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  • 特開-積層体及びタイヤ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077416
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】積層体及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/16 20060101AFI20230529BHJP
   B32B 25/04 20060101ALI20230529BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
B32B25/16
B32B25/04
B60C1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186824
(22)【出願日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2021190625
(32)【優先日】2021-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】堂畑 有貴
【テーマコード(参考)】
3D131
4F100
【Fターム(参考)】
3D131AA15
3D131AA39
3D131BA08
3D131BA18
3D131BC36
3D131DA31
4F100AA37B
4F100AB01A
4F100AH03B
4F100AH03C
4F100AK28B
4F100AK28C
4F100AN02B
4F100AN02C
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA30B
4F100CA30C
4F100GB31
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】      (修正有)
【課題】金属補強材とゴム層との初期接着性を維持しつつ、熱劣化後の切断時伸びに優れた積層体を提供する。
【解決手段】金属補強材10と2層以上のゴム層20とを備える積層体であって、ゴム層は、金属補強材と接するα層20A及び該α層と接するβ層20Bを少なくとも有し、α層及びβ層は、いずれも、イソプレン骨格ゴムを60~100質量%含有するゴム成分と、窒素吸着比表面積(NSA)m/gとよう素吸着量(IA)mg/gとの比(NSA/IA)が1.2m/mg以下であるカーボンブラックと、を含み、前記β層は、さらに下記一般式(1):

[式中、R及びRは、それぞれ独立して一価の飽和炭化水素基である]で表されるアミン系老化防止剤を、ゴム成分100質量部に対して0.1~11質量部含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属補強材と、2層以上のゴム層と、を備える積層体であって、
前記ゴム層は、前記金属補強材と接するα層及び該α層と接するβ層を、少なくとも有し、
前記α層及び前記β層は、いずれも、
イソプレン骨格ゴムを60~100質量%含有するゴム成分と、
窒素吸着比表面積(NSA)m/gとよう素吸着量(IA)mg/gとの比(NSA/IA)が1.2m/mg以下であるカーボンブラックと、を含み、
前記β層は、さらに下記一般式(1):
【化1】
[式中、R及びRは、それぞれ独立して一価の飽和炭化水素基である]で表されるアミン系老化防止剤を、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~11質量部含むことを特徴とする、積層体。
【請求項2】
前記α層は、さらに前記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤を、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~11質量部含むことを特徴とする、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記一般式(1)中のR及びRが、それぞれ独立して炭素数1~20の鎖状又は環状の一価の飽和炭化水素基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記α層は、シリカを含まないことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記β層は、老化防止剤としてN-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミンを含まないことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記α層は、老化防止剤としてN-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミンを含まないことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記α層が、ベルトのコーティングゴム層を構成することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記β層における前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して50質量部未満であることを特徴とする、請求項6に記載の積層体。
【請求項9】
前記β層が、コバルトを含まないことを特徴とする、請求項6又は7に記載の積層体。
【請求項10】
前記α層が、プライのコーティングゴム層を構成することを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
前記β層が、シリカを含まないことを特徴とする、請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の積層体を用いたことを特徴とする、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイヤ、ホース等、特に強度が要求されるゴム物品には、ゴムを補強して強度及び耐久性を向上させる目的で、スチールコード等の金属補強材を被覆ゴムで被覆したスチールコード-ゴム複合体が用いられている。ここで、かかるスチールコード-ゴム複合体が高い補強効果を発揮し、信頼性を得るためには、該被覆ゴムと金属補強材との間に安定かつ強力な接着が必要である。
【0003】
被覆ゴムと金属補強材との間にこうした高い接着性を発揮するスチールコード-ゴム複合体を得るため、亜鉛、真鍮等でめっきされたスチールコード等の金属補強材を硫黄が配合された被覆ゴムに埋設し、加熱加硫時にゴムの加硫と同時にこれらを接着させる、いわゆる直接加硫接着が広く用いられている。これまで、該直接加硫接着による前記被覆ゴムと金属補強材との間のさらなる接着性向上のため、該直接加硫接着に関する様々な検討が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ブラスめっきしたスチールワイヤを湿式伸線して製造された複数本のフィラメントを撚り合わせてなるスチールコード-ゴム複合体補強用スチールコードの製造方法において、スチールワイヤ伸線時に使用する湿式潤滑剤中に、スチールコードと被覆ゴムの接着改良剤としてレゾルシンを添加することにより、フィラメント表面にかかるレゾルシンを付着させる方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法であると、スチールフィラメント伸線時の発熱によって仮にレゾルシンが変質してしまうと、スチールコードと被覆ゴムの接着改良剤としての充分な効果を期待できないおそれがあるため、何らかの代替策が要求されていた。
