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特開2023-77082加硫ゴム-金属複合体並びにタイヤ、ホース、及びクローラ
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  • 特開-加硫ゴム-金属複合体並びにタイヤ、ホース、及びクローラ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077082
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】加硫ゴム-金属複合体並びにタイヤ、ホース、及びクローラ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20230529BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230529BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230529BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20230529BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20230529BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20230529BHJP
   C08K 5/40 20060101ALI20230529BHJP
   C08K 5/44 20060101ALI20230529BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230529BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230529BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20230529BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20230529BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20230529BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230529BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20230529BHJP
   B62D 55/247 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/013
C08L101/00
C08K5/09
C08K5/56
C08K5/3492
C08K5/40
C08K5/44
C08K3/04
C08K3/36
C08L9/00
C08L61/06
C08K9/02
B60C1/00 C
B60C9/00 K
B62D55/247
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190222
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄大
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA13
3D131AA39
3D131AA40
3D131BA04
3D131BA05
3D131BA12
3D131BA18
3D131BC01
3D131BC02
3D131BC13
3D131BC35
3D131BC36
3D131BC39
3D131LA28
4J002AA012
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC043
4J002AC061
4J002AC081
4J002CC042
4J002CC052
4J002CC062
4J002CC072
4J002CC082
4J002CC182
4J002DA036
4J002DA078
4J002DA088
4J002DA108
4J002DE096
4J002DE136
4J002DE236
4J002DJ016
4J002EG047
4J002EG077
4J002EU187
4J002EV279
4J002FA048
4J002FB048
4J002FB078
4J002FD016
4J002FD018
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD070
4J002FD140
4J002FD150
4J002FD158
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】低ロス性及び加硫ゴムと金属との接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体並びにそれを用いた低ロス性に優れるタイヤ、ホース、及びクローラを提供する。
【解決手段】金属と、前記金属を被覆する加硫ゴムとを備える加硫ゴム-金属複合体であって、前記加硫ゴムは、ゴム成分と、充填剤と、熱硬化性樹脂と、メチレン供与体とを含み、コバルト含有化合物の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して0.01質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムであり、前記金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属である加硫ゴム-金属複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属と、前記金属を被覆する加硫ゴムとを備える加硫ゴム-金属複合体であって、
前記加硫ゴムは、ゴム成分と、充填剤と、熱硬化性樹脂と、メチレン供与体とを含み、コバルト含有化合物の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して0.01質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムであり、
前記金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属である加硫ゴム-金属複合体。
【請求項2】
前記被覆中の前記鉄の量が、前記銅、前記亜鉛及び前記鉄の総質量の1質量%以上10質量%未満である請求項1に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項3】
前記被覆中のリンの量が、0mg/mを超え4mg/m以下である請求項1又は2に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項4】
前記スチールコードは、ダイヤモンドダイスにより伸線加工されている請求項1~3のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項5】
前記ゴム組成物が、更に、チウラム系加硫促進剤及びスルフェンアミド系加硫促進剤からなる群より選択される少なくとも1つの加硫促進剤を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項6】
前記ゴム組成物が、更に、前記ゴム成分100質量部に対して0.5~8質量部の補強性樹脂を含有する請求項1~5のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項7】
前記ゴム組成物がカーボンブラックを含有し、前記ゴム組成物のゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックの含有量が35質量部以上60質量部以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項8】
前記カーボンブラックは、窒素吸着比表面積が70m/g以上90m/g以下であり、フタル酸ジブチル吸収量が50mL/100g以上110mL/100g以下である請求項7に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項9】
前記ゴム組成物中の前記コバルト含有化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.00質量部である請求項1~8のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項10】
前記ゴム組成物中の前記熱硬化性樹脂の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、4質量部を超え20質量部以下である請求項1~9のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項11】
前記補強性樹脂が、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンである請求項6~10のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項12】
前記ゴム組成物中の質量比(チウラム系加硫促進剤/熱硬化性樹脂)が0.02以上0.12未満である請求項5~11のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項13】
前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂を含む請求項1~12のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項14】
前記充填剤が、前記カーボンブラックとシリカとを含む請求項7~13のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項15】
前記ゴム組成物中の前記シリカの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0質量部より多く15質量部以下である請求項14に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項16】
前記ゴム組成物が、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを含む請求項5~15のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項17】
前記フェノール樹脂が2種以上のフェノール樹脂を含有し、少なくともアルキルフェノール樹脂を含む請求項13~16のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項18】
