(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077222
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルム、薄膜状光学体層並びに透明体からなる光学構造物
(51)【国際特許分類】
G02B 5/12 20060101AFI20230529BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
G02B5/12
G02B5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190441
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】517266779
【氏名又は名称】株式会社リンコー
(71)【出願人】
【識別番号】000168115
【氏名又は名称】KTX株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516240592
【氏名又は名称】林 弘美
(71)【出願人】
【識別番号】599012684
【氏名又は名称】唐沢 伸
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】林 弘美
(72)【発明者】
【氏名】唐沢 伸
【テーマコード(参考)】
2H042
【Fターム(参考)】
2H042AA02
2H042AA03
2H042AA21
2H042EA12
2H042EA15
2H042EA16
(57)【要約】
【課題】再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルムと透明体の間に薄膜状光学体層を配置することで、薄膜状光学体層の持つ効果として、再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルムから薄膜状光学体層を透過した光や薄膜状光学体層で反射した光が、見る方向によって様々な色彩に変化してみえる光学構造物を提供する。
【解決手段】再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルム0101と、前記再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルム上に直接又は間接に配置される光学体からなる薄膜状光学体層であって、透明ポリマー材料に微粒子顔料を分散させ観察方向に依存して識別される色彩が変化するように構成された薄膜状光学体の層である薄膜状光学体層0102と、薄膜状光学体層上に配置される透明体0103と、からなる光学構造物0100を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルムと、
前記再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルム上に直接又は間接に配置される光学体からなる薄膜状光学体層であって、透明ポリマー材料に微粒子顔料を分散させ観察方向に依存して識別される色彩が変化するように構成された薄膜状光学体の層である薄膜状光学体層と、
薄膜状光学体層上に配置される透明体と、
からなる光学構造物。
【請求項2】
前記透明体はレンズ構造を有する請求項1に記載の光学構造物。
【請求項3】
前記透明体はシリコーン材料からなる請求項1又は請求項2に記載の光学構造物。
【請求項4】
前記透明体と、前記薄膜状光学体層とは、少なくとも一部は、シリコーンゲルを用いて密着されている請求項1から請求項3のいずれか一に記載の光学構造物。
【請求項5】
前記透明体には、意匠物が埋めこまれている請求項1から請求項4のいずれか一に記載の光学構造物。
【請求項6】
前記意匠物は少なくとも一部が蓄光体又は/及び蛍光体から構成されている請求項5に記載の光学構造物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一に記載の光学構造物を用いたアクセサリー。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか一に記載の光学構造物を用いた標識。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学構造物に関し、特に、再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルム、薄膜状光学体層及び透明体からなる光学構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、再帰反射フィルムを利用した光学構造物が知られている。例えば、特許文献1には、ガラスなどの透明体の裏面に再帰反射フィルムを貼り付けてなるアクセサリー(装飾体)が開示されており、透明体の表面にブリリアントカット面を形成することで、再帰反射フィルムからの光が見る方向によって様々な色彩に変化してみえるアクセサリーを提供することができることがうたわれている(特許文献1参照)。
【0003】
一方で、透明ポリマー材料に微粒子顔料を分散させた薄膜状の光学体からなる層である薄膜状光学体層が知られている。当該薄膜状光学体層は、透過及び/又は反射した光の色彩が観察方向に依存して変化するように構成されたフィルム状の部材である。例えば、特許文献2には、ポリエステル製のポリマーに平均直径500nm以下の微粒子顔料を分散させてなる薄膜状光学体層に関する技術が開示されている(特許文献2参照)。このような薄膜状光学体層を用いた製品は、差し込む光、見る角度によって様々に表情を変えることができる。同文献には、これを車のウィンドウなどに貼り付けて利用するとことが記載されている。これは、p-偏光の反射率が入射角によって徐々に変化する多層光学フィルムによって構成されている。このような薄膜上光学体層を用いた製品は、ガラス用デザインフィルムなどとして市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-104974号公報
【特許文献2】特表2004―530164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたアクセサリーにおいて再帰反射フィルムからの光が見る方向によって様々な色彩に変化してみえることがあるとしても、それは、あくまで透明体の表面にブリリアントカット面を形成することによる効果であり、再帰反射フィルム自体には見る方向によって様々な色彩に変化してみえるという効果はない。したがって、特許文献1に記載された発明では、透明体の表面にブリリアントカット面を形成することが発明の効果を奏するための不可欠の構成要素となっている。このため、特許文献1に開示された発明では、例えば、透明体の内部に文字やデザインを施して、これをそのまま見せつつ、再帰反射フィルムからの光を見る方向によって様々な色彩に変化してみえるようにするアクセサリーなどを提供することはできない。
