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特開2023-77270グラファイトの薄板状構造物の製造方法、薄片化グラファイトの製造方法、及び薄片化グラファイト
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  • 特開-グラファイトの薄板状構造物の製造方法、薄片化グラファイトの製造方法、及び薄片化グラファイト 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077270
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】グラファイトの薄板状構造物の製造方法、薄片化グラファイトの製造方法、及び薄片化グラファイト
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/01 20210101AFI20230529BHJP
   C25B 15/029 20210101ALI20230529BHJP
   C25B 15/023 20210101ALI20230529BHJP
   C25B 11/043 20210101ALI20230529BHJP
   C01B 32/225 20170101ALI20230529BHJP
【FI】
C25B1/01 Z
C25B15/029
C25B15/023
C25B11/043
C01B32/225
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190517
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】西川 泰司
【テーマコード(参考)】
4G146
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AB07
4G146AC17A
4G146AC17B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146BA02
4G146BB06
4G146BB10
4G146CA16
4G146CB32
4G146CB40
4G146DA07
4K011AA02
4K011AA16
4K011DA11
4K021AB25
4K021BA17
4K021BB01
4K021BB03
4K021DA13
4K021DC15
(57)【要約】
【課題】フッ素元素及びホウ素元素の含有率が低く、酸素元素に対する炭素元素の質量比(C/O比)が小さい薄片化グラファイトを得ることが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】グラファイトの薄板状構造物の製造方法は、グラファイトを含む陽極と、陰極と、電解質として過塩素酸及び/又は過塩素酸塩を含む電解質溶液と、を含む電気化学反応系において、陽極と陰極との間に電圧を印加する工程を含む。グラファイトは、熱拡散率が3.5cm/s以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイトを含む陽極と、陰極と、電解質として過塩素酸及び/又は過塩素酸塩を含む電解質溶液と、を含む電気化学反応系において、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加する工程を含み、
前記グラファイトは、熱拡散率が3.5cm/s以上である、グラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項2】
前記グラファイトは、縮重合系高分子化合物の熱処理物である、請求項1に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項3】
前記縮重合系高分子化合物は、芳香族ポリイミドである、請求項2に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項4】
前記陽極は、膨張黒鉛シートの熱処理物である、請求項1に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項5】
前記膨張黒鉛シートは、天然グラファイトを強酸に浸した後、加熱処理して得られる膨張黒鉛のプレス物である、請求項4に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項6】
