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▶ 株式会社タンガロイの特許一覧

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  • 特開-ホルダおよび切削工具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007689
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】ホルダおよび切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 29/00 20060101AFI20230112BHJP
   B23B 29/04 20060101ALI20230112BHJP
   B23B 27/10 20060101ALI20230112BHJP
   B23B 27/16 20060101ALI20230112BHJP
   B23B 25/06 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
B23B29/00 Z
B23B29/04 Z
B23B27/10
B23B27/16 A
B23B25/06
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110691
(22)【出願日】2021-07-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】島貫 寛生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
【テーマコード(参考)】
3C045
3C046
【Fターム(参考)】
3C045HA06
3C046BB00
3C046BB07
3C046EE01
3C046KK11
3C046MM01
(57)【要約】
【課題】刃物台に取り付けられる工具ホルダの長手方向(X軸)とは異なるY軸方向に切れ刃を送ってワークを旋削する切削インサート用のホルダであって、刃物台にホルダの一部を突き当てずとも突き出し量の調整を簡便に行えるようにしたホルダを提供する。
【解決手段】Z軸に沿って移動するワーク300を旋削するための切れ刃を備えた切削インサート10を保持し、該切削インサート10のX軸に沿った突き出し量を変更可能に当該刃物台200に対してX軸方向への相対移動が可能な状態で取り付けられ、かつ、X軸方向とは異なるY軸方向に移動したときに切削インサート10によりワーク300を旋削するY軸ホルダ50である。当該ホルダ50は、X軸方向の端部51が切削インサート10の切れ刃よりも突き出た形状であり、端部51に、切削インサート10の刃物台200からの突き出し量を規定するための位置出し部51Pが設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交するX軸、Y軸、Z軸のそれぞれの方向に沿った長さを有するホルダであって、かつ、Z軸に沿って移動するワークを旋削するための切れ刃を備えた切削インサートを保持し、該切削インサートのX軸に沿った突き出し量を変更可能に当該刃物台に対してX軸方向への相対移動が可能な状態で取り付けられ、かつ、前記X軸方向とは異なるY軸方向に移動したときに前記切削インサートにより前記ワークを旋削するように構成されたホルダであって、
当該ホルダは、前記X軸方向の端部が前記切削インサートの切れ刃よりも突き出た形状であり、
前記端部に、前記切削インサートの前記刃物台からの突き出し量を規定するための位置出し部が設けられている、切削インサートのホルダ。
【請求項2】
前記位置出し部は、前記X軸方向に沿って前記刃先から所定寸法離れた位置に設けられている、請求項1に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項3】
前記端部が、前記X軸方向に垂直な辺または面を有する平坦部を含む形状であり、当該平坦部に前記位置出し部が設けられている、請求項2に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項4】
前記端部が、前記Z軸方向に沿って傾斜した辺または面を有する傾斜部を含む形状であり、当該傾斜部に前記位置出し部が設けられている、請求項2に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項5】
前記傾斜部のうち前記ワークに最も近い部位に前記位置出し部が設けられている、請求項4に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項6】
前記端部が、前記X軸方向に突出した凸部を含む形状であり、当該凸部の先端に前記位置出し部が設けられている、請求項2に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項7】
