(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077512
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】構造体、構造体の製造方法および加工装置
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20230530BHJP
B32B 5/10 20060101ALI20230530BHJP
B29C 43/20 20060101ALI20230530BHJP
B29C 43/34 20060101ALI20230530BHJP
B29C 70/34 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
B32B15/08 N
B32B15/08 105Z
B32B5/10
B29C43/20
B29C43/34
B29C70/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190804
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】300091670
【氏名又は名称】株式会社アドテックエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】仲田 重範
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 義光
【テーマコード(参考)】
4F100
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F100AB01B
4F100AB04B
4F100AB10B
4F100AB12B
4F100AB17B
4F100AB33B
4F100AD11A
4F100AK01C
4F100AK33A
4F100AK44A
4F100BA03
4F100BA07
4F100DG01A
4F100DH01A
4F100EC032
4F100EC03C
4F100EJ172
4F100EJ422
4F100EJ82A
4F100GB41
4F100JA02
4F100JB13A
4F100YY00B
4F204AA36
4F204AC03
4F204AD03
4F204AD08
4F204AD16
4F204AG03
4F204AH33
4F204FA01
4F204FB01
4F204FB22
4F204FG09
4F204FN11
4F204FN15
4F204FN17
4F205AA36
4F205AC03
4F205AD03
4F205AD08
4F205AD16
4F205AG03
4F205AH33
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA25
4F205HA33
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB13
4F205HK03
4F205HK04
4F205HK05
4F205HT16
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】加工装置のフレーム等の材料としてより良い特性を有する構造体、当該構造体の製造方法および当該構造体を使用した加工装置を提供する。
【解決手段】構造体(CFRP構造体)10は、炭素繊維を主成分とする積層体(CFRP部材)11と、積層体11の積層方向に相対向する一対の表面11a、11b上にそれぞれ加熱圧着されて一体化された、金属を主成分とする金属箔12a、12bと、を備える。金属箔12a、12bの厚さは積層体11の厚さよりも薄い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を主成分とする積層体と、
前記積層体の積層方向に相対向する一対の表面上にそれぞれ加熱圧着されて一体化された、金属を主成分とする金属箔と、を備え、
前記金属箔の厚さは前記積層体の厚さよりも薄いことを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記積層体の前記一対の表面は、炭素繊維に樹脂を含浸してなるプリプレグを成形して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記金属箔は、前記積層体の前記一対の表面上で、それぞれ全面にわたって前記樹脂と結合されていることを特徴とする請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
前記積層体は、炭素繊維強化プラスチック部材であることを特徴とする請求項1に記載の構造体。
