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特開2023-76870送信装置、受信装置、信号送信方法、CIR計測方法、信号送信プログラム及びCIR計測プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076870
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】送信装置、受信装置、信号送信方法、CIR計測方法、信号送信プログラム及びCIR計測プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/309 20150101AFI20230529BHJP
   H04B 13/02 20060101ALI20230529BHJP
   H04B 7/0413 20170101ALI20230529BHJP
【FI】
H04B17/309
H04B13/02
H04B7/0413
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189861
(22)【出願日】2021-11-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128107
【弁理士】
【氏名又は名称】深石 賢治
(72)【発明者】
【氏名】出口 充康
(72)【発明者】
【氏名】樹田 行弘
(72)【発明者】
【氏名】志村 拓也
(57)【要約】
【課題】 CIR計測を短時間で行う。
【解決手段】 送信装置10は、複数の送波器11と、複数の送波器11にCIR計測を行うための送波器11毎の信号を送信させる制御部13とを備え、送波器11毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号である。受信装置20は、複数の受波器21と、予めCIR計測を行うための各受波器21に対応する送波器11毎の信号を記憶し、記憶した信号と複数の受波器21それぞれによって受信された受信波から受波器21毎のCIR計測を行う計測部23とを備え、送波器11毎の信号は、上記の信号であり、計測部23は、受信波と当該受信波を受信した受波器21に対応する信号との相互相関関数を算出して、算出した相互相関関数から、CIR計測の対象外の信号の影響を分離してCIR計測を行う。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送波器と、
前記複数の送波器にCIR計測を行うための前記送波器毎の信号を送信させる制御手段と、
を備え、
前記送波器毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号である送信装置。
【請求項2】
前記信号は、Zadoff-Chu信号である請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
複数の受波器と、
予めCIR計測を行うための各受波器に対応する送波器毎の信号を記憶し、記憶した信号と前記複数の受波器それぞれによって受信された受信波から前記受波器毎のCIR計測を行う計測手段と、
を備え、
前記送波器毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号であり、
前記計測手段は、前記受信波と当該受信波を受信した受波器に対応する前記信号との相互相関関数を算出して、算出した相互相関関数から、CIR計測の対象外の前記信号の影響を分離してCIR計測を行う受信装置。
【請求項4】
前記信号は、Zadoff-Chu信号である請求項3に記載の受信装置。
【請求項5】
前記計測手段は、算出した相互相関関数に対して時間窓を設定して、設定した時間窓の部分の相互相関関数からCIR計測を行う請求項3又は4に記載の受信装置。
【請求項6】
複数の送波器を備える送信装置の動作方法である信号送信方法であって、
前記複数の送波器にCIR計測を行うための前記送波器毎の信号を送信させる制御ステップを含み、
前記送波器毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号である信号送信方法。
【請求項7】
複数の受波器を備える受信装置の動作方法であるCIR計測方法であって、
予めCIR計測を行うための各受波器に対応する送波器毎の信号を記憶し、記憶した信号と前記複数の受波器それぞれによって受信された受信波から前記受波器毎のCIR計測を行う計測ステップを含み、
前記送波器毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号であり、
