(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077460
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】スラスト磁気軸受装置およびスラスト磁気軸受装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
F16C 32/04 20060101AFI20230530BHJP
【FI】
F16C32/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190713
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】石橋 達朗
(72)【発明者】
【氏名】小川 隆一
【テーマコード(参考)】
3J102
【Fターム(参考)】
3J102AA01
3J102BA03
3J102CA10
3J102CA11
3J102CA23
3J102CA27
3J102DA02
3J102DA08
3J102DA09
3J102DA10
3J102DA25
3J102DB10
3J102DB11
3J102DB37
3J102GA06
(57)【要約】
【課題】回転により回転軸方向に生じるスラスト推力を補って、回転軸を安定して支持することができるスラスト磁気軸受装置を提供する。
【解決手段】回転軸1の先端に設けられたインペラを有した回転電機の、回転軸方向を支持するスラスト磁気軸受装置において、回転軸の外周に固着された磁性材からなるスラストディスク2と、スラストディスク2のインペラ側に所定距離隔てて配設され、電磁石鉄心11、電磁石コイル12を有した電磁石10と、スラストディスク2の反インペラ側に所定距離隔てて配設され、電磁石鉄心21、電磁石コイル22を有した電磁石20と、電磁石20の電磁石鉄心21に設けられ、回転軸1の回転時に生じるスラスト推力を補う永久磁石50と、を備えた。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の先端に設けられたインペラを有した回転電機の、回転軸方向を支持するスラスト磁気軸受装置において、
前記インペラから回転軸の軸方向に、設定した距離隔てた回転軸の外周に固着された磁性材からなるスラストディスクと、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向のインペラ側に設定距離隔てて配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含むインペラ側電磁石と、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向の反インペラ側に設定距離隔てて前記インペラ側電磁石に対向して配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含む反インペラ側電磁石と、
前記反インペラ側電磁石に設けられた永久磁石と、を備えたことを特徴とするスラスト磁気軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスラスト磁気軸受装置を備え、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心、電磁石コイル、永久磁石およびスラストディスクにより形成される反インペラ側の磁気吸引力Fnを(1)式とし、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力F
n0を(2)式とし、
【数1】
【数2】
(Upは永久磁石の起磁力、Uは全起磁力でありU=NIn+Up(Nは反インペラ側電磁石の電磁石コイルの巻き数、Inはその電磁石コイルに流れる電流)で示され、Q
0は、スラストディスクと、反インペラ側電磁石のスラストディスク側の面との間の空隙の磁気抵抗、δは前記空隙の長さ)
前記回転電機の回転停止時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流を零とし、インペラ側電磁石の電磁石コイルには、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力F
n0と釣り合う吸引力となる第1の電流を流し、
前記回転電機の定常回転時は、前記インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流を減少させ、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流を流して、インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Iiと反インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Inを同一又は略同一とし、回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力Fpと、反インペラ側の磁気吸引力Fnと、インペラ電磁石により生じる磁気吸引力Fiが、Fp=Fn-Fiの関係となるように制御することを特徴とするスラスト磁気軸受装置の制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載のスラスト磁気軸受装置を備え、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心、電磁石コイル、永久磁石およびスラストディスクにより形成される反インペラ側の磁気吸引力Fnを(1)式とし、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力F