【請求項5】
前記金属箔は、前記積層体の前記一対の表面上にそれぞれ減圧下で加熱圧着されて一体化されていることを特徴とする請求項1に記載の構造体。
【請求項6】
前記金属箔は、銅、アルミニウム、チタンおよびステンレス鋼のいずれかにより構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項7】
前記金属箔の厚さは、ミクロンオーダーであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項8】
炭素繊維に樹脂を含浸してなるプリプレグを積層して成形された炭素繊維強化プラスチック部材と、
前記炭素繊維強化プラスチック部材における前記プリプレグの積層方向に相対向する一対の表面上で、それぞれ全面にわたって前記樹脂と結合された、金属を主成分とする金属箔と、を備え、
前記金属箔の厚さは前記炭素繊維強化プラスチック部材の厚さよりも薄いことを特徴とする構造体。
【請求項9】
炭素繊維を主成分とする積層体を準備する第一の工程と、
金属を主成分とし、前記積層体よりも厚さが薄い金属箔を準備する第二の工程と、
前記積層体の積層方向に相対向する一対の表面上にそれぞれ前記金属箔を重ね、加熱しながら圧力を加えることで、前記積層体と前記金属箔とを一体化する第三の工程と、を含むことを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項10】
ワークを加工する加工装置であって、
前記加工装置の構成部材を支持するフレームは、請求項1から8のいずれか1項に記載の構造体を含むことを特徴とする加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維を含む構造体、当該構造体の製造方法および当該構造体を使用した加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、露光装置やレーザ加工装置などの加工装置において、構成部材を支持するフレームは、鉄などの金属により構成されていた。露光装置の場合、フレームは、光照射部、マスクステージ、投影レンズ、ワーク(基板)ステージなどの構成部材を支持している。また、レーザ加工機の場合、フレームは、レーザ装置、ワークステージなどの構成部材を支持している。
このような加工装置において、周辺温度の変化や装置自体の発熱が生じると、金属であるフレームが熱膨張により伸縮する。フレームが伸縮すると、フレームに支持されている上記の構成部材の位置が変化し、加工精度が低下するおそれがある。
そのため、加工装置のフレームの材料としては、熱膨張率ができるだけ低い材料を用いることが望ましい。
【0003】
また、加工装置のフレームには、高い剛性(弾性率)も必要である。上述したように、加工装置において、フレームはワークステージを支持する。ワークステージは、例えば、基板の領域を分割して露光するステップ・アンド・リピートや、基板内に多数のスルーホールを形成する穴あけ加工において、頻繁に逐次移動を繰り返す。そのため、剛性が低いフレームでワークステージを支持すると、ワークステージの逐次移動によってフレームが大きく振動し、フレームの振動が停止するまでの時間、即ち、次の露光や加工を行うまでの時間が長くなる。その結果、ワークの処理時間が長くなり、装置の生産性が低下してしまう。
さらに、フレームの剛性が低いと、外部からの振動に対しても弱く、揺れが生じやすい。そのため、加工精度が悪くなる原因にもなり得る。
【0004】
また、フレーム部材の条件として、大型の装置であっても比較的軽量になるように、密度が小さいことも重要である。重量が重くなると、装置を設置する工場の床を補強しなければならなくなるなど、装置に係るコストが大きくなる。
このように、加工装置のフレームは、剛性(弾性率)が高く、かつ熱膨張係数および密度が小さいといった特性を有することが望まれる。これらの条件を満たす材料として、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic:CFRP)がある。
例えば特許文献1には、自動車のフレーム等にCFRPを利用する点が開示されている。この特許文献1には、金属部材の表面にCFRP製の補強材を接着することで、重量の増加を抑えながら自動車の骨格部材を補強する点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の技術にあっては、自動車のフレームの補強材としてCFRPを利用する点が開示されているだけであり、加工装置のフレームとして適切な材料については考慮されていない。
