(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077007
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】スティックスリップ周波数特定方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20230529BHJP
G01N 19/00 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
G01N19/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190080
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 浩人
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB16
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC42
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】スティックスリップ周波数を特定する。
【解決手段】データ取得部46は、加速度センサ16が検出した試験片Sの振動レベルに基づいて、試験片Sの各振動周波数に対する振動周波数成分の時間変化を示す振動データ40を取得する。また、データ取得部46は、マイクロホン18が検出した試験片Sが発する音の音圧レベルに基づいて、各音響周波数に対する音響周波数成分の時間変化を示す音響データ42を取得する。周波数特定部48は、振動データ40において、振動周波数成分が相対的に大きい振動周波数をスティックスリップ周波数として特定する。又は、周波数特定部48は、音響データ42において、音響周波数成分が相対的に大きい音響周波数をスティックスリップ周波数として特定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム製の試験片を当接面に押し付けた状態で、前記当接面の面方向に前記試験片を前記当接面に対して相対的に移動させたときの、前記試験片の各振動周波数に対する振動周波数成分の時間変化を示す振動データを取得する振動データ取得ステップと、
前記振動データにおいて前記振動周波数成分が相対的に大きい前記振動周波数を、前記試験片と前記当接面との間におけるスティックスリップ周波数として特定する周波数特定ステップと、
を含むことを特徴とするスティックスリップ周波数特定方法。
【請求項2】
前記試験片を前記当接面に押し付けた状態で、前記当接面の面方向に前記試験片を前記当接面に対して相対的に移動させたときに発生する音の、各音響周波数に対する音響周波数成分の時間変化を示す音響データを取得する音響データ取得ステップと、
前記振動データと前記音響データとに基づいて、各周波数についての、前記振動周波数成分と前記音響周波数成分との相関値を示すコヒーレンスデータを取得するコヒーレンスデータ取得ステップと、
をさらに備え、
前記周波数特定ステップにおいて、前記コヒーレンスデータにおいて前記相関値が相対的に大きい周波数を前記スティックスリップ周波数として特定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のスティックスリップ周波数特定方法。
【請求項3】
前記コヒーレンスデータ取得ステップにおいて、前記振動データと前記音響データとに基づいて、各周波数に対する前記相関値の時間変化を示すウェーブレットコヒーレンスデータを取得し、
前記周波数特定ステップにおいて、前記ウェーブレットコヒーレンスデータにおいて前記相関値が相対的に大きい領域である演算対象領域を確定し、前記演算対象領域に含まれる前記相関値に基づいて前記スティックスリップ周波数を特定する、
ことを特徴とする請求項2に記載のスティックスリップ周波数特定方法。
【請求項4】
前記当接面は、前記当接面の面方向に前記試験片を前記当接面に対して相対的に移動させたときの動摩擦係数が1.4以上、且つ、前記当接面の粗さを表す平均プロファイル深さが0.1未満である、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のスティックスリップ周波数特定方法。
【請求項5】
ゴム製の試験片を当接面に押し付けた状態で、前記当接面の面方向に前記試験片を前記当接面に対して相対的に移動させたときに発生する音の、各音響周波数に対する音響周波数成分の時間変化を示す音響データを取得する音響データ取得ステップと、
前記音響データにおいて前記音響周波数成分が相対的に大きい前記音響周波数を、前記試験片と前記当接面との間におけるスティックスリップ周波数として特定する周波数特定ステップと、
を含むことを特徴とするスティックスリップ周波数特定方法。
【請求項6】
