すなわち、プラント制御装置5は、原子力発電システム2が電力系統100に対して負荷要求を満たす電力を出力することを最優先する運転を行い、負荷要求の状況によっては原子炉11の熱出力の余剰分を水素製造システム3で利用することで水素を製造すると共に場合によっては原子炉11からの蒸気の熱エネルギを貯蔵する運転を行う。また、プラント制御装置5は、負荷要求に対する原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の受け入れ可能な上限を超える場合には、原子炉11の熱出力一定運転を変更して原子炉11の熱出力を下げることで、原子炉11の熱出力の余剰分を水素製造システム3の受け入れ可能な上限以下にする運転を行う。また、プラント制御装置5は、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が無い場合には、水素製造システム3の水素製造装置31の水素製造を停止させると共に蓄熱設備33が貯蔵している熱エネルギを用いて水素製造装置31を保温する保温運転を行う。
【0040】
プラント制御装置5は、上述の運転を実行するために、次のような機能部を有している。プラント制御装置5は、概略的に、原子力発電システム2を制御する原子力発電システム制御部60と、水素製造システム3を制御する水素製造システム制御部70の機能部を有している。原子力発電システム制御部60は、プラント総括負荷演算部61と原子炉出力制御部62とタービンガバナ制御部63の機能部で構成されている。水素製造システム制御部70は、水素製造制御部71と蓄熱制御部72の機能部で構成されている。
【0041】
原子力発電システム制御部60のプラント総括負荷演算部61には、負荷要求が外部から入力されると共に、電力計29の検出値Esである発電機13の発電出力及び熱量センサ36の検出値Tsである蓄熱設備33の蓄熱量が入力される。プラント総括負荷演算部61は、入力された負荷要求と電力計29の検出値Esと熱量センサ36の検出値Tsとを基に、原子力プラント1の各構成装置の熱負荷、すなわち、原子炉11の熱負荷Q1(目標熱出力)、蒸気タービン12の熱負荷Q2(目標出力)、水素製造装置31の水素製造に必要な熱負荷Q3、蓄熱設備33に貯蔵する熱エネルギ又は蓄熱設備33から放出する熱エネルギ(単位時間当たり)としての熱負荷Q4を演算する。プラント総括負荷演算部61は、演算結果の原子炉11の熱負荷Q1(以下、原子炉負荷Q1と称することがある)を原子炉出力制御部62へ、演算結果の蒸気タービン12の熱負荷Q2(以下、タービン負荷Q2と称することがある)をタービンガバナ制御部63へ、演算結果の水素製造装置31の熱負荷Q3(以下、水素製造負荷Q3と称することがある)を水素製造システム制御部70の水素製造制御部71へ、演算結果の蓄熱設備33の熱負荷Q4(以下、蓄熱負荷Q4と称することがある)を蓄熱制御部72へ出力する。プラント総括負荷演算部61の演算内容の詳細については後述する。
【0042】
原子炉出力制御部62には、圧力センサ28の検出値Psである原子炉11の圧力が入力されると共に、プラント総括負荷演算部61の演算結果である原子炉負荷Q1が入力される。原子炉出力制御部62は、圧力センサ28の検出値Psが予め設定された設定圧力値に一致すると共に原子炉11の実際の熱出力が原子炉負荷Q1に一致するように原子炉11を制御する。具体的には、原子炉出力制御部62は、制御棒位置指令Crを制御棒11aの駆動装置へ出力して制御棒11aの位置を制御すると共に、再循環流量指令Cpを再循環ポンプ11cへ出力して再循環システム11bの再循環流量を制御することで、上記の原子炉11の制御を実現する。なお、設定圧力値は、例えば、記憶装置51に予め記憶されている。
【0043】
タービンガバナ制御部63には、プラント総括負荷演算部61の演算結果であるタービン負荷Q2が入力される。タービンガバナ制御部63は、蒸気タービン12の出力がタービン負荷Q2に一致するように蒸気タービン12の駆動を制御する。具体的には、開度指令Cv1を蒸気加減弁25へ出力して蒸気加減弁25の開度を制御することで、上記の蒸気タービン12の出力制御を実現する。
【0044】
水素製造システム制御部70の水素製造制御部71には、プラント総括負荷演算部61の演算結果である水素製造負荷Q3が入力される。水素製造制御部71は、水素製造負荷Q3を基に水蒸気生成熱負荷Q3S及び電力要求指令Ceを演算する。水蒸気生成熱負荷Q3Sは、水素製造装置31の蒸気発生器41で原水を加熱して低温の蒸気を発生させるために必要な熱エネルギ(単位時間当たり)であり、原子炉11から蓄熱設備33を介して水素製造装置31に供給すべき蒸気の熱エネルギ(蒸気の流量)に相当するものである。電力要求指令Ceは、水素製造装置31の蒸気加熱器43としての電熱器が低温の水蒸気を水蒸気電解装置44の作動温度まで加熱するために必要な電力及び水蒸気電解装置44が水蒸気を電気分解するために必要な電力を要求するものである。水素製造制御部71は、演算結果の水蒸気生成熱負荷Q3Sを蓄熱制御部72へ出力すると共に、演算結果の電力要求指令Ceを水素製造装置31へ出力する。水素製造制御部71は、電力要求指令Ceに応じた電力を水素製造装置31に供給させることで水素製造を制御する。
【0045】
蓄熱制御部72には、水素製造制御部71の演算結果である水蒸気生成熱負荷Q3S及びプラント総括負荷演算部61の演算結果である蓄熱負荷Q4が入力される。蓄熱制御部72は、水蒸気生成熱負荷Q3Sが0でない場合には、原子炉11から蓄熱設備33に供給される蒸気の熱エネルギ(蒸気の流量)が水蒸気生成熱負荷Q3Sと蓄熱負荷Q4の合計値と一致するように制御する。具体的には、水蒸気生成熱負荷Q3S及び蓄熱負荷Q4に応じた開度指令Cv2をバイパス弁26へ出力して蒸気加減弁25の開度を制御することで、上記の蓄熱設備33への熱供給制御を実現する。さらに、蓄熱制御部72は、蓄熱設備33から水素製造装置31に供給される熱エネルギ(熱媒体の流量)が水蒸気生成熱負荷Q3Sと一致するように制御する。具体的には、水蒸気生成熱負荷Q3Sに応じた加熱量指令Chを調節弁35へ出力して調節弁35の開度を制御することで、原子炉11から蓄熱設備33を介した水素製造装置31への熱供給制御を実現する。なお、蓄熱設備33への熱供給制御による熱エネルギの供給量と水素製造装置31への熱供給制御による熱エネルギの供給量との差分が蓄熱設備33の蓄熱となる。すなわち、蓄熱制御部72は、蓄熱設備33への熱供給制御及び水素製造装置31への熱供給制御を行うことで、蓄熱設備33の蓄熱制御を実現している。また、蓄熱制御部72は、水蒸気生成熱負荷Q3Sが0である場合には、蓄熱設備33への熱供給制御を実行せずに、蓄熱負荷Q4に応じた水素製造装置31への熱供給制御のみを実行することで、蓄熱設備33の放熱による水素製造装置31の保温制御を実現している。
【0046】
