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特開2023-77459誘導電動機の定数推定装置および誘導電動機の定数推定方法
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  • 特開-誘導電動機の定数推定装置および誘導電動機の定数推定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077459
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】誘導電動機の定数推定装置および誘導電動機の定数推定方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/16 20160101AFI20230530BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
H02P21/16
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190712
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】柴田 翔
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB07
5H505CC05
5H505DD03
5H505DD05
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505HA08
5H505HB02
5H505JJ04
5H505LL22
(57)【要約】
【課題】誘導電動機の一次抵抗および二次抵抗を簡易に精度良く推定する誘導電動機の定数推定装置を提供する。
【解決手段】電流検出器1はインバータINVから出力される電流検出値iU,iV,iWを検出する。定数推定用電流指令値演算器3は、単相交流試験用の電流指令値を生成し、電流指令値と電流検出値との差分により電流制御を行い、三相電圧指令値VU *,VV *,VW *を出力する。PWMゲート信号生成器5は、三相電圧指令値VU *,VV *,VW *に基づいてPWM制御を行い、インバータINVのゲート信号を生成する。モータ定数演算器2は、三相のうち少なくとも何れか一相における単相交流試験終了前のN周期(Nは正の整数)の平均電流と平均電圧と有効電力と電流実効値に基づいて、誘導電動機IMの一次抵抗R1と二次抵抗R2を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータから出力された電圧により駆動制御される誘導電動機の定数推定装置であって、
前記インバータから出力される電流検出値を検出する電流検出器と、
単相交流試験用の電流指令値を生成し、前記電流指令値と前記電流検出値との差分により電流制御を行い、三相電圧指令値を出力する定数推定用電流指令値演算器と、
前記三相電圧指令値に基づいてPWM制御を行い、前記インバータのゲート信号を生成するPWMゲート信号生成部と、
三相のうち少なくとも何れか一相における単相交流試験終了前のN周期(Nは正の整数)の平均電流と平均電圧と有効電力と電流実効値に基づいて、前記誘導電動機の一次抵抗と二次抵抗を推定するモータ定数演算器と、
を備えたことを特徴とする誘導電動機の定数推定装置。
【請求項2】
前記定数推定用電流指令値演算器は、
電流指令値振幅と電流指令値周波数と電流指令値直流重畳量に基づいてd軸電流指令値を生成する電流指令生成処理部と、
三相の電流検出値をd軸電流検出値,q軸電流検出値に変換する三相二相変換器と、
前記d軸電流指令値と前記d軸電流検出値との偏差、および、零であるq軸電流指令値と前記q軸電流検出値との偏差に基づいて、d軸電圧指令値とq軸電圧指令値を出力する電流制御器と、
前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値を前記三相電圧指令値に変換する二相三相変換器と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の誘導電動機の定数推定装置。
【請求項3】
前記誘導電動機の一次抵抗および二次抵抗は以下の(8)式~(11)式により算出することを特徴とする請求項2記載の誘導電動機の定数推定装置。
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
1:一次抵抗
2:二次抵抗
R:抵抗成分
um:U相の平均電圧
um:U相の平均電流
u:U相の有効電力
u’:直流を重畳していない場合のU相の有効電力
rms:U相の電流実効値
