(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076895
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】積層体、サーマルプリントヘッド、サーマルプリンタ、蓄熱層の形成方法、及びサーマルプリントヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20230529BHJP
【FI】
B41J2/335 101C
B41J2/335 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189922
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100133514
【弁理士】
【氏名又は名称】寺山 啓進
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 吾郎
【テーマコード(参考)】
2C065
【Fターム(参考)】
2C065GA01
2C065GB02
2C065JC04
2C065JC06
2C065JC10
2C065JH05
2C065JH15
(57)【要約】
【課題】良好な印字性能を確保したサーマルプリントヘッドに用いることができる積層体を提供する。また、当該積層体を備えたサーマルプリントヘッドを提供する。また、当該サーマルプリントヘッドを備えたサーマルプリンタを提供する。また、良好な印字性能を確保したサーマルプリントヘッドに用いることができる蓄熱層の形成方法を提供する。また、当該蓄熱層の形成方法により形成した蓄熱層を備えるサーマルプリントヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】直線状の凹部15aを有する主面15Aを備える絶縁体と、凹部15aの側面15Bと主面15Aとが交わる角部15Cに接しており、かつ、少なくとも一部が主面15Aの高さより上方に配置されている蓄熱層13と、を備える積層体10。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状の第1の凹部を有する主面を備える絶縁体と、
前記第1の凹部の側面と前記主面とが交わる角部に接しており、かつ、少なくとも一部が前記主面の高さより上方に配置されている蓄熱層と、を備える積層体。
【請求項2】
前記絶縁体の前記角部に沿って前記蓄熱層の直線状の端部が形成されている、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記第1の凹部の底面の算術平均粗さは、前記主面の算術平均粗さより大きい、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記蓄熱層の残りの一部は、前記第1の凹部の内部に配置されている部分を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記主面は前記第1の凹部と平行に延在している直線状の第2の凹部を更に備え、
前記蓄熱層は、前記第1の凹部と前記第2の凹部との間の前記主面の上方に配置されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記主面に垂直な前記蓄熱層の断面において、
前記蓄熱層は、前記主面の上方にテーパー形状である部分を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記絶縁体は、基板である、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記基板は、セラミック及びシリコンからなる群から選択されるいずれかからなる、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の積層体と、
前記積層体の前記蓄熱層上に配置されている発熱抵抗体と、
前記発熱抵抗体に電気的に接続している個別電極と、
前記発熱抵抗体に電気的に接続している共通電極と、を備え、
前記個別電極は、前記共通電極と離間し、かつ、対向している、サーマルプリントヘッド。
【請求項10】
請求項9に記載のサーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタ。
【請求項11】
絶縁体の主面に対して粗化処理を行って直線状の第1の凹部を形成し、
前記第1の凹部の側面と前記主面とが交わる角部に接するように蓄熱層ペーストを塗布し、
前記蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより蓄熱層を形成し、
前記蓄熱層は、少なくとも一部が前記主面の高さより上方に配置されている、蓄熱層の形成方法。
【請求項12】
前記絶縁体の前記角部に沿って前記蓄熱層の直線状の端部が形成されている、請求項11に記載の蓄熱層の形成方法。
【請求項13】
前記粗化処理は、ウェットブラストにより行われる、請求項11又は12に記載の蓄熱層の形成方法。
【請求項14】
前記第1の凹部は、ダイサーにより前記絶縁体の一部を除去し、前記除去した絶縁体に対して前記粗化処理を行うことにより形成される、請求項11~13のいずれか1項に記載の蓄熱層の形成方法。
【請求項15】
前記蓄熱層ペーストを塗布する工程において、前記第1の凹部の内部に前記蓄熱層ペーストを配置する、請求項11~14のいずれか1項に記載の蓄熱層の形成方法。
【請求項16】
前記主面に対して粗化処理を行って前記第1の凹部と平行に延在している直線状の第2の凹部を形成し、
前記蓄熱層ペーストを塗布する工程において、前記第1の凹部と前記第2の凹部との間の前記主面の上方に前記蓄熱層ペーストを塗布する、請求項11~15のいずれか1項に記載の蓄熱層の形成方法。
【請求項17】
前記主面に垂直な前記蓄熱層の断面において、
前記蓄熱層は、前記主面の上方にテーパー形状である部分を有する、請求項11~16のいずれか1項に記載の蓄熱層の形成方法。
【請求項18】
前記絶縁体は、基板である、請求項11~17のいずれか1項に記載の蓄熱層の形成方法。
【請求項19】
前記基板は、セラミック及びシリコンからなる群から選択されるいずれかからなる、請求項18に記載の蓄熱層の形成方法。
【請求項20】
請求項11~19のいずれか1項に記載の蓄熱層の形成方法により蓄熱層を形成し、
前記蓄熱層上に発熱抵抗体を形成し、
前記発熱抵抗体に電気的に接続する個別電極を形成し、
前記発熱抵抗体に電気的に接続している共通電極を形成し、
