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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076974
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】アルミニウムドロス灰の乾式処理方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20230529BHJP
   C01C 1/02 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
C01B21/072 R
C01C1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190031
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(71)【出願人】
【識別番号】514273228
【氏名又は名称】株式会社JEMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 玲治
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 弘賢
(72)【発明者】
【氏名】神谷 正光
(72)【発明者】
【氏名】二渡 章生
(57)【要約】
【課題】本発明は、簡便かつ効率的なアルミドロス灰の処理方法の開発を課題とする。
【解決手段】本発明は、窒化アルミニウムを含むアルミニウムドロス灰と水蒸気とを接触させて、アンモニアを生成する工程、を含む、アルミニウムドロス灰の乾式処理方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウムを含むアルミニウムドロス灰と水蒸気とを接触させて、アンモニアを生成する工程、
を含む、アルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
【請求項2】
アルミニウムドロス灰と水蒸気とを接触させて、アンモニアを生成する工程において、アルミニウムドロス灰の表面を更新することを特徴とする、
請求項1に記載のアルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
【請求項3】
アルミニウムドロス灰の表面の更新が、アルミニウムドロス灰と表面更新材とを接触させることにより行われることを特徴とする、
請求項2に記載のアルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
【請求項4】
表面更新材が、ガラスビーズ、アルミナ球、ジルコニウム球、およびセラミック球から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、
請求項3に記載のアルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
【請求項5】
アルミニウムドロス灰の表面の更新が、アルミニウムドロス灰と表面更新材とが入った容器にガスを流入させて、アルミニウムドロス灰と表面更新材とを混合し接触させることにより行われることを特徴とする、
請求項3または4に記載のアルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
【請求項6】
アルミニウムドロス灰の表面の更新が、アルミニウムドロス灰と表面更新材とが入った容器を振動または回転させて、アルミニウムドロス灰と表面更新材とを混合し接触させることにより行われることを特徴とする、
請求項3または4に記載のアルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
【請求項7】
アルミニウムドロス灰と水蒸気との反応雰囲気における水蒸気濃度が10~100 vol%であることを特徴とする、
請求項1~6のいずれか1項に記載のアルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
【請求項8】
アルミニウムドロス灰と水蒸気との反応雰囲気の温度が100~200 ℃であることを特徴
とする、
請求項1~7のいずれか1項に記載のアルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
【請求項9】
窒化アルミニウムを含むアルミニウムドロス灰と水蒸気とを接触させて、アンモニアを生成する工程、
を含む、アンモニアの製造方法。
【請求項10】
さらに、アンモニアを採取する工程、
を含む、請求項9に記載のアンモニアの製造方法。
【請求項11】
アンモニアを、アンモニアガス、またはアンモニア水として採取する、
請求項10に記載のアンモニアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムドロス(アルミドロス)灰の乾式処理方法に関する。本発明は、さらに、アルミドロス灰の乾式処理を用いた高濃度アンモニアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ製品を製造する過程では、アルミの地金やスクラップを溶解炉で熔解する。この時に溶湯表面で生成する酸素化合物、空気と反応し生成した窒素化合物等の溶滓をアルミドロスという。アルミドロス中には使用可能なアルミニウム成分が残っており、しぼり機等により、さらに40 %程度のアルミニウム成分の回収がなされている。
【0003】
