(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007710
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】発光測定装置および発光測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110727
(22)【出願日】2021-07-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「実験とデータ科学の循環による蛍光体開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】中西 貴之
(72)【発明者】
【氏名】武田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 向星
(72)【発明者】
【氏名】広崎 尚登
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043CA06
2G043DA06
2G043EA01
2G043GA03
2G043GA04
2G043GA07
2G043GB01
2G043GB03
2G043HA04
2G043HA05
2G043LA01
(57)【要約】
【課題】 微小な単粒子に対しても光学特性を評価可能な発光測定装置および発光測定方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の発光測定装置は、励起光を照射する励起光照射部と、励起光が照射される被験試料を保持するための被験試料保持部と、被験試料からの発光を受光する受光部とを備え、励起光照射部の被験試料側の端部と被験試料保持部に保持される被験試料の表面との距離は、0mm以上10mm以下であり、受光部の被験試料側の端部と被験試料保持部に保持される被験試料の表面との距離は、0mm以上10mm以下である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を照射する励起光照射部と、
前記励起光が照射される被験試料を保持するための被験試料保持部と、
前記被験試料からの発光を受光する受光部と
を備え、
前記励起光照射部の前記被験試料側の端部と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の表面との距離は、0mm以上10mm以下であり、
前記受光部の前記被験試料側の端部と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の表面との距離は、0mm以上10mm以下である、発光測定装置。
【請求項2】
前記励起光照射部の前記被験試料側の端部と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の表面との距離は、0mm以上5mm以下である、請求項1に記載の発光測定装置。
【請求項3】
前記受光部の前記被験試料側の端部と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の表面との距離は、0mm以上5mm以下である、請求項1または2に記載の発光測定装置。
【請求項4】
前記被験試料は、0.1μm以上100μm以下の範囲の最大径を有する粒子である、請求項1~3のいずれか記載の発光測定装置。
【請求項5】
前記励起光照射部の前記被験試料側の端部と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の表面との距離は、前記被験試料の最大径の0.1倍以上200倍以下であり、
前記受光部の前記被験試料側の端部と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の表面との距離は、前記被験試料の最大径の0.1倍以上200倍以下である、請求項1~4のいずれかに記載の発光測定装置。
【請求項6】
前記被験試料保持部は、前記被験試料を保持するための凹部を有する、
請求項1~5のいずれかに記載の発光測定装置。
【請求項7】
前記凹部以外の前記被験試料保持部は、前記励起光を吸収する黒色であり、
前記励起光照射部は、前記凹部を完全に含み、前記凹部の外側まで前記励起光を照射する、請求項6に記載の発光測定装置。
【請求項8】
前記励起光照射部は、光源と光ファイバとを備え、
前記受光部は、分光検出器と光ファイバとを備える、請求項1~7のいずれかに記載の発光測定装置。
【請求項9】
前記光ファイバのそれぞれの前記被験試料側の直径は、前記被験試料の最大径の1倍以上200倍以下である、請求項8に記載の発光測定装置。
【請求項10】
前記光ファイバのそれぞれの前記被験試料側の先端の直径は、50μm以上5mm以下である、請求項8または9に記載の発光測定装置。
【請求項11】
前記光ファイバは、ぞれぞれ、単線式のシングルファイバである、請求項8~10のいずれか記載の発光測定装置。
【請求項12】
前記光ファイバのそれぞれの前記被験試料側の先端は、束ねられている、請求項8~10のいずれか記載の発光測定装置。
【請求項13】
前記励起光照射部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)と、前記受光部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(受光軸)とのなす角度を変化させる角度可変機構をさらに備える、請求項1~12のいずれか記載の発光測定装置。
【請求項14】
前記励起光照射部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)を中心に前記受光部を回転する受光部回転機構をさらに備える、請求項1~13のいずれかに記載の発光測定装置。
【請求項15】
前記励起光照射部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)を中心に前記被験試料保持部を回転する保持部回転機構をさらに備える、請求項1~14のいずれかに記載の発光測定装置。
【請求項16】
請求項1~15のいずれかに記載の発光測定装置を用い、励起光を被験試料に照射し、前記被験試料からの発光を計測することを包含する、発光測定方法。
【請求項17】
前記発光測定装置の被験試料保持部は、前記被験試料を保持する凹部を備え、
前記凹部には白色参照試料が充填され、