前記フェノール樹脂が、無変性のフェノール・ホルムアルデヒド樹脂と、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂とを含む請求項17に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体を含むタイヤ。
【請求項20】
コバルト原子の含有量が1質量%以下である請求項19に記載のタイヤ。
【請求項21】
請求項1~18のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体を含むホース。
【請求項22】
請求項1~18のいずれか1項に記載の加硫ゴム-金属複合体を含むクローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴム-金属複合体並びにタイヤ、ホース、及びクローラに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ、ベルト、ホース等のようなゴム製品は、スチールコード類や有機繊維類等の補強材で補強されている。これらのゴム製品は、ゴム組成物と補強材、特にゴム組成物とスチールコードとを強固に接着することが求められている。
このスチールコード被覆用ゴム組成物として、ゴム成分100質量部に対し、ビス(安息香酸)亜鉛および/またはビス(t-ブチル安息香酸)亜鉛を0.12質量部以上、脂肪酸コバルト塩をコバルト元素に換算して0.03~0.30質量部、炭素数16~22の脂肪酸および脂肪酸コバルト塩に由来する炭素数16~22の脂肪酸を合計で0.5質量部未満含有するゴム組成物が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
ほかに、スチールコード被覆用ゴム組成物として、カーボンブラックを分散させたスラリー溶液とゴムラテックスとを混合して得られるウェットマスターバッチを用いて製造されたゴム組成物であって、前記カーボンブラックは、JIS K 6217-4:2008に基づき測定したジブチルフタレート吸油量(mL/100g)が60mL/100g以上90mL/100g以下であり、JIS K6217-7:2013に基づき測定した統計的厚さ比表面積(m/g)が100m/g以上150m/g以下であり、 該ゴムラテックス100質量部に対して、該カーボンブラックが35質量部以上80質量部以下配合されたゴム組成物が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
また、メッキ素線からなるスチールコードと、このスチールコードを被覆するゴムとからなるゴム・コード複合体であって、前記メッキ素線は、芯線の表面に銅(Cu)、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)からなる三元メッキ層を具え、かつ前記三元メッキ層は、その表面からの深さが15nmまでの領域であるメッキ表面領域の組成が、銅(Cu):64~68at%、コバルト(Co):0.5~7.0at%であるスチールコード-ゴム複合体が開示されている(特許文献3参照)。
このように、スチールコードにコバルトをメッキすることでスチールコード-ゴム複合体の接着性を補完することは知られていた。
【0005】
特許文献4には、コバルトフリー化合物でも三種合金コーティングの使用を可能にする鉄の粒子を豊富に含む真鍮コーティングを備えたスチールコードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-053244号公報
【特許文献2】特開2016-37547号公報
【特許文献3】特開2014-19974号公報
【特許文献4】国際公開第2020/156967号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3では、コバルト化合物を除いた場合の加硫ゴム-金属接着性については検討されていない。また、特許文献4に記載の加硫ゴム-金属複合体は低ロス性の面で更なる改善の余地があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、低ロス性及び加硫ゴムと金属との接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体並びにそれを用いた低ロス性に優れるタイヤ、ホース、及びクローラを提供することを目的とし、当該目的を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<1> 金属と、前記金属を被覆する加硫ゴムとを備える加硫ゴム-金属複合体であって、
前記加硫ゴムは、ゴム成分と、充填剤と、熱硬化性樹脂と、メチレン供与体とを含み、コバルト含有化合物の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して0.01質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムであり、
前記金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属である加硫ゴム-金属複合体。
【0010】
<2> 前記被覆中の前記鉄の量が、前記銅、前記亜鉛及び前記鉄の総質量の1質量%以上10質量%未満である<1>に記載の加硫ゴム-金属複合体。
<3> 前記被覆中のリンの量が、0mg/mを超え4mg/m以下である<1>又は<2>に記載の加硫ゴム-金属複合体。
<4> 前記スチールコードは、ダイヤモンドダイスにより伸線加工されている<1>~<3>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0011】
<5> 前記ゴム組成物が、更に、チウラム系加硫促進剤及びスルフェンアミド系加硫促進剤からなる群より選択される少なくとも1つの加硫促進剤を含む<1>~<4>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<6> 前記ゴム組成物が、更に、前記ゴム成分100質量部に対して0.5~8質量部の補強性樹脂を含有する<1>~<5>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0012】
<7> 前記ゴム組成物がカーボンブラックを含有し、前記ゴム組成物のゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックの含有量が35質量部以上60質量部以下である<1>~<6>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<8> 前記カーボンブラックは、窒素吸着比表面積が70m/g以上90m/g以下であり、フタル酸ジブチル吸収量が50mL/100g以上110mL/100g以下である<7>に記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0013】
<9> 前記ゴム組成物中の前記コバルト含有化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.00質量部である<1>~<8>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<10> 前記ゴム組成物中の前記熱硬化性樹脂の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、4質量部を超え20質量部以下である<1>~<9>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0014】
<11> 前記補強性樹脂が、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンである<6>~<10>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<12> 前記ゴム組成物中の質量比(チウラム系加硫促進剤/熱硬化性樹脂)が0.02以上0.12未満である<5>~<11>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
<13> 前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂を含む<12>に記載の加硫ゴム-金属複合体。
<14> 前記充填剤が、前記カーボンブラックとシリカとを含む<7>~<13>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0015】
<15> 前記ゴム組成物中の前記シリカの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0質量部より多く15質量部以下である<14>に記載の加硫ゴム-金属複合体。
<16> 前記ゴム組成物が、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを含む<5>~<15>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0016】
<17 前記フェノール樹脂が2種以上のフェノール樹脂を含有し、少なくともアルキルフェノール樹脂を含む<13>~<16>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体。
【0017】
<18> 前記フェノール樹脂が、無変性のフェノール・ホルムアルデヒド樹脂と、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂とを含む<17>に記載の加硫ゴム-金属複合体。
<19> <1>~<18>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体を含むタイヤ。
<20> コバルト原子の含有量が1質量%以下である<19>に記載のタイヤ。
<21> <1>~<18>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体を含むホース。
<22> <1>~<18>のいずれか1つに記載の加硫ゴム-金属複合体を含むクローラ。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低ロス性及び加硫ゴムと金属との接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体並びにそれを用いた低ロス性に優れるタイヤ、ホース、及びクローラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】特許文献4のFigure 3aである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明をその実施形態に基づき詳細に例示説明する。なお、以下の説明において、数値範囲を示す「A~B」の記載は、端点であるA及びBを含む数値範囲を表し、「A以上B以下」(A<Bの場合)、又は「A以下B以上」(A>Bの場合)を表す。
また、質量部及び質量%は、それぞれ、重量部及び重量%と同義である。
【0021】
<加硫ゴム-金属複合体>