前記計測ステップにおいて、前記受信波と当該受信波を受信した受波器に対応する前記信号との相互相関関数を算出して、算出した相互相関関数から、CIR計測の対象外の前記信号の影響を分離してCIR計測を行うCIR計測方法。
【請求項8】
複数の送波器を備える送信装置に含まれるコンピュータを動作させる信号送信プログラムであって、
当該コンピュータを、
前記複数の送波器にCIR計測を行うための前記送波器毎の信号を送信させる制御手段として機能させ、
前記送波器毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号である信号送信プログラム。
【請求項9】
複数の受波器を備える受信装置に含まれるコンピュータを動作させるCIR計測プログラムであって、
当該コンピュータを、
予めCIR計測を行うための各受波器に対応する送波器毎の信号を記憶し、記憶した信号と前記複数の受波器それぞれによって受信された受信波から前記受波器毎のCIR計測を行う計測手段として機能させ、
前記送波器毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号であり、
前記計測手段は、前記受信波と当該受信波を受信した受波器に対応する前記信号との相互相関関数を算出して、算出した相互相関関数から、CIR計測の対象外の前記信号の影響を分離してCIR計測を行うCIR計測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信装置、受信装置、信号送信方法、CIR計測方法、信号送信プログラム及びCIR計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速通信の需要が高まっており、特に複数の送波器及び複数の受波器を用いて通信レートを向上させるMIMO(Multiple-Input/Multiple-Output)の運用が進められている。音波及び電波等が水中、空中等の媒質を伝播する際には、必ず媒質からの影響を受ける。そのような影響はチャネルインパルス応答(Channel Impulse Response,CIR)と呼ばれる。MIMOのうち、Time Reversal等の通信手法では、既知の信号を送信してCIRを計測して、CIRを利用してロバストな通信を行う技術がある。この技術では、送信装置が何らかの既知の信号を発信し、受信装置がその受信結果からCIRを計測する。従来、CIR計測用の信号として例えば、チャープ信号が用いられていた。非特許文献1には、MIMOによる水中音響通信において、CIR計測用の信号としてチャープ信号が用いられることが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Takuya Shimura,Mitsuyasu Deguchi,and Yukihiro Kida,High-rate multiple-input/multiple-output communication with adaptivetime reversal demonstrated in tank experiments,JapaneseJournal of Applied Physics,Vol. 58 (SG),SGGF06 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにCIR計測用の信号としては、チャープ信号のような理想的な自己相関関数特性及び相互相関関数特性を持った信号が用いられてきた。しかしながら、MIMOにおいて、上記のCIR計測用の信号を用いる場合、以下のような問題が生じる。上記のような従来のCIR計測用の信号では、複数の送波器(送信機)についてのCIRを計測する場合、同一周波数で送信でき、かつ送波器間で混信しない信号の数が2つ程度しかない。そのため、送波器の数が増えるにつれて、CIR計測用の信号の送信時刻を送波器間でずらす必要があった。その結果、CIR計測の時間が長くなり、実際の通信まで時間を要していた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、CIR計測を短時間で行うことができる送信装置、受信装置、信号送信方法、CIR計測方法、信号送信プログラム及びCIR計測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る送信装置は、複数の送波器と、複数の送波器にCIR計測を行うための送波器毎の信号を送信させる制御手段と、を備え、送波器毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号である。