(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007715
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】ステアリングコラム装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/185 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
B62D1/185
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110738
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】本橋 祐也
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 早紀矢
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DD05
3D030DD13
3D030DD63
(57)【要約】
【課題】運転者によりステアリングホイールに加えられた荷重をより高精度に検出できるステアリングコラム装置を提供する。
【解決手段】ステアリングコラム装置は、ステアリングシャフトを支持するステアリングコラムを備え、前記ステアリングコラムは、ステアリングホイール側に前記ステアリングシャフトを回転可能に支持する軸受部を有し、前記軸受部は、荷重センサを有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトを支持するステアリングコラムを備え、
前記ステアリングコラムは、ステアリングホイール側に前記ステアリングシャフトを回転可能に支持する軸受部を有し、
前記軸受部は、荷重センサを有する、
ステアリングコラム装置。
【請求項2】
前記軸受部は、径方向において、前記ステアリングシャフトと前記ステアリングコラムとに挟まれて設けられている、
請求項1に記載のステアリングコラム装置。
【請求項3】
前記軸受部は、ベアリングをさらに有し、
前記荷重センサは、ベアリングを介して前記ステアリングシャフトと連結されている、
請求項2に記載のステアリングコラム装置。
【請求項4】
前記荷重センサは、
前記ステアリングコラムと前記ステアリングシャフトの一方により前方への移動が制限され、
前記ステアリングコラムと前記ステアリングシャフトの他方により後方への移動が制限される、
請求項2または請求項3に記載のステアリングコラム装置。
【請求項5】
前記荷重センサは、リング状に形成されたロードセルである、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のステアリングコラム装置。
【請求項6】
前記ステアリングコラムは、前後方向に相対移動可能な第一コラムと第二コラムとを有し、
前記第二コラムは、前記第一コラムよりステアリングホイール側に設けられており、
前記軸受部は、前記第二コラムに設けられている、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のステアリングコラム装置。
【請求項7】
前記第二コラムと前記ステアリングシャフトとの間に、前記軸受部とは異なる第二の軸受部を備え、
前記軸受部と前記第二の軸受部とにより、前記第二コラムと前記ステアリングシャフトを支持し、
前記軸受部が前記第二の軸受部より前記ステアリングホイールに近い位置に配置されていることを特徴とする請求項6に記載のステアリングコラム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングコラム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールの前後方向の位置を調整するテレスコピック機構と、ステアリングホイールの上下方向の角度を調整するチルト機構と、を有するステアリングコラム装置が使用されている。
【0003】
運転者によりステアリングホイールに加えられた荷重によりテレスコピック機構とチルト機構とを制御できるステアリングコラム装置が考案されている。このようなステアリングコラム装置は、ジョイスティックや操作キーなどのユーザインタフェースが不要であり、また、運転者がステアリングホイールの位置や角度を直感的に調整できる。
【0004】
特許文献1に記載された車両用ステアリングコラム装置は、運転者によりステアリングホイールに加えられた荷重を検出する圧力センサを備え、圧力センサの検出結果に基づいてステアリングホイールの位置を電動で調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された車両用ステアリングコラム装置は、前後方向の荷重を検出する圧力センサや上下方向の荷重を検出する圧力センサが、ステアリングホイールから遠い位置に設けられており、運転者によりステアリングホイールに加えられた荷重を検出しにくい場合があった。
