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特開2023-76944麺軟化物の製造方法、及び穀粉由来食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076944
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】麺軟化物の製造方法、及び穀粉由来食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20230529BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20230529BHJP
【FI】
A23L5/00 J
A23L7/109 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189992
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】500506161
【氏名又は名称】株式会社トリドールホールディングス
(71)【出願人】
【識別番号】519250992
【氏名又は名称】株式会社FDJ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 泰
(72)【発明者】
【氏名】大和 敏彦
【テーマコード(参考)】
4B035
4B046
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LG21
4B035LG51
4B035LP21
4B035LP41
4B046LA01
4B046LB01
4B046LC20
4B046LG26
4B046LG46
4B046LP01
(57)【要約】
【課題】所定の保存期間を過ぎた麺生地、生めん類を、新たな付加価値を有した形態で再利用可能な麺軟化物の製造方法、及び穀粉由来食品の製造方法を提供する。
【解決手段】穀粉を含む麺生地、及び麺生地を成形した生めん類の少なくとも1つである穀粉含有麺を含む麺軟化物の製造方法であって、穀粉含有麺と、水、及び、酵素としてアミラーゼ及びプロテアーゼのうち少なくとも一方を含む酵素液と、を接触させる混合工程を含み、酵素液の質量は、穀粉含有麺の質量よりも小さい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉を含む麺生地、及び前記麺生地を成形した生めん類の少なくとも1つである穀粉含有麺を含む麺軟化物の製造方法であって、
前記穀粉含有麺と、水及び酵素を含む酵素液と、を接触させる混合工程を含み、
前記酵素は、アミラーゼ及びプロテアーゼのうち少なくとも一方であり、
前記酵素液の質量は、前記穀粉含有麺の質量よりも小さい
麺軟化物の製造方法。
【請求項2】
前記穀粉含有麺と前記酵素とを反応させた後に、前記穀粉含有麺を破砕する破砕工程を含む
請求項1に記載の麺軟化物の製造方法。
【請求項3】
前記酵素液は、前記穀粉含有麺に対して質量比で5%以上25%以下である
請求項1または2に記載の麺軟化物の製造方法。
【請求項4】
前記酵素液は、前記酵素としてアミラーゼ及びプロテアーゼを含む
請求項1ないし3のうち何れか一項に記載の麺軟化物の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程は、前記穀粉含有麺と、水及びプロテアーゼを含む第1酵素液と、を接触させる第1混合工程であって、
前記麺軟化物の製造方法は、前記第1混合工程の後に、前記穀粉含有麺と、水及びアミラーゼを含む第2酵素液と、を接触させる第2混合工程をさらに含み、
前記第1酵素液と、前記第2酵素液と、の質量の和が、前記穀粉含有麺の質量よりも小さい
請求項1に記載の麺軟化物の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のうち何れか一項に記載の製造方法で製造された麺軟化物を原材料に含む
穀粉由来食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀粉を含む麺生地及び生めん類の少なくとも1つを含む麺軟化物の製造方法、及び当該麺軟化物を含む穀粉由来食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品産業において、食料資源を有効利用して環境負荷を低減することが大きな社会的課題となっている。食品産業において、麺類は、内食及び外食を問わず広く親しまれている。麺類の製造現場及び麺類を提供する外食店においても、麺類を有効利用して環境負荷を低減することが望まれている。麺類を有効利用する方法の一例として、乾燥即席麺類、及びその麺屑等を酵素処理することで得られる油分、水溶性物質、水不溶性物質を回収することで、麺類を再利用する方法がある(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1では、回収された水溶性物質は、麺類の混捏剤又は調味料、調味料基剤として利用され、また、回収された水不溶性物質は、飼料又は肥料に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-262801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、外食店で保存される多くの麺類は、上記した乾燥即席麺類ではなく、(a)麺生地、もしくは(b)生めん類である。生めん類は、麺生地を成形したもの、さらには、これに「ゆで」、「むし」、「半なま」、「冷凍」などの加工を施したものを含む。(a)麺生地、及び(b)生めん類は、乾燥即席麺類と比較して、多くの水分を含み、また、少ない油分を含む。特許文献1に記載されるような、乾燥即席麺類に特化した再利用技術を、水分量も油分量も乾燥即席麺類とは異なる麺類にそのまま適用することは難しい。加えて、(a)麺生地、及び(b)生めん類では、経時変化による食感の劣化が進みやすく、また衛生管理が煩雑であることから、乾燥即席麺類と比較して長期間の保存が難しい。そのため、(a)麺生地、及び(b)生めん類を扱う製造現場や外食店では、所定の保存期間を過ぎた麺類を、新たな付加価値を有した形態で再利用することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための麺軟化物の製造方法は、穀粉を含む麺生地、及び前記麺生地を成形した生めん類の少なくとも1つである穀粉含有麺を含む麺軟化物の製造方法であって、前記穀粉含有麺と、水及び酵素を含む酵素液と、を接触させる混合工程を含み、前記酵素は、アミラーゼ及びプロテアーゼのうち少なくとも一方であり、前記酵素液の質量は、前記穀粉含有麺の質量よりも小さい。
【0006】
上記製造方法によれば、穀粉含有麺と、水及び酵素を含む酵素液と、を接触させるという簡便な工程によって、穀粉含有麺を軟化させることができる。上記製造方法を用いて穀粉含有麺を麺軟化物に加工することで、例えば、所定の保存期間を超えた穀粉含有麺を、新たな食品の原材料という形態で再利用できる。また、酵素液の質量が穀粉含有麺の質量よりも小さいことで、酵素液の質量が穀粉含有麺の質量以上の場合と比較して、麺軟化物に含まれる水分量が少なくなる。換言すると、麺軟化物中の穀粉含有麺由来の成分の濃度を高めることができる。したがって、上記製造方法で製造された麺軟化物であれば、多くの水分量を必要としない食品の原材料としても用いることができる。また、麺軟化物中の穀粉含有麺由来の成分の濃度を低める際には、麺軟化物に水を添加するだけでよい。すなわち、麺軟化物中の穀粉含有麺由来の成分の濃度を容易に調整できる。したがって、麺軟化物の用途を広げることができる。加えて、穀粉含有麺と酵素液との混合物の容積が小さくなり、重量も軽くなる。したがって、例えば、外食店のようなスペースが限られる場所で麺軟化物の製造方法を実施する際に、穀粉含有麺と酵素液との混合物を保管するために要する空間が削減される。また、穀粉含有麺と酵素液との混合物を移動させるような作業の負荷が軽減される。