ゴム製の試験片を当接面に押し付けた状態で、前記当接面の面方向に前記試験片を前記当接面に対して相対的に移動させたときの、前記試験片の各振動周波数に対する振動周波数成分の時間変化を示す振動データを取得する振動データ取得部と、
前記振動データにおいて前記振動周波数成分が相対的に大きい前記振動周波数を、前記試験片と前記当接面との間におけるスティックスリップ周波数として特定する周波数特定部と、
を備えることを特徴とするスティックスリップ周波数特定装置。
【請求項7】
ゴム製の試験片を当接面に押し付けた状態で、前記当接面の面方向に前記試験片を前記当接面に対して相対的に移動させたときに発生する音の、各音響周波数に対する音響周波数成分の時間変化を示す音響データを取得する音響データ取得部と、
前記音響データにおいて前記音響周波数成分が相対的に大きい前記音響周波数を、前記試験片と前記当接面との間におけるスティックスリップ周波数として特定する周波数特定部と、
を備えることを特徴とするスティックスリップ周波数特定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スティックスリップ周波数特定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ある物体が他の物体に接触しながら移動するときに、スティックスリップ現象という現象が生じる場合がある。スティックスリップ現象とは、移動する物体が、連続的に滑らかに移動せずに、滑りと他の物体への固着とが交互に起きて間欠的に移動する現象をいう。
【0003】
従来、スティックスリップ現象の解析に係る技術が提案されている。例えば、特許文献1には、相手材とゴム製の試験片とを所定荷重にて接触させて回転させ、回転を始める際の最大摩擦力と、回転後摩擦力が一定値に落ち着いた動摩擦力に基づいて、試験片と相手材との間におけるスティックスリップのし易さを評価する方法が開示されている。また、特許文献2には、駆動モータにより回転する回転体の円周面に試験サンプルを圧着させることで、試験サンプルの耐摩耗性を評価する方法であって、駆動モータの回転駆動に要する電力の変動に基づいて、試験サンプルに生じるスティックスリップ現象の発生周期を算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-17064号公報
【特許文献2】特許第6794684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ある物体が当接面に当接しながら移動すると、スティックスリップ現象によって当該物体が振動することになる。本明細書では、スティックスリップ現象によって生じる当該物体の振動の周波数をスティックスリップ周波数と呼ぶ。
【0006】
スティックスリップ周波数は、物体又は当接面の組成や形状などに応じて変動し得るが、スティックスリップ周波数を特定することが有意義となる場合がある。例えば、タイヤと路面との間で生じるスティックスリップによって生じる音、すなわちスティックスリップ周波数の周波数成分を多く含む音が、タイヤ騒音に寄与していると考えられる。そこで、スティックスリップ周波数を特定可能であれば、タイヤの組成やパターン形状などを変更することで、スティックスリップ周波数における騒音レベルを制御することが可能となり得る。
【0007】
本発明の目的は、スティックスリップ周波数を特定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゴム製の試験片を当接面に押し付けた状態で、前記当接面の面方向に前記試験片を前記当接面に対して相対的に移動させたときの、前記試験片の各振動周波数に対する振動周波数成分の時間変化を示す振動データを取得する振動データ取得ステップと、前記振動データにおいて前記振動周波数成分が相対的に大きい前記振動周波数を、前記試験片と前記当接面との間におけるスティックスリップ周波数として特定する周波数特定ステップと、を含むことを特徴とするスティックスリップ周波数特定方法である。
【0009】
スティックスリップ現象が発生すると、試験片はスティックスリップ周波数で振動することになる。したがって、上記構成によれば、振動データにおいて、相対的に大きい振動周波数成分を有する振動周波数をスティックスリップ周波数として特定することができる。
【0010】
また、本発明は、ゴム製の試験片を当接面に押し付けた状態で、前記当接面の面方向に前記試験片を前記当接面に対して相対的に移動させたときに発生する音の、各音響周波数に対する音響周波数成分の時間変化を示す音響データを取得する音響データ取得ステップと、前記音響データにおいて前記音響周波数成分が相対的に大きい前記音響周波数を、前記試験片と前記当接面との間におけるスティックスリップ周波数として特定する周波数特定ステップと、を含むことを特徴とするスティックスリップ周波数特定方法である。
【0011】
