(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077481
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】ビリルビンオキシダーゼ活性を有するタンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20230530BHJP
C12N 9/02 20060101ALI20230530BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230530BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230530BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230530BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230530BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230530BHJP
C12P 7/40 20060101ALI20230530BHJP
C12P 13/00 20060101ALI20230530BHJP
C12Q 1/26 20060101ALN20230530BHJP
【FI】
C12N15/53
C12N9/02 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P7/40
C12P13/00
C12Q1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190751
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】河野 卓成
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD02
4B050FF04E
4B050LL03
4B050LL05
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ22
4B063QR02
4B063QR73
4B063QX05
4B064AD01
4B064AE01
4B064DA13
4B064DA16
4B065AA50X
4B065AA50Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC15
4B065BA02
4B065CA46
4B065CA52
(57)【要約】
【課題】本明細書では、放線菌を宿主とする発現系での発現に適した、ビリルビンオキシダーゼ(BOD)活性を有するタンパク質、前記タンパク質を用いた基質の酸化方法、並びに、前記タンパク質を生産するための発現ベクター及び形質転換体を開示する。
【解決手段】本明細書は、ストレプトマイセス・ポプリ、ストレプトマイセス・ラウレンティ等の放線菌に由来する、BOD活性を有するタンパク質、前記タンパク質を触媒として用いて、所定のpH条件においてABTS、DMP、SGZ及びビリルビンを酸化する方法、並びに、プラスミドDNA中に前記タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNAを含む発現ベクター、及び、前記発現ベクターが導入された形質転換を開示する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放線菌に由来する、ビリルビンオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項2】
前記放線菌がストレプトマイセス・ポプリ(Streptomyces populi)である、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
(a)又は(b)に記載のタンパク質である、請求項1又は2に記載のタンパク質:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、且つ、ビリルビンオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項4】
前記放線菌がストレプトマイセス・ラウレンティ(Streptomyces laurentii)である、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項5】
(c)又は(d)に記載のタンパク質である、請求項1又は4に記載のタンパク質:
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、且つ、ビリルビンオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項6】
ABTS(2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸))を酸化する方法であって、
pH4.0~6.0の条件下で請求項2又は3に記載のタンパク質を触媒としてABTSの酸化反応を行うこと、又は、
pH3.5~6.0の条件下で請求項4又は5に記載のタンパク質を触媒としてABTSの酸化反応を行うこと
を含む方法。
【請求項7】
DMP(2,6-ジメトキシフェノール)を酸化する方法であって、
pH4.5~8.5の条件下で請求項2又は3に記載のタンパク質を触媒としてDMPの酸化反応を行うこと、又は、
pH5.0~8.5の条件下で請求項4又は5に記載のタンパク質を触媒としてDMPの酸化反応を行うこと
を含む方法。
【請求項8】
SGZ(シリングアルダジン)を酸化する方法であって、
pH5.5~8.5の条件下で請求項2又は3に記載のタンパク質を触媒としてSGZの酸化反応を行うこと、又は、
pH6.0~8.5の条件下で請求項4又は5に記載のタンパク質を触媒としてSGZの酸化反応を行うこと
を含む方法。
【請求項9】
ビリルビンを酸化する方法であって、
pH7.0~8.5の条件下で請求項2又は3に記載のタンパク質を触媒としてビリルビンの酸化反応を行うこと、又は、
pH7.0~8.5の条件下で請求項4又は5に記載のタンパク質を触媒としてビリルビンの酸化反応を行うこと