前記端部に、前記位置出し部の前記Y軸に沿った領域を拡大させる段付き形状の段付き部が形成されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項8】
前記段付き部に給油口が設けられている、請求項7に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項9】
当該ホルダにおける前記位置出し部のY軸方向基準面からの設置範囲内に、前記X軸方向に移動したときに前記切削インサートにより前記ワークを旋削するホルダにおけるY軸方向基準面から前記切削インサートの刃先位置までの長さが含まれるように当該位置出し部が設定されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項10】
シャンク部がストレート形状である、請求項1から9のいずれか一項に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項11】
ヘッド部またはシャンク部に、当該ホルダの前記刃物台に対するX軸方向への相対移動可能な幅を所定範囲に規制するための規制部が設けられていない、請求項1から10のいずれか一項に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項12】
シャンク部に対してヘッド部が着脱可能かつ交換可能なヘッド交換式である、請求項1から11のいずれか一項に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のホルダと、該ホルダに取り付けられる切削インサートとを有する、切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルダおよび切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動で旋盤作業を行う自動盤においては、長尺のワークをZ軸方向に送り出しつつ、切削工具をこれと垂直な軸(たとえばホルダの長手方向に沿った軸。以下、Z軸に垂直なこの軸を便宜的に「X軸」と呼ぶ)に沿って動かすことによって当該ワークを旋削し、3次元形状を削り出している。また、このような動作のみならず、Z軸とX軸の両方に垂直なY軸の方向にも切削工具を送り出せるようにし、ワークのZ軸方向への動きと切削工具のY軸方向への動きを連動させつつ、ワークにY軸方向から突っ切りや溝入れといった切込み加工を行うことができるようにした自動盤も利用されている(本明細書では、このようにY軸方向への加工もできるように構成された自動盤を、便宜的にY軸方向切込み自動盤という)。
【0003】
上記のようなY軸方向切込み自動盤においては、X軸方向に切れ刃を切り込む一般的な切削工具のほか、Y軸方向に切れ刃を切り込む切削工具ないしはそのホルダ(本明細書では便宜的に「Y軸方向切込み切削工具」といい、また、そのホルダを「Y軸方向切込みホルダ」という)を選択的に用いることができる(たとえば特許文献1,2参照)。これらの切削工具を刃物台に複数並べ、X軸方向やY軸方向に移動させながらワークを切削する自動盤においては、径方向の原点合わせ(工具の突き出し量、すなわち刃物台から工具の刃先までの距離が所定量に設定されていること)が正確に行われていることはもちろんのこと、これに加え、切れ刃の高さ(芯高)調整もまた正確に行われていることが重要である。実際、切れ刃の高さ(芯高)調整は、例えば通常の旋削工具の場合であれば敷板を敷くなどした状態で行われることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2020-506074号公報
【特許文献2】特開2004-148498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、自動盤の場合であれば、ホルダおよびインサートの製造精度で高さ(芯高)が決まることを考慮し、公差内でばらつくことを許容するのが前提となっている場合がある。こういった事情から、従来、Y軸方向切込み自動盤においてY軸方向切込みホルダの高さ(芯高)調整はしないことが一般的であり、そもそも、工具の突き出し量を調整するという概念がないというのが実情である。
【0006】
そこで、本発明は、刃物台に取り付けられる工具ホルダの長手方向(X軸)等とは異なるY軸方向に切れ刃を送ってワークを旋削するY軸方向切込み自動盤にて利用可能なホルダおよび切削工具であって、切れ刃の高さ(芯高)調整作業を簡便に行えるようにした切削インサートのホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、直交するX軸、Y軸、Z軸のそれぞれの方向に沿った長さを有するホルダであって、かつ、Z軸に沿って移動するワークを旋削するための切れ刃を備えた切削インサートを保持し、該切削インサートのX軸に沿った突き出し量を変更可能に当該刃物台に対してX軸方向への相対移動が可能な状態で取り付けられ、かつ、X軸方向とは異なるY軸方向に移動したときに切削インサートによりワークを旋削するように構成されたホルダであって、