前記個別電極は、前記共通電極と離間し、かつ、対向するように形成される、サーマルプリントヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、積層体、サーマルプリントヘッド、サーマルプリンタ、蓄熱層の形成方法、及びサーマルプリントヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルプリントヘッドは、例えば、ヘッド基板上に主走査方向に並ぶ多数の発熱部を備えている。各発熱部は、ヘッド基板にグレーズ層(蓄熱層ともいう)を介して形成した抵抗体層上に、その一部を露出させるようにして、共通電極と個別電極をそれらの端部を対向させて積層することにより形成されている。共通電極と個別電極間を通電することにより、上記抵抗体層の露出部(発熱部)がジュール熱により発熱する。当該熱を印刷媒体(バーコードシートやレシートを作成するための感熱紙等)に伝えることにより、印刷媒体への印刷がなされる。
【0003】
グレーズ層は、蓄熱層としての役割を果たしており、発熱部から発生する熱を蓄積する。グレーズ層は、例えば、軟化点が800~850℃である、非晶質ガラスなどのガラス材料が用いられ、Al2O3などのセラミックからなるヘッド基板上にガラスペーストをスクリーン印刷等により塗布し、塗布されたガラスペーストを乾燥させ、その後、焼成処理を行うことにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラミック等からなるヘッド基板は、表面の算術平均粗さが大きいため、ヘッド基板の表面の凹凸がヘッド基板の表面に形成されるグレーズ層の表面にまで追従し、グレーズ層の端部が直線状に形成されなく、うねった形状になったり、厚さにバラつきが生じてしまう。このような状態のグレーズ層によって、印字にムラが生じてしまい、印字性能が低下するおそれがある。本実施形態の一態様は、良好な印字性能を確保したサーマルプリントヘッドに用いることができる積層体を提供することを目的の一とする。また、本実施形態の他の一態様は、当該積層体を備えたサーマルプリントヘッドを提供することを目的の一とする。また、本実施形態の他の一態様は、当該サーマルプリントヘッドを備えたサーマルプリンタを提供することを目的の一とする。また、本実施形態の他の一態様は、良好な印字性能を確保したサーマルプリントヘッドに用いることができる蓄熱層の形成方法を提供することを目的の一とする。また、本実施形態の他の一態様は、当該蓄熱層の形成方法により形成した蓄熱層を備えるサーマルプリントヘッドの製造方法を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態は、絶縁体の主面に直線状の凹部を設け、凹部の側面と主面とが交わる角部を用いて、角部における蓄熱層ペーストの表面張力により、蓄熱層ペーストを角部に沿って配置し、蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより蓄熱層を形成する。このように蓄熱層を形成することにより、サーマルプリントヘッドの印字性能を良好にすることができる。本実施形態の一態様は以下のとおりである。
【0007】
本実施形態の一態様は、直線状の第1の凹部を有する主面を備える絶縁体と、前記第1の凹部の側面と前記主面とが交わる角部に接しており、かつ、少なくとも一部が前記主面の高さより上方に配置されている蓄熱層と、を備える積層体である。
【0008】
また、本実施形態の他の一態様は、上記積層体と、前記積層体の前記蓄熱層上に配置されている発熱抵抗体と、前記発熱抵抗体に電気的に接続している個別電極と、前記発熱抵抗体に電気的に接続している共通電極と、を備え、前記個別電極は、前記共通電極と離間し、かつ、対向している、サーマルプリントヘッドである。
【0009】
また、本実施形態の他の一態様は、上記サーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタである。
【0010】
また、本実施形態の他の一態様は、絶縁体の主面に対して粗化処理を行って直線状の第1の凹部を形成し、前記第1の凹部の側面と前記主面とが交わる角部に接するように蓄熱層ペーストを塗布し、前記蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより蓄熱層を形成し、前記蓄熱層は、少なくとも一部が前記主面の高さより上方に配置されている、蓄熱層の形成方法である。
【0011】
また、本実施形態の他の一態様は、上記蓄熱層の形成方法により蓄熱層を形成し、前記蓄熱層上に発熱抵抗体を形成し、前記発熱抵抗体に電気的に接続する個別電極を形成し、前記発熱抵抗体に電気的に接続している共通電極を形成し、前記個別電極は、前記共通電極と離間し、かつ、対向するように形成される、サーマルプリントヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本実施形態によれば、良好な印字性能を確保したサーマルプリントヘッドに用いることができる積層体を提供することができる。また、当該積層体を備えたサーマルプリントヘッドを提供することができる。また、サーマルプリントヘッドを備えたサーマルプリンタを提供することができる。また、良好な印字性能を確保したサーマルプリントヘッドに用いることができる蓄熱層の形成方法を提供することができる。また、本実施形態の他の一態様は、当該蓄熱層の形成方法により形成した蓄熱層を備えるサーマルプリントヘッドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る積層体を説明する部分斜視図である。
【
図2】
図2は、主走査方向Xにおける
図1のA-A線に沿う部分断面図である。
【
図3】
図3は、副走査方向Yにおける
図1のB-B線に沿う部分断面図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る積層体の製造方法を説明する部分斜視図である。
【
図5】
図5は、主走査方向Xにおける
図4のA-A線に沿う部分断面図である。
【
図6】
図6は、副走査方向Yにおける
図4のB-B線に沿う部分断面図である。
【
図7】
図7は、第1の変形例に係る積層体を説明する部分斜視図である。
【
図8】
図8は、主走査方向Xにおける
図7のA-A線に沿う部分断面図である。
【
図9】
図9は、副走査方向Yにおける
図7のB-B線に沿う部分断面図である。
【
図10】
図10は、第1の変形例に係る積層体の製造方法を説明する部分斜視図である。
【
図13】
図13は、第2の変形例に係る積層体を説明する部分斜視図である。
【
図16】
図16は、第2の変形例に係る積層体の製造方法を説明する部分斜視図である。
【
図19】
図19は、第2の実施形態に係るサーマルプリントヘッドを説明する部分斜視図である。
【
図22】
図22は、第2の実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法を説明する部分斜視図である(その1)。
【
図25】
図25は、第2の実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法を説明する部分斜視図である(その2)。