前記凹部以外の前記被験試料保持部は、前記励起光を吸収する黒色であり、
前記被験試料からの発光の計測に先立って、
前記白色参照試料を完全に含む範囲に前記励起光を照射し、前記白色参照試料からの反射光を計測することをさらに包含する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記凹部以外の前記被験試料保持部は、前記励起光を0%以上10%以下の範囲で反射し、
前記白色参照試料は、測定波長範囲における前記励起光を90%以上100%以下の範囲で反射し、
前記白色参照試料上に前記被験試料を保持し、前記白色参照試料および前記被験試料を完全に含む範囲に前記励起光を照射し、前記白色参照試料および前記被験試料からの反射光および前記被験試料からの発光を同時計測することをさらに包含する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記反射光を計測することは、前記反射光から前記励起光のフォトン数W1を算出することであり、
前記同時計測することは、前記白色参照試料および前記被験試料からの反射光から前記励起光のフォトン数W2を算出し、前記被験試料からの発光のフォトン数Lを算出することであり、
前記励起光のフォトン数W1およびW2、ならびに、前記発光のフォトン数Lを用いて吸収率、内部量子効率および外部量子効率からなる群から選択される光学特性を算出することをさらに包含する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記発光を計測することは、前記発光測定装置の励起光照射部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)と、前記発光測定装置の受光部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(受光軸)とのなす角度を変化させながら行う、請求項16~19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記発光を計測することは、前記発光測定装置の励起光照射部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)を中心に前記受光部を回転させながら計測する、請求項16~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記発光を計測することは、前記発光測定装置の励起光照射部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)を中心に前記被験試料保持部を回転させながら計測する、請求項16~21のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体等の微小発光材料の発光測定装置および発光測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体等の発光材料の特性評価において、励起・発光スペクトルや量子効率の測定が広く用いられている。
図1は、石英製角セルを用いた計測の様子を示す模式図である。
【0003】
これらの計測では、一般に1平方mmより大きい面積の試料の発光を計測している。代表的には、
図1に示すような10mm×10mmの石英角セル1の底面や、10mm×30mmの石英各セルの側面、直径10mmの円形状のくぼみに蛍光体粉末4を充填したものなどが試料形態として用いられ、これに分光されたキセノン光などの励起光2を照射して得られる蛍光発光3を分光器(図示せず)で検出することにより計測している。
【0004】
発光デバイスに用いられる粉末状蛍光体の量子効率の値は重要であり、フォトン数の測定値を用いて次式で計算される。
【0005】
【0006】
吸収率は励起光が発するフォトンのうち、試料に吸収されるフォトンの割合である。通常は、励起光を標準白色板などに照射して測定した励起光のフォトン数と、励起光を試料に照射して測定した散乱光(反射光)のフォトン数(散乱フォトン数)とを計測して、式(1a)で求める。
【0007】
内部量子効率は吸収したフォトンの内発光に変換されたフォトンの割合である。通常は、励起光を標準白色板などに照射して測定した励起光のフォトン数と、励起光を試料に照射して測定した散乱光のフォトン数(散乱フォトン数)とを計測して、式(1a)で吸収率を求め、さらに試料が発する蛍光のフォトン数を計測し、式(1b)で内部量子効率を求める。なお、散乱フォトン数の算出では、散乱光強度を標準白色試料の拡散反射率で除される必要がある。
【0008】
外部量子効率は励起光のフォトンが発光に変換されるフォトンの割合である。式(1a)で吸収率を求め、式(1b)で内部量子効率を求め、式(1c)により吸収率と内部量子効率との積で外部量子効率を求める。
【0009】
量子効率の測定には積分球を用いる方法(以下積分球法と記す。例えば、非特許文献1を参照)が一般的であり、
図2に示す装置を用い、
図3に示すようなスペクトルを取得して計算する。内部量子効率の測定法はこの方法を用いて標準化されている(ISO20351/JIS R1697)。
図2は、積分球法を実施する分光測定装置を示す模式図である。
図3は、例示的な発光・散乱スペクトルを示す図である。
【0010】
図2に示す分光測定装置を用いて以下のように内部量子効率を計算する。
(1)積分球8の底面に標準拡散白色板(図示せず)を設置して、キセノンランプ5および分光器6を備えた励起光照射部7からの励起光9を標準拡散白板に照射することにより、積分球8内で均一化された励起光9のスペクトルを光ファイバ14およびマルチチャンネル光検出器13を備えた分光手段で測定する。
(2)積分球8の底面に蛍光体試料12を設置して、励起光9を蛍光体試料12に照射することにより、励起光9の一部は反射され、励起光9の一部は蛍光体試料12に吸収されて波長変換された蛍光11を発する。
(3)反射された励起光(散乱光10)と波長変換された蛍光11との混合光が積分球8内で均一化されたスペクトルを分光手段で測定する。
(4)フォトン数の測定値を用いて、式(1b)で内部量子効率を計算する。
【0011】
量子効率は発光材料の研究開発段階では従来品に比べてどの程度の効率をもつか、または今後どの程度改善の可能性があるかを知るための良い指標となる。また、白色LED用途など実用化段階では、発光材料の商品取引の仕様決めや各製造工程における品質管理に利用されることが多い。特に後者の場合、量子効率の測定値には非常に精度が求められる。量子効率の精度には発光スペクトルの測定精度が最も重要になることは言うまでもないが、特に大きな不確かさの要因は、広い波長範囲に亘るエネルギー校正精度である。