前記電解質溶液は、前記電解質の濃度が0.005M以上5M以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項7】
前記電圧は、3V以上20V以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のグラファイトの薄板状構造物の製造方法により、グラファイトの薄板状構造物を得る工程と、
該グラファイトの薄板状構造物の層間を剥離して薄片化グラファイトを得る工程と、
を含む、薄片化グラファイトの製造方法。
【請求項9】
硫黄元素の含有率が0.1質量%未満であり、
フッ素元素の含有率が0.1質量%未満であり、
ホウ素元素の含有率が0.1質量%未満であり、
酸素元素に対する炭素元素の質量比が1.0以上3.0以下である、薄片化グラファイト。
【請求項10】
酸素元素に対する炭素元素の質量比が1.5以上2.5以下である、請求項9に記載の薄片化グラファイト。
【請求項11】
XRDスペクトルにおける2θが7°以上12°以下である領域に含まれるピークの最大強度をXとし、2θが23°以上30°以下である領域に含まれるピークの最大強度をYとしたとき、X及びYが次式:1≦X/Yを満たす、請求項9又は10に記載の薄片化グラファイト。
【請求項12】
X及びYが次式:2≦X/Yを満たす、請求項11に記載の薄片化グラファイト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトの薄板状構造物の製造方法、薄片化グラファイトの製造方法、及び薄片化グラファイトに関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、キャリア移動度、熱伝導度、及び透明性が高い。また、グラフェンは、1原子分の厚さを有するsp結合炭素原子のシートであるため、デバイスの大面積化が容易である上に、熱的安定性及び化学的安定性が高い。このような優れた特性から、グラフェンは、エレクトロニクス分野を始めとする先端工業材料への応用が期待されている。
【0003】
一方、グラファイトは、多数のグラフェンが積み重なって構成される積層体であり、入手が容易である。このため、グラファイトの層間を剥離することで、グラファイトよりもグラフェンの積層数が遥かに少ない薄片化グラファイトを製造する方法が提案されてきた。
【0004】
薄片化グラファイトの製造方法としては、例えば、グラファイトを含む陽極と、陰極と、電解質溶液と、を含む電気化学反応系において、陽極と陰極との間に電圧を印加することで、グラファイトの層間に電解質由来のイオンをインターカレートさせてグラファイトの薄板状構造物を得た後、この薄板状構造物の層間を剥離する方法が知られている。このようにして得られる薄片化グラファイトは、酸素を含むグラフェン(酸化グラフェン)により構成され、ヒドロキシ基、カルボキシ基等の官能基が導入されている。このような薄片化グラファイトは、官能基を修飾して高機能化することが可能であるため、高分子複合材料、塗料、インク、薬剤共役体、潤滑剤、触媒等への応用が期待されている。
【0005】
特許文献1には、電解質としてテトラフルオロホウ酸又はヘキサフルオロリン酸を用いて、電解する方法が記載されている。また、特許文献1には、作用極として特定のグラファイトを含む陽極を用い、電解質として硫酸又は硝酸を用いて、電解する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/129427号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1において、電解質としてテトラフルオロホウ酸又はヘキサフルオロリン酸を用いた場合、得られる薄片化グラファイトは、フッ素元素及びホウ素元素の含有率が高いものとなり、先端工業材料への応用が制約される虞があった。また、特許文献1において、作用極として特定のグラファイトを含む陽極を用い、電解質として硫酸又は硝酸を用いた場合、得られる薄片化グラファイトは、酸素元素に対する炭素元素の質量比(C/O比)が大きいものとなり、官能基の導入率が十分ではなかった。
【0008】
本発明は、フッ素元素及びホウ素元素の含有率が低く、酸素元素に対する炭素元素の質量比(C/O比)が小さい薄片化グラファイトを得ることが可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、グラファイトの薄板状構造物の製造方法において、グラファイトを含む陽極と、陰極と、電解質として過塩素酸及び/又は過塩素酸塩を含む電解質溶液と、を含む電気化学反応系において、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加する工程を含み、前記グラファイトは、熱拡散率が3.5cm/s以上である。