n0を(2)式とし、
【数1】
【数2】
(Upは永久磁石の起磁力、Uは全起磁力でありU=NIn+Up(Nは反インペラ側電磁石の電磁石コイルの巻き数、Inはその電磁石コイルに流れる電流)で示され、Q
0は、スラストディスクと、反インペラ側電磁石のスラストディスク側の面との間の空隙の磁気抵抗、δは前記空隙の長さ)
前記回転電機の回転停止時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流InをIn<0とし、インペラ側電磁石の電磁石コイルには、反インペラ側電磁石による磁気吸引力と釣り合う吸引力となる、前記第1の電流よりも小さい第2の電流を流し、
前記回転電機の定常回転時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流InをIn>0となるように増大させ、インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流を、前記第2の電流よりも小さい電流に減少させ、インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Iiと反インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Inを同一又は略同一とし、回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力Fpと、反インペラ側の磁気吸引力Fnと、インペラ電磁石により生じる磁気吸引力Fiが、Fp=Fn-Fiの関係となるように制御することを特徴とするスラスト磁気軸受装置の制御方法。
【請求項4】
請求項1に記載のスラスト磁気軸受装置を備え、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心、電磁石コイル、永久磁石およびスラストディスクにより形成される反インペラ側の磁気吸引力Fnを(1)式とし、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力F
n0を(2)式とし、
【数1】
【数2】
(Upは永久磁石の起磁力、Uは全起磁力でありU=NIn+Up(Nは反インペラ側電磁石の電磁石コイルの巻き数、Inはその電磁石コイルに流れる電流)で示され、Q
0は、スラストディスクと、反インペラ側電磁石のスラストディスク側の面との間の空隙の磁気抵抗、δは前記空隙の長さ)
前記回転電機の回転停止時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流を零とし、インペラ側電磁石の電磁石コイルには、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力F
n0と釣り合う吸引力となる電流を流し、
前記回転電機の定常回転時は、前記インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流を減少させて、回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力Fpと、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力F
n0と、インペラ電磁石により生じる磁気吸引力Fiが、Fp=F
n0-Fiの関係となるように制御することを特徴とするスラスト磁気軸受装置の制御方法。
【請求項5】
請求項1に記載のスラスト磁気軸受装置の、反インペラ側電磁石の配設位置に、当該反インペラ側電磁石に代えて永久磁石を設けて構成したスラスト磁気軸受装置を備え、
前記反インペラ側の永久磁石による磁気吸引力F
n0を(2)式とし、
【数2】
(Upは永久磁石の起磁力、Q
0は、スラストディスクと、永久磁石のスラストディスク側の面との間の空隙の磁気抵抗、δは前記空隙の長さ)
前記回転電機の回転停止時は、インペラ側電磁石の電磁石コイルに、前記反インペラ側の永久磁石による磁気吸引力F
n0と釣り合う吸引力となる電流を流し、
前記回転電機の定常回転時は、前記インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流を減少させて、回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力Fpと、前記反インペラ側の永久磁石による磁気吸引力F
n0と、インペラ電磁石により生じる磁気吸引力Fiが、Fp=F
n0-Fiの関係となるように制御することを特徴とするスラスト磁気軸受装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト磁気軸受装置およびその制御方法に係り、回転体の軸方向を支持する電磁石と永久磁石を併用した磁気軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、従来のスラスト磁気軸受装置の構成を示す。
図1(a)はスラスト磁気軸受装置を回転軸と直交する方向から見た図、
図1(b)は、
図1(a)における回転軸に垂直なA-A線断面図である。
【0003】