【0012】
蛍光体等の発光材料はエネルギーを入力する励起光の波長と出力する蛍光の波長が大きく異なる。白色LEDの場合、405nmや450nmの波長で励起し、500~800nmまでの広い波長範囲の蛍光に波長変換することが多い。一般的に用いられる積分球を用いた光学系や分光光度計などでは、多くの光学部品を組み合わせて使用するため、上記のような広い波長範囲でのエネルギー校正は慎重を要し、設置状況の変化や継時変化も測定精度の不確かさとなる可能性が高い。
【0013】
図4は、別の積分球法を実施する分光測定装置を示す模式図である。
【0014】
上記のような問題を解決するより精度の高い量子効率の測定には
図4に示すような配光分光測定装置が用いられている(ISO23946に制定)。
図4によれば、分光キセノン光16から励起用光ファイバ15を介した励起光が、被験試料保持部19に保持された蛍光体試料20に当たる励起光軸22と蛍光体試料20が発光して放射される受光軸23のなす角度を変化させながら、受光用光ファイバ17を介してマルチチャンネル分光器18で発光を計測する。励起光軸22を中心に蛍光体試料20を回転24させ、励起光軸22と受光軸23とのなす角度を変化21させることにより、放射角度による発光の分布を計測する。これを全空間で積分することにより、全空間の放射光量を計測する手法である。これにより、試料が受けた励起光の総量、試料が吸収した光の総量、試料が発する蛍光の総量を計算することができ、それにより量子効率を求めることができる。
【0015】
一方、近年の蛍光体の開発はより高度化されており、合成された粉末に含まれる微小な一粒の結晶(単粒子)を評価することにより新物質を開発する手法が実用化されている(例えば、非特許文献2を参照)。この場合も結晶の光学特性を評価することが求められるが、一般的な一粒の粒径は10~30μmと微細であるため、従来のような粉末を対象に開発された計測方法では微細粒子の評価を精度よく行うのは困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】大久保利明、中川靖夫、照明学会誌 第95完第8A号 (平成23年)p431
【非特許文献2】Naoto Hirosakiら,Chem.Mater.2014,26,4280-4288
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上より、本発明の課題は、微小な単粒子に対しても光学特性を評価可能な発光測定装置および発光測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明による発光測定装置は、励起光を照射する励起光照射部と、前記励起光が照射される被験試料を保持するための被験試料保持部と、前記被験試料からの発光を受光する受光部とを備え、前記励起光照射部の前記被験試料側の端部と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の表面との距離は、0mm以上10mm以下であり、前記受光部の前記被験試料側の端部と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の表面との距離は、0mm以上10mm以下であり、これにより上記課題を解決する。
前記励起光照射部の前記被験試料側の端部と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の表面との距離は、0mm以上5mm以下であってよい。
前記受光部の前記被験試料側の端部と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の表面との距離は、0mm以上5mm以下であってよい。
前記被験試料は、0.1μm以上100μm以下の範囲の最大径を有する粒子であってよい。
前記励起光照射部の前記被験試料側の端部と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の表面との距離は、前記被験試料の最大径の0.1倍以上200倍以下であり、前記受光部の前記被験試料側の端部と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の表面との距離は、前記被験試料の最大径の0.1倍以上200倍以下であってよい。
前記被験試料保持部は、前記被験試料を保持するための凹部を有してよい。
前記凹部以外の前記被験試料保持部は、前記励起光を吸収する黒色であり、前記励起光照射部は、前記凹部を完全に含み、前記凹部の外側まで前記励起光を照射してよい。
前記励起光照射部は、光源と光ファイバとを備え、前記受光部は、分光検出器と光ファイバとを備えてよい。
前記光ファイバのそれぞれの前記被験試料側の直径は、前記被験試料の最大径の1倍以上200倍以下であってよい。
前記光ファイバのそれぞれの前記被験試料側の先端の直径は、50μm以上5mm以下であってよい。
前記光ファイバは、ぞれぞれ、単線式のシングルファイバであってよい。
前記光ファイバのそれぞれの前記被験試料側の先端は、束ねられていてよい。
前記励起光照射部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)と、前記受光部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(受光軸)とのなす角度を変化させる角度可変機構をさらに備えてよい。
前記励起光照射部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)を中心に前記受光部を回転する受光部回転機構をさらに備えてよい。
前記励起光照射部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)を中心に前記被験試料保持部を回転する保持部回転機構をさらに備えてよい。
本発明による発光測定方法は、上述の発光測定装置を用い、励起光を被験試料に照射し、前記被験試料からの発光を計測することを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記発光測定装置の被験試料保持部は、前記被験試料を保持する凹部を備え、前記凹部には白色参照試料が充填され、前記凹部以外の前記被験試料保持部は、前記励起光を吸収する黒色であり、前記被験試料からの発光の計測に先立って、前記白色参照試料を完全に含む範囲に前記励起光を照射し、前記白色参照試料からの反射光を計測することをさらに包含してもよい。
