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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077039
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/21 20110101AFI20230529BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20230529BHJP
   B60R 21/233 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
B60R21/21
B60R21/00 310B
B60R21/233
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190140
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA17
3D054AA18
3D054CC02
(57)【要約】
【課題】側面衝突時における衝突被害を抑制したエアバッグ装置を提供する。
【解決手段】車体側面部に前方側から順次設けられたAピラー60、Bピラー70、Cピラー80と、各ピラー間のドア開口に開閉可能に設けられたドア30,40と、ドアの下縁部に沿ったサイドシル50とを有する車両に設けられるエアバッグ装置を、物体の衝突の前兆に応じてサイドシルの下方側に設けられた収容部51からドアを含む車体側面部の車幅方向外側の領域に展開するとともに、主要部分がBピラーよりも前方に配置される第1気室110と、主要部分がBピラーより後方に配置される第2気室120とを有するエアバッグ100と、衝突態様予測部220が予測した衝突態様に応じて、第1気室、第2気室の少なくとも一方の内圧を、他方の内圧とは独立して増加又は減少させる圧力制御部210とを備える構成とする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側面部に前方側から順次設けられ上下方向に延在する構造部材であるAピラー、Bピラー、Cピラーと、
前記Aピラーと前記Bピラーとの間と前記Bピラーと前記Cピラーとの間の一方又は両方に形成されるドア開口に開閉可能に設けられたドアと、
前記ドアの下縁部に沿って配置されたサイドシルと
を有する車両に設けられるエアバッグ装置であって、
前記車体側面部への物体の衝突の前兆に応じて前記サイドシルの下方側に設けられた収容部から前記ドアを含む前記車体側面部の車幅方向外側の領域に展開するとともに、主要部分が前記Bピラーよりも前方に配置される第1気室と、主要部分が前記Bピラーより後方に配置される第2気室とを有するエアバッグと、
車両への物体の衝突態様を予測する衝突態様予測部と、
前記衝突態様予測部が予測した前記衝突態様に応じて、前記第1気室の内圧と前記第2気室の内圧との少なくとも一方を、他方の内圧とは独立して増加又は減少させる圧力制御部と
を備えることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記圧力制御部は、前記衝突態様予測部が前記車体側面部における前記Bピラーを含む領域への衝突角度が所定の閾値以上である側面衝突を予測した場合に、前記第2気室の内圧を前記第1気室の内圧に対して高圧とすること
を特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記圧力制御部は、前記衝突態様予測部が前記車体側面部における前記Bピラーよりも前方側の領域への衝突角度が所定の閾値よりも小さい斜め前方側からの衝突を予測した場合に、前記第1気室の内圧を前記第2気室の内圧に対して同等以上とすること
を特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記圧力制御部は、前記衝突態様予測部が前記車体側面部における前記Bピラーよりも後方側の領域への衝突角度が所定の閾値よりも小さい斜め前方側からの衝突を予測した場合に、前記第2気室の内圧を前記第1気室の内圧に対して高圧とすること
を特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記衝突態様予測部が予測した前記衝突態様に応じて、前記エアバッグを前記車体側面部に対して前後方向へ移動させるエアバッグ移動部を備えること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の側面衝突時に車外側へ展開するエアバッグを備えたエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両において、衝突時の車体や乗員の被害を軽減するため、車外側で展開するエアバッグを有するエアバッグ装置を用いることが提案されている。
車両の側面衝突への対応に関する技術として、例えば特許文献1には、ドアの内部に前後方向にわたして配置されたインパクトビーム(ドアビーム)部分から、車幅方向外側にエアバッグを展開させることが記載されている。
特許文献2には、外部エアバッグシステム、及び、予測型衝突検知システムを備える乗員保護システムにおいて、衝突に応答して乗員を保護するために、乗員の着座位置に近接するドア内から車幅方向外側へ、前後方向に配列された複数の気室を有するエアバッグを展開させることが記載されている。
特許文献3には、衝突に際して乗り物への損傷を緩和するために順次作動するエアバッグであって、膨張ユニットを有する複数のエアバッグを、車体の側面部等に、水平方向に複数配列することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6740168号
【特許文献2】特表2005-537165号公報
【特許文献3】特表2008-526593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の側方から他車両等の物体が衝突する側面衝突においては、前面衝突に対して車体構造の損壊でエネルギ吸収が可能なクラッシュストロークが短く、車体構造によるエネルギ吸収量が不足することが懸念される。
さらに、側面衝突においては、衝突中のドアが車室内に押し込まれる変形速度が、車体の移動速度よりも速くなり、乗員に対して2次衝突被害が発生することが懸念される。
これに対し、上述した従来技術のように、車体の側面部で車両外方へ展開する車外エアバッグ装置を設けることが提案されているが、エアバッグに入力された荷重は結局車体に入力されることになり、エネルギ吸収は車体構造の圧懐に大きく依存することになる。