【0007】
上記事情を踏まえ、本発明は、運転者によりステアリングホイールに加えられた荷重をより高精度に検出できるステアリングコラム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の第一の態様に係るステアリングコラム装置は、ステアリングシャフトを支持するステアリングコラムを備え、前記ステアリングコラムは、ステアリングホイール側に前記ステアリングシャフトを回転可能に支持する軸受部を有し、前記軸受部は、荷重センサを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のステアリングコラム装置によれば、運転者によりステアリングホイールに加えられた荷重をより高精度に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第一実施形態に係るステアリングコラム装置を備えるステアリング装置の構成を示す模式図である。
【
図2】同ステアリングコラム装置を示す斜視図である。
【
図3】同ステアリングコラム装置を示す斜視図である。
【
図5】同ステアリングコラム装置のコラムホルダの斜視図である。
【
図7】同ステアリングコラム装置の第一軸受部の分解斜視図である。
【
図8】ステアリングホイールに近い軸受部に荷重センサを配置することが望ましい理由を説明する図である。
【
図9】ステアリングホイールに近い軸受部に荷重センサを配置することが望ましい理由を説明する図である。
【
図10】ステアリングホイールに近い軸受部に荷重センサを配置することが望ましい理由を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態について、
図1から
図10を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るステアリングコラム装置100を備えるステアリング装置300の構成を示す模式図である。
【0012】
[ステアリング装置300]
ステアリング装置(操舵装置)300は、
図1に示すように、車両を操向するための操舵部材であるステアリングホイール(入力機構)200と、ステアリングホイール200の回転に連動して操向車輪を転舵する転舵機構210と、ドライバの操舵を補助する操舵補助機構230と、を備える。
【0013】
転舵機構210は、ステアリングコラム装置100と、ステアリングホイール200に連結されたステアリングシャフト220と、ユニバーサルジョイント224と、中間軸225と、ピニオンラック機構226と、タイロッド227a,227bと、ハブユニット228a,228bと、を備える。
【0014】
ステアリングシャフト220は、ユニバーサルジョイント224、中間軸225、ピニオンラック機構226、タイロッド227a,227bを経て、さらにハブユニット228a,228bを介して操向車輪に連結される。
【0015】
ピニオンラック機構226は、図示しないピニオンとラックとを有している。
ピニオンは、中間軸225に連結しており、中間軸225の回転に連動して回転する。
ラックは、自動車の左右方向(直進方向に直交する方向)に沿って直線状に延びている。ラックは、ラックの軸方向の中間部付近において、ピニオンと噛み合う。ピニオンおよびラックは、ピニオンの回転をラックの軸方向移動に変換する。ラックを軸方向に移動させることにより、操向車輪が転舵される。
【0016】
ドライバによってステアリングホイール200が操舵(回転)されると、ステアリングホイール200の回転が、ステアリングシャフト220および中間軸225を介して、ピニオンに伝達される。そして、ピニオンの回転は、ラックの軸方向移動に変換される。ピニオンラック機構226の両端部に連結されたタイロッド227a,227bおよびハブユニット228a,228bがラックの軸方向に移動し、ハブユニット228a,228bに連結された操向車輪が転舵される。
【0017】
なお、転舵機構210は、ステアリングシャフト220と操向車輪を転舵するタイロッド227a,227bとが電気的に接続されたステアバイワイヤ方式であってもよい。
【0018】
以降の説明において、ステアリング装置300を車両に取り付けた状態において、ステアリングシャフト220の軸方向Aに沿って車両の前方に向う向きを「前方FR」と定義する。その反対向きを「後方RR」と定義する。前方FRまたは後方RRに向かう方向を「前後方向」と定義する。
【0019】
前後方向と垂直な方向において、車両の上方に向う向きを「上方UP」と定義する。その反対向きを「下方LWR」と定義する。上方UPまたは下方LWRに向かう方向を「上下方向」と定義する。