前記凹部以外の前記被験試料保持部は、前記励起光を0%以上10%以下の範囲で反射し、前記白色参照試料は、測定波長範囲における前記励起光を90%以上100%以下の範囲で反射し、前記白色参照試料上に前記被験試料を保持し、前記白色参照試料および前記被験試料を完全に含む範囲に前記励起光を照射し、前記白色参照試料および前記被験試料からの反射光および前記被験試料からの発光を同時計測することをさらに包含してもよい。
前記反射光を計測することは、前記反射光から前記励起光のフォトン数W1を算出することであり、前記同時計測することは、前記白色参照試料および前記被験試料からの反射光から前記励起光のフォトン数W2を算出し、前記被験試料からの発光のフォトン数Lを算出することであり、前記励起光のフォトン数W1およびW2、ならびに、前記発光のフォトン数Lを用いて吸収率、内部量子効率および外部量子効率からなる群から選択される光学特性を算出することをさらに包含してもよい。
前記発光を計測することは、前記発光測定装置の励起光照射部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)と、前記発光測定装置の受光部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(受光軸)とのなす角度を変化させながら行ってもよい。
前記発光を計測することは、前記発光測定装置の励起光照射部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)を中心に前記受光部を回転させながら計測してもよい。
前記発光を計測することは、前記発光測定装置の励起光照射部の前記被験試料側の先端の中心と前記被験試料保持部に保持される前記被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)を中心に前記被験試料保持部を回転させながら計測してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の発光測定装置は、励起光照射部と被験試料との間の距離ならびに受光部と被験試料との間の距離を制限することにより、単粒子一つといった微小な試料であっても、光学測定を可能とする。被験試料からの蛍光は、ほぼ均一に発散されるため、受光部と被験試料との間の距離の概2乗に反比例し、同様の傾向が励起光照射部と被験試料との間でも生じる。これにより、単粒子一つといった微小な粒子であっても、光学測定、特に量子効率測定を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】石英製角セルを用いた計測の様子を示す模式図
【
図2】積分球法を実施する分光測定装置を示す模式図
【
図4】別の積分球法を実施する分光測定装置を示す模式図
【
図7】本発明の別の発光測定装置の一部を示す模式図
【
図10】例1の微小粒子の励起・発光スペクトルを示す図
【
図11】微小粒子からの発光強度の受光距離依存性(A)および励起距離依存性(B)を示す図
【
図13】例2で用いた発光測定装置の一部を示す模式図
【
図14】例2の微小粒子の散乱・発光スペクトルを示す図
【
図15】例2の微小粒子の発光強度の配向分布を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明を詳しく説明する。
図5は、本発明の発光測定装置を示す模式図である。
【0022】
本発明の発光測定装置500は、励起光を照射する励起光照射部510と、励起光が照射される被験試料Sを保持するための被験試料保持部520と、被験試料Sからの発光を受光する受光部530とを備える。
【0023】
ここで、本発明の発光測定装置500は、励起光照射部510の被験試料S側の端部と被験試料保持部520に保持される被験試料Sの表面との距離D1が、0mm以上10mm以下に維持され、受光部530の被験試料S側の端部と被験試料保持部520に保持される被験試料Sの表面との距離D2が、0mm以上10mm以下に維持されることを特徴とする。
【0024】
このように、近接して測定することにより、とりわけ、微小な被験試料Sに対しても発光スペクトルを精度よく測定することができる。このような微小な被験試料Sは、好ましくは、0.1μm以上100μm以下の範囲の最大径を有する粒子であってよい。この範囲であれば、励起光を被験試料に照射でき、測定に必要な光量が得られるため、精度よく測定できる。
【0025】
距離D1は、好ましくは、0mm以上5mm以下である。これにより、被験試料Sに照射される励起光の光量が大きくできる。距離D2は、好ましくは、0mm以上大きく5mm以下である。これにより、被験試料Sからの発光を効率よく取り込むことができ、光量を大きくできる。なお、距離D1、D2は、0mmであってよいが、後述する各種回転機構の動作を考慮すれば、各種構成要素間の取り回しのよさから0mmより大きくてよい。
【0026】
距離D1およびD2は、好ましくは、被験試料Sの最大径の0.1倍以上200倍以下の範囲である。これにより、被験試料Sに照射される励起光の光量を大きくでき、被験試料Sからの発光の光量を大きくできるので、とりわけ最大径が50μm以下である被験試料Sに対して高精度で計測できる。
【0027】
励起光照射部510は、好ましくは、光源511と、光源511と光学的に結合した光ファイバ512とを備え、光源511からの励起光を、光ファイバ512に導光し、光ファイバ512の先端から被験試料Sに照射する。
【0028】
ここで、光源511は、被験試料Sに照射し、被験試料Sを励起可能なものであれば、特に制限はないが、好ましくは、光源511は、水銀ランプ、重水素ランプ、キセノンランプおよびハロゲンランプからなる群から1つ選択されたランプと、ランプからの光を分光する分光器とを備えてもよい。これにより、励起光は、単一波長を有することができる。
【0029】
受光部530は、好ましくは、被験試料Sからの発光を導光する光ファイバ531と、光ファイバ531に光学的に結合した光検出器532とを備える。光検出器532は、被験試料Sからの発光を受光し、波長スペクトルを取得可能なものであれば、特に制限はないが、例示的には、マルチチャンネル分光器を採用できる。
【0030】