スティックスリップ現象が発生すると、試験片はスティックスリップ周波数で振動し、スティックスリップ周波数を主成分とする音を発生させる。したがって、上記構成によれば、音響データにおいて、相対的に大きい音響周波数成分を有する音響周波数をスティックスリップ周波数として特定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スティックスリップ周波数を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本実施形態に係るスティックスリップ周波数特定装置の構成概略図である。
【
図5】コヒーレンスデータの例を示すグラフである。
【
図8】ウェーブレットコヒーレンスの例を示すグラフである。
【
図9】本実施形態に係るスティックスリップ周波数特定装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本実施形態に係る試験装置10の概略図である。試験装置10は、ゴム製の試験片Sに関するスティックスリップ周波数を特定するためのデータを取得する装置である。本実施形態では、ゴム製のタイヤが路面に当接しながら移動(スリップ)した際のスティックスリップ周波数を特定するため、試験片Sは、ゴム製のタイヤの一部分を切り取った試験片、あるいは、トレッド面にタイヤパターンを刻んだ直方体型ゴム型の試験体などである。なお、試験片Sとしては、他の物体に当接しながら移動することでスティックスリップ現象が生じ得るものであれば、どのようなものであってもよい。
【0015】
試験装置10は、当接面12及びベース14を含んで構成されている。当接面12は、試験片Sが当接しながら移動する面である。なお、
図1に示される通り、本明細書においては、当接面12と平行な方向をX軸方向とし、当接面12と平行な方向でありX軸方向に垂直な方向をY軸方向とし、当接面12に垂直な方向をZ軸方向としている。
【0016】
上述の通り、本実施形態では、タイヤが路面に当接しながら移動した際のスティックスリップ周波数を特定するから、当接面12は路面を模したものとなっている。特に、当接面12としては、試験片Sにおいてスティックスリップ現象が発生し易いものであるとよい。試験片Sにおいてスティックスリップ現象が発生し易い当接面12の条件として、当接面12の面方向に試験片Sを当接面12に対して相対的に移動させたときの動摩擦係数が1.4以上、且つ、当接面12の粗さを表す平均プロファイル深さ(MPD(Mean Profile Depth))が0.1未満という条件が挙げられる。そのような条件を満たす当接面12としては、例えばアルミニウム製の面である。
【0017】
ベース14は、試験片Sを当接面12に当接させながら、当接面12の面方向に移動させるための機構である。ベース14の下側面にゴム製の試験片Sが接着される。ベース14には、不図示の機構によって当接面12側(Z軸負方向側)への荷重が掛けられ、これにより試験片Sが当接面12に押し付けられる。その状態で、ベース14は、不図示のモータの駆動力により、一定の速度において当接面12に沿って移動する。本実施形態では、ベース14は、X軸正方向に移動している。これにより、試験片Sは、当接面12に当接しながら移動する。なお、本実施形態では、ベース14が可動部となっているが、試験装置10においては、当接面12とベース14(すなわち試験片S)が相対的に移動すればよいため、ベース14(試験片S)を固定して当接面12を面方向に移動させるようにしてもよい。
【0018】
また、試験装置10は、加速度センサ16を有している。加速度センサ16は、試験片Sが当接面12に押し付けられながら当接面12の面方向に移動したときの試験片Sの振動レベルを検出するセンサである。加速度センサ16は、試験片Sが移動している間、試験片Sの振動レベルの検出を継続する。加速度センサ16が検出した振動レベルは、スティックスリップ周波数特定装置(後述)に送信される。なお、加速度センサ16としては、例えば静電容量式加速度センサなど、従来の加速度センサを用いることができる。
【0019】
本実施形態においては、試験装置10は複数の加速度センサ16a~16fを有している。加速度センサ16aは、試験片Sの移動方向における前側のX軸方向の振動レベルを検出するものであり、加速度センサ16bは、試験片Sの移動方向における前側のZ軸方向の振動レベルを検出するものであり、加速度センサ16cは、試験片Sの移動方向における後側のX軸方向の振動レベルを検出するものであり、加速度センサ16dは、試験片Sの移動方向における後側のZ軸方向の振動レベルを検出するものであり、加速度センサ16eは、ベース14のX軸方向の振動レベルを検出するものであり、加速度センサ16fは、ベース14のZ軸方向の振動レベルを検出するものである。なお、加速度センサ16e及び16fはベース14に取り付けられているが、これらは、試験片Sからベース14に伝わった振動を検出するものであり、加速度センサ16e及び16fも試験片Sの振動(特に試験片Sのベース14側部分の振動)を検出しているものと言える。