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る受信装置は、複数の受波器と、予めCIR計測を行うための各受波器に対応する送波器毎の信号を記憶し、記憶した信号と複数の受波器それぞれによって受信された受信波から受波器毎のCIR計測を行う計測手段と、を備え、送波器毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号であり、計測手段は、受信波と当該受信波を受信した受波器に対応する信号との相互相関関数を算出して、算出した相互相関関数から、CIR計測の対象外の信号の影響を分離してCIR計測を行う。
【0008】
本発明に係る送信装置では、CIR計測用の信号として、信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号が送信される。従って、送波器の数が増えた場合であっても、複数の送波器から、CIR計測用の信号を同時に送信することができる。また、本発明に係る受信装置では、受信波とCIR計測用の信号との相互相関関数から、CIR計測の対象外の信号の影響が分離されてCIR計測が行われる。従って、同時に送信されたCIR計測用の信号から、受波器毎のCIR計測を適切に行うことができる。これらの結果、本発明に係る送信装置及び受信装置によれば、CIR計測を短時間で行うことができる。
【0009】
信号は、Zadoff-Chu信号であることとしてもよい。この構成によれば、適切かつ確実にCIR計測を行うことができる。
【0010】
計測手段は、算出した相互相関関数に対して時間窓を設定して、設定した時間窓の部分の相互相関関数からCIR計測を行うこととしてもよい。この構成によれば、適切かつ確実にCIR計測を行うことができる。
【0011】
ところで、本発明は、上記のように送信装置の発明として記述できる他に、以下のように信号送信方法及び信号送信プログラムの発明としても記述することができる。また、本発明は、上記のように受信装置の発明として記述できる他に、以下のようにCIR計測方法及びCIR計測プログラムの発明としても記述することができる。これらはカテゴリが異なるだけで、実質的に同一の発明であり、同様の作用及び効果を奏する。
【0012】
本発明に係る信号送信方法は、複数の送波器を備える送信装置の動作方法である信号送信方法であって、複数の送波器にCIR計測を行うための送波器毎の信号を送信させる制御ステップを含み、送波器毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号である。
【0013】
本発明に係るCIR計測方法は、複数の受波器を備える受信装置の動作方法であるCIR計測方法であって、予めCIR計測を行うための各受波器に対応する送波器毎の信号を記憶し、記憶した信号と複数の受波器それぞれによって受信された受信波から受波器毎のCIR計測を行う計測ステップを含み、送波器毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号であり、計測ステップにおいて、受信波と当該受信波を受信した受波器に対応する信号との相互相関関数を算出して、算出した相互相関関数から、CIR計測の対象外の信号の影響を分離してCIR計測を行う。
【0014】
本発明に係る信号送信プログラムは、複数の送波器を備える送信装置に含まれるコンピュータを動作させる信号送信プログラムであって、当該コンピュータを、複数の送波器にCIR計測を行うための送波器毎の信号を送信させる制御手段として機能させ、送波器毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号である。
【0015】
本発明に係るCIR計測プログラムは、複数の受波器を備える受信装置に含まれるコンピュータを動作させるCIR計測プログラムであって、当該コンピュータを、予めCIR計測を行うための各受波器に対応する送波器毎の信号を記憶し、記憶した信号と複数の受波器それぞれによって受信された受信波から受波器毎のCIR計測を行う計測手段として機能させ、送波器毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号であり、計測手段は、受信波と当該受信波を受信した受波器に対応する信号との相互相関関数を算出して、算出した相互相関関数から、CIR計測の対象外の信号の影響を分離してCIR計測を行う。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、CIR計測を短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る送信装置及び受信装置の構成を示す図である。