【
図28】
図28は、第2の実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法を説明する部分斜視図である(その3)。
【
図31】
図31は、サーマルプリントヘッドを説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して、本実施形態について説明する。以下に説明する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各構成部品の厚みと平面寸法との関係等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0015】
また、以下に示す実施形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものではない。本実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
具体的な本実施形態の一態様は、以下の通りである。
【0017】
<1> 直線状の第1の凹部を有する主面を備える絶縁体と、前記第1の凹部の側面と前記主面とが交わる角部に接しており、かつ、少なくとも一部が前記主面の高さより上方に配置されている蓄熱層と、を備える積層体。
【0018】
<2> 前記絶縁体の前記角部に沿って前記蓄熱層の直線状の端部が形成されている、<1>に記載の積層体。
【0019】
<3> 前記第1の凹部の底面の算術平均粗さは、前記主面の算術平均粗さより大きい、<1>又は<2>に記載の積層体。
【0020】
<4> 前記蓄熱層の残りの一部は、前記第1の凹部の内部に配置されている部分を有する、<1>~<3>のいずれか1項に記載の積層体。
【0021】
<5> 前記主面は前記第1の凹部と平行に延在している直線状の第2の凹部を更に備え、前記蓄熱層は、前記第1の凹部と前記第2の凹部との間の前記主面の上方に配置されている、<1>~<4>のいずれか1項に記載の積層体。
【0022】
<6> 前記主面に垂直な前記蓄熱層の断面において、前記蓄熱層は、前記主面の上方にテーパー形状である部分を有する、<1>~<5>のいずれか1項に記載の積層体。
【0023】
<7> 前記絶縁体は、基板である、<1>~<6>のいずれか1項に記載の積層体。
【0024】
<8> 前記基板は、セラミック及びシリコンからなる群から選択されるいずれかからなる、<7>に記載の積層体。
【0025】
<9> <1>~<8>のいずれか1項に記載の積層体と、前記積層体の前記蓄熱層上に配置されている発熱抵抗体と、前記発熱抵抗体に電気的に接続している個別電極と、前記発熱抵抗体に電気的に接続している共通電極と、を備え、前記個別電極は、前記共通電極と離間し、かつ、対向している、サーマルプリントヘッド。
【0026】
<10> <9>に記載のサーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタ。
【0027】
<11> 絶縁体の主面に対して粗化処理を行って直線状の第1の凹部を形成し、前記第1の凹部の側面と前記主面とが交わる角部に接するように蓄熱層ペーストを塗布し、前記蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより蓄熱層を形成し、前記蓄熱層は、少なくとも一部が前記主面の高さより上方に配置されている、蓄熱層の形成方法。
【0028】
<12> 前記絶縁体の前記角部に沿って前記蓄熱層の直線状の端部が形成されている、<11>に記載の蓄熱層の形成方法。
【0029】
<13> 前記粗化処理は、ウェットブラストにより行われる、<11>又は<12>に記載の蓄熱層の形成方法。
【0030】
<14> 前記第1の凹部は、ダイサーにより前記絶縁体の一部を除去し、前記除去した絶縁体に対して前記粗化処理を行うことにより形成される、<11>~<13>のいずれか1項に記載の蓄熱層の形成方法。
【0031】
<15> 前記蓄熱層ペーストを塗布する工程において、前記第1の凹部の内部に前記蓄熱層ペーストを配置する、<11>~<14>のいずれか1項に記載の蓄熱層の形成方法。
【0032】
<16> 前記主面に対して粗化処理を行って前記第1の凹部と平行に延在している直線状の第2の凹部を形成し、前記蓄熱層ペーストを塗布する工程において、前記第1の凹部と前記第2の凹部との間の前記主面の上方に前記蓄熱層ペーストを塗布する、<11>~<15>のいずれか1項に記載の蓄熱層の形成方法。
【0033】
<17> 前記主面に垂直な前記蓄熱層の断面において、前記蓄熱層は、前記主面の上方にテーパー形状である部分を有する、<11>~<16>のいずれか1項に記載の蓄熱層の形成方法。
【0034】
<18> 前記絶縁体は、基板である、<11>~<17>のいずれか1項に記載の蓄熱層の形成方法。
【0035】
<19> 前記基板は、セラミック及びシリコンからなる群から選択されるいずれかからなる、<18>に記載の蓄熱層の形成方法。
【0036】
<20> <11>~<19>のいずれか1項に記載の蓄熱層の形成方法により蓄熱層を形成し、前記蓄熱層上に発熱抵抗体を形成し、前記発熱抵抗体に電気的に接続する個別電極を形成し、前記発熱抵抗体に電気的に接続している共通電極を形成し、前記個別電極は、前記共通電極と離間し、かつ、対向するように形成される、サーマルプリントヘッドの製造方法。
【0037】
(第1の実施形態)
本実施形態に係る積層体について図面を用いて説明する。
【0038】
図1は、サーマルプリントヘッドに用いることができる積層体10を示す部分斜視図である。
図2は、主走査方向Xにおける
図1のA-A線に沿う部分断面図である。
図3は、副走査方向Yにおける
図1のB-B線に沿う部分断面図である。積層体10は、絶縁体である基板15と、基板15上の蓄熱層13と、を備える。基板15は、直線状の凹部15aを有する主面15Aを備える。
【0039】
本実施形態において、凹部15aが直線状に延びる方向を主走査方向X、主走査方向Xに対して垂直で、かつ、基板15の主面15Aに対して平行な方向を副走査方向Y、基板15の厚さに対応する方向を厚さ方向Zとする。言い換えれば、厚さ方向Zは、主走査方向X及び副走査方向Yのそれぞれに対して垂直な方向である。また、基板15からみて蓄熱層13が位置している方向を上方向、蓄熱層13からみて基板15が位置している方向を下方向とする。
【0040】
基板15は、絶縁体であり、例えば、セラミック又は単結晶半導体からなる。セラミックとしては、例えば、アルミナ等を用いることができる。単結晶半導体基板としては、例えば、シリコン基板などを用いることができる。放熱性の観点から、比較的、熱伝導率が大きいアルミナを基板15に用いることが好ましい。
【0041】
