(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076889
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】障害検出装置
(51)【国際特許分類】
A61H 3/06 20060101AFI20230529BHJP
A61H 3/00 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
A61H3/06 G
A61H3/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189910
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】599133026
【氏名又は名称】株式会社的
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢農 正紀
(72)【発明者】
【氏名】寺沢 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】ヴー ティエン チン
(72)【発明者】
【氏名】大木 康寛
(72)【発明者】
【氏名】三田 聡
【テーマコード(参考)】
4C046
【Fターム(参考)】
4C046AA25
4C046BB12
4C046DD36
4C046EE14
4C046EE33
4C046EE34
(57)【要約】
【課題】障害箇所についての適切な情報をユーザに通知することができる障害検出装置を提供する。
【解決手段】障害検出装置1は、ユーザ100の左右方向に沿った軸線を有し、かつ軸線を中心とする回転方向Dcに沿って走査するLiDAR2と、LiDARの検出結果に基づいて、ユーザの前方における障害箇所の有無および種類を検出する障害箇所検出部と、検出された障害箇所の種類を含む当該障害箇所の情報をユーザに対して聴覚または触覚によって通知する通知部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの左右方向に沿った軸線を有し、かつ前記軸線を中心とする回転方向に沿って走査するLiDARと、
前記LiDARの検出結果に基づいて、前記ユーザの前方における障害箇所の有無および種類を検出する障害箇所検出部と、
検出された障害箇所の種類を含む当該障害箇所の情報を前記ユーザに対して聴覚または触覚によって通知する通知部と、
を備えたことを特徴とする障害検出装置。
【請求項2】
前記軸線の下方を前記LiDARが走査したデータに基づいて前記ユーザの足元の地面を示す基準線を算出する基準線検出部と、
前記基準線に基づいて前記LiDARの走査結果に対して回転角度を補正する補正部と、
を備える請求項1に記載の障害検出装置。
【請求項3】
前記障害箇所検出部は、前記基準線に基づいて前記ユーザの前方の段差の高さを算出し、かつ前記高さに基づいて歩行可能な段差であるかを判定する
請求項2に記載の障害検出装置。
【請求項4】
前記障害箇所検出部は、前記LiDARが走査する仮想平面に対して前記ユーザの前方に参照窓を設定し、
前記参照窓は、前記ユーザの進行方向に沿った所定の幅、および鉛直方向に沿った所定の高さを有する窓であり、かつ前記基準線よりも下方の領域を含み、
前記障害箇所検出部は、前記LiDARによる走査結果を前記仮想平面にプロットした場合に前記参照窓に含まれるデータがない場合、前記ユーザの前方に歩行不能な段差があると判定する
請求項2または3に記載の障害検出装置。
【請求項5】
前記通知部は、前記ユーザの前方に歩行可能な段差が検出された場合、前記ユーザから前記歩行可能な段差までの距離に応じて前記ユーザに通知を行い、
前記通知部は、前記ユーザの前方に歩行不能な段差が検出された場合、前記ユーザから前記歩行不能な段差までの距離にかかわらず前記ユーザに通知を行なう