を含む方法。
【請求項10】
プラスミドDNA中に、請求項1~5のいずれか1項に記載のタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを含む、発現ベクター。
【請求項11】
宿主細胞に、請求項10に記載の発現ベクターが導入された、形質転換体。
【請求項12】
前記宿主細胞が放線菌である、請求項11に記載の形質転換体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一以上の実施形態は、ビリルビンオキシダーゼ活性を有するタンパク質、前記タンパク質を用いてビリルビンオキシダーゼの基質を酸化する方法、前記タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNAを含む発現ベクター、並びに、前記発現ベクターが導入された形質転換体に関する。
【背景技術】
【0002】
ビリルビンオキシダーゼ(BOD)(EC:1.3.3.5)はビリルビンのビリベルジンへの酸化反応を触媒する酵素である。BODは、反応液中の溶存酸素による、ビリルビン等の基質の酸化反応を触媒する。
【0003】
BODは、血清ビリルビン濃度の測定のための臨床検査薬に用いられる。ビリルビンはヘモグロビンの分解によって血液中に生じる色素であり、血清ビリルビン濃度は、肝疾患診断、黄疸鑑別等の診断における指標となる。
BODの別の用途として、例えば、特許文献1に、バイオ燃料電池の酵素電極における用途が記載されている。
【0004】
従来から利用されているBODの起源生物としては、ミロセシウム属菌(特許文献2、3)、イネいもち病菌(特許文献4)、バチラス・サチルス(特許文献5)が挙げられる。
【0005】
一方、特許文献6では、放線菌においてタンパク質を発現するためのプラスミドベクターが記載されており、このプラスミドベクターに有用なタンパク質の遺伝子を組み込み、放線菌を宿主として前記タンパク質を効率的に生産できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2018/185417
【特許文献2】特開昭57-159487号公報
【特許文献3】特開2004-89042号公報
【特許文献4】特表2014-523235号公報
【特許文献5】特開2006-68003号公報
【特許文献6】特開2014-207898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
臨床検査薬用途のBODは高コストであるため、酵素電極等の他の用途での使用には適さないことがある。
【0008】
本明細書では、放線菌を宿主とする発現系での発現に適した、BOD活性を有するタンパク質、前記タンパク質を用いた基質の酸化方法、並びに、前記タンパク質を生産するための発現ベクター及び形質転換体を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)放線菌に由来する、ビリルビンオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
(2)前記放線菌がストレプトマイセス・ポプリ(Streptomyces populi)である、(1)に記載のタンパク質。
(3)(a)又は(b)に記載のタンパク質である、(1)又は(2)に記載のタンパク質:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、且つ、ビリルビンオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
(4)前記放線菌がストレプトマイセス・ラウレンティ(Streptomyces laurentii)である、(1)に記載のタンパク質。
(5)(c)又は(d)に記載のタンパク質である、(1)又は(4)に記載のタンパク質:
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、且つ、ビリルビンオキシダーゼ活性を有するタンパク質。
(6)ABTS(2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸))を酸化する方法であって、
pH4.0~6.0の条件下で(2)又は(3)に記載のタンパク質を触媒としてABTSの酸化反応を行うこと、又は、
pH3.5~6.0の条件下で(4)又は(5)に記載のタンパク質を触媒としてABTSの酸化反応を行うこと
を含む方法。
(7)DMP(2,6-ジメトキシフェノール)を酸化する方法であって、
pH4.5~8.5の条件下で(2)又は(3)に記載のタンパク質を触媒としてDMPの酸化反応を行うこと、又は、
pH5.0~8.5の条件下で(4)又は(5)に記載のタンパク質を触媒としてDMPの酸化反応を行うこと
を含む方法。
(8)SGZ(シリングアルダジン)を酸化する方法であって、
pH5.5~8.5の条件下で(2)又は(3)に記載のタンパク質を触媒としてSGZの酸化反応を行うこと、又は、
pH6.0~8.5の条件下で(4)又は(5)に記載のタンパク質を触媒としてSGZの酸化反応を行うこと
を含む方法。
(9)ビリルビンを酸化する方法であって、
pH7.0~8.5の条件下で(2)又は(3)に記載のタンパク質を触媒としてビリルビンの酸化反応を行うこと、又は、
pH7.0~8.5の条件下で(4)又は(5)に記載のタンパク質を触媒としてビリルビンの酸化反応を行うこと
を含む方法。
(10)プラスミドDNA中に、(1)~(5)のいずれかに記載のタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを含む、発現ベクター。
(11)宿主細胞に、(10)に記載の発現ベクターが導入された、形質転換体。
(12)前記宿主細胞が放線菌である、(11)に記載の形質転換体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一以上の実施形態に係るビリルビンオキシダーゼ活性を有するタンパク質は、放線菌を宿主とする発現系での発現が容易である。
【0011】
本発明の一以上の実施形態に係る発現ベクター及び形質転換体を用いることにより前記タンパク質を生産することができる。
【0012】