加工装置のフレームとしてCFRPを単体で用いることも考えられるが、近年、加工装置には非常に高い加工精度が要求されており、当該フレームの材料として、CFRP単体よりもさらに良い特性を有する構造体を用いることが求められる。ところが、特性を改良するために、例えば、CFRPと金属などの他の材料とを組み合わせるにしても、それらをどのように組み合わせればよいのかが明らかではない。
また、CFRPには、使用環境の水分を吸収し、膨張して寸法変形が生じるという特性がある。さらに、CFRP内部への水分の浸透および拡散は、ゆっくりと進行するため、CFRP内部の水分濃度の分布は不均一であり、状態も徐々に変化するため、表面粗さの悪化やねじれ変形等、種々の複雑な変形が生じ得る。
【0007】
そこで、本発明は、加工装置のフレーム等の材料としてより良い特性を有する構造体、当該構造体の製造方法および当該構造体を使用した加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る構造体の一態様は、炭素繊維を主成分とする積層体と、前記積層体の積層方向に相対向する一対の表面上にそれぞれ加熱圧着されて一体化された、金属を主成分とする金属箔と、を備え、前記金属箔の厚さは前記積層体の厚さよりも薄い。
このように、炭素繊維を主成分とする積層体と当該積層体よりも厚さが薄い金属箔とを組み合わせた構造体は、熱膨張係数が小さく、耐湿性に優れた構造体とすることができ、CFRP単体よりも温度および湿度変化による寸法変形が少ない構造体とすることができる。また、金属よりも剛性が高く、密度が小さく比剛性が高い構造体とすることができる。つまり、加工装置のフレーム等の材料として、CFRP単体よりもさらに良い特性を有する構造体とすることができる。
【0009】
また、金属箔は、積層体の表面上に加熱圧着されており、接着剤を用いずに積層体に直接接合されている。そのため、接着剤を介して積層体が吸湿したり、接着剤との界面から浸透した水分を積層体が吸収したりしてしまうことを適切に抑制し、耐湿性能の低下を抑制することができる。
さらに、金属箔の厚さは、積層体の厚さよりも薄い。そのため、重量や熱膨張係数の増加等を抑制し、炭素繊維の特長を損なわない構造体とすることができる。
【0010】
また、上記の構造体において、前記積層体の前記一対の表面は、炭素繊維に樹脂を含浸してなるプリプレグを成形して構成されていてもよい。
この場合、プリプレグが接着部材となって、積層体と金属箔とを容易かつ適切に結合することができる。プリプレグには、炭素繊維が延在しているため、一般的な接着剤とは異なり側面からは吸湿しにくい。そのため、積層体と金属箔との界面における吸湿を適切に抑制することができる。
また、上記構造体において、前記金属箔は、前記積層体の前記一対の表面上で、それぞれ全面にわたって前記樹脂と結合されていてもよい。この場合、金属箔は、積層体に安定して結合される。
【0011】
さらに、上記の構造体において、前記積層体は、炭素繊維強化プラスチック部材であってもよい。
この場合、比剛性が高く、密度および熱膨張係数が小さいといった炭素繊維強化プラスチックの特性を有し、耐湿性に優れた構造体とすることができる。
【0012】
また、上記の構造体において、前記金属箔は、前記積層体の前記一対の表面上にそれぞれ減圧下で加熱圧着されて一体化されていてもよい。
この場合、積層体と金属箔とを、界面に気泡を混入させずに積層一体化することができる。
【0013】
さらに、上記の構造体において、前記金属箔は、銅、アルミニウム、チタンおよびステンレス鋼のいずれかにより構成されていてもよい。
この場合、適切に構造体の吸湿防止効果が得られる。
【0014】
また、上記の構造体において、前記金属箔の厚さは、ミクロンオーダーであってもよい。
この場合、金属箔にピンホール等が生じることを抑制することができ、耐湿性能を適切に維持することができる。
【0015】
さらにまた、本発明に係る構造体の一態様は、炭素繊維に樹脂を含浸してなるプリプレグを積層して成形された炭素繊維強化プラスチック部材と、前記炭素繊維強化プラスチック部材における前記プリプレグの積層方向に相対向する一対の表面上で、それぞれ全面にわたって前記樹脂と結合された、金属を主成分とする金属箔と、を備え、前記金属箔の厚さは前記炭素繊維強化プラスチック部材の厚さよりも薄い。
このように、炭素繊維を主成分とする積層体と当該積層体よりも厚さが薄い金属箔とを組み合わせた構造体は、熱膨張係数が小さく、耐湿性に優れた構造体とすることができ、CFRP単体よりも温度および湿度変化による寸法変形が少ない構造体とすることができる。また、金属よりも剛性が高く、密度が小さく比剛性が高い構造体とすることができる。つまり、加工装置のフレーム等の材料として、CFRP単体よりもさらに良い特性を有する構造体とすることができる。
