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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077273
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/08 20060101AFI20230529BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
B60C19/08
B60C9/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190523
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉江 亮
(72)【発明者】
【氏名】畑 寛
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA32
3D131AA39
3D131AA41
3D131AA42
3D131AA44
3D131BA05
3D131BA08
3D131BA09
3D131BA18
3D131BB01
3D131BC02
3D131BC31
3D131BC45
3D131CB11
3D131DA43
3D131DA65
3D131GA14
3D131HA42
(57)【要約】
【課題】走行後のタイヤ電気抵抗を維持することのできるタイヤを提供すること。
【解決手段】一対のビード部10と、一対のビード部10間に架け渡される少なくとも1層のカーカス層13と、カーカス層13のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層14と、タイヤ内表面25を構成するタイヤ内表面ゴム層20とを備える空気入りタイヤ1であって、少なくともビード部10からベルト層14まで連続して延在し、タイヤ内表面ゴム層20に配置される線状導電部50を備え、線状導電部50は、少なくとも一部がタイヤ内腔側に露出しており、且つ、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部と、前記一対のビード部間に架け渡される少なくとも1層のカーカス層と、前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、タイヤ内表面を構成するタイヤ内表面ゴム層とを備えるタイヤであって、
少なくとも前記ビード部から前記ベルト層まで連続して延在し、前記タイヤ内表面ゴム層に配置される線状導電部を備え、
前記線状導電部は、少なくとも一部がタイヤ内腔側に露出しており、且つ、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満であることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記ベルト層は、タイヤ幅方向に延びる1枚以上のベルトプライを有しており、
タイヤ幅方向における幅が最も広い前記ベルトプライのタイヤ幅方向における両側の端部から前記タイヤ内表面に向けてそれぞれ垂線を引いた際における前記垂線と前記タイヤ内表面との交点間のペリフェリ長さをLbpとし、前記線状導電部における前記ベルト層のタイヤ径方向内側に位置する部分のペリフェリ方向における長さをLaとする場合に、
前記線状導電部は、0.01≦La/Lbp≦1を満たす請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記ビード部には、リムフランジに当接するビード部ゴムが配置され、
前記ビード部ゴムは、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満であり、
前記線状導電部は、前記ビード部ゴムのペリフェリ方向における表面長さLbgと、前記線状導電部における前記ビード部ゴムと重なる部分の長さLbcとの関係が、0.01≦Lbc/Lbg≦1.00を満たす請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記線状導電部は、前記タイヤ内表面側から前記ビード部のビードトゥを超えて少なくともビードベースまで延在する請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記タイヤ内表面側からの前記タイヤ内表面ゴム層への前記線状導電部の埋没量をfとし、前記タイヤ内表面ゴム層の厚さをtとする場合に、
前記線状導電部は、前記タイヤ内表面ゴム層への埋没量fが最も大きくなる領域での埋没量fが、f/t<0.5を満たす請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記線状導電部は、ペリフェリ方向における前記線状導電部の長さL1と、前記線状導電部の総長L2との関係が、1<L2/L1<5を満たす請求項1~5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記線状導電部は、
前記線状導電部における前記ベルト層のタイヤ径方向内側の位置と前記ビード部との間に位置する部分のペリフェリ方向における距離Lcと、前記線状導電部における前記ベルト層のタイヤ径方向内側の位置と前記ビード部との間に位置する部分の実際の長さLrcとの関係が、1.0<Lrc/Lc<3.0を満たし、
前記線状導電部における前記ベルト層のタイヤ径方向内側に位置する部分のペリフェリ方向における距離Laと、前記線状導電部における前記ベルト層のタイヤ径方向内側に位置する部分の長さLraとの関係が、Lrc/Lc<Lra/La<8.0を満たし、
前記線状導電部における前記ビード部に位置する部分のペリフェリ方向における距離Lbと、前記線状導電部における前記ビード部に位置する部分の長さLrbとの関係が、Lrc/Lc<Lrb/Lb<8.0を満たす請求項1~6のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記線状導電部は、複数が配置され、
複数の前記線状導電部は、互いに重なることなく配置される請求項1~7のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記線状導電部は、1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を持つ導電線状体を1本以上含む複数本の線状体を撚り合わせて成る請求項1~8のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記線状導電部は、前記導電線状体と1×10^8[Ω・cm]以上の体積抵抗率を持つ非導電線状体とを撚り合わせて成る請求項9に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記導電線状体が、金属繊維であり、前記非導電線状体が、有機繊維である請求項10に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記導電線状体が、複数本の炭素繊維を撚り合わせて成る請求項9または10に記載のタイヤ。
【請求項13】
前記導電線状体が、炭素繊維から成る単線のコードである請求項9または10に記載のタイヤ。
【請求項14】
前記線状導電部の総繊度が、20[dtex]以上1000[dtex]以下である請求項1~13のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項15】
前記線状導電部の伸び率が、1.0[%]以上70.0[%]以下である請求項14に記載のタイヤ。
【請求項16】
前記線状導電部のタイヤ内腔側に設けられ、前記線状導電部の一部を覆うカバーゴム層をさらに備える請求項1~15のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題などから低燃費タイヤの要求が高まっている。タイヤを低燃費化する手法として、タイヤのトレッド部やサイド部に用いられているゴムにシリカを配合することで、タイヤの転がり抵抗を抑えるという手法が用いられている。しかしながら、シリカは絶縁特性が高いため、トレッドゴムのシリカ含有量が増加すると、トレッドゴムの電気抵抗値が増加して、タイヤの帯電抑制性能が低下する。タイヤの帯電抑制性能が低下すると、車両の走行時に発生する静電気が蓄積し易くなるため、ラジオノイズ等の電波障害を引き起こし易くなる。
【0003】
このため、従来の空気入りタイヤの中には、帯電抑制性能を向上させて車両走行時に車両に発生する静電気を路面に放出し易くするために、電気抵抗値が低い導電部材を備えているものがある。例えば、特許文献1では、カーカスプライの少なくとも一方の面に、電気抵抗値が低い導電性糸を配置することにより、タイヤの電気抵抗を減少させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-43122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、導電性糸のような導電性繊維をカーカスプライの表面に沿わせて配置する場合、タイヤの新品時の電気抵抗は低くなるものの、当該タイヤを装着した車両の走行時におけるタイヤの変形により、導電性繊維がカーカスプライに擦れ易くなる。この場合、導電性繊維がカーカスプライに対して擦れが繰り返されることにより断線してしまい、導電性繊維によって電気を流すことができなくなる虞がある。導電性繊維が断線することによって導電性繊維で電気を流すことができなくなった場合、タイヤ電気抵抗が上昇し易くなり、タイヤの帯電抑制性能が低下してしまうため、走行後のタイヤ電気抵抗の維持の観点で改良の余地があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、走行後のタイヤ電気抵抗を維持することのできるタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るタイヤは、一対のビード部と、前記一対のビード部間に架け渡される少なくとも1層のカーカス層と、前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、タイヤ内表面を構成するタイヤ内表面ゴム層とを備えるタイヤであって、少なくとも前記ビード部から前記ベルト層まで連続して延在し、前記タイヤ内表面ゴム層に配置される線状導電部を備え、前記線状導電部は、少なくとも一部がタイヤ内腔側に露出しており、且つ、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満であることを特徴とする。
【0008】
また、上記タイヤにおいて、前記ベルト層は、タイヤ幅方向に延びる1枚以上のベルトプライを有しており、タイヤ幅方向における幅が最も広い前記ベルトプライのタイヤ幅方向における両側の端部から前記タイヤ内表面に向けてそれぞれ垂線を引いた際における前記垂線と前記タイヤ内表面との交点間のペリフェリ長さをLbpとし、前記線状導電部における前記ベルト層のタイヤ径方向内側に位置する部分のペリフェリ方向における長さをLaとする場合に、前記線状導電部は、0.01≦La/Lbp≦1を満たすことが好ましい。
【0009】