【0020】
前後方向および左右方向と垂直な方向において、後方に向かって右向きを「右方RH」と定義する。その反対向きを「左方LH」と定義する。右方RHまたは左方LHに向かう方向を「左右方向」または「幅方向」と定義する。
【0021】
図2および
図3は、ステアリングコラム装置100を示す斜視図である。
操舵補助機構230は、減速機構231と、電動モータ(図示省略)と、ECU(図示省略)と、ハウジング240と、を備える。
【0022】
減速機構231は、例えばウォームギヤ機構を有する。ウォームギヤ機構のウォームは、電動モータによって回転駆動される。また、ウォームギヤ機構のウォームホイールは、ステアリングシャフト220に一体回転可能に連結されている。
【0023】
電動モータは、ステアリングシャフト220の操舵力を補助する電動モータであって、例えば三相ブラシレスモータである。電動モータは、減速機構231を介してステアリングシャフト220に連結されている。
【0024】
ECU(コントロールユニット)は、プログラム実行可能な装置(コンピュータ)を有する。ECUは、電動モータを駆動して、減速機構231を制御する。
【0025】
[ステアリングコラム装置100]
ステアリングコラム装置100は、ステアリングホイール200を支持する装置であり、ステアリングホイール200の前後方向の位置を調整するテレスコピック機構と、ステアリングホイール200の上下方向の角度を調整するチルト機構と、を有する。ステアリングコラム装置100は、ステアリングシャフト220を支持するステアリングコラム10と、ロア側テレスコ用アクチュエータ6と、アッパ側テレスコ用アクチュエータ7と、チルト用アクチュエータ8と、制御装置9と、を備える。
【0026】
ロア側テレスコ用アクチュエータ6およびアッパ側テレスコ用アクチュエータ7は、2段階に伸縮するテレスコピック機構の一部を構成する。チルト用アクチュエータ8は、チルト機構の一部を構成する。ロア側テレスコ用アクチュエータ6、アッパ側テレスコ用アクチュエータ7およびチルト用アクチュエータ8は、制御装置9によって制御される。
【0027】
図4は、ステアリングコラム装置100の断面図である。
ステアリングシャフト220は、インナシャフト221と、アウタシャフト222と、を有する。インナシャフト221とアウタシャフト222とは、軸方向Aに沿う軸を回転軸とした相対回転が不能であって、前後方向に沿って相対移動が可能に連結されている。本実施形態において、前方FRのインナシャフト221と後方RRのアウタシャフト222とは、スプライン係合により連結されている。
【0028】
ステアリングシャフト220の後方RRの端部、すなわちアウタシャフト222の後方RRの端部には、ステアリングホイール200が取り付けられている。また、ステアリングシャフト220の前方FRの端部、すなわちインナシャフト221の前方FRの端部には、ドライバの操舵を補助する操舵補助機構230が設けられている。
【0029】
[ステアリングコラム10]
ステアリングコラム10は、ステアリングシャフト220を支持する軸管部材である。ステアリングコラム10は、車体に取り付けられるベースブラケット1と、コラムホルダ2と、ロアコラム3(第一コラム)と、インナコラム4と、アッパコラム5(第二コラム)と、を有する。
【0030】
ステアリングコラム10は、前後方向に沿って全長を伸縮可能である。具体的には、ステアリングコラム10において、ベースブラケット1とコラムホルダ2とは、前後方向に沿って相対移動可能に連結されている。また、ステアリングコラム10において、コラムホルダ2とアッパコラム5とは、前後方向に沿って相対移動可能に連結されている。
【0031】
図5は、コラムホルダ2の斜視図である。
コラムホルダ2は、ベースブラケット1に対して前後方向に沿って相対移動可能に連結されている。コラムホルダ2は、変位板部21と、一対の垂下板部(右垂下板部22a,左垂下板部22b)と、上下方向に揺動可能にロアコラム3を支持する揺動支持ブラケット部23と、を有する。
【0032】
変位板部21は、上下方向から見て前後方向に伸長する矩形形状を有する。一対の垂下板部(右垂下板部22a,左垂下板部22b)は、変位板部21の幅方向両側の端部から下方LWRに向けて垂下している。
【0033】
揺動支持ブラケット部23は、前後方向から見て略U字形形状に形成されており、変位板部21の後方RRの端部に固設されている。揺動支持ブラケット部23は、揺動支持ブラケット部23に対して上下方向に揺動可能にロアコラム3を支持するチルト用送りねじ装置81が設けられている。支持されたロアコラム3は、変位板部21と揺動支持ブラケット部23とに囲まれた空間を通過する。
【0034】
ロアコラム3(第一コラム)は、略円筒形状を有し、コラムホルダ2の揺動支持ブラケット部23に上下方向の揺動を可能、かつ、前後方向の相対移動を不可能に支持されている。ロアコラム3は、