本発明の一以上の実施形態に係る方法によれば、前記タンパク質を用いてABTS(2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸))、DMP(2,6-ジメトキシフェノール)、SGZ(シリングアルダジン)又はビリルビンを効率的に酸化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、プライマーが異なる3種類のStreptomyces populi由来ビリルビンオキシダーゼ(Spop-BOD)発現プラスミドベクターによる形質転換放線菌の培養上清のSDS-PAGEの結果を示す。
【
図2】
図2は、Spop-BOD精製酵素による、4種類の基質(ABTS、DMP、SGZ又はビリルビン)の酸化反応の活性の、pHとの関係を示すグラフである。Spop-BOD精製酵素による各基質の酸化反応について、最も比活性が高いpH条件での比活性を100%とし、各pH条件での比活性を相対値として表した。
【
図3】
図3は、プライマーが異なる4種類のStreptomyces laurentii由来ビリルビンオキシダーゼ(Slau-BOD)発現プラスミドベクターによる形質転換放線菌の培養上清のSDS-PAGEの結果を示す。
【
図4】
図4は、Slau-BOD精製酵素による、4種類の基質(ABTS、DMP、SGZ又はビリルビン)の酸化反応の活性の、pHとの関係を示すグラフである。Slau-BOD精製酵素による各基質の酸化反応について、最も比活性が高いpH条件での比活性を100%とし、各pH条件での比活性を相対値として表した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<ビリルビンオキシダーゼ活性を有するタンパク質>
本発明の一以上の実施形態は、放線菌に由来する、ビリルビンオキシダーゼ(BOD)活性を有するタンパク質に関する。
【0015】
本実施形態に係るタンパク質は、特許文献6に記載されているような放線菌を宿主とする発現系での発現が容易である。本実施形態に係るタンパク質は放線菌を宿主とする発現系により低コストで生産することができるため、臨床検査薬の用途だけでなく、酵素電極等の他の用途にも好適に利用することができる。
【0016】
本実施形態に係るタンパク質の起源となる放線菌は、好ましくは、ストレプトマイセス・ポプリ(Streptomyces populi)、又は、ストレプトマイセス・ラウレンティ(Streptomyces laurentii)である。従来、これらの放線菌に由来するBOD活性を有するタンパク質は特定されていなかった。
【0017】
本実施形態に係るタンパク質、特に、ストレプトマイセス・ポプリに由来するBOD活性を有するタンパク質の、好ましい例は、以下の(a)又は(b):
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、且つ、BOD活性を有するタンパク質
である。
【0018】
本実施形態に係るタンパク質、特に、ストレプトマイセス・ラウレンティに由来するBOD活性を有するタンパク質の、好ましい例は、以下の(c)又は(d):
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、且つ、BOD活性を有するタンパク質である。
【0019】
前記(a)のタンパク質は、好ましくは、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。
【0020】
前記(b)における「配列同一性」は、好ましくは92%以上、より好ましくは94%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。
【0021】
前記(c)のタンパク質は、好ましくは、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。
【0022】
前記(d)における「配列同一性」は、好ましくは92%以上、より好ましくは94%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。
【0023】
前記(b)及び前記(d)における「配列同一性」とは、二つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、前記(b)では配列番号1に示すアミノ酸配列の全アミノ酸残基数に対する、前記(d)では配列番号2に示すアミノ酸配列の全アミノ酸残基数に対する、同一アミノ酸残基の割合(%)をいう。配列同一性は、BLASTやFASTAによるタンパク質の検索システムを用いて算出することができる(Karlin, S. et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877; Altschul, S. F. et al., 1990, J. Mol. Biol., 215: 403-410; Pearson,W. R. et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448)。
【0024】
本実施形態に係るタンパク質は、好ましくは精製されたタンパク質である。精製されたタンパク質とは、他のタンパク質が可能な範囲で除去されタンパク質として単離されているものを指す。
【0025】
<BOD基質を酸化する方法>
本発明の一以上の実施形態は、
ABTS(2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸))を酸化する方法であって、
pH4.0~6.0の条件下で、より好ましくはpH4.7~6.0の条件下で、更により好ましくはpH5.0~6.0の条件下で、ストレプトマイセス・ポプリに由来するBOD活性を有するタンパク質又は前記(a)又は(b)のタンパク質を触媒としてABTSの酸化反応を行うこと、又は、
pH3.5~6.0の条件下で、より好ましくはpH4.2~6.0の条件下で、更により好ましくはpH5.5~6.0の条件下で、ストレプトマイセス・ラウレンティに由来するBOD活性を有するタンパク質又は前記(c)又は(d)のタンパク質を触媒としてABTSの酸化反応を行うこと
を含む方法に関する。
【0026】