次に、第1の実施の形態に係る原子力プラントにおけるプラント制御装置のプラント総括負荷演算部の演算について
図5を用いて説明する。
図5は
図4に示す第1の実施の形態に係る原子力プラントのプラント制御装置におけるプラント総括負荷演算部の演算手順の一例を示すフローチャートである。
【0047】
図5において、プラント制御装置5のプラント総括負荷演算部61(
図4参照)は、先ず、負荷要求QeD(電力の単位)に対応する原子炉11の熱負荷Qt1Dを演算する(ステップS10)。この演算は、原子力発電システム2の発電機13が負荷要求QeDの電力を出力するために必要となる、原子炉11で単位時間当たりに発生させる蒸気の熱エネルギを演算することに相当する。
【0048】
次に、原子炉11の熱出力の定格値Qt1RがステップS10の演算結果である原子炉11の熱負荷Qt1Dよりも大きいか否かを判定する(ステップS20)。原子炉11の定格値Qt1Rは、例えば、記憶装置51に予め記憶されている。本実施の形態においては、原子炉11の熱出力を定格で一定に保持して運転することを基本としている。つまり、上記判定は、負荷要求に対する原子炉11の熱出力の余剰の有無を判定するものである。原子炉11の熱出力の定格値Qt1Rが演算結果の熱負荷Qt1D以下である場合(NOの場合)にはステップS30に進む一方、原子炉11の熱出力の定格値Qt1Rが演算結果の熱負荷Qt1よりも大きい場合(YESの場合)にはステップS40に進む。
【0049】
ステップS20にてNOの場合(Qt1R≦Qt1Dの場合)、すなわち、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰がない場合、プラント総括負荷演算部61は、原子炉11の熱負荷Q1(目標熱出力)を定格値Qt1Rに設定する。また、蒸気タービン12の熱負荷Q2(目標出力)を原子炉11の熱出力(発生蒸気)の全量(すなわち、原子炉11の熱負荷Q1である定格値Qt1Rに相当)を蒸気タービン12に導入した場合として設定する。また、水素製造装置31の熱負荷Q3を水素製造装置31の水素製造の停止状態に相当するように設定する。すなわち、水素製造装置31の熱負荷Q3を0に設定する。また、蓄熱設備33の熱負荷Q4を水素製造装置31の保温状態に設定する。すなわち、ステップS30は、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰がない場合に、原子炉11の熱出力の全量を蒸気タービン12に導入して発電させる一方、水素製造システム3の水素製造を停止状態にする第1運転を行うと同時に、蓄熱設備33の放熱により水素製造装置31を保温する保温運転を行うことを設定するものである。
【0050】
ステップS20にてYESの場合(Qt1R>Qt1Dの場合)、すなわち、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有る場合において、原子炉11の熱出力の定格値Qt1Rが、ステップS10の演算結果である熱負荷Qt1Dと水素製造装置31の定格稼働時における熱負荷Qt3Rとの合計値よりも大きい(Qt1R>Qt1D+Qt3R)か否かを判定する(ステップS40)。上記判定は、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有るときに、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の水素製造装置31の受け入れ可能な上限を超えているか否かを判定するものである。Qt1R≦Qt1D+Qt3Rである場合(NOの場合)にはステップS50に進む一方、Qt1R>Qt1D+Qt3Rである場合(YESの場合)にはステップS60に進む。
【0051】
ステップS40にてNO(Qt1R≦Qt1D+Qt3R)の場合、すなわち、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有る場合であって、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の水素製造装置31の受け入れ可能な上限以下である場合、プラント総括負荷演算部61は、原子炉11の熱負荷Q1を定格値Qt1Rに設定する。すなわち、原子炉11の熱出力に余剰が有る場合であっても、プラント原子炉11の熱出力を定格で一定に保持する定格熱出力一定運転を維持する。また、水素製造装置31の熱負荷Q3を(Qt1R-Qt1D)に設定する。蓄熱設備33の熱負荷Q4を蓄熱も放熱も無い状態である0に設定する。また、蒸気タービン12の熱負荷Q2を負荷要求QeDに対応する熱負荷Qt1Dに水素製造装置31の水素製造に必要な電力を加味して設定する。
【0052】
すなわち、ステップS50は、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の受け入れ可能な上限以下である場合に、原子炉11の熱出力を維持すると共に、原子炉11の熱出力の一部を蒸気タービン12に導入して発電させ、原子炉11の熱出力の残りを水素製造システムに供給して水素を製造させる第2運転を行うことを設定するものである。更に詳しくは、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造装置31の上限以下である場合に、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギの全量を水素製造装置31で利用する制御を行うことを設定するものである。
【0053】
ステップS40にてYES(Qt1R>Qt1D+Qt3R)の場合、すなわち、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有る場合であって、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の水素製造装置31の受け入れ可能な上限を超えている場合に、原子炉11の熱出力の定格値Qt1Rが、ステップS10の演算結果である熱負荷Qt1Dと水素製造装置31の定格稼働時における熱負荷Qt3Rと蓄熱設備33の定格の蓄熱時における熱負荷Qt4Rとの合計値よりも大きい(Qt1R>Qt1D+Qt3R+Qt4R)か否かを判定する(ステップS60)。上記判定は、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有るときに、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3(水素製造装置31及び蓄熱設備33)の受け入れ可能な上限を超えているか否かを判定するものである。Qt1R≦Qt1D+Qt3R+Qt4Rである場合(NOの場合)にはステップS70に進む一方、Qt1R>Qt1D+Qt3R+Qt4Rである場合(YESの場合)にはステップS80に進む。
【0054】