【0007】
上記麺軟化物の製造方法において、前記穀粉含有麺と前記酵素とを反応させた後に、前記穀粉含有麺を破砕する破砕工程を含んでもよい。上記製造方法によれば、混合工程の後に穀粉含有麺を破砕する工程を含むことで、麺軟化物中に穀粉含有麺の塊が残らないように、麺軟化物中に含まれる穀粉含有麺の粒子を細かくできる。これにより、麺軟化物を新たな食品の原材料として用いる際に、他の原材料と混合しやすくすることができる。
【0008】
上記麺軟化物の製造方法において、前記酵素液は、前記穀粉含有麺に対して質量比で5%以上25%以下であってもよい。上記製造方法によれば、穀粉含有麺と酵素液との混合物の容積をより小さくすることができ、また、穀粉含有麺と酵素液との混合物の重量をより軽くすることができる。
【0009】
上記麺軟化物の製造方法において、前記酵素液は、前記酵素としてアミラーゼ及びプロテアーゼを含んでもよい。上記製造方法によれば、穀粉含有麺に含まれるたんぱく質をプロテアーゼによって分解でき、かつ、穀粉含有麺に含まれる炭水化物をアミラーゼによって分解できる。したがって、酵素液がアミラーゼ及びプロテアーゼのうちの一方のみを含む場合よりも、酵素による穀粉含有麺の軟化効果をより高めることができる。また、混合工程において、アミラーゼ及びプロテアーゼを含む酵素液を添加することで、アミラーゼと、プロテアーゼとを異なるタイミングで各別に添加する場合よりも製造工程を簡略化できる。
【0010】
上記麺軟化物の製造方法において、前記混合工程は、前記穀粉含有麺と、水及びプロテアーゼを含む第1酵素液と、を接触させる第1混合工程であって、前記麺軟化物の製造方法は、前記第1混合工程の後に、前記穀粉含有麺と、水及びアミラーゼを含む第2酵素液と、を接触させる第2混合工程をさらに含み、前記第1酵素液と、前記第2酵素液と、の質量の和が、前記穀粉含有麺の質量よりも小さくてもよい。上記製造方法によれば、第1混合工程において、穀粉含有麺に含まれるたんぱく質をプロテアーゼによって分解できる。その後、第2混合工程において、穀粉含有麺に含まれる炭水化物をアミラーゼによって分解できる。これにより、プロテアーゼとアミラーゼとを同時に添加する場合よりも酵素による穀粉含有麺の軟化効果をより高めることができる。
【0011】
上記課題を解決するための穀粉由来食品の製造方法は、上記何れかの製造方法で製造された麺軟化物を原材料に含む。上記製造方法によれば、例えば、所定の保存期間を超えた穀粉含有麺であっても、麺軟化物に加工することで、穀粉由来食品の原材料として、新たな付加価値を有した形態で再利用できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所定の保存期間を過ぎた麺生地、及び生めん類を、新たな付加価値を有した形態で再利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、第1実施形態における麺軟化物の製造工程を示す工程図である。
図2図2は、第1実施形態において、アミラーゼを含む酵素液を用いて作製した麺軟化物の外観を示す図である。
図3図3は、第1実施形態において、酵素液におけるアミラーゼの添加量、及び反応時間が及ぼす穀粉含有麺の軟化の度合いへの影響を評価した結果を示す図である。
図4図4は、第1実施形態において、アミラーゼを含む酵素液を用いて作製した麺軟化物の外観と、軟化度を評価した結果とを示す図である。
図5図5は、第1実施形態において、プロテアーゼを含む酵素液を用いて作製した麺軟化物の外観と、軟化度を評価した結果とを示す図である。
図6図6は、第1実施形態において、アミラーゼ及びプロテアーゼを含む酵素液を用いて作製した麺軟化物の外観と、軟化度を評価した結果とを示す図である。
図7図7は、第1実施形態において、麺軟化物を用いて製造した穀粉由来食品の一例であるドーナッツの外観及び断面を示す図である。
図8図8は、第2実施形態における麺軟化物の製造工程を示す工程図である。
図9図9は、第2実施形態において、プロテアーゼを含む第1酵素液と、アミラーゼを含む第2酵素液とを用いて作製した麺軟化物の外観と、軟化度を評価した結果とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
以下、麺軟化物の製造方法、及び麺軟化物を使用した穀粉由来食品の製造方法の第1実施形態について、図1図7を参照して説明する。
【0015】
[麺軟化物の製造方法]
麺軟化物の製造方法は、例えば、穀粉含有麺を扱う外食店、もしくは穀粉含有麺の製造現場において、所定の保存期間を過ぎた穀粉含有麺を、新たな食品の原材料として使用可能な麺軟化物に加工するものである。麺軟化物は、穀粉含有麺に酵素を作用させることで、穀粉含有麺を軟化させたものである。穀粉由来食品は、麺軟化物を原材料に含む食品である。穀粉由来食品は、例えば、麺軟化物に加工された穀粉含有麺と同種、もしくは、それとは異なる種類の麺類である。また、穀粉由来食品は、小麦、そば粉、米粉等の穀粉を使った食品であれば、例えば、天ぷらの衣、ドーナッツ、ホットケーキ、パン、クッキー、ケーキ等の麺類以外の食品であってもよい。
【0016】
[混合工程]
図1に示すように、第1実施形態における麺軟化物の製造方法は、ステップS1-1~S1-3の工程を含む。ステップS1-1は、穀粉含有麺と、水及び酵素を含む酵素液と、を混合して接触させる混合工程である。
【0017】
[穀粉含有麺]
穀粉含有麺は、穀粉を含む麺生地と、麺生地を切断、押出等によって成形した生めん類とのうち少なくとも1つである。生めん類は、麺生地を成形したもの、さらには、これに「ゆで」、「むし」、「半なま」などの加工を施したものを含む。麺の種類は、例えば、うどん、そば、中華麺、スパゲティー等が挙げられる。また、穀粉含有麺は、麺状の形態に限定されず、例えば、餃子の皮、シュウマイの皮等の麺皮類であってもよい。穀粉含有麺に含まれる穀粉は、例えば、小麦粉、米粉、そば粉からなる群から選択される少なくとも1つである。なお、ステップS1-1において、穀粉含有麺と酵素液との接触面積を増やすために、予め適度な大きさに切断した穀粉含有麺を用いてもよい。
【0018】
穀粉含有麺の一例であるうどんは、穀粉の一例である小麦粉を含む。小麦粉は、75%程度が炭水化物の一例である澱粉であり、さらに、7%以上13%以下程度のたんぱく質を含む。小麦粉を含む麺類において、小麦粉に含まれるたんぱく質であるグルテニンとグリアジンとからなるグルテンが多いほど、麺のコシが強くなる傾向がある。
【0019】
穀粉含有麺における水の含有率は、穀粉含有麺が麺生地、または、茹でる前の生めん類である場合、例えば、穀粉含有麺の質量に対して20質量%以上45質量%以下である。例えば、穀粉含有麺における水の含有率は、穀粉含有麺が茹でる前のうどんもしくはそばである場合、うどんもしくはそばの質量に対して32質量%以上34質量%以下程度である。例えば、穀粉含有麺における水の含有率は、穀粉含有麺が茹でる前の「半なま」タイプのうどんである場合、うどんの質量に対して24質量%程度である。穀粉含有麺における水の含有率は、穀粉含有麺が茹でた後の生めん類である場合、例えば、穀粉含有麺の質量に対して60質量%以上85質量%以下である。例えば、穀粉含有麺における水の含有率は、穀粉含有麺が茹でた後のうどんである場合、うどんの質量に対して75質量%程度であり、また、穀粉含有麺が茹でた後のそばである場合、そばの質量に対して68質量%程度である。なお、参考までに、乾燥即席麺や乾麺における水の含有率は、3質量%以上15.2質量%以下程度である。