請求項1から4の何れか1項に記載の障害検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障害検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、視覚障害者に対して障害物を知らせる技術がある。特許文献1には、杖に設けられ、該杖の使用状態において前方を撮像する撮像手段と、杖に設けられ、撮像手段により得られる画像情報に対する画像認識を行って、該杖における使用者の進行方向の人を含む障害物がどの方向にあるかを検出する画像認識手段と、杖に設けられ、該杖から上記方向に対応する方向に向けて、使用者の手に押圧力を加える加圧手段と、杖に設けられ、画像認識手段によって障害物が検出された場合に加圧手段による上記方向に対応する方向に向けた押圧力の発生を行う加圧制御手段と、を備えた視覚障害者用杖が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
視覚障害を有するユーザに対して障害箇所についての適切な情報を通知できることが望まれている。例えば、障害箇所の存在だけでなく、障害箇所の種類を通知することができれば、ユーザの利便性が向上する。
【0005】
本発明の目的は、障害箇所についての適切な情報をユーザに通知することができる障害検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の障害検出装置は、ユーザの左右方向に沿った軸線を有し、かつ前記軸線を中心とする回転方向に沿って走査するLiDARと、前記LiDARの検出結果に基づいて、前記ユーザの前方における障害箇所の有無および種類を検出する障害箇所検出部と、検出された障害箇所の種類を含む当該障害箇所の情報を前記ユーザに対して聴覚または触覚によって通知する通知部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る障害検出装置は、検出された障害箇所の種類を含む障害箇所の情報をユーザに対して通知する。本発明に係る障害検出装置によれば、障害箇所についての適切な情報をユーザに通知することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る障害検出装置の正面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る障害検出装置の側面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る障害検出装置のブロック図である。
【
図4】
図4は、実施形態のLiDARによる走査を示す図である。
【
図5】
図5は、仮想平面にプロットされた走査データを示す図である。
【
図6】
図6は、ユーザの前方の上り階段を示す図である。
【
図7】
図7は、補正前の走査データを示す図である。
【
図8】
図8は、傾斜したLiDARを示す図である。
【
図11】
図11は、下方への段差に対する走査データを示す図である。
【
図13】
図13は、下り階段に対する走査データを示す図である。
【
図14】
図14は、上り階段に対する走査データを示す図である。
【
図15】
図15は、上方への段差に対する走査データを示す図である。
【
図24】
図24は、実施形態に係るコンピュータ装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態に係る障害検出装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0010】
[実施形態]
図1から
図24を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、障害検出装置に関する。
【0011】
図1および
図2に示すように、実施形態の障害検出装置1は、ユーザ100の身体に装着される。障害検出装置1は、ユーザ100に対して前方の障害箇所についての情報を通知する。障害検出装置1は、例えば、視覚障害を有するユーザ100に対して歩行の障害となる構造物や地形についての情報提供を行なう。
【0012】
図1から
図3に示すように、本実施形態の障害検出装置1は、LiDAR2、コンピュータ装置3、ハーネス4、保持機構5、バッテリ8、および出力装置9を有する。LiDAR2は、LiDAR(Light Detection And Ranging)装置であり、光を照射する照射部と、光の照射方向を制御する駆動機構と、反射光を受光する受光部と、測距部と、を有する。LiDAR2は、反射光に基づいて反射物までの距離を測定する測距装置である。
【0013】
本実施形態のLiDAR2は、一つの仮想平面に沿って走査する2D-LiDARである。LiDAR2は、軸線2xを有し、軸線2xを中心とする回転方向Dcに沿って走査する。すなわち、LiDAR2は、光の出射方向Drを軸線2xの周りに回転させながら測距を繰り返す。LiDAR2が出射する光は、例えば、レーザ光である。