図1において、回転体の回転軸1の外周には磁性材からなる円板形状のスラストディスク2が固着されている。このスラストディスク2を軸方向両側から各々所定距離隔てて挟むように、一対の電磁石10、20が対向配設されている。
【0004】
電磁石10、20はともに中心部分をくり抜いた円筒形状に形成され、その中心部分に回転軸1が挿入された配置となっている。
【0005】
電磁石10は、電磁石鉄心11と電磁石鉄心11のスラストディスク2に対向する側に巻回された電磁石コイル12とを備え、電磁石20は、電磁石鉄心21と電磁石鉄心21のスラストディスク2に対向する側に巻回された電磁石コイル22とを備えている。
【0006】
電磁石コイル12、22に電流を流すと、磁束が発生してスラストディスク2に対する磁気吸引力が発生するため、スラストディスク2に作用するスラスト荷重を支持することができる。
図1中、磁路は電磁石20が発生する磁束の磁気回路である。
【0007】
以下、スラスト荷重の支持について説明する。ここでは例として曝気ブロワに用いられるインペラを有するスラスト磁気軸受装置を備えた回転電機の構成を
図2に示す。
図2において
図1と同一部分は同一符号をもって示しており、30は回転軸1の先端に設けられたインペラ(羽根車など)である。
【0008】
インペラ30から軸方向に所定距離隔てた回転軸1の外周には円板形状のスラストディスク2が固着されている。10はスラストディスク2のインペラ側に
図1と同様に配設された電磁石、20はスラストディスク2の反インペラ側に
図1と同様に配設された電磁石である。
【0009】
インペラ30とスラストディスク2の間に位置する回転軸1の外周には、回転軸1を半径方向に非接触で支持するラジアル軸受31が設けられている。
【0010】
32はラジアル軸受31のインペラ30側の回転軸1の外周に配設された保護軸受である。
【0011】
スラストディスク2から軸方向の反インペラ側に所定距離隔てた回転軸1の外周には永久磁石ロータ33が固着され、永久磁石ロータ33から回転軸1の径方向外周にギャップを隔ててステータコア34が配設されている。
【0012】
35aはステータコア34のインペラ側端に設けられた固定子巻線、35bはステータコア34の反インペラ側端に設けられた固定子巻線である。
【0013】
固定子巻線35bから軸方向の反インペラ側に所定距離隔てた回転軸1の外周には、回転軸1を半径方向に非接触で支持するラジアル軸受36が設けられている。
【0014】
37はラジアル軸受36の反インペラ側の回転軸1の外周に配設された保護軸受である。
【0015】
図2中のFpは、回転軸1の回転時(曝気ブロワの回転時)に、インペラ30の吸い込み口付近が低圧、背面側が高圧になって圧力差が生じることで、軸方向に発生するスラスト推力を表している。
【0016】
次に、
図2の装置における対向配置された2つの電磁石コイル12、22に流れる電流と磁気吸引力の関係および曝気ブロワの回転による電磁石コイル12,22に流れる電流の変化と回転時における電流制御方法を
図3とともに説明する。
図3において磁気吸引力は磁束密度とギャップ等から計算され、電磁石コイルに流れる電流と磁気吸引力の関係はおよそ電流の二乗に比例するが、磁気飽和や磁束漏れを考えるとより小さな値となる。
【0017】
図3において、Iiはインペラ側の電磁石コイル12に流れる電流、Inは反インペラ側の電磁石コイル22に流れる電流、F
0は剛性の維持・支持に望ましい力、Fiはインペラ側の磁気吸引力、Fnは反インペラ側の磁気吸引力である。
図3中の実線の曲線は従来技術の制御方法による電磁石コイルの電流と磁気吸引力の関係を示し、
図3中の破線の矢印は従来技術の制御方法における停止時→定常回転時での動作点の変遷を示している。
【0018】
図3における回転電機の停止から定常回転時までの電流制御方法は以下のとおりである。まず停止(非回転)時の場合はスラスト磁気軸受のインペラ側と反インペラ側の2つの電磁石コイル12,22に流れる電流Ii,Inを動作点A1i、A1nのように同じにして、等価な磁気吸引力Fi=Fn=F0を回転軸1に加えて支持する。しかし、インペラ30が付与された回転機械では回転させると吸い込み口付近が低圧になり、インペラ30の背面側が高圧になり、圧力差が生じ、軸方向にスラスト推力Fpが発生する(
図2)。
【0019】
一定の回転数で定常回転させた状態であると、スラスト推力Fpと釣り合うように反インペラ側の磁気吸引力Fnを増加させ、反インペラ側の電磁石コイル22に動作点A1n→A2nのように大きな電流Inを流し、また、反インペラ側の電流に上限があることから、インペラ側の磁気吸引力Fiを減少させ、インペラ側の電磁石コイル12に動作点A1i→A2iのように小さな電流Iiを流す必要がある。
【0020】
尚、従来、電磁石および永久磁石を備えたスラスト磁気軸受装置は、例えば特許文献1に記載のものが提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
図3で説明した従来の制御方法では、電磁石コイルに流す電流にアンバランスが生じることで電流の制御性にアンバランスが生じること、およびインペラ側について、剛性や支持の維持に望ましい力(F
0)より小さな力による吸引力とせざるを得なくなることで、力の変動に対する磁気軸受の支持の安定性が悪くなる、といった問題点があった。
【0023】
