(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077088
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230529BHJP
C22C 38/34 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190230
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】島田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康太
(57)【要約】
【課題】従来の軸受鋼と同程度の製造原価を維持しつつ、静的強度を向上させた転がり軸受を提供する。
【解決手段】
転がり軸受の転動体を、質量%で、C:0.9~1.4%、Si:0.2~2.5%、Mn:1.0%以下、Cr:1.0~4.0%、Mo:1.5%以下、V:0.5%以下であり、残余鉄および不可避不純物を含む低合金鋼製とした転がり軸受とする。また、当該低合金鋼の表面硬さをロックウェルCスケールで64HRC以上とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の転動体を有する転がり軸受において、前記転動体は質量%で、C:0.9~1.4%、Si:0.2~2.5%、Mn:1.0%以下、Cr:1.0~4.0%、Mo:1.5%以下、V:0.5%以下であり、残余鉄および不可避不純物を含む低合金鋼製であり、前記低合金鋼の表面硬さはロックウェルCスケールで64HRC以上であることを特徴とする転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車分野や産業機械分野などに使用される転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車分野や産業機械分野などに使用される転がり軸受には、耐熱性、耐摩耗性などの諸特性が要求されており、とりわけ軌道輪と転動体における動的強度に加えて、静的強度も必要とされる。高負荷に耐えるため軌道輪の静的強度を向上させた場合、転動体の静的強度が不足し、転動体が破損する懸念があり、転動体の静的強度向上も必要とされる。例えば、転動体の材料に高速度工具鋼などの高硬度材を使用したり、転動体の軌道面に所定深さの組織中に数ミクロン以下の炭化物を析出させた上で浸炭窒化層を形成したりする技術が開示されている(特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-9449号公報
【特許文献2】特開平8-49057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、高速度工具鋼などの高硬度材は、比較的に材料コストが上昇する要因になり、製造原価が軸受鋼に比べて上がるという問題があった。また、組織中に大型の炭化物が析出しやすくなり、軸受の長寿命化に寄与し難いという問題もあった。さらに、転動体表面に浸炭窒化層を設けるために、特殊な装置を使用して、浸炭や窒化などの特殊処理を行うので、やはり製造原価が上昇する要因になっていた。
【0005】
そこで、本発明は従来の軸受鋼と同程度の製造原価を維持しつつ、静的強度を向上させた転がり軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の転がり軸受は、構成部品である転動体を質量%で、C:0.9~1.4%、Si:0.2~2.5%、Mn:1.0%以下、Cr:1.0~4.0%、Mo:1.5%以下、V:0.5%以下であり、残余鉄および不可避不純物を含む低合金鋼製とする。また、この低合金鋼の表面硬さは、ロックウェルCスケールで64HRC以上とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の転がり軸受部品は、従来の軸受鋼と同程度の製造原価を維持しつつ、静的強度を向上させるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態である転がり軸受部品である転動体の主な化学成分の含有量および表面硬さについて説明する。本発明の転がり軸受部品(転動体)を構成する低合金鋼に含有するC(炭素)は、重量%として0.9~1.4重量%とする。炭素は鋼の焼入焼戻し後の硬さを確保し、転がり軸受の材料として使用した場合に転動疲労寿命を高位に確保する役割を果たす。鋼中のC含有量が0.9%を下回ると必要な表面硬さが得られない。また、含有量が1.4%を上回ると析出炭化物が多くなり、軸受の転動疲労寿命を劣化させる。
【0009】
Mn(マンガン)は、重量%として1.0%以下とする。マンガンは鋼の焼入れ性を高めて、軸受材料として使用した場合に、転動疲労寿命を向上させるのに有効である。鋼中のMn含有量が1.0%を超えると、熱間鍛造性が著しく劣化する。
【0010】
Cr(クロム)は、重量%として1.0~4.0%とする。クロムは鋼の焼入れ性を高めるとともに、セメンタイトを熱的に安定化させて、高温域におけるセメンタイトのマトリックス中への固溶を抑止する役割がある。
【0011】
また、鋼中のCr含有量が1.0%を下回ると鋼の焼入れ性を悪化させて、Cr含有量が4.0%を超えると、鋼中に粗大炭化物が発生して、軸受材料として使用した場合に転がり軸受の転動疲労寿命を劣化させる。
【0012】
Si(シリコン)は、重量%として0.2~2.5%とする。シリコンは鋼の焼戻し軟化抵抗を増大する役割がある。また、鋼中のSi含有量が0.2%を下回ると必要な焼戻し軟化抵抗が得られず、Si含有量が2.5%を超えると熱間鍛造性が著しく劣化する。
【0013】
Mo(モリブデン)は、重量%として1.5%以下とする。モリブデンは鋼中の炭化物を形成して、硬さの確保に寄与する。また、鋼中のMo含有量が1.5%を上回ると、粗大炭化物が発生して、軸受材料として使用した場合に転動疲労寿命を劣化させる。
【0014】
V(バナジウム)は、重量%として0.5%以下とする。バナジウムは鋼中のシリコンとの複合添加により焼戻し軟化抵抗を増大させる役割がある。また、鋼中のV含有量が0.5%を上回ると、粗大炭化物が発生して、軸受材料として使用した場合に転動疲労寿命を劣化させる。