車体構造の圧懐のみに依存せず、他の手法によりエネルギ吸収量を確保し、車両や乗員の衝突被害を低減することが求められている。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、側面衝突時における衝突被害を抑制したエアバッグ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明のエアバッグ装置は、車体側面部に前方側から順次設けられ上下方向に延在する構造部材であるAピラー、Bピラー、Cピラーと、前記Aピラーと前記Bピラーとの間と前記Bピラーと前記Cピラーとの間の一方又は両方に形成されるドア開口に開閉可能に設けられたドアと、前記ドアの下縁部に沿って配置されたサイドシルとを有する車両に設けられるエアバッグ装置であって、前記車体側面部への物体の衝突の前兆に応じて前記サイドシルの下方側に設けられた収容部から前記ドアを含む前記車体側面部の車幅方向外側の領域に展開するとともに、主要部分が前記Bピラーよりも前方に配置される第1気室と、主要部分が前記Bピラーより後方に配置される第2気室とを有するエアバッグと、車両への物体の衝突態様を予測する衝突態様予測部と、前記衝突態様予測部が予測した前記衝突態様に応じて、前記第1気室の内圧と前記第2気室の内圧との少なくとも一方を、他方の内圧とは独立して増加又は減少させる圧力制御部とを備えることを特徴とする。
これによれば、例えば他車両等の物体の自車両への衝突態様に応じて、第1気室の内圧と第2気室の内圧とを独立して制御することにより、物体から車体への荷重の入力形態を制御し、車体と物体との少なくとも一方に衝突被害を軽減する挙動を発生させ、衝突によるエネルギの一部を運動エネルギとして消費させることで、車体の圧懐等により吸収されるエネルギを低減し、車体の損傷、変形を抑制して乗員の生存空間を確保することができる。
【0006】
本発明において、前記圧力制御部は、前記衝突態様予測部が前記車体側面部における前記Bピラーを含む領域への衝突角度が所定の閾値以上である側面衝突を予測した場合に、前記第2気室の内圧を前記第1気室の内圧に対して高圧とする構成とすることができる。
これによれば、第2気室から車体のBピラーよりも後方側の領域への荷重伝達を促進し、車体後部が反衝突側へ振り出されるヨー挙動(典型的にはスピンモードの挙動)を発生させ、衝突により入力されるエネルギ一部を、車体の運動エネルギやタイヤがスリップする摩擦エネルギに転換して消費することができる。
また、第1気室の内圧を第2気室の内圧に対して低圧とすることにより、車体前半部に対する攻撃性を抑制し、車体の損傷や変形を低減することができる。
なお、本明細書、特許請求の範囲等において、衝突角度とは、上方から見た平面視において、自車両の前後方向に沿った直線と、衝突する物体の自車両に対する相対移動方向に沿った直線とがなす角度(0°以上90°未満)を指すものとする。
【0007】
本発明において、前記圧力制御部は、前記衝突態様予測部が前記車体側面部における前記Bピラーよりも前方側の領域への衝突角度が所定の閾値よりも小さい斜め前方側からの衝突を予測した場合に、前記第1気室の内圧を前記第2気室の内圧に対して同等以上とする構成とすることができる。
これによれば、車体のBピラー等の強度を反力として利用し、エアバッグの表面に沿って物体を自車両の後方側へスライドさせ、自車両とすれ違うよう誘導して自車両の車体と物体とが直接衝突することを防止できる。
【0008】
本発明において、前記圧力制御部は、前記衝突態様予測部が前記車体側面部における前記Bピラーよりも後方側の領域への衝突角度が所定の閾値よりも小さい斜め前方側からの衝突を予測した場合に、前記第2気室の内圧を前記第1気室の内圧に対して高圧とする構成とすることができる。
これによれば、Bピラーのねじれ入力を圧縮入力に変換し、衝突により入力される荷重をBピラー及びCピラーに分散させて伝達し、自車両が物体により横方向に押し出される挙動(典型的には横滑り挙動)を発生させ、衝突により入力されるエネルギの一部を、車体の運動エネルギやタイヤがスリップする摩擦エネルギに転換し、消費することができる。
また、第1気室の内圧を第2気室の内圧に対して低圧とすることにより、車体前半部に対する攻撃性を抑制し、車体の損傷や変形を低減することができ、さらに、第2気室が圧迫されて前後方向に伸長ように変形することを妨げにくく、第2気室からBピラーにより効果的に荷重伝達を行うことができる。
【0009】
本発明において、前記衝突態様予測部が予測した前記衝突態様に応じて、前記エアバッグを前記車体側面部に対して前後方向へ移動させるエアバッグ移動部を備える構成とすることができる。
これによれば、上述した圧力制御に加えて、さらにエアバッグを車体側面部に対して前後方向へ移動させることにより、物体から車体への荷重伝達をより精度よく行い、上述した効果を促進することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、側面衝突時における衝突被害を抑制したエアバッグ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を適用したエアバッグ装置の第1実施形態を有する車両の側面視図である。
図2図1のII-II部矢視断面図である。
図3図1のIII-III部矢視図である。
図4】第1実施形態のエアバッグ装置におけるエアバッグの制御システムの構成を示す図である。
図5】第1実施形態のエアバッグ装置におけるエアバッグの展開制御の概要を示すフローチャートである。
図6】第1実施形態のエアバッグ装置を有する車両の衝突直後の状態を模式的に示す図であって大衝突角度でBピラー後方に側面衝突を受けた状態を示す図である。
図7】第1実施形態のエアバッグ装置を有する車両の衝突直後の状態を模式的に示す図であって小衝突角度でBピラー後方に側面衝突を受けた状態を示す図である。
図8】第1実施形態のエアバッグ装置を有する車両の衝突直後の状態を模式的に示す図であって小衝突角度でBピラー前方に側面衝突を受けた状態を示す図である。
図9】本発明を適用したエアバッグ装置の第2実施形態を有する車両を上方から見た平面視図である。
図10】本発明を適用したエアバッグ装置の第3実施形態における第1気室、第2気室の前後移動機構の構成を模式的に示す図である。
図11】第3実施形態のエアバッグ装置におけるエアバッグの展開制御の概要を示すフローチャートである。
図12】第3実施形態のエアバッグ装置を有する車両の衝突直後の状態を模式的に示す図であってBピラー後方に斜め後方から側面衝突を受けた状態を示す図である。