【0006】
これに対し、再帰反射フィルムと透明体の間に薄膜状光学体層を配置すれば、薄膜状光学体層の持つ効果として、再帰反射フィルムからの光が見る方向によって様々な色彩に変化してみえるようにすることができる。そこで、表面にブリリアントカット面などが形成されていない透明体を配置しても再帰反射フィルムからの光が見る方向によって様々な色彩に変化してみえるアクセサリーを提供することができる。このため、透明体の内部に文字やデザインを施して、これをそのまま見せつつ、見る方向によって様々な色彩に変化してみえるようにするアクセサリーを提供することも可能となる。さらに、文字やデザインを案内や注意喚起などの意味を持つものとすることで、かかる効果を有する標識を提供することができるなど、アクセサリー以外の様々な用途の光学構造物に応用すること可能となると考えられる。以上の点は、再帰反射フィルムに代えて、またはこれに加えて鏡面フィルムを配置した場合でも同様である。しかしながら、このように構成された光学構造物はまだ知られていない。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みたものである。即ち、本発明の解決すべき課題は、再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルムと透明体の間に薄膜状光学体層を配置することで、薄膜状光学体層の持つ効果として、再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルムから薄膜状光学体層を透過した光や薄膜状光学体層で反射した光が、見る方向によって様々な色彩に変化してみえる光学構造物を提供することにある。また、再帰反射フィルムを用いる場合には、再帰反射フィルムと薄膜状光学体層の相乗効果として、再帰反射フィルムから薄膜状光学体層を透過した光が、見る方向によってより一層様々な色彩に変化してみえる光学構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、第一の発明は、再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルムと、前記再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルム上に直接又は間接に配置される光学体からなる薄膜状光学体層であって、透明ポリマー材料に微粒子顔料を分散させ観察方向に依存して識別される色彩が変化するように構成された薄膜状光学体の層である薄膜状光学体層と、薄膜状光学体層上に配置される透明体と、からなる光学構造物を提供する。
【0009】
第二の発明は、第一の発明を基礎として、前記透明体はレンズ構造を有する光学構造物を提供する。
【0010】
第三の発明は、第一又は第二の発明を基礎として、前記透明体はシリコーン材料からなる光学構造物を提供する。
【0011】
第四の発明は、第一から第三のいずれか一の発明を基礎として、前記透明体と、前記薄膜状光学体層とは、少なくとも一部は、シリコーンゲルを用いて密着されている光学構造物を提供する。
【0012】
第五の発明は、第一から第四のいずれか一の発明を基礎として、前記透明体には、意匠物が埋めこまれている光学構造物を提供する。
【0013】
第六の発明は、第五の発明を基礎として、前記意匠物は少なくとも一部が蓄光体又は/及び蛍光体から構成されている光学構造物を提供する。
【0014】
第七の発明は、第一から第六のいずれか一の発明に係る光学構造物を用いたアクセサリーを提供する。
【0015】
第八の発明は、第一から第六のいずれか一の発明に係る光学構造物を用いた標識を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルムと透明体の間に薄膜状光学体層を配置することで、薄膜状光学体層の持つ効果として、再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルムから薄膜状光学体層を透過した光や薄膜状光学体層で反射した光が、見る方向によって様々な色彩に変化してみえる光学構造物を提供することが可能となる。また、再帰反射フィルムを用いる場合には、再帰反射フィルムと薄膜状光学体層の相乗効果として、再帰反射フィルムから薄膜状光学体層を透過した光が、見る方向によってより一層様々な色彩に変化してみえる光学構造物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態1の光学構造物の形状の一例を示す図
【
図2】実施形態1の光学構造物の具体的用途の一例を示す図
【
図3】実施形態1の光学構造物を上下対称に重ね合わせた形状の一例を示す断面図
【
図4】実施形態1の光学構造物の具体的用途の一例を示す図
【
図5】実施形態1の光学構造物の具体的用途の一例を示す図
【
図6】実施形態1の光学構造物の具体的用途の一例を示す図
【
図7】実施形態1の光学構造物の製造工程の一例を示すフロー図
【
図8】実施形態4の光学構造物の形状の一例を示す図
【
図9】実施形態5の光学構造物の形状の一例を示す図
【
図10】実施形態5の光学構造物の形状の一例を示す図
【
図11】実施形態4の光学構造物の製造工程の一例を示すフロー図
【
図12】シリコーンゲルフィルムの構成の一例を示す図
【
図13】実施形態5の光学構造物の製造工程の一例を示すフロー図
【符号の説明】
【0018】
0100 光学構造物
0101 再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルム
0102 薄膜状光学体層
0103 透明体
0804 シリコーンゲル
0905 意匠物
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態を説明する。実施形態と請求項の相互の関係は以下のとおりである。実施形態1は主に請求項1、請求項7、請求項8などに関し、実施形態2は主に請求項2などに関し、実施形態3は主に請求項3などに関し、実施形態4は主に請求項4などに関し、実施形態5は主に請求項5などに関し、実施形態6は主に請求項6などに関する。なお、本発明はこれら実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施しうる。
