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特開2023-77092二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077092
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/02 20060101AFI20230529BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20230529BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230529BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230529BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230529BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/04 A
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190239
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】中野 和城
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017BB16
5H017DD05
5H017HH01
5H017HH05
5H017HH08
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050DA04
5H050DA10
5H050EA08
5H050FA04
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA21
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA12
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】電池の内部抵抗を抑制しつつ高い耐久性を備えた二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法を提供すること。
【解決手段】二次電池用電極1は、反応性官能基を表面に備えた集電箔10と、集電箔10の表面上に形成され、活物質、結着剤、及び反応性官能基に対して反応性を有する表面官能基を備えたカーボンナノチューブ32を含む合材層20と、を有し、集電箔10の表面に直交する厚み方向において、合材層20の集電箔10と接する側の端面を裏面とし、裏面とは反対側の端面を表面とした場合、表面官能基に由来する官能基は、合材層20の表面付近に比して、合材層20の裏面付近に多く存在する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性官能基を表面に備えた集電箔と、
前記集電箔の前記表面上に形成され、活物質、結着剤、及び前記反応性官能基に対して反応性を有する表面官能基を備えたカーボンナノチューブを含む合材層と、
を有し、
前記集電箔の表面に直交する厚み方向において、前記合材層の前記集電箔と接する側の端面を裏面とし、前記裏面とは反対側の端面を表面とした場合、前記表面官能基に由来する官能基は、前記合材層の前記表面付近に比して、前記合材層の前記裏面付近に多く存在する二次電池用電極。
【請求項2】
前記反応性官能基が水酸基を含み、前記表面官能基がカルボキシ基を含む請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項3】
前記表面官能基に由来する官能基の量を官能基量とした場合、
前記合材層の前記裏面付近に含まれる前記官能基量は、前記合材層の前記表面付近に含まれる前記官能基量の1.3倍以上である請求項1又は2に記載の二次電池用電極。
【請求項4】
前記表面官能基に由来する官能基の量を官能基量とした場合、
前記合材層の前記裏面付近に含まれる前記官能基量は、前記合材層の前記表面付近に含まれる前記官能基量の1.6倍以上である請求項1又は2に記載の二次電池用電極。
【請求項5】
前記表面官能基の量は、前記カーボンナノチューブの質量に対して0.1質量%~30質量%である請求項1~4のいずれか1項に記載の二次電池用電極。
【請求項6】
前記表面官能基の量は、前記カーボンナノチューブの質量に対して1.0質量%~5.0質量%である請求項1~4のいずれか1項に記載の二次電池用電極。
【請求項7】
反応性官能基を表面に備える集電箔の前記表面上に活物質、結着剤、前記反応性官能基に対して反応性を有する表面官能基を備えたカーボンナノチューブ、及び溶媒を含むペーストを塗工する塗工工程と、
塗工した前記ペーストを加熱乾燥することにより前記反応性官能基と前記表面官能基とを反応させて合材層を形成する乾燥工程と、
を有する二次電池用電極の製造方法。
【請求項8】
前記塗工工程の前に、
前記カーボンナノチューブ及び前記集電箔の少なくとも一方に表面処理を施すことにより前記表面官能基及び前記反応性官能基の少なくとも一方の量を増加させる官能基導入工程を有する請求項7に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項9】
前記反応性官能基が水酸基を含み、前記表面官能基がカルボキシ基を含む請求項7又は8に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項10】