図2】CIR計測用の信号及びCIR計測の説明に用いる送波器及び受波器の配置の例を示す図である。
図3】CIRの例を示すグラフである。
図4】CIR計測用の信号間の相互相関関数の例を示すグラフである。
図5】CIR計測を行う構成を模式的に示した図である。
図6】受信波とCIR計測用の信号との相互相関関数の例である。
図7】実際のCIRと、CIR計測によって得られるCIR(推定値)との例を示すグラフである。
図8】本発明の実施形態に係る送信装置及び受信装置で実行される処理である信号送信方法及びCIR計測方法を示すシーケンス図である。
図9】本発明の実施形態に係る信号送信プログラム及びCIR計測プログラムの構成を記録媒体と共に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面と共に本発明に係る送信装置、受信装置、信号送信方法、CIR計測方法、信号送信プログラム及びCIR計測プログラムの実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1に本実施形態に係る送信装置10及び受信装置20を示す。送信装置10は、受信装置20に対して情報を送信する装置である。受信装置20は、送信装置10から送信された情報を受信する装置である。送信装置10と受信装置20との間の通信(情報の送受信)は、無線により行われる。本実施形態では、送信装置10と受信装置20とは水中(例えば、海中)において用いられ、送信装置10と受信装置20との間の通信は、音波によって行われる。但し、情報の送受信するための媒質は、水である必要はなく、水以外の液体、又は空気等の気体であってもよい。また、通信は、音波以外の搬送波、例えば、電波によって行われてもよい。
【0020】
送信装置10と受信装置20との間の通信は、MIMOによって行われる。また、送信装置10と受信装置20とでは、通信に先立ってCIR計測が行われ、計測されたCIRが用いられて通信が行われる。本実施形態に係る送信装置10及び受信装置20は、CIR計測を効率的に行うように構成されている。
【0021】
引き続いて、本実施形態に係る送信装置10と受信装置20との構成を説明する。図1に示すように送信装置10は、複数の送波器11と、送信器12とを備えて構成される。
【0022】
送波器11は、通信を行うための搬送波である音波を生成して送信する装置である。送波器11としては、従来の水中音響通信に用いられる送波器を用いることができる。送信装置10に含められる送波器11の数は、例えば、従来のMIMOの構成と同程度の数でよい。但し、送信装置10に含められる送波器11の数は、従来のMIMOの構成と同程度の数よりも多くてもよく、少なくてもよい。
【0023】
従来のMIMOの構成と同様に複数の送波器11それぞれは、予め設定された位置関係で位置決めされて配置される。例えば、複数の送波器11それぞれは、互いに間隔を空けて直線状に接続される。通信時には、水中において送波器11が鉛直方向に並ぶようにされる。但し、複数の送波器11の配置は、上記以外であってもよい。
【0024】
後述するように送波器11は、CIR計測時に送信器12からの制御を受けてCIR計測用の信号(を搬送する搬送波)を送信する。送信されるCIR計測用の信号は、互いに異なるものである。また、複数の送波器11によるCIR計測用の信号の送信は、同時に行われる。
【0025】
送信器12は、送波器11に通信に応じた音波を送信させる装置である。送信器12は、プロセッサ及びメモリといったハードウェアを備えるコンピュータ等を含んで構成されている。送信器12のハードウェアとしては、従来の水中音響通信に用いられる送信器を用いることができる。送信器12の後述する各機能は、これらの構成要素がプログラム等により動作することによって発揮される。各送波器11と送信器12とは、情報の送受信が可能なように互いに接続されている。送信器12は、MIMOによる従来の水中音響通信と同様に各送波器11に通信に係る音波を送信させる。
【0026】
また、送信器12は、通信に先立って各送波器11にCIR計測用の信号を送信させる。そのための構成として、送信器12は、制御部13を備える。制御部13は、複数の送波器11にCIR計測を行うための送波器11毎の信号を送信させる制御手段である。送波器11毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号である。当該信号は、Zadoff-Chu信号であってもよい。制御部13の機能については、より詳細に後述する。以下に説明する制御部13の機能を除く、送信器12の機能は従来の水中音響通信に用いられる送信器と同様のものでよい。