また特許文献1では、定常時等に負荷がかかる側(本明細書では反インペラ側)に電磁石を設け、反対側(本明細書ではインペラ側)を永久磁石とする構成としているが、この構成では、定常時のインペラ側の方向に働く不平衡推力を、電磁石電流の増加により対応することから、定常時における電磁石巻線での消費電力・発熱の増加につながる。
【0024】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、回転により回転軸方向に生じるスラスト推力を補って、回転軸を安定して支持することができるスラスト磁気軸受装置およびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するための請求項1に記載のスラスト磁気軸受装置は、
回転軸の先端に設けられたインペラを有した回転電機の、回転軸方向を支持するスラスト磁気軸受装置において、
前記インペラから回転軸の軸方向に、設定した距離隔てた回転軸の外周に固着された磁性材からなるスラストディスクと、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向のインペラ側に設定距離隔てて配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含むインペラ側電磁石と、
前記スラストディスクから回転軸の軸方向の反インペラ側に設定距離隔てて前記インペラ側電磁石に対向して配設された電磁石鉄心、および該電磁石鉄心の前記スラストディスクに対向する側に巻回された電磁石コイルを含む反インペラ側電磁石と、
前記反インペラ側電磁石に設けられた永久磁石と、を備えたことを特徴とする。
【0026】
請求項2に記載のスラスト磁気軸受装置の制御方法は、
請求項1に記載のスラスト磁気軸受装置を備え、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心、電磁石コイル、永久磁石およびスラストディスクにより形成される反インペラ側の磁気吸引力Fnを(1)式とし、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力Fn0を(2)式とし、
【0027】
【0028】
【0029】
(Upは永久磁石の起磁力、Uは全起磁力でありU=NIn+Up(Nは反インペラ側電磁石の電磁石コイルの巻き数、Inはその電磁石コイルに流れる電流)で示され、Q0は、スラストディスクと、反インペラ側電磁石のスラストディスク側の面との間の空隙の磁気抵抗、δは前記空隙の長さ)
前記回転電機の回転停止時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流を零とし、インペラ側電磁石の電磁石コイルには、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力Fn0と釣り合う吸引力となる第1の電流を流し、
前記回転電機の定常回転時は、前記インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流を減少させ、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流を流して、インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Iiと反インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Inを同一又は略同一とし、回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力Fpと、反インペラ側の磁気吸引力Fnと、インペラ電磁石により生じる磁気吸引力Fiが、Fp=Fn-Fiの関係となるように制御することを特徴としている。
【0030】
請求項3に記載のスラスト磁気軸受装置の制御方法は、
請求項1に記載のスラスト磁気軸受装置を備え、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心、電磁石コイル、永久磁石およびスラストディスクにより形成される反インペラ側の磁気吸引力Fnを(1)式とし、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力Fn0を(2)式とし、
【0031】
【0032】
【0033】
(Upは永久磁石の起磁力、Uは全起磁力でありU=NIn+Up(Nは反インペラ側電磁石の電磁石コイルの巻き数、Inはその電磁石コイルに流れる電流)で示され、Q0は、スラストディスクと、反インペラ側電磁石のスラストディスク側の面との間の空隙の磁気抵抗、δは前記空隙の長さ)
前記回転電機の回転停止時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流InをIn<0とし、インペラ側電磁石の電磁石コイルには、反インペラ側電磁石による磁気吸引力と釣り合う吸引力となる、前記第1の電流よりも小さい第2の電流を流し、
前記回転電機の定常回転時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流InをIn>0となるように増大させ、インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流を、前記第2の電流よりも小さい電流に減少させ、インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Iiと反インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流Inを同一又は略同一とし、回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力Fpと、反インペラ側の磁気吸引力Fnと、インペラ電磁石により生じる磁気吸引力Fiが、Fp=Fn-Fiの関係となるように制御することを特徴としている。