当該ホルダは、X軸方向の端部が切削インサートの切れ刃よりも突き出た形状であり、
端部に、切削インサートの刃物台からの突き出し量を規定するための位置出し部が設けられている、切削インサートのホルダである。
【0008】
上記のごとき態様によれば、ワークにホルダの端面の位置出し基準となる形状部すなわち位置出し部を当てながら刃物台をX軸方向に調整することで突き出し量を規定することができる。
【0009】
上記のごとき態様の切削インサートのホルダにおいて、位置出し部は、X軸方向に沿って刃先から所定寸法離れた位置に設けられていてもよい。
【0010】
上記のごとき態様の切削インサートのホルダにおいて、端部が、X軸方向に垂直な辺または面を有する平坦部を含む形状であり、当該平坦部に位置出し部が設けられていてもよい。
【0011】
上記のごとき態様の切削インサートのホルダにおいて、端部が、Z軸方向に沿って傾斜した辺または面を有する傾斜部を含む形状であり、当該傾斜部に位置出し部が設けられていてもよい。
【0012】
上記のごとき態様の切削インサートのホルダにおいて、傾斜部のうちワークに最も近い部位に位置出し部が設けられていてもよい。
【0013】
上記のごとき態様の切削インサートのホルダにおいて、端部が、X軸方向に突出した凸部を含む形状であり、当該凸部の先端に位置出し部が設けられていてもよい。
【0014】
上記のごとき態様の切削インサートのホルダにおいて、端部に、位置出し部のY軸に沿った領域を拡大させる段付き形状の段付き部が形成されていてもよい。
【0015】
上記のごとき態様の切削インサートのホルダにおいて、段付き部に給油口が設けられていてもよい。
【0016】
上記のごとき態様の切削インサートのホルダにおいて、当該ホルダにおける位置出し部のY軸方向基準面からの設置範囲内に、X軸方向に移動したときに切削インサートによりワークを旋削するホルダにおけるY軸方向基準面から切削インサートの刃先位置までの長さが含まれるように当該位置出し部が設定されていてもよい。
【0017】
上記のごとき態様の切削インサートのホルダにおいて、シャンク部がストレート形状であってもよい。
【0018】
上記のごとき態様の切削インサートのホルダは、ヘッド部またはシャンク部に、当該ホルダの刃物台に対するX軸方向への相対移動可能な幅を所定範囲に規制するための規制部が設けられていないものであってもよい。
【0019】
上記のごとき態様の切削インサートのホルダは、シャンク部に対してヘッド部が着脱可能かつ交換可能なヘッド交換式であってもよい。
【0020】
本発明の別の一態様は、上記のごときホルダと、該ホルダに取り付けられる切削インサートとを有する、切削工具である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】刃物台に切削工具を取り付ける際の外観を示す斜視図である。
図2A】平面形状としたホルダ端面の形状部の外観を、刃先と端面の形状部との寸法位置とともに示すZX平面視の図である。
図2B】傾斜形状としたホルダ端面の形状部の外観を、刃先と端面の形状部との寸法位置とともに示すZX平面視の図である。
図2C】凸面形状としたホルダ端面の形状部の外観を、刃先と端面の形状部との寸法位置とともに示すZX平面視の図である。
図3A】端面の形状部に段を設けて位置出しに使用可能な部分を広くしたホルダの外観を示す、Z軸方向からみた図である。
図3B】端面の形状部に段を設けていないホルダの外観を示す、Z軸方向からみた図である。
図4】ホルダの段側面の給油口周辺の構造例を示すZX平面視の図である。
図5】ホルダの段側面の給油口周辺の構造例を示す斜視図である。
図6】(A)通常のホルダ(X軸ホルダ)における切削インサートのY軸方向における刃先位置と、(B)Y軸方向切込みホルダ(Y軸ホルダ)における切削インサートのY軸方向における刃先位置とについて説明する図である。
図7】形状が異なる複数のホルダとワークとの位置関係の一例について説明する概略図である。
図8】自動盤においてZ軸方向に送り出されるワークに対し、切削工具をこれと垂直なZ軸に沿って動かすことによって当該ワークを旋削する際の様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るホルダおよび切削工具の好適な実施形態について詳細に説明する(図1等参照)。切削工具1は、自動盤(図示省略)などでの加工時、切削インサート10の切れ刃20を送ることでワーク300に切り込む工具として構成されているものである。
【0023】