前記乾燥工程において、塗工した前記ペーストを150℃以下の温度で100秒以上加熱乾燥する請求項9に記載の二次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、パソコンや携帯端末等のいわゆるポータブル電源や車両駆動用電源として広く用いられている。二次電池の中でも、特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車等の車両の駆動用高出力電源として好適に用いられている。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出する正極(正極板)及び負極(負極板)の電極間を、電解質中のリチウムイオンが移動することで充放電可能な二次電池である。
【0003】
リチウムイオン二次電池等の二次電池に用いられる電極は、導電性の集電箔(集電体)と、集電箔上に保持された活物質、導電材、結着剤等の電極材料を含む合材層と、を備えている。カーボンナノチューブは、ごく少量で高い導電性を確保できることから、電極に含まれる導電材として好適に用いられる。
【0004】
特許文献1には、集電体と、導電材と、活物質としてπ電子共役雲を有する有機化合物とを少なくとも含んだ電極であり、前記導電材がカーボンナノチューブを少なくとも含むことを特徴とする電極およびそれを用いた蓄電素子が開示されている。特許文献1に記載の技術では、活物質である有機化合物と導電材との良好な集電性を確保することができるため、導電材の量を大幅に減らすことができ、したがって電極および蓄電デバイスのさらなる軽量、高容量、高出力化を実現することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-242386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、集電箔と合材層との結着力が不足するため、合材層に一定量以上の結着剤を添加する必要がある。結着剤は、集電箔と合材層との結着性の確保及び活物質等の電極材料を安定的に固定するために合材層に添加される。一方で、結着剤自体は、電極の電気化学的性能にはほとんど寄与しないため、電極の高エネルギー密度化や電池の内部抵抗を下げる観点からは、結着剤の使用量を極力少なくすることが望ましい。したがって、特許文献1に記載の技術では、結着剤の使用量の増加に伴って電池の内部抵抗が増大するという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、電池の内部抵抗を抑制しつつ高い耐久性を備えた二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態にかかる二次電池用電極は、反応性官能基を表面に備えた集電箔と、集電箔の表面上に形成され、活物質、結着剤、及び反応性官能基に対して反応性を有する表面官能基を備えたカーボンナノチューブを含む合材層と、を有し、集電箔の表面に直交する厚み方向において、合材層の集電箔と接する側の端面を裏面とし、裏面とは反対側の端面を表面とした場合、表面官能基に由来する官能基は、合材層の表面付近に比して、合材層の裏面付近に多く存在する。
【0009】
また、一実施の形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、反応性官能基を表面に備える集電箔の表面上に活物質、結着剤、反応性官能基に対して反応性を有する表面官能基を備えたカーボンナノチューブ、及び溶媒を含むペーストを塗工する塗工工程と、塗工したペーストを加熱乾燥することにより反応性官能基と表面官能基とを反応させて合材層を形成する乾燥工程と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、電池の内部抵抗を抑制しつつ高い耐久性を備えた二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1にかかる二次電池用電極を示す断面図である。
図2図1に示す二次電池用電極に含まれるカーボンナノチューブと集電箔との結合状態を模式的に示した図である。
図3】実施の形態1にかかる二次電池用電極の製造方法を示すフローチャートである。
図4】各種電極板に含まれる結着剤の割合と剥離強度との関係を示すグラフである。
図5】各種電極板に含まれる結着剤の割合と直流内部抵抗との関係を示すグラフである。
図6】電極板を構成する集電箔と合材層との間の剥離強度に対する乾燥条件の影響を調べた結果を示す表である。
図7】合材層の表裏面付近に存在する官能基量の定量方法について説明する断面図である。
図8】合材層の表裏面付近に存在する官能基量を調べた結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0013】
本実施形態にかかる二次電池用電極の好適な実施形態の一つとして、リチウムイオン二次電池の電極に具体化して説明する。リチウムイオン二次電池は、電気化学反応に際し、正極(正極板)と負極(負極板)との間で電荷担体であるリチウムイオンが電解液中を伝導することで、充放電が実現される二次電池である。このようなリチウムイオン二次電池は、例えば、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両の駆動用電源として好適に用いられる。
【0014】