本発明の加硫ゴム-金属複合体は、金属と、金属を被覆する加硫ゴムとを備える加硫ゴム-金属複合体である。
ここで、加硫ゴムは、ゴム成分と、充填剤と、熱硬化性樹脂と、メチレン供与体とを含み、コバルト含有化合物の含有量がゴム成分100質量部に対して0.01質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムである。
当該加硫ゴムを「本発明の加硫ゴム」と称することがある。
本発明の加硫ゴムの元となる前記ゴム組成物を「本発明のゴム組成物」と称することがある。なお、ゴム組成物は未加硫状態であり、ゴム組成物に含まれるゴム成分も未加硫状態である。
本発明の加硫ゴム-金属複合体において、金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属(三元めっき金属)である。
上記構成の加硫ゴム及び上記構成の金属が接着している加硫ゴム-金属複合体を、本発明の加硫ゴム-金属複合体、又は第1の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体と称する。
【0022】
本発明の加硫ゴム-金属複合体が低ロス性及び加硫ゴムと金属との接着性に優れる理由は定かではないが、スチールコード表面が、銅-亜鉛-鉄の三元めっき金属の被覆ゴムとして、上記構成の本発明のゴム組成物の加硫ゴムを用いることで、当該効果をなし得ることを見出した。
【0023】
本発明の加硫ゴム-金属複合体は、第1の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体の要件を満たせば、特に制限されず、例えば、次のような第2、第3、第4の実施形態に係る加硫ゴム-金属複合体であってもよい。
【0024】
第2の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体は、
金属と、前記金属を被覆する加硫ゴムとを備える加硫ゴム-金属複合体であって、
前記加硫ゴムは、ゴム成分と、充填剤と、ゴム成分100質量部に対して熱硬化性樹脂を、 4質量部を超え20質量部以下と、メチレン供与体及び加硫促進剤とを含有し、ゴム成分100質量部に対して補強性樹脂の含有量が2質量部以上8質量部以下であり、コバルト化合物の含有量が0.01質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムであり、
前記金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属である。
第2の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体は、低ロス性及び加硫ゴムと金属との接着性に優れ、更に、タイヤの製造に用いた場合、得られたタイヤは、操縦安定性、低燃費性及び耐亀裂進展性に優れる。
【0025】
第3の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体は、
金属と、前記金属を被覆する加硫ゴムとを備える加硫ゴム-金属複合体であって、
前記加硫ゴムは、ゴム成分と、充填剤と、熱硬化性樹脂と、メチレン供与体と、チウラム系加硫促進剤と、スルフェンアミド系加硫促進剤とを含有し、ゴム成分100質量部に対してコバルト化合物の含有量が0.01質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムであり、
前記金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属である。
第3の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体は、低ロス性及び加硫ゴムと金属との接着性に優れ、更に、タイヤの製造に用いた場合、得られたタイヤは、耐亀裂進展性及び低燃費性に優れる。
【0026】
第4の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体は、
金属と、前記金属を被覆する加硫ゴムとを備える加硫ゴム-金属複合体であって、
前記加硫ゴムは、ゴム成分と、充填剤と、フェノール樹脂と、メチレン供与体とを含有し、更にコバルト化合物の含有量が前記ゴム成分100質量部に対して0.01質量部以下であるゴム組成物の加硫ゴムであり、
前記金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属である。
第4の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体は、低ロス性及び加硫ゴムと金属との接着性に優れ、更に、加硫ゴムとスチールコードとの湿熱接着性に優れる。
【0027】
以下、本発明のゴム組成物及び金属について説明する。
なお、第2の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体の加硫ゴムを構成するゴム組成物を「第2の実施形態に係るゴム組成物」;第3の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体の加硫ゴムを構成するゴム組成物を「第3の実施形態に係るゴム組成物」;第4の実施形態に係る本発明の加硫ゴム-金属複合体の加硫ゴムを構成するゴム組成物を「第4の実施形態に係るゴム組成物」と称することがある。
【0028】
〔ゴム組成物〕
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と、充填剤と、熱硬化性樹脂と、メチレン供与体とを含み、コバルト含有化合物の含有量がゴム成分100質量部に対して0.01質量部以下である。
本発明のゴム組成物は、更に、加硫促進剤、ステアリン酸、亜鉛華等を含んでいてもよい。
【0029】
(ゴム成分)
ゴム成分は、通常、ジエン系ゴムが用いられる。
ジエン系ゴムとしては、例えば、イソプレン系ゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)等、及びそれらの変性ゴムが挙げられる。また、ゴム成分は、本発明の効果を損なわない限度において、非ジエン系ゴムを含んでいてもよい。
ゴム成分は1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
以上の中でも、加硫ゴム-金属複合体の低ロス性及び加硫ゴム-金属接着性をより向上する観点から、ゴム成分は、イソプレン系ゴムを含むことが好ましい。
【0030】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(BIR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム(SIR)、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(SBIR)等、及びそれらの変性ゴムが挙げられる。イソプレン系ゴムは1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
以上の中でも、加硫ゴム-金属複合体の低ロス性及び加硫ゴム-金属接着性をより向上する観点から、イソプレン系ゴムは、天然ゴム及びポリイソプレンゴムからなる群より選択される1つ以上が好ましく、天然ゴムがより好ましい。天然ゴムは、エポキシ化天然ゴム、脱蛋白天然ゴム及びその他の変性天然ゴムを用いてもよい。
【0031】
天然ゴムの例としては、RSS#1、RSS#3、TSR20、SIR20等のグレードの天然ゴムを挙げることができる。
エポキシ化天然ゴムとしては、エポキシ化度10~60モル%のものが好ましく、クンプーランガスリー社製ENR25やENR50が例示できる。
脱蛋白天然ゴムとしては、総窒素含有率が0.3質量%以下である脱蛋白天然ゴムが好ましい。
その他の変性天然ゴムとしては、天然ゴムに、予め、4-ビニルピリジン、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート等のN,N-ジアルキルアミノエチルアクリレート、2-ヒドロキシアクリレート等を反応させた極性基を含有する変性天然ゴムが必要に応じ用いられる。
【0032】
ゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量は、50質量%を超えることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
特に、第3の実施形態に係るゴム組成物においては、加硫ゴムの低ロス性;及びスチールコードと加硫ゴムとの湿熱接着性を高いレベルで両立する観点から、天然ゴムを55質量%以上含有することが好ましく、65質量%以上含有することがより好ましく、75質量%以上含有することが更に好ましい。ゴム成分中の天然ゴムの割合の上限は100質量%である。
【0033】
(充填剤)
本発明のゴム組成物は、充填剤を含有する。
ゴム組成物が充填剤を含有することで、加硫ゴムの機械的強度を向上することができる。
充填剤は、ゴム組成物を補強する補強性充填剤であることが好ましい。
補強性充填剤としては、例えば、カーボンブラック;シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩;水酸化アルミニウム等が挙げられる。
充填剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0034】
[カーボンブラック]
本発明の加硫ゴムの補強性を向上し、金属と加硫ゴムとの接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体を得る観点から、充填剤は、カーボンブラックを含むことが好ましい。
カーボンブラックの種類特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックは、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、及びSAFグレードのものが好ましく、HAF、ISAF、及びSAFグレードのものがより好ましく、HAFグレードのものが更に好ましい。カーボンブラックは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0035】
フタル酸ジブチル吸収量(DBP吸収量)の低い、すなわちストラクチャーの低いカーボンブラックを用いることにより、加硫ゴムの低ロス性を向上させることができる。また、タイヤの耐久性を向上する観点から、カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(NSA)が70m/g以上90m/g以下であり、フタル酸ジブチル吸収量(DBP吸収量)が50mL/100g以上110mL/100g以下であることが好ましい。
【0036】
加硫ゴムの低ロス性及び耐久性をより向上する観点から、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、70m/g以上85m/g以下であることがより好ましく、73m/g以上83m/g以下であることが更に好ましい。