本実施形態では、「Y軸方向切込み自動盤」(Y軸方向への加工もできるように構成された自動盤)において、一般的に使用される通常的なホルダに加えて「Y軸方向切込みホルダ」を選択的に使用可能な場合における当該Y軸方向切込みホルダの好適な形態を中心に説明する。すなわち、自動で旋盤作業を行う自動盤においては、長尺のワーク300をZ軸方向に送り出しつつ、切削工具1をこれと垂直な軸(一例として、本実施形態であれば、ホルダ50の長手方向に沿った鉛直な軸。以下、Z軸に垂直なこの軸を便宜的に「X軸」と呼ぶ)に沿って動かすことによって当該ワーク300を旋削し、3次元形状を削り出すということが一般的であるが(図8参照)、このような動作に加え、Z軸とX軸の両方に垂直なY軸の方向にも切削工具1を送り出せるようにし、ワーク300のZ軸方向への動きと切削工具1のY軸方向への動きを連動させつつ、ワーク300にY軸方向から突っ切りや溝入れといった切込み加工を行うことができるようにした自動盤も利用されている(本明細書では、このようにY軸方向への加工もできるように構成された自動盤を、便宜的にY軸方向切込み自動盤という)。かかるY軸方向切込み自動盤においては、X軸に送り出すに適した構造の切削工具(すなわち、切削インサートとホルダとの組み合わせからなる工具)のみならず、Y軸方向切込みに適した切削工具(本明細書では「Y軸方向切込み工具」という)1をも適宜選択して同様に用いることができれば便宜である。以下では、Y軸方向切込み工具1用として好適なホルダ(以下、「Y軸方向切込みホルダ」という)などについて説明する。なお、ここでいうY軸とは、刃物台200に取り付けられる工具ホルダの長手方向(一般には、鉛直方向)に沿ったX軸(「X-axis」ともいう)、切削対象たる長尺のワーク(棒材など)の移動方向(一般には、水平方向)に沿ったZ軸(「Z-axis」ともいう)の双方に垂直な軸で、一般的な「くし刃型」の刃物台であれば複数の切削工具1が並ぶ方向に延びる軸である(図1図7参照)。
【0024】
[Y軸方向切込みホルダについて]
本実施形態のホルダ50は、たとえば水平なZ軸(Z-axis)に沿って移動し切削インサート10に向けて供給されるワーク300を旋削するための当該切削インサート10を保持する(図1参照)。ホルダ50は、その長手方向を、Z軸に垂直なたとえば鉛直方向に向かうX軸(X-axis)に一致させて刃物台200に取り付けられる。また、Y軸方向切込みホルダ(Y軸ホルダともいう)50は、X軸およびZ軸の双方に垂直なたとえば水平なY軸(Y-axis)に沿って移動したときに、Z軸方向に移動するワーク300の動きと連動して切削インサート10によりワーク300を旋削するように構成されている(図1参照)。一方、X軸に沿って移動したときに切削インサート10によりワーク300を旋削するホルダ(本明細書では便宜的に「X軸ホルダ」といい、図7等において符号50Xで示す)は、X軸(X-axis)に沿って移動したときに、Z軸方向に移動するワーク300の動きと連動して切削インサート10によりワーク300を旋削するように構成されている。刃物台200には、Y軸ホルダ(図7では符号50Yで示す)のほかX軸ホルダ50Xを加工の態様に応じて交換し取り付けることができる。本実施形態では、刃物台200に複数種類のホルダ50(すなわちX軸ホルダおよびY軸ホルダ)をY軸方向に沿って「くし刃型」に配置し、旋削加工の態様に応じて刃物台200をX軸方向およびY軸方向に動かし、切削インサート10適宜に選択し移動して入れ替えながら所期の加工が行えるようにしている(図7参照)。また、切削工具1はホルダ50のシャンク部53に対してヘッド部52を着脱できるヘッド交換式の工具として構成されている(図5等参照)。
【0025】
[Y軸方向切込みホルダの位置出し部]
Y軸方向切込みホルダ(Y軸ホルダ)50は、X軸方向における端部(本実施形態の場合、下端部)51が切削インサート10の切れ刃20よりもさらに下側に突き出た形状となっている(図1参照)。本実施形態では、当該端部51に、切削インサート10の刃物台200からの突き出し量を規定するための位置出し基準となる位置出し部51Pを設けている(図1図2C参照)。自動盤の刃物台200に切削工具(ホルダ50および切削インサート10)1を取り付ける際、ワーク300にホルダ50の位置出し部51Pを当てながら、切れ刃20の刃先22と位置出し部51Pとの寸法を加味しつつ、刃物台200の位置を調整することで、突き出し量をあらかじめ規定された所定量にすることができる。このような位置出し部51Pは、当該ホルダ50に取り付けられた切削インサート10の刃先(詳細には、切れ刃20のコーナ部)22から所定寸法L離れた位置に設けられている(図2A等参照)。
【0026】
[ホルダの位置出し部の態様]
ホルダ50の端部51ないしはそこに設けられる位置出し部51Pの態様は特に限定されない。一例として、端部51を、YZ平面と平行の平面形状、つまりはX軸に対して垂直な辺または面を有する平坦部51Aを含む形状とし、当該平坦部51Aの一部または全部に位置出し部51Pを設けることができる(図2A参照)。