【0016】
また、金属箔は、炭素繊維強化プラスチック部材の表面上でプリプレグを構成する樹脂と結合されている。つまり、接着剤を用いずに炭素繊維強化プラスチック部材に直接接合されている。そのため、接着剤を介して積層体が吸湿したり、接着剤との界面から浸透した水分を積層体が吸収したりしてしまうことを適切に抑制し、耐湿性能の低下を抑制することができる。
さらに、金属箔の厚さは、炭素繊維強化プラスチック部材の厚さよりも薄い。そのため、重量や熱膨張係数の増加等を抑制し、炭素繊維強化プラスチックの特長を損なわない構造体とすることができる。
【0017】
また、本発明に係る構造体の製造方法の一態様は、炭素繊維を主成分とする積層体を準備する第一の工程と、金属を主成分とし、前記積層体よりも厚さが薄い金属箔を準備する第二の工程と、前記積層体の積層方向に相対向する一対の表面上にそれぞれ前記金属箔を重ね、加熱しながら圧力を加えることで、前記積層体と前記金属箔とを一体化する第三の工程と、を含む。
これにより、熱膨張係数が小さく、耐湿性に優れ、金属に比べて剛性が高く、密度が小さく比剛性が高く、CFRP単体よりも温度および湿度変化による寸法変形が少ない構造体を製造することができる。つまり、加工装置のフレーム等の材料として、CFRP単体よりもさらに良い特性を有する構造体を製造することができる。
【0018】
さらに、本発明に係る加工装置の一態様は、ワークを加工する加工装置であって、前記加工装置の構成部材を支持するフレームは、上記のいずれかの構造体を含む。
このように、炭素繊維を主成分とする積層体と当該積層体よりも厚さが薄い金属箔とを組み合わせた構造体をフレームの材料とした利用した加工装置は、温度変化や湿度変化、外的要因による寸法変形が少なく、比較的軽量な加工装置とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、加工装置のフレーム等の材料としてより良い特性、具体的には、剛性の低下や熱膨張、密度の増加を抑えつつ、CFRP単体よりも耐湿性に優れた特性を有する構造体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】CFRP部材と金属箔との結合状態を示す模式図である。
【
図3】本実施形態の構造体の別の例を示す断面図である。
【
図6】本実施形態の構造体の吸湿膨張ひずみの変化量を示す図である。
【
図7】比較例の構造体の吸湿膨張ひずみの変化量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第一の実施形態)
図1は、第一の実施形態の構造体10の概略構成を示す断面図である。本実施形態において、構造体10は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を含むCFRP構造体である。
構造体10は、第一の材料11と第二の材料12a、12bとが一体化された構成を有する。ここで、第一の材料11は、炭素繊維を主成分とする積層体であり、第二の材料12a、12bは、金属を主成分とする金属箔である。本実施形態では、積層体11は、炭素繊維強化プラスチック部材(CFRP部材)であり、金属箔12a、12bは、銅箔である。
なお、金属箔12a、12bの材料は、銅に限定されるものではなく、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼(SUS)、スーパーインバー等であってもよい。
【0022】
CFRP部材11は、複数のプリプレグ110を積層し、加熱圧着して一体化されている。プリプレグ110は、炭素繊維に、繊維の方向性を持たせたまま樹脂を含浸させたシート状の部材である。プリプレグ110を構成する樹脂は、例えば熱硬化性のエポキシ樹脂である。なお、プリプレグ110を構成する樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、フェノール、シアネートエステル、ポリイミド等の熱硬化性樹脂を用いることもできる。
【0023】
CFRPは、型の中に、複数のプリプレグを繊維の方向が異なるように、必要層数(例えば10層)積層し、減圧下で120℃~130℃程度に加熱し、加圧(圧着)して硬化させることで成形される。ここで、プリプレグを、繊維の方向が異なるように重ね合わせるのは、プリプレグの面内方向の強度を等方的に強化させるためである。
なお、プリプレグの代用としては、安価にストックできる基準寸法(標準寸法)の標準CFRP板(例えば、5mmのUD(UNI-DIRECTION)材)を使用することができる。なお、UD材とは繊維の方向が一方向にのみ延びている材料のことである。
【0024】