本実施形態に係るABTSの酸化方法は、所定のタンパク質によるABTSの酸化に適したpH条件においてABTSを効率的に酸化することができる。本実施形態に係るABTSの酸化方法を実施する温度は特に限定されないが、例えば20℃~40℃、好ましくは25~35℃である。反応時間は特に限定されずABTSの初期濃度等の条件に応じて反応時間を適宜調節することができる。
【0027】
本実施形態に係るABTSの酸化方法では、例えば、所定のタンパク質とABTSとをpH調節された緩衝液中に溶解し共存させることにより、前記所定のタンパク質を触媒とするABTSの酸化反応を行うことができる。或いは、所定のタンパク質が固定化された固相担体に、ABTSがpH調節された緩衝液中に溶解した溶液を接触させることにより、前記所定のタンパク質を触媒とするABTSの酸化反応を行うことができる。
【0028】
本発明の一以上の実施形態は、
DMP(2,6-ジメトキシフェノール)を酸化する方法であって、
pH4.5~8.5の条件下で、より好ましくはpH7.0~8.5の条件下で、更により好ましくはpH7.5~8.0の条件下で、ストレプトマイセス・ポプリに由来するBOD活性を有するタンパク質又は前記(a)又は(b)のタンパク質を触媒としてDMPの酸化反応を行うこと、又は、
pH5.0~8.5の条件下で、より好ましくはpH5.7~7.8の条件下で、更により好ましくはpH6.0~7.5の条件下で、ストレプトマイセス・ラウレンティに由来するBOD活性を有するタンパク質又は前記(c)又は(d)のタンパク質を触媒としてDMPの酸化反応を行うこと
を含む方法に関する。
【0029】
本実施形態に係るDMPの酸化方法は、所定のタンパク質によるDMPの酸化に適したpH条件においてDMPを効率的に酸化することができる。本実施形態に係るDMPの酸化方法を実施する温度は特に限定されないが、例えば20℃~40℃、好ましくは25~35℃である。反応時間は特に限定されずDMPの初期濃度等の条件に応じて反応時間を適宜調節することができる。
【0030】
本実施形態に係るDMPの酸化方法では、例えば、所定のタンパク質とDMPとをpH調節された緩衝液中に溶解し共存させることにより、前記所定のタンパク質を触媒とするDMPの酸化反応を行うことができる。或いは、所定のタンパク質が固定化された固相担体に、DMPがpH調節された緩衝液中に溶解した溶液を接触させることにより、前記所定のタンパク質を触媒とするDMPの酸化反応を行うことができる。
【0031】
本発明の一以上の実施形態は、
SGZ(シリングアルダジン)を酸化する方法であって、
pH5.5~8.5の条件下で、より好ましくはpH7.4~8.5の条件下で、更により好ましくはpH7.5~8.5の条件下で、ストレプトマイセス・ポプリに由来するBOD活性を有するタンパク質又は前記(a)又は(b)のタンパク質を触媒としてSGZの酸化反応を行うこと、又は、
pH6.0~8.5の条件下で、より好ましくはpH6.2~8.1の条件下で、更により好ましくはpH6.5~8.0の条件下で、ストレプトマイセス・ラウレンティに由来するBOD活性を有するタンパク質又は前記(c)又は(d)のタンパク質を触媒としてSGZの酸化反応を行うこと
を含む方法に関する。
【0032】
本実施形態に係るSGZの酸化方法は、所定のタンパク質によるSGZの酸化に適したpH条件においてSGZを効率的に酸化することができる。本実施形態に係るSGZの酸化方法を実施する温度は特に限定されないが、例えば20℃~40℃、好ましくは25~35℃である。反応時間は特に限定されずSGZの初期濃度等の条件に応じて反応時間を適宜調節することができる。
【0033】
本実施形態に係るSGZの酸化方法では、例えば、所定のタンパク質とSGZとをpH調節された緩衝液中に溶解し共存させることにより、前記所定のタンパク質を触媒とするSGZの酸化反応を行うことができる。或いは、所定のタンパク質が固定化された固相担体に、SGZがpH調節された緩衝液中に溶解した溶液を接触させることにより、前記所定のタンパク質を触媒とするSGZの酸化反応を行うことができる。
【0034】
本発明の一以上の実施形態は、
ビリルビンを酸化する方法であって、
pH7.0~8.5の条件下で、より好ましくはpH7.5~8.5の条件下で、ストレプトマイセス・ポプリに由来するBOD活性を有するタンパク質又は前記(a)又は(b)のタンパク質を触媒としてビリルビンの酸化反応を行うこと、又は、
pH7.0~8.5の条件下で、より好ましくはpH7.5~8.5の条件下で、ストレプトマイセス・ラウレンティに由来するBOD活性を有するタンパク質又は前記(c)又は(d)のタンパク質を触媒としてビリルビンの酸化反応を行うこと
を含む方法に関する。
【0035】
本実施形態に係るビリルビンの酸化方法は、所定のタンパク質によるビリルビンの酸化に適したpH条件においてビリルビンを効率的に酸化することができる。本実施形態に係るビリルビンの酸化方法を実施する温度は特に限定されないが、例えば20℃~40℃、好ましくは25~35℃である。反応時間は特に限定されずビリルビンの初期濃度等の条件に応じて反応時間を適宜調節することができる。
【0036】
本実施形態に係るビリルビンの酸化方法では、例えば、所定のタンパク質とビリルビンとをpH調節された緩衝液中に溶解し共存させることにより、前記所定のタンパク質を触媒とするビリルビンの酸化反応を行うことができる。或いは、所定のタンパク質が固定化された固相担体に、ビリルビンがpH調節された緩衝液中に溶解した溶液を接触させることにより、前記所定のタンパク質を触媒とするビリルビンの酸化反応を行うことができる。
【0037】
本実施形態に係るビリルビンの酸化方法では、反応液中の溶存酸素の濃度を高め酸化反応を促進する目的で、所定のタンパク質とビリルビンとを含む反応液に空気又はO2富化空気のバブリング又は加圧を行う、或いは、酸素雰囲気下で反応を行う等の、反応液中の溶存酸素の濃度を高める処理を行うことが好ましい。
【0038】
<発現ベクター>
本発明の一以上の実施形態は、
プラスミドDNA中に、前記一以上の実施形態に係るタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを含む、発現ベクター
に関する。
【0039】
以下の説明で、前記一以上の実施形態に係るタンパク質(放線菌に由来する、ビリルビンオキシダーゼ活性を有するタンパク質またはその具体的態様)を、「目的タンパク質」と称する場合がある。
【0040】