また、上記タイヤにおいて、前記ビード部には、リムフランジに当接するビード部ゴムが配置され、前記ビード部ゴムは、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満であり、前記線状導電部は、前記ビード部ゴムのペリフェリ方向における表面長さLbgと、前記線状導電部における前記ビード部ゴムと重なる部分の長さLbcとの関係が、0.01≦Lbc/Lbg≦1.00を満たすことが好ましい。
【0010】
また、上記タイヤにおいて、前記線状導電部は、前記タイヤ内表面側から前記ビード部のビードトゥを超えて少なくともビードベースまで延在することが好ましい。
【0011】
また、上記タイヤにおいて、前記タイヤ内表面側からの前記タイヤ内表面ゴム層への前記線状導電部の埋没量をfとし、前記タイヤ内表面ゴム層の厚さをtとする場合に、前記線状導電部は、前記タイヤ内表面ゴム層への埋没量fが最も大きくなる領域での埋没量fが、f/t<0.5を満たすことが好ましい。
【0012】
また、上記タイヤにおいて、前記線状導電部は、ペリフェリ方向における前記線状導電部の長さL1と、前記線状導電部の総長L2との関係が、1<L2/L1<5を満たすことが好ましい。
【0013】
また、上記タイヤにおいて、前記線状導電部は、前記線状導電部における前記ベルト層のタイヤ径方向内側の位置と前記ビード部との間に位置する部分のペリフェリ方向における距離Lcと、前記線状導電部における前記ベルト層のタイヤ径方向内側の位置と前記ビード部との間に位置する部分の実際の長さLrcとの関係が、1.0<Lrc/Lc<3.0を満たし、前記線状導電部における前記ベルト層のタイヤ径方向内側に位置する部分のペリフェリ方向における距離Laと、前記線状導電部における前記ベルト層のタイヤ径方向内側に位置する部分の長さLraとの関係が、Lrc/Lc<Lra/La<8.0を満たし、前記線状導電部における前記ビード部に位置する部分のペリフェリ方向における距離Lbと、前記線状導電部における前記ビード部に位置する部分の長さLrbとの関係が、Lrc/Lc<Lrb/Lb<8.0を満たすことが好ましい。
【0014】
また、上記タイヤにおいて、前記線状導電部は、複数が配置され、複数の前記線状導電部は、互いに重なることなく配置されることが好ましい。
【0015】
また、上記タイヤにおいて、前記線状導電部は、1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を持つ導電線状体を1本以上含む複数本の線状体を撚り合わせて成ることが好ましい。
【0016】
また、上記タイヤにおいて、前記線状導電部は、前記導電線状体と1×10^8[Ω・cm]以上の体積抵抗率を持つ非導電線状体とを撚り合わせて成ることが好ましい。
【0017】
また、上記タイヤにおいて、前記導電線状体が、金属繊維であり、前記非導電線状体が、有機繊維であることが好ましい。
【0018】
また、上記タイヤにおいて、前記導電線状体が、複数本の炭素繊維を撚り合わせて成ることが好ましい。
【0019】
また、上記タイヤにおいて、前記導電線状体が、炭素繊維から成る単線のコードであることが好ましい。
【0020】
また、上記タイヤにおいて、前記線状導電部の総繊度が、20[dtex]以上1000[dtex]以下であることが好ましい。
【0021】
また、上記タイヤにおいて、前記線状導電部の伸び率が、1.0[%]以上70.0[%]以下であることが好ましい。
【0022】
また、上記タイヤにおいて、前記線状導電部のタイヤ内腔側に設けられ、前記線状導電部の一部を覆うカバーゴム層をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るタイヤは、走行後のタイヤ電気抵抗を維持することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、実施形態に係る空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。
図2図2は、図1のタイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面から一方側の領域の詳細図である。
図3図3は、ベルト層に対する線状導電部のラップ幅についての説明図である。
図4図4は、線状導電部におけるベルト層及びビード部の位置に配置される部分の長さについての説明図である。
図5図5は、図2のA部詳細図である。
図6図6は、図5のB-B断面方向におけるタイヤ内表面ゴム層と線状導電部との詳細図である。
図7図7は、空気入りタイヤをタイヤ回転軸の方向にみた場合における線状導電部の配置の形態を示す模式図である。
図8図8は、線状導電部単体の説明図である。
図9図9は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、線状導電部がビード部ゴムのタイヤ幅方向外側に位置する場合の説明図である。
図10図10は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、線状導電部がビードトゥを超えてビードベースまで延在する場合の説明図である。
図11図11は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、線状導電部がビードトゥを超えてビードコアのタイヤ幅方向外側まで延在する場合の説明図である。
図12図12は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、線状導電部の所定の位置における一部がタイヤ内表面ゴム層に埋没している状態を示す説明図である。
図13図13は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、線状導電部の所定の位置における全部がタイヤ内表面ゴム層に埋没している状態を示す説明図である。
図14図14は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、線状導電部の実際の長さがペリフェリ方向の長さよりも長い状態を示す説明図である。
図15図15は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、空気入りタイヤにおける位置ごとに線状導電部の実際の長さを長くする割合を異ならせる場合の説明図である。
図16図16は、線状導電部の配置形態の一例を示す説明図である。
図17図17は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、カバーゴム層が配置される状態を示す説明図である。
図18図18は、図17のC-C矢視図である。
図19図19は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、線状導電部がタイヤ赤道面をタイヤ幅方向に跨いで配置される状態を示す説明図である。
図20図20は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、線状導電部がタイヤ赤道面をタイヤ幅方向に跨いで配置される状態を示す説明図である。
図21図21は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、線状導電部がタイヤ幅方向における両側に亘って配置される状態を示す説明図である。
図22図22は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、線状導電部がタイヤ幅方向における両側に配置される状態を示す説明図である。
図23図23は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、線状導電部がタイヤ内表面から離れて配置される部分を有する状態を示す説明図である。
図24図24は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、アーストレッドが配置される状態を示す説明図である。
図25A図25Aは、空気入りタイヤの性能評価試験の結果を示す図表である。
図25B図25Bは、空気入りタイヤの性能評価試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明に係るタイヤの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0026】
[実施形態]
[空気入りタイヤ]
以下の説明では、本発明に係るタイヤの一例として、空気入りタイヤ1を用いて説明する。タイヤの一例である空気入りタイヤ1は、空気、窒素等の不活性ガス及びその他の気体を充填することができる。
【0027】
また、以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸であるタイヤ回転軸(図示省略)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、タイヤ回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面であり、タイヤ赤道面CLは、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向における中心位置であるタイヤ幅方向中心線と、タイヤ幅方向における位置が一致する。タイヤ幅は、タイヤ幅方向において最も外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。また、以下の説明では、タイヤ子午断面とは、タイヤ回転軸を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。
【0028】
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤ1を示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、タイヤ径方向の片側領域を示している。また、同図は、空気入りタイヤの一例として、乗用車用ラジアルタイヤを示している。
【0029】
実施形態に係る空気入りタイヤ1は、タイヤ回転軸を中心とする環状構造を有し、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3、3と、一対のビード部10、10と、カーカス層13と、ベルト層14と、タイヤ内表面ゴム層20とを備える(図1参照)。このうち、一対のサイドウォール部3、3と、一対のビード部10、10とは、それぞれタイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側に1つずつが配置されている。
【0030】
一対のビード部10、10は、一対のサイドウォール部3、3のタイヤ径方向内側に位置しており、それぞれビードコア11と、ビードフィラー12と、ビード部ゴム30とを有している。即ち、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側には、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、一対のビード部ゴム30、30とが配置されている。さらに、ビード部ゴム30は、リムクッションゴム31と、チェーファ32とを有している。このため、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側には、一対のリムクッションゴム31、31と、一対のチェーファ32、32とが配置されている。