図4に示すように、前方FRに配置された大径部32と、後方RRに配置された小径部33と、を有する。小径部33の内径寸法は、大径部32の内径寸法よりも小さい。また、ロアコラム3は、下面において軸方向に延びるスリット34を有する。
【0035】
大径部32は、前方FRの端部の上面にねじ孔35aを有する。ねじ孔35aには、ポリアセタール(POM)などの摩擦係数が小さい材料製のパッド36aが先端部に接着固定されたスクリュープラグ37aが螺合されている。
【0036】
小径部33は、前方FRの端部の上面にねじ孔35bを有する。ねじ孔35bには、ポリアセタール(POM)などの摩擦係数が小さい材料製のパッド36bが先端部に接着固定されたスクリュープラグ37bが螺合されている。
【0037】
インナコラム4は、
図2から
図4に示すように、円筒部45と、円筒部45の前方FRの端部から径方向外側に向けて折れ曲がったフランジ部46と、を有する。フランジ部46は、ハウジング240を介して、ベースブラケット1を左右方向に挿通する枢支ボルト49により、ベースブラケット1に回転可能に支持されている。
【0038】
インナコラム4とロアコラム3とは、前後方向に沿って相対移動可能に連結されている。具体的には、インナコラム4の円筒部45の後側部分が、ロアコラム3の大径部32に隙間嵌で内嵌している。ロアコラム3の前側のねじ孔35aに螺合したスクリュープラグ37aのパッド36aは、円筒部45の後側部分の外周面に突き当たっている。
【0039】
アッパコラム5(第二コラム)は、
図4に示すように、略円筒形状に形成されている。ロアコラム3とアッパコラム5とは、前後方向に沿って相対移動可能に連結されている。具体的には、アッパコラム5の前側部分が、ロアコラム3の小径部33に隙間嵌で内嵌している。ロアコラム3の後側のねじ孔35bに螺合したスクリュープラグ37bのパッド36bは、アッパコラム5の前側部分の外周面に突き当たっている。
【0040】
アッパコラム5は、第一軸受部51(軸受部)と、第二軸受部52と、を有する。第一軸受部51は、アッパコラム5の前方FRの端部に設けられており、アウタシャフト222を回転自在に支持する。第二軸受部52は、アッパコラム5の後方RRの端部に設けられており、アウタシャフト222を回転自在に支持する。
【0041】
図6は、
図4の二点破線で示す領域の拡大図である。
第一軸受部51(軸受部)は、径方向Rにおいてアッパコラム5とアウタシャフト222とに挟まれて設けられている。第一軸受部51は、ベアリング54と、荷重センサ55と、第一留め具56と、第二留め具57と、を有する。
【0042】
図7は、第一軸受部51の分解斜視図である。
ベアリング54は、公知のボールベアリングであって、ラジアル荷重に加えて、アキシアル荷重をも支えることができるベアリングである。ベアリング54の内周面は、アウタシャフト222の外周面222cと当接している。なお、ベアリング54は、ボールベアリングに限定されず、ラジアル荷重およびアキシアル荷重を支えることができるベアリングであればよい。
【0043】
荷重センサ55は、リング状に形成されたロードセルである。荷重センサ55の外周面は、アッパコラム5の内周面5iと当接している。荷重センサ55の内周面には、周方向に延びる凹部55aが形成されている。凹部55aにはベアリング54が嵌合している。荷重センサ55は、ベアリング54を介してステアリングシャフト220と連結されている。すなわち、荷重センサ55は、径方向Rにおいて、アッパコラム5とベアリング54とに挟まれている。なお、荷重センサ55は、ロードワッシャや歪ゲージ等であってもよい。
【0044】
荷重センサ55の前方FRの端部は、アッパコラム5の内周面5iから内側に突出した係合凸部5tと当接している。そのため、荷重センサ55は、前方FRへの移動が制限される。
【0045】
荷重センサ55の後方RRの端部は、第一留め具56に当接している。第一留め具56は、アッパコラム5の内周面5iに形成された係合凹部5aと係合している。そのため、荷重センサ55は、後方RRへの移動が制限される。
【0046】
ベアリング54の前方FRの端部は、アウタシャフト222の外周面222cから外側に突出した係合凸部222tと当接している。そのため、ベアリング54は、前方FRへの移動が制限される。
【0047】
ベアリング54の後方RRの端部は、第二留め具57に当接している。第二留め具57は、アウタシャフト222の外周面222cに形成された係合凹部222aと係合している。そのため、ベアリング54は、後方RRへの移動が制限される。
【0048】
荷重センサ55は、径方向Rにおいて、ベアリング54を介してアッパコラム5とアウタシャフト222とに挟まれており、アッパコラム5とアウタシャフト222とに作用する上下方向および左右方向における相対的な荷重を検出できる。