【0014】
コンピュータ装置3は、LiDAR2の測距結果に基づいて障害箇所を検出する機能、およびユーザ100に対して障害箇所についての情報を通知する機能を有する。コンピュータ装置3は、演算回路、メモリ、通信回路等を有する。コンピュータ装置3は、プログラム可能な汎用のコンピュータによって構成されてもよい。
【0015】
ハーネス4は、ユーザ100の身体に装着されるベルトである。ハーネス4は、ユーザ100の腰に装着される胴ベルト41、および肩に装着される肩ベルト42を有する。
【0016】
保持機構5は、LiDAR2およびコンピュータ装置3と、ハーネス4と、を連結する。保持機構5は、ハーネス4に対して固定されており、ハーネス4によって支持される。保持機構5は、ハーネス4に固定された本体51と、アーム部52と、を有する。本体51は、ユーザ100の腹部に配置される。アーム部52は、本体51からユーザ100の前方に向けて延出している。アーム部52は、複数のリンク53と、関節54とを有する。関節54は、隣接するリンク53,53をつないでおり、かつリンク53,53の相対角度を調節する。
【0017】
LiDAR2およびコンピュータ装置3は、ユーザ100から見て前方側のリンク53に固定されている。
図1に示すように、LiDAR2は、軸線2xがユーザ100の左右方向に沿うように保持機構5によって保持される。従って、例示されたLiDAR2は、ユーザ100の下方、前方、および上方を走査することができる。軸線2xは、水平に延在することが好ましい。本実施形態の保持機構5は、LiDAR2およびコンピュータ装置3を左右方向に並べて保持する。
【0018】
LiDAR2およびコンピュータ装置3は、ケーブル6によって接続されている。ケーブル6は、例えば、USBケーブルである。この場合、LiDAR2およびコンピュータ装置3は、シリアル通信によってデータを送受信する。LiDAR2は、ケーブル6を介して供給される電力によって動作する。コンピュータ装置3は、電源ケーブル7を介してバッテリ8(
図3参照)と接続されている。電源ケーブル7は、例えば、USBケーブルである。
【0019】
図3に示すように、コンピュータ装置3は、シリアル通信部31、基準線検出部32、回転角度検出部33、座標変換部34、障害箇所検出部35、通知部36、および無線通信部37を有する。
【0020】
シリアル通信部31は、シリアル通信を行なう通信ユニットである。コンピュータ装置3は、シリアル通信部31によってLiDAR2との間でデータ通信を行なう。コンピュータ装置3は、シリアル通信によってLiDAR2から走査データを取得する。走査データは、走査結果の検出点データの集合である。一つの検出点データは、出射方向Drの位相およびこの位相において検出された距離を含む。
【0021】
位相は、回転方向Dcにおける回転角度である。
図4に示すように、本実施形態のLiDAR2は、鉛直下方が0°となり、ユーザ100の前方が90°となるように保持されている。LiDAR2は、回転方向Dcに沿って全方向の測距を行ない、走査データを生成する。回転方向Dcに沿ったLiDAR2の角度分解能Δθは、例えば、1°である。この場合の走査データは、0°から359°まで、360個の検出点データを含む。
【0022】
図5には、走査データの一例が示されている。
図5の走査データは、LiDAR2が走査する仮想平面PLに対してプロットされている。仮想平面PLは、LiDAR2の軸線2xと直交する面である。プロットされた各点は、回転方向Dcの位相と、その位相に対する距離データとの関係を示している。
図5では、半径4mの円内に走査データがプロットされている。なお、ユーザ100よりも後方の測距データについては、障害箇所の検出対象外であるため、プロットが省略されている。
【0023】
図5の走査データは、
図6に示す前方の上り階段Suを走査して得られたデータである。上り階段Suは、複数の踏面Trを有する。
図5に示す走査データは、ユーザ100の足元の地面に対応する点群G1と、階段Suに対応する点群GUとを含む。
【0024】
基準線検出部32は、走査データに基づいて基準線Rfを検出する。
図4に示すように、基準線Rfは、ユーザ100の足元の地面Gsを示す線である。基準線検出部32は、軸線2xの下方をLiDAR2が走査したデータから基準線Rfを検出する。