図13】第3実施形態のエアバッグ装置を有する車両の衝突直後の状態を模式的に示す図であってポールが局所的に側面衝突した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用したエアバッグ装置の第1実施形態について説明する。
第1実施形態のエアバッグ装置は、例えば、乗員が収容される車室の側面部に、乗員乗降用のドアを有する乗用車等の自動車に関するものである。
【0013】
図1は、第1実施形態のエアバッグ装置を有する車両の側面視図である。
図2は、図1のII-II部矢視断面図である。
図3は、図1のIII-III部矢視図である。
第1実施形態において、車両1は、例えば、車室10の前方側に突出したパワーユニットコンパートメント20を有するいわゆる2ボックス形の車形を有する乗用車である。
【0014】
車室10は、乗員等が収容される空間部を有する部分であって、例えば前後方向に2列のシート(前席・後席)を配列して構成されている。
車室10の側面部には、フロントサイドドア30、リアサイドドア40、サイドシル50、Aピラー60、Bピラー70、Cピラー80、ドアビーム90等が設けられている。
【0015】
フロントサイドドア30は、前席乗員の乗降に用いられる扉状体であって、車室10の前部であって前席シートSの側方に設けられたドア開口に開閉可能に設けられている。
フロントサイドドア30の前端部は、図示しないヒンジを介して、Aピラー60の後部に揺動可能に取り付けられている。
フロントサイドドア30の後端部は、図示しないドアキャッチャを介して、Bピラー70の前部に着脱可能に取り付けられている。
【0016】
図2に示すように、フロントサイドドア30は、アウタパネル31、インナパネル32、ドアトリム33等を有する。
なお、図2は、フロントサイドドア30及びエアバッグ100の第1気室110の断面を示すが、リアサイドドア40及び第2気室120の断面も同様の構成を有する。
アウタパネル31、インナパネル32は、例えば鋼板をプレス加工してパネル状に形成された部材である。
アウタパネル31は、車両1の外表面(意匠面)の一部を構成する部材である。
インナパネル32は、アウタパネル31の車幅方向内側に配置されている。
アウタパネル31とインナパネル32は、外周縁部において接合されるとともに、フロントサイドドア30の中央部においては、車幅方向に間隔を隔てて対向して配置されている。
インナパネル32は、アウタパネル31よりも板厚が大きい鋼板を用いて、アウタパネル31に対して強度及び曲げ剛性が高い枠体状に形成されている。
ドアトリム33は、車室10の内部に露出する内装部材である。
ドアトリム33は、インナパネル32の車幅方向内側の面に取り付けられている。
ドアトリム33は、例えばPPなどの樹脂系材料によって形成されている。
【0017】
リアサイドドア40は、後席乗員の乗降に用いられる扉状体であって、車室10の後部であって図示しない後席シートの側方に設けられたドア開口に開閉可能に設けられている。
リアサイドドア40の前縁部は、各ドアを閉じた状態において、フロントサイドドア30の後縁部と、不可避的に設けられる間隔(チリ)を介して、隣接して配置されている。
リアサイドドア40の前端部は、図示しないヒンジを介して、Bピラー70の後部に揺動可能に取り付けられている。
リアサイドドア40の後端部は、図示しないドアキャッチャを介して、Cピラー80の前部に着脱可能に取り付けられている。
【0018】
サイドシル50は、フロントサイドドア30、リアサイドドア40の下縁部に沿って、車両の前後方向に伸びて形成された車体構造部材である。
サイドシル50は、車室10の床面部を構成する図示しないフロアパネルの両端部に沿って配置されている。
サイドシル50の前端部は、前輪FWを収容するフロントホイールハウスの後部に隣接して配置されている。
サイドシル50の後端部は、後輪RWを収容するリアホイールハウスの前部に隣接して配置されている。
サイドシル50の下部には、展開前のエアバッグ100、及び、インフレータ211を収容する収容部であるリテーナ51が設けられている。
【0019】
Aピラー60は、サイドシル50の前端部近傍から、上方へ突出して形成された車体構造部材(フロントピラー)である。
Aピラー60の下部は、フロントサイドドア30の前端部に沿って配置されている。
Aピラー60の下部には、フロントサイドドア30を上下方向に沿った軸回りに揺動可能に支持する図示しないヒンジが設けられている。
Aピラー60の上部は、車体の外表面の一部を構成するよう露出し、フロントガラス11の側縁部に沿って後傾して配置されている。
【0020】
Bピラー70は、サイドシル50の前後方向における中間部から、上方へ突出して形成された車体構造部材(センターピラー)である。
フロントサイドドア30の後縁部は、Bピラー70の前部に沿って配置されている。
フロントサイドドア30の後端部は、図示しないドアキャッチ機構を介してBピラー70に着脱可能に取り付けられる。
リアサイドドア40の前縁部は、Bピラー70の後部に沿って配置されている。
Bピラー70の後部には、リアサイドドア40を上下方向に沿った軸回りに揺動可能に支持する図示しないヒンジが設けられている。
【0021】
Cピラー80は、サイドシル50の後端部近傍から、上方へ突出して形成された車体構造部材(リアピラー)である。
リアサイドドア40の後縁部は、Cピラー80の前部に沿って配置されている。
リアサイドドア40の後端部は、図示しないドアキャッチ機構を介してCピラー80に着脱可能に取り付けられる。
【0022】
サイドシル50、Aピラー60、Bピラー70、Cピラー80は、例えば、鋼板等をプレス成型したパネルを集成し、スポット溶接、レーザ溶接、構造用接着剤等で接合することにより、長手方向と直交する平面に沿った断面が閉断面となるように構成されている。
【0023】
ドアビーム90は、フロントサイドドア30の内部に設けられ、フロントサイドドア30の前部と後部とにわたして配置された部材である。
ドアビーム90は、例えば鋼材等によって形成された円管状のパイプによって構成されている。
ドアビーム90の前端部91、後端部92は、フロントサイドドア30の前端部、後端部近傍において、ドアインナパネル32に取り付けられている。
ドアビーム90は、前端部91が後端部92よりも高い位置となるように、水平方向に対して傾斜して配置されている。
【0024】
車両1は、側面衝突の前兆(プリクラッシュ判定)に応じて、フロントサイドドア30及びリアサイドドア40の車幅方向外側の領域へ展開するエアバッグ100を備えている。