このようにして製作されたCFRPは、鉄やアルミなどの金属材料よりも低密度(即ち軽い)でありながら、高強度な材料となる。CFRP部材11は、上記の完成されたCFRPを所望の大きさに切り出した部材である。
【0025】
銅箔12a、12bは、CFRP部材11の積層方向(
図1では上下方向)に相対向する一対の表面11a、11b上にそれぞれ一様に一体化して形成されている。具体的には、
図2に示すように、CFRP部材11の表面11aは、炭素繊維111に樹脂112を含浸してなるプリプレグ110を成形して構成されており、銅箔12aは、CFRP部材11の表面11a上で、全面にわたって樹脂112と結合されることで、CFRP部材11と一体化されている。なお、CFRP部材11の表面11b上の銅箔12bについても同様である。
【0026】
また、
図1に示すように、銅箔12a、12bの厚さD2a、D2bは、それぞれCFRP部材11の厚さD1よりも薄く設定されている。ここで、「厚さ」とは、CFRP部材11の積層方向である表面11a、11bに直交する方向における部材の厚さである。
【0027】
以下、本実施形態における構造体10の製造方法の一例について説明する。
まず、厚さ200μmのプリプレグ110を複数枚(例えば10枚)準備する。また、厚さ20μmの銅箔12a、12bをそれぞれ準備する。なお、銅箔12a、12bの厚みD2a、D2bはそれぞれ異なっていてもよい。
次に、プリプレグ110を10層積層した積層体の表裏両面の全面にわたって銅箔12a、12bをそれぞれ重ね、プリプレグ110と銅箔12a、12bとの界面に気泡が混入しないように減圧下で(真空引きをしながら)加圧し、130℃まで1時間かけて昇温して硬化させる。この状態で1時間保持した後、室温になるまで放冷する。
このようにして、10層のプリプレグ110を成形してなるCFRP部材11の表裏両面に、全面にわたって銅箔12a、12bが加熱圧着されて一体化される。必要に応じてエッジトリミングを行い余分な銅箔12a、12bを取り除くことにより、構造体10が製造される。
【0028】
また、硬化成形済みのCFRP部材の表裏両面に、プリプレグ110を介して銅箔12a、12bを積層一体化させることもできる。
例えば、厚さ200μmのプリプレグ110を6層積層し、上述した方法で硬化成形したCFRP部材を準備する。
次に、準備したCFRP部材の表裏両面の全面に、例えば厚さ200μmのプリプレグ110をそれぞれ2層ずつ積層し、さらに銅箔12a、12bをそれぞれ重ね、プリプレグ110と銅箔12a、12bとの界面に気泡が混入しないように減圧下で(真空引きをしながら)加圧し、130℃まで1時間かけて昇温して硬化させる。この状態で1時間保持した後、室温になるまで放冷する。
【0029】
この場合にも、10層のプリプレグ110を成形してなるCFRP部材11の表裏両面に、全面にわたって銅箔12a、12bが加熱圧着されて一体化された構造体10を製造することができる。
なお、いずれの製造方法の場合も、CFRP部材11(プリプレグ110)と同じ大きさの銅箔12a、12bを準備した場合には、エッジトリミングは不要である。
【0030】
また、
図3に示す構造体10Aのように、銅箔12a、12b上には、銅箔12a、12b表面の酸化防止や汚れ防止、摩耗粉の発生防止等のために、それぞれ保護層13を積層することもできる。
ここで、保護層13としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PI(ポリイミド)等のプラスチックフィルムを用いることができる。また、保護層13として、ニッケルメッキや錫メッキを用いてもよい。
【0031】
本実施形態における構造体10は、例えば、加工装置のフレームに用いることができる。ここで、加工装置は、例えば、半導体基板やプリント基板に回路などのパターンを露光する露光装置や、レーザを基板に照射して切断や穴あけ加工を行うレーザ加工装置などを含む。また、露光装置やレーザ加工装置の構成の一部として使用されるステージ装置なども、加工装置に含むことができる。ステージ装置は、上記の基板などのワークを保持して移動させる装置のことである。
【0032】
図4は、露光装置の概略構成を示す図である。
図4に示す露光装置200は、ワークを露光する投影露光装置である。ここで、ワークは、シリコンワーク、プリント基板または液晶パネル用のガラス基板等であり、表面にレジスト膜が塗布されたワークである。
【0033】
露光装置200は、光照射部21と、マスク22と、投影レンズ23と、ワークステージ24と、フレーム25と、を備える。