ステップS60にてNO(Qt1R≦Qt1D+Qt3R+Qt4R)の場合、すなわち、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有る場合、且つ、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の受け入れ可能な上限以下ではあるが水素製造装置31の受け入れ可能な上限を超えている場合において、プラント総括負荷演算部61は、原子炉11の熱負荷Q1を定格値Qt1Rに設定する。すなわち、原子炉11の熱出力に余剰が有る場合であっても、プラント原子炉11の熱出力を定格で一定に保持する定格熱出力一定運転を維持する。また、水素製造装置31の熱負荷Q3を定格Qt3Rに設定する。また、蓄熱設備33の熱負荷Q4を(Qt1R-Qt1D-Qt3R)に設定する。また、蒸気タービン12の熱負荷Q2を負荷要求QeDに対応する熱負荷Qt1Dに水素製造装置31の水素製造に必要な電力を加味して設定する。
【0055】
すなわち、ステップS70は、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の受け入れ可能な上限以下である場合に、原子炉11の熱出力を維持すると共に、原子炉11の熱出力の一部を蒸気タービン12に導入して発電させ、原子炉11の熱出力の残りを水素製造システムに供給して水素を製造させる第2運転を行うことを設定するものである。更に詳しくは、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造装置31の上限を超えている場合に、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギの一部を水素製造装置31で利用すると共に残りの蒸気の熱エネルギを記蓄熱設備33に貯蔵する制御を行うことを設定するものである。プラント総括負荷演算部61は、ステップS70の処理後、ステップS90に進む。
【0056】
ステップS60にてYES(Qt1R>Qt1D+Qt3R+Qt4R)の場合、すなわち、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有る場合且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の受け入れ可能な上限を超えている場合には、プラント総括負荷演算部61は、原子炉11の熱負荷Q1を定格値Qt1Rから(Q1tR-Qt1D-Qt3R-Qt4R=ΔQ1v)分だけ下げるように設定する。すなわち、原子炉11の熱出力の余剰分を水素製造システム3で全て利用することができない場合には、原子炉11の熱出力一定運転を変更して原子炉11の熱出力を下げる運転を行う。また、水素製造装置31の熱負荷Q3を定格Qt3Rに設定する。また、蓄熱設備33の熱負荷Q4を定格Qt4Rに設定する。また、蒸気タービン12の熱負荷Q2を負荷要求QeDに対応する熱負荷Qt1Dに水素製造装置31の水素製造に必要な電力を加味して設定する。
【0057】
すなわち、ステップS80は、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の受け入れ可能な上限を超えている場合に、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の上限以下となるように原子炉11の熱出力を低下させると共に、原子炉11の熱出力の一部を蒸気タービン12に導入して発電させ、原子炉11の熱出力の残りを水素製造システム3(水素製造装置31及び蓄熱設備33)に供給して水素を製造させる第3運転を行うことを設定するものである。プラント総括負荷演算部61は、ステップS80の処理後、ステップS90に進む。
【0058】
次に、プラント総括負荷演算部61は、蓄熱設備33が満蓄状態に達して蓄熱不能な状態(熱エネルギを貯蔵不能な状態)であるか否かを判定する(ステップS90)。プラント制御装置5が蓄熱設備33の蓄熱制御を長時間行うと、蓄熱設備33が満蓄状態に達して蓄熱不能な状態になることがある。上記判定は、この状況を考慮したものである。蓄熱設備33が蓄熱不能な状態である場合(YESの場合)にはステップS100に進んだ後にリターンしてステップS10に戻る一方、蓄熱設備が蓄熱可能(熱エネルギを貯蔵可能)な状態である場合場合(NOの場合)にはリターンしてステップS10に戻る。
【0059】
ステップS90にてYESの場合、プラント総括負荷演算部61は、原子炉11の熱負荷Q1を定格値Qt1Rから(Q1tR-Qt1D-Qt3R=ΔQ1f)分だけ下げるように設定する。すなわち、蓄熱設備33の蓄熱のために供給されていた蓄熱設備33の熱負荷Q4の分だけ原子炉11の熱出力が更に余剰となるので、原子炉11の熱出力を下げる運転を行う。また、水素製造装置31の熱負荷Q3を定格Qt3Rに設定する。また、蓄熱設備33の熱負荷Q4を蓄熱も放熱も無い状態である0に設定する。また、蒸気タービン12の熱負荷Q2を負荷要求QeDに対応する熱負荷Qt1Dに水素製造装置31の水素製造に必要な電力を加味して設定する。
【0060】
すなわち、ステップS100は、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の受け入れ可能な上限を超えている場合であって、蓄熱設備33が熱エネルギの貯蔵可能な上限に達して蓄熱不能な状態である場合には、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の上限以下となるように原子炉11の熱出力を低下させると共に、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギの全量を水素製造装置31で利用する制御を行うものである。
【0061】
次に、本発明の第1の実施の形態に係る原子力プラントの運転方法について
図5及び
図6を用いて説明する。
図6は第1の実施の形態に係る原子力プラントの運転方法における原子炉の熱出力(熱負荷)の配分を示す説明図である。
【0062】
プラント制御装置5は、プラント総括負荷演算部61が
図5に示すフローチャートの演算処理を行うことで設定した原子炉11の熱負荷Q1(目標熱出力)と蒸気タービン12の熱負荷Q2(目標出力)と水素製造装置31の熱負荷Q3と蓄熱設備33の熱負荷Q4に基づいて原子力プラント1の運転を行う。プラント制御装置5による原子力プラント1の運転は、原子炉11の熱出力を次のように配分することで、原子力発電システム2の発電制御と水素製造システム3の水素製造及び蓄熱の制御を行うものである。なお、ここでの説明は、原子炉11の熱出力が基本的に定格値である場合を想定したものである。
【0063】
第1に、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が無い場合には、