<実施形態1>
【0020】
本実施形態は、主に請求項1、請求項7、請求項8などに関する。
【0021】
<実施形態1:概要>
本実施形態の発明に係る光学構造物は、再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルムと、薄膜状光学体層と、透明体とからなるものである。
【0022】
<実施形態1:構成>
(全般)
図1に本実施形態の光学構造物の形状の一例を示す。このうち、(a)は全体形状を示す斜視図であり、(b)は(a)のX-X断面図である。同図に示すように、本実施形態の光学構造物0100は、再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルム0101と、薄膜状光学体層0102と、透明体0103とからなる。なお、(a)における破線は、薄膜状光学体層の端縁部が透明体を介して見えている状態を示す。
【0023】
光学構造物の用途としては、例えばペンダントやブローチ、イヤリングなどのアクセサリーや、交通安全用のバッジなどの標識などが考えられるが、これらに限定されるものではない。また、その形状や寸法にも特に限定はないが、上述例のような用途に用いる場合には、例えば
図1に示したような平凸レンズ形状のものの場合、底面の直径が3~5センチメートル程度、高さが5ミリメートルから1センチメートル程度のものが好ましい。
【0024】
(再帰反射フィルム)
再帰反射フィルムは、光学構造物の最下層に配置される層状の部材であり、透明体及び薄膜状光学体層を介して入射された光を入射方向に反射させるように構成されている。この反射は、例えば、再帰反射フィルムに内蔵された微小なガラス粒子により行われる。
【0025】
本発明の光学構造物に用いる再帰反射フィルムの好適な具体例として、スリーエム社製のスコッチカル(登録商標)反射シート680シリーズが挙げられる。このシリーズには、ブラック、ブルー、ゴールド、グリーン、レモンイエロー、ライトブルー、オレンジ、レッド、ルビーレッド、ホワイト、 エローといった様々な色のバリエーションがある。そこで、用途などに応じてこれら様々な色の再帰反射フィルムを使い分けることで光学構造物から発せられる光の色にバリエーションを持たせることができる。
【0026】
再帰反射フィルムの素材としては、例えばポリ塩化ビニルが用いられる。上述の具体例に挙げたスリーエム社製の再帰反射フィルムも、かかる素材のものである。
【0027】
再帰反射フィルムの厚みには特に制限はないが、例えば、光学構造物が上述例のような小さなサイズのアクセサリーや標識などの場合には、光学構造物全体をコンパクトにするため、できるだけ薄いことが望ましく、例えば150~250マイクロメートル程度であることが望ましい。上述のスコッチカル反射シート680シリーズの再帰反射フィルムの厚みは180マイクロメートルであり、このような小さなサイズの光学構造物に用いるものとして好適な厚みの一例である。再帰反射フィルムは再帰反射をする。光学上特殊な反射機構で入射した光の大部分が再び入射方向へ帰る反射現象を奏するフィルムであり、受けた光をそのまま光源に向けてはね返す。後述するように薄膜状光学体層は、観察方向に応じてその反射光・透過光が変化する。従って、再帰反射フィルムから反射する光は指向性が強いために薄膜状光学体層を通して視認される色合いは、見る角度を変えるだけでも薄膜状光学体層を透過して視認できる光の角度が変化するので、色彩が変化して見えるという効果を奏することができる。
【0028】
(鏡面フィルム)
鏡面フィルムは、表面が鏡面をなす層状の部材であり、例えばポリエステルなどの基材の表面にアルミニウムなどの金属箔を蒸着させてなるものである。再帰反射フィルムと異なり、薄膜状光学体層との相乗効果を奏することは少ないものの、鏡面フィルムからの反射光を薄膜状光学体層を透過させることで、見る方向によって識別される色彩が変化するようにすることができる点は同様であり、本発明の効果を十分に奏することができる。
鏡面フィルムの厚みも、再帰反射フィルムについて上述したところと同様の観点から、例えば150~250マイクロメートル程度であることが望ましい。
【0029】
再帰反射フィルムと鏡面フィルムは、いずれか一方だけを用いてもよいし、両者を組み合わせて用いてもよい。組み合わせて用いる場合は、例えば、面一に構成されるフィルム面の中央に再帰反射フィルムを配置し、これに接する周囲に鏡面フィルムを配置するといった構成が考えられる。
【0030】
(薄膜状光学体層)
薄膜状光学体層は、再帰反射フィルム上に直接又は間接に配置される、全体が透光性又はこれに加えて反射性を有する薄膜状の光学体からなる層であって、厚みが50~100マイクロメートル程度のものをいう。なお、間接に配置される場合とは、例えば、再帰反射フィルム上にシリコーンゲルを介して配置される場合をいう。
【0031】
薄膜状光学体層は、透明ポリマー材料に微粒子顔料を分散させ観察方向に依存して識別される色彩が変化するように構成されている。平たく言えば、薄膜状光学体層は、見る角度や反射・透過の別により様々な見え方をするフィルム状の部材である。薄膜状光学体層の技術的特徴の詳細については、既述の特許文献2に開示されており、本発明は、かかる公知の薄膜状光学体層を利用する。そこで、本明細書において薄膜状光学体層の詳細について説明することは省くが、以下、本発明の理解に必要な範囲で簡単に説明する。
【0032】
透明ポリマー材料は、文字通り透明なポリマー(重合物)からなる材料であり、柔軟性、軽量性、加工容易性といったポリマー材料の特性に加えて、透光性に優れるという性質を有する。具体的な材料としては、例えば、ポリエステル系ポリマーが挙げられ、より具体的には、テレフタレートまたはナフタレートコモノマー単位を有するポリマー、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが挙げられる。
【0033】
次に、薄膜状光学体層が、透明ポリマー材料に微粒子顔料を分散させ観察方向に依存して識別される色彩が変化するための具体的構成について説明する。本発明において、透明ポリマー材料は多層構造になっている。各層は、少なくとも一部は異なる屈折率の材料から構成されている。例えば高屈折率の層の上下層は低屈折率の層からなる。このようなフィルムは、等方性又は/及び複屈折性層又は両者からなっている。複屈折性層は、p-偏光の反射率が入射角によって変化する。従ってこのような層を重ねて構成される薄膜状光学体層は、見る角度によって異なる色に見えることとなる。例えば、少なくとも層毎に異なる種類の配向着色材料が含まれるように構成することができる。このように構成することで見る角度に応じて異なる色彩を視認することができる。
