(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077361
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】電気抵抗溶接用電極
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20230529BHJP
B23K 11/36 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
B23K11/30 310
B23K11/36 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021203745
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】512035918
【氏名又は名称】青山 省司
(72)【発明者】
【氏名】青山 好高
(72)【発明者】
【氏名】青山 省司
(57)【要約】
【課題】磁石を内蔵しているストッパ部材に対して、直接冷却空気を接触させて効果的な冷却を行うとともに、冷却空気の断続構造の簡素化をすること。
【解決手段】電極本体5の端蓋6に挿入孔8が形成され、電極本体5内にガイド筒13が挿入され、ガイド筒13のガイド孔14が、大径孔15と小径孔16によって構成され、大径部18と小径部19を有するストッパ部材17が設けられ、ストッパ部材17にストッパ面21が形成され、ストッパ部材17内に小径部19を介して軸状部品1をストッパ面21に吸引する磁石20が収容され、ストッパ部材17の大径部18と小径部19に空気通路25、26が形成され、ストッパ部材17に形成された可動端面27が、ガイド孔14の静止内端面28に密着したり離れたりすることにより、冷却空気の流通を断続するように構成し、大径孔15に冷却空気を供給する通気口32が電極本体5に設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒型とされた銅合金製の電極本体に、軸状部品の挿入孔が形成された端蓋が取り付けられ、
前記電極本体内に断熱絶縁材料製のガイド筒が挿入され、
前記ガイド筒に設けたガイド孔が、大径孔と前記挿入孔に連通している小径孔によって構成され、
断面円形で前記大径孔内に進退可能な状態で挿入されている大径部と、断面円形で前記小径孔内に進退可能な状態で挿入されている小径部を有するストッパ部材が設けられ、
前記ストッパ部材の前記小径部の先端面は、前記小径孔に挿入された軸状部品を受け止めるストッパ面とされ、
前記ストッパ部材内に、前記小径部を介して前記軸状部品を前記ストッパ面に吸引する磁石が収容され、
前記ストッパ部材の前記大径部と前記ガイド孔の間に空気通路が形成され、
前記ストッパ部材の前記小径部と前記ガイド孔の間に空気通路が形成され、
前記ストッパ部材の前記大径部と前記小径部の境界部に形成された可動端面が、前記ガイド孔の前記大径孔と前記小径孔の境界部に形成された静止内端面に、密着したり離れたりすることにより、冷却空気が直接ストッパ部材の表面に接しながら流通するように、冷却空気の流通を断続する構成とし、
前記大径孔に冷却空気を供給する通気口が前記電極本体に設けられていることを特徴とする電気抵抗溶接用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁石が内蔵されたストッパ部材が電極本体内に収容され、このストッパ部材を冷却空気で冷却する、電気抵抗溶接用電極に関している。
【背景技術】
【0002】
WO2004/009280号公報には、大径部と小径部で構成されたストッパ部材に磁石が収容され、この磁石の冷却は水冷式とされていることが記載されている。
【0003】
特開2011-183414号公報には、大径部と小径部で構成されたストッパ部材に磁石が収容され、電極本体内に収容されたストッパ部材を圧縮コイルスプリングの張力や空気圧で押し付けることが記載されている。当該公報では、ストッパ部材の冷却手法については、何も言及されていない。
【0004】