アルミドロス灰は、このアルミドロスから金属アルミニウムを取り出した後の副産物で、アルミニウムの含有量も少なく産業廃棄物として処理されている。しかしながら、このアルミドロス灰に含まれる窒化アルミニウムは、水と反応しアンモニアガスを発生させるため、野外に廃棄されたアルミドロス灰と雨水等が反応して悪臭が発生し、公害の原因にもなっている。
【0004】
アルミドロス灰の処理方法としては、アルミニウム酸化物原料の回収を目的として、高温で酸化・脱ハロゲンさせる乾式法(例えば、特許文献1)や、水中に浸漬して処理する湿式法(例えば、特許文献2~5、非特許文献1)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09-206727号
【特許文献2】特開2002-322519号
【特許文献3】特開2002-045824号
【特許文献4】特開2020-142190号
【特許文献5】特開2005-177556号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】第30回廃棄物資源循環学会研究発表会 講演原稿2019、C3-4、「アルミニウムドロス残灰の実用的資源化」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルミドロス灰処理について、従来の乾式法では、アルミドロス灰を高温で酸化・脱ハロゲン化するため、特別な装置や高エネルギーが必要であり、コスト面で問題がある。また、湿式法によるアルミドロス灰処理では、処理時間が長く、アンモニア水の濃度は低いため資源化が難しい。したがって、簡便かつ効率的なアルミドロス灰の処理方法の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、アルミドロス灰処理において、水蒸気を用いた乾式処理を行うことにより、従来の乾式法よりも低温で、残留窒化アルミニウムを酸化するとともに、窒素成分を除去し、アンモニアを生成できることを知見した。また、このような方法によれば、従来の湿式法より処理時間も短く、採取したアンモニアは高濃度で、資源化できる。さらに、アルミドロス灰の表面を更新しながら処理することでより短時間で、窒素除去率も向上することを知見した。このような知見に基づ
き、本発明は完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨は以下に関する。
【0009】
[1] 窒化アルミニウムを含むアルミニウムドロス灰と水蒸気とを接触させて、アンモニアを生成する工程、
を含む、アルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
[2] アルミニウムドロス灰と水蒸気とを接触させて、アンモニアを生成する工程において、アルミニウムドロス灰の表面を更新することを特徴とする、
[1]に記載のアルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
[3] アルミニウムドロス灰の表面の更新が、アルミニウムドロス灰と表面更新材とを接触させることにより行われることを特徴とする、
[2]に記載のアルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
[4] 表面更新材が、ガラスビーズ、アルミナ球、ジルコニウム球、およびセラミック球から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、
[3]に記載のアルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
[5] アルミニウムドロス灰の表面の更新が、アルミニウムドロス灰と表面更新材とが入った容器にガスを流入させて、アルミニウムドロス灰と表面更新材とを混合し接触させることにより行われることを特徴とする、
[3]または[4]に記載のアルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
[6] アルミニウムドロス灰の表面の更新が、アルミニウムドロス灰と表面更新材とが入った容器を振動または回転させて、アルミニウムドロス灰と表面更新材とを混合し接触させることにより行われることを特徴とする、
[3]または[4]に記載のアルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
[7] アルミニウムドロス灰と水蒸気との反応雰囲気における水蒸気濃度が10~100 vol%であることを特徴とする、
[1]~[6]のいずれかに記載のアルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
[8] アルミニウムドロス灰と水蒸気との反応雰囲気の温度が100~200 ℃であること
を特徴とする、
[1]~[7]のいずれかに記載のアルミニウムドロス灰の乾式処理方法。
[9] 窒化アルミニウムを含むアルミニウムドロス灰と水蒸気とを接触させて、アンモニアを生成する工程、
を含む、アンモニアの製造方法。
[10] さらに、アンモニアを採取する工程、
を含む、[9]に記載のアンモニアの製造方法。
[11] アンモニアを、アンモニアガス、またはアンモニア水として採取する、