図1及び図2を参照して本実施形態にかかる二次電池用電極(電極板1)の構成を説明する。図1は、実施の形態1にかかる二次電池用電極を示す断面図である。図2は、図1に示す二次電池用電極に含まれるカーボンナノチューブと集電箔との結合状態を模式的に示した図である。なお、図1に示す断面図は、集電箔10の表面に直交する電極板1の断面の一部を示しており、図2は集電箔10の表面付近を拡大して示している。図1及び図2に示すように、電極板1は、集電箔10と、集電箔10の表面上に形成される合材層20と、を有する。
【0015】
集電箔10は、板状、箔状、又はメッシュ状等の多孔体であり、例えば5μ~20μmの厚みを有する。合材層20が形成される前の集電箔10は、表面に反応性官能基を備えている。集電箔10は、導電性の良好な金属又はその合金等により構成される。集電箔10は、表面に反応性官能基を備えているものであれば特に限定されず、反応性官能基以外の官能基を表面に備えていても良い。集電箔10を構成する金属としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、鉄、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0016】
反応性官能基は、後述するカーボンナノチューブ32(CNT:Carbon Nanotube)の表面官能基と化学的に結合することが可能な官能基である。反応性官能基は、加熱された環境下において、CNT32の表面官能基と反応して共有結合を形成することができる水酸基(-OH)等の官能基であることが好ましい。このような反応性官能基は、集電箔10の片面のみに存在していても良く、両面に存在していても良い。
【0017】
正極の電極板1である場合、集電箔10を構成する金属は、アルミニウム又はアルミニウム合金であることが好ましい。負極の電極板1である場合、集電箔10を構成する金属は、銅又は銅合金であることが好ましい。
【0018】
合材層20は、幅方向の一方の縁に沿った縁部を除いて、集電箔10の少なくとも一方の表面上に形成される。本実施形態では、集電箔10の表面に直交する厚み方向に存在する合材層20の両端面について、集電箔10と接する側の端面を合材層20の裏面とし、当該裏面と反対側の端面を合材層20の表面とする。また、電極板1は、集電箔10の当該縁部に、合材層20が形成されず集電箔10が露出した露出部を有する。露出部は、外部端子と電気的に接続される部分である。
【0019】
合材層20は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な活物質31、導電材としてのCNT32、及び結着剤を少なくとも含み、集電箔10に保持される。本実施形態において、合材層20は、集電箔10の表面に結合したCNT32を含んでいる。これにより、集電箔10と合材層20との間の結着性を確保することができる。合材層20は、必要に応じてCNT32以外の他の導電材(例えば、アセチレンブラック、黒鉛、グラフェン、カーボンブラック)、その他の添加剤(例えば、増粘剤、分散剤)を含んでも良い。
【0020】
合材層20の密度は、正極の電極板1の場合、例えば、2.0g/cm~3.0g/cmであることが好ましく、2.2g/cm~2.8g/cmがより好ましく、特に2.4g/cm~2.6g/cmとすることが好ましい。合材層20の密度は、負極の電極板1の場合、例えば、1.0g/cm~1.8g/cmであることが好ましく、1.05g/cm~1.6g/cmがより好ましく、特に1.1g/cm~1.4g/cmとすることが好ましい。
【0021】
合材層20の厚さは、正極の電極板1の場合、例えば、15μm~50μmであることが好ましく、18μm~40μmがより好ましく、特に20μm~30μmとすることが好ましい。合材層20の厚さは、負極の電極板1の場合、例えば、20μm~60μmであることが好ましく、25μm~50μmがより好ましく、特に30μm~40μmとすることが好ましい。
【0022】
正極の電極板1である場合、活物質31として、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(NCA)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(NCM)等を単独又はこれらを組み合わせて用いることができる。また、活物質31には、他の金属元素が添加されていても良い。
【0023】
負極の電極板1である場合、活物質31として、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、グラファイト、スズ(Sn)、酸化スズ(SnO)、ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiO)、及びチタン酸リチウム(LiTi12)等が挙げられる。
【0024】
例えば、正極に好適に用いられる活物質31は導電性が低い傾向があるため、CNT32を添加することによる抵抗低減の効果が高い。そのため、本実施形態にかかる二次電池用電極の構造は、正極の電極板1に好適である。
【0025】
導電材として用いられるCNT32としては、例えば、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、3層以上の多層カーボンナノチューブ等を用いることができる。CNT32は、アーク放電法、レーザアブレーション法、化学気相成長法等により製造されたものであっても良い。これらを単独又は組み合わせて用いることができる。
【0026】
