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特開2023-77488妊娠高血圧症候群の発症予測支援システムと発症予測支援プログラムと発症予測支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077488
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】妊娠高血圧症候群の発症予測支援システムと発症予測支援プログラムと発症予測支援方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/20 20180101AFI20230530BHJP
【FI】
G16H50/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190763
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】前川 亮
(72)【発明者】
【氏名】安部 武志
(72)【発明者】
【氏名】浅井 義之
(72)【発明者】
【氏名】杉野 法広
(72)【発明者】
【氏名】品川 征大
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】妊婦が受診済の妊婦健診の健診データから妊娠高血圧症候群(HDP)の発症の予測を支援する。
【解決手段】本発明に係るシステムは、学習用妊婦ごとの学習用の妊娠中の健診データとHDPの発症の有無とに基づいて、HDPの発症率の異なる複数の状態間の遷移を予測するように学習された判別器を記憶する記憶部と、予測の対象である妊婦が妊娠中に受診した健診で得られた受診済の健診データを取得する取得部と、妊婦の受診済の健診データと判別器とに基づいて複数の状態の中から妊婦が妊娠期間の残期間内に取り得る状態を判別する判別部と、妊婦の残期間内の状態に基づいて妊婦の残期間内の予測される健診データを算出する算出部と、を有してなる。判別器は、妊婦の内部状態を隠れ状態とし、内部状態ごとの健診データを隠れ状態の出力変数とする隠れマルコフモデルを用いて学習される。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
妊婦が妊娠高血圧症候群を発症するか否かの予測を、前記妊娠高血圧症候群の発症率の異なる複数の状態の中から前記妊婦が妊娠中に取り得る前記状態を予測することで支援する、妊娠高血圧症候群の発症予測支援システムであって、
学習用妊婦ごとの学習用の妊娠中の健診データと前記妊娠高血圧症候群の発症の有無とに基づいて、複数の前記状態間の遷移を予測するように学習された判別器を記憶する記憶部と、
予測の対象である前記妊婦が妊娠中に受診した健診で得られた受診済の健診データを取得する取得部と、
前記妊婦の前記受診済の前記健診データと、前記判別器と、に基づいて、複数の前記状態の中から前記妊婦が妊娠期間の残期間内に取り得る前記状態を判別する判別部と、
前記妊婦の前記残期間内の前記状態に基づいて、前記妊婦の前記残期間内の予測される健診データを算出する算出部と、
を有してなり、
前記判別器は、前記状態を隠れ状態とし、前記状態ごとの前記健診データを前記状態の出力変数とする隠れマルコフモデルを用いて学習される、
ことを特徴とする妊娠高血圧症候群の発症予測支援システム。
【請求項2】
前記判別器は、前記学習用妊婦の前記健診データを用いて学習された前記判別器の複数の候補の中から選択されていて、
複数の前記候補それぞれのハイパーパラメータとしての前記状態の数は、異なる、
請求項1記載の妊娠高血圧症候群の発症予測支援システム。
【請求項3】
前記記憶部は、
複数の前記状態間の状態遷移確率、
を記憶し、
前記判別部は、
前記妊婦の前記受診済の前記健診データに基づいて、前記妊婦の現在の前記状態を判別し、
前記妊婦の現在の前記状態と、前記状態遷移確率と、に基づいて、前記妊婦が前記残期間内に取り得る前記状態を判別する、
請求項1または2記載の妊娠高血圧症候群の発症予測支援システム。
【請求項4】
前記判別器は、前記学習用妊婦の妊娠週数ごとに受診した健診で得られた前記学習用の前記健診データを用いて学習され、
前記判別部は、前記妊婦の前記残期間内の妊娠週数ごとの前記状態を判別する、
請求項1乃至3のいずれかに記載の妊娠高血圧症候群の発症予測支援システム。
【請求項5】
前記記憶部は、
複数の前記状態ごとの前記健診データの出力確率、
を記憶し、
前記算出部は、前記妊婦が前記残期間内に取り得る前記状態と、前記出力確率と、に基づいて、前記予測される前記健診データを算出する、
請求項4記載の妊娠高血圧症候群の発症予測支援システム。
【請求項6】
前記算出部は、前記妊婦の前記残期間内の妊娠週数ごとの前記予測される前記健診データを算出する、
請求項5記載の妊娠高血圧症候群の発症予測支援システム。
【請求項7】
前記取得部は、前記妊婦の妊娠週数ごとに受診した健診で得られた前記受診済の前記健診データを取得する、
請求項6記載の妊娠高血圧症候群の発症予測支援システム。
【請求項8】