【0020】
麺軟化物の製造方法において、穀粉含有麺は、例えば、穀粉含有麺の製造現場、もしくは穀粉含有麺を扱う外食店において、所定の保存期間を過ぎた穀粉含有麺が使用される。なお、穀粉含有麺は、保存期間を過ぎたものでなくてもよく、例えば、保存期間を過ぎる見込みの穀粉含有麺であってもよい。
【0021】
[酵素液]
酵素液は、粉末状の酵素を水に溶解させたもの、もしくは、溶液状の酵素を水で希釈したものである。酵素液に含まれる酵素は、アミラーゼ及びプロテアーゼのうち少なくとも何れか一方である。アミラーゼは、穀粉含有麺に含まれる炭水化物を分解する。プロテアーゼは、穀粉含有麺に含まれるたんぱく質を分解する。
【0022】
アミラーゼは、食品に添加可能なものであれば特に限定されず、例えば、市販のアミラーゼ製剤を使用できる。アミラーゼは、α-アミラーゼ、β-アミラーゼなどが使用できるが、α-アミラーゼがより好ましい。α-アミラーゼは、例えば、「Fungamyl 800L」(登録商標、ノボザイムズ社製)、「BAN 480L」(ノボザイムズ社製)、「クライスターゼ」シリーズ(登録商標、天野エンザイム株式会社製)、「ビオザイムA」(登録商標、天野エンザイム株式会社製)、「スピターゼ」シリーズ(登録商標、ナガセケムテックス株式会社製)等を挙げることができる。
【0023】
プロテアーゼは、食品に添加可能なものであれば特に限定されず、例えば、市販のプロテアーゼ製剤を使用できる。プロテアーゼは、例えば、中性プロテアーゼもしくはアルカリプロテアーゼが使用される。例えば、穀粉含有麺としてうどんを用いる場合は、プロテアーゼとして中性プロテアーゼを用いることが好ましい。中性プロテアーゼは、例えば、「Neutrase 1.5MG」(ノボザイムズ社製)、「Alcalase 2.4L FG」(登録商標、ノボザイムズ社製)、「プロテアーゼA」、「プロテアーゼM」、「プロテアーゼP」、「プロチンSD-NY10」(何れも天野エンザイム株式会社製)等を挙げることができる。また、例えば、中華麺に含まれるかん水のように、穀粉含有麺がアルカリ性の成分を有する場合には、プロテアーゼとしてアルカリプロテアーゼを用いることができる。
【0024】
酵素液の質量、すなわち、酵素液における水及び酵素の質量の和は、穀粉含有麺が乾燥即席麺のような乾麺と比較して水分を多く含むことから、穀粉含有麺の質量よりも小さくなるように設定される。例えば、酵素液に含まれる水の質量が大きくなると、麺軟化物中の穀粉含有麺由来の成分の濃度が低下する。麺軟化物中の穀粉含有麺由来の成分の濃度が過剰に低い場合では、麺軟化物の用途が、液体調味料の基剤のような相対的に多くの水分量を含む食品の原材料に限定される。もしくは、麺軟化物に含まれる穀粉含有麺由来の成分の濃度を高めるために、麺軟化物に含まれる穀粉含有麺由来の成分を濃縮する処理が必要となる。
【0025】
この点、酵素液の質量が穀粉含有麺の質量よりも小さいことで、酵素液の質量が穀粉含有麺の質量以上の場合と比較して、麺軟化物中の穀粉含有麺由来の成分の濃度を高めることができる。また、麺軟化物中の穀粉含有麺由来の成分の濃度を低める際には、麺軟化物に水を添加するだけでよい。すなわち、麺軟化物中の穀粉含有麺由来の成分の濃度を容易に調整できる。そのため、麺軟化物は、例えば、ドーナツやホットケーキのような相対的に多くの水分量を必要としない食品の原材料、及び、液体調味料の基剤のような相対的に多くの水分量を含む食品の原材料の両方として用いることができる。したがって、麺軟化物の用途を広げることができる。
【0026】
加えて、酵素液の質量が穀粉含有麺の質量よりも小さいことで、酵素液の質量が穀粉含有麺の質量以上の場合と比較して、穀粉含有麺と酵素液との混合物の容積が小さくなる。したがって、穀粉含有麺と酵素液との混合物を保管するために要する空間が削減されるため、例えば、外食店のようなスペースが限られる場所であっても、麺軟化物の製造方法を実施することができる。また、酵素液の質量が穀粉含有麺の質量以上の場合と比較して、穀粉含有麺と酵素液との混合物の重量も軽くなることから、穀粉含有麺と酵素液との混合物を移動させるような作業の負荷が軽減される。
【0027】
酵素液の質量は、好ましくは穀粉含有麺の質量に対して1質量%以上50質量%以下、より好ましくは5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは7.5質量%以上25質量%以下である。酵素液の質量を上記の範囲とすることで、麺軟化物中の穀粉含有麺由来の成分の濃度が過剰に低下することを抑制できる。加えて、穀粉含有麺と酵素液との混合物の容積をより小さくすることができ、かつ、穀粉含有麺と酵素液との混合物の重量をより軽くすることができる。なお、酵素液における水の質量比は、一例として、酵素液の質量に対して90質量%以上100質量%未満である。
【0028】
なお、酵素液は、穀粉含有麺と酵素との反応を阻害しなければ、他の成分を含んでもよい。例えば、酵素液が含む水として、うどんやそばのかけ汁を作るためのだし汁を用いれば、麺軟化物から製造される穀粉由来食品に、だし汁に含まれるだしの風味を加えることができる。
【0029】
[静置工程]
ステップS1-2は、穀粉含有麺と酵素液との混合物を、穀粉含有麺と酵素との反応時間として必要な時間だけ冷蔵庫のような冷暗所に静置する静置工程である。静置工程における反応時間は、例えば、2時間以上24時間以下、より好ましくは12時間以上18時間以下である。穀粉含有麺と酵素との反応速度は、酵素液に含まれる酵素の添加量、及び酵素の種類に依存する。換言すると、酵素液に含まれる酵素の添加量、及び酵素の種類を選択することで、穀粉含有麺と酵素との反応時間を制御できる。なお、酵素液に含まれる酵素の添加量、及び酵素の種類と、反応時間との関係の詳細については後述する。
【0030】
[破砕工程]
ステップS1-3は、酵素が作用して軟化した穀粉含有麺を攪拌することで、麺軟化物中に存在する穀粉含有麺の粒子をさらに細かく破砕する破砕工程である。破砕工程では、穀粉含有麺と酵素液との混合物をミキサーのような機器によって、麺軟化物中に穀粉含有麺の塊が残らないように、麺軟化物中に含まれる穀粉含有麺の粒子を細かくする。破砕工程を設けることで、例えば、麺軟化物を新たな食品の原材料として用いる際に、他の原材料と混合しやすくすることができる。なお、ステップS1-2の静置工程完了後であって、ステップS1-3の破砕工程の開始前に、穀粉含有麺と酵素液との混合物における硬さの調整を目的として水を添加してもよい。また、穀粉含有麺の軟化の程度によっては、ミキサーのような機器を用いずに、泡だて器やゴムベラのような器具で攪拌してもよい。
【0031】
なお、穀粉含有麺と酵素とを反応させずに、穀粉含有麺をミキサーのような機器によって破砕しようとすると、麺生地、及び茹でる前の生めん類では、一般の機器では十分に均一化することが難しい。また、茹でる前の生めん類、及び麺生地よりも水分を多く含む茹で麺であっても、いったんグルテンが形成されたコシの強い麺の場合には、麺の強さにミキサーの攪拌力が負けてしまい、連続して混合することが難しい場合がある。この点、酵素によって軟化した穀粉含有麺と酵素液との混合物であれば、穀粉含有麺が酵素との反応によって軟化した状態であるから、麺軟化物中に含まれる穀粉含有麺の粒子を、一般的なミキサーによって簡便に細かくできる。
【0032】
麺軟化物の製造方法は、上記のステップS1-1~S1-3の工程によって完了する。麺軟化物の製造方法は、穀粉含有麺が乾燥即席麺のような乾麺と比較して油分が少ないことから、遠心分離のような油分を分離する工程が不要である。したがって、外食店のような設備が限られた場所においても、特別な設備を必要とすることなく、本製造方法を実施することができる。
【0033】
[麺軟化物]