例えば、ハンドルに対しUP方向に荷重を加えた場合、荷重センサ55のUP側が圧縮されてひずむため、この圧縮ひずみを検出することにより、UP方向の荷重を検出することができる。荷重センサ55に生じるひずみは、ひずみゲージや磁歪センサ等の公知のひずみ検出方法により検出することができる。
【0049】
荷重センサ55は、アッパコラム5の係合凸部5tとアウタシャフト222の係合凹部222aとにより前後方向の移動が制限されているため、アッパコラム5とアウタシャフト222とに作用する前後方向における相対的な荷重も検出できる。
例えば、ハンドルに対しFR方向に荷重を加えた場合、荷重センサ55のFR側の係合凸部5tとベアリング54とに挟まれた領域が圧縮されてひずむため、このひずみを検出することにより、FR方向の荷重を検出することができる。
または、ベアリング54の外周とアッパコラム5の内周に挟まれた領域に生じる剪断ひずみを検出することにより、FR方向の荷重を検出してもよい。
荷重センサ55に生じる歪みは、歪みセンサや磁歪センサ等の公知の歪み検出方法により検出することができる。
【0050】
荷重センサ55が検出した荷重は、ケーブル59を経由して制御装置9によって取得される。
【0051】
[ロア側テレスコ用アクチュエータ6]
ロア側テレスコ用アクチュエータ6は、ロア側テレスコ用モータ60と、ロア側送りねじ装置61と、を有する。ロア側テレスコ用アクチュエータ6は、ロア側テレスコ用モータ60を駆動源として、ベースブラケット1に対してコラムホルダ2を前後方向に移動させる。
【0052】
ロア側送りねじ装置61は、
図2に示すよう、外周面に雄ねじ部を有する第一ねじ軸62と、内周面に雌ねじ部を有する第一ナット63と、を有する。第一ねじ軸62の雄ねじ部と第一ナット63の雌ねじ部とは螺合する。第一ねじ軸62は、前後方向に沿う軸を回転軸をとして、ロア側テレスコ用モータ60により回転駆動される。
【0053】
第一ねじ軸62の後方RRの端部は、ロア側テレスコ用モータ60により回転駆動可能に支持されている。また、第一ナット63は、コラムホルダ2の左垂下板部22bの左方LHの側面に対して固定されている。また、ロア側テレスコ用モータ60は、ベースブラケット1の左方LHの側面に固定されている。
【0054】
ロア側テレスコ用モータ60がウォーム減速機などの減速機構を介して第一ねじ軸62を回転駆動することに伴って第一ねじ軸62に沿って第一ナット63が前後方向に移動することにより、コラムホルダ2およびコラムホルダ2に支持されたロアコラム3がベースブラケット1に対して前後方向に移動する。
【0055】
[アッパ側テレスコ用アクチュエータ7]
アッパ側テレスコ用アクチュエータ7は、アッパ側テレスコ用モータ70と、アッパ側送りねじ装置71と、を有する。アッパ側テレスコ用アクチュエータ7は、アッパ側テレスコ用モータ70を駆動源として、コラムホルダ2に対してアッパコラム5を前後方向に移動させる。
【0056】
アッパ側送りねじ装置71は、
図2に示すように、外周面に雄ねじ部を有する第二ねじ軸72と、内周面に雌ねじ部を有する第二ナット73と、を有する。第二ねじ軸72の雄ねじ部と第二ナット73の雌ねじ部とは螺合する。第二ねじ軸72は、前後方向に沿う軸を回転軸をとして、アッパ側テレスコ用モータ70により回転駆動される。
【0057】
第二ねじ軸72の後方RRの端部は、アッパ側テレスコ用モータ70により回転駆動可能に支持されている。また、第二ナット73は、アッパコラム5の下面に対して固定されている。第二ナット73は、
図4に示すように、ロアコラム3に形成されたスリット34を通過している。また、アッパ側テレスコ用モータ70は、ロアコラム3の大径部32の下面に対して固定されている。
【0058】
アッパ側テレスコ用モータ70がウォーム減速機などの減速機構を介して第二ねじ軸72を回転駆動することに伴って第二ねじ軸72に沿って第二ナット73が前後方向に移動することにより、アッパコラム5がロアコラム3に対して前後方向に移動する。
【0059】
[チルト用アクチュエータ8]
チルト用アクチュエータ8は、チルト用モータ80と、チルト用送りねじ装置81と、を有する。チルト用アクチュエータ8は、チルト用モータ80を駆動源として、コラムホルダ2に対してロアコラム3を上下方向に移動させる。
【0060】
チルト用送りねじ装置81は、
図5に示すように、外周面に雄ねじ部を有する第三ねじ軸82と、内周面に雌ねじ部を有する第三ナット83と、を有する。第三ねじ軸82の雄ねじ部と第三ナット83の雌ねじ部とは螺合する。第三ねじ軸82は、チルト用モータ80により回転駆動される。第三ナット83は、外周面に円柱状の枢支軸部84を有する。
【0061】
第三ねじ軸82は、上下方向に沿う軸を回転軸として回転自在に揺動支持ブラケット部23に支持される。第三ナット83の枢支軸部84は、ロアコラム3に固定されている。