前記健診データは、少なくとも、収縮期血圧と、拡張期血圧と、尿蛋白とのいずれか1つを含む、
請求項1記載の妊娠高血圧症候群の発症予測支援システム
【請求項9】
コンピュータを、請求項1記載の妊娠高血圧症候群の発症予測支援システムとして機能させる、
ことを特徴とする妊娠高血圧症候群の発症予測支援プログラム。
【請求項10】
妊婦が妊娠高血圧症候群を発症するか否かの予測を、前記妊娠高血圧症候群の発症率の異なる複数の状態の中から前記妊婦が妊娠中に取り得る前記状態を予測することで支援する発症予測支援システムにより実行される妊娠高血圧症候群の発症予測支援方法であって、
前記発症予測支援システムは、
学習用妊婦ごとの学習用の妊娠中の健診データと前記妊娠高血圧症候群の発症の有無とに基づいて、複数の前記状態間の遷移を予測するように学習された判別器を記憶する記憶部、
を備え、
前記発症予測支援システムが、
予測の対象である前記妊婦が妊娠中に受診した健診で得られた受診済の健診データを取得する取得ステップと、
前記妊婦の前記受診済の前記健診データと、前記判別器と、に基づいて、複数の前記状態の中から前記妊婦が妊娠期間の残期間内に取り得る前記状態を判別する判別ステップと、
前記妊婦の前記残期間内の前記状態に基づいて、前記妊婦の前記残期間内の予測される健診データを算出する算出ステップと、
を有してなり、
前記判別器は、前記状態を隠れ状態とし、前記状態ごとの前記健診データを前記状態の出力変数とする隠れマルコフモデルを用いて学習される、
ことを特徴とする妊娠高血圧症候群の発症予測支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、妊娠高血圧症候群の発症予測支援システムと発症予測支援プログラムと発症予測支援方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
妊娠高血圧症候群(HDP:Hypertensive Disorder in Pregnancy)は、妊娠中の妊婦のうち約5%の妊婦で発症する周産期合併症の一種である。HDPは、母体の肝機能障害や腎機能障害、児の子宮内胎児発育不全など、様々な障害を引き起こす。HDPは、発症転機が突然であり、不可逆的かつ急激に増悪する。重症化すると、母体痙攣である子癇や、常位胎盤早期剥離を引き起こす。すなわち、HDPは、妊産婦や新生児の死亡、出生児の後遺障害に大きく関与する。そのため、HDPの発症の早期発見と、早期治療開始と、が求められる。
【0003】
これまでにも、HDPに関連する提案がされている(例えば、特許文献1-4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2015-525870号公報
【特許文献2】特表2015-519107号公報
【特許文献3】特開2002-122592号公報
【特許文献4】特表2018-536170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、侵襲的な検査を必要とせず、一般的な妊婦健診で取得される妊婦の健診データを用いて、その妊婦の妊娠中のHDPの発症の予測を支援する発症予測支援システムと発症予測支援プログラムと発症予測支援方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るHDPの発症予測支援システムは、妊婦がHDPを発症するか否かの予測を、妊娠高血圧症候群の発症率の異なる複数の状態の中から妊婦が妊娠中に取り得る状態を予測することで支援する、HDPの発症予測支援システムであって、学習用妊婦ごとの学習用の妊娠中の健診データとHDPの発症の有無とに基づいて、複数の状態間の遷移を予測するように学習された判別器を記憶する記憶部と、予測の対象である妊婦が妊娠中に受診した健診で得られた受診済の健診データを取得する取得部と、妊婦の受診済の健診データと、判別器と、に基づいて、複数の状態の中から妊婦が妊娠期間の残期間内に取り得る状態を判別する判別部と、妊婦の残期間内の状態に基づいて、妊婦の残期間内の予測される健診データを算出する算出部と、を有してなり、判別器は、状態を隠れ状態とし、状態ごとの健診データを状態の出力変数とする隠れマルコフモデルを用いて学習される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、妊婦健診で取得される妊婦の健診データを用いて、その妊婦の妊娠中のHDPの発症の予測を支援する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係るHDPの発症予測支援方法の概要を示す模式図である。
図2】上記方法で用いられる判別器(隠れマルコフモデル)における妊婦の隠れ状態と出力変数との関係を示す模式図である。
図3】本発明に係るHDPの発症予測支援システムの実施の形態を示す機能ブロック図である。
図4】上記システムが備える記憶部に記憶される隠れ状態ごとの出力確率(拡張期血圧)の例を示す模式図である。
図5】上記記憶部に記憶される隠れ状態ごとの出力確率(収縮期血圧)の例を示す模式図である。