CNT32は、活物質31の粒子間及び活物質31-集電箔10間の導電パスを形成し、電極全体の導電性を向上させる機能を有する。また、CNT32は、その繊維長により活物質31の粒子同士を繋ぎ止め、活物質31の粒子間の結着性を向上し得る。一方で、繊維長が長すぎると、CNT32が凝集することにより分散性が低下する傾向があるため、導電性や結着性を向上する効果が得られにくくなる。
【0027】
導電性、機械的特性、及び分散性の観点から、CNT32の平均的な繊維長は、例えば、0.1~100μmが好ましく、0.3μm~20μmがより好ましい。柔軟性及び分散性の観点から、CNT32の平均的な外径は、例えば3.0nm~50nmが好ましく、5.0nm~20nmがより好ましい。
【0028】
そして、合材層20を構成する前のCNT32は、その表面に表面官能基を備えている。表面官能基は、上述した集電箔10の反応性官能基と化学的に結合することが可能な官能基である。表面官能基は、集電箔10の反応性官能基と脱水縮合反応して共有結合を形成することができる水酸基、カルボキシ基(-COOH)等の官能基である。
【0029】
表面官能基の量は、集電箔10との良好な結着性を考慮しつつ、CNT32の導電性、機械的特性、及び分散性を損なわない範囲に設定することが好ましい。CNT32の表面に存在する表面官能基の量は、CNT32の質量に対して0.1質量%~30質量%であることが好ましく、0.5質量%~15質量%であることがより好ましく、特に1.0質量%~5.0質量%とすることが好ましい。
【0030】
表面官能基の量は、予めCNT32に表面処理を施すことにより表面官能基を導入し、CNT32の表面に存在する表面官能基の量を増加させても良い。導入量の増量が容易であることから、表面官能基は、カルボキシ基であることが好ましい。
【0031】
結着剤は、合材層20を構成する電極材料を互いに結着させるとともに、形成された合材層20を集電箔10の表面上に結着させるものである。このような機能を有する結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(BR)等を用いることができる。正極の電極板1である場合、PVdFが好適に用いられる。負極の電極板1である場合、SBRが好適に用いられる。
【0032】
合材層20全体に占める活物質31の割合は、高出力特性及び高エネルギー密度を実現する観点から、例えば、94.0質量%~99.8質量%が好ましく、96.5質量%~99.4質量%がより好ましく、特に97.8質量%~99.0質量%とすることが好ましい。
【0033】
合材層20全体に占めるCNT32の割合は、例えば、0.1質量%~3.0質量%が好ましく、0.3質量%~1.5質量%がより好ましく、特に0.5質量%~1.2質量%とすることが好ましい。導電材としてCNT32を用いることにより、導電材の割合を少なくすることができるため、相対的に活物質31の割合を増やすことができる。
【0034】
合材層20全体に占める結着剤の割合は、例えば、0.1質量%~3.0質量%が好ましく、0.3質量%~2.0質量%がより好ましく、特に0.5質量%~1.0質量%とすることが好ましい。本実施形態では、合材層20に含まれるCNT32の少なくとも一部が集電箔10の表面に化学的に結合することにより、集電箔10と合材層20との結着力が向上するため、結着剤の割合を少なくすることができる。
【0035】
したがって、結着剤を増量した場合に生じる抵抗増加を伴うことなく、所望の剥離強度及び出力特性を得ることができる。これとともに、導電材及び結着剤の各使用量が少量ですむことから、活物質31の使用量を増やすことができるため、電極板1の高エネルギー密度化を実現できる。
【0036】
また、合材層20に含まれるCNT32の少なくとも一部が集電箔10の表面に化学的に結合しているため、電極板1には表面官能基に由来する官能基が含まれる。表面官能基に由来する官能基とは、表面官能基及び反応性官能基が互いに結合することにより生成された官能基と、未反応の表面官能基と、の少なくとも一方の官能基である。そして、電極板1において、表面官能基に由来する官能基は、合材層20の表面付近に比して、合材層20の裏面付近に多く存在している。
【0037】
すなわち、合材層20の表面付近を表側部分とし、合材層20の裏面付近を裏側部分とした場合、表側部分は未反応の表面官能基を少なくとも含んでおり、裏側部分は上記生成した官能基と未反応の表面官能基とを少なくとも含んでいる。このように、裏側部分は、表側部分よりも、表面官能基に由来する官能基を多く含んでいる。表側部分及び裏側部分は、例えば合材層20の表面又は裏面から3μm程度の厚みを有する層である。
【0038】
例えば、裏側部分に含まれる官能基量(表面官能基に由来する官能基の量)は、表側部分に含まれる官能基量の1.3倍以上であることが好ましく、1.6倍以上であることがより好ましい。表側部分の官能基量に対する裏側部分の官能基量を上記比率とすることにより、結着剤の使用量を低減しつつ集電箔10と合材層20との良好な結着性が確保された電極板1が得られる。上記比率は、合材層20全体に占めるCNT32の割合が0.1質量%~3.0質量%、且つCNT32の質量に対して表面官能基の占める割合が0.1質量%~30質量%である場合に特に有効である。
【0039】
図2に示した例では、集電箔10の表面に備えられた水酸基の少なくとも一部とCNT32の表面に備えられたカルボキシ基の少なくとも一部とが脱水縮合反応してエステル結合を形成している。これにより、集電箔10とCNT32とが強固に結合した状態となるため、集電箔10と合材層20との間の剥離強度に優れた電極板1を得ることができる。また、図2に示すように、電極板1の集電箔10付近であって合材層20の裏側部分には、表面官能基に由来するカルボキシ基及びカルボニル基(>C=O)が混在している。