ステップS1-1~S1-3の工程を経て製造される麺軟化物は、穀粉由来食品の原材料として使用可能であれば、その形態は限定されない。すなわち、麺軟化物は、用途に応じて、水分量、粘度、穀粉含有麺の濃度、穀粉含有麺の粒子の大きさ等の諸特性が決定され、そして、これらを満たすように麺軟化物の製造方法の諸条件が決定される。以下では、麺軟化物の製造方法の諸条件、特に酵素の種類、酵素の添加量、及び反応時間が及ぼす麺軟化物への影響について、図2図6を参照して、試験例1~5を用いて説明する。
【0034】
[試験例1]
試験例1では、酵素としてアミラーゼを用いた場合において、アミラーゼの種類、及び静置工程における反応時間が及ぼす麺軟化物の軟化の度合いへの影響を調査した。試験例1では、試料A1~A5、及び試料A6を作製した。
【0035】
試料A1~A5は、穀粉含有麺としてうどんを用い、かつ、酵素としてアミラーゼを含む酵素液を用いて作製した麺軟化物である。試料A6は、穀粉含有麺としてうどんを用い、かつ、うどんに酵素液を添加せずに作製した麺軟化物である。
【0036】
(試験条件1)
酵素 : アミラーゼ/0mL(試料A6),0.2mL(試料A1~A5)
酵素液 : 100g
穀粉含有麺 : うどん(水分含有率 約75質量%)/400g
反応温度 : 5℃
反応時間 : 2時間以上12時間以下
試料A1~A4では、穀粉含有麺として400gの茹でたうどんを用いた。また、酵素液として、100gのだし汁と、アミラーゼの一例である「Fungamyl 800L」を0.2mLとを混合した液体を用いた。なお、だし汁は、鰹だしと昆布だしとを含み、かつ他の調味料を含まない。ステップS1-1の混合工程において、上記の穀粉含有麺と酵素液とを混合して互いに接触させた。そして、ステップS1-2の静置工程において、試料A1~A4のそれぞれに対して異なる反応時間を設定し、温度が5℃の冷蔵庫中に静置した。試料A1では反応時間を2時間とし、試料A2では反応時間を4時間とし、試料A3では反応時間を8時間とし、試料A4では反応時間を12時間とした。最後に、ステップS1-3の破砕工程において、簡易ミキサー(テスコム電機株式会社製、TM8300)を用いて、穀粉含有麺と酵素液との混合物を12000rpmの条件で一分間攪拌した。
【0037】
試料A5は、酵素液に含まれる酵素として、アミラーゼの一例である「BAN 480L」を0.2mL用いた点を除き、試料A1と同様の条件で作製された。なお、試料A1~A5の何れにおいても、穀粉含有麺と酵素液との混合物は、ステップS1-1,S1-2を経ることで穀粉含有麺が軟化したため、簡易ミキサーによって容易に攪拌できた。
【0038】
試料A6は、穀粉含有麺として用いた400gの茹でたうどんに、酵素を含まない100gのだし汁を加えた状態で、時間を空けずに18000rpmの条件で一分間攪拌することで作製された。なお、穀粉含有麺にだし汁を加えただけの試料A6では、穀粉含有麺とだし汁との混合物を上記の簡易ミキサーによって攪拌できなかったため、簡易ミキサーよりも攪拌力の強いの業務用ミキサーを用いた。
【0039】
図2に示すように、試料A1~A5の麺軟化物では、試料A6の麺軟化物よりも穀粉含有麺が軟化して液体に近い状態であった。試料A1~A4の麺軟化物では、反応時間が長いほど穀粉含有麺が軟化して液体に近づく傾向が確認された。また、試料A5の麺軟化物では、試料A1~A4の何れの水準よりも穀粉含有麺の軟化が進み、ほぼ液体状であることが確認された。したがって、酵素液中の酵素の添加量が同じであっても、反応速度が異なることが確認された。以上より、酵素の種類に対して最適な反応時間を設定することで、麺軟化物の軟化の度合いを制御できる。
【0040】
なお、試料A1~A5の製造条件は、第1実施形態の一例であって、第1実施形態を限定するものではない。また、試料A6の製造条件は、第1実施形態の効果を説明するための参考となる具体例である。
【0041】
[試験例2]
試験例2では、酵素としてアミラーゼを用いた場合において、酵素液が含む酵素の添加量、及び静置工程における反応時間が及ぼす穀粉含有麺の軟化の度合いへの影響を調査した。試験例2では、酵素の添加量、及び反応時間の条件を変えた複数の水準を設定し、各条件の下で混合工程、及び静置工程を経た穀粉含有麺の軟化の度合いを評価した。
【0042】
具体的な条件としては、穀粉含有麺としての400gの茹でたうどんと、酵素液として、鰹だしと昆布だしとを含むだし汁、及びアミラーゼの一例である「Fungamyl 800L」を混合した30gの酵素液とを用いた。なお、酵素液は、酵素の添加量を変えた7水準の酵素液を用いた。各水準の酵素液における「Fungamyl 800L」の添加量は、それぞれ0.003mL、0.015mL、0.03mL、0.06mL、0.15mL、0.3mL、及び0.6mLとした。ステップS1-1の混合工程において、上記の穀粉含有麺と酵素液とを混合して互いに接触させた。
【0043】
(試験条件2)
酵素 : アミラーゼ/0.003mL以上0.6mL以下
酵素液 : 30g
穀粉含有麺 : うどん(水分含有率 約75質量%)/400g
反応温度 : 5℃
反応時間 : 2時間以上24時間以下
そして、ステップS1-2の静置工程における反応時間としては、2時間、12時間、18時間、及び24時間の4水準を設定した。すなわち、酵素液における酵素の添加量の7水準と、静置工程における反応時間の4水準との組合せによる計28パターンの条件を設定した。
【0044】
最後に、ステップS1-3の破砕工程では、穀粉含有麺と酵素液との混合物に、硬さの調整を目的として30gの水をさらに添加した後に、簡易ミキサー(テスコム電機株式会社製、TM8300)を用いて12000rpmの条件で一分間攪拌した。このとき、破砕工程において、簡易ミキサーが停止した回数を計測して、一度も停止せずに一分間攪拌できたものを〇、停止した回数が1回のものを△、停止した回数が2回以上のものを×として評価した。なお、簡易ミキサーが停止した場合には、その都度、回転羽根の周りについた穀粉含有麺を落とした後、攪拌を再開した。
【0045】
図3に示すように、酵素の添加量が少なく、かつ反応時間も短い場合には、うどんが十分に軟化されずに、簡易ミキサーでの混合が困難になった。また、例えば、反応時間が2時間のように短い場合でも、酵素の添加量が0.06mL以上であれば、うどんの軟化が進み簡易ミキサーでも問題無く混合できた。そして、例えば、酵素の添加量が0.015mLのように少ない場合でも、反応時間が24時間のように長い場合には、うどんの軟化が進み簡易ミキサーでも問題無く混合できた。以上より、酵素液における酵素の添加量を変えることで、静置工程において穀粉含有麺と酵素液との反応に必要な反応時間を制御することができる。
【0046】
外食店で麺軟化物の製造方法を実施する場合、一例として、営業時間外(閉店時間から翌日の開店時間までの間)、もしくは客足の少ない夜間などの時間帯を利用して穀粉含有麺と酵素液との反応を進めることが好ましい。例えば、酵素の添加量を調整することで、穀粉含有麺と酵素液との混合物の軟化が最適な状態になる反応時間を12時間以上18時間以下とすることができる。これにより、例えば、外食店において、その日の営業終了時点で余剰となった穀粉含有麺を酵素液と混合して静置し、営業終了から翌日の営業開始までの営業時間外の時間を利用して静置工程を進めるようなオペレーションが可能となる。なお、試験例2における各水準の製造条件は、第1実施形態の一例であって、第1実施形態を限定するものではない。
【0047】
[試験例3]
試験例3では、酵素としてアミラーゼを用いた場合において、酵素液の添加量、及び静置工程における反応時間が及ぼす穀粉含有麺の軟化の度合いへの影響を調査した。試験例3では、穀粉含有麺としてうどんを用い、かつ、酵素としてアミラーゼを含む酵素液を混合した後、所定の反応時間静置することで穀粉含有麺と酵素液との混合物である試料B1~B5を作製した。