本実施形態に係る発現ベクターを、宿主細胞、特に放線菌、に導入して得た形質転換体を培養することにより、前記目的タンパク質を生産することができる。
【0041】
本実施形態に係る発現ベクターにおいて、骨格となるプラスミドDNAは、宿主細胞、特に放線菌、において自律複製可能な領域を含み得る。宿主細胞において自律複製可能な領域は、該領域を含むプラスミドを宿主に導入したときに、プラスミドが複製できる最小限の領域を含みさえすればよく、特に制限されない。自律複製可能な領域としては、例えば、ストレプトマイセス属細菌の内因性の野生型プラスミドであるpIJ101又はpIJ101に由来するプラスミドベクターに由来する自律複製領域(複製起点(「ori」)および複製タンパク質「rep」を含む領域)が挙げられる。
【0042】
自律複製可能な領域を含むプラスミドDNAを含む本実施形態に係る発現ベクターは、宿主細胞内でベクターの複製が可能であり、宿主細胞の増殖によってベクターが落ちてしまうことを抑制することができる。また宿主細胞内でのベクターのコピー数を増加させることができる。
【0043】
本実施形態に係る発現ベクターの好ましい態様では、プラスミドDNAは、プロモーター、クローニングサイト及びターミネーターを含み、前記目的タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを含むDNA断片が、前記クローニングサイト内に挿入され連結されている。クローニングサイトは、プロモーターの下流に設けられる。ターミネーターは、クローニングサイトの下流に連結されている。下流側とは、転写されるポリヌクレオチド鎖の3’側のことであり、上流側とは、転写されるポリヌクレオチド鎖の5’側のことである。
【0044】
プロモーターは、プロモーター活性を有していればよく、「プロモーター活性」とは、プロモーター領域に転写因子が結合し、転写を惹起する活性をいう。プロモーターは、所望のプロモーター領域を保有する菌体、ファージなどから、制限酵素を用いて切り出し得る。必要に応じて制限酵素認識部位を設けたプライマーを用い、PCRで所望のプロモーター領域を増幅することによりプロモーター領域のDNA断片を得ることができる。また、既に判明しているプロモーター領域の塩基配列情報をもとにして、所望のプロモーターを化学合成してもよい。
【0045】
プロモーターは、宿主細胞中で活性を発揮し得るものであればいずれの遺伝子に由来するプロモーターを用いてもよい。例えば、放線菌細胞中でプロモーター活性を発揮するプロモーターとして、ストレプトマイセス・セプタタス由来メタロエンドペプチダーゼ(SSMP)遺伝子のプロモーター、ストレプトマイセス・コエリカラー由来のキシロース・イソメラーゼ(XylA)遺伝子のプロモーター、ストレプトマイセス・エバメチルス由来メタロプロテアーゼ遺伝子のプロモーター(SAVプロモーター)、ストレプトマイセス・ハルステディ由来のベータ・キシラナーゼ(xysA)遺伝子のプロモーター等が例示できる。
【0046】
クローニングサイトは、プロモーターの下流に設けられる。クローニングサイトは、特定の種類の制限酵素(またはその組合せ)によって、ユニークに切断されるサイトである。その特定の種類の制限酵素(またはその組合せ)で切断した箇所に、前記目的タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAを含むDNA断片を挿入して連結することができる。クローニングサイトは、マルチクローニングサイト(MCS)としてもよい。
【0047】
ターミネーターは、ターミネーター活性を有していればよく、「ターミネーター活性」とは、ターミネーター領域において転写を終結させる活性をいう。ターミネーターは、ターミネーター活性を有しさえすればよく、所望のターミネーター領域を保有する菌体、ファージなどから、制限酵素を用いて切り出し得る。必要に応じて制限酵素認識部位を設けたプライマーを用い、PCRで所望のターミネーター領域を増幅することによりターミネーター領域のDNA断片を得ることができる。また、既に判明しているターミネーター領域の塩基配列情報をもとにして、所望のターミネーターを化学合成してもよい。
【0048】
ターミネーターは、宿主細胞中で活性を発揮し得るものであればいずれの遺伝子に由来するターミネーターを用いてもよい。例えば、ストレプトマイセス・シンナモネウス由来のホスホリパーゼD(PLD)遺伝子のターミネーター等を用いることができる。
【0049】
本実施形態に係る発現ベクターは、前記目的タンパク質が宿主細胞から分泌されるように、予め分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNAを更に含んでいてもよい。前記目的タンパク質を、分泌シグナルペプチドが付加した融合タンパク質として発現させることで、前記目的タンパク質を宿主細胞外に分泌させることができる。分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNAは、通常、前記目的タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNAの上流に「機能的に」連結され得る。「機能的に」とは、DNA断片が発現または機能するように、という意味であり、宿主に導入したときにそれぞれの遺伝子が発現し得る状態を意味する。
【0050】
本実施形態に係る発現ベクターは、これを保持した宿主細胞を選択できるように、適切な薬剤耐性遺伝子、代謝酵素等の選択用マーカー遺伝子を含むことが好ましい。選択用マーカー遺伝子としては、チオストレプトン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子等が挙げられ、これらはいずれも当業者には周知である。薬剤マーカーが抗生物質耐性遺伝子である場合には、対応する抗生物質を含む培地で形質転換体を培養することにより、形質転換体の細胞内からベクターが落ちてしまうことを抑制し得る。
【0051】
本実施形態に係る発現ベクターは、必要に応じて他のエレメント(例えば、転写活性化配列、発現調節配列(オペレーター、エンハンサー、SD配列など)を含んでいてもよい。
【0052】