エアバッグ100は、例えばナイロン繊維からなる複数の基布パネルを、縫合、融合等で接合して袋状体として形成されている。
エアバッグ100は、後述するインフレータ211から展開用ガスを導入されることにより展開する。
エアバッグ100は、車両の通常使用時(プリクラッシュ判定成立前・展開前)においては、サイドシル50の下部に設けられたリテーナ51に、折り畳まれた状態で収容されている。
リテーナ51は、エアバッグ100の展開後には、エアバッグ100の車体側取付箇所(エアバッグユニットの基部)として機能する。
【0025】
図1,3に示すように、エアバッグ100は、第1気室110、第2気室120、隔壁130を有する。
第1気室110は、エアバッグ100の前部を構成する部分である。
第2気室120は、エアバッグ100の後部を構成する部分である。
隔壁130は、エアバッグ100の内部に設けられ、第1気室110と第2気室120とを区画するものである。
【0026】
第1気室110の前端部は、Aピラー60よりも前方側に設けられている。
第1気室110の後端部は、Bピラー70の近傍に設けられている。
第2気室120の前端部は、Bピラー70の近傍において、第1気室110の後端部と連続して設けられている。
第2気室120の後端部は、Cピラー80よりも後方側に設けられている。
【0027】
第1気室110、第2気室120の上端部は、車両前後方向におけるシートSの座面の前端部から後端部までの領域において、ドアビーム90の上端部よりも上方となるように配置されている。なお、このような位置関係は、シートSの前後スライド範囲の全域において成立することが好ましい。
また、第2気室120の上端部は、リアサイドドア40の内部に設けられる図示しないリアドアビームに対して、図示しない後席シートの座面の前端部から後端部までの領域において上方となるように配置されている。
【0028】
図3に示すように、隔壁130は、車両1を上方から見た平面視において、車幅方向内側の端部131が、車幅方向外側の端部132に対して車両前方側となるように、車幅方向に対して傾斜して配置されている。
端部131は、Bピラー70よりも車両前方側(Aピラー60側)に配置されている。
端部132は、Bピラー70よりも車両後方側(Cピラー80側)に配置されている。
このような構成により、第1気室110の後方側の一部、第2気室120の前方側の一部、Bピラー70は、車幅方向から見たときに、重畳するように配置されている。
第1気室110は、他車両V等の物体から入力された荷重を、フロントサイドドア30、Aピラー60、Bピラー70、サイドシル50等に分散して伝達する機能を有する。
第2気室120は、他車両V等の物体から入力された荷重を、リアサイドドア40、Bピラー70、Cピラー80、サイドシル50等に分散して伝達する機能を有する。
【0029】
図4は、第1実施形態のエアバッグ装置におけるエアバッグの制御システムの構成を示す図である。
制御システム200は、エアバッグ制御ユニット210、環境認識ユニット220等を有する。
エアバッグ制御ユニット210、環境認識ユニット220は、例えば、CPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を有するマイコンとして構成することができる。
エアバッグ制御ユニット210、環境認識ユニット220は、例えばCAN通信システムなどの車載LANを介して、あるいは直接に通信可能に接続されている。
【0030】
エアバッグ制御ユニット210は、エアバッグ100の展開状態、及び、展開後の各気室の内圧を制御するものである。
エアバッグ制御ユニット210には、インフレータ211、第1気室気室調圧バルブ212、第2気室調圧バルブ213、第1気室内圧センサ214、第2気室内圧センサ215等が接続されている。
【0031】
インフレータ211は、エアバッグ100の第1気室110、第2気室120に、それぞれ展開用ガスを供給することにより、エアバッグ100を展開させるガス発生装置である。
インフレータ211は、例えば展開信号に応じて化薬を反応させて展開用ガスを発生させる構成とすることができる。
インフレータ211は、エアバッグ100の第1気室110、第2気室120のそれぞれに独立して展開用ガスを供給する複数のガス発生装置を有する構成とすることができる。
また、必要に応じて、インフレータ211は、時間間隔をおいて複数回展開用ガスの発生が可能な多段式のインフレータとしてもよい。
【0032】
第1気室調圧バルブ212、第2気室調圧バルブ213は、第1気室110、第2気室120にそれぞれ設けられ、各気室の内圧を調節する電磁弁などの制御弁である。
第1気室調圧バルブ212、第2気室調圧バルブ213は、通常時には閉状態に維持されるとともに、エアバッグ制御ユニット210からの指令に応じて開弁し、各気室の内部の展開用ガスの一部を外部に放出し、気室の内圧を低下させる機能を有する。
【0033】
第1気室内圧センサ214、第2気室内圧センサ215は、第1気室110、第2気室120の内圧(展開用ガスの圧力)を検出する圧力センサである。
第1気室内圧センサ214、第2気室内圧センサ215の出力は、エアバッグ制御ユニット210に伝達される。
エアバッグ制御ユニット210は、後述するエアバッグの展開制御において、第1気室内圧センサ214、第2気室内圧センサ215が検出する第1気室110、第2気室120の内圧が所定の目標圧力となるように第1気室調圧バルブ212、第2気室調圧バルブ213をフィードバック制御する。
エアバッグ制御部210は、各調圧センサ、各内圧センサと協働して、本発明の圧力制御部として機能する。
【0034】
環境認識ユニット220は、各種センサの出力に基づいて、自車両の側方を含む周囲の環境を認識するものである。
環境認識ユニット220は、本発明の衝突態様予測部として機能する。
環境認識ユニット220には、センサとして、例えば、側方監視カメラ221、ミリ波レーダ装置222、レーザスキャナ装置223等が接続されている。
【0035】
側方監視カメラ221は、例えば、CMOSやCCD等の固体撮像素子、レンズ群などの撮像光学系、画像処理部などを有し、自車両側方を含む撮像範囲(画角)内の画像を逐次取得するものである。
ミリ波レーダ装置222は、例えば30乃至300GHzの周波数帯域の電波を用いたレーダ装置であって、物体の有無及び車両1に対する物体の相対位置を検出する機能を備えている。