図6の最上段の特性図に示すように、原子炉11の熱出力の全量、すなわち、原子炉11の熱出力の定格値Qt1Rを蒸気タービン12に導入して発電させる一方、水素製造システム3の水素製造を停止状態にする第1運転を行う。第1運転は、プラント総括負荷演算部61の
図5に示すステップS30の設定に基づくものであ、原子炉11の熱出力を一定(定格値Qt1R)に維持しつつ、原子力発電システム2が電力系統100に対して負荷要求に応じて電力を出力する運転形態である。すなわち、第1運転は、通常の原子力発電プラントの運転形態に相当する。
【0064】
第2に、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の受け入れ可能な上限以下である場合には、
図6における上から2番目又は3番目の特性図に示すように、原子炉11の熱出力を定格値Qt1Rに維持すると共に、原子炉11の熱出力の一部を蒸気タービン12に導入して負荷要求に応じた電力を電力系統100に送出し、原子炉11の熱出力の残りを水素製造システム3に供給して水素を製造させる第2運転を行う。第2運転は、原子炉11の熱出力を一定(定格値Qt1R)に維持しつつ、電力系統100に対する原子力発電システム2の発電出力を負荷要求に応じて調整すると共に原子炉11の熱出力の余剰分を水素製造に利用する電力水素併産の運転形態である。第2運転は、さらに、2つの運転形態に分けられる。
【0065】
具体的には、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造装置31の受け入れ可能な上限以下である場合には、
図6の2番目の特性図に示すように、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギの全量を水素製造装置31で利用する制御を行う。当該運転は、プラント総括負荷演算部61の
図5に示すステップS50の設定に基づくものであり、電力系統100に対する原子力発電システム2の発電出力を負荷要求に応じて調整すると共に原子炉11の熱出力の余剰分を水素製造のみに利用する電力水素併産の運転形態である。
【0066】
また、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造装置31の受け入れ可能な上限を超えている場合には、
図6の3番目の特性図に示すように、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギの一部を水素製造装置31で利用して水素を製造すると共に残りの蒸気の熱エネルギを蓄熱設備33に貯蔵する制御を行う。当該運転は、プラント総括負荷演算部61の
図5に示すステップS70の設定に基づくものである。すなわち、当該運転は、電力系統100に対する原子力発電システム2の発電出力を負荷要求に応じて調整すると共に原子炉11の熱出力の余剰分の一部を水素製造に利用する電力水素併産の運転に加えて、原子炉11の熱出力の余剰分の残りを蓄熱設備33に貯蔵する蓄熱運転を同時に行う運転形態である。
【0067】
第3に、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の受け入れ可能な上限を超えている場合には、
図6における上から4番目又は5番目の特性図に示すように、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の上限以下となるように原子炉11の熱出力を低下させると共に、原子炉11の熱出力の一部を蒸気タービン12に導入して負荷要求に応じた電力を電力系統100に送出し、原子炉11の熱出力の残りを水素製造システム3に供給して水素を製造させる第3運転を行う。第3運転は、電力系統100に対する原子力発電システム2の発電出力を負荷要求に応じて調整すると共に原子炉11の熱出力の余剰分を水素製造に利用する電力水素併産の運転形態である。ただし、原子炉11の熱出力をそのまま一定に維持すると、原子炉11の熱出力の余剰分の一部を水素製造システム3で利用不能な状態となる。そのため、第3運転は、原子炉11の熱出力の余剰分の全量を水素製造システム3で利用可能となるように原子炉11の熱出力を抑制的に調整する運転形態である。第3運転は、さらに、2つの運転形態に分けられる。
【0068】
具体的には、蓄熱設備33が熱エネルギを貯蔵可能な状態である場合には、
図6の4番目の特性図に示すように、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギのうちの一部を水素製造装置31で利用して水素を製造する水素製造制御を行うと共に、残りを蓄熱設備33に貯蔵する蓄熱制御を行う。当該運転は、プラント総括負荷演算部61の
図5に示すステップS80の設定に基づくものである。すなわち、当該運転は、電力系統100に対する原子力発電システム2の発電出力を負荷要求に応じて調整すると共に原子炉11の熱出力の余剰分の一部を水素製造に利用する電力水素併産の運転に加えて、原子炉11の熱出力の余剰分の残りを蓄熱設備33に貯蔵する蓄熱運転を同時に行う運転形態である。当該運転は、蓄熱設備33の蓄熱を行う分、原子炉11の熱出力の下げ幅を少なくすることができる。
【0069】
また、蓄熱設備33が満蓄状態に達して熱エネルギを貯蔵不能な状態である場合には、
図6の5番目の特性図に示すように、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギの全量を水素製造装置31で利用して水素を製造する水素製造制御を行う。当該運転は、プラント総括負荷演算部61の
図5に示すステップS100の設定に基づくものである。すなわち、当該運転は、電力系統100に対する原子力発電システム2の発電出力を負荷要求に応じて調整すると共に原子炉11の熱出力の余剰分を水素製造に利用する電力水素併産の運転形態である。当該運転は、蓄熱設備33の蓄熱を行うことができない分、原子炉11の熱出力の下げ幅を大きくする必要がある。
【0070】