[10]に記載のアンモニアの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルミドロス灰の処理方法によれば、少量の水蒸気とアルミドロス灰を用いて、低温で処理ができるため、特別な装置や高エネルギーを必要とせず、処理ができる。また、処理時間も短く、採取したアンモニアは高濃度で、資源化できる。さらに、アルミドロス灰の表面を更新しながら処理することでより短時間で処理でき、窒素除去率も向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の方法に使用される一形態のアルミドロス灰の処理装置の構成の模式図である。
図2図2は、実施例および比較例の湿式処理によるアルミドロス灰からの窒素除去率を示すグラフである。
図3図3は、反応温度の異なる実施例の乾式処理によるアルミドロス灰からの窒素除去率を示すグラフである。
図4図4は、表面更新材の異なる配合量の実施例および比較例の表面更新無しの処理によるアルミドロス灰からの窒素除去率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について説明する。
<アルミドロス灰の乾式処理方法>
本発明の一態様は、窒化アルミニウムを含むアルミドロス灰と水蒸気とを接触させて、アンモニアを生成する工程、
を含む、アルミドロス灰の乾式処理方法(以下、「本発明の処理方法」ということがある。)に関する。
【0013】
アルミドロス灰中の窒化アルミニウムは水と以下の反応式で反応する。
AlN + 3H2O → Al(OH)3 + NH3↑ (1)
【0014】
産業廃棄物処理されたアルミドロス灰では、アルミドロス灰中の窒化アルミニウムが、空気中の水分で容易に反応し有害なアンモニアを発生するため、アルミドロスから窒素を除去し、安定化(無害化)する必要がある。従来の安定化処理方法として、固体と処理水(アンモニア水)に分離する湿式処理や高温での酸化・脱ハロゲン化乾式処理等がある。乾式処理では、高温で酸化・脱ハロゲン化させるための特別な装置が必要となること、多量にエネルギーを消費すること等の問題点がある。湿式処理は、大量処理、低コストを考えた場合には有効であるため安定化処理方法として主流となっているが、処理時間が長いこと、処理装置が大型化すること等の問題点があり、一番の問題点として低濃度で利用価値の低いアンモニア廃水が発生してしまう。それにより、アンモニア廃水自体の処理を行なわなければならない。
【0015】
本発明の処理方法では、低温度の水蒸気を用いた乾式処理であり、水蒸気を用いることで、生成するアンモニアをガスとして回収する。また、アルミドロス灰を流動化させた状態で行なうことでより反応が起こりやすくなることによる短時間での処理実現が可能であり、低温度の水蒸気を用いることや短時間での処理を行なうことで、アルミドロス処理に必要なコストの削減、処理の効率化が見込める。また、アンモニアをガスとして回収した後、高濃度のアンモニアガスとし、触媒を用いて水素に変換することで新しいエネルギーとして再利用出来る可能性があり、処理後のアンモニアについての新たな利用活路を見い出すことができると考えられる。
【0016】
本発明の別の一態様としては、窒化アルミニウムを含むアルミドロス灰と水蒸気とを接触させて、アンモニアを生成する工程、
を含む、アルミドロス灰からの窒素除去方法に関する。
【0017】
さらに別の一態様としては、窒化アルミニウムを含むアルミドロス灰と水蒸気とを接触させて、アンモニアを生成する工程、
を含む、アルミドロス灰からのアンモニアの生成方法に関する。
【0018】
さらに別の一態様としては、窒化アルミニウムを含むアルミドロス灰と水蒸気とを接触させて、アンモニアを生成する工程、
を含む、アルミドロス灰からのアンモニアの採取方法に関する。
【0019】
≪アルミドロス灰≫
アルミドロス灰は、アルミを熔解する際に生成する酸素化合物、空気と反応し生成した窒素化合物等の溶滓であるアルミドロスから、金属アルミニウムを取り出した後の副産物
である。通常、アルミニウムの酸素化合物を主成分とし、金属アルミニウム、アルミニウムの窒素化合物等を含有する。アルミニウムの窒素化合物は、アルミニウムと窒素とを含む化合物であって、水との接触によりアンモニアを生成する化合物であり、例えば、窒化アルミニウムが含まれる。本発明に使用されるアルミドロス灰は、少なくとも窒化アルミニウムを含有するものであれば、特に限定されず、用いることができる。
【0020】
アルミドロス灰における成分組成比は、特に限定されない。例えば、アルミドロス灰は、上記の副産物そのものであってもよいし、副産物の処理物であってもよい。例えば、処理物は、アルミドロス灰中の所望の成分(窒化アルミニウム、金属アルミニウム、酸化アルミニウム等)の含有量が調整された組成物であってよい。
【0021】
アルミドロス灰の形態は、特に限定されず、例えば、粒子であってよい。粒子のサイズは、特に限定されないが、流動性、接触性等の観点からは小さいことが好ましい。ボールミル機等の粉砕機により、適当な粒子径となるよう粉砕して反応に用いてもよい。例えば、アルミドロス灰の粒子の粒径は、10~1,000 μm程度であってよい。
【0022】
アルミドロス灰は、固定層の状態で水蒸気と接触させてもよく、流動層の状態で水蒸気と接触させてもよい。接触性等の観点からは流動層とすることが好ましい。また、流動性を向上させるために、流動化剤を添加してもよい。流動化剤としては、反応に影響を及ぼさないものであれば、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、ケイ砂等を用いることができる。
【0023】