レーザスキャナ装置(LIDAR)223は、例えば近赤外レーザ光をパルス状に照射して車両1周辺を走査し、反射光の有無及び反射光が戻るまでの時間差に基づいて、物体の有無、車両1に対する物体の相対位置、物体の形状等を検出する機能を備えている。
環境認識ユニット220は、例えば他車両V等の物体との側面衝突が不可避である場合(側突プリクラッシュ判定が成立した場合)に、物体との衝突形態(例えば、物体の車両1に対する速度ベクトル、車両1に対する衝突位置等)、及び、物体の属性(例えば、車両である場合には車種、車形、大きさ等)を認識可能となっている。
【0036】
第1実施形態においては、側突プリクラッシュ判定の成立に応じてエアバッグ100を展開するとともに、予測される衝突態様に応じて、第1気室110、第2気室120の内圧を独立して制御している。
以下、このようなエアバッグ100の制御について説明する。
図5は、第1実施形態のエアバッグ装置におけるエアバッグの展開制御の概要を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0037】
<ステップS01:側突プリクラッシュ判定成立判断>
環境認識ユニット220は、各センサの出力に基づいて、車両1の側面部に、斜め前方からの他車両V等の物体の衝突が不可避である状態か否かを判別する。
衝突が不可避であると判断した場合には、側突プリクラッシュ判定を成立させ、ステップS02に進み、その他の場合は一連の処理を終了する。
【0038】
<ステップS02:衝突角度判断>
環境認識ユニット220は、他車両V等の物体が車両1に衝突する直前の衝突角度θ(後述する図6乃至図8を参照)を推定するとともに、推定された衝突角度θを、予め設定された閾値θthと比較する。
衝突角度θが閾値θth以上である場合はステップS04に進み、それ以外の場合はステップS03に進む。
【0039】
<ステップS03:衝突位置判定>
環境認識ユニット220は、他車両Vがエアバッグ100に衝突する位置(典型的には衝突によりエアバッグ100に入力される荷重Fの中心位置)を推定し、当該位置(以下「衝突位置」と称する)の車両前後方向における位置が、Bピラー70よりも前方側であるか否かを判別する。
衝突位置がBピラー70よりも前方である場合はステップS05に進み、その他の場合(Bピラー70を含む領域あるいはさらに後方側である場合)はステップS04に進む。
【0040】
<ステップS04:エアバッグ展開(前側低圧・後側高圧)>
エアバッグ制御ユニット210は、インフレータ211を作動させて展開用ガスを発生させ、第1気室110、第2気室120に供給することで、エアバッグ100をリテーナ51から繰り出させ、展開させる。
このとき、第1気室110の内圧は、第2気室120の内圧に対して低圧(第1気室110が相対的に低圧・第2気室120が相対的に高圧)となるようにする。
このとき、第2気室120は、第2気室調圧バルブ213による減圧を行わない構成とすることができる。
また、第1気室110は、第1気室調圧バルブ212を、所定の開度で開状態に維持する構成とすることができる。
これにより、第1気室110が衝突による荷重を受けた際に、内部の展開用ガスを第1気室調圧バルブ212から排気しつつ収縮し、エネルギ吸収を行うことが可能となる。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0041】
<ステップS05:エアバッグ展開(前後同等圧)>
エアバッグ制御ユニット210は、インフレータ211を作動させて展開用ガスを発生させ、第1気室110、第2気室120に供給することで、エアバッグ100をリテーナ51から繰り出させ、展開させる。
このとき、第1気室110、第2気室120の内圧は、ステップS04における第2気室120の内圧と同等の高圧に設定される。
このとき、第1気室110、第2気室120は、第1気室調圧バルブ212、第2気室調圧バルブ213による減圧を行わない構成とすることができる。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0042】
以下、第1実施形態のエアバッグ装置を備えた車両における側面衝突後の状態と効果について説明する。
図6は、第1実施形態のエアバッグ装置を有する車両の衝突直後の状態を模式的に示す図であって大衝突角度でBピラー後方に側面衝突を受けた状態を示す図である。
この場合、第1気室110は、第2気室120に対して低圧とされる。(ステップS04)
他車両Vは、主に第2気室120に、所定の閾値θthに対して大きな衝突角度θで斜め前方側から衝突し、第2気室120を介してリアサイドドア40、Bピラー70、Cピラー80、サイドシル50等に荷重Fを伝達する。
これにより、車両1は、車体後部が衝突側とは反対側(例えば図6では左側から衝突を受けているため右側)に振り出すモーメントMを発生させる。
このモーメントMにより、車両1には、重量物が搭載されたパワーユニットコンパートメント20の付近を中心としたスピンモードのヨー挙動が発生する。
衝突により車体に入力されたエネルギの一部は、このようなヨー挙動の運動エネルギや、タイヤがスリップする際の摩擦エネルギに変換され消費されるため、車体の圧懐等により吸収すべきエネルギが低減され、車室10の損傷、変形が抑制される。
また、第1気室110の内圧を第2気室120の内圧に対して低圧としたことにより、第1気室110から車体への攻撃性を抑制することができる。
【0043】
図7は、第1実施形態のエアバッグ装置を有する車両の衝突直後の状態を模式的に示す図であって小衝突角度でBピラー後方に側面衝突を受けた状態を示す図である。
この場合、第1気室110は、第2気室120に対して低圧とされる。(ステップS04)
他車両Vは、主に第2気室120に、所定の閾値θthに対して小さい衝突角度θで斜め前方側から衝突し、第2気室120を介してリアサイドドア40、Bピラー70、Cピラー80、サイドシル50等に荷重Fを伝達する。
これにより、車両1には、車体が車幅方向に衝突側とは反対側に並進運動(典型的には横滑り)する挙動が発生する。
衝突により車体に入力されたエネルギの一部は、このような車体の横方向への並進運動の運動エネルギや、タイヤがスリップする際の摩擦エネルギに変換され消費されるため、車体の圧懐等により吸収すべきエネルギが低減され、車室10の損傷、変形が抑制される。
また、第1気室110の内圧を、第2気室120の内圧に対して低圧としたことにより、第1気室110から車体への攻撃性を抑制することができる。
【0044】
図8は、第1実施形態のエアバッグ装置を有する車両の衝突直後の状態を模式的に示す図であって小衝突角度でBピラー前方に側面衝突を受けた状態を示す図である。
