(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076924
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】エッジコンピューティング装置
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230529BHJP
【FI】
G05B23/02 302S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189958
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】511238158
【氏名又は名称】日立三菱水力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】茗荷谷 佑輝
(72)【発明者】
【氏名】施 昊
(72)【発明者】
【氏名】中原 雅博
(72)【発明者】
【氏名】大和田 博人
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223FF17
3C223FF22
3C223FF35
3C223FF52
3C223GG03
(57)【要約】
【課題】予兆診断アルゴリズムをプラント現場のプラント制御装置内で実行させるエッジコンピューティング化によって、物理的な装置の追設を行う事無く、必要最小限の構成とする事によって機能改善を行うものである。
【解決手段】モジュールとして、プラントの運転データを取り込む為の入力モジュールと、演算処理を行うCPUモジュールと、これらの各モジュールに電源を共有する為の電源モジュールを備え、これらのモジュールがモジュール間を信号伝送させるための接続ラインと電源供給ラインを備えるバックボードに実装されているとともに、CPUモジュールは、プラントに制御信号を与えるためのプラント制御アルゴリズムとプラントの構成機器の診断を行う予兆診断アルゴリズムを実行することを特徴とするエッジコンピューティング装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モジュールとして、プラントの運転データを取り込む為の入力モジュールと、演算処理を行うCPUモジュールと、これらの各モジュールに電源を共有する為の電源モジュールを備え、これらのモジュールがモジュール間を信号伝送させるための接続ラインと電源供給ラインを備えるバックボードに実装されているとともに、
前記CPUモジュールは、前記プラントに制御信号を与えるためのプラント制御アルゴリズムと前記プラントの構成機器の診断を行う予兆診断アルゴリズムを実行することを特徴とするエッジコンピューティング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエッジコンピューティング装置であって、
前記CPUモジュールは、制御プログラム領域においてプラント制御アルゴリズムを実行し、予兆診断プログラム領域において予兆診断アルゴリズムを実行するとともに、プラント制御プログラム領域と予兆診断プログラム領域におけるデータは共有メモリにより共有されていることを特徴とするエッジコンピューティング装置。
【請求項3】
請求項1に記載のエッジコンピューティング装置であって、
前記CPUモジュールは、1つのプログラム領域においてプラント制御アルゴリズムと予兆診断アルゴリズムを実行するとともに、プラント制御アルゴリズムと予兆診断アルゴリズムにおけるデータは直接受け渡しがされ、あるいはメモリにより共有されていることを特徴とするエッジコンピューティング装置。
【請求項4】
請求項1に記載のエッジコンピューティング装置であって、
前記CPUモジュールは、制御プログラム領域においてプラント制御アルゴリズムを実行する制御CPUモジュールと、予兆診断プログラム領域において予兆診断アルゴリズムを実行する診断CPUモジュールにより構成され、
制御CPUモジュール内に設けられた制御共有メモリと診断CPUモジュール内に設けられた診断共有メモリを介して、プラント制御プログラム領域と予兆診断プログラム領域におけるデータが共有されていることを特徴とするエッジコンピューティング装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のエッジコンピューティング装置であって、
前記モジュールとして、プラント制御アルゴリズムが定めた制御指令を前記プラントに与える出力モジュールを備えることを特徴とするエッジコンピューティング装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のエッジコンピューティング装置であって、
前記モジュールとして、予兆診断アルゴリズムの判定結果を記憶する記憶媒体モジュールを備えることを特徴とするエッジコンピューティング装置。
【請求項7】
請求項6に記載のエッジコンピューティング装置であって、