【0048】
(試験条件3)
酵素 : アミラーゼ/0.078gまたは0.156g
酵素液 : 30gまたは60g
穀粉含有麺 : うどん(水分含有率 約75質量%)/400g
反応温度 : 5℃
反応時間 : 2時間以上24時間以下
試料B1~B5では、穀粉含有麺として400gの茹でたうどんと、だし汁及びアミラーゼの一例である「ビオザイムA」を混合した酵素液とを用いた。試料B1~B3では、0.078gの「ビオザイムA」を含む30gの酵素液を用いた。試料B4,B5では、0.156gの「ビオザイムA」を含む60gの酵素液を用いた。なお、試料B1~B5で用いた酵素液の濃度は同一である。また、だし汁は、鰹だしと昆布だしとを含み、かつ他の調味料を含まない。
【0049】
ステップS1-1の混合工程において、上記の穀粉含有麺と酵素液とを混合して互いに接触させた。そして、ステップS1-2の静置工程において、試料B1~B5に対して異なる反応時間を設定し、温度が5℃の冷蔵庫中に静置した。試料B1,B4では反応時間を2時間とし、試料B2,B5では反応時間を18時間とし、試料B3では反応時間を24時間とした。
【0050】
なお、試料B1~B5に対しては、ステップS1-3の破砕工程を行わず、ステップS1-2の静置工程が完了した段階で、目視による外観確認及び触感による官能評価によって穀粉含有麺の軟化の度合いを評価した。評価基準としては、混合工程、及び静置工程を経る前の茹でうどんそのままの状態の硬さを1点とした。また、穀粉含有麺として400gの茹でたうどんと、だし汁及びアミラーゼの一例である0.03mLの「Fungamyl 800L」を混合した30gの酵素液とを混合し、反応時間を18時間として静置した後の穀粉含有麺の軟化の程度を5点とした。上記の1点及び5点を基準として、試料B1~B5における穀粉含有麺の軟化の度合いを相対的に評価した。
【0051】
図4に示すように、試料B1では、麺の軟化が開始しており、麺の周囲に糊状の液体が確認されたが、酵素として「Fungamyl 800L」を用いた場合(5点)よりも硬さが残っていた。試料B2では、試料B1よりも軟化が進んでおり、指で押すと潰れる程度に麺がふやけていた。また、糊状の液体の量も増加しており、酵素として「Fungamyl 800L」を用いた場合(5点)よりも軟化が進んでいた。試料B3では、指で押すと潰れる程度に麺がふやけており、また、試料B2よりもさらに軟化が進んでいた。試料B4では、試料B1よりも軟化が進んでおり、指で押すと潰れる程度に麺がふやけていた。また、麺の周囲に糊状の液体も確認されたが、酵素として「Fungamyl 800L」を用いた場合(5点)よりも硬さが残っていた。試料B5では、試料B4よりも軟化が進んでおり、かつ、酵素として「Fungamyl 800L」を用いた場合(5点)よりも軟化が進んでいた。また、試料B5では、反応時間が24時間の試料B3よりも軟化が進んでおり、試料B1~B5のなかで最も軟化が進んでいた。
【0052】
アミラーゼの一例である「ビオザイムA」を用いた場合において、反応時間が短い場合(2時間)では、「Fungamyl 800L」を用いた場合よりも軟化が進んでいない傾向が確認された。また、反応時間が長い場合(18時間以上)では、「Fungamyl 800L」を用いた場合とほぼ同等の軟化効果が得られることが確認された。以上の結果から、同一の濃度の酵素液であっても、酵素液の添加量を変えることで、静置工程において穀粉含有麺と酵素液との反応に必要な反応時間を制御することができる。なお、試験例3における試料B1~B5の製造条件は、第1実施形態の一例であって、第1実施形態を限定するものではない。
【0053】
[試験例4]
試験例4では、酵素としてプロテアーゼを用いた場合において、プロテアーゼの種類、及び静置工程における反応時間が及ぼす麺軟化物の軟化の度合いへの影響を調査した。試験例4では、穀粉含有麺としてうどんを用い、かつ、だし汁と酵素としてのプロテアーゼとを含む酵素液を混合した後、所定の反応時間静置することで穀粉含有麺と酵素液との混合物である試料C1~C8を作製した。
【0054】
(試験条件4)
酵素 : プロテアーゼ/0.01gまたは0.108g
酵素液 : 30g
穀粉含有麺 : うどん(水分含有率 約75質量%)/400g
反応温度 : 5℃
反応時間 : 2時間以上24時間以下
試料C1~C6では、穀粉含有麺として400gの茹でたうどんを用いた。試料C1~C3では、0.01gの「Neutrase 1.5MG」を含む30gの酵素液を用いた。試料C4~C6では、0.01gの「Alcalase 2.4L FG」を含む30gの酵素液を用いた。試料C7,C8では、0.108gの「プロチンSD-NY10」を含む30gの酵素液を用いた。なお、「Neutrase 1.5MG」、「Alcalase 2.4L FG」、及び「プロチンSD-NY10」は、それぞれプロテアーゼの一例である。また、だし汁は、鰹だしと昆布だしとを含み、かつ他の調味料を含まない。
【0055】
ステップS1-1の混合工程において、上記の穀粉含有麺と酵素液とを混合して互いに接触させた。そして、ステップS1-2の静置工程において、試料C1~C8に対して異なる反応時間を設定し、温度が5℃の冷蔵庫中に静置した。試料C1,C4、C7では反応時間を2時間とし、試料C2,C5、C8では反応時間を18時間とし、試料C3,C6では反応時間を24時間とした。
【0056】
なお、試料C1~C8に対しては、ステップS1-3の破砕工程を行わず、ステップS1-2の静置工程が完了した段階で、目視による外観確認及び触感による官能評価によって穀粉含有麺の軟化の度合いを評価した。なお、試験例4における評価基準は、試験例3における評価基準と同等である。
【0057】
図5に示すように、試料C1では、麺の外側がふやけた触感となり、かつ麺の内側、外側が共に軟らかくなっていた。試料C2では、試料C1よりも麺の内側及び外側が共に軟らかくなっており、また、酵素として「Fungamyl 800L」を用いた場合(5点)よりも軟化が進んでいた。試料C3では、試料C2よりも麺の内側及び外側が共に軟らかくなっており、また、指で押すと麺が潰れる程度であった。
【0058】
試料C4では、麺の外側が若干反応してわずかに水分が出て軟らかくなっていたものの、麺の内側にはまだ硬さが残っており、試料C1よりも硬い状態であった。試料C5は、麺の外側での反応が進み、試料C4よりも軟らかくなっていたが、うどんの弾力が残っている状態であった。試料C5は、試料C2、及び酵素として「Fungamyl 800L」を用いた場合(5点)よりも麺に硬さが残っていた。試料C6は、試料C5よりも軟らかく、特に麺の外側がよりふやけた状態となって指で押すと麺が潰れる程度であったが、試料C2,C3よりも麺に硬さが残っていた。
【0059】
試料C7では、麺の外観に変化は見られず、指で押すとわずかに軟化しているものの硬さが残っていた。試料C8では、試料C7よりも軟化が進んでおり、麺の周囲に糊状の液体が確認された。試料C8では、指で押すと麺が潰れる程度まで軟化しており、酵素として「Fungamyl 800L」を用いた場合(5点)とほぼ同等の軟化の程度であった。
【0060】
以上より、酵素としてプロテーゼのみを用いた場合でも、穀粉含有麺としてのうどんの軟化が確認された。酵素としてプロテーゼを用いた場合では、穀粉含有麺の外側が優先的に軟化することが確認された。また、アミラーゼとプロテアーゼとを比較すると、一概にどちらの軟化効果が大きいとは言い難く、アミラーゼの種類、及びプロテアーゼの種類によっても軟化効果の大きさが変わることが確認された。なお、試験例4における試料C1~C8の製造条件は、第1実施形態の一例であって、第1実施形態を限定するものではない。