上述したように、第1の実施の形態に係る原子力プラント1は、電力系統100に接続され、原子炉11で発生した蒸気によって蒸気タービン12を駆動させることで発電する原子力発電システム2と、原子炉11で発生した蒸気が供給可能に構成され、原子炉11で発生した蒸気の熱エネルギを利用して原水から水蒸気を生成すると共に生成した水蒸気を電気分解して水素を製造する水素製造システム3と、原子力発電システム2に要求される電力系統100への発電出力を指示する負荷要求が外部から入力され、負荷要求を基に原子力発電システム2及び水素製造システム3を制御するプラント制御装置5とを備える。プラント制御装置5は、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が無い場合には、原子炉11の熱出力の全量を蒸気タービン12に導入して発電させる一方、水素製造システム3の水素製造を停止状態にする第1運転を行う。また、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の受け入れ可能な上限以下である場合には、原子炉11の熱出力を維持すると共に、原子炉11の熱出力の一部を蒸気タービン12に導入して負荷要求に応じた電力を電力系統100に送出し、原子炉11の熱出力の残りを水素製造システム3に供給して水素を製造させる第2運転を行う。また、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の上限を超えている場合には、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の上限以下となるように原子炉11の熱出力を低下させると共に、原子炉11の熱出力の一部を蒸気タービン12に導入して負荷要求に応じた電力を電力系統100に送出し、原子炉11の熱出力の残りを水素製造システム3に供給して水素を製造させる第3運転を行う。
【0071】
この構成によれば、負荷要求に対して、原子炉11の熱出力に余剰が無い場合、原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の上限以下である場合、原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の上限を超えている場合の3つの条件に応じて、原子炉11の熱出力を維持または変化させると共に蒸気タービン12及び水素製造システム3対する原子炉11の熱出力の配分を変更するので、負荷要求に応じて電力系統100に対する原子力発電システム2の発電出力を調整しつつ、原子炉11の熱出力の有効活用及び原子炉11の熱出力の変化抑制が可能となる。
【0072】
また、本実施の形態に係る水素製造システム3は、原子炉11で発生した蒸気の熱エネルギを利用して原水から水蒸気を生成し、生成した水蒸気を電気分解して水素を製造する水素製造装置31と、原子炉11から供給される蒸気の熱エネルギの貯蔵及び貯蔵している熱エネルギの水素製造装置への供給が可能な蓄熱設備33とを含んでいる。
【0073】
この構成によれば、水素製造システム3が蓄熱設備33を備えているので、蓄熱設備33が貯蔵する熱エネルギを用いて水素製造を停止中の水素製造装置31を保温することが可能となる。また、原子炉11の熱出力の余剰分を蓄熱設備33に貯蔵させることができるので、原子炉11の熱出力の更なる有効活用を図ることができる。
【0074】
また、本実施の形態におけるプラント制御装置5は、第1運転を行う場合には、蓄熱設備33に貯蔵されている熱エネルギを水素製造装置31に供給して水素製造装置31を保温する保温運転を同時に行うように構成されている。
【0075】
この構成によれば、停止中の水素製造装置31を保温しているので、停止中の水素製造装置31を短時間で作動温度まで復帰させることができ、水素製造装置31による速やかな水素製造の再開が可能となる。
【0076】
また、本実施の形態に係る原子力プラント1においては、水素製造システム3の上限は水素製造装置31の受け入れ可能な上限と蓄熱設備33の受け入れ可能な上限とを合算したものである。また、プラント制御装置5は、第2運転を行う場合において、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造装置31の上限以下である場合には、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギの全量を水素製造装置31で利用する制御を行う。一方、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造装置31の上限を超えている場合には、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギの一部を水素製造装置31で利用すると共に残りの蒸気の熱エネルギを蓄熱設備33に貯蔵する制御を行う。
【0077】
この構成によれば、水素製造装置31の上限に対する原子炉11の熱出力の余剰分の大小関係に応じて、水素製造装置31及び蓄熱設備33に供給される蒸気の熱エネルギの配分を変更するので、原子炉11の熱出力を変化させることなく、原子炉11の熱出力の余剰分の有効活用を図ることができる。
【0078】
また、本実施の形態に係る原子力プラント1においては、プラント制御装置5が第3運転を行う場合において、蓄熱設備33が熱エネルギを貯蔵可能な状態である場合には、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギのうちの一部を水素製造装置31で利用すると共に残りを蓄熱設備33に貯蔵する制御を行う。一方、蓄熱設備33が満蓄状態に達して熱エネルギを貯蔵不能な状態である場合には、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギの全量を水素製造装置31で利用する制御を行う。
【0079】
この構成によれば、蓄熱設備33の熱エネルギの貯蔵状態に応じて、水素製造装置31及び蓄熱設備33に供給される蒸気の熱エネルギの配分を変更するので、原子炉11の熱出力の余剰分の有効活用を図りつつ、原子炉11の熱出力を低下させる量を抑制することが可能となる。
【0080】
また、本実施の形態に係る原子力プラント1は、原子炉11で発生した蒸気の熱エネルギが必ず蓄熱設備33を介して水素製造装置31に伝達されるように構成されている。
【0081】
この構成によれば、原子炉11の蒸気を直接的に水素製造装置31に供給するラインが必要ないので、水素製造装置31に熱エネルギを供給する構成を簡素化することができる。
【0082】
また、上述した第1の実施の形態に係る原子力プラント1の運転方法は、原子炉11で発生した蒸気によって蒸気タービン12を駆動させることで発電する原子力発電システム2と原子炉11で発生した蒸気の熱エネルギを利用して原水から生成した水蒸気を電気分解して水素を製造する水素製造システム3とを備えた原子力プラント1を、外部から与えたれる電力系統の負荷要求を基に運転するものである。この運転方法は、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が無い場合には、原子炉11の熱出力の全量を蒸気タービン12に導入して発電させる一方、水素製造システム3の水素製造を停止状態にする第1運転を行うものである。また、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の受け入れ可能な上限以下である場合には、原子炉11の熱出力を維持すると共に、原子炉11の熱出力の一部を蒸気タービン12に導入して負荷要求に応じた電力を電力系統100に送出し、原子炉11の熱出力の残りを水素製造システム3に供給して水素を製造させる第2運転を行うものである。また、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の上限を超えている場合には、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の上限以下となるように原子炉11の熱出力を低下させると共に、原子炉11の熱出力の一部を蒸気タービン12に導入して負荷要求に応じた電力を電力系統100に送出し、原子炉11の熱出力の残りを水素製造システム3に供給して水素を製造させる第3運転を行うものである。