特開2017-006982号公報には、ガイドピンと一体化された合成樹脂製の摺動部に、可動端面と静止内端面を形成して、冷却空気流を断続することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2004/009280号公報
【特許文献2】特開2011-183414号公報
【特許文献3】特開2017-006982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1におけるストッパ部材は、合成樹脂製のガイド筒内に収容され、ガイド筒の外周側に設けた冷却水路に冷却水を流して、ストッパ部材の冷却を行っている。このような冷却方式であると、冷却水流が直接ストッパ部材に接触しないので、冷却性能を向上させにくい、という問題がある。また、冷却水を直接ストッパ部材に接触させることは、冷却水の水路のシール構造を成立させることが、困難になる。
【0007】
特許文献2におけるストッパ部材は、電極内に内蔵され、冷却水や冷却空気などの冷却流体でストッパ部材の溶接熱を奪うという概念がない。特許文献2には、コイルスプリングに換えて圧縮空気をストッパ部材の上面に作用させることは記載されているが、これはあくまでも加圧手段に関することであり、空冷を示唆するものではない。
【0008】
特許文献2記載の
図4が本願図面に転載してある。それは、
図4である。ここには、カップ部材26内の端子板27に接続されている電線が実線で示され、この電線を受け入れる筒状の口金が図示されているが、これは冷却空気の流入には関係のない部材である。また、特許文献2の段落0033には、「コイルスプリング28に換えて圧縮空気をストッパ部材21の上面に空気ばねとして作用させてもよい。」と記載されている。これは、空気スプリングという意味であり、Oリングも組み込まれて、冷却空気を流動させる考え方ではない。なお、
図4に付されている部材の番号は、本発明の実施例図面の番号とは無関係である。
【0009】
特許文献3における冷却は、主として合成樹脂製の摺動部に対する空気冷却であり、本発明におけるようなストッパ部材の冷却ではない。
【0010】
上記のように、各特許文献に開示されている技術は、磁石を内蔵したストッパ部材に直接冷却空気を接触させて、磁石の過熱を防止するものではない。特許文献1においては、ストッパ部材を間接的に水冷するものであり、冷却性能を高めにくい構造が記載されている。特許文献2においては、冷却用の流体をストッパ部材に対して作用させることは、一切、行われていない。特許文献3においては、磁石が内蔵されたストッパ部材自体の開示がない。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するために提供されたもので、磁石を内蔵しているストッパ部材に対して、直接冷却空気を接触させて効果的な冷却を行うとともに、冷却空気の断続構造の簡素化を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明は、
円筒型とされた銅合金製の電極本体に、軸状部品の挿入孔が形成された端蓋が取り付けられ、
前記電極本体内に断熱絶縁材料製のガイド筒が挿入され、
前記ガイド筒に設けたガイド孔が、大径孔と前記挿入孔に連通している小径孔によって構成され、
断面円形で前記大径孔内に進退可能な状態で挿入されている大径部と、断面円形で前記小径孔内に進退可能な状態で挿入されている小径部を有するストッパ部材が設けられ、
前記ストッパ部材の前記小径部の先端面は、前記小径孔に挿入された軸状部品を受け止めるストッパ面とされ、
前記ストッパ部材内に、前記小径部を介して前記軸状部品を前記ストッパ面に吸引する磁石が収容され、
前記ストッパ部材の前記大径部と前記ガイド孔の間に空気通路が形成され、
前記ストッパ部材の前記小径部と前記ガイド孔の間に空気通路が形成され、
前記ストッパ部材の前記大径部と前記小径部の境界部に形成された可動端面が、前記ガイド孔の前記大径孔と前記小径孔の境界部に形成された静止内端面に、密着したり離れたりすることにより、冷却空気が直接ストッパ部材の表面に接しながら流通するように、冷却空気の流通を断続する構成とし、