光照射部21は、紫外線を含む光を放射する露光用光源であるランプ21aと、ランプ21aからの光を反射するミラー21bとを有する。ランプ21aおよびミラー21bは、ランプハウス21cに収容されている。なお、ここでは光照射部21の光源がランプ21aである場合について説明するが、光源は、LEDやレーザなどであってもよい。
【0034】
マスク22には、ワークに露光(転写)される回路パターンなどのパターンが形成されている。光照射部21からの露光光は、マスク22と投影レンズ23とを介して、ワークステージ24が保持するワークに照射され、マスク22に形成されたパターンが、ワーク上に投影され露光される。
フレーム25は、光照射部21、マスク22、投影レンズ23およびワークステージ24といった露光装置200の主要部材を支持する。これらの主要部材は、フレーム25によって所定の位置で水平状態を保って保持されている。
【0035】
図5は、レーザ加工装置の概略構成を示す図である。
図5に示すレーザ加工装置300は、レーザ出射部31と、ワークステージ32と、フレーム33と、を備える。
レーザ出射部31は、図中矢印に示す方向にレーザを出射する。レーザ出射部31からのレーザ光は、ワークステージ32が保持するワークに照射され、ワークの切断や穴あけ等の加工が行われる。
フレーム33は、レーザ出射部31およびワークステージ32といったレーザ加工装置300の主要部材を支持する。これらの主要部材は、フレーム33によって所定の位置で水平状態を保って保持されている。
【0036】
加工装置のフレームは、それぞれ適切に位置決めされた主要部材を支持している。そのため、加工装置の置かれている場所の温度や湿度が変化し、フレームが熱膨張や吸湿膨張により伸縮すると、フレームに支持されている主要部材の位置が変化し、加工精度が低下してしまう。さらには、所望の位置に露光することができない、レーザ加工(穴あけや切断)ができないという不具合が生じることも考えられる。
このような不具合に対する対策として、加工装置が設置される工場内は、常に一定の温度および湿度になるように環境が管理され、さらには、個々の装置を恒温のブースの中に入れて温度と湿度の管理が行われている。
【0037】
しかしながら、上記のように環境の管理が行われていたとしても、加工装置が動作すれば、装置自体が発熱することは避けられない。例えば、ワークステージが移動すれば、モータ等の駆動部から熱が発生するし、レーザ加工装置であれば、ワークの加工している部分(穴あけや切断を行っている部分)には熱が発生する。また、露光装置の場合、光が投影レンズを通過するとき、レンズやレンズを保持する鏡筒に光が吸収されることにより、投影レンズ部分が熱を生じる。
フレームが熱膨張しやすい材料により構成されていると、上記のような装置自体の発熱によってもフレームが伸縮し、加工精度を低下させる原因となる。そのため、加工装置のフレームの材料としては、熱膨張係数ができるだけ小さい材料、例えば、熱膨張係数が鉄などの金属に対して1/10以下(好ましくは0)である材料が望まれる。
【0038】
また、上記のように環境の管理が行われていたとしても、加工装置のフレームの材料中に含まれる水分が少なく、環境中の湿気に対して乾燥している場合には、フレームの吸湿は避けられない。
フレームが吸湿しやすい材料により構成されており、当該材料中の水分が少ないと、フレームが平衡状態になるまで水分を吸収して膨張し、加工精度を低下させる原因となる。そのため、加工装置のフレームの材料としては、吸湿膨張ひずみができるだけ小さい材料が望まれる。
【0039】
また、加工装置のフレームには、高い剛性(弾性率)も必要である。上述したように、加工装置において、フレームは、ワークステージを支持する。ワークステージは、例えば、基板の領域を分割して露光するステップ・アンド・リピートや、基板内に多数のスルーホールを形成する穴あけ加工において、頻繁に逐次移動を繰り返す。
そのため、剛性が低いフレームでワークステージを支持した場合、ステージが移動して停止した後、フレームの振動が停止するまでの時間が長くなり、ワークの処理時間が長くなり、装置の生産性が低下してしまう。また、フレームの剛性が低いと、外部からの振動に対しても弱く、揺れが生じやすいので、このことも加工精度が悪くなる原因となる。
したがって、加工装置のフレームの材料としては、剛性ができるだけ高い材料、例えば、剛性が鉄などの金属よりも高い材料が望まれる。
【0040】
さらに、加工装置のフレームは、大型の装置であっても比較的軽量になるように、密度が小さいことも重要である。装置の重量が重くなると、装置を設置する工場の床を補強しなければならなくなるなど、装置に係るコストが大きくなる。
つまり、加工装置のフレームを構成する材料(構造体)としては、以下の四つの特性を有するものが望ましい。
(1)熱膨張係数(CTE)が0に近い(温度変化による寸法変形が少ない)。