光ファイバ512、531は、通常知られているコアおよびクラッドを備えた光ファイバを採用でき、励起光の波長を導光するもの、発光の波長を導光するものを適宜採用できる。
【0031】
特に、微小な被験試料Sの発光測定を行う場合には、光ファイバ512、531の被験試料S側の先端の直径は、好ましくは、50μm以上5mm以下の範囲である。これにより、光ファイバ512、321の先端を被験試料Sに近づけることができ、精度よく測定できる。
【0032】
光ファイバ512、531の先端の直径は、より好ましくは、50μm以上1mm以下の範囲である。これにより、微小な被験試料S(例えば、最大径が100μm以下の粒子)に励起光を精度良く照射することができ、発光を精度良く集めることができる。光ファイバ512、531の先端の直径は、なおさらに好ましくは、100μm以上500μm以下の範囲である。光ファイバの直径が小さいと干渉を小さくできる。
【0033】
光ファイバ512、531の先端の直径は、好ましくは、被験試料Sの最大径の1倍以上200倍以下の範囲である。これにより、微小な被験試料Sに対しても高精度に発光測定できる。
【0034】
光ファイバ512、531は、それぞれ、単線式のシングルファイバであってもよい。比較的大きな被験試料Sを対象とした光学測定では、光量を稼ぐために光ファイバを束ねたバンドルファイバが用いられることが多いが、微小な被験試料Sに対しては、細い径の単線式の光ファイバが適している。光ファイバから照射される励起光は広がりながら被験試料Sに照射されるが、単線式のシングルファイバを用いることにより、均一性が増すだけでなく、発光測定装置の取り回しがよくなる。
【0035】
光ファイバ512、531のそれぞれの被験試料S側の端部は、束ねられた形式であってもよい。束ねられることにより1本の部品により励起光の照射と受光が可能となり、計測時の励起光照射部510と被験試料保持部520と受光部530との位置調整などの取り回しがよくなる。
【0036】
被験試料保持部520は、
図5に示すように被験試料Sを保持できるものであれば、特に制限はないが、好ましくは、凹部を備える。
図6は、被験試料保持部を拡大して示す模式図である。
【0037】
図6には、凹部610を備えた被験試料保持部600が示される。凹部610を設けることにより、フォトン数の算出に際して、白色参照試料620および被験試料Sの設置がしやすくなる。凹部610の形状や大きさは被験試料Sの量や大きさを考慮して設定することができるが、100μm以下の被験試料を扱う場合は測定精度を高めるためには凹部610の面積は1平方mm以下が適しており、より好ましくは0.01平方mm程度がよい。
【0038】
凹部の形状として、機械加工のしやすさから円形、矩形等であってよいが、特に制限はない。イオンエッチングなどのより高精度な機械加工を採用すれば、形状の自由度も大きくなる。
【0039】
図6では、被験試料保持部600の凹部610に白色参照試料620が充填され、その上に被験試料Sが保持されている様子を示す。被験試料保持部600は、好ましくは、凹部610以外が励起光を吸収する黒色である。この場合、凹部以外の被験試料保持部600は、励起光を0%以上10%以下の範囲で反射することが好ましい。これにより、正確に測定できる。このような材料としては、カーボン材料や、表面をアルマイト黒化処理した材料等が挙げられる。より好ましくは、反射率が0%以上5%以下の範囲の材料からなるとよい。
【0040】
白色参照試料620、あるいは、白色参照試料620および被験試料Sの反射を測定する場合は、励起光照射部510は、好ましくは、凹部610を含み凹部610の外側までの充分に広い範囲に励起光(
図6中の一点鎖線で示す)を照射する。凹部610の外側は反射率が低い黒色であるため、励起光は凹部610に設置した試料(白色参照試料620、あるいは、白色参照試料620および被験試料S)からだけの反射光を発する。これにより、試料だけからの反射光を検出できるので、精度よく測定できる。
【0041】
白色参照試料620は、好ましくは、測定波長範囲における励起光を90%以上100%以下の範囲で反射する。これにより、正確に測定できる。このような材料としては、硫酸バリウム、テフロン(登録商標)等が挙げられる。これらの材料は拡散反射率が96%~99%程度である。
【0042】
図6に示す黒色の被験試料保持部600を用いることにより、励起光を微小な被験試料Sよりも小さくなるよう絞ることなく、凹部610を超えて黒色の領域も含むよう全体に均一に照射できる。これにより、測定領域は常に凹部610の上部表面積に限定されるので、励起光を小さく絞った場合に比べて、位置誤差に対する光学測定の不確かさを小さくでき、とりわけフォトン数の算出において、精度よく測定できる。
【0043】
また、励起光を微小な被験試料Sよりも小さくなるよう絞ることないため、波長に制限のあるレーザ光源とレンズとを使用する必要はない。この結果、偏光の影響を考慮する必要のない上述したランプと分光器とを採用し、任意の励起波長を設定できるため、汎用性が高く有利である。
【0044】
図7は、本発明の別の発光測定装置の一部を示す模式図である。
【0045】
本発明の発光測定装置は、励起光照射部(ここでは、簡単のため光ファイバ512のみ示す)の被験試料S側の先端の中心と被験試料保持部520に保持される被験試料Sの中心とを結ぶ直線(励起光軸)と、受光部(ここでは、簡単のため光ファイバ531のみ示す)の被験試料S側の先端の中心と被験試料保持部520に保持される被験試料Sの中心とを結ぶ直線(受光軸)とのなす角度を変化させる角度可変機構710を備えてもよい。これにより、被験試料Sからの反射光あるいは発光の方向による分布を測定できる。特に、
図6に示す黒色の被験試料保持部600を用いれば、測定位置精度の確からしさは大きい。
【0046】
本発明の発光測定装置は、励起光軸を中心に受光部を回転する受光部回転機構720を備えてもよい。これにより、被験試料Sからの励起光軸周りの反射光による分布を測定できる。特に、
図6に示す黒色の被験試料保持部600を用いれば、測定位置精度の確からしさは大きい。
【0047】
本発明の発光測定装置は、励起光軸を中心に被験試料保持部520を回転する保持部回転機構730を備えてもよい。保持部回転機構730により、励起光軸方向以外の方向の発光特性が平均化されるので、発光特性が異なる試料について平均的な発光を測定できる。このような試料としては扁平状や針状の形状をもつ結晶を挙げることができる。特に、
