(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076840
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】シール部材および該シール部材を用いた転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20230529BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20230529BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20230529BHJP
F16J 15/3244 20160101ALI20230529BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/06
F16J15/3204 201
F16J15/3244
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189797
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000143307
【氏名又は名称】株式会社荒井製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】望月 恒夫
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE05
3J006AE15
3J006AE30
3J006AE41
3J006CA01
3J043AA16
3J043CA02
3J043CA04
3J043CB13
3J043DA01
3J216AA01
3J216AB06
3J216AB29
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB12
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC17
3J216CC33
3J216CC40
3J216CC53
3J216DA01
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA73
3J701CA08
3J701CA13
3J701CA40
3J701EA49
3J701FA32
3J701GA01
3J701GA24
(57)【要約】
【課題】潤滑剤が封入された転がり軸受において、高速回転時でも潤滑剤が外輪側に偏ることなく安定した潤滑性能を維持できる転がり軸受を実現する。
【解決手段】外輪2と、内輪3と、外輪3および内輪2間に転動自在に保持された転動体4と、転動体4が存在する内部空間に封入される潤滑剤7を密封するシール部材6とを有する転がり軸受1において、シール部材6の内部空間側に位置する面部6e0に、潤滑剤7を軸受回転軸の回転中心に向かって誘導案内するスパイラル状の潤滑剤ガイド部6eを形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の内部空間に封入される潤滑剤を密封する環状のシール部材であって、
内部空間側に位置する面部には、前記潤滑剤を軸受回転軸の回転中心に向かって誘導案内するスパイラル状の潤滑剤ガイド部が形成されていることを特徴とするシール部材。
【請求項2】
外輪と、内輪と、外輪および内輪間に転動自在に保持された転動体と、転動体が存在する内部空間に封入される潤滑剤を密封するシール部材とを有する転がり軸受であって、前記シール部材における内部空間側に位置する面部には、前記潤滑剤を軸受回転軸の回転中心に向かって誘導案内するスパイラル状の潤滑剤ガイド部が形成されていることを特徴とする転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤を密封するシール部材および該シール部材を用いた転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車や産業用機械に代表されるようなほとんどの機械の回転部においては転がり軸受が使用されており、この転がり軸受は、内部にグリース等の潤滑剤が封入保持されると共に、その潤滑剤を密封するためのシール部材が備えられている。
例えば、従来技術として、特許文献1に開示されるような転がり軸受があり、その構成例を
図3に示す。この
図3に示される転がり軸受10は、同軸上に相対回転可能に配置された内輪20および外輪30と、当該内外輪20,30間に転動可能に組み込まれた複数の転動体40と、当該転動体40を1つずつ回転自在に保持する保持器50とが備えられて成る。
そして、当該転がり軸受10は、内・外輪20,30の軸方向両端開口部に取付けられた環状のシール部材60を備えることにより、内輪20と外輪30の間の内部空間に封入されたグリース等の潤滑剤70を密封する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような転がり軸受を用いる回転駆動機構として、例えば、電気自動車用の駆動モータにおいては、近年大幅な高速化(10000rpmを大きく超える高速回転化)が進んでいる。
この場合、従来の転がり軸受では、高速回転化に伴って増大する遠心力のため潤滑剤が外輪側に大きく偏る状態となり、これによって潤滑が不安定となる不具合が生じていた。
【0005】
本発明は、このような不具合に対処するためになされたものであり、比較的簡単な構成で、安定した潤滑性能を維持できる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、第一の発明は、転がり軸受の内部空間に封入される潤滑剤を密封する環状のシール部材であって、