例えば、一態様では、アルミドロス灰を収容した容器の下方から、水蒸気を含むガスを吹き込んで、容器内に充填されたアルミドロス灰を上昇させる。その過程で、アルミドロス灰が攪拌、混合され、流動層となり、水蒸気と接触される。水蒸気を含むガスとしては、反応に影響を及ぼさないものであれば、特に限定されず、例えば、窒素ガス、空気等を用いることができる。ガスの流量は、用いる材料、目的とする反応速度等に応じて、適宜設定することができ、限定されない。
【0024】
また、別の一態様では、アルミドロス灰を収容した容器を振動または回転させる。その過程で、アルミドロス灰が攪拌、混合され、流動層となり、水蒸気と接触される。振動または回転を与える装置としては、特に限定されず、公知の装置を用いることができる。振動または回転量等は、用いる材料、目的とする反応速度等に応じて、適宜設定することができ、限定されない。
【0025】
≪水蒸気≫
本発明の処理方法においては、アルミドロス灰と水蒸気とを接触させる。水蒸気は、特に限定されず、例えば、水を蒸発器等で蒸発させ、発生させたものを用いることができる。水蒸気濃度は、用いる材料、目的とする反応速度等に応じて、適宜設定することができ、限定されないが、例えば、反応雰囲気において、10~100 vol%、30~60 vol%、または40~50 vol%であってよく、反応効率等の観点から、好ましくは40~50 vol%であり、より好ましくは40 vol%付近である。
【0026】
なお、本明細書において、「水」とは、反応に負の影響を及ぼさない限り、特に限定されず、電解質が溶解しているものであってもよく、純水でもよい。水は、例えば、イオン交換水、純水等、またはそれらを用いて調製することができる。
【0027】
本発明の処理方法においては、水蒸気は、水蒸気以外のガスとの混合ガス(水蒸気を含むガス)として、容器に供給してもよい。水蒸気以外のガスとしては、反応に影響を及ぼさないものであれば、特に限定されず、例えば、窒素ガス、空気等を用いることができる

本発明の処理方法においては、水蒸気または水蒸気を含むガスの容器への通気量は、用いる材料、目的とする反応速度等に応じて、適宜設定することができ、限定されないが、例えば、空塔速度として、0.01~0.1 m/s、0.012~0.050 m/s、または0.015~0.030 m/s
であってよく、反応効率等の観点から、好ましくは0.015~0.030 m/sである。
【0028】
また、本発明のさらなる一態様は、本発明の処理方法における、アルミドロス灰と水蒸気とを接触させて、アンモニアを生成する工程において、アルミドロス灰の表面を更新することを特徴とするものである。
【0029】
実施例に後述する通り、アルミドロス灰の水蒸気との反応において、アルミドロス灰粒子表面に時間経過とともに酸化皮膜、水酸化被膜等の保護膜が形成され、窒化アルミニウムの反応が阻害されており、アルミドロス灰粒子表面の更新を行なうことで反応の向上と継続した反応が確認された。
すなわち、本発明の処理方法において、アルミドロス灰の表面を更新することで、反応性の向上と継続的な反応性が得られる。
【0030】
アルミドロス灰の表面の更新は、特に限定されず、例えば、アルミドロス灰と表面更新材とを接触させることにより行うことができる。表面更新材としては、反応に負の影響を及ぼさないものであれば、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、ガラスビーズ、アルミナ球、ジルコニウム球、およびセラミック球等から選ばれる1種または2種以上を用いることができ、反応性向上、コスト等の観点から、好ましくはアルミナ球である。このような表面更新材は、市販のものを用いることができる。
表面更新材の使用量は、用いる材料、目的とする反応速度等に応じて、適宜設定することができ、限定されないが、例えば、アルミドロス灰に対し、質量比で、表面更新材:アルミドロス灰=0.1:1~5:1、または0.3:1~2:1であってよい。
【0031】
アルミドロス灰と表面更新材との接触は、アルミドロス灰と表面更新材とが入った容器へのガスの流入や、容器の振動または回転等により促進することができる。
【0032】
表面更新材の粒径は、用いる材料、目的とする反応速度等に応じて、適宜設定することができ、限定されないが、例えば、JIS R6001におけるF70(粒度250~180 μm)、F80(
粒度212~150 μm)等のものが挙げられる。
【0033】
アルミドロス灰と水蒸気とを接触させる反応系の温度は、用いる材料、目的とする反応速度等に応じて、適宜設定することができ、限定されないが、例えば、反応雰囲気において、100~300 ℃、110~200 ℃、130~170 ℃、または140~160 ℃であってよく、反応効率等の観点から、好ましくは140~160 ℃であり、より好ましくは150 ℃付近である。本
発明の処理方法では、従来の乾式法に比べ、比較的低温での処理が可能であり、簡便性やコスト面等で有利である。
【0034】
本発明の処理方法は、目的とするアルミドロス灰からの窒素除去率等の達成等によって、その終点を適宜決めることが可能であり、アルミドロス灰の組成を分析すること等により確認することが可能である。
アルミドロス灰からの窒素除去率は、実施例に後述する方法等で算出することができる。本発明の処理方法によるアルミドロス灰からの窒素除去率は、用いる材料、反応条件等に応じて、変化し、限定されないが、例えば、反応5時間において、窒素除去率が10%以上、20%以上、30%以上、40%以上または45%以上である。
【0035】
本発明の乾式処理後のアルミドロス灰を分離することにより、処理済みのアルミドロス
灰が得られる。本発明の処理方法は、このような分離のための操作も必要に応じて含んでよい。また、回収したアンモニアについて精製等の操作も必要に応じて含んでよい。分離、精製等は、常法に基づいて、行うことができる。