図7は、基準線Rfの検出方法について説明する図である。基準線検出部32は、軸線2xの下方を走査したデータ(以下、単に「地面データ」と称する。)G0に基づいて基準線Rfを検出する。地面データG0は、例えば、軸線2xの真下よりもわずかに前方を走査したデータである。地面データG0は、典型的には、足元の地面に対応する点群G1の一部である。地面データG0は、例えば、予め定められた角度範囲の点群である。
【0025】
本実施形態の基準線Rfは、回転角度の補正に用いられる。
図7に示す位相データでは、点群G1がやや前下がりの線を描いている。これは、例えば、
図8に示すようにLiDAR2の0°の方向が鉛直方向Zに対して傾斜した場合に発生する。本実施形態の障害検出装置1は、以下に説明するように、傾斜を補正した補正後データを生成し、補正後データに基づいて障害箇所を検出する。
【0026】
図9には、基準線検出部32によって検出された基準線Rfが示されている。基準線検出部32は、例えば、地面データG0に対する最小二乗法またはRANSAC(Random sample consensus)により基準線Rfを算出する。基準線Rfは、地面データG0を代表する直線であり、ユーザ100の足元の地面Gsに対応している。回転角度検出部33は、基準線Rfの傾斜角度αを検出する。傾斜角度αは、
図9に示すように、90°の方向に対する基準線Rfの傾斜角度である。
【0027】
座標変換部34は、検出された傾斜角度αに基づいて走査データの座標変換を行なう。
図10には、座標変換後の走査データが示されている。座標変換部34が行なう座標変換は、変換後の地面データG0に対応する基準線Rfが90°の方向と平行になるような変換である。座標変換部34は、傾斜角度αの分だけ走査データを時計回り又は反時計回りに回転させる。
【0028】
障害箇所検出部35は、ユーザ100の前方の障害箇所を検出する。障害箇所は、典型的にはユーザ100の前方の段差である。段差は、階段のような歩行可能な段差だけでなく、歩行不能な段差も含む。障害箇所検出部35は、ユーザ100の前方の壁を障害箇所として検出することができる。
【0029】
ここで、各種の障害箇所に対する実際の走査データの例について説明する。
図11には、
図4のようにユーザ100の前方に下方への一段の段差Cdがある場合の走査データがプロットされている。走査データは、足元の地面に対応する点群G1、および下方の点群GDを有する。下方の点群GDは、足元の地面Gsよりも下方の面に対応する点群である。
【0030】
図12には、下り階段Sdが示されており、
図13には、下り階段Sdを走査した走査データがプロットされている。走査データは、足元の地面に対応する点群G1、および下方の点群GDを有する。下方の点群GDは、複数の点群GDi(i=1,2,3,…)を含む。一つの点群GDiは、下り階段Sdの一つの踏面Trに対応する。
【0031】
図14には、上り階段Suを走査した走査データがプロットされている。走査データは、足元の地面に対応する点群G1、および上方の点群GUを有する。上方の点群GUは、足元の地面Gsよりも上方の面に対応する点群である。上方の点群GUは、複数の点群GUj(j=1,2,3,…)を含む。一つの点群GUjは、上り階段Suの一つの踏面Trに対応する。
【0032】
図15には、
図16のようにユーザ100の前方に上方への一段の段差Cuがある場合の走査データがプロットされている。走査データは、足元の地面に対応する点群G1、および上方の点群GUを有する。
【0033】
図17には、
図18のようにユーザ100の前方に壁面Wsがある場合の走査データがプロットされている。走査データは、足元の地面に対応する点群G1、および壁面の点群GWを有する。壁面の点群GWは、鉛直方向に延在している。
【0034】
障害箇所検出部35は、走査データに基づいて、ユーザ100の前方の障害箇所を検出する。本実施形態の障害箇所検出部35は、LiDAR2の傾斜を補正した補正後の走査データに基づいて障害箇所を検出する。
図19に示すように、障害箇所検出部35は、参照窓Wnを設定する。参照窓Wnは、LiDAR2が走査する仮想平面PLに対して設定される窓である。参照窓Wnの位置は、軸線2xよりも前方の位置、すなわちユーザ100の前方の位置である。
【0035】