【0031】
一対のビードコア11、11は、複数のビードワイヤを束ねて成る環状部材であり、一対のビード部10、10のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外側にそれぞれ配置されてビード部10を補強する。
【0032】
カーカス層13は、1枚のカーカスプライから成る単層構造、或いは複数のカーカスプライを積層して成る多層構造を有し、タイヤ幅方向における両側に位置するビード部10、10間に、トロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13のカーカスプライは、スチール、或いはアラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなどの有機繊維材から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成されている。このカーカス層13のカーカスプライは、タイヤ周方向に対するカーカスコードの延在方向の傾斜角として定義されるカーカス角度が、絶対値で80[deg]以上95[deg]以下の範囲内になっている。
【0033】
本実施形態では、カーカス層13が、単層構造を有し、タイヤ幅方向両側のビードコア11、11間に連続して架け渡されている。また、カーカス層13の両端部が、ビードコア11及びビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止されている。つまり、カーカス層13は、タイヤ子午線方向の断面視における両端部付近が、ビードコア11及びビードフィラー12のタイヤ幅方向内側からタイヤ径方向内側を通り、タイヤ幅方向外側に巻き返されている。
【0034】
また、カーカス層13のカーカスプライは、カーカスコードのコートゴムの60[℃]のtanδ値が、0.20以下であることが好ましく、また、カーカスコードのコートゴムの体積抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]以上であることが好ましい。これらにより、タイヤの転がり抵抗が低下する。かかる体積抵抗率を有するコートゴムは、例えば、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用することにより生成される。さらに、コートゴムは、シリカを使用せずに構成されても良いし、シリカを含有させて補強されても良い。
【0035】
なお、60[℃]のtanδ値は、(株)東洋精機製作所製、粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪10%、振幅±0.5%、周波数20Hzの条件で測定される。
【0036】
また、体積抵抗率(体積固有抵抗)は、JIS K6271規定の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-体積抵抗率及び表面抵抗率の求め方」に基づいて測定される。一般に、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満、もしくは表面抵抗率が1×10^8[Ω/cm]未満の範囲にあれば、部材が静電気の帯電を抑制可能な導電性を有するといえる。
【0037】
一対のビード部10、10が有する一対のビード部ゴム30、30は、タイヤ幅方向両側のビードコア11、11及びカーカス層13の巻き返し部のタイヤ径方向内側にそれぞれ配置されている。ビード部ゴム30は、空気入りタイヤ1をリムに装着する際にリムが有するリムフランジRに当接する部分になっており、ビード部10における、リムフランジRに対する接触面を構成する。ビード部ゴム30は、体積抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]未満になっており、ビード部ゴム30の体積抵抗率は、1×10^7[Ω・cm]以下であることが好ましい。
【0038】
ベルト層14は、タイヤ幅方向に延びる1枚以上のベルトプライを有しており、本実施形態では、複数のベルトプライ141~143が積層されている。即ち、本実施形態では、ベルト層14は、一対の交差ベルト141、142と、ベルトカバー143とをタイヤ径方向に積層することにより構成され、カーカス層13のタイヤ径方向外側に配置されてカーカス層13の外周に掛け廻されている。一対の交差ベルト141、142は、スチール或いは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、タイヤ周方向に対するベルトコードの延在方向の傾斜角であるベルト角度が、絶対値で20[deg]以上65[deg]以下の範囲内になっている。また、一対の交差ベルト141、142は、ベルト角度が相互に異符号となり、ベルトコードの延在方向を相互に交差させて積層される、いわゆるクロスプライ構造になっている。即ち、一対の交差ベルト141、142は、タイヤ周方向に対するタイヤ幅方向へのベルトコードの傾斜方向が、互いに反対方向になっている。ベルトカバー143は、コートゴムで被覆されたスチール或いは有機繊維材から成る複数のコードを圧延加工して構成され、ベルト角度が絶対値で0[deg]以上10[deg]以下の範囲内になっている。また、ベルトカバー143は、交差ベルト141、142のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
【0039】
トレッド部2は、ゴム組成物であるトレッドゴム15を有して構成され、カーカス層13及びベルト層14のタイヤ径方向外側に配置されていると共に、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出している。このため、トレッド部2は、外周表面が空気入りタイヤ1の輪郭の一部を構成しており、トレッド部2には、タイヤ周方向に延びる周方向主溝6やラグ溝(図示省略)等の溝が複数形成されている。また、トレッド部2を構成するトレッドゴム15は、キャップトレッド151と、アンダートレッド152とを有している。
【0040】
キャップトレッド151は、トレッド部2のタイヤ径方向における最も外側に位置してタイヤ接地面を構成するゴム部材であり、単層構造を有しても良いし(図1参照)、多層構造を有しても良い(図示省略)。キャップトレッド151の60[℃]のtanδ値は、0.25以下であることが好ましい。また、キャップトレッド151の体積抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、1×10^10[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましく、1×10^12[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましい。これらにより、空気入りタイヤ1の転がり抵抗が低下する。かかる体積抵抗率をもつキャップトレッド151は、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用し、また、シリカ含有量を増加させて補強することにより生成される。
【0041】
また、アンダートレッド152は、キャップトレッド151のタイヤ径方向内側に積層される部材である。アンダートレッド152の体積抵抗率は、キャップトレッド151の体積抵抗率よりも低いことが好ましい。
【0042】
一対のサイドウォール部3、3は、それぞれサイドウォールゴム16を有して構成され、一対のサイドウォール部3、3が有する一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されている。サイドウォールゴム16の60[℃]のtanδ値は、0.20以下であることが好ましい。また、サイドウォールゴム16の体積抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、1×10^10[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましく、1×10^12[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましい。これらにより、空気入りタイヤ1の転がり抵抗が低下する。かかる体積抵抗率をもつサイドウォールゴム16は、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用し、また、シリカ含有量を増加させて補強することにより生成される。
【0043】
なお、キャップトレッド151の体積抵抗率の上限値、アンダートレッド152の体積抵抗率の下限値、サイドウォールゴム16の体積抵抗率の上限値及びリムクッションゴム17の体積抵抗率の下限値は、特に限定がないが、これらがゴム部材であることから物理的な制約を受ける。
【0044】
タイヤ内表面ゴム層20は、空気入りタイヤ1の内側の表面であるタイヤ内表面25を構成しており、空気入りタイヤ1の内側の空間であるタイヤ内腔に面している。このように、タイヤ内表面25を構成するタイヤ内表面ゴム層20は、カーカス層13に対してタイヤ内腔側に配置され、カーカス層13をタイヤ内腔側から覆っている。
【0045】
[帯電抑制構造]
図2は、図1のタイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLから一方側の領域の詳細図である。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、車両走行時にて車両に発生する静電気を路面に放出するために、帯電抑制構造が採用されており、帯電抑制構造として、線状導電部50が用いられる。線状導電部50は、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満の線状の部材になっており、少なくともビード部10からベルト層14まで連続して延在し、タイヤ内表面ゴム層20に配置されている。タイヤ内表面ゴム層20に配置される線状導電部50は、タイヤ内表面ゴム層20におけるタイヤ内表面25に配置されており、タイヤ内腔側に露出して配置されている。即ち、線状導電部50は、ビード部10のタイヤ幅方向内側の位置から、ベルト層14のタイヤ径方向内側の位置まで連続して、タイヤ内表面ゴム層20におけるタイヤ内表面25に配置されている。本実施形態では、線状導電部50は、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側に配置されるビード部10のうち、一方のビード部10のタイヤ幅方向内側の位置から、ベルト層14のタイヤ径方向内側の位置まで連続して配置されている。
【0046】
なお、本実施形態では、ビード部10とは、リム径の測定点からタイヤ断面高さSHの1/3までの領域をいう。また、タイヤ断面高さSHとは、タイヤ外径とリム径との差の1/2をいい、空気入りタイヤ1を規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。