【0034】
透明ポリマー材料に分散される微粒子顔料は、例えば、平均直径が約500ナノメートル以下の粒子から構成される。顔料の材料としては、カーボンブラック、鉄、チタン、アンチモン、ジルコニウム、亜鉛、バリウム、カルシウム、カドミウム、鉛、クロム、モリブデン、マンガン、ケイ素、アルミニウム、ナトリウム、コバルト、銅およびその他金属の酸化物、塩およびその他化合物のような無機化合物などが挙げられる。
【0035】
これらの構成を備える薄膜状光学体層の好適な具体例として、スリーエム社製のファサラ(登録商標)ガラスフィルム「ダイクロイックブレイズ」及び「ダイクロイックチル」が挙げられる。これらは、いずれも特殊加工を施したポリエステル系フィルムからなる薄膜状光学体層であり、市販の製品においては、当該薄膜状光学体層の表面にアクリル系感圧型粘着剤が付加され、他の部材に接着することができるようになっている。
【0036】
このうち、「ダイクロイックブレイズ」は、可視光線の透過率が66パーセント、反射率が33パーセントであり、相対的に透過性に優れている。一方、「ダイクロイックチル」は、可視光線の透過率が19パーセント、反射率が79パーセントであり、相対的に反射性に優れている。また、「ダイクロイックブレイズ」及び「ダイクロイックチル」のいずれも、飛散防止性(安全性)、UV遮断性、耐摩耗性にも優れるという長所を有する。
【0037】
なお、「ダイクロイックブレイズ」は、薄膜状光学体層部分の厚みが83マイクロメートルであり、これに接着剤を加えた厚みが139マイクロメートルである。一方、「ダイクロイックチル」は、薄膜状光学体層部分の厚みが78マイクロメートルであり、これに接着剤を加えた厚みが134マイクロメートルである。このため、前述したような小さなサイズのアクセサリーや標識に用いる薄膜状光学体層として用いる物としても好適な例である。
【0038】
薄膜状光学体層は、以上に述べたように、再帰反射フィルム又は/及び鏡面フィルム(以下、「再帰反射フィルム等」ということがある。)の上層に配置され、これにより、外部から入射し透明体を透過して薄膜状光学体層で反射される光や、外部から入射し透明体及び薄膜状光学体層を透過して再帰反射フィルム等で反射されて薄膜状光学体層を再び透過する光が、見る角度などにより様々な色彩に変化して見えるので、その装飾効果を楽しんだり、注意喚起を促したりすることが可能となる。なお、色彩の変化は薄膜状光学体層の光透過率が高い方がよく起こる。これは、特に再帰反射フィルム等からの反射光を薄膜状光学体層を透過させて視認できる量が多くなるからである。ここで薄膜状光学体層の光透過率は、50%以上が好ましい。薄膜状光学体層からの直接的な反射光は視認角度に応じた色彩の変化に寄与しないからである。従ってより好ましくは60%以上である。
【0039】
(透明体)
透明体は、薄膜状光学体層上に配置される透明な非層状部材である。ここで「非層状」とは、透明体が層状ではなくある程度の厚みを有すること、具体的には、透明体の底面の直径ないし一辺の最大の長さに対する厚みの割合が概ね15%以上30%以下であることをいう。例えば、光学構造物が
図1に示したような平凸レンズ形状のものの場合、透明体の底面の直径が3センチメートルである場合に、その高さが4.5ミリメートル以上9.0ミリメートル以下程度、底面の直径が5センチメートルの場合、その高さが7.5ミリメートル以上15.0ミリメートル以下程度であることをいう。
【0040】
透明体の材料としては、例えば透明シリコーン材料、透明ガラス、透明アクリル樹脂などが挙げられる。透明体の材料が透明シリコーン材料である例については、別の実施形態にて後述する。透明には無色透明と有色透明の両方が含まれ得る。
【0041】
透明体の形状は、非層状であることのほか、薄膜状光学体層の上面にぴったりと配置されることが必要である。これは薄膜状光学体層と透明体との隙間で多重反射が生じて光の減衰が起こることを防止するためである。従って、底面は平面形状である。ただし、このほかには形状に特に限定はなく、例えば、全体形状は直方体、円柱などの柱状形状、角錐台、円錐台などの錐台状形状など様々なものが考えられる。このように透明体の形状が、従来発明の表面にブリリアントカット面を形成したものなどと異なり、必ずしも光を屈折させる形状である必要がないことが、本発明における透明体の形状の特徴である。これは、透明体の下面に薄膜状光学体層を配置したことで、見る方向によって様々な色彩に見えるという効果が、薄膜状光学体層の存在による効果として現れることから、ブリリアントカット面の形成など透明体の形状の効果として実現する必要がないためである。なお、透明体は、レンズ構造を有する形状であってもよく、かかる例については、別の実施形態にて後述する。
【0042】
透明体は、光源からの光や薄膜状光学体層・再帰反射フィルム等からの反射光を透過させる機能を有する。すなわち、外部の光源からの入射された光は、透明体を介して薄膜状光学体層に至り、さらに一部の光は薄膜状光学体層を通過して再帰反射フィルム等に至る。そして、薄膜状光学体層で反射された光や再帰反射フィルム等で反射され薄膜状光学体層を透過した光は、透明体を介して外部に出射される。特に、透明体がレンズ構造などを有する場合には、通過する光を屈折させることにより光を発散・集束させて、光学構造物の光にさらに複雑な色彩を加えることが可能となる。透明体がレンズ構造を有する例については別の実施形態にて後述する。
【0043】
なお、透明体は、薄膜状光学体層を覆うことでこれを損傷や汚損から保護するという機能も有する。
【0044】
透明体には、意匠物が埋めこまれていてもよく、さらに、当該意匠物は少なくとも一部が蓄光体又は/及び蛍光体から構成されていてもよい。かかる例については別の実施形態にて後述する。これらの構成の場合には、透明体は、意匠物を保護するという機能も有する。
【0045】
(光学構造物の具体的用途の例)
次に、上記のように構成される光学構造物の具体的用途の例について説明する。
【0046】
(光学構造物の具体的用途の例(1):アクセサリー)
図2は、本実施形態の光学構造物の具体的用途の一例を示す図であって、アクセサリーとして用いる例を示す。本図の例は、ペンダントとして用いる例であって、光学構造物0200の透明体0203に多面体カットを施すとともに、当該光学構造物を金属製の台座0210に爪で係止したものである。アクセサリーの種類としては、他にブローチ、イヤリング、指輪なども考えられる。本実施形態の光学構造物をアクセサリーに用いることで、アクセサリーが揺れ動くたびに色彩が変化して見えるなど、見る方向によって様々な色彩に変化してみえるアクセサリーを提供することができる。