図6に示す黒色の被験試料保持部600を用いれば、被験試料Sへの照射光量の不確かさを無視できる。
【0048】
再度
図5に戻り、本発明の発光測定装置500は、データ解析部540を備えてもよい。データ解析部540は、受光部530で取得した発光スペクトルのデータを取得し、量子効率等の光学特性を算出する。
【0049】
図8は、データ解析部の例示的な構成を示す図である。
【0050】
データ解析部540は、フォトン数算出部541と、光学特性算出部542とを必須とするが、
図8に示すように、データ入力部543と、データ出力部544とをさらに備えてもよい。
【0051】
データ入力部543は、受光部530で取得した発光スペクトルのデータを受け取り、格納する。このとき、発光スペクトルのデータが、励起光軸と受光軸とのなす角度依存性、励起光軸周りの分布等の情報を有してもよい。
【0052】
フォトン数算出部541は、データ入力部543から発光スペクトルのデータを受け取り、フォトン数を算出する。例えば、
図6に示すような、凹部610に白色参照試料620を充填した被験試料保持部600を用いて被験試料Sの内部量子効率を算出する場合を説明する。
【0053】
フォトン数算出部541は、白色参照試料620から反射した励起光のフォトン数(強度)W1を算出し、次いで、白色参照試料620に被験試料Sを保持した状態の励起光のフォトン数W2を算出し、白色参照試料620に被験試料Sを保持した状態の励起光と異なる波長の発光のフォトン数Lを算出する。
【0054】
光学特性算出部542は、フォトン数算出部541で算出されたフォトン数を用いて、光学特性として内部量子効率Eを算出する。詳細には、被験試料Sが吸収した励起光のフォトン数A(=W1-W2)、およびフォトン数Lを用い、E=L/Aを用いて内部量子効率を算出する。このように、
図6に示す被験試料保持部600を採用すれば、被験試料Sが吸収した励起光のフォトン数を正確に求めることができるため、精度よく光学測定できる。
【0055】
また、各種依存性を有する波長スペクトルのデータを取得している場合には、光学特性算出部542が、全空間に渡る積分値を求めることができるので、精度よく光学測定できる。
【0056】
光学特性算出部542は、W1、W2およびLを用いて次式により吸収率や外部量子効率を算出してもよい。
吸収率=(W1-W2)/W1
外部量子効率=L/W1=吸収率×内部量子効率
【0057】
このようにして算出された内部量子効率などの光学特性は、データ出力部544に送られ、外部の表示部810に表示するようにしたり、印刷装置などで出力したりしてもよい。
【0058】
データ解析部540のフォトン数算出部541および光学特性算出部542は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等により実現される。
【0059】
次に、本発明の
図5を参照して説明した本発明の発光測定装置を用いた被験試料の発光測定方法について説明する。
【0060】
本発明の光学測定方法は、本発明の発光測定装置500を用い、励起光を被験試料Sに照射し、被験試料Sからの発光を計測することによって測定される。本発明の発光測定装置を用いるため、とりわけ微小な粒子である蛍光体の発光を精度よく計測することができ、励起発光スペクトルを取得できる。
【0061】
以降では、
図6を参照して説明した被験試料保持部600を用いた光学測定方法を説明する。本発明で励起光の面積あたりの強度(フォトン数)を測定する場合は、
図6に示すように被験試料保持部が試料を設置するための凹部610を有し、凹部610以外の被験試料保持部600は励起光を吸収する黒色とし、凹部610に設置した白色参照試料620の外側の範囲まで励起光を照射することにより、白色参照試料620からの反射光を測定するとよい。凹部610を超えて広く照射されるので、励起光のうち比較的均一な光が被験試料に照射され、ずれも小さいといえる。
【0062】
少量の試料の測定を行う場合は、凹部610の大きさは1平方mm以下がよく、より好ましくは0.01平方mm以下がよい。凹部610の外側まで光を当てることにより試料面全体に励起光をあてることができ、試料面全体からの反射光を計測することができる。このとき試料面の外側では黒色により励起光の反射は抑えられる。白色参照試料620は反射率が高いほど好ましく、硫酸バリウム粉末やテフロン(登録商標)成形体などを用いることができる。これらの材料は拡散反射率が96~99%程度である。このような白色参照試料620の反射光の測定は、被験試料Sの発光の測定に先立って行われてよい。
【0063】
これまでの粉末試料に対する光学測定の常識に基づけば、単粒子一粒といった微小な被験試料に対しても励起光をそれよりも小さくなるよう絞り、照射するという発想になるところ、本願発明者らは、微小な被験試料よりも広く照射するという逆の発想にいたった。さらに、本願発明者らは、凹部を備えた黒色の被験試料保持部を採用し、凹部を超えて外側まで広く励起光を照射することにより、測定領域を凹部の面積に常に限定できるため、励起光を小さく絞った場合よりも、より確からしい高精度な測定が可能となることを見出した。
【0064】
(1)白色参照試料620の反射光を計測する(フォトン数を算出する)ことに続いて、(2)白色参照試料620上に被験試料Sを保持し、白色参照試料620および被験試料Sを完全に含む範囲に励起光を照射し、白色参照試料620および被験試料Sからの反射光および被験試料からの発光を同時計測する。
【0065】
ここで、凹部610の外側を黒色とすることにより、励起に有効な光は凹部610の内側だけに照射できるので、(1)の工程で、白色参照試料620からの反射光を計測することにより、白色参照試料620に照射された励起光のフォトン数を計測することができる。次に、(2)の工程で、白色参照試料620の上に微小な被験試料Sを設置した状態で励起光を照射することにより、励起光の一部は被験試料Sに吸収され、残りは白色参照試料620で拡散反射される。被験試料Sに吸収された励起光は、被験試料Sの蛍光体の働きにより励起光とは異なる波長の光(発光)に変換され、試料の外に放出される。
【0066】
さらに詳細には、(1)の工程において、白色参照試料620の反射光から励起光のフォトン数W1を算出する。(2)の工程において、白色参照試料620および被験試料Sからの反射光から励起光のフォトン数W2を算出し、被験試料Sからの発光のフォトン数Lを算出する。
【0067】