本実施形態に係る発現ベクターの骨格となるプラスミドDNAは、好ましくは、放線菌宿主に対して通常用いられるプラスミドDNAである。例えば、pIJ101に由来する汎用プラスミドベクター、及び、他の放線菌に適した公知のプラスミドベクターが用いられ得る。例えば、pIJ350、pIJ702及びpIJ487が挙げられる。特にpIJ350及びpIJ702はチオストレプトン耐性遺伝子およびpIJ101に由来する自律複製領域(複製起点(「ori」)および複製タンパク質「rep」を含む領域)を有するので、骨格となるプラスミドDNAとして好適に用いられ得る。
【0053】
<形質転換体>
本発明の一以上の実施形態は、
宿主細胞に、前記一以上の実施形態に係る発現ベクターが導入された形質転換体
に関する。
本実施形態に係る形質転換体を培養することで、前記目的タンパク質を効率的に生産することができる。
【0054】
前記一以上の実施形態に係る発現ベクターを用いて宿主細胞を形質転換することにより、前記目的タンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子のコピー数を増大させ、前記目的タンパク質の発現量及び生産量を増大させることができる。前記一以上の実施形態に係る発現ベクターは、宿主細胞において安定に保持され得る。
【0055】
前記宿主細胞は、好ましくは放線菌である。本明細書において、放線菌とは、放線菌目(order Actinomycetales)に属する微生物をいう。放線菌は、グラム陽性細菌に所属する一分類群であり、主に土壌などに生息する。原核生物であるが、多くの放線菌は分岐を伴う糸状の生育を示し、多様な形態を呈する。また、一般的に胞子を形成し、中には胞子嚢や運動性胞子を形成する種も存在する。また、放線菌からは種々の抗生物質及び他の生物学的に重要な化合物が発見されている。
【0056】
放線菌目には、フランキア科(Frankiaceae)、ミクロモノスポラ科(Micromonosporaceae)、プロピオニバクトリウム科(Propionibacteriaceae)、シウドノカルジア科(Pseudonocardiaceae)、ストレプトマイセス科(Streptomyceae)、ストレプトスポランギウム科(Streptosprangiaceae)、テルモモノスポラ科(Thermomonosporaceae)、コリネバクテリウム科(Corynebacteriaceae)、マイコバクテリウム科(Mycobacteriaceae)、及び、ノカジア科(Nocardiaceae)が含まれる。好ましくは、ストレプトマイセス科、より好ましくはストレプトマイセス属(Streptomyces)に属する菌である。ストレプトマイセス属に属する菌としては、例えば、ストレプトマイセス・セプタタス(Streptomyces septatus)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・ラベンデュラエ(Streptomyces lavendulae)、ストレプトマイセス・バージニア(Streptomyces virginia)、およびストレプトマイセス・コエリカラー(Streptomyces coelicolor)が挙げられる。前記宿主細胞として、特にストレプトマイセス・リビダンスが好適に用いられる。
【0057】
このようなストレプトマイセス属に属する放線菌やその他の放線菌は、IFOカタログ、ATCCカタログ、JCMカタログなどの種々のカタログに記載されており、例えば、微生物寄託分譲機関から分譲を受けることによって当業者であれば容易に入手可能である。
【0058】
宿主細胞について、突然変異を導入するように処理を行うこともできる。このような処理としては、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)による変異株の作製が挙げられ、NTG変異株の作製は、例えば、Mutation research/fundamental and molecular mechanisms of mutagenesis(1970)vol.9,167-182に記載の手順に準じて行われ得る。
【0059】
前記宿主細胞への、前記一以上の実施形態に係る発現ベクターの導入(形質転換)は、公知の方法により行うことができる。宿主細胞の形質転換法としては、プロトプラスト/PEG法が挙げられるが、これに限定されない。宿主細胞に発現ベクターが導入されたことの確認は、発現ベクターに含まれる選択マーカー遺伝子(例えば、チオストレプトン耐性遺伝子)を用いて行うことができる。
【0060】
発現産物としての前記目的タンパク質は、本実施形態に係る形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、培養細胞、又は培養細胞の破砕物のいずれをも意味するものである。形質転換体を培養する方法は、宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0061】
本実施形態に係る形質転換体を培養する培地は、宿主細胞が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、前記形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、ガラクトース、フラクトース、キシロース、スクロース、ラフィノース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物が挙げられる。その他、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、各種アミノ酸等を用いてもよい。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、必要に応じて植物油、界面活性剤、シリコンなどの消泡剤を添加してもよい。
【0062】
培養条件は、培地の種類、培養方法などにより適宜選択すればよく、宿主細胞が増殖し、前記目的タンパク質を産生できる条件であれば特に制限はない。通常、液体培地中で振盪培養または通気攪拌培養などの好気的条件下で、10℃~40℃、好ましくは28℃で12~120時間行われる。pHは、4から10、好ましくは6から8に調節される。pHの調整は、無機酸または有機酸、アルカリ溶液などを用いて行うことができる。
【0063】