前記モジュールとして、前記記憶媒体モジュールに格納されたデータを処理する為のサブCPUモジュールを備えることを特徴とするエッジコンピューティング装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のエッジコンピューティング装置であって、
前記予兆診断アルゴリズムは、適応共鳴理論ARTによる診断を行うための診断モデルを使用して前記プラントの構成機器の診断を行うとともに、前記診断モデルで使用する診断パラメータは、メモリに変数として登録されているものを使用することを特徴とするエッジコンピューティング装置。
【請求項9】
請求項8に記載のエッジコンピューティング装置であって、
前記予兆診断アルゴリズムによる診断結果を表示するとともに、前期診断モデルにおける学習データを選定し、診断モデルを構築し、予兆診断パラメータを設定する情報表示端末を備え、
前記情報表示端末から設定された診断パラメータを変数として前記メモリに登録することを特徴とするエッジコンピューティング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント向けのエッジコンピューティング装置に係り、特にAI導入による高度予防保全技術を備えるエッジコンピューティング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のプラントでは、常に安全かつ安定的に運転を継続させる事が求められている。このためには、トラブル発生時の事後対策として、原因究明時間や復旧時間を短縮させることが、非常に重要な課題である。また他方においては、トラブル発生の可能性を予兆的に検知することが重要であり、人が気付かないような異常となる兆候を早期検知する事によって、適切なタイミングで設備保全を実施し、補修頻度や規模の低減を図り計画外停止のリスクを最小化させる事が望まれている。
【0003】
この多様なニーズに応える為には人的作業の負担軽減が必要であり、運用・保守の効率化のためにデジタル技術を活用し、これらの課題を解決して行く事が求められる。
【0004】
このデジタル技術に関して、特許文献1ではAIを活用してプラントの運転状態を自動的に分類・解析する事で、故障の前兆である状態変化や異常発生をクラスタリングによる診断で早期に判定を行うプラント異常診断システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プラントの異常を予兆的に診断することに関連して、特許文献1に記載された手法はAI導入による診断で早期判定を可能とするものであり、今後の一つの方向性を示すものではある。
【0007】
然るに例えば、システム構成例について着目してみると、特許文献1のシステムは、予兆診断を実行するアルゴリズムがプラント制御装置とは物理的に切り離されたプラント異常診断装置内で実行する構成となっており、装置を別置きにする必要があった。
【0008】
このシステム構成に関し、予兆診断を行うべき各種プラントの中には、作業員などが常駐するプラントばかりではなく、典型的な例としては水力発電所などのように作業員などが常駐しないものもある。特許文献1のシステムは、作業員が常駐しない場合の予兆診断の実行に関して十分に考慮されたものとは言えない。またAI導入による診断を行うにあたり、極力人手に頼らない手法とすることについて十分に考慮されたものとは言えない。
【0009】
以上のことから本発明においては、予兆診断アルゴリズムをプラント現場のプラント制御装置内で実行させるエッジコンピューティング化によって、物理的な装置の追設を行う事無く、必要最小限の構成とする事によって機能改善を行うものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のことから本発明においては、「モジュールとして、プラントの運転データを取り込む為の入力モジュールと、演算処理を行うCPUモジュールと、これらの各モジュールに電源を共有する為の電源モジュールを備え、これらのモジュールがモジュール間を信号伝送させるための接続ラインと電源供給ラインを備えるバックボードに実装されているとともに、CPUモジュールは、プラントに制御信号を与えるためのプラント制御アルゴリズムとプラントの構成機器の診断を行う予兆診断アルゴリズムを実行することを特徴とするエッジコンピューティング装置」のように構成したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、従来の予兆診断機能を維持しつつ、エッジコンピューティング化させる事によって外部装置との通信インターフェースを省略させる事が可能となる為、通信インターフェースの新規開発が不要となるばかりか、不用意な外部伝送を無くす事により、情報漏洩等のセキュリティ性の改善を得る事が見込まれる。上記した以外の課題、手段及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1に係る予兆診断システムの全体構成例を示す機能ブロック図。
【
図2】本発明によるエッジコンピューティング装置の時の診断手法を示す図。