次いで、励起光のフォトン数W1、W2ならびに発光のフォトン数Lから内部量子効率Eを、次式を用いて算出してもよい。
A=W1-W2
E=L/A
ここで、Aは、被験試料Sが吸収した励起光のフォトン数である。このように、被験試料Sが吸収した励起光のフォトン数を正確に求めることができるため、精度よく光学測定できる。
【0068】
当然ながら、W1、W2、Lを用いて、次式より吸収率および外部量子効率を算出してもよい。
吸収率=(W1-W2)/W1
外部量子効率=L/W1=吸収率×内部量子効率
【0069】
上記の量子効率の測定では、試料の形態や結晶型によっては方位により反射されやすい方位や発光しやすい方位がある虞があるため、全空間に渡る積分値を求めることが望ましい。
【0070】
発光測定に際し、発光測定装置の励起光照射部の被験試料側の先端の中心と被験試料保持部に保持される被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)と、発光測定装置の受光部の被験試料側の先端の中心と被験試料保持部に保持される被験試料の中心とを結ぶ直線(受光軸)とのなす角度を変えながら計測してもよい。これにより、球面の経度方向の強度を積分することにより、経度方向の分布を平均化できる。この方法を上述の(1)および(2)の2つの工程で量子効率を測定する方法に適用することにより、配光分光測定法を用いた量子効率を精度良く計測することができる。
【0071】
発光測定に際し、発光測定装置の励起光照射部の被験試料側の先端の中心と被験試料保持部に保持される被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)を中心に受光部を回転させながら計測してもよい。これにより、緯度方向の強度を積分することにより、緯度方向の分布を平均化できる。この方法を上述の(1)および(2)の2つの工程で量子効率を測定する方法に適用することにより、配光分光測定法を用いた量子効率を精度良く計測することができる。
【0072】
発光を測定するに際し、発光測定装置の励起光照射部の被験試料側の先端の中心と被験試料保持部に保持される被験試料の中心とを結ぶ直線(励起光軸)を中心に被験試料保持部を回転させながら計測してもよい。これにより、緯度方向の分布を平均化できる。この方法を上述の(1)および(2)の2つの工程で量子効率を測定する方法に適用することにより、配光分光測定法を用いた量子効率を精度良く計測することができる。
【0073】
なお、上記(1)の工程に対する配向分光測定は、白色参照試料620の配向分光が中心軸対象である場合、省略してもよい。
【実施例0074】
[例1]
例1では、
図9に示す発光測定装置を用いて、微小な被験試料の発光スペクトルを測定した。
図9は、例1で用いた発光測定装置を示す模式図である。
【0075】
図9に示す発光測定装置は、光ファイバ26およびキセノンランプ(出力150W、図示せず)を備えた励起光照射部と、ガラス棒からなる被験試料保持部と、光ファイバ25および分光器(大塚電子製、マルチチャンネル型分光器(MCPD2480型)、図示せず)を備えた受光部とを備える。光ファイバには、石英製バンドル光ファイバを用いた。被験試料として最大径が15μmである蛍光体(WO2010/110457に記載の実施例2と同様の手順で製造した蛍光体)微小粒子をガラス棒の先端に樹脂で接着した。光ファイバ25と試料との受光距離(
図5の距離D2)、ならびに、光ファイバ26と試料との励起距離(
図5の距離D1)を変化させ、蛍光測定を行った。結果を
図10および
図11に示す。
【0076】
図10は、例1の微小粒子の励起・発光スペクトルを示す図である。
【0077】
図10には、励起距離3mm、受光距離1mmとした場合の微小粒子の励起・発光スペクトルが示される。従来の測定法では多数の粒子の集まりである粉末からの蛍光を測定するため1~数cm離れた距離で観測しても十分な信号強度が得られていたのに対し、単粒子の測定では不可能であったが、
図10に示すように、1cm以下の距離で観測することにより良好な励起・発光スペクトルがえられた。
【0078】
励起距離1mm、受光距離5mmとした場合、各励起波長ごと露光時間10秒、露光回数4回積算することにより十分なS/N比の励起発光スペクトルが得られた。励起波長間隔を10nmとした場合の測定所要時間は暗電流測定などを含めても約60分であった。
【0079】
図11は、微小粒子からの発光強度の受光距離依存性(A)および励起距離依存性(B)を示す図である。
【0080】
図11に示すように、光強度の観測距離(受光距離)および励起距離依存性を露光時間1秒、露光回数4回積算することにより励起波長間隔2nmとしても約30分で良好な励起・発光スペクトルがえられた。このことから、効率よく高精度なスペクトルを測定するには観測距離および/または励起距離を短くすることが有効であることが示された。
図10によれば、被験試料(微小粒子)から発された蛍光は、ほぼ均一に発散されるため、受光用光ファイバ25との距離の概2乗に反比例して強くなったと考えられる。このような傾向は励起用光ファイバと被験試料に関しても同様であり、距離の概2乗に反比例するといえる。
【0081】
このような測定では通常100Wから450Wの出力のキセノンランプが用いられる。ランプの出力が3倍になったとしても受光用光ファイバとの距離が3倍になると信号が1/3以下になるので感度が低下して好ましくない。このことから受光用ファイバと被験試料の距離(
図5の距離D2に相当)は10mm以下が望ましい。このような傾向は励起用光ファイバと被験試料との距離(
図5の距離D1)に関しても同様である。このことから励起用光ファイバと被験試料の距離は10mm以下が望ましい。下限は特にないが、0mm以上であればよい。
【0082】
[例2]
例2では、
図12に示す被験試料保持部を用い、
図13に示す発光測定装置を用いて、微小な被験試料の発光スペクトルを測定した。
【0083】
図12は、例2の被験試料保持部を示す模式図である。
【0084】
例2の被験試料保持部は、表面にアルマイト黒化処理が施されており、直径概3mm長さ概20mmの円筒状の構造を有し、先端部(本図では左部の直径0.5mm以下の細い円筒状をなしている)には直径0.1mm以下の円形孔の凹部が設けられた。凹部の面積は、0.0079平方mmであった。
【0085】
このような被験試料保持部の凹部に、白色参照試料29(
図13)として硫酸バリウム粉末を充填し、その上に被験試料30(
図13)として例1と同じ蛍光体微小粒子を適宜設置し、測定用の試料とした。