【0027】
図1に示すように受信装置20は、複数の受波器21と、受信器22とを備えて構成される。
【0028】
受波器21は、送信装置10から送信された搬送波である音波を受信する装置である。受波器21としては、従来の水中音響通信に用いられる受波器を用いることができる。受信装置20に含められる受波器21の数は、例えば、従来のMIMOの構成と同様に送信装置10に含められる送波器11の数よりも多い、従来のMIMOの構成と同程度の数でよい。但し、受信装置20に含められる受波器21の数は、従来のMIMOの構成と同程度の数よりも多くてもよく、少なくてもよい。
【0029】
従来のMIMOの構成と同様に複数の受波器21それぞれは、予め設定された位置関係で位置決めされて配置される。例えば、複数の受波器21それぞれは、互いに間隔を空けて直線状に接続される。通信時には、水中において受波器21が鉛直方向に並ぶようにされる。但し、複数の受波器21の配置は、上記以外であってもよい。受波器21は、受信した音波である受信波に係るデータ(例えば、受信波の波形のデータ)を受信器22に出力する。
【0030】
受信器22は、受波器21によって受信された受信波から情報を取得する装置である。送信器12は、AD(アナログデジタル)変換器、並びにプロセッサ及びメモリといったハードウェアを備えるコンピュータ等を含んで構成されている。受信器22のハードウェアとしては、従来の水中音響通信に用いられる受信器を用いることができる。受信器22の後述する各機能は、これらの構成要素がプログラム等により動作することによって発揮される。各受波器21と受信器22とは、情報の送受信が可能なように互いに接続されている。
【0031】
受信器22は、MIMOによる従来の水中音響通信と同様に各受波器21から受信波に係るデータを入力し、入力した受信波に係るデータから通信に係る情報を取得する。受信器22は、通信に先立ってCIR計測を行って、上記の通信に係る情報を取得する際に計測したCIRを用いる。CIRを用いた情報の取得も、MIMOによる従来の水中音響通信と同様に行われればよい。
【0032】
CIR計測を行うための構成として、受信器22は、計測部23を備える。計測部23は、予めCIR計測を行うための各受波器21に対応する送波器11毎の信号を記憶し、記憶した信号と複数の受波器21それぞれによって受信された受信波から受波器21毎のCIR計測を行う計測手段である。送波器11毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号である。計測部23は、受信波と当該受信波を受信した受波器21に対応する信号との相互相関関数を算出して、算出した相互相関関数から、CIR計測の対象外の信号の影響を分離してCIR計測を行う。当該信号は、Zadoff-Chu信号であってもよい。計測部23は、算出した相互相関関数に対して時間窓を設定して、設定した時間窓の部分の相互相関関数からCIR計測を行ってもよい。計測部23の機能については、より詳細に後述する。以下に説明する計測部23の機能を除く、受信器22の機能は従来の水中音響通信に用いられる送信器と同様のものでよい。
【0033】
ここで、CIR計測用の信号及びCIR計測、並びにそれらについての本実施形態に係る送信装置10及び受信装置20の機能をより具体的に説明する。図2に示す、5つの送波器11から音波が送信され、(複数の受波器21のうちの)1つの受波器21によってそれぞれの音波が受信される例を用いて説明する。5つの送波器11(m=1~5)はそれぞれ、水面から30m、40m、50m、60m及び70mの深さの鉛直方向の位置に並べて配置される。受波器21は、水面から30mの深さの位置に配置される。水面から30mの位置に配置される送波器11(m=1)と、受波器21との距離は、1000mである。送波器11から送信される音波の速度Cacは、一定の速度の1500m/sである。
【0034】
図2に示すように、受波器21によって受信される音波は、それぞれの送波器11について、水面で反射する水面反射波1波及び反射せずに到達する直接波1波の合計2波を想定する。この場合、受波器21における受信信号r(t)は、以下の式で示される。
【数1】

ここで、tは時刻である。H(t;m)は、m番目の送波器11から受波器21への信号のCIRである。s(t;m)は、m番目の送波器11の送信信号である。
【数2】