図6】上記記憶部に記憶される隠れ状態ごとの出力確率(尿蛋白)の例を示す模式図である。
図7】上記記憶部に記憶される隠れ状態ごとの出力変数の平均値の例を示す模式図である。
図8】上記判別器の状態遷移確率の例を示す模式図である。
図9】上記判別器の状態遷移確率の例を示す模式図である。
図10】上記記憶部に記憶される上記状態遷移確率の例を示す模式図である。
図11】上記記憶部に記憶される上記状態遷移確率の例を示す模式図である。
図12】上記判別器の候補ごとの評価量の例を示す模式図である。
図13】上記判別器のROC曲線の例を示す模式図である。
図14】上記判別器に予測された出力変数の例を示す模式図である。
図15】上記判別器を備える上記発症予測支援システムの出力例を示す模式図である。
図16】上記判別器に予測された隠れ状態の例を示す模式図である。
図17】上記判別器に予測された隠れ状態の例を示す模式図である。
図18】上記判別器に予測された隠れ状態の例を示す模式図である。
図19】上記判別器に予測された隠れ状態の例を示す模式図である。
図20】上記判別器に予測された隠れ状態の例を示す模式図である。
図21】上記判別器に予測された隠れ状態の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る妊娠高血圧症候群(以下「HDP」という。)の発症予測支援システムと発症予測支援プログラムと発症予測支援方法との実施の形態は、以下に、図面と共に説明される。
【0010】
●発症予測支援方法の概要●
図1は、本発明に係るHDPの発症予測支援方法(以下「本方法」という。)の概要を示す模式図である。
同図は、妊娠週数と血圧との関係を示す。同図は、発症前の妊婦が受診した妊婦健診で得られた血圧(健診データの例)を実線の丸印で示す。同図は、妊婦健診で得られた血圧をもとに、本発明における判別器が予測した血圧を点線の丸印で示す。同図は、予測された血圧が医師の診断を必要とする診断ラインの血圧を超える妊婦が発症群であり、予測された血圧が診断ラインを超えない妊婦が非発症群であることを示す。
【0011】
本方法は、判別器が妊婦の妊娠中の受診済の健診データに基づいて妊婦の妊娠期間の残期間の健診データを予測する。すなわち、本方法は、妊娠週数第N週までに妊婦が受診した妊婦健診で得られた健診データに基づいて、妊娠週数第N+1週以降(例えば、第40週まで)の妊娠週数ごとの妊婦の健診データを予測する。本方法の使用者である医師は、本方法により予測された妊婦の健診データを基に、妊婦のHDPの発症の有無を予測する。その結果、医師は、HDPの発症が予測される妊婦に対する治療などの処置を、発症前に講じることができる。
【0012】
図2は、本方法で用いられる判別器における妊婦の隠れ状態(内部状態)と出力変数との関係を示す模式図である。
本方法は、隠れマルコフモデル(HMM:Hidden Markov Model)を用いて統計的機械学習された判別器を用いる。
【0013】
ここで、HMMは、時系列データを取り扱うことができる学習モデルである。HMMは、マルコフ過程で表される隠れ状態が出力変数(応答変数)を通じて観測される学習モデルである。HMMは、補完などに頼ることなくデータの欠損を扱うことができる。HMMは、妊婦健診のタイミングが妊婦ごとに多少の前後があっても、各妊婦の健診データを統一して取り扱うことができる。HMMは、時系列データを取り扱うことができる回帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)など他の学習モデルと比べて、高速の学習アルゴリズムが存在する点や、出力変数を除き教師ラベルを必要としない利点を備える。このような観点から、本発明者らは、HMMを用いて学習された判別器を用いることにした。
【0014】
なお、本方法で用いられる判別器は、妊娠週数(時間)の経過に応じた妊婦の状態の遷移を判別結果に反映するために、状態遷移確率の共変量として妊娠週数が用いられている。すなわち、判別器は、従来のHMMを、妊娠週数(時間)に依存する共変量を状態遷移行列のパラメータに許容するモデル(マルコフ依存混合モデル)に拡張されている。
【0015】
図2は、本方法で用いられる判別器(隠れマルコフモデル)における、妊婦の内部状態である隠れ状態と、出力変数と、の関係を示す模式図である。
同図は、妊娠週数の経過と共に、妊婦の内部状態である隠れ状態がxからx、xからx、に遷移する様子を示す。同図は、隠れ状態隠れ状態xからxへの状態遷移確率がP12であること、隠れ状態xからxへの状態遷移確率がP23であること、を示す。同図は、妊娠週数ごとの妊婦の健診データである血圧と尿蛋白(y,y,y)が、妊娠週数ごとの隠れ状態(x,x,x)から観測されることを示す。
【0016】
本実施の形態において、本方法は、後述のとおり、HDPの発症率の異なる状態1から状態14までの14の隠れ状態(以下「状態」という。)のうち、現時点の妊婦の状態を、妊婦の受診済の健診データに基づいて判別する。14の状態のうち、HDPの発症率の最小の状態は状態1であり、HDPの発症率の最大の状態は状態14である。
【0017】