【0061】
[試験例5]
試験例5では、酵素としてアミラーゼ及びプロテアーゼの両方を含む酵素液を用いた場合において、酵素の種類、及び静置工程における反応時間が及ぼす麺軟化物の軟化の度合いへの影響を調査した。試験例5では、穀粉含有麺としてうどんを用い、かつ、だし汁と酵素としてアミラーゼ及びプロテアーゼとを含む酵素液を混合した後、所定の反応時間静置することで穀粉含有麺と酵素液との混合物である試料D1~D10を作製した。
【0062】
(試験条件5)
アミラーゼ : 0.03mL、0.039g、または、0.078g
プロテアーゼ: 0.01g、0.054g、または、0.108g
酵素液 : 30g
穀粉含有麺 : うどん(水分含有率 約75質量%)/400g
反応温度 : 5℃
反応時間 : 2時間以上24時間以下
試料D1~D10では、穀粉含有麺として400gの茹でたうどんを用いた。試料D1~D3では、アミラーゼの一例である0.03mLの「Fungamyl 800L」と、プロテアーゼの一例である0.01gの「Neutrase 1.5MG」とを含む30gの酵素液を用いた。試料D4~D6では、アミラーゼの一例である0.03mLの「Fungamyl 800L」と、プロテアーゼの一例である0.01gの「Alcalase 2.4L FG」とを含む30gの酵素液を用いた。試料D7,D8では、アミラーゼの一例である0.039gの「ビオザイムA」と、プロテアーゼの一例である0.054gの「プロチンSD-NY10」とを含む30gの酵素液を用いた。試料D9,D10では、アミラーゼの一例である0.078gの「ビオザイムA」と、プロテアーゼの一例である0.108gの「プロチンSD-NY10」とを含む60gの酵素液を用いた。また、だし汁は、鰹だしと昆布だしとを含み、かつ他の調味料を含まない。
【0063】
ステップS1-1の混合工程において、上記の穀粉含有麺と酵素液とを混合して互いに接触させた。そして、ステップS1-2の静置工程において、試料D1~D10に対して異なる反応時間を設定し、温度が5℃の冷蔵庫中に静置した。試料D1,D4,D7,D9では反応時間を2時間とし、試料D2,D5,D8,D10では反応時間を18時間とし、試料D3,D6では反応時間を24時間とした。
【0064】
なお、試料D1~D10に対しては、ステップS1-3の破砕工程を行わず、ステップS1-2の静置工程が完了した段階で、目視による外観確認及び触感による官能評価によって穀粉含有麺の軟化の度合いを評価した。なお、試験例5における評価基準は、試験例3における評価基準と同等である。
【0065】
図5に示すように、試料D1では、麺の内側及び外側が共に軟らかくなっており、麺全体から水分が出ていた。試験例4における試料C1では麺の外側が優先的に軟化していたのに対して、試料D1では、麺全体が軟化する傾向が確認された。試料D1では、麺全体でみると、試験例4における試料C1と同程度の軟化が確認された。試料D2では、麺の内側及び外側が共に試料D1よりも軟化していた。試料D2では、麺の外側がふやけた触感となり、指で押すと潰れる状態であった。また、試料D2では、酵素として「Fungamyl 800L」を用いた場合(5点)よりも軟化が進み、かつ試験例4における試料C2よりも軟化が進んだ状態であった。試料D3では、麺の内側及び外側が共に試料D2よりもさらに軟化していた。試料D3は、試料D1~D10、試験例3における試料B1~B5、及び、試験例4における試料C1~C8のなかで、最も軟化が進んでいた水準の1つである。
【0066】
試料D4では、麺の内側及び外側が共に試料D1と同程度に軟化しており、試験例4における試料C4よりも麺の内側の軟化が進んでいた。また、試料D4では、麺全体から水分が出ていたが、試料D1よりも溶出した水分量が少なかった。試料D5では、麺の内側及び外側が共に試料D4よりも軟らかく、特に麺の外側がふやけた状態となって指で押すと麺が潰れる程度まで軟化していた。また、試料D5では、試験例4における試料C5、及び酵素として「Fungamyl 800L」を用いた場合(5点)より軟化が進んでいたが、試料D2よりも麺全体に硬さが残っていた。試料D6では、試料D5よりも軟らかく、特に麺の外側がよりふやけた状態となって指で押すと麺が潰れる程度であった。また、試料D6では、試験例4における試料C6よりも麺の内側の軟化が進んでいたが、試料D3よりも麺の外側に硬さが残っていた。
【0067】
試料D7では、麺を指で押すと麺が潰れる程度まで麺がふやけており、麺の周囲に糊状の液体が確認された。試料D7では、試験例3における試料B1及び試験例4における試料C7よりも軟化が進んでいた。試料D8では、試料D7よりもさらに麺がふやけて軟化しており、麺を指で押すと潰れる状態であった。試料D8では、酵素として「Fungamyl 800L」を用いた場合(5点)よりも軟化が進み、かつ試験例3における試料B2及び試験例4における試料C8よりも軟化が進んでいた。試料D9では、麺を指で押すと麺が潰れる程度まで麺がふやけており、麺の周囲に糊状の液体が確認された。また、試料D9では、試料D7、及び、酵素として「Fungamyl 800L」を用いた場合(5点)よりも軟化が進んでいた。また、試料D9では、試験例3における試料B4よりも軟化が進んでいた。試料D10では、試料D9よりもさらに麺がふやけて軟化しており、麺を指で押すと潰れる状態であった。試料D10では、試験例3における試料B5よりも軟化が進んでいた。試料D10は、試料D1~D10、試験例3における試料B1~B5、及び、試験例4における試料C1~C8のなかで、最も軟化が進んでいた水準の1つである。
【0068】
以上より、酵素としてアミラーゼとプロテーゼとの両方を用いた場合では、同じ反応時間で同種のアミラーゼ単体、もしくはプロテアーゼ単体を酵素として用いる場合よりも、穀粉含有麺の軟化効果が大きいことが確認された。なお、試験例5における試料D1~D10の製造条件は、第1実施形態の一例であって、第1実施形態を限定するものではない。
【0069】
[麺軟化物の活用例]
発明者らは、上記の製造方法で製造された麺軟化物の活用方法を調査するため、以下の試験例6を行った。以下、図7を参照して、試験例6について説明する。
【0070】
[試験例6]
試験例6では、穀粉由来食品の一例として、麺軟化物を用いたドーナッツの試料E1~E9を作製した。試料E1~E8では、穀粉含有麺として400gの茹でたうどんと、だし汁及び酵素としてアミラーゼ及びプロテアーゼの少なくとも一方を含む酵素液とを用いた。試料E1では、アミラーゼの一例である0.03mLの「Fungamyl 800L」を含む30gの酵素液を用いた。試料E2では、アミラーゼの一例である0.039gの「ビオザイムA」を含む30gの酵素液を用いた。試料E3では、アミラーゼの一例である0.078gの「ビオザイムA」を含む60gの酵素液を用いた。試料E4では、プロテアーゼの一例である0.01gの「Neutrase 1.5MG」を含む30gの酵素液を用いた。試料E5では、アミラーゼの一例である0.03mLの「Fungamyl 800L」と、プロテアーゼの一例である0.01gの「Neutrase 1.5MG」とを含む30gの酵素液を用いた。試料E6では、アミラーゼの一例である0.03mLの「Fungamyl 800L」と、プロテアーゼの一例である0.01gの「Alcalase 2.4L FG」とを含む30gの酵素液を用いた。試料E7では、アミラーゼの一例である0.039gの「ビオザイムA」と、プロテアーゼの一例である0.054gの「プロチンSD-NY10」とを含む30gの酵素液を用いた。試料E8では、アミラーゼの一例である0.078gの「ビオザイムA」と、プロテアーゼの一例である0.108gの「プロチンSD-NY10」とを含む60gの酵素液を用いた。また、だし汁は、鰹だしと昆布だしとを含み、かつ他の調味料を含まない。