同様に、加硫ゴムの低ロス性及び耐久性をより向上するから、カーボンブラックのフタル酸ジブチル吸収量は、65mL/100g以上110mL/100g以下であることがより好ましく、90mL/100g以上110mL/100g以下であることが好ましい。
また、発熱(ロス)を抑えることによりタイヤの接着耐久性が良くなるため、カーボンブラックのグレードは、発熱性の低い(低ロス性の)グレードであるHAFグレード(HAF、HAF-LS)が好ましい。
カーボンブラックは、上述したものから1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
カーボンブラックのNSAは、JIS K 6217-2:2001(比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法)のA法によって求められる。カーボンブラックのDBP吸収量は、JIS K 6217-4:2001「DBP吸収量の求め方」に記載の方法により測定され、カーボンブラック100g当りに吸収されるジブチルフタレート(DBP)の体積mlで表示される。
【0038】
ゴム組成物中の充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して30~60質量部であることが好ましく、特に、ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して35~60質量部のカーボンブラックを含有することが好ましい。
ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して30~60質量部の充填剤を含有することで、本発明の加硫ゴムの補強性を向上し、金属と加硫ゴムとの接着性に優れる加硫ゴム-金属複合体が得られやすい。
【0039】
第2の実施形態に係るゴム組成物においては、カーボンブラックの含有量が、ゴム成分100質量部に対して、30質量部以上80質量部以下であることが好ましく、35質量部以上60質量部以下であることがより好ましく、35質量部以上50質量部以下であることが特に好ましい。
【0040】
第3の実施形態に係るゴム組成物においては、カーボンブラックの含有量が、ゴム成分100質量部に対して、30質量部以上80質量部以下であることが好ましく、30質量部以上70質量部以下であることがより好ましく、35質量部以上60質量部以下であることが更に好ましく、35質量部以上50質量部以下であることが特に好ましい。カーボンブラックの含有量を減らすことにより、加硫ゴムの低ロス性を向上させることができる。
【0041】
第4の実施形態に係るゴム組成物においては、カーボンブラックの含有量は、タイヤの耐久性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対して35質量部以上50質量部以下であることが好ましく、37質量部以上50質量部以下であることがより好ましく、37質量部以上48質量部以下であることが更に好ましい。
【0042】
(シリカ)
充填剤は、シリカを含んでいてもよい。
特に、第4の実施形態に係るゴム組成物においては、充填剤としてシリカを含むことが好ましい。第4の実施形態に係るゴム組成物がシリカを含むことで、フェノール樹脂の反応が促進され、ゴム組成物から得られる加硫ゴムの低ロス性及び加硫ゴムのスチールコードに対する湿熱接着性がより向上する。
【0043】
シリカの種類は、特に制限はなく、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、コロイダルシリカ等が挙げられる。シリカは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
シリカのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)比表面積は、80m/g以上250m/g以下であることが好ましく、100m/g以上200m/g以下であることがより好ましく、120m/g以上180m/g以下であることが更に好ましい。
シリカのCTAB比表面積が上記範囲であることで、加硫ゴムの低ロス性及び加硫ゴムの金属(特に、スチールコード)に対する接着性(第4の実施形態に係る加硫ゴム-金属複合体にあっては湿熱接着性)をより向上することができる。
シリカのCTAB比表面積は、ASTM-D3765-80の方法に準拠した方法で測定することができる。
本発明のゴム組成物は、シリカの分散性を向上させ、また、加硫ゴムの補強性及び低発熱性を向上させるために、更に、シランカップリング剤を含んでもよい。
【0045】
ゴム組成物中のシリカの含有量は、加硫ゴムの低ロス性及び加硫ゴムの金属(特に、スチールコード)に対する湿熱接着性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対して、0質量部より多く15質量部以下であることが好ましい。シリカの含有量がゴム成分100質量部に対して、0質量部より多いことで、熱硬化性樹脂(特に、フェノール樹脂)の反応が促進され、15質量部以下であることで、ゴム組成物の粘度を抑え、加工性に優れる。ゴム組成物中のシリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上12質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以上10質量部以下であることが更に好ましい。ゴム組成物中のシリカの含有量は、ゴム組成物の加工性の観点から、ゴム成分100質量部に対して5質量部未満であってもよい。
【0046】
(熱硬化性樹脂)
本発明のゴム組成物は、熱可塑性樹脂を含有する。
ゴム組成物が熱可塑性樹脂を含有することで、ゴム組成物から得られる加硫ゴムが低ロス性に優れ、かつ加硫ゴムの金属に対する接着性(特に湿熱接着性)に優れる。
熱硬化性樹脂は、フェノール、レゾルシン等を構成単位として含有する樹脂であればよく、特に制限されるものではないが、フェノール樹脂が好ましく用いられる。
【0047】
フェノール樹脂は、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜選択することができる。例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、tert-ブチルフェノール等のフェノール類またはこれらの混合物とホルムアルデヒドとを、塩酸、蓚酸等の酸触媒の存在下において縮合反応させることによって製造したものが挙げられる。
フェノール樹脂は、無変性であってもよいし、変性されていてもよい。
無変性フェノール樹脂は、例えば、フェノール樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
変性フェノール樹脂は、例えば、ロジン油、トール油、カシュー油、リノール酸、オレイン酸、リノレン酸等の油によって無変性フェノール樹脂を変性した構造を有し、フェノール樹脂のフェノール骨格に、炭化水素基(例えばアルキル基等)等の置換基を有する。
本発明では、フェノール樹脂のフェノール骨格にアルキル基を備えるフェノール樹脂を、アルキルフェノール樹脂と称する。アルキルフェノール樹脂のアルキル基の数(フェノール骨格に結合する数)及びアルキル基の炭素数は、特に制限されないが、アルキル基の数は通常1~3であり、1つのアルキル基あたりの炭素数は1~15であることが好ましく、5~10であることが好ましい。アルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよいし、環状であってもよいが、分岐状であることが好ましい。
本発明のゴム組成物は、フェノール樹脂を、1種を単独で含むこともできるし、複数種を混合して含むこともできる。
【0048】
第4の実施形態に係るゴム組成物においては、ゴム組成物から得られる加硫ゴムの低ロス性をより向上する観点から、フェノール樹脂は、2種以上のフェノール樹脂を含有し、少なくともアルキルフェノール樹脂を含むことが好ましい。すなわち、含有形態としては、(1)1種のアルキルフェノール樹脂を含み、当該アルキルフェノール樹脂と異なる種類のアルキルフェノール樹脂(他のアルキルフェノール樹脂)を1種以上含む形態、(2)1種のアルキルフェノール樹脂を含み、アルキルフェノール樹脂以外のフェノール樹脂(他のフェノール樹脂)を1種以上含む形態、(3)1種のアルキルフェノール樹脂を含み、他のアルキルフェノール樹脂1種以上及び他のフェノール樹脂1種以上を含む形態等が挙げられる。
中でも、第4の実施形態に係るゴム組成物から得られる加硫ゴムの低ロス性をより向上する観点から、(2)1種のアルキルフェノール樹脂を含み、他のフェノール樹脂を1種以上含む形態が好ましく、1種のアルキルフェノール樹脂を含み、無変性フェノール樹脂を1種以上含む形態がより好ましい。
具体的には、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂と、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂を併用することが好ましい。
【0049】
ゴム組成物中の熱硬化性樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1~20質量部であることが好ましく、4質量部を超え、20質量部以下であることが好ましく、4質量部を超え、18質量部以下であることがより好ましく、4質量部を超え、16質量部以下含有することが更に好ましく、4質量部を超え、14質量部以下含有することが特に好ましい。
本発明に係る熱硬化性樹脂の含有量が、ゴム成分100質量部に対して4質量部を超えれば、十分な接着性(特に、湿熱劣化後の接着性)が得られる。
熱硬化性樹脂の配合量が、ゴム成分100質量部に対して、20質量部以下であれば、加硫中の接着反応が過剰に進むことがないので接着性(特に、湿熱劣化後の接着性)が低下することを防止できる。
【0050】
特に、第4の実施形態に係るゴム組成物においては、ゴム組成物中のフェノール樹脂の含有量(フェノール樹脂全量)は、加硫ゴムの低ロス性を向上する観点から、ゴム成分100質量部に対し、1~20質量部であることが好ましく、3~15質量部であることがより好ましい。
第4の実施形態に係るゴム組成物中のアルキルフェノール樹脂の含有量は、加硫ゴムの低ロス性を向上する観点から、ゴム成分100質量部に対し、0.1~10質量部であることが好ましく、0.3~5質量部であることがより好ましく、0.5~3質量部であることが更に好ましい。
また、無変性フェノール樹脂と、アルキル・フェノール樹脂を併用する際には、ゴム組成物中の両者の合計含有量が、ゴム成分100質量部に対し、1~20質量部であり、かつ、無変性フェノール樹脂:アルキル・フェノール樹脂が質量基準で2:1~10:1であることが好ましい
【0051】
本発明に係る熱硬化性樹脂の軟化点は、150℃以下であることが好ましく、80℃以上150℃以下の範囲であることがより好ましく、80℃以上140℃以下の範囲であることが更に好ましく、90℃以上140℃以下であることが、特に好ましい。