この場合、第1気室110、第2気室120は、ともに同等の圧力(高圧)とされる。(ステップS05)
他車両Vは、主に第1気室110に、所定の閾値θthに対して小さい(浅い)衝突角度θで斜め前方側から衝突する。
このとき、他車両Vの前端部は、第1気室110、第2気室120の車幅方向外側の面部に順次沿って車両1の後方側へスリップし、車両1とすれ違う方向へ進行方向が転向する。
このとき、エアバッグ100から車両1へ伝達される荷重Fは、Aピラー60、Bピラー70、Cピラー80等に受け止められる。
他車両Vに車両1とすれ違う挙動を発生させることにより、他車両Vと車両1の車体との直接衝突を抑制し、他車両Vから車両1の車体へ入力されるエネルギを低減することができる。これにより、車体の圧懐等により吸収すべきエネルギが低減され、車室10の損傷、変形が抑制される。
【0045】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)他車両V等の物体の車両1への衝突態様に応じて、第1気室110の内圧と第2気室120の内圧とを独立して制御することにより、他車両V等から車体への荷重の入力形態を制御し、車体と物体との少なくとも一方に衝突被害を軽減する挙動を発生させ、衝突によるエネルギの一部を運動エネルギとして消費させることで車体の圧懐等により吸収されるエネルギを低減し、車体の損傷、変形を抑制して乗員の生存空間を確保することができる。
(2)車体側面部におけるBピラー70を含む領域への衝突角度θが閾値θth以上である側面衝突を予測した場合に、第2気室120の内圧を第1気室110の内圧に対して高圧とすることにより、第2気室120から車体のBピラー70よりも後方側の領域への荷重伝達を促進し、車体後部が反衝突側へ振り出されるヨー挙動(典型的にはスピンモードの挙動)を発生させ、衝突により入力されるエネルギの一部を車体の運動エネルギやタイヤのスリップによる摩擦エネルギに転換し、消費することができる。
また、第1気室110の内圧を第2気室120の内圧に対して低圧とすることにより、車体前半部に対する攻撃性を抑制し、車体の損傷や変形を低減することができる。
例えば、フロントサイドドア30が変形してサイドシル50を乗り越え、車室10内に侵入することを抑制できる。
(3)車体側面部におけるBピラー70よりも前方側の領域への衝突角度θが閾値θthよりも小さい斜め前方側からの衝突を予測した場合に、第1気室110の内圧を第2気室120の内圧に対して同等の高圧とすることにより、車体のBピラー70等の強度を利用して、エアバッグ100の表面に沿って他車両V等をスライドさせ、車両1とすれ違うよう誘導して車両1の車体と他車両V等とが直接衝突することを防止できる。
(4)車体側面部におけるBピラー70よりも後方側の領域への衝突角度θが閾値θthよりも小さい斜め前方側からの衝突を予測した場合に、第2気室120の内圧を第1気室110の内圧に対して高圧とすることにより、Bピラー70のねじれ入力を圧縮入力に変換し、衝突により入力される荷重をBピラー70及びCピラー80に分散させて伝達し、車両1が他車両V等により横方向に押し出される横滑り挙動を発生させ、衝突により入力されるエネルギの一部を車体の運動エネルギやタイヤのスリップによる摩擦エネルギに転換し、消費することができる。
また、第1気室110の内圧を第2気室120の内圧に対して低圧とすることにより、車体前半部に対する攻撃性を抑制し、車体の損傷や変形を低減することができ、さらに、第2気室120が圧迫されて前後方向に伸長ように変形することを妨げにくく、第2気室120からBピラー70により効果的に荷重伝達を行うことができる。
(5)第1気室110と第2気室120との間の隔壁130を、車幅方向に対して斜めに配置し、第1気室110の後部、第2気室120の前部が車幅方向から見たときにBピラー70に重畳するように配置したことにより、第1気室110、第2気室120からBピラー70への荷重伝達をともに効果的に行うことができる。
【0046】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用したエアバッグ装置の第2実施形態について説明する。
以下説明する各実施形態において、従前の実施形態と共通する箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図9は、第2実施形態のエアバッグ装置は、第1気室110と第2気室120とを区画する隔壁130を、車両上方から見た平面視において車幅方向に沿うように配置している。
隔壁130は、車両前後方向における位置が、Bピラー50の車両前後方向における中間部と重なるよう配置されている。
以上説明した第2実施形態においても、上述した第1実施形態の効果と同様の効果(5項記載の効果を除く)を得ることができる。
【0047】
<第3実施形態>
次に、本発明を適用したエアバッグ装置の第3実施形態について説明する。
第3実施形態のエアバッグ装置は、展開後におけるエアバッグ100の第1気室110、第2気室120を、以下説明する前後移動機構300を用いて、車体に対して前後方向に移動可能としたことを特徴とする。
前後移動機構300は、エアバッグ制御ユニット210と協働して、本発明のエアバッグ移動部として機能する。
【0048】
図10は、第3実施形態のエアバッグ装置における第1気室110、第2気室の前後移動機構の構成を模式的に示す図である。
第3実施形態においては、リテーナ51は、フロントリテーナ51F、リアリテーナ51Rに分割されている。
第1気室110、第2気室120も独立した袋体として構成され、各気室にはそれぞれインフレータ211が設けられる。
車両1のプリクラッシュ判定成立前においては、第1気室110、第2気室120は、フロントリテーナ51F、リアリテーナ51Rにそれぞれ折り畳まれた状態で収容されている。
【0049】
前後移動機構300は、レール310、プーリ321~324、ワイヤ331~334等を有して構成されている。
レール310は、サイドシル50の内部に設けられ、サイドシル50の長手方向(車両前後方向)に沿って配置された案内部材である。
レール310は、フロントリテーナ51F、リアリテーナ51Rを、サイドシル50に対して、レール310の長手方向に沿って変位可能に支持する。
【0050】
プーリ321は、サイドシル50の前端部近傍に設けられ、ワイヤ331を介して、フロントリテーナ51Fと連結されている。
プーリ321は、ワイヤ331を巻き上げることにより、フロントリテーナ51Fを車両前方側へ牽引する機能を有する。