【
図3】一般的なエッジコンピューティング装置の時の診断手法を示す図。
【
図4】本発明の実施例2に係る予兆診断システムの全体構成例を示す機能ブロック図。
【
図5】本発明の実施例3に係る予兆診断システムの全体構成例を示す機能ブロック図。
【
図6】本発明の実施例4に係る予兆診断システムの全体構成例を示す機能ブロック図。
【
図7】本発明の実施例5に係る予兆診断システムの全体構成例を示す機能ブロック図。
【
図8】予兆診断による判定結果出力を使ったプラント制御の概念を示す図。
【
図9】本発明の実施例6に係る予兆診断システムの全体構成例を示す機能ブロック図。
【
図10】本発明の実施例7に係る予兆診断システムの全体構成例を示す機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について、図面を用いて詳細に説明する。
【実施例0014】
図1は、本発明の実施例1に係る予兆診断システムの全体概略構成例を示す機能ブロック図である。
【0015】
図1の予兆診断システム100は、プラント190の例えば現場に設置された盤(例えば現場盤)内に構成されるものであり、盤内にエッジコンピューティング装置100を形成している。
【0016】
図1に示した実施例1の予兆診断システム100の盤では、盤裏面側にバックボード110を配置する。バックボード110は各モジュールを実装すると共に、各モジュール間を伝送させるためのBUS接続ライン112と電源供給ライン111の機能を持っている。また盤は、扉表面側からプラント190の予兆診断を実行する為のCPUモジュール130、プラント190の運転データを取り込む為の入力モジュール140、これらの各モジュールに電源を共有する為の電源モジュール120をバックボード110に装着して構成されている。また、予兆診断結果及びプラント運転情報を表示する為の情報表示端末180を含んで構成されている。なお情報表示端末180は、盤の例えば表面側に取り付けられていても、あるいは近傍に配置されるものであっても、あるいは作業員が携帯するものであっても、さらには通信を介してプラント外部に設置されるものであってもよい。
【0017】
このうち入力モジュール140は、予兆診断対象であるプラント190の運転状態を取り込む装置であって、アナログ入力、パルス入力、デジタル入力あるいは通信による伝送によってプラント190の運転データを取込む運転データ取込部141を有する機能を備える。
【0018】
CPUモジュール130は、プラント制御を行う制御プログラム領域132と予兆診断を行う診断プログラム領域131がそれぞれ独立した構成を基本としている。
【0019】
制御プログラム領域132内には、バックボード110のBUS接続ライン112を介して取り込まれる運転データ取得部135を設け、収集したデータ群を、共有メモリ136を介して診断プログラム領域131内にある予兆診断分析部137へ橋渡しする機能を備える。
【0020】
診断プログラム領域131には、予兆診断対象を複数個設定できる診断モデル設定部133と、詳細な診断パラメータを設定できる診断グループ設定部134の機能を備える。予兆診断した結果は、予兆診断分析137部から共有メモリ136に再格納され、制御プログラム領域132内に設けられた判定結果出力部138を介して情報表示端末180に出力する機能を備える。
【0021】
情報表示端末180は、ユーザ(作業員)がプラント190の状態を確認する際に用いられる。また、情報表示端末180は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、又は有機ELディスプレイ等の表示装置であって、固定型又はタブレット端末のような可搬型かは問わず、CPUモジュール130によって診断された結果、或いはCPUモジュール130のユーザの為の対話的な処理を行う為の画面表示を行う。尚、情報表示端末180は、CPUモジュール130と直接的に接続されている必要は無く、例えば、別置きされた通信モジュールを介して接続する構成としても良い。
【0022】
このように実施例1に例示する予兆診断システム100は、プラント制御アルゴリズム(制御プログラム領域132)と予兆診断アルゴリズム(診断プログラム領域131)を同一の制御装置100内で実行することによるエッジコンピューティング装置としたものである。この場合に、プラント制御アルゴリズムと予兆診断アルゴリズムは、単に同一の制御装置100内で実行されるだけではなく、1つのCPUを用いて例えば時分割処理により実行される場合が多い。あるいはCPU自体はプラント制御アルゴリズムと予兆診断アルゴリズムで個別に設けられるにしても、互いに強く関連付けて処理実行するようにされている。
【0023】
係る構成により実現されるエッジコンピューティング装置としての予兆診断装置は、プラント制御アルゴリズム(制御プログラム領域132)によりプラントを運転し、かつ予兆診断アルゴリズム(診断プログラム領域131)によるプラント構成機器の予兆診断を同一装置内で実行している。