一般に、セラミック又は単結晶半導体からなる基板は、表面の算術平均粗さ(Ra)が大きく、例えば、0.5μm以下である。なお、Raは、例えば、JIS B0601:2013やISO 25178に準拠して求めることができる。基板の表面のRaが大きいと、基板の表面の凹凸が基板の表面に形成される蓄熱層の表面にまで追従し、蓄熱層の端部が直線状に形成されなく、うねった形状になったり、厚さにバラつきが生じてしまう。
【0042】
これらの問題を解決するために、本実施形態では、基板15の主面15Aに直線状の凹部15aを設け、凹部15aの側面15Bと主面15Aとが交わる角部15Cを利用する。角部15Cにおける蓄熱層ペーストの表面張力により、蓄熱層ペーストを角部15Cに沿って配置し、蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより、角部15Cに接しており、かつ、角部15Cに沿って直線状の端部13Aを備える蓄熱層13を得ることができる。なお、副走査方向Yにおける、凹部15aの幅が蓄熱層13の幅となるため、凹部15aの幅を調整することにより、副走査方向Yにおける蓄熱層13の幅を調整することができる。
【0043】
蓄熱層ペーストが低粘度であると、角部15C側に配置された蓄熱層ペーストから速く乾燥するため、角部15Cにおける蓄熱層ペーストの表面張力が蓄熱層ペーストの内側の箇所(中央部分)よりわずかに高くになる。その結果、角部15C側に配置された蓄熱層ペーストが中央部分に配置された蓄熱層ペーストを引張り、角部15C側が盛り上がった形状となってしまう。また、蓄熱層ペーストが高粘度であると、蓄熱層ペーストの流動性が低下し、蓄熱層ペーストの表面に凹凸が生じやすくなってしまう。
【0044】
本実施形態では、蓄熱層ペーストの粘度としては、例えば、50~200Pa・sであると好ましい。蓄熱層ペーストの粘度を適切に調整すると、蓄熱層ペーストの表面張力の作用によって、蓄熱層ペーストの表面積を小さくしようとして蓄熱層ペーストを構成する材料の分子同士が引っ張り合い、角部15Cが薄くなり、蓄熱層ペーストが、角部15Cから中央部分に向かって徐々に厚くなっているテーパー形状である部分を有する。蓄熱層ペーストがテーパー形状である部分を有するため、これを乾燥及び焼成処理を行うことにより、テーパー形状である部分を有する蓄熱層13を得ることができる。
【0045】
また、後述するが凹部15aは、基板15の主面15Aに対して粗化処理を行うことにより形成されるため、凹部15aの底面15DのRaは、主面15AのRaより大きくなる。粗化処理を行うことにより、底面15D全体のRaが均一になり、蓄熱層ペーストを構成する材料の分子同士がランダムに引っ張り合うことで蓄熱層ペーストのうねり及び厚さのバラつきを抑制することができる。このため、うねり及び厚さのバラつきを抑制した蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより、うねり及び厚さのバラつきを抑制した蓄熱層13を得ることができる。また、粗化処理を行うことにより、粗化表面である底面15Dと蓄熱層ペーストとの密着性を向上させることができる。このため、底面15Dとの密着性が良好な蓄熱層13を得ることができる。
【0046】
基板15上には、熱を蓄積する機能を有する蓄熱層13が積層されている。蓄熱層13は、第2の実施形態において後述する発熱抵抗部から発生する熱を蓄積する。蓄熱層13(蓄熱層ペースト)は、絶縁性材料を用いることができ、例えば、ガラスの主成分である酸化シリコン、窒化シリコンを用いることができる。蓄熱層13の厚さ方向Zにおける寸法は、特に限定されず、例えば、5~100μmであり、好ましくは10~30μmである。
【0047】
蓄熱層13は、基板15の角部15Cに接しており、かつ、凹部15aの内部に配置されており、蓄熱層13の上面が主面15Aの高さより上方に配置されている。
【0048】
さらに、蓄熱層13は、角部15Cに沿って直線状の端部13Aを備える。直線状の端部13Aを備えることにより、蓄熱層13のうねり及び厚さのバラつきを抑制でき、印字ムラの発生を抑制し、良好な印字性能を確保したサーマルプリントヘッドを得ることができる。
【0049】
ここで、本実施形態の積層体10の製造方法(蓄熱層13の形成方法)について説明する。
【0050】
図4~
図6に示すように、まず、基板15を用意し、基板15の主面15Aに対して粗化処理を行って直線状の凹部15aを形成する。凹部15aは、側面15B及び底面15Dを有する。さらに、基板15は、側面15Bと主面15Aとが交わる角部15Cを有する。
【0051】
粗化処理としては、例えば、ウェットブラスト、エアーブラスト、ショットブラスト、サンドブラスト等を用いることができるが、粗化表面である底面15Dの均一性、コントロール性、洗浄性等の観点から、ウェットブラストが特に好ましい。これにより、底面15D全体のRaが均一になり、後に塗布する蓄熱層ペーストを構成する材料の分子同士がランダムに引っ張り合うことで蓄熱層ペーストのうねり及び厚さのバラつきを抑制することができる。また、粗化表面である底面15Dと蓄熱層ペーストとの密着性を向上させることができる。
【0052】
さらに、基板15の主面15Aに対して粗化処理を行う前に、ダイサー等により、基板15の主面15A上に設定されたダイシングラインに沿って主面15Aの一部を除去し、その後、除去した箇所に対して粗化処理を行ってもよい。ダイサー等で主面15Aの一部を除去し、その後、除去した箇所に対して粗化処理を行うことにより、角部15Cをより直線状にさせつつ、蓄熱層ペーストのうねり及び厚さのバラつきを抑制することができ、また、粗化表面である底面15Dと蓄熱層ペーストとの密着性を向上させることができる。
【0053】
次に、角部15Cに接し、かつ、凹部15aの内部及び主面15Aの高さより上方に配置されるように蓄熱層ペーストをスクリーン印刷等により塗布する。その後、
図1~
図3に示したように、蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより蓄熱層13を形成する。焼成処理は、例えば、800~1200℃で10分~1時間行う。蓄熱層13の厚さ方向Zにおける寸法(最も厚い部分)は、例えば、25μmである。
【0054】
以上の工程により、本実施形態の積層体10を製造することができる。
【0055】
本実施形態によれば、基板の主面に対して粗化処理を行うことにより形成した直線状の凹部を設け、凹部の側面と主面とが交わる角部を利用して、角部における蓄熱層ペーストの表面張力によって蓄熱層ペーストを角部に沿って配置し、蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより、うねり及び厚さのバラつきを抑制し、さらに、凹部の底面との密着性が良好な蓄熱層を得ることができ、良好な印字性能を確保したサーマルプリントヘッドに用いることができる積層体を提供することができる。