【0086】
図12では、直径0.1mm(100μm)の円形孔の凹部を有する被験試料保持部を示すが、直径20μmの円形孔の凹部、直径15μmの円形孔の凹部をそれぞれ有する被験試料保持部も用意した。
【0087】
図13は、例2で用いた発光測定装置の一部を示す模式図である。
【0088】
図13の発光測定装置は、
図7を参照して説明した配光分光装置と同様であり、励起用光ファイバ31と受光用光ファイバ32とが被験試料30を保持した被験試料保持部28(
図12)に対向して配置されている。光ファイバ31と被験試料30との距離(距離D1に相当)は、1mmであり、光ファイバ32と被験試料30との距離(距離D2に相当)は、1mmであった。励起用光ファイバ31の直径は、150μm(コア径:120μm)であり、受光用光ファイバ32の直径は、370μm(コア径:230μm)であった。例1と同様に、キセノンランプ(出力150W)、マルチチャンネル型分光器を用いた。
【0089】
励起用光ファイバ31は、被験試料30の上方に配置され、受光用光ファイバ32は、光ファイバ31と被験試料30とを結ぶ直線(励起光軸)を中心に回転する受光部回転機構(図示せず)に取り付けられており、円周33上を移動しながら測定した。被験試料保持部28は、励起光軸を中心に回転する保持部回転機構(図示せず)に取り付けられており、円周34上を移動可能であった。
【0090】
被験試料30の量子効率を次のようにして測定した。
(1)白色参照試料29からの反射光を計測した。
詳細には、励起用光ファイバ31から発射した励起光は、広がりながら、白色参照試料29を完全に含む範囲で照射され、白色参照試料29からの反射光を受光用光ファイバ32によって計測した。このとき、受光用光ファイバ32は、円周33上を移動しながら測定した。続いて、円周34に沿って被験試料保持部28を移動させながら、白色参照試料29の反射光を測定した。このようにして、白色参照試料29について被験試料保持部28上の半球をカバーする範囲の励起光の配光分光測定を行った。
【0091】
(2)白色参照試料29上に被験試料30を保持し、白色参照試料29および被験試料30を完全に含む範囲に励起光を照射し、白色参照試料29および被験試料30からの反射光(散乱光)および被験試料からの発光を同時計測した。ここでも、受光用光ファイバ32は、円周33上を移動しながら測定した。続いて、円周34に沿って被験試料保持部28を移動させながら測定した。このようにして、白色参照試料29および被験試料30について被験試料保持部28上の半球をカバーする範囲の散乱光と蛍光との配光分光測定を行った。
【0092】
次に、このようにして得られた配向分布を球体積分(ISO23946に規定された方法に同じ)し、散乱発光スペクトル、および、内部量子効率を算出した。
【0093】
図14は、例2の微小粒子の散乱・発光スペクトルを示す図である。
【0094】
図14には、
図12に示す直径100μmの円形孔の被験試料保持部を用い、励起距離および受光距離を1mmとし、励起光軸と受光軸とのなす角度が45度の場合の散乱・発光スペクトルが示される。
図10に示すように、最大径が15μmである微小粒子であっても、量子効率が得られる十分な信号強度が得られ、本発明の装置および方法が有効であることが示された。
【0095】
図15は、例2の微小粒子の発光強度の配向分布を示す図である。
【0096】
図15には、
図12に示す直径100μmの円形孔の被験試料保持部を用い、励起距離および受光距離を1mmとし、受光用光ファイバ32を、円周33上を移動させた場合の配向分布が示される。
図15によれば、粉末試料の測定時と同様に均一配光に近い分布が得られているが、滑らかな曲線からずれる点も観測された。これは微小粒子が球形ではない結晶形状によるものと考えられるが、全半球を球体積分することにより正確な測定が可能である。
【0097】
次に、種々の大きさの凹部の被験試料保持部を用いて得られた光学測定の結果を表1に示す。
【0098】
【0099】
表1によれば、凹部の直径を小さくする、すなわち面積を小さくすることにより、散乱と蛍光との強度比を近づけることが可能であることが分かった。直径100μmの場合の励起光フォトン数:散乱フォトン数:蛍光フォトン数の比率は、3945:3893:49であった。これから計算した吸収フォトン数の比率は52と算出された。この場合の内部量子効率は約94%と導出された。
【0100】
これに対し円形孔の直径を20μmとした場合、励起光フォトン数:散乱フォトン数:蛍光フォトン数は、158:97:49であった。この場合の吸収フォトン数は61となり内部量子効率約80%が導出された。
【0101】
さらに円形孔の直径を試料の粒径にほぼ等しい15μmとした場合、励起光フォトン数:散乱フォトン数:蛍光フォトン数は、82:22:49であった。この場合の吸収フォトン数は60となり内部量子効率約82%が導出された。このときの、吸収率および外部量子効率は、それぞれ、73%および60%と導出された。
【0102】
一方、同じ試料の量子効率を粉末測定したときの吸収率、内部量子効率および外部量子効率は、それぞれ、80%、65%および81%であった。粉末測定と、微小粒子(単一粒子)との測定結果が必ずしも一致するとは限らないが、一粒の粒子からも光学測定が可能であることが分かった。吸収フォトン数に着目すれば、凹部の面積を小さくするにしたがって、励起光の多くが微小粒子に吸収されることから、とりわけ、凹部の面積を小さくした場合に良好に一致し、確からしい結果が得られたと判断できる。
【0103】
前述のように本装置では励起光用光ファイバ31から発射した光は僅かに広がりながらその一部が白色参照試料29に照射される。このため円形孔部分(凹部)の位置誤差に対する不確かさが小さい。また、被験試料30である蛍光体を回転した場合の照射光量の不確かさも無視できる。一般的な方法としてレーザ光などをレンズ等で集光して被験試料を励起する場合に比べ優位性が高いといえる。特に球形でない試料を計測する場合著しい効果がみられる。被験試料を固定して受光用光ファイバ32を回転して計測する場合に比べても、測定位置精度の確からしさは大きい。また、キセノン光を分光して用いるため、励起波長を任意に設定できること、偏光の影響を考慮する必要がない等多くの利点がある。
本発明は、蛍光体等の発光材料の評価に好適に用いられることが可能な発光測定装置および光学測定方法に利用可能であり、とりわけ微小な粒子に対して測定を可能とする。