【0020】
さらに、試験装置10は、マイクロホン18を有している。マイクロホン18は、試験片Sが当接面12に押し付けられながら当接面12の面方向に移動したときに発生する音の音圧レベルを検出するセンサである。マイクロホン18は、試験片Sが移動している間、音圧レベルの検出を継続する。マイクロホン18は、試験片Sの移動方向の側方に設けられる。すなわち、本実施形態では、試験片SはX軸方向に移動するから、マイクロホン18は、試験片SのY軸方向側に設けられる。マイクロホン18が検出した音圧レベルは、スティックスリップ周波数特定装置に送信される。
【0021】
図2は、本実施形態に係るスティックスリップ周波数特定装置30の構成概略図である。スティックスリップ周波数特定装置30は、詳しくは後述するように、加速度センサ16が検出した試験片Sの振動レベル、又は、マイクロホン18が検出した音圧レベルに基づいて、試験片Sと当接面12との間におけるスティックスリップ周波数を特定するスティックスリップ周波数特定処理を実行する装置である。スティックスリップ周波数特定装置30は、例えば試験装置10に付帯するコンピュータあるいはサーバコンピュータなどにより構成することができる。なお、スティックスリップ周波数特定装置30は複数のコンピュータから構成されるようにしてもよい。すなわち、以下に説明するスティックスリップ周波数特定装置30が発揮する機能は、複数のコンピュータの協働により実現されてもよい。
【0022】
通信インターフェース32は、例えばNIC(Network Interface Card)や種々の通信コネクタなどから構成される。通信インターフェース32は、通信回線を介して、加速度センサ16及びマイクロホン18を含む他の装置と通信する機能を発揮する。例えば、通信インターフェース32は、加速度センサ16から検出信号(試験片Sの振動レベル)を受信し、マイクロホン18から検出信号(音圧レベル)を受信する。また、通信インターフェース32は、スティックスリップ周波数特定処理の処理結果を他の装置に送信する。
【0023】
入力インターフェース34は、例えばマウスやキーボードなどから構成される。入力インターフェース34は、スティックスリップ周波数特定装置30のユーザが種々の命令を入力する際に用いられる。
【0024】
ディスプレイ36は、例えば液晶パネルや有機ELパネルなどから構成される。ディスプレイ36には種々の画面が表示される。例えば、ディスプレイ36には、スティックスリップ周波数特定処理の処理結果などが表示される。
【0025】
メモリ38は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、eMMC(embedded Multi Media Card)、ROM(Read Only Memory)あるいはRAM(Random Access Memory)などを含んで構成される。メモリ38には、試験片Sについてのスティックスリップ周波数特定処理を実行するためのスティックスリップ周波数特定プログラムが記憶される。なお、スティックスリップ周波数特定プログラムは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ又はCD(Compact Disc)-ROMなどのコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納することができる。スティックスリップ周波数特定装置30は、スティックスリップ周波数特定プログラムが記憶された記憶媒体を読み取ることで、スティックスリップ周波数特定プログラムを実行することができる。
【0026】
また、
図2に示す通り、メモリ38には、振動データ40及び音響データ42が記憶される。振動データ40及び音響データ42については、プロセッサ44(特にデータ取得部46)の処理と共に後述する。
【0027】
プロセッサ44は、例えば、CPU(Central Processing Unit)及び専用の処理装置(例えばGPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、あるいは、プログラマブル論理デバイスなど)の少なくとも1つを含んで構成される。プロセッサ44としては、1つの処理装置によるものではなく、物理的に離れた位置に存在する複数の処理装置の協働により構成されるものであってもよい。
図2に示すように、プロセッサ44は、メモリ38又は記憶媒体に記憶されたスティックスリップ周波数特定プログラムに従って、データ取得部46、周波数特定部48、及びコヒーレンス取得部50としての機能を発揮する。以下、データ取得部46、周波数特定部48、及びコヒーレンス取得部50の処理内容の詳細と共に、スティックスリップ周波数特定処理の詳細を説明する。
【0028】