【0047】
特に、ペンダントやイヤリングのように装着中にアクセサリーが回転し得るものについては、本実施形態の光学構造物を上下対称に重ね合わせたものとすることで、回転による色彩の変化を楽しむことができるようにすることもできる。
【0048】
図3は、本実施形態の光学構造物0300を上下対称に重ね合わせた形状の一例を断面図で示したものである。その際に、上下の再帰反射フィルムの色を異なるものとしたり、薄膜状光学体層の反射・透過率を異なるものとしたりすることで、アクセサリーの回転に伴い、さらに多くの色彩の変化を楽しむことができる。
【0049】
(光学構造物の具体的用途の例(2):標識)
図4は、本実施形態の光学構造物の具体的用途の一例を示す図であって、標識に用いる例を示す。本図の例は、児童などの歩行者の帽子に装着して交通安全用のバッジとして用いる例であり、光学構造物0400を盆状の樹脂製や金属製などの台座0410の上に配置したものである。なお、帽子などへの装着のため、例えば台座の裏面に安全ピン(図示されない)が取り付けられていてもよい。この場合、光学構造物0400の最下層に再帰反射フィルム(図示されない)を配置しているため、自動車のヘッドライトなどからバッジに反射した光が自動車の運転者の方向に反射され、運転者に歩行者の存在を注意喚起することができる。そこで、このような用途に用いる場合は、再帰反射フィルムからの光の量を多くするため、薄膜状光学体層が相対的に透過性の高いものであることが望ましい。もっとも、再帰反射フィルムに加えて薄膜状光学体層を配置して様々な方向から反射光を視認することができるようにしているため、様々な方向の運転者等に注意を喚起することができる。しかも、運転者と歩行者の位置関係が微妙に変化するたびに光の色彩が様々に変化するため、運転者の注意がより喚起されることとなり、交通安全に資することができる。
【0050】
図5も、本実施形態の光学構造物の具体的用途の一例として標識に用いる例を示すものであって、路面標識に用いる例を示す。本図の例では、光学構造物0500を円錐台形状の金属製などの台座0510の上に配置したものである。台座の側面0511には再帰反射フィルムなどを配置してもよい。
【0051】
このような路面標識の寸法は、配置場所の特徴に応じて適切に設計されるとよい。例えば、歩道及び車道の境界ブロックとしてひろく用いられる略直方体の縁石(寸法の一例は縦約15センチメートル×横約60センチメートル×高さ約20センチメートル)上に配置する場合には、歩行者の通行の妨げになるのを回避するべく、上面の直径が8~10センチメートル、下面の直径が9~11センチメートル、高さが1.8~2.2センチメートルとすることが望ましく、さらに、上面の直径が約8.6センチメートル、下面の直径が約10.0センチメートル、高さが約2センチメートルとすることがより望ましい。
【0052】
また、図示は省略するが、このような路面標識を駐車場の側面視略台形形状の車止め上に配置してもよい。この場合にも、上述の縁石に配置する場合と同様に、歩行者の通行の妨げになるのを回避するべく、車止め(寸法の一例は縦約10センチメートル×横約60センチメートル×高さ約12センチメートル)上に配置する路面標識の寸法を、上面の直径が7~9センチメートル、下面の直径が6~8センチメートル、高さが1.8~2.2センチメートルとすることが望ましい。なお、駐車場の車止めには様々な規格のものがあるので、配置する車止めの上面幅などに対応して形状や大きさを決定することが望ましい。
【0053】
また、これも図示を省略するが、このような路面標識と同様に構成された光学構造物を建物の外壁面、内壁面、床面や天井面に配置して標識として用いるものであってもよい。
【0054】
さらに、本実施形態の光学構造物は、これを河川や崖沿いに設置される転落防止用の防護柵や、道路の車道と歩道の境界に設置されるガードレールなどの支柱の頂面に取り付けものとしてもよい。
【0055】
図6は、本実施形態の光学構造物の具体的用途の一例として標識に用いる例を示すものであって、防護柵の支柱の頂面に取り付けて用いる例を断面図で示したものである。本図の例では、光学構造物0600の底部にネジ0604を取り付け、これを金属製などのベース基板0610に設けたネジ穴0612に螺設するとともに、このようにして光学構造物を備えたベース基板を内挿取付部0620(光学構造物・ベース基板を支柱本体に取り付けるための部材)を用いて防護柵の支柱0630の頂面に取り付けるようにしている。なお、ベース基板は、本図の例に示すように、周縁部に環状に下に張り出したスカート部0611を有する形状であるとともに、その内径が支柱本体の外径にほぼ一致することが望ましい。こにより、ベース基板を支柱本体に取り付けた際に、支柱本体の外壁がスカート部の内壁にぴったりと内接し、もって支柱本体の空洞部分に雨水や埃などが侵入しないようにするとともに、ベース基板が支柱本体から脱落しにくいようにすることができる。このような光学構造物により、通行者に対しより明りょうに防護柵の位置を認識させることができるため、転落防止などの注意喚起を適切に行うことが可能となる。
【0056】
<実施形態1:光学構造物の製造方法>
次に、本実施形態の光学構造物の製造方法について説明する。
【0057】
図7は、本実施形態の光学構造物の製造工程の一例を示すフロー図である。
すなわち、同図に示すように、本実施形態の光学構造物の製造方法においては、まず、再帰反射フィルム準備ステップS0701において、再帰反射フィルムを準備する。以下再帰反射フィルムのみを用いる場合で説明するが、再帰反射フィルムに代えて、又はこれに加えて鏡面フィルムを用いる場合も同様である(以下においても同様である)。
【0058】
次に、薄膜状光学体層配置ステップS0702において、再帰反射フィルムの上層に薄膜状光学体層を接着剤などを用いて接着して配置する。再帰反射フィルムとして前述のスリーエム社製のスコッチカル(登録商標)反射シート680シリーズを用いる場合には、当該フィルムに予め接着剤が塗布されているので、剥離紙を剥がすだけでそのまま薄膜状光学体層を接着することができる。あるいは、再帰反射フィルム上にシリコーンゲルを配置し、これに薄膜状光学体層を密着させるようにして配置してもよい。いずれの設置方法においても、再帰反射フィルムと薄膜状光学体層の間で光が減衰することがないように、両者の間に空気が入らない程度に両者を密着させて配置することが望ましい。
【0059】