【0056】
本実施形態に係る積層体は、上述した構成に限られず、様々な変更が可能である。以下に、本実施形態に係る積層体の変形例を説明する。
【0057】
<第1の変形例>
本変形例に係る積層体20の構成を説明する。
図7は、サーマルプリントヘッドに用いることができる積層体20を示す部分斜視図である。
図8は、主走査方向Xにおける
図7のA-A線に沿う部分断面図である。
図9は、副走査方向Yにおける
図7のB-B線に沿う部分断面図である。積層体20は、絶縁体である基板25と、基板25上の蓄熱層23と、を備える。基板25は、直線状の凹部25aを複数有する主面25Aを備える。本変形例に係る積層体20が上述の
図1~
図3に示す積層体10と異なる点は、直線状の凹部25aを複数設ける点である。本変形例において
図1~
図3に示す積層体10と共通する点は上述の説明を援用し、以下、異なる点について説明する。
【0058】
本変形例において、凹部25aが直線状に延びる方向を主走査方向X、主走査方向Xに対して垂直で、かつ、基板25の主面25Aに対して平行な方向を副走査方向Y、基板25の厚さに対応する方向を厚さ方向Zとする。言い換えれば、厚さ方向Zは、主走査方向X及び副走査方向Yのそれぞれに対して垂直な方向である。また、基板25からみて蓄熱層23が位置している方向を上方向、蓄熱層23からみて基板25が位置している方向を下方向とする。
【0059】
本変形例では、基板25の主面25Aに、互いに平行に延在している直線状の凹部25aを複数設け、凹部25aの側面25Bと主面25Aとが交わる角部25Cを利用する。角部25Cにおける蓄熱層ペーストの表面張力により、蓄熱層ペーストを角部25Cに沿って配置し、蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより角部25Cに接しており、かつ、角部25Cに沿って直線状の端部23Aを備える蓄熱層23を得ることができる。なお、凹部25aの側面25Bと他の凹部25aの側面25Bとの間隔が副走査方向Yにおける蓄熱層23の幅となるため、当該間隔を調整することにより、副走査方向Yにおける蓄熱層23の幅を調整することができる。
【0060】
また、後述するが凹部25aは、基板25の主面25Aに対して粗化処理を行うことにより形成されるため、凹部25aの底面25DのRaは、主面25AのRaより大きくなる。粗化処理を行うことにより、底面25D全体のRaが均一になり、蓄熱層ペーストを構成する材料の分子同士がランダムに引っ張り合うことで蓄熱層ペーストのうねり及び厚さのバラつきを抑制することができる。このため、うねり及び厚さのバラつきを抑制した蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより、うねり及び厚さのバラつきを抑制した蓄熱層23を得ることができる。また、粗化処理を行うことにより、粗化表面である底面25Dと蓄熱層ペーストとの密着性を向上させることができる。このため、底面25Dとの密着性が良好な蓄熱層23を得ることができる。
【0061】
基板25の材料については、基板15の材料の説明を援用することができる。
【0062】
基板25上には、熱を蓄積する機能を有する蓄熱層23が積層されている。蓄熱層23は、第2の実施形態において後述する発熱抵抗部から発生する熱を蓄積する。蓄熱層23(蓄熱層ペースト)は、絶縁性材料を用いることができ、例えば、ガラスの主成分である酸化シリコン、窒化シリコンを用いることができる。蓄熱層23の厚さ方向Zにおける寸法は、特に限定されず、例えば、5~100μmであり、好ましくは10~30μmである。
【0063】
蓄熱層23は、基板25の角部25Cに接しており、かつ、凹部25a同士の間の主面25A、凹部25aの内部に配置されており、蓄熱層23の上面が主面25Aの高さより上方に配置されている。
【0064】
さらに、蓄熱層23は、角部25Cに沿って直線状の端部23Aを備える。直線状の端部23Aを備えることにより、蓄熱層23のうねり及び厚さのバラつきを抑制でき、印字ムラの発生を抑制し、良好な印字性能を確保したサーマルプリントヘッドを得ることができる。
【0065】
ここで、本実施形態の積層体20の製造方法(蓄熱層23の形成方法)について説明する。
【0066】
図10~
図12に示すように、まず、基板25を用意し、基板25の主面25Aに対して粗化処理を行って直線状の凹部25aを複数形成する。凹部25aは、側面25B及び底面25Dを有する。さらに、基板25は、側面25Bと主面25Aとが交わる角部25Cを有する。
【0067】
粗化処理としては、上述の積層体10の製造方法の説明を援用することができる。さらに、基板25の主面25Aに対して粗化処理を行う前に、ダイサー等により、基板25の主面25A上に設定されたダイシングラインに沿って主面25Aの一部を除去し、その後、除去した箇所に対して粗化処理を行ってもよい。
【0068】
次に、角部25Cに接し、かつ、凹部25a同士の間の主面25A、凹部25aにの内部及び主面25Aの高さより上方に配置されるように蓄熱層ペーストをスクリーン印刷等により塗布する。その後、
図7~
図9に示したように、蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより蓄熱層23を形成する。焼成処理は、例えば、800~1200℃で10分~1時間行う。蓄熱層23の厚さ方向Zにおける寸法(最も厚い部分)は、例えば、25μmである。
【0069】
以上の工程により、本変形例の積層体20を製造することができる。
【0070】
本変形例によれば、互いに平行に延在している直線状の凹部を複数設けることにより主面に対して粗化処理を行う領域を小さくすることができるため、製造工程を簡素化することができる。また、基板の主面に対して粗化処理を行うことにより形成した直線状の凹部を複数設け、凹部の側面と主面とが交わる角部を利用して、角部における蓄熱層ペーストの表面張力によって蓄熱層ペーストを角部に沿って配置し、蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより、うねり及び厚さのバラつきを抑制し、さらに、凹部の底面との密着性が良好な蓄熱層を得ることができ、良好な印字性能を確保したサーマルプリントヘッドに用いることができる積層体を提供することができる。
【0071】
<第2の変形例>
本変形例に係る積層体30の構成を説明する。
図13は、サーマルプリントヘッドに用いることができる積層体30を示す部分斜視図である。
図14は、主走査方向Xにおける
図13のA-A線に沿う部分断面図である。
図15は、副走査方向Yにおける
図13のB-B線に沿う部分断面図である。積層体30は、絶縁体である基板35と、基板35上の蓄熱層33と、を備える。基板35は、直線状の凹部35aを複数有する主面35Aを備える。本変形例に係る積層体30が上述の