【0005】
また、一般にタイヤ等に用いられている直接加硫接着における被覆ゴムと金属補強材との初期接着性を向上させるために、被覆ゴムに接着プロモーターであるコバルト塩を配合したゴム組成物が採用されているものの、被覆ゴムの劣化及び亀裂成長性等に対する耐久性の向上の観点からすれば、かかるコバルト塩を可能なかぎり低減するのが望ましい。
【0006】
そのため、特許文献2には、最表面において特定の金属が特定の割合で存在し得るスチールコードを用いることによって、接着プロモーターであるコバルト塩を低減させた場合であっても、被覆ゴムとスチールコードとの初期接着性、耐熱接着性を向上させるという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-66298号公報
【特許文献2】国際公開第2011/030547号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2の技術によれば、良好なゴムと金属補強材(スチールコード)との接着性(初期接着性)を得ることができる。
しかしながら、近年、タイヤのようなゴム物品の高性能化に伴って、ゴムと金属補強材との接着性については、ますます要求は厳しくなるものと考えられており、初期接着性を維持しつつ、熱劣化後の切断時伸びについても向上が望まれている。
また、環境への負荷の観点から、ゴムやスチールコードに含まれるコバルトは、できるだけ低減することが望ましく、コバルトを使用しない場合やコバルトの使用量が少ない場合であっても、ゴムと金属コードとの接着性に優れる技術の開発が望まれていた。
【0009】
そのため、本発明の目的は、金属補強材とゴム層との初期接着性を維持しつつ、熱劣化後の切断時伸びに優れた積層体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる積層体を用いた部材の耐久性に優れたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
本発明の積層体は、金属補強材と、2層以上のゴム層と、を備える積層体であって、
前記ゴム層は、前記金属補強材と接するα層及び該α層と接するβ層を、少なくとも有し、
前記α層及び前記β層は、いずれも、
イソプレン骨格ゴムを60~100質量%含有するゴム成分と、
窒素吸着比表面積(NSA)m/gとよう素吸着量(IA)mg/gとの比(NSA/IA)が1.2m/mg以下であるカーボンブラックと、を含み、
前記β層は、さらに下記一般式(1):
【化1】
[式中、R及びRは、それぞれ独立して一価の飽和炭化水素基である]で表されるアミン系老化防止剤を、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~11質量部含むことを特徴とする。
上記構成によって、金属補強材とゴム層との初期接着性を維持しつつ、熱劣化後の切断時伸びに優れた耐熱接着性を実現できる。
【0011】
また、本発明の積層体では、前記α層は、さらに前記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤を、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~11質量部含むことが好ましい。金属補強材とゴム層との初期接着性を維持しつつ、熱劣化後の切断時伸びをより高めることができるためである。
【0012】
さらに、本発明の積層体では、前記一般式(1)中のR及びRが、それぞれ独立して炭素数1~20の鎖状又は環状の一価の飽和炭化水素基であることが好ましい。金属補強材とゴム層との初期接着性を維持しつつ、熱劣化後の切断時伸びをより高めることができるためである。
【0013】
さらにまた、本発明の積層体では、前記α層は、シリカを含まないことが好ましい。金属補強材とゴム層との耐熱接着性を維持しつつ、α層の性能低下を抑制できるためである。
【0014】
また、本発明の積層体では、前記α層及び/又は前記β層は、老化防止剤としてN-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミンを含まないことが好ましい。環境への負荷をより低減できるためである。
【0015】
さらに、本発明の積層体では、前記α層が、ベルトのコーティングゴム層を構成することが好ましく、前記β層における前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して50質量部未満であること、及び、前記β層が、コバルトを含まないことがより好ましい。金属補強材とゴム層との初期接着性を維持しつつ、熱劣化後の切断時伸びが効果的に作用するためである。
【0016】
さらにまた、本発明の積層体では、前記α層が、プライのコーティングゴム層を構成することが好ましく、前記β層が、シリカを含まないことが好ましい。金属補強材とゴム層との初期接着性を維持しつつ、熱劣化後の切断時伸びが効果的に作用するためである。
【0017】
本発明のタイヤは、上述した本発明の積層体を用いたことを特徴とする。
上記構成によって、初期接着性を維持しつつ、熱劣化後の切断時伸びに優れた部材を備えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属補強材とゴム層との初期接着性を維持しつつ、熱劣化後の切断時伸びに優れた積層体を提供することが可能となる。また、本発明によれば、かる積層体を用いた部材の耐久性に優れたタイヤを提供ことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る積層体の断面を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の積層体及びタイヤを、その実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の積層体の一実施形態について、断面を模式的に示した図である。
<積層体>
本発明の積層体は、図1に示すように、金属補強材10と、2層以上のゴム層20と、を備える積層体1である。
以下、本発明の積層体の構成要素について説明する。
【0021】
(金属補強材)
本発明の積層体は、金属補強材を備える。
前記金属補強材は、金属を含んだ補強部材であれば特限定はされず、例えば、金属コードや、金属製の板材等が挙げられる。その中でも、タイヤに適用する観点からは、金属コードであることがこのましい。
【0022】
