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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077504
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20230530BHJP
【FI】
G01N29/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190789
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】石谷 和典
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光宏
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AB01
2G047AB02
2G047BB06
2G047BC07
2G047EA05
2G047GB24
2G047GF18
(57)【要約】
【課題】小径の棒材が位置ずれを生じた場合にも探傷感度を高く維持することが可能な超音波探傷方法を提供する。
【解決手段】集束超音波プローブ2から出力される超音波Usの集束点Pよりも当該プローブ2に近い領域内で、集束超音波プローブ2の近距離音場の音圧分布が極大でかつ集束超音波プローブ2の集束音場の音圧が所定以上の領域内に収まる外径の丸棒材Mを位置させて当該丸棒材Mの探傷を行う。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束超音波プローブから出力される超音波の集束点よりも当該プローブに近い領域内で、前記集束超音波プローブの近距離音場の音圧分布が極大でかつ前記集束超音波プローブの集束音場の音圧が所定以上の領域内に収まる外径の棒材を位置させて当該棒材の探傷を行う超音波探傷方法。
【請求項2】
前記棒材は丸棒材である請求項1に記載の超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波探傷方法に関し、特に小径棒材の探傷に適した超音波探傷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水浸法による丸棒材の探傷をインラインで行う場合には例えば図1に示すような探傷設備が使用される。図1において、回転する円柱状の筐体1内には水が満たされており、筐体1の両端壁11,12には中心に、パッキンで液密性を確保しつつ丸棒材Mを貫通通過させるガイド部13が設けられている。筐体1の中心部を貫通通過する丸棒材Mに対して、筐体1の周壁に設けられた超音波プローブ2が筐体1と一体に丸棒材Mの周囲を旋回してその探傷を行う。超音波プローブ2としては検出感度を向上させるために超音波を一点に集束させる集束プローブを使用することが多く、特許文献1に示すように、通常は丸棒材Mの中心に超音波を集束させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-133856
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、筐体1に設けたガイド部13は丸棒材Mの径のばらつき等に対応するためにその内径に余裕を持たせてあり、小径の丸棒材Mはガイド部13を通過する際に比較的自由に変位して位置ずれを生じる。小径の丸棒材Mは曲率が大きいために、図2に示すように、わずかに位置ずれdを生じても超音波プローブ2から発せられた超音波Usが大きく屈折し(屈折角θ)その経路が大きく変化して探傷領域から外れ、探傷感度が大きく低下するという問題があった。これを図3に示し、直径50mmの丸棒材Mでは位置ずれを生じても探傷感度はそれほど低下しないが、直径6mm(以下、φ6mmのように記す)の丸棒材Mでは少しの位置ずれによっても探傷感度が大きく低下する。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、小径の棒材が位置ずれを生じた場合にも探傷感度を高く維持することが可能な超音波探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明の超音波探傷方法では、集束超音波プローブ(2)から出力される超音波(Us)の集束点(P)よりも当該プローブ(2)に近い領域内で、前記集束超音波プローブ(2)の近距離音場の音圧分布が極大でかつ前記集束超音波プローブ(2)の集束音場の音圧が所定以上の領域内に収まる外径の棒材(M)を位置させて当該棒材(M)の探傷を行う。棒材(M)としては丸棒材が好適であるが、これに限定されず、角棒材でも良い。
【0007】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の超音波探傷方法によれば、小径の棒材が位置ずれを生じた場合にも探傷感度を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】探傷設備の全体斜視図である。
図2】探傷設備の横断面図である。
図3】径の異なる丸棒体の位置ずれに伴う感度低下を示す図である。
図4】超音波プローブの集束音場の、異なる軸方向位置での音圧の拡がりを示す図である。
図5】超音波プローブと丸棒材の位置関係を示す図である。
図6】超音波プローブの近距離音場の軸方向における振幅分布を示す図である。
