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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077046
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/044 20140101AFI20230529BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
B23K26/044
B23K26/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190156
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】田村 悟
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA06
4E168CA13
4E168CB07
4E168CB20
4E168CB23
4E168EA17
4E168KA10
(57)【要約】
【課題】加工後の加工ラインへ2回目のレーザビームを入射させる際に、レーザビームの入射位置の位置決め精度を高めることができるレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】支持機構が加工対象物を回転させる。位置センサが、加工対象物上の加工ラインの位置を検出する。レーザ照射部が、加工対象物にレーザビームを入射させる。レーザ照射部から出力されるレーザビームの入射位置が、加工ラインに対して交差する方向に変化するように、移動機構がレーザ照射部を移動させる。制御装置が加工対象物を回転させながら、位置センサで取得された加工ラインの位置情報に基づいて、レーザビームが加工ラインに入射するように制御する。制御装置は、加工ラインのうち少なくとも一部の領域に対してオーバラップ加工を行う。レーザビームの2回目の入射時に、1回目の入射の前に取得された加工ラインの位置情報に基づいて移動機構を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象物を支持して回転させる支持機構と、
前記加工対象物の加工すべき加工ラインの位置を検出する位置センサと、
前記加工対象物にレーザビームを入射させるレーザ照射部と、
前記レーザ照射部から出力されるレーザビームの入射位置が、前記加工ラインに対して交差する方向に変化するように、前記レーザ照射部を移動させる移動機構と、
前記支持機構を制御して前記加工対象物を回転させながら、前記位置センサで取得された前記加工ラインの位置情報に基づいて、レーザビームが前記加工ラインに入射するように前記移動機構を制御して前記レーザ照射部からレーザビームを出力させる制御装置と
を備え、
前記制御装置は、前記加工ラインのうち少なくとも一部の領域に対して、レーザビームの1回目の入射の後、2回目の入射を行うオーバラップ加工を行い、レーザビームの2回目の入射時に、1回目の入射の前に前記位置センサで取得された前記加工ラインの位置情報に基づいて前記移動機構を制御するレーザ加工装置。
【請求項2】
前記加工ラインは、前記加工対象物の表面に定義される閉曲線であり、
前記制御装置は、前記加工ライン上の一つの始点から加工を開始し、レーザビームの入射位置を前記加工ラインに沿って移動させ、レーザビームの入射位置が前記始点に戻った後、前記始点から前記加工ライン上の一部分に対して前記オーバラップ加工を行う請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記加工対象物は、端面を揃えて重ねられた少なくとも2枚の板状部材を含み、
前記加工ラインは、前記加工対象物の端面に沿って定義される請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
加工対象物の加工すべき箇所である加工ラインの位置情報を取得し、取得された位置情報に基づいてレーザビームの入射位置を調整して前記加工ラインにレーザビームを入射させ、
既にレーザビームが入射して加工された前記加工ラインの少なくとも一部の領域に対して2回目のレーザビームを入射させるオーバラップ加工を行い、
前記オーバラップ加工を行う際に、1回目のレーザビームの入射の前に取得された前記加工ラインの位置情報に基づいて、2回目に入射させるレーザビームの入射位置を調整するレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パイプ状または円盤状の加工対象物の周囲を、レーザビームを用いて溶接するレーザ加工技術が公知である。下記の特許文献1に、円形の金属キャップの外周縁部をレーザ溶接で下地の本体に接合するレーザ加工方法が開示されている。このレーザ溶接においては、金属キャップの外周縁部に設定された環状の溶接ラインに沿って一連のパルスレーザ光のビームスポットを少しずつずらして重ね合わせながら移動させる。