データ取得部46は、加速度センサ16が検出した試験片Sの振動レベルに対してFFT(Fast Fourier Transform)を実施することで、加速度センサ16が検出した試験片Sの振動レベルを各振動周波数に対する振動周波数成分に分割する。上述の通り、加速度センサ16は、継続して試験片Sの振動レベルを検出するから、データ取得部46は、加速度センサ16により順次検出される振動レベルに対してFFTを行うことで、試験片Sの各振動周波数に対する振動周波数成分の時間変化を示す振動データ40を取得する。すなわち、振動データ40は、試験片Sを当接面12に押し付けた状態で、当接面12の面方向に試験片Sを当接面12に対して相対的に移動させたときの、試験片Sの各振動周波数に対する振動周波数成分の時間変化を示すデータとなる。このように、データ取得部46は振動データ取得部に相当する。データ取得部46は、取得した振動データ40をメモリ38に記憶させる。
【0029】
図3に、振動データ40の第1の例が示されている。
図3においては、振動データ40がヒートマップで示されており、横軸が時間を示し、縦軸が振動周波数を示し、濃度が振動周波数成分(各振動周波数における振動レベル)を示している。
図3に示される振動データ40は、加速度センサ16aが取得した振動レベルに基づくデータ、すなわち、試験片Sの移動方向における前側のX軸方向の振動レベルに基づくデータである。本実施形態では、加速度センサ16が複数設けられているため、データ取得部46は、各加速度センサ16が取得した振動レベルに基づいて、試験片Sの各位置及び振動方向に対応する複数の振動データ40を取得するようにしてもよい。
【0030】
また、データ取得部46は、マイクロホン18が検出した音圧レベルに対してFFTを実施することで、マイクロホン18が検出した音圧レベルを各音響周波数に対する音響周波数成分に分割する。上述の通り、マイクロホン18は、継続して音圧レベルを検出するから、データ取得部46は、マイクロホン18により順次検出される音圧レベルに対してFFTを行うことで、試験片Sが発する音の各音響周波数に対する音響周波数成分の時間変化を示す音響データ42を取得する。すなわち、音響データ42は、試験片Sを当接面12に押し付けた状態で、当接面12の面方向に試験片Sを当接面12に対して相対的に移動させたときに発生する音の、各音響周波数に対する音響周波数成分の時間変化を示すデータとなる。このように、データ取得部46は音響データ取得部に相当する。データ取得部46は、取得した音響データ42をメモリ38に記憶させる。
【0031】
図4に、音響データ42の第1の例が示されている。
図4においては、音響データ42がヒートマップで示されており、横軸が時間を示し、縦軸が音響周波数を示し、濃度が音響周波数成分(各音響周波数における音圧レベル)を示している。
【0032】
周波数特定部48は、振動データ40に基づいて、試験片Sと当接面12との間におけるスティックスリップ周波数を特定する。具体的には、周波数特定部48は、振動データ40において、振動周波数成分が相対的に大きい振動周波数をスティックスリップ周波数として特定する。好適には、周波数特定部48は、振動データ40において、所定時間、相対的に大きい振動周波数成分を維持している振動周波数をスティックスリップ周波数として特定する。
【0033】
例えば、振動データ40が
図3に示す内容であるとすると、2[kHz]、4[kHz]、及び6[kHz]近傍にて、1秒程度以上、振動周波数成分が相対的に大きくなっている。したがって、周波数特定部48は、2[kHz]、4[kHz]、6[kHz]、及び8[kHz]をスティックスリップ周波数として特定することができる。
【0034】
スティックスリップ現象が発生すると、試験片S(の少なくとも一部分)はスティックスリップ周波数で振動することになる。したがって、周波数特定部48は、振動データ40において、相対的に大きい振動周波数成分を有する振動周波数がスティックスリップ周波数であると特定することができる。
【0035】
本実施形態では、周波数特定部48は、1つの加速度センサ16から得られた振動データ40に基づいてスティックスリップ周波数を特定しているが、周波数特定部48は、複数の加速度センサ16から得られた複数の振動データ40に基づいてスティックスリップ周波数を特定するようにしてもよい。例えば、各振動データ40から特定された複数のスティックスリップ周波数の代表値(最頻値や平均値など)を、試験片Sと当接面12との間におけるスティックスリップ周波数とするようにしてもよい。
【0036】
また、周波数特定部48は、振動データ40に代えて、音響データ42基づいて、試験片Sと当接面12との間におけるスティックスリップ周波数を特定することもできる。具体的には、周波数特定部48は、音響データ42において、音響周波数成分が相対的に大きい音響周波数をスティックスリップ周波数として特定する。好適には、周波数特定部48は、音響データ42において、所定時間、相対的に大きい音響周波数成分を維持している音響周波数をスティックスリップ周波数として特定する。