【0027】
また、他の例として、端部51を、Z軸方向に沿って傾斜した辺または面を有する傾斜部51Bを含む形状とし、当該傾斜部51Bの一部に位置出し部51Pを設けることができる(図2B参照)。この場合、傾斜部51Bを、たとえばその平面がZX平面視で切れ刃20側に高くなるように傾斜した平面形状等とし、当該傾斜部51Bのうちワークに最も近い部位に位置出し部51Pが設けることが好適である。このように位置出し部51Pがワーク300の供給される側に近い位置にあるということは、別言すればワーク300のガイドブッシュ500に近い位置に位置出し部51Pがあるということであり、チャック400ないしはガイドブッシュ500からそれほど飛び出していない状態のワーク300に当ててより精度よく位置出しすることが可能となる(図8参照)。
【0028】
さらに他の例として、端部51を、ZX平面視で凸面となるような、X軸方向に突出した凸部51Cを含む形状とし、当該凸部51Cの先端に位置出し部51Pを設けることもできる(図2C参照)。
【0029】
また、ホルダ50の端部51に、位置出し部51PのY軸に沿った領域を拡大させる段付き形状の段付き部51Dが形成されていてもよい(図3A参照)。Z軸方向からみたとき(XY平面視)、端部51における傾斜領域(図3A図3Bにおいて符号51Sで示す)のY軸に沿った幅が広いとそのぶん位置出し部51PのY軸に沿った幅(長さ)が狭くならざるを得ない(図3B参照)。この点、傾斜領域51Sの途中に先端側(下方)に向かう段付き部51Dを形成することで、刃先22から位置出し部51Pまでの寸法Lを変えることなく、位置出し部51PのY軸に沿った幅を広げた形状とすることが可能となる(図3A参照)。このようにして位置出し部51PのY軸に沿った幅を広げた形状とすれば、ワーク300とホルダ50の位置出し部51Pと接触させやすくなり、位置出し作業が行いやすくなる。
【0030】
上記のごとき段付き部51Dが形成されている場合、当該段付き部51Dに給油口54が設けられていてもよい(図4図5参照)。段付き部51Dに設けられた給油口54から切削インサート10に向けて給油することで、当該切削インサート10のすくい面側から切削油を供給することが可能となる。なお、符号55は、すくい面とは逆側から切削インサート10に切削油を供給する別の給油口である(図4図5参照)。
【0031】
[ホルダにおける位置出し部の配置]
Y軸方向切込みホルダ(Y軸ホルダ)50における位置出し部51Pは、そのY軸方向座標位置が、X軸ホルダ50における位置出し部51PのY軸方向座標位置に対応して設定されていることが好適である。以上について具体例を示しながら説明する(図6参照)。X軸ホルダ50(50X)のシャンク部53の側面のうち、たとえば図6に示すXY平面視で向かって左側の側面をY軸方向基準面53Sとし、このY軸方向基準面53Sから切れ刃20の刃先22までのY軸方向長さ(Y軸方向基準面53Sを原点とした場合のY座標)がy1であるとする(図6(A)参照)。このようなX軸ホルダ50(50X)に対応したY軸ホルダ50(50Y)とする場合には、当該Y軸ホルダ50(50Y)における位置出し部51PのY軸方向基準面53Sからの設置範囲内に、X軸ホルダ50(50X)におけるY軸方向長さy1が含まれるように当該位置出し部51Pを設定すればよい(図6(B)参照)。こうした場合には、刃物台200のX軸ホルダ50(50X)をY軸ホルダ50(50Y)に付け替える際、当該Y軸ホルダ50(50Y)の位置出し作業が簡便で済む。すなわち、X軸ホルダ50(50X)の位置出しの際にはその基準位置となるY軸方向長さy1の刃先22をワーク300に当てて位置出し作業をするのに対し、付け替え後のY軸ホルダ50(50Y)の位置出しの際には、そのままZ軸方向に動かせば、Y軸方向長さy1がその範囲内に含まれる位置出し部51Pがワーク300に当たることになるのであるから、位置出し部51Pがワーク300に当たるように刃物台200のY軸位置をわざわざ調整するといった手間を要しない。したがって、X軸ホルダ50(50X)で刃先22をワーク300に当てながら取り付ける時と同じ段取りでY軸ホルダ50(50Y)の取り付けを行うことができ(シャンク側面基準で同じY座標位置でワーク300に当てることができ)、あるいはX軸ホルダ50(50X)用として用いられる調整用ブログラムをこのY軸ホルダ50(50Y)に兼用することができ、便宜である。なお、位置出し部51Pが図2B図2Cのような尖状であれば範囲は点状となる一方、位置出し部51Pが図2A図6(B)のような線状であれば範囲はその幅に応じた長さとなることはいうまでもない。
【0032】
[切削インサートの種類]