(2)吸湿膨張ひずみが0に近い(湿度変化による寸法変形が少ない)。
(3)剛性が高い、即ち、弾性率が大きい(曲り、たわみ、歪みが生じにくい、即ち、外的要因による寸法変形が少ない)。
(4)密度が小さい(大型の装置であっても、比較的軽量になる)。
【0041】
CFRPは、剛性(弾性率)が高く、かつ熱膨張係数および密度が小さいといった特性を有する。加工装置のフレームとして、CFRPを単体で用いることも考えられるが、CFRPは、単体では吸湿性の問題がある。
例えばCFRPのマトリックスであるエポキシ樹脂は、3%程度の吸湿率がある。CFRPのVf(繊維体積含有率)を60%とすると、CFRP全体としては約1.2%まで吸湿することになる。吸湿対策として、例えばエポキシ樹脂に比べて吸湿率の低いマトリックスを使用した特殊なプリプレグを成形してなるCFRPを使用することも考えられるが、このようなプリプレグは価格が非常に高価であるとともに、一般的には入手も困難である。また、CFRPとしての吸湿量の低減にも限界がある。
【0042】
さらに、上記のように吸湿率の比較的低いCFRPを加工装置のフレームとして用いたとしても、CFRP単体ではフレームの吸湿を確実に防止することはできない。
CFRPは、上述したように、加熱圧着により成形される。そのため、硬化成形後のCFRP内部の水分は非常に低く、数%(例えば5%)程度である。一方、加工装置が設置される工場内は、上述したように、常に一定の温度および湿度になるように環境が管理されており、その湿度は、例えば50%程度である。
このように、加工装置が設置される環境とCFRPとでは湿度のギャップが大きいため、CFRPを単体で用いたフレームでは吸湿は避けられない。
近年、加工装置には非常に高い加工精度が要求されており、当該フレームの材料として、CFRP単体よりもさらに良い特性を有する構造体を用いることが求められている。
【0043】
本発明者らは、加工装置のフレームとしてより優れた性能を引き出せる構造体として、炭素繊維を主成分とする積層体と、金属を主成分とする金属箔とを組み合わせた構造体について研究を行った。そして、本発明者は、金属箔の材料として、銅、アルミニウム、チタン、SUS等を用い、積層体を金属箔で挟み込み、接着剤を用いずに一体化させることで、CFRP単体よりもさらに良い特性を有する構造体を実現することを見出した。
【0044】
図6は、本実施形態における構造体10と比較サンプルとを室内に放置した場合の吸湿膨張ひずみの変化量を示す図である。
図6の横軸は放置時間(Hr)、縦軸は吸湿膨張ひずみの変化量(με)である。
図中、曲線Aは、比較サンプルとしてのCFRP単体の吸湿膨張ひずみの変化量であり、曲線a~dは、本実施形態における構造体10の吸湿膨張ひずみの変化量である。曲線aは、金属箔として厚さ20μmの銅箔を用いた構造体10、曲線bは、金属箔として厚さ11μmのアルミニウム箔を用いた構造体10、曲線dは、金属箔として厚さ5μmのチタン箔を用いた構造体10、曲線eは、金属箔として厚さ10μmのSUS箔を用いた構造体10の吸湿膨張ひずみの変化量を示す。
【0045】
ここで、比較サンプルおよび構造体10を構成するCFRP部材としては、プリプレグを、炭素繊維の伸びる方向が一方向に揃うように10層積層して硬化成形したCFRP部材を用いた。また、ひずみ測定は、ひずみゲージを、CFRP部材の中央層(例えば5層目)において、炭素繊維が伸びる方向に対して直交する方向に設置することで行った。
また、ひずみデータは、室内環境の温度変動による熱膨張分を補正し、吸湿膨張のみの変化を得るようにした。
【0046】
この
図6の曲線Aに示すように、CFRP単体は、放置直後から急速に吸湿し、吸湿膨張ひずみが増加し続けることがわかる。一方、本実施形態における構造体10は、曲線a~dに示すように、吸湿膨張ひずみの増加は認められなかった。なお、曲線a~dにおいて、放置直後から500時間程度までは、吸湿膨張ひずみが減少しているが、これは樹脂のフィジカルエージングによる収縮であり、吸湿膨張ではないと考えられる。
このように、金属箔として銅、アルミニウム、チタン、SUSを用いた本実施形態における構造体10は、CFRP単体よりも耐湿性に優れた特性を有することが確認できた。
【0047】
これに対して、CFRP部材と金属箔とを接着剤によって貼り合わせた構造体や、CFRP部材の表面上に蒸着により薄い金属膜を形成した構造体では、耐湿性は得られなかった。
図7は、湿度95%、温度45℃における加速試験条件下における、比較サンプルの吸湿膨張ひずみの量を示変化す図である。
図7の横軸は放置時間(Hr)、縦軸は吸湿膨張ひずみの変化量(με)である。