【0047】
ここで、規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、或いはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、或いはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、或いはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
【0048】
線状導電部50は、ベルト層14のタイヤ径方向内側の位置では、タイヤ内表面ゴム層20のタイヤ径方向内側でタイヤ内表面25に沿って配置されており、線状導電部50におけるタイヤ方向外側の端部は、ベルト層14のタイヤ径方向内側の部分に位置している。これにより、線状導電部50は、ベルト層14のタイヤ径方向内側の位置では、ベルト層14に対してタイヤ径方向に重なって配置されている。
【0049】
また、線状導電部50は、サイドウォール部3やビード部10の位置では、タイヤ内表面ゴム層20またはビード部ゴム30のタイヤ幅方向内側でタイヤ内表面25に沿って配置されている。このように配置される線状導電部50におけるタイヤ方向内側の端部は、ビード部10におけるタイヤ幅方向内側に位置している。また、線状導電部50におけるビード部10に位置する部分は、ビード部ゴム30とタイヤ幅方向に重なって配置されており、ビード部ゴム30に接触している。これにより、リム嵌合面からビード部ゴム30を介して線状導電部50に至る導電経路が確保され、ビード部10の位置からベルト層14の位置までの導電経路が確保される。
【0050】
これらのように配置される線状導電部50は、ベルト層14に対してタイヤ径方向に重なる位置では、タイヤ幅方向に近い方向に延在し、サイドウォール部3やビード部10の位置ではタイヤ径方向に近い方向に延在している。
【0051】
図3は、ベルト層14に対する線状導電部50のラップ幅Laについての説明図である。線状導電部50は、ベルト層14のペリフェリ方向における幅Lbpと、線状導電部50におけるベルト層14とタイヤ径方向に重なる部分のペリフェリ方向の幅、即ち、ベルト層14に対する線状導電部50ラップ幅Laとの関係が、0.01≦La/Lbp≦1を満たしている。この場合における線状導電部50ラップ幅Laは、線状導電部50におけるベルト層14のタイヤ径方向内側に位置する部分のペリフェリ方向における距離Laになっている。なお、本実施形態においてペリフェリ方向とは、タイヤ周方向における位置が同じ位置における、空気入りタイヤ1の表面に沿った方向をいう。
【0052】
また、この場合におけるベルト層14のペリフェリ方向における幅Lbpは、タイヤ幅方向における幅が最も広いベルトプライのタイヤ幅方向における両側の端部144からタイヤ内表面25に向けてそれぞれ垂線Qを引いた際における垂線Qとタイヤ内表面25との交点P間のペリフェリ長さになっている。また、ベルト層14に対する線状導電部50のラップ幅Laは、線状導電部50におけるベルト層14のタイヤ径方向内側に位置する部分のペリフェリ方向における長さになっており、具体的には、線状導電部50における、交点P間に位置する部分のペリフェリ方向における長さになっている。
【0053】
図4は、線状導電部50におけるベルト層14及びビード部10の位置に配置される部分の長さについての説明図である。図4は、空気入りタイヤ1のペリフェリ方向を図の横方向にして展開した展開図になっている。ベルト層14は、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側にかけて、タイヤ赤道面CLを跨いで配置されているため、ベルト層14のペリフェリ方向における幅Lbpは、図4に示すように、タイヤ赤道面CLを跨ぐ幅になっている。線状導電部50は、ベルト層14からビード部10にかけて連続して延在しており、ベルト層14に対する線状導電部50のラップ幅Laは、図4に示すように、線状導電部50における、ベルト層14のペリフェリ方向における幅Lbpの範囲内に位置する部分の長さになっている。
【0054】
図5は、図2のA部詳細図である。タイヤ内表面ゴム層20は、タイヤ内表面25を構成するインナーライナ21と、インナーライナ21に対してカーカス層13が位置する側に配置されるタイゴム22とが積層して構成されている。このうち、インナーライナ21は、空気透過防止層になっており、カーカス層13を覆って配置されることにより、カーカス層13の露出による酸化を抑制し、また、タイヤに充填された空気の洩れを防止する。また、インナーライナ21は、例えば、ブチルゴムを主成分とするゴム組成物、熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物などから構成される。特に、インナーライナ21が熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマー組成物から成る構成では、インナーライナ21がブチルゴムから成る構成と比較して、インナーライナ21を薄型化できるので、タイヤ重量を大幅に軽減できる。
【0055】
なお、インナーライナ21の空気透過係数は、一般に、温度30[℃]でJIS K7126-1に準拠して測定した場合に、100×10^-12[cc・cm/cm^2・sec・cmHg]以下であることが好ましく、50×10^-12[cc・cm/cm^2・sec・cmHg]以下であることがより好ましい。また、インナーライナ21の体積抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、一般に1×10^9[Ω・cm]以上であることが好ましい。
【0056】
ブチルゴムを主成分とするゴム組成物としては、例えば、ブチルゴム(IIR)、ブチル系ゴムなどが採用され得る。ブチル系ゴムは、例えば、塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)などのハロゲン化ブチルゴムであることが好ましい。
【0057】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕、ポリエステル系樹脂〔例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンテレフタレート/テトラメチレングリコール共重合体、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂〔例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)〕、ポリビニル系樹脂〔例えば酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば芳香族ポリイミド(PI)〕などが採用され得る。
【0058】
エラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴムおよびその水素添加物〔例えばNR、IR、エポキシ化天然ゴム、SBR、BR(高シスBRおよび低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M-EPM)〕、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー、含ハロゲンゴム〔例えばBr-IIR、Cl-IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br-IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHC、CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M-CM)〕、シリコーンゴム〔例えばメチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム〕、含イオウゴム〔例えばポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー〕などが採用され得る。
【0059】
また、インナーライナ21とカーカス層13との間に配置されるタイゴム22は、タイヤ製造時に未加硫の空気入りタイヤ1をインフレートする際に、カーカス層13のカーカスコードがインナーライナ21に喰い込むことを抑制するための層である。また、タイゴム22は、製造後の空気入りタイヤ1においては、空気透過防止性や乾燥路面における操縦安定性に寄与する。
【0060】
ビード部10に配置されるビード部ゴム30は、ビード部10におけるビードコア11のタイヤ幅方向内側からビードコア11のタイヤ径方向内側を通り、ビードコア11のタイヤ幅方向外側に亘って配置されている。タイヤ内表面ゴム層20は、ビード部10の位置では、ビード部ゴム30のタイヤ幅方向内側に位置し、ビード部10の内周面であるビードベース36のタイヤ幅方向における内側の端部であるビードトゥ35の近傍に位置している。また、タイヤ内表面ゴム層20に配置される線状導電部50は、ビード部10の位置では、ビードトゥ35のタイヤ径方向外側でビードトゥ35の近傍に位置している。このため、線状導電部50とタイヤ内表面ゴム層20とは、ビード部10の位置ではいずれもビード部ゴム30に対して重なっている。
【0061】
ビード部ゴム30に重なって配置される線状導電部50は、ビード部ゴム30のペリフェリ方向における表面長さLbgと、線状導電部50におけるビード部ゴム30と重なる部分の長さLbcとの関係が、0.01≦Lbc/Lbg≦1.00を満たしている。ビード部ゴム30は、リムクッションゴム31とチェーファ32と有しているが、本実施形態では、ビード部ゴム30の表面長さLbgは、ビード部ゴム30が有するチェーファ32のペリフェリ方向における表面長さLbgになっている。
【0062】
また、線状導電部50におけるビード部ゴム30と重なる部分の長さLbcは、線状導電部50が、ビード部ゴム30が有するチェーファ32に対して重なる部分のペリフェリ方向の長さになっている。つまり、線状導電部50における、ビード部ゴム30と重なる部分の長さLbcは、線状導電部50における、ビード部ゴム30が有するチェーファ32のペリフェリ方向における表面長さLbgの範囲内に位置する部分の長さになっている(図4参照)。
【0063】
なお、ビード部ゴム30の表面長さLbgは、ビード部ゴム30が有するリムクッションゴム31のペリフェリ方向における長さであってもよく、ビード部ゴム30が有するリムクッションゴム31とチェーファ32とを合わせた、ビード部ゴム30全体のペリフェリ方向における長さであってもよい。即ち、線状導電部50におけるビード部ゴム30と重なる部分の長さLbcは、ビード部ゴム30が有するリムクッションゴム31に対して重なる部分のペリフェリ方向の長さであってもよく、リムクッションゴム31とチェーファ32とを合わせたビード部ゴム30全体に対して重なる部分のペリフェリ方向の長さであってもよい。ビード部ゴム30の表面長さLbgは、ビード部ゴム30における、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満となる部材のペリフェリ方向における長さが適用されるのが好ましい。