【0040】
さらに、上記の構成を有する電極板1は、リチウムイオンを含む電解質、必要に応じてリチウムイオンが通過可能な絶縁性のセパレータと組み合わせることにより、リチウムイオン二次電池を構成することができる。
【0041】
電解質としては、例えば非水電解液を用いることができる。非水電解液は、リチウム塩を有機溶媒に溶解した組成物である。リチウム塩としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSOCF等を用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン、2‐メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、又はリン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等が挙げられる。電解液として、これらを単独又は複数混合して用いることができる。
【0042】
セパレータは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の多孔質な絶縁樹脂シート絶縁性樹脂シートで構成される。このような多孔質の樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造であってもよい。また、樹脂シートの表面の一部に多孔質の耐熱層を備える構成であってもよい。
【0043】
次に、図3を参照して本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法について説明する。図3は、実施の形態1にかかる二次電池用電極の製造方法を示すフローチャートである。以下の説明では、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、正極及び負極の双方の電極板1を製造する際に適用可能である。
【0044】
図3に示すように、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、以下のステップS1~S3の工程を有する。ステップS1は、CNT32及び集電箔10の少なくとも一方に表面処理を施すことにより表面官能基及び反応性官能基の少なくとも一方の量を増加させる官能基導入工程である。ステップS2は、反応性官能基を表面に備える集電箔10の表面上に活物質31、結着剤、反応性官能基に対して反応性を有する表面官能基を備えたCNT32、及び溶媒を含むペーストを塗工する塗工工程である。ステップS3は、塗工したペーストを加熱乾燥することにより反応性官能基と表面官能基とを反応させて合材層20を形成する乾燥工程である。上記の各工程について、より詳細に説明する。
【0045】
まず、官能基導入工程において、集電箔10に反応性官能基を導入する方法としては、大気圧プラズマ処理、真空プラズマ処理、コロナ放電処理等の各種プラズマ処理による表面改質が挙げられる。例えば、大気圧下においてプラズマ生成用ガスとして酸素ガスを用いたプラズマを照射する大気圧プラズマ処理により、集電箔10の表面に水酸基を導入することができる。
【0046】
CNT32に表面官能基を導入する方法としては、強酸を用いた酸処理による表面酸化が挙げられる。例えば、硫酸及び硝酸を混合した混酸に原料となるCNT32を浸漬して加熱処理することにより、CNT32の表面にカルボキシ基を導入することができる。
【0047】
反応性官能基又は表面官能基の導入方法については、上記の方法に限定されず、その他の公知の方法を採用することができる。集電箔10の表面に備えられた反応性官能基及びCNT32の表面に備えられた表面官能基のそれぞれの量及び構造は、例えば、X線光電子分光分析(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)により確認することができる。なお、入手した集電箔10及びCNT32がそれぞれ所望量の反応性官能基又は表面官能基を備えている場合は、官能基導入工程を省略しても良い。
【0048】
続いて、塗工工程では、活物質31、CNT32、結着剤、及び必要に応じてその他の添加剤を含む粉体に溶媒を添加してこれらを混練することにより合材層形成用のペーストを調製する。これらの電極材料の混練には、プラネタリミキサ等の適宜の混錬機を用いることができる。
【0049】
溶媒は、用いる結着剤とCNT32の分散性とを考慮して適宜選択されるものである。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン等の非水系溶媒、非水系溶媒を組み合わせた混合溶媒、水、水を主体とする混合溶媒等の水系溶媒を用いることができる。
【0050】
次いで、調製したペーストを集電箔10の表面に塗工する。ペーストは、ダイコータ、コンマコータ、ナイフコータ、グラビアコータ等の適宜の塗工装置を用いて塗工することができる。
【0051】
続いて、合材層形成工程では、塗工されたペーストを所定の乾燥条件下で加熱乾燥させて、当該ペーストに含まれる溶媒を除去する。この工程では、反応性官能基と表面官能基との脱水縮合反応が進行する。加熱乾燥時の乾燥条件としては、例えば溶媒がNMP(沸点202℃)である場合、150℃以下の温度で100秒以上加熱乾燥することが好ましい。乾燥条件は、用いる溶媒の種類及び使用量等に応じて適宜変更することが可能であるが、時間をかけて溶媒が揮発する乾燥条件であることが好ましい。