【0034】
請求項4に記載のスラスト磁気軸受装置の制御方法は、
請求項1に記載のスラスト磁気軸受装置を備え、
前記反インペラ側電磁石の電磁石鉄心、電磁石コイル、永久磁石およびスラストディスクにより形成される反インペラ側の磁気吸引力Fnを(1)式とし、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力Fn0を(2)式とし、
【0035】
【0036】
【0037】
(Upは永久磁石の起磁力、Uは全起磁力でありU=NIn+Up(Nは反インペラ側電磁石の電磁石コイルの巻き数、Inはその電磁石コイルに流れる電流)で示され、Q0は、スラストディスクと、反インペラ側電磁石のスラストディスク側の面との間の空隙の磁気抵抗、δは前記空隙の長さ)
前記回転電機の回転停止時は、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流す電流を零とし、インペラ側電磁石の電磁石コイルには、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力Fn0と釣り合う吸引力となる電流を流し、
前記回転電機の定常回転時は、前記インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流を減少させて、回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力Fpと、反インペラ側電磁石の電磁石コイルに電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力Fn0と、インペラ電磁石により生じる磁気吸引力Fiが、Fp=Fn0-Fiの関係となるように制御することを特徴としている。
【0038】
請求項5に記載のスラスト磁気軸受装置の制御方法は、
請求項1に記載のスラスト磁気軸受装置の、反インペラ側電磁石の配設位置に、当該反インペラ側電磁石に代えて永久磁石を設けて構成したスラスト磁気軸受装置を備え、
前記反インペラ側の永久磁石による磁気吸引力Fn0を(2)式とし、
【0039】
【0040】
(Upは永久磁石の起磁力、Q0は、スラストディスクと、永久磁石のスラストディスク側の面との間の空隙の磁気抵抗、δは前記空隙の長さ)
前記回転電機の回転停止時は、インペラ側電磁石の電磁石コイルに、前記反インペラ側の永久磁石による磁気吸引力Fn0と釣り合う吸引力となる電流を流し、
前記回転電機の定常回転時は、前記インペラ側電磁石の電磁石コイルの電流を減少させて、回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力Fpと、前記反インペラ側の永久磁石による磁気吸引力Fn0と、インペラ電磁石により生じる磁気吸引力Fiが、Fp=Fn0-Fiの関係となるように制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0041】
(1)請求項1に記載の発明によれば、永久磁石を反インペラ側の電磁石に設けているので、反インペラ側の磁気吸引力が大きくなって回転電機の回転により回転軸方向に生じるスラスト推力を補うことができる。これによって回転軸を安定して支持することができる。
(2)請求項2に記載の発明によれば、定常回転時に反インペラ側の電磁石コイルに過大な電流が流れることを防ぐとともにインペラ側の吸引力をある一定以上にし、インペラ側と反インペラ側の両側の電磁石コイルに流れる電流のアンバランスを低減することができ、これによって電流の制御性も同程度となることで、回転軸方向の力の変動に対して安定して動作することが可能である。
(3)請求項3に記載の発明によれば、永久磁石を設けた反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流れる電流の極性を反転させることで請求項1の発明と比べて停止時(駆動始動時等)にインペラ側電磁石の電磁石コイルに流れる電流を低減できる。これによって機器の電流定格を下げることができ、また電流の絶対値を小さく取れる分、発熱も小さくなる。
(4)請求項4,5に記載の発明によれば、インペラ側の電磁石コイルの電流のみで制御することで、反インペラ側の電流を制御する必要がなくなり、電源が不要となる。
(5)請求項5に記載の発明によれば、反インペラ側には、電磁石に代えて永久磁石を配設するだけでよいので、装置構成が簡単化される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】従来のスラスト磁気軸受装置の一例を示す構成図。
【
図2】スラスト磁気軸受装置を備えた回転電機の一例を示す構成図。
【
図3】従来技術のスラスト磁気軸受の電磁石電流制御方法の説明図。
【
図4】本発明の実施形態例によるスラスト磁気軸受装置の構成図。
【
図6】本発明の実施例1による電磁石電流制御方法の説明図。
【
図7】本発明の実施例2による電磁石電流制御方法の説明図。
【