本実施形態では、Y軸方向切込みホルダ(Y軸ホルダ)50に取り付けた切削インサート10の一部に、切れ刃20の刃先よりもX軸方向に突き出る部分がある場合には、切れ刃20の刃先よりも刃物台200に対してX軸方向に付き出る位置に位置出し部51Pを設け、自動盤の刃物台200に切削工具(切削インサート10およびホルダ50)1を取り付ける際にその位置出し部51Pにワーク300を当てながら突き出し量の調整ができるようにしている。これは、すくい角が負にならない切削インサート10を対象とする場合にも同様であり、Y軸ホルダ50を利用して溝入れや突っ切り、ねじ切りを含む、すくい角が負にはならないが端部51が刃先22よりも刃物台200に対してX軸方向に付き出るものについて、上記と同様の位置出し部51Pを設けることで突き出し量の調整が可能となる。
【0033】
[ホルダのシャンク部とヘッド部の形状]
上記のごとき態様としたY軸ホルダ50においては、刃物台200に当該ホルダの一部を突き当てることで刃物台200からの突き出し量を決定するというような、従前のY軸ホルダが採用していたような仕組みが不要である。このため、本実施形態のY軸ホルダ50のヘッド部52またはシャンク部53には、当該ホルダ50の刃物台200に対するX軸方向への相対移動可能な幅を所定範囲に規制するための規制部を設ける必要がない。したがって、たとえばシャンク部53をストレート形状とする(ストレートシャンクとする)ことが可能であり、突き出し量の調整幅を、ヘッド等に規制部があるホルダよりも自由に行うことができる。また、シャンク部53をストレート形状とする等によれば、間隔Dをおいて等間隔に並ぶ切削工具(切削インサート10およびホルダ50)1のうち隣り合うものどうしが干渉しにくくなるため、工具形状の制限が少なくなり、そのぶん加工の自由度が広がることにつながる(図7参照)。また、隣り合う工具どうしが干渉しにくくなるということは、そのぶん間隔を狭めて配置することにもつながるので、こうすることにより、刃物台200に取り付ける工具本数を増やすことが可能ともなる。
【0034】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。たとえば、上述した実施形態では直交する3方向をX軸、Y軸、Z軸という3つの軸を使って表現し、これに合わせてX軸(X-axis)ホルダやY軸(Y-axis)ホルダといった表し方をしたがこれらは便宜的なものにすぎず、発明の主旨に反しないものである限りは表現をどのように変えても何ら問題がないことはいうまでもない。
【0035】
また、上述の実施形態では一例として自動盤におけるホルダ50や切削工具1を説明したが、本発明の適用範囲がこのようなものに限られることがないことはいうまでもなく、自動盤の他、例えばターニングセンタにおいても適用することができる。なお、ターニングセンタのごとくZ軸方向にも刃物台を移動させる装置にあっては、適宜、そのような動作を加味したうえでホルダ50や切削工具1を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、切削加工用(主として旋削用)の切削インサートのホルダに適用して好適である。
【符号の説明】
【0037】
1…Y軸方向切込み切削工具(切削工具)
10…切削インサート
20…切れ刃
22…刃先(切れ刃の一部)
50…ホルダ
50X…X軸ホルダ(ホルダ)
50Y…Y軸方向切込みホルダ(ホルダ)
51…インサート突き出し方向(X軸方向)の端部
51A…平坦部
51B…傾斜部
51C…凸部
51D…端部における段付き部
51P…位置出し部
51S…Z軸方向からみたときの端部における傾斜領域
52…ヘッド部
53…シャンク部
53S…シャンク側面(ホルダにおけるY軸方向基準面)
54…給油口
55…給油口
200…刃物台
300…ワーク
400…チャック
500…ガイドブッシュ
L…ホルダに取り付けられた切削インサートの刃先から位置出し部までの寸法
y1…Y軸方向基準面53Sから(刃先までの)Y軸方向長さ
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2021-11-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交するX軸、Y軸、Z軸のそれぞれの方向に沿った長さを有するホルダであって、かつ、Z軸に沿って移動するワークを旋削するための切れ刃を備えた切削インサートを保持し、該切削インサートのX軸に沿った突き出し量を変更可能に刃物台に対してX軸方向への相対移動が可能な状態で取り付けられ、かつ、前記X軸方向とは異なるY軸方向に移動したときに前記切削インサートにより前記ワークを旋削するように構成されたホルダであって、
当該ホルダは、前記X軸方向の端部が前記切削インサートの切れ刃よりも前記X軸方向に沿ってさらに突き出た形状であり、
前記端部に、前記切削インサートの前記刃物台からの突き出し量を規定するための位置出し部が設けられている、切削インサートのホルダ。