前記大径孔に冷却空気を供給する通気口が前記電極本体に設けられていることを特徴とする電気抵抗溶接用電極である。
【発明の効果】
【0013】
軸状部品が端蓋の挿入孔に挿入されると、ストッパ部材の小径部を経てストッパ面に及んだ磁石吸引力によって、軸状部品は小径部にしっかりと引きつけられ、安定した静止状態になる。ここで相手方の電極が進出して軸状部品が押し下げられると、ストッパ部材の可動端面がガイド孔の静止内端面から離れ、大径部と小径部それぞれに配置した空気通路を冷却空気が流れる。このような冷却空気の流通冷却中に溶接電流が通電されて、溶融部からの発熱がなされる。溶融熱は、鋼板部品から軸部へ伝熱され、さらに、軸部からストッパ部材に伝熱される。他に、電極本体からガイド筒を経てストッパ部材に伝熱される。そこで、冷却空気流によってストッパ部材の外周表面が直接冷却され、磁石へ伝わる溶接熱が抑制される。
【0014】
すなわち、冷却空気は、ストッパ部材の表面に直接接触しながら流通してゆくので、高い空冷効果によって良好な磁石保護がえられる。つまり、磁石が異常高温に達すると、温度減磁の領域に到り、最悪の場合には、不可逆減磁に達して、軸状部品の吸引安定性が損なわれることとなる。冷却空気が直接ストッパ部材の表面に接しながら流通することによって、磁石の異常加熱が防止される。
【0015】
水冷式であると、ストッパ部材の収容空間と、冷却水の流通空間を区別する構造、例えば水密式の仕切り板のような部材が必要となり、そのために構造が複雑になるのであるが、空冷式であると、冷却空気を直接ストッパ部材に吹き付けても、周辺の部材に何の悪影響もないので、構造簡素化や空気漏れによるトラブルも回避できる。
【0016】
ストッパ部材を冷却する冷却水が少しでも漏れると、近隣の部材に悪影響を及ぼすので、早急な対策が必要となり、直ちに生産ラインを停止する必要がある。しかし、空冷式であれば、少しの空気漏れであれば近隣部材への悪影響が少なくてすむので、突然のライン停止には到らず、継続稼働が可能となり、区切りのよいところでライン停止を行うなどにより、経済的損失を小量化することが可能となる。
【0017】
ストッパ部材の大径部と小径部の境界部に可動端面が形成され、ガイド孔の大径孔と小径孔の境界部に静止内端面が形成されているので、冷却空気の断続構造の一部がストッパ部材自体に形成され、構造簡素化にとって有利である。
【0018】
溶融時にスパッタが飛散すると、ストッパ部材内の磁石に吸引されて電極内部を汚染する恐れがあるが、冷却空気流の排出作用により、スパッタの侵入を防止することができる。順番としては、冷却空気の流通開始後に溶接電流の通電がなされるので、ストッパ部材の方へ飛散しようとするスパッタは、逆風の下で強制的に押し戻されることとなり、スパッタ対応としても効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】電極全体の断面図と部分箇所の断面図である。
【
図2】
図1の2A―2A断面と、2B―2B断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の電気抵抗溶接用電極を実施するための形態を説明する。
【実施例0021】
【0022】
最初に、軸状部品について説明する。
【0023】
軸状部品としては、プロジェクションボルト、回転部品の回転軸など種々なものがあるが、ここでは、プロジェクションボルトが溶接の対象とされている。このように、溶接される部品としては、種々な形態のものがある。以下の説明において、プロジェクションボルトを単にボルトと表現する場合もある。
【0024】
鉄製のプロジェクションボルト1は、雄ねじが切られた軸部2と、軸部2と一体化されている円板型のフランジ3と、軸部2側のフランジ3の面に設けられた溶着用突起4によって構成されている。溶着用突起4は、フランジ3の外周近くに配置してあり、120度間隔で3個設けてある。
【0025】
つぎに、電極本体について説明する。
【0026】
電極本体5は、円筒型とされており、クロム銅のような銅合金製とされている。電極本体5の端部に、ベリリユム銅のような銅合金製の端蓋6が、ねじ部7を介して結合されている。端蓋6には、ボルト1の軸部2が差し込まれる挿入孔8が設けられ、その一部に絶縁材料製の絶縁筒9が設けてある。電極本体5の他端部側にねじ部10を介して固定部11が結合してある。固定部11は、静止部材24にテーパ嵌合などで結合されている。