プーリ322は、サイドシル50の前端部近傍に設けられ、ワイヤ332を介して、リアリテーナ52Rと連結されている。
プーリ322は、ワイヤ332を巻き上げることにより、リアリテーナ51Rを車両前方側へ牽引する機能を有する。
【0051】
プーリ323は、サイドシル50の後端部近傍に設けられ、ワイヤ333を介して、フロントリテーナ51Fと連結されている。
プーリ323は、ワイヤ333を巻き上げることにより、フロントリテーナ51Fを車両後方側へ牽引する機能を有する。
プーリ324は、サイドシル50の後端部近傍に設けられ、ワイヤ334を介して、リアリテーナ52Rと連結されている。
プーリ324は、ワイヤ334を巻き上げることにより、リアリテーナ51Rを車両後方側へ牽引する機能を有する。
【0052】
プーリ321乃至324には、各ワイヤを巻き上げるための電動モータ等のアクチュエータが設けられている。
アクチュエータは、エアバッグ制御ユニット210からの指令に応じて制御される。
以下、第3実施形態におけるエアバッグの展開制御、前後方向駆動制御について説明する。
【0053】
図11は、第3実施形態のエアバッグ装置におけるエアバッグの展開制御の概要を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS11: 環境認識ユニット220は、各センサの出力に基づいて、車両1の側面部に、斜め前方又は斜め後方からの他車両V等の物体の衝突が不可避である状態か否かを判別する。
衝突が不可避であると判断した場合には、側突プリクラッシュ判定を成立させ、ステップS12に進み、その他の場合はステップS20に進む。
【0054】
<ステップS12:斜め後方衝突判断>
環境認識ユニット220は、プリクラッシュ判定成立の対象となった他車両V等の物体が、車両1に対して斜め後方側から衝突する斜め後方衝突であるか否かを判別する。
斜め後方衝突である場合はステップS18に進み、その他の場合(斜め前方あるいは車幅方向からの側突)である場合はステップS13に進む。
【0055】
<ステップS13:衝突角度判断>
環境認識ユニット220は、他車両V等の物体が自車両に衝突する直前の衝突角度θを推定するとともに、推定された衝突角度θを予め設定された閾値θthと比較する。
衝突角度θが閾値θth以上である場合はステップS15に進み、それ以外の場合はステップS14に進む。
【0056】
<ステップS14:衝突位置判定>
環境認識ユニット220は、他車両Vがエアバッグ100に衝突する衝突位置を推定し、衝突位置の車両前後方向における位置がBピラー70よりも前方側であるか否かを判別する。
衝突位置がBピラー70よりも前方である場合はステップS16に進み、その他の場合(Bピラー70を含む領域である場合)はステップS15に進む。
【0057】
<ステップS15:エアバッグ展開(前側低圧・後側高圧)>
エアバッグ制御ユニット210は、インフレータ211を作動させて展開用ガスを発生させ、第1気室110、第2気室120に供給することで、エアバッグ100の第1気室110、第2気室120を、フロントリテーナ51F、リアリテーナ51Rから繰り出させ、展開させる。
このとき、第1気室110の内圧は、第2気室120の内圧に対して低圧(第1気室110が相対的に低圧・第2気室120が相対的に高圧)となるようにする。
このとき、第2気室120は、第2気室調圧バルブ213による減圧を行わない構成とすることができる。
また、第1気室110は、第1気室調圧バルブ212を、所定の開度で開状態に維持する構成とすることができる。
これにより、第1気室110が衝突による荷重を受けた際に、内部の展開用ガスを第1気室調圧バルブ212から排気しつつ収縮し、エネルギ吸収を行うことが可能となる。
その後、ステップS17に進む。
【0058】
<ステップS16:エアバッグ展開(前後同等圧)>
エアバッグ制御ユニット210は、インフレータ211を作動させて展開用ガスを発生させ、第1気室110、第2気室120に供給することで、エアバッグ100の第1気室110、第2気室120を、フロントリテーナ51F、リアリテーナ51Rから繰り出させ、展開させる。
このとき、第1気室110、第2気室120の内圧は、ステップS15における第2気室120の内圧と同等に設定される。
このとき、第1気室110、第2気室120は、第1気室調圧バルブ212、第2気室調圧バルブ213による減圧を行わない構成とすることができる。
その後、ステップS17に進む。
【0059】
<ステップS17:エアバッグ前進制御実行>
エアバッグ制御ユニット210は、前後移動機構300のアクチュエータに指令を与え、エアバッグ100の第1気室110及び第2気室120を、車両1の車体に対して前方側へ変位させるエアバッグ前進制御を行う。
この変位終了後の第1気室110、第2気室120の位置は、例えば、第1実施形態のエアバッグ装置における第1気室110、第2気室120の位置と一致する構成とすることができる。
その後、一連の処理を終了する。
上記制御により、他車両V等の物体が車両1の斜め前方側あるいは側方から側面衝突した場合には、第1実施形態において図6乃至8を参照して説明した効果と同様の効果を得ることができる。
【0060】
<ステップS18:エアバッグ展開(前側低圧・後側高圧)>
エアバッグ制御ユニット210は、インフレータ211を作動させて展開用ガスを発生させ、第1気室110、第2気室120に供給することで、エアバッグ100の第1気室110、第2気室120を、フロントリテーナ51F、リアリテーナ51Rから繰り出させ、展開させる。
このとき、第1気室110の内圧は、第2気室120の内圧に対して低圧(第1気室110が相対的に低圧・第2気室120が相対的に高圧)となるようにする。
その後、ステップS19に進む。
【0061】
<ステップS19:エアバッグ後退制御実行>
エアバッグ制御ユニット210は、前後移動機構300のアクチュエータに指令を与え、エアバッグ100の第1気室110及び第2気室120を、車両1の車体に対して後方側へ変位させるエアバッグ後退制御を行う。
このときの変位量は、フロントリテーナ51F、リアリテーナ51Rの可動範囲における最後端まで移動させるようにしてもよい。また、環境認識ユニット220が検出した他車両V等の衝突位置に応じて、可動範囲内の中間位置となるよう制御してもよい。
その後、一連の処理を終了する。
【0062】
<ステップS20:局所的衝突判定>
環境認識ユニット220は、例えば車両1が横滑りし、車線逸脱するなどして、例えば信号機柱、電柱などのポール類や樹木など、車体に局所的なダメージを与えうる比較的小さい物体に、車体側面側から衝突する可能性を推定する。