熱硬化性樹脂の軟化点が150℃以下であることで、ゴム組成物の混練時に、熱可塑性樹脂をゴム組成物に配合した際に、ゴム組成物中での熱可塑性樹脂の分散低下を抑制し、加硫ゴム-金属間の接着性を損ねにくい。熱可塑性樹脂の軟化点が80℃以上であることでブロッキングを抑制する。
【0052】
(メチレン供与体)
本発明のゴム組成物は、メチレン供与体を含有する。
メチレン供与体としては、ヘキサメトキシメチルメラミン(HMMM)、変性エーテル化メチロールメラミン樹脂、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)、ペンタキス(メトキシメチル)メチロールメラミン、テトラキス(メトキシメチル)ジメチロールメラミン等のゴム工業において通常使用されているものを挙げることができる。
中でもヘキサメトキシメチルメラミン単独、変性エーテル化メチロールメラミン樹脂単独又はそれらを主成分とする混合物が好ましい。これらのメチレン供与体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
ゴム組成物中のメチレン供与体の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.5質量部以上10質量部以下が好ましく、1質量部以上10質量部以下がより好ましく、1質量部以上8質量部以下が更に好ましく、1質量部以上6質量部以下が特に好ましい。含有量がゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上であれば、熱硬化性樹脂を硬化させることができ、10質量部以下であれば、ゴム組成物の加硫速度が速過ぎるようになることを防ぐことができる。
【0054】
(補強性樹脂)
本発明のゴム組成物は、補強性樹脂を含有していてもよい。
特に、第2の実施形態に係るゴム組成物は、補強性樹脂を含有することが好ましい。
補強性樹脂とは、補強性を有する樹脂又は補強性を有する結晶体を熱可塑性樹脂に配合し分散させた樹脂複合材料をいう。上記の補強性を有する樹脂としては、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、アセタールコポリマーを原料とした高結晶性樹脂等が例示され、上記の樹脂複合材料としてはチタン酸カリウム繊維(例えば、大塚化学(株)製商品名「TISMO」)を熱可塑性樹脂に配合し分散させた樹脂複合材料が例示される。
これらの補強性樹脂の内、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン(以下、SPBと略称することがある。)が好ましい。ゴム組成物のマスターバッチ混練温度で融解し、ゴム組成物の良好に分散するからである。
ゴム組成物中の補強性樹脂の含有量としては、ゴム成分100質量部に対して、0.5~8質量部であることが好ましく、2.5~7.5質量部であることがより好ましい。ゴム組成物中の補強性樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、3質量部以上であることが更に好ましく、また、7.0質量部以下であることが更に好ましく、6.5質量部以下であることがより更に好ましい。
【0055】
[シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン(SPB)]
シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン(SPB)は、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマーであり、SPB中の1,2結合含量が88質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、92質量%以上であることが更に好ましく、93質量%以上であることが特に好ましい。
SPBの融点は、ゴム組成物のマスターバッチ混練温度で融解する観点から、130℃以下が好ましく、ブロッキング防止の観点から65℃以上が好ましい。
SPBの融点は、80℃以上130℃以下がより好ましく、100℃以上130℃以下が更に好ましい。
SPBは市販品を用いることもでき、例えば、JSR(株)製の商品名「RB840」(1,2結合含量:94質量%、融点:126℃)、商品名「RB830」(1,2結合含量:93質量%、融点:105℃)、商品名「RB820」(1,2結合含量:92質量%、融点:95℃)、商品名「RB810」(1,2結合含量:90質量%、融点:71℃)、商品名「AT400」(1,2結合含量:94質量%、融点:126℃)、商品名「AT300」(1,2結合含量:93質量%、融点:105℃)等が挙げられる。
【0056】
ゴム組成物のゴム成分中にポリブタジエンゴムを含有させる場合は、ポリブタジエンゴム中にSPBを分散させた、ポリブタジエンゴム-シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン複合体(BR-SPB複合体)を用いてもよい。このBR-SPB複合体は、市販品を用いてもよく、例えば、宇部興産(株)製のVCR412(SPB結晶量:12.0質量%、マトリックスポリマーのシス含有量:98質量%)、VCR617(SPB結晶量:12.0質量%、マトリックスポリマーのシス含有量:98質量%)、VCR450(SPB結晶量:3.8質量%、マトリックスポリマーのシス含有量:98質量%)、VCR800(SPB結晶量:5.3質量%、マトリックスポリマーのシス含有量:98質量%)等が挙げられる。
【0057】
(加硫促進剤)
本発明のゴム組成物は、加硫促進剤を含有することが好ましい。
加硫促進剤としては、ゴム工業便覧<第四版>(平成6年1月20日社団法人、日本ゴム協会発行)の412~413頁に記載されているチアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が挙げられる。
以上の中でも、加硫ゴムの低ロス性を向上する観点から、ゴム組成物は、チウラム系加硫促進剤及びスルフェンアミド系加硫促進剤からなる群より選択される少なくとも1つの加硫促進剤を含むことが好ましい。
特に、第2の実施形態に係るゴム組成物及び第4の実施形態に係るゴム組成物は、スルフェンアミド系加硫促進剤を含むことが好ましく、第3の実施形態に係るゴム組成物は、チウラム系加硫促進剤及びスルフェンアミド系加硫促進剤を含むことが好ましい。
【0058】
[チウラム系加硫促進剤]
チウラム系加硫促進剤としては、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド等が挙げられる。
チウラム系加硫促進剤は市販品を用いてもよく、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィドとしては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーTOT」;テトラエチルチウラムジスルフィドとしては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーTET」;テトラメチルチウラムジスルフィドとしては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーTT」;テトラブチルチウラムジスルフィドとしては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーTBT」;テトラメチルチウラムモノスルフィドとしては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーTS」;ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドとしては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーTRA」;テトラベンジルチウラムジスルフィドとしては例えば、川口化学工業(株)製、商品名「アクセルTBZT」)等が挙げられる。
【0059】
[スルフェンアミド系加硫促進剤]
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(BBS)、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-メチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-エチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-プロピル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ペンチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ヘプチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オクチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-2-エチルヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-デシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ドデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ステアリル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジメチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジエチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジプロピル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジペンチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジヘプチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジオクチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジ-2-エチルヘキシルベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジドデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジステアリル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等が挙げられる。
これらのなかでも、ゴム組成物は、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを少なくとも含むことがより好ましい。
【0060】