【0036】
<アンモニアの製造方法>
本発明の別の一態様は、窒化アルミニウムを含むアルミドロス灰と水蒸気とを接触させて、アンモニアを生成する工程、を含む、アンモニアの製造方法(以下、「本発明の製造方法」ということがある。)に関する。
【0037】
本発明の製造方法において、アルミドロス灰を水蒸気により乾式処理することにより、残留窒化アルミニウムを酸化するとともに、窒素成分を除去し、アンモニアを生成することができる。すなわち、アルミドロス灰からアンモニアを製造することができる。本発明の処理方法では、従来の湿式法に比べ、短時間での処理が可能であり、高濃度のアンモニアは採取でき、効率やコスト面等で有利である。
本発明の製造方法は、さらに、アンモニアを採取する工程を含んでよい。
【0038】
生成したアンモニアは、通常、乾式処理により発生する気体を水中に溶解させ、アンモニア水として採取することができ、例えば、気体を、反応管から接続され回収容器の水中に開口を有する管により、系外に取り出し、回収することができる。また、生成したアンモニアは、系内の条件によっては気体として回収することもでき、例えば、反応管から接続され回収容器に開口を有する管により、または回収容器の水面の上の空間から接続されガスバックに開口を有する管により、アンモニアガスとして系外に取り出し回収することができる。アンモニア水またはアンモニアガスの回収方法としては特に限定されず、例えば、既存の方法を用いることができる。
【0039】
なお、上記本発明の処理方法において説明された事項は、および本発明の製造方法の説明に全て適用される。
【0040】
<アルミドロス灰の処理装置>
本発明の処理方法に使用される処理装置の一態様は、窒化アルミニウムを含むアルミドロス灰を収容可能な容器と、前記容器に、水蒸気を供給するためのガス供給装置、とを少なくとも有する、アルミドロス灰の処理装置である。
【0041】
以下、処理装置の各構成について、説明する。
≪容器≫
容器は、アルミドロス灰を収容可能なものであり、アルミドロス灰の乾式処理を実施するのに十分な化学的な安定性および機械的な強度を有するものであれば特に限定されない。また、容器の形態は、特に限定されない。
【0042】
≪ガス供給装置≫
ガス供給装置は、容器に水蒸気を供給可能なものであれば特に限定されない。ガス供給装置は、例えば、水蒸気発生装置と、容器中にガスを供給するガス供給部材によって構成し得る。
【0043】
水蒸気発生装置は、水蒸気を発生するための装置であり、公知の蒸発器等であってよい。
ガス供給部材は、水蒸気に対する十分な耐性を有するとともに、アルミドロス灰と水蒸気とを十分に接触可能に供給可能なものであれば特に限定されない。例えば、ガス供給部材は、ポンプ、ガス供給管等である。
また、水蒸気とともに、水蒸気以外のガスを容器に流入させる場合は、ガス供給装置は
、ポンプ、ガスボンベ等と、容器中にガスを供給するガス供給部材を含み得る。
【0044】
≪その他の構成≫
処理装置は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した容器およびガス供給装置以外の他の構成をさらに有していてもよい。このような他の構成の例には、回収容器、ガスバック、温度調整装置、センサーおよび振動または回転装置等が含まれる。
【0045】
回収容器は、容器内で発生したガスあるいは未反応ガスを回収するための装置である。回収容器は、例えば、容器に接続される管と、ガス回収用容器、およびガス回収用の水等の水性媒体等とを有していてもよい。
ガスバックは、容器内で発生したガスあるいは未反応ガス、または回収容器から送達されるガスを回収するための装置である。ガスバックは、これらのガスを収容可能ものであれば特に限定されない。
【0046】
温度調整装置は、例えば、容器内の反応雰囲気の温度を調整するための装置である。温度調整装置は、容器の形態に応じて、公知の温度調整装置の中から適宜に決めることが可能である。例えば、容器の外周面に配置されるリボンヒーターおよび断熱材等が含まれる。
【0047】
センサーは、容器内の反応系の状態を検出するための装置である。センサーは、1種でもそれ以上でもよい。センサーの例には、容器内の反応雰囲気の温度を検出するための温度計、容器内の反応雰囲気の水蒸気濃度を検出するための湿度計等が含まれる。
【0048】
振動または回転装置は、容器内のアルミドロス灰(表面更新材等を含む場合には、アルミドロス灰および表面更新材等)を撹拌するための装置である。振動または回転装置には、公知の装置を用いることができる。
【0049】
なお、上記本発明の処理方法および本発明の製造方法において説明された事項は、処理装置の説明に全て適用される。
【0050】
≪処理装置の具体的態様≫
本発明の処理方法に使用される一形態の処理装置を、図1を参照して説明するが、本発明は本態様に限定されるものではない。
【0051】
図1に示されるように、処理装置は、反応管、ガス供給管、蒸発器、ポンプ、ガスボンベ、回収容器およびガスバックを有する。
【0052】
ここでは、反応管は、ガラス製の管である。反応管は、前記の容器の一例である。
【0053】
ガス供給管は、反応管に固定されており、反応管内のアルミドロス灰の下方に接続されている。蒸発器は、ガス供給管に接続されており、水蒸気を発生する。ポンプは、蒸発器に接続されており、蒸発器およびガス供給管を介して反応管に水蒸気を定量的に供給する。ガスボンベは、蒸発器に接続されており、蒸発器およびガス供給管を介して反応管に水蒸気を含むガスを定量的に供給する。