前記金属コードは、金属製のモノフィラメント及びマルチフィラメント(撚りコード又は引き揃えられた束コード)のいずれでもよく、その形状は制限されない。金属コードが撚りコードである場合の撚り構造についても特に制限はなく、単撚り、複撚り、層撚り、複撚りと層撚りの複合撚りなどの撚り構造が挙げられる。
これらの金属コードとしては、例えば、スチール、鉄、銅等の金属からなるコードが挙げられ、ゴム組成物との接着性を好適に確保する観点から表面にめっき処理、接着剤処理などの表面処理がなされていることが好ましい。
【0023】
また、前記フィラメントの表面には、めっきが施されていてもよい。めっきの種類としては、例えば、亜鉛(Zn)めっき、銅(Cu)めっき、スズめっき(Snめっき、ブラス(銅-亜鉛(Cu-Zn)めっき)、ブロンズ(銅-スズ(Cu-Sn))めっき、銅、亜鉛及びコバルトを含む3元系めっき等が挙げられる。これらの中でも、ブラスめっきや、銅、亜鉛及びコバルトを含む3元系めっきであることが好ましい。
【0024】
(ゴム層)
本発明の積層体は、図1に示すように、2層以上のゴム層20を備え、該ゴム層20は、前記金属補強材10と接するα層20A及び該α層と接するβ層20Bを、少なくとも有する。
なお、前記ゴム層20は、本発明の積層体の用途に応じ、前記α層20A及びβ層20Bに加えて、さらなるゴム層(図示せず)を有することも可能である。
【0025】
前記α層及び前記β層は、いずれも、ゴム成分及びカーボンブラックを含むゴム組成物から構成される。
以下、α層を構成するゴム組成物を「α層ゴム組成物」、β層を構成するゴム組成物を「β層ゴム組成物」ということがあり、α層及びβ層のいずれにも該当する条件のゴム組成物は、単に「ゴム組成物」ということがある。
【0026】
そして、本発明では、前記α層及び前記β層は、いずれも、イソプレン骨格ゴムを60~100質量%含有するゴム成分と、 窒素吸着比表面積(NSA)m/gとよう素吸着量(IA)mg/gとの比(NSA/IA)が1.2m/mg以下であるカーボンブラックと、を含む。
前記NSA/IAが小さいことで、カーボンブラックの表面官能基数が少なくなるため、イソプレン骨格ゴムを主成分とするゴム成分とカーボンブラックとの反応性が抑制され、ネットワーク形成が進む結果、加硫後のゴム層の耐亀裂進展性が高まり、ひいては金属補強材とゴム層との接着性が向上する。
【0027】
・ゴム成分
前記α層及び前記β層は、イソプレン骨格ゴムを60~100質量%含有するゴム成分を含む。
ここで、イソプレン骨格ゴムは、イソプレン単位を主たる骨格とするゴムであり、具体的には、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)等が挙られる。
前記イソプレン骨格ゴムを60~100質量%含有することで、後述する本発明の効果(アミン系老化防止剤との併用による耐オゾン性の向上効果、老化後の切断時伸び(EB)及び引張強さ(TB)の低下抑制効果)が顕著に現れ易く、加硫後のゴム層の耐亀裂進展性も高まる結果、金属補強材とゴム層との接着性に寄与できる。
同様の観点から、前記ゴム成分中のイソプレン骨格ゴムの含有率は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%でもよい。
【0028】
また、前記ゴム成分は、前記イソプレン骨格ゴムに加えて、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)等のジエン系ゴムを含むこともできる。これらのゴムを含有することで、ゴム組成物のゴム弾性が優れ、タイヤ用途により好適なゴム組成物となる。
なお、前記α層及び前記β層に要求される性能に応じて、前記ジエン系ゴムに加えて、非ジエン系ゴムをさらに含有することもできる。
【0029】
・カーボンブラック
前記α層及び前記β層は、前記ゴム成分に加えて、窒素吸着比表面積(NSA)とよう素吸着量(IA)との比(NSA/IA)が1.2m/mg以下であるカーボンブラックをさらに含む。
SA/IAは、よう素吸着量(iodine adsorption number;IA)〔mg/g〕に対する窒素吸着比表面積(nitrogen adsorption specific surface area;N2SA)〔m/g〕の値であり、NSA/IAの単位は〔m/g〕/〔mg/g〕=〔m/mg〕である。
【0030】
SA/IAの値が小さいと、カーボンブラックの表面官能基数が少なく、ゴム成分とカーボンブラックとの反応性が抑制され、樹脂等を介したカーボンブラック同士のネットワーク形成が進むため、加硫ゴムの耐亀裂進展性及び金属補強材と加硫ゴムとの接着性に優れる。
カーボンブラック同士のネットワーク形成をより高める観点から、NSA/IAは1.10m/mg未満であることが好ましく、1.06m/mg以下であることがより好ましい。NSA/IAが0.85m/mgよりも小さいカーボンブラックは入手しにくく、また、ゴム成分とカーボンブラックとの間にある程度の反応性があることで、カーボンブラック同士のネットワーク形成をより高めることができるため、NSA/IAは0.90m/mg以上であることが好ましく、0.93m/mg以上であることがより好ましく、0.94m2/mg以上であることがさらに好ましい。
【0031】
窒素吸着比表面積(N2SA)は、70~90m/gであることが好ましく、75~85m/gであることがより好ましい。カーボンブラックのストラクチャの適正化を図ることができるため、低発熱性及び耐亀裂進展性、並びに、金属補強材とゴムとの接着性のさらなる改善ができる。なお、カーボンブラックのストラクチャとは、球状のカーボンブラック粒子がそれぞれ融着し、繋がった結果、形成された構造体(カーボンブラック粒子の凝集体)の大きさのことである。なお、窒素吸着比表面積は、ISO4652-1に準拠して単点法にて測定することができ、例えば、脱気したカーボンブラックを液体窒素に浸漬させた後、平衡時においてカーボンブラック表面に吸着した窒素量を測定し、測定値から比表面積(m/g)を算出できる。
【0032】
よう素吸着量(IA)は、60~120mg/gであることが好ましく、70~100mg/gであることがより好ましい。かかる範囲であることで、表面積の適正化を図ることでゴムの低発熱性を改善することができる。
なお、よう素吸着量は、JISK6217-1(2008)〔ゴム用カーボンブラック-基本特性-第1部:よう素吸着量の求め方(滴定法)〕に準拠した方法にて測定することができる。
【0033】
更に、カーボンブラックは、DBP(ジブチルフタレート)吸収量が50~100cm/100gであることが好ましい。
DBP吸収量が50~100cm/100gであり、ストラクチャの低いカーボンブラックを用いることで、ゴム組成物の補強性と適度な柔軟性を両立することができ、より優れた耐亀裂進展性を得ることができる。カーボンブラックのDBP吸収量は、90cm/100g以下であることがより好ましく、80cm/100g以下であることがさらに好ましい。
また、カーボンブラックのDBP吸収量は、カーボンブラック100gが吸収するDBP(ジブチルフタレート)の量を表し、JIS K 6217-4(2008年)に準拠した方法にて測定することができる。
【0034】