【0052】
加熱乾燥の方法としては、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機等を用いた方法を用いることができる。さらに、乾燥したものを必要に応じてプレスすることにより、集電箔10の表面上に合材層20を形成する。以上の工程により、図1に示す電極板1を製造することができる。
【0053】
次に、実施例に基づいて本発明のさらに詳細を説明する。なお、実施例は、本発明を限定するものではない。
【0054】
[正極板の作製及び剥離強度の評価]
まず、図3に示したフローにしたがって正極の電極板1である正極板を製造した。正極活物質(活物質31)には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3で表される平均組成を有するニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NMC)を用いた。CNT32は、官能基導入工程で酸処理を施したCNT32(酸処理ありCNT)、又は官能基導入工程を省略して酸処理を施さなかったCNT32(酸処理なしCNT)のいずれか一方を用いた。CNT32は、表面官能基としてカルボキシ基を含むものである。結着剤には、PVdFを用いた。溶媒には、NMPを用いた。
【0055】
NCM、CNT32、及びPVdFを種々の質量比となるようにそれぞれ秤量し、所要量の溶媒を加えて混練することにより、正極合材層形成用のペーストを調製した。ここで、NCM、CNT32、及びPVdFの質量比は、酸処理ありCNTを用いた場合と酸処理なしCNTを用いた場合とのそれぞれについて、CNT32の割合を1.0質量%とし、PVdFの割合を0.5質量%~2.0質量%の範囲で増減させ、残部をNCMとすることにより、合計が100質量%となるように調整した。
【0056】
次いで、調製した正極合材層形成用の各種ペーストのそれぞれを正極の集電箔10であるアルミニウム箔の片面に塗工した。アルミニウム箔は、反応性官能基として水酸基を含むものである。正極合材層形成用のペーストは、それぞれ目付量が6mg/cmとなるように塗工量を調整した。そして、それぞれ塗工されたペーストを150℃、120秒間の乾燥条件下で熱風乾燥し、乾燥後にプレスを施すことにより各正極板を作製した。作製した各正極板のそれぞれは、密度が2.5g/cmであり、厚みが35μmであった。このようにして、0.5質量%~2.0質量%の割合で結着剤を含有する合材層20が形成された9種類の正極板を得た。
【0057】
このようにして得られた正極板について、剥離強度を評価した。図4は、各種電極板に含まれる結着剤の割合と剥離強度との関係を示すグラフである。図4の横軸は合材層20に含まれる結着剤の割合(質量%)を示しており、縦軸は剥離強度(N/m)を示している。また、図4に示すグラフ中の円形プロットは酸処理ありCNTを用いた正極板を示しており、菱形プロットは酸処理なしCNTを用いた正極板を示している。
【0058】
剥離強度の測定方法は、JIS Z0237:2009に準拠し、引張試験機を用いた180度剥離試験法により評価した。具体的には、所定サイズの両面テープを鋼板上に貼り付け、幅10mm×長さ150mmに切り出した合材層20を両面テープの反対側の面に密着させ、40mm/分の速度で180°方向に引っ張りながら剥がした。このときの応力の平均値を剥離強度(N/m)とした。
【0059】
このようにして剥離強度を測定した結果、酸処理なしCNTを用いた正極板は、結着剤の割合が減少することに伴って剥離強度が低下し、特に結着剤の割合が1.0質量%未満になると剥離強度が大幅に低下した。
【0060】
一方、酸処理ありのCNTを用いた正極板は、結着剤の割合が減少することに伴って剥離強度が低下するものの、酸処理なしCNTを用いた正極板と比べて高い水準の剥離強度を示した。酸処理ありCNTを用いた正極板では、例えば、結着剤の割合が1.0質量%未満となる0.5質量%の場合に剥離強度が1.7N/mであり、製造上必要な剥離強度以上の剥離強度を確保することができた。ここで、本実施形態において、製造上必要な剥離強度とは、図4のグラフ中に破線で示した1.5N/m以上の剥離強度である。
【0061】
このような結果が得られた要因としては、酸処理によりCNT32の表面官能基が増量されたことに伴って、集電箔10の反応性官能基と結合するCNT32の表面官能基の量が増加した結果、集電箔10と合材層20との間の結着性が向上したものと考えられる。
【0062】
次に、図5を参照して、電池性能に対して結着剤の量が与える影響を検討した。図5は、各種電極板に含まれる結着剤の割合と直流内部抵抗との関係を示すグラフである。図5には、電池性能を評価するために構築された3種類の評価用電池セルの直流内部抵抗を評価した結果が示されている。
【0063】
[評価用電池セルの構築及び電池性能評価]
3種類の評価用電池セルは、図4で説明した正極板のうち酸処理ありCNTを用いた正極板であって0.5質量%、1.0質量%、及び1.5質量%のそれぞれの割合で結着剤を含有する各合材層20が形成された3種類の正極板を用いてそれぞれ構築されたリチウムイオン二次電池である。評価用電池セルは、この3種類の正極板を用いて以下の手順により構築した。
【0064】