この場合、始端部または終端部の接合強度を確実なものとするために、シーム溶接部の終端部を始端部にオーバラップさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-240689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加工対象物の加工すべき加工ラインに正確にレーザビームを入射させるために、レーザビームの入射前に加工ラインの位置をセンサ等で検出し、検出された位置に応じてレーザビームの入射位置を移動させることが好ましい。シーム溶接部の終端部を始端部にオーバラップさせる場合には、既に溶接加工された箇所の位置を検出することになる。ところが、レーザビームが入射することによって加工ラインの近傍の加工対象物の形状が変化する。したがって、加工前の加工ラインの位置を検出する方法と同一の方法を用いて加工後の加工ラインの位置を検出しようとすると、位置検出エラーが生じる場合がある。
【0005】
本発明の目的は、加工後の加工ラインへ2回目のレーザビームを入射させる際に、レーザビームの入射位置の位置決め精度を高めることができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
加工対象物を支持して回転させる支持機構と、
前記加工対象物の加工すべき加工ラインの位置を検出する位置センサと、
前記加工対象物にレーザビームを入射させるレーザ照射部と、
前記レーザ照射部から出力されるレーザビームの入射位置が、前記加工ラインに対して交差する方向に変化するように、前記レーザ照射部を移動させる移動機構と、
前記支持機構を制御して前記加工対象物を回転させながら、前記位置センサで取得された前記加工ラインの位置情報に基づいて、レーザビームが前記加工ラインに入射するように前記移動機構を制御して前記レーザ照射部からレーザビームを出力させる制御装置と
を備え、
前記制御装置は、前記加工ラインのうち少なくとも一部の領域に対して、レーザビームの1回目の入射の後、2回目の入射を行うオーバラップ加工を行い、レーザビームの2回目の入射時に、1回目の入射の前に前記位置センサで取得された前記加工ラインの位置情報に基づいて前記移動機構を制御するレーザ加工装置が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
加工対象物の加工すべき箇所である加工ラインの位置情報を取得し、取得された位置情報に基づいてレーザビームの入射位置を調整して前記加工ラインにレーザビームを入射させ、
既にレーザビームが入射して加工された前記加工ラインの少なくとも一部の領域に対して2回目のレーザビームを入射させるオーバラップ加工を行い、
前記オーバラップ加工を行う際に、1回目のレーザビームの入射の前に取得された前記加工ラインの位置情報に基づいて、2回目に入射させるレーザビームの入射位置を調整するレーザ加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
オーバラップ加工時に、1回目の入射の前に位置センサで取得された加工ラインの位置情報に基づいてレーザ照射部の位置を制御するため、加工によって変形した状態の加工ラインの位置を検出する必要がない。このため、位置検出エラーの発生が生じにくい。また、オーバラップ加工時に、レーザ照射部の位置制御を行わない方法と比べて、レーザビームの入射位置の位置決め精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1A及び図1Bは、一実施例によるレーザ加工装置の概略図である。
図2図2は、加工対象物、レーザ照射部、及び位置センサの平面視における位置関係を示す図である。
図3図3は、一実施例によるレーザ加工方法の手順を示すフローチャートである。
図4図4A図4Cは、加工対象物の加工の開始から終了までの加工の進みを説明するための加工対象物の平面図である。
図5図5A図5Cは、加工対象物の加工の開始から終了までの加工の進みを説明するための加工対象物の平面図である。
図6図6A図6B、及び図6Cは、それぞれ第1比較例、第2比較例、及び本実施例による方法でレーザ加工を行うときの加工ライン及びレーザビームの入射位置を示すグラフである。
図7図7Aは、他の実施例によるレーザ加工装置及びレーザ加工方法が取り扱う加工対象物の斜視図であり、図7Bは、加工対象物(図7A)を加工するときのレーザ加工装置の概略図である。
図8図8A及び図8Bは、それぞれ比較例、及びさらに他の実施例による方法でレーザ加工を行うときの加工ライン及びレーザビームの入射位置を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1A図7Cを参照して、一実施例によるレーザ加工装置について説明する。
図1A及び図1Bは、本実施例によるレーザ加工装置の概略図である。円盤状の加工対象物50が、支持機構60によって支持される。図1Aは、加工対象物50が支持機構60によって支持される前の状態を示し、図1Bは、加工対象物50が支持機構60によって支持された状態を示している。
【0011】