障害箇所検出部35は、基準点Psを選択し、基準点Psに対して参照窓Wnを設定する。基準点Psは、走査データに含まれる検出点データの一つである。障害箇所検出部35が最初に選択する基準点Psは、ユーザ100から見て前方の点であって、かつユーザ100の足元の点である。最初に選択される基準点Psは、地面データG0に含まれる検出点データであってもよい。
【0036】
例示された参照窓Wnの形状は、縦に細長い矩形である。参照窓Wnは、ユーザ100の進行方向に沿った幅Wx、および鉛直方向に沿った高さWzを有する。参照窓Wnの幅Wxは、例えば、成人の平均的な足長よりも狭い。本実施形態の幅Wxは、例えば、20cmである。
【0037】
参照窓Wnの高さWzは、参照窓Wnが検出すべき上方の点群PUおよび下方の点群PDの両方を含むことができるように適宜定められる。高さWzは、例えば、参照窓Wnが上り階段Suの複数の点群GUj(j=1,2,3,…)を含むことができ、かつ下り階段Sdの複数の点群GDi(i=1,2,3,…)を含むことができるように定められる。高さWzは、成人の平均的な身長とされてもよく、平均的な身長よりも大きな値とされてもよい。
【0038】
図19に示すように、参照窓Wnは、基準線Rfよりも上方の領域Wnu、および基準線Rfよりも下方の領域Wndを有する。上方の領域Wnuの高さは、階段の一段あたりの平均的な高さよりも大きい。同様に、下方の領域Wndの高さは、階段の一段あたりの平均的な高さよりも大きい。参照窓Wnの位置は、基準点Psの近傍であって、かつ基準点Psよりも前方の位置である。
【0039】
障害箇所検出部35は、基準点Psに対して参照窓Wnを設定すると、この参照窓Wnに検出点データが存在するかを判定する。参照窓Wnに検出点データが存在しない状況としては、例えば、参照窓Wnに対応する実空間に反射物が存在しないことが考えられる。
図20には、参照窓Wnに対応する実空間の領域Rsが示されている。ユーザ100の前方に歩行不能な高さの下方への段差Cdが存在する場合、参照窓Wnには検出点データが存在しなくなる。障害箇所検出部35は、参照窓Wnに検出点データが存在しない場合、参照窓Wnの位置に歩行不能な段差があると判定する。
【0040】
障害箇所検出部35は、参照窓Wnに検出点データが存在する場合、最上点Ptを決定する。
図21に示す参照窓Wnは、三つの検出点データを含む。最上点Ptは、複数の検出点データのうち、最も上方に位置する検出点データである。最上点Ptは、ユーザ100が参照窓Wnの位置で足を下ろした場合に、ユーザ100の足の裏に最初に接触する点である。
【0041】
障害箇所検出部35は、基準線Rfに対する最上点Ptの鉛直距離LZを算出する。最上点Ptの位置が基準線Rfよりも上方である場合、鉛直距離LZが正の値となる。一方、最上点Ptの位置が基準線Rfよりも下方である場合、鉛直距離LZが負の値となる。
【0042】
障害箇所検出部35は、鉛直距離LZに基づいて、参照窓Wnの位置に段差が存在するかを判定する。
図22には、鉛直距離LZの閾値の一例が示されている。本実施形態の障害箇所検出部35は、鉛直距離LZの値が-25cm以下である場合、参照窓Wnの位置に歩行不能な下方への段差があると判定する。障害箇所検出部35は、鉛直距離LZの値が-10cm以下であり、かつ-25cmよりも大きい場合、参照窓Wnの位置に歩行可能な下方への段差があると判定する。
【0043】
障害箇所検出部35は、鉛直距離LZの値が15cm以上であり、かつ30cm未満である場合、参照窓Wnの位置に歩行可能な上方への段差があると判定する。障害箇所検出部35は、鉛直距離LZの値が30cm以上であり、かつ50cm未満である場合、参照窓Wnの位置に歩行不能な上方への段差があると判定する。障害箇所検出部35は、鉛直距離LZの値が50cm以上である場合、参照窓Wnの位置に壁があると判定する。
【0044】
障害箇所検出部35は、鉛直距離LZの値が-10cmよりも大きく、かつ15cmよりも小さい場合、参照窓Wnの位置に段差および壁の何れも無いと判定する。
【0045】
また、障害箇所検出部35は、基準点Psと最上点Ptとの高低差ΔZを算出する。高低差ΔZは、参照窓Wnの位置に存在する面の凹凸や傾斜の程度を示すと考えられる。高低差ΔZの値が小さい場合、参照窓Wnの位置には、ユーザ100が安定して足を置ける面が存在すると推定できる。一方、高低差ΔZの値が大きい場合、参照窓Wnの位置には安全な歩行に影響する凹凸や傾斜が存在すると推定できる。