スルフェンアミド系加硫促進剤は市販品を用いてもよく、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)としては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーCZ」;N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(BBS)としては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーNS」;N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドとしては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーMSA」あるいは川口化学工業(株)製、商品名「アクセルNS」等が挙げられる。
【0061】
[チアゾール系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、その他]
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)等が挙げられる。
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン(DOTG)、1-o-トリルビグアニド(OTBG)等が挙げられる。
その他に、トリメチルチオ尿素(TMU)、N,N'-ジエチルチオ尿素(DEU)、N,N'-ジフェニルチオ尿素等のチオウレア系加硫促進剤等の加硫促進剤を用いてもよい。
【0062】
加硫促進剤の使用量は特に限定されるものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下の範囲が好ましく、0.5質量部以上8質量部以下の範囲がより好ましく、0.5質量部以上7質量部以下の範囲が更に好ましく、0.5質量部以上6質量部以下の範囲が特に好ましい。
特に、第4の実施形態に係るゴム組成物においては、加硫ゴムの低発熱性と加硫ゴムのスチールコードに対する湿熱接着性を向上する観点から、ゴム組成物中の加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上3.0質量部以下であることが好ましく、0.8質量部以上2.0質量部以下であることがより好ましい。
【0063】
また、第3の実施形態に係るゴム組成物においては、チウラム系加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上、0.2質量部以上が好ましく、5質量部以下、3質量部以下、2質量部以下、1質量部以下、0.7質量部未満が好ましい。
第3の実施形態に係るゴム組成物中のスルフェンアミド系加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、ゴム成分100質量部に対して0.3質量部以上8質量部以下の範囲が好ましく、0.4質量部以上7質量部以下の範囲がより好ましく、0.4質量部以上6質量部以下の範囲が更に好ましく、0.4質量部以上5質量部以下の範囲が特に好ましい。
さらに、加硫促進剤N, N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを0.1質量部以下含有することが好ましく、さらには含有しないことが好ましい。
質量比(スルフェンアミド系加硫促進剤/チウラム系加硫促進剤)が1より大きく10以下が好ましく、1.1~8がより好ましく、1.2~6が更に好ましく、1.2~5がより更に好ましい。
【0064】
更に、第3の実施形態に係るゴム組成物においては、ゴム組成物中の質量比(チウラム系加硫促進剤/熱硬化性樹脂)が0.02以上0.12未満であることが好ましい。熱硬化性樹脂の硬化反応を促進させ、耐亀裂進展性を向上させることができるからである。この観点から、前記質量比が0.02以上であれば、熱硬化性樹脂の硬化反応が促進される酸性度となるため好ましく、前記質量比が0.12未満であれば、硫黄網目のモノスルフィド架橋が増えすぎないため好ましい。質量比(チウラム系加硫促進剤/熱硬化性樹脂)は、0.03以上0.10以下であることがより好ましく、0.05以上0.08以下であることが更に好ましい。
第3の実施形態に係るゴム組成物は、スルフェンアミド系加硫促進剤として、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)を含有することが好ましい。
第3の実施形態に係るゴム組成物中のN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上8.0質量部以下が好ましく、0.2質量部以上6.0質量部以下がより好ましく、0.3質量部以上5.0質量部以下が更に好ましく、0.4質量部以上4.0質量部以下が特に好ましい。
【0065】
(コバルト含有化合物)
本発明のゴム組成物は、コバルト含有化合物の含有量が、ゴム成分100質量部に対して0.01質量部以下である。これは、本発明のゴム組成物が、コバルト含有化合物を実質的に含まないことを意味する。
コバルト含有化合物は、有機酸コバルト塩、コバルト金属錯体等が挙げられる。
有機酸コバルト塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト、オレイン酸コバルト、リノール酸コバルト、リノレン酸コバルト、パルミチン酸コバルト等を挙げることができる。また、コバルト金属錯体としては、例えばコバルトアセチルアセトナートが挙げられる。
本発明のゴム組成物は、コバルト含有化合物を含まないこと、すなわち、ゴム組成物中のコバルト含有化合物の含有量が、ゴム成分100質量部に対して0.00質量部であることが好ましい。
【0066】
従来は、コバルト含有化合物を用いて加硫ゴムと金属との接着性の効果を得ていたが、本発明のゴム組成物が既述の組成であることで、ゴム組成物がコバルト含有化合物を含まなくても、加硫ゴムと金属との接着性に優れ、更には低ロス性にも優れる。また、ゴム組成物がコバルト含有化合物を含まないことで、金属腐食を抑制することができ、また、環境負担を軽減することができる。
【0067】
(各種成分)
本発明のゴム組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で、所望により、通常ゴム工業界で用いられる各種薬品、例えば、加硫剤、加硫遅延剤、プロセスオイル、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸等を含んでいてもよい。
【0068】
[加硫剤]
加硫剤としては、硫黄等が挙げられる。硫黄成分としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、及び高分散性硫黄等が挙げられる。通常は不溶性硫黄及び粉末硫黄が好ましい。
加硫剤の使用量は、ゴム成分100質量部に対し、硫黄分として1質量部以上12質量部以下が好ましく、1質量部以上10質量部以下がより好ましく、更に好ましくは1.0質量部以上8.0質量部以下である。1質量部以上であることで、加硫ゴムの破壊強度、耐摩耗性、及び低燃費性を損ねにくく、12質量部以下であることで、加硫ゴムのゴム弾性を損ねにくい。
【0069】
[老化防止剤]
老化防止剤としては、日本ゴム協会編「ゴム工業便覧<第四版>」の436~443頁に記載されるものが挙げられる。具体的には、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられる。
【0070】
アミン系老化防止剤としては、例えば、フェニレンジアミン骨格(-NH-Ph-NH-)を有するフェニレンジアミン系老化防止剤等が挙げられる。
具体的には例えば、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD又は6Cと称されることがある)、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(3Cと称されることがある)、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジシクロヘキシル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N-4-メチル-2-ペンチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジアリール-p-フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール-p-フェニレンジアミン、フェニルヘキシル-p-フェニレンジアミン、フェニルオクチル-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0071】
中でも、フェニレンジアミン部分(-NH-Ph-NH-)以外には二重結合を有しないことが好ましく、具体的には、下記式(1)(R-NH-Ph-NH-R)で表されるアミン系老化防止剤が好ましい。
【0072】
【化1】
【0073】
上記式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して一価の飽和炭化水素基である。
とRは、同一であっても異なっていてもよいが、合成上の観点から、同一であることが好ましい。
【0074】
前記一価の飽和炭化水素基の炭素数は、1~20が好ましく、3~10が更に好ましく、6及び7が特に好ましい。飽和炭化水素基の炭素数が20以下であると、単位質量当たりのモル数が大きくなるため、老化防止効果が大きくなり、ゴム組成物の加硫ゴムの耐オゾン性が向上する。
上記式(1)中のR及びRは、ゴム組成物の加硫ゴムの耐オゾン性を更に向上させる観点から、それぞれ独立して炭素数1~20の鎖状又は環状の一価の飽和炭化水素基であることが好ましい。
【0075】
前記一価の飽和炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基が挙げられ、アルキル基は、直鎖状でも、分岐鎖状でもよく、また、シクロアルキル基には、置換基として更にアルキル基等が結合していてもよい。
前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,2-ジメチルペンチル基、1,3-ジメチルペンチル基、1,4-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,4-ジメチルペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基等が挙げられ、これらの中でも、1,4-ジメチルペンチル基が好ましい。
前記シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられ、これらの中でも、シクロヘキシル基が好ましい。
【0076】
なお、式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、任意の担体に担持されていてもよい。例えば、式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、シリカ、炭酸カルシウム等の無機充填剤に担持されていてもよい。