加工対象物50は、例えば同径の2枚の円盤状の板状部材を、その中心同士が一致するように重ね合わせたものである。2枚の円盤状の板状部材の端面がほぼ面一になるように配置される。言い換えると、加工対象物50の端面は、高さが半径より十分小さい円柱の側面を構成する。支持機構60は加工対象物50を厚さ方向に挟んで支持している。支持機構60は、加工対象物50をその中心軸を回転中心として回転させることができる。エンコーダ61が、支持機構60の回転角を測定する。
【0012】
レーザ照射部10がレーザビーム40を出力する。本実施例によるレーザ加工装置は、2枚の円盤状の板状部材の端面の境界線に沿ってレーザビーム40を入射させることにより、2枚の板状部材を溶接する。レーザビーム40を入射させるべき線状の箇所を加工ライン51ということとする。加工ライン51は、加工対象物50の表面(端面)上に定義される閉曲線である。加工対象物50の厚さ方向をz方向、レーザビーム40の中心軸に平行な方向をy方向とするxyz直交座標系を定義する。加工対象物50の2枚の板状部材の表面が幾何学的に正確な平面である場合は、加工ライン51は、xy面に平行な仮想平面上に配置される。
【0013】
レーザ発振器12からレーザ伝送ファイバ13を通ってレーザ照射部10に加工用のレーザビームが伝送される。レーザ照射部10内に集光レンズが配置されており、レーザ照射部10まで伝送されたレーザビームが集光レンズによって加工対象物50の端面に集光される。
【0014】
レーザ照射部10は、移動機構11によってz方向に並進移動可能に支持されている。レーザ照射部10がz方向に移動すると、レーザビーム40の入射位置もz方向に移動する。
【0015】
位置センサ30が、加工対象物50の端面に定義された加工ライン51のz方向の位置を検出する。位置センサ30として、例えばレーザを用いた非接触式のラインセンサを用いることができる。位置センサ30は、位置センサ30から加工対象物50の端面までの距離を、z方向のある範囲内で測定する。端面から外れた位置においては、位置センサ30からの距離が長大になるため、測定された距離の分布から、端面のz方向の位置を求めることができる。例えば、端面のz方向の幅の中心位置が加工ライン51の位置に相当する。エンコーダ61で取得された回転角の位置情報と、位置センサ30で取得された位置情報とから、加工ライン51の周方向の各位置についてz方向の位置を求めることができる。
【0016】
制御装置20が、位置センサ30及びエンコーダ61で取得された位置情報に基づいて、移動機構11を制御することにより、レーザビーム40の入射位置を加工ライン51の位置に合わせる。制御装置20は、さらにレーザ発振器12からのレーザビームの出力、及び支持機構60の回転の制御を行う。制御装置20は記憶装置21を含んでおり、加工ライン51の周方向の位置とz方向の位置とを関連付けて記憶装置21に記憶させる。
【0017】
図2は、加工対象物50、レーザ照射部10、及び位置センサ30の平面視における位置関係を示す図である。加工対象物50が、その中心RCを回転中心として回転する。加工対象物50の端面に円周に沿う加工ライン51が定義されている。レーザ照射部10から出力されるレーザビーム40の中心軸41を延長した直線が、加工対象物50の中心RCを通過する。
【0018】
位置センサ30は、観測位置DPにおいて、加工ライン51のz方向の位置を検出する。レーザビーム40の入射位置と、観測位置DPとは、周方向にずれている。例えば、加工ライン51上のある位置が観測位置DPを通過した時点から、レーザビーム40の入射位置に至るまでの加工対象物50の回転角が45°以下になるようにレーザ照射部10及び位置センサ30が配置されている。
【0019】
次に、図3図5Cを参照して、本実施例によるレーザ加工方法について説明する。
図3は、本実施例によるレーザ加工方法の手順を示すフローチャートである。図4A図5Cは、加工対象物50の加工の開始から終了までの加工の進みを説明するための加工対象物50の平面図である。
【0020】
まず、加工対象物50を支持機構60(図1B)によって支持する(ステップS01)。その後の手順は、制御装置20が、エンコーダ61及び位置センサ30で取得された位置情報に基づいて、支持機構60、移動機構11、及びレーザ発振器12を制御することにより実行される。まず、加工対象物50の回転を開始する(ステップS02)。さらに、制御装置20が位置センサ30(図1B)を制御して加工ライン51(図1B)の位置検出を開始し、位置センサ30で取得されたz方向の位置情報をエンコーダ61(図1B)で取得された回転方向の位置情報と関連付けて記憶装置21に記憶させるとともに、加工の始点を決定する(ステップS03)。例えば、図4Aに示すように、ある時点において位置センサ30の観測位置DPに位置する点を始点P0として採用する。
【0021】
始点P0がレーザビーム40の入射位置に到達するまで、レーザビーム40を出力することなく、加工ライン51の位置検出を継続し、取得された位置情報を記憶装置21に記憶させる(ステップS04)。
【0022】