図1~
図3に示す積層体10と異なる点は、直線状の凹部35aを複数設ける点、及び蓄熱層33が凹部35a同士の間の主面35Aの上方に配置されている点である。本変形例において
図1~
図3に示す積層体10と共通する点は上述の説明を援用し、以下、異なる点について説明する。
【0072】
本変形例において、凹部35aが直線状に延びる方向を主走査方向X、主走査方向Xに対して垂直で、かつ、基板35の主面35Aに対して平行な方向を副走査方向Y、基板35の厚さに対応する方向を厚さ方向Zとする。言い換えれば、厚さ方向Zは、主走査方向X及び副走査方向Yのそれぞれに対して垂直な方向である。また、基板35からみて蓄熱層33が位置している方向を上方向、蓄熱層33からみて基板35が位置している方向を下方向とする。
【0073】
本変形例では、基板35の主面35Aに、互いに平行に延在している直線状の凹部35aを複数設け、凹部35aの側面35Bと主面35Aとが交わる角部35Cを利用する。角部35Cにおける蓄熱層ペーストの表面張力により、蓄熱層ペーストを角部35Cに沿って配置し、蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより角部35Cに接しており、かつ、角部35Cに沿って直線状の端部33Aを備える蓄熱層33を得ることができる。なお、凹部35a同士の間隔が副走査方向Yにおける蓄熱層33の幅となるため、当該間隔を調整することにより、副走査方向Yにおける蓄熱層33の幅を調整することができる。
【0074】
基板35の材料については、基板15の材料の説明を援用することができる。
【0075】
基板35上には、熱を蓄積する機能を有する蓄熱層33が積層されている。蓄熱層33は、第2の実施形態において後述する発熱抵抗部から発生する熱を蓄積する。蓄熱層33(蓄熱層ペースト)は、絶縁性材料を用いることができ、例えば、ガラスの主成分である酸化シリコン、窒化シリコンを用いることができる。蓄熱層33の厚さ方向Zにおける寸法は、特に限定されず、例えば、5~100μmであり、好ましくは10~30μmである。
【0076】
蓄熱層33は、基板35の角部35Cに接しており、かつ、凹部35a同士の間の主面35Aの上方に配置されている。
【0077】
さらに、蓄熱層33は、角部35Cに沿って直線状の端部33Aを備える。直線状の端部33Aを備えることにより、蓄熱層33のうねり及び厚さのバラつきを抑制でき、印字ムラの発生を抑制し、良好な印字性能を確保したサーマルプリントヘッドを得ることができる。
【0078】
ここで、本実施形態の積層体30の製造方法(蓄熱層33の形成方法)について説明する。
【0079】
図16~
図18に示すように、まず、基板35を用意し、基板35の主面35Aに対して粗化処理を行って直線状の凹部35aを複数形成する。凹部35aは、側面35B及び底面35Dを有する。さらに、基板35は、側面35Bと主面35Aとが交わる角部35Cを有する。
【0080】
粗化処理としては、上述の積層体10の製造方法の説明を援用することができる。さらに、基板35の主面35Aに対して粗化処理を行う前に、ダイサー等により、基板35の主面35A上に設定されたダイシングラインに沿って主面35Aの一部を除去し、その後、除去した箇所に対して粗化処理を行ってもよい。
【0081】
次に、角部35Cに接し、かつ、凹部35a同士の間の主面35A上に配置されるように蓄熱層ペーストをスクリーン印刷等により塗布する。その後、
図13~
図15に示したように、蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより蓄熱層33を形成する。焼成処理は、例えば、800~1200℃で10分~1時間行う。蓄熱層33の厚さ方向Zにおける寸法(最も厚い部分)は、例えば、25μmである。
【0082】
以上の工程により、本変形例の積層体30を製造することができる。
【0083】
本変形例によれば、互いに平行に延在している直線状の凹部を複数設けることにより主面に対して粗化処理を行う領域を小さくすることができるため、製造工程を簡素化することができる。また、基板の主面に対して粗化処理を行うことにより形成した直線状の凹部を複数設け、凹部の側面と主面とが交わる角部を利用して、角部における蓄熱層ペーストの表面張力によって蓄熱層ペーストを角部に沿って配置し、蓄熱層ペーストを乾燥及び焼成処理を行うことにより、うねり及び厚さのバラつきを抑制した蓄熱層を得ることができ、良好な印字性能を確保したサーマルプリントヘッドに用いることができる積層体を提供することができる。
【0084】
(第2の実施形態)
本実施形態に係るサーマルプリントヘッドについて図面を用いて説明する。本実施形態に係るサーマルプリントヘッドは、第1の実施形態の積層体を備える。本実施形態では、上述の、基板15と蓄熱層13を備える積層体10の中央部分(凹部15a内の蓄熱層13及びその下側の基板15)を用いる構成を一例として説明する。このため、以降の図では、基板15上の全面に蓄熱層13が設けられているが、これに限られない。
【0085】
図19は、サーマルプリントヘッドを示す部分斜視図である。
図20は、主走査方向Xにおける
図19のA-A線に沿う部分断面図である。
図21は、副走査方向Yにおける
図19のB-B線に沿う部分断面図である。
図19~
図21は、サーマルプリントヘッドの一部分(1個のサーマルプリントヘッドに相当)を示しており、本実施形態では、この1個のサーマルプリントヘッドを個片状のサーマルプリントヘッド100とする。サーマルプリントヘッド100は、基板15と蓄熱層13を備える積層体10と、積層体10に含まれる蓄熱層13上の個別電極31と、個別電極31と離間し、かつ、個別電極31と対向している蓄熱層13上の共通電極32と、蓄熱層13上、個別電極31上、及び共通電極32上の発熱抵抗体40と、個別電極31、共通電極32、及び発熱抵抗体40を覆う保護膜34と、を備える。発熱抵抗体40は個別電極31及び共通電極32を流れる電流により発熱する複数の発熱抵抗部41を含む。複数の発熱抵抗部41は、個別電極31及び共通電極32の間において、各発熱抵抗部41が独立して形成されている。
図19は、複数の発熱抵抗部41を省略している。複数の発熱抵抗部41は、蓄熱層13上において直線状に配置されている。また、
図19は、理解を容易にするため、保護膜34を省略している。
【0086】
本実施形態において、複数の発熱抵抗部41が直線状に延びる方向を主走査方向X、主走査方向Xに対して垂直で、かつ、基板15の上面に対して平行な方向を副走査方向Y、基板15の厚さに対応する方向を厚さ方向Zとする。言い換えれば、厚さ方向Zは、主走査方向X及び副走査方向Yのそれぞれに対して垂直な方向である。また、基板15からみて蓄熱層13が位置している方向を上方向、蓄熱層13からみて基板15が位置している方向を下方向とする。