本方法は、判別された現時点の妊婦の状態(受診済の健診データで判別された状態)と、状態遷移確率と、に基づいて、妊婦の今後の状態を予測する。本方法は、予測された妊婦の今後の状態に基づいて、妊婦の今後の健診データを予測する。本方法の使用者である医師は、予測された妊婦の今後の健診データを参照して、妊婦がHDPを発症するか否か、あるいは、発症が予測される時期(妊娠週数)を把握して、必要に応じて妊婦への治療を開始する。
【0018】
●発症予測支援システムの構成●
図3は、本発明に係るHDPの発症予測支援システム(以下「本システム」という。)の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【0019】
本システムは、パーソナルコンピュータなどの情報処理装置により実現される。本システムは、本発明に係るHDPの発症予測支援プログラム(以下「本プログラム」という。)を実行する。本システムで動作する本プログラムは、本システムのハードウェア資源と協働して、本方法を実現する。
【0020】
本システムのハードウェア資源は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)などのプロセッサである。プロセッサは、本プログラムに記述された命令を実行することで、本システムが備える後述の各手段を実現する。
【0021】
なお、本システムとは異なる図示しない情報処理装置が、本プログラムを実行することで、同情報処理装置は本システムと同様に機能して、本方法を実現する。
【0022】
本システム1は、記憶部2と、健診データ取得部3と、状態判別部4と、出力変数算出部5と、出力部6と、を有してなる。
【0023】
記憶部2は、本プログラム(判別器)と、本システム1が本方法を実現するために用いる情報などを記憶する。記憶部2は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの半導体メモリ素子、などである。本システム1が本方法を実現するために用いる情報の詳細は、後述される。
【0024】
健診データ取得部3は、予測の対象となる妊婦の妊娠中の妊娠週数ごとの受診済の健診データを取得する。本実施の形態における健診データは、収縮期血圧と、拡張期血圧と、尿蛋白である。なお、本発明において、HDPの発症の予測に用いられる健診データは、少なくとも、収縮期血圧と、拡張期血圧と、尿蛋白と、のいずれか1つを含む。
【0025】
健診データ取得部3は、例えば、本システム1の使用者(医師など)が本システム1のディスプレイ(不図示)に表示された画面に入力した健診データを読み込んで、記憶部2に記憶する。あるいは、健診データ取得部3は、通信ネットワークを介して接続する情報処理装置(不図示)から健診データを受信して、記憶部2に記憶する。
【0026】
状態判別部4は、妊婦の受診済の健診データと、判別器と、に基づいて、複数の状態の中から妊婦が妊娠期間の残期間内に取り得る状態を判別する。状態の判別の詳細は、後述される。
【0027】
出力変数算出部5は、妊婦の残期間内の状態に基づいて、予測される妊婦の残期間内の妊娠週数ごとの健診データを算出する。出力変数算出部5は、妊婦の残期間内に取り得る状態と、各状態での出力変数ごとの出力確率と、に基づいて、健診データの予測値を算出する。妊婦の妊娠週数ごとの健診データの算出の詳細は、後述される。
【0028】
出力部6は、状態判別部4に判別された状態や、出力変数算出部5に算出された健診データを、出力する。出力部6による状態や健診データの出力の態様は、例えば、記憶部2に状態などを記憶する、本システム1のディスプレイ(不図示)に状態などを表示する、本システム1と通信ネットワークを介して接続する情報処理装置に状態などを送信する、などである。
【0029】
●記憶部に記憶される情報●
記憶部2は、前述のとおり、本システム1が本方法を実現するために用いる情報を記憶する。記憶部2に記憶される情報は、判別器を構成する情報と、予測の対象となる妊婦ごとの情報と、である。判別器を構成する情報は、妊娠週数ごとの各状態間の状態遷移確率と、健診データ(拡張期血圧と収縮期血圧と尿蛋白)の状態ごとの出力確率と、を含む。予測の対象となる妊婦ごとの情報は、妊婦の受診済みの妊娠週数ごとの健診データ(拡張期血圧と収縮期血圧と尿蛋白)を含む。
【0030】
●出力確率
図4図6は、記憶部2に記憶される出力確率の例を示す模式図である。
【0031】
図4は、状態ごとの拡張期血圧の出力確率の例を示す。
同図は、状態(状態1から状態14)と、取り得る拡張期血圧(d,d,・・・,d)それぞれの出力確率(P1(d1),P1(d2),・・・,P14(dm))と、が関連付けて記憶部2に記憶されていることを示す。同図は、例えば、状態1において、拡張期血圧dの出力確率は、P1(d1)であることを示す。換言すれば、同図は、状態1における拡張期血圧は、出力確率P1(d1)でdであることを示す。
【0032】