カーボンブラックの種類は、NSA/IAが1.2m/mg以下であれば特に限定はされず、例えば、オイルファーネス法により製造された任意のハードカーボンを用いることができる。これらの中でも、より優れた低発熱性及び耐亀裂進展性、並びに、金属補強材とゴムとの接着性を実現する観点からは、HAFグレードのカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0035】
なお、前記α層及び前記β層を構成するゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、35~45質量部であることが好ましい。カーボンブラックの含有量を、ゴム成分100質量部に対して、35質量部以上とすることで、高い補強性及び耐亀裂進展性、並びに、金属補強材とゴムとの接着性を得ることができ、45質量部以下とすることで、低発熱性のさらなる改善を図ることができる。
・老化防止剤
本発明の積層体では、前記ゴム層のβ層が、上述したゴム成分及びカーボンブラックに加えて、下記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤をさらに含む。
【化2】
[式中、R及びRは、それぞれ独立して一価の飽和炭化水素基である]
【0036】
従来、複数のゴム層から形成される積層体については、各層に含まれる老化防止剤の濃度勾配に起因して、一方のゴム層から他方のゴム層へと(例えば、β層からα層へと)老化防止剤が移行することがある。そして、老化防止剤が、接着界面にあるゴム(α層)へ移行する場合には、高濃度化した老化防止剤の影響によってゴムと金属補強材との間の接着性が低下するという問題があった。この問題は、高温での使用時に多く見られることから、熱劣化後のβ層の切断時伸びの改善が強く望まれていた。
そのため、本発明の積層体では、β層中に含まれる老化防止剤を、他の老化防止剤に比べてゴム中を移動する速度が緩やかな老化防止剤(上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤)とすることによって、上述したα層中に老化防止剤が高濃度化するのを防ぎ、ゴム層と金属部材との熱劣化後のβ層の切断時伸びを高めることが可能になる。
【0037】
また、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(老化防止剤6PPD)と同様にフェニレンジアミン部分を含むものの、該フェニレンジアミン部分以外には二重結合を有しない点で、老化防止剤6PPDと異なるため、環境への負荷が少ない。
さらに、一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、ゴム組成物の耐オゾン性を向上させ、老化後の切断時伸び(EB)及び引張強さ(TB)の維持率の低下を抑制する作用も有する。
【0038】
ここで、上記一般式(1)中のR及びRは、それぞれ独立して一価の飽和炭化水素基である。RとRは、同一でも異なってもよいが、合成上の観点から、同一であることが好ましい。
【0039】
また、前記一価の飽和炭化水素基の炭素数は、1~20が好ましく、3~10がより好ましく、6及び7が特に好ましい。飽和炭化水素基の炭素数が20以下であると、単位質量当たりのモル数が大きくなるため、老化防止効果が大きくなり、ゴムと金属コードとの接着力低下をより抑制でき、ゴム組成物の耐オゾン性も向上する。同様の観点から、上記一般式(1)中のR及びRは、それぞれ独立して炭素数1~20の鎖状又は環状の一価の飽和炭化水素基であることが好ましい。
【0040】
ここで、前記一価の飽和炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基が挙げられ、アルキル基は、直鎖状でも、分岐鎖状でもよく、また、シクロアルキル基には、置換基としてさらにアルキル基等が結合していてもよい。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,2-ジメチルペンチル基、1,3-ジメチルペンチル基、1,4-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,4-ジメチルペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基等が挙げられ、これらの中でも、1,4-ジメチルペンチル基が好ましい。
前記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられ、これらの中でも、シクロヘキシル基が好ましい。
【0041】
また、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤として、具体的には、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン(老化防止剤77PD)、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジシクロヘキシル-p-フェニレンジアミン(老化防止剤CCPD)等が挙げられる。これらの中でも、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン(老化防止剤77PD)、N,N’-ジシクロヘキシル-p-フェニレンジアミン(CCPD)が好ましく、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン(老化防止剤77PD)が特に好ましい。前記アミン系老化防止剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
また、前記β層ゴム組成物中の上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤の含有量は、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤である。前記アミン系老化防止剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上である場合には、ゴム組成物の耐オゾン性や、ゴムと金属補強材との接着性を十分に確保することができ、老化後のゴム組成物の切断時伸び(EB)及び引張強さ(TB)の低下も十分に抑制することができる。一方、前記アミン系老化防止剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して11質量部以下の場合には、発熱性等のゴム物性への悪影響をより確実に抑えることができ、タイヤ用途に適したものとなる。
さらに、β層ゴム組成物の耐オゾン性や、ゴムと金属コードとの接着性の観点から、前記アミン系老化防止剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して1質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることがさらに好ましく、2質量部以上であることが特に好ましい。さらにまた、前記アミン系老化防止剤の含有量は、他のゴム物性へ悪影響を抑える観点から、前記ゴム成分100質量部に対して8質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0043】