【0062】
チルト用モータ80がウォーム減速機などの減速機構を介して第三ねじ軸82を回転駆動することに伴って第三ねじ軸82に沿って第三ナット83が上下方向に移動することにより、連結されたロアコラム3がコラムホルダ2に対して上下方向に移動する。
【0063】
[制御装置9]
制御装置9は、プロセッサと、メモリと、記憶部と、入出力制御部と、を備えるプログラム実行可能な装置(コンピュータ)である。所定のプログラムを実行することにより、ロア側テレスコ用アクチュエータ6、アッパ側テレスコ用アクチュエータ7およびチルト用アクチュエータ8を制御する。なお、制御装置9の少なくとも一部の機能を、専用の論理回路等によって構成してもよい。なお、制御装置9は、操舵補助機構230のECUと共通化されていてもよい。
【0064】
[ステアリングコラム装置100の動作(1)]
運転者は、ステアリングホイール200の前後方向の位置を調節したい場合、制御装置9を通常モードから調整モードに設定し、ステアリングホイール200を移動させたい向き(前方FRまたは後方RR)に対して、ステアリングホイール200に力を加える。
なお、通常モードと調整モードとの遷移は、図示しないスイッチを押下することに基づいて行うことができる。また、車両のダッシュボードに配置された入出力装置を介して、通常モードと調整モードの切り替えを行ってもよい。入出力装置の一例として、タッチパネル式の情報表示用ディスプレイが挙げられる。
【0065】
荷重センサ55は、アッパコラム5とアウタシャフト222とに作用する前後方向における相対的な荷重の大きさおよび向きを検出する。制御装置9は、荷重センサ55が検出した荷重の大きさおよび向きを取得する。
【0066】
制御装置9は、荷重センサ55が検出した荷重の大きさおよび向きに基づいて、ロア側テレスコ用モータ60を駆動して、ベースブラケット1に対してコラムホルダ2を前後方向に移動させる。また、制御装置9は、アッパ側テレスコ用モータ70を制御して、ロアコラム3に対してアッパコラム5を前後方向に移動させる。その結果、ステアリングコラム10は前後方向に伸縮する。
【0067】
荷重センサ55が検出した荷重の向きが前方FRであった場合、制御装置9は、ベースブラケット1に対してコラムホルダ2を前方FRに移動させ、ロアコラム3に対してアッパコラム5を前方FRに移動させる。
【0068】
荷重センサ55が検出した荷重の向きが後方RRであった場合、制御装置9は、ベースブラケット1に対してコラムホルダ2を後方RRに移動させ、ロアコラム3に対してアッパコラム5を後方RRに移動させる。
【0069】
制御装置9は、ロア側テレスコ用モータ60とアッパ側テレスコ用モータ70のいずれか一方を駆動してもよく、両方を駆動してもよい。両方を駆動することにより、ステアリングコラム装置100は高速にステアリングホイール200の前後方向の位置を調節できる。
【0070】
ステアリングシャフト220は、インナシャフト221とアウタシャフト222とが前後方向に沿って相対移動することにより、ステアリングコラム10とともに伸縮する。その結果、ステアリングホイール200の前後方向の位置が調節される。
【0071】
制御装置9は、荷重センサ55が荷重を検出しなくなるまでステアリングホイール200の前後方向の位置を調節する。ステアリングホイール200の位置が調整された後、運転者は制御装置9の動作モードを調整モードから通常モードに設定する。制御装置9の動作モードが通常モードに設定されると、制御装置9によるステアリングホイール200の位置の調整は実施されない。
【0072】
[ステアリングコラム装置100の動作(2)]
運転者は、ステアリングホイール200の上下方向の角度を調節したい場合、制御装置9を通常モードから調整モードに設定し、ステアリングホイール200を移動させたい向き(上方UPまたは下方LWR)に対して、ステアリングホイール200に力を加える。
【0073】
荷重センサ55は、アッパコラム5とアウタシャフト222とに作用する上下方向における相対的な荷重の大きさおよび向きを検出する。制御装置9は、荷重センサ55が検出した荷重の大きさおよび向きを取得する。
【0074】
制御装置9は、荷重センサ55が検出した荷重の大きさおよび向きに基づいて、チルト用モータ80を駆動して、ロアコラム3を上下方向に移動させる。その結果、ステアリングホイール200の上下方向の角度が調節される。
【0075】
荷重センサ55が検出した荷重の向きが上方UPであった場合、制御装置9は、コラムホルダ2に対してロアコラム3を上方UPに移動させる。
【0076】
荷重センサ55が検出した荷重の向きが下方LWRであった場合、制御装置9は、コラムホルダ2に対してロアコラム3を下方LWRに移動させる。
【0077】