また、式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、ゴム成分とともにマスターバッチを構成してもよい。ここで、マスターバッチとする際に用いるゴム成分は、特に限定されるものではなく、天然ゴム(NR)等のジエン系ゴムでもよいし、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等であってもよい。
また、式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、有機酸との塩としてもよい。ここで、塩とする際に用いる有機酸としては、特に限定されるものではないが、ステアリン酸等が挙げられる。
【0077】
また、キノリン系老化防止剤も好適に用いることができ、キノリン系老化防止剤としては、例えば、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(RD又は224と称されることがある)、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン(AWと称されることがある)等が挙げられる。
そのほか、ジフェニルアミンとアセトンの高温縮合物を用いてもよい。
以上の老化防止剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
老化防止剤は、以上の中でも、アミン系老化防止剤及びキノリン系老化防止剤からなる群より選択される1つ以上を含むことが好ましく、アミン系老化防止剤を少なくとも含むことがより好ましい。
【0078】
老化防止剤の使用量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~8.0質量部が好ましく、0.1~6.0質量部が更に好ましく、0.3~5.0質量部が特に好ましい。
【0079】
(ゴム組成物の調製)
本発明のゴム組成物は、上述した各種成分及び添加剤を、ロールなどの開放式混練機、バンバリーミキサーなどの密閉式混練機などの混練り機を用いて混練りすることによって得られる。
本発明のゴム組成物は、例えば、混練の第一段階(マスターバッチ混練段階)で、ゴム成分と、充填材と、熱硬化性樹脂と、補強性樹脂と、他のマスターバッチ用配合剤とを混練した後、混練の最終段階で、加硫剤、加硫促進剤、メチレン供与体及び必要に応じその他の配合剤を混合することによって作製できる。
【0080】
〔金属〕
本発明のゴム-金属複合体に含まれる金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属(三元めっき金属)である。
スチールコードは、スチール製のモノフィラメント及びマルチフィラメント(撚りコード又は引き揃えられた束コード)のいずれでもよく、その形状は制限されない。スチールコードが撚りコードである場合の撚り構造についても特に制限はなく、単撚り、複撚り、層撚り、複撚りと層撚りの複合撚りなどの撚り構造が挙げられる。
【0081】
スチールコードが銅、亜鉛、及び鉄の三元系のめっき層を有することで、めっき層を構成する成分が、ゴムとスチールコードとの間の接着性を高める役目を果たすことができるため、ゴム組成物中のコバルト化合物の含有量が、少ない場合(ゴム成分100質量部に対して0.01質量部以下)であっても、高い接着性を実現できる。
スチールコードは、ゴム組成物との接着性を好適に確保する観点から、更に、接着剤処理などの表面処理がなされていてもよい。接着剤処理を使用する場合は例えばロード社製、商品名「ケムロック」(登録商標)などの接着剤処理が好ましい。
【0082】
また、例えば、表面のN原子が2原子%以上60原子%以下であって、かつ、表面のCu/Zn比が1以上4以下であるスチールフィラメントを使用することができる。また、金属フィラメント1としては、フィラメント半径方向内方にフィラメント最表層5nmまでの酸化物として含まれるリンの量が、C量を除いた全体量の割合で、7.0原子%以下である場合が挙げられる。
【0083】
本発明のゴム-金属複合体に含まれる金属は、スチールコード表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された金属(三元めっき金属)である。より具体的には、金属は、上記の1つ以上のスチールフィラメントを含むスチールコードにおいて、前記フィラメントは、スチールフィラメント基材と、前記スチールフィラメント基材を部分的または全体的に被覆する被覆(めっき層)とを含み、前記被覆は、銅および亜鉛からなる黄銅を含み、前記被覆は、鉄で強化されており、前記鉄が前記黄銅中に粒子として存在し、前記粒子は、10~10000ナノメートルのサイズを有することを特徴とするスチールコードであることがより好ましい。前記粒子は、20~5000ナノメートルのサイズを有することが、更に好ましい。「鉄で強化された」とは、鉄がフィラメント状鋼基材に由来しないことを意味する。
ここで、前記の黄銅は、銅と亜鉛とからなり、少なくとも63質量%の銅を含み、残りが亜鉛であることが好ましく、65質量%以上の銅を含むことがより好ましく、67質量%以上の銅を含むことが更に好ましい。
また、前記被覆(めっき層)中の鉄の量が、黄銅と鉄の総質量と比較して質量で1%以上であり、質量で10%未満であることが好ましく、前記被覆中の鉄の量が、黄銅と鉄の総質量と比較して質量で3%以上であり、質量で9%未満であることが、より好ましい。
前記被覆は、実質的に亜鉛鉄合金を含まないことを特徴とするスチールコードが更に好ましい。
【0084】
上記の1つ以上のスチールフィラメントを含むスチールコードにおいて、前記フィラメントの表面に存在するリンの量、換言すると、前記被覆(めっき層)中のリンの量がPであり、前記フィラメントの表面に存在する鉄の量、換言すると、前記被覆(めっき層)中の鉄の量がFeであり、(P+Fe)の量は、以下の方法(a)~(e)に従って、リンおよび鉄を溶解する弱酸でフィラメントの表面を穏やかにエッチングすることによって決定される。
(a)約5グラムのスチールコードを秤量し、約5cmの断片に切断し、試験管に導入する。
(b)0.01モル塩酸HClを10ml加える。
(c)試料を酸溶液で15秒間振盪する。
(d)ICP-OESにより、溶液中に存在する量を測定する。
ここで、ICP-OESとは、誘導結合プラズマ-10mLストリッピング溶液のマトリックス中の(0;0;0)、(2;0.02;1)、(5;0.1;2)、(10;0.5;5) mg/Lの(Cu;Fe;Zn)の標準溶液を全て使用する光学発光分光法(ICP-OES)をいう。
(e)フィラメント鋼の表面積の単位当たりの(P+Fe)の質量をミリグラム毎平方メートル(mg/m)で表した結果を示す。その結果を(Fe+P)と呼ぶ場合がある。
フィラメントの表面に存在するリンの量、換言すると、前記被覆(めっき層)中のリンの量は4mg/m以下であるが、ゼロより大きいことが、接着性を高める上で好ましい。即ち、0<P≦4mg/mである。リンの量(P)は4mg/mより少ないこと(P<4mg/m)がより好ましい。
より多量のリンP量は、接着層の成長を低下させる。リンP量は、3mg/mより低くても良いし、1.5mg/mより低くても更に良い。
さらに好ましい実施形態では、フィラメントの表面に存在する鉄の量が30mg/m以上であることが好ましく、35mg/mを超える鉄が表面に存在する場合がより好ましく、40mg/mを超える鉄が表面に存在する場合が更により好ましい。
また、フィラメントの表面に存在する鉄の量と、フィラメントの表面に存在するリンの量との質量比(Fe/P)は、27より大きいことが好ましい。
前記フィラメント表面被覆質量SCWが、表面積の単位当たり前記被覆中に存在する黄銅と鉄の質量の合計であり、前記被覆質量が平方メートル当たりのグラム数で表され、前記質量比[Fe/(SCW×P)]が13より大きいことが好ましい。
前記鉄が前記黄銅中に粒子として存在するスチールフィラメントを得る方法としては、鉄粒子で強化された黄銅被覆を有する中間ワイヤを、引き続いて潤滑剤中のより小さなダイスを通してワイヤを湿式ワイヤ引抜くことによって最終直径0.28mmまで引出して、スチールフィラメントを得ればよい。
潤滑剤は、一般に有機化合物中にリンを含む高圧添加剤を含有する。
ここで、用いるダイスとして、少なくともヘッドダイは焼結ダイヤモンドダイであり、残りのダイはタングステンカーバイドダイである、Set-Dダイスを用いればよい。スチールコードは、ダイヤモンドダイスにより伸線加工されていることが好ましい。
【0085】
本発明のゴム組成物は、金属を被覆して一定期間が経過する場合でも金属腐食を抑制することができるため、例えば金属コードをゴム組成物で被覆した状態で製品を流通させ、流通先で加硫して加硫ゴム-金属複合体を製造することができる。また、そのようにして製造された加硫ゴム-金属複合体は、金属の腐食が抑制されているため、加硫ゴム-金属接着性が損なわれにくく、耐久性にも優れる。
【0086】
ゴム組成物によるスチールコードの被覆方法としては、例えば以下に示す方法を用いることができる。
三元めっきされた所定の本数のスチールコードを所定の間隔で平行に並べ、このスチールコードを上下両側から、本発明のゴム組成物からなる厚さ0.5mm程度の未架橋ゴムシートでコーティングして前駆体を得る。得られた前駆体(未加硫ゴム-金属複合体)を加硫する。加硫条件は、例えば160℃程度の温度で、20分間程度;または、145℃程度の温度で、40分間程度とすることができる。
このようにして得られた加硫ゴムとスチールコードとの複合体は、優れた加硫ゴム-金属接着性を有する。
【0087】
接着性に優れる本発明の加硫ゴム-金属複合体は、各種自動車用タイヤ、クローラ、ホースなど、特に強度が要求されるゴム物品に用いられる補強材として好適に用いられる。特に、各種自動車用ラジアルタイヤのベルト、カーカスプライ、ワイヤーチェーファーなどの補強部材として好適に用いられる。
【0088】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、本発明の加硫ゴム-金属複合体を含む。
このため、本発明のタイヤは低燃費性に優れる。
本発明のタイヤの製造方法は、タイヤ内に、本発明の加硫ゴム-金属複合体が含まれるように製造し得る方法であれば、特に限定されない。
一般に、各種成分を含有させたゴム組成物が未加硫の段階で各部材に加工され、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形され、生タイヤが成形される。この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、タイヤが製造される。例えば、本発明のゴム組成物を混練の上、得られたゴム組成物で、三元めっきされたスチールコードをゴム引きして未加硫のベルト層、未加硫のカーカス、及び他の未加硫部材を積層し、未加硫積層体を加硫することでタイヤが得られる。
タイヤに充填する気体としては、通常の空気、酸素分圧を調整した空気等の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いてもよい。