【0037】
例えば、音響データ42が
図4に示す内容であるとすると、2[kHz]、4[kHz]、及び6[kHz]近傍にて、1秒程度以上、音響周波数成分が相対的に大きくなっている。したがって、周波数特定部48は、2[kHz]、4[kHz]、6[kHz]、及び8[kHz]をスティックスリップ周波数として特定することができる。
【0038】
スティックスリップ現象が発生すると、試験片Sはスティックスリップ周波数で振動し、スティックスリップ周波数を主成分とする音(ノイズ)を発生させる。したがって、周波数特定部48は、音響データ42において、相対的に大きい音響周波数成分を有する音響周波数がスティックスリップ周波数であると特定することができる。
【0039】
周波数特定部48により特定されたスティックスリップ周波数を示す情報は、例えば、タイヤの設計者などに提供される。例えば、プロセッサ44は、スティックスリップ周波数を示す情報を、通信インターフェース32からタイヤの設計者が利用するコンピュータに送信する。あるいは、プロセッサ44は、スティックスリップ周波数を示す情報をディスプレイ36に表示させる。タイヤの設計者は、スティックスリップ周波数を示す情報を参照することで、スティックスリップ現象の発生を抑制するようにタイヤの組成やパターン形状を設計することが可能となる。
【0040】
コヒーレンス取得部50は、振動データ40及び音響データ42に基づいて、各周波数についての、振動周波数成分と音響周波数成分との相関値を示すコヒーレンスデータを取得する。本実施形態では、コヒーレンス取得部50は、以下の式(1)によってコヒーレンスデータC
xy(f)を演算する。
【数1】
上記式(1)において、fは周波数を表し、P
xx(f)は振動データ40を表し、P
yy(f)は音響データ42を表し、P
xy(f)は、振動データ40と音響データ42のクロススペクトルを表す。クロススペクトルは、振動データ40及び音響データ42のスペクトルの、ある周波数成分同士を掛合わせたうえで平均したものである。クロススペクトルが、ある周波数で大きな値を示しているということは、その周波数において振動データ40及び音響データ42の周波数成分同士の相関が大きい上に、両者の周波数成分同士の大きさも大きいということを意味する。なお、振動データ40と音響データ42は時間軸を有するデータであるところ、上記式(1)は、あるタイミングにおけるコヒーレンスデータを算出する式である。
【0041】
図5は、
図3に示す振動データ40と、
図4に示す音響データ42に基づいて取得されたコヒーレンスデータの例を示す図である。周波数特定部48は、コヒーレンスデータにおいて、相関値が相対的に大きい周波数をスティックスリップ周波数として特定するようにしてもよい。例えば、
図5の例では、2[kHz]、4[kHz]、6[kHz]、及び8[kHz]近傍にて、相関値が相対的に大きくなっている。したがって、周波数特定部48は、2[kHz]、4[kHz]、6[kHz]、及び8[kHz]をスティックスリップ周波数として特定することができる。
【0042】
振動データ40において、スティックスリップ現象以外の要因により、振動周波数成分が相対的に高くなる場合が考えられる。したがって、振動データ40のみに基づいてスティックスリップ周波数を特定する場合、真のスティックスリップ周波数以外の周波数をスティックスリップ周波数として特定してしまう可能性がある。また、音響データ42において、スティックスリップ現象以外の要因により、音響周波数成分が相対的に高くなる場合が考えられる。したがって、音響データ42のみに基づいてスティックスリップ周波数を特定する場合にも、真のスティックスリップ周波数以外の周波数をスティックスリップ周波数として特定してしまう可能性がある。
【0043】
ここで、振動データ40において振動周波数成分が相対的に高く、且つ、音響データ42において音響周波数成分が相対的に高い振動周波数又は音響周波数は、スティックスリップ現象によって振動周波数又は音響周波数が高くなっている可能性が高いと言える。すなわち、当該振動周波数又は音響周波数は、真のスティックスリップ周波数である可能性が高いと言える。したがって、周波数特定部48がコヒーレンスデータに基づいてスティックスリップ周波数を特定することで、高精度にスティックスリップ周波数を特定することができる。
【0044】
また、コヒーレンス取得部50は、振動データ40と音響データ42とに基づいて、各周波数に対する、振動周波数成分と音響周波数成分との相関値の時間変化を示すウェーブレットコヒーレンスデータを取得するようにしてもよい。具体的には、コヒーレンス取得部50は、振動データ40と音響データ42に基づいて、各時刻におけるコヒーレンスデータを上記式(1)により求めることで、ウェーブレットコヒーレンスデータを取得する。
【0045】
図6に振動データ40の第2の例が示され、