【0046】
障害箇所検出部35は、参照窓Wnにおいて障害箇所が検出されなかった場合、基準点Psおよび参照窓Wnを更新する。
図23には、更新後の基準点Psおよび参照窓Wnが示されている。
図23において、破線で描かれた矩形は前回の参照窓である。更新後の基準点Psは、前回の参照窓における最上点Ptである。参照窓Wnは、更新後の基準点Psに対して設定される。更新後の参照窓Wnの一部は、前回の参照窓と重なっていてもよい。
【0047】
障害箇所検出部35は、更新後の参照窓Wnに対して、最上点Ptの決定、障害箇所の有無の判定、および凹凸についての判定を行なう。障害箇所が検出されない場合、障害箇所検出部35は、決定された最上点Ptを次の基準点Psとして、新たな参照窓Wnを設定する。このように、障害箇所検出部35は、障害箇所を検出するまで、ユーザ100の近傍から前方に向けて参照窓Wnを移動させて障害箇所の有無を判定していく。
【0048】
通知部36は、障害箇所についての情報をユーザ100に通知する。本実施形態の通知部36は、聴覚または触覚によってユーザ100への通知を実行する。聴覚による通知は、例えば、障害検出装置1が有する出力装置9によってなされる。聴覚を利用する出力装置9は、例えば、スピーカ、ヘッドフォン、イヤフォン等である。この場合、コンピュータ装置3は、無線通信部37を介して出力装置9と無線通信を行なってもよい。無線通信は、例えば、Bluetooth(登録商標)等の近距離無線通信である。触覚による通知は、例えば、障害検出装置1が有する出力装置9によってなされる。触覚を利用する出力装置9は、例えば、バイブレーション装置である。コンピュータ装置3は、無線通信部37を介して出力装置9と無線通信を行なってもよい。
【0049】
聴覚または触覚による通知は、
図3に示す外部装置10によってなされてもよい。障害検出装置1は、無線通信部37を介して外部装置10との間で無線通信を行なう。外部装置10は、例えば、無線通信の機能を備えた携帯端末である。外部装置10は、スマートフォンであってもよい。外部装置10は、汎用のヘッドフォンやイヤフォンであってもよい。外部装置10は、音声や振動によってユーザ100に対して障害箇所についての情報を提供することができる。外部装置10が携帯端末である場合、コンピュータ装置3と連携して動作するアプリケーションプログラムを有していることが好ましい。
【0050】
図24を参照して、本実施形態のコンピュータ装置3の動作について説明する。ステップS10において、コンピュータ装置3は、シリアル通信部31によってLiDAR2から一周期分の走査データを取得する。コンピュータ装置3が一周期分の走査データを取得してから、次に走査データを取得するまでの間隔は、例えば、500msecである。ステップS10が実行されると、ステップS20に進む。
【0051】
ステップS20において、コンピュータ装置3は、基準線検出部32、回転角度検出部33、および座標変換部34によって走査データの回転角度を補正する。このときに、基準線検出部32は、基準線Rfを検出する。回転角度検出部33は、基準線Rfの傾斜角度αを算出する。座標変換部34は、傾斜角度αを打ち消すように走査データの回転角度を補正する。補正後の基準線Rfは、水平に延在する。ステップS20が実行されると、ステップS30に進む。
【0052】
ステップS30において、障害箇所検出部35は、基準点Psを設定する。ステップS30が実行されると、ステップS40に進む。
【0053】
ステップS40において、障害箇所検出部35は、現在の基準点Psに対して参照窓Wnを設定する。ステップS40が実行されると、ステップS50に進む。
【0054】
ステップS50において、障害箇所検出部35は、参照窓Wnに検出点データが存在するか否かを判定する。ステップS50の判定の結果、検出点データが存在するとして肯定判定された場合にはステップS60に進み、否定判定された場合にはステップS110に進む。
【0055】
ステップS60において、障害箇所検出部35は、参照窓Wnの検出点データから最上点Ptを決定する。ステップS60が実行されると、ステップS70に進む。
【0056】
ステップS70において、障害箇所検出部35は、基準線Rfおよび最上点Ptに基づいて鉛直距離LZを算出する。ステップS70が実行されると、ステップS80に進む。