制御装置9は、荷重センサ55が荷重を検出しなくなるまでステアリングホイール200の上下方向の角度を調節する。ステアリングホイール200の角度が調整された後、運転者は制御装置9の動作モードを調整モードから通常モードに設定する。制御装置9の動作モードが通常モードに設定されると、制御装置9によるステアリングホイール200の角度の調整は実施されない。
【0078】
制御装置9は、ステアリングホイール200の前後方向の位置の調節と、ステアリングホイール200の上下方向の角度の調節とを、同時に行うこともできるし、別々に行うこともできる。
【0079】
本実施形態に係るステアリングコラム装置100によれば、荷重センサ55はステアリングホイール200に近い位置に配置されているため、運転者によりステアリングホイール200に加えられた荷重をより高精度に検出することができる。荷重センサ55は、上下方向の荷重に加え、前後方向の荷重を検出できる。また、荷重センサ55は、第二ねじ軸72上に設けられておらず、第二ねじ軸72の長さを機能上必要な長さより長くする必要がない。
【0080】
本実施形態に係るステアリングコラム装置100によれば、ステアリングホイール200に接続されたステアリングシャフト220を支持する軸受部に荷重センサ55を配置することが望ましい。また、ステアリングシャフト220を支持する軸受部が複数ある場合、ステアリングホイール200に近い軸受部に荷重センサ55を配置することが望ましい。この理由を、
図8~
図10を用いて説明する。
【0081】
図8は、テレスコピック機構を備えたステアリングコラム装置100を模式的に示した図である。ロアコラム3の一端は、ベースブラケット1を経由して車体に固定されている。ロアコラム3の後方RR側にはアッパコラム5の前方FR側が前後方向に移動可能に接続されている。具体的には、アッパコラム5は、ロアコラム3に対し、アッパコラムに固定されたパッド36aおよびパッド36bにより、前後方向に移動可能に支持されている。
【0082】
アッパコラム5の後方RR側には、ステアリングシャフト220が回転可能かつ前後方向への移動が不可能に接続されている。具体的には、ステアリングシャフト220は、アッパコラム5に対し、第一軸受部51および第二軸受部52により、回転可能に支持されている。第一軸受部51および第二軸受部52として、玉軸受やニードル軸受等の回転軸受を用いることができる。
【0083】
ロアコラム3の外周と、アッパコラム5の外周には、アッパ側テレスコ用アクチュエータ7が配置されている。
図8は、アッパ側テレスコ用アクチュエータ7が縮んだ状態を示す模式図であり、
図9は、アッパ側テレスコ用アクチュエータ7が伸びた状態を示す模式図である。
図9に示すように、アッパ側テレスコ用アクチュエータ7が伸縮することにより、アッパコラム5がロアコラム3に対して移動する。
【0084】
本開示における荷重センサ55とは、換言すると、軸状の部材と軸状の部材を支持する支持部(パッド36a、パッド36b、第一軸受部51および第二軸受部52)に生じる径方向Rの力を検出するセンサである。すなわち、支持部(パッド36a、パッド36b、第一軸受部51および第二軸受部52)のいずれの位置にも荷重センサ55を配置し得る。しかし、前述の通り、ステアリングシャフト220とステアリングホイール200との間を支持する支持部のうち、ステアリングホイール200に近い支持部に荷重センサ55を配置することが望ましい。すなわち、第一軸受部51に荷重センサ55を配置することが望ましい。
【0085】
この理由を、(1)ステアリングシャフト220とアッパコラム5との間に荷重センサを配置することが望ましい理由と、(2)ステアリングホイール200に近い位置に荷重センサを配置することが望ましい理由とに分けて説明する。
【0086】
[(1)ステアリングシャフト220とアッパコラム5との間に荷重センサ55を配置することが望ましい理由について]
図10にて、パッド36aからパッド36bまでの距離をL34、パッド36aからステアリングホイール220までの距離をL3h、第二軸受部52から第一軸受部51までの距離をL21、第二軸受部52からステアリングホイール220までの距離をL2hとする。
【0087】
図10にステアリングホイール200に対して、下方向の力Fhを付与した場合において、アッパコラム5、ステアリングシャフト220に発生する力を示す。
図10において、矢印F3と矢印F4はアッパコラム5に作用する力を示し、矢印F1と矢印F2はステアリングシャフト220に作用する力を示す。
アッパコラム5、ステアリングシャフト220の間では、第二軸受部52の上方に圧縮力F2が発生し、第一軸受部51の下方に圧縮力F1が発生する。
ロアコラム3と、アッパコラム5との間では、パッド36aの上方に圧縮力F3が発生し、パッド36bの下方に圧縮力F4が発生する。
【0088】