ガス供給管、蒸発器、ポンプおよびガスボンベは、前記のガス供給装置の一例である。
【0054】
ここでは、回収容器は、ガラス製のフラスコである。回収容器は、反応管内の気相部となる位置から回収容器の水中に開口を有する管により接続されている。ガスバックは、回収容器の水面の上の空間からガスバックに開口を有する管により接続されている。
【0055】
例えば、反応管に、アルミドロス灰を収容し、水蒸気を含むガスを反応管に供給することで、アルミドロス灰中の窒化アルミニウムから窒素成分を除去する、本発明のアルミドロス灰の乾式処理が実施される。
【実施例0056】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の例示であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0057】
(アルミドロス灰の準備)
アルミニウムメーカーより提供されたアルミドロス灰を実験に使用した。
使用したアルミドロス灰中のアルミニウム含有率は68.1 %、窒素含有率は4.18 %であった。アルミニウム含有率は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(XRF:EDX-7000;島津製作
所製)により測定した。窒素含有率は、以下の方法により測定した。
【0058】
(ケイ砂およびアルミナの準備)
流動化材料として、ケイ砂(粒度106~177μm)、表面更新材としてアルミナ(粒度180
~250 μm)を用いた。
【0059】
(アルミドロス灰中の窒素定量)
・方法
試薬の調製、アルミドロス灰分解試料の調製、アンモニア回収、アンモニア定量を行う。
【0060】
・試薬の調製
・塩酸(1+1)
塩酸とイオン交換水を1:1の比率で混合し6 mol/L 塩酸を調製する。
・過酸化水素(1+9)
過酸化水素とイオン交換水を1:9の比率で混合し調製する。
0.5 mol/L (F=1.000)硫酸標準液
標定済みの試薬を購入して用意し、購入して数ヶ月経過しているものを使用する際は、硫酸標準液の硫酸イオンを陰イオンクロマトグラフィーで標定する。
・12.5 mol/L 水酸化ナトリウム溶液
水酸化ナトリウムを15 g取り、イオン交換水で30 mLとする。
・0.2 mol/L 水酸化ナトリウム標準溶液
(1)12.5 mol/L 水酸化ナトリウム溶液の上澄み液16 mL取り、イオン交換水で1 Lとする。(2)0.5 mol/L (F=1.000)硫酸標準液を5倍希釈したものを20 mL用意する。
(3)BTB溶液を(2)の溶液に3滴加え、0.2 mol/L水酸化ナトリウム溶液で中和滴定を行ない
標定する。
・BTB溶液
調製されているものを用意する。
【0061】
・アルミドロス灰分解試料の調製
(1)ボールミル機を使って2 h粉砕処理をしたアルミドロス灰を2 g量り取り、ビーカーに
入れる。
(2)ビーカーを時計皿で覆い、塩酸(1+1)30 mLを少しずつ加える。
(3)反応が穏やかになった後、過酸化水素(1+9)10 mLを少しずつ加える。
(4)加熱し可溶分を完全に分解し、室温まで冷却する。
(5)時計皿の下面をイオン交換水で洗い、洗液はビーカーに入れる。
【0062】
・アンモニア回収
(1)セミミクロケルダール窒素蒸留装置ガラスセットを組立てる。
(2)アルミドロス灰分解試料をケルダールフラスコに入れ、設置する。
(3)回収容器として三角フラスコを2つ用意し、それぞれにイオン交換水を60 mL入れ1つ目の三角フラスコを冷却器の留出口がフラスコの溶液に浸るように設置する。
(4)約1時間蒸留する。
(5)蒸留終了後、冷却器の留出口を留出液から分離し、ピンチコックを解放する。
【0063】
・アンモニア定量
アンモニア定量装置AT-2000(セントラル科学株式会社製)での分析
(1)留出液を一定量分取し、超純水で10倍希釈する。
(2)測定レンジ0~200.0 mg/L(サンプル量0.1 mL)で留出液中のアンモニア濃度を分析する。
(3)分析結果から回収したアンモニア量を算出し、アルミドロス灰中の窒素含有率を算出
する。
【0064】
窒素含有率Ncは、留出液中のアンモニア量(質量)をM1、アルミドロス灰量(質量)をM2とすると、下記式で表される。
【0065】
Nc(%)={M1×(14.01/17.03)/M2}×100
【0066】
(アンモニアのGC-BIDによる分析)
・装置 誘電体バリア放電イオン化検出器搭載ガスクロマトグラフ装置(GC-BID:Nexis GC-2030;島津製作所製)
・カラム Rtx-Wax;RESTEK社製
・分析条件
試料注入量:1.0 μL
スプリト比:10
カラムオーブン温度:80 ℃
温度プログラム:
80 ℃ →(3 ℃/min) 90 ℃(1 minホールド) →(40 ℃/min) 200 ℃(1 minホールド)
【0067】
(実験装置)
図1に示すような処理装置を用いてアルミドロス灰の乾式処理を行った。シリンジポンプから流すイオン交換水をソフトウェアでコントロールし、蒸発器で水蒸気にする。反応管にあるアルミドロス灰に水蒸気と窒素を下側から流し、流動化させ反応させる。水蒸気の状態で回収容器のアンモニア回収に用いる液体(回収液)まで流し、アンモニアを回収する。図1では回収容器は3つあり、後段にガスバックがあるが1つ目の回収容器でアンモニアをほとんど回収できていることが分かった。そのため、ほとんどの実験では回収容器は1つでガスバックは用いなかった。
【0068】
<湿式処理との比較>
(実施例1)