【0057】
ステップS80において、障害箇所検出部35は、基準点Psおよび最上点Ptに基づいて高低差ΔZを算出する。ステップS80が実行されると、ステップS90に進む。
【0058】
ステップS90において、障害箇所検出部35は、参照窓Wnに障害箇所が存在するか否かを判定する。障害箇所検出部35は、例えば、ステップS70で算出された鉛直距離LZおよびステップS80で算出された高低差ΔZに基づいて参照窓Wnに障害箇所が存在するか判定する。障害箇所検出部35は、障害箇所が存在する場合、障害箇所の種類および障害箇所までの距離をメモリに記憶する。ステップS90の判定の結果、障害箇所が存在すると肯定判定された場合にはステップS100に進み、否定判定された場合にはステップS30に移行する。
【0059】
ステップS100において、障害箇所検出部35は、検出された障害箇所がユーザ100に接近しているかを判定する。障害箇所検出部35は、まず、ステップS90を前回実行したときに障害箇所が検出されたかを判定する。障害箇所が検出されていない場合、ステップS100で否定判定される。
【0060】
障害箇所検出部35は、障害箇所が検出されていた場合、ステップS90で検出された障害箇所の種類と、前回検出された障害箇所の種類とが同一であるかを判定する。障害箇所検出部35は、障害箇所の種類が同一であった場合、障害箇所までの距離の変化量を算出する。障害箇所検出部35は、障害箇所までの距離が減少している場合、障害箇所がユーザ100に接近していると判定する。一方、障害箇所検出部35は、障害箇所の種類が異なっている場合や、障害箇所までの距離が減少していない場合には障害箇所がユーザ100に接近していないと判定する。ステップS100の判定の結果、障害箇所がユーザ100に接近していると肯定判定された場合にはステップS110に進み、否定判定された場合にはステップS30に移行する。
【0061】
ステップS110において、コンピュータ装置3は、障害箇所についての情報を通知部36によってユーザ100に通知する。コンピュータ装置3は、検出された障害箇所の種類、および障害箇所までの距離をユーザ100に通知する。障害箇所の種類は、例えば、歩行可能な上方への段差、歩行不能な上方への段差、歩行可能な下方への段差、歩行不能な下方への段差、および壁、の五種類である。歩行可能な段差は、階段だけでなく、一段の段差も含む。障害箇所までの距離は、例えば、ユーザ100の現在位置から障害箇所が検出された参照窓Wnまでの水平方向の距離である。障害箇所の情報は、聴覚および触覚の少なくとも一方によってユーザ100に伝達される。
【0062】
ユーザ100への通知が聴覚によって行なわれる場合、障害箇所の種類および距離は、例えば、音声によって表現される。ユーザ100への通知が触覚によって行なわれる場合、障害箇所の種類および距離は、例えば、振動パターンや振動の継続時間によって表現される。ステップS110が実行されると、本制御フローは終了する。
【0063】
本実施形態の障害検出装置1は、参照窓Wnに検出点データが存在しない(ステップS50-No)場合、ステップS110でユーザ100に通知を行なう。よって、歩行不能な下方への段差が存在する、または存在する可能性が高い場合に、即座にユーザ100に注意を促すことができる。よって、障害検出装置1は、ユーザ100が危険箇所へ近づいてしまうことを未然に抑制することができる。
【0064】
なお、コンピュータ装置3は、障害箇所が接近しているか否かにかかわらず、障害箇所までの距離が閾値以下である場合にユーザ100に通知をしてもよい。このような通知がなされる状況として、例えば、障害箇所の直前になって障害箇所が初めて検出される状況が挙げられる。コンピュータ装置3は、障害箇所までの距離が閾値以下である場合、即座にユーザ100に通知を行なう。このような通知をすることで、障害箇所についての情報を適切なタイミングでユーザ100に提供することが可能となる。閾値は、例えば、150cmであってもよい。
【0065】
コンピュータ装置3は、障害箇所についての情報として、段差の高さをユーザ100に通知してもよい。コンピュータ装置3は、例えば、ステップS70で算出された鉛直距離LZをユーザ100に通知する。
【0066】