図4Bに示すように、始点P0がレーザビーム40の入射位置に到達したら、位置センサ30で取得された位置情報に基づいてレーザ照射部10のz方向の位置を制御しながら、レーザビーム40の出力を開始する(ステップS05)。より具体的には、レーザビーム40の入射位置における加工ライン51のz方向の位置情報に基づいて、加工ライン51にレーザビーム40が入射するように、レーザ照射部10のz方向の位置を制御する。
【0023】
始点P0が位置センサ30の観測位置DPに達するまでこの処理を継続する(ステップS06)。図4Cに示すように、加工ライン51のうち、レーザビーム40の入射位置から回転方向に始点P0に至るまでの領域51Aが加工済になる。図4Cにおいて、加工済の領域51Aを太い実線で表している。図5A図5Cにおいても同様である。
【0024】
図5Aに示すように、始点P0が位置センサ30の観測位置DPに到達したら、加工ライン51の位置検出を停止する(ステップS07)。より詳細には、始点P0が位置センサ30の観測位置DPに到達する直前に位置検出を停止する。図5Bに示すように、始点P0がレーザビーム40の入射位置に到達するまで、位置検出を停止したまま、レーザビーム40の出力を継続する(ステップS08)。始点P0から回転方向にレーザビーム40の入射位置に至るまでの加工ライン51(図5Bにおいて未加工の領域)のz方向の位置は既に検出されており、記憶装置21に格納されているため、位置検出を停止した状態でもレーザビーム40の入射位置のz方向の位置合わせを行うことができる。これにより、加工ライン51の全域に対して、レーザビーム40の1回目の照射が完了する。
【0025】
図5Bに示すように、始点P0がレーザビーム40の入射位置に到達したら、加工済の加工ライン51に対してレーザビーム40を再度入射させる。レーザビーム40の2回目の入射を行う加工をオーバラップ加工という。このとき、レーザビーム40の1回目の入射の前に位置センサ30で取得された加工ライン51のz方向の位置情報に基づいて、レーザ照射部10のz方向の位置を制御する(ステップS09)。図5Cに示すように、レーザビーム40の入射位置から回転方向に始点P0に至るまでの領域51Bに対してオーバラップ加工が行われる。オーバラップ加工すべき領域の全域に2回目のレーザビーム40の入射が行われるまで、この処理を継続する(ステップS10)。オーバラップ加工すべき領域は、加工ライン51のうち一部分である。
【0026】
オーバラップ加工すべき領域の全域に2回目のレーザビーム40の入射が行われたら、レーザビーム40の出力を停止させ、加工対象物50の回転を停止させる(ステップS11)。
【0027】
次に、図6A図6Cを参照して、本実施例の優れた効果について説明する。図6A図6B、及び図6Cは、それぞれ第1比較例、第2比較例、及び本実施例による方法でレーザ加工を行うときの加工ライン51及びレーザビームの入射位置を示すグラフである。横軸は回転方向θの位置を表し、縦軸はz方向の位置を表す。太い実線aは、レーザビーム40が入射する位置を示し、細い実線bは加工ライン51の位置を示している。加工対象物50の加工精度等の影響により、加工ライン51のz方向の位置は、回転方向θの位置に応じて変動する。
【0028】
回転方向θの位置が、横軸の原点である始点P0から加工ライン51に沿って回転方向θに一周すると、始点P0に戻る。この始点P0を越えた領域(図6A図6Cにおいて右側の領域)い、オーバラップ加工OVLを行うべき領域が定義される。
【0029】
第1比較例(図6A)では、本実施例におけるステップS07(図3)の加工ライン51の位置検出を停止する処理を行わない。すなわち、図5Aに示すように始点P0が位置センサ30の観測位置DPに到達した後も、位置センサ30による位置検出を継続する。
【0030】
加工対象物50の端面にレーザビーム40を入射させて溶接等の加工を行うと、端面の形状が変化する。このため、加工前の端面の形状を前提としたアルゴリズムで加工ライン51の位置検出を行うと、位置検出エラーが発生する場合がある。例えば、始点P0が位置センサ30の観測位置DPに到達したときに位置検出エラーが発生する。
【0031】
第1比較例(図6A)では、始点P0から加工を開始し、位置検出エラーが発生するまでの間は、加工ライン51を示す実線bとレーザビーム40の入射位置を示す実線aとが一致している。これは、加工ライン51に正確にレーザビーム40が入射したことを意味する。ところが、位置検出エラーが発生した後、レーザ照射部10の位置制御を行うことができない。この時点で加工を停止させる制御を行うと、図5Aに示した始点P0から回転方向にレーザビーム40の入射位置に至るまで領域が加工されない。さらに、オーバラップ加工も行われない。すなわち、図6Aにおいて、位置演出エラーが発生した箇所よりも右側の領域には、レーザビームが入射しない。
【0032】