反応管に1.0 gのアルミドロス灰および0.3 gのケイ砂を収容した。シリンジポンプから流すイオン交換水を、蒸発器で水蒸気にした。ガスボンベから窒素ガスを1.67×10-6m3/sの流量で流し、窒素ガスと水蒸気の混合ガスとして、反応管(断面積1.13×10-4m2)に、アルミドロス灰の下方より供給した(空塔速度 0.015[m/s])。ガス供給より、アルミド
ロス灰は流動層となる。イオン交換水の量を調整し、水蒸気濃度が設定の濃度(40 vol%
)となるように調整した。反応管をヒーターで加温し、反応雰囲気の温度を設定の温度(150 ℃)まで上昇させた。こうして、アルミドロス灰の乾式処理を開始した。乾式処理中
、回収液を取り出し、GC-BIDで分析し、アンモニアの濃度を測定した。回収したアンモニア量を算出し、乾式処理によるアルミドロス灰からの窒素除去率を算出した。
【0069】
経過時間までの窒素除去率RNは、乾式処理前のアルミドロス灰より生成されるアンモニア量(理論値)をN1、乾式処理で回収したアンモニア量(経過時間までの積算値)をN2として、下記式で表される数値として算出した。
【0070】
RN(%)={N2/N1}×100
【0071】
(比較例1)
比較例として、アルミドロス灰1.0gを水(常温)50 mLに浸漬し、アルミドロス灰の湿式
処理を実施した。湿式処理中、反応液を採取し、GC-BIDで分析し、アンモニアの濃度を測定した。回収したアンモニア量を算出し、湿式処理によるアルミドロス灰からの窒素除去率を算出した。
【0072】
<水蒸気濃度の違いにおける窒素除去率との比較>
(実施例2、3)
水蒸気濃度を30 vol%(実施例2)、60 vol%(実施例3)とする以外は、実施例1と同様にして、アルミドロス灰の乾式処理を実施した。
【0073】
<流動化の有無による窒素除去率との比較>
(実施例4)
反応管内のアルミドロス灰層が流動化しないようにして固定層の状態で水蒸気に反応させた以外は、実施例1と同様にして、アルミドロス灰の乾式処理を実施した。
【0074】
<結果>
結果を図2に示す。水蒸気処理と湿式処理の経時変化を示している。縦軸は窒素除去率[%]、横軸は経過時間[h]である。反応条件は、グラフに示している通りである。
【0075】
実施例1(水蒸気処理(水蒸気濃度40 vol%))と比較例1(湿式処理)の比較について
、アルミドロス灰を水に浸漬し反応させた場合と水蒸気に反応させた場合では、反応の進み方に大きな違いがあることが分かった。アルミドロス灰を水に浸漬させると10 hまではほとんど窒素除去率は上昇せず、時間をおいて25 hで窒素除去率が約8 %に達した。この
ことから、水に浸漬すると浸漬直後の反応は非常に低いことが言える。これに対し、アルミドロス灰を水蒸気に反応させると、5 hには窒素除去率が20 %に達し、その後25 h で40
%を超える窒素除去率を達成した。水蒸気の反応では、反応開始直後の反応が高く、その後しばらくは継続して窒素除去率が上がる。徐々に窒素除去率は緩やかになっている。
【0076】
水蒸気での反応の仕方の要因として、アルミドロス粉末表面にすでに露出していた窒化アルミニウムが水蒸気と反応させたことで一気に反応したこと、経過時間とともに窒化アルミニウムの表面に酸化皮膜が形成されたことによって反応が進みづらくなったこと等が考えられる。
以上のことより、アルミドロス灰との反応の仕方では、特に反応開始直後の反応で圧倒的に水蒸気処理の方が高く、短時間による処理が大いに見込める結果となった。
【0077】
水蒸気での反応について全体的に見ると、反応速度は反応開始直後が一番高く、時間が経つごとに反応は緩やかになっていく傾向にある。
実施例2(水蒸気濃度30 vol%)、実施例1(水蒸気濃度40 vol%)、実施例3(水蒸気濃度60 vol%)を比較すると40 vol%の場合が他に比べ窒素除去率が高くなった。このことから、水蒸気濃度が高ければ高いほど窒素除去率が上がるわけではなく、好適な条件があ
ることが分かった。
【0078】
水蒸気濃度60 vol%より40 vol%の方が窒素除去率が高くなった要因として、粒子表面に生成する酸化皮膜の生成速度が影響していると考えられる。水蒸気濃度が高いと粒子表面に酸化皮膜が反応の早い段階で生成され、反応を阻害する可能性がある。
【0079】
実施例1(流動化状態での水蒸気濃度が40 vol%)と実施例4(流動化させなかった固
定層での水蒸気濃度が40 vol%)を比較すると、反応初期段階では、固定層の方の反応率
が高くなったが、時間が経過すると流動化状態の方の反応率が高くなった。これは、固定層で水蒸気と反応させることで、すでに露出しているアルミドロス灰中の窒化アルミニウムが流動化している時に比べて多く接触し反応が起こったと考えられる。時間が経つと、流動化していないことから新たに粒子表面の窒化アルミニウムが水蒸気と反応しづらくなり窒素除去率が一定になった可能性がある。
【0080】
<反応温度の違いにおける窒素除去率の比較>
(実施例5~8)
実施例1において、窒素ガスを3.34×10-6m3/s、反応温度を実施例5(110 ℃)、実施例6(150 ℃)、実施例7(170 ℃)、実施例8(200 ℃)、反応時間を1時間とした。
それ以外は、実施例1と同様にして、アルミドロス灰の乾式処理を実施した。
【0081】
<結果>
結果を図3に示す。反応温度の違いにおける窒素除去率の比較を示している。縦軸が窒素除去率[%]、横軸が反応管の反応温度[℃]である。反応条件は、グラフに示している通
りである。
【0082】