ここで、本実施の形態において、「情報Jと情報Kとが関連付けて記憶部2に記憶されている」とは、本システム1が情報J(または情報K)をもとに記憶部2を参照することで、情報K(または情報J)を記憶部2から読み出すことができることをいう。すなわち、例えば、本システム1は、状態1をもとに記憶部2を参照することで、状態1と関連付けて記憶部2に記憶されている拡張期血圧dの出力確率P1(d1)を読み出すことができる。
【0033】
図5は、状態ごとの収縮期血圧の出力確率の例を示す。
同図は、状態(状態1から状態14)と、取り得る収縮期血圧(s,s,・・・,s)それぞれの出力確率(P1(s1),P1(s2),・・・,P14(sn))と、が関連付けて記憶部2に記憶されていることを示す。同図は、例えば、状態1において、収縮期血圧sの出力確率は、P1(s1)であることを示す。換言すれば、同図は、状態1における収縮期血圧は、出力確率P1(s1)でsであることを示す。
【0034】
図6は、状態ごとの尿蛋白の出力確率の例を示す。
同図は、状態(状態1から状態14)と、取り得る尿蛋白(p,p,・・・,p)それぞれの出力確率(P1(p1),P1(p2),・・・,P14(pr))と、が関連付けて記憶部2に記憶されていることを示す。同図は、例えば、状態1において、尿蛋白pの出力確率は、P1(p1)であることを示す。換言すれば、同図は、状態1における尿蛋白は、出力確率P1(p1)でpであることを示す。
【0035】
このように、本システム1は、判別された状態に基づいて、その状態の時点において取り得る健診データごとの出力確率を特定できる。
【0036】
図7は、状態ごとの健診データの平均値の例を示す模式図である。
同図は、状態と、健診データごとの平均値などと、が関連付けて記憶部2に記憶されていることを示す。同図は、例えば、状態1における拡張期血圧の平均値が57mmHgであることを示す。この拡張期血圧の平均値は、図4に示された状態ごとに取り得る拡張期血圧の出力確率に基づいて算出される。すなわち、例えば、状態1における拡張期血圧の平均値は、
同平均値=d×P1(d1)+d×P1(d2)+・・・+d×P1(dm)
で算出される。
【0037】
同図に示される状態ごとの収縮期血圧や尿蛋白の平均値の算出方法も、前述の拡張期血圧の平均値の算出方法と同様である。
【0038】
●状態遷移確率
図8図9は、本発明における判別器の状態遷移確率の例を示す模式図である。
【0039】
図8は、妊娠週数第25週時点での状態遷移確率の例を示す。
図9は、妊娠週数第35週時点での状態遷移確率の例を示す。
同図中、矩形は、各状態を示す。図中、状態を示す矩形内の文字は、例えば、ST5が状態5を示す。矩形内のかっこ内の数字は、紙面左から順に、その状態における、拡張期血圧の平均値、収縮期血圧の平均値、尿蛋白の平均値を示す(図7参照)。図中、矩形を結ぶ矢印の線は、矢印の元の矩形の状態から矢印の先の矩形の状態への遷移を示し、矢印の線に付記されている数字はその遷移の状態遷移確率である。
【0040】
すなわち、例えば、図8は、状態5の遷移先の状態が、状態1、状態5(状態が変わらない)、状態12、状態13のいずれかであることを示し、状態1への遷移の状態遷移確率は0.02、状態5への遷移の状態遷移確率は0.91、状態12への遷移の状態遷移確率は0.04,状態13への遷移の状態遷移確率は0.03であることを示す。
【0041】
また、例えば、図9は、状態5の遷移先の状態が、状態1、状態5(状態が変わらない)、状態12、状態13、状態14のいずれかであることを示し、状態1への遷移の状態遷移確率は0.01、状態5への遷移の状態遷移確率は0.85、状態12への遷移の状態遷移確率は0.06,状態13への遷移の状態遷移確率は0.07、状態14への遷移の状態遷移確率は0.01であることを示す。
【0042】
図10図11は、記憶部2に記憶される判別器の状態遷移確率の例を示す模式図である。
【0043】
図10は、図8に示された妊娠週数第25週時点での状態遷移確率の例を示す。
図11は、図9に示された妊娠週数第35週時点での状態遷移確率の例を示す。
同図らは、遷移元の状態と、遷移先の状態ごとの遷移元の状態からの状態遷移確率と、が関連付けて記憶部2に記憶されていることを示す。
【0044】
●判別器の実施例●
以下は、本発明者らに生成された判別器の実施例である。
【0045】
●状態の数
判別器は、複数の判別器の候補の中から選択されたものである。複数の判別器の候補のそれぞれは、ハイパーパラメータとしての状態の数が異なる。すなわち、本発明者らは、状態の数をハイパーパラメータとして扱い、状態の数が10から16までの7つの判別器の候補それぞれに、学習用データを学習させた。学習用データは、学習用妊婦(4038人)の受診済の健診データと、各学習用妊婦がHDPを発症したか否かの情報と、を含む。学習は、HMMを用いた統計的機械学習である。HMMは、状態間の遷移(状態間の最も可能性の高い遷移)を予測するモデルとして学習される。本発明者らは、判別器の候補の中から、HDPの発症の予測精度が最も高いと考えられる候補を判別器として選択した。
【0046】
図12は、判別器の候補それぞれの評価量の例を示す模式図である。
同図は、状態の数と、評価量、との関係を示す。図中、AICは赤池情報量規準の評価量を示し、BICはベイズ情報量規準の評価量を示す。