図中、曲線eは、CFRP部材の表面上にナノオーダーの蒸着アルミを形成した構造体、曲線fは、CFRP部材の表面上にナノオーダーの蒸着アルミを形成し、その上に保護層(PET)を設けた構造体、曲線gは、CFRP部材の表面上にアルミテープを貼り付けた構造体の吸湿膨張ひずみの変化量を示す。
この
図7に示すように、いずれの場合も吸湿膨張ひずみの増加が確認された。
【0048】
蒸着膜厚がナノオーダーであると、製造上や取り扱いにおいてピンホールが生じてしまい、耐湿性能が低下すると考えられる。保護層を設けることで耐湿性能の低下はある程度抑制できるものの、吸湿膨張ひずみを0にすることはできない。また、CFRP部材と金属箔とを接着剤を用いて貼り付けた場合には、金属箔の厚みに問題はなくとも、接着剤が側面から吸収した水分をCFRPが吸収したり、CFRPとの密着性が完全でない場合にはCFRPと接着剤層との界面から水分が浸透したりすることで、吸湿膨張すると考えられる。
したがって、金属箔は、接着剤を用いずにCFRP部材と一体化されている必要がある。また、金属箔の厚さはミクロンオーダーであることが好ましい。
【0049】
本実施形態における構造体10は、CFRP部材11を金属箔12a、12bによって挟み込み、加熱圧着して一体化させた構造を有する。つまり、CFRP部材11と金属箔12a、12bとは、接着剤を用いずに一体化されている。そのため、CFRP部材11と金属箔12a、12bとの界面から水分が浸透することがなく、耐湿性に優れた特性を有する構造体10とすることができる。また、金属箔12a、12bを減圧下で(例えば真空状態で)加熱圧着することにより、CFRP部材11と金属箔12a、12bとの界面に気泡が混入されないようにすることができ、耐湿性をより向上させることができる。また、CFRP部材11と金属箔12a、12bとの密着性も向上させることができる。
【0050】
さらに、金属箔12a、12bは、CFRP部材11の積層方向に相対向する一対の表面(上下面)上に形成する。CFRP部材11は、炭素繊維が延在することにより側面からは吸湿しにくい。一方、CFRP部材11の上下面は、側面と比較して面積が大きいこともあり吸湿しやすい。したがって、CFRP部材11の上下面に金属箔12a、12bを形成することで、より適切にCFRP部材11の吸湿を防止することができる。
【0051】
また、金属箔12a、12bの厚さは、CFRP部材11の厚さよりも薄い。このように薄い金属箔12a、12bとすることで、CFRPの特性を維持しつつ、CFRP単体よりも耐湿性を向上させることができる。また、金属箔12a、12bは、高い熱伝導性を有するため、部分的に熱や光が加わったとしても、面内温度のムラを生じにくくすることができ、局所的な変形を抑制することができる。
【0052】
ここで、金属箔12a、12bは、銅、アルミニウム、チタン、SUSなどにより構成することができる。いずれの場合も、適切な吸湿防止効果が得られる。
CFRP部材11との圧着性の観点では、金属箔12a、12bの材料としては銅が最も好適である。ただし、銅は、表面が酸化しやすく、摩耗粉も生じやすいため、表面にPET保護層等を設けることが好ましい。一方、SUSは、腐食や錆びの問題もなく、安定して使用することができる。
【0053】
以上のように、炭素繊維を主成分とする積層体であるCFRP部材11と金属を主成分とする金属箔12a、12bとを、接着剤を用いることなく一体化させることで、熱膨張係数が小さく、吸湿膨張ひずみがなく、比剛性が金属よりも高い軽量で強靭な構造体10とすることができる。また、複数のプリプレグを繊維の方向が異なるように積層して形成したCFRP構造体10は、弾性率40GPa以上の比較的高い剛性を実現することができる。
そして、このような構造体10を加工装置のフレームの材料として利用することで、温度変化や湿度変化、外的要因による寸法変形が少なく軽量な加工装置を実現することができる。
【0054】
(変形例)
なお、上記実施形態においては、構造体10を加工装置のフレームとして利用する場合について説明したが、上記に限定されるものではない。構造体10は、熱膨張係数が小さく、剛性が高く、比較的軽量で比剛性も高く、耐湿性に優れた特性を有する。したがって、これらの特性を活かして、温度変化や湿度変化等が起こり得る環境下で厳しい寸法安定性が要求される大型装置の構成部品の材料として、構造体10を利用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
10…構造体(CFRP構造体)、11…CFRP部材(積層体)、12a,12b…金属箔、13…保護層、21…光照射部、22…マスク、23…投影レンズ、24…ワークステージ、25…フレーム、31…レーザ出射部、32…ワークステージ、33…フレーム、200…露光装置(加工装置)、300…レーザ加工装置