【0010】
前記グラファイトは、縮重合系高分子化合物の熱処理物であってもよい。
【0011】
前記縮重合系高分子化合物は、芳香族ポリイミドであってもよい。
【0012】
前記陽極は、膨張黒鉛シートの熱処理物であってもよい。
【0013】
前記膨張黒鉛シートは、天然グラファイトを強酸に浸した後、加熱処理して得られる膨張黒鉛のプレス物であってもよい。
【0014】
前記電解質溶液は、前記電解質の濃度が0.005M以上5M以下であってもよい。
【0015】
前記電圧は、3V以上20V以下であってもよい。
【0016】
本発明の他の一態様は、薄片化グラファイトの製造方法において、前記グラファイトの薄板状構造物の製造方法により、グラファイトの薄板状構造物を得る工程と、該グラファイトの薄板状構造物の層間を剥離して薄片化グラファイトを得る工程と、を含む。
【0017】
本発明の他の一態様は、薄片化グラファイトにおいて、硫黄元素の含有率が0.1質量%未満であり、フッ素元素の含有率が0.1質量%未満であり、ホウ素元素の含有率が0.1質量%未満であり、酸素元素に対する炭素元素の質量比が1.0以上3.0以下である。
【0018】
前記薄片化グラファイトは、酸素元素に対する炭素元素の質量比が1.5以上2.5以下であってもよい。
【0019】
前記薄片化グラファイトは、XRDスペクトルにおける2θが7°以上12°以下である領域に含まれるピークの最大強度をXとし、2θが23°以上30°以下である領域に含まれるピークの最大強度をYとしたとき、X及びYが次式:1≦X/Yを満たしてもよい。
【0020】
前記薄片化グラファイトは、X及びYが次式:2≦X/Yを満たしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、フッ素元素及びホウ素元素の含有率が低く、酸素元素に対する炭素元素の質量比(C/O比)が小さい薄片化グラファイトを得ることが可能な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1の薄片化グラファイトのXRDスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0024】
[グラファイトの薄板状構造物の製造方法]
本実施形態に係るグラファイトの薄板状構造物の製造方法は、グラファイトを含む陽極と、陰極と、電解質として過塩素酸及び/又は過塩素酸塩を含む電解質溶液と、を含む電気化学反応系において、陽極と陰極との間に電圧を印加する工程を含む。この製造方法により得られたグラファイトの薄板状構造物の層間を剥離することで、薄片化グラファイトを得ることができる。
【0025】
本明細書及び特許請求の範囲において、「グラファイトの薄板状構造物」とは、グラファイト(グラフェンの積層体)の層間に層間物質が挿入されて、層間の距離(隣り合うグラフェン間の距離)が拡大している薄板状構造物をいう。また、「薄片化グラファイト」とは、グラファイトよりもグラフェンの積層数が少ないグラフェンの積層体をいう。
【0026】
陽極に含まれるグラファイトの熱拡散率は、3.5cm/s以上であり、5.0cm/s以上であることが好ましく、7.0cm/s以上であることがより好ましく、8.5cm/s以上であることがさらに好ましい。熱拡散率の上限は特に限定されないが、例えば、12cm/s以下であることが好ましい。グラファイトの熱拡散率が3.5cm/s以上であると、薄片化グラファイトの酸素元素に対する炭素元素の質量比(C/O比)が小さくなる傾向にある。
【0027】
熱拡散率が3.5cm/s以上であるグラファイトを含む陽極の一例としては、縮重合系高分子化合物を熱処理して得られるグラファイトを含む陽極が挙げられる。縮重合系高分子化合物としては、例えば、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリパラフェニレンビニレン等が挙げられる。これらの中でも、芳香族ポリイミドが好ましい。
【0028】
縮重合系高分子化合物の熱処理温度は、例えば、2400℃以上3200℃以下であることが好ましい。また、縮重合系高分子化合物の熱処理時間は、例えば、3時間以上72時間以下であることが好ましい。
【0029】