【0064】
図6は、図5のB-B断面方向におけるタイヤ内表面ゴム層20と線状導電部50との詳細図である。線状導電部50は、タイヤ内表面ゴム層20におけるタイヤ内表面25に配置されており、例えば、接着剤を用いることにより、線状導電部50は、タイヤ内表面ゴム層20のタイヤ内表面25側に配置されている。つまり、線状導電部50は、インナーライナ21とタイゴム22とが積層されるタイヤ内表面ゴム層20における、インナーライナ21のタイヤ内表面25に配置されている。
【0065】
図7は、空気入りタイヤ1をタイヤ回転軸の方向にみた場合における線状導電部50の配置の形態を示す模式図である。空気入りタイヤ1には、線状導電部50が複数配置されており、複数の線状導電部50は、互いに重なることなく配置されている。線状導電部50は、例えば、図7に示すように、複数の線状導電部50が、タイヤ周方向に所定の間隔をあけつつ、放射状に配置されている。
【0066】
図8は、線状導電部50単体の説明図である。図8は、線状導電部50の撚り線構造を示している。線状導電部50は、導電線状体51を含む線状構造を有している。かかる線状導電部50は、1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を持つ導電線状体51を1本以上含む複数本の線状体を撚り合わせて成る撚り線構造を有している。なお、線状導電部50は、導電物質から成る単線のコードであっても良い(図示省略)。
【0067】
導電線状体51は、導電物質を線状に成形して成る線状体である。従って、導電線状体51は、導電性物質から成る単繊維自体、糸自体、或いは、コード自体を意味する。従って、例えば、金属や炭素繊維などから成る単線のコード、ステンレスなどの金属を繊維化して成る金属繊維などが、導電線状体51に該当する。または、導電線状体51は、糸やコードの表面を導電物質でコーティング加工されたものであってもよい。
【0068】
線状導電部50の撚り線構造(図8参照)としては、例えば、(1)複数本の炭素繊維を撚り合わせて成る構造、(2)1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を持つ導電線状体51と、1×10^8[Ω・cm]以上の体積抵抗率を持つ非導電線状体52とを撚り合わせて成る構造などが挙げられる。線状体の撚り線構造は、特に限定がなく、任意のものを採用できる。
【0069】
上記(2)における非導電線状体52としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維などを採用できる。特に、線状導電部50が、金属繊維から成る導電線状体51と、ポリエステル繊維等の有機繊維から成る非導電線状体52とを撚り合わせて成る混紡糸であることが好ましい。
【0070】
また、線状導電部50の総繊度が、20[dtex]以上1000[dtex]以下の範囲にあることが好ましく、150[dtex]以上350[dtex]以下の範囲にあることがより好ましい。総繊度の下限を上記の範囲とすることにより、タイヤ製造時における線状導電部50の断線が抑制される。また、総繊度の上限を上記の範囲とすることにより、タイヤ転動時における線状導電部50の断線が抑制される。
【0071】
総繊度は、JIS L1017(化学繊維タイヤコード試験方法 8.3 正量繊度)に準拠して測定される。
【0072】
また、線状導電部50の伸び率、即ち、線状導電部50の伸度が、1.0[%]以上70.0[%]以下の範囲にあることが好ましい。伸度を1.0[%]以上とすることにより、タイヤ製造時における線状導電部50の断線が抑制される。また、伸度を70.0[%]以下とすることにより、タイヤ転動時における線状導電部50の断線が抑制される。
【0073】
線状体の伸度は、JIS L1017(化学繊維タイヤコード試験方法 8.5 引張強さ及び伸び率)に準拠して測定される。
【0074】
また、本実施形態では、線状導電部50は、ヤーンであり、カーカス層13と隣接部材との間に挟み込まれて配置される。また、線状導電部50は、図8に示すように、1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を持つ導電線状体51と、1×10^8[Ω・cm]以上の体積抵抗率を持つ非導電線状体52とを撚り合わせて成る撚り線構造を有している。
【0075】
本実施形態に係る空気入りタイヤ1では、これらのように帯電抑制構造が構成されることにより、リムRからビード部ゴム30、線状導電部50を通りベルト層14に至る経路を、車両から路面へ静電気を放出するための導電経路として用いることができる。
【0076】
なお、ビード部ゴム30、カーカス層13のコートゴム及びベルト層14のコートゴムは、リムRからベルト層14に至る導電経路となる。このため、これらのゴムの体積抵抗率が低く設定されることが好ましい。これにより、リムRからベルト層14に至る導電効率が向上する。
【0077】
[作用・効果]
実施形態に係る空気入りタイヤ1を車両に装着して走行すると、空気入りタイヤ1におけるトレッド部2の表面のうち、下方に位置して路面に対向する部分が路面に接触しながら当該空気入りタイヤ1は回転する。空気入りタイヤ1は、このようにトレッド部2の表面が順次路面に接触することにより、路面との間で摩擦力を発生させることができる。これにより、車両は、空気入りタイヤ1と路面との間の摩擦力によって、駆動力や制動力、旋回力を路面に伝えることができ、これらの駆動力、制動力、旋回力によって走行することができる。
【0078】
また、車両の走行中には静電気が発生することがあり、このような静電気は、リムRからビード部ゴム30、線状導電部50を通ってベルト層14に流れ、ベルト層14からトレッドゴム15に流れてトレッドゴム15から路面に放出される。これにより、車両に発生した静電気は路面に放出され、静電気による車両の帯電が抑制される。
【0079】
つまり、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満である線状導電部50は、比較的電気が流れ易くなっているため、空気入りタイヤ1の電気抵抗であるタイヤ電気抵抗を低減させることができる。これにより、線状導電部50が配置された空気入りタイヤ1は、車両の走行中に発生した静電気を、ビード部ゴム30側から線状導電部50を介してベルト層14側に流すことができ、静電気による車両の帯電を抑制することができる。
【0080】
ここで、車両の走行時には、車両の走行状態に応じて発生する荷重によってトレッド部2やサイドウォール部3等が変形しながら回転する。トレッド部2やサイドウォール部3は、異なる部材が積層されて構成されため、トレッド部2やサイドウォール部3が変形をした場合、これらの部位を構成する部材同士がずれる方向のせん断力が発生し易くなる。
【0081】
このため、車両の走行中に発生した静電気を路面に流す際の一翼を担う線状導電部50が、例えば、カーカス層13とタイヤ内表面ゴム層20との間に配置されていた場合、カーカス層13とタイヤ内表面ゴム層20とがずれる方向のせん断力により、線状導電部50は断線する虞がある。つまり、カーカス層13とタイヤ内表面ゴム層20とがずれる方向のせん断力が発生した場合、これらの間に配置される線状導電部50は、カーカス層13とタイヤ内表面ゴム層20とにより揉まれる形になるため、カーカス層13とタイヤ内表面ゴム層20とがずれる方向のせん断力が繰り返し発生した場合、線状導電部50は繰り返し揉まれて断線する虞がある。
【0082】
線状導電部50が断線をすると、リムRからベルト層14に至る導電経路が分断されるため、車両に発生した静電気が路面に放出され難くなるが、本実施形態に係る空気入りタイヤ1では、線状導電部50は、タイヤ内腔側に露出してタイヤ内表面ゴム層20に配置されている。このため、線状導電部50は、トレッド部2やサイドウォール部3が変形をした場合でも、他の部材に揉まれなくなるため、ビード部ゴム30とベルト層14との間の電気経路を、空気入りタイヤ1で長距離を走行した後においても線状導電部50によって確保することができる。これにより、空気入りタイヤ1で長距離を走行した際に、線状導電部50が断線することに起因してタイヤ電気抵抗が高くなることを抑制することができる。この結果、走行後のタイヤ電気抵抗を維持することができる。
【0083】
また、線状導電部50は、ベルト層14のペリフェリ方向における幅Lbpと、ベルト層14に対する線状導電部50ラップ幅Laとの関係が、0.01≦La/Lbp≦1を満たしているため、ビード部ゴム30とベルト層14との間の電気経路を線状導電部50によってより確実に確保することができる。つまり、ベルト層14の幅Lbpと、ベルト層14に対する線状導電部50ラップ幅Laとの関係が、La/Lbp<0.01である場合は、ベルト層14に対する線状導電部50ラップ幅Laが小さ過ぎるため、線状導電部50とベルト層14との間での十分な導電性を確保するのが困難になる虞がある。この場合、線状導電部50を設けても、ビード部ゴム30とベルト層14との間の電気経路を確保し難くなり、タイヤ電気抵抗を効果的に低減し難くなる虞がある。
【0084】
これに対し、ベルト層14の幅Lbpと、ベルト層14に対する線状導電部50ラップ幅Laとの関係が、0.01≦La/Lbp≦1を満たしている場合は、線状導電部50とベルト層14との間で十分な導電性を確保することができ、ビード部ゴム30とベルト層14との間の電気経路を線状導電部50によって確保することができる。この結果、線状導電部50によってより確実にタイヤ電気抵抗を低減することができる。
【0085】
また、ビード部ゴム30は、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満であり、線状導電部50は、ビード部ゴム30の表面長さLbgと、線状導電部50におけるビード部ゴム30と重なる部分の長さLbcとの関係が、0.01≦Lbc/Lbg≦1.00を満たしているため、ビード部ゴム30とベルト層14との間の電気経路を線状導電部50によってより確実に確保することができる。つまり、ビード部ゴム30の表面長さLbgと、線状導電部50におけるビード部ゴム30と重なる部分の長さLbcとの関係が、Lbc/Lbg<0.01である場合は、線状導電部50におけるビード部ゴム30と重なる部分の長さLbcが短過ぎるため、線状導電部50とビード部ゴム30との間での十分な導電性を確保するのが困難になる虞がある。この場合、線状導電部50を設けても、ビード部ゴム30とベルト層14との間の電気経路を確保し難くなり、タイヤ電気抵抗を効果的に低減し難くなる虞がある。
【0086】
これに対し、ビード部ゴム30の表面長さLbgと、線状導電部50におけるビード部ゴム30と重なる部分の長さLbcとの関係が、0.01≦Lbc/Lbg≦1.00を満たしている場合は、線状導電部50とビード部ゴム30との間で十分な導電性を確保することができ、ビード部ゴム30とベルト層14との間の電気経路を線状導電部50によって確保することができる。この結果、線状導電部50によってより確実にタイヤ電気抵抗を低減することができる。