【0083】
この方法によれば、負荷要求に対して、原子炉11の熱出力に余剰が無い場合、原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の上限以下である場合、原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3の上限を超えている場合の3つの条件に応じて、原子炉11の熱出力を維持または変化させると共に蒸気タービン12及び水素製造システム3対する原子炉11の熱出力の配分を変更するので、負荷要求に応じて電力系統100に対する原子力発電システム2の発電出力を調整しつつ、原子炉11の熱出力の有効活用及び原子炉11の熱出力の変化抑制が可能となる。
【0084】
また、本実施の形態に係る原子力プラント1の運転方法は、第1運転を行う場合には、蓄熱設備33に貯蔵されている熱エネルギを水素製造装置31に供給して水素製造装置31を保温する保温運転も同時に行うものである。
【0085】
この方法によれば、停止中の水素製造装置31を保温することで、停止中の水素製造装置31を短時間で作動温度まで復帰させることができるので、水素製造装置31による速やかな水素製造の再開が可能となる。
【0086】
また、本実施の形態に係る原子力プラント1の運転方法においては、水素製造システム3の上限が水素製造装置31の受け入れ可能な上限と蓄熱設備33の受け入れ可能な上限とを合算したものである。また、本運転方法は、第2運転を行う場合において、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造装置31の上限以下である場合には、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギの全量を水素製造装置31で利用する制御を行うものである。一方、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造装置31の上限を超えている場合には、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギの一部を水素製造装置31で利用すると共に残りの蒸気の熱エネルギを蓄熱設備33に貯蔵する制御を行うものである。
【0087】
この方法によれば、水素製造装置31の上限に対する原子炉11の熱出力の余剰分の大小関係に応じて、水素製造装置31及び蓄熱設備33に供給される蒸気の熱エネルギの配分を変更するので、原子炉11の熱出力を変化させることなく、原子炉11の熱出力の余剰分の有効活用を図ることができる。
【0088】
また、本実施の形態に係る原子力プラント1の運転方法は、第3運転を行う場合において、蓄熱設備33が熱エネルギを貯蔵可能な状態である場合には、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギのうちの一部を水素製造装置31で利用すると共に残りを蓄熱設備33に貯蔵する制御を行うものである。一方、蓄熱設備33が満蓄状態に達して熱エネルギを貯蔵不能な状態である場合には、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギの全量を水素製造装置31で利用する制御を行うものである。
【0089】
この方法によれば、蓄熱設備33の熱エネルギの貯蔵状態に応じて、水素製造装置31及び蓄熱設備33に供給される蒸気の熱エネルギの配分を変更するので、原子炉11の熱出力の余剰分の有効活用を図りつつ、原子炉11の熱出力を低下させる量を抑制することが可能となる。
【0090】
[第1の実施の形態の変形例]
次に、本発明の第1の実施の形態の変形例に係る原子力プラントについて
図7を用いて説明する。
図7は本発明の第1の実施の形態の変形例に係る原子力プラントの概略構成を示すブロック図である。なお、
図7において、
図1~
図6に示す符号と同符合のものは、同様な部分であるので、詳細な説明は省略する。
【0091】
図7に示す第1の実施の形態の変形例に係る原子力プラント1Aが第1の実施の形態と相違する点は、水素製造システム3Aの水素製造に必要な電力を、原子力発電システム2から受電するのではなく、電力系統100から受電することである。詳細には、水素製造装置31Aの水素製造装置31Aにおける電熱器としての蒸気加熱器43(
図3参照)には電力系統100から電力を供給される。同様に、水蒸気電解装置44(
図3参照)には電力系統100から電力が供給される。それ以外の構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0092】
原子力プラント1Aの運転方法も、水素製造装置31Aの水素製造の電力供給元が発電システム2から電力系統100に変更されるだけである。ただし、この場合、原子力発電システム2の発電出力は、第1の実施の形態における水素製造装置31への出力分が不要となるので、第1の実施の形態の場合よりも低くて済む。例えば、
図5に示すフローチャートのステップS50、S70、S80、S100における蒸気タービンの熱負荷Q2は、水素製造装置31Aの水素製造の電力を加味する必要がなくなる。
【0093】
本変形例においては、電力系統100に接続されている再生可能エネルギ発電所110から優先的に購入した電力を水素製造装置31Aに供給するように構成している。電力は系統の託送料金を含め有償なので、別系統の安価な電力を用いることが望ましい。本変形例においては、既存の再生可能エネルギ発電を活用した電力水素の併産が可能となる。
【0094】
上述した第1の実施の形態の変形例に係る原子力プラント1A及びその運転方法によれば、第1の実施の形態の場合と同様に、負荷要求に対して、原子炉11の熱出力に余剰が無い場合、原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3Aの上限以下である場合、原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3Aの上限を超えている場合の3つの条件に応じて、原子炉11の熱出力を維持または変化させると共に蒸気タービン12及び水素製造システム3Aに対する原子炉11の熱出力の配分を変更するので、負荷要求に応じて電力系統100に対する原子力発電システム2の発電出力を調整しつつ、原子炉11の熱出力の有効活用及び原子炉11の熱出力の変化抑制が可能となる。