【請求項4】
前記電流指令生成処理部は、
前記電流指令値直流重畳量を2つ以上選択できるようにし、
前記モータ定数演算器は、
それぞれの前記電流指令値直流重畳量における三相のうち少なくとも何れか一相の単相交流試験終了前のN周期の前記平均電流と前記平均電圧と前記有効電力と前記電流実効値に基づいて、前記誘導電動機の一次抵抗と二次抵抗を推定することを特徴とする請求項2または3記載の誘導電動機の定数推定装置。
【請求項5】
前記電流指令生成処理部は、
前記電流指令値周波数を2つ以上選択できるようにし、
前記モータ定数演算器は、
それぞれの前記電流指令値周波数における三相のうち少なくとも何れかに一相の単相交流試験終了前のN周期の前記平均電流と前記平均電圧と前記有効電力と前記電流実効値に基づいて、前記誘導電動機の一次抵抗と二次抵抗を推定することを特徴とする請求項2または3に記載の誘導電動機の定数推定装置。
【請求項6】
前記モータ定数演算器は、
三相の各相において、単相交流試験終了前のN周期の前記平均電流と前記平均電圧と前記有効電力と前記電流実効値に基づいて、前記誘導電動機の一次抵抗と二次抵抗を推定し、各相における前記一次抵抗と前記二次抵抗の平均値を前記誘導電動機の一次抵抗と二次抵抗とすることを特徴とする請求項1~5のうち何れかに記載の誘導電動機の定数推定装置。
【請求項7】
インバータから出力された電圧により駆動制御される誘導電動機の定数推定方法であって、
電流検出器が、前記インバータから出力される電流検出値を検出し、
定数推定用電流指令値演算器が、単相交流試験用の電流指令値を生成し、前記電流指令値と前記電流検出値との差分により電流制御を行い、三相電圧指令値を出力し、
PWMゲート信号生成器が、前記三相電圧指令値に基づいてPWM制御を行い、前記インバータのゲート信号を生成し、
モータ定数演算器が、三相のうち少なくとも何れか一相における単相交流試験終了前のN周期(Nは正の整数)の平均電流と平均電圧と有効電力と電流実効値に基づいて、前記誘導電動機の一次抵抗と二次抵抗を推定する、
ことを特徴とする誘導電動機の定数推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機の駆動を行う電力変換システムにおいて、制御に用いる誘導電動機の回路定数である一次抵抗および二次抵抗を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図6に、従来における誘導電動機駆動用の電力変換システムの構成を示す。電力変換器(以下、インバータINVと称する)の出力に電流検出器1を設けている。定数推定用電流指令値演算器3は電流指令値を生成し、各相の電圧指令値VU *、VV *,VW *を出力する。PWMゲート信号生成器5は電圧指令値VU *、VV *,VW *に基づいてインバータINVのゲート信号を生成する。
【0003】
電流実効値演算器4は電流検出値iU,iV,iWに基づいて電流実効値を演算する。モータ定数演算器2は、電流検出値iU,iV,iW、電流実効値、定格電圧Vn、定格電流In、容量Pn、定格周波数fnに基づいてモータ定数を演算する。なお、定格電圧Vn、定格電流In、容量Pn、定格周波数fnは誘導電動機IMの定格銘板等に記載されている既知の定数である。
【0004】
誘導電動機IMを精度良く制御するためには、誘導電動機IMの回路定数を推定する技術が必要である。図7に、誘導電動機IMのT形等価回路を示す。R1は一次抵抗、R2は二次抵抗、L1は一次自己インダクタンス、L2は二次自己インダクタンス、Mは相互インダクタンス、sは滑りである。特に一次抵抗R1の推定誤差に関しては制御の不安定化の原因となり、二次抵抗R2の推定誤差に関してはトルク制御の精度劣化などの原因となる。
【0005】
特許文献1では一次抵抗を推定する直流電圧を印加(直流試験)するステップと、二次抵抗および各インダクタンスを推定する単相交流電圧を印加(単相交流試験)するステップがある。
【0006】
直流試験では、平均値を演算した平均電圧vumと平均電流iumとを用いて(1)式により一次抵抗R1を求める。
【0007】
【数1】
【0008】
単相交流試験では、電圧指令値Vu *と電流検出値iuから(2)式により有効電力Pmを演算する。
【0009】
【数2】
【0010】
(2)式で求めた有効電力Pmと直流試験により求めた一次抵抗R1の値を用いて、二次抵抗R2を(3)式により求める。
【0011】
【数3】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2015-061492号公報
【特許文献2】特開平10-160809号公報