同図は、AICの評価量が、状態の数の増加と共に減少することを示す。
同図は、BICの評価量が、状態の数の増加と共に減少し、状態の数が15以降で増加に転じることを示す。
そこで、本発明者らは、判別器の候補の中から、状態の数が14の候補を判別器として選択した。
【0047】
●判別器の予測精度
図13は、判別器の候補の中から本発明者らに選択された判別器のROC(Receiver Operating Characteristic)曲線の例を示す模式図である。
図中、グラフAは学習用データ(3384人の妊婦それぞれの妊娠全期間の健診データ)のROC曲線、グラフBは検証用データ(847人の妊婦それぞれの妊娠全期間の健診データ)のROC曲線、グラフCは検証用データ(847人の妊婦それぞれの妊娠週数第31週までの健診データ)のROC曲線、である。グラフA,B,Cのそれぞれは、同一の判別器を用いて、妊婦ごとの健診データから最も尤度の高い遷移が推定(予測)されて、最も高リスクの状態(HDPの発症率の最も高い状態)がスコアとして用いられている。
【0048】
同図は、以下のとおり、グラフA,B,CそれぞれのAUC(Area Under the Curve)を示す。
グラフA:AUC=0.842
グラフB:AUC=0.841
グラフC:AUC=0.725
【0049】
同図は、グラフA,BそれぞれのAUCが0.84より大きく、良好な精度を示し、両者ともに同程度の精度水準であることを示す。
一方、同図は、グラフCのAUCがグラフA,BのAUCと比べて劣るものの、妊娠週数第31週以前の健診データから、その後の妊娠期間の残期間のHDPの発症を予測できることを示す。
【0050】
●判別器の予測値
図14は、判別器に予測される出力変数の例を示す模式図である。
同図は、妊婦の受診済の健診データをもとに判別器が予測して出力した妊娠週数ごとの血圧を示す。図中、紙面上側の実線のグラフは、収縮期血圧の中央値(予測値の平均値)であり、紙面下側の実線のグラフは、拡張期血圧の中央値を示す。
図中、収縮期血圧の中央値のグラフを囲む線は、妊娠週数ごとの収縮期血圧の信用区間95%の予測値の範囲を示す。図中、拡張期血圧の中央値のグラフを囲む線は、妊娠週数ごとの拡張期血圧の信用区間95%の予測値の範囲を示す。
図中、収縮期血圧の中央値のグラフを囲む線内に表示された円形は、妊婦の受診済の健診データに含まれる収縮期血圧の実測値を示す。図中、拡張期血圧の中央値のグラフを囲む線内に表示された三角形は、妊婦の受診済の健診データに含まれる拡張期血圧の実測値を示す。
【0051】
図15は、本システム1の予測結果の出力例を示す模式図である。
同図は、妊婦の妊娠期間の残期間における健診データの予測値が表示された予測結果出力画面である。同画面は、出力部6により、本システム1のディスプレイ(不図示)に表示される。同画面に表示された健診データの予測値は、状態判別部4に判別された妊娠週数ごとの状態に基づいて、出力変数算出部5により算出される。
【0052】
同図は、妊婦の妊娠週数第33週までの受診済の健診データに基づいて、第34週以降の妊娠週数ごとの妊婦の状態と健診データとの予測値を示す。本システム1の使用者(医師)は、同図に示された予測値に基づいて、妊婦のHDPの発症の可能性を判断し、必要に応じて、発症前に処置を講ずる。
【0053】
●判別器による予測例
図16図21は、判別器に予測された妊婦ごとの状態の例を示す模式図である。
図16図18は、HDPを発症した妊婦の受診済の健診データに基づいて判別器が予測した状態を示す。一方、図19図21は、HDPを発症しなかった妊婦の受診済の健診データに基づいて判別器が予測した状態を示す。
【0054】
同図らは、予測の対象となる妊婦ごとに判別器が予測した妊娠週数ごとの状態を示す。すなわち、図16図21は、6人の妊婦それぞれの予測例である。図中、妊娠週数は、説明の便宜上、5週ごとに表示されているが、実際には、例えば、第1週から第45週までの週ごとに予測される。
【0055】
図中、「●」は、予測の対象となる妊婦の受診済の健診データが存在する妊娠週数を示す。すなわち、例えば、図16に示される妊婦に関して、判別器は、妊娠週数第20週までの受診済みの健診データを基に、妊娠週数第21週以降の妊婦の状態を予測していることを示す。
【0056】
なお、判別器は、妊娠週数第20週までの受診済の健診データを基に妊娠週数第21週以降の妊婦の状態を予測するにあたり、妊娠週数第20週以前の過去の妊婦の状態も推定する。すなわち、前述のとおり、本発明における判別器は、隠れマルコフモデルを用いて学習されている。つまり、図2に示されるように、例えば、妊娠週数第21週の妊婦の状態は、妊娠週数第20週の妊婦の状態と、状態遷移確率とに基づいて、判別される。そのため、判別器は、妊娠週数第20週までの受診済みの健診データを基に、妊娠週数第20週までの妊婦の状態も推定する。
【0057】