【0087】
積層体10に含まれる蓄熱層13上には、金属ペーストから形成される、個別電極31及び共通電極32が設けられている。個別電極31及び共通電極32は、金属ペーストをスクリーン印刷等によって塗布し、その後焼成し、電極パターンを形成することにより得られる。
【0088】
金属ペーストとしては、例えば、銅、銀、パラジウム、イリジウム、白金、及び金等の金属粒子などを含むペーストを用いることができる。金属の特性及びイオン化傾向の観点から、銅、銀、白金、及び金であることが好ましく、金属の特性、イオン化傾向及びコスト低減の観点から、銀であることがより好ましい。また、金属ペーストに含まれる溶剤は、金属粒子を均一に分散させる機能を有し、例えば、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、脂肪族系溶剤、脂環族系溶剤、芳香族系溶剤、アルコール系溶剤、水等の1種または2種以上を混合したものなどが挙げられるがこれに限られない。
【0089】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、炭酸ジメチル等が挙げられる。ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンベンゼン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、イソホロン、シクロヘキサンノン等が挙げられる。グリコールエーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等、これらモノエーテル類の酢酸エステル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等や、これらモノエーテル類の酢酸エステル等である。
【0090】
脂肪族系溶剤としては、例えば、n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等が挙げられる。脂環族系溶剤としては、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。芳香族系溶剤としては、トルエン、キシレン、テトラリン等が挙げられる。アルコール系溶剤(上述のグリコールエーテル系溶剤を除く)としては、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。
【0091】
金属ペーストは、必要に応じて、分散剤、表面処理剤、耐摩擦向上剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、酸化防止剤、有機顔料、無機顔料、消泡剤、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、可塑剤、難燃剤、保湿剤、イオン捕捉剤等を含有することができる。
【0092】
各個別電極31は、概ね副走査方向Yに延伸する帯状をしており、それらは、互いに導通していない。そのため、各個別電極31には、サーマルプリントヘッドが組み込まれたプリンタが使用される際に、個別に、互いに異なる電位が付与されうる。各個別電極31の端部には、図示しない個別パッド部が接続されている。
【0093】
共通電極32は、サーマルプリントヘッドが組み込まれたプリンタが使用される際に複数の個別電極31に対して電気的に逆極性となる部位である。共通電極32は、櫛歯部32Aと、櫛歯部32Aを共通につなげる共通部32Bと、を有する。共通部32Bは基板15の上方側の縁に沿って主走査方向Xに形成される。なお、副走査方向Yにおいて、個別電極31からみて共通電極32がある方向を副走査方向Yの上方側とする。各櫛歯部32Aは、副走査方向Yに延伸する帯状をしている。各櫛歯部32Aの先端部は、各個別電極31の先端部に対して副走査方向Yに沿って所定間隔を隔てて対向させられている。このような構成にすることにより、発熱抵抗体40のピッチを狭くすることができるため、高精細な印字が可能となる。
【0094】
発熱抵抗体40は、個別電極31及び共通電極32と電気的に接続しており、個別電極31及び共通電極32からの電流が流れた部分が発熱する。具体的には、外部から駆動IC等に送信される印字信号に従って発熱用電圧が個別に印加される発熱抵抗体40(発熱抵抗部41)が、選択的に発熱させられる。発熱抵抗部41は、印字信号に従って個別に通電されることにより、選択的に発熱させられる。このように発熱することによって印字ドットが形成される。発熱抵抗体40は、個別電極31及び共通電極32を構成する材料よりも抵抗率が高い材料を用い、例えば、酸化ルテニウムなどを用いることができる。
【0095】
発熱抵抗体40は、抵抗体ペーストを焼成することによって形成することができる。本実施形態では、発熱抵抗体40の厚さ方向Zにおける寸法は、例えば、1~10μm程度である。
【0096】
発熱抵抗体40等は、保護膜34で覆われており、保護膜34は、発熱抵抗体40等を摩耗、腐食、酸化等から保護する。保護膜34は絶縁性の材料を用いることができ、例えば、非晶質ガラスからなる。保護膜34はガラスペーストを厚膜印刷した後、焼成することにより形成される。保護膜34の厚さ方向Zにおける寸法は、例えば、2~8μm程度である。この範囲の厚さであると、耐圧不良を抑制でき、かつ、良好な印字品質を維持することが可能なサーマルプリントヘッド100を得ることができるため好ましい。
【0097】
ここで、本実施形態のサーマルプリントヘッド100の製造方法について説明する。
【0098】
図22~
図24に示すように、まず、第1の実施形態で説明したように基板15と蓄熱層13を備える積層体10を用意し、蓄熱層13上に個別電極31及び共通電極32を形成する。個別電極31及び共通電極32は、上述の金属ペーストをスクリーン印刷等によって塗布し、その後焼成することで得られる。
【0099】
次に、
図25~
図27に示すように、発熱抵抗体40(発熱抵抗部41)となる抵抗体ペーストを形成する。抵抗体ペーストは、例えば、酸化ルテニウムを含む。次に、上述の抵抗体ペーストを焼成することにより、発熱抵抗体40(発熱抵抗部41)を形成する。
【0100】
次に、
図28~
図30に示したように、保護膜34を形成する。保護膜34は、例えば、非晶質ガラスからなる。保護膜34はガラスペーストを厚膜印刷した後、焼成することにより形成される。
【0101】
以上の工程により、本実施形態のサーマルプリントヘッド100を製造することができる。
【0102】
本実施形態によれば、うねり及び厚さのバラつきを抑制し、さらに、凹部の底面との密着性が良好な蓄熱層を含む積層体を備えることにより、良好な印字性能を確保したサーマルプリントヘッドを提供することができる。
【0103】
(その他の実施形態)