【0024】
例えばプラント190が水力発電所である場合には、入力モジュール140内の運転データ取り込み部141、制御プログラム領域132内の運転データ取り込み部135を介して水力発電所内の各所からセンサで検知した物理量を入手する。これらの物理量はダムの水位、流れ込み流量、水量調節弁の開度、発電量、電流、電圧などであり、プラント制御アルゴリズム(制御プログラム領域132)では、これらを用いて当該水力発電所に指令された発電指令を充足すべく、各部の制御機器に対して制御出力を与えている。なお
図1では、制御プログラム領域132における上記の処理内容やその流れが、必ずしも明確ではないが、図示の都合上省略をしている。
【0025】
ここで、一般的な現場における盤は、プラント制御アルゴリズム(制御プログラム領域132)のみを搭載し、予兆診断アルゴリズム(診断プログラム領域131)を搭載してはいないので、通常この現場盤はコントローラと称されることが多い。逆に言えば、本発明は予兆診断アルゴリズム(診断プログラム領域131)の機能を併せ持つようにされたコントローラということができる。
【0026】
図1では、むしろ予兆診断アルゴリズム(診断プログラム領域131)側の処理の流れを主体的に示している。
図1の予兆診断アルゴリズムでは、予兆診断分析部137における診断手法として、例えばプラント予兆診断技術の一種である適応共鳴理論ART(Adaptive Resonance Theory)を適用する。
【0027】
そのため、予兆診断分析部137には予兆診断モデルが構成されている。予兆診断モデルは、水力発電所内の各所機器に関するものであり、例えば水車発電機の回転軸の摩耗、水車羽根の損耗などを診断する複数のモデルが診断モデル設定部133により設定され、また診断すべきグループが診断グループ設定部により設定される。かかる設定情報に基づいて予兆診断分析部137は、制御プログラム領域132内の運転データ取り込み部135から、共有メモリ136を介して取り込んだ各種物理量に対して予兆診断モデルによる診断を実行し、この診断結果を共有メモリ136に確保するとともに、判定結果出力部138を介して情報表示端末に送信する。
【0028】
次に、従来におけるシステム構成、診断手法と、本発明によるエッジコンピューティング装置の時の診断手法について
図2と
図3により比較説明する。
【0029】
図2は、係る診断手法における望ましい実現手法を示すものであり、これを用いて本発明に係る診断手法を説明する。但し、この説明では従来における取り扱いを示す
図3と対比して行うものとする。
【0030】
図2と
図3において予兆診断システムは、制御プログラム領域132と共有メモリ136と診断プログラム領域131を備えており、診断プログラム領域131において、診断を実行するものとする。但し、診断を行うためには、センサで検知した物理量である運転データを取り込み、また予め予兆診断分析部137にモデルを形成しておく必要がある。
【0031】
このうちセンサで検知した物理量である運転データを取り込むことに関しては、、
図2と
図3のいずれの場合にも、診断に使用する運転データは、制御プログラム領域132における運転データ取得部135、共有メモリ136における運転データ格納処理S0、診断プログラム領域131における監視対象信号抽出処理S1を通じて、予兆診断分析部137における診断対象データとして利用される。
【0032】
ここまでの流れは、
図2と
図3において同じであり、適応共鳴理論ARTによる診断の結果(運転データは正常カテゴリに分類S3、あるいは運転データは異常カテゴリに分類S4)は、共有メモリ136に確保S17するとともに、判定結果出力部138において主記憶装置210(
図1での記述を省略)、共有メモリ136などに格納S5、S6したのちに、情報表示端末180に表示される。
【0033】
これに対し、予兆診断分析部137にモデル形成する考え方について、
図2と
図3では大きく相違する。まず従来の考え方を採用する
図3では、保守用パソコン200を作業員がプラント現場に持ち込み、この中で学習データ選定処理S11、診断モデル構築S12、予兆診断パラメータ設定(複数のモデルごとにパラメータを固定で設定)S13、作成された診断モデルの主記憶装置190へのローディング処理S14を実行する。その後、主記憶装置190から診断プログラム領域131への診断モデル格納処理S15を実行するが、このときには格納の前提として診断プログラム領域131内のモデルの初期化処理S17が必要である。
【0034】
図2に示す本発明における処理では、保守用パソコン200に代えて情報表示端末200が使用され、ここから学習データ選定処理S11、診断モデル構築S12、予兆診断パラメータ設定S13を行う。ここまでの処理は、
図2と
図3は基本的に同じであるが、使用するのが保守用パソコン200か、情報表示端末200であるかという点のみが相違する。なお、
図1では明記していないが、情報表示端末200は双方向通信が可能である。また本発明の