ここで、判別器による予測は、予測の対象となる妊婦の受診済の健診データに基づいて行われる。そのため、同図らに図示されている判別器の予測の時期(妊娠週数)は、妊婦ごとに異なる。すなわち、例えば、図16に示される妊婦に関して、判別器は、妊娠週数第20週までの受診済の健診データに基づいて、妊娠週数第21週以降の状態を予測している。また、例えば、図17に示される妊婦に関して、判別器は、妊娠週数第25週まで の受診済の健診データに基づいて、妊娠週数第26週以降の状態を予測している。
【0058】
また、前述のとおり、判別器による予測は、予測の対象となる妊婦の受診済の健診データに基づいて行われる。そのため、例えば、図16に示される妊婦に関して、同図は、妊娠週数第20週までの受診済の健診データに基づいて、妊娠週数第21週以降の状態が予測されていることを示す。同じ妊婦に関して、例えば、その5週間後に、妊娠週数第25週までの受診済の健診データが存在するとき、妊娠週数第25週までの受診済の健診データに基づき、判別器は、妊娠週数第26週以降の状態を予測する。このとき、妊娠週数第25週までの受診済の健診データに基づく妊娠週数第26週以降の予測の結果は、妊娠週数第20週までの受診済の健診データに基づく妊娠週数第26週以降の予測の結果と異なり得る。すなわち、妊婦の受診済の健診データが多ければ多いほど、予測の精度、つまり、その妊婦がHDPを発症するか否かに関する予測の精度は高まる。
【0059】
図中、墨塗は、判別器に予測された状態を示す。
図16は、判別器が、妊娠週数第20週までの妊婦の受診済の健診データに基づいて、その妊婦に関して、妊娠週数の第10週までを状態8、第11週から第20週までを状態11、と推定すると共に、第21週から第30週までを状態12、第31週から第45週までを状態13、と予測したことを示す。
図17は、判別器が、妊娠週数第25週までの妊婦の受診済の健診データに基づいて、その妊婦に関して、妊娠週数の第15週までを状態12、第16週から第25週までを状態8、と推定すると共に、第26週から第30週までを状態13、第31週から第45週までを状態14、と予測したことを示す。
図18は、判別器が、妊娠週数第15週までの妊婦の受診済の健診データに基づいて、その妊婦に関して、妊娠週数の第15週までを状態13、と推定すると共に、第16週から第45週までを状態13、と予測したことを示す。
【0060】
図16図18の図中、紙面上下方向に配された太線は、その妊婦がHDPを発症した妊娠週数を示す。すなわち、例えば、図16に示される妊婦に関して、同図は、同妊婦が妊娠週数第35週にHDPを発症したことを示す。つまり、同図は、同妊婦の妊娠週数第20週までの受診済の健診データに基づいて推定・予測された妊婦の妊娠週数ごとの状態と、同妊婦が実際にHDPを発症した妊娠週数と、が重畳表示されていることを示す。
【0061】
図19は、妊娠期間中、状態2のままと推定・予測された妊婦が、実際にHDPを発症しなかったことを示す。
図20は、妊娠期間中、状態12のままと推定・予測された妊婦が、実際にHDPを発症しなかったことを示す。
図21は、妊娠期間中、妊娠週数の経過と共に、妊婦の状態がHDPの発症率の高い状態に徐々に推移すると推定・予測された妊婦が、実際にHDPを発症しなかったことを示す。
【0062】
●まとめ●
以上説明された実施の形態によれば、本システム1は、妊婦の状態(内部状態)を隠れ状態とし、状態ごとの健診データを状態の出力変数とする隠れマルコフモデルを用いて学習された判別器を用いて、妊婦の妊娠期間の残期間における健診データを予測する。本システム1の使用者(医師)は、本システム1が出力した健診データの予測値を参照して妊婦のHDPの発症の可能性を判断し、必要に応じて、発症前に処置を講じる。すなわち、本システム1は、妊婦健診で取得される妊婦の健診データを用いて、その妊婦の妊娠中のHDPの発症の予測を支援する。
【0063】
以上説明されたとおり、本システム1は、妊婦の妊娠期間中の経時的な健診データ(血圧や血液データ)の推移の中の変動パターンから、妊婦の今後の身体の状態を予測する。本システム1による予測は、妊婦それぞれの妊婦健診のたびに積み重ねられる受診済の健診データに基づくものであり、妊婦を診察する医師の経験などに依存しない。
【0064】
ここで、本システム1の判別器の学習時や、本システム1の予測時に用いられる健診データは、わが国において、全妊婦が妊娠期間中に定期的に受診する妊婦健診で得られる。つまり、本システム1で必要とされる健診データは、本システムに特有な情報ではなく、わが国に長年にわたり蓄積されている経時的な情報である。すなわち、本システム1で用いられる健診データは、全妊婦が同一の妊娠週数ごとに受診する妊婦健診で得られる、密で整ったデータである。この密で整ったデータを用いて学習される本システム1の判別器の判別精度は、高い。
【0065】
また、本システム1は、既存の妊婦健診の検査で得られる情報を用いるものであり、妊婦健診の新たな検査項目を必要とせず、侵襲的な検査も必要としない。
【0066】
さらに、本システム1は、わが国で統一して実施されている妊婦健診の検査で得られる情報を用いる。そのため、わが国、あるいは、わが国の妊婦健診の検査と同様の検査を行う諸外国のいずれの医療機関においても、本システム1は利用可能である。
【0067】