【特許文献3】特開平07-325132号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】池内大典、“誘導電動機の入力と出力、各種特性、比例推移、始動後の速度特性”、[online]、公益社団法人日本電気技術者協会、[2021年11月1日検索]、インターネット<https://jeea.or.jp/course/contents/12130/>
【非特許文献2】“モータドライブに関する質問(3)”、[online]、一般社団法人電気学会産業応用部門D部門、[2021年11月20日検索]、インターネット<http://denki.iee.jp/ias/?qanda=モータドライブに関する質問3>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように特許文献1では、一次抵抗および二次抵抗を推定するために直流試験と交流試験の2種類の試験を必要とする。また、電力を演算する際に積分処理を実装する必要がある。
【0015】
特許文献2,3においては一次抵抗と二次抵抗の和を推定するために単相交流試験を実施し、検出電圧、検出電流の位相と大きさを測定する必要がある。単相交流試験のみでは一次抵抗と二次抵抗の和しか求められず、一次抵抗と二次抵抗を分離するためには別途直流試験などを実施する必要がある。また、電圧、電流の位相検出誤差が一次抵抗および二次抵抗の推定誤差に影響を及ぼす。
【0016】
以上示したようなことから、誘導電動機の一次抵抗および二次抵抗を簡易に精度良く推定する誘導電動機の定数推定装置を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、インバータから出力された電圧により駆動制御される誘導電動機の定数推定装置であって、前記インバータから出力される電流検出値を検出する電流検出器と、単相交流試験用の電流指令値を生成し、前記電流指令値と前記電流検出値との差分により電流制御を行い、三相電圧指令値を出力する定数推定用電流指令値演算器と、前記三相電圧指令値に基づいてPWM制御を行い、前記インバータのゲート信号を生成するPWMゲート信号生成部と、三相のうち少なくとも何れか一相における単相交流試験終了前のN周期(Nは正の整数)の平均電流と平均電圧と有効電力と電流実効値に基づいて、前記誘導電動機の一次抵抗と二次抵抗を推定するモータ定数演算器と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
また、その一態様として、前記定数推定用電流指令値演算器は、電流指令値振幅と電流指令値周波数と電流指令値直流重畳量に基づいてd軸電流指令値を生成する電流指令生成処理部と、三相の電流検出値をd軸電流検出値,q軸電流検出値に変換する三相二相変換器と、前記d軸電流指令値と前記d軸電流検出値との偏差、および、零であるq軸電流指令値と前記q軸電流検出値との偏差に基づいて、d軸電圧指令値とq軸電圧指令値を出力する電流制御器と、前記d軸電圧指令値と前記q軸電圧指令値を前記三相電圧指令値に変換する二相三相変換器と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
また、その一態様として、前記誘導電動機の一次抵抗および二次抵抗は以下の(8)式~(11)式により算出することを特徴とする。
【0020】
【数8】
【0021】
【数9】
【0022】
【数10】
【0023】
【数11】
【0024】
1:一次抵抗
2:二次抵抗
R:抵抗成分
um:U相の平均電圧
um:U相の平均電流
u:U相の有効電力
u’:直流を重畳していない場合のU相の有効電力
rms:U相の電流実効値。
【0025】
また、その一態様として、前記電流指令生成処理部は、前記電流指令値直流重畳量を2つ以上選択できるようにし、前記モータ定数演算器は、それぞれの前記電流指令値直流重畳量における三相のうち少なくとも何れか一相の単相交流試験終了前のN周期の前記平均電流と前記平均電圧と前記有効電力と前記電流実効値に基づいて、前記誘導電動機の一次抵抗と二次抵抗を推定することを特徴とする。
【0026】
また、他の態様として、前記電流指令生成処理部は、前記電流指令値周波数を2つ以上選択できるようにし、前記モータ定数演算器は、それぞれの前記電流指令値周波数における三相のうち少なくとも何れかに一相の単相交流試験終了前のN周期の前記平均電流と前記平均電圧と前記有効電力と前記電流実効値に基づいて、前記誘導電動機の一次抵抗と二次抵抗を推定することを特徴とする。
【0027】