【0087】
また、線状導電部50は、複数が配置されているため、ビード部ゴム30とベルト層14との間の電気経路を複数確保することができ、タイヤ電気抵抗をより低減することができる。また、複数の線状導電部50は、互いに重なることなく配置されているため、長距離走行を行った後においても、リムRからベルト層14に至る導電経路を線状導電部50によって確保することができる。つまり、線状導電部50同士が重なって配置されている場合、走行時のタイヤ変形により線状導電部50同士が擦れてしまい、線状導電部50は、線状導電部50同士が擦れることにより起因して断線してしまう虞がある。線状導電部50が断線した場合、リムRからベルト層14に至る導電経路を線状導電部50によって確保するのが困難になるため、線状導電部50の断線後の空気入りタイヤ1では、線状導電部50の断線前の空気入りタイヤ1と比較してタイヤ電気抵抗が増加してしまう虞がある。
【0088】
これに対し、実施形態に係る空気入りタイヤ1では、複数の線状導電部50は、互いに重なることなく配置されているため、線状導電部50同士が擦れることを抑制することができ、線状導電部50同士が擦れることに起因する線状導電部50の断線を抑制することができる。これにより、長距離走行を行った後においても、リムRからベルト層14に至る導電経路を線状導電部50によって確保することができる。この結果、走行後におけるタイヤ電気抵抗の増加を抑制することができる。
【0089】
また、線状導電部50は、1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を持つ導電線状体51を1本以上含む複数本の線状体を撚り合わせて成るため、所望の電気抵抗率を確保しつつ、線状導電部50の強度を確保することができる。即ち、線状導電部50を複数本の線状体の撚り線構造とすることにより、線状導電部50が単線である構成と比較して、繰り返し疲労や伸びに対する強度を向上させることができる。この結果、タイヤ電気抵抗を低減すると共に、より確実に線状導電部50の耐久性を向上させることができる。
【0090】
また、線状導電部50は、導電線状体51と1×10^8[Ω・cm]以上の体積抵抗率を持つ非導電線状体52とを撚り合わせて成るため、所望の電気抵抗率を確保しつつ、線状導電部50の弱点を非導電線状体52によって補うことができる。この結果、線状導電部50の強度や耐熱性、寸法安定性を適正に確保することができ、より確実に線状導電部50の耐久性を向上させることができる。
【0091】
また、線状導電部50は、導電線状体51を金属繊維にし、非導電線状体52を有機繊維にすることにより、線状導電部50の強度や耐熱性、寸法安定性を、より確実に適正に確保することができる。この結果、より確実に線状導電部50の耐久性を向上させることができる。
【0092】
また、線状導電部50は、導電線状体51を、複数本の炭素繊維を撚り合わせて形成することにより、所望の電気抵抗率を確保しつつ、線状導電部50の強度を確保することができる。この結果、タイヤ電気抵抗を低減すると共に、より確実に線状導電部50の耐久性を向上させることができる。
【0093】
また、線状導電部50は、導電線状体51を、炭素繊維から成る単線のコードで形成することにより、容易に所望の電気抵抗率を確保することができる。この結果、より容易にタイヤ電気抵抗の低減を図ることができる。
【0094】
また、線状導電部50は、総繊度が20[dtex]以上1000[dtex]以下であるため、線状導電部50の総繊度を適正化することができる。つまり、線状導電部50の総繊度が20[dtex]以上であることにより、タイヤ製造時における線状導電部50の断線を抑制することができる。また、線状導電部50の総繊度が1000[dtex]以下であることにより、タイヤ転動時における線状導電部50の断線を抑制することができる。
【0095】
また、線状導電部50は、伸び率が1.0[%]以上70.0[%]以下であるため、線状導電部50の伸び率を適正化することができる。つまり、線状導電部50の伸び率が1.0[%]以上であることにより、タイヤ製造時における線状導電部50の断線を抑制することができる。また、伸び率が70.0[%]以下であることにより、タイヤ転動時における線状導電部50の断線を抑制することができる。
【0096】
[変形例]
なお、上述した実施形態では、線状導電部50は、ビード部10の位置では、ビード部ゴム30のタイヤ幅方向内側に位置しているが、線状導電部50は、ビード部10の位置で、ビード部ゴム30のタイヤ幅方向外側に位置していてもよい。図9は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、線状導電部50がビード部ゴム30のタイヤ幅方向外側に位置する場合の説明図である。線状導電部50は、例えば、図9に示すように、ビード部ゴム30が有するチェーファ32におけるビードコア11よりもタイヤ幅方向内側に位置する部分よりもタイヤ幅方向外側に位置している。
【0097】
つまり、タイヤ内表面ゴム層20におけるビード部10に位置する部分が、図9に示すように、ビードコア11よりもタイヤ幅方向内側の位置で、ビード部ゴム30が有するチェーファ32よりもタイヤ幅方向外側に位置する場合は、タイヤ内表面ゴム層20に沿って配置される線状導電部50は、タイヤ内表面ゴム層20とチェーファ32とに挟まれて配置されていてもよい。なお、図9は、線状導電部50の位置での断面であるため、チェーファ32におけるビードコア11よりもタイヤ幅方向内側に位置する部分は、線状導電部50を覆っているが、タイヤ周方向において線状導電部50が位置する部分以外の部分は、チェーファ32は、タイヤ内表面ゴム層20を覆っている。
【0098】
線状導電部50は、これらのようにビード部ゴム30が有するチェーファ32のタイヤ幅方向外側に配置され、タイヤ内表面ゴム層20とチェーファ32とに挟まれて配置されることにより、チェーファ32に対して直接接触することができる。これにより、線状導電部50とビード部ゴム30との間の電気経路を、より確実に確保することができ、線状導電部50によってより確実にタイヤ電気抵抗を低減することができる。
【0099】
また、上述した実施形態では、線状導電部50は、ビード部10の位置ではビードトゥ35のタイヤ径方向外側に位置しているが、線状導電部50は、タイヤ内表面25側からビード部10のビードトゥ35を超えてビードベース36まで延在していてもよい。図10は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、線状導電部50がビードトゥ35を超えてビードベース36まで延在する場合の説明図である。図11は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、線状導電部50がビードトゥ35を超えてビードコア11のタイヤ幅方向外側まで延在する場合の説明図である。線状導電部50は、例えば、図10に示すように、ビード部ゴム30が有するチェーファ32におけるビードコア11よりタイヤ幅方向内側に位置する部分よりも、タイヤ内表面ゴム層20と線状導電部50とがタイヤ幅方向内側に位置する場合において、線状導電部50は、タイヤ内表面25側からビードトゥ35を超えてビードベース36まで延在していてもよい。
【0100】
または、線状導電部50は、例えば、図11に示すように、ビード部ゴム30が有するチェーファ32におけるビードコア11よりタイヤ幅方向内側に位置する部分よりも、タイヤ内表面ゴム層20と線状導電部50とがタイヤ幅方向外側に位置する場合において、線状導電部50は、タイヤ内表面25側からビードトゥ35を超えてビードベース36まで延在し、さらにビードコア11のタイヤ幅方向外側まで延在していてもよい。線状導電部50は、これらのようにタイヤ内表面25側からビードトゥ35を超えて少なくともビードベース36まで延在することにより、線状導電部50とビード部ゴム30とが重なる距離を長くすることができる。
【0101】
つまり、線状導電部50は、タイヤ内表面25側からビードトゥ35を超えて少なくともビードベース36まで延在することにより、ビード部ゴム30のペリフェリ方向における表面長さLbgと、線状導電部50におけるビード部ゴム30と重なる部分の長さLbcとの関係であるLbc/Lbgを大きくすることができる。これにより、線状導電部50は、ビード部ゴム30との間で電気を流し易くなるため、車両からの静電気をより効果的にリムRから線状導電部50まで通し易くすることができ、タイヤ電気抵抗を低減することができる。
【0102】
また、上述した実施形態では、線状導電部50は、タイヤ内表面ゴム層20におけるタイヤ内表面25に配置されているが、線状導電部50は、タイヤ内表面ゴム層20に埋没していてもよい。図12は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、線状導電部50の所定の位置における一部がタイヤ内表面ゴム層20に埋没している状態を示す説明図である。図13は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、線状導電部50の所定の位置における全部がタイヤ内表面ゴム層20に埋没している状態を示す説明図である。線状導電部50は、線状導電部50の延在方向における一部の位置において、例えば、図12に示すように、タイヤ内表面25側からタイヤ内表面ゴム層20に対して一部が埋没していてもよい。または、線状導電部50は、線状導電部50の延在方向における一部の位置において、例えば、図13に示すように、タイヤ内表面25側からタイヤ内表面ゴム層20に対して全体的に埋没していてもよい。換言すると、線状導電部50は、少なくとも一部がタイヤ内腔側に露出していればよく、図12図13に示すように、タイヤ内表面ゴム層20に埋没する部分を有して配置されていてもよい。
【0103】
これらのように、線状導電部50がタイヤ内表面ゴム層20に埋没する場合、タイヤ内表面25側からのタイヤ内表面ゴム層20への線状導電部50の埋没量をfとし、タイヤ内表面ゴム層20の厚さをtとする場合に、線状導電部50は、タイヤ内表面ゴム層20への埋没量fが最も大きくなる領域での埋没量fが、f/t<0.5を満たすのが好ましい。この場合における線状導電部50の埋没量fは、線状導電部50における、タイヤ内表面ゴム層20のタイヤ内表面25からタイヤ外側に最も離れている部分と、タイヤ内表面25との距離によって測定される。
【0104】
つまり、タイヤ内表面ゴム層20への線状導電部50の埋没量fと、タイヤ内表面ゴム層20の厚さtとの関係が、f/t≧0.5である場合は、走行時に線状導電部50が周囲のタイヤ内表面ゴム層20により揉まれ易くなるため、走行を繰り返した際に、線状導電部50は破断してしまう虞がある。この場合、線状導電部50による電気経路を確保し難くなるため、線状導電部50によってタイヤ電気抵抗を低減するのが困難になる虞がある。
【0105】
これに対し、タイヤ内表面ゴム層20への線状導電部50の埋没量fと、タイヤ内表面ゴム層20の厚さtとの関係が、f/t<0.5を満たす場合は、線状導電部50におけるタイヤ内表面ゴム層20から露出する割合を多くすることができる。これにより、線状導電部50は、走行時にタイヤ内表面ゴム層20によって揉まれ難くなり、走行が繰り返された場合でも破断し難くなるため、ビード部ゴム30とベルト層14との間の電気経路を継続的に確保することができる。この結果、線状導電部50によってより確実にタイヤ電気抵抗を低減することができる。