図8】本発明の実施例3による電磁石電流制御方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本実施形態例では、磁気軸受の片側の電磁石に永久磁石を付与することにより、回転時に生じるスラスト推力を補って回転軸を安定して支持し、回転時のスラスト推力による電磁石コイルに流れる電流を減らし、対向配置された一対の電磁石コイルに流れる電流のアンバランスを低減するように構成した。
【0044】
図4に、本実施形態例のスラスト磁気軸受装置の構成を示す。
図4の装置は、例えば
図2の回転電機のスラスト磁気軸受装置として適用されるものであり、
図1(a)と同一部分は同一符号をもって示している。
【0045】
図4において
図1(a)と異なる点は、反インペラ側の電磁石20の、電磁石コイル22の反インペラ側に隣接した電磁石鉄心21に永久磁石50を設けた点にあり、その他の部分は
図1(a)と同一に構成されている。δは、スラストディスク2と電磁石20の間の空隙を示している。
【0046】
永久磁石50は、インペラ30の回転により発生するスラスト推力Fpを補う磁気吸引力を生じさせる起磁力Upを発生させる、中央をくり抜いた円筒形の永久磁石である。このとき、
図4中の磁路の磁気等価回路は
図5のとおりである。
【0047】
図5において、起磁力は電磁石コイル22によるNInと永久磁石50のUpとを直列したものとなり、磁気抵抗は電磁石鉄心21の磁気抵抗Qs、空隙δの磁気抵抗Q
0、永久磁石50の磁気抵抗Qpを直列したものからなる。ここでNはコイルの巻き数、Inが電磁石コイル22に流す電流となる。
図5において全起磁力U=NIn+Upとなり、反インペラ側の磁気吸引力Fnはスラストディスク2と電磁石20の空隙をδとすると、(1)式となる。
【0048】
【0049】
In=0とすると、電流が流れていないときの反インペラ側の磁気吸引力Fn0は(2)式となる。
【0050】
【0051】
ここで、永久磁石50の残留磁束密度をBr、磁束を貫く面積をSpとすると、Up=BrSpQpである。
【実施例0052】
図6は実施例1による制御方法を実施した場合の、
図4の2つの電磁石コイル12,22に流れる電流と磁気吸引力の関係を示している。
【0053】
図6において、Iiはインペラ側の電磁石コイル12に流れる電流、Inは反インペラ側の電磁石コイル22に流れる電流、F
0は剛性の維持・支持に望ましい力、Fiはインペラ側の磁気吸引力、Fnは反インペラ側の磁気吸引力である。
図6中の実線の曲線は実施例1の制御方法による電磁石コイルの電流と磁気吸引力の関係を示し、
図6中の破線の矢印は実施例1の制御方法における停止時→定常回転時での動作点の変遷を示している。
【0054】
反インペラ側の電磁石20において、磁気抵抗は永久磁石50のために増加するので、ある電流時における磁気吸引力は低下する。
図6においては、この分を加味し、反インペラ側の電磁石コイル22の電流Inを係数α<1を乗じて補正する。さらに、永久磁石50による起磁力の増加があるので、反インペラ側の横軸を(3)式とした。
【0055】
【0056】
以下、回転電機の停止から定常回転時における電流制御方法について説明する。停止(非回転)時は反インペラ側の電磁石コイル22の電流Inを動作点A11nのように電流In=0とし、インペラ側の電磁石コイル12の電流Iiが、反インペラ側の永久磁石50による磁気吸引力Fn0(すなわち反インペラ側の電磁石コイル22の電流が零であるときの反インペラ側の、(2)式で示される磁気吸引力Fn0)と釣り合う吸引力となる、動作点A11iに示す電流Ii(第1の電流)を流す。
【0057】
定常回転時は、インペラ側の電磁石コイル12の電流Iiを動作点A12iまで減少させ、反インペラ側の電磁石コイル22に電流Inを動作点A12nまで流してIi=In=Is(または略同一)となるようにして、回転により生じるスラスト推力Fpと、反インペラ側の磁気吸引力Fnとインペラ側の磁気吸引力FiがFp=Fn-Fiのように釣り合うようにする。このようにして、従来法に比べてインペラ側に流れる電流Iiをより小さな値(動作点A12i)にして、かつ両側の電磁石10,20のコイルに流れる電流Ii,Inの差がない状態で、回転軸1を安定して支持するのに十分な磁気吸引力を生じさせることが可能である。
【0058】
以上のように本実施例1によれば、定常回転時に反インペラ側の電磁石コイルに過大な電流が流れることを防ぐとともにインペラ側の吸引力をある一定以上にし、インペラ側と反インペラ側の両側の電磁石コイルに流れる電流のアンバランスを低減することができ、これによって電流の制御性も同程度となることで、回転軸方向の力の変動に対して安定して動作することが可能である。
定常回転時には反インペラ側の電磁石コイル22の電流Inの極性を反転させてIn>0(動作点A22n)となるまで増大させ、また、インペラ側の電磁石コイル12の電流Iiを動作点A22iまで減少させ(Ii=In=Is(または略同一))となるようにして、回転により生じるスラスト推力Fpと両側の電磁石10,20により生じる力がFp=Fn-Fiのように、釣り合うようにする。このようにすることで、実施例1に比べて停止時にインペラ側の電流Iiを小さくし、かつバランスがとれた状態となる。このことにより、機器の電流定格を下げられる。また、電流の絶対値を小さく取れる分、発熱も小さくなる。
以上のように本実施例2によれば、永久磁石を設けた反インペラ側電磁石の電磁石コイルに流れる電流の極性を反転させることで実施例1の発明と比べて停止時(駆動始動時等)にインペラ側電磁石の電磁石コイルに流れる電流を低減できる。