上述のように、一実施形態について記載したが、開示の一部をなす論述及び図面は例示的なものであり、限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替の実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。このように、本実施形態は、ここでは記載していない様々な実施形態等を含む。
【0104】
<サーマルプリンタ>
サーマルプリントヘッド(例えば、サーマルプリントヘッド100)は、さらに
図31に示すように、基板15(基板15上の蓄熱層13等は図示せず)、接続基板5、放熱部材8、駆動IC7と、複数のワイヤ81と、樹脂部82と、コネクタ59と、を備える。基板15及び接続基板5は、放熱部材8上に副走査方向Yに隣接させて搭載されている。基板15には、主走査方向Xに配列される複数の発熱抵抗部41が形成されている。当該発熱抵抗部41は、接続基板5上に搭載された駆動IC7により選択的に発熱するように駆動される。当該発熱抵抗部41は、コネクタ59を介して外部から送信される印字信号にしたがって、プラテンローラ91により発熱抵抗部41に押圧される感熱紙等の印刷媒体92に印字を行う。
【0105】
接続基板5は、例えば、プリント配線基板を用いることができる。接続基板5は、基材層と図示しない配線層とが積層された構造を有する。基材層は、例えば、ガラスエポキシ樹脂などを用いることができる。配線層は、例えば、銅、銀、パラジウム、イリジウム、白金、及び金等の金属などを用いることができる。
【0106】
放熱部材8は、基板15からの熱を放散させる機能を有する。放熱部材8には、基板15及び接続基板5が取り付けられている。放熱部材8は、例えば、アルミニウムなどの金属を用いることができる。
【0107】
ワイヤ81は、例えば、金などの導体を用いることができる。ワイヤ81は複数あり、その一部はボンディングにより、駆動IC7と各個別電極とが導通している。また、他のワイヤ81のうちの一部はボンディングにより、接続基板5における配線層を介して、駆動IC7とコネクタ59とが導通している。
【0108】
樹脂部82は、例えば、黒色の樹脂を用いることができる。樹脂部82としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などを使用することができる。樹脂部82は、駆動IC7及び複数のワイヤ81等を覆っており、駆動IC7及び複数のワイヤ81を保護している。コネクタ59は、接続基板5に固定されている。コネクタ59には、サーマルプリントヘッドの外部からサーマルプリントヘッドへ電力を供給し、及び、駆動IC7を制御するための配線が接続される。
【0109】
サーマルプリンタは、上述のサーマルプリントヘッドを備えることができる。サーマルプリンタは、副走査方向Yに沿って搬送される印刷媒体に印刷を施す。通常、印刷媒体は、コネクタ59側から発熱抵抗部41側に向かって搬送される。印刷媒体としては、例えば、バーコードシートやレシートを作成するための感熱紙等が挙げられる。
【0110】
サーマルプリンタは、例えば、サーマルプリントヘッド100と、プラテンローラ91と、主電源回路と、計測用回路と、制御部と、を備える。プラテンローラ91は、サーマルプリントヘッド100に正対している。
【0111】
主電源回路は、サーマルプリントヘッド100における複数の発熱抵抗部41に電力を供給する。計測用回路は、複数の発熱抵抗部41の各々の抵抗値を計測する。計測用回路は、例えば、印刷媒体への印字を行わない時に、複数の発熱抵抗部41の各々の抵抗値を計測する。これにより、発熱抵抗部41の寿命や故障した発熱抵抗部41の有無が確認されうる。制御部は、主電源回路及び計測用回路の駆動状態を制御する。制御部は、複数の発熱抵抗部41の各々の通電状態を制御する。計測用回路は省略される場合がある。
【0112】
コネクタ59は、サーマルプリントヘッド100外の装置と通信するために用いられる。コネクタ59を介して、サーマルプリントヘッド100は、主電源回路及び計測用回路に電気的に接続している。コネクタ59を介して、サーマルプリントヘッド100は、制御部に電気的に接続している。
【0113】
駆動IC7は、コネクタ59を介して、制御部から信号を受ける。駆動IC7は制御部から受けた当該信号に基づき、複数の発熱抵抗部41の各々の通電状態を制御する。具体的には、駆動IC7は、複数の個別電極を選択的に通電させることにより、複数の発熱抵抗部41のいずれかを任意に発熱させる。
【0114】
また、サーマルプリントヘッドは、上述の構成に限られず、例えば、接続基板5を設けずに駆動IC7を直接基板15に搭載させる構成であってもよいし、フリップチップ実装によりワイヤ81を設けない構成であってもよいし、放熱部材8を設けない構成であってもよい。
【0115】
次に、サーマルプリンタの使用方法について説明する。
【0116】
印刷媒体への印刷時には、コネクタ59に、主電源回路から、入力信号である電位V1として電位v11が付与される。この場合、複数の発熱抵抗部41が選択的に通電し、発熱する。当該熱を印刷媒体に伝えることにより、印刷媒体への印刷がなされる。上述のとおり、コネクタ59に、主電源回路から、電位V1として電位v11が付与されている場合、複数の発熱抵抗部41の各々への通電経路が確保されている。
【0117】
印刷媒体への印字を行わない時には、各発熱抵抗部41の抵抗値を計測する。当該計測時には、主電源回路からコネクタ59に電位は付与されない。各発熱抵抗部41の抵抗値の計測時には、コネクタ59に、計測用回路から、電位V1として電位v12が付与される。この場合、複数の発熱抵抗部41が順番に(例えば、主走査方向Xの端に位置する発熱抵抗部41から順番に)通電する。発熱抵抗部41に流れる電流の値および電位v12に基づき、計測用回路は、各発熱抵抗部41の抵抗値を計測する。上述のとおり、コネクタ59に、主電源回路から、電位V1として電位v11が付与されている場合、複数の発熱抵抗部41の各々への通電経路が実質的に遮断される。これにより、計測用回路によって、より正確に各発熱抵抗部41の抵抗値を計測でき、発熱抵抗部41の寿命や故障した発熱抵抗部41の有無が確認されうる。
【0118】
上記によれば、良好な印字性能を確保したサーマルプリンタを得ることができる。
【符号の説明】
【0119】
5 接続基板
7 駆動IC
8 放熱部材
10、20、30 積層体
13、23、33 蓄熱層
13A、23A、33A 端部
15、25、35 基板
15a、25a、35a 凹部
15A、25A、35A 主面
15B、25B、35B 側面
15C、25C、35C 角部
15D、25D、35D 底面
31 個別電極
32 共通電極
32A 櫛歯部
32B 共通部
34 保護膜
40 発熱抵抗体
41 発熱抵抗部
59 コネクタ
81 ワイヤ
82 樹脂部
91 プラテンローラ
92 印刷媒体
100 サーマルプリントヘッド