【0027】
なお、絶縁筒9やガイド筒13および後述の絶縁シート29の絶縁材料には、ポリテトラフルオロエチレン(商品名=テフロン・登録商標)やポリアミド樹脂などが使用されている。
【0028】
つぎに、ガイド筒について説明する。
【0029】
断面円形のガイド筒13は、電極本体5内に圧入などの方法で挿入されている。ガイド筒13に形成したガイド孔14は、大径孔15と、絶縁筒9や挿入孔8に連通している小径孔16によって構成されている。ガイド筒13の位置ずれを防止するために、合成樹脂製の固定ピン23が打ち込んである。
【0030】
つぎに、ストッパ部材について説明する。
【0031】
ストッパ部材17は、外形的には、断面円形で大径孔15内に進退可能な状態で挿入されている大径部18と、断面円形で小径孔16内に進退可能な状態で挿入されている小径部19によって構成されている。
【0032】
図1(B)に示すように、ストッパ部材17の大径部18は、ステンレス鋼のような非磁性材料で作られ、カップ状の器型になっている。その中に磁石20が収容してある。この磁石20は、永久磁石である。小径部19は、透磁性が良好な鉄製とされており、その先端面は軸部2を受け止めるストッパ面21とされている。小径部19と大径部18の一体化は、溶接が望ましい。黒く塗り潰して図示した箇所が溶接部22であり、溶接後、表面を滑らかに仕上げてある。容器状の大径部18を小径部19で封じたような状態であり、磁石20は小径部19の下面に密着している。磁石20を、
図1(B)に2点鎖線で示すように、縦向きに埋め込んで配置してもよい。
【0033】
軸部2を挿入孔8に挿入して軸部2の先端部がストッパ面21で受け止められると、磁石20の吸引力が軸部2に作用し、軸部2はしっかりとストッパ面21に吸引される。
【0034】
つぎに、空気通路について説明する。
【0035】
ストッパ部材17の大径部18と、ガイド孔14の間、すなわち大径孔15の間に空気通路25が形成され、ストッパ部材17の小径部19と、ガイド孔14の間、すなわち小径孔16の間に空気通路26が形成されている。空気通路25および26は、
図2に示すように、環状の隙間である。なお、
図1(C)では見やすくするために、断面を示す梨地模様やハッチングの図示は省略してある。
【0036】
ストッパ部材17の大径部18と小径部19の境界部に形成された可動端面27が、ガイド孔14の大径孔15と小径孔16の境界部に形成された静止内端面28に、密着したり離れたりすることにより、冷却空気の流通を断続するように構成してある。可動端面27と静止内端面28は電極の中心軸線O-Oが垂直に交差する仮想平面上に存在している。
【0037】
空気通路25に冷却空気を供給するために、通気口32が電極本体5に設けられ、空気ポンプ(図示していない)から伸びてきている空気供給管37が通気口32に接続してある。
【0038】
電極本体5の内底面に絶縁シート29が嵌め込まれ、その上に通電板30が固定してある。ストッパ部材17の下面と通電板30の間に、圧縮コイルスプリング31が嵌め込んであり、同スプリングの張力によって可動端面27が静止内端面28に押し付けられている。この押し付けによって、冷却空気流の流通が禁止されている。
【0039】
図1(C)に示すように、空気通路25の隙間間隔は符号L1で示され、空気通路26の隙間間隔は符号L2で示されている。そして、可動端面27が静止内端面28から離れた時の隙間間隔(いわゆる開弁隙間)は、符号L3で示されている。空気通路25の流路面積と、空気通路26の流路面積と、隙間間隔L3による流路面積の3者がほぼ等しくなるように設定してある。これによって、冷却空気の流通が円滑になり、空気通路の屈曲性を少なくした乱流の少ない冷却空気流がえられる。
【0040】
図2からも明らかなように、空気通路25の直径は空気通路26の直径よりも大きいので、両空気通路25、26の流路面積をほぼ同じにすると、隙間間隔L1の方が隙間間隔L2よりも大きくなる。
【0041】