このように、本システム1は、これまで、妊娠管理のための逐次データとしてのみ使用されてきた妊婦健診で得られた健診データをもとに、HDPの発症を精度良く予測することで、医師らを支援できる。
【0068】
●本システムと本プログラムと本方法の特徴●
これまでに説明された本システムと本プログラムと本方法の特徴は、以下にまとめて記載される。
【0069】
●本システムの特徴
本システムは、
妊婦が妊娠高血圧症候群を発症するか否かの予測を、前記妊娠高血圧症候群の発症率の異なる複数の状態の中から前記妊婦が妊娠中に取り得る前記状態を予測することで支援する、妊娠高血圧症候群の発症予測支援システム(例えば、図3の発症予測支援システム1)であって、
学習用妊婦ごとの学習用の妊娠中の健診データと前記妊娠高血圧症候群の発症の有無とに基づいて、複数の前記状態(例えば、状態1から状態14)間の遷移を予測するように学習された判別器を記憶する記憶部(例えば、図3の記憶部2)と、
予測の対象である前記妊婦の妊娠中の受診済の健診データ(例えば、拡張期血圧、収縮期血圧、尿蛋白)を取得する取得部(例えば、図3の健診データ取得部3)と、
前記妊婦の前記受診済の前記健診データと、前記判別器と、に基づいて、複数の前記状態の中から前記妊婦が妊娠期間の残期間内に取り得る前記状態を判別する判別部(例えば、図3の状態判別部4)と、
前記妊婦の前記残期間内の前記状態に基づいて、前記妊婦の前記残期間内の予測される健診データを算出する算出部(例えば、図3の出力変数算出部5)と、
を有してなり、
前記判別器は、前記状態を隠れ状態とし、前記状態ごとの前記健診データを前記状態の出力変数とする隠れマルコフモデルを用いて学習される、
ことを特徴とする。
【0070】
本システムにおいて、
前記判別器は、前記学習用妊婦の前記健診データを用いて学習された前記判別器の複数の候補の中から選択されていて、
複数の前記候補それぞれのハイパーパラメータとしての前記状態の数は、異なる、
ものでもよい。
【0071】
本システムにおいて、
前記記憶部は、
複数の前記状態間の状態遷移確率、
を記憶し、
前記判別部は、
前記妊婦の前記受診済の前記健診データに基づいて、前記妊婦の現在の前記状態を判別し、
前記妊婦の現在の前記状態と、前記状態遷移確率と、に基づいて、前記妊婦が前記残期間内に取り得る前記状態を判別する、
ものでもよい。
【0072】
本システムにおいて、
前記判別器は、前記学習用妊婦の妊娠週数ごとに受診して得られた前記学習用の前記健診データを用いて学習され、
前記判別部は、前記妊婦の前記残期間内の妊娠週数ごとの前記状態を判別する、
ものでもよい。
【0073】
本システムにおいて、
前記記憶部は、
複数の前記状態ごとの前記健診データの出力確率、
を記憶し、
前記算出部は、前記妊婦が前記残期間内に取り得る前記状態と、前記出力確率と、に基づいて、前記予測される前記健診データを算出する、
ものでもよい。
【0074】
本システムにおいて、
前記算出部は、前記妊婦の前記残期間内の妊娠週数ごとの前記予測される前記健診データを算出する、
ものでもよい。
【0075】
本システムにおいて、
前記取得部は、前記妊婦の妊娠週数ごとの前記受診済の前記健診データを取得する、
ものでもよい。
【0076】
本システムにおいて、
前記健診データは、少なくとも、収縮期血圧と、拡張期血圧と、尿蛋白とのいずれか1つを含む、
ものでもよい。
【0077】
●本プログラムの特徴
本プログラムは、コンピュータを、本システムとして機能させる、
ことを特徴とする。
【0078】
●本方法の特徴
本方法は、
妊婦が妊娠高血圧症候群を発症するか否かの予測を、前記妊娠高血圧症候群の発症率の異なる複数の状態(例えば、状態1から状態14)の中から前記妊婦が妊娠中に取り得る前記状態を予測することで支援する発症予測支援システムにより実行される妊娠高血圧症候群の発症予測支援方法であって、
前記発症予測支援システム(例えば、図3の発症予測支援システム1)は、
学習用妊婦ごとの学習用の妊娠中の健診データと前記妊娠高血圧症候群の発症の有無とに基づいて、複数の前記状態間の遷移を予測するように学習された判別器を記憶する記憶部(例えば、図3の記憶部2)、
を備え、
前記発症予測支援システムが、
予測の対象である前記妊婦が妊娠中に受診した健診で得られた受診済の健診データを取得する取得ステップと、
前記妊婦の前記受診済の前記健診データと、前記判別器と、に基づいて、複数の前記状態の中から前記妊婦が妊娠期間の残期間内に取り得る前記状態を判別する判別ステップと、
前記妊婦の前記残期間内の前記状態に基づいて、前記妊婦の前記残期間内の予測される健診データを算出する算出ステップと、
を有してなり、
前記判別器は、前記状態を隠れ状態とし、前記状態ごとの前記健診データを前記状態の出力変数とする隠れマルコフモデルを用いて学習される、
ことを特徴とする。
【符号の説明】
【0079】
1 発症予測支援システム
2 記憶部
3 健診データ取得部
4 状態判別部
5 出力変数算出部
6 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21