は、畳込み演算子である。
【0035】
この場合の各送波器11(m=1~5)に対応するCIRを図3のグラフに示す。受信装置20における計測部23は、受波器21毎にCIR計測を行う。なお、CIR計測の対象となるCIRは、受波器21毎に予め設定された送波器11に対応するCIRである。受波器21毎に設定される送波器11は、当該受波器21において情報の受信に用いられる信号を送信する送波器11である。
【0036】
CIR計測は、各送波器11から送信されるCIR計測用の信号に基づいて行われる。CIR計測用の信号は、送波器11毎に予め設定される信号である。制御部13は、各送波器11に対して、同一のタイミングかつ同一の周波数でCIR計測用の信号を送信させる。
【0037】
CIR計測用の信号は、以下の式で示されるZadoff-Chu信号x(t;u,q,NZC)とする。
【数3】

ここで、NZCは、情報シンボル長であり、予め設定される値である。u,qは、予め設定されるパラメータである。c=NZC mod 2である。送波器11毎のCIR計測用の信号は、後述するように当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有するように設定される。具体的には、CIR計測用の信号が上記となるようにパラメータが送波器11毎に設定される。
【0038】
例えば、図2に示す5つの送波器11(m=1~5)の例の場合には、以下のようなパラメータとされる。
m=1 NZC=255,u=1,q=0
m=2 NZC=255,u=1,q=51
m=3 NZC=255,u=1,q=102
m=4 NZC=255,u=1,q=153
m=5 NZC=255,u=1,q=240
【0039】
例えば、上記のZadoff-Chu信号をキャリア周波数F=10kHz、帯域幅FBW=5kHz、ロールオフ率α=0.15で一時変調したものをCIR計測用の信号s(t)とする。送信装置10では通信の開始時に、制御部13が各送波器11に対して上記のCIR計測用の信号を送信させる。
【0040】
上記のようにCIR計測用の信号としてZadoff-Chu信号を採用すると、各送波器11から送信される信号間の相互相関がピークを持ってしまっても、他方の信号との組み合わせ毎に明らかに異なる時刻でピークを持つ。図4に、上記のZadoff-Chu信号を用いた場合の各送波器11から送信される信号間の相互相関関数を示す。図4では、m=1の送波器11からの信号(m=1)と、m=1~5の各送波器11からの信号(m=1~5)との相互相関関数を示す。m=1の送波器11からの信号(m=1、m=1)同士の相互相関関数は、自己相互相関関数であり、図4における丸で囲んだ時刻である相関時間τ(s)でピークを有する。図4に示すように、各相互相関関数は、他方の信号との信号の組み合わせ毎に異なる時刻である相関時間τ(s)(図中の矢印で示す時刻)でピークを有する。このようにピークの位置が異なるのは、上記のパラメータqの値を送波器11毎に変えているためである。
【0041】
このように信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有していることから、計測部23は、CIR計測にあたってCIR計測の対象外となる信号の影響を除外することができる。上記のように各送波器11から送信されるCIR計測用の信号は、同一周波数で送信でき、かつ送波器11間で混信しない箇所がある信号である。計測部23は、CIR計測にあたって信号を分離することができる。
【0042】
送信装置10からCIR計測用の信号が送信されると、受信装置20では、各受波器21によって信号が受信される。受信された受信波である受信信号は、各受波器21から受信器22に入力される。受信器22では、計測部23が受信された受信信号から受波器21毎のCIR計測を行う。計測部23は、以下のようにCIR計測を行う。
【0043】
図5に計測部23によるCIR計測を行う構成を模式的に示す。計測部23は、予め各受波器21に対応する送波器11毎のCIR計測用の信号s(t)を記憶しておく。計測部23は、受波器21によって受信された受信信号r(t)と、当該受波器21に対応して記憶したCIR計測用の信号s(t)との相互相関関数を算出する。即ち、計測部23は、受信信号r(t)とCIR計測用の信号s(t)との畳込み演算を行う。相互相関関数の算出は、例えば、パスバンド信号で行われる。あるいは、相互相関関数の算出は、ベースバンド信号への変換後に行われてもよい。なお、予め記憶されるCIR計測用の信号s(t)は、相互相関関数の算出に用いる信号がパスバンド信号か、又はベースバンド信号かに応じたものとしておく。