【0071】
試料E1~E8では、ステップS1-1の混合工程において、上記の穀粉含有麺と酵素液とを混合して互いに接触させた後、ステップS1-2の静置工程において、温度が5℃の冷蔵庫中に18時間静置した。次いで、ステップS1-3の破砕工程において、穀粉含有麺と酵素液との混合物に、硬さの調整を目的として30gの水をさらに添加した後に、簡易ミキサー(テスコム電機株式会社製、TM8300)を用いて12000rpmの条件で一分間攪拌した。これにより、試料E1~E8のドーナッツにおける原材料となる麺軟化物が作製された。次いで、麺軟化物に200gのホットケーキミックス(市販品)を添加してゴムベラで混合して生地とした後、生地を1個あたり18g程度の球状に成形して175℃の油で3分間揚げて試料E1~E8のドーナッツを製造した。
【0072】
試料E9では、ステップS1-1の混合工程において、穀粉含有麺として用いた400gの茹でたうどんに、比較用として酵素を含まない100gのだし汁を加えた状態で、時間を空けずに18000rpmの条件で一分間攪拌した。これにより、試料E9のドーナッツにおける原材料となる混合物が作製された。なお、試料E9は、穀粉含有麺にだし汁を加えただけでは、穀粉含有麺とだし汁との混合物を上記の簡易ミキサーによって攪拌できなかったため、簡易ミキサーよりも攪拌力が強い業務用ミキサーを用いた。次いで、攪拌後の穀粉含有麺とだし汁との混合物に200gのホットケーキミックス(市販品)を添加してゴムベラで混合して生地とした後、生地を1個あたり18g程度の球状に成形して175℃の油で3分間揚げて試料E9のドーナッツを製造した。
【0073】
試料E1~E8では、麺軟化物とホットケーキミックスとの混ざり易さを、試料E9を基準として、試料E9よりも混ざり易ければ2点、試料E9と同等であれば1点、試料E9よりも混ざり難ければ0点として評価した。
【0074】
図7に示すように、試料E1~E8は、何れも試料E9と比較して麺軟化物とホットケーキミックスとの馴染みが良く均一に混ざり易かった。特に、試料E4~E8では、酵素液にプロテアーゼを含むことから、麺の外側部分の軟化が進み、麺軟化物とホットケーキミックスとを容易に混ぜることができた。
【0075】
また、試料E1~E9のいずれもが、もちもち、かつ、しっとりとした食感を有しており、食感においては試料E1~E9のなかで大きな差は確認されなかった。味の面では、酵素液にアミラーゼを含む試料E1~E3,E5~E8では、試料E9よりも生地の甘みが強かった。以上より、麺軟化物を用いた穀粉由来食品として、好適な食感を有したドーナッツを製造することができた。
【0076】
なお、試料E1~E8の製造条件は、第1実施形態の一例であって、第1実施形態を限定するものではない。また、試料E9の製造条件は、第1実施形態の効果を説明するための参考となる具体例である。
【0077】
[第1実施形態の効果]
上記第1実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1-1)穀粉含有麺と、水及び酵素を含む酵素液と、を接触させるという簡便な工程によって、穀粉含有麺を軟化させることができる。これにより、例えば、所定の保存期間を超えた穀粉含有麺を、穀粉由来食品の原材料という新たな付加価値を有した形態で再利用できる。
【0078】
(1-2)酵素液の質量が穀粉含有麺の質量よりも小さいことで、酵素液の質量が穀粉含有麺の質量以上の場合と比較して、麺軟化物中の穀粉含有麺由来の成分の濃度を高めることができる。また、麺軟化物中の穀粉含有麺由来の成分の濃度を低める際には、麺軟化物に水を添加するだけでよい。したがって、麺軟化物の用途を広げることができる。穀粉含有麺と酵素液との混合物の容積が小さくなり、重量も軽くなる。したがって、穀粉含有麺と酵素液との混合物を保管するために要する空間が削減されるため、例えば、外食店のようなスペースが限られる場所であっても、麺軟化物の製造方法を実施することができる。また、穀粉含有麺と酵素液との混合物を移動させるような作業の負荷が軽減される。
【0079】
(1-3)ステップS1-2の静置工程の後に、ステップS1-3の破砕工程を設けることで、麺軟化物中に穀粉含有麺の塊が残らないように、麺軟化物中に含まれる穀粉含有麺の粒子を細かくできる。これにより、麺軟化物を新たな食品の原材料として用いる際に、他の原材料と混合しやすくすることができる。
【0080】
(1-4)酵素液が、穀粉含有麺に対して質量比で1%以上50%以下より好ましくは5%以上25%以下であることで、穀粉含有麺と酵素液との混合物の容積をより小さくすることができ、また、当該混合物の重量をより軽くすることができる。
【0081】
(1-5)酵素の添加量を調整することで、穀粉含有麺と酵素液との混合物の軟化が最適な状態になる反応時間を12時間以上18時間以下とすることができる。この場合、例えば、外食店において、営業終了から翌日の営業開始までの営業時間外の時間を利用して静置工程を進めるようなオペレーションが可能となる。
【0082】
(1-6)酵素液が酵素としてアミラーゼ及びプロテアーゼの両方を含むことで、穀粉含有麺に含まれるたんぱく質をプロテアーゼによって分解でき、かつ、穀粉含有麺に含まれる炭水化物をアミラーゼによって分解できる。したがって、酵素液がアミラーゼ及びプロテアーゼのうちの一方のみを含む場合よりも、酵素による穀粉含有麺の軟化効果をより高めることができる。
【0083】
[第1実施形態の変更例]
なお、上記第1実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・反応時間は、12時間以上18時間以下でなくてもよく、例えば、反応時間が12時間未満となるように酵素の添加量を増やしてもよい。また、反応時間が18時間超となるように酵素の添加量を減らしてもよい。この場合、酵素の添加量が低減されるため、コストの削減が可能となる。
【0084】
・酵素液の質量は、穀粉含有麺の質量よりも小さければ、穀粉含有麺に対して質量比で1%以上50%以下でなくてもよい。例えば、麺軟化物が穀粉由来食品の原材料として好適な粘度となるように、酵素液の質量を穀粉含有麺に対して質量比で1%未満としてもよいし、50%超としてよい。
【0085】
・ステップS1-2の静置工程が完了した段階で、穀粉含有麺と酵素液との混合物が、穀粉由来食品の原材料である麺軟化物として使用可能な状態まで軟化していれば、ステップS1-3の破砕工程は省略されてもよい。
【0086】
・穀粉由来食品の製造に際して、麺軟化物の他に、他の材料を加えてもよい。また、麺軟化物は、上述した穀粉由来食品の原材料としてだけではなく、例えば、飼料の原材料の一部として用いてもよい。
【0087】
[第2実施形態]
以下、麺軟化物の製造方法の第2実施形態について、図8図9を参照して説明する。第1実施形態では、混合工程において、アミラーゼ及びプロテアーゼのうち少なくとも何れか一方を含む酵素液を穀粉含有麺に添加する工程を例示した。第2実施形態では、穀粉含有麺に対して、アミラーゼを含む酵素液、及びプロテアーゼを含む酵素液を各別に添加する場合について説明する。
【0088】
[第1混合工程]
図8に示すように、第2実施形態における麺軟化物の製造方法は、ステップS2-1~S2-5の工程を含む。ステップS2-1は、穀粉含有麺と、第1酵素液と、を混合して接触させる第1混合工程である。第1酵素液は、水、及び酵素の一例であるプロテアーゼを含む。なお、穀粉含有麺と、第1酵素液に含まれる水及びプロテアーゼは、第1実施形態で用いたものと同様である。
【0089】
[第1静置工程]
ステップS2-2は、穀粉含有麺と第1酵素液との混合物を、穀粉含有麺とプロテアーゼとの反応時間として必要な第1反応時間だけ冷蔵庫のような冷暗所に静置する第1静置工程である。第1反応時間は、例えば、1時間以上3時間以下、より好ましくは2時間である。