図10において、アッパコラム5に作用する力とモーメントの釣り合いを考慮すると、ステアリングホイールに加えられる力Fhと、パッド36aの上方に作用する圧縮力F3と、パッド36bの下方に作用する圧縮力F4との間には、以下の関係が成立する。
【0089】
【0090】
【0091】
式1と式2をFhについて解くと、以下の式3が導出される。
【0092】
【0093】
ここで、式3において、F3とF4に乗算される係数は、パッド36aからステアリングホイール200までの距離であるL3hを含むため、ステアリングホイール200の位置に応じて変化する。すなわち、ロアコラム3とアッパコラム5との間に荷重センサ55を配置した場合、アッパ側テレスコ用アクチュエータ7の伸縮量が荷重Fhの検出値に影響を与えることとなる。
【0094】
図10において、ステアリングシャフト220に作用する力とモーメントの釣り合いを考慮すると、ステアリングホイールに加えられる力Fhと、第二軸受部52の上方に作用する圧縮力F1と、第一軸受部51の下方に作用するF2間には、以下の関係が成立する。
【0095】
【0096】
【0097】
式1と式2をFhについて解くと、以下の式6が導出される。
【0098】
【0099】
ここで、式6において、F1とF2に乗算される係数は、ステアリングホイール200の位置によらず一定である。すなわち、アッパコラム5とステアリングシャフト220との間に荷重センサ55を配置した場合、アッパ側テレスコ用アクチュエータ7の伸縮量が荷重Fhの検出に影響を及ぼすことが無い。したがって、荷重センサ55はアッパコラム5とステアリングシャフト220との間に配置することが望ましい。
【0100】
[(2)ステアリングホイール200に近い位置に荷重センサを配置することが望ましい理由について]
式6をF1について整理すると、式7が導出される。
【0101】
【0102】
式6をF2について整理すると、式8が導出される。
【0103】
【0104】
式7と式8について、Fhに乗ずる係数を比較すると、式8の係数の方が小さい。これは、同一のハンドル荷重Fhが付与された場合のF2の変動が、F1の変動に比べて小さいことを意味する。すなわち、同一分解能(荷重に対する出力の比)の荷重センサ55を用いる場合、F2を検出するよりも、F1を検出した方がハンドル荷重Fhを高精度に検出することができる。したがって、荷重センサ55は、ステアリングホイール200に近い方の第一軸受部51に配置することが望ましい。
【0105】
以上、本発明の第一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上述の実施形態および変形例において示す構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【0106】
(変形例1)
上記実施形態において、ステアリングコラム装置100は、2段階に伸縮するテレスコピック機構を有する。しかしながら、テレスコピック機構の態様はこれに限定されない。ステアリングコラム装置100は、一段階に伸縮するテレスコピック機構を有してもよい。
【0107】
(変形例2)
上記実施形態において、第一軸受部51(軸受部)は、ベアリング54と、荷重センサ55とを有する。しかしながら、第一軸受部51(軸受部)の態様は、これに限定されあない。リング状に形成された荷重センサ55によりアウタシャフト222を回転自在に支持できる場合、荷重センサ55はベアリング54を介してアウタシャフト222と連結させなくてもよい。
【0108】
(変形例3)
上記実施形態において、アッパコラム5に形成された係合凸部5tにより荷重センサ55の前方FRへの移動が制限され、アウタシャフト222に形成された係合凹部222aにより荷重センサ55の後方RRへの移動が制限される。しかし、荷重センサ55の前後方向への移動制限態様はこれに限定されない。アウタシャフト222に形成された係合凹部222aにより荷重センサ55の前方FRへの移動が制限され、アッパコラム5に形成された係合凸部5tにより荷重センサ55の後方RRへの移動が制限されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、ステアリングコラム装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0110】
300 ステアリング装置(操舵装置)
220 ステアリングシャフト
200 ステアリングホイール(入力機構)
100 ステアリングコラム装置
10 ステアリングコラム
1 ベースブラケット
2 コラムホルダ
3 ロアコラム(第一コラム)
4 インナコラム
5 アッパコラム(第二コラム)
51 第一軸受部(軸受部)
52 第二軸受部
54 ベアリング
55 荷重センサ
6 ロア側テレスコ用アクチュエータ
7 アッパ側テレスコ用アクチュエータ
8 チルト用アクチュエータ
9 制御装置