遺伝子発現が誘導されるプロモーターを用いる場合には、使用するプロモーターおよび発現させるタンパク質の性質に応じて、培養初期から誘導物質(例えば、キシロース等)を添加するか、一定程度増殖してから誘導物質を添加して発現を誘導する、または、集菌して誘導物質を含有する培地に移植して遺伝子発現を誘導する方法等を選択することができる。毒性を有するタンパク質を発現させる場合等には誘導物質無しで培養後、誘導する条件が好ましく用いられる。
【0064】
前記目的タンパク質が形質転換体細胞内に蓄積する場合には、培養終了後、遠心分離によって形質転換体細胞を回収し、得られた形質転換体細胞を超音波処理などによって破砕した後、遠心分離などによって無細胞抽出液を得る。これを出発材料とし、塩析法や、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィーなどの一般的なタンパク質精製法により精製することができる。発現した前記目的タンパク質が形質転換体の細胞外に分泌される場合には、培養上清から同様に精製することができる。
【実施例0065】
<実施例1>
Streptomyces populi由来ビリルビンオキシダーゼ
Streptomyces populi由来ビリルビンオキシダーゼ(Spop-BOD)のアミノ酸配列(配列番号1)をコードする塩基配列(配列番号3)とその両末端に制限酵素NdeI/SphI領域を含むDNA断片を全合成した。
【0066】
一方、放線菌においてタンパク質を発現するためのプラスミドベクターとしてpDNX1611、pDNX1613、pDNX1615を用いた。
【0067】
pDNX1611、pDNX1613及びpDNX1615は、pIJ350プラスミドDNAを骨格として、プロモーターとターミネーターを備えており、プロモーターとターミネーターの間には、目的遺伝子を挿入するための制限酵素部位を有している。
【0068】
pDNX1611は、プロモーターとして、ストレプトマイセス・セプタタス由来メタロエンドペプチダーゼ(SSMP)遺伝子のプロモーター(特許文献6参照)を含む。
【0069】
pDNX1613は、プロモーターとして、ストレプトマイセス・エバメチルス由来メタロプロテアーゼ遺伝子のプロモーター(SAVプロモーター)(WO2015/182719参照)を含む。
【0070】
pDNX1615は、プロモーターとして、ストレプトマイセス・コエリカラー由来のキシロース・イソメラーゼ(XylA)遺伝子のプロモーター(特許文献6参照)を含む。
【0071】
pDNX1611、pDNX1613及びpDNX1615は、ストレプトマイセス・シンナモネウス由来のホスホリパーゼD(PLD)遺伝子のターミネーター(特許文献6参照)を含む。
【0072】
pDNX1611、pDNX1613及びpDNX1615の上記各プライマーの制御下にあるマルチクローニングサイトの制限酵素NdeI/SphIの領域に、前記DNA断片を組み込み、Spop-BOD発現プラスミドベクターを得た。
【0073】
Spop-BOD発現プラスミドベクターによる形質転換放線菌の調製手順は以下のとおりである:
ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)1326株(独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NBRC):NBRC番号15675)を各Spop-BOD発現プラスミドベクターで形質転換した。放線菌の形質転換は、放線菌に関する遺伝子操作技術についての「Genetic Manipulation of Streptomyces」(Hopwood,D.A.ら、1985年、Genetic Manipulation of Streptomyces: a Laboratory Manual,the John Innes Foundation,Norwich)に記載の方法に従って行った。TSBプレートで得られたコロニーを6mLのTSB培地に移植し、試験管培養(28℃にて72時間)し、50mLの発現用培地(1mM CuSO4・5H2Oを含む)に試験管培養液を0.4%植菌し、バッフルフラスコ培養(28℃にて48時間)した。その後、1mLの培養液を分取し、遠心分離(14,000rpm、10分、4℃)により上清を回収した。
【0074】
前記上清を、SDS(Sodium dodecyl sulfate)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供したところ、Spop-BODの分子量に相当する位置にバンドが確認できた(
図1)。
図1において上段は、Spop-BOD発現プラスミドベクターにおけるプロモーターを示す。
【0075】
前記上清1mLあたりのABTS酸化反応活性(ABTS(2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸))を酸化する活性)を以下の手順で測定した。
50mM酢酸緩衝液(pH5.0)に2mM ABTSを溶解させた溶液0.1mlを基質液とし、96ウェルプレート中で上清10μlを加えて、分光光度計(Multiskan GO,Thermo Fisher Scientific)を用いて、0~600秒後までの420nmにおける吸光度の変化を測定した。ABTSの420nmにおけるモル吸光係数ε420=36,000を用いて、活性値を算出した。活性の単位(U)は、1分間に1μmolのABTSを酸化する酵素量とした。(参考文献:特開2010-183857号公報)
【0076】
前記上清1mLあたりのABTS酸化反応活性の測定結果を下記表に示す。
【0077】
【0078】
Spop-BOD発現プラスミドベクターとしてpDNX1611、pDNX1613及びpDNX1615のどれを用いた場合にも、形質転換体は、活性を有するSpop-BODを発現することが確認された。
【0079】
続いて、pDNX1615による形質転換体の上清から精製したSpop-BODの活性を測定した。
【0080】
精製は以下の手順で行った。
培養液を遠心分離及び珪藻土ろ過を行うことで上清を得た。
続いてタンパク質の分画のため、以下の方法を実施した。
50~60%の飽和硫酸アンモニウムとなるように(NH4)2SO4を上清に加えた。(NH4)2SO4が全て溶解した後、該溶液を遠心分離した。飽和硫酸アンモニウムの50~60%の間のタンパク質分画を表す残余物を取得し、Tris緩衝液50mM、pH7.6中に再溶解した。
続いて再溶解液を0.2μmフィルターろ過及び500,000Daの精密ろ過により除菌した。