縮重合系高分子化合物を熱処理して得られるグラファイトは、面状のグラファイト結晶が層状に積層された構造を有しており、グラファイトの層間への過塩素酸イオンのインターカレートが特に進行しやすく、また、インターカレートしたときに、グラファイトから小片の剥離等が特に生じにくく、陽極としての全体的な形態を維持しやすい。このため、より効率よく、より高品質のグラファイトの薄板状構造物又は薄片化グラファイトを製造することができる。
【0030】
また、熱拡散率が3.5cm/s以上であるグラファイトを含む陽極の他の例としては、膨張黒鉛シートを熱処理して得られる陽極が挙げられる。膨張黒鉛シートは、例えば、天然グラファイトを強酸に浸した後、膨張炉で加熱処理して膨張黒鉛を得た後、この膨張黒鉛を高圧プレスすることで得ることができる。強酸としては、例えば、濃硫酸、硝酸等が挙げられる。
【0031】
膨張黒鉛シートの熱処理温度は、例えば、900℃以上3200℃以下であることが好ましい。また、膨張黒鉛シートの熱処理時間は、例えば、1時間以上72時間以下であることが好ましい。
【0032】
このような膨張黒鉛シートを熱処理して得られる陽極を使用することによっても、効率よく、高品質のグラファイトの薄板状構造物又は薄片化グラファイトを製造することができる。
【0033】
陽極の形状としては、特に限定されず、例えば、棒状、板状、塊状、シート状、箔状、ロール状等が挙げられる。
【0034】
陰極を構成する材料としては、陽極反応で生じたカチオンに電子を与える機能を有し、かつ、電気化学的に安定な系を構築することが可能であれば、特に限定されない。陰極を構成する材料としては、例えば、白金、ステンレス鋼、銅、亜鉛、鉛等の金属;ガラス状炭素、グラファイト等の炭素質材料;などが挙げられる。
【0035】
陰極の形状としては、特に限定されず、例えば、ワイヤー状、板状、メッシュ(網目)状等が挙げられる。
【0036】
なお、陰極反応でガスが発生する場合には、陰極反応の効率を損ねないため、あるいは電気化学反応系の電気抵抗を無用に増加させないために、陰極の面積を可能な範囲で大きくしてもよい。
【0037】
また、陽極及び/又は陰極で望ましくない反応が起こるのを防ぐため、あるいは陽陰両極の短絡を防ぐために、両極の間に、イオン交換膜、スペーサー等を設置してもよい。
【0038】
さらに、電気化学反応系は、精密な電位制御を実施する場合に、参照電極をさらに含んでいてもよい。参照電極としては、特に限定されないが、例えば、Ag/AgCl電極等が挙げられる。
【0039】
電解質溶液は、過塩素酸及び/又は過塩素酸塩が溶媒に溶解したものである。
【0040】
過塩素酸塩としては、例えば、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸カルシウム等が挙げられる。
【0041】
電解質としては、過塩素酸、過塩素酸ナトリウム、及び過塩素酸アンモニウムが好ましい。
【0042】
溶媒としては、電解質又は電解質水溶液と混和することが可能であり、かつ、グラファイトの薄板状構造物を製造する際に電気化学的に安定であれば、特に限定されない。溶媒としては、例えば、水、低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール等)等のプロトン性極性溶媒;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;などが挙げられ、2種以上を併用してもよい。
【0043】
溶媒は、水を含むことが好ましい。この場合、水を単独で使用してもよいし、水及び水以外のプロトン性極性溶媒を併用してもよいし、水及び非プロトン性極性溶媒を併用してもよい。水を含む溶媒を使用して得た薄片化グラファイトは、水に対する親和性が良好となり、水中の分散性に優れる傾向にある。
【0044】
また、溶媒としてアルコール溶媒を使用すると、得られるグラファイトの薄板状構造物及び薄片化グラファイトは、アルコール溶媒に由来するアルコキシ基及び/又はアルキル基を有するものとなる。アルコール溶媒を使用して得た薄片化グラファイトは、当該アルコール溶媒に対する親和性が良好となり、当該アルコール溶媒中の分散性に優れる傾向にある。
【0045】
電解質溶液中の電解質の濃度は、0.005M以上5M以下であることが好ましく、0.01M以上3M以下であることがより好ましく、0.05M以上2M以下であることがさらに好ましい。電解質溶液中の電解質の濃度が0.005M以上であると、グラファイトの層間に過塩素酸イオンがインターカレートしやすくなるため、グラファイトの薄板状構造物の層間を剥離しやすくなる傾向にある。一方、電解質溶液中の電解質の濃度が5M以下であると、薄片化グラファイトの酸素元素に対する炭素元素の質量比(C/O比)が小さくなる傾向にある。