図7】超音波プローブの集束音場の軸方向における振幅分布を示す図である。
図8】超音波プローブと丸棒材の位置関係の一例を従来方法との比較で示す図である。
図9】同一丸棒材の位置ずれに対する探傷感度の変化の一例を、従来方法との比較で示す図である。
図10】丸棒材中のきずの深さ位置を示す図である。
図11】丸棒材のきずの深さ位置に対する探傷感度の変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0011】
本実施形態における探傷設備はすでに説明した図1に示すものと同一で、集束超音波プロ―ブ(以下、単にプローブという)は本実施形態では平面視で円形のものを使用している。
【0012】
プロ―ブ2の音圧分布は集束点(焦点)に向けて大きくなり、集束点付近で最大になるが、集束点付近の音圧分布は非常に狭くなる(図4の線A)。これが上述した、小径丸棒材Mが位置ずれを生じると屈折による超音波経路の変化によって探傷感度が大きく低下する原因である。一方、プローブ2の近傍位置では音圧分布は広くなるが十分な大きさの音圧が得られない(図4の線B)。これに対して、プローブ2と集束点の間の適当位置では、大きな音圧を維持しつつ音圧分布も十分に広く確保することができる(図4の線C)。
【0013】
そこで、本実施形態では図5に示すように、プローブ2から出力される超音波Usの集束点Pよりも当該プローブ2に近い領域内に丸棒材Mを位置させる。図5中、xはプローブ2の発振面中心から丸棒材Mの外周面までの水距離、Dはプローブの径、fは発振超音波の周波数、Fは集束距離である。
【0014】
ここで、プローブ2の音場は下式(1)で表され、プローブ2に近い近距離音場とプローブ2から遠い遠距離音場で構成される。式中、A(x)は水距離xにおける振幅(プローブ2の直前における平均的な音圧に対する音圧比)、Cは水中での超音波の音速、λは水中での超音波の波長でC/fで算出され、f、Dは上述したものである。
【0015】
【0016】
ところで、特に小径の丸棒材の探傷では、距離分解能を確保するために周波数を高くし、また音圧を確保するために振動子を大きくすることから、上述のように丸棒材Mを集束点Pよりもプローブ2に近い領域内に位置させると、近距離音場内に位置させることになる場合が多い。そして、この近距離音場ではプローブ2の中心軸O(図5)上の音圧変化は所定間隔で極大となることを繰り返すものとなっている
【0017】
図6には、超音波の周波数fを15MHz、プローブ径Dを12mm、集束距離Fを100mmとした時の近距離音場の音圧変化を示す。図6より明らかなように、近距離音場では音圧変化が所定間隔で極大となることを繰り返すものとなっているが、このうち水距離40mm、50mm、70mm、118mm付近の極大領域では、φ6mmの小径丸棒材であれば、振幅0.8以上を確保できる領域内に丸棒材全体を収めることができることになる。
【0018】
一方、集束音場を考えると、プローブの中心軸上の音圧変化は下式(2)で与えられる。式中、A(x)、x、λ、f、D、F、Cは上述したものであり、Jは集束係数である。
【0019】
【0020】
図7には、超音波Usの周波数fを15MHz、プローブ径Dを12mm、集束距離を100mmとした時の収束音場の音圧変化を示す。なお、図7中、水距離65mm以下は実際には振幅0ではなく上式(2)では計算不能な領域である。したがって、丸棒材Mは水距離65mm以上に位置させる必要がある。一方、超音波Usの集束点Pがある水距離100mm 近くでは振幅A(x)は大きくなるものの、既述のように集束点P付近の音圧分布は非常に狭くなるから、結局、丸棒材Mを位置させる水距離xは70mmに設定するのが良い。
【0021】
このような本実施形態における効果を確認するために、中心にφ0.4mmの横穴(SDH)を疑似きずDfとして形成したφ6mmの丸棒材Mに対して、図8(1)に示すように丸棒材Mの中心にプローブ2から出力される超音波Usを集束させた従来の方法と、図8(2)に示すように丸棒材Mの後方に超音波Usを集束させて、プローブ2から出力される超音波Usの集束点Pよりも当該プローブ2に近い水距離70mmの振幅極大領域内に丸棒材Mを位置させた本実施形態の方法につき、丸棒材Mの位置ずれに対する探傷感度の変化を比較した。これを図9に示す。なお、図8中、MDは丸棒材Mの直径である。
【0022】
図9より明らかなように、従来方法では丸棒材Mの位置ずれが生じると探傷感度が大きく低下するのに対して、本実施形態の方法では丸棒材Mの位置ずれを生じても探傷感度は十分高く維持される。さらに、丸棒材M中のきずの深さが図10に示すように中心aからb、cと1mmずつ深くなっても、図11に示すように探傷感度は十分高く維持される。なお、図11の線a、b、cは図10中の各きず位置a、b、cに対応している。これは図6に示した水距離70mmの振幅極大領域内に丸棒材Mが収まっていることによって、いずれの深さのきずも十分な感度で検出されるからである。
【0023】
なお、上記実施形態ではきず検出対象を丸棒材したが、本発明方法は角棒材にも適用可能である。また、プローブとしては平面視で棒材長手方向へ延びる長方形のものを使用できる。さらに、プローブを旋回させるのに代えて、プローブを周方向へ所定間隔で複数設置しても良い。
【符号の説明】
【0024】
1…筐体、2…集束超音波プローブ、M…丸棒材、P…集束点、Us…超音波。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11