また、その一態様として、前記モータ定数演算器は、三相の各相において、単相交流試験終了前のN周期の前記平均電流と前記平均電圧と前記有効電力と前記電流実効値に基づいて、前記誘導電動機の一次抵抗と二次抵抗を推定し、各相における前記一次抵抗と前記二次抵抗の平均値を前記誘導電動機の一次抵抗と二次抵抗とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、誘導電動機の一次抵抗および二次抵抗を簡易に精度良く推定する誘導電動機の定数推定装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態1~4における誘導電動機駆動用の電力変換システムの構成を示す図。
図2】実施形態1における定数推定用電流指令値演算器を示すブロック図。
図3】単相交流試験時の誘導電動機の等価回路を示す図。
図4】実施形態3における電流指令生成処理部を示す図。
図5】実施形態4における電流指令生成処理部を示す図。
図6】従来の誘導電動機駆動用の電力変換システムの構成を示す図。
図7】誘導電動機のT型等価回路を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本願発明における誘導電動機の定数推定装置の実施形態1~4を図1図5に基づいて詳述する。
【0031】
[実施形態1]
図1に本実施形態1における誘導電動機駆動用の電力変換システムの構成を示す。一般的な電流制御を実装した電力変換システムである。
【0032】
図1に示すように、本実施形態1の電力変換システムは、三相交流電源6と、コンバータCNVと、コンデンサCと、インバータINVと、誘導電動機IMと、電流検出器1と、モータ定数演算器2と、定数推定用電流指令値演算器3と、電流実効値演算器4と、PWMゲート信号生成器5と、を備える。
【0033】
三相交流電源6から供給された交流電圧はコンバータCNVによって直流電圧に変換され、変換された直流電圧はコンデンサCによって平滑化される。そして、コンデンサCによって平滑化された直流電圧はインバータINVに供給され、インバータINVによって誘導電動機IMに電圧を出力し、誘導電動機IMを駆動制御する。電流検出器1は、インバータINVから出力される電流検出値iU,iV,iWを検出する。
【0034】
定数推定用電流指令値演算器3は、単相交流試験用の電流指令値を生成し、電流指令値と電流検出値の差分により電流制御を行い、三相電圧指令値VU *,VV *,VW *を出力する
PWMゲート信号生成器5は、三相電圧指令値VU *,VV *,VW *に基づいてPWM制御を行い、インバータINVのゲート信号を生成する。
【0035】
電流実効値演算器4は、U相の電流検出値iUに基づいて電流実効値を演算する。
【0036】
モータ定数演算器2は、単相交流試験終了前のN周期(Nは正の整数)の三相のうち何れか一相における平均電流、平均電圧、有効電力、電流実効値に基づいて、誘導電動機IMの一次抵抗R1および二次抵抗R2を推定する。
【0037】
本実施形態1では、図2に示す定数推定用電流指令値演算器3により誘導電動機IMの一次抵抗R1と二次抵抗R2を推定するための単相交流試験を実施する。
【0038】
電流指令生成処理部7では、電流指令値振幅Iamp *、電流指令値周波数f*、電流指令値直流重畳量IDC *を入力とし、d軸電流指令値Id *を生成する。q軸電流指令値Iq *は零とする。d軸電流指令値Id *の振幅、周波数、直流重畳量は任意の値である。ただし、誘導電動機IMおよび電力変換器の定格(誘導電動機等に保証された使用限度)などにより制限される。
【0039】
三相二相変換器8は、三相の電流検出値iU,iV,iWをd軸電流検出値Id,q軸電流検出値Iqに変換する。
【0040】
減算器9は、d軸電流指令値Id *からd軸電流検出値Idを減算し、偏差を出力する。減算器10は、q軸電流指令値Iq *からq軸電流検出値Iqを減算し、偏差を出力する。
【0041】
電流制御器11では、減算器9、10の出力に基づいて、P制御,PI制御等を行うことでd軸電圧指令値Vd *,q軸電圧指令値Vq *を出力する。
【0042】
二相三相変換器12は、d軸電圧指令値Vd *,q軸電圧指令値Vq *を三相電圧指令値VU *,VV *,VW *に変換する。
【0043】
図3に、単相交流試験時の誘導電動機IMの等価回路を示す。図2の電流指令生成処理部7の出力としてd軸電流指令値Id *=Iamp *sin(2πf*t)+IDC *を得る。電流制御器11により、各相に(4)式、(5)式のような電流が流れるように電流制御を行う。
【0044】
【数4】
【0045】
【数5】
【0046】
Aは電流指令値振幅Iamp *、Bは電流指令値直流重畳量IDC *、ωは電流指令値周波数f*の角周波数である。V相電流iVとW相電流iWは、U相電流iUに対して、振幅は1/2、直流重畳量は-1/2、位相は180度遅れたものとする。
【0047】