【0046】
電解質溶液の電導度は、例えば、1mS/cm以上2000mS/cm以下であることが好ましく、5mS/cm以上1000mS/cm以下であることがより好ましい。電解質溶液の電導度が1mS/cm以上であると、グラファイトの層間に過塩素酸イオンがインターカレートしやすくなるため、グラファイトの薄板状構造物の層間を剥離しやすくなる傾向にある。一方、電解質溶液の電導度が2000mS/cm以下であると、薄片化グラファイトの酸素元素に対する炭素元素の質量比(C/O比)が小さくなる傾向にある。
【0047】
電解質溶液の温度は、電解質を溶解する溶媒の種類や電解質溶液中の電解質の濃度によって変わり得るが、実効的には、下限は電解質溶液が凍結しない温度、上限は電解質溶液の沸点である。電解質溶液の温度は、例えば、0℃以上100℃以下であることが好ましく、0℃以上80℃以下であることがより好ましい。
【0048】
本実施形態に係るグラファイトの薄板状構造物の製造方法において、陽極と陰極との間に印加する電圧は、3V以上20V以下であることが好ましい。陽極と陰極との間に印加する電圧が3V以上であると、グラファイトの層間に過塩素酸イオンがインターカレートしやすくなるため、グラファイトの薄板状構造物の層間を剥離しやすくなる傾向にある。一方、陽極と陰極との間に印加する電圧が20V以下であると、薄片化グラファイトの酸素元素に対する炭素元素の質量比(C/O比)が小さくなる傾向にある。
【0049】
ここで、電解質溶液中の電解質の濃度が0.005M以上0.05M以下である場合、陽極と陰極との間に印加する電圧は、3V以上20V以下であることが好ましく、3V以上11V以下であることがより好ましい。また、電解質溶液中の電解質の濃度が0.05M以上0.5M以下である場合、陽極と陰極との間に印加する電圧は、3V以上19V以下であることが好ましく、3V以上10V以下であることがより好ましい。また、電解質溶液中の電解質の濃度が0.5M以上5M以下である場合、陽極と陰極との間に印加する電圧は、3V以上18V以下であることが好ましく、3V以上9V以下であることがより好ましい。
【0050】
本実施形態に係るグラファイトの薄板状構造物の製造方法において、電解質である過塩素酸及び/又は過塩素酸塩は、理論的には電解反応の前後で消耗しない。したがって、グラファイトの薄板状構造物の製造に使用した後の電解質溶液は、再利用することができる。ただし、電解質溶液から取り出したグラファイトの薄板状構造物に付着して減少した電解質は、必要に応じて、電気化学反応系に補充してもよい。
【0051】
また、電解反応の直後のグラファイトの薄板状構造物には、電解質溶液の抱き込み及び付着が生じている。このとき、グラファイトの薄板状構造物から電解質溶液を回収することができる。
【0052】
グラファイトの薄板状構造物から電解質溶液を回収する方法としては、特に限定されず、例えば、グラファイトの薄板状構造物を遠心分離する方法、グラファイトの薄板状構造物を加圧プレス濾過する方法、ベルトプレス上で連続的にグラファイトの薄板状構造物から電解質溶液を分取する方法等が挙げられる。
【0053】
なお、グラファイトの薄板状構造物は、過剰の脱イオン水で、洗液が中性に近くなるまで洗浄することで、電解質溶液を取り除くことができる。
【0054】
グラファイトの薄板状構造物は、必要に応じて乾燥させた後に、後述する薄片化グラファイトの製造方法に適用することができる。グラファイトの薄板状構造物を乾燥させる場合は、例えば、恒温乾燥器又は真空乾燥器を用いて、80℃以下の温度で乾燥させることができる。
【0055】
[薄片化グラファイトの製造方法]
本実施形態に係る薄片化グラファイトの製造方法は、本実施形態に係るグラファイトの薄板状構造物の製造方法により、グラファイトの薄板状構造物を得る工程と、グラファイトの薄板状構造物の層間を剥離して薄片化グラファイトを得る工程と、を含む。
【0056】
グラファイトの薄板状構造物の層間を剥離する方法としては、特に限定されず、例えば、グラファイトの薄板状構造物に超音波を照射する方法、グラファイトの薄板状構造物に機械的剥離力を付加する方法、グラファイトの薄板状構造物を加熱する方法等が挙げられる。具体的には、グラファイトの薄板状構造物を適量の脱イオン水に分散させた後に超音波を照射したり、ミキサーやせん断力を印加できる装置で処理したりすることができる。
【0057】