以上説明したように、本実施形態の障害検出装置1は、LiDAR2と、障害箇所検出部35と、通知部36と、を有する。LiDAR2は、ユーザ100の左右方向に沿った軸線2xを有し、かつ軸線2xを中心とする回転方向Dcに沿って走査する。障害箇所検出部35は、LiDAR2の検出結果に基づいて、ユーザ100の前方における障害箇所の有無および種類を検出する。通知部36は、検出された障害箇所の種類を含む当該障害箇所の情報をユーザ100に対して聴覚または触覚によって通知する。
【0067】
本実施形態の障害検出装置1は、障害箇所の種類を含む当該障害箇所の情報をユーザ100に通知する。よって、障害検出装置1は、ユーザ100に対して障害箇所についての適切な情報を提供することができる。
【0068】
本実施形態の障害検出装置1は、基準線検出部32と、補正部と、を有する。基準線検出部32は、軸線2xの下方をLiDAR2が走査したデータに基づいてユーザ100の足元の地面を示す基準線Rfを算出する。補正部は、基準線Rfに基づいてLiDAR2の走査結果に対して回転角度を補正する。本実施形態では、回転角度検出部33および座標変換部34が補正部として機能する。走査データに対する回転角度の補正がなされることにより、障害箇所検出部35における演算処理の負荷が軽減される。
【0069】
本実施形態の障害箇所検出部35は、基準線Rfに基づいてユーザ100の前方の段差の高さを算出し、かつ高さに基づいて歩行可能な段差であるかを判定する。障害箇所検出部35は、前方の段差の高さに基づいて、段差の種類を判定することができる。
【0070】
本実施形態の障害箇所検出部35は、LiDAR2が走査する仮想平面PLに対してユーザ100の前方に参照窓Wnを設定する。参照窓Wnは、ユーザ100の進行方向に沿った所定の幅Wx、および鉛直方向に沿った所定の高さWzを有する窓である。参照窓Wnは、基準線Rfよりも下方の領域Wndを含む。障害箇所検出部35は、LiDAR2による走査結果を仮想平面PLにプロットした場合に参照窓Wnに含まれるデータがない場合、ユーザ100の前方に歩行不能な段差があると判定する。このような判定により、ユーザ100が段差に接近しすぎる前にユーザ100に段差についての注意喚起を行なうことができる。
【0071】
本実施形態の通知部36は、ユーザ100の前方に歩行可能な段差が検出された場合、ユーザ100から歩行可能な段差までの距離に応じてユーザ100に通知を行なう。例えば、通知部36は、障害箇所が接近している(ステップS100-Yes)場合にユーザ100に対して通知を行なう。一方、通知部36は、ユーザ100の前方に歩行不能な段差が検出された場合、ユーザ100から歩行不能な段差までの距離にかかわらずユーザ100に通知を行なう。例えば、通知部36は、参照窓Wnに検出点データが存在しない(ステップS50-No)場合に距離にかかわらずステップS110でユーザ100に通知を行なう。よって、本実施形態の障害検出装置1は、ユーザ100に対して障害箇所についての適切な情報提供を行なうことができる。
【0072】
[実施形態の変形例]
実施形態の変形例について説明する。ユーザ100に対するLiDAR2の配置や固定方法は、実施形態で例示された配置や固定方法には限定されない。例えば、LiDAR2は、ユーザ100の胸部や肩に配置されてもよい。コンピュータ装置3は、LiDAR2の走査データに対する回転角度の補正を行なわなくてもよい。
【0073】
参照窓Wnの形状や大きさは、実施形態で例示された形状および大きさには限定されない。例えば、参照窓Wnの形状は、矩形以外の形状とされてもよい。
【0074】
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 障害検出装置
2:LiDAR、 3:コンピュータ装置、 4:ハーネス、 5:保持機構
6:ケーブル、 7:電源ケーブル、 8:バッテリ、 9:出力装置
31:シリアル通信部、 32:基準線検出部、 33:回転角度検出部
34:座標変換部、 35:障害箇所検出部、 36:通知部、 37:無線通信部
100:ユーザ
Cu:上方への一段の段差、 Cd:下方への一段の段差
Dc:回転方向、 Dr:出射方向
Gs:地面
G0:地面データ、 G1:足元の地面に対応する点群
GU:上方の点群、 GD:下方の点群、 GW:壁面の点群
LZ:鉛直距離
PL:仮想平面、 Rf:基準線
Su:上り階段、 Sd:下り階段、 Tr:踏面
Ws:壁面、 Wn:参照窓
ΔZ:高低差
α:傾斜角度、 Δθ:角度分解能