【0044】
図6に算出される相互相関関数の例を示す。計測部23は、算出した相互相関関数に対して時間窓w(T)を設定して、設定した時間窓w(T)の部分の相互相関関数を抽出する。時間窓w(T)は、例えば、相関時間τ(s)=0を中心とした予め設定した時間長である。時間窓w(T)は、時間窓w(T)の範囲にCIR計測の対象となる信号のピーク、即ち、自己相互相関関数のピークのみが含まれる長さ及び位置に設定される。具体的には、時間窓w(T)は、図6に示す相関時間τ(s)=0の近傍のピークのみが含まれるように設定される。
【0045】
信号の観点でいえば、時間窓w(T)の範囲に複数のピークが含まれないように、上述した各送波器11のCIR計測用の信号が設定される。Zadoff-Chu信号の例では、そのようにパラメータqが設定される。
【0046】
時間窓w(T)による相互相関関数の抽出は、算出した相互相関関数から、CIR計測の対象外の信号の影響を分離するものである。即ち、時間窓w(T)による相互相関関数の抽出は、混信の懸念がある部分を廃棄するものである。
【0047】
計測部23は、抽出した相互相関関数からCIRであるH(t;m)の推定値を算出する。抽出した相互相関関数からH(t;m)の推定値の算出は、従来の方法と同様に行われればよい。算出されるH(t;m)の推定値は、受波器21と送波器11との組み合わせについてのものである。計測部23は、受波器21毎に、当該受波器21に対応する送波器11についてH(t;m)の推定値を算出する。なお、推定されるCIRの時間精度は、帯域幅によって決まる。
【0048】
図7に、上述したZadoff-Chu信号が用いられた例の場合のm=1の送波器11についてのCIRであるH(t;m)とH(t;m)の推定値(図6の凡例においてHにチルダが付いたもの)とを示す。図7に示すように、推定値は、H(t;m)と比較して、帯域幅を反映してピーク幅が広がっているが、ピークの時刻及びピーク値は正確に計測できている。
【0049】
計測部23の上記のCIR計測によって得られたCIRであるH(t;m)の推定値は、その後の送信装置10と受信装置20との通信の際に、受信装置20において各受波器21によって受信された信号から各送波器11からの信号を分離するのに用いられる。CIRの利用は、従来の方法と同様に行われればよい。以上が、本実施形態に係る送信装置10及び受信装置20の構成である。
【0050】
引き続いて、図8のシーケンス図を用いて、本実施形態に係る送信装置10で実行される処理(送信装置10が行う動作方法)である信号送信方法、及び本実施形態に係る受信装置20で実行される処理(受信装置20が行う動作方法)であるCIR計測方法を説明する。本処理は、送信装置10と受信装置20との通信が行われる際にCIR計測が行われる際の処理である。
【0051】
本処理では、まず、送信装置10において、制御部13によって、複数の送波器11にCIR計測を行うための送波器11毎の信号を送信させる制御が行われる(S01、制御ステップ)。送波器11毎の信号は、当該信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号であり、例えば、上述したようにZadoff-Chu信号である。当該制御を受けた各送波器11からCIR計測を行うための信号が送信される(S02)。当該信号の送信は、各送波器11において同時に行われる。
【0052】
送信装置10から上記の信号の送信が行われると、受信装置20では、受波器21によって信号が受信される(S02)。続いて、計測部23によって、受波器21によって受信された受信波と、予め記憶した受信波に対応する送波器のCIR計測を行うための信号との相互相関関数が算出される(S03、計測ステップ)。続いて、計測部23によって、算出された相互相関関数に対して時間窓が設定されて、時間窓の部分の相互相関関数が抽出される(S04、計測ステップ)。続いて、計測部23によって、抽出された相互相関関数からCIRの推定、即ち、CIR計測が行われる(S05、計測ステップ)。CIR計測によって得られたCIRの推定値は、以降の送信装置10と受信装置20との通信に用いられる。以上が、本実施形態に係る送信装置10及び受信装置20で実行される処理である。
【0053】
本実施形態では、CIR計測用の信号として、信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号が送信される。例えば、当該信号として、上述したようにZadoff-Chu信号を用いることができる。当該信号は、チャープ信号のような理想的な自己相関関数特性及び相互相関関数特性を持った信号とは異なり、相関関数特性が理想的ではないが分離可能な特性を持つ系列信号である。即ち、当該信号は、準相互相関特性を持った相関信号である。