薄片化グラファイトは、凍結乾燥させてもよいし、濾過又は遠心分離した後、乾燥させてもよい。なお、薄片化グラファイトの乾燥方法は、グラファイトの薄板状構造物の乾燥方法と同様である。
【0058】
[薄片化グラファイト]
本実施形態に係る薄片化グラファイトは、本実施形態に係る薄片化グラファイトの製造方法により得ることができるものである。
【0059】
本実施形態に係る薄片化グラファイトは、硫黄元素の含有率が0.1質量%未満であり、フッ素元素の含有率が0.1質量%未満であり、ホウ素元素の含有率が0.1質量%未満である。
【0060】
本実施形態に係る薄片化グラファイトは、その製造方法に起因して、不純物である重金属元素の含有率を低くすることができる。例えば、本実施形態に係る薄片化グラファイトは、マンガン元素の含有率を0.1質量%未満とすることができる。
【0061】
本実施形態に係る薄片化グラファイトは、酸素元素に対する炭素元素の質量比(C/O比)が1.0以上3.0以下であり、1.5以上2.5以下であることが好ましい。
【0062】
本実施形態の薄片化グラファイトは、XRDスペクトルにおける2θが7°以上12°以下である領域に含まれるピークの最大強度をXとし、2θが23°以上30°以下である領域に含まれるピークの最大強度をYとしたとき、X及びYが次式:1≦X/Yを満たすことが好ましく、次式:2≦X/Yを満たすことがより好ましい。
【0063】
本実施形態に係る薄片化グラファイトの厚みは、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましく、1nm以下であることが特に好ましい。また、本実施形態に係る薄片化グラファイトの平均粒子径は、30nm以上1mm以下であることが好ましく、100nm以上200μm以下であることがより好ましく、200nm以上100μm以下であることがさらに好ましい。
【実施例0064】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0065】
<グラファイトの熱拡散率>
グラファイトを40mm×40mmの形状に切り取ったサンプルを作製し、熱拡散率測定装置(サーモウェーブアナライザTA3、(株)ベテル製)を用いて、20℃の雰囲気下、グラファイトの熱拡散率[cm/s]を測定した。
【0066】
<薄片化グラファイトの元素分析>
走査型蛍光X線分析装置(ZSX PrimusIII+、(株)リガク製)を用いて、薄片化グラファイトの元素分析を実施し、硫黄元素(S)の含有率[質量%]、フッ素元素(F)の含有率[質量%]、ホウ素元素(B)の含有率[質量%]、及び酸素元素に対する炭素元素の質量比(C/O比)を測定した。
【0067】
<電解質溶液の電導度>
ポータブル電磁濃度計(MDM-25A、東亜ディーケーケー(株)製)を用いて、電解質溶液の電導度を測定した。
【0068】
<X線回折(XRD)>
X線回折装置(X’Pert Pro、Malvern Panalytical製)を用いて、CuKα(λ=1.541Å)を放射し、2θレンジを5°から75°までとして、薄片化グラファイトのXRDスペクトルを測定した。次に、XRDスペクトルにおける2θが7°以上12°以下である領域に含まれるピークの最大強度(X)及び2θが23°以上30°以下である領域に含まれるピークの最大強度(Y)を求め、X/Y比を算出した。
【0069】
(グラファイトシートA)
グラファイトシートAとして、厚み62μmの芳香族ポリイミドフィルムを2900℃以上の温度で熱処理して得られる、厚み32μm、熱拡散率9cm/sのグラファイトシート((株)カネカ製)を用いた。
【0070】
(グラファイトシートB)
グラファイトシートBとして、膨張黒鉛シートPF-HP(東洋炭素(株)製)を2400℃で熱処理して得られる、厚み200μm、熱拡散率4cm/sのグラファイトシートを用いた。
【0071】
(実施例1)
PVC製の反応器に、電解質溶液としての1M過塩素酸水溶液を100mL加えた後、陽極としてのグラファイトシートAを、表面積のうち6cm×25cmが電解質溶液中に浸漬するよう固定するとともに、陰極としての白金線電極をセットした。次に、陽極及び陰極を直流電源に接続して5Vの電圧を印加し、電流が減少して一定になるまで室温下で電解し、グラファイトの薄板状構造物を得た。グラファイトの薄板状構造物を電解質溶液から引き揚げて取り出した後、洗液が中性になるまで脱イオン水で洗浄し、未乾燥状態の黒褐色のグラファイトの薄板状構造物を得た。
【0072】