また、(4)式、(5)式のような単相交流電流が流れるとき、各相の電圧は(6)式、(7)式となる。
【0048】
【数6】
【0049】
【数7】
【0050】
Cは電圧の振幅、Dは直流重畳量、位相は電流に対してθ進んだものとなる。単相交流試験では、過渡状態から十分に遷移するまでの周期の単相交流を流す。
【0051】
図1のモータ定数演算器2において、単相交流試験終了前のN周期(Nは正の整数)のU相電流検出値iUとU相電圧指令値VU *を積算し、サンプリング時間で除すことでU相の平均電流iumとU相の平均電圧vumを求める。平均電流iumは(4)式の直流重畳量であるB、平均電圧vumは(6)式の直流重畳量であるDとなる。よって、直流試験と同様に(8)式によって一次抵抗R1が求まる。
【0052】
【数8】
【0053】
なお、(4)式~(7)式に示すように、U相電圧とU相電流には位相差θがある。つまりモータ負荷には無効インピーダンス成分が存在する。しかし、(8)式では、直流重畳量のみを扱うことによって誘導電動機IMに直流電圧を印加する直流試験と同様、全てのリアクタンス成分は零となり、また二次抵抗R2側に電流は流れないため、図3の二次抵抗R2,一次自己インダクタンスL1,二次自己インダクタンスL2,相互インダクタンスMを含まない一次抵抗R1が算出される。
【0054】
また、U相電流iUとU相電圧vUの乗算値も同様に単相交流試験前のN周期積算し、サンプリング時間によって除すことで平均値を求める。すなわち、U相の有効電力Puを求めている。ここで、(9)式により直流を重畳していない場合の有効電力Pu 'を求める。
【0055】
【数9】
【0056】
なお、(4)式~(7)式に示すように、U相電圧とU相電流には位相差θがある。つまり無効電力が発生している。しかし、(9)式の(vum×ium)は、直流重畳量のみを扱うことによって誘導電動機IMに直流電圧を印加する直流試験と同様、全てのリアクタンス成分は零であるため、無効電力を含まない有効電力成分のみが算出される。
【0057】
図1の電流実効値演算器4によって電流検出値iuの電流実効値irms(=A/√2)を演算する。(10)式により抵抗成分Rを求める。
【0058】
【数10】
【0059】
単相交流の周波数条件からR2<<ωMとすることでR≒R1+R2と近似できるため、(11)式により二次抵抗R2が求まる。
【0060】
【数11】
【0061】
一般的にωを定格角速度(誘導電動機に保証された使用限度)とした場合R2<<ωMとなるが、相互インダクタンスMが無負荷試験などにより既知となっている場合は、(10)式で求めた抵抗成分Rを用いて簡易的にω>>R/Mを満足するωを求めることができる。
【0062】
2<<ωMが成立する理由は、以下による。
【0063】
図7の等価回路において相互インダクタンスMとなる部分に流れる電流が大きくなると、一次抵抗R1の電流が大きくなる。機械的出力に相当する等価回路の成分は、二次抵抗R2に比例する抵抗成分R2/sのうち、実際の二次抵抗R2での損失分を除外したR2×(1-s)/sにおける消費電力に対応することから、特に定格(誘導電動機に保証された使用限度)におけるすべりsにおいて、二次抵抗R2に流れる電流が大きくなるほうが好適である。従って、誘導電動機IMにおいては一般的に、R2<<ωMが成立するように設計される(非特許文献1)。
【0064】
通常、励磁回路のインピーダンスは非常に大きいので、拘束試験では励磁回路を無視して一次抵抗と二次抵抗の和、一次漏れリアクタンスと二次漏れリアクタンスの和を算定する(非特許文献2)。本実施形態1の試験方法は拘束試験に対応する。
【0065】
以上示したように、本実施形態1によれば、一次抵抗R1および二次抵抗R2を推定するために直流試験と単相交流試験の2種類の試験を実施する必要はなく、1回の単相交流試験で両値が推定可能である。
【0066】
また、演算処理においても平均値を求めるなどの加減乗除の処理のみであり、容易に演算処理を実装可能である。特に、電流および電圧の位相を検出・演算する必要がないため、演算時に発生する誤差を低減することが可能となる。
【0067】
さらに、一次抵抗R1と二次抵抗R2を精度良く推定できるため、誘導電動機IMの駆動制御を高精度化することができる。
【0068】
[実施形態2]
本実施形態2は、システム構成および制御ブロックに関しては、実施形態1と同様である。
【0069】
実施形態1では、U相の電流、電圧を使用して一次抵抗R1および二次抵抗R2の推定を実施したが、本実施形態2では(5)式,(7)式に基づいてV相およびW相においても同様に抵抗を推定する。一次抵抗R1についてはV相の平均電流をivm(=B/2)、V相の平均電圧をvvm(=D/2)、W相の平均電流をiwm(=B/2)、W相の平均電圧をvwm(=D/2)とすると、(12)式,(13)式により求めることができる。