グラフから分かるように、反応温度150 ℃の時、最も窒素除去率が高かった。150 ℃をピークに、低い温度もしくは高い温度であると反応率は低くなった。
反応温度150 ℃を境に高温下で窒素除去率が低下する理由として、窒化アルミニウム表面に生成される酸化皮膜の影響が考えられる。アルミドロス灰を水蒸気で反応させている時、窒化アルミニウムからアンモニアが生成される反応、アルミニウムの酸化反応の両方が起こっていると考えられる。両方の反応の速さが反応温度150 ℃より高くなると、
アルミニウムの酸化反応>窒化アルミニウムからアンモニアが生成される反応
となり窒化アルミニウムが水蒸気と反応する前に酸化され、水蒸気と反応できる窒化アルミニウムが少なくなっている可能性がある。
【0083】
<水蒸気処理での粒子表面更新による窒素除去率の変化と影響>
(実施例9~11)
水蒸気処理では、時間経過とともに粒子表面に酸化アルミニウムの保護膜ができ、窒化アルミニウムの反応が阻害されている可能性があることが分かったため、粒子表面の更新を行なうことで反応の向上と継続した反応が出来ると考えた。そこで、アルミドロス灰に流動化しやすくするために添加するケイ砂を、密度の高いアルミナに変更し、粒子表面更新の向上を狙い、検討を行った。
【0084】
以下のように実験を行った。
(1)反応管の底部に石英ウールを詰めた後、量り取った1.0 gのアルミドロス灰、0.3 gの
アルミナ(実施例9)、1.0 gのアルミドロス灰、1.0 gのアルミナ(実施例10)、および1.0 gのアルミドロス灰、2.0 gのアルミナ(実施例11)をそれぞれ入れ、振り混ぜた。
(2)反応管の上部に石英ウールを詰め、回収容器とともに装置に設置し、リボンヒーター
で周りを巻き、その上を断熱材で巻いた。
(3)反応管、蒸発器を設定の温度まで上昇させた。
(4)回収容器にイオン交換水を40 mL量り取って入れ、回収容器同士と反応管と連結させた。(回収容器3つで分析を行なった時、2、3つ目の回収容器は窒素除去率が合わせて数%の
オーダーであったため、経過時間で分析した実験は、回収容器1つで行なった。)
(5)昇温後、窒素、水を流して反応を開始させた(空塔速度 0.015[m/s])。
(6)反応終了後、回収容器を取り出し、イオン交換水で50 mLにメスアップした。
(7)バイアル瓶に移し替え、GC-BIDで分析した。
(8)2回目以降の回収容器取り付け後には表面更新が確実に行なわれるようにするため、表面更新のサンプルについて、空塔速度を5分間以下のように0.045~0.15[m/s]の間で上げ
た。
アルミナ:アルミドロス灰(質量比)=1:1と0.3:1の時、2回目の取り付け時0.075m/s
、3回目以降は0.15m/sとした。
アルミナ:アルミドロス灰(質量比)=2:1の時、2回目以降0.045m/sとした。
異なる空塔速度となっているのは、実験時のアルミドロス灰とアルミナの混合層において、その時の層の状態によって層の流動挙動が異なっているように見えたため、目視で判断し同じような挙動を示している空塔速度で表面更新を行なった。
【0085】
<結果>
図4に結果を示す。水蒸気処理で表面更新無しの反応と表面更新を行なった反応の経時変化を比較したものを示している。縦軸は窒素除去率[%]、横軸は経過時間[h]である。丸(実施例11)、菱形(実施例10)、三角(実施例9)の点が添加物をアルミナにし、粒子表面の更新時間を設けて実験した時の結果である。表面更新(m/m=100/100)とは、ア
ルミナ:アルミドロス灰(質量比)=1:1であることを意味している。四角の点は添加物
がケイ砂の時の結果であり、図2で示した水蒸気濃度40 vol%(実施例1)と同じもので
ある。反応条件は、グラフに示している通りである。
【0086】
このグラフから分かる通り、同じ水蒸気濃度であれば添加物がアルミナの方が窒素除去率が高くなっている。これは、ケイ砂からアルミナに変更したことにより粒子の密度が高くなることで、流動化させた時のアルミドロス灰との衝突エネルギーが高くなり、粒子表面の更新能力が向上したと考えられる。アルミナの割合が30 %から100 %になった時に窒
素除去率が高くなっていることについて、アルミナ量が増えたことで、粒子表面更新能力が向上したと考えられる。
【0087】
<考察>
以上の通り、本発明の水蒸気を用いたアルミドロス灰乾式処理を行うことにより、残留窒化アルミニウムより、窒素成分を除去できた。特にアルミドロス灰との反応開始直後の反応の仕方では圧倒的に水蒸気処理の方が水に浸漬した湿式処理より高いことが判明した。アルミドロス灰の水蒸気処理の好適条件としては、従来の乾式処理より低温の条件であった。
また、アルミドロス灰の反応のメカニズムには、粒子表面に生成していると考えられる酸化皮膜、水酸化被膜等の保護膜が大きく影響していると考えられ、表面更新が反応性向上に寄与することを見出した。
アルミドロス灰との反応の仕方では、特に反応開始直後の反応が圧倒的に水蒸気処理の方が高く、短時間による処理、好適条件として比較的低い反応温度および水蒸気濃度により低コストでの運用が見込めること等から、低温度の水蒸気を用いた短時間の処理による乾式処理プロセスは大いに有利であると思われる。表面更新を行うことで、さらなる窒素除去率の向上も見込める。さらに生成されたアンモニアは高濃度アンモニア水として再利用、アンモニアガスを触媒により水素に変換し新たなエネルギーとして再利用が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明により、アルミドロス灰の処理が普及されると共に、アンモニアを資源として利用できるため、産業上の利用増加が期待される。
図1
図2
図3
図4