次に、透明体配置ステップS0703において、薄膜状光学体層上に透明体を接着剤などを用いて接着して配置する。薄膜状光学体層として前述のスリーエム社製のファサラ(登録商標)ガラスフィルム「ダイクロイックブレイズ」または「ダイクロイックチル」を用いる場合には、当該フィルムに予め接着剤が塗布されているので、剥離紙を剥がすだけでそのまま透明体を接着することができる。あるいは、薄膜状光学体層上にシリコーンゲルを配置し、これに透明体を密着させるようにして配置してもよい。かかる例については、別の実施形態にて後述する。
【0060】
<実施形態1:効果>
本実施形態の発明によれば、再帰反射フィルム等と透明体の間に薄膜状光学体層を配置することで、薄膜状光学体層の持つ効果として、再帰反射フィルム等から薄膜状光学体層を透過した光や薄膜状光学体層で反射した光が、見る方向によって様々な色彩に変化してみえる光学構造物を提供することが可能となる。
<実施形態2>
【0061】
本実施形態は、主に請求項2などに関する。
【0062】
<実施形態2:概要>
本実施形態の発明に係る光学構造物は、実施形態1の光学構造物と基本的に共通するが、透明体がレンズ構造を有する点に特徴がある。
【0063】
<実施形態2:構成>
【0064】
本実施形態の光学構造物の構成は、実施形態1で説明した光学構造物の構成と基本的に共通する。ただし、本実施形態の光学構造物は、透明体がレンズ構造を有する。
【0065】
レンズ構造とは、光を屈折させて発散又は集束させるというレンズの機能を果たす構造・形状をいう。レンズの構造に限定はない。また、レンズの形状は、透明体の底面が平面形状であることから必然的に底面が平面形状であることのほか、特に限定はない。前出の
図1に示したものも透明体がレンズ構造を有する一例であり、透明体が平凸レンズの構造・形状を有するものである。平凸レンズの場合には、レンズ表面に入射する光が縮小されて薄膜状光学体層及び再帰反射フィルムに投影される。特に室内にある照明も縮小投影され、かつ室内の他の物よりも照度が大きいので観察者からすると、薄膜状光学体層にはっきりと映り込むと同時に色彩が照明の光源位置に応じて異なるように観察され美的な映像となる。光源が室内に複数個所ある場合に特に美しく観察できる。
【0066】
レンズの形状の種類としては、上述の平凸レンズのほか、平凸レンズ、プリズムレンズ、フレネルレンズなどが挙げられる。プリズムレンズには直角三角プリズムレンズ(直角三角柱形状をなすもの)や、60度プリズムレンズ(正三角柱形状をなすもの)などが含まれる。フレネルレンズは、通常のレンズを同心円状の領域に分割し厚みを減らしたレンズで、のこぎり状の断面をもつものであり、この場合の通常のレンズには、平凸レンズ、平凹レンズなどが含まれる。さらに、同種又は/及び異種の複数のレンズを組み合わせて配置したものであってもよい。
【0067】
透明体をレンズ構造とすることの意義は以下のとおりである。再帰反射フィルムで反射される光は、入射方向に向かうように構成される。この光は、薄膜状光学体層を透過する際に、観察方向によって色彩が変化するものの、光の出射方向自体は基本的に変化しない。ここで、透明体がレンズ構造を有する場合には、通過する光を屈折させることにより光を発散・集束させて、光学構造物の光にさらに複雑な色彩を加えることが可能となる。例えば、透明体が平凸レンズ構造を有する場合は、光が集束されるため、より強い光として観察されるため、より鮮やかな装飾効果を発揮することができる。また、例えば、透明体が平凹レンズ構造を有する場合は、光が発散されるため、より広範囲の者に注意喚起を行うことが可能となる。
【0068】
また、本実施形態の光学構造物は、薄膜状光学体層が浮き上がって見えることで斜め方向や横方向の周囲からでも、薄膜状光学体層やその表面に施された意匠物が視認できるようになっていてもよい。これを実現するための具体的構成としては、特開2021-55466号公報に開示されている広視野標示器に関する技術を利用することができる。なお、当該発明の発明者は、全員が本発明の発明者に含まれている。
【0069】
この広視野標示器は、標示をするための標示面を上側に有するベースと、この標示面に対して気層を挟まずに載置される凸レンズとからなり、この凸レンズがレンズ光軸を中心とした点対称のレンズであって、凸レンズと標示面とが、ゲル材料を介して接着されていることを特徴としている。そこで、本実施形態の光学構造物において、透明体を薄膜状光学体層に対して気層を挟まずに凸レンズ(より詳細にはレンズ光軸を中心とした点対称のレンズ)を載置することにより、かかる薄膜状光学体層が浮き上がって見える光学構造物を実現することができる。その際、気層を挟まずに配置するための構成として、次実施形態で述べるようなシリコーンゲルを用いて密着させる構成を用いることができる。
【0070】
<実施形態2:効果>
本実施形態の発明によれば、光学構造物の透明体をレンズ構造とすることで、光学構造物から発せられる光の色彩にさらなる変化を加えることができる。
<実施形態3>
【0071】
本実施形態は、主に請求項3などに関する。
【0072】
<実施形態3:概要>
本実施形態の発明に係る光学構造物は、実施形態1又は2の光学構造物と基本的に共通するが、透明体がシリコーン材料からなる点に特徴がある。
【0073】
<実施形態3:構成>
本実施形態の光学構造物は、透明体がシリコーン材料からなるものである。以下、シリコーン材料からなる透明体の構成について説明する。その余の構成は、実施形態1で述べたところと同様であるから、説明を省略する。
【0074】
(透明体:シリコーン材料からなるもの)
透明体を構成するシリコーン材料には、シリコーン樹脂、シリコーンゴムなどが含まれる。シリコーン材料は、透明性、耐候性などに優れているため、透明体をシリコーン材料とすることで、光学構造物の光出射機能を高めるとともに、紫外線などによる白濁などの劣化を少なくすることができる。
【0075】
また、シリコーン材料には薄膜状光学体層からの光が透明体から出射されることを妨げない程度に、蓄光粉末が混合されていてもよい。これにより、夜間でも光学構造物を視認することが可能となる。
【0076】
このような蓄光粉末を混合したシリコーン材料の製造方法の一例として、液体のフェニルシリコーンに蓄光粉末を混合させた後、これを沈殿させつつ液体のフェニルシリコーンを固化するものが挙げられる。ここで、フェニルシリコーンは、フェニル基(-C6H5)を付加したシリコーンをいい、特に透明性に優れているため、透明度の高い透明体を得ることができる。その好適な材料として、信越化学工業株式会社製のフェニルシリコーン(製品名X-32-3360AB)からなる液材が挙げられる。
【0077】