【0070】
【数12】
【0071】
【数13】
【0072】
誘導電動機IMの制御に用いる一次抵抗R1は、各相によって求めた(8)式,(12)および(13)式の一次抵抗の平均値とする。二次抵抗についても同様に(9)式~(11)式をV相、W相に置き換え、V相、W相の二次抵抗を推定する。誘導電動機IMの制御に用いる二次抵抗は各相によって求めた二次抵抗の平均値とする。
【0073】
以上示したように、本実施形態2によれば、各相で演算した一次抵抗R1および二次抵抗の平均値を誘導電動機IMの制御に用いる一次抵抗R1、二次抵抗R2とすることによって、誘導電動機IMの各相の一次抵抗および二次抵抗の誤差を平滑化することが可能である。
【0074】
[実施形態3]
図4に本実施形態3における電流指令生成処理部7を示す。図4図2の制御ブロックから電流指令生成処理部7のみを抜き出したものである。実施形態1ではd軸電流指令値Id *の直流重畳量はIDC *一つとしたが、本実施形態3では直流重畳量を二つ以上から選択する。
【0075】
図4に示したように、d軸電流指令値Id *の直流重畳量をIDC *’とした場合、(14)式のようなU相電流iUが流れる(v相,w相は省略する)。
【0076】
【数14】
【0077】
また、U相電圧VUは(15)式となる(v相,w相は省略する)。
【0078】
【数15】
【0079】
ただし、d軸電流指令値Id *の直流重畳量をIDC *とした場合の(4)式のBおよび(6)式のDとは、B>B’およびD>D’の関係が成り立つようにする。
【0080】
実施形態1と同様に、(14)式の平均電流ium’(=B’)、(15)式の平均電圧vum’(=D’)を求める。一次抵抗R1は平均電圧の差と平均電流の差の比として(16)式にように求めることができる。
【0081】
【数16】
【0082】
また、適宜、d軸電流指令値Id *の直流重畳量を変更する試行回数を増やし、各直流重畳量から求まった一次抵抗の平均値を制御に用いる値としても良い。すなわち、直流重畳量IDC *の時の一次抵抗R1をR1=vum/iumとし、直流重畳量IDC *’の時の一次抵抗R1’をR1’=vum’/ium’とし、直流重畳量IDC *”の時の一次抵抗R1”をR1”=vum”/ium”とした場合、制御に用いる一次抵抗は、R1とR1’とR1”の平均値とする。
【0083】
なお、二次抵抗R2については、直流重畳量をIDC *とIDC *’とした場合の二次抵抗R2をそれぞれ求め、その平均値を誘導電動機IMの制御に用いる値とする。
【0084】
また、本実施形態3に実施形態2を適用してもよい。
【0085】
以上示したように、本実施形態3によれば、一次抵抗を電流と電圧の変化分の比として求めることで、各検出誤差の推定値への影響を低減することが可能である。また、d軸電流指令値の直流重畳量を変更して試行回数を増やし平均値を求めることによって、計測誤差を低減することが可能である。
【0086】
[実施形態4]
図5に本実施形態4における電流指令生成処理部7を示す。図5図2の制御ブロックから電流指令生成処理部7のみを抜き出したものである。実施形態1ではd軸電流指令値Id *の周波数はf*一つとしたが、本実施形態4では周波数を二つ以上から選択する。
【0087】
図5に示すように、d軸電流指令値の周波数をf*’に変更し、実施形態1と同様に一次抵抗R1および二次抵抗R2を推定する。周波数をf*とした場合とf*’とした場合の推定した一次抵抗および二次抵抗の平均値を求め、誘導電動機IMの制御に用いる値とする。適宜、d軸電流指令値の周波数を変更する試行回数を増やすことで、各周波数から求まった一次抵抗および二次抵抗の平均値を制御に用いる値としても良い。
【0088】
また、本実施形態4に実施形態2を適用してもよい。
【0089】
以上示したように、本実施形態4によれば、d軸電流指令値の周波数を変更して試行回数を増やし平均値を求めることによって、計測周波数毎の誤差を低減することが可能である。
【0090】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0091】
1…電流検出器
2…モータ定数演算器
3…定数推定用電流指令値演算器
4…電流実効値演算器
5…PWMゲート信号生成器
6…交流電源
IM…誘導電動機
CNV…コンバータ
INV…インバータ
7…電流指令生成処理部
8…二相三相変換器
9,10…減算器
11…電流制御器
12…二相三相変換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7