図2の予兆診断パラメータ設定S13は、複数のモデルごとにパラメータを固定で設定するものではない。
【0035】
続いて
図2の制御プログラム領域132では、診断データ取得処理S16を行い、共有メモリ136に診断モデルとして格納し、診断プログラム領域131におけるモデルとして予兆診断分析部137での処理に提供する。また主記憶装置210に診断モデルを格納する。
【0036】
以上の構成上の相違により、
図2と
図3では、以下の処理上の利便を生じる。まずモデルの設定に関して、モデルは例えばY=AX
2+BX+Cのような関数について計算機内で演算処理を実施する。この時、Y、Xが運転データであり、物理量Yと物理量Xの間の相関が、係数A、B、Cにより定義可能であり、診断モデルとしては係数A、B、Cを予め設定しておく必要があり、
図3の例ではこれを固定値として保守用パソコン200の予兆診断パラメータ設定(複数のモデルごとにパラメータを固定で設定)S13から書き込んでいる。
【0037】
この演算を実施する為には、予め係数A、B、Cの値を設定しておかなければ演算を行う事は出来ず、演算途中で値を変更しようとすると、途中で演算が停止したり、演算結果が発散したり、挙動がおかしくなる。
【0038】
その為、診断対象を変更するなどの理由により、診断対象のモデルを別のモデルに変更するときには、固定値である係数A、B、Cの値を変更する必要があり、この場合は、一度計算機を停止して演算を最初からやり直す事が必要になる。この計算機の停止と演算のやり直し処理の事をここでは初期化処理(
図3のS7)と呼んでいる。
【0039】
このような
図3の従来手法による欠点は、パラメータ変更(係数A、B、Cの値の変更)を行う為には必ず計算機を停止して、初期化処理をする必要があることである。因みに、盤100とは独立して配置される従来の予兆診断システムの場合、診断は盤とは別のパソコン内で処理していた為、自身のパソコンが初期化処理しても特に問題となる事はない。
【0040】
しかしながら、
図1のようにプラント制御アルゴリズム(制御プログラム領域132)によりプラントを運転し、かつ予兆診断アルゴリズム(診断プログラム領域131)によるプラント構成機器の予兆診断を同一装置内で実行している本発明の構成の盤(制御コントローラ)では、予兆診断アルゴリズム(診断プログラム領域131)側の事情(モデル変更のためのパラメータ変更による計算機停止)により、プラント制御アルゴリズム(制御プログラム領域132)側を停止させる事は出来ない。計算機を停止すると他の制御に影響を与えてしまうことになる。
【0041】
具体的な影響例を述べると、本発明の使い方にもよるが、発電所の運転制御を同じ計算機内に実装している場合、安易に計算機を停止させてしまうと、発電制御も強制停止してしまうことになる。
【0042】
この点に関し、
図2の本発明方式では、改善がなされている。計算機内の予兆診断モデルでは、
図3と同じ数式を実行しているが、この場合に係数A、B、Cは変数として処理されている。この計算式を実行する為の係数A、B、Cには具体的な数字が入っている訳ではなく、指定された共有メモリ内のアドレスを使って(参照して)計算している。例えば係数Aの値は、共有メモリ内のアドレスxxxxを使うと言う具合である。
【0043】
ここで重要な役割を果たしているのが共有メモリ136の機能である。共有メモリ136は、制御プログラム領域131と診断プログラム領域132間でデータをやりとりする為に用いられるものであり、頻繁なデータの書き換えが許容されている。この機能を活用する事によって情報表示端末180で係数A、B、Cを指定し、共有メモ136リ内のアドレスに値を格納する事によって、変数として扱う事が出来るようになり、計算機を初期化する事なく、パラメータ変更を実現することができる。
【0044】
以上詳細に説明した本発明によって、従来の予兆診断機能を維持しつつ、エッジコンピューティング化させる事によって外部装置との通信インターフェースを省略させる事が可能となる為、通信インターフェースの新規開発が不要となるばかりか、不用意な外部伝送を無くす事により、情報漏洩等のセキュリティ性の改善を得る事が見込まれる。上記した以外の課題、手段及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【0045】
なお
図1において使用される盤は、裏面側にバックボード110を配置し、表面の扉側から各種のモジュールを装着する形で構成されている。本発明は、使用されるモジュールの組み合わせが相違する場合であっても適用が可能であり、このことについて以下の実施例2から実施例7により各種のモジュールの組み合わせについて説明する。
また、同一のプログラム領域211であると言う利点を生かして、データを一時保管しておく手段を共有メモリではなく、通常のメモリ212としている事を特徴も併せ持つ。この例では共有メモリ136を使用していないが、予兆診断機能と制御機能のプログラムが同一計算機上に一体に構成されることになるので、実施例1のようにパラメータを変数として取り扱うことが可能になる。