【0106】
なお、線状導電部50は、線状導電部50の延在方向における長さの60%以上がタイヤ内腔側に露出して配置されるのが好ましい。線状導電部50は、線状導電部50の長さの60%以上がタイヤ内腔側に露出していれば、一部がタイヤ内表面ゴム層20に埋没していてもよい。
【0107】
また、線状導電部50は、タイヤ成形後に、接着剤を用いてタイヤ内表面25に貼り付けることにより配置してもよく、タイヤ成形時に、タイヤ内表面ゴム層20に埋設することによって配置してもよい。
【0108】
また、上述した実施形態では、線状導電部50は、ペリフェリ方向に沿って配置されているが、線状導電部50は、ペリフェリ方向に沿っていなくてもよい。図14は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、線状導電部50の実際の長さL2がペリフェリ方向の長さL1よりも長い状態を示す説明図である。図14は、空気入りタイヤ1のペリフェリ方向を図の横方向にして展開した展開図になっている。線状導電部50は、例えば、図14に示すように、ペリフェリ方向に対してタイヤ周方向に湾曲しながら配置されることにより、線状導電部50の実際の長さである総長L2が、ペリフェリ方向における線状導電部50の長さL1よりも長くてもよい。線状導電部50は、総長L2をペリフェリ方向における長さL1よりも長くすることにより、線状導電部50の張力を下げることができ、空気入りタイヤ1の転動による繰り返しの屈曲変形に起因する線状導電部50の断線を抑制することができる。これにより、走行が繰り返された場合でも線状導電部50は断線し難くなるため、ビード部ゴム30とベルト層14との間の電気経路を継続的に確保することができ、走行後におけるタイヤ電気抵抗の増加を抑制することができる。
【0109】
また、線状導電部50の総長L2を、ペリフェリ方向における線状導電部50の長さL1よりも長くする場合は、線状導電部50は、ペリフェリ方向における線状導電部50の長さL1と、線状導電部50の総長L2との関係が、1<L2/L1<5を満たすのが好ましい。つまり、ペリフェリ方向における線状導電部50の長さL1と、線状導電部50の総長L2との関係が、L2/L1≧5である場合は、線状導電部50の総長L2が長くなり過ぎ、線状導電部50自体の電気抵抗が大きくなる虞がある。この場合、線状導電部50を配置しても、ビード部ゴム30とベルト層14との間の電気抵抗を効果的に低減し難くなる虞がある。
【0110】
これに対し、ペリフェリ方向における線状導電部50の長さL1と、線状導電部50の総長L2との関係が、1<L2/L1<5を満たす場合は、線状導電部50自体の電気抵抗を大きくすることなく、線状導電部50によってビード部ゴム30とベルト層14との間の電気抵抗を効果的に低減することができる。この結果、線状導電部50によってより確実にタイヤ電気抵抗を低減することができる。
【0111】
また、線状導電部50の実際の長さを、ペリフェリ方向における線状導電部50の長さよりも長くする場合は、空気入りタイヤ1における位置ごとに、線状導電部50の実際の長さを長くする割合を異ならせてもよい。図15は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、空気入りタイヤ1における位置ごとに線状導電部50の実際の長さを長くする割合を異ならせる場合の説明図である。図15は、空気入りタイヤ1のペリフェリ方向を図の横方向にして展開した展開図になっている。線状導電部50は、例えば、線状導電部50におけるベルト層14のタイヤ径方向内側の位置とビード部10との間に位置する部分、即ち、サイドウォール部3に位置する部分のペリフェリ方向における距離Lcと、線状導電部50におけるサイドウォール部3に位置する部分の実際の長さLrcとの関係が、1.0<Lrc/Lc<3.0を満たすのが好ましい。これにより、線状導電部50は、サイドウォール部3に位置では、ペリフェリ方向における距離Lcに対して実際の長さLrcが長過ぎることなく、適度な長さで配置することができ、線状導電部50によって電気抵抗を効果的に低減することができる。
【0112】
また、線状導電部50は、線状導電部50におけるベルト層14のタイヤ径方向内側に位置する部分のペリフェリ方向における距離Laと、線状導電部50におけるベルト層14のタイヤ径方向内側に位置する部分の長さLraとの関係が、Lrc/Lc<Lra/La<8.0を満たすのが好ましい。これにより、線状導電部50におけるベルト層14のタイヤ径方向内側に位置する部分では、ベルト層14に対して線状導電部50をより確実に長い長さで重ねて配置することができ、ベルト層14と線状導電部50との間での電気抵抗をより確実に低減することができる。
【0113】
また、線状導電部50は、線状導電部50におけるビード部10に位置する部分のペリフェリ方向における距離Lbと、線状導電部50におけるビード部10に位置する部分の長さLrbとの関係が、Lrc/Lc<Lrb/Lb<8.0を満たすのが好ましい。これにより、線状導電部50におけるビード部10に位置する部分では、ビード部ゴム30に対して線状導電部50をより確実に長い長さで重ねて配置することができ、ビード部ゴム30と線状導電部50との間での電気抵抗をより確実に低減することができる。これらにより、線状導電部50は、ビード部ゴム30とベルト層14との間の電気抵抗を効果的に低減することにより、より確実にタイヤ電気抵抗を低減すると共に、ペリフェリ方向における長さに対して実際に長さが長い長さで配置されることにより、線状導電部50の断線を抑制し、線状導電部50の耐久性を確保することができる。
【0114】
これらのように、ベルト層14のタイヤ径方向内側の位置や、ビード部10の位置で線状導電部50の長さを長くする場合は、線状導電部50は、様々な形態で配置することによって長さを長くしてもよい。図16は、線状導電部50の配置形態の一例を示す説明図である。図16は、空気入りタイヤ1のペリフェリ方向を図の横方向にして展開した展開図になっている。線状導電部50は、ベルト層14のタイヤ径方向内側の位置では、例えば、図16の例1~例3のように、ペリフェリ方向に延びつつタイヤ周方向に振幅させて配置してもよく、例4のようにペリフェリ方向に往復させて配置してもよく、例5にように周回させて配置してもよい。
【0115】
また、線状導電部50は、ビード部10の位置では、図16の例1や例5のように周回させて配置してもよく、例2のようにペリフェリ方向に延びつつタイヤ周方向に振幅させて配置してもよく、例3のように渦巻状に配置してもよく、例4のようにペリフェリ方向に往復させて配置してもよい。線状導電部50を、ベルト層14のタイヤ径方向内側の位置やビード部10の位置でペリフェリ方向の長さに対して実際の長さを長くするための形態は、線状導電部50の長さが長くなり過ぎることに起因して線状導電部50自体の電気抵抗が大きくなり過ぎることを抑制できる形態であれば、その配置形態は問わない。
【0116】
また、上述した実施形態では、線状導電部50は、タイヤ内表面ゴム層20のタイヤ内表面25に配置されているが、線状導電部50は、部分的に他の部材に覆われていてもよい。図17は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、カバーゴム層23が配置される状態を示す説明図である。図18は、図17のC-C矢視図である。線状導電部50は、例えば、図17図18に示すように、部分的にカバーゴム層23によって覆われていてもよい。即ち、空気入りタイヤ1は、線状導電部50のタイヤ内腔側に設けられて線状導電部50の一部を覆うカバーゴム層23をさらに備えていてもよい。この場合におけるカバーゴム層23は、ゴム材料からなる帯状の部材になっている。
【0117】
帯状のカバーゴム層23は、例えば、線状導電部50が、ビード部10でビード部ゴム30に覆われずに露出して配置される場合に、線状導電部50におけるビード部ゴム30で露出する部分を覆って配置される。即ち、線状導電部50が、タイヤ内腔側やビードベース36側に露出する場合には、カバーゴム層23は、ビード部10においてタイヤ内腔側からビードベース36側にかけて線状導電部50を覆って配置されるのが好ましい。
【0118】
このように、カバーゴム層23をビード部10に配置し、カバーゴム層23で線状導電部50を覆うことにより、リム組時にタイヤレバーとの接触による線状導電部50の損傷を防ぐことができる。これにより、走行時の線状導電部50の切断を抑制することできるため、走行後においてもより確実にタイヤ電気抵抗を低減することができる。
【0119】
なお、このように線状導電部50を覆うカバーゴム層23を配置する場合は、カバーゴム層23の厚さは1mm未満であるのが好ましい。カバーゴム層23の厚さが1mm以上の場合、空気入りタイヤ1の転がり抵抗の悪化につながるため、線状導電部50を覆うカバーゴム層23の厚さは1mm未満であるのが好ましい。
【0120】
また、カバーゴム層23を配置する範囲としては、リム径の測定点からタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さSH(図2参照)の1/3以下の範囲内に配置されるのが好ましい。即ち、リム径の測定点からタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さSHの1/3を超える領域は、タイヤの変形が大きいため、この領域にカバーゴム層23を配置した場合、空気入りタイヤ1の転がり抵抗の悪化につながる。このため、カバーゴム層23は、リム径の測定点からタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さSHの1/3以下の範囲内に配置されるのが好ましい。
【0121】
また、上述した実施形態では、線状導電部50は、タイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨ぐことなく配置されているが、線状導電部50は、タイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨いで配置されていてもよい。図19図20は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、線状導電部50がタイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨いで配置される状態を示す説明図である。線状導電部50は、例えば、図19図20に示すように、タイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨いで配置されていてもよい。この場合、線状導電部50におけるタイヤ径方向外側の端部は、図19に示すように、ベルト層14のタイヤ径方向内側に位置していてもよい。または、タイヤ赤道面CLをタイヤ幅方向に跨いで配置される線状導電部50は、図20に示すように、タイヤ幅方向においてベルト層14が配置されている範囲を超えて、線状導電部50が配置される側のサイドウォール部3の反対側のサイドウォール部3まで延在していてもよい。