【0095】
また、本変形例に係る原子力プラント1Aにおいては、水素製造システム3の水素製造に対して電力系統100から電力が供給されるように制御される。
【0096】
また、本変形例に係る原子力プラント1Aの運転方法は、水素製造システム3の水素製造に電力系統100からの電力を用いるものである。
【0097】
この構成及び方法によれば、水素製造システム3の水素製造に安価な電力を用いることが可能となる。また、既存の再生可能エネルギ発電からの電力を利用することで、再生可能エネルギを活用した電力水素の併産が可能となる。
【0098】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係る原子力プラント及びその運転方法について説明する。まず、第2の実施の形態に係る原子力プラントの構成について
図8~
図10を用いて説明する。
図8は本発明の第2の実施の形態に係る原子力プラントの概略構成を示すブロック図である。
図9は
図8に示す第2の実施の形態に係る原子力プラントの詳細構成を示す系統図である。
図10は
図8に示す第2の実施の形態に係る原子力プラントにおける水素製造装置の構成を示すブロック図である。なお、
図8~10において、
図1~
図7に示す符号と同符合のものは、同様な部分であるので、詳細な説明は省略する。
【0099】
第2の実施の形態に係る原子力プラント1B及びその運転方法が第1の実施の形態と相違する点は、
図8及び
図9に示す水素製造システム3Bが蓄熱設備(
図1及び
図2参照)を備えていないこと及び蓄熱設備が無いことで蓄熱運転が行われないことである。詳細には、水素製造システム3Bは、
図8及び
図9に示すように、原子炉11から供給される蒸気の熱エネルギを直接的に水素製造装置31Bに供給するように構成されている。水素製造システム3Bの水素製造装置31Bにはバイパスライン22B及び戻りライン23Bが接続されている。より詳しくは、
図10に示すように、バイパスライン22B及び戻りライン23Bは、水素製造装置31Bの蒸気発生器41Bに接続されている。原子力プラント1Bでは、原子炉11で発生した蒸気の一部(余剰蒸気)がバイパスライン22を介して水素製造装置31Bに供給されると共に、水素製造装置31Bに供給された蒸気が復水器15に回収される。
図8及び
図9に戻り、水素製造装置31Bへの蒸気の供給量は、バイパス弁26によって調節される。
【0100】
図9に示すプラント制御装置5Bは、原子炉11の熱出力(原子炉11で発生する蒸気の熱エネルギ)を基本的に一定に保持して運転する熱出力一定運転を行う。さらに、原子力発電システム2が電力系統100に対して負荷要求を満たす電力を出力することを最優先する運転を行い、負荷要求の状況によっては原子炉11の熱出力の余剰分を水素製造システム3Bの水素製造装置31Bで利用することで水素を製造する運転を行う。ここでは、蓄熱設備がないので、蓄熱制御運転がない。また、プラント制御装置5Bは、負荷要求に対する原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3Bの水素製造装置31Bの受け入れ可能な上限を超える場合には、原子炉11の熱出力一定運転を変更して原子炉11の熱出力を下げることで、原子炉11の熱出力の余剰分を水素製造装置31Bの受け入れ可能な上限以下にする運転を行う。また、プラント制御装置5Bは、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が無い場合には、水素製造装置31Bの水素製造を停止させる運転を行う。
【0101】
次に、第2の実施の形態に係る原子力プラントにおけるプラント制御装置の機能構成について
図11を用いて説明する。
図11は
図9に示す第2の実施の形態に係る原子力プラントにおけるプラント制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【0102】
図11に示す本実施の形態のプラント制御装置5Bの機能部が第1の実施の形態のプラント制御装置5の機能部と異なる主要な点は、蓄熱制御部72の機能部がないことである。また、蓄熱制御部72が無いことで、プラント制御装置5Bの機能部のうち、プラント総括負荷演算部61Bの演算処理が異なると共に、水素製造制御部71Bの制御対象が異なる。
【0103】
プラント総括負荷演算部61Bは、第1の実施の形態とは異なり、負荷要求と電力計29の検出値Esとを基に、原子炉11の熱負荷Q1(目標熱出力)と蒸気タービン12の熱負荷Q2(目標出力)と水素製造装置31の熱負荷Q3を演算する。
【0104】
水素製造制御部71Bは、プラント総括負荷演算部61Bの演算結果である水素製造負荷Q3を基に開度指令Cv2及び電力要求指令Ceを演算する。開度指令Cv2は、水素製造装置31Bの蒸気発生器41Bで原水を加熱して低温の蒸気を発生させるために必要な熱エネルギ(単位時間当たり)に応じたバイパス弁26の開度を指令するものである。水素製造制御部71Bは、バイパス弁26の開度を開度指令Cv2により制御して水素製造装置31Bに必要な熱エネルギを原子炉11から供給させると共に電力要求指令Ceに応じた電力を水素製造装置31Bに供給させることで水素製造を制御する。
【0105】
次に、第2の実施の形態に係る原子力プラントにおけるプラント制御装置のプラント総括負荷演算部の演算について
図12を用いて説明する。
図12は
図11に示す第2の実施の形態に係る原子力プラントのプラント制御装置におけるプラント総括負荷演算部の演算手順の一例を示すフローチャートである。
【0106】
図12に示す第2の実施の形態に係るプラント制御装置5Bのプラント総括負荷演算部61Bの演算手順のフローチャートが第1の実施の形態に係るプラント制御装置5のプラント総括負荷演算部61の演算手順が異なる点は、水素製造システム3Bが蓄熱設備を備えていないことで、
図5に示す第1の実施の形態のプラント総括負荷演算部61の演算処理のステップS60、S70、S90、S100が削除されることである。また、
図12に示すフローチャートのステップS30B、S50B、S80Bにおける設定が異なることである。
【0107】
具体的には、ステップS30Bにおいては、すなわち、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰がない場合には、原子炉11の熱出力の全量を蒸気タービン12に導入して発電させる一方、水素製造システム3Bの水素製造を停止状態にする第1運転を行う。このとき、水素製造システム3Bが蓄熱設備を備えていないので、水素製造装置31Bを保温する保温運転の実行が不能である。
【0108】