まず、負極板は以下の通り作製した。負極活物質には、天然黒鉛(C)を用いた。増粘剤には、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた。結着剤には、SBRを用いた。溶媒には、イオン交換水を用いた。
【0065】
負極活物質、増粘剤、及び結着剤の質量比が、C:CMC:SBR=98:1:1となるようにそれぞれ秤量し、所要量の溶媒を加えて混練することにより、負極合材層形成用のペーストを調製した。次いで、調製した負極合材層形成用のペーストを負極の集電箔である銅箔の片面に塗工した。負極合材層形成用のペーストは、目付量が4mg/cmとなるように塗工量を調整した。そして、塗工されたペーストを150℃、120秒間の乾燥条件下で熱風乾燥し、乾燥後にプレスを施すことにより負極板を作製した。作製した負極板は、密度が1.2g/cmであり、厚みが45μmであった。
【0066】
また、電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比が1:1:1となるように混合した混合溶媒に、1mol/Lの濃度で支持塩LiPFを溶解したものを調製した。
【0067】
そして、それぞれ作製した正極板の合材層20と負極板の合材層とを対向させるとともに、PE製のセパレータを介在させて積層した電極体をアルミラミネート製の外装材の内側に収納し、電解液を加えて密封することにより、ラミネート型の評価用電池セルを構築した。
【0068】
そして、構築された3種類の評価用電池セルについて直流内部抵抗(DCIR)を測定することにより得られた評価結果を図5に示した。図5は、各種電極板に含まれる結着剤の割合と直流内部抵抗との関係を示すグラフである。図5の縦軸は、結着剤の割合が1.5質量%の正極板を含む評価用電池セルについての直流内部抵抗(Ω)を100%として、直流内部抵抗を相対値で示している。直流内部抵抗の相対値を示す百分率の値が低い程、抵抗増加が抑制されていると考えられる。
【0069】
なお、直流内部抵抗は、初期充放電を経た各種評価用電池セルをSOC(State Of Charge)60%に調整後、25℃の温度環境下、5Cで10秒間放電し、その前後の電圧変化量を充放電装置で計測した。そして、電圧変化量を電流の値で除した値の平均値として直流内部抵抗を算出した。
【0070】
図5に示すように、直流内部抵抗は、結着剤の割合が1.5質量%の正極板を含む評価用電池セルと比べて、結着剤の割合が1.0質量%の正極板を含む評価用電池セルでは1.9%低下し、結着剤の割合が0.5質量%の正極板を含む評価用電池セルでは5.6%低下した。この結果からわかるように、酸処理を施したCNT32を用いることにより結着剤の割合を低減できるとともに、結着剤の割合を減らすにしたがって電池の内部抵抗が低下することが確認された。
【0071】
次に、図6を参照して、乾燥工程における乾燥条件が合材層20の剥離強度に与える影響を検討した。図6は、電極板を構成する集電箔と合材層との間の剥離強度に対する乾燥条件の影響を調べた結果を示す表である。
【0072】
図6には、図4で説明した正極板のうち酸処理ありCNTを用いた正極板であって0.75質量%の割合で結着剤を含有する合材層20を集電箔10の表面上に形成する場合の乾燥工程で検討を行なった結果が示されている。乾燥工程では、図6に示す種々の乾燥条件(乾燥温度及び乾燥時間)の下で、集電箔10に塗工されたペーストの熱風乾燥を行った。これにより得られた12種類の正極板について、上記と同様の剥離強度の測定方法にしたがって剥離強度の測定を行なった。
【0073】
剥離強度を測定した結果、乾燥温度が150℃以下且つ乾燥時間が120秒以上の乾燥条件を適用した場合に、2.5N/m以上の優れた剥離強度を有する正極板が得られることがわかった。
【0074】
そこで、図6に示す乾燥条件により得られた正極板のうち、乾燥条件が異なる2種類の正極板を抽出して合材層20の表裏面付近(表側部分及び裏側部分)に存在する元素の化学的な結合状態を調べた。その結果について説明する。
【0075】
結合状態を調べるために用いた2種類の正極板は、図6に示した剥離強度が2.2N/mの正極板、及び剥離強度が2.8N/mの正極板である。そして、剥離強度が2.2N/mの正極板をサンプルNo.1とし、剥離強度が2.8N/mの正極板をサンプルNo.2として、各サンプルに含まれる合材層20の表裏面をXPSにより観察した。
【0076】
なお、サンプルNo.1は、乾燥温度が180℃且つ乾燥時間が60秒間の乾燥条件により得られた正極板である。サンプルNo.2は、乾燥温度が120℃且つ乾燥時間が120秒間の乾燥条件により得られた正極板である。
【0077】
結合状態は、各サンプルにおける合材層20の表裏面付近に存在する官能基量であって、表面官能基に由来するカルボキシ基及びカルボニル基の合計量を定量することにより評価した。官能基量の定量方法については、図7を参照して説明する。図7は、合材層の表裏面付近に存在する官能基量の定量方法について説明する断面図である。
【0078】
官能基量を定量するにあたっては、各サンプルにおける合材層20の表面から3μmの厚みを有する層を表側部分20aとして、合材層20を表面側からXPSにより観察した。また、各サンプルの裏面から3μmの厚みを有する層である裏側部分20bについては、合材層20から集電箔10の一部を剥離した後、合材層20の裏面側から裏側部分20bの露出した部分をXPSにより観察した。
【0079】
さらに、サンプルの表側部分20a及び裏側部分20bについて、XPSにより定量した官能基量に基づいて、サンプルNo.1の表側部分20aを100%とした場合の官能基量をそれぞれ相対値として算出した。その結果を図8に示した。図8は、合材層の表裏面付近に存在する官能基量を調べた結果を示す表である。