【請求項2】
前記位置出し部は、前記X軸方向に沿って前記刃先から所定寸法離れた位置に設けられている、請求項1に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項3】
前記端部が、前記X軸方向に垂直な辺または面を有する平坦部を含む形状であり、当該平坦部に前記位置出し部が設けられている、請求項2に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項4】
前記端部が、前記Z軸方向に沿って傾斜した辺または面を有する傾斜部を含む形状であり、当該傾斜部に前記位置出し部が設けられている、請求項2に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項5】
前記傾斜部のうち前記ワークに最も近い部位に前記位置出し部が設けられている、請求項4に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項6】
前記端部が、前記X軸方向に突出した凸部を含む形状であり、当該凸部の先端に前記位置出し部が設けられている、請求項2に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項7】
前記端部に、前記位置出し部の前記Y軸に沿った領域を拡大させる段付き形状の段付き部が形成されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項8】
前記段付き部に給油口が設けられている、請求項7に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項9】
当該ホルダにおける前記位置出し部のY軸方向基準面からの設置範囲内に、前記X軸方向に移動したときに前記切削インサートにより前記ワークを旋削するホルダにおけるY軸方向基準面から前記切削インサートの刃先位置までの長さが含まれるように当該位置出し部が設定されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項10】
シャンク部がストレート形状である、請求項1から9のいずれか一項に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項11】
ヘッド部またはシャンク部に、当該ホルダの前記刃物台に対するX軸方向への相対移動可能な幅を所定範囲に規制するための規制部が設けられていない、請求項1から10のいずれか一項に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項12】
シャンク部に対してヘッド部が着脱可能かつ交換可能なヘッド交換式である、請求項1から11のいずれか一項に記載の切削インサートのホルダ。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のホルダと、該ホルダに取り付けられる切削インサートとを有する、切削工具。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図1
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図2A
【補正方法】変更
【補正の内容】
図2A
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図2B
【補正方法】変更
【補正の内容】
図2B
【手続補正5】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図2C
【補正方法】変更
【補正の内容】
図2C
【手続補正6】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図3A
【補正方法】変更
【補正の内容】
図3A
【手続補正7】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図3B
【補正方法】変更
【補正の内容】
図3B
【手続補正8】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図4
【補正方法】変更
【補正の内容】
図4
【手続補正9】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図5
【補正方法】変更
【補正の内容】
図5
【手続補正10】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図6
【補正方法】変更
【補正の内容】
図6
【手続補正11】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図8
【補正方法】変更
【補正の内容】
図8