【0122】
また、上述した実施形態では、線状導電部50は、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの片側に配置されているが、線状導電部50は、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側に配置されていてもよい。図21は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、線状導電部50がタイヤ幅方向における両側に亘って配置される状態を示す説明図である。線状導電部50は、例えば、図21に示すように、タイヤ幅方向における両側に亘って配置されていてもよい。即ち、線状導電部50は、タイヤ幅方向における両側に位置するビード部10のうち、一方のビード部10側から他方のビード部10側にかけて、連続して配置されていてもよい。
【0123】
図22は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、線状導電部50がタイヤ幅方向における両側に配置される状態を示す説明図である。また、線状導電部50は、図22に示すように、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側の領域でそれぞれ、互いに独立した線状導電部50がビード部10の位置からベルト層14の位置にかけて延在して配置されていてもよい。この場合、ベルト層14に対する線状導電部50ラップ幅La(図3参照)は、タイヤ幅方向における両側に配置される線状導電部50同士で同じ大きさであってもよく、互いに異なる大きさであってもよい。
【0124】
また、上述した実施形態では、線状導電部50は、タイヤ内表面25に沿ってタイヤ内表面ゴム層20に配置されているが、タイヤ内表面ゴム層20に配置されていない部分を有していてもよい。図23は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、線状導電部50がタイヤ内表面25から離れて配置される部分を有する状態を示す説明図である。タイヤ内表面ゴム層20に配置される線状導電部50は、例えば、図23に示すように、一部がタイヤ内表面25からタイヤ内腔側に離れて配置されていてもよい。線状導電部50は、全ての部分がタイヤ内表面ゴム層20やビード部ゴム30に接触して配置されていなくてもよく、部分的にタイヤ内表面25からタイヤ内腔側に離れて配置されていてもよい。
【0125】
また、上述した実施形態では、車両走行時に車両に発生する静電気を路面に放出するための帯電抑制構造として、線状導電部50が用いられているが、帯電抑制構造には、線状導電部50の他の部材も用いられていていてもよい。図24は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、アーストレッド60が配置される状態を示す説明図である。車両に発生する静電気を路面に放出するための帯電抑制構造には、例えば、図24に示すように、アーストレッド60が用いられていてもよい。この場合におけるアーストレッド60は、トレッドゴム15に埋設されてタイヤ接地面に露出する導電ゴムである。線状導電部50とアーストレッド60とを有する帯電抑制構造では、線状導電部50によってベルト層14に流された車両からの静電気が、ベルト層14からアーストレッド60を介して路面に放出されて、車両の帯電が抑制される。
【0126】
詳しくは、アーストレッド60は、トレッドゴム15の踏面に露出し、キャップトレッド151及びアンダートレッド152を貫通してベルト層14に導電可能に接触する。即ち、アーストレッド60は、少なくともキャップトレッド151を貫通してタイヤ接地面に露出する。図24に示す変形例では、アーストレッド60は、キャップトレッド151及びアンダートレッド152を貫通し、タイヤ径方向における内側の端部がベルトカバー143に導電可能に接触している。これにより、ベルト層14から路面への導電経路が確保される。
【0127】
また、アーストレッド60は、タイヤ全周に渡って延在する環状構造を有し、その一部をトレッド踏面に露出させつつタイヤ周方向に連続的に延在している。従って、空気入りタイヤ1の転動時にて、アーストレッド60が常に路面に接触することにより、ベルト層14から路面への導電経路が常に確保される。図24に示す変形例では、アーストレッド60のタイヤ幅方向における幅は、トレッド部2にタイヤ周方向に延びて形成される周方向主溝6の溝幅よりも狭くなっており、タイヤ幅方向に隣り合う周方向主溝6同士の間に形成されている。
【0128】
また、アーストレッド60は、トレッドゴム15よりも低い体積抵抗率を有する導電性ゴム材料から成る。具体的には、アーストレッド60の体積抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]未満であることが好ましく、1×10^6[Ω・cm]以下であることがより好ましい。
【0129】
これらのように、線状導電部50の他にアーストレッド60も用いて帯電抑制構造を構成することにより、リムRからビード部ゴム30、線状導電部50及びベルト層14を通りアーストレッド60に至る経路を、車両から路面へ静電気を放出するための導電経路として用いることができる。つまり、アーストレッド60は、1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を有すると共に、少なくともキャップトレッド151を貫通してタイヤ接地面に露出するため、ベルト層14側から路面への導電経路を、アーストレッド60によって確保することができる。これにより、線状導電部50から路面への導電経路を確保することができ、リムRからアーストレッド60に至る導電経路を、より確実に確保することができる。従って、リムRと路面との間の電気抵抗を、より確実に下げることができ、車両に発生した静電気をより確実に路面に放出することができる。この結果、より確実に帯電抑制性能を確保することができる。
【0130】
また、アーストレッド60を設けることにより、空気入りタイヤ1の転がり抵抗を低減して低燃費性能を向上させることを目的としてキャップトレッド151、アンダートレッド152、サイドウォールゴム16などを構成するゴムコンパウンドのシリカ含有量を増加させた場合における帯電抑制性能の低下を抑制することができる。つまり、シリカは絶縁特性が高いため、キャップトレッド151のシリカ含有量が増加すると、キャップトレッド151の体積抵抗値が増加して帯電抑制性能が低下するが、アーストレッド60を設けることにより、ベルト層14と路面との導電経路が確保することができる。この結果、転がり抵抗を低減する場合における帯電抑制性能を確保することができる。
【0131】
[実施例]
図25A図25Bは、空気入りタイヤの性能評価試験の結果を示す図表である。以下、上記の空気入りタイヤ1について、従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1とについて行なった性能の評価試験について説明する。性能評価試験は、空気入りタイヤ1の新品時と走行後のそれぞれの電気抵抗についての試験を行った。
【0132】
性能評価試験は、JATMAで規定されるタイヤの呼びが195/65R15 91Hサイズの空気入りタイヤを、試験タイヤとして用いて行った。新品時の電気抵抗についての評価試験は、JATMA規定の測定条件に基づき、株式会社アドバンテスト製のR8340A ウルトラ・ハイ・レジスタンスメータを使用して、試験タイヤの電気抵抗[Ω]を測定した。
【0133】
また、走行後の電気抵抗についての評価試験は、ドラム径1707[mm]の室内ドラム式タイヤ転動抵抗試験機が用いられ、試験タイヤをJATMA規定の適用リムに組み付け、試験タイヤに空気圧200[kPa]およびJATMA規定の最大荷重の80%を付与し、速度81[km/h]にて60分間の走行後に、JATMA規定の測定条件に基づき、(株)アドバンテスト製のR8340A ウルトラ・ハイ・レジスタンスメータを使用して、試験タイヤの電気抵抗[Ω]を測定した。新品時と走行後のタイヤ電気抵抗は、測定した数値が小さい程、電気抵抗が低く、タイヤ電気抵抗についての性能が優れていることを示している。
【0134】
性能評価試験は、従来の空気入りタイヤの一例である従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1である実施例1~14との15種類の空気入りタイヤについて行った。このうち、従来例の空気入りタイヤは、線状導電部が、カーカスの表面に配置されている。
【0135】
これに対し、本発明に係る空気入りタイヤ1の一例である実施例1~14は、線状導電部は全てタイヤ内表面に配置されている。さらに、実施例1~14に係る空気入りタイヤ1は、ベルト層14のペリフェリ方向における幅Lbpとベルト層14に対する線状導電部50のラップ幅Laとの関係(La/Lbp)や、ビード部ゴム30の体積抵抗率、ビード部ゴム30のペリフェリ方向における表面長さLbgと線状導電部50におけるビード部ゴム30と重なる部分の長さLbcとの関係(Lbc/Lbg)、タイヤ内表面ゴム層20への線状導電部50の埋没量fとタイヤ内表面ゴム層20の厚さtとの関係(f/t)、ペリフェリ方向における線状導電部50の長さL1と線状導電部50の総長L2との関係(L2/L1)、線状導電部50における配置されている位置ごとのペリフェリ方向における距離と実際の長さとの関係(Lra/La、Lrb/Lb、Lrc/Lc)、線状導電部50の重なりの有無、線状導電部50の総繊度、線状導電部50の伸び率、カバーゴム層23の有無が、それぞれ異なっている。
【0136】
これらの空気入りタイヤ1を用いて評価試験を行った結果、図25A図25Bに示すように、実施例1~14に係る空気入りタイヤ1は、従来例と比較して、走行後のタイヤ電気抵抗を低下させることができること分かった。このため、実施例1~14に係る空気入りタイヤ1は、従来例と比較して、走行後のタイヤ電気抵抗を新品時のタイヤ電気抵抗に対して大幅に増加しないようにすることができ、新品時と走行後との間で、タイヤ電気抵抗が大幅に変化しないようにすることができることが分かった。つまり、実施例1~14に係る空気入りタイヤ1は、走行後のタイヤ電気抵抗を維持することができる。
【符号の説明】
【0137】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
6 周方向主溝
10 ビード部
11 ビードコア
12 ビードフィラー
13 カーカス層
14 ベルト層
15 トレッドゴム
151 キャップトレッド
152 アンダートレッド
16 サイドウォールゴム
20 タイヤ内表面ゴム層
21 インナーライナ
22 タイゴム
23 カバーゴム層
25 タイヤ内表面
30 ビード部ゴム
31 リムクッションゴム
32 チェーファ
35 ビードトゥ
36 ビードベース
50 線状導電部
51 導電線状体
52 非導電線状体
60 アーストレッド
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図25B