【0080】
図8に示すように、各サンプルは共に、裏側部分20bの方が表側部分20aよりも官能基量が多かった。詳細には、サンプルNo.1では、表側部分20aの官能基量に対する裏側部分20bの官能基量が1.38倍であった。また、サンプルNo.2では、表側部分20aの官能基量に対する裏側部分20bの官能基量が1.67倍であった。すなわち、正極板内で表面官能基に由来する官能基は、合材層20の表側部分20aに比して、合材層20の裏側部分20bに多く存在していることが確認された。
【0081】
図6及び図8に示した結果からわかるように、集電箔10の表面に塗工されたペーストが、溶媒の沸点以下の温度領域を経由する熱履歴をもって加熱乾燥されると、溶媒の揮発に時間を要するため、反応性官能基と表面官能基とが反応する反応時間を十分に確保することができる。これにより、反応が促進され、反応性官能基と表面官能基とが互いに結合することにより生成された官能基の量が増加すると考えられる。
【0082】
以上説明したように、本実施形態にかかる二次電池用電極は、反応性官能基を表面に備えた集電箔10と、集電箔10の表面上に形成され、活物質31、結着剤、及び反応性官能基に対して反応性を有する表面官能基を備えたCNT32を含む合材層20と、を有する。また、二次電池用電極は、集電箔10の表面に直交する厚み方向において、合材層20の集電箔10と接する側の端面を裏面とし、裏面とは反対側の端面を表面とした場合、表面官能基に由来する官能基は、合材層20の表面付近に比して、合材層20の裏面付近に多く存在するものである。
【0083】
このような構成により、反応性官能基と表面官能基とが反応して化学的に結合する。この反応によって集電箔10にCNT32が化学的に結合した電極板1では、結着剤の使用量を低減しても高い剥離強度が得られる。また、この電極板1を含む二次電池では、結着剤の使用量を低減することに伴って内部抵抗が抑制され、その結果、高い出力特性を実現することができる。
【0084】
さらに、反応性官能基が水酸基を含み、表面官能基がカルボキシ基を含むことが好ましい。このような構成により、水酸基とカルボキシ基とが反応することにより共有結合が形成される。集電箔10とCNT32とが共有結合を介して強固に結合した状態の電極板1では、集電箔10と合材層20との間の剥離強度が向上する。また、集電箔10の水酸基及びCNT32のカルボキシ基は、種々の方法を用いてそれぞれ容易に増量することができるため、集電箔10の反応性官能基に結合するCNT32の表面官能基の量を増加させることが可能となる。これにより、集電箔10とCNT32との結着性の向上を図ることができる。
【0085】
さらに、合材層20の裏面付近に含まれる官能基量は、合材層20の表面付近に含まれる官能基量の1.3倍以上であることが好ましく、1.6倍以上であることがより好ましい。合材層20の裏面付近に含まれる官能基量が増えるにしたがって、集電箔10とCNT23との結合に起因する結着性の向上効果が一層高まる。
【0086】
さらに、表面官能基の量は、CNT32の質量に対して0.1質量%~30質量%であるであることが好ましく、1.0質量%~5.0質量%であることが特に好ましい。このような構成により、CNT32の導電性、機械的特性、及び分散性を損なうことなく、集電箔10とCNT32との結着性を向上することができる。
【0087】
そして、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法によれば、上記の効果を奏する二次電池用電極を製造することができる。
【0088】
本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、反応性官能基を表面に備える集電箔10の表面上に活物質31、結着剤、反応性官能基に対して反応性を有する表面官能基を備えたCNT32、及び溶媒を含むペーストを塗工する塗工工程と、塗工したペーストを加熱乾燥することにより反応性官能基と表面官能基とを反応させて合材層20を形成する乾燥工程と、を有する。
【0089】
また、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、塗工工程の前に、CNT32及び集電箔10の少なくとも一方に表面処理を施すことにより表面官能基及び反応性官能基の少なくとも一方の量を増加させる官能基導入工程を有する。
【0090】
また、反応性官能基が水酸基を含み、表面官能基がカルボキシ基を含むことが好ましい。
【0091】
さらに、乾燥工程においては、塗工したペーストを150℃以下の温度で100秒以上加熱乾燥することが好ましい。この乾燥工程では、集電箔10の表面に塗工されたペーストを溶媒の沸点以下の温度領域を経由する熱履歴をもって加熱乾燥することにより、反応性官能基と表面官能基との反応を促し、集電箔10に結合するCNT32の量を効率良く増加させることができる。これにより、集電箔10とCNT32との結着性をより一層向上することができる。
【0092】
したがって、本実施形態によれば、電池の内部抵抗を抑制しつつ高い耐久性を備えた二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 電極板
10 集電箔
20 合材層
20a 表側部分
20b 裏側部分
31 活物質
32 カーボンナノチューブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8