なお、本発明の積層体では、前記ゴム層のうち、前記β層が上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤を要するが、前記α層についても同様に、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤を含むことが好ましい。この場合、上述した熱劣化後のβ層の切断時伸びをより高めることができる。なお、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤の構成は、上述した通りである。
前記α層が上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤を含む場合、前記α層ゴム組成物中の上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~11質量部であることが好ましく、1~8質量部であることがより好ましく、2~5質量部であることがさらに好ましい。
【0044】
なお、前記α層及び/又は前記β層は、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤以外の老化防止剤(その他の老化防止剤)を含むことができる。前記その他の老化防止剤としては、例えば、キノリン系老化防止剤が挙げられる。該キノリン系老化防止剤は、キノリン部分又はその誘導体部分(ジヒドロキノリン部分等)を有する老化防止剤である。
前記キノリン系老化防止剤は、各ゴム組成物に含まれることによって、耐オゾン性を向上させ、老化後の切断時伸び(EB)及び引張強さ(TB)の維持率の低下を抑制する作用を有する。
【0045】
前記キノリン系老化防止剤は、ジヒドロキノリン部分を有することが好ましく、1,2-ジヒドロキノリン部分を有することがより好ましい。
前記キノリン系老化防止剤として、具体的には、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合体(老化防止剤TMDQ)、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン、6-アニリノ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等が挙げられる。
前記キノリン系老化防止剤は、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合体(老化防止剤TMDQ)を含むことが好ましい。2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合体を含むキノリン系老化防止剤は、ゴム組成物の耐オゾン性を向上させる効果が高く、また、ゴム組成物を変色させ難いという利点も有する。
なお、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合体としては、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの二量体、三量体、四量体等が挙げられる。
【0046】
また、前記α層ゴム組成物及び前記β層ゴム組成物中のキノリン系老化防止剤の含有量は、前記アミン系老化防止剤の含有量に対する前記キノリン系老化防止剤の含有量の質量比で0.27~0.7の範囲であることが好ましい。
例えば、ゴム物性への悪影響を抑えつつ、耐オゾン性を十分に確保し、老化後の接着性や、ゴム組成物の切断時伸び(EB)及び引張強さ(TB)の低下を十分に抑制できる観点からは、前記キノリン系老化防止剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~5質量部であることが好ましい。前記キノリン系老化防止剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上の場合には、ゴム組成物の耐オゾン性を十分に確保することができ、老化後の接着性や、ゴム組成物の切断時伸び(EB)及び引張強さ(TB)の低下を十分に抑制することができる。一方、キノリン系老化防止剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以下の場合には、ゴム物性(発熱性等)への悪影響を抑え、タイヤ用途に適したものとすることができる。
また、耐オゾン性や接着性をより高める観点から、前記α層ゴム組成物及び/又は前記β層ゴム組成物中のキノリン系老化防止剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0.3質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好まし。さらに、他のゴム物性へ悪影響をより確実に抑える観点から、前記ゴム成分100質量部に対して4質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることがさらに好ましい。
【0047】
なお、前記α層及び前記β層は、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤及びキノリン系老化防止剤以外の老化防止剤も含むこともできる。ただし、環境への負荷を低減する観点からは、老化防止剤としてN-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミンを含まないことが好ましい。
【0048】
・シリカ
前記α層及び前記β層は、必要に応じてシリカを含むこともできる。
ただし、前記α層は、前記金属補強材との接着層としての性能低下を抑制する観点から、シリカを含まないことが好ましい。
なお、前記β層がシリカを含む場合のシリカ含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、1質量部以上10質量部以下がさらに好ましい。
【0049】
また、前記シリカの種類については、特に制限はなく、例えば、湿式シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
上述した中でも、前記シリカは、湿式シリカであることが好ましく、沈降シリカであることがより好ましい。これらのシリカは、分散性が高く、低発熱性の改善を図り、且つ、耐亀裂性をより向上できる。なお、沈降シリカとは、製造初期に、反応溶液を比較的高温、中性~アルカリ性のpH領域で反応を進めてシリカ一次粒子を成長させ、その後酸性側へ制御することで、一次粒子を凝集させる結果得られるシリカのことである。
また、前記シリカは、市販品でもよく、例えば、ローディア社のZeosilPremium 200MP(商品名)として、入手することができる。
なお、前記シリカは、一種のみ用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0050】
・樹脂
前記α層及び前記β層は、必要に応じて樹脂を含むこともできる。
前記α層及び前記β層が樹脂を含むことで、樹脂を介して前記カーボンブラック同士のネットワーク形成を行うことができ、耐亀裂進展性を高めることができる。