【0054】
従って、送波器11の数が増えた場合であっても、複数の送波器11から、CIR計測用の信号を同時に送信することができる。また、本実施形態では、受信波とCIR計測用の信号との相互相関関数から、CIR計測の対象外の信号の影響が分離されてCIR計測が行われる。即ち、各送波器11の間でCIR計測用の信号が混信する箇所を取り除いた結果が利用されてCIR計測が行われる。これによって、相関関数特性が理想的ではないことで生じるデメリットを回避することができる。
【0055】
従って、同時に送信されたCIR計測用の信号から、受波器21毎のCIR計測を適切に行うことができる。これらの結果、本実施形態によれば、CIR計測を短時間で行うことができる。CIR計測に要する時間が従来と比べて短くなるため、通信処理全体における通信信号の割合が増加することから、スループットが向上する。また、CIR計測を適切に行うことができることから、通信品質の劣化及び通信レートの低下を防止することができる。
【0056】
また、上述したようにCIR計測用の信号として、Zadoff-Chu信号を用いることとすれば、適切かつ確実にCIR計測を行うことができる。但し、CIR計測用の信号として、Zadoff-Chu信号を用いる必要はなく、信号間の相互相関関数が他方の信号との組み合わせ毎に異なる時刻にピークを有する信号、即ち、相互相関関数が分離可能な信号であればよい。
【0057】
また、上述したように受信装置20では、算出された相互相関関数に対して時間窓を設定して、設定した時間窓の部分の相互相関関数からCIR計測を行ってもよい。この構成によれば、適切かつ確実にCIR計測を行うことができる。但し、算出した相互相関関数から、CIR計測の対象外の信号の影響を分離する方法としては、時間窓を設定する方法に限られず、それ以外の方法が用いられてもよい。例えば、時間窓を設定する方法以外の時間領域で分離を行う方法であってもよい。あるいは、周波数領域における信号処理手法等のその他の信号処理手法が用いられてもよい。
【0058】
引き続いて、上述した一連の送信装置10及び受信装置20による処理を実行させるための信号送信プログラム及びCIR計測プログラムを説明する。図9(a)に示すように、信号送信プログラム100は、複数の送波器を備える送信装置に含まれるコンピュータに挿入されてアクセスされる、あるいは当該コンピュータが備える、コンピュータ読み取り可能な記録媒体110に形成されたプログラム格納領域111内に格納される。記録媒体110は、非一時的な記録媒体であってもよい。
【0059】
信号送信プログラム100は、制御モジュール101を備えて構成される。制御モジュール101を実行させることにより実現される機能は、上述した送信装置10の制御部13の機能と同様である。
【0060】
図9(b)に示すように、CIR計測プログラム200は、複数の受波器を備える受信装置に含まれるコンピュータに挿入されてアクセスされる、あるいは当該コンピュータが備える、コンピュータ読み取り可能な記録媒体210に形成されたプログラム格納領域211内に格納される。記録媒体210は、非一時的な記録媒体であってもよい。
【0061】
CIR計測プログラム200は、計測モジュール201を備えて構成される。計測モジュール201を実行させることにより実現される機能は、上述した受信装置20の計測部23の機能と同様である。
【0062】
なお、信号送信プログラム100及びCIR計測プログラム200は、その一部又は全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、他の機器により受信されて記録(インストールを含む)される構成としてもよい。また、信号送信プログラム100及びCIR計測プログラム200の各モジュールは、1つのコンピュータでなく、複数のコンピュータにインストールされてもよい。その場合、当該複数のコンピュータによるコンピュータシステムよって上述した一連の処理が行われる。
【符号の説明】
【0063】
10…送信装置、11…送波器、12…送信器、13…制御部、20…受信装置、21…受波器、22…受信器、23…計測部、100…信号送信プログラム、101…制御モジュール、110…記録媒体、111…プログラム格納領域、200…CIR計測プログラム、201…計測モジュール、210…記録媒体、211…プログラム格納領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9