内部空間側に位置する面部には、前記潤滑剤を軸受回転軸の回転中心に向かって誘導案内するスパイラル状の潤滑剤ガイド部が形成されていることを特徴とする。
第二の発明は、外輪と、内輪と、外輪および内輪間に転動自在に保持された転動体と、転動体が存在する内部空間に封入される潤滑剤を密封するシール部材とを有する転がり軸受であって、前記シール部材における内部空間側に位置する面部には、前記潤滑剤を軸受回転軸の回転中心に向かって誘導案内するスパイラル状の潤滑剤ガイド部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、比較的簡単な構成で、安定した潤滑性能を維持できる転がり軸受を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るシール部材を用いた転がり軸受の要部断面図である。
【
図2】(a)は本発明の実施形態に係るシール部材の構造を示す説明図で、(b)は(a)のシール部材の突起部分の形状を示す説明図で、(c)は(a)のシール部材の突起部分のその他の形状を示す説明図である。
【
図3】従来例に係るシール部材を用いた転がり軸受の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本願発明は、転がり軸受における外輪と内輪との間の内部空間に封入される潤滑剤を密封する環状のシール部材であって、内部空間側に面したシール部材の内面に、回転中心に向かう傾斜状の誘導案内面を有する潤滑剤ガイド部が備えられていることを特徴とする。以下、先ず、本発明の実施形態に係るシール部材を用いた転がり軸受について、添付図面を参照して説明する。
図1には、本発明の実施形態に係る転がり軸受(以下、単に軸受という)1が示されており、当該軸受1は、同軸上に相対回転可能に配置された内輪2および外輪3と、当該内外輪2,3間に転動可能に組み込まれた複数の転動体(玉)4と、当該転動体4を1つずつ回転自在に保持する保持器5とが備えられて成る。
【0010】
なお、本実施形態では、内輪2は内周部に回転軸が挿通固定されて該回転軸と一体に回転する回転輪とされ、外輪3は外周部がハウジングに固定されて静止輪とされている。
また、転動体4としては玉を適用しているが、軸受1の使用目的や使用条件などに応じて、各種のころ(円筒ころ、円すいころおよび球面ころ(たる形ころ)など)を適用してもよい。さらに、保持器5としては、波型の合わせタイプを想定しているが、軸受1の使用目的や使用条件、あるいは、転動体4の形状などに応じて、冠型、かご型およびもみ抜き型など各種タイプの保持器を適用してもよい。
【0011】
この軸受1においては、長期に亘って一定の精度での回転を維持すべく、内外輪2,3の軌道面と転動体4の転動面との摩擦により生じる摩耗を低減させ、焼付きを防止することを目的として、潤滑剤による軸受潤滑が行われている。
すなわち、内輪2と外輪3の間の転動体4が存在する内部空間には潤滑剤7が封入保持されており、この潤滑剤7を密封するための手段として本実施形態の軸受1には、転動体4を挟んで内輪2と外輪3の軸方向両端開口部に一対のシール部材6が取り付けられている。このシール部材6によって、軸受内部に封入した潤滑剤7が軸受外部へ漏洩することを防止しているとともに、軸受外部の異物(例えば、水や塵埃など)が軸受内部に侵入することを防止している。この際、軸受内部に封入する潤滑剤としては、軸受1の使用条件や使用態様などに応じて、グリースや潤滑油などを任意に選択して使用すればよい。
【0012】
かかる一対のシール部材6は、その外径部6aが外輪3に形成された取付溝3aに固定され、その内径部6bの先端のシールリップ6dが内輪2に形成されたシール溝2aに摺接する構造を成している。
【0013】
取付溝3aは、外輪3の内周面において、軸方向の両端側(
図1の左端側と右端側)に1本ずつ、全周に亘って連続して形成した凹状の溝として構成されている。この場合、一例として、取付溝3aは、その縦断面の輪郭が略矩形状に形成されており、かかる取付溝3aにシール部材6の外径部6aを嵌合させることで、当該シール部材6が外輪3に対して固定されている。なお、シール部材6は、例えば、嵌合固定に代えて、あるいは嵌合固定するとともに、取付溝3aに対して接着剤により接着固定させてもよい。また、外輪3に取付溝3aを形成することなく、外輪3の内周面や端面にシール部材を直接嵌合させてもよいし、接着させてもよい。さらに、取付溝3aの形状は、上述した縦断面の輪郭が略矩形状には特に限定されず、例えば、縦断面の輪郭を曲線状、略U字状とした溝などとしてもよい。
【0014】
また、シール溝2aは、内輪2の外周面において、軸方向の両端側(
図1の左端側と右端側)に1本ずつ、全周に亘って連続して形成した凹状の溝として構成されている。この場合、一例として、シール溝2aは、その縦断面の輪郭が段差状となるように形成されている。なお、シール溝2aの形状は、上述した縦断面の輪郭が段差状には特に限定されず、例えば、縦断面の輪郭を矩形状や曲線状とした溝などとしてもよい。
【0015】
シール部材6は、全体としてゴム材により成り、その内部には金属製または樹脂製の芯材6cが埋め込まれている。このシール部材6のゴム材の内径部6bの先端がシールリップ6dと成され、このシールリップ6dが内輪2のシール溝2aに摺接して潤滑剤7を密封する構造となっている。
【0016】