なお、前記樹脂は、特に限定はされないが、加硫ゴムの耐亀裂進展性をより高める観点から、10.3(cal/cm)1/2以上であることが好ましく、11.0(cal/cm)1/2以上であることがより好ましく、12.0(cal/cm)1/2以上であることが更に好ましく、12.5(cal/cm)1/2以上であることがより更に好ましい。SP値が16(cal/cm)1/2を超える樹脂は入手することが困難である。
樹脂のSP値は、Flory-Hugginsの式に従って算出することができる。
【0051】
また、前記樹脂の種類としては、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、クマロン・インデン樹脂、キシレン樹脂、ロジン系樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂肪族系炭化水素樹脂、脂環族系炭化水素樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。
以上の中でも、前記樹脂は、ジシクロペンタジエン系樹脂(DCPD系樹脂)及びフェノール樹脂が好ましく、フェノール樹脂がより好ましい。
【0052】
前記テルペン樹脂は、テルペン重合体又はその変性物を主成分とする樹脂であり、ヤスハラケミカル(株)製の商品名「YSレジンPX」、「YSレジンPXN」、「YSレジンTO」及び「YSレジンTR」の各シリーズ、ハーキュリーズ社製の商品名「ピコライト」シリーズ等が挙げられる。
【0053】
フェノール樹脂は、ノボラック系の熱可塑性フェノール樹脂が好ましく、住友ベークライト(株)製の商品名「スミライトレジンPR」シリーズ、荒川化学工業(株)製の商品名「タマノル501」等が挙げられる。
【0054】
前記クマロン・インデン樹脂は、コールタール中のクマロン、インデン、スチレン等を重合させたものであり、神戸油化学工業(製)のクマロン樹脂シリーズ等が挙げられる。
キシレン樹脂は、キシレンとホルムアルデヒドを縮合して得られる樹脂又はその変性物であり、リグナイト(株)製の商品名「リグノール」シリーズ等が挙げられる。
【0055】
前記ロジン系樹脂としては、ロジンのペンタエリスリトール・エステル、ロジンのグリセロール・エステル、重合ロジン、水素添加ロジン等が挙げられる。
【0056】
前記芳香族系炭化水素樹脂は、C9留分から製造された石油樹脂であり、JX日鉱日石エネルギー(株)製の商品名「日石ネオポリマー」シリーズ等が挙げられる。
脂肪族系炭化水素樹脂は、C5留分から製造された石油樹脂であり、エクソンモービル社製の商品名「エスコレッツ」シリーズ、日本ゼオン(株)製の商品名「クイントン100」シリーズ等が挙げられる。
【0057】
脂環族系炭化水素樹脂は、例えば、C5留分から抽出された高純度のシクロペンタジエンを主原料に製造された石油樹脂が挙げられるが、C5系樹脂はSP値が10(cal/cm)1/2未満であるものが多い。従って、樹脂のSP値を10(cal/cm)1/2以上とするために、シクロペンタジエンを二量体化した高純度のジシクロペンタジエンを主原料に製造したジシクロペンタジエン系樹脂(DCPD系樹脂)を用いることが好ましい。
【0058】
前記ジシクロペンタジエン系樹脂としては、日本ゼオン社製、クイントン1000シリーズ(クイントン1105、クイントン1325、クイントン1340)等が好適に挙げられる。
【0059】
なお、前記α層ゴム組成物及び前記β層ゴム組成物中の前記樹脂の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、2~10質量部であることが好ましく、3~7質量部であることがより好ましい。前記樹脂の含有量を、ゴム成分100質量部に対して、2質量部以上とすることで、耐亀裂進展性をさらに改善することができ、10質量部以下とすることで、低発熱性の悪化を抑制することができる。
【0060】
また、前記α層ゴム組成物及び/又は前記β層ゴム組成物は、前記樹脂成分として、メチレン供与体を含むこともできる。
メラミン供与体は、前記フェノール樹脂の硬化剤として機能し、ゴムの引張強度を向上できることに加え、優れた低発熱性を維持しつつ、ゴム組成物の補強性を向上することができる。
さらに、前記α層及び前記β層の低発熱性及び耐亀裂進展性をより向上する観点から、樹脂成分は、フェノール樹脂とメチレン供与体とから構成することが好ましい。
【0061】
なお、メチレン供与体の種類は、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜選択することができる。例えば、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン、ペンタメトキシメチロールメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ペンタメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサキス-(メトキシメチル)メラミン、N,N’,N”-トリメチル-N,N’,N”-トリメチロールメラミン、N,N’,N”-トリメチロールメラミン、N-メチロールメラミン、N,N’-(メトキシメチル)メラミン、N,N’,N”-トリブチル-N,N’,N”-トリメチロールメラミン、パラホルムアルデヒド等が挙げられる。これらの中でも、メチレン供与体は、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン及びパラホルムアルデヒドからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
なお、これらのメチレン供与体は、1種単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0062】
・その他成分
前記α層及び前記β層は、上述したゴム成分、カーボンブラック及び老化防止剤、任意成分としてのシリカ及び樹脂に加えて、加硫促進剤、ビスマレイミド化合物、軟化剤、ステアリン酸、亜鉛華、ワックス、オイル等の、ゴム工業界で通常使用されている添加剤を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜含むことができる。
【0063】
前記加硫促進剤の種類については、特に限定はされず、グアニジン系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系、ザンテート系等の加硫促進剤が挙げられる。これらの加硫促進剤は、一種のみ用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
また、上述した加硫促進剤の中でも、前記ゴム組成物の加硫後の強度をより高めることができる観点からは、スルフェンアミド系の加硫促進剤を用いることが好ましい。