第2比較例(図6B)では、始点P0がレーザビーム40の入射位置に到達した時点(図5B)でレーザ照射部10の位置制御を停止し、レーザ照射部10の位置を固定する。このため、オーバラップ加工OVLを行うときのレーザビーム40のz方向の入射位置aは、始点P0のz方向の位置に固定される。このため、レーザビーム40のz方向の入射位置aと、実際の加工ライン51のz方向の位置bとの間に、偏差D0が生じる。このため、オーバラップ加工の加工品質が低下してしまう。
【0033】
これに対して本実施例(図6C)では、オーバラップ加工時に、加工ライン51が未加工の状態で取得した位置情報に基づく加工ライン51のz方向の位置bに基づいて、レーザ照射部10(図1B)の位置を制御する。このため、オーバラップ加工OVLを行う領域においても、レーザビーム40のz方向の入射位置aと、加工ライン51のz方向の位置bとがほぼ一致する。これにより、オーバラップ加工OVL時の加工品質の低下を抑制することができる。
【0034】
次に、図7A及び図7Bを参照して、他の実施例によるレーザ加工装置及びレーザ加工方法について説明する。以下、図1A図6Cを参照して説明した実施例と共通の構成については説明を省略する。
【0035】
図7Aは、本実施例によるレーザ加工装置及びレーザ加工方法が取り扱う加工対象物50の斜視図である。加工対象物50は、円板50Aと円筒50Bとで構成される。円板50Aの直径と、円筒50Bの外径とが等しい。このため、円板50Aで円筒50Bの一方の開口部を塞ぐと、円板50Aの端面と円筒50Bの外周面とが、ほぼ面一になり、滑らかにつながる。
【0036】
図7Bは、加工対象物50(図7A)を加工するときのレーザ加工装置の概略図である。円板50Aの端面と、円筒50Bの外周面との境界が加工ライン51に相当する。位置センサ30が、円板50Aの端面の縁を検出することにより、加工ライン51のz方向の位置情報を取得することができる。
【0037】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例においても、図1A図6Cを参照して説明した実施例と同様に、オーバラップ加工の加工品質の低下を抑制することができる。
【0038】
次に、本実施例の種々の変形例について説明する。
上記実施例では、円板50Aと円筒50Bとで加工対象物50を構成しているが、他の形状の2つの部材で加工対象物50を構成してもよい。このとき、加工ライン51が一つの閉曲線、例えば円周になるような形状の2つの部材を加工対象物50とするとよい。例えば、お椀形の2つの部材を、凹面同士を対向させて接触させた状態のものを加工対象物50としてもよい。
【0039】
次に、図8A及び図8Bを参照して、さらに他の実施例によるレーザ加工装置及びレーザ加工方法について説明する。以下、図1A図6Cを参照して説明した実施例と共通の構成については説明を省略する。
【0040】
図8A及び図8Bは、それぞれ比較例及び本実施例による方法でレーザ加工を行うときの加工ライン51及びレーザビームの入射位置を示すグラフである。横軸は回転方向θの位置を表し、縦軸はz方向の位置を表す。太い実線aは、レーザビーム40が入射する位置を示し、細い実線bは加工ライン51の位置を示している。
【0041】
機械的な組み立て精度等に起因して、最初(図4A)に取得された始点P0のz方向の位置情報と、加工対象物50が1回転して始点P0が位置センサ30の観測位置DPに到達したときに取得された始点P0のz方向の位置情報とが一致しない場合がある。例えば、図8Aに示すように、1回転後の始点P0のz方向の位置が、当初の始点P0の位置に対して偏差D1だけずれている。
【0042】
この状態で、最初に取得された加工ライン51のz方向の位置情報に基づいてレーザ照射部10の位置を制御すると、レーザビーム40の入射位置aが、実際の加工ライン51の位置bからずれてしまう
【0043】
本実施例では、オーバラップ加工OVLを行うときに、最初に取得された位置情報に基づく加工ライン51のz方向の位置に偏差D1を加えて加工ライン51の位置を算出し、この算出結果に基づいてレーザ照射部10のz方向の位置を変化させる。
【0044】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、オーバラップ加工OVLを行うときに偏差D1を加味してレーザ照射部10の位置を制御する。このため、加工対象物50を一回転させて取得された位置情報に基づく始点P0のz方向の位置に偏差D1が生じたとしても、レーザビーム40のz方向の入射位置aを、加工ライン51のz方向の位置bにほぼ一致させることができる。
【0045】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0046】
10 レーザ照射部
11 移動機構
12 レーザ発振器
13 レーザ伝送ファイバ
20 制御装置
21 記憶装置
30 位置センサ
40 レーザビーム
41 レーザビームの中心軸
50 加工対象物
50A 円板
50B 円筒
51 加工ライン
51A 加工済の領域
51B 2回目のレーザビーム照射を行う領域
60 支持機構
61 エンコーダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8