図7に音響データ42の第2の例が示され、
図8には、
図6に示す振動データ40と、
図7に示す音響データ42に基づいて取得されたウェーブレットコヒーレンスデータが示されている。
図8においては、ウェーブレットコヒーレンスデータがヒートマップで示されており、横軸が時間を示し、縦軸が周波数を示し、濃度が振動周波数成分と音響周波数成分との相関値を示している。
【0046】
周波数特定部48は、ウェーブレットコヒーレンスデータにおいて相関値が相対的に大きい領域である演算対象領域60を確定し、演算対象領域60に含まれる相関値に基づいてスティックスリップ周波数を特定するとよい。具体的には、周波数特定部48は、ウェーブレットコヒーレンスデータにおいて、相関値が所定値(例えば0.9)以上を示す所定面積以上の領域を演算対象領域60として特定する。その上で、周波数特定部48は、演算対象領域60に含まれるデータについてFFTを実施し、FFTにより得られる相関値スペクトルの値がピークを取る周波数をスティックスリップ周波数として特定する。
【0047】
図6に示す振動データ40、又は、
図7に示す音響データ42のように、相対的に振動周波数成分(又は音響周波数成分)が相対的に大きくなる振動周波数(又は音響周波数)が時間軸方向に安定しない場合がある。この場合、コヒーレンスを取るタイミングによっても、特定されるスティックスリップ周波数が変動し得ることになってしまう。そこで、コヒーレンス取得部50がウェーブレットコヒーレンスデータを取得した上で、周波数特定部48が、ウェーブレットコヒーレンスデータの周波数と時間の2次元空間において相関値が相対的に高い演算対象領域60を特定し、演算対象領域60の中で相関値がピークとなる周波数をスティックスリップ周波数として特定する。これにより、より高精度にスティックスリップ周波数を特定することができる。また、ウェーブレットコヒーレンスデータの一部の領域である演算対象領域60の中からピーク相関値を検出するため、少なくとも、ウェーブレットコヒーレンスデータの全体の中からピーク相関値を検出する場合に比して演算量を低減することができる。
【0048】
本実施形態に係るスティックスリップ周波数特定装置30の概要は以上の通りである。以下、
図9に示すフローチャートに従って、スティックスリップ周波数特定装置30(特にプロセッサ44)の処理の流れを説明する。
【0049】
ステップS10において、データ取得部46は、加速度センサ16が検出した試験片Sの振動レベルに対してFFTを実施することで振動データ40(
図3又は
図6参照)を取得する。また、データ取得部46は、マイクロホン18が検出した音圧レベルに対してFFTを実施することで音響データ42(
図4又は
図7参照)を取得する。ステップS10は、振動データ取得ステップ又は音響データ取得ステップに相当する。
【0050】
ステップS12において、コヒーレンス取得部50は、ステップS10で取得した振動データ40及び音響データ42に基づいて、各周波数についての、振動周波数成分と音響周波数成分との相関値との関係を示すコヒーレンスデータ(
図5参照)を取得する。なお、コヒーレンス取得部50は、ステップS10で取得した振動データ40及び音響データ42に基づいて、ウェーブレットコヒーレンスデータ(
図8参照)を取得してもよい。ステップS12は、コヒーレンスデータ取得ステップに相当する。
【0051】
ステップS14において、周波数特定部48は、ステップS10で取得した振動データ40において、振動周波数成分が相対的に大きい振動周波数を、試験片Sと当接面12との間におけるスティックスリップ周波数として特定する。あるいは、周波数特定部48は、ステップS10で取得した音響データ42において、音響周波数成分が相対的に大きい音響周波数を、試験片Sと当接面12との間におけるスティックスリップ周波数として特定する。また、周波数特定部48は、ステップS12で取得されたコヒーレンスデータにおいて相関値が相対的に大きい周波数をスティックスリップ周波数として特定するようにしてもよい。また、周波数特定部48は、ステップS12で取得されたウェーブレットコヒーレンスデータにおいて相関値が相対的に大きい領域である演算対象領域60を確定し、演算対象領域60に含まれる相関値に基づいてスティックスリップ周波数を特定するようにしてもよい。ステップS14は、周波数特定ステップに相当する。
【0052】
以上、本発明に係る実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 試験装置、12 当接面、14 ベース、16 加速度センサ、18 マイクロホン、30 スティックスリップ周波数特定装置、32 通信インターフェース、34 入力インターフェース、36 ディスプレイ、38 メモリ、40 振動データ、42 音響データ、44 プロセッサ、46 データ取得部、48 周波数特定部、50 コヒーレンス取得部、60 演算対象領域、S 試験片。