上記の空気通路の隙間間隔は、L1>L2であるが、上記の空気通路の屈曲性をさらに少なくするためには、L3>L1>L2とする。こうすることにより、空気流の曲がり度合いが少なくなって乱流も減少し、冷却空気の流量を多くして、冷却効果を一層高めることができる。
【0042】
ストッパ部材17に何等かの傾斜方向の力が作用したときには、隙間間隔L2<L1とすることにより、隙間間隔L2が小さくて、大径部18の外周面が早期の内に大径孔15の内周面に当たるので、ストッパ部材17の傾斜角度を小さく収めることができ、中心軸線O-Oに対する軸部2の芯ずれを少なくすることが可能となり、溶接品質の低下を防止することができる。
【0043】
図1(A)に示すように、ボルト1の軸部2の下端がストッパ面21に吸引されている状態において、溶着用突起4と鋼板部品12の間に間隔L4が設けられ、この間隔L4を広くすれば、可動端面27・静止内端面28間の隙間間隔L3も広くなる。なお、鋼板部品12に下孔が開けられ、軸部2は下孔と挿入孔8に差し込まれるようになっている。また、鋼板部品12は、端蓋6上に載置され、下孔が挿入孔8と同軸となるように、ロボット装置などで鋼板部品12の載置位置が定められる。
【0044】
つぎに、空気通路の変形例を説明する。
【0045】
図3は、
図1の2A-2A線の断面に相当する断面図である。先の空気通路25、空気通路26は環状の空間であるが、この変形例は、ストッパ部材17の小径部19に加工を施して形成したものである。小径部19は、小径孔16内に実質的に隙間がなくて摺動できる状態で挿入してある。このような小径部19の外側面に中心軸線O-O方向の平面39を形成し、この平面39と小径孔16の円弧型内面との間に空気通路40が形成されている。平面39は90度間隔で設けてあり、空気通路40は4つとされている。
【0046】
図示していないが、大径部18側においても、
図3と同様な空気通路構造が採用されている。
【0047】
上述の「・・実質的に隙間がなくて摺動できる状態・・」というのは、ガイド筒13に電極本体5の直径方向の力を作用させても、隙間感覚のあるカタカタといったがたつき感触がなく、しかも中心軸線O-O方向の摺動ができる状態を意味している。
【0048】
つぎに、通電回路について説明する。
【0049】
この実施例では、ボルト1が挿入孔8に差し込まれているかどうかをチェックできるようになっている。通電板30に接合した信号線33と、電極本体5に接合した信号線34が設けられ、両信号線33、34は検知装置35に結線されている。ボルト1が正常に挿入孔8に挿入されていると、検知電流が検知装置35から信号線34を経て電極本体5に流れる。検知電流は、端蓋6、鋼板部品12、軸部2、ストッパ部材17、圧縮コイルスプリング31、通電板30、信号線33を経て検知装置35に流入する。検知装置35においては、検知電流を検知し、これをトリガー信号にして可動電極36を進出させる。
【0050】
以上に説明した実施例の作用効果は、つぎのとおりである。
【0051】
ボルト1が端蓋6の挿入孔8に挿入されると、ストッパ部材17の小径部19を経てストッパ面21に及んだ磁石吸引力によって、ボルト1は小径部19にしっかりと引きつけられ、安定した静止状態になる。ここで相手方の電極36が進出してボルト1が押し下げられると、ストッパ部材17の可動端面27がガイド孔14の静止内端面28から離れ、大径部18と小径部19それぞれに配置した空気通路25、26を冷却空気が流れる。このような冷却空気の流通冷却中に溶接電流が通電されて、溶融部からの発熱がなされる。溶融熱は、鋼板部品12から軸部2へ伝熱され、さらに、軸部2からストッパ部材17に伝熱される。他に、電極本体5からガイド筒13を経てストッパ部材17に伝熱される。そこで、冷却空気流によってストッパ部材17の外周表面が直接冷却され、磁石20へ伝わる溶接熱が抑制される。
【0052】
すなわち、冷却空気は、ストッパ部材17の表面に直接接触しながら流通してゆくので、高い空冷効果によって良好な磁石保護がえられる。つまり、磁石20が異常高温に達すると、温度減磁の領域に到り、最悪の場合には、不可逆減磁に達して、ボルト1の吸引安定性が損なわれることとなる。冷却空気が直接ストッパ部材17の表面に接しながら流通することによって、磁石20の異常加熱が防止される。