続いて30,000Daのカートリッジを用いて限外ろ過を行い、さらに50~60%の飽和硫酸アンモニウムとなるように(NH4)2SO4を上清に加えた。(NH4)2SO4が全て溶解した後、該溶液を遠心分離した。飽和硫酸アンモニウムの50~60%の間のタンパク質分画を表す残余物を取得し、Tris緩衝液50mM、pH7.6中に再溶解した。
最後に0.2μm フィルターろ過を行い、これを精製Spop-BODとした。
【0081】
Spop-BOD精製酵素によるABTS(2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸))を基質とする酸化反応の比活性を以下の手順で測定した。
50mM酢酸緩衝液(pH5.0)に2mM ABTSを溶解させた溶液0.1mlを基質液とし、96ウェルプレート中で適宜希釈したSpop-BOD精製酵素溶液10μlを加えて、分光光度計(Multiskan GO,Thermo Fisher Scientific)を用いて、0~600秒後までの420nmにおける吸光度の変化を測定した。ABTSの420nmにおけるモル吸光係数ε420=36,000を用いて、活性値を算出した。活性の単位(U)は、1分間に1μmolのABTSを酸化する酵素量とした。(参考文献:特開2010-183857号公報)
【0082】
測定されたSpop-BOD精製酵素のタンパク質濃度は28.7mg/mLであり、比活性は3785U/mg(2mM ABTS,pH5.0(50mM酢酸緩衝液),30℃)であった。
【0083】
Spop-BOD精製酵素の、ABTS、DMP(2,6-ジメトキシフェノール)、SGZ(シリングアルダジン)又はビリルビンの酸化反応の触媒活性と、pHとの関係を評価した。
【0084】
図2に示す各pH且つ30℃において、Spop-BOD精製酵素による各基質(ABTS、DMP、SGZ又はビリルビン)の酸化反応の比活性を求めた。比活性の測定方法は、ABTSの酸化反応の比活性の上記の測定方法と同様である。pH調節は、目標pHの範囲に応じて適宜異なる緩衝液を選択した。
【0085】
Spop-BOD精製酵素による各基質の酸化反応について、最も比活性が高いpH条件での比活性を100%とし、各pH条件での比活性を相対値として表した。結果を
図2に示す。
【0086】
<実施例2>
Streptomyces laurentii由来ビリルビンオキシダーゼ
同定微生物ライブラリーより取得したStreptomyces laurentii菌株を培養し、ゲノムDNAを抽出した。ゲノムDNAに含まれるStreptomyces laurentii由来ビリルビンオキシダーゼ(Slau-BOD)のアミノ酸配列(配列番号2)をコードする塩基配列(配列番号4)の両端に設計されたプライマーセットを用い、前記ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、増幅産物として、前記塩基配列と、その両末端に、前記プライマーセットに由来する制限酵素NdeI/SphI領域を含むDNA断片を得た。
【0087】
一方、放線菌においてタンパク質を発現するためのプラスミドベクターとしてpDNX1611、pDNX1613、pDNX1615及びpDNX1620を用いた。
pDNX1611、pDNX1613及びpDNX1615は実施例1に記載した通りである。
【0088】
pDNX1620は、プロモーターとして、ストレプトマイセス・ハルステディ由来のベータ・キシラナーゼ(xysA)遺伝子のプロモーターを含むことを除いて、pDNX1611、pDNX1613及びpDNX1615と同じ特徴を有する。
【0089】
pDNX1611、pDNX1613、pDNX1615及びpDNX1620の各プライマーの制御下にあるマルチクローニングサイトの制限酵素NdeI/SphIの領域に、前記DNA断片を組み込み、Slau-BOD発現プラスミドベクターを得た。
【0090】
Slau-BOD発現プラスミドベクターによる形質転換放線菌の調製手順は、実施例1でのSpop-BOD発現プラスミドベクターによる形質転換放線菌の調製手順と同様である。実施例1と同様に、Slau-BOD発現プラスミドベクターによる形質転換放線菌を培養し上清を取得した。
【0091】
前記上清を、SDS(Sodium dodecyl sulfate)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供したところ、Slau-BODの分子量に相当する位置にバンドが確認できた(
図3)。
図3において上段は、Slau-BOD発現プラスミドベクターにおけるプロモーターを示す。
【0092】
前記上清1mLあたりのABTS酸化反応活性(ABTS(2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸))を酸化する活性)を実施例1と同様に測定した。
前記上清1mLあたりのABTS酸化反応活性の測定結果を下記表に示す。
【0093】
【0094】
Slau-BOD発現プラスミドベクターとしてpDNX1611、pDNX1613,pDNX1615及びpDNX1620のどれを用いた場合にも、形質転換体は、活性を有するSlau-BODを発現することが確認された。
【0095】
続いて、pDNX1615による形質転換体の上清から精製したSlau-BODの活性を測定した。酵素の精製方法は実施例1に記載の通りである。
【0096】
Slau-BOD精製酵素によるABTSを基質とする酸化反応の比活性を実施例1に記載の手順で測定した。
【0097】
測定されたSlau-BOD精製酵素のタンパク質濃度は26.7mg/mLであり、比活性は615U/mg(2mM ABTS,pH5.0(50mM酢酸緩衝液),30℃)であった。
【0098】
Slau-BOD精製酵素の、ABTS、DMP、SGZ又はビリルビンの酸化反応の触媒活性と、pHとの関係を評価した。
【0099】
図4に示す各pH且つ30℃において、Slau-BOD精製酵素による各基質(ABTS、DMP、SGZ又はビリルビン)の酸化反応の比活性を実施例1に記載の手順で求めた。
【0100】
Slau-BOD精製酵素による各基質の酸化反応について、最も比活性が高いpH条件での比活性を100%とし、各pH条件での比活性を相対値として表した。結果を
図4に示す。