衝突の可能性が所定以上である場合には局所的衝突判定を成立させ、ステップS21に進み、その他の場合は一連の処理を終了する。
【0063】
<ステップS21:エアバッグ展開(前後同等圧)>
エアバッグ制御ユニット210は、インフレータ211を作動させて展開用ガスを発生させ、第1気室110、第2気室120に供給することで、エアバッグ100の第1気室110、第2気室120を、フロントリテーナ51F、リアリテーナ51Rから繰り出させ、展開させる。
このとき、第1気室110、第2気室120の内圧は、ステップS15における第2気室120の内圧と同等に設定される。
このとき、第1気室110、第2気室120は、第1気室調圧バルブ212、第2気室調圧バルブ213による減圧を行わない構成とすることができる。
その後、ステップS21に進む。
【0064】
<ステップS22:衝突箇所追従制御>
エアバッグ制御ユニット210は、環境認識ユニット220が推定したポール等の物体の車体への衝突位置を、エアバッグ100の第1気室110、第2気室120の少なくとも一方がカバー可能なように、前後移動機構300のアクチュエータに指令を与え、第1気室110、第2気室120をサイドシル50に対して前後方向に移動させる衝突箇所追従制御を実行する。
その後、一連の処理を終了する。
【0065】
以下、第1実施形態のエアバッグ装置を備えた車両における側面衝突後の状態と効果について説明する。
上述した通り、他車両V等と斜め前方側からの側面衝突を受けた場合の効果は、図6乃至図8を参照して説明した第1実施形態の効果と同様である。
図12は、第3実施形態のエアバッグ装置を有する車両の衝突直後の状態を模式的に示す図であってBピラー後方に斜め後方から側面衝突を受けた状態を示す図である。
この場合、第1気室110は、第2気室120に対して低圧とされる。(ステップS18)
【0066】
他車両Vは、主に第2気室120に、車両1の斜め後方側から衝突し、第2気室120を介してリアサイドドア40、Bピラー70、Cピラー80、サイドシル50等に荷重Fを伝達する。
これにより、Bピラー70を強く押すための等分布荷重を得ることができ、他車両Vから第2気室120に入力される荷重Fを、Bピラー70等の車体構造に効率よく伝達することができる。
これにより、リアサイドドア40の局所的な変形を低減し、リアサイドドア40が変形して車室10内に侵入することを抑制できる。
【0067】
図13は、第3実施形態のエアバッグ装置を有する車両の衝突直後の状態を模式的に示す図であってポールが局所的に側面衝突した状態を示す図である。
この場合、第1気室110、第2気室120は、ともに同等の圧力(高圧)とされる。(ステップS21)
例えば電柱、信号機柱などのポールPは、車両1の横滑りを伴う車線逸脱により、車両1の斜め前方側から、フロントサイドドア30の中央部付近に向けて車両1に衝突する。
これに対し、エアバッグ100は、前後移動機構300によって前進し、第1気室110の中央部にポールPが衝突する状態とされる。
ポールPから第1気室110に入力された荷重は、第1気室110を介してAピラー60、Bピラー70、サイドシル50、フロントサイドドア30等に分散して伝達される。
これにより、フロンドサイドドア30が局所的に大変形することが抑制され、フロントサイドドア30が車室10内に侵入することによる乗員への加害性を低減することができる。
【0068】
以上説明したように、第3実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と同様の効果に加えて、エアバッグ100の第1気室110、第2気室120を、前後移動機構300で車体に対して前後方向に移動させることにより、物体から車体への荷重伝達をより精度よく行い、上述した効果を促進することができる。
【0069】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)エアバッグ装置及び車両の構成は、上述した各実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
例えば、これらを構成する各部材の形状、構造、材質、製法、個数、配置などを適宜変更することができる。
(2)エアバッグの構成や気室の配置などは、各実施形態の構成に限らず、適宜変更することができる。例えば、ドア上部でのエネルギ吸収が他の手法により可能である場合には、第3気室を省略した構成としてもよい。また、上述した気室以外に、他の気室を付加的に設けてもよい。また、各気室をさらに分割した構成としてもよい。
(3)衝突の前兆を検出する手法は各実施形態のセンサを用いたものに限らず、適宜変更することができる。例えば、他種のセンサを付加的に、あるいは、各実施形態のセンサに代えて用いることができる。また、車車間通信や路車間通信によって衝突の前兆を検知する構成としてもよい。
(4)各実施形態では、展開前のエアバッグ100を収容する収容部(リテーナ51)を、サイドシル50の下部における内部に設けているが、収容部を設ける箇所は、これに限らず、適宜変更することができる。例えば、フロアパネルの下面部や、サイドシルに設けられる意匠性を有する空力部品であるサイドステップの内部等に収容部を設けてもよい。
(5)各実施形態における衝突態様に応じた第1気室、第2気室の内圧制御は一例であって、適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 車両
FW 前輪 RW 後輪
10 車室 20 パワーユニットコンパートメント
30 フロントサイドドア 31 アウタパネル
32 インナパネル 33 ドアトリム
34 補剛部材 40 リアサイドドア
50 サイドシル 51 リテーナ
51F フロントリテーナ 51R リアリテーナ
60 Aピラー 70 Bピラー
80 Cピラー 90 ドアビーム
91 前端部 92 後端部
100 エアバッグ 110 第1気室
120 第2気室 130 隔壁
200 制御システム
210 エアバッグ制御ユニット 211 インフレータ
212 第1気室調圧バルブ 213 第2気室調圧バルブ
214 第1気室内圧センサ 215 第2気室内圧センサ
220 環境認識ユニット 221 側方監視カメラ
222 ミリ波レーダ装置 223 レーザスキャナ装置
300 前後移動機構 310 レール
321~324 プーリ 331~334 ワイヤ
V 他車両 P ポール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13