【0090】
[第2混合工程]
ステップS2-3は、第1静置工程を経た穀粉含有麺と第1酵素液との混合物に、さらに、第2酵素液を混合して接触させる第2混合工程である。第2酵素液は、水、及び酵素の一例であるアミラーゼを含む。なお、穀粉含有麺と、第2酵素液に含まれる水及びアミラーゼは、第1実施形態で用いたものと同様である。
【0091】
また、第1酵素液と、第2酵素液との質量の和は、穀粉含有麺の質量よりも小さくなるように設定される。第1酵素液と、第2酵素液との質量の和は、穀粉含有麺の質量に対して1%以上50%以下が好ましく、5%以上25%以下であればより好ましい。
【0092】
[第2静置工程]
ステップS2-4は、穀粉含有麺、第1酵素液、及び第2酵素液の混合物を、穀粉含有麺の軟化に必要な第2反応時間だけ冷蔵庫のような冷暗所に静置する第2静置工程である。第2反応時間は、例えば、第1反応時間よりも長く、好ましくは12時間以上18時間以下である。
【0093】
第1混合工程、及び第1静置工程において、穀粉含有麺にプロテアーゼを作用させることで、穀粉含有麺の表面近傍が優先的に軟化する。そして、第2混合工程、及び第2静置工程において、穀粉含有麺にアミラーゼを作用させることで、穀粉含有麺の澱粉が分解されて穀粉含有麺の全体が軟化する。
【0094】
[破砕工程]
ステップS2-5は、第2静置工程を経た穀粉含有麺、第1酵素液、及び第2酵素液の混合物を攪拌することで、麺軟化物中に存在する穀粉含有麺の粒子をさらに細かく破砕する破砕工程である。なお、破砕工程の詳細については、第1実施形態と同様である。
【0095】
[試験例7]
発明者らは、麺軟化物の製造方法において、アミラーゼとプロテアーゼとを添加するタイミングが及ぼす麺軟化物への影響を調査するため、以下の試験例7を行った。以下、図9を参照して、試験例7について説明する。
【0096】
試験例7では、ステップS2-1~S2-4の工程を経て製造された穀粉含有麺、第1酵素液、及び第2酵素液の混合物である試料F1,F2を作製した。試料F1,F2では、穀粉含有麺として400gの茹でたうどんを用いた。試料F1では、第1酵素液として、だし汁とプロテアーゼの一例である0.01gの「Neutrase 1.5MG」を含む30gの酵素液を用いた。試料F2では、第1酵素液として、だし汁とプロテアーゼの一例である0.01gの「Alcalase 2.4L FG」を含む30gの酵素液を用いた。試料F1,F2では、第2酵素液として、だし汁とアミラーゼの一例である0.03mLの「Fungamyl 800L」を含む30gの酵素液を用いた。なお、だし汁は、鰹だしと昆布だしとを含み、かつ他の調味料を含まない。
【0097】
ステップS2-1の第1混合工程において、上記の穀粉含有麺と第1酵素液とを混合して互いに接触させた。そして、ステップS2-2の第1静置工程において、温度が5℃の冷蔵庫中に、第1反応時間として2時間静置した。ステップS2-3の第2混合工程において、穀粉含有麺及び第1酵素液の混合物と、上記の第2酵素液とを混合して接触させた。そして、ステップS2-4の第2静置工程において、温度が5℃の冷蔵庫中に、第2反応時間として16時間静置した。
【0098】
なお、試料F1,F2に対しては、ステップS2-5の破砕工程を行わず、ステップS2-4の静置工程が完了した段階で、目視による外観確認及び触感による官能評価によって穀粉含有麺の軟化の度合いを評価した。なお、試験例7における評価基準は、試験例3における評価基準と同等である。
【0099】
図9に示すように、試料F1では、麺の内側及び外側が共に非常に軟化しており、手で攪拌しただけで液体状になった。試料F1では、試験例5における試料D2よりも軟化が進んでいた。なお、試料D2は、試料F1と同種かつ同量のアミラーゼ、及びプロテアーゼが添加され、かつ反応時間が試料F1における第1反応時間と第2反応時間との総和と等しい水準である。また、試料F2では、指で軽く押すだけで簡単に潰れる程度まで麺の内側及び外側が共に軟化していたが、試料F1よりは麺に硬さが残っていた。試料F2では、試験例5における試料D5よりも軟化が進んでいた。なお、試料D5は、試料F2と同種かつ同量のアミラーゼ、及びプロテアーゼが添加され、かつ反応時間が試料F2における第1反応時間と第2反応時間との総和と等しい水準である。
【0100】
以上より、第1混合工程で穀粉含有麺に第1酵素液を添加し、さらに、第2混合工程で第2酵素液を添加することで、同じ反応時間で同種のアミラーゼとプロテアーゼとを同時に添加するよりも穀粉含有麺の軟化効果が大きいことが確認された。なお、試験例7における試料F1,F2の製造条件は、第2実施形態の一例であって、第2実施形態を限定するものではない。
【0101】
[第2実施形態の効果]
上記第2実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(2-1)上記製造方法によれば、第1混合工程において、プロテアーゼによって穀粉含有麺の表面近傍を優先的に軟化させることができる。その後、第2混合工程において、アミラーゼによって穀粉含有麺の全体を効果的に軟化させることができる。これにより、プロテアーゼとアミラーゼとを同時に添加する場合よりも酵素による穀粉含有麺の軟化効果をより高めることができる。なお、第1実施形態のように、混合工程において、アミラーゼ及びプロテアーゼを同時に添加した場合では、アミラーゼと、プロテアーゼとを異なるタイミングで各別に添加する場合よりも製造工程を簡略化できる。
【0102】
(2-2)第2実施形態の麺軟化物の製造方法においても、第1実施形態における(1-1)と同様の効果を得ることができる。
(2-3)第1酵素液と、第2酵素液との質量の和が穀粉含有麺の質量よりも小さいことで、第1実施形態における(1-2)と同様の効果を得ることができる。また、第1酵素液と、第2酵素液との質量の和が、1%以上50%以下、より好ましくは5%以上25%以下であれば、第1実施形態における(1-4)と同様の効果を得ることができる。
【0103】
(2-4)ステップS2-4の第2静置工程の後に、ステップS2-5の破砕工程を設けることで、第1実施形態における(1-3)と同様の効果を得ることができる。
(2-5)ステップS2-4の第2静置工程において、第2反応時間を12時間以上18時間以下とすれば、例えば、外食店において、営業終了から翌日の営業開始までの営業時間外の時間を利用して第2静置工程を進めるようなオペレーションが可能となる。
【0104】
[第2実施形態の変更例]
なお、上記第2実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・第2静置工程における第2反応時間は、12時間以上18時間以下でなくてもよく、例えば、第2静置工程における第2反応時間が12時間未満となるように酵素の添加量を増やしてもよい。また、第2静置工程における第2反応時間が18時間超となるように酵素の添加量を減らしてもよい。この場合、酵素の添加量が低減されるため、コストの削減が可能となる。
【0105】
・第1酵素液と第2酵素液との質量の和は、穀粉含有麺の質量よりも小さければ、穀粉含有麺に対して質量比で1%以上50%以下に限定されず、麺軟化物が穀粉由来食品の原材料として好適な粘度となるように、適宜調整すればよい。
【0106】
・ステップS2-4の第2静置工程が完了した段階で、穀粉含有麺、第1酵素液、及び第2酵素液の混合物が、穀粉由来食品の原材料である麺軟化物として使用可能な状態まで軟化していれば、ステップS2-5の破砕工程は省略されてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9