前記スルフェンアミド系の加硫促進剤としては、例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-メチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-エチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-プロピル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ペンチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ヘプチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オクチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-2-エチルヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-デシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ドデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ステアリル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジメチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジエチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジプロピル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジペンチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジヘプチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジオクチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジ-2-エチルヘキシルベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジドデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジステアリル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等が挙げられる。
これらの中でも、前記加硫促進剤は、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを少なくとも含むことがより好ましい。
【0064】
さらに、前記α層ゴム組成物及び前記β層ゴム組成物中の前記加硫促進剤の含有量は、前記ゴム層の低発熱性と耐亀裂性とをさらに向上する観点から、前記ゴム成分100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、また、2.0質量部以下であることが好ましく、1.8質量部以下であることがより好ましく、1.6質量部以下であることがさらに好ましい。
【0065】
また、前記その他成分のうち、亜鉛華(ZnO)については、加硫促進助剤として用いられる。
前記亜鉛華をさらに含むことによって、加硫を促進させ、前記ゴム層の強度をより高めることができる。
ここで、前記α層ゴム組成物及び前記β層ゴム組成物中の前記亜鉛華の含有量については、特に限定はされないが、前記ゴム層の低発熱性と耐亀裂性とをさらに向上する観点からは、前記ゴム成分100質量部に対して、5~13質量部であることが好ましく、7~10質量部であることがより好ましい。
【0066】
なお、前記α層及び前記β層は、前記ゴム層と前記金属補強材との接着性を高める観点からは、コバルト化合物を含むこともできる。コバルト化合物の種類については、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜選択することができる。
ただし、環境への負荷を低減する観点からは、前記α層及び前記β層は、コバルトを含まない(コバルトフリー)ものとすることもできる。なお、前記α層及び前記β層中にコバルトを含まないとは、前記α層ゴム組成物及び前記β層ゴム組成物中に積極的にコバルトを配合しないことを意味し、不可避的にコバルトが含まれる場合や、金属補強材からゴム層へと移行したコバルトは除くものとする。
【0067】
前記α層ゴム組成物及び前記β層ゴム組成物の製造方法は、特に限定はされない。
例えば、上述した各成分を配合して、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を使用して混練りすることによって製造することができる。
また、前記α層ゴム組成物及び前記β層ゴム組成物の各成分の混練は、全一段階で行ってもよく、二段階以上に分けて行ってもよい。
【0068】
なお、本発明の積層体の用途は、特に限定はされない。例えば、各種自動車用タイヤ、コンベアベルト、ホース、ゴムクローラなど、特に強度が要求されるゴム物品に用いられる補強材として用いることができる。
特に、各種自動車用ラジアルタイヤのベルト、カーカスプライ、ワイヤーチェーファーなどの補強部材として好適に用いることができる。
【0069】
(ベルトコーティングゴム)
本発明の積層体は、上述した用途の中でも、タイヤのベルトとして用いることが好ましい。
この場合、前記ゴム層の前記α層を、ベルトのコーティングゴム層として用いることができる。これによって、本発明の積層体による初期接着性を維持しつつ、熱劣化後の切断時伸びの向上効果を、より顕著に作用させることができる。
【0070】
なお、本発明の積層体をタイヤのベルトとして用いた場合には、前記ゴム層のβ層中のカーボンブラック含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して50質量部未満であることが好ましい。
前記金属補強材と前記ゴム層との優れた熱劣化後の切断時伸びを確保しつつ、低発熱性等の物性も良好に維持できるためである。
【0071】
また、本発明の積層体をタイヤのベルトとして用いた場合には、前記ゴム層のβ層中には、コバルトを含まないことが好ましい。環境への負荷を低減できるとともに、前記β層中にコバルトを含まなくとも、前記金属補強材との接着性は維持できるためである。
【0072】
(プライコーティングゴム)
本発明の積層体は、上述した用途の中でも、タイヤのカーカスプライとして用いることが好ましい。
この場合、前記ゴム層の前記α層を、プライのコーティングゴム層として用いることができる。これによって、本発明の積層体による初期接着性を維持しつつ、熱劣化後の切断時伸びの向上効果を、より顕著に作用させることができる。
【0073】
また、本発明の積層体をタイヤのカーカスプライとして用いた場合には、前記ゴム層のβ層中には、シリカを含まないことが好ましい。前記β層中にシリカを含まなくとも、要求される性能を確保できるためである。
【0074】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、上述した本発明の積層体を用いたことを特徴とする。
タイヤを構成する部材中に、本発明の積層体を用いることによって、ゴム層と金属補強材との接着性に優れた部材が得られ、ひいてはタイヤの耐久性についても改善を図ることができる。
【0075】