【0053】
通常の溶接本数、例えば1分間に4本のボルトを鋼板部品12に溶接した直後に、鋼板部品12と一緒にボルト1を挿入孔8から手で引き抜いたが、そのときには軽く引き抜ける状態ではなく、若干、引っ張らなければならない状態であった。したがって、ボルト1がストッパ面21に吸引されている吸引力は十分な値であることが確認された。実際には、溶接直後の磁石温度を測定することは構造上できないので、このように引き抜きテスト方式で吸引力の変化状況を確認した。もしも、磁石20が異常高温まで加熱されると、不可逆減磁の域に達したり、吸引磁力が低下したりするのであるが、そのような吸引力低下が認められないので、冷却空気による冷却効果が適正に果たされたものと判定される。
【0054】
水冷式であると、ストッパ部材17の収容空間と、冷却水の流通空間を区別する構造、例えば水密式の仕切り板のような部材が必要となり、そのために構造が複雑になるのであるが、空冷式であると、冷却空気を直接ストッパ部材17に吹き付けても、周辺の部材に何の悪影響もないので、構造簡素化や空気漏れによるトラブルも回避できる。
【0055】
ストッパ部材17を冷却する冷却水が少しでも漏れると、近隣の部材に悪影響を及ぼすので、早急な対策が必要となり、直ちに生産ラインを停止する必要がある。しかし、空冷式であれば、少しの空気漏れであれば近隣部材への悪影響が少なくてすむので、突然のライン停止には到らず、継続稼働が可能となり、区切りのよいところでライン停止を行うなどにより、経済的損失を小量化することが可能となる。
【0056】
ストッパ部材17の大径部18と小径部19の境界部に可動端面27が形成され、ガイド孔14の大径孔15と小径孔16の境界部に静止内端面28が形成されているので、冷却空気の断続構造の一部がストッパ部材17自体に形成され、構造簡素化にとって有利である。
【0057】
溶融時にスパッタが飛散すると、ストッパ部材17内の磁石20に吸引されて電極内部を汚染する恐れがあるが、冷却空気流の排出作用により、スパッタの侵入を防止することができる。順番としては、冷却空気の流通開始後に溶接電流の通電がなされるので、ストッパ部材17の方へ飛散しようとするスパッタは、逆風の下で強制的に押し戻されることとなり、スパッタ対応としても効果的である。
【0058】
大径部18側の空気通路25、小径部19側の空気通路26および静止内端面28から可動端面27が離れることによる空気通路の3通路の流路面積を、ほぼ同じ広さにすることにより、冷却空気の流通状態を滑らかにすることができ、冷却空気の流量を増大しやすくなり、冷却効果向上にとって好適である。また、静止内端面から可動端面が離れる、離れ幅を大きく設定することにより、冷却空気流の屈曲流が少なくなり、流路屈曲にともなう圧力損失を小量化して、ストッパ部材に対する冷却空気の接触性を向上することができる。
【0059】
上述の実施例のように、ストッパ部材17の大径部18の外周面と、ガイド孔14の大径孔15の内周面との間に環状の空気通路25が設けられ、ストッパ部材17の小径部19の外周面と、ガイド孔14の小径孔16の内周面との間に環状の空気通路26が設けられている場合には、小径孔16側の空気通路隙間L1を大径孔15側の空気通路隙間L2よりも大きく設定することにより、両空気通路25、26の流路面積をほぼ同じ広さにすることができる。同時に、ストッパ部材17の可動端面27がガイド孔14の静止内端面28から離れる距離L3を選定することにより、この離隔部分における冷却空気の流路面積を上記環状の空気通路25、26の流路面積とほぼ同じにすることができる。したがって、ストッパ部材17の外側部に沿って流れる冷却空気は、乱流などの少ない滑らかな空気流となり、ストッパ部材17の表面の冷却が効果的に果たされる。
上述のように、本発明の電極によれば、磁石を内蔵しているストッパ部材に対して、直接冷却空気を接触させて効果的な冷却を行うとともに、冷却空気の断続構造の簡素化をする。したがって、自動車の車体溶接工程や、家庭電化製品の板金溶接工程などの広い産業分野で利用できる。