なお、シール部材6の大きさや形状、芯材6cおよびシールリップ6dの大きさや形状などは、軸受1の大きさ、シール溝2aおよび取付溝3aの形状などに応じて任意に設定すればよく、特に限定されない。また、軸受形式、シール形状を問わず、広く転がり軸受に組み込まれるシール部材一般に適用可能である。
【0017】
このように軸受1の内部空間に封入される潤滑剤7を密封する環状のシール部材6においては、内部空間側に位置する面部(軸受内部の転動体4側に面したシール部材6の内面部、以下、同じ)6e0に、潤滑剤7を軸受回転軸の回転中心に向かって誘導案内するための潤滑剤ガイド部6eが形成されている。
具体的には、
図2(a)に示すように潤滑剤ガイド部6eの一例としての突起6e1がスパイラル状に配置形成されている。このようなスパイラル状の潤滑剤ガイド部6eは、内輪2と外輪3の相対回転軌道(転動体4の回転移動軌道)Rに対して所定角度で傾斜する細長い突条(突起6e1)であり、これが回転軌道Rに沿って全周にわたり所定間隔で複数本(例えば、等間隔で約20本程度)設けられている。
【0018】
この潤滑剤ガイド部6eの作用について説明する。外輪3に対し内輪2が回転されると(例えば
図2(a)の矢印B方向)、これに伴って転動体4も同方向に回転移動し、これに追従するように潤滑剤7は転動体4の回転方向に流動しながら内輪2と外輪3の間の潤滑を保つ。そして、内輪2が次第に高速に回転されると、潤滑剤7は回転の遠心力によって、外輪3側に偏る方向の流れが生じるが、その一部はスパイラル状の潤滑剤ガイド部6eに沿って回転中心に向かって引き戻されるように誘導案内される。このため、潤滑剤7は外輪3側に一方的に偏ることなく、内輪2と外輪3の間において、転動体4の周囲でバランス良く保持されることになり、これによって、安定した潤滑性が維持される。
【0019】
さらに、
図2(a)のA-A断面をあらわす断面図(b)に示すように、潤滑剤ガイド部6eの突起6e1は、シール部材6を形成するゴム材と一体に所定高さで突出成形されている。この場合、シール部材6をゴム材で成形する工程においてゴム材と一体に突起6e1が成形されるため、潤滑剤ガイド部6eを形成するための余分な工程を必要としないので、コスト増とはならない。
なお、ここでの突起6e1の所定の高さや個数は、軸受の規模や潤滑剤の封入量によって異なり、限定されるものではない。すなわち、スパイラル状の潤滑剤ガイド部6eの傾斜方向、角度、長さ、突出高さ(突起高さ)間隔、形状などは、軸受1の構造、大きさ、回転方向、回転数などに応じて適宜設計される。
【0020】
このように、本願発明における潤滑剤ガイド部6eは、回転の遠心力によって外輪側に偏る軸受内の潤滑剤を単に攪拌させるだけでばく、スパイラル状の潤滑剤ガイド部6eに沿って回転中心に向かって引き戻されるように誘導案内する作用を有し、シール部材6に突起6e1を複数設けただけの簡単な構成で、高速回転時においても、潤滑剤7が軌道面にバランス良く供給されるため安定した潤滑性が維持される。
【0021】
図2(c)は、同図(b)とは異なる形態の例を示しており、シール部材6の内部空間側の面部6e0において、突起6e1の間に凹状となる窪み6e2を設けている。このような窪み6e2を設けることにより、突起と相俟って、さらに回転中心に向かって多くの潤滑剤を回転中心に流動し易くできる。
【0022】
以上説明のとおり、本発明によれば、潤滑剤7を密封するシール部材6に潤滑剤ガイド部6eの突起6e1を設けた比較的簡単な構成で、軸受1の安定した潤滑性能を維持することができる転がり軸受用のシール部材6を実現できる。
また、軸受1は、外輪3と、内輪4と、外輪3および内輪4間に転動自在に保持された転動体4と、転動体4が存在する空間に封入された潤滑剤7を密封するシール部材6とを有し、シール部材6における内部空間側に位置する面部6e0には、潤滑剤7を軸受回転軸の回転中心に向かって誘導案内するスパイラル状の潤滑剤ガイド部6eを形成したことにより、安定した潤滑性能を維持することができる転がり軸受を実現できる。また、この潤滑剤ガイド部6eは、シール部材6が成形されるときに一体に成形されるため余分な工程を要することなく製造コスト増とはならない転がり軸受を実現できる。
【0023】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
例えば、実施形態では内輪2を回転輪、外輪3を静止輪とした例を説明したが、これを逆の構成、すなわち内輪2を静止輪、外輪3を回転輪とした場合にも本発明は適用可能である。
また、実施形態においてシール部材6は、その外径部6aを外輪3に固定し、内径部6bのシールリップ6dを内輪2に摺接させてあるが、これを逆の構成、すなわち内径部を内輪に固定し、外径部のシールリップを外輪に摺接させた構成としてもよい。
また、実施形態ではシール部材6のゴム材と一体に潤滑剤ガイド部6eの突起6e1を成形しているが、この突起はシール部材6の芯材6cと一体に成形してもよい。
また、実施形態において潤滑剤ガイド部6eは、所定間隔で配置された突起6e1で形成しているが、これに限ることなく例えば連続した凹凸形状に形成してもよい。
さらにその他各部の構成においても、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の実施態様を採り得るものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0024】
1 転がり軸受
2 内輪
2a シール溝
3 外輪
3a 取付溝
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
6a 外径部
6b 内径部
6c 芯材
6d シールリップ
6e 潤滑剤ガイド部
6e0 面部
6e1 突起
6e2 窪み
7 潤滑剤