グラファイトの薄板状構造物に少量の脱イオン水を加え、15分間超音波を照射した後、凍結乾燥させることで、薄片化グラファイトを得た。薄片化グラファイトは、硫黄元素(S)、フッ素元素(F)、及びホウ素元素(B)の含有率がいずれも0.1質量%未満であり、C/O比が1.3であった。また、薄片化グラファイトは、X/Y比が3.2であった(図1参照)。
【0073】
(実施例2)
電解質溶液として0.1M過塩素酸水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄片化グラファイトを得た。薄片化グラファイトは、硫黄元素(S)、フッ素元素(F)、及びホウ素元素(B)の含有率がいずれも0.1質量%未満であり、C/O比が1.6であった。また、薄片化グラファイトは、X/Y比が1.9であった。
【0074】
(実施例3)
電解質として過塩素酸アンモニウムを用いた以外は、実施例1と同様にして、薄片化グラファイトを得た。薄片化グラファイトは、硫黄元素(S)、フッ素元素(F)、及びホウ素元素(B)の含有率がいずれも0.1質量%未満であり、C/O比が1.4であった。また、薄片化グラファイトは、X/Y比が2.5であった。
【0075】
(実施例4)
電解質として過塩素酸アンモニウムを用いた以外は、実施例2と同様にして、薄片化グラファイトを得た。薄片化グラファイトは、硫黄元素(S)、フッ素元素(F)、及びホウ素元素(B)の含有率がいずれも0.1質量%未満であり、C/O比が1.7であった。また、薄片化グラファイトは、X/Y比が1.6であった。
【0076】
(実施例5)
電解質として過塩素酸ナトリウムを用いた以外は、実施例1と同様にして、薄片化グラファイトを得た。薄片化グラファイトは、硫黄元素(S)、フッ素元素(F)、及びホウ素元素(B)の含有率がいずれも0.1質量%未満であり、C/O比が1.5であった。また、薄片化グラファイトは、X/Y比が2.2であった。
【0077】
(実施例6)
電解質として過塩素酸ナトリウムを用いた以外は、実施例2と同様にして、薄片化グラファイトを得た。薄片化グラファイトは、硫黄元素(S)、フッ素元素(F)、及びホウ素元素(B)の含有率がいずれも0.1質量%未満であり、C/O比が1.8であった。また、薄片化グラファイトは、X/Y比が1.3であった。
【0078】
(実施例7)
陽極としてグラファイトシートBを用いた以外は、実施例1と同様にして、薄片化グラファイトを得た。薄片化グラファイトは、硫黄元素(S)、フッ素元素(F)、及びホウ素元素(B)の含有率がいずれも0.1質量%未満であり、C/O比が2.7であった。また、薄片化グラファイトは、X/Y比が3.6であった。
【0079】
(実施例8)
陽極としてグラファイトシートBを用いた以外は、実施例2と同様にして、薄片化グラファイトを得た。薄片化グラファイトは、硫黄元素(S)、フッ素元素(F)、及びホウ素元素(B)の含有率がいずれも0.1質量%未満であり、C/O比が3.0であった。また、薄片化グラファイトは、X/Y比が3.3であった。
【0080】
(比較例1)
電解質溶液として9.2M硫酸水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄片化グラファイトを得た。薄片化グラファイトは、硫黄元素(S)の含有率が0.1~2質量%、フッ素元素(F)及びホウ素元素(B)の含有率がいずれも0.1質量%未満であり、C/O比が10よりも大きかった。また、薄片化グラファイトは、X/Y比が0.7未満であった。
【0081】
(比較例2)
電解質としてホウフッ化水素酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、薄片化グラファイトを得た。薄片化グラファイトは、硫黄元素(S)の含有率が0.1質量%未満、フッ素元素(F)の含有率が1~3質量%、ホウ素元素(B)の含有率が0.1~1質量%であり、C/O比が1.1であった。また、薄片化グラファイトは、X/Y比が3.0であった。
【0082】
表1に、薄片化グラファイトの製造条件及び特性を示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1から、実施例1~8の薄片化グラファイトは、硫黄元素(S)、フッ素元素(F)、及びホウ素元素(B)の含有率が低く、C/O比が小さいことがわかる。これに対して、比較例1の薄片化グラファイトは、製造時に、電解質溶液として9.2M硫酸水溶液が用いられているため、硫黄元素(S)の含有率が高く、C/O比が大きい。また、比較例2の薄片化グラファイトは、製造時に、電解質としてホウフッ化水素酸が用いられているため、フッ素元素(F)及びホウ素元素(B)の含有率が高い。
図1