また、ステップS50Bにおいては、すなわち、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有る場合であって、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3B(水素製造装置31B)の受け入れ可能な上限以下である場合には、原子炉11の熱出力を維持すると共に、原子炉11の熱出力の一部を蒸気タービン12に導入して発電させ、原子炉11の熱出力の残りを水素製造システム3B(水素製造装置31B)に供給して水素を製造させる第2運転を行うことを設定するものである。ただし、水素製造システム3Bが蓄熱設備を備えていないので、蓄熱設備の熱負荷の設定が不要である。
【0109】
また、ステップS80Bにおいては、すなわち、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3B(水素製造装置31B)の受け入れ可能な上限を超えている場合には、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3B(水素製造装置31B)の上限以下となるように原子炉11の熱出力を低下させると共に、原子炉11の熱出力の一部を蒸気タービン12に導入して発電させ、原子炉11の熱出力の残りを水素製造システム3B(水素製造装置31B)に供給して水素を製造させる第3運転を行うことを設定するものである。具体的には、原子炉11の熱負荷Q1を定格値Qt1Rから(Q1tR-Qt1D-Qt3R=ΔQ1v)分だけ下げるように設定する。
【0110】
次に、第2の実施の形態に係る原子力プラントの運転方法について
図12及び
図13を用いて説明する。
図13は第2の実施の形態に係る原子力プラントの運転方法における原子炉の熱出力(熱負荷)の配分を示す説明図である。
【0111】
第2の実施の形態に係るプラント制御装置5Bによる原子力プラント1Bの運転は、原子炉11の熱出力を次のように配分することで、原子力発電システム2の発電制御と水素製造システム3の水素製造制御を行うものである。
【0112】
第1に、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が無い場合には、
図13の上段の特性図に示すように、原子炉11の熱出力の全量、すなわち、原子炉11の熱出力の定格値Qt1Rを蒸気タービン12に導入して発電させる一方、水素製造システム3の水素製造を停止状態にする第1運転を行う。第1運転は、プラント総括負荷演算部61Bの
図12に示すステップS30Bの設定に基づくものであ、原子炉11の熱出力を一定(定格値Qt1R)に維持しつつ、原子力発電システム2が電力系統100に対して負荷要求に応じて電力を出力する運転形態である。
【0113】
第2に、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3B(水素製造装置31B)の受け入れ可能な上限以下である場合には、
図13の中段の特性図に示すように、原子炉11の熱出力を定格値Qt1Rに維持すると共に、原子炉11の熱出力の一部を蒸気タービン12に導入して負荷要求に応じた電力を電力系統100に送出し、原子炉11の熱出力の残りを水素製造システム3B(水素製造装置31B)に供給して水素を製造させる第2運転を行う。第2運転は、原子炉11の熱出力を一定(定格値Qt1R)に維持しつつ、電力系統100に対する原子力発電システム2の発電出力を負荷要求に応じて調整すると共に原子炉11の熱出力の余剰分を水素製造に利用する電力水素併産の運転形態である。
【0114】
第3に、負荷要求に対して原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3B(水素製造装置31B)の受け入れ可能な上限を超えている場合には、
図13の下段の特性図に示すように、原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3B(水素製造装置31B)の上限以下となるように原子炉11の熱出力を低下させると共に、原子炉11の熱出力の一部を蒸気タービン12に導入して負荷要求に応じた電力を電力系統100に送出し、原子炉11の熱出力の残りを水素製造システム3B(水素製造装置31B)に供給して水素を製造させる第3運転を行う。第3運転は、電力系統100に対する原子力発電システム2の発電出力を負荷要求に応じて調整すると共に原子炉11の熱出力の余剰分を水素製造に利用する電力水素併産の運転形態である。第3運転は、原子炉11の熱出力の余剰分の全量を水素製造システム3B(水素製造装置31B)で利用可能となるように原子炉11の熱出力を抑制的に調整する運転形態である。
【0115】
上述した第2の実施の形態に係る原子力プラント1B及びその運転方法によれば、第1の実施の形態の場合と同様に、負荷要求に対して、原子炉11の熱出力に余剰が無い場合、原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3B(水素製造装置31B)の上限以下である場合、原子炉11の熱出力に余剰が有り且つ原子炉11の熱出力の余剰分が水素製造システム3B(水素製造装置31B)の上限を超えている場合の3つの条件に応じて、原子炉11の熱出力を維持または変化させると共に蒸気タービン12及び水素製造システム3B(水素製造装置31B)に対する原子炉11の熱出力の配分を変更するので、負荷要求に応じて電力系統100に対する原子力発電システム2の発電出力を調整しつつ、原子炉11の熱出力の有効活用及び原子炉11の熱出力の変化抑制が可能となる。
【0116】
[その他]
なお、本発明は、上述した第1~第2の実施の形態及びその変形例に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上述した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0117】
例えば、上述した実施の形態においては、原子炉11が沸騰水型原子炉で構成されている例を示した。しかし、原子炉は加圧水型原子炉で構成することも可能である。
【0118】
また、上述した第1の実施の形態においては、原子力発電システム2の原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気の熱エネルギが水素製造システム3の蓄熱設備33に一度貯蔵されてから熱媒体を介して水素製造装置31に供給されるように構成された原子力プラント1の例を示した。しかし、原子力プラント1は、原子炉11から水素製造システム3に供給される蒸気が蓄熱設備33を迂回して直接的に水素製造装置31に供給される構成も可能である。
【符号の説明】
【0119】
1、1A、1B…原子力プラント、 2…原子力発電システム、 3、3A、3B…水素製造システム、 5、5B…プラント制御装置、 11…原子炉、 12…蒸気タービン、 31、31A、31B…水素製造装置、 33…蓄熱設備、 100…電力系統