透明体を構成するシリコーン材料の具体例として、上に挙げたフェニルシリコーンのほか、メチルシリコーン、有機変成シリコーン又はフロロシリコーンや、これらのうち二以上を混合したものも挙げられる。これらのシリコーン材料も、フェニルシリコーンと同様に、難燃性に優れ、高硬度であるという特徴を備えるものである。
【0078】
シリコーン材料には薄膜状光学体層からの光が透明体から出射されることを妨げない程度に、蓄光粉末が混合されていてもよい。これにより、夜間でも光学構造物を視認することが可能となる。
【0079】
<実施形態3:効果>
本実施形態の発明によれば、光学構造物の透明体がシリコーン材料からなるものとすることで、透明体を透明性、耐候性などに優れたものとすることができ、これにより光学構造物の光出射機能を高めるとともに、紫外線などによる白濁などの劣化を少なくすることができる。
<実施形態4>
【0080】
本実施形態は、主に請求項4などに関する。
【0081】
<実施形態4:概要>
本実施形態の発明に係る光学構造物は、実施形態1~3の光学構造物と基本的に共通するが、透明体と薄膜状光学体層とは、少なくとも一部がシリコーンゲルを用いて密着されている点に特徴がある。
【0082】
<実施形態4:構成>
図8は、本実施形態の光学構造物の形状の一例を示す図であり、このうち(a)は、前出の
図1(b)と同様の断面図で示したものである。また、(b)は(a)の破線円aで囲んだ部分の拡大図である。これらの図に示すように、本実施形態の光学構造物0800は、再帰反射フィルム0801と、薄膜状光学体層0802と、透明体0803とからなるところ、透明体と薄膜状光学体層とは、シリコーンゲル0804を用いて密着されている。その目的は、透明体と薄膜光学体層の間に空気の隙間が生じないようにして、薄膜状光学体層の発光輝度が損なわれないようにすることにある。シリコーンゲルは、粘着性、密着性に優れているため、この目的を達成するための手段として極めて好適である。また、本実施形態では、透明体はシリコーン材料からなるところ、シリコーンゲルが透明体と共通の材料であることで、両者の親和性が高く、透明体の熱膨張や熱収縮にもシリコーンゲルが柔軟に追随し、貼着部分の剥離を回避できるという利点もある。
【0083】
使用するシリコーンゲルとしては、例えば、スミス・アンド・ネフュー社のシリコーンゲルフィルム(製品名:オプサイト・ジェントルロール)や信越化学工業株式会社製のシリコーンゲル(製品名:KE-1052(A/B))が挙げられる。シリコーンゲルの厚みは、光学体層全体の形状等にも依存するが、例えば、光学構造物が前述したような直径3~5センチメートル程度の小さなサイズのもので、透明体の厚みが4.5~15.0ミリメートル程度、薄膜状光学体層の厚みが50~100マイクロメートル程度である場合、シリコーンゲルの厚みの一例は、約0.03~0.80ミリメートルであり、より好適には約0.1~0.2ミリメートルである。
【0084】
シリコーンゲルを配置することには、防水の効果もある、すなわち、透明体と薄膜状光学体層は、それぞれ温度変化によって膨張・収縮することがあるが、それぞれの材料の違いにより熱膨張率が異なるため、膨張・収縮によって透明体と薄膜状光学体層の間に隙間が生じ、そこに水分が浸透するおそれがある。しかし、本実施形態のように、透明体と薄膜状光学体層との間にシリコーンゲルを配したものとすれば、透明体と薄膜状光学体層が熱変化などにより膨張・収縮しても、シリコーンゲルの柔軟性および粘着性により、シリコーンゲルがこれにより生じた隙間に追随する形でその空間を充たすこととなるため、両者が密着した状態を保つことができる。このため、透明体と薄膜状光学体層の隙間に水が浸透して薄膜状光学体層を濡らして劣化させてしまうおそれは生じない。この場合、透明体と薄膜状光学体層の側部端面全体を覆うようにシリコーンゲルを配置することで、透明体と薄膜状光学体層の側部の隙間から水分が侵入しないするようにすることが望ましい。さらに、同様の観点から、シリコーンゲルは、薄膜状光学体層と再帰反射フィルムの側部の隙間からも水分が浸透しないようにするため、両者の側部端面全体も覆うように配置することが望ましい。
図8にも、このようにシリコーンゲルが透明体、薄膜状光学体層、再帰反射フィルムの側部端面全体を覆うように配置されている例が示されている。この場合、シリコーンゲルが外部に露出していると汚損しやすいことから、これを防止するため、例えば
図8(c)に示すように、少なくともシリコーンゲルの表面を覆うスチール製や硬質樹脂製などのカバー0807を配置することが望ましい。
【0085】
さらに、透明体と薄膜状光学体層の間にシリコーンゲルを配置することの効果として、光学構造物が路面標示板などのように人や車両に踏まれるおそれのあるものである場合には、路面標示板に上下方向の圧縮が加えられた場合でも、柔軟性のあるシリコーンゲルがいわばクッションの役割を果たし、圧縮強度を増して光学構造物の損傷を防止することができるという点も挙げられる。
【0086】
<実施形態4:光学構造物の製造方法>
次に、本実施形態の光学構造物の製造方法について説明する。
【0087】
図11は、本実施形態の光学構造物の製造工程の一例を示すフロー図である。このうち、再帰反射フィルム準備ステップS1101及び薄膜状光学体層配置ステップS1102における処理の内容は、実施形態1の光学構造物の製造方法で説明したところと同じであるから、説明を省略する。
【0088】
ステップS1102の次に、シリコーンゲル配置ステップS1103において、薄膜状光学体層の上にシリコーンゲルを配置し、次に、透明体配置ステップS1104において、薄膜状光学体層の上に透明体を配置する。シリコーンゲルとして、例えば前出のスミス・アンド・ネフュー社のシリコーンゲルフィルムを用いる場合の具体的手順は以下のとおりである。
【0089】
図12は、シリコーンゲルフィルムの構成の一例を示す図であり、上述のスミス・アンド・ネフュー社のシリコーンゲルフィルムの例を示す。本図に示すように、このシリコーンゲルフィルムは、5層構造を有する。すなわち、硬めのシリコーンの中間層1204aと、中間層にゲル状態で貼り付けられた粘着性の上層と下層1204bと、最上層と最下層1204cのセパレータである。まず、片面のセパレータを剥がして上層又は下層の一方を露出させたシリコーンゲルフィルムを薄膜状光学体層に空気が入らないようにしっかりと密着させて貼着する。次に、反対側のセパレータを剥がして上層又は下層の他方を露出させたシリコーンゲルフィルムを透明体の底面に空気が入らないようにしっかりと密着させて貼着する。シリコーンゲルは密着性が高いため、接着剤を用いずにしっかりと貼着することができることから、薄膜状光学体層からシリコーンゲルを介して透明体に至る光をほとんど減衰させることがない。