本発明のタイヤは、コバルト原子の含有量が1質量%以下であることが好ましい。タイヤ中のコバルト原子の含有量は、タイヤ製造に用いるゴム組成物がコバルト含有化合物を含まず、加硫ゴム-金属複合体の金属がコバルトを含まなければ、0質量%であるといえる。タイヤ中のコバルト原子の含有量は、例えば、タイヤを構成する各部材の元素量を測定する方法で測定することができる。
【0089】
<クローラ、ホース>
本発明のクローラ、及びホースは、本発明の加硫ゴム-金属複合体を含む。
本発明の加硫ゴム-金属複合体を含む化工品は、本発明の加硫ゴム-金属複合体を含むことから、低ロス性に優れる。
化工品としては、加硫ゴム-金属複合体を含むタイヤ以外の化工品用ゴム物品が挙げられ、具体的には、クローラ、ホース等の強度が要求されるゴム物品が挙げられる。
【実施例0090】
〔ゴム組成物の調製〕
(実施例1、比較例1、2、5)
表1に示す配合処方に従い、まず、バンバリーミキサーでメチレン供与体、酸化亜鉛、硫黄及び加硫促進剤以外の成分を混練し、160℃に達した時点で排出する。次いで、得られる混合物に、70℃に保温した関西ロール製6インチオープンロールによりメチレン供与体、酸化亜鉛、硫黄及び加硫促進剤を添加混合して、スチールコード被覆用のゴム組成物を調製する。但し、比較例1においては、有機酸コバルト塩を配合する。表1の配合処方中の数値の単位は質量部である。
【0091】
(比較例3、4)
表1に示す配合処方に従い、まず、バンバリーミキサーでメチレン供与体、酸化亜鉛、硫黄及び加硫促進剤以外の成分を混練し、160℃に達した時点で排出した。次いで、得られた混合物に、70℃に保温した関西ロール製6インチオープンロールによりメチレン供与体、酸化亜鉛、硫黄及び加硫促進剤を添加混合して、スチールコード被覆用のゴム組成物を調製した。但し、比較例4においては、有機酸コバルト塩を配合した。表1の配合処方中の数値の単位は質量部である。
【0092】
(1)天然ゴム:SMR-CV60
(2)カーボンブラック:HAF級カーボンブラック、旭カーボン(株)製、商品名「旭#70L」、DBP吸収量:75cm/100g、窒素吸着比表面積:84m/g
(3)シリカ:東ソー・シリカ株式会社製、商品名「ニップシールAQ」(CTAB比表面積=155m2/g)
(4)有機酸コバルト塩:OMG社製、「マノボンドC」(有機酸のコバルト塩中の有機酸の一部をホウ酸で置き換えた複合塩、コバルト含有量:22.0質量%)
(5)フェノール樹脂:住友ベークライト(株)製、商品名「スミライトレジン PR-50235」
(6)ヘキサメトキシメチルメラミン(HMMM):メチレン供与体、ALLNEX社製、商品名「CYREZ 964LF」
(7)SPB:シンジオタクチックポリブタジエン、JSR(株)製、商品名「RB840」
(8)酸化亜鉛:正同化学工業株式会社製、商品名「酸化亜鉛2種」
(9)硫黄:不溶性硫黄:フレキシス社製、商品名「クリステックスHS OT-20」
ゴム組成物は、表1に示す成分のほか、その他成分として、老化防止剤、加硫促進剤、ステアリン酸、及びアルキルフェノール樹脂を含む。
【0093】
〔加硫ゴム-金属複合体の作製〕
(実施例1、比較例3、5)
表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆され、鉄を1質量%程度含むスチールコードを金属として用いることができる。この三元めっきスチールコードは、Set-Dダイスを用いて得られ、より詳細には、国際公開第2020/156967号明細書の段落番号[0065]~[0070]に記載の手法で製造される。
当該三元めっきスチールコードを、調製したゴム組成物で被覆して、未加硫ゴム-金属複合体(未加硫スチールコードトッピング反)を作製する。
未加硫ゴム-金属複合体を、加硫することで、加硫ゴム-金属複合体を作製することができる。
【0094】
(比較例1、2)
メッキ中のCu量が67.0質量%、Zn量が29.0質量%、Co量が4.0質量%となるように、Cu、Zn、Coの順にスチールフィラメントにメッキを繰り返し三元系の合金メッキのスチールフィラメントを得る。更にその後、三元系の合金メッキ層の極表面のみをダイヤモンドダイスによる伸線加工により強加工(表面処理)をした後、撚りコードであるスチールコードを作製する。
【0095】
(比較例4)
表面が、ブラスめっき(銅-亜鉛めっき)で被覆されたスチールコードを金属として用いた。
当該ブラスめっきスチールコードを、調製したゴム組成物で被覆して、未加硫ゴム-金属複合体(未加硫スチールコードトッピング反)を作製した。
未加硫ゴム-金属複合体を加硫して、加硫ゴム-金属複合体を作製した。
【0096】
<評価>
1.接着性
(1)初期接着
通常の加硫条件(TC90となる時間プラス5分)の1/2の加硫時間で加硫を行った際の加硫直後の加硫ゴム-金属複合体からスチールコードを引き抜く。スチールコードに付着している加硫ゴムの被覆状態を、目視観察にて観察し、比較例2のスチールコードに付着している加硫ゴムの被覆量を100とした場合の、各比較例及び実施例の加硫ゴムの被覆量を、接着性指数(初期接着)として、指数表示する。結果を表1に示す。許容範囲は100以上である。なお、TC90とは、特定のゴムが加硫温度でのレオメーター曲線で最大トルクの90%に達する時間を意味する。
【0097】
(2)湿熱劣化
加硫直後の加硫ゴム-金属複合体を、120℃で2日間蒸気環境下に保管し、保管後の加硫ゴム-金属複合体からスチールコードを引き抜く。スチールコードに付着している加硫ゴムの被覆状態を、目視観察にて観察し、比較例2のスチールコードに付着している加硫ゴムの被覆量を100とした場合の、各比較例及び実施例の加硫ゴムの被覆量を、接着性指数(湿熱劣化)として、指数表示する。結果を表1に示す。許容範囲は500以上であり、980以上であることが好ましい。
【0098】
2.低発熱性(低ロス性)及び操縦安定性
(実施例1、比較例1、2、5)
ゴム組成物を160℃で15分間加硫し、加硫ゴムを得る。株式会社上島製作所製スペクトロメーターを用いて、初期荷重1600mN、歪1%、周波数52Hzの条件下で、25℃における加硫ゴムのtanδ(損失正接)を測定する。比較例4のサンプルのtanδを100とした際の逆数として評価結果を低発熱性指数として、指数表示する。結果を表1に示す。数値が大きい程、転がり抵抗が低く、低ロス性であることを示す。許容範囲は100以下である。
同様の条件で貯蔵弾性率(E’)を測定する。比較例4のサンプルのE’を100としたときの指数を操縦安定性指数として示す。操縦安定性指数が大きい程、E’値が大きく、操縦安定性に優れると考えられる。評価結果を表1に示す。
【0099】
(比較例3、4)
ゴム組成物を160℃で15分間加硫し、加硫ゴムを得た。株式会社上島製作所製スペクトロメーターを用いて、初期荷重1600mN、歪1%、周波数52Hzの条件下で、25℃における加硫ゴムのtanδ(損失正接)を測定した。比較例4のサンプルのtanδを100とした際の逆数として評価結果を低発熱性指数として、指数表示した。結果を表1に示す。数値が大きい程、転がり抵抗が低く、低ロス性であることを示す。許容範囲は100以下である。
同様の条件で貯蔵弾性率(E’)を測定した。比較例4のサンプルのE’を100としたときの指数を操縦安定性指数として示す。操縦安定性指数が大きい程、E’値が大きく、操縦安定性に優れると考えられる。評価結果を表1に示す。
【0100】
3.耐亀裂進展性
(実施例1、比較例1、2、5)
ゴム組成物を160℃で15分間加硫し、厚さ2mmの加硫ゴムシートを作製し、各加硫ゴムの劣化後の耐亀裂進展性を評価する。
劣化の条件は、ゴム組成物を、100℃のオーブンにて24時間放置することである。
上記の劣化後、上島製作所製疲労試験機FT―3100を用いて、加硫ゴムシートの定応力疲労試験を行い、加硫ゴムシートが破断するまでの回数を測定する。結果は、比較例4を100とする指数(耐亀裂進展性指数)で表示する。指数値が大きい程、加硫ゴムシートが、劣化後の耐亀裂進展性に優れることを示す。許容範囲は100以上である。
結果を表1に示す。
【0101】
(比較例3、4)
ゴム組成物を160℃で15分間加硫し、厚さ2mmの加硫ゴムシートを作製し、各加硫ゴムの劣化後の耐亀裂進展性を評価した。
劣化の条件は、ゴム組成物を、100℃のオーブンにて24時間放置することである。
上記の劣化後、上島製作所製疲労試験機FT―3100を用いて、加硫ゴムシートの定応力疲労試験を行い、加硫ゴムシートが破断するまでの回数を測定した。結果は、比較例4を100とする指数(耐亀裂進展性指数)で表示した。指数値が大きい程、加硫ゴムシートが、劣化後の耐亀裂進展性に優れることを示す。許容範囲は100以上である。
結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
表1中、「スチールコード種」欄の「BX」は、加硫ゴム-金属複合体の金属が、表面が、銅、亜鉛、及び鉄の三元めっきで被覆された三元めっきスチールコードであることを示す。同欄の「T/L」は、加硫ゴム-金属複合体の金属が、銅、亜鉛、及びコバルトの三元めっきで被覆された三元めっきスチールコードであることを示す。同欄の「B」は、加硫ゴム-金属複合体の金属が、ブラスめっき(銅-亜鉛めっき)で被覆されたスチールコードであることを示す。
【0104】
表1から明らかなように、実施例1の加硫ゴム-金属複合体は、比較例1~5の加硫ゴム-金属複合体に比べ、接着性に優れる。
特許文献3(国際公開第2020/156967号)の実施例では、図1(特許文献4のFig.3a)に示されるように、三元めっきによる被覆中の鉄の量が増加するに伴い、加硫ゴム-金属接着性が低下している。これに対し、実施例1による加硫ゴム-金属複合体は、加硫ゴム-金属接着性を向上することができるため、被覆中の鉄の量の増減に関わらず、一定水準以上の加硫ゴム-金属接着性を達成することができる。
なお、図1中、横軸の「1-W」等は特許文献4の段落番号[0075]の表IIに示される試料を指し、番号が大きいほど被覆中の鉄の量が大きい。また、縦軸のZ-Scoreは接着性の優劣を示し、数値が大きいほど、加硫ゴム-金属接着性が優れることを意味する。
【0105】
また、表1から明らかなように、実施例1の加硫ゴム-金属複合体は、比較例1~5の加硫ゴム-金属複合体と比較して、操縦安定性、低ロス性及び耐亀裂進展性の各指数が大きい。これは、実施例1の加硫ゴム-金属複合体をタイヤの製造に用いれば、タイヤの操縦安定性、低燃費性及び耐亀裂進展性がバランスよく向上することを意味する。
【0106】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対してコバルト化合物の含有量が0.01質量部以下であることにより、環境負荷低減に寄与することとなった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の加硫ゴム-金属複合体は、加硫ゴム-金属接着性及び低ロスに優れるため、各種自動車用タイヤ、クローラ、ホースなど、特に強度が要求されるゴム物品に用いられる補強材として好適に用いられる。中でも、各種自動車用ラジアルタイヤのベルト、カーカスプライ、ワイヤーチェーファーなどの補強部材として好適に用いられ、本発明の加硫ゴム-金属複合体を用いて製造されたタイヤは、低燃費性に優れる。
図1