また、本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましく、該空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
なお、本発明のタイヤの製造方法は特に限定されず、常法に基づき製造することができる。一般に、各種成分を含有させたゴム組成物が未加硫の段階で各部材に加工され、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形され、生タイヤが成形される。この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、タイヤが製造される。例えば、本発明のゴム組成物を混練の上、得られたゴム組成物で金属コードをゴム引きして未加硫のベルト、未加硫のカーカス、及び他の未加硫部材を積層し、未加硫積層体を加硫することでタイヤを得ることができる。
【実施例0076】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0077】
<実施例1~4、比較例1~4>
表1に示す成分組成に従って、金属コード被覆ゴム層を構成するα層ゴム組成物及びβ層ゴム組成物を調製する。
<比較例5及び実施例5>
(ゴム組成物の調製)
表2に示す配合処方に従って、ゴム組成物を製造した。金属コード被覆ゴム層を構成するα層ゴム組成物及びβ層ゴム組成物を調製した。
その後、後述するスチールコードを、ゴム組成物で被覆し、評価を行った。
【0078】
なお、各実施例及び比較例の中で用いられるスチールコードは、次の通り作製した。
実施例1~3及び比較例1~3では、銅63.0質量%、亜鉛 37.0質量%、にて、銅、亜鉛の順に直径1.7 mmのスチールワイヤにめっきを繰り返し、その後 550℃において5秒間熱拡散処理を行い、所望する二元系めっきを得た後、伸線加工を施し、めっき平均厚み0.25μm、直径0.30mmのスチールワイヤを得た。得られた各スチールワイヤを用いて、1×3×0.30(mm)構造の撚りコードであるスチールコードを作製した。
また、実施例4~5及び比較例4~5では、銅63.0質量%、亜鉛 37.0質量%、にて、銅、亜鉛の順に直径1.7 mmのスチールワイヤにめっきを繰り返し、その後 550℃において5秒間熱拡散処理を行い、所望する二元系めっきを得た後、伸線加工を施し、めっき平均厚み0.22μm、直径0.24mm、0.225mm、0.15mmのスチールワイヤを得た。得られた各スチールワイヤを用いて、3×0.24/9×0.225+0.15(mm)構造の撚りコードであるスチールコードを作製した。
【0079】
<評価>
以下の条件で、各サンプルの金属コード-ゴム積層体について評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0080】
(1)初期接着性
上述したスチールコードを、5cm幅に25本を平行に並べ、このスチールコードを上下からα層ゴム組成物で被覆し、コードを被覆したα層ゴム組成物を厚さ3mmのβ層ゴム組成物に貼り付け、145℃で40分間加硫して、ゴム組成物とスチールコードとを接着させた。このようにして、厚さ1mmのゴムシートにスチールコードが埋設された、スチールコード-ゴム複合体を得た。
ASTM D 2229に準拠して、加硫直後の各サンプルからスチールコードを引き抜き、スチールコードに付着しているゴムの被覆率を、目視観察にて0~100%で決定して初期接着性の指標とした。得られた被覆率を表2に示す。なお、被覆率は高いほど初期接着性に優れることを示す。
【0081】
(2)熱劣化後の切断時伸び(EB)の保持率
ゴム組成物を加硫して、加硫ゴム試験片を準備した。作製直後の試験片に対して、JISK 6251に準拠して引張試験を行い、初期の切断時伸び(EB)を測定した。
次に、加硫ゴム試験片を100℃で24時間放置して熱劣化させ、熱劣化後の試験片に対して、JIS K 6251に準拠して引張試験を行い、熱劣化後の切断時伸び(EB)を測定した。
初期の切断時伸び(EB)と、熱劣化後の切断時伸び(EB)とから、下記式に従い熱劣化後の切断時伸び(EB)の保持率を算出した。
熱劣化後の切断時伸び(EB)の保持率=熱劣化後の切断時伸び(EB)/初期の切断時伸び(EB)×100(%)
更に、比較例5の熱劣化後の切断時伸び(EB)の保持率を100として、指数表示した。指数値が大きい程、熱劣化後の切断時伸び(EB)の保持率が高く、耐熱劣化性(熱劣化後の耐久性)が高いことを示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
*1 天然ゴム、RSS#3
*2 天然ゴム、TSR#20
*3 HAF級カーボンブラック、旭カーボン株式会社製「旭#70L」(窒素吸着比表面積:81m2/g、よう素吸着量:85mg/g、NSA/IA:0.95m/mg)
*4 カーボンブラック、CABOT社製「VALCAN 7H」(窒素吸着比表面積:117m2/g、よう素吸着量:120mg/g、NSA/IA:0.975m/mg)
*5 東ソー・シリカ株式会社製「ニップシール AQ」
*6 新日本理化株式会社製、「ステアリン酸50S」
*7 精工化学株式会社製「ノンフレックス RD」
*8 精工化学株式会社製「ノンフレックス RD-S」
*9 N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業株式会社製、「ノクラック 6C」
*10 N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン
*11 2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、大内新興化学工業株式会社製、「ノクラック NS-6」
*12 有機酸コバルト塩中の有機酸の一部をホウ酸で置き換えた複合塩、OMG製「マノボンドC」
*13 バーサチック酸コバルト、DIC株式会社製
*14 アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、SUMITOMO BAKELITE EUROPE、「DUREZ 19900」
*15 日本ゼオン株式会社製「クイントン 1105」
*16 スルフェンアミド系加硫促進剤、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業株式会社製、「ノクセラー NS-P」
*17 スルフェンアミド系加硫促進剤、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業株式会社製、「ノクセラー CZ-G」
*18 細井化学工業株式会社製「HK200-5」
*19 鶴見化学工業株式会社製「粉末硫黄」
【0085】
表1の結果から、実施例のサンプルについては、各比較例のサンプルに比べて、初期接着性を維持しつつ、熱劣化後の切断時伸びについて優れた効果を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、金属補強材とゴム層と初期接着性を維持しつつ、熱劣化後の切断時伸びの優れた積層体を提供することが可能となる。また、本発明によれば、かる積層体を用いた部材の耐久性に優れたタイヤを提供ことが可能となる。
図1