【0090】
<実施形態4:効果>
本実施形態の発明によれば、透明体と薄膜光学体層の間に空気の隙間が生じないようにして、薄膜状光学体層の発光輝度が損なわれないようにすることのできる光学構造物を提供することが可能となる。
<実施形態5>
【0091】
本実施形態は、主に請求項5などに関する。
【0092】
<実施形態5:概要>
本実施形態の発明に係る光学構造物は、実施形態1~4の光学構造物と基本的に共通するが、透明体に意匠物が埋め込まれている点に特徴がある。
【0093】
<実施形態5:構成>
図9に本実施形態の光学構造物の形状の一例を示す。このうち、(a)は全体形状を示す斜視図であり、(b)は(a)のX-X断面図である。同図に示すように、本実施形態の光学構造物0900は、再帰反射フィルム0910と、薄膜状光学体層0920と、透明体0930と、意匠物0950とからなる。以下、意匠物の構成について説明する。その余の構成は、実施形態1で述べたところと同様であるから、説明を省略する。
【0094】
<意匠物>
本発明において「意匠物」とは、文字、図形、記号、模様、色彩、又はこれらの組合せであって人の視覚によって認識できるものをいう。見る者に対し特定の意味を伝えるためのものであってもよいし、単なる装飾であってもよい。
図9に示したものは、意匠物が英文字である例である。また、意匠物が「透明体に埋め込まれている」形態としては、透明体の内部に完全に包含されるものであってもよいし、透明体の底面に接するものであってもよい。底面に接する場合、意匠物は、厚みのない、いわば透明体の底面に描かれたようなものであってもよいし、ある程度厚みのあるものが透明体対面と面一に埋め込まれた状態のものであってもよい。前出の
図9の例は、意匠物が透明体の内部に完全に包含されている例である。このように意匠物が透明体の内部に完全に包含されている場合には、薄膜状光学体層から距離を置いて配置されている意匠物が薄膜状光学体層に反射して見えるため、あたかも上下対称の二つの意匠物が存在しているように見え、装飾効果や注意喚起効果を高めることができる。
図9においても、このように意匠物0905が薄膜状光学体層に反射して見えている状態0906が示されている。
【0095】
また、本実施形態の光学構造物は、実施形態2で述べたのと同様、特開2021-55466号公報に開示されている広視野標示器に関する技術を利用することで、薄膜状光学体層及び意匠物が浮き上がって見えるようにし、斜め方向や横方向の周囲からでもこれらを視認することができるようになっている構成のものとしてもよい。
【0096】
図10は、本実施形態の光学構造物の形状の一例を示す図であって、このように薄膜状光学体層及び意匠物が浮き上がって見える状態を側面から見た状態を示したものである。本図の例は、
図9に示したものと同じ状態で意匠物が透明体に埋め込まれている例であるが、このような構成とすることで、意匠物及びその下面に配置されている薄膜状光学体層全体が浮きかがって見え、側面側からでも、意匠物及び薄膜状光学体を視認することができる。
<実施形態5:光学構造物の製造方法>
次に、本実施形態の光学構造物の製造方法について説明する。
【0097】
図13は、本実施形態の光学構造物の製造工程の一例を示すフロー図である。このうち、再帰反射フィルム準備ステップS1301及び薄膜状光学体層配置ステップS1302における処理の内容は、実施形態1の光学構造物の製造方法で説明したところと同じであるから、説明を省略する。
【0098】
ステップS1302の次に、意匠物配置ステップS1303において、透明体に意匠物を埋め込むことにより意匠物を配置する。その具体的な処理手順として、例えば、透明体がシリコーン樹脂である場合、液状のシリコーンを鋳型に例えば半分程度流し込み、加熱して固化させ、その後固化した表面に意匠物を載置し、液状のシリコーンを鋳型の残りの空間にも流し込んで加熱・固化させる。液状のシリコーンとして、例えば、信越化学工業株式会社製のフェニルシリコーン(製品名X-32-3360AB)からなる液材が用いられる。また、加熱は、例えば、鋳型をホットプレートに載置し、100~140℃で約8~12分間加熱し、さらにその後乾燥機を用いて100~140℃で約1.8~2.2時間加熱することが考えられる。加熱にホットプレートを用いることには、透明体の表面にしわが生じたり内部に気泡が発生したりすることを防いで、透明で表面が平らな透明体を得ることができ、もって光学構造物の発光輝度を阻害しないことが可能となるという利点を有する。
【0099】
次に、透明体配置ステップS1304において、薄膜状光学体層の上にステップS1303で意匠物を埋め込んだ透明体を配置する。
【0100】
<実施形態5:効果>
本実施形態の発明によれば、透明体に意匠物を埋めこむことで、様々な情報を伝達したり、より装飾効果を高めたりすることが可能な光学構造物を提供することが可能となる。
<実施形態6>
【0101】
本実施形態は、主に請求項6などに関する。
【0102】
<実施形態6:概要>
本実施形態の発明に係る光学構造物は、実施形態5の光学構造物と基本的に共通するが、意匠物は少なくとも一部が蓄光体又は/及び蛍光体から構成されている点に特徴がある。
【0103】
<実施形態6:構成>
本実施形態の光学構造物は、意匠物は少なくとも一部が蓄光体又は/及び蛍光体から構成されているものである。以下、このような意匠物の構成について説明する。その余の構成は、実施形態5で述べたところと同様であるから、説明を省略する。
【0104】
(意匠物:蓄光体又は/及び蛍光体から構成されているもの)
意匠物を構成する蓄光体又は/及び蛍光体のうち、蓄光体は、太陽光などの光の照射を受けてその光エネルギーを吸収して発光し、光エネルギーの供給が停止した後も一定時間光を放出することにより発光し続ける部材である。蓄光体の具体的な材料としては、例えば、アルミン酸ストロンチウムを母結晶とし、これにケイ素、リン、カルシウム、セリウム、ユーロピウム、ディスプロシウム等を添加したもの等が用いられる。その際、アルミン酸ストロンチウムとしては、SrAl2O4又はSr4Al14O25が望ましい。一方、蛍光体は、同様に光エネルギーを吸収して発光するが、光エネルギーの供給が停止した後は光を放出しないものである。蛍光体の具体的な材料としては、通例、ユーロピウム、セリウム、イットリウムなどが用いられる。
【0105】
<実施形態6:効果>
本実施形態の発明によれば、透明体に埋め込まれた意匠物を夜間等でも視認可能なものとすることができるため、夜間用においても、様々な情報を伝達したり、より装飾効果を高めたりすることが可能な光学構造物を提供することが可能となる。